【文献】
Kenichi Goushi and Chihaya Adachi,Efficient organic light-emitting diodes through up-conversion from triplet to singlet excited states,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,American Institute of Physics,2012年 7月12日,101,023306-1-4
【文献】
Takuya Kawata et al.,Highly Efficient OLED Devices with Device Architecture for Reducing Drive Voltage,SID Symposium Digest of Technical Papers,2013年 7月 1日,Volume 44, Issue 1,pp.685-688
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホスト化合物および発光材料であるゲスト化合物を含む発光層と、ドナー化合物およびアクセプター化合物を含有する遅延蛍光エキサイプレックス層とを含む少なくとも2層の有機層を一対の電極間に有しており、
前記ホスト化合物および前記ゲスト化合物と、前記ドナー化合物および前記アクセプター化合物とが、下記式(1)で表される条件を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
式(1) ES1>ES1G かつ ES1H>ES1G
[式(1)において、ES1はドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1Hはホスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1Gはゲスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す。]
発光層と、ドナー化合物およびアクセプター化合物を含有する遅延蛍光エキサイプレックス層と、前記発光層と前記遅延蛍光エキサイプレックス層との間に、前記遅延蛍光エキサイプレックス層から前記発光層への励起三重項エネルギーの移動を抑制する三重項励起子ブロッキング層とを、一対の電極間に有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて
1Hであってもよいし、一部または全部が
2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0011】
[有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に設けられた有機層を有する。有機層は、発光層および遅延蛍光エキサイプレックス層の少なくとも2層を含むものであり、本発明では、このうち遅延蛍光エキサイプレックス層を有する点に特徴がある。この特徴については、後に詳述する。
典型的な本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成例を
図1に示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は三重項励起子ブロッキング層、7は遅延蛍光エキサイプレックス層、8は電子輸送層、9は陰極を表わす。有機層は、
図1(a)に例示するように、発光層および遅延蛍光エキサイプレックス層のみからなるものであってもよいし、
図1(b)や
図1(c)に例示するように、これらの他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、三重項励起子ブロッキング層、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。
以下、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。
【0012】
[遅延蛍光エキサイプレックス層]
遅延蛍光エキサイプレックス層は、ドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が層内で再結合することにより、ドナー化合物とアクセプター化合物との間で励起状態が形成され、かつ、この励起状態において励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が生じる層である。
本発明では、このドナー化合物とアクセプター化合物との間で形成される励起状態を「エキサイプレックス」という。
遅延蛍光エキサイプレックス層で形成される励起状態(エキサイプレックス)は、励起状態を形成する二分子が空間的に離れていることに起因して、一分子で形成される励起状態に比べて励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーとの差ΔEstが小さいものと考えられる。このため、この遅延蛍光エキサイプレックス層では、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が高い確率で発生する。
【0013】
このような遅延蛍光エキサイプレックス層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子では、陽極および陰極の間に電流を流すと、陽極から正孔が、陰極から電子が注入され、この正孔と電子とが遅延蛍光エキサイプレックス層で再結合し、ドナー化合物とアクセプター化合物との間で励起状態が形成される。励起状態のうち励起一重項状態のエネルギーは、フェルスター機構で発光層の発光材料に移動し、該発光材料を一重項状態に励起する。一方、励起三重項状態は、化合物種やその他の条件によって定まる一定の確率で、励起一重項状態に逆項間交差し、同様の機構で発光層の発光材料を一重項状態に励起する。一重項状態に励起された発光材料は基底状態に戻るときに蛍光を発光する。なお、逆項間交差に起因する蛍光発光は、通常の蛍光(即時蛍光)よりも遅れた遅延蛍光として観察される。
ここで、正孔と電子との再結合によって形成される励起状態の形成確率は、励起三重項状態の方が励起一重項状態よりも大きいが、この遅延蛍光エキサイプレックス層では、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が高い確率で発生するため、結果として高い一重項励起子生成効率を得ることができる。このため、上記のような機構によって発光層の発光材料を効率よく蛍光発光させることができる。
【0014】
(アクセプター化合物)
エキサイプレックス層に用いるアクセプター化合物は、式(3)と式(4)の条件を満たす化合物であることが好ましい。すなわち、アクセプター化合物のリン光スペクトルにおける短波長側のピーク波長で規定される励起三重項エネルギー(T
1A)が、エキサイプレックス発光のピーク波長で規定されるエキサイプレックスの励起一重項エネルギー(S
1)よりも大きくて、その差が0.2eV超であることが好ましい。アクセプター化合物の励起三重項エネルギー(T
1A)とエキサイプレックスの励起一重項エネルギー(S
1)の差は、0.3eV超であることがより好ましく、0.4eV超であることがさらに好ましい。また、アクセプター化合物のLUMOのエネルギー準位(|LUMO
A|)は2.0eV超であることが好ましく、2.5eV超であることがより好ましく、3.0eV超であることがさらに好ましい。
式(3) T
1A−S
1 > 0.2eV
式(4) |LUMO
A| > 1.9eV
【0015】
好ましいアクセプター化合物として以下の一般式[1]〜[4]で表される化合物を例示することができる。
【化1】
【0016】
一般式[1]におけるAr
1、Ar
2およびAr
3は、各々独立に芳香族炭化水素環を表す。Ar
1、Ar
2およびAr
3は同一であっても異なっていてもよいが、好ましいのは同一である場合である。Ar
1、Ar
2およびAr
3がとりうる芳香族炭化水素環は、環骨格構成炭素数が1〜22であることが好ましく、1〜14であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましい。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環などを挙げることができ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がさらに好ましい。
一般式[1]におけるR
1、R
2およびR
3は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよいが、好ましいのは同一である場合である。R
1、R
2およびR
3は、それぞれAr
1、Ar
2およびAr
3の芳香族炭化水素環の置換基として環に結合するものである。
R
1、R
2およびR
3がとりうるアルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であっても、環状であってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアルキル基である。アルキル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜3であること(すなわちメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基)がさらにより好ましい。環状のアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができる。R
1、R
2およびR
3がとりうるアルキル基は置換されていてもよく、その場合の置換基としてはアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基を挙げることができる。ここでいうアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、下記のR
1、R
2およびR
3がとりうるアルコキシ基の記載を参照することができる。ここでいうアリール基は、1つの芳香環からなるものであってもよいし、2以上の芳香環が融合した構造を有するものであってもよい。アリール基の環骨格構成炭素数は、6〜22であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であること(すなわちフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基)がさらにより好ましい。また、ここでいうアリールオキシ基は、1つの芳香環からなるものであってもよいし、2以上の芳香環が融合した構造を有するものであってもよい。アリールオキシ基の環骨格構成炭素数は、6〜22であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であること(すなわちフェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基)がさらにより好ましい。
【0017】
R
1、R
2およびR
3がとりうるアルコキシ基は、直鎖状であっても、分枝状であっても、環状であってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアルコキシ基である。アルコキシ基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜3であること(すなわちメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基)がさらにより好ましい。環状のアルコキシ基としては、例えばシクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基を挙げることができる。R
1、R
2およびR
3がとりうるアルコキシ基は置換されていてもよく、その場合の置換基としてはアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基を挙げることができる。ここでいうアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基の説明と好ましい範囲については、上記の記載を参照することができる。
【0018】
一般式[1]におけるm1、m2およびm3は、各々独立に、0〜4のいずれかの整数を表す。好ましくは、0〜3のいずれかの整数である。例えばAr
1、Ar
2およびAr
3がベンゼン環であるとき、2,4,6位の3置換体、3,5位の2置換体、2位の1置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。m1、m2およびm3は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。m1が2以上であるとき、分子内に存在する複数のR
1は互いに同一であっても異なっていてもよい。m2およびm3についても同じである。
【0019】
一般式[1]におけるPy
1、Py
2およびPy
3は、各々独立に、置換もしくは無置換ピリジル基を表す。Py
1、Py
2およびPy
3は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。Py
1、Py
2およびPy
3は、それぞれAr
1、Ar
2およびAr
3の芳香族炭化水素環の置換基として環に結合するものである。Py
1、Py
2およびPy
3がとりうるピリジル基としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基を挙げることができ、いずれも好ましいが、中でも3−ピリジル基がより好ましい。ピリジル基はさらに置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。ピリジル基が置換されている場合の置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基を挙げることができ、その説明と好ましい範囲についてはR
1、R
2およびR
3の対応する記載を参照することができる。
【0020】
一般式[1]におけるn1、n2およびn3は、各々独立に、1〜3のいずれかの整数を表す。好ましくは、1または2である、例えばAr
1、Ar
2およびAr
3がベンゼン環であるとき、3位の1置換体や3,5位の2置換体を挙げることができる。n1、n2およびn3は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。n1が2以上であるとき、分子内に存在する複数のPy
1は互いに同一であっても異なっていてもよい。n2およびn3についても同じである。
【0022】
一般式[2]におけるYは
【化3】
S(硫黄原子)またはSO
2(スルホニル基)を表す。*印は結合位置を表す。すなわち、一般式[2]は以下の一般式[2−1]と一般式[2−2]と一般式[2−3]の3つの構造を包含するものである。好ましいのは一般式[2−2]で表される構造である。
【化4】
【0023】
R
11、R
12、R
13およびR
14は、各々独立に、
【化5】
を表す。Ar
11およびAr
12は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリール基を表す。Ar
11とAr
12は同一であっても異なっていてもよいが、好ましいのは同一である場合である。ここでいう置換もしくは無置換のアリール基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]における対応する記載を参照することができる。Ar
11およびAr
12として、例えばフェニル基を好ましい例として挙げることができる。R
11、R
12、R
13およびR
14は同一であっても異なっていてもよいが、好ましいのは同一である場合である。
【0024】
一般式[2]におけるn11、n12、n13およびn14は、各々独立に、0〜2のいずれかの整数を表す。好ましいのは、0または1である。ただし、n11、n12、n13およびn14の総和は1以上であり、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1または2である。総和が2以上であるとき、分子内に存在する複数の
【化6】
は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。
【0026】
一般式[3]におけるZ
21は下記のいずれかの構造:
【化8】
を表す。X
1およびX
2は、ともに−CH=であるか、X
1が単結合でX2が−CH=CH−であるか、X
1が−CH=CH−でX
2が単結合である。X
1およびX
2を含む環骨格はベンゼン環を構成する。pは0〜3のいずれかの整数を表し、例えば0または1とすることができる。qは0〜3のいずれかの整数を表し、例えば0または1とすることができる。
【0027】
一般式[3]におけるL
21は置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。ここでいうアリーレン基は、1つの芳香環からなるものであってもよいし、2以上の芳香環が融合した構造を有するものであってもよい。アリーレン基の環骨格構成炭素数は、6〜22であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であることがさらにより好ましく、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基がさらにより好ましく、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基が特に好ましい。アリ−レン基が置換されている場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基を挙げることができ、これらの説明と好ましい範囲については一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
【0028】
一般式[3]におけるPy
21は置換もしくは無置換ピリジル基を表す。ここでいう置換もしくは無置換ピリジル基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
【0029】
一般式[3]におけるn21は2〜6のいずれかの整数を表す。好ましくは2〜4のいずれかの整数であり、より好ましくは3または4である。分子内に存在する複数の(L
21−Py
21)は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。
【0031】
一般式[4]におけるL
31、L
32およびL
33は、各々独立に、単結合または置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。L
31、L
32およびL
33は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ここでいう置換もしくは無置換のアリーレン基の説明と好ましい範囲については、一般式[3]の対応する記載を参照することができる。例えば、1,3−フェニレン基を採用することができる。
一般式[4]におけるPy
31、Py
32およびPy
33は、各々独立に、置換もしくは無置換ピリジル基を表す。Py
31、Py
32およびPy
33は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ここでいう置換もしくは無置換ピリジル基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
一般式[4]におけるn31、n32およびn33は、各々独立に、1〜3のいずれかの整数を表し、1または2であることが好ましい。例えば2,4,6位の3置換体、3,5位の2置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。n31、n32およびn33は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。n31が2以上であるとき、分子内に存在する複数の(L
31−Py
31)は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。n32およびn33についても同じである。
【0032】
本発明で用いるアクセプター化合物は、商業的に入手可能であるか、または既知の合成法を必要に応じて組み合わせることにより合成することができる。
【0033】
以下に、本発明でアクセプター化合物として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。以下の例示化合物の中では、化合物1、化合物2、化合物3、化合物3’化合物4、化合物7および化合物8がより好ましく、化合物1、化合物2、化合物3および化合物3’がさらに好ましく、化合物1、化合物3および化合物3’がさらにより好ましく、化合物3’が最も好ましい。なお、本発明で用いることができるアクセプター化合物の範囲は、以下の具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0036】
(ドナー化合物)
エキサイプレックス層に用いるドナー化合物は、式(5)と式(6)の条件を満たす化合物であることが好ましい。すなわち、ドナー化合物のリン光スペクトルにおける短波長側のピーク波長で規定される励起三重項エネルギー(T
1D)が、エキサイプレックス発光のピーク波長で規定されるエキサイプレックスの励起一重項エネルギー(S
1)よりも大きくて、その差が0.2eV以上であることが好ましい。ドナー化合物の励起三重項エネルギー(T
1D)とエキサイプレックスの励起一重項エネルギー(S
1)の差は、0.3eV超であることがより好ましく、0.4eV超であることがさらに好ましい。また、ドナー化合物のHOMOのエネルギー準位(|HOMO
D|)は5.3eV以下であることが好ましく、5.2eV未満であることがより好ましく、5.1eV未満であることがさらに好ましい。
式(5) T
1D−S
1 ≧ 0.2eV
式(6) |HOMO
D| ≦ 5.3eV
【0037】
好ましいドナー化合物として以下の一般式[11]〜[15]で表される化合物を例示することができる。
【化12】
【0038】
一般式[11]におけるR
51、R
52、R
53、R
54、R
55、R
56は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。R
51、R
52、R
53、R
54、R
55、R
56は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ここでいう置換もしくは無置換のアルキル基と置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
【0039】
一般式[11]におけるn51、n52、n53、n54、n55およびn56は、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。好ましくは0〜3のいずれかの整数であり、より好ましくは0〜2のいずれかの整数である。n51、n52、n53、n54、n55およびn56は同一であっても異なっていてもよいが、n51、n53およびn55は同一であって、n52、n54およびn56は同一であることが好ましい。例えばn51、n53およびn55が1または2であって、n52、n54およびn56が0である例を好ましく挙げることができる。置換形式については、例えば2,4,6位の3置換体、3,5位の2置換体、2位の1置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。n51が2以上であるとき、分子内に存在する複数のR
51は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。また、分子内に存在する複数のR
51のうちの2つのR
51がベンゼン環の隣り合う炭素原子に結合しているとき、当該2つのR
51は互いに結合して連結基を形成していてもよい。当該2つのR
51が互いに結合して連結基を形成することにより、ベンゼン環に融合した環が形成される。2つのR
51が互いに結合して形成する連結基の連結鎖原子数は3〜5であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。連結基としては、例えばアルキレン基、アルケニレン基を例示することができる。好ましい具体例として−CH=CH−CH=CH−や、その4つの水素原子の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換された連結基を挙げることができる。ここでいう置換もしくは無置換のアルキル基と、置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。n51に関する上記説明は、n52、n53、n54、n55およびn56についても同じである。
【0041】
一般式[12]におけるR
61、R
62、R
63、R
64、R
65およびR
66は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。R
61、R
62、R
63、R
64、R
65およびR
66は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ここでいう置換もしくは無置換のアルキル基と置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
一般式[12]におけるm61、m62およびm63は、各々独立に、1または2のいずれかを表す。例えば、3,5位の2置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。m61が2以上であるとき、分子内に存在する複数の
【化14】
は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。m62およびm63についても同じである。m61、m62およびm63は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
一般式[12]におけるn61、n62、n63、n64、n65およびn66は、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。好ましいのは0〜3のいずれかの整数であり、より好ましいのは0〜2のいずれかの整数である。例えば、2,4,6位の3置換体、3,5位の2置換体、2位の1置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。n61が2以上であるとき、分子内に存在する複数のR
61は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。また、分子内に存在する複数のR
61のうちの2つのR
61がベンゼン環の隣り合う炭素原子に結合しているとき、当該2つのR
61は互いに結合して連結基を形成していてもよい。当該2つのR
61が互いに結合して連結基を形成することにより、ベンゼン環に融合した環が形成される。2つのR
61が互いに結合して形成する連結基の連結鎖原子数は3〜5であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。連結基としては、例えばアルキレン基、アルケニレン基を例示することができる。好ましい具体例として−CH=CH−CH=CH−や、その4つの水素原子の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換された連結基を挙げることができる。ここでいう置換もしくは無置換のアルキル基と、置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。n61に関する上記説明は、n62、n63、n64、n65およびn66についても同じである。n61、n62、n63、n64、n65およびn66は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0043】
一般式[13]におけるR
71、R
72、R
73およびR
74は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または
【化16】
を表す。R
75およびR
76は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。R
71、R
72、R
73、R
74、R
75およびR
76がとりうる置換もしくは無置換のアルキル基と置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。R
71、R
72、R
73およびR
74は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0044】
一般式[13]におけるm71は、0または1を表し、いずれも好ましい。
一般式[13]におけるn71、n72、n73、n74、n75およびn76は、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。好ましくは0〜3のいずれかの整数であり、より好ましくは0〜2のいずれかの整数である。例えば、2,4,6位の3置換体、3,5位の2置換体、2位の1置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。n71が2以上であるとき、分子内に存在する複数のR
71は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。また、分子内に存在する複数のR
71のうちの2つのR
71がベンゼン環の隣り合う炭素原子に結合しているとき、当該2つのR
71は互いに結合して連結基を形成していてもよい。当該2つのR
71が互いに結合して連結基を形成することにより、ベンゼン環に融合した環が形成される。2つのR
71が互いに結合して形成する連結基の連結鎖原子数は3〜5であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。連結基としては、例えばアルキレン基、アルケニレン基を例示することができる。好ましい具体例として−CH=CH−CH=CH−や、その4つの水素原子の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換された連結基を挙げることができる。ここでいう置換もしくは無置換のアルキル基と、置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。n71に関する上記説明は、n72、n73、n74、n75およびn76についても同じである。n71、n72、n73およびn74は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また、n75およびn76は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0046】
一般式[14]におけるQは、環状構造を形成するために必要な原子団を表す。Qは、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、置換もしくは無置換のアルキニレン基であることが好ましく、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基であることがより好ましく、置換もしくは無置換のアルキレン基であることがさらに好ましい。Qの環骨格構成炭素数は4〜10であることが好ましく、5〜8であることがより好ましく、5〜7であることがさらに好ましい。Qの具体例として、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ブタジエニレン基を例示することができる。Qがとりうるアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基を挙げることができる。これらの置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR
1、R
2およびR
3における対応する記載を参照することができる。Qがとりうるアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基は無置換であることも好ましい。
【0047】
一般式[14]におけるR
81、R
82、R
83およびR
84は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。R
81、R
82、R
83およびR
84がとりうる置換もしくは無置換のアルキル基と置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
【0048】
一般式[14]におけるn81、n82、n83およびn84は、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。好ましくは0〜3のいずれかの整数であり、より好ましくは0〜2のいずれかの整数である。例えば、2,4,6位の3置換体、3,5位の2置換体、2位の1置換体、3位の1置換体、4位の1置換体を挙げることができる。n81が2以上であるとき、分子内に存在する複数のR
81は互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは同一である場合である。また、分子内に存在する複数のR
81のうちの2つのR
81がベンゼン環の隣り合う炭素原子に結合しているとき、当該2つのR
81は互いに結合して連結基を形成していてもよい。当該2つのR
81が互いに結合して連結基を形成することにより、ベンゼン環に融合した環が形成される。2つのR
71が互いに結合して形成する連結基の連結鎖原子数は3〜5であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。連結基としては、例えばアルキレン基、アルケニレン基を例示することができる。好ましい具体例として−CH=CH−CH=CH−や、その4つの水素原子の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換された連結基を挙げることができる。ここでいう置換もしくは無置換のアルキル基と、置換もしくは無置換のアルコキシ基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。n81に関する上記説明は、n82、n83およびn84についても同じである。n81、n82、n83およびn84は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0050】
一般式[15]におけるR
91およびR
92は、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。R
91およびR
92がとりうるアルキル基およびアリール基の説明と好ましい範囲については、一般式[1]の対応する記載を参照することができる。
【0051】
本発明で用いるドナー化合物は、商業的に入手可能であるか、または既知の合成法を必要に応じて組み合わせることにより合成することができる。
【0052】
以下に、本発明でドナー化合物として用いることができる化合物の具体例を挙げる(Meはメチル基、Etはエチル基を表す)。以下の例示化合物の中では、化合物11、化合物12および化合物13がより好ましく、化合物11および化合物12がより好ましく、化合物12がさらにより好ましい。なお、本発明で用いることができるドナー化合物の範囲は、以下の具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0054】
【化20】
また、ドナー化合物としては、一般式[11]〜[15]で表される化合物の他、下記の化合物も好適に用いることができる。
【0055】
(アクセプター化合物とドナー化合物の混合物)
本発明では、アクセプター化合物とドナー化合物を混合して混合物とする。混合物中のドナー化合物のモル含有率(ドナー化合物/アクセプター化合物とドナー化合物の和)は、0.2超0.6未満であることが好ましく、0.3超0.6未満であることがより好ましく、0.4超0.6未満であることがさらにより好ましい。
アクセプター化合物とドナー化合物の組み合わせは、エキサイプレックスを形成することができるものであれば特に制限されない。以下の表にアクセプター化合物とドナー化合物の好ましい組み合わせを例示する。特に好ましい組み合わせ例として、下記の1、3、8、11、18、37、38を挙げることができ、より好ましくは37(ドナー化合物:TTP、アクセプター化合物:PPT)、38(ドナー化合物:dPTBdA、アクセプター化合物:PPT)である。さらに、ドナー化合物:CzTTP1とアクセプター化合物:PPTとの組合せも好適に用いることができる。31の遅延蛍光エキサイプレックス層は、一重項励起子生成効率が65〜100%と高く、発光層の発光材料を効率よく蛍光発光させることができる。また、32、およびCzTTP1とPPTとの組合せの遅延エキサイプレックス層は、励起三重項エネルギーのデクスター移動が生じ難いため、後述する三重項励起子ブロッキング層が不要であり、有機エレクトロルミネッセンス素子の構成を単純にできるという効果がある。
遅延蛍光エキサイプレックス層の形成方法は特に制限されないが、例えば共蒸着法などを挙げる。
【0057】
(遅延蛍光エキサイプレックス層の厚さ)
遅延蛍光エキサイプレックス層の厚さは、特に制限されないが10〜120nmであることが好ましく、10〜60nmであることがより好ましく、10〜30nmであることがさらに好ましい。遅延蛍光エキサイプレックス層の厚さを上記範囲から選択することにより、一重項励起子生成効率の高い遅延蛍光エキサイプレックス層を得ることができる。
【0058】
[発光層]
発光層は、発光材料を含み、遅延蛍光エキサイプレックス層からのエネルギー移動によって発光材料が励起され、その後、基底状態に戻る際に発光する層である。なお、本発明では、発光層でも正孔と電子との再結合が生じ得る。発光層に含まれる発光材料の一部は、このような正孔と電子との再結合によって励起され、その後、基底状態に戻る際に発光してもよい。
発光層と遅延蛍光エキサイプレックス層との位置関係は、遅延蛍光エキサイプレックス層が発光層よりも陰極側であってもよいし、陽極側であってもよい。
【0059】
(発光材料)
発光層に用いる発光材料は、蛍光材料であることが好ましい。これにより、遅延蛍光エキサイプレックス層で効率よく生成される一重項励起子を、発光材料の発光に有効に寄与させることができ、高発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。また、蛍光材料として、遅延蛍光材料を使用してもよい。遅延蛍光材料は、キャリアの再結合によって励起一重項状態および励起三重項状態に励起されるが、励起三重項状態に励起されたとき、その少なくとも一部が逆項間交差により励起一重項状態に遷移する蛍光発光材料である。この場合、発光層の発光は、蛍光発光(即時蛍光)および遅延蛍光発光の両方を含む。
【0060】
以下に、本発明で発光材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。下記のC545Tは、トルエン溶液でのPL量子収率が91.3%であり、非常に高い発光効率を得ることができる。なお、本発明で用いることができる発光材料の範囲は、以下の具体例によって限定的に解釈されるものではない。
【化21-1】
【化21-2】
【0061】
(ホスト化合物)
発光層は、発光材料単独で構成されていてもよいが、発光材料をゲスト化合物とするホスト化合物を含むことが好ましい。ホスト化合物としては、遅延蛍光エキサイプレックス層に含まれるドナー化合物およびアクセプター化合物と、発光材料であるゲスト化合物との間で、下記式(1)の条件を満たす有機化合物を用いることができる。
式(1) ES
1>ES
1G かつ ES
1H>ES
1G
[式(1)において、ES
1はドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES
1Hはホスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES
1Gはゲスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す。]
本発明における「最低励起一重項エネルギー準位」は、以下の方法により測定することができる。以下の方法では、測定対象化合物とmCBPを用いた場合について説明する。
測定対象化合物とmCBPとを、測定対象化合物が濃度6重量%となるように共蒸着することでSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を燐光強度、横軸を波長の蛍光スペクトルを得る。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側のピーク波長値λを次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をE
S1とする。
換算式:E
S1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を検出器には、ストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
【0062】
式(1)で表されるように、ゲスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES
1Gが、ドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起一重子項エネルギー準位ES
1よりも低いことにより、このエキサイプレックスの励起一重項エネルギーをゲスト化合物に効率よく移動させることができる。また、ゲスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES
1Gが、ホスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES
1Hよりも低いことにより、ホスト化合物の励起一重項エネルギーをゲスト化合物に効率よく移動させることができ、また、ゲスト化合物の励起一重項エネルギーを該ゲスト化合物内に確実に閉じ込めることができる。これにより、遅延蛍光エキサイプレックス層等で生成した励起一重項エネルギーを効率よく発光材料の発光に変換することができ、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。ドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起一重子項エネルギー準位ES
1と、ホスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES
1Hはいずれが低くてもよいが、ES
1>ES
1Hであれば、エキサイプレックスの励起一重項エネルギーをホスト化合物により効率よく移動させることができる。なお、発光層の発光の一部はホスト材料からの発光であってもかまわない。
【0063】
ドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES
1は、1.9〜3.1eVであることが好ましく、2.1〜2.9eVであることがより好ましく、2.3〜2.7eVであることがさらに好ましい。また、ホスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES
1Hは、1.9〜3.3eVであることが好ましく、2.1〜3.1eVであることがより好ましく、2.3〜2.8eVであることがさらに好ましい。また、ゲスト化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES
1Gは、1.9〜3.1eVであることが好ましく、2.0〜2.9eVであることがより好ましく、2.1〜2.7eVであることがさらに好ましい。
【0064】
ホスト材料を用いる場合、発光材料が発光層中に含有される量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
発光層におけるホスト材料としては、式(1)の条件を満たすとともに、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。以下に、本発明でホスト材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。なお、本発明で用いることができるホスト材料の範囲は、以下の具体例によって限定的に解釈されるものではない。
【0071】
[三重項励起子ブロッキング層]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば実施例4のように、遅延蛍光エキサイプレックス層から発光層への励起三重項エネルギーのデクスター移動が頻繁に生じる系を採用した場合には、発光層と遅延蛍光エキサイプレックス層との間に三重項励起子ブロッキング層を設けることが好ましい。三重項励起子ブロッキング層は、遅延蛍光エキサイプレックス層から発光層への励起三重項エネルギーの移動を抑制する機能を有する。この三重項励起子ブロッキング層を設けることにより、以下の理由から有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率をより高めることができる。
すなわち、上記のように、遅延蛍光エキサイプレックス層では、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が生じるが、逆項間交差が生じるよりも前に、励起三重項状態が隣接する有機層にエネルギー移動する場合がある。この場合に、遅延蛍光エキサイプレックス層からの励起三重項エネルギーを発光層の発光材料が受け取ると、発光材料が発光せずに熱失活し、そのエネルギーが無駄になってしまう。これに対して、発光層と遅延蛍光エキサイプレックス層との間に三重項励起子ブロッキング層を設けると、遅延蛍光エキサイプレックス層から発光層への励起三重項エネルギーの移動が抑えられ、遅延蛍光エキサイプレックス層で形成された励起三重項状態を確実に逆項間交差させ、蛍光発光に寄与させることができる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率をより高めることができる。
一方、遅延蛍光エキサイプックス層から発光層への励起三重項エネルギーのデクスター移動がさほど生じない系を採用した場合には、このような三重項励起子ブロッキング層の形成は不要であり、有機エレクトロルミネッセンス素子の構成を単純なものにすることができる。そのような遅延蛍光エキサイプレックス層としては、CzTTP1とPPTとの組み合わせ、dBTBdAとPPTとの組み合わせ等を挙げることができる。
【0072】
(ブロッキング化合物)
三重項励起子ブロッキング層の構成材料としては、遅延蛍光エキサイプレックス層に含まれるドナー化合物およびアクセプター化合物と、発光層に含まれるホスト化合物およびゲスト化合物との間で、下記式(2)の条件を満たす有機化合物(ブロッキング化合物)を用いることが好ましい。
式(2) ET
1B>ET
1>ET
1H>ET
1G
[式(2)において、ET
1Bはブロッキング化合物の最低励起三重項エネルギー準位を表し、ET
1はドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位を表し、ET
1Hはホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位を表し、ET
1Gはゲスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位を表す。]
本発明における「最低励起三重項エネルギー準位」は、以下の方法により測定することができる。以下の方法では、測定対象化合物とmCBPを用いた場合について説明する。
上記の一重項エネルギーE
S1の測定に用いたのと同じ試料を5[K]に冷却し、励起光(337nm)を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定する。励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を燐光強度、横軸を波長の燐光スペクトルを得る。この発光スペクトルの短波側のピーク波長値λを次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をE
S1とする。
換算式:E
T1[eV]=1239.85/λedge
【0073】
三重項励起子ブロッキング層を有しない構成で、エキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位ET
1、ホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET
1H、ゲスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET
1GがET
1>ET
1H>ET
1Gの関係にあると、遅延蛍光エキサイプレックス層で形成された励起三重項状態が、ホスト化合物を介して容易にゲスト化合物にエネルギー移動してしまう。これに対して、式(2)で表されるように、最低励起三重項エネルギー準位ET
1Bがエキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位ET
1よりも大きい有機化合物層を発光層と遅延蛍光エキサイプレックス層の間に設けると、この有機化合物層が三重項励起子ブロッキング層として機能し、遅延蛍光エキサイプレックス層から発光層への励起三重項エネルギーの移動を抑制することができる。
【0074】
ブロッキング化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET
1Bは、2.0〜3.2eVであることが好ましく、2.2〜3.0eVであることがより好ましく、2.4〜2.9eVであることがさらに好ましい。ドナー化合物とアクセプター化合物とで形成されるエキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位ET
1は、1.9〜3.1eVであることが好ましく、2.1〜2.9eVであることがより好ましく、2.3〜2.8eVであることがさらに好ましい。また、ホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET
1Hは、1.9〜3.1eVであることが好ましく、2.1〜2.9eVであることがより好ましく、2.3〜2.8eVであることがさらに好ましい。
【0075】
以下に、本発明でブロッキング化合物として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。下記のmCPは、最低励起三重項エネルギー準位ET
1Bが高いため、三重項励起子ブロッキング層の構成材料として好適に用いることができる。
【化27】
【0076】
(三重項励起子ブロッキング層の厚さ)
三重項励起子ブロッキング層の厚さは、遅延蛍光エキサイプレックス層のエキサイプレックスと発光層の発光材料との間のフェルスター移動半径をR
0を考慮して選択することが好ましい。具体的には、三重項励起子ブロッキング層の膜厚が一般的なデクスタ―エネルギー移動距離である2nmより大きい十分大きくフェルスター移動半径より小さいことが望ましい。
ここで、フェルスター移動半径は、ゲスト化合物のモル吸光係数と遅延蛍光エキサイプレックスの発光スペクトルによって測定されるものである。
三重項励起子ブロッキング層の厚さを上記範囲から選択することにより、三重項励起子ブロッキング層の機能を十分に享受しつつ、発光層と遅延蛍光エキサイプレックス層との間隔をフェルスター機構によるエネルギー移動が可能な範囲に収めることができ、遅延蛍光エキサイプレックス層で生成した励起一重項エネルギーを発光層へ効率よく移動させることができる。
例えば、発光材料としてC545Tを用い、遅延蛍光エキサイプレックスのドナー化合物としてTTPを用い、遅延蛍光エキサイプレックス層のアクセプター化合物としてPPTを用いた場合のフェルスター移動半径R
0は3.5nmである。これらと組み合わせてmCPをブロッキング化合物として用いる場合、三重項励起子ブロッキング層の厚さは、2〜8nmであることが好ましく、3〜5nmであることがさらに好ましく、3.5〜4.5nmであることが最も好ましい。
【0077】
[その他の有機層]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、遅延蛍光エキサイプレックス層、発光層、三重項励起子ブロッキング層の他に、以下のような有機層を有していてもよい。
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0078】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0079】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0080】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0081】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0082】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0083】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0084】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R’、R
1〜R
10は、各々独立に水素原子または置換基を表す。Xは環骨格を形成する炭素原子または複素原子を表し、nは3〜5の整数を表し、Yは置換基を表し、mは0以上の整数を表す。
【0085】
まず、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0087】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0094】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0096】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0098】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0102】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0104】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0106】
以上に説明した有機層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0107】
[基板]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0108】
[陽極]
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO
2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In
2O
3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0109】
[陰極]
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0110】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は以上のような構成を有し、陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、遅延蛍光エキサイプレックス層を有することにより、この遅延蛍光エキサイプレックス層で効率よく励起一重項状態が形成され、この励起一重項状態のエネルギーが発光層の発光材料に移動して該発光材料を効率よく蛍光発光させることができる。このため、この有機エレクトロルミネッセンス素子は、高い発光効率を得ることができる。
【0111】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、分光光度計(堀場製作所社製:FluoroMax−4)、紫外・可視吸収測定装置(島津製作所社製:UV−2550)、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製)、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製:Quantaurus−Tau)、ストリークカメラ(浜松ホトニクス社製:C4334型)を用いて行った。また、以下の各実施例および比較例において、各有機層の形成は、真空度1.0x10
-4〜1.0x10
-3Paで真空蒸着法を用いて行った。実施例および比較例で用いた各材料の最低励起一重項エネルギー準位と最低励起三重項エネルギー準位の値については、後掲の表2にまとめて示した。
【0113】
[実施例1]
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板を用意した。このガラス基板の陽極上に、CzTTP1を35nmの厚さに形成して正孔輸送層を得た。次に、CzTTP1とPPTとを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して遅延蛍光エキサイプレックス層とした。この時、CzTTP1の濃度は30mol%とした。次に、C545TとPPTとを異なる蒸着源から共蒸着し、10nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、C545Tの濃度は1重量%とした。次に、PPTを25nmの厚さに形成して電子輸送層を得た。さらに、フッ化リチウム(LiF)を0.8nmの厚さに蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を80nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0114】
[実施例2]
正孔輸送層の材料および遅延蛍光エキサイプレックス層のドナー化合物としてCzTTP1の代わりにdPTBdAを用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0115】
[実施例3]
遅延エキサイプレックス層のdPTBdAの濃度を50mol%としたこと以外は、実施例2と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0116】
[実施例4]
(三重項励起子ブロッキング層の膜厚の検討)
本実施例では、発光層(C545T−CBP蒸着膜)と遅延蛍光エキサイプレックス層(TTP−PPT蒸着膜)との間に三重項励起子ブロッキング層(mCP蒸着膜)を形成するため、予備実験として三重項励起子ブロッキング層の膜厚を検討した。
(1)遅延蛍光エキサイプレックス層と発光層とのフェルスター移動半径R
0
図2に、TTPとPPTとを50mol%で共蒸着したTTP−PPT蒸着膜の発光スペクトルと、C545Tのトルエン溶液の吸収スペクトルを併せて示す。
図2から、TTP−PPT蒸着膜とC454Tとのフェルスター移動半径R
0は3.5nmであり、三重項励起子ブロッキング層の厚さの上限は(3.5+1)nm付近であることが推定された。
【0117】
(2)PL量子収率からの検討
ガラス基板上に、α−NPDを10nmの厚さに形成した。次に、C545TとCBPとを異なる蒸着源から共蒸着し、10nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、C545Tの濃度は2.5重量%とした。次に、mCPを0〜8nmから選択した各種厚さで形成し、mCP膜を得た。次に、TTPとPPTとを異なる蒸着源から共蒸着し、10nmの厚さの層を形成して遅延蛍光エキサイプレックス層とした。この時、TTPおよびPPTの濃度は50mol%とした。以上の工程により、mCP膜の厚さが異なる各サンプルを作製した。
作成した各サンプルについて、遅延蛍光スペクトルを
図3に示し、PL量子収率をmCP膜の厚さに対してプロットした結果を
図4に示す。
【0118】
図3において450〜490nmの範囲に観測されるピークは遅延蛍光エキサイプレックス層からの遅延蛍光に由来するピークであり、このピークが観測されることは遅延蛍光エキサイプレックス層から発光層への励起三重項エネルギーのデクスター移動が抑制されていることを意味する。この点から見ると、mCPを2〜8nmの厚さで形成したサンプルでは、短波長側に遅延蛍光に由来するピークが観測されるのに対して、mCPを形成していないサンプルでは、この遅延蛍光に由来するピークが消失している。このことから、mCP膜は遅延蛍光エキサイプレックス層から発光層への励起三重項エネルギーのデクスター移動を抑制する機能を有することがわかった。
また、
図4を見ると、PL量子収率は、mCP膜が4nmのサンプルが最も高く、mCP膜を2nm、6nm、8nmで形成したサンプルは、mCP膜を形成していないサンプルに比べれば高い値が得られるものの、mCP膜を4nmで形成したサンプルよりも低い値になっている。このことから、mCP膜の厚さは、2〜8nmであることが好ましく、4nmであることが最適であることがわかった。
【0119】
(2)有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
厚さ4nmのmCP膜を三重項励起子ブロッキング層とする有機エレクトロルミネッセンス素子を次にようにして作製した。
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物膜(ITO膜)および膜厚1nmのMoOx膜からなる陽極が形成されたガラス基板を用意した。このガラス基板の陽極上に、α−NPDを40nmの厚さに形成して正孔輸送層を得た。次に、C545TとCBPとを異なる蒸着源から共蒸着し、10nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、C545Tの濃度は2.5重量%とした。次に、mCPを4nmの厚さに形成し、三重項励起子ブロッキング層を得た。次に、TTPとPPTとを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して遅延蛍光エキサイプレックス層とした。この時、TTPの濃度は50mol%とした。次に、PPTを40nmの厚さに形成して電子輸送層を得た。さらに、フッ化リチウム(LiF)を0.75nmの厚さに蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を70nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0120】
(比較例1)
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板を用意した。このガラス基板の陽極上に、TTPを20nmの厚さに形成して正孔輸送層を得た。次に、TTPとPPTとを異なる蒸着源から共蒸着し、60nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、TTPの濃度は50mol%とした。次に、PPTを20nmの厚さに形成して電子輸送層を得た。さらに、フッ化リチウム(LiF)を0.75nmの厚さに蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を70nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0121】
[評価]
(1)発光材料の発光特性
図5に、C545Tのトルエン溶液の発光スペクトルおよび吸収スペクトルを示す。C545Tのトルエン溶液のPL量子収率は91.3%であった。
(2)遅延蛍光エキサイプレックス層の発光特性
代表として、
図6に、TTPとPPTとを50mol%で共蒸着したTTP−PPT蒸着膜、TTP蒸着膜、PPT蒸着膜の発光スペクトルを併せて示し、
図7に、TTP−PPT蒸着膜の過渡減衰曲線を示す。TTP−PPT蒸着膜のPL量子収率は15.6%であり、このうち遅延蛍光成分のPL量子収率は12.3%であった。また、後述する比較例1の外部量子効率の測定結果から求めた、TTP−PPT蒸着膜の一重項励起子生成効率は65〜100%であった。
【0122】
(3)作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率
作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、電流密度−外部量子効率特性を
図8〜
図12に示し、最大外部量子効率を表3に示す。なお
図11では、遅延蛍光エキサイプレックス層の厚さを10nmに変更した素子を測定した結果も掲載している。
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
表3に示すように、実施例1〜4の有機エレクトロルミネッセンス素子は、比較例1の有機エレクトロルミネッセンス素子に比べて高い最大外部量子効率が得られた。特に実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、三重項励起子ブロッキング層を有しない単純な構成でありながら、8.4%と非常に高い最大外部量子効率を得ることができた。
【0126】
【化42】