特許第6470853号(P6470853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470853
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機及びターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
   F04D29/44 U
   F04D29/44 V
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-557629(P2017-557629)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086278
(87)【国際公開番号】WO2017109949
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩切 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 勲
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−204550(JP,A)
【文献】 米国特許第5624229(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0232762(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラ及びケーシングを備える遠心圧縮機であって、
前記ケーシングは、前記インペラの外周側にスクロール流路を形成するスクロール部と、前記インペラで圧縮された圧縮空気を前記スクロール流路に供給するディフューザ流路を形成するディフューザ部と、を備え、
前記ディフューザ部は、
前記インペラの周方向における角度範囲のうち、前記スクロール部の舌部の角度位置が含まれる第1角度範囲に属する第1ディフューザ部と、
前記インペラの周方向における角度範囲のうち、前記スクロール流路での流れ方向における前記第1角度範囲の下流側の第2角度範囲に属する第2ディフューザ部であって、前記第2ディフューザ部の外径R2が前記インペラの回転中心を中心とする基準円に沿って規定される第2ディフューザ部と、を含み、
前記第1角度範囲内における前記第1ディフューザ部の外径R1は、前記第2角度範囲内における前記第2ディフューザ部の外径R2より小さい、遠心圧縮機。
【請求項2】
前記スクロール部は、前記第1角度範囲内における前記スクロール流路の流路断面の図心と前記インペラの回転中心との距離Raが、前記第2角度範囲内における前記スクロール流路の流路断面の図心と前記インペラの回転中心との距離Rbより小さくなるように構成された、請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記インペラの周方向における前記舌部の角度位置での前記第1ディフューザ部の外径R1と、前記第2角度範囲内における前記第2ディフューザ部の外径R2とは、0.8R2<R1<R2を満たす、請求項1又は2に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記インペラの周方向における前記舌部の角度位置を0度とすると、前記第1角度範囲は、−90度から90度までの角度範囲内に含まれる、請求項1乃至3の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項5】
前記第1角度範囲は、−45度から45度までの角度範囲内に含まれる請求項4に記載の遠心圧縮機。
【請求項6】
前記第2角度範囲は、前記インペラの周方向における前記第1角度範囲を除く全角度範囲である、請求項1乃至5の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項7】
前記第1ディフューザ部の外周端は、前記インペラの径方向外側に向かって凸となるように湾曲した湾曲凸形状を有する請求項1乃至6の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項8】
前記第1ディフューザ部の外周縁は、前記インペラの径方向内側に向かって凹となるように湾曲した湾曲凹形状を有する請求項1乃至6の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項9】
前記第1角度範囲内における前記第1ディフューザ部の外径R1は、前記舌部の角度位置を0度とすると、−15度から15度までの角度範囲内において最小となる、請求項1乃至8の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の遠心圧縮機を備えたターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠心圧縮機及びターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用又は舶用ターボチャージャのコンプレッサ部等に用いられる遠心圧縮機は、インペラの回転によって流体に運動エネルギーを与えて径方向外側に流体を吐出し、遠心力を利用して圧力上昇を得るものである。
【0003】
かかる遠心圧縮機には、広い運転範囲において高圧力比と高効率化が求められており、種々の工夫が施されている。
【0004】
従来技術として、例えば、特許文献1には、圧力脈動の発生を低減することを目的とした遠心圧縮機が開示されている。特許文献1に記載の遠心圧縮機は、螺旋形ハウジングとディフューザとを備えており、螺旋形ハウジングの移行領域若しくは舌部の位置する領域における負圧域を低減するように、該移行領域若しくは舌部の位置する領域のディフューザの半径が拡張されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−529358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10は、比較形態に係る遠心圧縮機の回転軸に垂直な概略断面図である。図10に示す比較形態では、ディフューザ部010は、軸方向視において円形形状を有しており、ディフューザ部010の外周縁010Eとインペラの回転中心Oとの距離Rは、周方向位置によらず一定である。
【0007】
一般に、遠心圧縮機の小流量作動点では、スクロール流路004内の流れは、スクロール流路の巻始め004aから巻き終わり004bにかけて減速流れとなり、巻き始めにおける圧力は巻き終わりにおける圧力よりも低くなる。このため、スクロール流路では、舌部012の角度位置において巻き終わりから巻き始めへの再循環流fcが発生する。このような再循環流は、主流が流路接続部に急激に引き込まれる結果として剥離が発生するため、高損失を生じる主要因の一つとなる。
【0008】
また、本発明者の知見によれば、図11及び図12A図12Cに示すように、ディフューザ出口08aからの流れfdは、スクロール流路004の流路壁に沿って旋回流を形成するため、比較形態に係る円形断面形状で形成されたスクロール流路における巻始め004aでは、スクロール流路の流路断面のうち外周側の領域Doにディフューザ出口からの流れが偏ってしまう(図11及び図12A図12Cに示す例では、舌部12の角度位置をθ=0度とし、舌部12の角度位置に対して下流側への角度位置をθとすると、θ=0度の角度位置及びθ=15度の角度位置では、領域Doにディフューザ出口からの流れが偏ってしまう)。したがって、スクロール流路における巻始めでは、図13に示すように、ディフューザ出口からの流れが充満していない内周側の領域Diに再循環流fcが流入しやすくなっており、このことが、再循環流の流量を増加させて再循環流に伴う損失を増加させる要因となっている。
【0009】
特許文献1には、圧力脈動の発生を低減することを目的とした遠心圧縮機の構成が示されているが、舌部近傍における再循環流れを抑制するための遠心圧縮機の構成は開示されていない。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、再循環流に伴う損失の低減によって圧縮機性能を向上可能な遠心圧縮機、及びこれを備える遠心圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る遠心圧縮機は、インペラと、前記インペラを収容するケーシングと、を備える遠心圧縮機であって、前記ケーシングは、前記インペラの外周側にスクロール流路を形成するスクロール部と、前記インペラで圧縮された圧縮空気を前記スクロール流路に供給するディフューザ流路を形成するディフューザ部と、を備え、前記ディフューザ部は、前記インペラの周方向における角度範囲のうち、前記スクロール部の舌部の角度位置が含まれる第1角度範囲に属する第1ディフューザ部と、前記インペラの周方向における角度範囲のうち、前記スクロール流路での流れ方向における前記第1角度範囲の下流側の第2角度範囲に属する第2ディフューザ部であって、前記第2ディフューザ部の外径R2が前記インペラの回転中心を中心とする基準円に沿って規定される第2ディフューザ部と、を含み、前記第1角度範囲内における前記第1ディフューザ部の外径R1は、前記第2角度範囲内における前記第2ディフューザ部の外径R2より小さい。
【0012】
上記(1)に記載の遠心圧縮機によれば、スクロール流路の舌部の角度位置を含む第1角度範囲内における第1ディフューザ部の外径R1が、第1角度範囲の下流側の第2角度範囲内における第2ディフューザ部の外径R2より小さいため、第1角度範囲におけるスクロール流路の流路断面を、第2角度範囲におけるスクロール流路の流路断面に対してインペラの径方向において内側にシフトさせることが容易となる。このため、第1角度範囲におけるディフューザ流路からスクロール流路へのディフューザ出口流れを、下流側の流路断面における内周側(径方向内側)の領域に導き易くすることができる。
【0013】
したがって、上述した比較形態(ディフューザ部の外周縁が軸方向視において円形形状を有しており、ディフューザ部の外径が周方向位置によらず一定である遠心圧縮機)と比較して、スクロール流路の舌部近傍の巻始めにおいて流路断面における内周側の領域にディフューザ出口流れが到達する角度位置(内周側の領域におけるディフューザ出口流れの質量流量が一定程度の水準に到達する角度位置)を、舌部の角度位置に近づけやすくなる。これにより、上述した技術的課題、すなわちスクロール流路の巻始めにおける外周側の領域へのディフューザ出口流れの偏りを効果的に抑制することができる。
【0014】
したがって、上記比較形態と比較して、スクロール流路における内周側の領域へ再循環流が入り込み難くなるため、再循環流の発生を抑制し、再循環流に伴う損失の発生を抑制することができる。また、再循環流の発生が抑制されることで、必要なスクロール流路の流路断面積を減少することができ、スクロール部を小型化することができる。
【0015】
なお、再循環流は、スクロール流路の断面内の中心部に集積する傾向にあり、圧縮機の低風量側の作動限界を制限するサージ発生に関して、低エネルギー流体の集積したスクロール断面内中心部から逆流が発生することが知られている。この点、上記実施形態によれば、舌部の角度位置を含む第1角度範囲に属する第1ディフューザ部の外径を、第1角度範囲の下流側の第2角度範囲に属する第2ディフューザ部の外径より小さくすることにより、再循環流の発生が抑制されるため、スクロール流路4の断面内におけるエネルギー分布が均一化され、サージ特性改善(ワイドレンジ化)にも寄与することができる。
【0016】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の遠心圧縮機において、前記スクロール部は、前記第1角度範囲内における前記スクロール流路の流路断面の図心と前記インペラの回転中心との距離Raが、前記第2角度範囲内における前記スクロール流路の流路断面の図心と前記インペラの回転中心との距離Rbより小さくなるように構成されている。
【0017】
上記(2)に記載の遠心圧縮機によれば、上記(1)に記載の遠心圧縮機において、第1角度範囲におけるスクロール流路の流路断面が、第2角度範囲におけるスクロール流路の流路断面に対してインペラの径方向において内側にシフトするため、舌部の角度位置を含む第1角度範囲におけるディフューザ流路からスクロール流路へのディフューザ出口流れを、下流側の流路断面における内周側(径方向内側)の領域に一層導き易くすることができる。これにより、再循環流の発生を効果的に抑制することができる。
【0018】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の遠心圧縮機において、前記インペラの周方向における前記舌部の角度位置での前記第1ディフューザ部の外径R1と、前記第2角度範囲内における前記第2ディフューザ部の外径R2とは、0.8R2<R1<R2を満たす。
【0019】
一般に、ディフューザ部の外径を小さくすると(ディフューザ流路が短くなると)、ディフューザ流路での流速の低下量が少なくなって比較的大きな流速で流体がスクロール流路に流入することになる。
この点、上記(3)に記載のように0.8R2<R1<R2を満たすようにディフューザ部を構成することにより、第1ディフューザ部の外径R1を縮小することによるスクロール流路への流体の流入速度の増大の影響を抑制しつつ、再循環流に伴う損失を低減することで、遠心圧縮機の効率を効果的に高めることができる。
【0020】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記インペラの周方向における前記舌部の角度位置を0度とすると、前記第1角度範囲は、−90度から90度までの角度範囲内に含まれる。
【0021】
上記(4)に記載の遠心圧縮機によれば、スクロール流路4における舌部12の角度位置付近の角度範囲(−90度から90度)で第1ディフューザ部14の外径R1を縮小することにより、舌部の角度位置近傍でのディフューザ流路からスクロール流路へのディフューザ出口流れを、下流側の流路断面における内周側(径方向内側)の領域に一層導き易くすることができる。これにより、再循環流の発生を効果的に抑制することができる。
【0022】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の遠心圧縮機において、前記第1角度範囲は、−45度から45度までの角度範囲内に含まれる。
【0023】
上記(5)に記載の遠心圧縮機によれば、スクロール流路4における舌部12の角度位置付近の角度範囲(−40度から45度)で第1ディフューザ部14の外径R1を縮小することにより、舌部の角度位置近傍でのディフューザ流路からスクロール流路へのディフューザ出口流れを、下流側の流路断面における内周側(径方向内側)の領域に一層導き易くすることができる。これにより、再循環流の発生を効果的に抑制することができる。
【0024】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第2角度範囲は、前記インペラの周方向における前記第1角度範囲を除く全角度範囲である。
【0025】
上記(6)に記載の遠心圧縮機によれば、インペラの周方向における第1角度範囲を除く全角度範囲(ディフューザ部の外径が再循環流の抑制に寄与しにくい角度範囲)に亘って、圧力回復を優先して比較的大きな外径を有する第2ディフューザ部が設けられるため、スクロール流路内での圧損を効果的に低減することができる。このように、インペラの周方向において、舌部の角度位置を含む第1角度範囲(再循環流の抑制に寄与しやすい角度範囲)に比較的小さな外径R1を有する第1ディフューザ部を設けるとともに、再循環流の抑制に寄与しにくい第2角度範囲に圧力回復を優先した比較的大きな外径R2を有する第2ディフューザ部を設けることで、遠心圧縮機の効率を効果的に高めることができる。
【0026】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1ディフューザ部の外周端は、前記インペラの径方向外側に向かって凸となるように湾曲した湾曲凸形状を有する。
【0027】
上記(7)に記載の遠心圧縮機によれば、第1ディフューザ部の外径R1を周方向に沿って緩やかに変化させることができるため、スクロール流路内の滑らかな流れを実現して圧損の増大を抑制しつつ、再循環流を抑制する上述の効果を得ることができる。
【0028】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1ディフューザ部の外周縁は、前記インペラの径方向内側に向かって凹となるように湾曲した湾曲凹形状を有する。
【0029】
上記(8)に記載の遠心圧縮機によれば、舌部の角度位置近傍の比較的狭い範囲で第1ディフューザ部の外径R1を減少させやすいため、再循環流を効果的に抑制することができる。
【0030】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1角度範囲内における前記第1ディフューザ部の外径R1は、前記舌部の角度位置を0度とすると、−15度から15度までの角度範囲内において最小となる。
【0031】
上記(9)に記載の遠心圧縮機によれば、スクロール流路における舌部の角度位置又はそれに近い角度位置で第1ディフューザ部の外径R1を最小とすることにより、スクロール流路の巻始めにおける外周側の領域へのディフューザ出口流れの偏りを効果的に抑制することができる。これにより、再循環流の発生を効果的に抑制することができる。
【0032】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係るターボチャージャは、上記(1)乃至(9)の何れか1項に記載の遠心圧縮機を備えている。
【0033】
上記(10)に記載のターボチャージャによれば、再循環流の発生を抑制することによって圧縮機性能を向上可能な上記(1)乃至(9)の何れか1項に記載の遠心圧縮機を備えているため、高性能なターボチャージャを提供することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、再循環流に伴う損失の低減によって圧縮機性能を向上可能な遠心圧縮機、及びこれを備えるターボチャージャが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向に沿った概略断面図である。
図2図1に示す遠心圧縮機100の軸方向に垂直な断面の一例を模式的に示す図である。
図3図2に示した遠心圧縮機100の周方向における所定角度毎のスクロール流路4の形状変化を示す図である。
図4】ディフューザ出口流れfdが下流側の流路断面における内周側の領域Diに導かれる様子を説明するための図である。
図5】比較形態におけるディフューザ出口流れfdの経路を説明するための図である。
図6】一実施形態におけるディフューザ出口流れfdの経路を説明するための図である。
図7図2に示した遠心圧縮機100の周方向における角度位置とディフューザ部10の外径R(第1ディフューザ部14の外径R1及び第2ディフューザ部16の外径R2)との関係を示す図である。
図8図2に示すディフューザ部10の外周縁10Eの形状の第1変形例を模式的に示す図である。
図9図2に示すディフューザ部10の外周縁10Eの形状の第2変形例を模式的に示す図である。
図10】比較形態に係る遠心圧縮機の軸方向に垂直な断面を模式的に示す図である。
図11】ディフューザ出口流れfdが、スクロール流路004の流路壁に沿って旋回流を形成する様子を示す、ディフューザ出口流れfdの流線図である。
図12A図11に示すθ=0°(舌部位置)の角度位置でのスクロール流路004の流路断面について、ディフューザ出口流れfdの質量流量分布を示す図である。
図12B図11に示すθ=15°の角度位置でのスクロール流路004の流路断面について、ディフューザ出口流れfdの質量流量分布を示す図である。
図12C図11に示すθ=30°の角度位置でのスクロール流路004の流路断面について、ディフューザ出口流れfdの質量流量分布を示す図である。
図13】スクロール流路004におけるディフューザ出口流れfdと再循環流fcの関係を説明するための流線図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0037】
図1は、一実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向に沿った概略断面図である。図2は、図1に示す遠心圧縮機100の軸方向に垂直な断面の一例を模式的に示す図である。図3は、図2に示した遠心圧縮機100の周方向における所定角度毎のスクロール流路4の形状変化を示す図である。なお、遠心圧縮機100は、例えば、自動車用又は舶用のターボチャージャや、その他産業用遠心圧縮機、送風機等に適用可能である。
【0038】
例えば図1に示すように、遠心圧縮機100は、インペラ2と、ケーシング3とを含む。ケーシング3は、インペラ2の外周側にスクロール流路4を形成するスクロール部6と、インペラ2で圧縮された圧縮空気をスクロール流路4に供給するディフューザ流路8を形成するディフューザ部10と、を備える。インペラ2の軸方向に沿った断面において、スクロール流路4は円形形状を有しており、ディフューザ流路8は直線状に形成されている。ディフューザ部10は、ディフューザ流路8をインペラ2の軸方向に挟んで設けられた一対の流路壁10a,10bによって構成される。なお、図1においては、スクロール部6とディフューザ部10に便宜的に異なるハッチングを付しているが、ケーシング3は、スクロール部6とディフューザ部10との境界位置に関わらない任意の箇所で連結された複数のケーシング部品で構成されていてもよい。また、ケーシング3は、インペラ2を収容するコンプレッサハウジングの他に、インペラ2を回転可能に支持する軸受を収容するベアリングハウジングの一部を含んでいても良い。図3に示すように、スクロール流路4は、舌部12の角度位置(スクロール部6における、スクロール流路4の巻始め4aと巻終わり4bとの接続位置)に対応する流路断面4Pから周方向下流側へ進むにつれて流路断面の面積が拡大する。
【0039】
例えば図2に示すように、ディフューザ部10は、インペラ2の周方向における角度範囲のうち、スクロール部6の舌部12の角度位置が含まれる第1角度範囲A1に属する第1ディフューザ部14と、インペラ2の周方向における角度範囲のうち、スクロール流路4での流れ方向dにおける第1角度範囲A1の下流側に隣接する第2角度範囲A2に属する第2ディフューザ部16であって、第2ディフューザ部16の外径R2がインペラ2の回転中心Oを中心とする基準円Cに沿って規定される第2ディフューザ部16と、を含む。
【0040】
例えば図2に示すように、第1角度範囲A1内における第1ディフューザ部14の外径R1は、第2角度範囲A2内における第2ディフューザ部16の外径R2より小さい。すなわち、第1角度範囲A1内におけるディフューザ流路8の出口位置Po(図1参照)とインペラ2の回転中心Oとの距離R1は、第2角度範囲A2内におけるディフューザ流路8の出口位置Po(図1参照)とインペラ2の回転中心Oとの距離R2より小さい。
【0041】
かかる構成によれば、図3に示すように、第1角度範囲A1内におけるスクロール流路4の流路断面(図3における実線で示した流路断面)の図心Iaとインペラ2の回転中心Oとの距離Raを、第2角度範囲A2内におけるスクロール流路4の流路断面(図3における一点鎖線で示した流路断面)の図心Ibとインペラの回転中心Oとの距離Rbより小さくすることが容易となる。すなわち、第1角度範囲A1におけるスクロール流路4の流路断面を、第2角度範囲A2におけるスクロール流路4の流路断面に対してインペラ2の径方向において内側にシフトさせることが容易となる。このため、図4に示すように、第1角度範囲A1におけるディフューザ流路8からスクロール流路4へのディフューザ出口流れfdを、下流側の流路断面(一点鎖線で示した流路断面)における内周側(径方向内側)の領域Diに導き易くすることができる。
【0042】
したがって、図10に示した比較形態(ディフューザ部010の外周縁010Eが軸方向視において円形形状を有しており、ディフューザ部010の外径Rが周方向位置によらず一定である遠心圧縮機)と比較して、図5及び図6に示すように、スクロール流路4の舌部12近傍の巻始め4aにおいて流路断面における内周側の領域Diにディフューザ出口流れfdが到達する角度位置(内周側の領域Diにおけるディフューザ出口流れfdの質量流量が一定程度の水準に到達する角度位置)を、舌部12の角度位置に近づけやすくなる。これにより、図10及び図11A図11Cを用いて説明した技術的課題、すなわちスクロール流路4の巻始め4aにおける外周側の領域Doへのディフューザ出口流れfdの偏りを効果的に抑制することができる。
【0043】
したがって、上記比較形態と比較して、スクロール流路4における内周側の領域Diへ再循環流fcが入り込み難くなるため、再循環流fcの発生を抑制し、再循環流fcに伴う損失の発生を抑制することができる。また、再循環流fcの発生が抑制されることで、必要なスクロール流路4の流路断面積を減少することができ、スクロール部6を小型化することができる。
【0044】
なお、エネルギーの低い再循環流は、スクロール流路4の断面内の中心部に集積する傾向にあり、圧縮機の低風量側の作動限界を制限するサージ発生に関して、低エネルギー流体の集積したスクロール断面内中心部から逆流が発生することが知られている。この点、上記実施形態によれば、第1ディフューザ部14の外径R1を、第2ディフューザ部16の外径R2より小さくすることにより、再循環流の発生が抑制されるため、スクロール流路4の断面内におけるエネルギー分布が均一化され、サージ特性改善(ワイドレンジ化)にも寄与することができる。
【0045】
一実施形態では、図3に示すように、第2角度範囲A2内におけるスクロール流路4の流路断面の図心Ibとインペラの回転中心Oとの距離Rbは、インペラ2の周方向における角度位置によらず一定であってもよい。
【0046】
図7は、図2に示した遠心圧縮機100の周方向における角度位置とディフューザ部10の外径R(第1ディフューザ部14の外径R1及び第2ディフューザ部16の外径R2)との関係を示す図である。
【0047】
一実施形態では、例えば図7に示すように、第1角度範囲A1内における第1ディフューザ部14の外径R1は、舌部12の角度位置を0度とすると、−15度から15度(より好ましくは‐10度から10度、更に好ましくは‐5度から5度)までの角度範囲内において最小となっていてもよい。図7に示す例では、第1ディフューザ部14の外径R1は、0度より上流側の所定の角度位置θuから下流側に向かうにつれて減少して舌部12の角度位置0度付近で最小となり、さらに下流側の所定の角度位置θdに向かうにつれて増大する。所定の角度位置θdの下流側の第2角度範囲A2では第2ディフューザ部16の外径R2は一定である。
【0048】
このように、スクロール流路4における舌部12の角度位置又はそれに近い角度位置で第1ディフューザ部14の外径R1を最小とすることにより、スクロール流路4の巻始め4aにおける外周側の領域へのディフューザ出口流れfdの偏りを効果的に抑制することができる。これにより、再循環流の発生を効果的に抑制することができる。
【0049】
一実施形態では、例えば図7に示すように、インペラ2の周方向における舌部12の角度位置(0度)での第1ディフューザ部14の外径R1と、第2角度範囲A2内における第2ディフューザ部16の外径R2とは、0.8R2<R1<R2を満たしていてもよい。
【0050】
一般に、ディフューザ部の外径を小さくすると(ディフューザ流路が短くなると)、ディフューザ流路での流速の低下量が少なくなって比較的大きな流速で流体がスクロール流路に流入することになる。
【0051】
この点、上記のように0.8R2<R1<R2を満たすようにディフューザ部10を構成することにより、第1ディフューザ部14の外径R1を縮小することによるスクロール流路4への流体の流入速度の増大の影響を抑制しつつ、再循環流に伴う損失を低減することで、遠心圧縮機100の効率を効果的に高めることができる。
【0052】
図8は、図2に示すディフューザ部10の外周縁10Eの形状の第1変形例を模式的に示す図である。図9は、図2に示すディフューザ部10の外周縁10Eの形状の第2変形例を模式的に示す図である。
【0053】
幾つかの実施形態では、例えば図2図8及び図9に示すように、インペラ2の周方向における舌部12の角度位置を0度とすると、第1角度範囲A1は、−90度から90度までの角度範囲内に含まれ、第2角度範囲A2は、インペラ2の周方向における第1角度範囲A1を除く全角度範囲であってもよい。
【0054】
かかる構成によれば、スクロール流路4における舌部12の角度位置付近の角度範囲(−90度から90度)で第1ディフューザ部14の外径R1を比較的小さくすることにより、スクロール流路4の巻始め4aにおける外周側の領域へのディフューザ出口流れfdの偏りを効果的に抑制することができる。これにより、再循環流の発生を効果的に抑制することができる。また、インペラ2の周方向における第1角度範囲A1を除く全角度範囲(ディフューザ部10の外径が再循環流の抑制に寄与しにくい角度範囲)に亘って、圧力回復を優先して比較的大きな外径R2を有する第2ディフューザ部16が設けられるため、スクロール流路4内での圧損を効果的に低減することができる。
【0055】
このように、インペラ2の周方向において、再循環流の抑制に寄与しやすい角度範囲に比較的小さな外径R1を有する第1ディフューザ部14を設けるとともに、再循環流の抑制に寄与しにくい角度範囲に圧力回復を優先した比較的大きな外径R2を有する第2ディフューザ部16を設けることで、遠心圧縮機100の効率を効果的に高めることができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、図2及び図8に示すように、第1ディフューザ部14の外周縁14Eは、インペラ2の径方向外側に向かって凸となるように湾曲した湾曲凸形状を有していてもよい。
【0057】
かかる構成によれば、図2及び図8に示すように、第1ディフューザ部14の外径R1を周方向に沿って緩やかに変化させることができるため、スクロール流路4内の滑らかな流れを実現して圧損の増大を抑制しつつ、再循環流を抑制する上述の効果を得ることができる。
【0058】
一実施形態では、図9に示すように、第1ディフューザ部14の外周縁14Eは、インペラ2の径方向内側に向かって凹となるように湾曲した湾曲凹形状を有していてもよい。
【0059】
かかる構成によれば、図9に示すように、舌部12の角度位置近傍の比較的狭い範囲で第1ディフューザ部14の外径R1を減少させやすいため、再循環流を効果的に抑制することができる。
【0060】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0061】
2 インペラ
3 ケーシング
4 スクロール流路
4a 巻始め
4b 巻終わり
6 スクロール部
8 ディフューザ流路
10 ディフューザ部
10a 流路壁
10b 流路壁
10E 外周縁
12 舌部
14 第1ディフューザ部
14E 外周縁
16 第2ディフューザ部
16E 外周縁
100 遠心圧縮機
A1 第1角度範囲
A2 第2角度範囲
C 基準円
Di,Do 領域
Ia,Ib 図心
O 回転中心
Po 出口位置
R,R1,R2 外径
Ra,Rb 距離
d 流れ方向
fc 再循環流
fd ディフューザ出口流れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13