特許第6470169号(P6470169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470169
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】多糖ナノ粒子の調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/61 20170101AFI20190204BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20190204BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20190204BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   A61K47/61
   A61K9/14
   A61K47/54
   A61K31/704
   A61K31/473
   A61K31/7068
   A61K9/19
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-500386(P2015-500386)
(86)(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公表番号】特表2015-514059(P2015-514059A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】PL2013000030
(87)【国際公開番号】WO2013137755
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】PL398450
(32)【優先日】2012年3月14日
(33)【優先権主張国】PL
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514209098
【氏名又は名称】ナノベロス エスピー.ゼットオー.オー.
【氏名又は名称原語表記】NANOVELOS SP.ZO.O.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】シアク、トマス
(72)【発明者】
【氏名】ワシアク、イガ
【審査官】 鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−283101(JP,A)
【文献】 特表昭63−503138(JP,A)
【文献】 特開平01−190636(JP,A)
【文献】 特開昭63−264427(JP,A)
【文献】 特表2008−542295(JP,A)
【文献】 特開昭62−221637(JP,A)
【文献】 特表2005−535604(JP,A)
【文献】 特表2003−505473(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/080557(WO,A1)
【文献】 特表2002−530321(JP,A)
【文献】 特開昭61−222531(JP,A)
【文献】 特表2009−508938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/61
A61K 9/14
A61K 9/19
A61K 31/473
A61K 31/704
A61K 31/7068
A61K 47/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖又はその誘導体からナノ粒子を調製する方法であって、該多糖又はその誘導体を、糖環の0.1%〜80%の酸化度が得られるまで酸化して、アルデヒド基を有する酸化された多糖またはその誘導体を得、次いで、4〜20個の炭素原子を含有する脂肪族又は芳香族有機アミン、4〜20個の炭素原子を含有する脂肪族または芳香族有機酸のアミド及びヒドラジド、疎水性アミノ酸、ホスファチジルエタノールアミン、を含む群から選択される、疎水性を示す少なくとも1つのナノ粒子形成剤と、少なくとも1つのアミノ、アミド、又はヒドラジド基を含有する少なくとも1つの活性物質とを、水又は水と有機溶媒との混合物中の該酸化された多糖又はその誘導体の溶液に添加し該溶液を、1〜9のpH、10〜100℃の温度で反応させ、酸化された多糖又はその誘導体と該活性物質とを共有結合させることを特徴とし、ここで、アミノ基対アルデヒド基の総モル比が20〜0.5である、方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子形成剤が前記活性物質と同時に添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子形成剤が前記活性物質を添加した後に添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子形成剤が、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、エチルフェニルアミン、スフィンゴシン、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸ヒドラジド、パルミチン酸ヒドラジド、オレイン酸ヒドラジド、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、セファリン:を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記活性物質として、アミノ、アミド、もしくはヒドラジド基を含む薬物、又はカルボキシ基がアミドもしくはヒドラジドに修飾されている誘導薬物、遺伝子治療に好適なRNAもしくはDNA断片、又はこれらの誘導体、プレーン色素及び蛍光色素が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記活性物質が、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アミノアクリジン及びその誘導体、シスプラチン及びその誘導体、メトトレキセート、シタラビン、ゲムシタビン、ダプソン、アシクロビル、アジドチミジン、5−フルオロウラシル、メルカプトプリン、イマチニブ、スニチニブ、ブレオマイシン、アクチノマイシン、マイトマイシン、ダクチノマイシン、メルファラン、テモゾロミド、セレコキシブ、ネララビン、クラドリビン、イソニアジド、9−アミノアクリジン及び他のアクリジン色素、DAPI、ローダミン及びその誘導体、ニュートラルレッド、トリパンブルー:を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子形成剤と前記活性物質の両方が、反応液中に、易溶性塩の形態で添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
塩酸塩、硝酸塩、又は硫酸塩が、塩として使用されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
デキストラン、デンプン及びその誘導体、アミロース及びその誘導体、セルロース誘導体、グリコーゲン、ヒアルロン酸、ヘパリン、アルギン酸、カラギーンが、多糖又はその誘導体として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
水/DMSO、水/アセトニトリル、水/エーテル溶媒混合物中で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化が、過ヨウ素酸イオンを含む酸化剤、酸化数4の鉛の塩、酸化数2の銅の化合物、又は好適な触媒の存在下で酸化された水の存在下で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記反応が終了した後、形成された結合の還元が実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記還元が、NaBH又はNaBHCNにより、水溶液中で実施されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
得られたナノ粒子が、酸化された多糖又はその誘導体のアルデヒド基とペプチドアミノ基との反応によって、抗体、ペプチド、又はタンパク質で修飾されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記得られたナノ粒子の溶液が凍結乾燥されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
凍結乾燥が凍結防止物質を添加して実施されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記凍結防止物質が未修飾多糖であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖鎖の特異的酸化と、薬剤を含む、疎水性化合物の付加とによる、多糖及びその誘導体からのナノ粒子の調製方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
多糖群に由来する化合物と、治療活性を示し、かつアミノ基を含む化学物質との共役体が知られている。例えば、特許文献1は、デンプンのヒドロキシエチル化誘導体と、様々な薬剤との共役体を開示している。特許文献2は、抗生物質がペプチド結合を介して多糖の還元末端に付加されている抗生物質/デンプン共役体を開示している。付加は、アルカリ水溶液中での、その還元末端におけるIによるデンプン誘導体の酸化と、それに続く、有機溶液中での酸化誘導体と抗生物質との共役により得られる。更に、特許文献3から、活性成分として、カルボキシ基がアミノ酸又は2〜8個のアミノ酸から構成されるペプチドを介して抗癌活性を有する活性物質に結合している多糖を含む医薬組成物は、転移を阻害し、悪性癌の再発を予防することで知られている。特許文献4は、修飾多糖の末端アルデヒド基と該アルデヒド基と反応できるタンパク質の官能基との共役反応から生じる共有結合を含む修飾多糖とタンパク質との結合相互作用を伴う、タンパク質と、デンプンから誘導される修飾多糖との共役に関する。本発明は、共役により調製される共役化合物を含む医薬製剤、及びヒト又は動物の予防的又は治療的処置のための該化合物の使用も提供する。
【0003】
特許文献5から、酸化ヒアルロン酸誘導体の調製方法及びそのような誘導体の修飾方法が知られている。その出願の方法に従って、ヒアルロン酸を特異的酸化剤TEMPOで酸化すると、アルデヒド基を有する酸誘導体が得られる。その後、この誘導体は、アミン、ジアミン、アミノ酸、ペプチド、及び他のアミノ含有化合物との結合に使用される。そのような結合は、水又は水と有機溶媒との混合物中での、NaBHCNによる還元アミノ化により実施される。
【0004】
上記の発明は、多糖と様々な種類の治療物質との共役体(抱合体)を提供するが、これらの解決法はいずれも、多糖ナノ粒子を得ることを目的としていた。一方、ナノ粒子は、いくつかの新規の望ましい特性のために、薬剤の潜在的担体として、現在精力的に研究されている[非特許文献1]。好適な表面特性を有する、約50nm〜約200nmの直径のナノ粒子は、長時間、血液中を循環し、腎臓、肝臓、又は脾臓濾過による除去を回避することができる(長期循環粒子、ステルス粒子)。そのようなナノ粒子の表面は、免疫系の応答も、小さい血漿タンパク質とオプソニンの凝集も誘導しないはずである。その場合、ポリエチレングリコール、多糖、ポリビニルアルコールなどの高親水性ポリマーによって作り出されるような、ハイドロゲル特性の表面が特に望ましい。多糖は、多くの場合、天然起源であり、生体分解性であり、かつ体内で生じる物質と類似しているため、特に望ましい。そのような長期循環ナノ粒子は、腫瘍又は炎症の部位に蓄積する傾向がある(受動的ターゲティング)[非特許文献2]。その作用は、循環系を覆う内皮細胞の細胞膜が適切なタンパク質でしっかりと密閉されており、かつそれらの間の隙間が数ナノメートル幅であるという事実によるものである。腫瘍又は炎症部位では、これらの隙間がはるかにより広く、数百ナノメートルに達する。このため、ナノ粒子が隙間に蓄積し、循環から腫瘍を含む周囲の罹患組織に「漏れ出る」。罹患部位でのナノ粒子のそのような受動的蓄積は、これらの部位における薬物濃度を増大させ、治療の効力を増強させ、副作用を低下させる。このナノ粒子の更なる特徴は、腫瘍細胞を含む特定の細胞型に対する活性のある親和性を示すように、それを、好適なタンパク質、代謝産物、又は抗体で表面修飾することができることである。これにより、薬剤を、主に罹患細胞に送達することが可能となる。腫瘍細胞がグルコース需要の顕著な増大を示し(ワールブルグ効果)、これが今度は、腫瘍細胞に対する多糖ナノ粒子の親和性増大の獲得を可能にするという事実のため、ナノ粒子の表面を多糖から調製することが望ましい。薬物を含むそのような多糖ナノ粒子であれば、癌細胞により効率的に浸透して、それらを死滅させるであろうし、また、蛍光マーカーで標識した場合、これらの粒子は、効率的な診断ツールとなる。ナノ粒子の別の重要な用途は、遺伝子治療である。RNA又はDNA断片を含有するナノ粒子は、細胞に浸透し、細胞内で起こる遺伝子読取りプロセスに影響を及ぼすことができる。遺伝病を治癒する期待が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願WO2012/004007号
【特許文献2】国際出願WO03/000738号
【特許文献3】国際出願WO03/15826号
【特許文献4】国際出願WO03/074087号
【特許文献5】国際出願WO2011/069475号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biodegradable nanoparticles are excellent vehicle for site directed in−vivo delivery of drugs and vaccines,Mahaparto A.,Singh K.,Journal of Nanobiotechnology,9,2011
【非特許文献2】Therapeutic Nanoparticles for Drug Delivery in Cancer, Kwangjae Cho,Xu Wang,Shuming Nie,Zhuo Chen,Dong M.Shin,Clin.Cancer Res.,2008 14;1310
【非特許文献3】Lemarchand C,R.Gref,P.Couvreur,Polysaccharide−decorated nanoparticles,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 58,2004
【非特許文献4】Nanoparticles of hydrophobically modified dextranes as potential drug carier system,Aumelas A.,Serrero A.,Durand,E.,Dellacherie E.,Leonard M.,Colloids and Surfaces B,59,2007
【非特許文献5】Zhao,Huiru,Heindel,Ned D.,Determination of Degree of Substitution of Formyl groups in Polyaldehyde Dextran by the Hydroxylamine Hydrochloride Method, PHarmaceutical Research,8.3(1991):400−402
【非特許文献6】Jeanes,Allene and Wilham,C.A.Periodate Oxidation of Dextran,Journal of American Chemical Society 72.6,(1950):2655−2657
【非特許文献7】Weber,J.H.et al,Complexes derived from strong field ligands...,Inorganic Chemistry,1965,4,469−471
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノ粒子の調製方法は多数あるが、残念なことに、それらの大半は非常に複雑であり、かつ激しい条件(超音波、高温)、侵襲的な化学的化合物、有毒な有機溶媒、又は表面活性化合物の適用を必要とする[非特許文献1]。治療的使用のためのナノ粒子は、無毒で、かつ最も好ましくは、生体分解性であるべきである。多糖は、その生体適合性及び生体分解性のために、そのようなナノ粒子の調製のための非常に優れた材料になる[非特許文献3]。しかしながら、疎水性基を付加することにより、多糖からナノ粒子を調製する既知の方法は複雑であり、表面活性材料又は侵襲性化学物質の使用を必要とする[非特許文献4]。そのように調製されたナノ粒子は、化合物の毒性の結果として、長時間にわたって更に精製されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、侵襲的環境に感受性のある治療化合物の共有結合を可能にする穏やかな条件での多糖ナノ粒子の調製方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験1の結果を示すナノ粒子の直径の分布である。
図2】実験2の結果を示すナノ粒子の直径の分布である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アルデヒド基を生成させ、本発明のアルデヒド基と反応するアミノ基又はR−NH結合を有するその他の基を有する化合物を付加するその特異的部分酸化により、多糖及びその誘導体からナノ粒子を調製する方法は、この多糖又はその誘導体を、糖環の0.1%〜80%の酸化度が得られるまで、既知の方法により酸化して、アルデヒド基を生じさせ、次いで、アルデヒド基の結合後、疎水性を示すR−NH結合を有する有機化学的化合物である少なくとも1つのナノ粒子形成剤と、少なくとも1つのR−NH又はN−H結合を含む少なくとも1つの活性物質とを、水又は水と有機溶媒との混合物中の酸化された多糖の溶液に添加し、反応を、この溶液の1〜9のpHで、10〜100℃、最も好ましくは20〜60℃の温度で実施することを特徴とし、ここで、アミン基対アルデヒド基の総モル比は、20〜0.5である。ナノ粒子形成剤は、4〜20個の炭素原子を含む脂肪族又は芳香族有機アミン、4〜20個の炭素原子を含む脂肪族及び芳香族有機酸のアミド及びヒドラジド、疎水性アミノ酸、ホスファチジルエタノールアミン:を含む群から選択される。活性物質は、アミノ、アミド、又はヒドラジド基を含有する。
【0011】
ナノ粒子形成剤は、活性物質と同時に又は活性物質を添加した後に添加することができる。反応がナノ粒子の折り畳み後にゆっくりと起こり、活性物質の不十分な添加と、生成物の精製におけるその損失とをもたらす可能性があるので、活性物質を最初に添加することが好ましい。場合によっては、活性物質は、折り畳み剤によって生成された疎水性領域に沈殿したナノ結晶形態のナノ粒子中に蓄積され得、次いで共有結合ではなく物理的に結合され、より多く添加されることがある。これは、活性物質が、中性pH付近で水難溶性であり、7未満のpHでよく溶ける場合である。
【0012】
形成剤と活性物質は両方とも、水易溶性の塩、例えば、塩酸塩の形態で導入されることが好ましい。アミンがより易溶性の塩(例えば、塩酸塩)として導入される場合、pHは、反応の過程で低下し、その後、溶液は、水性塩基溶液でゆっくりと中和される。最適pHは、利用されるアミンのアルカリ度によって決まる。通常、水素イオン濃度の上昇により、アルデヒド基が活性化されるだけでなく、遊離の非プロトン化アミンの濃度も降下する;一次反応の最適pHは、4〜6の間にあり、pHの更なる上昇は、アミンカチオン濃度を低下させることにより、このプロセスを終了させる。
【0013】
ナノ粒子の調製方法は、水/DMSO、水/アセトニトリル、水/エーテルなどの有機又は混合溶媒中で実施することもできる。得られたナノ粒子の加水分解に対する抵抗性を増大させるために、形成された結合のNaBH又はNaBHCNによる還元は、水溶液中、かつ穏やかな条件下でも利用される。
【0014】
好ましくは、ナノ粒子形成剤として、以下のものが利用される:ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、エチルフェニルアミン、スフィンゴシン、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸ヒドラジド、パルミチン酸ヒドラジド、オレイン酸ヒドラジド、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、又はセファリン(ホスファチジルエタノールアミン)。これらの形成剤を、アミン塩、例えば、塩酸塩、硝酸塩、又は硫酸塩の水溶液として添加することが好ましいが、それは、これらのアミン塩が、通常、水によりよく溶けるからである。
【0015】
好ましくは、アミノ、アミド、又はヒドラジド基を含む活性物質として、そのような基を含有する薬物、例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アミノアクリジン及びその誘導体(アムサクリンなど)、シスプラチン及びその誘導体、メトトレキセート、シタラビン、ゲムシタビン、ダプソン、アシクロビル、アジドチミジン、5−フルオロウラシル、メルカプトプリン、イマチニブ、スニチニブ、ブレオマイシン、アクチノマイシン、マイトマイシン、ダクチノマイシン、メルファラン、テモゾロミド、セレコキシブ、ネララビン、クラドリビン、カルボキシ基がアミド又はヒドラジドに変換されたイソニアジド又は誘導薬剤;遺伝子治療に好適なRNAもしくはDNA断片、又はその誘導体;プレーン色素及び蛍光色素、例えば、9−アミノアクリジン及び他のアクリジン色素、DAPI、ローダミン及びその誘導体、ニュートラルレッド、トリパンブルーが使用される。活性物質を、アミン塩、例えば、塩酸塩、硝酸塩、又は硫酸塩の水溶液として、反応媒体に添加することが好ましく、これらのアミンの塩は、通常、水によく溶ける。そのような活性物質が酸性環境では水に溶けるが、中性環境ではあまり溶けない場合、該物質は、ナノ粒子内で、物理的相互作用によってのみ結合し得る。pHが上昇すると、それは、ナノ粒子の疎水性部分において、ナノ結晶として沈殿することになる。
【0016】
好ましくは、多糖として、水又は他の溶媒に溶ける、最大1000kDaの分子量の多糖、最も好ましくは、デキストラン、デンプン及びその誘導体(ヒドロキシエチルデンプン)、アミロース及びその誘導体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、グリコーゲン、ヒアルロン酸、ヘパリン、アルギン酸、カラギーンが使用される。
【0017】
好ましくは、酸化は、多糖中の酸化された糖環の0.5%〜80%の酸化度まで実施される。
【0018】
好ましくは、酸化は、過ヨウ素酸イオン(例えば、過ヨウ素酸ナトリウム又は過ヨウ素酸カリウム)、酸化数4の鉛の塩、酸化数2の銅の化合物、又は例えば、酸化バナジウムなどの好適な触媒の存在下で酸化された水を含む、酸化剤を加えて実施される。
【0019】
更に、得られたナノ粒子は、酸化された多糖のアルデヒド基とペプチドのアミン基との反応によっても、抗体もしくはペプチド、又はタンパク質で修飾することができる。
【0020】
このように得られたナノ粒子の水懸濁液は、透析、沈殿、遠心分離により精製されるか、又は直接利用される。得られたナノ粒子溶液は、凍結乾燥させることができる。凍結乾燥のために、保護剤(抗凍結剤)の役割を果たす物質、例えば、非修飾多糖−例えば、デキストランを添加することができる。得られたナノ粒子は、水又は生理食塩水に懸濁させた後、凍結乾燥させて乾燥粉末にする場合、自己組織化能を示し、数分以内にナノ粒子を形成する。
【0021】
本発明に従って、多糖は、所定量の酸化剤を添加することにより、水溶液中で予備酸化される。特異的酸化の過程では、多糖鎖ではなく、単糖、例えば、グルコース環が切断され、酸化環がアルデヒド基を形成する。過ヨウ素酸塩による単糖又は多糖の酸化方法により例示されるように、これは、有機化学で利用される典型的な特異的酸化反応の1つである。[非特許文献6]。この酸化方法では、隣接する炭素上に−OH基を有する炭素−炭素結合が切断され、形成される両末端にアルデヒド基が形成される。単糖(グルコース)環の切断により多糖鎖に沿ったアルデヒド基の形成をもたらし、多糖鎖を切断することなく進行する他の部分酸化方法も利用することができる。酸化度−アルデヒド基の数は、公知の方法で;例えば、アルデヒドと塩酸ヒドロキシルアミンとを反応させ、遊離塩酸を滴定することにより、決定することができる[非特許文献5]。アルデヒド基とアミノ基とを反応させることにより、調製された多糖分子に対して、形成している化合物を付加し、これにより、ナノ粒子が自然に形成される。
【0022】
本発明に従って、酸化された多糖は、アミンの性質を有する少なくとも2種類の物質により同時に修飾される:ナノ粒子形成剤は、もともと疎水性であり、残りの物質は、治療剤又は着色剤であるが、1つのナノ粒子中で、数種の様々な活性物質を同時に使用することが可能である。これにより、数種の薬剤の組み合わされた活性の相乗効果を得ることが可能になる。数種の薬剤の同時使用は、腫瘍による薬物耐性の発生の可能性を顕著に低下させ、細胞周期の段階にかかわらず、細胞の積極的な破壊を可能にする。本発明の方法では、疎水性−親水性相互作用のために、活性物質及び疎水性折り畳み剤を内側に含有し、その外層が、親水性成分、主に、多糖を含む、多糖ナノ粒子が形成される。多糖と、形成剤、薬物、並びに抗体、ヌクレオチド塩基、又は代謝産物、例えば、葉酸などの特異的細胞型に対する親和性を増強するアルデヒド基反応性成分とを同時に修飾することも可能である。ナノ粒子の形成時に、疎水性の作用物質が内側に入り、親水性の作用物質がナノ粒子の外側に位置する。
【0023】
本発明の反応は、水性環境中、穏やかな温度条件下で、有機溶媒又は界面活性剤がなくても進行する。得られたナノ粒子は、それ自体、無毒であり(毒性薬なしで調製された場合)、特に、腫瘍の治療及び診断において、薬剤の担体及び色又は蛍光指示薬として使用することができる。このナノ粒子は、1種以上の形成剤又は数種の薬物を様々な組合せで含有することができ、それらは、薬剤としてのその効力を高めるアジュバント(ジインドリルメタン)を含有することもできる。
【0024】
調製された巨大分子の安定性は、通常、十分であり、水性環境中で数週から12週超にまで及ぶ。凍結乾燥後の乾燥安定性は顕著により高く、適切な保存により1年を超える。アミノ基とアルデヒド基の間に形成される結合の安定性は、アルデヒド−アミン結合を還元することにより、更に増強させることができる。
【0025】
本発明の方法を作業実施例でより詳細に説明した。
【実施例】
【0026】
実施例1
分子量70kDaのデキストランを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、約5%のグルコース環を酸化し、精製した。これを実施するために、デキストラン水溶液を調製し、過ヨウ素酸ナトリウムをそれに添加した。この反応の化学量論は、酸化条件、分子量、及び多くの場合、デキストランの源によって決まり、1モルの酸化グルコース当たり1〜2モルの過ヨウ素酸塩に相当し(2つのアルデヒド基が形成される)、これは、実験的に確認されなければならない。デキストラン酸化のプロセスを、黒いガラス製の容器中、室温で1時間、実施した。その後、この溶液を中和し、蒸留水に対する透析により精製し、その後、真空中で水を揮散させた。アルデヒド基の数を既知のヒドロキシルアミン滴定法により決定した。該デキストランの5%蒸留水溶液を調製した。その後、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基のモル数に基づく15mol%の塩酸ダウノルビシンを添加した。この溶液を30℃で20分間撹拌した。その後、5%塩酸ドデシルアミン水溶液を、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく85mol%で添加し、温度を35℃に上昇させ、反応を60分間継続させた。実行中の反応は、反応環境のpHを低下させる。その後、5%NaOH水溶液を添加することにより、pHの上昇を開始させた。30分でpHをpH9に上昇させるように、添加を実施した。pH=9に達した後、反応を更に30分間継続させた。その後、アラニンを、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく15mol%で添加して、全ての未反応アルデヒド基を結合させた。15分間撹拌した後、この溶液を5%塩酸でpH=7に中和し、24時間の透析により精製した。その後、(酸化デキストランの初期重量に基づく)20重量%の純粋な非酸化デキストランを抗凍結剤として添加し、溶液を凍結乾燥させた。粉末を水に再懸濁させると、ナノ粒子の懸濁液が得られた。得られたナノ粒子の直径の分布を、図1に示すMalvern Zeta Sizer装置で測定した。405nmレーザーを備えたNanoSight装置で行なわれた測定により、わずかにより小さい平均粒径及びより狭い直径分布が明らかになった。
【0027】
実施例2
分子量40kDaのデキストランを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、約20%のグルコース環を酸化し、精製した。そのようなデキストランの10%蒸留水溶液を調製した。その後、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基のモル数に基づく20mol%の塩酸ドキソルビシンを添加した。この溶液を30℃で20分間撹拌した。その後、5%塩酸オクチルアミン水溶液を、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく80mol%で添加し、温度を40℃に上昇させ、反応を60分間継続させた。実行中の反応は、pHの低下を引き起こす。その後、5%NaOH水溶液を添加することにより、pHの上昇を開始させた。30分でpHをpH8に上昇させるように、添加を実施した。pH=8に達した後、反応を更に30分間継続させた。その後、アラニンを、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく10mol%で添加した。15分間撹拌した後、この溶液を5%塩酸でpH=7に中和し、NaBHCNをアルデヒド基の初期量に基づく10mol%過剰で添加した。その後、反応を12時間実施した。この溶液を中和し、48時間の徹底的な透析により精製し、その後、デキストランをデキストランの初期重量に基づく50重量%で添加し、溶液を凍結乾燥させた。水に再懸濁させた後、得られたナノ粒子の直径の分布を、405nmレーザーを備えたNanoSight装置で測定し、図2に示した。
【0028】
実施例3
分子量約100kDa及び酸化数5%のカルボキシメチルセルロースの4%水溶液を調製し、pHをpH5に調整した。その後、9−アミノアクリジンを、その塩酸塩水溶液として、使用されたセルロース誘導体のアルデヒド基の初期量に基づく50mol%で添加した。その後、水性オクチルアミンをアルデヒド基の初期のモル数に基づく55mol%で添加した。反応を40℃で1時間実施した。その後、15分でpHをpH9に上昇させることにより、この溶液を中和し、30分間放置し、透析した。150nmの平均直径の蛍光ナノ粒子が得られた。
【0029】
実施例4
分子量70kDaのデキストランを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、約15%のグルコース環を酸化し、精製した。そのようなデキストランの10%蒸留水溶液を調製した。その後、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基のモル数に基づく25mol%の塩酸ドキソルビシンを添加した。この溶液を35℃で20分間撹拌した。その後、葉酸をアルデヒド基の初期の量に基づく5mol%で添加して、腫瘍細胞に対するナノ粒子の親和性を増強させた。15分後、5%塩酸イソロイシン水溶液を、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく80mol%で添加し、温度を40℃に上昇させ、反応を60分間実施した。その後、5%NaOH水溶液を添加することにより、pHの上昇を開始させた。30分でpHをpH9.5に上昇させるように、添加を実施した。反応を更に30分間継続させた。その後、この溶液を中和し、24時間の透析により精製した。得られたナノ粒子の平均直径は、140nmであった。
【0030】
実施例5
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を、水溶液中、テトラ−スルホ鉄−フタロシアニン触媒の存在下、過酸化水素で酸化した[非特許文献7]。このプロセスを40℃で12時間実施し、その後、生成物を、濾過、次いで、透析により精製した。得られたアルデヒドカルボキシメチルセルロース誘導体中のアルデヒド基の量を、既知のヒドロキシルアミン滴定法により決定した。得られた誘導体の5%蒸留水溶液を調製した。その後、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基のモル数に基づく10mol%の塩酸ドキソルビシンを添加した。この溶液を30℃で20分間撹拌した。その後、5%塩酸ドデシルアミン水溶液を、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく90mol%で添加し、温度を35℃に上昇させ、反応を60分間継続させた。その後、5%NaOH水溶液を添加することにより、pHの上昇を開始させた。30分でpHをpH9に上昇させるように、添加を実施した。pH=9に達した後、反応を更に30分間継続させた。その後、アラニンを、使用量の酸化デキストラン中のアルデヒド基の初期のモル数に基づく30mol%で添加して、全ての未反応アルデヒド基を結合させた。15分間撹拌した後、この溶液を5%塩酸でpH=7に中和し、24時間の透析により精製した。Malvern Zeta Sizer装置で測定したときの、得られたナノ粒子の平均直径は、110nmであった。
【0031】
実施例6
1%ヒアルロン酸ナトリウム塩水溶液を調製し、実施例1と同様に、5%の酸化度にまで過ヨウ素酸ナトリウムで酸化した。pHをpH5に調整し、塩酸ダウノルビシン及び塩酸シタラビンを、酸化ヒアルロン酸の全アルデヒド基の10mol%を含む各々の薬物に対して添加し、反応を30℃で15分間実施した。その後、塩酸デシルアミン水溶液を、アルデヒド基の初期のモル数に基づく85mol%で添加した。反応を40℃で1時間実施した。その後、20分以内にpHをpH9に上昇させ、この溶液を中和し、透析した。作用機序の異なる2種の薬物を含む多糖ナノ粒子の水懸濁液が得られた。
図1
図2