(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク、EUVリソグラフィー用反射型マスク及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多層反射膜の基板と反対側の表面層であるSiを含む層と前記ブロック層との間に、前記ブロック層を構成する金属成分の含有量が前記基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在する、請求項1に記載の多層反射膜付き基板。
請求項1〜5のいずれかに記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板におけるRu系保護膜上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜とを有するEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク。
基板と、該基板上に形成された、高屈折率材料としてのSiを含む層と低屈折率材料を含む層とが周期的に複数積層されてなる多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された、前記多層反射膜を保護するRu系保護膜とを有し、前記多層反射膜の基板と反対側の表面層は前記Siを含む層であり、さらに、前記多層反射膜と前記Ru系保護膜との間に、SiのRu系保護膜への移行を妨げるブロック層を有し、前記Siの少なくとも一部が前記ブロック層に拡散されている多層反射膜付き基板の製造方法であって、
前記基板上に前記多層反射膜を形成する工程と、
前記多層反射膜の基板と反対側の表面層であるSiを含む層上に、SiのRu系保護膜への移行を妨げるブロック層を形成する工程と、
前記ブロック層上に前記Ru系保護膜を形成する工程とを有し、
さらに前記ブロック層を形成した後、前記多層反射膜のSiの少なくとも一部を該ブロック層に拡散させるために160℃以上300℃以下で加熱処理する工程を有する、多層反射膜付き基板の製造方法。
請求項8に記載の多層反射膜付き基板の製造方法により得られた多層反射膜付き基板のRu系保護膜上に、吸収体膜を形成する工程を有する、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造方法。
請求項7に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクにおける吸収体膜を、前記レジスト膜を介してパターニングして、前記Ru系保護膜上に吸収体膜パターンを形成する工程を有する、EUVリソグラフィー用反射型マスクの製造方法。
請求項1〜5のいずれかに記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板におけるRu系保護膜上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜パターンとを有するEUVリソグラフィー用反射型マスク。
請求項10に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクの製造方法により得られたEUVリソグラフィー用反射型マスク又は請求項11に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクを使用して、半導体基板上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、EUVリソグラフィーを利用した半導体装置製造においては、当該リソグラフィーは高真空下で行われ、EUV光照射時またはEUV光照射後に、カーボン等の不純物が上記反射型マスク上に析出することがある。このため、リソグラフィー終了後には反射型マスクを洗浄することが必要である。そして通常、反射型マスクは繰り返し使用されるので、マスク洗浄も繰り返し行われることになる。
【0014】
それゆえ、反射型マスクには十分な洗浄耐性を備えていることが要求される。反射型マスクにおいて吸収体膜パターンが形成されていない部分においては保護膜が形成されているので、吸収体膜パターン及び保護膜の双方が洗浄耐性を備えていることが求められる。
【0015】
しかしながら、本発明者の検討によると、上記特許文献1〜4に開示されているような従来構成の反射型マスクにおいては、通常のRCA洗浄によるマスク洗浄を複数回行うと、露出している反射領域の多層反射膜上のRu系保護膜の膜剥れが生じることが判明した。これは、以下の原因による。すなわち、特許文献1や2のような構成であると、多層反射膜のSi層からSiが時間の経過とともにRu系保護膜の方へ、Ru系保護膜の粒界の間を移動して拡散し(そしてRuシリサイド(RuSi)を形成し)、Ru系保護膜の表層にまで到達して洗浄液やガスにより酸化反応を受けてSiO
2が生成したり、保護膜が緻密でない場合には、洗浄液やガスが保護膜内に浸透し、保護膜内でSiO
2が生成する。そして、RuとSiO
2との密着性が低いために、これらが剥離する。
【0016】
特許文献3及び4の構成についても、中間層(熱拡散抑制膜)とRu保護膜との間の密着性が低いないし不十分であるために、繰り返しの洗浄によってRu保護膜の剥離が生じると考えられる。
【0017】
このような膜剥れが生じると、新たな発塵の原因となったり、反射率の不均一性を招くことになるので、半導体基板上へのパターン転写時に、パターンが正確に転写できない恐れがあり、これは重大な問題である。
【0018】
そこで本発明の目的は、第1に、高反射率が得られ、且つ洗浄耐性に優れた反射型マスクを与える多層反射膜付き基板を提供することであり、第2に、当該多層反射膜付き基板を使用して製造されるEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク、例えば当該マスクブランクから得られるEUVリソグラフィー用反射型マスク及びその製造方法、並びにその反射型マスクを利用した半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は上記課題を解決するために検討を行い、Siがガスや洗浄液と接触して酸化されSiO
2を形成することは抑制が困難であるので、SiのRu系保護膜への拡散を抑制することが最も重要であると考えた。
【0020】
そして実際の検討の結果、多層反射膜とRu系保護膜との間に、そのようなSiのRu系保護膜への拡散を抑制するブロック層を設け、このブロック層に多層反射膜の基板と反対側の表面層であるSiの少なくとも一部を拡散させることによって、Ru系保護膜の剥離を抑制し、繰り返し洗浄にも十分な耐性を有するEUVリソグラフィー用反射型マスクが得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0021】
すなわち上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
基板と、該基板上に形成された、高屈折率材料としてのSiを含む層と低屈折率材料を含む層とが周期的に複数積層されてなる多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された、前記多層反射膜を保護するRu系保護膜とを有し、前記多層反射膜の基板と反対側の表面層は前記Siを含む層であり、さらに、前記多層反射膜と前記Ru系保護膜との間に、SiのRu系保護膜への移行を妨げるブロック層を有し、前記Siの少なくとも一部が前記ブロック層に拡散されている、多層反射膜付き基板。
【0022】
上記構成1にあるように、高屈折率材料としてSiを使用した多層反射膜を有する多層反射膜付き基板において、多層反射膜の最表面をSiを含む層とし、その上にRu系保護膜を形成して、さらに多層反射膜と前記Ru系保護膜との間に、SiのRu系保護膜への移行を妨げるブロック層を形成し、かつSiがブロック層に拡散されている構成とすることで、SiのRu系保護膜への移行が防止され、酸化ケイ素(SiO
2等)の形成が抑制される。これにより、洗浄耐性に優れたEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造するための原版である多層反射膜付き基板が得られる。
【0023】
(構成2)
前記ブロック層が、Ti、Al、Ni、Pt、Pd、W、Mo、Co、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属及び二種以上の金属の合金、これらの窒化物、これらのケイ化物並びにこれらのケイ窒化物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、構成1に記載の多層反射膜付き基板。
【0024】
上記構成2にあるように、前記ブロック層は具体的には、Ti、Al、Ni、Pt、Pd、W、Mo、Co、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属及び二種以上の金属の合金、これらの窒化物、これらのケイ化物並びにこれらのケイ窒化物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0025】
(構成3)
前記多層反射膜の基板と反対側の表面層であるSiを含む層と前記ブロック層との間に、前記ブロック層を構成する金属成分の含有量が前記基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在する、構成2に記載の多層反射膜付き基板。
【0026】
上記構成3にあるように、多層反射膜の最表面層を構成するSiを含む層と前記ブロック層との間に、前記ブロック層を構成する金属成分の含有量が前記基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在することにより、多層反射膜付き基板から得られる反射型マスクの洗浄耐性が更に向上するので好ましい。
【0027】
(構成4)
前記低屈折率材料がMoである、構成1〜3のいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0028】
上記構成4にあるように、EUV光に対する良好な反射率を達成するためには、多層反射膜を構成する低屈折率材料を含む層における当該材料としてMoが好ましい。
【0029】
(構成5)
前記ブロック層の厚みが0.2〜2.0nmである、構成1〜4のいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0030】
上記構成5にあるように、前記ブロック層は多層反射膜の反射率を若干低下させる場合があるので、その厚みは0.2〜2.0nmであることが好ましい。
【0031】
(構成6)
前記ブロック層が、チタン(Ti)、チタンの窒化物(TiN
x(x>0))、チタンのケイ化物(TiSi
x(x>0))及びチタンのケイ窒化物(Ti
xSi
yN
z(x>0、y>0、z>0))からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、構成1〜5のいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0032】
上記構成6にあるように、前記ブロック層は、優れた洗浄耐性を有するEUVリソグラフィー用反射型マスクを与える観点から、チタン(Ti)、チタンの窒化物(TiN
x(x>0))、チタンのケイ化物(TiSi
x(x>0))及びチタンのケイ窒化物(Ti
xSi
yN
z(x>0、y>0、z>0))からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0033】
(構成7)
構成1〜6のいずれかに記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板におけるRu系保護膜上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜とを有するEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク。
【0034】
上記構成7にあるように、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクは、本発明の多層反射膜付き基板のRu系保護膜上に、EUV光を吸収する吸収体膜を有する構成である。上記構成7により、高反射率が得られ、且つ洗浄耐性に優れたEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造するための原版であるEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクが得られる。
【0035】
(構成8)
前記吸収体膜上にさらにレジスト膜を有する、構成7に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク。
【0036】
上記構成8にあるように、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクには、前記吸収体膜上にさらにレジスト膜を有する態様も含まれる。
【0037】
(構成9)
基板と、該基板上に形成された、高屈折率材料としてのSiを含む層と低屈折率材料を含む層とが周期的に複数積層されてなる多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された、前記多層反射膜を保護するRu系保護膜とを有し、前記多層反射膜の基板と反対側の表面層は前記Siを含む層であり、さらに、前記多層反射膜と前記Ru系保護膜との間に、SiのRu系保護膜への移行を妨げるブロック層を有し、前記Siの少なくとも一部が前記ブロック層に拡散されている、多層反射膜付き基板の製造方法であって、
前記基板上に前記多層反射膜を形成する工程と、
前記多層反射膜の基板と反対側の表面層であるSiを含む層上に、SiのRu系保護膜への移行を妨げるブロック層を形成する工程と、
前記ブロック層上に前記Ru系保護膜を形成する工程とを有し、
さらに前記ブロック層を形成した後、前記多層反射膜のSiの少なくとも一部を該ブロック層に拡散させる温度条件で加熱処理する工程を有する、多層反射膜付き基板の製造方法。
【0038】
上記構成9にある多層反射膜付き基板の製造方法により、上記構成3と同様に、高反射率が得られ且つ洗浄耐性に優れたEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造するための原版である多層反射膜付き基板が得られる。
【0039】
(構成10)
構成9に記載の多層反射膜付き基板の製造方法により得られた多層反射膜付き基板のRu系保護膜上に、吸収体膜を形成する工程を有する、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造方法。
【0040】
上記構成10にあるように、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクは、本発明の多層反射膜付き基板のRu系保護膜上に、EUV光を吸収する吸収体膜を形成することで、製造することができる。当該反射型マスクブランクは、高反射率が得られ、且つ洗浄耐性にも優れたEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造するための原版とすることができる。
【0041】
(構成11)
構成8に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクにおける吸収体膜を、前記レジスト膜を介してパターニングして、前記Ru系保護膜上に吸収体膜パターンを形成する工程を有する、EUVリソグラフィー用反射型マスクの製造方法。
【0042】
上記構成11にあるように、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクにおける吸収体膜を、前記レジスト膜を介してパターニングすることで、前記Ru系保護膜上に吸収体膜パターンが形成され、このような工程を実施することで、洗浄耐性に優れた、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクが得られる。
【0043】
(構成12)
構成1〜6のいずれかに記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板におけるRu系保護膜上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜パターンとを有するEUVリソグラフィー用反射型マスク。
【0044】
上記構成12にあるように、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクの構成は、本発明の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板におけるRu系保護膜上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜パターンとを有する、というものである。
【0045】
(構成13)
構成11に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクの製造方法により得られたEUVリソグラフィー用反射型マスク又は構成12に記載のEUVリソグラフィー用反射型マスクを使用して、半導体基板上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法。
【0046】
上記構成13にあるように、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクの製造方法により得られたEUVリソグラフィー用反射型マスク又は本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクを使用して、半導体基板上に転写パターンを形成し、その他種々の工程を経ることで、各種の半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、高反射率が得られ、且つ洗浄耐性に優れた反射型マスクを与える多層反射膜付き基板が提供され、さらに、当該多層反射膜付き基板を使用して製造されるEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク、例えば当該マスクブランクから得られるEUVリソグラフィー用反射型マスク及びその製造方法、並びにその反射型マスクを利用した半導体装置の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、膜上などでいう「上」とは、必ずしもその膜などの上面に接触して形成される場合に限られず、離間して上方に形成される場合も含んでおり、膜と膜の間に介在層が存在する場合も包含する意味で使用する。
【0050】
[多層反射膜付き基板]
図1は、本発明の多層反射膜付き基板の断面を示す模式図である。当該多層反射膜付き基板10は、基板12の上に、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜14と、該多層反射膜14上に設けられた、当該多層反射膜14を保護するためのRu系保護膜18とを備え、さらに前記多層反射膜14とRu系保護膜18との間に、SiのRu系保護膜18への拡散を妨げるブロック層16を有する構成をとっている。
【0051】
<基板12>
本発明の多層反射膜付き基板10に使用される基板12としては、EUV露光の場合、露光時の熱による吸収体膜パターンの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO
2−TiO
2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0052】
基板12の転写パターン(後述の吸収体膜がこれを構成する)が形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。例えば、EUV露光の場合、基板12の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットするときに静電チャックされる面であって、その142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下、更に好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、本明細書において平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値で、基板表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0053】
また、EUV露光の場合、基板12として要求される表面平滑度は、基板12の転写パターンが形成される側の主表面の表面粗さが、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0054】
さらに、基板12としては、その上に形成される膜(多層反射膜14など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有している基板が好ましい。
【0055】
<多層反射膜14>
本発明の多層反射膜付き基板10においては、以上説明した基板12の上に多層反射膜14が形成されている。この多層反射膜14は、EUVリソグラフィー用反射型マスクにEUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜の構成を取っている。
【0056】
一般的には高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40〜60周期程度積層された多層膜が、前記多層反射膜14として用いられる。多層膜は、基板12側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層したものであってもよいし、基板12側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層したものであってもよい。
【0057】
なお、多層反射膜14の最表面の層、すなわち多層反射膜14の基板12と反対側の表面層は、高屈折率層である。上述の多層膜において、基板12側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は最上層が低屈折率層となる。低屈折率層が多層反射膜14の最表面を構成すると、これは容易に酸化されてしまい反射型マスクの反射率が減少するので、最上層の低屈折率層上に高屈折率層を形成して多層反射膜14とする。また、上述の多層膜において、基板12側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は最上層が高屈折率層となるので、その場合は、最上層の高屈折率層が多層反射膜14の最表面となる。
【0058】
本発明において、前記高屈折率層としては、Siを含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、B、C、N、Oを含むSi化合物が挙げられる。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィー用反射型マスクが得られる。また本発明において基板12としてはガラス基板が好ましく用いられるので、Siはそれとの密着性にも優れている。
【0059】
また前記低屈折率材料としては、Mo、Ru、Rh、及びPtから選ばれる元素やこれらの合金が用いられる。例えば波長13〜14nmのEUV光に対する多層反射膜14としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に40〜60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。
【0060】
このような多層反射膜14の単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜14の各構成層の厚み、周期は、露光波長により適宜選択すればよく、そしてブラッグの法則を満たすように選択される。
【0061】
また、多層反射膜14において高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層どうし、そして低屈折率層どうしの厚みが同じでなくともよい。また、多層反射膜14の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi層の膜厚は、3〜10nmとすることができる。
【0062】
多層反射膜14の形成方法は当該技術分野において公知であるが、例えばイオンビームスパッタ法により、各層を成膜することにより形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタ法により、まずSiターゲットを用いて厚さ4nm程度のSi膜を基板12上に成膜し、その後Moターゲットを用いて厚さ3nm程度のMo膜を成膜し、これを一周期として、40〜60周期積層して、多層反射膜14を形成する(最表面の層はSi膜とする)。
【0063】
<ブロック層16>
従来の反射型マスクでは多層反射膜上に保護膜が設けられ、Si層と保護膜との間での拡散層形成を抑制する観点から、RuにZrやBを添加したRu合金からなる保護膜が提案された。しかしこれでもSiの拡散抑制は不十分であり、SiがRu系保護膜に拡散し、酸化を受けて酸化ケイ素(SiO
2等)を形成し、反射型マスクの製造工程や製品として完成した後の使用における繰り返しの洗浄を受けることで膜剥れが生じてしまう。あるいはMo/Si多層反射膜とRu系保護膜との間にSiおよびOを所定量含有する中間層や熱拡散抑制膜を形成することが提案されたが、中間層や熱拡散防止膜の材料によっては、このような層はRu系保護膜との密着性が不十分であるため、これらの接合部で膜剥れが発生する。
【0064】
このようにSiが酸化を受けることや酸化ケイ素(SiO
2等)とRu系保護膜の密着性が不十分であるということについては回避が非常に困難であることから、本発明ではSiがRu系保護膜に移行するのを妨げるブロック層を採用する。そしてこのブロック層について、前記多層反射膜のSiの少なくとも一部がブロック層に拡散されている状態とする。
【0065】
このような構成とすることによって、Siの移行を阻止することができる。これによって、Ru系保護膜へSiが拡散してガスや洗浄液と接触して酸化ケイ素(SiO
2等)が生成し、膜剥れを生じるのを防ぐことができ、これにより高反射率及び優れた洗浄耐性を有する反射型マスクが得られる。そして、前記の構成とすることで、その後に行われるどのような熱履歴を経ても高反射率を維持し、且つ、優れた洗浄耐性を有する反射型マスクが得られる。
【0066】
ブロック層16は多層反射膜14と後述するRu系保護膜18との間に設けられる。ブロック層16はSiのRu系保護膜18への移行を妨げることができる限りその構成物質は特に限定されないが、例えば、前記構成物質として、Ti、Al、Ni、Pt、Pd、W、Mo、Co、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属及び二種以上の金属の合金、これらの窒化物、これらのケイ化物並びにこれらのケイ窒化物が挙げられる。ブロック層16はこれらの構成物質のうち1つにより構成されていてもよいし、複数の物質により構成されていてもよい。前記窒化物とは、TiN等の、金属の窒化物や、TiAlN等の、合金の窒化物である。ケイ化物及びケイ窒化物についても同様である。
【0067】
そして本発明においては、これらの物質からなるブロック層16を形成した後、多層反射膜14のSiの少なくとも一部を前記層16に拡散させる温度条件で加熱処理する。
【0068】
当該加熱によりSiがブロック層16へ拡散するが、当該層16を構成する各種金属単体、合金、又は各種金属・合金の化合物は前記Siと強固なシリサイドを形成するので、Siは多層反射膜14からRu系保護膜18へ移行する前に、ブロック層16に拡散されてブロック層16中で強固なシリサイドを形成して捕獲される。
【0069】
このようにして一度ブロック層16においてシリサイドが形成されると、もはやSiはブロック層16を通過してRu系保護膜18へ移行することができなくなり、Ru系保護膜18の膜剥れが抑制される。さらに前記シリサイドは上記のSiおよびOを所定量含有する中間層や熱拡散抑制膜に比べてRu系保護膜18との密着性にも優れているので、密着性不足による膜剥れも抑制される。
【0070】
このようなシリサイド形成及びRu系保護膜18との良好な密着性の観点から、ブロック層16はチタン(Ti)、チタンの窒化物(TiN
x(x>0))、チタンのケイ化物(TiSi
x(x>0))及びチタンのケイ窒化物(Ti
xSi
yN
z(x>0、y>0、z>0))からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0071】
またブロック層16の厚みは、上記所定の温度条件での加熱により、多層反射膜14から移行してくるSiがRu系保護膜18へ移行するのを十分防ぐことができるだけのシリサイドが形成される限り、特に限定されない。なお、ブロック層16はEUV光の透過率がRu系保護膜18などに比較して低いため、あまり厚みが大きいと反射型マスクの反射率を低下させてしまう可能性がある。そこで、ブロック層16の厚みは好ましくは0.2〜2.0nm、より好ましくは0.5〜1.5nmとされる。
【0072】
このようなブロック層16は、それを構成する物質の薄膜を形成することが可能な公知の各種方法により形成可能であり、その方法として例えば、イオンビームスパッタリング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、気相成長法(CVD)、真空蒸着法が挙げられる。
【0073】
そしてブロック層16を形成した後、前記の通り多層反射膜14のSiをブロック層16に拡散させる温度条件で加熱処理する。Siが多層反射膜14からRu系保護膜18へ移行するのを阻止するのに十分なシリサイドを形成するために、この加熱処理においては、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造工程におけるレジスト膜のプリベーク温度(110℃程度)よりも高い温度で加熱を行う。好ましくは、特許文献4に開示された多層反射膜の膜応力低減などのための加熱(50〜150℃程度)よりも高い温度で加熱を行う。具体的には、加熱処理の温度条件は、通常160℃以上300℃以下であり、180℃以上250℃以下とすることが好ましい。
【0074】
多層反射膜14のSiをブロック層16に拡散させる加熱処理工程は、多層反射膜14上にブロック層16を形成した後であって、Ru系保護膜18を形成する前に行ってもよいし、多層反射膜14上にブロック層16とRu系保護膜18を形成した後であって、吸収体膜20を形成する前に行ってもよい。
【0075】
前者の場合、多層反射膜14の基板12と反対側の表面層であるSiを含む層とブロック層16との間に、ブロック層16を構成する金属成分の含有量が基板12に向かって連続的に減少する組成傾斜領域が存在する多層反射膜付き基板10が得られる。
【0076】
また、後者の場合、前者の組成傾斜領域に加えて、ブロック層16を構成する金属の少なくとも一部がRu系保護膜18に拡散され、さらに、ブロック層16とRu系保護膜18との間に、ブロック層16を構成する金属成分の含有量がRu系保護膜18に向かって連続的に減少する組成傾斜領域が存在する多層反射膜付き基板10が得られる。
【0077】
このように、加熱処理をする前においては、ブロック層16と多層反射膜14との境界(前記後者の場合はさらにブロック層16とRu系保護膜18との境界)は明りょうであると考えられるが、加熱処理により上記のSiの拡散が起きて組成傾斜領域が形成され、前記境界は明りょうではなくなるものと考えられる。なお、Ru系保護膜18を形成する前又は後に加熱処理を行う両者の場合いずれも、ブロック層16において強固なシリサイドを形成することで本発明の多層反射膜付き基板10から得られる反射型マスクの洗浄耐性を向上させる効果が得られる。
【0078】
<Ru系保護膜18>
上記で形成されたブロック層16の上に、後述する、EUVリソグラフィー用反射型マスクの製造工程におけるドライエッチングや洗浄からの多層反射膜14の保護のため、Ru系保護膜18を形成することで、多層反射膜付き基板10として完成する。
【0079】
Ru系保護膜18はRuを含有する物質により構成され、具体的なRu系保護膜18の構成材料としては、Ru及びその合金材料や、これらにN、C、Oの元素を含むRu化合物が挙げられる。Ruの合金としては、Ruと、Nb、Zr、Rh、Ti、Co及びReからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素とを有するRu化合物が好適である。そのような合金として具体的には、RuNb合金、RuZr合金、RuRh合金、RuTi合金、RuCo合金及びRuRe合金が挙げられる。また、Ru系保護膜18を3層以上の積層構造とし、最下層と最上層を上記Ruを含有する物質からなる層とし、前記最下層と前記最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものとしても構わない。
【0080】
このようなRu又はその合金などにより構成されるRu系保護膜18の厚みは、その保護膜としての機能を果たすことができる限り特に制限されないが、EUV光の透過率(入射したEUV光はRu系保護膜18を透過して多層反射膜14で反射され、そして反射光はRu系保護膜18を透過して出射される)の観点から、前記厚みは好ましくは1.2〜〜8.5nm、より好ましくは1.5〜8nm、さらに好ましくは1.5〜6nmである。
【0081】
さらに、多層反射膜付き基板10から得られる反射型マスクの洗浄耐性向上の観点からは、前記Ru系保護膜18をX線回折法のIn−Plane測定法で測定したときに、回折線ピークが主として(100)及び(110)である、すなわち、Ru系保護膜18が主として(001)面に配向面を有することが好ましい。
【0082】
なお、本発明において、「回折線ピークが主として(100)及び(110)である」とは、X線回折法のIn−Plane測定法で測定したときに、回折線ピークが(100)及び(110)であって、他の回折線ピーク、例えば、(102)、(103)、(112)等を有さない、あるいは、上記他の回折線ピークが十分に低い状態をいう。なお、回折線ピークが(100)及び(110)以外に、(102)、(103)、(112)等を有する状態をランダム配向と定義する。また、「回折線ピークが主として(100)と(110)である」とは、(100)、(110)の2次回折((200)、(220))や、3次回折((300)、(330))などの高次の回折線ピークを有する場合も含むものとする。
【0083】
Ru系保護膜18をIn−Plane測定した場合において、回折線ピークが主として(100)及び(110)である場合には、Ru系保護膜18の粒子の(001)面が基板12の水平方向に揃ってブロック層16上に堆積しているので、多層反射膜14のSi層からのSi拡散と、洗浄液やガスのRu系保護膜18内への浸透が抑制されて、反射型マスクの洗浄耐性がさらに向上する。一方、ランダム配向の場合は、Ru系保護膜18の結晶粒子の配向がランダムの状態でブロック層16上に堆積しているので、Ru系保護膜18の配向による洗浄耐性向上効果は得られにくい傾向がある。
【0084】
本発明において、Ru系保護膜18の形成方法としては、従来公知の保護膜の形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。そのような形成方法の例としては、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0085】
上述のようにRu系保護膜18をIn−Plane測定した場合に、回折線ピークが主として(100)及び(110)である、すなわち、主として(001)面に配向面を有するようにするには、基板12の主表面の法線に対するRu系保護膜18を形成するスパッタ粒子の入射角度が0度以上45度以下、好ましくは0度以上35度以下、より好ましくは20度以上30度以下となるようにしてスパッタ成膜する。Ru系保護膜18は、イオンビームスパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0086】
以上説明した通り本発明の多層反射膜付き基板10は、基板12と多層反射膜14とブロック層16とRu系保護膜18とを有する。当該多層反射膜付き基板10においてはブロック層16によってRu系保護膜18の膜剥れが抑制されており、高反射率、具体的には波長13.5nmのEUV光に対して63%以上の反射率を達成しつつ、優れた洗浄耐性も有している。
【0087】
さらに前記多層反射膜付き基板10は、基板12の多層反射膜14が形成されている側とは反対側の主表面上に、裏面導電膜を有していてもよい。裏面導電膜は、マスクブランク製造の際に多層反射膜付き基板10の支持手段として使用される静電チャックや、後述する本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランクのパターンプロセス時や露光時のマスクハンドリングの支持手段として使用される静電チャックに、多層反射膜付き基板10又はマスクブランクを吸着させる目的で形成される。また、裏面導電膜は、多層反射膜14の応力補正の目的でも形成される。
【0088】
また、本発明の多層反射膜付き基板10においては、基板12と多層反射膜14との間に下地膜を形成してもよい。下地膜は、基板12の表面の平滑性向上の目的、欠陥低減の目的、多層反射膜14の反射増強効果の目的、電子線描画の際のチャージアップ防止の目的、並びに多層反射膜14の応力補正の目的で形成される。
【0089】
また、本発明の多層反射膜付き基板10には、多層反射膜14やRu系保護膜18上に、基板12や多層反射膜付き基板10の欠陥存在位置の基準となる基準マークを、フォトリソグラフィーで形成する場合において、多層反射膜14やRu系保護膜18上にレジスト膜を形成した態様も含まれる。
【0090】
[EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク]
図2は、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30の断面を示す模式図である。上述の本発明の多層反射膜付き基板10のRu系保護膜18上にEUV光を吸収する吸収体膜20を形成することによって、本発明のマスクブランク30が得られる。
【0091】
吸収体膜20は、露光光であるEUV光を吸収する機能を有するもので、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30を使用して作製されるEUVリソグラフィー用反射型マスク(詳細は後述)において、上記多層反射膜14、ブロック層16、Ru系保護膜18による反射光と、吸収体膜パターンによる反射光との間で所望の反射率差を有するものであればよい。
【0092】
例えば、EUV光に対する吸収体膜20の反射率は、0.1%以上40%以下の間で選定される。また、上記反射率差に加えて、上記多層反射膜14、ブロック層16、Ru系保護膜18による反射光と、吸収体膜パターンによる反射光との間で所望の位相差が存在してもよい。尚、このような反射光間で所望の位相差が存在する場合、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30における吸収体膜20を位相シフト膜と称する場合がある。前記反射光間で所望の位相差を設けて、得られる反射型マスクの反射光のコントラストを向上させる場合、位相差は180度±10度の範囲に設定するのが好ましく、吸収体膜の反射率は、3%以上40%以下に設定するのが好ましい。
【0093】
上記吸収体膜20は、単層でも積層構造であってもよい。積層構造の場合、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜のいずれでもよい。積層膜は、材料や組成が膜厚方向に段階的及び/又は連続的に変化したものとすることができる。
【0094】
このような吸収体膜20にレジストを介してドライエッチングを施すことにより所定の吸収体膜パターンを得て、光(本発明においてはEUV光)を反射する部分(Ru系保護膜18並びにその下のブロック層16及び多層反射膜14が露出している部分)及び光を吸収する部分(吸収体膜パターン)を有するEUVリソグラフィー用反射型マスクが得られる。
【0095】
EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により除去が可能(好ましくは塩素(Cl)やフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、吸収体膜20の材料は特に限定されない。そのような機能を有するものとして、タンタル(Ta)単体又はTaを主成分として含むタンタル化合物を好ましく用いることができる。
【0096】
このようなタンタルやタンタル化合物により構成される吸収体膜20は、DCスパッタリング法やRFスパッタリング法などのスパッタリング法といった公知の方法で形成することが出来る。例えば、タンタルとホウ素を含むターゲットを用い、酸素或いは窒素を添加したアルゴンガスを用いたスパッタリング法で吸収体膜20をRu系保護膜18上に成膜することができる。
【0097】
前記タンタル化合物は、通常Taの合金である。このような吸収体膜20の結晶状態は、平滑性及び平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜20表面が平滑・平坦でないと、吸収体膜パターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜20の好ましい表面粗さは0.5nmRms以下であり、更に好ましくは0.4nmRms以下、0.3nmRms以下であれば更に好ましい。
【0098】
前記タンタル化合物としては、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、更にOとNの少なくとも何れかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、TaとGeとNとを含む化合物、等を用いることが出来る。
【0099】
TaはEUV光の吸収係数が大きく、また塩素系ガスやフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料であるため、加工性に優れた吸収体膜材料である。さらにTaにBやSi、Ge等を加えることにより、アモルファス状の材料が容易に得られ、吸収体膜20の平滑性を向上させることができる。また、TaにNやOを加えれば、吸収体膜20の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることが出来るという効果が得られる。
【0100】
一方吸収体膜20の成膜時の基板加熱温度や、成膜時のスパッタリングガス圧力を調整することにより吸収体膜材料を微結晶化することができる。
【0101】
また、吸収体膜20を構成する材料としては、タンタル又はタンタル化合物以外に、WN、TiN、Ti等の材料が挙げられる。
【0102】
以上説明した吸収体膜20は、露光光の波長に対し、吸収係数が0.025以上、更には0.030以上であると、吸収体膜20の膜厚を小さくできる点で好ましい。
【0103】
なお、吸収体膜20の膜厚は、露光光であるEUV光が十分に吸収できる厚みであればよいが、通常30〜100nm程度である。
【0104】
また、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30には、前記吸収体膜20上に、ドライエッチングによるパターン形成のためのレジスト膜22を形成した態様も含まれる。
【0105】
また、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30には、前記吸収体膜20とレジスト膜22との間に、ハードマスク膜を形成した態様も含まれる。ハードマスク膜は、吸収体膜20をパターニングする際にマスク機能を有するものであり、吸収体膜20とエッチング選択性が異なる材料により構成する。吸収体膜20がタンタルやタンタル化合物により構成される場合、ハードマスク膜は、クロムやクロム化合物などの材料が選択される。クロム化合物としては、CrとN、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。
【0106】
なお、多層反射膜付き基板10において、基板12の多層反射膜14と対向する面と反対側の面には、前述の通り静電チャックの目的のために裏面導電膜を形成してもよい。裏面導電膜に求められる電気的特性は通常100Ω/□以下である。裏面導電膜の形成方法は公知であり、例えばマグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタ法により、クロム(Cr)、タンタル(Ta)等の金属や合金のターゲットを使用して形成することができる。裏面導電膜の厚みは前記目的を達成する限り特に限定されないが、通常10〜200nmである。
【0107】
次に説明する通り本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30をさらに加工してEUVリソグラフィー用反射型マスクが得られるが、この反射型マスクについては、通常、パターンの検査、修正が行われる。EUV光を露光光に適用する反射型マスクの場合においても、パターン検査を行うときの検査光としては、波長193nm、257nm等のEUV光に比べて長波長の光が用いられる場合が多い。長波長の検査光に対応するためには、吸収体膜20の表面反射を低減させる必要がある。この場合、吸収体膜20を、基板12側から、主としてEUV光を吸収する機能を有する吸収体層と、主として検査光に対する表面反射を低減する機能を有する低反射層とを積層した構成にするとよい。低反射層としては、吸収体層がTaを主成分とする材料の場合、TaやTaBにOを添加した材料が好適である。
【0108】
[EUVリソグラフィー用反射型マスク]
以上説明した本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30を使用して、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造することができる。本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクの製造には、高精細のパターニングを行うことができるフォトリソグラフィー法が最も好適である。
【0109】
以下ではフォトリソグラフィー法を利用した、レジスト膜を介してEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30における吸収体膜20をパターニングして本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造する方法を説明する。また、当該方法の模式図を
図3に示す。
図3において同一の構成に関して、一つについて符号を示し、その他の同一の構成については符号をつけるのを省略している。
【0110】
まず、基板12、多層反射膜14、ブロック層16、Ru系保護膜18及び吸収体膜20がこの順に形成されたマスクブランク30(
図3(a))の吸収体膜20上にレジスト膜22を形成する(
図3(b))。レジスト膜22が形成されたものも本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク30であるので、ここからスタートしてもよい。このレジスト膜22に所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像・リンスすることによって、所定のレジストパターン22aを形成する(
図3(c))。
【0111】
このレジストパターン22aをマスクとして使用して、エッチングガスによるドライエッチングを実施することにより、吸収体膜20のレジストパターン22aで被覆されていない部分がエッチングされ、吸収体膜パターン20aがRu系保護膜18上に形成される(
図3(d))。
【0112】
なお、前記エッチングガスとしては、Cl
2,SiCl
4,CHCl
3,CCl
4等の塩素系のガス、これら塩素系ガス及びO
2を所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガス、CF
4,CHF
3,C
2F
6,C
3F
6,C
4F
6,C
4F
8,CH
2F
2,CH
3F,C
3F
8,SF
6,F等のフッ素系のガス、これらフッ素系ガス及びO
2を所定の割合で含む混合ガス、フッ素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、フッ素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガスが挙げられる。
【0113】
そして、例えば、レジスト剥離液によりレジストパターン22aを除去した後、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行い、高い反射率を達成したEUVリソグラフィー用反射型マスク40が得られる(
図3(e))。
【0114】
[半導体装置の製造方法]
以上説明した本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスク40を使用したリソグラフィー技術により、半導体基板上に前記マスクの吸収体膜パターン20aに基づく転写パターンを形成し、その他種々の工程を経ることで、半導体基板上に種々のパターン等が形成された半導体装置を製造することができる。
【0115】
より具体的な例として、
図4に示すパターン転写装置50により、EUVリソグラフィー用反射型マスク40を用いてレジスト付き半導体基板56にEUV光によってパターンを転写する方法を説明する。
【0116】
EUVリソグラフィー用反射型マスク40を搭載したパターン転写装置50は、レーザープラズマX線源52、反射型マスク40、縮小光学系54等から概略構成される。縮小光学系54としては、X線反射ミラーを用いている。
【0117】
縮小光学系54により、反射型マスク40で反射されたパターンは通常1/4程度に縮小される。例えば、露光波長として13〜14nmの波長帯を使用し、光路が真空中になるように予め設定する。このような状態で、レーザープラズマX線源52から得られたEUV光を反射型マスク40に入射させ、ここで反射された光を縮小光学系54を通してレジスト付き半導体基板56上に転写する。
【0118】
反射型マスク40に入射した光は、吸収体膜パターン20aのある部分では、吸収体膜に吸収されて反射されず(吸収体膜が上述の位相シフト膜である場合には、一定量の反射がある)、一方、吸収体膜パターン20aのない部分に入射した光は多層反射膜14により反射される。このようにして、反射型マスク40から反射される光により形成される像が縮小光学系54に入射する。縮小光学系54を経由した露光光は、レジスト付き半導体基板56上のレジスト層に転写パターンを形成する。そして、この露光済レジスト層を現像することによってレジスト付き半導体基板56上にレジストパターンを形成することができる。
【0119】
そして前記レジストパターンをマスクとして使用してエッチング等を実施することにより、例えば半導体基板上に所定の配線パターンを形成することができる。
このような工程その他の必要な工程を経ることで、半導体装置が製造される。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を限定するものではない。
【0121】
[参考例1]
<多層反射膜付き基板の製造>
使用する基板はSiO
2−TiO
2系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.35mm)である。このガラス基板の端面を面取り加工及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理した。これらの処理を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、研磨液にコロイダルシリカ砥粒を含むアルカリ水溶液を用い、所定の研磨条件で精密研磨をおこなった。精密研磨終了後、ガラス基板に対し洗浄処理を行った。
【0122】
以上のようにして、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク用ガラス基板を作製した。この得られたガラス基板の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で、0.10nm以下と良好であった。また、平坦度は、測定領域132mm×132mmで30nm以下と良好であった。
【0123】
次に、上記EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク用ガラス基板の裏面に、以下の条件でCrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
裏面導電膜形成条件:Crターゲット、Ar+N
2ガス雰囲気(Ar:N
2=90%:10%)、膜組成(Cr:90原子%、N:10%)、膜厚20nm
【0124】
次に、上記EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク用ガラス基板の裏面導電膜が形成された側と反対側の主表面上に、以下のようにして多層反射膜を形成した。ガラス基板上に形成される多層反射膜としては、13〜14nmの露光光波長帯域に適した多層反射膜とするために、Mo膜/Si膜周期多層反射膜を採用した。
【0125】
すなわち、多層反射膜は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arを使用)により基板上にMo層及びSi層を交互に積層して形成した。
【0126】
まず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを一周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜し、多層反射膜を形成した。
【0127】
この後、同じくTiターゲットを使用したイオンビームスパッタリング(Arを使用)によりTiからなる金属層を1.0nmの厚みで前記多層反射膜上に成膜し、さらに前記金属層上に、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリング(Arを使用)によりRu保護膜を1.5nmの厚みで成膜した。
【0128】
このようにして得られた多層反射膜付き基板における、Ru保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.50%と高反射率であった。
【0129】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板のRu保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリング法により形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0130】
[参考例2]
<多層反射膜付き基板の製造>
金属層を厚さ1.0nmのTiN層とした以外は参考例1と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。なお前記TiN層は、Tiターゲット、及びAr+N
2混合ガスを用いたイオンビームスパッタリングにより成膜した。得られた多層反射膜付き基板における、Ru保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.20%と高反射率であった。
【0131】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0132】
[実施例1]
<多層反射膜付き基板の製造>
参考例1と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。なお、金属層について、これをTiターゲットを用いたイオンビームスパッタリング(Arを使用)により成膜・形成した後、アニール(真空中にて200℃で1時間の加熱)することで、多層反射膜の最表面のSi層のSiを金属層に拡散させてブロック層を形成した。Siの拡散により、ブロック層においてはチタンシリサイドが形成されている。
【0133】
さらに、ブロック層上にRu保護膜をイオンビームスパッタリングにより形成して多層反射膜付き基板を製造した。尚、上述のRu保護膜は、ガラス基板の主表面の法線に対して30度の角度でRu粒子が堆積するように成膜することで形成した。
【0134】
得られた多層反射膜付き基板におけるRu保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.65%と高反射率であった。
【0135】
尚、多層反射膜付き基板のRu保護膜について、X線回折法のIn−Plane測定法で測定したところ、回折線ピークが(100)、(110)、及び(200)のみ観察され、主として(001)面に配向面を有していた。また、X線光電子分光法(XPS)により多層反射膜付き基板の膜深さ方向の組成分析を行ったところ、多層反射膜の最表面層であるSi層とチタンシリサイドのブロック層との間に、ブロック層を構成するチタン成分の含有量がガラス基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在していることが確認された。
【0136】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0137】
[実施例2]
<多層反射膜付き基板の製造>
参考例2と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。なおTiN層について、これを参考例2と同様の方法により成膜・形成した後、アニール(真空中にて200℃で1時間の加熱)することで、多層反射膜の最表面のSi層のSiをちN層に拡散させてブロック層を形成した。Siの拡散により、ブロック層においては窒化されたチタンシリサイドが形成されている。
【0138】
さらに、ブロック層上にRu保護膜をイオンビームスパッタリングにより形成して多層反射膜付き基板を製造した。尚、前記Ru保護膜は、ガラス基板の主表面の法線に対して30度の角度でRu粒子が堆積するように成膜した。
【0139】
得られた多層反射膜付き基板におけるRu保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.35%と高反射率であった。
【0140】
尚、多層反射膜付き基板に形成されたRu保護膜について、X線回折法のIn−Plane測定法で測定したところ、回折線ピークが(100)、(110)、及び(200)のみ観察され、主として(001)面に配向面を有していた。また、X線光電子分光法(XPS)により多層反射膜付き基板の膜深さ方向の組成分析を行ったところ、多層反射膜の最表面層であるSi層と窒化されたチタンシリサイドのブロック層との間に、ブロック層を構成するチタン成分の含有量がガラス基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在していることが確認された。
【0141】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0142】
[実施例3]
<多層反射膜付き基板の製造>
参考例1と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。なお、金属層について、これをTiターゲットを用いたイオンビームスパッタリング(Arを使用)により成膜・形成し、そしてその上にRu保護膜を形成後にアニール(大気中にて200℃で1時間の加熱)することで、多層反射膜の最表面のSi層のSiを金属層に拡散させてブロック層を形成した。Siの拡散により、ブロック層においてはチタンシリサイドが形成されている。
【0143】
得られた多層反射膜付き基板における、Ru保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.70%と高反射率であった。
【0144】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0145】
[実施例4]
<多層反射膜付き基板の製造>
参考例2と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。なおTiN層について、これを参考例2と同様の方法により成膜・形成し、そしてRu保護膜をその上に形成後にアニール(大気中にて200℃で1時間の加熱)することで、多層反射膜の最表面のSi層のSiをTiN層に拡散させてブロック層を形成した。Siの拡散により、ブロック層においては窒化されたチタンシリサイドが形成されている。
【0146】
得られた多層反射膜付き基板における、Ru保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.40%と高反射率であった。
【0147】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0148】
[実施例5]
<多層反射膜付き基板の製造>
実施例3と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。なお金属層について、これをTiターゲットを用いたイオンビームスパッタリング(Arを使用)により成膜・形成し、そしてRu保護膜をその上に形成後にアニール(真空中にて200℃で1時間の加熱)することで、多層反射膜の最表面のSi層のSiを金属層に拡散させてブロック層を形成した。尚、前記Ru保護膜は、ガラス基板の主表面の法線に対して30度の角度でRu粒子が堆積するように成膜することで形成した。
【0149】
得られた多層反射膜付き基板におけるRu保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は63.85%と高反射率であった。
【0150】
尚、多層反射膜付き基板のRu保護膜について、X線回折法のIn−Plane測定法で測定したところ、回折線ピークが(100)、(110)、及び(200)のみ観察され、主として(001)面に配向面を有していた。また、X線光電子分光法(XPS)により多層反射膜付き基板の膜深さ方向の組成分析を行ったところ、多層反射膜の最表面層であるSi層とブロック層との間に、ブロック層を構成するチタン成分の含有量がガラス基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在し、さらに、ブロック層とRu保護膜との間に、ブロック層を構成するチタン成分の含有量がRu保護膜に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在していることが確認された。
【0151】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0152】
[実施例6]〜[実施例11]
金属層を厚さ1.0nmのAl層(実施例6)、Ni層(実施例7)、Pd層(実施例8)、W層(実施例9)、Co層(実施例10)、Cu層(実施例11)とした以外は実施例5と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。
【0153】
得られた多層反射膜付き基板におけるRu保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は62.00%〜63.65%の範囲となり高反射率であった。
【0154】
尚、多層反射膜付き基板のRu保護膜について、X線回折法のIn−Plane測定法で測定したところ、いずれの実施例でも回折線ピークが(100)、(110)、及び(200)のみ観察され、主として(001)面に配向面を有していた。また、X線光電子分光法(XPS)により多層反射膜付き基板の膜深さ方向の組成分析を行ったところ、多層反射膜の最表面層であるSi層とブロック層との間に、ブロック層を構成する金属成分(Al、Ni、Pd、W、Co、又はCu)の含有量がガラス基板に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在し、さらに、ブロック層とRu保護膜との間に、ブロック層を構成する金属成分(Al、Ni、Pd、W、Co、又はCu)の含有量がRu保護膜に向かって連続的に減少する傾斜領域が存在していることが確認された。
【0155】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をイオンビームスパッタリング(Arを使用)により形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0156】
[比較例1]
<多層反射膜付き基板の製造>
金属層を形成しない以外は参考例1と同様にして多層反射膜付き基板を製造した。ただし、Ru保護膜の膜厚は2.5nmとした。この多層反射膜付き基板における、Ru保護膜表面の波長13.5nmのEUV光に対する反射率は64%と高反射率であった。
【0157】
<EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造>
以上のようにして得られた多層反射膜付き基板を使用して、参考例1と同様にして、Ru保護膜上に、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜をDCスパッタリングにより形成し、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを製造した。
【0158】
[マスク洗浄耐性試験]
上記参考例1〜2、実施例1〜11及び比較例1で得られた各EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクを使用してEUVリソグラフィー用反射型マスクを製造した。具体的には以下の通りである。
【0159】
まず、前記反射型マスクブランクの吸収体膜上に電子線描画用のレジスト膜を形成し、電子線描画機を使用して所定のパターン描画を行った。描画後、所定の現像処理を行い、前記吸収体膜上にレジストパターンを形成した。
【0160】
次に、このレジストパターンをマスクとして、フッ素系ガス(CF
4ガス)により上層のTaBO膜を、塩素系ガス(Cl
2ガス)により下層のTaBN膜をドライエッチングし、吸収体膜に転写パターンを形成し、吸収体膜パターンを形成した。
【0161】
さらに、吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを熱硫酸で除去し、反射型マスクを得た。このようにして各参考例1〜2、実施例1〜11及び比較例1から反射型マスクを20枚ずつ作製した。
【0162】
<RCA洗浄評価1>
この、得られた反射型マスクについて一般的なRCA洗浄を100回繰り返し行い、反射型マスクの洗浄耐性を評価した。
【0163】
その結果、参考例1〜2及び実施例1〜11の反射型マスクについてはいずれも、100回のRCA洗浄後においてRu保護膜の露出面における膜剥れは観察されず、これらが良好な洗浄耐性を有していることが示された。一方比較例1の反射型マスクについては5〜10回の洗浄で膜剥れが発生してしまい、参考例・実施例に比較して洗浄耐性が劣っていた。尚、膜剥離状況はSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察を行った。
【0164】
<RCA洗浄評価2>
さらに、参考例1〜2及び実施例1〜11の反射型マスクについて、上述のRCA洗浄を150回繰り返し行い、反射型マスクの洗浄耐性を評価した。その結果、参考例1〜2の反射型マスクについては、100回のRCA洗浄後においてRu保護膜の露出面における膜剥がれは観察されなかった。実施例1〜2の反射型マスクについては、120回のRCA洗浄後においてRu保護膜の露出面における膜剥がれは観察されず、これらが参考例に比較して良好な洗浄耐性を有していることが示された。また、実施例3〜11の反射型マスクについてはいずれも、150回のRCA洗浄後においてRu保護膜の露出面における膜剥がれは観察されず、これらが特に良好な洗浄耐性を有していることが示された。