(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、予め決められた方向に搬送される記録紙等の被記録媒体に対してインク(液体)を噴射させ、被記録媒体に画像や文字等の記録を行うインクジェット方式の液体噴射記録装置が知られている。この種の液体噴射記録装置は、液体収容体(インクタンク)から液体供給管(インク供給管)を介して液体噴射ヘッド(インクジェットヘッド)にインクを供給する。そして、この液体噴射ヘッドに設けられたヘッドチップのノズル孔からインクを被記録媒体に噴射する。これにより、被記録媒体に記録を行うことができる。
【0003】
また、この種の液体噴射記録装置には、被記録媒体の搬送方向に直交する方向に往復移動させるキャリッジ(移動手段)が設けられている。このキャリッジに、複数のインクジェットヘッドが搭載されている。そして、インクを噴射させると共にインクジェットヘッドを往復移動させることで、被記録媒体の幅方向に順次記録が行われる。
【0004】
ところで、上述のような液体噴射記録装置では、液体噴射ヘッドの往復移動に伴って液体供給管が揺動するので、液体供給管から流出するインクの圧力に変動が生じる。そこで、従来、液体噴射ヘッドには、インクの圧力変動を吸収するための圧力緩衝器が設けられている。
【0005】
圧力緩衝器は、インクを貯留させるための凹部(チャンバ)を有する本体部と、凹部に連通する上流側管路および下流側管路と、凹部を閉塞するように設けられ、凹部の周縁部で前記本体部に固定される薄膜(可撓膜)と、薄膜の上から凹部を閉塞するように設けられ、凹部の周縁部で本体部と重ね合わさるカバーと、を備えている。そして、上流側管路と液体収容体とが液体供給管を介して接続され、下流側管路とヘッドチップとが接続される。このような構成のもと、インクの圧力変動に応じて薄膜が撓み、凹部内の容積が変化する。これにより、液体供給から圧力緩衝器に供給されたインクの圧力変動が吸収される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ここで、薄膜の過度な撓みを防止するために、凹部内に板ばね等からなる付勢部材を設ける場合がある。この付勢部材は、薄膜の膜厚方向に弾性変形可能で、かつ座面が薄膜と接離可能に構成されている。座面の面積は、この座面で薄膜全体を押さえられるように、できる限り大きく設定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ヘッドチップへのインクの初期充填の際、圧力緩衝器の凹部もインクで満たされることになる。このとき、薄膜に付勢部材が貼り付いて、これら薄膜と付勢部材との間に空間が形成される。そして、この空間がインクで満たされた凹部内に、気泡として残留してしまう場合がある。
気泡が残留してしまうと、液体噴射記録装置の駆動時に意図しないタイミングで気泡がヘッドチップに流入してしまう可能性がある。このような場合、ヘッドチップのインクの噴射不良が生じてしまう。
【0009】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、気泡の残留を防止し、インクの噴射不良を防止できる圧力緩衝器、液体噴射ヘッド、および液体噴射記録装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る圧力緩衝器は、液体を貯留するための凹部を有する本体部と、前記本体部に形成され、前記凹部に連通する上流側管路および下流側管路と、前記凹部を閉塞するように設けられ、前記凹部の周縁部で前記本体部に固定される薄膜と、前記薄膜の上から前記凹部を閉塞するように設けられ、前記凹部の周縁部で前記本体部と重ね合わさるカバーと、前記凹部と前記薄膜との間に設けられ、前記薄膜の膜厚方向に弾性変形可能な付勢部材と、を備えた圧力緩衝器であって、前記カバー、および前記付勢部材の少なくとも一方には、前記凹部に貯留される前記液体内に存在する気泡を、前記下流側管路へと逃がす気泡逃げ部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
このように、カバーおよび付勢部材の少なくとも一方に気泡逃げ部を設けることにより、圧力緩衝器内に気泡が残留してしまうことを防止できる。この結果、液体の噴射不良も防止できる。
【0012】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記本体部と前記カバーとの合わせ面が鉛直方向と交差する方向に向くように配置され、前記凹部の鉛直方向上部に、該凹部と前記下流側管路との連通部が形成され、前記カバー、および前記付勢部材の少なくとも一方には、鉛直方向上部に前記気泡逃げ部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
ここで、気泡は、浮力により圧力緩衝器の鉛直方向上部へと移動する。このため、本体部とカバーとの合わせ面が鉛直方向と交差する方向に向くように配置した状態では、カバーおよび付勢部材の少なくとも一方の鉛直方向上部に気泡逃げ部を設けることにより、圧力緩衝器内に気泡が残留してしまうことを防止できる。
【0014】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記付勢部材は、前記薄膜と接離可能な座面を有していることを特徴とする。
【0015】
このように構成することで、圧力緩衝器内の圧力が大きくなった場合は、薄膜が付勢部材から離間して圧力緩衝器内の容積を所望の大きさに変化させることができる。一方、圧力緩衝器内の圧力が小さくなった場合は、付勢部材の座面に薄膜が当接し、薄膜が撓みすぎて損傷してしまうことを防止しつつ、圧力緩衝器内の容積を所望の大きさに変化させることができる。
【0016】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記気泡逃げ部は、前記カバーと前記付勢部材の前記座面との間に隙間を形成するための隙間形成部であることを特徴とする。
【0017】
このように隙間を形成することにより、下流側管路に隙間を介して気泡をスムーズに排出することができる。このため、圧力緩衝器内に気泡が残留してしまうことを防止できる。
【0018】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記隙間形成部は、前記カバーおよび前記座面の少なくとも何れか一方に形成された凹部であることを特徴とする。
【0019】
このように構成することで、簡素な構造で薄膜と付勢部材の座面との間に隙間を形成することができる。
【0020】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記座面の一部を切り欠いて前記凹部を形成したことを特徴とする。
【0021】
このように構成することで、簡素な構造で凹部を形成することができ、気泡の残留を防止可能な安価な圧力緩衝器を提供できる。
【0022】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記座面の鉛直方向上部に、少なくとも1つ貫通孔を形成したことを特徴とする。
【0023】
このように構成することで、薄膜と座面との間に止まる気泡を、貫通孔を介して気泡逃げ部に導くことができる。このため、圧力緩衝器内に気泡が残留してしまうことを確実に防止できる。
【0024】
本発明に係る圧力緩衝器は、前記座面の鉛直方向下部に、少なくとも1つ貫通孔を形成したことを特徴とする。
【0025】
このように構成することで、例えば、付勢部材を、上下の向きを逆にして組み付けてしまった場合であっても、付勢部材の鉛直方向上部に少なくも1つの貫通孔を位置させることができる。このため、確実に圧力緩衝器内の気泡の残留を防止できる。
【0026】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、上記に記載の圧力緩衝器と、前記下流側管路に接続され、前記液体を噴射する噴射部と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
このように構成することで、気泡に起因する液体噴射ヘッドの液体の噴射不良を確実に防止できる。
【0028】
本発明に係る液体噴射記録装置は、上記に記載の液体噴射ヘッドと、前記液体を収容する液体収容体と、前記液体収容体と前記圧力緩衝器との間に接続され、前記液体を流通させる液体供給管と、前記液体供給管の位置に接続され、該液体供給管の内部の液体を押圧移動または吸引移動させるポンプモータと、を備えたことを特徴とする。
【0029】
このように構成することで、液体の噴射不良を防止し、被記録媒体への記録の品質を高めることが可能な液体噴射記録装置を提供できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、圧力緩衝器内に気泡が残留してしまうことを防止できる。この結果、液体の噴射不良も防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0033】
(液体噴射記録装置)
図1は、液体噴射記録装置1を示す斜視図である。
液体噴射記録装置1は、紙等の被記録媒体Sを搬送する一対の搬送機構2,3と、被記録媒体Sにインク(液体)を噴射する液体噴射ヘッド4と、液体噴射ヘッド4にインクを供給する液体供給手段5と、液体噴射ヘッド4を被記録媒体Sの搬送方向(主走査方向)と略直交する方向(副走査方向)に走査させる走査手段6と、を備えている。
なお、以下の説明では、副走査方向をX方向、主走査方向をY方向、そしてX方向およびY方向にともに直交する方向をZ方向として説明する。
【0034】
ここで、液体噴射記録装置1は、X方向、Y方向が水平方向となるように、かつZ方向が鉛直方向となるように載置して使用される。すなわち、液体噴射記録装置1を載置した状態では、被記録媒体S上を液体噴射ヘッド4が水平方向(X方向、Y方向)に沿って走査するように構成されている。また、この液体噴射ヘッド4から鉛直方向下方(Z方向下方)に向かってインク滴が噴射され、このインク滴が被記録媒体Sに着弾するように構成されている。
なお、以下の説明では、液体噴射記録装置1を載置した状態で鉛直方向上側を単にZ方向上側と称し、鉛直方向下側を単にZ方向下側と称して説明する。
【0035】
一対の搬送機構2,3は、それぞれX方向に延びて設けられたグリッドローラ20,30と、グリッドローラ20,30のそれぞれに平行に延びるピンチローラ21,31と、詳細は図示しないがグリッドローラ20,30を軸回りに回転動作させるモータ等の駆動機構とを備えている。
【0036】
液体供給手段5は、インクが収容された液体収容体50と、液体収容体50と液体噴射ヘッド4とを接続する液体供給管51と、を備えている。液体収容体50は、複数設けられており、具体的には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクが収容された液体タンク50Y,50M,50C,50Bが並べて設けられている。液体タンク50Y,50M,50C,50BのそれぞれにはポンプモータMが設けられている。これにより、インクを、液体供給管51を通じて液体噴射ヘッド4へ押圧移動できる。液体供給管51は、液体噴射ヘッド4(キャリッジユニット62)の動作に対応可能な可撓性を有するフレキシブルホースからなる。
【0037】
なお、液体収容体50は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクが収容された液体タンク50Y,50M,50C,50Bに限られるものではなく、さらに多色のインクを収容した液体タンクを備えていてもよい。
【0038】
走査手段6は、X方向に延びて設けられた一対のガイドレール60,61と、一対のガイドレール60,61に沿って摺動可能なキャリッジユニット62と、キャリッジユニット62をX方向に移動させる駆動機構63と、を備えている。駆動機構63は、一対のガイドレール60,61の間に配設された一対のプーリ64,65と、一対のプーリ64,65間に巻回された無端ベルト66と、一方のプーリ64を回転駆動させる駆動モータ67と、を備えている。
【0039】
一対のプーリ64,65は、一対のガイドレール60,61の両端部間にそれぞれ配置されており、X方向に間隔をあけて配置されている。無端ベルト66は、一対のガイドレール60,61間に配設されている。この無端ベルト66に、キャリッジユニット62が連結されている。
キャリッジユニット62の基端部62aには、複数の液体噴射ヘッド4が搭載されている。具体的には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクに個別に対応する液体噴射ヘッド4Y,4M,4C,4BがX方向に並んで搭載されている。
【0040】
(液体噴射ヘッド)
図2は、液体噴射ヘッド4を示し、(a)は、斜視図、(b)は、(a)の一部破断斜視図である。
図2(a)、
図2(b)に示すように、液体噴射ヘッド4は、被記録媒体S(
図1参照)に対してインクを噴射する噴射部70と、噴射部70と電気的に接続された制御回路基板80と、噴射部70と液体供給管51との間に介在されている圧力緩衝器90と、をベース41,42上に備えている。なお、ベース41,42は一体成形とされていても構わない。
【0041】
噴射部70は、圧力緩衝器90に接続部72を介して接続された流路基板71と、インクを液滴として被記録媒体Sへと噴射させるアクチュエータ73と、アクチュエータ73と制御回路基板80とに電気的に接続されるフレキシブル配線74と、を備えている。
アクチュエータ73は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)セラミックス基板により構成され、Y方向に長くなるように形成されている。アクチュエータ73には、不図示のチャネル溝が複数形成されており、これらチャネル溝に対応するインクが充填される。そして、各液体噴射ヘッド4(4Y,4M,4C,4B)は、各々アクチュエータ73がX方向に並ぶようにベース41,42に設けられている。
【0042】
フレキシブル配線74は、制御回路基板80からの駆動信号をアクチュエータ73に伝送する役割を有している。アクチュエータ73に駆動信号が出力されると、この駆動信号に基づいてアクチュエータ73が変形する。これにより、各チャネル溝の容積が変化し、アクチュエータ73からインク滴が噴射される。
【0043】
制御回路基板80について詳述すると、制御回路基板80は、液体噴射記録装置1の本体制御部(不図示)からのピクセルデータ等の信号に基づいてアクチュエータ73の駆動パルスを生成する制御手段81と、制御回路基板80に設けられたサブ基板82と、を備えている。また、サブ基板82上には、圧力緩衝器90から延びるコネクタ95と接続されたソケット85と、ソケット85に電気的に接続されたセンサー回路部83と、センサー回路部83と本体制御部(不図示)とを接続するためのソケット84と、が設けられている。
【0044】
(圧力緩衝器)
次に、圧力緩衝器90について詳述する。
図3は、圧力緩衝器90の分解斜視図である。
図2、
図3に示すように、圧力緩衝器90は、液体供給管51から噴射部70へ供給されるインクの圧力変動を緩衝するものである。圧力緩衝器90は、本体部91とカバー92とが重ね合わさるように接続され、これら本体部91とカバー92との間に、付勢部材97、および薄膜96が設けられている。そして、圧力緩衝器90の本体部91が、ベース部42に固定される。このとき、本体部91のカバー92との合わせ面91aは、X方向を向いている。
【0045】
図4は、本体部91の平面図である。
図3、
図4に示すように、本体部91は、例えば、高密度のポリエチレン(HDPE)によって、Y−Z平面に面するように平面視略四角形の平板状に形成されたものである。本体部91のZ方向上側の側部には、Y方向一方側(
図4における左側)に上流側管路101が突設されている。上流側管路101は、液体供給管51に水密に接続される。一方、本体部91のZ方向下側の側部には、Y方向略中央に、下流側管路102が突設されている。下流側管路102は、噴射部70の接続部72と水密に接続される。
【0046】
また、本体部91のカバー92との合わせ面91a側には、大部分に凹部103が形成されている。凹部103は、その平面視形状が、本体部91の平面視形状に対応するように、略四角形に形成されている。凹部103の底面103aには、Z方向下側に、上流側連通部104が形成されている。
この上流側連通部104は、凹部103と上流側管路101とを連通するものである。また、上流側連通部104における凹部103の底面103a側の開口部104aは、Y方向に長くなるように形成されている。そして、上流側連通部104は、開口部104aの上流側管路101側の端部が、この上流側管路101と連通するように形成されている。
【0047】
さらに、本体部91の合わせ面91aには、凹部103の周囲に沿うように平面視略L字状の下流側連通部105が形成されている。下流側連通部105は、Z方向上部の一端が凹部103のZ方向上端内側面103bと連通する一方、他端が下流側管路102と連通している。凹部103のZ方向上端内側面103bは、この凹部103と下流側連通部105との接続部103cに向かうに従って徐々にZ方向上方に向かうように、斜めに形成されている。
この他に、凹部103の底面103aには、付勢部材97を取り付けるための一対の突起108a,108bが形成されている。
【0048】
図5は、カバー92の平面図である。
図3、
図5に示すように、カバー92は、本体部91の平面視形状に対応するように、Y−Z平面に面するように、平面視略四角形に形成された平板状のものである。カバー92は、本体部91の凹部103を閉塞するように設けられ、カバー92の周縁部が、本体部91の合わせ面91a(本体部91における凹部103の周縁部)に固定されている。
【0049】
カバー92の凹部103に対応する部位には、この凹部103とは反対側に向かって膨出する膨出部107が形成されている。膨出部107の平面視の大きさは、凹部103の平面視の大きさよりも若干小さくなる程度に設定されている。
また、カバー92の膨出部107の周囲には、カバー92を本体部91に固定するためのネジ止め固定部108が複数形成されている。これにより、本体部91とカバー92との間の水密性が確保される。
【0050】
さらに、カバー92には、膨出部107のZ方向上端で、かつY方向略中央に、隙間形成凹部109が形成されている。隙間形成凹部109は、膨出部107と同様に、凹部103とは反対側に向かって膨出形成されている。また、隙間形成凹部109は、Z方向の上端の位置が、凹部103のZ方向上端内側面103bの位置とほぼ一致するように形成されている。換言すれば、隙間形成凹部109は、凹部103のZ方向上部でこの凹部103とX方向で対向するように形成されている(
図4における2点鎖線参照)。この隙間形成凹部109は、凹部103内にインクを充填する際に生じる気泡を、スムーズに下流側連通部105に導くためのものである(詳細は後述する)。
【0051】
また、カバー92には、膨出部107のZ方向上端で、かつ隙間形成凹部109よりもY方向他方側(
図5における右側)に、空気通路110が形成されている。この空気通路110も、膨出部107と同様に、凹部103とは反対側に向かって膨出形成されている。そして、空気通路110を介してカバー92内が外気と連通されており、カバー92と外気との間に差圧が生じないようになっている。
【0052】
付勢部材97は、板状のバネ鋼にプレス加工等を施すことによって形成されたものである。付勢部材97は、本体部91の凹部103の外形状よりもやや小さくなるように平面視略四角形状で、かつ平坦に形成され、薄膜96と接離可能な座面部111を有している。
座面部111には、Z方向上下に複数の貫通孔114が形成されている。座面部111のZ方向上部に形成された複数の貫通孔114、および座面部111のZ方向下部に形成された複数の貫通孔114は、それぞれY方向に一列に配置されている。
【0053】
また、座面部111には、この座面部111に切込み部111aを形成してなる一対の脚部112a,112bが設けられている。各脚部112a,112bは、それぞれの根元部が座面部111に連結された状態になっており、根元部から凹部103側に向かって曲折延出されている。そして、各脚部112a,112bは、延出方向がY方向に沿っており、かつ互いに反対方向となるように斜めに延出している。なお、切込み部111aの形状によって、各脚部112a,112bを、Z方向に沿って延出するように形成してもよい。
【0054】
また、各脚部112a,112bの先端には、それぞれ凹部103に形成されている突起108a,108bに嵌合可能な嵌合孔113a,113bが形成されている。各突起108a,108bに嵌合孔113a,113bを嵌合させることにより、本体部91の凹部103に付勢部材97が固定される。そして、各脚部112a,112bが弾性変形することにより、座面部111が凹部103の深さ方向に沿って変位するようになっている。
【0055】
図6は、圧力緩衝器90の概略断面図、
図7は、
図6のA部拡大図である。なお、
図6、
図7は、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図3、
図6、
図7に示すように、本体部91には、付勢部材97を取り付けた後から凹部103を閉塞するように薄膜96が配置されている。そして、本体部91の合わせ面91a(凹部103の周縁部)に薄膜96が溶着固定され、この薄膜96により凹部103を密封している。
【0056】
薄膜96は、可撓性を有する膜であり、液体収容体50から供給されるインクに対して腐食耐性等を有する素材からなることが好ましい。また、薄膜96は、本体部91に溶着可能なように、多層構造になっている。
より具体的には、
図7に詳示するように、薄膜96は、例えば低密度のポリエチレン(LDPE)層96a、シリカ層96b、およびナイロン層96cの三層構造で構成されている。そして、本体部91と同質のポリエチレン層96aを本体部91側に向けた状態で配置されている。これにより、本体部91の合わせ面91aと薄膜96とが熱溶着可能となる。
【0057】
このように構成されている薄膜96は、
図6に詳示するように、弛み部96dが形成された状態で本体部91に熱溶着されている。薄膜96に弛み部96dが形成されていることにより、薄膜96は、大きく撓むことができるようになっている。さらに、薄膜96は、薄膜96と凹部103との間の空間Kd1が大気圧と等圧である場合、凹部103とは反対側のカバー92側へ撓んだ状態となるように調整され、熱溶着されている。
【0058】
一方、付勢部材97は、薄膜96と凹部103との間の空間Kd1が大気圧と等圧である場合の合わせ面91aからの突出高さが、薄膜96の撓み量と比較して小さくなるように設定されている。このため、空間Kd1が大気圧と等圧である場合、つまり、薄膜96をカバー92側に向かって撓ませた状態では、薄膜96と付勢部材97の座面部111との間に、空隙Ksが形成されるようになっている。
【0059】
(圧力緩衝器の初期充填時の動作)
次に、
図8に基づいて、圧力緩衝器90の初期充填時の動作について説明する。
図8は、圧力緩衝器90の初期充填時の動作説明図であって、(a)〜(d)は、それぞれ時間経過ごとのインクの挙動を示している。
ここで、液体噴射記録装置1を使用する際には、予め液体噴射ヘッド4のアクチュエータ73に形成されている不図示のチャネル溝までインクを充填しておく必要がある。このため、液体噴射記録装置1の使用前に、液体収容体50(液体タンク50Y,50M,50C,50B)のそれぞれに設けられたポンプモータMを駆動し、液体供給管51、圧力緩衝器90を介して、液体噴射ヘッド4にインクを押圧移動させる。これを、初期充填という。
【0060】
図8(a)に示すように、液体収容体50から液体供給管51を介して圧力緩衝器90の上流側管路101に流入されたインクIは、さらに、上流側連通部104を介して凹部103のZ方向下部に流れ込む。
図8(b)に示すように、さらに、凹部103内にインクIが流れ込むと、凹部103内のインクIの水位が上昇する。このとき、インクIに作用する表面張力により、凹部103のY方向中央部のインクIの水位よりも凹部103の内側面側のインクIの水位の方が速く上昇する。
【0061】
図8(c)に示すように、さらに、凹部103内にインクIが流れ込むと、凹部103のZ方向上端で、かつY方向中央部近傍に気泡Khが形成される。
ここで、インクIの上昇時に、凹部103内が加圧されるのに伴い、薄膜96(
図3、
図6参照)と付勢部材97の座面部111とが貼り付き、これら付勢部材97と座面部111との間に空間が形成される。この空間が気泡Khの一因となるが、気泡Khには浮力が作用することに加え、座面部111のZ方向上部に複数の貫通孔114が形成されているので、これら貫通孔114を通って凹部103のZ方向上端で、かつY方向中央部近傍に気泡Khが集約される。
【0062】
また、カバー92には、Z方向上端で、かつY方向略中央に、隙間形成凹部109が形成されている。さらに、薄膜96は、可撓性を有する膜であるので、凹部103内が加圧されるのに伴い、隙間形成凹部109の形状に沿って撓む。つまり、隙間形成凹部109が形成されている箇所において、薄膜96は、付勢部材97の座面部111から浮き上がる(離間する)。これにより、薄膜96と座面部111との間に隙間が形成される。ここで、隙間形成凹部109は、凹部103のZ方向上部でこの凹部103とX方向で対向するように形成されている(
図4における2点鎖線参照)。
【0063】
このため、凹部103のZ方向上端において、薄膜96と座面部111との間に隙間が形成されることにより、この隙間を通って気泡Khが下流側連通部105へと排出される。
これにより、
図8(d)に示すように、初期充填時において、圧力緩衝器90内に気泡Khが残留することなく、インクIで満たされる。
なお、下流側連通部105に排出されたインクIは、その後噴射部70(
図2参照)のアクチュエータに流れ込み、さらに、ノズル(不図示)を介して外部へと排出される。このため、インクIの供給ラインに気泡が残留することがない。
【0064】
初期充填が完了した後、液体噴射記録装置1を動作させると、液体噴射ヘッド4(キャリッジユニット62)の往復移動に伴い。液体供給管51が揺動する。この揺動に伴うインクの圧力変動は、圧力緩衝器90によって吸収される。すなわち、圧力緩衝器90内の薄膜96がインクの圧力変動によって撓み、圧力緩衝器90内の空間Kd1(
図6参照)の容積が変化する。これにより、空間Kd1におけるインクの圧力が調整される。
ここで、カバー92に形成された空気通路110によって、カバー92と外気との間に差圧が生じないようになっている。このため、薄膜96は、インクの圧力変動によって容易に変位する(撓み変形する)。この結果、圧力緩衝器90によって、確実にインクの圧力変動を吸収することができる。
【0065】
このように、上述の圧力緩衝器90では、付勢部材97における座面部111のZ方向上部に複数の貫通孔114が形成されている。また、カバー92のZ方向上部に、凹部103および下流側連通部105と連通する隙間形成凹部109が形成されている。このため、圧力緩衝器90内に生じる気泡Khが、この気泡Khの浮力と、付勢部材97の貫通孔114と、カバー92の隙間形成凹部109を利用してスムーズに下流側連通部105へと排出される。よって、圧力緩衝器90内に気泡Khが残留してしまうことを防止でき、液体噴射ヘッド4によるインクの吐出不良も防止できる。
【0066】
また、付勢部材97の座面部111には、Z方向下部にも複数の貫通孔114が形成されている。このため、圧力緩衝器90の組み付け時に、仮に作業者が付勢部材97を上下逆さまに組み付けてしまった場合であっても、座面部111のZ方向上部に、貫通孔114を配置することができるので、この貫通孔114を介して下流側連通部105へとスムーズに気泡Khを排出することができる。
【0067】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、初期充填時に圧力緩衝器90内に生じる気泡Khが下流側連通部105へと排出される場合について説明した。しかしながら、圧力緩衝器90内に気泡Khが生じるのは初期充填時に限られるものではなく、初期充填後もインク流路の途中に気泡が溜まってしまい、この気泡が液体噴射記録装置1の駆動時に圧力緩衝器90内に浸入する場合もある。このような場合であっても、隙間形成凹部109を介して気泡をスムーズに下流側連通部105へと排出することができる。
【0068】
また、上述の実施形態では、圧力緩衝器90は、本体部91のカバー92との合わせ面91aがX方向を向くように配置されている場合について説明した。そして、カバー92には、膨出部107のZ方向上端に隙間形成凹部109が形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、本体部91のカバー92との合わせ面91a(圧力緩衝器90の向き)を、さまざまな向きで配置することが可能である。望ましくは、合わせ面91aが完全にX方向を向いていなくとも、少なくともZ方向と交差する方向に合わせ面91aが向いているとよい。そして、隙間形成凹部109の位置は、圧力緩衝器90の配置向きに応じて決定すればよい。
【0069】
さらに、上述の実施形態では、カバー92に隙間形成凹部109を形成すると共に、付勢部材97に複数の貫通孔114を形成し、これら隙間形成凹部109および貫通孔114によって、圧力緩衝器90内に発生する気泡を、下流側連通部105にスムーズに排出する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、隙間形成凹部109または貫通孔114の少なくとも何れか一方が形成されていればよい。さらには、隙間形成凹部109や貫通孔114に代わりに、インクの充填時に生じる薄膜96と付勢部材97の座面部111との間の空間と、下流側連通部105と、を連通させる気泡逃げ構造が設けられていればよい。
【0070】
すなわち、上述の実施形態は、気泡逃げ構造の一例として、薄膜96と付勢部材97の座面部111との間に隙間を形成するための隙間形成凹部109や貫通孔114について説明している。このため、例えば、隙間形成凹部109や貫通孔114を廃止し、
図9に示すように、付勢部材97の座面部111におけるZ方向上下に、複数の凸部115を設けてもよい。このように構成した場合であっても、薄膜96と座面部111との間に隙間を形成することができる。なお、凸部115は、薄膜96側に突出させる他、薄膜96とは反対側に突出させてもよい。凸部115を薄膜96とは反対側に突出させると、座面部111の薄膜96側の面に複数の凹部が形成された形となり、この凹部によって薄膜96と座面部111との間に隙間を形成することができる。
【0071】
また、
図10に示すように、座面部111に、貫通孔114に代わって複数の切欠き凹部116を形成してもよい。このように構成した場合であっても、インクの充填時に生じる薄膜96と付勢部材97の座面部111との間の空間と、下流側連通部105とを、切り欠き凹部116を介して連通させることができる。
【0072】
さらに、上述の実施形態では、付勢部材97の座面部111におけるZ方向上下に、それぞれ複数の貫通孔114を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、少なくとも座面部111のZ方向上下に、1つの貫通孔114が形成されていればよい。