特許第6470164号(P6470164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470164
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】精神疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20190204BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190204BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190204BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20190204BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   A61K31/496
   A61K31/343
   A61K31/4545
   A61K31/495
   A61K31/506
   A61K45/00
   A61P25/00
   A61P25/18
   A61P43/00 111
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-240067(P2015-240067)
(22)【出願日】2015年12月9日
(62)【分割の表示】特願2013-537287(P2013-537287)の分割
【原出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2016-94440(P2016-94440A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2015年12月22日
【審判番号】不服2017-8160(P2017-8160/J1)
【審判請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】61/411,081
(32)【優先日】2010年11月8日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2011-33453(P2011-33453)
(32)【優先日】2011年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 SOCIETY FOR NEUROSCIENCE(SfN)学会ホームページ上において2010年8月19日に掲載されたSfNのAnnual Meeting 2010講演要旨集において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】大日本住友製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 和仁
(72)【発明者】
【氏名】石山 健夫
【合議体】
【審判長】 光本 美奈子
【審判官】 滝口 尚良
【審判官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/017973(WO,A1)
【文献】 特許第2800953(JP,B2)
【文献】 Expert Opinion on Investigational Drugs,2009,Vol.18,No.11,p.1715−1726
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61P1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/MEDPlus/JST7580(JDREAMIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む、双極性障害患者における注意機能改善剤。
【請求項2】
ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストを含む、双極性障害患者における注意機能改善剤。
【請求項3】
注意機能改善が持続的集中力の低下の改善、迅速な反応の低下の改善、および活動低下の改善からなる群から選択される1または2以上の改善である、請求項1または2に記載の改善剤。
【請求項4】
受容体アゴニストがPD−168077、ABT−724、ABT−670、F−15063、A−412997、FAUC−327、Ro−10−5824、CP−226269、PIP−3EA、FAUC−299、FAUC−316、FAUC−179、FAUC−356、FAUC−312、およびA−369508からなる群から選択される1または2以上の薬物またはその薬学上許容される塩である、請求項2または3に記載の改善剤。
【請求項5】
ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む、統合失調症患者における注意機能改善剤。
【請求項6】
ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストを含む、統合失調症患者における注意機能改善剤。
【請求項7】
注意機能改善が持続的集中力の低下の改善、迅速な反応の低下の改善、および活動低下の改善からなる群から選択される1または2以上の改善である、請求項5または6の改善剤。
【請求項8】
受容体アゴニストがPD−168077、ABT−724、ABT−670、F−15063、A−412997、FAUC−327、Ro−10−5824、CP−226269、PIP−3EA、FAUC−299、FAUC−316、FAUC−179、FAUC−356、FAUC−312、およびA−369508からなる群から選択される1または2以上の薬物またはその薬学上許容される塩である、請求項6または7のいずれか1項に記載の改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神疾患の治療方法、より詳しくは、ADHDの新規な治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の化学式で示されるルラシドン[化学名:(3aR,4S,7R,7aS)-2-{(1R,2R)-2-[4-(1,2-benzisothiazol-3-yl)piperazin-1-ylmethyl]cyclohexylmethyl}hexahydro-4,7-methano-2H-isoindole-1,3-dione]は抗精神病薬としての薬理作用を有する化合物であり、ドパミンD、セロトニン5−HT1A、5−HT2A、5−HT、およびノルアドレナリンα2C受容体に対する高い親和性を示す一方、ヒスタミンHおよびムスカリンM受容体に対する親和性が極僅かもしくは全くないことを特徴としている。ルラシドンは抗精神病効果、抗うつおよび抗不安効果を有し、かつ錐体外路系の副作用および中枢神経系抑制の副作用を潜在的に減少させる傾向を伴う薬理特性を有しており、統合失調症および双極性障害の治療への用途が期待されている(特許文献1、非特許文献1)。
【化1】
【0003】
一方、ドパミンD受容体は、ドパミン受容体のサブタイプの1つであり、統合失調症やパーキンソン病の治療薬の標的として知られている。
【0004】
注意欠陥・多動性障害(ADHD:attention deficit/hyperactivity disorder)は、不注意、多動性および衝動性を特徴とする発達障害の1つである。症状としては、集中困難、過活動および不注意が挙げられ、通常は7歳までの子供に確認され、また過活動が顕著でない不注意優勢型であるケースも含まれる。学童期までの発症率は1−6%であり、男子の方が女子よりも高い。加齢に伴い多動性が減少するため、かつては子供の疾患であり、成人では自然に改善すると考えられてきたが、現在は成人でも発症する疾患であると理解されている。
ADHDに対する薬物療法として、覚醒水準を引き上げる目的で中枢性興奮薬が用いられ、米国では主に塩酸メチルフェニデートが使用され、日本ではメチルフェニデートの徐放剤が小児期におけるADHD適用薬として認可されている。またノルアドレナリン再取り込み阻害剤であるアトモキセチン塩酸塩も日本で認可されているが、本剤も小児に限定されている。従って、日本では成人に適用される治療剤は存在せず、また米国においてもメチルフェニデートは成人への適用が認可されてはいるが、同剤は、アンフェタミン、メタンフェタミン、コカインなどの覚せい剤と同じ副作用を有することが指摘されている。
【0005】
セロトニン・ドーパミン拮抗薬(SDA)のひとつであるリスペリドンについて、ADHDに関連する報告がされている(非特許文献2)。しかしながら、ADHDの注意機能改善作用は一切報告されていない。
一方、ドパミンDアゴニストとADHDとの関連性についての報告がある(非特許文献3および4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−17440(US 5532372 A)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Exp Opin Invest Drugs 18(11): 1715-1726 (2009)
【非特許文献2】Neuropsychiatric Disease and Treatment 2008: 4(1) 203-207.
【非特許文献3】Behav Pharmacol. 2008 Dec;19(8):765-76.
【非特許文献4】Neuropharmacology. 2003 Mar;44(4):473-81.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はADHDの新規な治療薬および治療方法を提供することにある。さらに詳しくは、ADHDの注意機能・衝動性に有効な治療薬および治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本願発明のルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩、ならびに、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩とD受容体アゴニストとの組み合わせの各々が、ADHDの霊長類モデルにおいて、ADHDにおける注意機能の向上(改善)および衝動性の抑制という望ましい治療効果を有することを見いだし、これら新しい知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の一つの態様において、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の治療上の有効量を治療が必要な哺乳動物に投与することを含む、ADHDの治療方法に関する。
【0011】
本発明の一つの態様において、本発明は、治療がADHDにおける注意機能改善である前記治療方法、すなわち、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の治療上の有効量を治療が必要な哺乳動物に投与することを含む、ADHDにおける注意機能改善方法に関する。
【0012】
本発明の一つの態様において、本発明は、他の向精神薬を併用することを含む、前記治療方法に関する。ここで併用される他の向精神薬としては、D受容体アゴニストが好ましく、その態様としては、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の治療上の有効量と、D受容体アゴニストの治療上の有効量を治療が必要な哺乳動物に投与することを含む、ADHDの治療方法、特にADHDにおける注意機能改善方法に関するものである。
また、ここで用いられるD受容体アゴニストとしては、PD−168077、ABT−724、ABT−670、F−15063、A−412997、FAUC−327、Ro−10−5824、CP−226269、PIP−3EA、FAUC−299、FAUC−316、FAUC−179、FAUC−356、FAUC−312、およびA−369508からなる群から選択される1または2以上の薬物またはその薬学上許容される塩が好ましく、更に好ましくはPD−168077、ABT−724、ABT−670、F−15063、A−412997、FAUC−327、Ro−10−5824、CP−226269、およびPIP−3EAからなる群から選択される1または2以上の薬物またはその薬学上許容される塩で、更により好ましくはPD−168077、ABT−724、ABT−670、およびF−15063からなる群から選択される1または2以上の薬物またはその薬学上許容される塩である。
【0013】
本発明の別の態様において、本発明は、上記ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の有効量、またはルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の有効量とD受容体アゴニストの有効量を哺乳動物に投与することを含む、統合失調症患者および/または双極性障害患者における注意機能改善方法に関するものである。
【0014】
本発明の別の態様において、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む、ADHDの治療のための薬学製品に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である薬学製品も本発明の態様である。
また、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストを含む、ADHDの治療のための薬学製品に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である薬学製品も本発明の態様である。
【0015】
本発明の別の態様において、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む、ADHDの治療のためのキットに関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善であるキットも本発明の態様である。
また、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストを含む、ADHDの治療のためのキットに関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善であるキットも本発明の態様である。
【0016】
本発明の別の態様において、本発明は、ADHDの治療用医薬組成物を製造するための、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の使用に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である使用も本発明の態様である。
また、本発明は、ADHDの治療用医薬組成物を製造するための、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストの使用に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である使用も本発明の態様である。
また、本発明の別の態様において、本発明は、ADHDの治療に使用するための、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む医薬組成物に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である医薬組成物も本発明の態様である。
また、本発明は、ADHDの治療に使用するための、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストを含む医薬組成物に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である医薬組成物も本発明の態様である。
【0017】
本発明の別の態様において、本発明は、D受容体アゴニストと併用することを特徴とするADHDの治療用医薬組成物を製造するための、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の使用に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である使用も本発明の態様である。
【0018】
本発明の別の態様において、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩のADHDの治療効果を向上させるためのD受容体アゴニストの使用に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である使用も本発明の態様である。
また、本発明の別の態様において、本発明は、D受容体アゴニストのADHDの治療効果を向上させるためのルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の使用に関する。また、ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である使用も本発明の態様である。
【0019】
本発明の別の態様において、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む、ADHDの治療剤に関する。ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である治療剤も本発明の態様である。
また、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と、D受容体アゴニストを含む、ADHDの治療剤に関する。ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である治療剤も本発明の態様である。
また、本発明は、D受容体アゴニストと併用するための、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を含む、ADHDの治療剤に関する。ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である治療剤も本発明の態様である。
また、本発明は、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩と併用するための、D受容体アゴニストを含む、ADHDの治療剤に関する。ここでのADHDの治療がADHDにおける注意機能改善である治療剤も本発明の態様である。
【0020】
本発明におけるADHDの注意機能改善には、注意欠陥および多動性障害などの改善が挙げられ、より具体的には持続的集中力の低下の改善、迅速な反応の低下の改善、活動低下の改善などが挙げられる。
【0021】
本発明の好ましい態様において、本発明で用いられるD受容体アゴニストは、これらに制限されないが、以下の表に挙げられた化合物およびその薬学上許容される酸付加塩を含む。より好ましくは、PD−168077、ABT−724、ABT−670、F−15063、A−412997、FAUC−327、Ro−10−5824、CP−226269、PIP−3EA、およびその薬学上許容される酸付加塩、更により好ましくはPD−168077、ABT−724、ABT−670、F−15063、およびその薬学上許容される酸付加塩である。
本発明で用いられるD受容体アゴニストは、2種類以上のD受容体アゴニストを組み合わせて用いてもよい。
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】
【発明の効果】
【0022】
本発明のルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩は、ADHDの治療に有効であり、特にADHDにおける注意機能改善に効果がある。また、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩をD受容体アゴニストと併用することで、その効果を増強することができる。
さらに、本発明は、ADHDにおける攻撃性の抑制のような行動障害の改善にも効果があり、より具体的には自己および/または他者への攻撃性(aggression against self and/or others)、敵意(hostility)、多動性(hyperactivity)、重度の衝動性(severe impulsiveness)などに対しても改善効果があり得る。
また、本発明は、統合失調症患者および/または双極性障害患者における注意機能改善に対しても効果があり得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は実施例1(ORD試験)におけるマーモセット、バームクーヘンが入ったアクリル箱、檻および試験のパターンを表した模式図である。
図2図2は、ハロペリドール(Haloperidol)を経口投与して、その2時間後にORD試験を行い、投与前に行った同試験との間で成績を比較し、正答率の変化(%)で表示した。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。
図3図3は、クロザピン(Clozapine)を経口投与して、その2時間後にORD試験を行い、投与前に行った同試験との間で成績を比較し、正答率の変化(%)で表示した。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。
図4図4は、リスペリドン(Risperidone)を経口投与して、その2時間後にORD試験を行い、投与前に行った同試験との間で成績を比較し、正答率の変化(%)で表示した。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。
図5図5は、オランザピン(Olanzapine)を経口投与して、その2時間後にORD試験を行い、投与前に行った同試験との間で成績を比較し、正答率の変化(%)で表示した。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。
図6図6は、ルラシドン塩酸塩(Lurasidone HCl)を経口投与して、その2時間後にORD試験を行い、投与前に行った同試験との間で成績を比較し、正答率の変化(%)で表示した。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。なお、図6、7および8において図中に“Lurasidone (mg/kg, p.o.)”と記載したのは、ルラシドン塩酸塩の用量を表す。
図7図7は、L−745,870の単独投与、あるいはルラシドン塩酸塩(10mg/kg経口投与)との併用投与による正答率の変化(%)を示す。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。
図8図8は、Ro 10−5824の単独投与、あるいはルラシドン塩酸塩(3mg/kg経口投与)との併用投与による正答率の変化(%)を示す。なお、図中にあるドットはマーモセットの各個体の正答率の変化を表し、棒グラフは各処置群の平均値を示した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明におけるルラシドンは、遊離塩基体で用いられてもよく、あるいは適宜その薬学上許容される酸付加塩および/または水和物および/または溶媒和物で用いられ得る。適当な酸付加塩には、例えば、コハク酸、臭化水素酸、酢酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、乳酸、リン酸、塩酸、硫酸、酒石酸およびクエン酸から選択される酸の塩が挙げられる。また、これらの酸付加塩の混合物を用いてもよい。上記の酸付加塩の中で、塩酸塩、臭化水素酸塩が好ましく、特に塩酸塩が好ましい。
【0025】
本発明はルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩およびD受容体アゴニストのプロドラッグの範囲も含まれる。一般的にかかるプロドラッグは、必要な化合物に生体内で容易に変換され得る本発明の化合物の機能性誘導体である。
本発明の具体的なプロドラッグは、これらに制限されないが、以下のタイプが挙げられる。
親化合物のヒドロキシルまたはアミノ基のリン酸エステルプロドラッグ。
親化合物のカルボキシル、ヒドロキシルまたはアミノ基のカルボネートまたはカルバメートプロドラッグ。
親化合物のカルボン酸またはアミノ基のアミドプロドラッグ。
親化合物のカルボン酸またはアミノ基のアミノ酸結合プロドラッグ。
親化合物のケトン、アミジンまたはグアニジンのオキシムプロドラッグ。
本発明のプロドラッグは、例えば、Nature Reviews Drug Discovery 7; 255 - 270 (2008); or Journal of Medicinal Chemistry 2005, 48 (16), 5305-5320に記載の方法で製造することができる。
【0026】
本発明で用いる「治療上の有効量」とは、組織、系、動物またはヒトにおいて、研究者または医師によって要求される生物学的または医薬的応答を誘発する薬物または医薬の量を意味する。
本発明で用いる「治療」および「処置」とは、疾患のあらゆる治療(例えば、症状の改善、症状の軽減、症状の進行の抑制など)、並びに疾患のあらゆる予防(例えば、疾患の発症および/または進行の阻止)が含まれる。
【0027】
本発明で用いる「医薬製品」とは、特定の量で特定の成分を含む製品、並びに特定の量で特定の成分の組み合わせから直接的または間接的に生じるあらゆる製品を包含することを意図している。
【0028】
本発明で用いる「ADHD」とは、注意欠陥・多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder)を意図しており、具体的には不注意、多動性および衝動性を特徴とする発達障害の1つである。症状としては、集中困難、過活動および不注意が挙げられる。
また、ADHDの改善には攻撃性の抑制が含まれ、攻撃性に関する行動障害には、具体的には、自己および/または他者への攻撃性(aggression against self and/or others)、敵意(hostility)、多動性(hyperactivity)、重度の衝動性(severe impulsiveness)などがある。
本発明のADHDの注意機能改善として挙げられる、持続的集中力の低下の改善、迅速な反応の低下の改善、および活動低下の改善は、視覚的および知覚的探索および/または系統的および持続的傾聴を該改善の指標として評価できる。
【0029】
本発明のルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩とD受容体アゴニストとの組み合わせにおいて、両剤は別々に投与してもよく、また1つの医薬組成物として一緒に投与してもよい。また、本発明の組み合わせの一方の成分を他方の成分に対して先に、同時に、または後に投与してもよい。これらの成分は、単一剤形または分離した剤形のいずれの医薬製剤に調製してもよい。
【0030】
本発明のルラシドンおよびD受容体アゴニストは、医薬的に許容される酸を作用させることによって容易に塩を形成し得る。該酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。ルラシドンの塩として、好ましくは塩酸塩が挙げられる。
【0031】
本発明の活性成分(ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩、または、ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩とD受容体アゴニストの組み合わせ)は、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、または皮下注射またはインプラント)、バッカル、経鼻、膣、直腸、舌下または局所(例えば、点眼)的な経路で投与してもよく、各投与経路に適し、かつ通常の無毒性の医薬的に許容される担体、補助剤、ビヒクルを含む、適当な投与単位となる製剤中に、単独であるいは両剤一緒に製剤化されていてもよい。
【0032】
本発明の医薬製品として、本発明の活性化合物であるルラシドンおよびその薬学上許容される酸付加塩は、活性成分の個々の必要性に適応した投与量で、通常用いられる剤形、例えば錠剤、カプセル錠、シロップ剤、懸濁液等の剤形で経口投与することができ、あるいはまたその溶液、乳剤、懸濁液等の注射剤の剤形あるいはパッチ剤で非経口的に投与することができる。
また、前記の投与剤形は、通常許容される担体、賦形剤、結合剤、安定化剤などの添加剤に活性化合物を配合することにより製造することができる。また注射剤形で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤、pH調整剤等を添加することもできる。
【0033】
本発明の活性成分の用量は、特に制限されないが、各活性成分の治療薬としての投与量、投与回数、投与形態あるいは治療を要する患者の病状の程度によって異なる。例えば、本発明のルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩を成人1日当り1−200mgの用量で、1回または数回に分けて経口投与することができる。好ましくは、成人1日当り20−160mgである。D受容体アゴニストについては、成人1日当り1−600mgの用量で、1回または数回に分けて経口投与することができる。
これらの活性成分が単一の投与形態(製剤)として調製される場合、通常ルラシドンまたはその薬学上許容される酸付加塩の1重量部あたりD受容体アゴニストが0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜3重量部で含まれる。また、合剤の製剤においては、これに限定されないが、例えばその活性成分の和がその製剤の組成物に対して0.1〜70重量%含まれていてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
(方法)
ORD(オブジェクト・リトリーバル・ディテュア試験:object retrieval with detour test)は、霊長類の実行機能(注意機能・衝動性)を評価する方法として報告されている。本発明者らは、同方法がADHD評価モデル実験法として有用であることを見出し、以下の通り実験を行った。
体重250〜450gである雌雄のコモン・マーモセット(common marmoset)を使用した。ハロペリドール、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、さらにルラシドン塩酸塩をそれぞれ0.5% メチルセルロース(MC)にて懸濁し、マーモセットに対し投与液量5mL/kgの懸濁液として経口投与に供した。また、DアンタゴニストであるL−745,870、DアゴニストであるRo 10−5824は、それぞれ生理食塩水に溶解させ、投与液量0.5mL/kgの溶液として大腿部に筋肉内投与を行った。
【0036】
文献(Psychopharmacology (2008) 196:643-648)記載の手法を一部改変し、以下の要領でORD試験を行った。(図1参照)。
(ORD試験トレーニング)
図1の太枠にて模式的に示すように、1面のみ開口した透明アクリル製の立方体の箱(図1の太枠部)(寸法4cm×4cm×4cm)を設置し、0.3〜0.5gのバームクーヘン(図1の三角形)を報酬として、該アクリル箱内で、かつ図1で示された三角形の位置に、それぞれ置く。マーモセットは、檻(点線部分)から手を伸ばし、該アクリル箱に入った報酬の獲得行動を起こすことができる。図1は、真上から見た図であり、図示された箱の向きと報酬の位置の組み合わせのうち、5つのパターン(視線 line of sight、左外側 left outside、左内側 left inside、右外側 right outside、右内側 right inside)を易(easy task)と定義、残り2つのパターン(左深部 left deep、右深部 right deep)を難(difficult task)と定義する。被検動物が手を伸ばし、1回の試みで報酬を取得できた場合を正解(正答)、2回目以降での取得を不正解とする。
【0037】
各施行の間で時間的間隔をあけることなく下表に示された順序でORD試験を行い、これを1セットとしてマーモセットに1日1回の訓練をする。
【表2】
【0038】
上記ORD試験を訓練として最低10回行ったマーモセットを訓練終了として、以下の本試験に用いた。
ORD本試験は以下の要領で行った。
【0039】
(1)各被験薬剤投与前にORD試験を行う(前値)。以下、ORD試験とは、上記で行われた訓練と同じ17回の施行を1セットとして試験することである。
(2)各被験薬剤投与の2時間後に再び同じORD試験を行う(後値)。なお併用投与の場合は、第一の薬剤(ルラシドン塩酸塩)を投与して、その1時間後に第二の薬剤(DアンタゴニストまたはDアゴニスト)を投与し、さらにその1時間後にORD試験を行う。
(3)下記の式より難(difficult task)の正答率の変化(%)を求め、各薬剤の効果を評価する。例えば、投与前の正答数(前値)が3回であり、薬剤投与によって正答数(後値)が5回となれば、各試験での難(difficult task)の施行回数は8回であることから、(5-3)÷8×100=25%の正答率の上昇となる。
正答率の変化(%)=
{難(difficult task)の正答数の差(後値−前値)}÷8×100
(4)バームクーヘンの量は1セットあたり0.5g×17=8.5g、かつマーモセットは1日に最大で2セット試験されるので、すなわち1日に最大17gのバームクーヘンを摂取することになるが、全てのマーモセット個体で17gのバームクーヘンでは食欲が満たされないことを確認している。
(5)薬剤を投与されたマーモセットを再度用いる場合、休薬期間を2週間設け、さらに次のORD本試験前に予備のORD試験を行い、前回の投薬による影響がないことを確認している。
(6)1群あたり、5ないし6頭のマーモセットを使用した。薬剤の影響によって、嘔吐あるいはカタレプシー様症状で無動となり、ORD試験の実施が不可能であったマーモセットの個体はデータから除いた。また1つの薬剤評価試験において、実験日が2日間に及んだ場合、各実験日にて溶媒投与(対照群)を行うことから、対照群に6頭×2回分=最大12頭のデータを含む場合がある。
【0040】
(結果1)
図2から5までに示すように、ハロペリドール、クロザピン、リスペリドンおよびオランザピンは、それぞれ単独投与によって、ORD試験の正答率を用量依存的に減少させた。一方、図6に示すように、ルラシドン塩酸塩はORD試験の正答率の用量依存的な上昇を示した。すなわち、ルラシドン塩酸塩は単独で、ADHDにおける注意機能を改善し、かつ衝動性を抑制し得ることが示された。
【0041】
(結果2)
図7に示す通り、DアンタゴニストであるL−745,870に関しては、10mg/kg筋注、単独投与ではORDの試験成績に影響を与えなかったのに対して、ルラシドン塩酸塩の単独投与によって正答率は上昇したが(前記)、L−745,870(3mg/kg筋注)をルラシドン塩酸塩(10mg/kg経口投与)と併用投与することで正答率減少(成績の降下)を引き起こした。これらのことから、ルラシドン以外のSDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)が強いD/D受容体拮抗作用を有するのに対して、ルラシドンのD拮抗作用が弱いことに起因して、ルラシドンのみがORD試験の成績降下を引き起こさなかったものと考えられる。
【0042】
(結果3)
図8に示す通り、DアゴニストであるRo 10−5824の単独投与によって用量依存的にORDの試験成績は上昇した。また正答率に影響を与えない3mg/kgのルラシドン塩酸塩の経口投与に、同じく正答率に影響を与えない0.3mg/kgのRo 10−5824を筋注にて併用投与することによって、ORDの試験成績の有意な上昇が認められた。これらのことから、ADHDの治療において、ルラシドンをDアゴニストとの併用剤として適用することで治療効果を増強できることが示された。またSDAとしての作用にDアゴニスト作用を併せ持つ化合物がADHDの適用薬となる可能性を示唆している。ADHDの症状である注意機能障害のうち、とりわけ持続的集中力、迅速な反応、視覚的および知覚的探索に関して改善効果が期待できる。
【0043】
実施例2
Neuropharmacology. 2006 Aug;51(2):238-50. Epub 2006 May 6.またはBrain Res Cogn Brain Res. 2004 Apr;19(2):123-3.に記載された方法に準じて5肢選択反応時間課題試験(five-choice serial reaction time task test;5−CSRT試験)を行うことにより、本願発明の化合物、もしくは本願発明の併用薬について、ADHDの症状である注意機能障害のうち、とりわけ持続的集中力、迅速な反応、視覚的および知覚的探索に関して改善効果を確認できる。
(使用動物)
体重250〜450gである雌雄のコモン・マーモセットを使用する。
(認知障害誘発方法)
マーモセットに、1.0〜3.0mg/kgのケタミン塩酸塩を筋肉内注射することによって一過性の認知機能の低下を引き起こし、投与15分後に5−CSRT試験を開始する。
(使用薬剤・調製方法および投与方法)
ルラシドン塩酸塩を0.5%メチルセルロース(MC)にて懸濁し、該懸濁液0.1〜30mg/kgをマーモセットに対して経口投与に供する。また、DアンタゴニストL−745,870、およびDアゴニストRo 10−5824は、生理食塩水に溶解させ、それぞれ、0.1〜10mg/kg、および0.1〜3mg/kgの用量を大腿部に筋肉内投与を行う。これら薬剤は、ケタミン投与の1〜2時間前に投与する。
(5−CSRT試験)
上記文献(Neuropharmacology. 2006 Aug;51(2):238-50. Epub 2006 May 6.)の記載の手法を一部改変し、以下の要領で5−CSRT試験を行う。
パーソナルコンピューターで制御されたモニター画面上で課題を負荷し、正答であれば報酬を与えるシステム、CANTAB(カンタブ;Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery)を用いる。0.1〜0.3gのバームクーヘンを報酬として、課題に正答した場合にCANTAB装置から個体(マーモセット)に与えられるようにする。マーモセットは、檻から手を伸ばし、CATNTAB装置に提示される課題に答え、報酬の獲得行動を起こす。
5−CSRT試験の課題は、1辺が10cmの正五角形の各頂点に、直径が3cmの白線の円形が提示され、その5つの円のうちの1つのみ、白線の内側が黄色に点灯し、0.2〜1.0秒まで点灯、その後黄色のシグナルは消滅する。マーモセットは点灯していた円にタッチすることで、黄色の点灯中もしくは消灯から15秒以内に円にタッチできれば正答として報酬が与えられる。5秒の間隔をおいて次の課題が提示され、合計で最大30課題、最長10分間の試験を行い、正答数、誤答数、見逃し数(omission)および課題に対する反応時間を記録し、薬剤の影響を評価する。
【0044】
実施例3
ADHDの注意機能障害を評価しうる適切なデザインの臨床試験として、Continuous Performance Test(連続遂行課題;CPT)(参考URL1)、Test of Variables of Attention(注意変数検査;T.O.V.A)があり(参考URL2)、あるいはNIH(National institute of health;国立衛生研究所)のNIDCD(National institute on deafness and other communication disorders)プログラムが実施したNIH Test of Attention(NIH注意テスト;参考URL2)、およびCPTを改良したnew CPT(参考URL3)に準ずる臨床試験により、本願発明の化合物、もしくは本願発明の併用薬について、ADHDの注意機能障害に関して改善効果を確認できる。
参考URL1
ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00546910
http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00546910
参考URL2
ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00776737 http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00776737
参考URL3
ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00646464
http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00646464
【0045】
実施例4
ADHDの注意機能障害を評価しうる適切なデザインの臨床試験として、以下の参考文献1または参考文献2に記載された方法に準ずる臨床試験により、本願発明の化合物、もしくは本願発明の併用薬について、ADHDの注意機能障害に関して改善効果を確認できる。
参考文献1:臨床精神薬理、12巻9号 Page1957-1964(2009.09)
参考文献2:臨床精神薬理、12巻9号 Page1965-1977(2009.09)
より具体的には、例えば、6歳以上18歳未満のDSM−IV(精神疾患の診断・統計マニュアル第IV版;Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th. Edition)によるADHD診断基準を満たす患者において、一定の投与期間(これに限定されないが、例えば8週間が挙げられる)本願発明の化合物、もしくは本願発明の併用薬を投与し、投与期間前後のADHD RS−IV(ADHD評価尺度 IV;ADHD Rating Scale−IV,日本語版(医師用))の総スコアを比較することにより、ADHDの症状である注意機能障害に関して改善効果を確認できる(参考文献1、Page 1958-1960)。
上記試験において、対象患者、投与期間、薬剤の投与量、評価方法等の条件は適宜変更可能である。例えば、ADHD RS−IV総スコアに加えて、ADHD RS−IVの不注意サブスケール(Inattention Subscale)の9項目からなるスコアによる評価、多動性−衝動性サブスケール(Hyperactivity-Impulsivity Subscale)の9項目からなるスコアによる評価、および/またはADHD概括重症度(CGI-ADHD-S)による評価を加えることもできる。また、参考文献1もしくは参考文献2に記載された他の試験方法、およびこれら文献に引用された文献に記載の試験方法、さらに、それら試験方法を適宜条件変更した試験方法も用いることができる。
【0046】
実施例5
若年の脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いるY字迷路試験(Y-maze test)によって、自発的交替行動を注意力または集中力の指標として用い、注意機能に対するルラシドン塩酸塩の効果を評価することが可能である(Behav Brain Funct. 2005 Jul 15;1:9)。さらには、ADHDの中核症状の1つである多動性に対するルラシドン塩酸塩の効果を、Y字迷路試験におけるアーム進入(Arm Entries)の総数によって確認することができる。
【0047】
(SHRSPラットを用いるY字迷路試験)
方法:
不注意行動を評価するために、ADHDモデルとして雄性若年SHRSPラットを、さらに対照としてWKYラットを用いる(生後4週間、n=8〜10/群)。これらの動物は、日本チャールスリバー株式会社または(株)星野試験動物飼育所から市販されている。ルラシドン塩酸塩(例えば、0.01、0.03、0.1、0.3、1、3および10mg/kg;大日本住友製薬株式会社により製造)は0.5%メチルセルロースおよび0.2% Tween80に溶解され、評価の30分前に1ml/kgの液量で腹腔内投与される。
Y字迷路試験の方法は他でも既に報告されていたものである[Behav Pharmacol. 2002 Feb;13(1):1-13]。「アーム進入」は4つの足全てが1つのアーム(走行路)に進入したことを意味する。「交替行動」(つまり、試験での実際の交替行動)は異なる3つのアームへ連続的にアーム進入することを意味する。試験は1セッションあたり8分間行われ、ラットがアーム進入する総数(総アーム進入数)をカウントする。「最大交替行動数(Maximum Alternations)」は、総アーム進入数から2を引いたものを意味する。注意力の指標は交替行動率(%)として、以下の通り算出される。
交替行動率(%)=(交替行動の総数)/(最大交替行動数)×100
【0048】
結果:
WKYラットに比べてSHRSPラットでは、総アーム進入数の増加および交替行動率の低下が観察され、これらは各々、SHRSPにおける多動性および不注意行動を示すものである。SHRSPに0.1、0.3および1.0mg/kgのルラシドン塩酸塩を投与するとSHRSPラットの交替行動が改善し、特に、0.3(p=0.0124)mg/kgで統計的有意に改善した。さらに、0.1、0.3および1.0mg/kgの用量でルラシドン塩酸塩が投与されたSHRSPにおいて総アーム進入数の減少が見られ、特に、0.3(p=0.0096)および1(p=0.0047)mg/kgで統計的有意な減少が見られ、これはSHRSPにおける多動性が軽減されたことを示唆する。従って、ルラシドン塩酸塩は、SHRSPにおける不注意行動および多動性を改善したと結論付けられる。
【表3】

【表4】
【0049】
実施例6
SHRSPを用いる高架式十字迷路法(elevated-plus maze)によって、ADHDの主な症状の1つである衝動性に対するルラシドン塩酸塩の効果を評価することが可能である(Behav Brain Funct. 2005 Jul 15;1:9)。特に、衝動性に対するルラシドン塩酸塩の効果を、高架式十字迷路における壁の無いアーム(走行路)(open arm)滞在時間および/または壁の無いアームに進入する回数を測定することによって確認することが可能である。WKYラットを正常動物(対照)として利用可能である。
【0050】
(SHRSPラットを用いる高架式十字迷路法)
方法:
前述の方法に従い、高架式十字迷路における壁の無いアーム(走行路)(open arm)滞在時間は、衝動性の様な行動の指標として用いることができる(Behav Pharmacol. 2002 Feb;13(1):1-13)。衝動性の評価のために、ADHDモデルとして雄性若年SHRSPラットを、さらに対照としてWKYラットを用いる(生後5週間、n=8〜10/群)。これらの動物は、日本チャールスリバー株式会社または(株)星野試験動物飼育所から市販されている。ルラシドン塩酸塩(例えば、0.01、0.03、0.1、0.3、1、3および10mg/kg;大日本住友製薬株式会社により製造)は0.5%メチルセルロースおよび0.2% Tween80に溶解され、評価の30分前に1ml/kgの液量で腹腔内投与される。壁の無いアーム(open arm)および壁のあるアーム(close arm)(50cm×10cm)をそれぞれ2つずつ有する十字迷路を床から50cm上に設置する。ルラシドン塩酸塩の投与後、SHRSPまたはWKYラットは中心部分に置かれ、10分間、それぞれのアームに自由に進入できるようにさせる。解析はビデオトラッキングソフトウェアのEthoVision@XT(Noldus Information Technology)を用いて行い、ここで「アーム進入」は体心が進入することを意味する。
【0051】
壁のあるアーム滞在時間に関しては、SHRSPおよびWKYの間で有意な違いが無いものの、壁の無いアームに関しては、SHRSPの方がより長い時間を滞在する。このことは、SHRSPにおける衝動性行動および/または不安低減を示唆する。化合物投与されたSHRSPにおける、高架式十字迷の壁の無いアーム滞在時間の減少は、該化合物によって衝動性が改善されることを示唆する。このようにして、衝動性に対するルラシドン塩酸塩の改善効果を評価することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8