【文献】
CLAUS AAGAARD,NATURE MEDICINE,2011年 1月23日,V17 N2,P189-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の融合タンパク質において、硫黄架橋形成及びタンパク質凝集を回避するために、システインが別のアミノ酸で置換されていることを特徴とする融合タンパク質。
請求項4に記載の融合タンパク質において、配列番号18(H64)、配列番号19(H68)、配列番号20(H69)、配列番号21(H70)、又は配列番号22(H71)から選択されるアミノ酸配列を伴うことを特徴とする融合タンパク質。
請求項8に記載のワクチンにおいて、前記アジュバントが、カチオン性リポソーム(例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA))、Quil A、poly l:C、水酸化アルミニウム、フロイント不完全アジュバント、IFN−γ、IL−2、IL−12、モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコラート(TDM)、トレハロースジベヘナート(TDB)、ムラミルジペプチド(MDP)及びモノミコリルグリセロール(MMG)又はこれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とするワクチン。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、場合により潜伏ポリペプチドを含む、Esx−1が関与する、esxファミリーのポリペプチドから選択される結核菌(M.tuberculosis)抗原を含む、融合タンパク質又は抗原カクテルの使用による、結核菌群の種(結核菌(M.tuberculosis)、ウシ型結核菌(M.bovis)、アフリカ型結核菌(M.africanum)、ネズミ型結核菌(M.microti)、M・カネッティ(M.canettii)、M・ピンニペディ(M.pinnipedii)、マイコバクテリウム・ムンギ(Mycobacterium mungi))が引き起こす感染の予防及び処置に関する。融合タンパク質又は抗原カクテルは、ワクチンに入れて、好ましくはアジュバント及び/又は免疫調節剤とともに使用される。
【0008】
本発明は、融合タンパク質又は抗原カクテルにおいて、
(a)配列番号1(ESAT6)、配列番号2(Rv3614c)、配列番号3(Rv3615c)、配列番号4(Rv3865)、配列番号5(Rv3849)及び配列番号6(Rv3872)、若しくは
(b)配列番号2(Rv3614c)、配列番号3(Rv3615c)、配列番号4(Rv3865)、配列番号5(Rv3849)及び配列番号6(Rv3872)、若しくは
(c)配列番号2(Rv3614c)、配列番号3(Rv3615c)、配列番号4(Rv3865)、配列番号5(Rv3849)、配列番号6(Rv3872)及び配列番号7(Rv3616)、若しくは
(d)配列番号2(Rv3614c)、配列番号3(Rv3615c)、配列番号4(Rv3865)、配列番号5(Rv3849)、配列番号6(Rv3872)、配列番号7(Rv3616)及び配列番号8(Rv3881c)、若しくは
(e)配列番号2(Rv3614c)、配列番号3(Rv3615c)、配列番号4(Rv3865)、配列番号5(Rv3849)、配列番号6(Rv3872)及び配列番号8(Rv3881c)、若しくは
(f)配列番号9(Rv3891c)、配列番号10(Rv3890)、配列番号11(Rv0287)、配列番号12(Rv0288)、配列番号13(Rv3620c)及び配列番号14(Rv3619)、若しくは
(g)配列番号11(Rv0287)、配列番号12(Rv0288)、配列番号13(Rv3620c)、配列番号14(Rv3619)、番号7(Rv3616c)及び配列番号3(Rv3615c)、若しくは
(h)配列番号11(Rv0287)、配列番号12(Rv0288)、配列番号13(Rv3620c)、配列番号14(Rv3619)、番号7(Rv3616c)、配列番号3(Rv3615c)及び配列ID9(Rv3881c)、若しくは
(i)配列番号1(ESAT6)、配列番号15(Ag85B)及び配列番号16(Rv1284)、又は
(j)(a)〜(i)の中の配列の何れか1つと少なくとも80%の配列同一性があり、同時に免疫原性があるアミノ酸配列アナログ、
から選択されるアミノ酸配列を含む融合タンパク質又は抗原カクテルを開示する。
【0009】
本発明に係る融合タンパク質中のシステインは、スルフル(sulhur)架橋形成及びタンパク質凝集を回避するために、別のアミノ酸で置換されていることが好ましい。好ましい置換アミノ酸はセリンである。
【0010】
本発明に係る融合タンパク質の融合パートナー同士は、好ましくはリンカー分子で結合して、タンパク質フォールディング及び二量体形成を可能にする。
【0011】
本発明に係る好ましい融合タンパク質は、配列番号18(H64)、配列番号19(H68)、配列番号20(H69)、配列番号21(H70)、配列番号22(H71)、配列番号23(H65)、配列番号24(H72)、配列番号25(H73)又は配列番号26(H67)として提案される。
【0012】
本発明の別の実施形態は、本発明に係る抗原カクテル、例えば、上記のアミノ酸配列(a)〜(i)(配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15及び16を含む)を、ポリペプチドを一緒に融合せずに使用することである。
【0013】
好ましい抗原カクテルは、配列番号16及びH1(配列番号17)を含み、H1は、配列番号1と配列番号15との融合である。
【0014】
さらなる実施形態において、本発明は、上記で定義した融合タンパク質又は抗原カクテルを含む免疫原性組成物又は医薬組成物を、好ましくはワクチンの形態で開示する。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、毒性マイコバクテリア(mycobacteria)によって、例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、アフリカ型結核菌(Mycobacterium africanum)、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)、ネズミ型結核菌(M.microti)、M・カネッティ(M.canettii)、M・ピンニペディ(M.pinnipedii)又はマイコバクテリウム・ムンギ(Mycobacterium mungi)によって引き起こされる結核に対して、ヒトを含む動物を免疫する方法を開示し、当該方法は、上記で定義したポリペプチド、本発明に係る免疫原性組成物、又は本発明に係るワクチンを動物に投与するステップを含む。
【0016】
本発明に係るワクチン、免疫原性組成物及び医薬組成物は、毒性マイコバクテリウム(mycobacterium)に感染していない対象に予防的に、又は毒性マイコバクテリウム(mycobacterium)に既に感染している対象に治療的に使用することができる。
【0017】
定義
ポリペプチド
本発明における「ポリペプチド」という用語は、その通常の意味を有するものとする。それは、全長タンパク質、オリゴペプチド、短鎖ペプチド及びこれらのフラグメントを含む任意の鎖長のアミノ酸鎖であり、アミノ酸残基同士は共有ペプチド結合で結合している。
【0018】
ポリペプチドは、グリコシル化されること、脂質付加されること(例えば、Mowat et al.1991に記載されているパルミトイルオキシスクシンイミドでの化学的脂質付加、又はLustig et al.1976に記載されているドデカノイルクロリドでの化学的脂質付加)、補欠分子族を含むこと、又は追加のアミノ酸、例えば精製タグ(例えばhisタグ)又はシグナルペプチドを含有することにより、化学修飾され得る。精製タグは、高純度のタンパク質製剤を得るために使用され、例えば、Hisタグは、N末端に使用されるとメチオニンを第1のアミノ酸として、その後に6〜8個のヒスチジンを含み、C末端に使用されると、6〜8個のヒスチジン、その後に終止コドンを含む。N末端に使用されると、ポリペプチド融合体をコードする遺伝子におけるメチオニン開始コドンは、翻訳開始部位の誤りを回避するために除去することができる。遺伝子が、選択的な開始コドンGUG又はUUGのうち1つを含有する場合に同様のことが当てはまる。GUG又はUUGは、それぞれ通常はバリン及びロイシンをコードするが、開始コドンとしては、メチオニン又はホルミルメチオニンとして翻訳される。
【0019】
各ポリペプチドは、特異的な核酸配列によってコードされている。当然のことながら、係る配列は、そのアナログ及び変異形を含み、これらにおいて、係る核酸配列は、1種又は複数種の核酸の置換、挿入、付加又は欠失によって修飾されている。置換は、コドン使用頻度におけるサイレント置換が好ましく、これはアミノ酸配列には何ら変化をもたらさないであろうが、タンパク質の発現を増強するために導入してもよい。
【0020】
分泌系
タイプVII分泌系(T7SS)は、細菌の分泌系において最近発見され、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)において最初に同定されたものである。対応する遺伝子群は、ESX(ESAT−6分泌系)領域と呼称された
4〜6。結核菌(M.tuberculosis)H37Rvのゲノムは、遺伝子重複イベントを通して進化し、T7SS分泌機構の構成要素を含む5つの遺伝子群を含有する。これらの群は、ESAT−6分泌系(ESX)1〜5と呼ばれる。ESX系は、従来のシグナルペプチドを欠くタンパク質を分泌することが示されている。さらに、ESX1〜5によって分泌されるタンパク質の大部分は分泌について相互依存に従う
7。
【0021】
Esx−ファミリー
Rv3017c(esxR)を除き、ESAT−6ファミリータンパク質をコードする遺伝子は、結核菌(M.tuberculosis)H37Rv染色体上の11座で、縦列対で配列され、pe−ppe遺伝子対がそれに先行する場合が多い。それらは、アミノ酸約100個の鎖長でESX1〜5系によって分泌されるタンパク質をコードする。
【0022】
本明細書を通して、文脈上他の意味が要求されない限り、「含む(comprise)」という単語、又はその変形、例えば、「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」などは、記載した要素若しくは整数、又は要素若しくは整数の群の包含を意味するが、他の要素若しくは整数、又は要素若しくは整数の群の何れの排除も意味するものではないことが理解されるであろう。
【0023】
免疫原性のポリペプチドとは、毒性マイコバクテリウム(mycobacterium)に現在感染している、又は過去に感染した生体試料又は個体において免疫応答を誘導するポリペプチドと定義される。
【0024】
免疫応答は、以下の方法のうち1つによってモニターすることができる。
・in vitro細胞応答は、毒性マイコバクテリア(mycobacteria)に現在感染している、又は過去に感染した動物又はヒトから取り出したリンパ球からの、IFN−γなどの関連するサイトカインの放出によって、又はこれらのT細胞の増殖の検出によって測定される。ポリペプチド又は免疫原性部分を、ウェル当たり1×10
5個の細胞〜3×10
5個の細胞を含む懸濁液に添加することによって実施される誘導。血液、脾臓、肝臓又は肺から単離される細胞、及び懸濁液1ml当たり20μg以下の濃度になるポリペプチド又は免疫原性部分の添加、並びに2日〜5日実施される刺激。細胞増殖のモニタリングには、放射性標識したチミジンで細胞をパルス標識し、インキュベーションの16〜22時間後、液体シンチレーション計数による増殖の検出。バックグラウンドプラス2標準偏差より高い応答である陽性応答。IFN−γの放出は、当業者に周知のELISA法によって測定することができる。バックグラウンドプラス2標準偏差より高い応答である陽性応答。IFN−γ以外のサイトカイン、例えば、IL−12、TNF−α、IL−4、IL−5、IL−10、IL−6、TGF−βは、ポリペプチドに対する免疫学的応答をモニターする際に関連し得る。サイトカイン(例えばIFN−γ)の存在を測定する別のさらに高感度な方法はELISPOT法であり、血液、脾臓、肝臓又は肺から単離された細胞を1〜4×10
6個の細胞/mlの好ましい濃度に希釈し、1ml当たり20μg以下の濃度になるポリペプチド又は免疫原性部分の存在下で18〜22時間インキュベートする。その後、細胞懸濁液を1〜2×10
6/mlに希釈し、抗IFN−γでコートしたMaxisorpプレートに移し、好ましくは4〜16時間インキュベートする。IFN−γを産生する細胞を、標識した抗IFN−γ二次抗体及びスポットを生じさせる関連の基質の使用によって判定し、解剖顕微鏡を使用してこれを計数することができる。関連するサイトカインをコードするmRNAの存在を、PCR技術の使用によって判定することも実現可能である。通常、例えばPCR、ELISPOT又はELISAを利用して、1種又は複数種のサイトカインを測定することになろう。当業者には理解されるであろうが、特定のポリペプチドによって誘導されるこれらのサイトカインの何れかの量における有意な増加又は減少は、ポリペプチドの免疫学的な活性の評価に使用することができる。
【0025】
・in vitro細胞応答は、免疫のある個体又は結核菌(M.tuberculosis)に感染した個人に由来するT細胞株を使用することによって測定することもでき、この場合、T細胞株は、生マイコバクテリア(mycobacteria)、細菌細胞からの抽出物、又はIL−2を添加した10〜20日間の培養濾液で誘導されたものである。懸濁液1ml当たり20μg以下のポリペプチドを、ウェル当たり1×10
5個の細胞〜3×10
5個の細胞を含有するT細胞株に添加することによって実施される誘導、及び2〜6日実施されるインキュベーション。IFN−γの誘導又は別の関連するサイトカインの放出は、ELISAで測定する。T細胞の刺激は、上記の放射性標識したチミジンを使用して細胞増殖を測定することによってモニターすることもできる。両アッセイについて、バックグラウンドプラス2標準偏差より高い応答である陽性応答。
【0026】
・100μg以下のポリペプチド又は免疫原性部分の皮内注射又は局所施用貼付剤を、毒性マイコバクテリウム(Mycobacterium)に顕性感染又は不顕性感染している個体に施した後、陽性DTH応答として測定することができるin vivo細胞応答、注射又は施用の72〜96時間後に少なくとも5mmの直径を有する陽性応答。
【0027】
・in vitro体液性応答は、免疫のある、又は感染した個体における特定の抗体応答によって測定される。抗体の存在は、ELISA技術又はウェスタンブロットによって判定することができ、この場合、ポリペプチド又は免疫原性部分は、ニトロセルロース膜又はポリスチレン表面に吸収される。血清をPBS中に1:10〜1:100で希釈し、吸収されたポリペプチドに添加するのが好ましく、インキュベーションを1〜12時間実施する。標識した二次抗体の使用により、ODを測定することによって、例えばELISAによって特定の抗体の存在を判定することができ、陽性応答は、バックグラウンドプラス2標準偏差より高い応答、或いはウェスタンブロットにおける視覚応答である。
【0028】
・別の関連するパラメーターは、アジュバント中のポリペプチドを伴うワクチン接種の後、又はDNAワクチン接種の後に誘導される、動物モデルにおける防御の測定である。好適な動物モデルには、毒性マイコバクテリウム(Mycobacterium)の感染に曝露させた、霊長類、モルモット又はマウスが含まれる。防御が誘導されたことの読み取り情報は、非ワクチン接種の動物と比較して標的器官における細菌負荷の減少、非ワクチン接種の動物と比較して生存期間の長期化、及び非ワクチン接種の動物と比較して体重減少幅の減少とすることができよう。
【0029】
免疫原性部分
本発明の好ましい実施形態において、ポリペプチドは、ポリペプチドの免疫原性部分、例えば、B細胞又はT細胞に対するエピトープを含む。ポリペプチドの免疫原性部分はポリペプチドの一部であり、動物又はヒトにおいて、及び/又は本明細書に記載する生物学的アッセイの何れかによって測定される生体試料において、免疫応答を引き出す。ポリペプチドの免疫原性部分は、T細胞エピトープ又はB細胞エピトープであり得る。免疫原性部分は、ポリペプチドの1個又は数個の比較的小さい部分に関連している可能性があり、ポリペプチド配列全体にわたって分散していたり、ポリペプチドの特定の部分に位置していたりする可能性がある。数種のポリペプチドについては、エピトープが、ポリペプチドの全配列にわたる全域に分散していることが示されている(Ravn et al 1999)。
【0030】
免疫応答中に認識される、関連するT細胞エピトープを同定するために、「総当たり(brute force)」法を使用することが可能である。即ち、T細胞エピトープは直鎖状であるため、ポリペプチドの欠失変異体が系統的に構築されれば、例えばこの欠失変異体に、例えば本明細書に記載するIFN−γアッセイを施すことによって、ポリペプチドのどの領域が免疫認識に不可欠であるかがわかるであろう。別の方法では、MHCクラスIIエピトープの検出のために、オーバーラップオリゴペプチドを、好ましくは合成の、例えばポリペプチド由来の鎖長がアミノ酸残基20個のものを利用する。これらのペプチドは、生物学的アッセイ(例えば、本明細書に記載するIFN−γアッセイ)で試験することができ、このうち幾つかは、ペプチド中にT細胞エピトープが存在する証拠として、陽性応答(且つこれによって免疫原性の)を示すであろう。MHCクラスIエピトープの検出については、結合が見込まれるペプチドを予測することが可能であり(Stryhn et al.1996)、その後、これらのペプチドを合成で生成し、関連する生物学的アッセイ、例えば、本明細書に記載するIFN−γアッセイでこれらを試験することが可能である。ポリペプチド由来の、好ましくは鎖長が例えばアミノ酸残基8〜11個のペプチド。B細胞エピトープは、例えばHarboe et al 1998に記載されている、対象のポリペプチドを含むオーバーラップペプチドに対するB細胞の認識を解析することによって判定することができる。
【0031】
T細胞エピトープの最小鎖長は少なくともアミノ酸6個であることが示されているが、係るエピトープが、これより長い長さのアミノ酸で構成されることは普通である。
【0032】
ポリペプチドの免疫原性部分は、遺伝学的に異型遺伝子のヒト集団の広範部(高頻度)にも少数部(低頻度)にも認識され得る。さらに、高い免疫学的応答(優性)を誘導する免疫原性部分もあれば、それより低いが、それでもなお重要な応答(準優性)を誘導する免疫原性部分もある。高頻度><低頻度は、広範に分布したMHC分子(HLAタイプ)に結合する免疫原性部分に関連するか、又は複数のMHC分子によるものでありさえする可能性がある(Kilgus et al.1991、Sinigaglia et al 1988)。
【0033】
しかし、結核に対する新規なワクチン用の候補分子を提供するという状況において、サブドミナット(subdominat)エピトープは、ドミナット(dominat)エピトープと同様に関連した重要性をもつ。なぜなら、係るエピトープは、準優性であっても防御を誘導できることが示されている(国際公開第2008000261号パンフレット)からである。
【0034】
本発明のポリペプチドの共通の特徴は、実施例で例示するとおりの免疫学的応答を誘導する能力である。当然のことながら、置換、挿入、付加又は欠失によって生成する本発明のポリペプチドの変異体も、本明細書に記載するアッセイの何れかによって測定される免疫原性がある。
【0035】
融合タンパク質
「融合タンパク質」という用語は、任意の長さ及び配列のアミノ酸リンカー/スペーサーを伴って、又は伴わずに融合した、結核菌(M.tuberculosis)由来の順不同の2つ以上の免疫原性のポリペプチド又はそのアナログのことと理解される。下流生成でのタンパク質凝集を回避するために、融合タンパク質中の全てのシステインが任意のアミノ酸で置換され得るが、セリンは、その構造がシステインと類似性が高いため、好ましい置換基である。
【0036】
リンカー
リンカー又はスペーサーは、融合タンパク質中のポリペプチドパートナー同士の間に生じる短鎖ペプチド配列である。リンカーは、グリシン及びセリンのような可動性残基から構成されることが多いため、隣接するタンパク質ドメイン同士は互いに対して、分泌/産生中の独立した固有のフォールディングのために自由に動く。2つの隣接するドメインが、互いを立体的に干渉しないように確実にする必要がある場合、長めのリンカーが使用される。
【0037】
パラログ、オルトログ(ortologue)及びホモログ
「パラログ」という用語は、祖先が共通で、その後1つ又は複数の重複事象が生じたために、ある程度の相同性をもつタンパク質又は遺伝子のことであると理解される。パラログはゲノム内の重複が関連する遺伝子であり、一方、共通祖先遺伝子から種分化によって進化した異なる種における相同遺伝子であるオルソログ。ホモログという用語は、種分化の事象によって分離した遺伝子間の関係に適用される(オルソログ)か、又は遺伝子重複の事象によって分離した遺伝子間の関係に適用される(パラログ)。
【0038】
アナログ
配列アナログという用語は、互いが構造的且つ免疫原性的に類似しているが、アミノ酸組成において異なるポリペプチドを意味する。
【0039】
ワクチン
本発明の別の部分は、本発明に係る融合タンパク質を含むワクチン組成物に関する。融合タンパク質本発明が動物に認識される有効なワクチンは、動物モデルにおいて、毒性マイコバクテリウム(Mycobacterium)の感染に曝露させた後、非ワクチン接種の動物と比較して、標的器官において細菌負荷を減少させ、生存期間を長期化させ、且つ/又は体重減少幅を減少させることが可能であろう。
【0040】
係るワクチン組成物は、その最適性能を確保するために、免疫学的に且つ薬学的に許容できる担体、ビヒクル又はアジュバントを含むことが好ましい。
【0041】
好適な担体は、ポリペプチドが疎水性非共有相互作用によって結合するポリマー、例えばポリスチレンなどのプラスチック、若しくはポリペプチドが共有結合するポリマー、例えば多糖など、又はポリペプチド、例えばウシ血清アルブミン、オボアルブミン又はキーホールリンペットヘモシアニンからなる群から選択される。好適なビヒクルは、希釈剤及び懸濁化剤からなる群から選択される。アジュバントは、カチオン性リポソーム(例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA))、Quil A、poly l:C、水酸化アルミニウム、フロイント不完全アジュバント、IFN−γ、IL−2、IL−12、モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコラート(TDM)、トレハロースジベヘナート(TDB)、ムラミルジペプチド(MDP)及びモノミコリルグリセロール(MMG)又はこれらの組合せからなる群から選択されるのが好ましい。
【0042】
ワクチンにアジュバント効果を実現する他の方法には、水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウムなどの作用剤(アラム)、糖の合成ポリマー(Carbopol)の使用が含まれ、熱処理によるワクチン中のタンパク質の凝集、アルブミンに対するペプシン処理(Fab)抗体での再活性化による凝集、C.パルバム(C.parvum)などの細菌細胞又はグラム陰性菌のエンドトキシン若しくはリポ多糖成分との混合物、生理学的に許容できる油性ビヒクル中乳剤、例えばマンニドモノオレイン酸(Aracel A)、又は遮断代用物(block substitute)として使用されるペルフルオロカーボンの20パーセント溶液(Fluosol−DA)を伴う乳剤を使用することもできる。他の可能性として、サイトカイン又は合成IFN−γ誘導物質、例えばpoly l:Cなどの免疫調節物質を、上記のアジュバントと組み合わせて使用することが挙げられる。
【0043】
アジュバント効果を実現する別の興味深い可能性は、Gosselin et al.,1992(これを参照によって本明細書に組み込む)に記載されている技術を使用することである。端的に言えば、本発明の抗原などの関係する抗原は、単球/マクロファージ上のFcγ受容体に対して、抗体にコンジュゲートされ得る(又は抗原は抗体フラグメントに結合する)。
【0044】
ワクチンは、投薬製剤に適合した方法で、治療的に有効で免疫原性が見込まれる量で投与される。投与する量は処置する対象、例えば、個体の免疫系が免疫応答を開始する能力、及び所望される防御の程度などに応じて決まる。好適な投与量範囲は、1ワクチン接種につき数百マイクログラムの活性成分で、順番に、好ましい範囲は約0.1μg〜1000μg、例えば約1μg〜300μgの範囲、特に約10μg〜50μgの範囲である。初回投与及び追加接種に好適なレジメンも不定であるが、代表的なものは、初回投与の後の次の接種又は他の投与である。
【0045】
施用方法は多種多様であり得る。従来のワクチン投与方法の何れかが適用可能である。従来の方法には、固形の生理学的に許容できる基剤で、又は生理学的に許容できる分散液での経口施用、注射などによって非経腸的に、などが含まれると考えられる。ワクチンの投与量は投与経路に依存するであろうし、ワクチン接種される個人の年齢、及び重要性は低いが、ワクチン接種される個人の体の大きさに応じて変化するであろう。
【0046】
ワクチンは、慣用的には、注射によって、例えば皮下又は筋肉内に非経腸的に投与される。他の投与形態に好適なさらなる製剤には、坐剤、及び場合により経口製剤が含まれる。坐剤については、従来の結合剤及び担体として、例えば、ポリアルカレン(polyalkalene)グリコール又はトリグリセリドを挙げることができる。係る坐剤は、活性成分を0.5%〜10%、好ましくは1〜2%の範囲で含有する混合物から形成され得る。経口製剤として、例えば、医薬品グレードの、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような、通常使用される賦形剤が挙げられる。これらの組成物は、溶液剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放製剤又は散剤の形態をとり、10〜95%の、好ましくは25〜70%の活性成分を含有するのが有利である。
【0047】
多くの場合、ワクチンを複数回投与することが必要になるであろう。特に、ワクチンは、毒性マイコバクテリア(mycobacteria)の感染を予防するため、且つ/又は確立したマイコバクテリア感染症を処置するために投与することができる。感染を予防するために投与する場合、ワクチンは、感染症の確定的な臨床徴候又は症状が現れる前に予防的に与えられる。
【0048】
本発明は、毒性マイコバクテリア(mycobacteria)によって引き起こされるTBに対して、ヒトを含む動物を免疫する方法にも関し、当該方法は、本発明のポリペプチド、若しくは上記の本発明のワクチン組成物、又は上記の生ワクチンを動物に投与するステップを含む。
【0049】
治療ワクチン
本発明は、ワクチンとして投与されると、実験動物において結核菌(M.tuberculosis)感染症の重症度を減少させ、又は以前の感染の再活性化を予防するその能力に基づいて、治療ワクチンとして使用するための本発明の融合タンパク質の使用にも関する。治療ワクチン用に使用される組成物は、ワクチンについて上に記載したとおりに調製することができる。
【0050】
H64、H68、H69、H70及びH71:ESX−1が関与するポリペプチドを含む融合タンパク質
マイコバクテリア(Mycobacteria)の分泌系は、細胞外環境へ、又は直接的に宿主細胞中へ、毒性因子を排出することを担っており、このため、細菌の毒性及び生存にきわめて重要な役割をする。ESX−1分泌系の一部は、弱毒化ウシ型結核菌(M.bovis)BCG及び病原性マイコバクテリア種の比較ゲノム解析中に同定された
8。主なゲノムの差異の1つは、ウシ型結核菌(M.bovis)ゲノムにおける、分泌抗原CFP10及びESAT−6をコードする領域を含んだ大幅な欠失であった。この領域は、毒性に特に寄与することが観察され、この領域を修復すると、ESAT−6の分泌が可能になっただけでなく、ウシ型結核菌(M.bovis)BCGにおいて毒性が増大した
4。
【0051】
ESX−1分泌系は、結核菌(M.tuberculosis)群内の全ての病原性マイコバクテリア(mycobacteria)を含む成長の遅いマイコバクテリア(mycobacteria)の中で保存され、in vivoでのマイコバクテリア(mycobacteria)の生存に必要である。分泌されたエフェクター分子の機能は、肉芽腫形成及びファゴソーム成熟の開始に必要であり、ファゴソームからの脱出、細胞溶解及び細胞間伝播、カスパーゼ活性化によるアポトーシス並びにTLR2シグナル伝達の妨害による免疫調節に必須である
6、9。
【0052】
今日では、ESX−1分泌系は、3つの異なる座、即ちESX−1の座、espAオペロン、及び転写制御因子EspRの座によってコードされていることがわかっている
10、11。ESX−1分泌に関与している構成成分の正確な数は今なお議論中であり、異なるマイコバクテリア種間で変化するようである。現在のところ、以下の結核菌(Mycobacterium tuberculosis)遺伝子のESX−1系に対する関係性が示されている。espR、espA、espB、espC、espD、espF、esxA、esxB、mycP1、PE35、Rv3862(WhiB6)、Rv3866、Rv3868、Rv3869、Rv3870、Rv3871、Rv3876、Rv3877、Rv3879c、Rv3881c、Rv3882c、並びにMCE1タンパク質McelB、Mce1C、MCe1F及びRv0177
12、13。
【0053】
実験的に検証された6つのESX−1の基質、Rv3616c(EspA)、Rv3615c(EspC)、Rv3849(EspR)、ESAT−6、CFP−10及びRv3881c(EspB)は、分泌に対して互いに相互依存している
7。
【0054】
ESX−1が分泌する既知の全ての基質は、例えば感染の直後に下方制御されるAg85及び他の代謝関連の抗原とは対照的に、感染の様々な段階で発現性の高い、強力な抗原である。
【0055】
ESX−1が関与する多くのタンパク質の、感染中の様々な時点での発現性の高さ、及び免疫原性の高さを考慮して、ESX−1が関与するタンパク質のうち6つを基にH64骨格の融合タンパク質を作製し、この骨格からH68、H69、H70及びH71融合タンパク質を作製した。
【0056】
H64融合タンパク質は、実験的に証明された3つのESX−1基質(ESAT−6、EspR、EspC)とESX−1が関与する3つの分泌タンパク質(EspD、PE35及びEspF)とからなる。H64融合物中のタンパク質の順序は、ESAT−6、EspD、EspC、EspF、EspR、PE35であるが、他の何れの順序を使用してもよい。H64はアミノ酸716個からなり、理論的分子量は75698g/molであり、等電点は4.56である。結核菌(Mycobacterium tuberculosis)染色体からコードされる野生型配列において、EspD、EspC及びEspRには1つのシステインがある。リフォールディング中の硫黄架橋形成及びタンパク質凝集を伴う問題を回避するため、3つ全てのシステインはアミノ酸セリンで置換されている。
【0057】
H64中の個々のタンパク質についての情報:
ESAT−6(Rv3875)は、CFP10と一緒に、ヘテロ二量体としてESX−1によって分泌される
14。
EspR(Rv3849)は、それ自身の発現の転写活性化因子であり、EspA(Rv3616c)、C及びDを含むオペロンである。EspRタンパク質は、ESX−1によって分泌される
15。
EspC(Rv3615c)の遺伝子発現は、EspRによって制御される。EspCは、ESX−1によって分泌される
11。
EspD(Rv3614c)の遺伝子発現は、EspRによって制御される。EspDは、espCと共転写される。EspDの分泌ではなく発現は、EsxAの分泌に必要である。EspDは、EspA〜EspCの複合体を安定化させる。EspDの分泌は、ESX−1系を必要とするだけというわけではない
16。
PE35(Rv3872)は分泌PEタンパク質である。遺伝子pe35(Rv3872)を不活性化するとCFP−10及びESAT−6の発現が損なわれ、これは調節における役割を示唆するものであった。
EspF(Rv3865)は、分泌タンパク質である。EspFのアミノ酸配列は、EspCと36%同一である。EspFタンパク質を不活性化するとマイコバクテリア(mycobacteria)が弱毒化し、それが生存に重要であることが確認されている。結核菌(M.tuberculosis)EspF変異体の弱毒化の原因は、ESAT−6の分泌の欠如ではなく、むしろ、ESX−1系の未知の別の機能による妨害である
17。
【0058】
H68融合タンパク質は、H64と同じタンパク質を含むが、ESAT−6については、これが結核の診断において重要であるため、この構築物中では除外している。即ち、Rv3614c−Rv3615c−Rv3865−Rv3849−PE35を含む。
【0059】
H69融合タンパク質は、H68と同じタンパク質を含むが、EspC(Rv3616c)を追加している。即ち、Rv3614c−Rv3615c−Rv3616c−Rv3865−Rv3849−PE35を含む。
【0060】
H69中の追加のタンパク質についての情報
EspC(Rv3616c)遺伝子発現は、EspRによって制御される。EspCは、ESX−1によって分泌される
11。
【0061】
H70融合タンパク質は、H69と同じタンパク質を含むが、EspB(Rv3881c)を追加している。即ち、Rv3881c−Rv3614c−Rv3615c−Rv3616c−Rv3865−Rv3849−PE35を含む。
【0062】
H70中の追加のタンパク質についての情報
EspB(Rv3881c)は、ESX−1分泌系によって分泌される。それは、分泌過程中に膜に固定化されたプロテイナーゼMycP1によって開裂される
18。
【0063】
H71融合タンパク質は、H68と同じタンパク質を含むが、EspB(Rv3881c)を追加している。即ち、Rv3881−Rv3614−Rv3615−Rv3865−Rv3849−PE35を含む。
【0064】
H65、H72及びH73:ESAT−6ファミリーポリペプチドを含む融合タンパク質
マイコバクテリア(mycobacteria)由来の幾つかの分泌タンパク質は、強力な細胞免疫応答を誘導することが示されている
18。認識される頻度が最も高い、結核菌(M.tuberculosis)由来の2つのT細胞抗原は、低分子分泌タンパク質、ESAT−6(6−kDa初期分泌抗原性標的)及びCFP−10(10kDa培養濾液タンパク質)であり、Esxファミリーのプロトタイプである
19。ESAT−6及びCFP−10をコードする遺伝子は、互いに直接隣接する位置にあり、共転写される
20。結核菌(M.tuberculosis)H37Rvゲノム配列の解析により、パラロガスなESAT−6ファミリータンパク質をコードする11対のタンデム遺伝子が明らかになった
1。
【0065】
ESAT−6(esx)ファミリーは、23メンバー(11の遺伝子対及び1個の単一遺伝子、Rv0287、Rv0288、Rv1037c、Rv1038c、Rv1197、Rv1198、Rv1792、Rv1793、Rv2346c、Rv2347c、Rv3017c、Rv3019c、Rv3020c、Rv3444c、Rv3445c、Rv3619c、Rv3620c、Rv3874、Rv3875、Rv3890c、Rv3891c、Rv3904c及びRv3905c)を有する。配列同一性はEsxタンパク質間で35%〜98%変化するが、その全てがWXG100ファミリーに属し、アミノ酸約100個のサイズ及びTrp−Xaa−Gly(W−X−G)モチーフの存在を特徴とする
21。これまで、ESAT−6ファミリーメンバーの正確な生物学的機能は解明されていないが、これらは毒性因子である。
【0066】
ESAT−6及びCFP10は、相互作用して1:1ヘテロ二量体を形成し、これは、ESX−1分泌系によるこれらの分泌に必須である
22。他の2組のパラロガスな遺伝子対、EsxR−EsxS及びEsxH−EsxGにコードされるタンパク質も1:1複合体を形成し、これが全てのEsxタンパク質対に典型的であり得ることを示唆している
23、24。
【0067】
EsxH−EsxG複合体は、ESX−3によって分泌される。それはin vitroでの成長に必須であり、鉄/亜鉛ホメオスタシスに関与し
25、26、鉄依存性転写抑制因子IdeR及び亜鉛取り込み制御因子Zurによって制御される
27、28。
【0068】
ESX−5は、マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)におけるPEタンパク質及びPPEタンパク質の分泌、及びマクロファージ破壊に必要であることが知られている
29 30。まず間違いなく、それは、5つのESAT−6パラログ、esxl(rv1037c)、esxL(rv1198)、esxO(rv2346c)、esxV(rv3619c)及び5つのCFP10パラログ、esxJ(rv1038c)、esxK(rv1197)、esxP(rv2347c)、esxW、(rv3620c)の分泌も担っている。M・マリヌム(M.marinum)における、ESX−5が仲介するタンパク質分泌の機能は、中等度及び持続性の感染症を確立することである
31。ESX−5を欠損したマイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)は、過度に毒性で、ESX−5は結核菌(M.tuberculosis)にも見られる。
【0069】
ESX−2及びESX−4の機能は、依然として解明されていないが、他のESX分泌系との機能的及び物理的相同性を基にすると、これらはそれぞれesxC−esxD複合体及びesxT−esxU複合体を分泌しているようである。
【0070】
ESAT−6ファミリータンパク質は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)感染中に発現性が高く、免疫原性が高く、実験データはワクチン接種後のその防御効果を裏付けているため
32、33、6つのESAT−6ファミリータンパク質を基にH65融合タンパク質を構築した。ワクチンを現在の診断検査に適合させるため、最も主要なファミリーメンバー−ESAT−6及びCFP10−を含めなかった。
【0071】
H65融合物中のESAT−6タンパク質の順序は、Rv3891c−Rv3890c−Rv0287−Rv0288−Rv3620c−Rv3619cであるが、何れの順序を使用してもよい。3組のタンパク質結合対のそれぞれの間に9個のアミノ酸GLVPRGSTGリンカー配列を挿入して、タンパク質フォールディング及び二量体形成を可能にする。Rv3890cとRv0287の間に20個のアミノ酸LIGAHPRALNVVKFGGAAFLリンカーを挿入し、Rv0288とRv3630cの間に20個のアミノ酸LGFGAGRLRGLFTNPGSWRIリンカーを挿入する。双方の20個のアミノ酸リンカーの配列は、Rv1886M.ツベルロシス(M.tuberlosis)HRv37タンパク質配列に由来し、このタンパク質中のアミノ酸ポスション(postion)61〜80及び161〜180に対応する
34。これらのリンカーを含めた理由は、これらがヒトエピトープであることが示されており、これらに対するT細胞応答が多量のサイトカインIL−2を分泌するからである。IL−2は、T細胞の成長、増殖及びエフェクターT細胞になるための分化に必要である。ワクチンが誘導したT細胞プールの多様性を増加させることに加えて、これらのIL−2を分泌するT細胞は、他のT細胞がナイーブT細胞からエフェクターT細胞へ分化するのにサイトカインの助けを供与し得る。
【0072】
H72融合物中のESAT−6タンパク質の順序は、Rv3616c−Rv3615c−Rv3620c−Rv3619c−Rv0287−Rv0288−であるが、何れの順序を使用してもよい。
【0073】
H73融合物中のESAT−6タンパク質の順序は、Rv3881c−Rv3616c−Rv3615c−Rv3620c−Rv3619c−Rv0287−Rv0288−であるが、何れの順序を使用してもよい。
【0074】
H67:潜伏ポリペプチドAg85B−ESAT6−Rv1284を含む融合タンパク質
H1ワクチン、Ag85B及びESAT−6(Ag85B−ESAT6)のタンパク質融合物は、一次感染に対してきわめて効率的なワクチンであるが、2つの抗原の発現プロファイルのため、それは感染の初期段階に主要な効果を有する。感染の初期及び後期の両段階において有効な(持続性及び潜伏からの再活性化)ワクチンを開発するために、H1融合タンパク質にRv1284を豊富に含めた。発現試験では、後期段階の感染症をシミュレートするin vitro条件下で、Rv1284の発現が強力であることが示された。したがって、Rv1284を加えることによって、初期感染段階におけるH1の防御効果を高めるだけでなく、その効果を感染の後期段階に拡張することが可能であるはずである。
【0075】
Ag85B、ESAT−6及びR1284を基にH67融合タンパク質をデザインした。これらはタンパク質の順序を反映するものであるが、何れの順序のポリペプチドを使用してもよい。H67はアミノ酸549個からなり、理論的分子量は59548g/molであり、等電点は5.36である。結核菌(Mycobacterium tuberculosis)染色体からコードされる野生型配列において、Ag85Bには3つのシステインがあり、Rv1284には3つのシステインがある。リフォールディング中の硫黄架橋形成及びタンパク質凝集に関する問題を回避するため、3つのシステインの全てがアミノ酸セリンで置換されている。
【0076】
H67中の個々のタンパク質についての情報:
Ag85B(Rv1886c)は、ミコリルトランスフェラーゼ85B、細胞外タンパク質であり、融合タンパク質の中で最も免疫原性のタンパク質として選択され、Ag85B発現において初期の一過的な増加を特徴とするが、感染から10日後には既に、細菌のAg85B発現レベルはCFUにつき約15倍低下し、この低レベルは感染から少なくとも100日後まで維持される
35。
ESAT−6(Rv3875)は、CFP10と一緒に、ヘテロ二量体としてESX−1によって分泌される。ESX−1の基質ESAT−6は、感染中の様々な時点で高い発現性を示し、高い免疫原性を呈する。
Rv1284は、β−炭酸脱水酵素をコードしており、この遺伝子は結核菌(M.tuberculosis)に必須であることが示されている。この遺伝子の発現は、栄養素の不足した培養物において14〜40倍増加することが以前に報告されている
36。
【発明を実施するための形態】
【0078】
実施例
実施例1:予防TBワクチン接種モデルにおける単一タンパク質及び防御
CB6F1マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した組換えタンパク質のうち1つ5μgを3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。ワクチン接種の間隔は2週間とし、3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露した。曝露から6週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図1)。個々のESX−1が関与するタンパク質−Rv3615c、Rv3614c及びRv3849−のワクチン接種は、結核に対して同等で有意な防御を誘導し、このように、BCGのレベルほどではなかった。
【0079】
実施例2:H64融合タンパク質−予防TBワクチン接種モデルにおける免疫応答及び防御
CB6F1マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した融合タンパク質H56又はH64のうち1つ5μgを3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。ワクチン接種の間隔は2週間とし、3回目のワクチン接種から3週間後に、動物から採血し、PBMCを単離し、ワクチンが誘導したT細胞応答を測定した。5×106個のPMBCを、2つの融合タンパク質中に存在する個々のタンパク質2μgで3日間インキュベートし、分泌されたIFN−gを培地中でELISAによって測定した(
図2A)。H56をワクチン接種した動物では、Ag85B及びESAT−6の認識が強く、第3のタンパク質、Rv2660cの認識は弱い。H64をワクチン接種した動物は、ESAT−6及びRv3614に特異的な応答が強く、PE35(Rv3872)及びRv3849に対する応答は中程度である。この近交系マウスでは、Rv3865及びRv3615cに対する応答はない。生理食塩水を注射した動物に応答はなく、これらの応答はワクチンに特異的であることが確認された。
【0080】
3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)H37Rv(
図2B)又は結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)(
図2C)にエアゾールで曝露した。曝露から6週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図2B及び2C)。
【0081】
両実験において、H64又はH56のワクチン接種は、生理食塩水対照群と比較して有意な防御を誘導した。さらに、H56及びH64をワクチン接種した動物におけるCFUを統計的に比較すると、H37Rv曝露後に、H64はH56より有意に細菌数を減少させたことが明らかになった(
図2B)。
【0082】
実施例3:曝露後TBワクチン接種モデルにおけるワクチン接種後のRv3614c及びRv3615cの免疫応答
曝露後TBワクチン接種モデルにおいて、最初にマウスをエアゾール経路で結核菌(M.tb.)に曝露する。感染の潜伏段階を模倣するため、感染後(p.i.)6〜12週間、抗生物質を飲料水に入れてマウスに自由に与える。感染から10週間後、13週間後及び16週間後に、マウスの各群にリポソーム系アジュバントCAF01中に配合した5μgの組換えタンパク質又は等しい体積の塩水(200μl)をワクチン接種した。最後のワクチン接種から1週間後(感染後17週間)、ワクチンが誘導した免疫応答を肺において評価し、肺リンパ球をワクチン−抗原又はTB10.4で6時間再刺激した後、細胞内サイトカイン染色によって判定した。(
図3)。Rv3614c又はRv3615cのワクチン接種は、対照マウスの肺において同等のレベルでの測定が不可能なほど有意な、ワクチンに特異的な免疫応答を誘導した。
【0083】
実施例4:H64融合タンパク質−曝露後TBワクチン接種モデルにおける免疫応答及び防御
曝露後TBワクチン接種モデルを、実施例3に記載したとおりに作製し、これを使用してH64融合タンパク質での曝露後免疫処置の効果を評価した。マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した5μgのH64を3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。H64の免疫原性を、CB6F1(C57BL/6×BALB/c)マウス(
図A〜C)及びFvBマウス(
図4D)の両方で評価した。3回免疫処置した後、リンパ球をマウスの肺から得、個々の構成成分及び/又は融合タンパク質でin vitro刺激した。感染から17週間後に、ワクチンが誘導した応答を測定したが、感染が引き起こす応答は、生理食塩水注射した対照群において測定すると、ごくわずかしかなかった(
図4B)。これは、ワクチン接種した群において測定したIFN−γ応答(
図4A及びD)とは対称的である。予測どおり、認識パターンは、2つの異なるマウス系統、FvB(
図4A)とCB6F1(
図4D)とで異なっていた。FvBマウスのH64ワクチン接種は、主に、Rv3615cに対するIFN−γ応答を誘導したが、一方、CB6F1マウスでは、応答は、ESAT6、Rv3614c、Rv3849、及びこれらより程度は低いがRv3872に対して誘導された。したがって、H64は、相当量のIFN−γの産生をもたらす、免疫原性の高いワクチンである。感染から37週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々のマウスの肺における細菌数を、肺ホモジネートの連続希釈物をプレーティングし、37℃で2〜3週間インキュベートしてからコロニーの数を計数することによって求めた。この時点で、対照動物の平均細菌負荷は4.021log10CFUで、BCGワクチン接種後の平均細菌負荷(3.807log10CFU)とあまり変わらず、一方、H64をワクチン接種したものの細菌負荷はそれより幾分低かった(2.917log10CFU)(
図4C)。
【0084】
実施例5:2つの予防TBワクチン接種モデルにおける、エアゾールTB曝露に対する、7つのESX−1抗原の単一タンパク質による防御
CB6F1マウス又はB6C3F1マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した組換えタンパク質のうち1つ5μgを3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。ワクチン接種の間隔は2週間とし、3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露した。曝露から6週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図5A〜C)。
【0085】
B6C3F1系統において(
図5A及びB)、ESX−1が関与する7つの個々のタンパク質−Rv3616c、Rv3615c、Rv3614c、Rv3865、ESAT−6、Rv3849又はRv3872−のワクチン接種は、生理食塩水対照群に対して、個々の動物の肺における細菌負荷が0.30〜1.31log
10減少値の範囲の様々な程度の防御を誘導した。どの単一タンパク質も、ウシ型結核菌(M.bovis)BCGワクチン接種後に得られた1.53log
10減少値には届かなかった。CB6F1マウス系統において(
図5C)、7つのタンパク質のうち4つ、Rv3615c、Rv3614c、ESAT−6及びRv3849のワクチン接種は、0.24〜0.52log
10の間のCFU減少をもたらす防御免疫応答を誘導した。
【0086】
実施例6:CB6F1マウス系統へのH64の至適予防ワクチン接種用量は、CAF01中5μgのタンパク質である。
CB6F1又はマウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した種々の用量の組換えH64融合タンパク質を3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。ワクチン接種の間隔は2週間とし、3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露した。免疫処置から3週間後に、脾臓(
図6A)及び血液(
図6B)中に存在する、ワクチンに特異的な可能性のあるT細胞を、単離したPBMC及び脾細胞をin vitro刺激することによって測定した。ワクチン用量が多いほど、T細胞応答が強いという一般的傾向。曝露から6週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図6C)。5μgのH64での免疫処置により、細菌数が最も少ないが、最良の防御がもたらされた。
【0087】
実施例7:予防TBワクチン接種モデルにおける単一タンパク質及び防御
CB6F1マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した組換えタンパク質のうち1つ5μgを3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。ワクチン接種の間隔は2週間とし、3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露した。曝露から6週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図7)。ESX−2及びESX−5の個々の分泌タンパク質−Rv3891、Rv3619及びRv3620−のワクチン接種は、結核に対して同等で有意な防御を誘導したが、BCGのレベルほどではなかった。
【0088】
実施例8:CFP10−ESAT6ファミリー融合物−予防TBワクチン接種モデルにおける免疫応答及び防御
パラロガスなESAT−6ファミリータンパク質のうち12個を、6つのタンパク質二量体として融合した:CFP10−ESAT6、Rv3891c−3890c、Rv0287−0288、Rv3445c−3444c、Rv3620c−3619c及びRv3905c−3904c(
図8A)。全てのコンストラックス(construcs)において、2つのタンパク質を、アミノ酸9個の長さのスペーサー配列(GLVPRGSTG)によって分割した。CB6F1マウス又はB6C3F1マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した組換え二量体タンパク質の各々5μgを3回ワクチン接種、等しい体積の塩水(200μL)を3回注射、又はBCGを1回ワクチン接種した。ワクチン接種の間隔は2週間とし、3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露した。曝露から6週間後に全てのマウスを安楽死させ、個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図8B及びC)。CB6F1マウスにおいて、CFP10−ESAT6、Rv3891c−3891c又はRv0287−0288のワクチン接種により、肺における細菌数のlog
10減少値は0.25〜0.45の間になった(
図8B)。同じ3つの二量体融合物及びRv3620c−3619cは、B6C3F1マウスを防御した(
図8C)。2つの系統の何れにおいても、試験した二量体融合物の防御効果は、logl0減少値1.4及び0.85を誘導した生ワクチンBCGのレベルではなかった。B6C3F1マウスでは、CFP10−ESAT6、Rv0287−0288、Rv3445c−3444c、Rv3620c−3619c及びRv3905c−3904cのワクチン接種をした群で、3回目のワクチン接種から3週間後に、ワクチンに特異的な応答が血液中に見られた(
図8D)。
【0089】
実施例9:H65融合タンパク質−予防TBワクチン接種モデルにおける免疫応答及び防御
B6C3F1マウスの各群に、CAF01アジュバント中に配合した5μgのH65(
図9A)を3回、又は生ワクチンウシ型結核菌(M.bovis)BCGを1回ワクチン接種した。ESXが分泌した3つの二量体の各々に対してワクチンが誘導する応答を確認するため、3回目のワクチン接種から3週間後に脾細胞を単離した。5×10
6個のスペノサイツ(spenocytes)をRv3891c−Rv3890c、Rv0287−Rv0288又はRv3620c−Rv3619cの各二量体融合タンパク質の何れか2μgで6時間刺激した。抗原刺激に応答した、IL−2、TNF−α及びIFN−γサイトカインのCD4 T細胞発現を、多色フローサイトメトリで測定した(
図9B)。応答の順位はRv3891c−Rv3890c>Rv0287−Rv0288>Rv3620c−Rv3619cであったが、3つの二量体タンパク質の全てについて、IL−2
+、TNF−α
+、IFN−γ
+及びIL−2
+、TNF−α
+のCD4 T細胞を含む、ワクチンに特異的な多機能性のT細胞が観察された。3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露し、その6週間後に安楽死させた。個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図9C)。H65及びBCGの両方が有意な防御を誘導した(log
10減少値約0.7)。
【0090】
CB6F1マウスの各群に、CAF01アジュバント中に配合した5μgのH65(
図9A)又はH56(Ag85B−ESAT6とRv2660cとの融合物)を3回、又は生ワクチンウシ型結核菌(M.bovis)BCGを1回ワクチン接種した。H65中の6つの抗原のうちどれがCB6F1近交系マウスにおいて免疫原性であるかを確証するため、3回目のワクチン接種から3週間後にスプレニオサイツ(spleniocytes)を単離した。5×10
6個のスペノサイツ(spenocytes)を、Rv3891c、Rv3890c、Rv0287、Rv0288、Rv3620c又はRv3619cの各単一タンパク質2μgで72時間刺激した(
図10A)。H65をワクチン接種した動物から単離し、Rv0287、Rv0288、Rv3620c又はRv3619cで刺激した細胞の培地には相当量のIFN−γが放出されたが、一方、Rv3891cに対してもRv3890cに対しても応答はなかった(
図10A)。生理食塩水を注射した動物では、刺激後、6つの抗原の何れにも応答はなかった(
図10B)。
【0091】
3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露し、その6週間後又は24週間後に安楽死させた。個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図10C及びD)。曝露から6週間後に(
図9C)、H65及びH56は両方とも同様の有意な防御をもたらした(log
10減少値約0.8)。曝露から24週間後に(
図10D)、H65又はH56のワクチン接種は、依然として肺における細菌数の同等の減少を誘導したが、対照群(CAF01)と比較すると、その差はもはや統計的に有意なものではなかった(log
10減少値=H65で0.37及びH56で0.34)。
【0092】
実施例10:H65融合タンパク質−2つのマウス系統における曝露後ワクチン接種後の免疫応答
曝露後TBワクチン接種モデルにおいて、最初にマウスをエアゾール経路で結核菌(M.tb.)に曝露する。感染の潜伏段階を模倣するため、感染後(p.i.)6〜12週間、抗生物質を飲料水に入れてマウスに自由に与える。FvBマウス又はCB6F1マウスの各群に、リポソーム系アジュバントCAF01中に配合した5μgのH65を3回ワクチン接種、又は等しい体積の塩水(200μL)を3回注射した。
【0093】
感染から17週間後、H65の構成成分(Rv3891c、Rv3890c、Rv0287、Rv0288、Rv3620c、Rv3619c)に特異的な、感染が引き起こす免疫応答を、感染したFvBマウスの肺において測定したが、応答はほとんど検出されなかった(
図11B)。ワクチン接種後、FvBマウス系統において、Rv3619cに対する肺の中の明白な応答を測定した(
図11A)。CB6F1マウス系統では、さらに、Rv0287及びRv0288に対して生じた応答があった(
図11C)。したがって、H65融合タンパク質は免疫原性が高く、ワクチンに特異的なIFN−γ放出を強く誘導する。感染から37週間後に、細菌数を個々のマウスにおいて計数した(
図10D)。H65ワクチン接種群と陰性対照群を比較すると、H65をワクチン接種した動物にはCFUの減少が見られる。防御レベルは陽性対照(H56)と同等で、BCGワクチンについてよりも顕著であった。
【0094】
実施例11:Rv1284タンパク質の発現量は栄養飢餓で増加する
Rv1284は、以前、結核菌(M.tuberculosis)溶解物中でプロテオミクスによって同定された
37。栄養飢餓でのタンパク質の発現量を調査するため、二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D DIGE)を施用して、結核菌(M.tuberculosis)H37Rv細菌の培養濾液(CF)及び溶解物プロテオームを、正常な対数期成長において、及び6週間の栄養飢餓の後で調査した。
【0095】
変法ソートン培地200mlを含有するエルレンマイヤーフラスコに、ml当たり2×10
6個の細菌を播種し、37℃の標準的な振盪培養器に入れた。対数期への7日間の成長の後、培養物をペレット状にし、PBSで2回洗浄し、PBS200ml中に再懸濁させ、次いで、振盪せずに6週間インキュベートした。対照対数期培養物を、500mlフラスコに入れた変法ソートン培地200ml中で、37℃にて振盪条件で7日間培養した後に得た。培養物を収集してから、細菌ペレットをPBS中で2回洗浄し、10mMトリス、250mMスクロース緩衝液、pH7.0中に再懸濁させ、Mini−Beadbeaterを使用して、ガラスビーズで破砕した。溶解物を滅菌濾過し、タンパク質濃度を2−DQuantキット(GE Healthcare)で測定した。さらに、培養培地を回収し、滅菌濾過し、Centriprep−3限外濾過装置で約160倍に濃縮した。
【0096】
溶解物及びCF試料を、2つの別々の実験で分析した。各2D DIGE実験に、三通りの対数期及び飢餓試料を含めた。各試料50μgを2D Clean−upキット(GE Healthcare)で2D DIGE用に調製し、30mMトリス、7M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS、pH8.5中に再溶解した。Cy2、Cy3及びCy5のミニマルラベリングを125pmolの各CyDyeで実施し、次いでpH4〜7のIPGストリップで等電点電気泳動を実施した。Cy2、Cy3及びCy5で標識した試料を、8M尿素、2%CHAPS、0.5%IPG緩衝液、18mM DTT中での再水和ステップ中に施用した。第2次元分離を10〜20%トリス−グリシンSDS−PAGE勾配ゲル中で実施した。電気泳動の後で、ゲルをTyphoon9410ゲルイメージャーでスキャンし、スポット画像をImage Master Platinum2.0ソフトウェアで分析した。体積比で1.5倍の差を超えたスポット、p<0.05(スチューデントのt−検定)を選択して同定した。2D DIGEゲルを銀染色し、スポットを摘出してMALDI−TOF MS又はMALDI−TOF MS/MS解析を行った。2つのスポット(
図12の#1666及び#1669)で、対数期培養物と比較して、6週間栄養飢餓を施した培養物のCFにおける発現量の増加が見られた。これらのスポットは、MALDI−TOF MS及びMALDI−TOF MS/MSによってRv1284と同定された。同時に、これらのスポットは、栄養飢餓の培養物由来の溶解物において増加したとしても選択され、MSによってRv1284であると確認された。
【0097】
実施例12:予防TBワクチン接種モデルにおけるRv1284の免疫応答及び防御。
CB6F1マウス及びB5C3F1マウスの各群に、CAF01アジュバント中に配合した5μgのRv1284を3回、又は生ワクチンウシ型結核菌(M.bovis)BCGを1回ワクチン接種した。ワクチンが誘導した応答を測定するため、3回目のワクチン接種から2週間後に、個々のアニアムスル(aniamsl)から血液を採取し、PBMCを単離した。5×10
6個のPBMCを2μgのワクチン抗原(Rv1284)又は対照抗原(Rv0287)で72時間刺激し、放出されたIFN−γをELISAによって細胞培地中で測定した(
図13A及びB)。両マウス系統において、Rv1284のワクチン接種は、抗原に特異的な有意な免疫応答を誘導した。
【0098】
3回目のワクチン接種から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露し、その6週間後に安楽死させた。個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図13C及びD)。Rv1284のワクチン接種は、両系統において、生理食塩水対照群と比較して細菌数を有意に減少させた(log
10減少値=CB6F1で0.43及びB6C3F1で0.54)。
【0099】
実施例13:予防TBワクチン接種モデルにおけるH1+Rv1284の防御効果。
FVB(H2^q)マウスの各群に、CAF01アジュバント中に配合した5μgのH1融合タンパク質又はH1+Rv1284を3回ワクチン接種した。対照群に3回の生理食塩水注射を施した。3回目のワクチン接種/注射から6週間後に、全ての動物を毒性結核菌(M.tuberculosis)エルドマン(Erdman)にエアゾールで曝露し、その6週間後に安楽死させた。個々の動物の肺における細菌数を、肺ホモジネートの希釈物をプレーティングし、コロニーの数を計数することによって求めた(
図14)。FVBマウスへのH1融合タンパク質のワクチン接種は細菌数を半減させただけであったが(log
10減少値=0.32)、H1+Rv1284の混合物は細菌数を6.6倍減少させた(log
10減少値=0.82)。統計的に、H1+Rv1284をワクチン接種した動物は、生理食塩水を注射した群とH1をワクチン接種した群の両方より、細菌負荷が有意に低かった。
【0100】
実施例14:曝露後単一タンパク質のワクチン接種後の、Ag85B、ESAT−6及びRv1284の免疫応答
実施例3に記載したプロトコルに従って、マウスを感染させ、抗生物質で処置し、ワクチン接種した。ここでは、マウスの各群に、全てリポソーム系アジュバントCAF01中に配合したAg85B、ESAT6又はRv1284を3回ワクチン接種した。対照マウスを同様に塩水でワクチン接種した。最後のワクチン接種から1週間後に、リンパ球を肺から得、感染が引き起こす応答の測定として、それぞれのワクチン抗原、即ちAg85B、ESAT6又はRv1284、及びTB10.4で6時間in vitro培養に使用した。ワクチン−又は感染−が引き起こす応答を、細胞内サイトカインの染色によって測定し、CD4 T細胞レスポンダーの累積度数、発現、IFN−γ、IL−2、TNF−α又はこの3つの任意の組合せを判定した。Ag85B、ESAT−6又はRv1284のワクチン接種は全て、対照動物において同等のレベルでの測定が不可能なほど有意な、ワクチンに特異的なCD4 T細胞応答を誘導した(
図15)。TB10.4感染が引き起こすCD4 T細胞応答は、比較すると低いが、この特定の時点では細菌負荷がまだ比較的低いことを考慮すると、これは予測されることである。
【0101】
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