(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インピーダンス変換器は、前記通信対象アンテナとの間で無線通信される電波の中心周波数の波長に対し4分の1の長さを有するマイクロストリップラインを、複数直列に接続することにより構成されていることを特徴とする請求項3に記載のアンテナ装置。
前記信号合成回路は、前記インピーダンス変換器の前記パッチとは反対側に接続される2つの入力端と、2つの出力端とを有するハイブリッドリングにて構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のアンテナ装置。
前記ハイブリッドリングは、前記一方の基板面の前記アンテナパターンの周囲に、当該アンテナパターンの一つの角部に沿ってL字形状に屈曲して配置されていることを特徴とする請求項5〜請求項8の何れか1項に記載のアンテナ装置。
前記両面基板において、前記一方の基板面には、前記パッチを構成する前記アンテナパターンの周囲に、前記通信対象アンテナとの間で近傍界通信を行うためのマイクロストリップラインが形成されており、
該近傍界通信用のマイクロストリップラインは、前記信号合成回路を介して、前記パッチと並列若しくは直列に接続されていることを特徴とする請求項2〜請求項9の何れか1項に記載のアンテナ装置。
前記近傍界通信用のマイクロストリップラインは、当該マイクロストリップライン同士の間隔が前記通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くなるように、屈曲して形成されていることを特徴とする請求項10に記載のアンテナ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来のシート状アンテナ装置は、特許文献2に記載のアンテナ装置のように、RFIDタグを接近させることにより識別情報の読み取りが可能な近傍界型であるか、或いは、特許文献3に記載のアンテナ装置のように、アンテナ装置から離れた位置に存在するRFIDタグから識別情報の読み取りが可能な遠方界型であり、近傍界から遠方界まで広範囲に識別情報の読み取りが可能なアンテナ装置は存在しなかった。
【0009】
このため、レジ台で商品に付与されたRFIDタグから識別情報を読み取る際には、上記2種類のアンテナ装置を用意する必要があった。
つまり、レジ台で商品に付与されたRFIDタグから識別情報を読み取る際には、RFIDタグがレジ台に載置されることもあるし、商品が大きく、RFIDタグがレジ台から離れた位置に配置されることもある。従って、従来のアンテナ装置を用いて、何れの条件下でもRFIDタグから識別情報を読み取ることができるようにするには、上記2種類のアンテナ装置が必要になるのである。
【0010】
しかし、このように2種類のアンテナ装置を用いてRFIDタグから識別情報を読み取るようにすると、読み取り装置側で、識別情報を読み取るのに利用するアンテナ装置を自動で切り換えなければならない。
【0011】
そして、そのためには、アンテナ装置切替用の切替回路や制御回路が必要になり、回路構成が複雑になって、読み取り装置のコストアップを招くという問題が生じる。
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、RFIDタグから識別情報を読み取るためのアンテナ装置において、RFIDタグとの間で遠方界通信及び近傍界通信を実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するためになされた本発明のアンテナ装置は、RFIDタグとの間で遠方界通信を行うための第1アンテナ部と、RFIDタグとの間で近傍界通信を行うための第2アンテナ部とを備える。そして、これら各アンテナ部は、共通の基板上の導電体パターンにて形成されている。
【0013】
このため、本発明のアンテナ装置は、RFIDタグがアンテナ装置の放射面に載置されても、また、RFIDタグがアンテナ装置から離れた位置に配置されても、RFIDタグから識別情報を読み取ることができるようになり、レジ等でRFIDタグが付与された物品を識別するのに好適なアンテナ装置となる。
【0014】
また、特に本発明のアンテナ装置は、基板上に2種類のアンテナ部を構成する導電体パターンを形成することにより、シート状の平面アンテナとして構成されることから、レジ台に載置して使用することが可能となり、レジ台に容易に設置することができる。
【0015】
ところで、上記のように2種類のアンテナ部を、共通の基板上の導電体パターンにて構成する場合、基板上に各アンテナ部をそれぞれ独立して配置すると、アンテナ装置が大型化する。
【0016】
このため、本発明のアンテナ装置は、一方の基板面に、第1アンテナ部としてのパッチを構成するアンテナパターンが形成され、他方の基板面に、グランドとなる導電体層が形成された、両面基板を利用して構成すると良い。
【0017】
この場合、パッチを構成するアンテナパターンには、複数のスリットを設け、その複数のスリットの間隔を、各スリットにて区切られるアンテナパターンの幅が、RFIDタグに設けられている通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くなるように設定する。
【0018】
この結果、パッチを構成するアンテナパターンにおいては、スリットで区切られた幅の狭い部分が第2アンテナ部として機能することになり、遠方界及び近傍界兼用のアンテナ装置実現できる。
【0019】
つまり、パッチアンテナ自体は遠方界用のアンテナ装置であり、パッチの全域が導電体パターン(アンテナパターン)にて形成されていると、パッチ近傍に通信対象アンテナが配置されたときに、RFIDタグに設けられている通信対象アンテナの共振周波数がずれてしまい、読み取り装置にて識別情報を読み取ることができなくなる。
【0020】
しかし、本発明のように、パッチを構成するアンテナパターンにスリットを設けることで、アンテナパターンの幅を、通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くすると、パッチ近傍に通信対象アンテナが配置されても、通信対象アンテナの共振周波数がずれ難くなる。
【0021】
この結果、本発明のアンテナ装置によれば、RFIDタグに設けられた通信対象アンテナとの間で、通信対象アンテナの共振周波数を大きく変化させることなく、近傍界通信を実施できるようになる。
【0022】
なお、複数のスリットは、アンテナパターンを構成する導電体パターンの幅が通信対象アンテナの外形の最短幅よりも短くすることができれば良いので、直線状のスリット、自由曲線を含む曲線状のスリット、若しくは、直線と曲線を組み合わせた任意形状のスリットを、間隔を空けて設けるようにすればよい。また、各スリット同士は平行に配置してもよいし、任意の傾きを持たせて配置してもよい。
【0023】
ところで、RFIDタグには、通常、直線偏波のアンテナ装置が設けられるが、このアンテナ装置の向きは、RFIDタグ(換言すればRFIDタグが付与された物品)の配置状態によって変化する。
【0024】
従って、本発明のアンテナ装置を用いて、RFIDタグから識別情報を読み取る際には、本発明のアンテナ装置を円偏波アンテナにして、RFIDタグがどの様に配置されてもRFIDタグとの間で無線通信できるようにするとよい。
【0025】
そして、このためには、パッチを構成するアンテナパターンは、当該アンテナパターンの2点を給電とし、各給電点を信号合成回路に接続するようにするとよい。
このようにすれば、2点給電方式の円偏波アンテナを、両面基板上のアンテナパターンにて構成することができる。
【0026】
また、この場合、パッチの内部で所望のインピーダンス(一般に50Ω若しくは75Ω)特性が得られる位置に給電点を設定できなくても、その給電点を、マイクロストリップラインからなるインピーダンス変換器を介して、信号合成回路に接続するようにすればよい。
【0027】
そして、このようにしても、インピーダンス変換器は、両面基板上に導電体パターンにて構成できることから、薄いシート状のアンテナ装置を、容易に実現できることになる。
またこの場合、インピーダンス変換器は、通信対象アンテナとの間で無線通信される電波の中心周波数の波長に対し4分の1の長さを有するマイクロストリップラインを、複数直列に接続することにより構成するとよい。
【0028】
つまり、このようにすれば、インピーダンス変換器が直列接続された複数のマイクロストリップラインにて構成されることにより、共振点が増え、遠方界アンテナとして機能するときに送受信される電波の周波数帯域を広帯域化することができる。
【0029】
一方、信号合成回路は、インピーダンス変換器のパッチとは反対側に接続される2つの入力端と、2つの出力端とを有するハイブリッドリングにて構成するとよい。このように、信号合成回路をハイブリッドリングにて構成すれば、信号合成回路を、両面基板に形成される導電体パターンにて構成することができるようになり、より構成が簡単なシート状のアンテナ装置を実現できるようになる。
【0030】
なお、信号合成回路は、ウィルキンソン電力分配合成器を利用しても、導電体パターンにて構成することができる。但し、この場合、パッチに近い箇所に抵抗を設ける必要があることから、両面基板の基板面の中央に膨らみができてしまい、アンテナ装置全体を扁平な薄型にすることが難しい。
【0031】
これに対し、信号合成回路をハイブリッドリングにて構成すれば、両面基板の基板面の中央に膨らみが形成されることはないので、シート状のアンテナ装置を容易に実現できる。
【0032】
なお、ハイブリッドリングは、必ずしも両面基板の基板面に導電体パターンにて形成する必要はなく、例えば、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)等の電子部品を用いて構成してもよい。
【0033】
また、信号合成回路をハイブリッドリングにて構成した場合、ハイブリッドリングの2つの出力端のうちの一方は、終端抵抗を介してグランドに接地するようにしてもよい。
このようにすれば、もう一方の出力端を給電点として、アンテナ装置には1本の給電用ケーブルを接続するだけでよくなり、その給電点から右旋又は左旋の円偏波の受信信号を取り出すことができるようになる。
【0034】
また、両面基板に実装する電子部品は、ハイブリッドリングの出力端付近に配置される終端抵抗だけでよく、その終端抵抗は、両面基板の外周部分に配置すればよいので、終端抵抗がアンテナ装置の薄型化の妨げになるのを防止できる。
【0035】
また、このように、ハイブリッドリングの一方の出力端に終端抵抗を設ける場合、両面基板には、終端抵抗を埋め込むための凹部若しくは貫通孔を形成しておき、終端抵抗は、その凹部若しくは貫通孔に収納するとよい。
【0036】
このようにすれば、両面基板の基板面から終端抵抗が大きく突出されるのを防止でき、アンテナ装置をより良好に薄型化することができる。
また、このように終端抵抗を設けた場合、アンテナパターンが形成された識別情報の読み取り面(つまり両面基板の一方の基板面)側から終端抵抗に物品が当接され、その衝撃にて終端抵抗が破損することが考えられる。このため、両面基板の一方の基板面には、終端抵抗を覆い保護するための衝撃吸収材を設けるようにしてもよい。
【0037】
また、ハイブリッドリングは、一方の基板面のアンテナパターンの周囲に、当該アンテナパターンの一つの角部に沿ってL字形状に屈曲して設けるとよい。
つまり、このようにすれば、ハイブリッドリングを、アンテナパターン周囲で裏面のグランドパターンに対向する空き領域に形成することができ、ハイブリッドリングを形成するために両面基板の基板面積を広げる必要がないので、アンテナ装置の小型化を図ることができる。
【0038】
また、両面基板において、一方の基板面には、パッチを構成するアンテナパターンの周囲に、通信対象アンテナとの間で近傍界通信を行うためのマイクロストリップラインを形成し、この近傍界通信用のマイクロストリップラインを、信号合成回路を介して、パッチと並列若しくは直列に接続するようにしてもよい。
【0039】
このようにすれば、パッチを構成するアンテナパターン周囲で、裏面のグランドパターンに対向する空き領域でも、通信対象アンテナとの間で近傍界通信を行うことができるようになる。
【0040】
このため、RFIDタグから識別情報を読み取る場合、RFIDタグを、アンテナ装置の片面のどこに配置しても、近傍界通信にてRFIDタグから識別情報を取得できるようになる。
【0041】
なお、近傍界通信用のマイクロストリップラインは、パッチに対し並列接続しても直列接続してもよいが、指向特性は変えずに利得を下げたい場合は、パッチに対し直列接続し、利得を下げたくない場合は、並列接続するとよい。
【0042】
また、近傍界通信用のマイクロストリップラインは、当該マイクロストリップライン同士の間隔が通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くなるように、屈曲して形成されているとよい。
【0043】
このようにすれば、パッチを構成するアンテナパターン周囲で近傍界通信を実施し得る領域を広げることができ、両面基板の一方の基板面の略全域で、RFIDタグから識別情報を取得できるようになる。
【0044】
次に、本発明のアンテナ装置は、遠方界通信用の第1アンテナ部と近傍界通信用の第2アンテナ部とを、基板上の導電体パターンにて形成することで構成されるが、この基板にて構成されるアンテナ装置本体は、合成樹脂製の保護シートで被覆されていてもよい。
【0045】
そして、両面基板を保護シートで被覆すれば、アンテナ装置を薄型(換言すればシート状)にすることができるだけでなく、アンテナ装置が経年変化によって劣化したり、外部からの衝撃により電気的特性(放射特性)が変化したりするのを防止することができるようになる。
【0046】
なお、両面基板を保護シートで被覆すると、保護シートの材質(誘電特性)によって、アンテナ装置の放射特性が変化することがあるため、保護シートを設ける場合には、保護シートによる特性変化を考慮して、アンテナ装置(詳しくは両面基板の導電体パターン)を設計することが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本実施形態のアンテナ装置2は、商店等のレジ台に載置されて、商品等の物品に添付されたRFIDタグから識別情報を読み取るのに利用されるものであり、
図1に示すように、アンテナ装置本体となる両面基板10を備える。
【0049】
両面基板10には、基材となる誘電体基板10a(
図4参照)の一方の基板面(
図1における上面)に、パッチアンテナの放射器(パッチ)等を構成する導電体パターン(
図2参照)が形成され、他方の基板面(
図1における下面)の略全域に、グランドとなる導電体層40(換言すればグランドパターン、
図4参照)が形成されている。このため、両面基板10は、一方の基板面から電波を放射可能な平面アンテナとして機能する。
【0050】
また、両面基板10の基板面は略正方形であり(
図2参照)、4つの角部の1つには、同軸ケーブル30の接続部22が形成されており、その接続部22には、圧着端子42を介して、送受信信号を入出力するための同軸ケーブル30が固定されている。
【0051】
そして、その同軸ケーブル30の中心導体32は、一方の基板面に形成された導電体パターンの出力端に接続(半田付け)され、外部導体34は、一方の基板面の外周部分に形成されたグランドパターン28に接続(半田付け)されている(
図4参照)。
【0052】
また、両面基板10において、同軸ケーブル30の接続部22には、パッチアンテナの放射器(パッチ)が形成される一方の基板面側から、シート状の衝撃吸収材52が被せられており、更に、両面基板10全体は、合成樹脂製の保護シート50で被覆されている。
【0053】
なお、本実施形態では、衝撃吸収材52は、高機能ウレタンフォーム(マイクロセルポリマーシート)にて構成され、保護シート50は、塩化ビニールシートにて構成されている。
【0054】
そして、保護シート50は、2枚のシート材にて両面基板10を両面側から覆い、両面基板10の外周部分で、2枚のシート材を圧着することにより、両面基板10全体を収納して保護するようになっている。
【0055】
また、2枚のシート材を圧着する際、両面基板10の他方の面(下面)側に配置されるシート材は、その基板面に沿って配置し、もう一方のシート材を両面基板10の一方の面(上面)側から被せることで、圧着部分が、両面基板10の厚み方向の中心よりも下方になるようにされている。
【0056】
これは、アンテナ装置2をレジ台に載置した際に、保護シート50の圧着部分がレジ台の板面に沿うようにするためであり、これによって、レジ台で作業者が商品を移動させる際に、保護シート50の圧着部分が邪魔になるのを防止している。
【0057】
次に、両面基板10の一方の基板面に形成された導電体パターンについて説明する。
図2に示すように、両面基板10の一方の基板面には、略中央に、パッチアンテナの放射器となる略正方形のアンテナパターン12が形成されている。
【0058】
このアンテナパターン12は、第1アンテナ部としてのパッチを構成するものであるが、このアンテナパターン12には、その外周で互いに平行な2辺の中心部をそれぞれ接続する十字形状のクロス部分を除いて、各辺に平行な複数のスリット14が設けられている。
【0059】
この複数のスリット14は、スリット14にて区切られるアンテナパターン12の幅Lが、識別情報を読み取るRFIDタグに設けられた通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅Lmin(
図3参照)よりも短くなるようにするためのものであり、アンテナパターン12内に所定の間隔を空けて配置されている。
【0060】
つまり、アンテナパターン12にて構成されるパッチアンテナは遠方界用のアンテナであり、パッチの全域が導電体パターンにて形成されていると、パッチ近傍にRFIDタグが配置されたときに、RFIDタグに設けられている通信対象アンテナの共振周波数がずれてしまう。すると、同軸ケーブル30を介して接続される読み取り装置(リーダライタ)側では、RFIDタグから識別情報を読み取ることができなくなってしまう。
【0061】
そこで、本実施形態では、上記のようにパッチアンテナのパッチを構成するアンテナパターン12に、複数のスリット14を設けることにより、各スリット14にて区切られるアンテナパターン12の幅が、通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅Lminよりも短くなって、近傍界通信用の第2アンテナ部として機能するようにしている。
【0062】
なお、本実施形態のアンテナ装置2において、通信対象アンテナは、RFIDタグに設けられたアンテナであるが、
図3に例示するように、RFIDタグには、大きさの異なる多数のRFIDタグ64,68,…があり、これらのRFIDタグ64,68,…に設けられるアンテナ62,66,…の大きさも異なる。
【0063】
このため、スリット14にて区切られるアンテナパターン12の幅は、これら各種通信対象アンテナ62,66,…の内、アンテナサイズ(開口面)が小さく、特に、その開口面の外形の長さが最も小さいアンテナ62の幅Lminよりも狭くなるように設定されている。
【0064】
この結果、アンテナ装置2は、アンテナパターン12によって、識別情報の読み取り対象となるRFIDタグに設けられた全ての通信対象アンテナとの間で遠方界通信及び近傍界通信を実施し得るアンテナ装置となる。
【0065】
なお、複数のスリット14は、アンテナパターン12の外周の角部の2辺に沿ってL字状に形成されているが、アンテナパターン12の縦方向及び横方向に横切る十字形状のクロス部分にはスリット14は形成されない。
【0066】
これは、このクロス部分にもスリット14を形成すると、アンテナパターン12がループアンテナとなってしまい、パッチアンテナとして機能しなくなるためである。つまり、本実施形態では、この構成により、パッチアンテナにおいて互いに直交する垂直方向及び水平方向の放射性能を確保している。
【0067】
なお、
図2に示すアンテナパターン12において、中心部分には導電体パターンがなく、開口部とされている。これは、パッチアンテナにおいて、放射器を構成するパッチの中心部分は、開口させても、アンテナ特性に与える影響が少ないからであり、この中心部分に十字を形成する導電体パターンを設けてもよいのは、いうまでもない。
【0068】
次に、アンテナ装置2は、RFIDタグに設けられた直線偏波のアンテナとの間で通信を行うためのものであり、そのアンテナの向きは、RFIDタグの配置状態によって変化する。
【0069】
そこで、本実施形態では、アンテナパターン12によって実現されるパッチアンテナが円偏波アンテナとして機能し、RFIDタグがどの様に配置されてもRFIDタグのアンテナとの間で遠方界通信ができるようにされている。
【0070】
具体的には、アンテナパターン12は、その外周で隣接する2辺の中心部をそれぞれ給電点Pとし、各給電点Pを、アンテナパターン12と同じ基板面に形成されたマイクロストリップラインにて構成されるインピーダンス変換器16を介して、信号合成回路18に接続することにより、円偏波アンテナとして機能するようにされている。
【0071】
ここで、インピーダンス変換器16は、上記各給電点Pに接続されるハイインピーダンスのマイクロストリップライン16aと、信号合成回路18に接続される特定インピーダンス(例えば50Ω)のマイクロストリップライン16cと、マイクロストリップライン16a、16c同士を接続しこれらの中間のインピーダンスを有するマイクロストリップライン16bと、により構成されている。
【0072】
そして、これら各マイクロストリップライン16a〜16bの長さは、RFIDタグとの通信周波数(本実施形態では900MHz帯)の中心周波数の波長λに対し、4分の1の長さ(λ/4)に設定されている。なお、波長λは、波長短縮率を考慮した値であり、本発明・明細書で長さを規定するのに用いる波長も同様である。
【0073】
一方、信号合成回路18は、上記一対のインピーダンス変換器16(詳しくは特定インピーダンスのマイクロストリップライン16cが接続される2つの入力端Tiと、2つの出力端Toとを有するハイブリッドリングにて構成されている。
【0074】
信号合成回路18を構成するハイブリッドリングは、アンテナパターン12と同じ基板面に形成された導電体パターン(マイクロストリップライン)にて形成されている。この種のハイブリッドリングは、通常、矩形に形成されるが、本実施形態では、アンテナパターン12の周囲の基板面を有効利用し、且つ、両面基板10の角部に同軸ケーブル30の接続部22を形成するため、L字形状に変形させている。
【0075】
そして、ハイブリッドリングの一方の出力端Toは、後述の終端抵抗44(
図4参照)を介して、両面基板10の同一基板面の外周部分に形成されたグランドパターン28に接地するため、グランドパターン28との間に設けられた終端抵抗44収納用の凹部20に向けて開放されている。なお、グランドパターン28は、他方の基板面の導電体層40(つまりグランドパターン)に接続されている。
【0076】
また、ハイブリッドリングの他方の出力端Toは、アンテナパターン12と同一基板面に、アンテナパターン12の周囲を囲むように形成されたマイクロストリップライン26を介して、同軸ケーブル30の接続部22まで延設されている。なお、終端抵抗44収納用の凹部20も、この接続部22付近に形成されている。
【0077】
このマイクロストリップライン26は、アンテナパターン12の周囲の基板面でも、通信対象アンテナとの間で近傍界通信ができるようにするためのものである。そして、本実施形態では、マイクロストリップライン26同士の間隔が、通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くなるように、コの字状に屈曲して、アンテナパターン12周囲の空き領域全域に形成されている。
【0078】
この結果、本実施形態のアンテナ装置2によれば、パッチアンテナの放射器であるパッチを構成するアンテナパターン12だけでなく、その周囲の空き領域でも、近傍界通信を実施できることになる。
【0079】
次に、両面基板10の角部に形成された同軸ケーブル30の接続部22について、
図4に基づき説明する。なお、
図4において(a)は、接続部22が設けられた両面基板10の角部を両面基板10のアンテナパターン12側から見た平面図であり、(c)は、その角部を両面基板10のアンテナパターン12とは反対側から見た裏面図であり、(b)は、終端抵抗44が収納された凹部20の断面を表す断面図である。
【0080】
図4に示すように、両面基板10の角部のグランドパターン28部分には、圧着端子42を固定するための貫通孔24が形成されており、この貫通孔24には、鳩目46を介して、圧着端子42が固定されている。
【0081】
接続部22は、同軸ケーブル30を、圧着端子42を介して固定できるように、両面基板10の角部を切り欠くことにより形成されており、圧着端子42にて同軸ケーブル30を固定した状態で、先端の外部導体34を通すための切り欠きも設けられている。
【0082】
そして、両面基板10には、その切り欠きを挟むようにグランドパターン28が形成され、同軸ケーブル30の外部導体34は、切り欠き周囲のグランドパターン28に半田付けされている。
【0083】
また、このように両面基板10の角部に固定される同軸ケーブル30の更に先端部分には、マイクロストリップライン26の先端が配置されており、そのマイクロストリップライン26には、同軸ケーブル30の中心導体32が半田付けされている。
【0084】
また、終端抵抗44収納用の凹部20は、このマイクロストリップライン26の先端付近に形成されており、その内部に終端抵抗44が収納されている。本実施形態では、終端抵抗44はチップ部品(チップ抵抗)にて構成されており、凹部20の深さは、そのチップ部品の板厚よりも深く、終端抵抗44全体を凹部20内に収納できるようになっている。
【0085】
そして、凹部20において、信号合成回路18(ハイブリッドリング)の出力端To側及びグランドパターン28側の側壁は、金属メッキが施されており、終端抵抗44は、この金属メッキに半田付けすることで、信号合成回路18の出力端Toとグランドパターン28とを接続している。
【0086】
なお、この構成は一例であり、凹部20に代えて、終端抵抗44を収納可能な貫通孔を設けてもよい。また、終端抵抗44は、リード線を有する抵抗器であってもよい。
上記のように構成された本実施形態のアンテナ装置2の特性を測定したところ、同軸ケーブル30の接続部22で測定した電圧定在波比(VSWR)及び利得(アンテナゲイン)は、それぞれ、
図5、
図6に示す測定結果が得られた。
【0087】
また、
図6において、実線は、本実施形態のように、アンテナパターン12周囲のマイクロストリップライン26を、信号合成回路18に直列接続したときの利得を表し、点線は、マイクロストリップライン26を、信号合成回路18に並列接続したときの利得を表す。
【0088】
この測定結果から、マイクロストリップライン26を直列接続した場合には、並列接続した場合に比べ、利得が0.5dB程度低くなることが判った。このため、必要な利得に応じて直列接続と並列接続の何れかを選択すればよい。
【0089】
そして、何れの場合にも、アンテナパターン12だけでなく、マイクロストリップライン26でも近傍界通信を実施できるので、放射面の略全域で近傍界通信ができるアンテナ装置2を実現できることになる。
【0090】
なお、マイクロストリップライン26とアンテナパターン12を並列接続する際には、アンテナ装置2からの出力(同軸ケーブル30の中心導体32への接続部)を、信号合成回路18の出力端Toの内、終端抵抗44にて接地しない側の出力端Toから取り出し、マイクロストリップライン26の信号合成回路18への接続部とは反対側を開放すればよい。
【0091】
以上説明したように、本実施形態のアンテナ装置2によれば、パッチアンテナの放射器(パッチ)を構成するアンテナパターン12に複数のスリット14を設けることで、アンテナパターン12にて、遠方界通信及び近傍界通信の両方を実施できるようにし、更に、アンテナパターン12の周囲にコの字状に屈曲させたマイクロストリップライン26を設けることで、このマイクロストリップライン26でも、近傍界通信を実施できるようにしている。
【0092】
このため、本実施形態のアンテナ装置2は、レジ台に設置して、商品に添付されたRFIDタグから識別情報を読み込むアンテナ装置として利用すれば、RFIDタグの位置に影響されることなく、アンテナ装置2単体で、RFIDタグから識別情報を読み取ることができるようになる。
【0093】
また、本実施形態では、インピーダンス変換器16を、λ/4の長さを有するマイクロストリップライン16a〜16cを、直列接続することにより構成していることから、送受信可能な周波数帯域幅を広げることができ、RFIDタグ側のアンテナの共振点が多少ずれても、識別情報を読み取ることができる。
【0094】
つまり、
図7は、パッチアンテナ単体、インピーダンス変換器2段、インピーダンス変換器3段、というように、アンテナパターン12に接続するインピーダンス変換用のマイクロストリップラインの接続段数を変化させたときの、VSWRの測定結果を表している。そして、この測定結果から、マイクロストリップラインの接続段数が多いほど、通信可能帯域幅を広くできることが判る。
【0095】
なお、これは、マイクロストリップラインの段数を多くすれば、インピーダンス変換器16の共振周波数を少しづつずらすことで、共振点が増えるためである。従って、インピーダンス変換器16を構成するマイクロストリップラインの接続段数は、必要な通信帯域幅に応じて適宜設定すればよいことになる。
【0096】
一方、本実施形態では、アンテナ装置本体を構成する両面基板10を、塩化ビニールにて構成される保護シート50で覆うことから、保護シート50の特性(誘電率)の影響を受けて、アンテナ装置2の周波数特性が変化する。
【0097】
具体的には、保護シート50を塩化ビニールで構成した場合、その厚みにもよるが、
図7に示すVSWRのピーク周波数(VSWRが最も1に近い最良点の周波数)が、約3MHz低周波数側にシフトする。
【0098】
このため、本実施形態のように、アンテナ装置本体を保護シート50で覆う際には、保護シート50による特性変化を考慮して、アンテナ装置(詳しくは導電体パターン)を設定するとよい。
【0099】
また、本実施形態では、信号合成回路18をハイブリッドリングで構成し、2つの出力端Toの内の一方を、終端抵抗44にてグランドパターン28に接地するので、両面基板10には、終端抵抗44を実装する必要がある。
【0100】
しかし、この終端抵抗44は、両面基板10の角部で、同軸ケーブル30の接続部22付近に実装され、しかも、その実装部分は、両面基板10に形成した凹部にて構成されているので、終端抵抗44が両面基板10の基板面から突出して、アンテナ装置2の薄型化の妨げになるのを防止できる。
【0101】
また、終端抵抗44が実装される両面基板10の角部(同軸ケーブル30の接続部22)には、衝撃吸収材52が設けられるので、アンテナ装置2の使用時に、終端抵抗44や同軸ケーブル30の接続部22(特に半田付け部分)が、外部から衝撃を受けて、アンテナ装置2の特性が劣化するのを防止できる。
【0102】
なお、グランドパターン28は、基板の反りを防止するために設けたものであり、必要に応じて、設けても、設けなくてもよい。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様をとることができる。
【0103】
例えば、
図2に示すアンテナパターン12において、スリット14は、アンテナパターンの辺毎に2本(換言すれば、上下方向、左右方向にそれぞれ4本、中心の開口部分を含めれば、上下方向、左右方向にそれぞれ6本)設けられているが、このスリット14の本数は、
図8に例示するように、パッチアンテナの所望の利得を確保し得る範囲内で、更に増加させてもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、アンテナパターン12の給電点Pは、アンテナパターン12の外周の2点であるものとして説明したが、
図9、
図10に示すように、パッチを構成するアンテナパターン12への給電点Pは一点であってもよく、或いは、3点以上であってもよい。
【0105】
なお、
図9に示すアンテナ装置において、アンテナパターン12の形状(パッチ形状)は円形であり、アンテナパターン12の外周部分には、アンテナパターン12の中心を通る軸上の2箇所に、縮退素子12aとなる導電体パターンが設けられている。これは、1点給電で円偏波を送受信できるようにするためである。なお、縮退素子12aは、切り欠きでもよい。
【0106】
また、
図9に示すアンテナパターン12の給電点Pは、上述した実施形態と同様、ハイインピーダンスとなるパッチの外周に設定されているため、両面基板10には、インピーダンス変換器16を構成する導電体パターンが形成されている。
【0107】
そして、インピーダンス変換器16には、アンテナパターン12の周囲に形成されたマイクロストリップライン26が接続されている。これは、一点給電の場合、信号合成回路が不要であるからである。
【0108】
また、マイクロストリップライン26は、上記実施形態のような矩形(コの字状)ではなく、波形の曲線形状になっており、その先端は、同軸ケーブルの接続部22まで延びている。そして、このようにマイクロストリップライン26を曲線形状にしても、上記実施形態と同様に近傍界通信は可能である。
【0109】
また、この曲線を形成する波の間隔を、通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くなるように設定することで、マイクロストリップライン26が形成された基板面全体で近傍界通信を良好に実施できるようになる。
【0110】
また、一点給電の場合は、二点給電の場合に比べて、周波数帯域幅は狭くなるものの、信号合成回路が不要のため、信号合成回路での通過損失がなくなる。このため、アンテナ利得は高くなり、利得を必要とするシステムに向いている。
【0111】
一方、
図10に示すアンテナパターン12は、
図9に示したものと同様、円形になっているが、内部に形成されるスリット14は、アンテナパターン12の外周に平行な略半円の円弧形状になっており、同径のスリット14は、円を形成するように間隔を空けて対向配置されている。また、同径で対となるスリット14の間の導電体パターンは、全てパッチの中心を通る直線状に配置されている。
【0112】
このため、
図10に示すアンテナパターン12は、直線偏波用のパッチアンテナを構成するものとなるが、この場合にも、スリット14の円弧の間隔を上記実施形態と同様に設定することで、スリット14の円弧に沿った導電体パターンにて、近傍界通信を実施できることになる。
【0113】
なお、直線偏波用のアンテナ装置は、円偏波用に比べて、利得が高くなり(約3dB高くなる)、アンテナとの通信可能距離が長くなる。このため、
図10に示したアンテナパターン12を有するアンテナ装置は、RFIDタグの向きが略一定となる場所(例えば、図書館や書店の本棚等)で、RFIDタグから識別情報を読み取るのに適している。
【0114】
また、
図10に示す両面基板10には、アンテナパターン12の周囲に、渦巻き状のマイクストリップライン26が形成されている。そして、この間隔は、上記実施形態のコの字の間隔と同様、通信対象アンテナの開口面の外形の最短幅よりも短くなるように設定されている。
【0115】
また、
図10に示すアンテナパターン12において、給電点Pは、アンテナパターン12の外周からアンテナパターン12の内側に入った位置に設定されている。これは、給電点Pのインピーダンスを所定のインピーダンス(50Ω若しくは75Ω)にするためであり、この構成により、インピーダンス変換器を不要にすることができる。
【0116】
このため、
図10に示すアンテナパターン12には、直接、周囲のマイクロストリップライン26が接続されており、マイクロストリップライン26の他端が、同軸ケーブルの接続部22まで延びている。
【0117】
次に、アンテナパターン12にて構成されるパッチの形状は、上述したような正方形若しくは円形でなくてもよい。
具体的には、パッチを構成するアンテナパターン12の形状は、
図11(a)に示すように長方形であってもよく、
図11(b)に示すように楕円形であってもよく、
図11(c)に示すような方形以外の多角形(図では6角形)であってもよい。
【0118】
但し、何れの形状であっても、遠方界通信用のパッチを構成するアンテナパターン12を利用して、近傍界通信を実施できるようにするには、
図11に示すように、アンテナパターン12にスリット14を形成する必要はある。
【0119】
この場合、スリット14は、必ずしも、
図11に示す形状にする必要はなく、直線状であっても、自由曲線を含む曲線状であっても、或いは、直線と曲線を組み合わせた任意形状であってもよい。
【0120】
また次に、上記説明では、正方形(若しくは円形)のアンテナパターン12からなるパッチを、2点給電方式の円偏波アンテナとして機能させるために、基板上の導電体パターンにて構成されたハイブリッドリングを利用するものとしたが、ハイブリッドリングは、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)等の電子部品を用いて構成してもよい。
【0121】
また、本発明の信号合成回路としては、ハイブリッドリングに代えて、例えば、
図12に示すような90度移相器36と、分配・混合器38とを用いて構成してもよい。この場合、90度移相器36は、両面基板に形成したマイクロストリップラインにて構成することができる。また、分配・混合器39としては、例えば、ウィルキンソン電力分配合成器を利用することができる。
【0122】
また、上記実施形態では、アンテナ装置2は、レジ台で使用されるものとして説明したが、アンテナ装置2は、遠方界通信と近傍界通信との両方を実施可能であることから、こうした通信特性が必要な場所であれば、レジ台に限らず、どこでも利用することができる。