特許第6470675号(P6470675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6470675還元剤注入量分担制御方法および脱硝方法、並びに脱硝システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470675
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】還元剤注入量分担制御方法および脱硝方法、並びに脱硝システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/90 20060101AFI20190204BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 53/79 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   B01D53/90ZAB
   B01D53/56 310
   B01D53/79
   B01D53/86 222
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-251756(P2015-251756)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-113697(P2017-113697A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】青田 浩美
(72)【発明者】
【氏名】杉山 友章
(72)【発明者】
【氏名】安武 聡信
(72)【発明者】
【氏名】吉田 章人
(72)【発明者】
【氏名】田上 光一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 学
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−094355(JP,A)
【文献】 特開2013−176733(JP,A)
【文献】 特開2001−187315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/56、53/79、53/86、53/90
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、前記注入部の下流側に配置された脱硝反応器とを備え、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝装置における各注入部の注入分担率を調整する方法であって、
前記還元剤の注入総量に対する、前記複数の注入部の各々からの前記還元剤の注入量の割合と相関のある各注入部の分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する前記脱硝反応器の断面を分割して得られる複数の区画の各々における前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得するステップと、
前記区画の各々について、前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得するステップと、
前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度を推定するステップと、
前記還元剤の濃度の推定値に基づいて、前記分担率パラメータの推奨値を算出するステップと、
を備えることを特徴とする還元剤注入量分担制御方法。
【請求項2】
前記分担率パラメータの推奨値を算出するステップでは、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の推定値の前記複数の区画における分布と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの前記候補値から前記推奨値への補正量を求めることを特徴とする請求項1に記載の還元剤注入量分担制御方法。
【請求項3】
前記乖離を示す前記指標は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度管理範囲からの前記推定値の逸脱量であることを特徴とする請求項2に記載の還元剤注入量分担制御方法。
【請求項4】
各々の区画における前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度を測定するステップと、
各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、前記脱硝反応モデルを補正するステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の還元剤注入量分担制御方法。
【請求項5】
前記分担率パラメータは、前記還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の還元剤注入量分担制御方法。
【請求項6】
前記分担率パラメータとしての各注入部の前記分担率の推奨値から、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するステップをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の還元剤注入量分担制御方法。
【請求項7】
前記分担率パラメータが、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の還元剤注入量分担制御方法。
【請求項8】
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、前記注入部の下流側に配置された脱硝反応器とを備え、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝装置の運転方法であって、
請求項1乃至7の何れか一項に記載の還元剤注入量分担制御方法によって得られる前記分担率パラメータの前記推奨値に基づいて、各注入部の注入分担率を調整するステップ
を備えることを特徴とする脱硝装置の運転方法。
【請求項9】
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、
前記注入部の下流側に配置され、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝反応器と、
前記注入部の各々について、前記還元剤の注入総量に対する該注入部の注入量の割合と相関がある分担率パラメータの推奨値を算出するための分担率調整部と、を備え、
前記分担率調整部は、
各注入部の前記分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する前記脱硝反応器の断面を分割して得られる複数の区画の各々における前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得し、
前記区画の各々について、前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得し、
前記還元剤流動モデルおよび前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度を推定し、
前記還元剤の濃度の推定値に基づいて、前記分担率パラメータの推奨値を算出する
ように構成されたことを特徴とする脱硝システム。
【請求項10】
前記分担率調整部は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の推定値の前記複数の区画における分布と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの前記候補値から前記推奨値への補正量を求めるように構成されたことを特徴とする請求項9に記載の脱硝システム。
【請求項11】
前記乖離を示す前記指標は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度管理範囲からの前記推定値の逸脱量であることを特徴とする請求項10に記載の脱硝システム。
【請求項12】
各々の区画における前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の測定値と前記推定値との偏差に基づいて前記脱硝反応モデルを補正するモデル補正部をさらに備えることを特徴とする請求項9乃至11の何れか一項に記載の脱硝システム。
【請求項13】
前記分担率パラメータは、前記還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率であることを特徴とする請求項9乃至12の何れか一項に記載の脱硝システム。
【請求項14】
前記分担率調整部は、前記分担率パラメータとしての各注入部の前記分担率パラメータの推奨値から、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するように構成されたことを特徴とする請求項9乃至13の何れか一項に記載の脱硝システム。
【請求項15】
前記分担率パラメータが、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度であることを特徴とする請求項9乃至12の何れか一項に記載の脱硝システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排ガスの脱硝技術に関し、複数の注入部(例えばノズル)から排ガス中に還元剤を分散注入する際、各注入部における還元剤の注入量分担を制御するための還元剤注入量分担制御方法および脱硝方法、並びに脱硝システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元剤によって除去する脱硝技術が知られている。典型的な脱硝装置は、排ガスの煙道に設置された複数のノズルから還元剤(例えばNH)を排ガス中に吹き込み、その後流側に設けられた反応器において例えば触媒の存在下で窒素酸化物の還元反応を促進させ、排ガス中の窒素酸化物を水と窒素に分解するようになっている。
【0003】
こうした脱硝装置においては、煙道における還元剤の注入量分布が脱硝効率を決定する要因の一つとなる。すなわち、脱硝装置では、未反応の還元剤が後流側へリークすることを抑制するために、通常、排ガス中の窒素酸化物に対して適正なモル比の還元剤が供給される。この決まった量の還元剤が排ガス中の窒素酸化物と適切に反応し、還元剤のリーク量が抑制されるように、複数のノズルにおける還元剤の注入量分担を制御することが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、排ガスダクト内に設けられたアンモニア注入装置および脱硝反応器を備えた脱硝装置が開示されている。
より具体的には、特許文献1におけるアンモニア注入装置は、排ガスダクト内を複数に分割して形成される各区画の脱硝反応器出口でのNOx濃度が均一化されるように、各区画におけるアンモニア注入量を独立して調整するようになっている。
また、特許文献2では、排ガス流れに直交する面内において脱硝反応器(脱硝触媒)を複数に区画し、各区画に対応した領域における排ガス中のNH又はNOxの濃度を測定することが記載されている。一例として、アンモニア濃度を測定する場合、リークアンモニア濃度が所定値以上の区画に対して、流量制御元弁により還元剤供給量を調節することも記載されている。さらにこの場合、予め定めたアンモニア濃度と流量制御元弁毎の開度との相関関係を示す制御マップを用いて、還元剤供給量を調節することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−216475号公報
【特許文献2】特開2014−94355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した脱硝装置においては、脱硝効率の経年変化等により、未反応還元剤のリーク量が部分的に増大することがある。例えば、脱硝反応器として脱硝触媒を用いる場合、脱硝触媒の各部位の劣化速度に差があると、脱硝反応器における脱硝効率にばらつきが生じて未反応還元剤のリーク量が局所的に増大してしまう。
こういった事情の他に、排ガスの流れに起因して未反応還元剤のリーク量が増大することもある。一般的に、排ガスダクト内に設けられる還元剤注入ノズルから脱硝反応器までの間には距離があり、また排ガスダクトが屈曲している場合もある。そのため、ノズルから脱硝反応器までの排ガスの流れによって、還元剤注入時の還元剤濃度分布は脱硝反応器に到達した時点で変化している。したがって、排ガスダクトに均一に還元剤を注入しても、脱硝反応器に流入する還元剤濃度が均一であるとは限らず、未反応還元剤のリーク量が局所的に増大してしまうことがあり得る。
未反応還元剤のリーク量が局所的に増大すると、脱硝装置後流側に位置する機器(例えばボイラにおいては空気予熱器)に酸性硫安が付着し、機器の劣化又は機能不全(例えば空気予熱器の閉塞)を招くおそれがある。
【0007】
この点、特許文献1では、排ガスダクトの各区画におけるアンモニア注入量を調整することは記載されているが、脱硝反応器の出口側におけるリークアンモニアの局所的な濃度上昇を抑制するための具体的手法は記載されていない。
一方、特許文献2では、アンモニア濃度に応じた具体的なアンモニア注入量調整方法として、アンモニア濃度と流量制御元弁毎の開度との相関関係を示す制御マップを用いることが記載されている。しかしながら、この方法では、流量制御元弁の開度の設定変更による影響が脱硝反応器出口のアンモニア濃度分布の変化として現れるまでのタイムラグがあり、脱硝反応器出口のアンモニア濃度分布を管理範囲内に確実に収めるのが難しいという問題がある。
【0008】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態の目的は、脱硝反応器出口での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を抑制するために、各注入部における還元剤の適切な注入量分担を取得し得る還元剤注入量分担制御方法および脱硝方法、並びに脱硝システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る還元剤注入量分担制御方法は、
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、前記注入部の下流側に配置された脱硝反応器とを備え、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝装置における各注入部の注入分担率を調整する方法であって、
前記還元剤の注入総量に対する、前記複数の注入部の各々からの前記還元剤の注入量の割合と相関のある各注入部の分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する前記脱硝反応器の断面を分割して得られる複数の区画の各々における前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得するステップと、
前記区画の各々について、前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得するステップと、
前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度を推定するステップと、
前記還元剤の濃度の推定値に基づいて、前記分担率パラメータの推奨値を算出するステップと、
を備える。
【0010】
上記(1)の方法では、還元剤流動モデルと脱硝反応モデルの2つのモデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定するようになっている。ここで、還元剤流動モデルとは、各注入部の分担率パラメータと複数の区画の各々における脱硝反応器の入口側の還元剤の濃度との相関を示すモデルである。一方、脱硝反応モデルとは、脱硝反応器の区画の各々について、脱硝反応器の入口側の還元剤の濃度と出口側の還元剤の濃度との相関を示すモデルである。
この方法によれば、注入部から脱硝反応器入口までの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定することができる。
また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
【0011】
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いて注入部の注入量分担を制御すれば、脱硝反応器の出口側の窒素酸化物濃度又は未反応還元剤濃度に基づいて注入量制御を行うような単純なフィードバック制御に比べて、タイムラグが生じることなく、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
なお、本明細書において、「分担率パラメータ」とは、複数の注入部から排ガス中に供給される還元剤の注入総量に対する、対象ノズルからの還元剤の注入量の割合(分担率)を示すパラメータである。例えば、分担率パラメータは、注入部の分担率そのものであってもよいし、注入部における還元剤注入量を調節するためのバルブの開度等のように、分担率と相関のある他のパラメータであってもよい。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記分担率パラメータの推奨値を算出するステップでは、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の推定値の前記複数の区画における分布と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの前記候補値から前記推奨値への補正量を求める。
【0013】
上記(2)の方法によれば、分担率パラメータの推奨値を算出するステップにおいても、還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いており、脱硝反応器の出口側の還元剤の濃度推定値の分布と目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側の還元剤濃度を目標濃度分布により一層近づけることができる。
【0014】
(3)一実施形態では、上記(2)の方法において、
前記乖離を示す前記指標は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度管理範囲からの前記推定値の逸脱量である。
【0015】
上記(3)の方法によれば、還元剤の濃度分布が還元剤の濃度管理範囲から逸脱しないような推奨値を得ることができ、還元剤の注入量分担をより一層適切に制御することができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの方法において、
各々の区画における前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度を測定するステップと、
各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、前記脱硝反応モデルを補正するステップと、
をさらに備える。
【0017】
上記(4)の方法では、各々の区画における出口側の還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、脱硝反応モデルを補正するようになっている。これにより、脱硝効率の低下が還元剤濃度の推定に及ぼす影響を最小限に抑え、精度の高い分担率パラメータの推奨値を算出することができる。
【0018】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの方法において、
前記分担率パラメータは、前記還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率である。
【0019】
上記(5)の方法によれば、分担率パラメータとして、還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率自体を用いることにより、分担率パラメータの推奨値の算出に際して演算負荷を軽減することができる。
【0020】
(6)一実施形態では、上記(5)の方法において、
前記分担率パラメータとしての各注入部の前記分担率の推奨値から、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するステップをさらに備える。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一項に記載の方法において、
前記分担率パラメータが、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度である。
【0022】
上記(6)又は(7)の構成によれば、注入部の分担率パラメータとして、還元剤の注入量の調整に直接的に関わるバルブの開度を用いるようにしているので、分担率の推奨値から還元剤の注入量制御までの手順を簡素化できる。
【0023】
(8)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る脱硝装置の運転方法は、
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、前記注入部の下流側に配置された脱硝反応器とを備え、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝装置の運転方法であって、
上記(1)乃至(7)の何れかに記載の還元剤注入量分担制御方法によって得られる前記分担率パラメータの前記推奨値に基づいて、各注入部の注入分担率を調整するステップ
を備える。
【0024】
上記(8)の方法によれば、上述の還元剤注入量分担制御方法によって取得された適切な分担率パラメータの推奨値に基づいて、各注入部の注入量分担を調整するようにしたので、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
よって、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0025】
(9)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る脱硝システムは、
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、
前記注入部の下流側に配置され、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝反応器と、
前記注入部の各々について、前記還元剤の注入総量に対する該注入部の注入量の割合と相関がある分担率パラメータの推奨値を算出するための分担率調整部と、を備え、
前記分担率調整部は、
各注入部の前記分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する前記脱硝反応器の断面を分割して得られる複数の区画の各々における前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得し、
前記区画の各々について、前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得し、
前記還元剤流動モデルおよび前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度を推定し、
前記還元剤の濃度の推定値に基づいて、前記分担率パラメータの推奨値を算出する
ように構成される。
【0026】
上記(9)の構成によれば、還元剤流動モデルと脱硝反応モデルの2つのモデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定するようになっている。
この構成によれば、注入部から脱硝反応器入口までの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定することができる。
また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いて注入部の注入量分担を制御すれば、脱硝反応器の出口側の窒素酸化物濃度又は未反応還元剤濃度に基づいて注入量制御を行うような単純なフィードバック制御に比べて、タイムラグが生じることなく、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0027】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記分担率調整部は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の推定値の前記複数の区画における分布と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの前記候補値から前記推奨値への補正量を求めるように構成される。
【0028】
上記(10)の構成によれば、分担率パラメータの推奨値を算出する際においても、分担率調整部では還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いており、脱硝反応器の出口側の還元剤の濃度推定値の分布と目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側の還元剤濃度を目標濃度分布により一層近づけることができる。
【0029】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)に記載の構成において、
前記乖離を示す前記指標は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度管理範囲からの前記推定値の逸脱量である。
【0030】
上記(11)の構成によれば、還元剤の濃度分布が還元剤の濃度管理範囲から逸脱しないような推奨値を得ることができ、還元剤の注入量分担をより一層適切に制御することができる。
【0031】
(12)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(11)の何れかの構成において、
各々の区画における前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の測定値と前記推定値との偏差に基づいて前記脱硝反応モデルを補正するモデル補正部をさらに備える。
【0032】
上記(12)の構成によれば、各々の区画における出口側の還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、脱硝反応モデルを補正するようになっている。これにより、脱硝効率の低下が還元剤濃度の推定に及ぼす影響を最小限に抑え、精度の高い分担率パラメータの推奨値を算出することができる。
【0033】
(13)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れかの構成において、
前記分担率パラメータは、前記還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率である。
【0034】
上記(13)の構成によれば、分担率パラメータとして、還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率自体を用いることにより、分担率パラメータの推奨値の算出に際して演算負荷を軽減することができる。
【0035】
(14)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(13)の何れかの構成において、
前記分担率調整部は、前記分担率パラメータとしての各注入部の前記分担率パラメータの推奨値から、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するように構成される。
【0036】
(15)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れかの構成において、
前記分担率パラメータが、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度である。
【0037】
上記(14)又は(15)の構成によれば、注入部の分担率パラメータとして、還元剤の注入量の調整に直接的に関わるバルブの開度を用いるようにしているので、分担率の推奨値から還元剤の注入量制御までの手順を簡素化できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、注入部から脱硝反応器入口までの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定することができる。また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いて注入部の注入量分担を制御すれば、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】一実施形態に係る脱硝システムの構成を概略的に示す図である。
図2】一実施形態における脱硝反応器の断面を示す模式図(図1のA−A線断面)である。
図3】一実施形態に係る還元剤注入量分担制御方法を示すフローチャートである。
図4】他の実施形態に係る還元剤注入量分担制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0041】
最初に、図1及び図2を参照して、幾つかの実施形態に係る脱硝システム1の全体構成について説明する。なお、図1は、一実施形態に係る脱硝システム1の構成を概略的に示す図である。図2は、一実施形態における脱硝反応器4の断面を示す模式図(図1のA−A線断面)である。
【0042】
図1に例示するように、幾つかの実施形態に係る脱硝システム1は、排ガス中に還元剤を注入するための複数のノズル(注入部)2と、これら複数のノズル2の下流側に配置された脱硝反応器4と、各ノズル2についての分担率パラメータの推奨値を算出するための分担率調整部8と、を備える。
【0043】
ここで、分担率パラメータとは、複数のノズル2の各々について、還元剤の注入総量に対する該ノズル2の注入量の割合と相関があるパラメータである。言い換えれば、分担率パラメータは、複数のノズル2から排ガス中に供給される還元剤の注入総量に対する、対象ノズル2からの還元剤の注入量の割合(分担率)を示すパラメータである。例えば、分担率パラメータは、ノズル(対象ノズル)2の分担率そのものであってもよいし、ノズル2における還元剤注入量を調節するためのバルブの開度等のように、分担率と相関のある他のパラメータであってもよい。
【0044】
図1に例示する実施形態では、脱硝システム1は、発電プラントのボイラ10からの排ガスを脱硝する構成となっている。但し、脱硝システム1で処理対象とする排ガスは、ボイラ10からの排ガスに限定されるものではない。
この脱硝システム1は、ボイラ10と空気予熱器16との間に配設された排ガスダクト12に設けられている。具体的には、脱硝システム1は、複数のノズル2と、脱硝反応器4と、還元剤濃度検出部6と、NOx濃度検出部18と、が排ガスダクト12の上流側から順に設けられた構成となっている。
また、この脱硝システム1は、上述したように、各ノズル2についての分担率パラメータの推奨値を算出するための分担率調整部8をさらに備えている。
【0045】
複数のノズル2は、排ガス中に還元剤を注入するように構成されており、排ガスダクト12の排ガス流れ方向に直交する断面(例えば排ガスダクト12の延在方向に対して直交する断面)内に複数設けられている。各々のノズル2は、還元剤の注入量を独立して調整可能な構成であってもよい。また、各々のノズル2には、還元剤の注入量を調整するためのバルブ(図示略)が設けられていてもよい。この場合、バルブは、手動で制御される構成であってもよいし、あるいは自動で制御される構成であってもよい。なお、還元剤としては、例えばアンモニアや尿素等が挙げられる。複数のノズル2から供給される還元剤の総量は、排ガス中のNOxの量(例えば推定値)に応じて決定される。
【0046】
脱硝反応器4は、主な脱硝反応を行う場であり、例えば脱硝触媒が担持されて選択式触媒脱硝法によって脱硝を行う構成となっている。但し、脱硝反応器4の構成はこれに限定されるものではない。例えば他の実施形態として、脱硝反応器4は、ラジカル反応を利用したラジカル脱硝法を行う構成であってもよいし、選択式触媒脱硝法においてラジカル反応を付加して還元反応を促進させる構成であってもよい。
【0047】
還元剤濃度検出部6は、還元剤(未反応還元剤)の濃度を検出するように構成される。この還元剤濃度検出部6は、脱硝反応器4の各区画に対応した還元剤濃度を検出する構成であってもよい。
NOx濃度検出部18は、排ガス中の窒素酸化物(以下NOxと称する)の濃度を検出するように構成される。NOx濃度検出部18は、脱硝反応器4の各区画に対応したNOx濃度を検出する構成であってもよい。
還元剤濃度検出部6又はNOx濃度検出部18は、各濃度を手分析によって検出してもよいし、例えばレーザ式ガス分析計等を用いて自動で検出してもよい。なお、レーザ式ガス分析計とは、排ガス中にレーザ光を照射し、特定波長の吸光量から特定物質の濃度を測定するものである。
なお、還元剤濃度検出部6又はNOx濃度検出部18は、選択的に設置されるものであり、脱硝システム1はこれらの検出部が設置されない構成であってもよい。
【0048】
次に、分担率調整部8について詳細に説明する。
分担率調整部8は、各ノズル2の分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する脱硝反応器4の断面を分割して得られる複数の区画k(図2の符号4−1,4−2,…,4−k参照)の各々における脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得し、区画の各々について、脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度と、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得し、還元剤流動モデルおよび脱硝反応モデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口4b側の還元剤の濃度を推定し、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するように構成される。
【0049】
ここで、還元剤流動モデルとは、各ノズル2の分担率パラメータと複数の区画の各々における脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度との相関を示すモデルである。
より具体的には、還元剤流動モデルは、脱硝反応器4を複数の区画に分けた場合の各区画k(図2に示す符号4−k)へ供給される還元剤濃度B(k)と、複数のノズル2から供給される還元剤の注入量との相関関係をモデル化したものである。
還元剤の総注入量は、予め取得された排ガス中のNOx量に応じて決定されるため、各ノズル2からの還元剤の注入量分担は、還元剤の総注入量を維持するように設定される。すなわち、全てのノズル2からの還元剤の注入量の総和が還元剤の総注入量と一致する。したがって、各ノズルjが分担する還元剤の注入量分担率をA(j)とすると、ΣA(j)=1.0となる。還元剤流動モデルは、この還元剤の注入量分担率A(j)と、脱硝反応器4の入口4a側の還元剤濃度分布B(k)との相関関係を表す。
なお、排ガス中のNOx量は、例えばボイラ10からの排ガスであれば、ボイラ10での燃料の種類や燃焼状態(燃焼温度を含む)等から推定できる。あるいは、排ガス中のNOx量は、脱硝システム1の上流側における実際のNOx検出値であってもよい。
【0050】
一実施形態において還元剤流動モデルは、各ノズル2における還元剤の注入分担率を個別に増減する試験を行うことで、脱硝反応器4の入口4aまたは出口4bの還元剤量を計測し、その関係を数式モデルで表現したものであってもよい。一例として、図2に示すように、脱硝反応器4の区画kが3×3の9区画あり、図示は省略するがノズル2も排ガスダクト12内に3段3列(9箇所)ある場合には、9行9列の係数行列として表現してもよい。この場合、排ガスが均一流れであれば対角行列になる。
また別の実施形態として、各ノズル2の分担率パラメータと複数の区画の各々における脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度との相関をより詳細に表現するために、還元剤流動モデルの作成に際して、流動解析計算(CFD)を使用してもよい。
【0051】
一方、脱硝反応モデルとは、脱硝反応器4の区画k(図2の符号4−1,4−2,…,4−k参照)の各々について、脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度と出口4b側の還元剤の濃度との相関を示すモデルである。
例えば、脱硝反応器4が脱硝触媒を担持した構成である場合、脱硝反応器4の各区画kでは、入口4aに到達した還元剤及びNOxのモル比と、脱硝反応器4内の脱硝触媒の特性により出口4b側の還元剤(未反応還元剤)とNOx濃度が決定される。
ここで、脱硝触媒の特性は、以下に示す脱硝効率で表すことができる。
脱硝率=(1−脱硝反応器出口NOx濃度/脱硝反応器入口濃度)×100%
モル比=脱硝率/100+脱硝反応器出口還元剤濃度/脱硝反応器入口NOx濃度
これらをもとに、脱硝反応器4の区画kの出口4bにおける還元剤濃度X(k)と入口4aの還元剤量B(k)の関係が、脱硝反応モデルである。
【0052】
上記方法では、これら還元剤流動モデルと脱硝反応モデルの2つのモデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口4b側の還元剤の濃度を推定するようになっている。
具体的には、ノズル2の還元剤注入量をある分布(A(j),j=1,2,…)にした場合、すなわち各ノズル2の注入分担率を候補値に設定した場合、脱硝反応器4の入口4a側における還元剤濃度分布推定値(B(k),k=1,2,…)および脱硝反応器4の出口4b側における還元剤濃度分布推定値(X(k),k=1,2,…)は、還元剤流動モデルと脱硝反応モデルの2つのモデルを用いて算出できる。
【0053】
この方法によれば、ノズル2から脱硝反応器4の入口4aまでの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器4における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画kにおける出口4b側の還元剤の濃度を推定することができる。
また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器4の出口4b側での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
【0054】
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いてノズル2の注入量分担を制御すれば、脱硝反応器4の出口4b側の窒素酸化物濃度又は未反応還元剤濃度に基づいて注入量制御を行うような単純なフィードバック制御に比べて、タイムラグが生じることなく、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝システム1の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝システム1を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0055】
また、脱硝システム1が上記還元剤濃度検出部6を備える場合、分担率調整部8は、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度X(k)の推定値の複数の区画における分布と、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の目標濃度分布との乖離dX(k)を示す指標に基づいて、還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるように構成されてもよい。
【0056】
上記構成によれば、分担率パラメータの推奨値を算出する際においても、分担率調整部8では還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いており、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度推定値の分布と目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるようになっている。これにより、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤濃度を目標濃度分布により一層近づけることができる。
【0057】
この場合、乖離を示す指標は、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度管理範囲からの推定値の逸脱量であってもよい。
これにより、還元剤の濃度分布が還元剤の濃度管理範囲から逸脱しないような推奨値を得ることができ、還元剤の注入量分担をより一層適切に制御することができる。
【0058】
より具体的には、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤濃度が高いと脱硝システム1の下流側機器(例えば空気予熱器16)に影響を及ぼす可能性があるため、一般的に、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度管理範囲が設定される。そこで、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤濃度が、この濃度管理範囲を超える区画が発生したら、その区画について還元剤濃度を下げる必要がある。これには、上述したように、脱硝反応モデルを逆算することにより、脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の変化量dB(k)を算出することができる。さらに、還元剤の変化量dB(k)に必要な還元剤の注入分担率は、還元剤流動モデルを逆算することで計算することができる。
以上の処理により、新たに注入量分担率の推奨値が取得され、還元剤の注入量を手動調整または注入量制御装置にて推奨値に変化させれば、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤濃度を濃度管理範囲以下に抑えることができる。
また、脱硝反応器4の入口4a側の還元剤濃度分布の変更量を算出する際、濃度管理範囲を超えた区画を下げるのではなく、出口4b側の還元剤濃度が最大となる区画を下げるようにしてもよい。これにより、調整を繰り返すことで脱硝反応器4の出口4bの還元剤濃度分布が均一に近づくような還元剤注入量に調整することが可能となる。
【0059】
一実施形態では、脱硝システム1は、各々の区画kにおける脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度の測定値X(k)と推定値X(k)との偏差E(k)に基づいて脱硝反応モデルを補正するモデル補正部9をさらに備える。例えば、脱硝反応器4が脱硝触媒を担持した構成である場合、モデル補正部9では、該当する区画kにおける脱硝触媒の触媒効率ηを補正するようにしてもよい。
【0060】
上記構成によれば、各々の区画における出口4b側の還元剤の濃度の推定値X(k)と測定値X(k)との偏差E(k)に基づいて、脱硝反応モデルを補正するようになっている。これにより、脱硝効率の低下が還元剤濃度の推定に及ぼす影響を最小限に抑え、精度の高い分担率パラメータの推奨値を算出することができる。
【0061】
一実施形態では、分担率パラメータは、還元剤の注入総量に対する各ノズル2の注入量の割合を示す分担率である。
【0062】
上記構成によれば、分担率パラメータとして、還元剤の注入総量に対する各ノズル2の注入量の割合を示す分担率自体を用いることにより、分担率パラメータの推奨値の算出に際して演算負荷を軽減することができる。
【0063】
一実施形態において、分担率調整部8は、分担率パラメータとしての各ノズル2の分担率パラメータの推奨値から、ノズル2からの還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するように構成される。
この場合、分担率パラメータが、ノズル2からの還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度であってもよい。
【0064】
上記構成によれば、ノズル2の分担率パラメータとして、還元剤の注入量の調整に直接的に関わるバルブの開度を用いるようにしているので、分担率の推奨値から還元剤の注入量制御までの手順を簡素化できる。
【0065】
次に、図3及び図4を参照して、幾つかの実施形態に係る還元剤注入量分担制御方法について説明する。なお、以下の説明では、適宜、上述した図1の符号を用いている。
【0066】
図3及び図4に例示されるように、幾つかの実施形態に係る還元剤注入量分担制御方法は、還元剤流動モデル取得ステップ(S1)と、脱硝反応モデル取得ステップ(S2)と、脱硝反応器出口側濃度算出ステップ(S3〜S4)と、推奨値算出ステップ(S5〜S10)と、を備える。
【0067】
還元剤流動モデル取得ステップ(S1)は、還元剤の注入総量に対する、複数のノズル2の各々からの還元剤の注入量の割合と相関のある各ノズルの分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する脱硝反応器4の断面を分割して得られる複数の区画kの各々における脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得する。
脱硝反応モデル取得ステップ(S2)は、脱硝反応器4の区画の各々について、脱硝反応器4の入口4a側の還元剤の濃度と、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得する。
【0068】
脱硝反応器出口側濃度算出ステップ(S3〜S4)は、還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定する。
具体的には、脱硝反応器出口側濃度算出ステップ(S3〜S4)では、還元剤流動モデルを用いて、ノズル2の還元剤の注入分担率の候補値から脱硝反応器4の区画kにおける入口4a側の還元剤濃度B(k)を算出する(S3)。次いで、脱硝反応モデルを用いて、脱硝反応器4の区画kにおける入口4a側の還元剤濃度B(k)から脱硝反応器4の区画kの出口4b側の還元剤濃度X(k)を算出する(S4)。
【0069】
推奨値算出ステップ(S5〜S10)は、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出する。
この分担率パラメータの推奨値を算出するステップでは、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度の推定値の複数の区画における分布と、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求める。
具体的には、脱硝反応器4の区画kの出口4b側における目標濃度分布に対する、脱硝反応器4の区画kの出口4b側の還元剤濃度X(k)の乖離dX(k)を算出する(S5)。この乖離dX(k)が濃度管理範囲内か否かを判定し(S6)、乖離dX(k)が濃度管理範囲内ではない場合には、乖離dX(k)に基づいて脱硝反応器4の区画kにおける入口4a側の還元剤濃度B(k)の変更量dB(k)を算出する(S7)。そして、この変更量dB(k)に基づいて、ノズル2の分担率パラメータの変更量を算出し(S8)、分担率パラメータの候補値と分担率パラメータの変更量とから分担率パラメータの推奨値を決定する(S9)。なお、乖離dX(k)が濃度管理範囲内である場合には、分担率パラメータの候補値をそのまま推奨値として採用する(S10)。
【0070】
これにより、分担率パラメータの推奨値を算出するステップにおいても、還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いており、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度推定値の分布と目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるようになっている。これにより、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤濃度を目標濃度分布により一層近づけることができる。
【0071】
この場合、乖離を示す前記指標は、脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度管理範囲からの推定値の逸脱量であってもよい。
これによれば、還元剤の濃度分布が還元剤の濃度管理範囲から逸脱しないような推奨値を得ることができ、還元剤の注入量分担をより一層適切に制御することができる。
【0072】
上記方法において、分担率パラメータは、還元剤の注入総量に対する各ノズルの注入量の割合を示す分担率であってもよい。
このように、分担率パラメータとして、還元剤の注入総量に対する各ノズルの注入量の割合を示す分担率自体を用いることにより、分担率パラメータの推奨値の算出に際して演算負荷を軽減することができる。
【0073】
一実施形態では、分担率パラメータとしての各ノズルの分担率の推奨値から、ノズル2からの還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するステップをさらに備える。
この場合、分担率パラメータが、ノズルからの還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度であってもよい。
【0074】
これらの構成によれば、ノズル2の分担率パラメータとして、還元剤の注入量の調整に直接的に関わるバルブの開度を用いるようにしているので、分担率の推奨値から還元剤の注入量制御までの手順を簡素化できる。
【0075】
図4に示す実施形態においては、還元剤注入量分担制御方法は、各々の区画kにおける脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度を測定するステップと、各々の区画kにおける脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度の測定値X(k)と推定値X(k)との偏差E(k)に基づいて脱硝反応モデルを補正するステップ(S11〜S13)と、さらに備える。
具体的には、上述したように脱硝反応器4の区画kの出口4b側の還元剤濃度X(k)を算出した(S4)後、各々の区画kにおける脱硝反応器4の出口4b側の還元剤の濃度の測定値X(k)と推定値X(k)との偏差E(k)を算出する(S11)。この偏差E(k)が許容範囲内か否かを判定し(S12)、偏差E(k)が許容範囲内である場合には、上述したように目標濃度分布に対するX(k)の偏差dX(k)の算出に戻る(S5)。一方、偏差E(k)が許容範囲内でない場合には、脱硝反応モデルを補正し(S13)、脱硝反応器4の区画kの入口4a側の還元剤濃度B(k)の算出に戻る(S3)。
【0076】
上記方法では、各々の区画kにおける出口4b側の還元剤の濃度の推定値X(k)と測定値X(k)との偏差E(k)に基づいて、脱硝反応モデルを補正するようになっている。これにより、脱硝効率の低下が還元剤濃度の推定に及ぼす影響を最小限に抑え、精度の高い分担率パラメータの推奨値を算出することができる。
【0077】
図示は省略するが、幾つかの実施形態に係る脱硝装置の運転方法は、上述した還元剤注入量分担制御方法によって得られる分担率パラメータの推奨値に基づいて、各ノズルの注入分担率を調整するステップを備える。
【0078】
上記方法によれば、上述の還元剤注入量分担制御方法によって取得された適切な分担率パラメータの推奨値に基づいて、各ノズル2の注入量分担を調整するようにしたので、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
よって、脱硝システム1の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝システム1を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0079】
上述したように、本発明の少なくとも一実施形態によれば、ノズル2から脱硝反応器4の入口4aまでの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器4における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画k(図2の符号4−1,4−2,…,4−k参照)における出口4b側の還元剤の濃度を推定することができる。また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器4の出口4bでの未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いてノズル2の注入量分担を制御すれば、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝システム1の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝システム1を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0080】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0081】
1 脱硝システム
2 ノズル
4 脱硝反応器
4a 入口
4b 出口
6 還元剤濃度検出部
8 分担率調整部
9 モデル補正部
10 ボイラ
12 排ガスダクト
16 空気予熱器
18 NOx濃度検出部

図1
図2
図3
図4