【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る還元剤注入量分担制御方法は、
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、前記注入部の下流側に配置された脱硝反応器とを備え、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝装置における各注入部の注入分担率を調整する方法であって、
前記還元剤の注入総量に対する、前記複数の注入部の各々からの前記還元剤の注入量の割合と相関のある各注入部の分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する前記脱硝反応器の断面を分割して得られる複数の区画の各々における前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得するステップと、
前記区画の各々について、前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得するステップと、
前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度を推定するステップと、
前記還元剤の濃度の推定値に基づいて、前記分担率パラメータの推奨値を算出するステップと、
を備える。
【0010】
上記(1)の方法では、還元剤流動モデルと脱硝反応モデルの2つのモデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定するようになっている。ここで、還元剤流動モデルとは、各注入部の分担率パラメータと複数の区画の各々における脱硝反応器の入口側の還元剤の濃度との相関を示すモデルである。一方、脱硝反応モデルとは、脱硝反応器の区画の各々について、脱硝反応器の入口側の還元剤の濃度と出口側の還元剤の濃度との相関を示すモデルである。
この方法によれば、注入部から脱硝反応器入口までの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定することができる。
また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
【0011】
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いて注入部の注入量分担を制御すれば、脱硝反応器の出口側の窒素酸化物濃度又は未反応還元剤濃度に基づいて注入量制御を行うような単純なフィードバック制御に比べて、タイムラグが生じることなく、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
なお、本明細書において、「分担率パラメータ」とは、複数の注入部から排ガス中に供給される還元剤の注入総量に対する、対象ノズルからの還元剤の注入量の割合(分担率)を示すパラメータである。例えば、分担率パラメータは、注入部の分担率そのものであってもよいし、注入部における還元剤注入量を調節するためのバルブの開度等のように、分担率と相関のある他のパラメータであってもよい。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記分担率パラメータの推奨値を算出するステップでは、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の推定値の前記複数の区画における分布と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの前記候補値から前記推奨値への補正量を求める。
【0013】
上記(2)の方法によれば、分担率パラメータの推奨値を算出するステップにおいても、還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いており、脱硝反応器の出口側の還元剤の濃度推定値の分布と目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側の還元剤濃度を目標濃度分布により一層近づけることができる。
【0014】
(3)一実施形態では、上記(2)の方法において、
前記乖離を示す前記指標は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度管理範囲からの前記推定値の逸脱量である。
【0015】
上記(3)の方法によれば、還元剤の濃度分布が還元剤の濃度管理範囲から逸脱しないような推奨値を得ることができ、還元剤の注入量分担をより一層適切に制御することができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの方法において、
各々の区画における前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度を測定するステップと、
各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、前記脱硝反応モデルを補正するステップと、
をさらに備える。
【0017】
上記(4)の方法では、各々の区画における出口側の還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、脱硝反応モデルを補正するようになっている。これにより、脱硝効率の低下が還元剤濃度の推定に及ぼす影響を最小限に抑え、精度の高い分担率パラメータの推奨値を算出することができる。
【0018】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの方法において、
前記分担率パラメータは、前記還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率である。
【0019】
上記(5)の方法によれば、分担率パラメータとして、還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率自体を用いることにより、分担率パラメータの推奨値の算出に際して演算負荷を軽減することができる。
【0020】
(6)一実施形態では、上記(5)の方法において、
前記分担率パラメータとしての各注入部の前記分担率の推奨値から、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するステップをさらに備える。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一項に記載の方法において、
前記分担率パラメータが、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度である。
【0022】
上記(6)又は(7)の構成によれば、注入部の分担率パラメータとして、還元剤の注入量の調整に直接的に関わるバルブの開度を用いるようにしているので、分担率の推奨値から還元剤の注入量制御までの手順を簡素化できる。
【0023】
(8)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る脱硝装置の運転方法は、
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、前記注入部の下流側に配置された脱硝反応器とを備え、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝装置の運転方法であって、
上記(1)乃至(7)の何れかに記載の還元剤注入量分担制御方法によって得られる前記分担率パラメータの前記推奨値に基づいて、各注入部の注入分担率を調整するステップ
を備える。
【0024】
上記(8)の方法によれば、上述の還元剤注入量分担制御方法によって取得された適切な分担率パラメータの推奨値に基づいて、各注入部の注入量分担を調整するようにしたので、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
よって、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0025】
(9)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る脱硝システムは、
排ガス中に還元剤を注入するための複数の注入部と、
前記注入部の下流側に配置され、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元剤との反応によって前記窒素酸化物を分解するように構成された脱硝反応器と、
前記注入部の各々について、前記還元剤の注入総量に対する該注入部の注入量の割合と相関がある分担率パラメータの推奨値を算出するための分担率調整部と、を備え、
前記分担率調整部は、
各注入部の前記分担率パラメータと、排ガス流れ方向に直交する前記脱硝反応器の断面を分割して得られる複数の区画の各々における前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度との相関を示す還元剤流動モデルを取得し、
前記区画の各々について、前記脱硝反応器の入口側の前記還元剤の濃度と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度との相関を示す脱硝反応モデルを取得し、
前記還元剤流動モデルおよび前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の前記還元剤の濃度を推定し、
前記還元剤の濃度の推定値に基づいて、前記分担率パラメータの推奨値を算出する
ように構成される。
【0026】
上記(9)の構成によれば、還元剤流動モデルと脱硝反応モデルの2つのモデルを用いて、分担率パラメータの候補値から、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定するようになっている。
この構成によれば、注入部から脱硝反応器入口までの間の排ガス中における還元剤の拡散状態と、脱硝反応器における脱硝率と、を考慮した上で、分担率パラメータの候補値ごとに、各々の区画における出口側の還元剤の濃度を推定することができる。
また、還元剤の濃度の推定値に基づいて、分担率パラメータの推奨値を算出するようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側での未反応還元剤の局所的な濃度上昇を回避し得る適切な分担率パラメータの推奨値を取得することができる。
こうして得られた適切な分担率パラメータを用いて注入部の注入量分担を制御すれば、脱硝反応器の出口側の窒素酸化物濃度又は未反応還元剤濃度に基づいて注入量制御を行うような単純なフィードバック制御に比べて、タイムラグが生じることなく、未反応還元剤の局所的な増大をより効果的に抑制できる。
さらに、脱硝装置の下流側に設けられた設備での酸性硫安発生に伴う障害を回避することができ、脱硝装置を具備するプラントの連続操業に寄与することができる。
【0027】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記分担率調整部は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の推定値の前記複数の区画における分布と、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、前記還元剤流動モデル及び前記脱硝反応モデルを用いて、前記分担率パラメータの前記候補値から前記推奨値への補正量を求めるように構成される。
【0028】
上記(10)の構成によれば、分担率パラメータの推奨値を算出する際においても、分担率調整部では還元剤流動モデル及び脱硝反応モデルを用いており、脱硝反応器の出口側の還元剤の濃度推定値の分布と目標濃度分布との乖離を示す指標に基づいて、分担率パラメータの候補値から推奨値への補正量を求めるようになっている。これにより、脱硝反応器の出口側の還元剤濃度を目標濃度分布により一層近づけることができる。
【0029】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)に記載の構成において、
前記乖離を示す前記指標は、前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度管理範囲からの前記推定値の逸脱量である。
【0030】
上記(11)の構成によれば、還元剤の濃度分布が還元剤の濃度管理範囲から逸脱しないような推奨値を得ることができ、還元剤の注入量分担をより一層適切に制御することができる。
【0031】
(12)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(11)の何れかの構成において、
各々の区画における前記脱硝反応器の出口側の前記還元剤の濃度の測定値と前記推定値との偏差に基づいて前記脱硝反応モデルを補正するモデル補正部をさらに備える。
【0032】
上記(12)の構成によれば、各々の区画における出口側の還元剤の濃度の推定値と測定値との偏差に基づいて、脱硝反応モデルを補正するようになっている。これにより、脱硝効率の低下が還元剤濃度の推定に及ぼす影響を最小限に抑え、精度の高い分担率パラメータの推奨値を算出することができる。
【0033】
(13)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れかの構成において、
前記分担率パラメータは、前記還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率である。
【0034】
上記(13)の構成によれば、分担率パラメータとして、還元剤の注入総量に対する各注入部の注入量の割合を示す分担率自体を用いることにより、分担率パラメータの推奨値の算出に際して演算負荷を軽減することができる。
【0035】
(14)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(13)の何れかの構成において、
前記分担率調整部は、前記分担率パラメータとしての各注入部の前記分担率パラメータの推奨値から、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度の推奨値を算出するように構成される。
【0036】
(15)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れかの構成において、
前記分担率パラメータが、前記注入部からの前記還元剤の注入量を調整するためのバルブの開度である。
【0037】
上記(14)又は(15)の構成によれば、注入部の分担率パラメータとして、還元剤の注入量の調整に直接的に関わるバルブの開度を用いるようにしているので、分担率の推奨値から還元剤の注入量制御までの手順を簡素化できる。