(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は本発明に係る出没構造を備える塗膜転写具10である。
図1(a)は転写ヘッド20がケース本体5に収納された状態を示し、
図1(b)は転写ヘッド20がケース本体5から突出された状態を示す。なお、以下の説明においては、転写ヘッド20が備えられる方向を前とし、その反対方向を後とする。また、塗膜転写具10を後方から前方に向かって見たときの左側を左、右側を右、
図1(a),(b)における上側を上、下側を下として説明する。
【0025】
転写ヘッド20の出没操作は、ケース本体5の上面に設けられて操作部を構成する操作部材41により行われる。操作部材41は、ケース本体5の上面略中央から後方にかけて形成されるスライドレール部60に沿って前後移動可能に形成されている。操作部材41を後側から前側に移動させると、
図1(a)から
図1(b)の状態に変化する。すなわち、塗膜転写具10は、操作部材41を後側から前側に移動させると、シャッター7が開いて、転写ヘッド20が突出される。一方、前側に位置される操作部材41を後側に移動させると、
図1(b)から
図1(a)の状態、すなわち転写ヘッド20がケース本体5内に没入される。
【0026】
次に、塗膜転写具10の内部構造を
図2及び
図3の分解斜視図により説明する。ケース本体5は、左ケース51と右ケース56とが結合されてなる。左ケース51及び右ケース56は、それぞれ前後方向に長い略シェル状に形成される。左ケース51及び右ケース56の前側縁は、それぞれ左開口部51e,右開口部56eとされる略矩形の切欠き部が形成されている。左開口部51e,右開口部56eは、左ケース51と右ケース56が結合されると開口部5eを形成する(
図1参照)。
【0027】
左ケース51には、
図3に主に示されるように、上下の縁部に複数の係止爪51aが形成されている。一方、右ケース56には、
図2に主に示されるように、上下の縁部に複数の係止孔56aが形成されている。右ケース56の各係止孔56aは、左ケース51の各係止爪51aに対応して配置されている。各係止爪51aは、係止孔56aに係脱自在とされている。従って、各係止爪51aと各係止孔56aの係脱により、左ケース51と右ケース56は、結合及び分離をすることができる。
【0028】
また、左ケース51には、
図3に主に示されるように、複数のガイド柱51bが内側面から立設している。一方、右ケース56には、
図2に主に示されるように、円筒状に形成される複数のガイド孔部56bが内側面から立設している。右ケース56の各ガイド孔部56bは、左ケース51の各ガイド柱51bに対応して配置されている。各ガイド柱51b及び各ガイド孔部56bは、左ケース51と右ケース56が結合される際に、各ガイド柱51bが各ガイド孔部56bに挿入される。これにより、左ケース51と右ケース56の結合がガイドされる。
【0029】
また、
図3に示されるように、左ケース51の内側面前方には、円柱状の左支持軸51cが左ケース51の内側面から立設している。一方、
図2に示されるように、右ケース56の内側面前方には、円柱状の右支持軸56cが右ケース56の内側面から立設されている。左支持軸51cと右支持軸56cは、左ケース51と右ケース56が結合された際、それぞれシャッター7の左軸孔7a及び右軸孔7bに挿入される。これにより、シャッター7は回動自在に支持される。
【0030】
なお、シャッター7は、外周面が側面視円弧状となるよう形成されている。従って、シャッター7が閉じられた際にはケース本体5の外周面と合わせて側面視略楕円形状の本体形状が形成される。そして、シャッター7の下縁には、
図3に示されるように、鋸刃状の歯部7cが形成されている。転写テープTがテープ糊である場合には、転写ヘッド20の出没時に使用済みの転写テープTに残留する糊剤により糸引きが発生する。しかしながら、この歯部7cにより、残留する糊剤による糸引きを切断して、開口部5e周辺への付着を低減することができる。
【0031】
さらに、シャッター7の右側の板状部における下端には、ギヤ歯7dが形成されている。このギヤ歯7dは、後述するツール保持体21のラック26と歯合して、ツール保持体21の前後動に合わせて回動される。
【0032】
また、
図3に示されるように、左ケース51の内側面略中央には、前後方向に長い筒状の支持軸ガイド51d,51fが前後2箇所にそれぞれ形成されている。支持軸ガイド51d,51fは、左ケース51の内側面から立設されている。この支持軸ガイド51d,51fにより、供給ボビン31及び巻取ボビン32の支持軸21a,21bが前後方向にガイドされる。なお、左ケース51の内側面には、支持軸ガイド51d,51f間やその周囲に多数のリブが形成されている。
【0033】
支持軸ガイド51d,51f間の下側には、円弧状の孔51gが形成されている(
図1(a),(b)も参照)。この孔51gを介して巻取ボビン32を手動で回転させて転写テープTの弛みを調整することができる。
【0034】
図3のQ部は、左ケース51の内側面の前端部近傍を上方から見た一部拡大斜視図である。左開口部51eの下縁における左ケース51の内側面には、カム部51hが形成されている。カム部51hは、左開口部51eの下縁隅部から後方に向けて延びる平板状部51h1が形成されている。平板状部51h1からさらに後方側には、平板状部51h1の上面と連続する凹面を有するカム凹部51h2が形成されている。すなわち、カム凹部51h2は、上側が凹部となる側面視凹湾曲状に形成されている。
【0035】
一方、カム部51hのさらに後方側には、水平リブ51jが左ケース51の内側面から立設している。そして、同様に
図3のQ部に示されるように、水平リブ51jの上面には、側面視略半円状の突起51kが形成されている。
【0036】
また、
図2に示すように、右ケース56の内側面略中央には、ガイドレール56dが形成されている。ガイドレール56dは、上下二本のレール56d1,56d2が前後に長く形成されてなる。
【0037】
左ケース51及び右ケース56の上面やや後方には、スライドレール部60を形成する左スライドレール部60a及び右スライドレール部60bがそれぞれ形成されている。左スライドレール部60a及び右スライドレール部60bの前方側の左ケース51及び右ケース56の上面には、把持したときに滑り止めとなる横溝5a(
図1(a),(b)参照)を構成する左横溝51m及び右横溝56mが形成されている。
【0038】
転写ヘッド20は、前後に長い縦板状のツール保持体21に保持されている。
図3に示すように、ツール保持体21の前端は、側面視において前方が窄まるように形成されている。ツール保持体21の前端には、転写ローラ22の右端を回転自在に支持する一方端支持部21cが形成されている。一方、
図2に示すように、ツール保持体21の左方側には、ツール保持体21と対向して、縦板状のローラ片支持プレート23が形成されている。ローラ片支持プレート23も前方が窄まるように形成されている。ローラ片支持プレート23の前端には、転写ローラ22の左端を回転自在に支持する他方端支持部23aが形成されている。転写ローラ22は、一方端支持部21cと他方端支持部23aとにより回転自在に支持される。
【0039】
そして、ローラ片支持プレート23とツール保持体21との間には、横板状の保持プレート24が設けられている。すなわち、ローラ片支持プレート23は、ツール保持体21から立設する横板状の保持プレート24と接続されている。さらに、保持プレート24の後端には、縦板状の傾斜プレート25が設けられている。傾斜プレート25は、保持プレート24の後端と接続して設けられる。そして、傾斜プレート25は、ローラ片支持プレート23の後端からツール保持体21の左側面に向けて、平面視において後方に傾斜するように形成されている。この保持プレート24と傾斜プレート25とにより、ローラ片支持プレート23はツール保持体21に接続して固定されている。
【0040】
また、転写ヘッド20を左下方から見た
図2のP部で示すように、ローラ片支持プレート23の左側面の後方下部には、ガイド部23bが形成されている。ガイド部23bは、前方に向けて凸となるように上下に渡って側面視凸湾曲状の湾曲部23b1が形成される。そして、湾曲部23b1の下端からは、直線部23b2が後方側に延びるようにして形成されている。さらに、ローラ片支持プレート23の下縁面後方側には、この下縁面から下方に向けて突出される傾斜突起23cが形成されている。傾斜突起23cは、ローラ片支持プレート23の後端縁面の下端から連続してやや前方に延びる直線状面23c1と、直線状面23c1の下端からローラ片支持プレート23の下端縁面に向けて傾斜して延びる傾斜面23c2とにより形成される(
図10(a),(b)も参照)。
【0041】
また、
図2に示すように、ツール保持体21における前後方向略中央には、メインギヤ保持部21dが形成されている。メインギヤ保持部21dには、円環状にラチェット歯21d1が形成されている。ラチェット歯21d1における円環状内側は、ツール保持体21の左側面に対して凹状に形成される。そして、ラチェット歯21d1における円環状内側には、3本のアーム21d2がラチェット歯21d1における円環状の中心に向けて延びている。3本のアーム21d2の各基端部には、半球状の摺接突起21d3がそれぞれ設けられている。この3本のアーム21d2が交差する位置、すなわち、ラチェット歯21d1における円環状の中心からは、左方に向けて円筒状の支持軸21aが設けられている。
【0042】
ツール保持体21におけるメインギヤ保持部21dの後側には、巻取ボビン保持部21eが設けられている。巻取ボビン保持部21eには、外周壁部21e1が形成されている。外周壁部21e1は、後端が側面視半円状に形成されて、この半円状の両端から前方に向けて直線が延びるように形成されている。外周壁部21e1の内側はツール保持体21の左側面に対して凹状に形成される。外周壁部21e1の後端側には、3本のアーム21e2が形成されている(
図3も参照)。そして、この3本のアーム21e2が交差する位置から左方に向けて、円筒状の支持軸21bが形成されている。さらに、支持軸21bの基端部における各アーム21e2上には、それぞれ摺接突起部21e3が形成されている。
【0043】
また、
図3に示すように、ツール保持体21の右側面における前方下側には、ラック26が形成されている。さらに、ツール保持体21の右側面における略中央から後方にかけて、前後に長いスライドレール27a,27bからなるスライド部27が形成されている。スライドレール27a,27bは、ツール保持体21の右側面に、それぞれ上下に設けられている。なお、スライドレール27a,27bは、メインギヤ保持部21dにおける3本のアーム21d2により形成される孔部の位置では分断して形成されている。
【0044】
また、
図2に示すように、メインギヤ33の左側面は、中央に側面視円環状の凹部33aが形成されている。この凹部33aに対して突出するように、メインギヤ33の右側面には、円環状の突出部33bが形成されている。また、メインギヤ33の凹部33a(突出部33b)の径方向には、3カ所に円弧状の孔部33cが形成されている。そして、孔部33cのうちの一つには、円弧状の係止板33dが形成されている。
図3で示す係止板33dの右側面側の端部には、ラチェット爪33eが形成されている。ここで、メインギヤ33は、係止板33dと一体に樹脂材料により形成される。従って、係止板33dはバネ性を有する。そして、ラチェット爪33eと、メインギヤ保持部21dのラチェット歯21d1とにより、逆転防止機構が形成されている。すなわち、メインギヤ33は一方向(左側面視で時計回り)にのみ回転可能とされる。
【0045】
また、
図2に主に示されるように、固定軸34は、円筒状の軸部34aが形成されている。軸部34aの外周には3つのリブ34bが軸部34aの軸方向に沿って形成されている。一方、供給ボビン31の孔部31aの内周面には図示しない係止部(例えば軸方向に形成される複数の溝)が形成されている。従って、固定軸34のリブ34bは供給ボビン31の孔部31aにおける係止部に係止される。このようにして、固定軸34は、供給ボビン31に固定される。そして、軸部34aの孔に支持軸21aが挿入されて、供給ボビン31は支持軸21aにより回転自在に支持される。
【0046】
固定軸34の軸部34aの右端には、略円弧状のバネ部34cが3つ形成されている。バネ部34cは、径方向に弾発可能に形成されている。このバネ部34cは、メインギヤ33の凹部33aに収められる。バネ部34cの先端部は膨出して形成される。バネ部34cにおける膨出して形成された先端部の側面は、凹部33aの周壁と摺接される。バネ部34cの先端部側面と凹部33aの周壁とによりクラッチ機構が形成される。
【0047】
巻取ボビン32は、
図2に示すように、中心に円筒状の軸部32aが形成されている。また、巻取ボビン32の左側面には、円環状にラチェット歯32dが形成されている。このラチェット歯32dに、左ケース51の孔51gを介してボールペン等の突起物を係合させて、使用者は手動により巻取ボビン32を回転させることができる。さらに、
図3に示すように、巻取ボビン32の右側面には、ギヤ32bが形成されている。ギヤ32bは、メインギヤ33外周の歯部と歯合される。ギヤ32bの内側には円筒状のボス32cが形成されている。
【0048】
このように、供給ボビン31及び巻取ボビン32を連動させる連動機構30は、メインギヤ33,ギヤ32b,固定軸34,支持軸21a,21bを備えるメインギヤ保持部21d及び巻取ボビン保持部21eにより形成される。そして、塗膜転写機構は、供給ボビン31や巻取ボビン32、転写部とされる転写ローラ22を備える転写ヘッド20及び連動機構30により形成される。
【0049】
塗膜転写機構における供給ボビン31に巻装される未使用の転写テープTは、供給ボビン31の下側から転写ローラ22を介して供給ボビン31の上側に接触して下方に向けて方向転換される。そして、方向転換された転写テープTは、巻取ボビン32の下側から巻取ボビン32により巻き取られる。
【0050】
また、メインギヤ33は、右側面の突出部33bの面がメインギヤ保持部21dの摺接突起21d3と摺接されるようにして配置される。さらに、巻取ボビン32は、ボス32cと摺接突起部21e3とが摺接するように支持軸21bに回転自在に支持される。このように、縦板状のツール保持体21により塗膜転写機構が保持される(換言すれば、ツール保持体21により塗膜転写機構が片持ちされる)ので、転写テープTを使い切った後の塗膜転写機構の交換作業を容易とすることができるとともに、製造に掛かるコストを低減させることができる。
【0051】
塗膜転写具10を
図1(b)に示す使用状態として使用すると、未使用の転写テープTが前方に送られて、転写部とされる転写ローラ22により転写層が被転写面に転写される。そして、使用済の転写テープTは、巻取ボビン32により巻き取られる。このとき、供給ボビン31は、転写テープTの送りに伴って左側面視時計回りに回転する。すると、バネ部34cの先端部側面と凹部33aの周壁とにより形成されるクラッチ機構を介してメインギヤ33が左側面視時計回りに回転する。
【0052】
メインギヤ33が回転すると、ギヤ32bを介して巻取ボビン32が左側面視反時計回りに回転する。ここで、ギヤ32bの歯数とメインギヤ33の歯数や、供給ボビン31の胴部の径と巻取ボビン32の胴部の径との関係により、巻取ボビン32における転写テープTの巻取量は、常に供給ボビン31における転写テープTの送り量よりも多くなるよう設定されている。そして、この送り量と巻取量との差は、適宜バネ部34cの先端部側面と凹部33aの周壁とにより形成されるクラッチ機構により調節される。これにより、転写テープTには常に適切な張力が掛かり、転写テープTの弛み等が低減される。
【0053】
一方、塗膜転写機構を保持するツール保持体21の上方側には、突出部21fが形成されている。突出部21fは、ツール保持体21の縦板状の略中央上縁から上方に突出される上板部21f1と、この上板部21f1から左方に突出する横板21f2からなる(
図3参照)。そして、横板21f2から後方に連続して延びるようにして連結部42が形成されている。そして、操作部材41は、この連結部42の後端部に設けられている。従って、操作部材41は、横板状に形成される連結部42によりツール保持体21と連結されている。これら操作部材41や連結部42及びツール保持体21は、一体的に樹脂の射出成形により形成され、操作ユニット40とされている。なお、連結部42は、上下方向に弾発可能に形成される。
【0054】
図4には、操作部材41と連結部42とが接続する接続部の構造が示されている。操作部材41と連結部42との間には、スライド部43が形成されている。スライド部43は、平板状に形成される連結部42の上面から上方に向けて、前後に長い縦板状に立設される。操作部材41は、前端部が下方側になるように前傾して、スライド部43の上端に設けられている。そして、連結部42の後端は、上方に向けて垂直に屈曲されて当接板部42aが形成されている。
【0055】
当接板部42aには、当接板部42aの上端から前後に張出す規制突起部44が形成されている。規制突起部44のうち、後規制突起部44aは後方側に張出し、前規制突起部44bは前方側に張出して形成されている。後規制突起部44aは、連結部42(当接板部42a)の左右方向の板幅と同じ幅で形成されている。そして、後規制突起部44aの後端面は、スライド部43の後端面と連続して接続されている。一方、規制突起部44のうち、前規制突起部44bは、スライド部43により左右に分断して形成される。
【0056】
なお、以下においては、後規制突起部44aの後端面は、第1のスライド当接部44a1とされ、当接板部42aの後端面は、第2のスライド当接部42a1とされる。また、前規制突起部44bの前端面は、第3のスライド当接部44b1とされ、第3のスライド当接部44b1の下側であって、当接板部42aの前側の面は、第4のスライド当接部42a2とされている。
【0057】
このようにして、第1のスライド当接部44a1,第2のスライド当接部42a1,第3のスライド当接部44b1,第4のスライド当接部42a2及び規制突起部44は、連結部42により弾発支持されている。
【0058】
次に、
図5に基づいて、スライドレール部60について説明する。スライドレール部60には、前側と後側に略矩形の開口部65,66が形成されている。開口部65,66の左右方向の寸法は、連結部42(当接板部42a,規制突起部44)の左右方向の幅寸法よりも若干大きい寸法で形成されている。開口部65,66の前後方向の寸法は、規制突起部44の前後方向の寸法よりも若干大きい寸法で形成されている。
【0059】
前側の開口部65の後端縁には、前側の係合当接部61が形成されている。一方、後側の開口部66の前端縁には、後側の係合当接部62が形成されている。そして、前後の係合当接部61,62は、スリット部63により接続されている。スリット部63は、左右の脇板63aにより、前後方向に細長い孔(換言すればスリット状)として形成されている。スリット部63の幅方向の寸法は、スライド部43の左右の幅方向の寸法よりも若干大きく、かつ、連結部42(当接板部42a,規制突起部44)の左右の幅方向の寸法よりも十分小さく形成されている。
【0060】
前側の係合当接部61には、当接段部61aが形成されている。当接段部61aは、段部の面が上側を向くようにして形成されている。そして、当接段部61aの段部の面から上側に連続する面は、第1の当接面61bとされる。一方、当接段部61aの段部の面から下側に連続する面は、第2の当接面61cとされる。これらの当接面(第1の当接面61b,第2の当接面61c)は、スリット部63の前端から左右の幅方向それぞれに広がって形成されている。
【0061】
同様に、後側の係合当接部62には、当接段部62aが形成されている。当接段部62aは、段部の面が上側を向くようにして形成されている。そして、当接段部62aの段部の面から上側に連続する面は、第3の当接面62bとされる。一方、当接段部62aの段部の面から下側に連続する面は、第4の当接面62cとされる。これらの当接面(第3の当接面62b,第4の当接面62c)は、スリット部63の後端から左右の幅方向それぞれに広がって形成されている。
【0062】
前側の開口部65の前方側には、スリット状の孔とされる前移動規制部64が形成されている。前移動規制部64は、スリット部63と中心を合わせるようにして、前側の開口部65の前縁と接続して形成されている。
【0063】
図6に示すように、塗膜転写具10は、以上説明した部材が組み立てられて形成される。なお、
図6は、内部構造が分かり易いように、左ケース51を二点鎖線で示している。また、
図6は、転写ヘッド20がケース本体5に没入されている状態を示す。
【0064】
次に、塗膜転写具10における転写ヘッド20の出没操作及び転写操作について説明する。
図7(a),(b)及び
図8(a),(b)は、左ケース51を省略し、右ケース56におけるスライドレール部60(右スライドレール部60b)と操作ユニット40の操作部材41の周辺を示した側面模式図である。
【0065】
図7(a)は、転写ヘッド20がケース本体5に没入されている状態(すなわち
図6及び
図1(a)の状態)を示す。このとき、規制突起部44は、係合当接部62(当接段部62a)とは当接していない。
【0066】
この没入状態から、操作部材41を、連結部42の弾発力に抗して押し込んで、前方に移動させる。すると、
図7(b)に示すように、規制突起部44は、スリット部63を形成する脇板63aの下側に潜り込む。そして、スリット部63に沿ってスライド部43が前方に移動される。このとき、ツール保持体21及びツール保持体21に保持される塗膜転写機構も前方に移動される。
【0067】
操作部材41は、スライド部43の前端が前移動規制部64の前縁に当接するまで前方に移動され、
図8(a)の状態となる。このとき、規制突起部44は、連結部42の弾発力により上昇し、前側の開口部65に位置される。このようにして、転写ヘッド20は、ケース本体5から突出される。
【0068】
図8(a)の状態においては、規制突起部44は、係合当接部61(当接段部61a)とは当接していない。さらに、後規制突起部44aの後端面である第1のスライド当接部44a1(
図4参照)と、当接段部61aの上側の第1の当接面61b(
図5参照)とは、前後方向に距離Sの隙間が形成される。同様に、当接板部42aの第2のスライド当接部42a1(
図4参照)と、当接段部61aの下側の第2の当接面61c(
図5参照)とは、前後方向に距離Sの隙間が形成される。換言すれば、
図8(a)の状態においては、スリット部63よりも幅広に形成される第1のスライド当接部44a1及び第2のスライド当接部42a1は、第1の当接面61b及び第2の当接面61cと当接可能とされている。
【0069】
従って、
図8(a)の状態で操作部材41を押し込めば、規制突起部44はスリット部63を形成する脇板63aの下方に位置させることができる。よって、
図8(a)の状態で操作部材41を押し込んで、操作部材41を後方に移動させると、
図8(a)の状態から
図7(b)の状態となって
図7(a)の状態(すなわち転写ヘッド20の没入状態)とすることができる。なお、操作ユニット40の後方移動は、スライド部43の後端面及び第1のスライド当接部44a1が後側の開口部66の後端縁の面に当接することで規制される。
【0070】
転写操作を行うには、
図8(a)の状態、すなわち、転写ヘッド20がケース本体5から突出されている状態で、
図9に示すように、転写ローラ22を被転写面Qに押し付けて、塗膜転写具10を引くことで行うことができる。このとき、
図8(b)に示すように、スライド部43は、ケース本体5に対して相対的に距離Sだけ後方に移動される。換言すれば、操作ユニット40がケース本体5に対して相対的に距離Sだけ後方に移動される。
【0071】
すなわち、この転写操作の際、
図8(b)に示すように、後規制突起部44aの後端面である第1のスライド当接部44a1(
図4参照)と、前側の当接段部61aにおける上側の第1の当接面61b(
図5参照)とは当接される。同様に、当接板部42aにおける第2のスライド当接部42a1(
図4参照)と、前側の当接段部61aにおける下側の第2の当接面61c(
図5参照)とは、当接される。従って、各当接面は、これら各スライド当接部が当接されることにより、転写ローラ22を被転写面Qに押し付けた際の押圧力を受けることができる。
【0072】
さらに、転写操作をしている状態(すなわち、操作ユニット40がケース本体5に対して距離Sだけ相対的に移動した状態)においては、後規制突起部44aの下面と前側の当接段部61aの上面とは当接可能な状態とされる。従って、転写操作をしている状態においては、操作部材41を押し込むことができない。よって、転写操作の際中に操作部材41に触れて操作部材41を押してしまっても、操作部材41が後方に移動されることはない。従って、転写操作の際中に転写ヘッド20が没入されることはなく、継続して転写操作をすることができる。
【0073】
また、
図10(a)に示すように、転写ヘッド20の没入状態においては、ローラ片支持プレート23の後方の下縁面に形成される傾斜突起23cは突起51kの後側に配置されている。これにより、転写ヘッド20を備える操作ユニット40は前方への移動が規制されている。従って、転写ヘッド20を前方に移動させてケース本体5から突出させる際には、傾斜突起23cの傾斜突起23cは、突起51kを乗り越えて前進する。また、転写ヘッド20がケース本体5に収納される場合には、傾斜突起23c後側の直線状面23c1が突起51kを乗り越えて、突起51kの後側に傾斜突起23cが位置されることとなる。
【0074】
なお、傾斜突起23cが突起51kの後側に配置されているとき、直線部23b2の下面も突起51kに支持されている。これにより、突起51kへ傾斜突起23cが食い込んでしまうことが低減される。
【0075】
このように、転写ヘッド20の出没操作において、使用者は、転写ヘッド20の突出操作の開始や没入完了を、傾斜突起23cが突起51kを乗り越えるクリック感により、目視に依らずに知ることができる。また、傾斜突起23cが突起51kを乗り越える際には、転写ヘッド20は偏心荷重を受けることになるが、保持プレート24の後端に傾斜プレート25が設けられることで、転写ヘッド20及びツール保持体21の剛性が高められている。
【0076】
また、転写ヘッド20が突出されると、傾斜突起23cは、
図10(b)に示すように、カム部51hのカム凹部51h2上に位置される。ここで、前述の通り、転写操作の際には、転写ヘッド20(操作ユニット40)は、ケース本体5に対して距離Sだけ後方移動される。そして、転写操作が終了して、転写ローラ22が被転写面Qから離れて押圧力が解除されると、カム凹部51h2の後側の傾斜と、傾斜突起23cの直線状面23c1との作用により自動調心され、傾斜突起23cは距離Sだけ前方に押し出される。このようにして、転写操作の終了時には、転写ヘッド20(操作ユニット40)は、ケース本体5に対して相対的に距離Sだけ前方に移動して、
図10(b)の位置(すなわち
図8(a)の位置)まで移動する。
【0077】
さらに、
図11(a),(b)に示すように、塗膜転写具10は、出没操作の際、操作ユニット40(ツール保持体21)が前後方向に移動されることにより、ラック26も前方に移動する。そして、ラック26に歯合されるギヤ歯7dは、ラック26の前後の移動に合わせて回動される。従って、シャッター7は、左軸孔7a及び右軸孔7bを中心に回動される。これにより、シャッター7は開閉される。
【0078】
ここで、転写ヘッド20の没入状態において、手動でシャッター7を開けようとすると、ギヤ歯7dの回動によりラック26は前進する。しかしながら、規制突起部44の前規制突起部44bの前端面である第3のスライド当接部44b1(
図4参照)と、後当接段部62aの上側の第3の当接面62b(
図5参照)が当接し、当接板部42aの第4のスライド当接部42a2(
図4参照)と後当接段部62aの下側の第4の当接面62cが当接する。従って、シャッター7を手動で開けようとしても、操作ユニット40の前進は規制されているので、転写ヘッド20が突出されることはない。
【0079】
さらに、第3のスライド当接部44b1と、第3の当接面62bが当接し、第4のスライド当接部42a2と第4の当接面62cが当接している場合には、前規制突起部44bの下面は後当接段部62aの上面と当接可能な位置関係となるので、操作部材41を押し込むことはできない。従って、この場合における誤操作も防止される。
【0080】
なお、本実施形態においては、第1のスライド当接部44a1,第2のスライド当接部42a1と第1の当接面61b,第2の当接面61cがそれぞれ当接するように形成したが、何れか一方のみ当接可能に形成しても良い。例えば、第1のスライド当接部44a1と第1の当接面61bのみ当接するように形成しても良い。第3のスライド当接部44b1,第4のスライド当接部42a2と第3の当接面62b,第4の当接面62cにおいても同様である。
【0081】
また、係合当接部61,62は、各当接段部61a,62aと各当接面(第1の当接面61b,第2の当接面61c,第3の当接面62b,第4の当接面62c)を連続して形成したが、これに限られず、それぞれ別個に形成しても良い。
【0082】
なお、転写ヘッド20は、その突出状態においては、ガイド部23b及びラック26が開口部5eの縁部内面とそれぞれ当接されることにより、横ブレが低減されている。
【0083】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は、本実施形態により限定されることはなく、種々の形態で実施することができる。例えば、本実施形態においては、操作ユニット40のツール保持体21は、塗膜転写機構を保持するように形成したが、これに限られず、ボールペン等の筆記具やドライバ等の工具類をツール保持体により保持するようにしても良い。すなわち、ツール保持体21は、縦板状に形成されるが、これに限られず、保持するツールに合わせて、2枚の縦板により形成したり、筒状としたりすることができる。このとき、ツールの後退(没入)を規制する係合当接部とスライド当接部を備える出没構造が簡単に構成できるため、ツールの先端を被工作面に押し付けて作業を行うツールであれば好適に本発明を実施することができる。
【0084】
また、本実施形態においては、操作部材41を下方に押してスリット部63を前後に移動できるように形成したが、操作部材41(スライド部43)を上方に引いて前後に移動できるようにしても良い。例えば、本実施形態における前後の当接段部61a,62aの向きを逆にして、段部の面が下側に向くように当接段部を形成する。そして、この下向きの当接段部の面に当接されるように規制突起部を形成する。この場合、スライド部43がスリット部63を移動する際には、スライド当接部がスリット部63の脇板63aの上方を移動する。
【0085】
また、本実施形態においては、操作ユニット40は距離Sを微小に前後動可能に形成されているが、これに限られず、転写ヘッド20の突出時には、連結部42が若干湾曲されるようにして、第1のスライド当接部44a1と第1の当接面61bとが常時当接するように構成することもできる。この場合、転写ヘッド20の没入操作においては、連結部42の弾発力に抗して、操作部材41を前方に距離Sだけ移動させて押し込むことで、規制突起部44と当接段部61aの当接可能状態を解除して、転写ヘッド20を没入させることができる。
【0086】
また、本実施形態においては、操作部材41をケース本体5の上面に設けたが、これに限られず、ケース本体5の側面等、ケース本体5の外周面上であれば任意の場所に配置することができる。