特許第6470583号(P6470583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6470583AE法を用いた劣化モニタリング方法および劣化モニタリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470583
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】AE法を用いた劣化モニタリング方法および劣化モニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
   G01N29/14
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-28700(P2015-28700)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2016-151470(P2016-151470A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】川浪 精一
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 幸聖
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−121686(JP,A)
【文献】 特開2011−102700(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0205532(US,A1)
【文献】 特開2009−198285(JP,A)
【文献】 特開昭50−022690(JP,A)
【文献】 特開昭62−187247(JP,A)
【文献】 特開2009−180308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物と同質材料に対するAE計測により得られる信号の第1単位期間における計数値である参照信号数を全観測期間にわたって取得する参照値取得ステップと、
前記全観測期間の初期における前記参照信号数に基づいて設定される参照ノイズ信号数を、前記第1単位期間毎の前記参照信号数のそれぞれから減算した参照AE数を求め、前記参照AE数の前記全観測期間わたる推移を示す評価曲線を生成する評価曲線生成ステップと、
前記検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得ステップと、
前記対象値取得ステップにより得られる前記対象信号数のうち、時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出ステップと、
前記評価曲線と前記対象AE数とに基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化評価ステップと、を備えることを特徴とするAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項2】
前記劣化評価ステップは、
前記評価曲線の変化量が増加する少なくとも1つの変化領域を抽出する変化領域抽出ステップと、
前記評価曲線の前記変化領域に基づいて、前記評価曲線の前記全観測期間を複数の劣化ステージに区分する劣化ステージ分類ステップと、
前記対象AE数に基づいて、前記検査対象物が属する前記劣化ステージを識別する劣化ステージ識別ステップと、を含むことを特徴とする請求項1に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項3】
検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得ステップと、
時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出ステップと、
前記時系列に伴って増加する前記対象AE数の増加量に基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化相対評価ステップと、を備え、
前記対象値取得ステップは、前記検査対象物の異なる位置に設置された複数のAEセンサの各々で計測された前記対象信号数を取得しており、
前記劣化相対評価ステップは、前記複数のAEセンサ毎に求めた前記増加量をそれぞれ比較する増加量比較ステップを含むことを特徴とするAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項4】
前記AEセンサの少なくとも2つによって前記検査対象物が有する溶接部が挟まれることを特徴とする請求項3に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法
【請求項5】
前記AEセンサは、棒状の物体である導波棒の一端の側に設置されており、
前記導波棒の他端は、前記検査対象物にスタッド溶接されるスタッドボルトに固定されること特徴とする請求項3または4に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項6】
前記対象信号数は、前記検査対象物の前記溶接部からの距離が所定範囲外となる位置からの信号を前記AE計測により得られる信号から除外して得られる信号の計数値であること特徴とする請求項4に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項7】
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる前記信号の計測値のうちの所定の閾値以上の前記信号の計数値であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項8】
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる信号から信号波形の特徴量に基づいて識別される周期的ノイズ信号を除外した信号の計数値であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項9】
前記検査対象物は、発電設備のボイラ、蒸気管、管寄せ、管台の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のAE法を用いた劣化モニタリング方法。
【請求項10】
検査対象物と同質材料に対するAE計測により得られる信号の第1単位期間における計数値である参照信号数を全観測期間にわたって取得する参照値取得部と、
前記全観測期間の初期における前記参照信号数に基づいて設定される参照ノイズ信号数を、前記第1単位期間毎の前記参照信号数のそれぞれから減算した参照AE数を求め、前記参照AE数の前記全観測期間わたる推移を示す評価曲線を生成する評価曲線生成部と、
前記検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得部と、
前記対象値取得部により得られる前記対象信号数のうち、時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出部と、
前記評価曲線と前記対象AE数とに基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化評価部と、を備えることを特徴とするAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項11】
前記劣化評価部は、
前記評価曲線の変化量が増加する少なくとも1つの変化領域を抽出する変化領域抽出部と、
前記評価曲線の前記変化領域に基づいて、前記評価曲線の前記全観測期間を複数の劣化ステージに区分する劣化ステージ分類部と、
前記対象AE数に基づいて、前記検査対象物が属する前記劣化ステージを識別する劣化ステージ識別部と、を含むことを特徴とする請求項10に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項12】
検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得部と、
時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出部と、
前記時系列に伴って増加する前記対象AE数の増加量に基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化相対評価部と、を備え、
前記対象値取得部は、前記検査対象物の異なる位置に設置された複数のAEセンサの各々で計測された前記対象信号数を取得しており、
前記劣化相対評価部は、前記複数のAEセンサ毎に求めた前記増加量をそれぞれ比較する増加量比較部を含むことを特徴とするAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項13】
前記AEセンサの少なくとも2つによって前記検査対象物が有する溶接部が挟まれることを特徴とする請求項12に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項14】
前記AEセンサは、棒状の物体である導波棒の一端の側に設置されており、前記導波棒の他端は、前記検査対象物にスタッド溶接されるスタッドボルトに固定されることを特徴とする請求項12または13に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項15】
前記対象信号数は、前記検査対象物の前記溶接部からの距離が所定範囲外となる位置からの信号を前記AE計測により得られる信号から除外して得られる信号の計数値であること特徴とする請求項13に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項16】
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる前記信号の計測値のうちの所定の閾値以上の前記信号の計数値であることを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項17】
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる信号から信号波形の特徴量に基づいて識別される周期的ノイズ信号を除外した信号の計数値であることを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【請求項18】
前記検査対象物は、発電設備のボイラ、蒸気管、管寄せ、管台の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項10〜17のいずれか1項に記載のAE法を用いた劣化モニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アコースティックエミッション法(AE法)が適用される設備の保守管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備に用いられるボイラ等の高温機器は、時間経過とともにクリープ損傷などが進行するため、定期的に検査が行われるのが通常である。この定期検査においては、応力解析等により決定される代表点に対して運転停止時に検査が行われるが、このような検査では、運転中に発生する異常をタイムリーに検出することは困難である。例えば、運転中において、想定以上の応力が代表点に加わる場合や、想定と異なる部位に応力が加わる場合があり、このような場合には、定期検査を実施する前に高温機器が蒸気漏洩に至る可能性がある。
【0003】
一方、高温下で運転される機器や配管類などの検査対象物をAE法により検査することが提案されている(特許文献1)。そして、例えば特許文献1は、運転中において発生する検査対象物の水素浸食割れの発生・成長をAE法により検出するものであり、試験対象物の運転中において連続的にAEを監視している。また、累積AEイベント数が急激に増大したところで水素浸食が進展することを確認したことも記載されている。なお、このAE法は、材料の変形・破壊(クリープ損傷)の進行に伴って発生するアコースティックエミッション(AE)をAEセンサにより検出し、非破壊的に評価する手法であり、広範囲の損傷モニタリングが可能な方法でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−179662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、AE計測により得られる信号にはノイズが含まれている。特に、ボイラ等の高温機器においては、クリープ損傷に起因する信号は微弱であり、運転時の蒸気などによるノイズによってAE信号が埋もれてしまう。このため、特許文献1の方法をそのまま適用すると累積AEイベント数の急激な増加の検知が困難となる。また、信号処理などによりAE信号とノイズを区別することも考えられるが、全てのノイズを除去するのは困難である。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、ノイズの影響がより低減されたAE法による劣化モニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る劣化モニタリング方法は、
検査対象物と同質材料に対するAE計測により得られる信号の第1単位期間における計数値である参照信号数を全観測期間にわたって取得する参照値取得ステップと、
前記全観測期間の初期における前記参照信号数に基づいて設定される参照ノイズ信号数を、前記第1単位期間毎の前記参照信号数のそれぞれから減算した参照AE数を求め、前記参照AE数の前記全観測期間わたる推移を示す評価曲線を生成する評価曲線生成ステップと、
前記検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得ステップと、
前記対象値取得ステップにより得られる前記対象信号数のうち、時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出ステップと、
前記評価曲線と前記対象AE数とに基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化評価ステップと、を備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、検査対象物と同質材料(試験対象)に対するAE計測により得られる評価曲線を劣化評価の評価基準とすることで、運転時の検査対象物に対するAE計測結果から得られる対象AE数に基づいて、検査対象物の劣化度合いのモニタリングを行うことができる。また、対象AE数Ntは、検査対象物の運転時のものであり、運転時において検査対象物のモニタリングを行うことができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記劣化評価ステップは、
前記評価曲線の変化量が増加する少なくとも1つの変化領域を抽出する変化領域抽出ステップと、
前記評価曲線の前記変化領域に基づいて、前記評価曲線の前記全観測期間を複数の劣化ステージに区分する劣化ステージ分類ステップと、
前記対象AE数に基づいて、前記検査対象物が属する前記劣化ステージを識別する劣化ステージ識別ステップと、を含む。
上記(2)の構成によれば、対象AE数と劣化ステージに基づいて検査対象物の劣化モニタリングを行うことで、検査対象物の寿命を予測することができる。また、検査対象物の属する劣化ステージによって対応策を決めることで、適切な保守管理を効率的に行うことができる。
【0010】
(3)本発明の少なくとも一実施形態に係る劣化モニタリング方法は、
検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得ステップと、
時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出ステップと、
前記時系列に伴って増加する前記対象AE数の増加量に基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化相対評価ステップと、を備え、
前記対象値取得ステップは、前記検査対象物の異なる位置に設置された複数のAEセンサの各々で計測された前記対象信号数を取得しており、
前記劣化相対評価ステップは、前記複数のAEセンサ毎に求めた前記増加量をそれぞれ比較する増加量比較ステップを含む。
上記(3)の構成によれば、検査対象物の複数の異なる位置にそれぞれ設置されるAEセンサからの信号に基づいて、それぞれ対応する対象AE数が計測され、同時期の対象AE数の増加量同士が比較される。一般に、損傷の進行により発生するAE信号の数は劣化の進行に伴って増加するため、対象AE数の増加量に基づいて、検査対象物の各位置における劣化度合いを相対的にモニタリングできる。また、この相対評価の結果に基づいて定期検査における優先順位付けが可能となり、効果的な保守管理を行うことができる。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記AEセンサの少なくとも2つによって前記検査対象物が有する溶接部が挟まれる。
上記(4)の構成によれば、クリープ損傷は溶接部で発生する可能性が高く、クリープ損傷による劣化度合いを精度良くモニタリングすることができる。
【0012】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)〜(4)の構成において、
前記AEセンサ12は、棒状の物体である導波棒の一端の側に設置されており、
前記導波棒の他端は、前記検査対象物にスタッド溶接されるスタッドボルトに固定される。
上記(5)の構成によれば、スタッド溶接により溶接後の熱処理が不要となり、センサ敷設に必要な時間とコストを削減できる。また、スタッドボルトを介してAEセンサと検査対象物が接続されるので、センサの設置環境温度を下げることができる。
【0013】
(6)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、
前記対象信号数は、前記検査対象物の前記溶接部からの距離が所定範囲外となる位置からの信号を前記AE計測により得られる信号から除外して得られる信号の計数値である。
上記(6)の構成によれば、対象信号数の計数時においてノイズによる影響を低減することができる。
【0014】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の構成において、
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる信号の計測値のうちの所定の閾値以上の前記信号の計数値である。
上記(7)の構成によれば、対象信号数の計数時においてノイズによる影響を低減することができる。
【0015】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)の構成において、
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる信号から信号波形の特徴量に基づいて識別される周期的ノイズ信号を除外した信号の計数値である。
上記(8)の構成によれば、対象信号数の計数時においてノイズによる影響を低減することができる。
【0016】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(8)の構成において、
前記検査対象物は、発電設備のボイラ、蒸気管、管寄せ、管台の少なくとも1つを含む。
上記(9)の構成によれば、発電設備の劣化評価を行うことができる。
【0017】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る劣化モニタリング装置は、
検査対象物と同質材料に対するAE計測により得られる信号の第1単位期間における計数値である参照信号数を全観測期間にわたって取得する参照値取得部と、
前記全観測期間の初期における前記参照信号数に基づいて設定される参照ノイズ信号数を、前記第1単位期間毎の前記参照信号数のそれぞれから減算した参照AE数を求め、前記参照AE数の前記全観測期間わたる推移を示す評価曲線を生成する評価曲線生成部と、
前記検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得部と、
前記対象値取得部により得られる前記対象信号数のうち、時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出部と、
前記評価曲線と前記対象AE数とに基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化評価部と、を備える。
【0018】
上記(10)の構成によれば、検査対象物と同質材料(試験対象)に対するAE計測により得られる評価曲線を劣化評価の評価基準とすることで、運転時の検査対象物に対するAE計測結果から得られる対象AE数に基づいて、検査対象物の劣化度合いのモニタリングを行うことができる。また、対象AE数Ntは、検査対象物の運転時のものであり、運転時において検査対象物のモニタリングを行うことができる。
【0019】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)の構成において、
前記劣化評価部は、
前記評価曲線の変化量が増加する少なくとも1つの変化領域を抽出する変化領域抽出部と、
前記評価曲線の前記変化領域に基づいて、前記評価曲線の前記全観測期間を複数の劣化ステージに区分する劣化ステージ分類部と、
前記対象AE数に基づいて、前記検査対象物が属する前記劣化ステージを識別する劣化ステージ識別部と、を含む。
上記(11)の構成によれば、対象AE数と劣化ステージに基づいて検査対象物の劣化モニタリングを行うことで、検査対象物の寿命を予測することができる。また、検査対象物の属する劣化ステージによって対応策を決めることで、適切な保守管理を効率的に行うことができる。
【0020】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る劣化モニタリング装置は、
検査対象物に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数を取得する対象値取得部と、
時系列で初期に取得される前記対象信号数に基づいて設定される対象ノイズ信号数を、前記対象信号数から減算した対象AE数を求める対象AE数算出部と、
前記時系列に伴って増加する前記対象AE数の増加量に基づいて、前記検査対象物の劣化度合いを評価する劣化相対評価部と、を備え、
前記対象値取得部は、前記検査対象物の異なる位置に設置された複数のAEセンサの各々で計測された前記対象信号数を取得しており、
前記劣化相対評価部は、前記複数のAEセンサ毎に求めた前記増加量をそれぞれ比較する増加量比較部を含む。
上記(12)の構成によれば、検査対象物の複数の異なる位置にそれぞれ設置されるAEセンサからの信号に基づいて、それぞれ対応する対象AE数が計測され、同時期の対象AE数の増加量同士が比較される。一般に、損傷の進行により発生するAE信号の数は劣化の進行に伴って増加するため、対象AE数の増加量に基づいて、検査対象物の各位置における劣化度合いを相対的にモニタリングできる。また、この相対評価の結果に基づいて定期検査における優先順位付けが可能となり、効果的な保守管理を行うことができる。
【0021】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の構成において、
前記AEセンサの少なくとも2つによって前記検査対象物が有する溶接部が挟まれる。
上記(13)の構成によれば、クリープ損傷は溶接部で発生する可能性が高く、クリープ損傷による劣化度合いを精度良くモニタリングすることができる。
【0022】
(14)幾つかの実施形態では、上記(12)〜(13)の構成において、
前記AEセンサ12は、棒状の物体である導波棒の一端の側に設置されており、
前記導波棒の他端は、前記検査対象物にスタッド溶接されるスタッドボルトに固定される。
上記(14)の構成によれば、スタッド溶接により溶接後の熱処理が不要となり、センサ敷設に必要な時間とコストを削減できる。また、スタッドボルトを介してAEセンサと検査対象物が接続されるので、センサの設置環境温度を下げることができる。
【0023】
(15)幾つかの実施形態では、上記(14)の構成において、
前記対象信号数は、前記検査対象物の前記溶接部からの距離が所定範囲外となる位置からの信号を前記AE計測により得られる信号から除外して得られる信号の計数値である。
上記(15)の構成によれば、クリープ損傷は溶接部で発生する可能性が高く、クリープ損傷による劣化を精度良くモニタリングすることができる。
【0024】
(16)幾つかの実施形態では、上記(10)〜(15)の構成において、
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる前記信号の計測値のうちの所定の閾値以上の前記信号の計数値である。
上記(16)の構成によれば、対象信号数の計数時においてノイズによる影響を低減することができる。
【0025】
(17)幾つかの実施形態では、上記(10)〜(16)の構成において、
前記対象信号数は、前記AE計測により得られる信号から、信号波形の特徴量に基づいて識別される周期的ノイズ信号を除外した信号の計数値である。
上記(17)の構成によれば、対象信号数の計数時においてノイズによる影響を低減することができる。
【0026】
(18)幾つかの実施形態では、上記(10)〜(17)の構成において、
前記検査対象物は、発電設備のボイラ、蒸気管、管寄せ、管台の少なくとも1つを含む。
上記(18)の構成によれば、発電設備の劣化評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、ノイズの影響がより低減されたAE法による劣化モニタリング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係るAE法を用いた劣化モニタリング方法を実行する劣化モニタリング装置1を示す図である。
図2図1のAE法を説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態に係る劣化モニタリング方法のフロー図である。
図4A】本発明の一実施形態に係る参照信号数を寿命消費率に対してプロットした図である。
図4B図4Aに基づいて生成された評価曲線を示す図である。
図5】本発明の他の一実施形態に係るAE法を用いた劣化モニタリング方法を実行する劣化モニタリング装置1を示す図である。
図6A】本発明の一実施形態に係る評価曲線の劣化ステージを説明する図である。
図6B図6Aの評価曲線を対数表示して示す図である。
図7】本発明の他の一実施形態に係るAE法を用いた劣化モニタリング方法を実行する劣化モニタリング装置1を示す図である。
図8A】本発明の他の一実施形態に係る複数の1つ目の溶接部にけるAE数の時間推移を示す図である。
図8B】本発明の他の一実施形態に係る複数の2つ目の溶接部にけるAE数の時間推移を示す図である。
図8C】本発明の他の一実施形態に係る複数の3つ目の溶接部にけるAE数の時間推移を示す図である。
図8D】本発明の他の一実施形態に係る複数の4つ目の溶接部にけるAE数の時間推移を示す図である。
図9】本発明の他の一実施形態に係る検査対象物である配管に敷設されたAEセンサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るAE法を用いた劣化モニタリング方法を実行する劣化モニタリング装置1を示す図である。図1に示されるように、劣化モニタリング装置1は、検査対象物9に対するAE計測の測定結果(AE計測結果M)取得し、検査対象物9の劣化評価を行う。図1の例示では、検査対象物9は火力発電設備に用いられる配管であり、配管9に取り付けられたAEセンサ12の出力をリアルタイムに直接取得するように劣化モニタリング装置1は構成されている。なお、検査対象物9は、金属材料や金属材料を有する物であっても良く、例えば、検査対象物9は、火力発電設備等の発電設備のボイラ、蒸気管、管寄せ、管台などであっても良い。
【0031】
この劣化モニタリング装置1は、図1に示されるように、検査対象物9に対するAE計測結果Mの評価基準(評価曲線C)を取得するための参照値取得部2および評価曲線生成部3と、検査対象物9に対するAE計測結果Mを処理するための対象値取得部4および対象AE数算出部5と、評価曲線CとAE計測結果Mに基づいて検査対象物9の状態を評価するための劣化評価部6とを備える。
【0032】
参照値取得部2は、検査対象物9と同質材料に対するAE計測により得られる信号の第1単位期間における計数値である参照信号数Rsを全観測期間にわたって取得する。つまり、検査対象物9そのものに対してではなく、試験環境(ラボ環境)におかれたものである、検査対象物9と性質が同じとなる試験対象に対してAE計測は行われており、参照値取得部2はこのAE計測結果Mを取り込んでいる。図1に示される実施形態では、参照値取得部2によるAE計測結果Mの取り込みは、AE計測結果Mが格納されたデータベースなどの記憶媒体22から取り込んでいる。他の幾つかの実施形態では、試験対象に対するAE計測をしながらリアルタイムに取り込んでも良い。なお、この試験対象は、検査対象物9(図1の例では配管)そのものであっても良いし、その一部である試験片であっても良い。
【0033】
また、上記の第1単位期間は、AE計測により得られる信号(観測信号8)の試験環境における解析単位となる期間である。そして、参照信号数Rsは、この第1単位期間内における観測信号8に含まれる信号数(イベント数)である。一方、全観測期間は、試験対象に対するAE計測の開始からクリープ破壊などの試験対象の破壊に至る期間である。幾つかの実施形態では、参照信号数Rsは、観測信号8を第1単位期間毎に解析し、各解析単に含まれる参照信号数Rsを計数し、これを全観測期間にわたって行うことにより取得している。他の幾つかの実施形態では、経過時間に応じた参照信号数Rsの累積値(累積参照信号数)を記憶していき、第1単位期間の開始と終了で増加した数を算出することを、全観測期間にわたって行うことにより取得している。
【0034】
ここで、AE計測について図2を用いて説明する。なお、上記の試験環境におけるAE計測のみならず、後述する運用環境におけるAE計測にも共通する説明である。図2に示されるように、AE計測では、検査対象物9(配管など)にAEセンサ12が設置される。そして、AE信号81は、検査対象物9を形成する材料の変形・破壊(クリープ損傷)に伴って発生するが、このAEセンサ12によってAE信号81は検出される。図2の例示では、AEセンサ12と検査対象物9とは棒状の物体である導波棒13を介して接続されている。言い換えると、導波棒13の一端の側にはAEセンサ12が取り付けられ、他端には検査対象物9に接続されている。そして、検査対象物9で発生するAE信号81は、導波棒13を介して観測信号8が伝えられるようになっている。ただし、このようにして得られる観測信号8には、AE信号81と共に、周囲のノイズ信号82が多く含まれるのが一般である。このため、図2の例示では、観測信号8に対して信号処理を行い、信号処理に基づいて得られた信号処理後信号84において一定のレベルL1を上回る波形の山をAE信号81に起因するものとして区別することで、ノイズ信号82の影響を低減している。また、上記のレベルL1を上回る波形の山の数を計数(カウント)することで、ノイズ信号82の影響が低減された信号数(参照信号数Rsや後述する対象信号数Ts)を得ている。
【0035】
評価曲線生成部3は、第1単位期間毎の参照信号数Rsに基づいて評価曲線Cを生成する。より詳細には、参照値取得部2から第1単位期間毎の参照信号数Rsが入力される。そして、時系列で初期に取得される参照信号数Rsに基づいて設定される参照ノイズ信号数Rnを、第1単位期間毎の参照信号数Rsのそれぞれから減算した参照AE数Nrを求め、前記参照AE数Nrの前記全観測期間わたる推移を示す評価曲線を生成する。すなわち、評価曲線Cは、検査対象物9に対するAE計測結果Mを評価するための評価基準であり、この評価曲線Cを生成するために、まずは、時系列で初期となる参照信号数Rsに基づいて参照ノイズ信号数Rnを設定し、第1単位期間毎に取得される参照信号数Rsのそれぞれから参照ノイズ信号数Rnを減算している。これは、上述の観測信号8に対する信号処理ではノイズ信号82の影響を全て除去するのは困難であるため、上記の参照ノイズ信号数Rnを参照信号数Rsから減算することにより、信号処理後の参照信号数Rsに残存するノイズ信号82の影響のさらなる低減を図っている。なお、時系列で初期とは、例えば、全観測期間の0〜10%の範囲の期間であっても良い。
【0036】
この点について詳述すると、クリープ損傷など金属材料の損傷91は、高温環境の下で時間の経過と共に進行し、最終的に金属材料のクリープ破壊に至る。火力発電設備における大径管の溶接部92を例にとると、溶接部92における熱影響部(HAZ:Heat−AffCvted Zone)の粒界には、経年使用に伴いボイドが発生し、そのボイド数が増加するとボイドが合体して微視き裂が発生する。さらに、微視き裂が増加すると、それらの微視き裂が合体連結してき裂となり、そのき裂が伝播して最終貫通に至る(クリープ破壊)。このように、損傷91の進行に伴ってAE信号は発生するため、運用の初期段階では損傷進行によるAE信号81の発生数は少ない。つまり、運用の初期段階における観測信号8は、ほぼノイズ信号82で構成されることが予想される。このため、運用の初期段階の観測信号8をノイズ信号82とみなすことができ、上記の参照AE数Nr(参照信号数Rs−参照ノイズ信号数Rn)はノイズ信号82の影響がさらに低減されたものとなる。
【0037】
この参照ノイズ信号数Rnは、全観測期間の初期における特定の第1単位期間の参照信号数Rsとしても良い。また、全観測期間の初期における複数の第1単位期間の参照信号数Rsを統計的に処理した値としても良く、例えば、数個の参照信号数Rsの平均値や、最大あるいは最小の参照信号数Rs、最頻値などを参照ノイズ信号数Rnとしても良い。
【0038】
そして、参照AE数Nrの算出後に、時系列順で相互に隣り合う第一単位期間毎の参照AE数Nrをそれぞれ線で結ぶことで評価曲線Cを生成する。より具体的には、評価曲線Cは、縦軸をAE数(参照AE数Nr)、横軸を時間として表わされる曲線である。横軸は、AE計測の開始から破壊(クリープ破壊)に至るまでを100%とした寿命消費率としても良い(図4A図4B参照)。なお、評価曲線Cの生成にあたっては、全観測期間あるいは一部期間毎に、同じ時間における各参照AE数Nrと評価曲線Cの差分がある所定の範囲内となるように評価曲線Cを生成しても良く、その差分が最小となるように決定しても良い(最小二乗法)。つまり、この評価曲線Cによって、全観測期間における参照AE数Nrの推移が示される。同時に、評価曲線Cは、検査対象物9と同じ性質を有する試験対象から得られているので、検査対象物9におけるAE発生数の推移予測でもある。
【0039】
以上で説明したのは、試験環境におけるAE計測結果Mの処理についてであり、上述の通り、参照値取得部2と評価曲線生成部3によって、試験環境おけるAE計測結果Mが処理され、このAE計測結果Mに基づいて評価曲線Cが生成される。
次は、検査対象物9が実際に設置・運転される運用環境で行われる処理内容について説明する。具体的には、後述する対象値取得部4および対象AE数算出部5によって運用環境におかれた検査対象物9に対するAE計測結果Mが処理される。
【0040】
対象値取得部4は、検査対象物9に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数Tsを取得する。すなわち、検査対象物9そのものが設置される運用環境において、検査対象物9そのものである運用中の実機に対して上述のAE計測が任意のタイミングで行われており、これによって得られるAE計測結果Mに基づいて対象信号数Tsが取得される。図1に示される実施形態では、対象値取得部4は、AEセンサ12から信号(観測信号8)を直接得ているが、これには限定されず、他の幾つかの実施形態では、同じAE計測結果Mをデータベースなどの記憶媒体から取り込んでも良い。
【0041】
上記の第2単位期間は、AE計測を行うことで観測される上記の信号(観測信号8)の運用環境における解析単位となる期間である。また、第2単位期間内における観測信号8の解析を通して計数される信号数(イベント数)が上記の対象信号数Tsとなる。なお、この第2単位期間と試験環境における上記の第1段位期間とは、同じ期間であっても良いし、異なる期間であっても良い。試験環境において加速試験などにより損傷進行が加速される場合には、この加速度を考慮することで、第1単位期間と第2単位期間が実質的に同じ期間となるように両期間が設定される。
【0042】
対象AE数算出部5は、対象信号数Tsのうち、時系列で初期に取得される対象信号数Tsに基づいて設定される対象ノイズ信号数Tnを、対象信号数Tsから減算した対象AE数を求める。このため、対象AE数算出部5は、対象値取得部4から出力される対象信号数Tsが入力されるよう構成されている。また、上記で説明したような損傷進行のメカニズムから、時系列で初期の段階であるほどAE計測の観測信号8にはノイズ信号82が多く含まれる。このため、試験環境と同様に、時系列で初期に取得される対象信号数Tsを運用環境におけるノイズ信号数(対象ノイズ信号数Tn)とみなしている。そして、この対象ノイズ信号数Tnを対象信号数Tsから減算した値をAE数(対象AE数Nt)とすることで、ノイズ信号82の影響をより低減している。そして、この初期の段階は、検査対象物9の運転の初期段階に一致するほど、ノイズ信号82の除去が適正化されることになる。なお、時系列で初期は、後述する劣化ステージCsの寿命初期Cs1であっても良い。
【0043】
なお、上記の対象ノイズ信号数Tnも、参照ノイズ信号数Rnと同様に、特定の対象信号数Tsでも良いし、複数の対象信号数Tsを統計的(平均値、最頻値など)に処理した値であっても良い。また、この対象ノイズ信号数Tnと参照ノイズ信号数Rnとは互いに同じ異なる手法によって決定しても良く、運用環境と試験環境の違いに応じて適切な手法をそれぞれ採用しても良い。
【0044】
以上で説明したような、試験環境および運用環境の各々におけるデータ(評価曲線Cおよび対象AE数Nt)は、共に、劣化評価部6に入力されるよう構成されている。
そして、劣化評価部6は、評価曲線Cと対象AE数Ntとに基づいて、検査対象物9の劣化度合いを評価する。すなわち、検査対象物9に対するAE計測に基づいて取得される対象AE数Ntを、試験環境で得られる評価曲線Cを評価基準として評価する。例えば、対象AE数Ntと評価曲線Cの縦軸とを比較し、寿命消費率などの劣化度合いを評価しても良い。
【0045】
以下に、劣化モニタリング装置1による評価処理フローを図3により説明する。
まず、図3のステップS31〜ステップS34において、試験環境における処理が行われる。すなわち、ステップS31において、試験環境におかれた検査対象物9と同質材料(試験対象)のAE計測結果Mを取得する。このAE計測結果Mには、試験開始からクリープ破壊に至るまでの全観測期間にわたる第1単位期間毎の観測信号8が含まれる。なお、観測信号8は全観測期間にわたって連続的に取得されたものであっても良いし、全観測期間において計測タイミングを設定し、計測タイミング毎に少なくとも1つの第1単位期間分の観測信号8が含まれるように連続的に取得されたもののであっても良い。計測タイミングは、周期的、定期的であっても良い。そして、全観測期間から第1単位期間毎に観測信号8を選択し、第1単位期間毎に信号数(参照信号数Rs)を計数する(図2参照)。図4Aは、このようにして得られた参照信号数Rsを、横軸に取られた寿命消費率(時系列)に対して縦軸にプロットした一例を示すものであり、簡略化のため、複数の寿命消費率に対応する11個の参照信号数Rsが代表して示されている。なお、図4Aに例示されるように、寿命消費率の増加に従って参照信号数Rsは増加する。
【0046】
ステップS32において、全観測期間の初期における参照信号数Rsに基づいて参照ノイズ信号数Rnを決定する。その後、ステップS33において、全観測期間に含まれる参照信号数Rsのそれぞれから参照ノイズ信号数Rnを減算し、参照AE数Nrを求めることで、参照信号数Rsに含まれるノイズ信号82の影響の低減を図る。つまり、参照信号数Rsは、AE信号81およびノイズ信号82の両成分によるものが含まれているため、参照ノイズ信号数Rnの減算により、AE信号81に基づく信号数の抽出を図っている。そして、ステップS34において、時系列順の参照AE数Nrに基づいて評価曲線Cを生成する。すなわち、この評価曲線Cは、各寿命消費率(経過時間)において発生する参照AE数Nrの推移となる。図4Bは、図4Aに対応した評価曲線Cの一例を示す図である。この例示では、参照ノイズ信号数Rnは、寿命消費率が最も0%に近い参照AE数Rsとされており、評価曲線Cは、参照信号数Rs(図4A)をその分だけ下にシフトした信号数同士をつなげたものとなっている。
【0047】
次に、図3のステップS35〜ステップS37において、運用環境における処理が行われる。すなわち、ステップS35において、運用環境におかれた検査対象物9そのものに対するAE計測結果Mを取得する。このAE計測結果Mは少なくとも1つの第2単位期間分の観測信号8が含まれている必要がある。例えば、AE計測結果Mには、任意のタイミングにおける任意の期間の観測信号8が含まれており、このAE計測結果Mから第2単位期間分の観測信号8が任意に選択されても良い。そして、選択された観測信号8に基づいて第2単位期間毎に対象信号数Tsを計数する。
【0048】
ステップS36において、ステップS35で取得された対象信号数Tsのうち、時系列で初期に取得された対象信号数Tsに基づいて対象ノイズ信号数Tnを決定する。また、ステップS37において、対象信号数Tsのそれぞれから対象ノイズ信号数Tnを減算し、対象AE数Ntを求めることで、対象信号数Tsに含まれるノイズ信号82の影響の低減を図る。つまり、対象信号数Tsにも、上記の参照信号数Rsと同様に、AE信号81およびノイズ信号82の両成分によるものが含まれているため、対象ノイズ信号数Tnの減算により、AE信号81に基づく信号数の抽出を図っている。
【0049】
そして、図3のステップS38において、先のステップで求められた評価曲線C(S34)と対象AE数Nt(S37)とに基づいて、検査対象物9の劣化度合いを評価する。
【0050】
なお、この劣化モニタリング装置1は、上記の参照値取得部2、評価曲線生成部3、対象値取得部4、対象AE数算出部5、劣化評価部6などの各機能部をコンピュータプログラムで実現した劣化評価プログラムを含むコンピュータであっても良い。コンピュータはCPUや主記憶装置、補助記憶装置、入出力装置、ネットワークインタフェースなどを含む周知なもので良い。そして、上述の劣化評価プログラムの実行によって主記憶装置にロードされ、劣化評価プログラムの命令に従ってCPUが動作(データの演算など)すること上記の各機能部による劣化評価(図3参照)が行われる。
【0051】
上記の構成によれば、検査対象物9と同質材料(試験対象)に対するAE計測により得られる評価曲線Cを劣化評価の評価基準とすることで、運転時の検査対象物9に対するAE計測結果から得られる対象AE数Ntに基づいて、検査対象物9の劣化度合いのモニタリングを行うことができる。また、対象AE数Ntは、検査対象物9の運転時のものであり、運転時において検査対象物のモニタリングを行うことができる。
【0052】
また、他の幾つかの実施形態では、図5に示されるように、劣化評価部6は、評価曲線Cの少なくとも一つの変化領域Cvを抽出する変化領域抽出部61と、評価曲線Cの変化領域Cvに基づいて、評価曲線Cの全観測期間を複数の劣化ステージCsに区分する劣化ステージ分類部62と、対象AE数Ntに基づいて、検査対象物9が属する劣化ステージCsを識別する劣化ステージ識別部63と、を含む。一般に、クリープ損傷などの検査対象物9の損傷91は時間経過に伴って進行するので、損傷91に起因して発生するAE信号81の数は経過時間に伴って増加する。また、AE信号81の数が増加することで、対象信号数Tsや対象AE数Ntも時間経過と共に増加する。このため、評価曲線Cも、時間経過に伴って増加することになる。例えば、図6Aには、評価曲線Cの一例が示されており、横軸は寿命消費率(%)、縦軸は信号数であり、寿命消費率と参照AE数Nrの関係が示されている。そして、図6Aに例示されるように、評価曲線Cには変化量が大きく変化領域(Cv1、Cv2)を有している。なお、縦軸は、信号数の対数値であっても良く、これによって変化領域を強調して示しても良い(図6B参照)。また、劣化評価部6以外の他の機能部の構成は図1の劣化モニタリング装置1と同じであるため、説明を省略する。
【0053】
そして、変化領域抽出部61は、図6A図6Bに例示されるような、評価曲線Cにおける変化量が増加する変化領域Cvを抽出する(変化領域抽出ステップ)。例えば、全ての変化領域Cvを抽出しても良いし、所定の閾値を超える増加量を有する変化領域Cvのみ抽出しても良い。そして、抽出された変化領域Cvは、劣化ステージ分類部62に入力される。
【0054】
劣化ステージ分類部62は、図6に示されるように、変化領域抽出部61によって抽出された変化領域Cvのうちの任意の1点を境界として、寿命消費率(経過時間)を複数のステージに区分する(劣化ステージ分類ステップ)。例えば、図6の例示では、増加の変化量が最も大きい方から2つの変化領域Cv(Cv2、Cv1)が選択されており、各変化領域Cvにおける1点(Cv1に対するta、Cv2に対するtb)がそれぞれ境界とされている。具体的には、寿命消費率が境界ta(図6の例では95%)と境界tb(図6の例では70%)を境界とすることで、0〜70%の領域(寿命初期Cs1)と、70〜95%の領域(寿命後期Cs2)、95%以上(寿命末期Cs3)の3つの領域に分類されている。言い換えると、評価曲線Cが3つの劣化ステージCsに分類されている。なお、劣化ステージCsは、2つ以上の複数に区分しても良い。
【0055】
そして、劣化ステージ識別部63は、対象AE数Ntが属する劣化ステージCsの識別を、例えば、劣化ステージCsの境界(境界ta、境界tb)となる寿命消費率に対応する評価曲線Cの値を閾値とし、この閾値との比較により対象AE数Ntが属する劣化ステージCsを識別しても良い(劣化ステージ識別ステップ)。具体的には、寿命初期Cs1と寿命後期Cs2の境界taとなる寿命消費率(図6の例では70%)に対応する評価曲線Cの値をNa、寿命後期Cs2と寿命末期Cs3の境界tbとなる寿命消費率(図6の例では95%)に対応する評価曲線Cの値をNbとする。この場合は、対象AE数Ntと値Naおよび値Nbとをそれぞれ比較し、対象AE数Ntが値Naより小さい場合には(Nt<Na)、対象AE数Ntは寿命初期Cs1に属すると判断されても良い。同様に、対象AE数Ntが値Na以上かつNbより小さい場合には寿命後期Cs2に属すと判断され(Na≦Nt<Nb)、対象AE数Ntが値Nb以上の場合には寿命末期Cs3に属すると判断されても良い(Nb≦Nt)。
【0056】
このように、対象AE数Ntが属する評価曲線C上の劣化ステージCsを識別することで検査対象物9の属する劣化度合いがわかるので、劣化度合い(劣化ステージCs)に応じた対応を行うことができるようになる。例えば、寿命初期Cs1では、残存寿命が比較的多いと判断されることから(図6の例では、少なくとも30%以上残存)、定期検査時に詳細な検査を実施する必要がないと判断することが可能となる。また、寿命後期Cs2では、残存寿命が少なくなっていると判断されることから(図6の例では、少なくとも5%以上残存)、定期検査時に詳細な調査を必要と判断することができる。このように、劣化ステージCsに応じた定期検査を実施することにより、定期検査に要する費用を削減すると共に、検査の代表点を増やすなど広範囲にわたる検査も可能となる。一方、寿命末期Cs3では、検査対象物9の損傷91が破壊に至るのが近いと判断されることから、定期検査を待つことなく、運転条件の変更や、延命処理、プラント停止などの措置をとることが可能であり、蒸気漏洩などの事故を未然に防止することが可能となる。
【0057】
上記の構成によれば、対象AE数Ntと劣化ステージCsに基づいて検査対象物9の劣化モニタリングを行うことで、検査対象物9の寿命を予測することができる。また、検査対象物9の属する劣化ステージCsによって対応策を決めることで、適切な保守管理を効率的に行うことができる。
【0058】
また、図1〜6に示される実施形態では、評価曲線Cを評価基準として、検査対象物9の対象AE数Ntに基づいて検査対象物9の劣化度合いをモニタリングしている。他の幾つかの実施形態では、図7に示されるように、複数のAEセンサ12を検査対象物9に設置すると共に、劣化モニタリング装置1は、検査対象物9に対するAE計測結果Mを処理するための第2対象値取得部42および第2対象AE数算出部52と、AE計測結果Mに基づいて検査対象物9の状態を評価するための劣化相対評価部65とを備える。
【0059】
図7の例示について説明すると、検査対象物9である配管上の異なる位置に、複数のAEセンサ12がそれぞれ設置されている(図7では、12a〜12eの5つが設置)。また、各AEセンサ12の出力は劣化モニタリング装置1に入力されるように構成され、リアルタイムで配管9のAE計測結果Mを得ることが可能に構成されている。また、配管9は、その異なる位置に溶接部92を複数有している(図7では、92a〜92dの4つが設置)。なお、複数のAEセンサ12は、応力解析等により得られる検査対象物9の代表点にそれぞれ設置することで、代表点におけるAE信号81をモニタリングするよう構成しても良いし、溶接部92付近にそれぞれ設置することで各溶接部92からのAE信号81をモニタリングするよう構成しても良い。
【0060】
劣化モニタリング装置1の機能部について説明すると、第2対象値取得部42は、検査対象物9に対するAE計測により得られる信号の第2単位期間における計数値である対象信号数Tsを取得する。また、第2対象値取得部42は、検査対象物9の異なる位置に設置された複数のAEセンサ12の各々で計測された対象信号数Tsを取得する(対象値取得ステップ)。一方、第2対象AE数算出部52は、時系列で初期に取得される対象信号数Tsに基づいて設定される対象ノイズ信号数Tnを、対象信号数Tsから減算した対象AE数Ntを求める(対象AE数算出ステップ)。すなわち、この第2対象値取得部42は、複数のAEセンサ12からの観測信号8をAEセンサ12毎に処理する。また、第2対象AE数算出部52は、第2対象値取得部42によってAEセンサ12毎に取得される対象信号数Tsを、AEセンサ12毎に処理することでAEセンサ12毎に対象AE数Ntを求める。このようにAEセンサ12毎に処理すること以外は、第2対象値取得部42および第2対象AE数算出部52は、それぞれ、図1で説明された対象値取得部4および対象AE数算出部5と同じであるため、説明を省略する。
【0061】
劣化相対評価部65は、時系列に伴って増加する対象AE数Ntの増加量に基づいて、検査対象物9の劣化度合いを評価する増加量比較部66(劣化評価ステップ増加量比較ステップ)を有している。すなわち、複数のAEセンサ12毎に求められる対象AE数Ntの時系列での増加量を算出し、複数のAEセンサ12のそれぞれから得られる同時期の増加量同士を比較する。
【0062】
図8A図8Dには、図7の複数の溶接部92a〜92dのそれぞれにおけるAE数(対象AE数Nt)の時間推移が例示されている。これは、劣化モニタリング装置1(第2対象AE数算出部52)によって得られた対象AE数Ntを時系列で並べたものに相当する。図8A図8Dに示されるように、例えば、経過時間t1〜t2におけるAE数の増加量を比較すると、溶接部92d(図8D)における増加量(傾き)が最も大きく、続いて、溶接部92c(図8C)、溶接部92b(図8B)、溶接部92a(図8A)の順に大きい。このような比較結果が劣化相対評価部65によって得られることになる。
【0063】
そして、この比較結果から対応の優先度を決定しても良く、具体的には、増加量が大きいほど劣化の進行が大きいことが推定されるので、溶接部92d、溶接部92c、溶接部92b、溶接部92aの順に優先度が高いことなる。また、実際の対応においては、AE数の増加量を所定の閾値レベルと比較することで対応の内容を決定しても良い。例えば、上述の評価曲線Cを別途取得しておくことで(図1または図5の、参照値取得部2、評価曲線生成部3により取得可能)、寿命消費率を考慮して、対応を決めることもできる。例えば、所定の閾値(上述の信号数の値Naや値Nb)との比較により劣化ステージCsを判断し、劣化ステージCsに応じて定められた対応を行っても良く、増加量が最も大きい溶接部92(92d)であっても、寿命初期Cs1であれば定期検査における詳細調査を行わないとの判断も可能となる。
【0064】
上記の構成によれば、検査対象物9の複数の異なる位置にそれぞれ設置されるAEセンサ12からの信号(観測信号8)に基づいて、それぞれ対応する対象AE数Ntが計測され、同時期の対象AE数Ntの増加量同士が比較される。一般に、損傷91の進行により発生するAE信号81の数は劣化の進行に伴って増加するため、対象AE数Ntの増加量に基づいて、検査対象物9の各位置における劣化度合いを相対的にモニタリングできる。また、この相対評価の結果に基づいて定期検査における優先順位付けが可能となり、効果的な保守管理を行うことができる。
【0065】
また、他の幾つかの実施形態では、図7に示されるように、AEセンサ12の少なくとも2つによって検査対象物9が有する溶接部が挟まれる。図7の例示では、配管(検査対象物9)は4つの溶接部92(92a〜92d)を有している。また、5つのAEセンサ12(12a〜12e)が異なる位置に設置されている。そして、各溶接部92のそれぞれを2つのAEセンサ12で挟むように、各AEセンサ12は設置されている。具体的には、溶接部92aを挟んだ両側にはAEセンサ12aとAEセンサ12bが設置されている。同様に、溶接部92bの両側には、AEセンサ12bとAEセンサ12cが設置され、溶接部92cの両側には、AEセンサ12cとAEセンサ12dが設置され、溶接部92dの両側には、AEセンサ12dとAEセンサ12eが設置されている。これによって、各溶接部92から生じるAE信号81が、各溶接部92を挟むAEセンサ12によって、それぞれモニタリングされている。
【0066】
このように、溶接部92を挟んでAEセンサ12を設置することで、2つのAEセンサ12にそれぞれ到達する時間差を利用して、観測信号8に含まれる目的とする溶接部92付近からの信号をより適切に識別することができる。上記の構成によれば、クリープ損傷は溶接部92で発生する可能性が高く、クリープ損傷による劣化度合いを精度よくモニタリングすることができる。
【0067】
以下、AEセンサ12の取り付けに関する実施形態を説明する。幾つかの実施形態では、図9に示されるように、AEセンサ12を検査対象物9に取り付けるためスタッドボルトと14は、スタッド溶接により検査対象物9に取り付けられる。図9は、配管9に敷設されたAEセンサ12を示す図であり、図1図5における配管9とAEセンサ12の取り付け箇所を拡大して示したものとなる。図9の例示では、両端にネジ部を有するボルトであるスタッドボルト14が配管9の壁に固定されており、このスタッドボルト14に導波棒13の一端が固定されている。また、導波棒13の他端(スタッドボルト14が固定されていない端部)には、AEセンサ12を設置するためのセンサ敷設用板15が固定されている。そして、センサ敷設用板15の上にAEセンサ12が設置されている。すなわち、AEセンサ12は、センサ敷設用板15、導波棒13、スタッドボルト14をその順に介して配管9に設置されている。例えば、導波棒13とセンサ敷設用板15との溶接固定と、配管9とスタッドボルト14との溶接固定を行った後に、導波棒13とスタッドボルト14の溶接固定がされても良い。
【0068】
この際、スタッドボルト14と配管9との固定は、スタッド溶接によって行われている。スタッド溶接は、瞬間的な電気抵抗溶接で行う溶接であるため入熱が少なく、溶接後の後処理の必要がない。このため、上記の構成によれば、スタッド溶接により溶接後の熱処理が不要となり、センサ敷設に必要な時間とコストを削減できる。また、スタッドボルト14を介してAEセンサ12と検査対象物が接続されるので、AEセンサ12の設置環境温度を下げることができる。
【0069】
また、スタッドボルト14と導波棒13との固定や、導波棒13とセンサ敷設用板15との固定には、Tig溶接を用いても良い。スタッドボルト14の先端に導波棒をTig溶接することで、センサの使用温度を200度以下まで下げることができる。
【0070】
また、以下には、AE計測による観測信号8の処理についての実施形態を説明する。図1〜9に示される実施形態では、参照信号数Rsや対象信号数Tsは、AE計測による観測信号8を信号処理して取得されている。他の幾つかの実施形態では、AE計測に対する上記の信号処理を行うことなく、参照信号数Rsと対象信号数Tsが計数されても良い。また、その他の幾つかの実施形態では、上記の信号処理と共に、または、信号処理に代えて他の方法によりノイズ信号82の除去が図られても良い。例えば、発電所設備に対するAE計測で観測される観測信号8には、周囲の設備からのノイズ、ケーブル中の電気的ノイズ、配管9に流れる蒸気からの蒸気ノイズなどが含まれる。そこで、これらのノイズの種類に応じたノイズ除去処理を行うことで、AE計測の観測信号8からノイズ信号82の除去(事前除去)を図っても良い。
【0071】
幾つかの実施形態では、周囲の設備からのノイズについては、観測信号8の発生位置に基づいて除去しても良い。具体的には、複数のAEセンサ12を設置した場合には、各AEセンサ12への観測信号8の到達時間の差を利用することで、その発生位置を特定することが可能である。そして、高温配管で損傷91が生じる部位は溶接部92が主である。このため、溶接部92から所定の範囲内の位置(溶接部近傍)から発生している成分のみ取り込み、それ以外の位置からの信号を除去したものを観測信号8とすることで、AE計測の観測信号8からの周囲の雑音の除去を図ることができる。
また、幾つかの実施形態では、電気的ノイズについては、AEセンサ12による観測信号8の振幅に閾値レベルを設け、閾値レベル以上の信号を観測信号8としても良い。これによって、一般的に微弱となる電気的ノイズの観測信号8からの除去を図ることができる。
また、幾つかの実施形態では、蒸気ノイズについては、周波数など特徴量に基づいて蒸気ノイズを識別し、観測信号8からその特徴量に合致する信号を除外することで、観測信号8からの蒸気ノイズの除去を図ることができる。
なお、これらのノイズ除去法の実行には、高速フーリエ変換や、CWM法(Continuous Wave Memory)、スペクトラム減算法などを利用しても良い。
【0072】
上記の構成によれば、対象信号数Tsの計数時においてノイズ信号82による影響を低減することができる。これらの方法は、参照信号数Rsの計数時に用いても良い。
【0073】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0074】
1 劣化モニタリング装置
12 AEセンサ
13 導波棒
14 スタッドボルト
15 センサ敷設用板
2 参照値取得部
22 記憶媒体
3 評価曲線生成部
4 対象値取得部
5 対象AE数算出
6 劣化評価部
61 変化領域抽出部
62 劣化ステージ分類部
63 劣化ステージ識別部
65 劣化相対評価部
66 増加量比較部
8 観測信号
81 AE信号
82 ノイズ信号
84 信号処理後信号
9 検査対象物(配管)
91 損傷
92 溶接部

Rs 参照信号数
Rn 参照ノイズ信号数
Nr 参照AE数

Ts 対象信号数
Tn 対象ノイズ信号数
Nt 対象AE数

C 評価曲線
Cv 変化領域
Cs 劣化ステージ
ta 寿命消費率(経過時間)の境界
tb 寿命消費率(経過時間)の境界
Na 境界taに対応する信号数(イベント数)
Nb 境界tbに対応する信号数(イベント数)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9