(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.粘着シートの概要および全体構成
本発明の粘着シートは、粘着層を備える。本発明の粘着シートの粘着力は、粘着層に被着体を押し付ける際の圧力に依存して極大値を有する。より具体的には、本発明の粘着シートは、当該粘着シートの粘着層上で、被着体を圧着することにより粘着性が発現し得る一方、所定値以上の圧力(圧着時よりも高い圧力)で被着体を押し付けることにより粘着力が低下する。本発明の粘着シートは、圧力に依存して粘着力を調節することができるため、本発明の粘着シートを用いれば、圧着時の設備を剥離時にも使用することができ、簡便容易に被着体を剥離することができる。また、剥離時においては、粘着力が各段に低下しているため、ダメージを抑制しつつ被着体を剥離することができる。このような特性を備える粘着シートは、最外層として、フッ素系樹脂を含む粘着層を形成することにより得ることができる。
【0009】
粘着力が、粘着層に被着体を押し付ける際の圧力に依存して極大値を有する本発明粘着シートにおいては、当該粘着シートの粘着力が極大値を示すときの当該圧力は、5MPa〜20MPaであり、好ましくは8MPa〜15MPaである。このような範囲であれば、接着時の作業性および剥離時の作業性の両方に優れる粘着シートを提供することができる。なお、「圧力に依存して極大値を有する」粘着シートとは、所定圧力(粘着力が最大となる圧力)未満の領域(以下、低圧負荷領域ともいう)では圧力が高いほど粘着力が高くなり、当該所定圧力を超える領域(以下、高圧負荷領域ともいう)では圧力が高いほど粘着力が低くなる粘着シートを意味する。以下、上記のように所定圧力のもと最大となる粘着力を「最大粘着力」という。
【0010】
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による粘着シートの概略断面図である。
図1(a)に示す粘着シート100は、粘着層10を備える。
図1(a)に示すように、粘着層10のみからなる粘着シートは、両面粘着シートとして機能し得る。
【0011】
本発明の粘着シートは、粘着層の他、任意の適切な層をさらに備え得る。
図1(b)は、本発明の別の実施形態による粘着シートの概略断面図である。
図1(b)に示す粘着シート200は、粘着層10の片面に基材層20をさらに備える。
図1(b)に示すように、粘着層10の一方の面が基材層20により覆われた粘着シートは、片面粘着シートとして機能し得る。
図1(c)は、本発明のさらに別の実施形態による粘着シートの概略断面図である。
図1(c)に示す粘着シート300は、基材層20の両面に粘着層10を備える。粘着シート300は、両面粘着シートとして機能し得る。
【0012】
本発明の粘着シートは、任意の適切な形状であり得る。例えば、長さが10m〜3000m程度の長尺状であってもよく、任意の適切な形状に打ち抜かれたまたは切断された形状であってもよい。長尺状の粘着シートは、ロール状に巻回され得る。
【0013】
本発明の粘着シートを適用することが可能な被着体としては、十分な平滑性を有する限り、任意の適切な材料から形成される被着体が用いられ得る。当該被着体の貼着面の表面粗さRmaxは、好ましくは100μm未満であり、より好ましくは80μm未満であり、さらに好ましくは0.01μm〜50μmである。
【0014】
本発明の粘着シートは、電子デバイス用の部材(例えば、基板)を仮固定する粘着シートとして好適に用いられ得る。本発明の粘着シートは、電子デバイスに用いられる部材を加工、処理、搬送等するプロセスにおいて所定の台座に仮固定するのに十分な粘着性を有し、かつ、当該粘着性は、上記プロセスを経た後に、台座から部材を容易に剥離し得る程度の粘着力であることが好ましい。上記部材としては、例えば、シリコン製の部材、サファイヤ製の部材、炭化ケイ素製の部材、ガラス製(例えば、ソーダライム製、強化ガラス製)の部材、樹脂製(例えば、ポリイミド製、ポリカーボネート製、ポリーテルスルホン製)の部材、金属製(例えば、ステンレス製)の部材、ガラス繊維を含む部材、有機無機ハイブリッド材料から構成される部材(例えば、シルセスキオキサンとポリカーボネート等の熱可塑性樹脂とから構成される基板)等が挙げられる。上記台座としては、ガラス製(例えば、ソーダライム製、強化ガラス製)の台座、シリコン製の台座、サファイヤ製の台座、金属製(例えば、ステンレス製)の台座等が挙げられる。また、本発明の粘着シートは、上記部材同士を貼着するために用いることもできる。
【0015】
本発明の粘着シートのガラス板に対する最大粘着力は、好ましくは0.03N/20mm以上であり、より好ましくは0.05N/20mm以上であり、さらに好ましくは0.08N/20mm〜0.3N/20mmであり、特に好ましくは0.1N/20mm〜0.25N/20mmである。なお、本明細書において、ガラス板に対する粘着力は、所定のサイズ(20mm×150mm)に切り出した粘着シートの全面を、ガラス板に、適切な圧力で圧着して作製した評価サンプルを、剥離試験に供して測定される。「最大粘着力」の測定に際しては、圧着する際の圧力は、粘着力が最大(極大)となるときの圧力である。上記剥離試験の条件は、測定環境温度25℃、剥離角度90°、剥離速度50mm/minである。また、上記ガラス板としては、表面粗さRmaxが30μm〜40μmのガラス板が用いられる。このようなガラス板としては、例えば、松浪ガラス社製の商品名「MICRO SLIDE GLASS S200423」(65mm×165mm、厚み1.2mm)が用いられ得る。
【0016】
本発明においては、表面処理を施さずに形成された粘着面により、所定の粘着力が発現し得る。すなわち、本発明において、上記粘着シートは、表面処理されていない粘着剤層を備えることが好ましい。ここで、「表面処理」とは、粘着力または接着力を高めるために常用される表面処理を意味し、例えば、プラズマ処理、コロナ処理等が挙げられる。
【0017】
上記のとおり、本発明の粘着シートは、高圧負荷領域の圧力で被着体を押し付けることにより粘着力が低下する。被着体を押し付ける圧力を高圧力化することにより、本願発明の粘着シートは、0.1N/25mm以下にまで粘着力が低下することが好ましく、0.05N/25mm以下にまで粘着力が低下することがより好ましい。このように、粘着力が低下する粘着シートは、剥離の操作性に優れる。1つの実施形態においては、本願発明の粘着シートは、被着体を押し付ける圧力を高圧力化することにより、粘着性が消失する。
【0018】
本発明の粘着シートのガラスに対する粘着力を0.05N/25mm以下とするのに要する圧力(被着体(ガラス)を押し付ける圧力)は、好ましくは25MPa〜60Mpaであり、より好ましくは30MPa〜40MPaである。このような範囲であれば、剥離の操作性に優れる粘着シートを得ることができる。
【0019】
本発明の粘着シートは、昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで加熱した際の重量減少率が、1重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。当該加熱による重量減少率が小さいことは、高温下において粘着シートから発生するガス(例えば、粘着層成分が熱分解されて発生するガス)が少ないことを意味する。このような粘着シートは、高温下での使用に好適であり、例えば、基板等の部材を仮固定して高温下で処理する場合に、本発明の粘着シートを用いれば、装置の汚染を防止することができる。
【0020】
B.粘着層
好ましくは、上記粘着層は、フッ素系樹脂を含む。フッ素系樹脂としては、例えば、完全フッ素化樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEともいう);ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等の部分フッ素化樹脂;ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素化樹脂共重合体;含フッ素アクリル系樹脂;フッ素ゴム等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。フッ素系樹脂を用いれば、上記A項に記載したような粘着特性を有する粘着シートを得ることができる。また、耐熱性、耐薬品性等に優れ、アウトガスが少ない粘着層を形成することができる。
【0021】
上記フッ素系樹脂の含有割合は、粘着層中の樹脂の全重量に対して、好ましくは90重量%〜100重量%であり、より好ましくは95重量〜100重量%であり、さらに好ましくは99重量%〜100重量%である。
【0022】
より好ましくは、上記粘着層は、フッ素系樹脂としてPTFEを含む。PTFEを用いれば、最大粘着力を高くすることができ、上記A項に記載したような粘着特性を有する粘着シートとして、より有用な粘着シートを得ることができる。また、耐熱性、耐薬品性、低アウトガス性等の観点からもより優れた粘着シートを得ることができる。
【0023】
低圧負荷領域において、PTFEを含む粘着層の粘着力が加圧により上昇するのは、PTFEの分子鎖が配向性を有していない状態では、分子間距離が比較的長く、分子鎖の運動性が高いためであると推定される。すなわち、このような状態では、PTFEを含む粘着層の弾性率が低いため、被着体を押し付ける圧力が高くなるにつれて、PTFEが被着体に追従しやすくなり、その結果、粘着力が高くなると推定される。一方、高圧負荷領域において、PTFEを含む粘着層の粘着力が、加圧により低下するのは、加圧により、PTFEの分子鎖が配向性を示して分子間距離が短くなり、その結果、分子鎖の運動性が低下するためであると推定される。
【0024】
なお、後述のように、多孔質PTFEシートにより粘着層が構成される場合において、当該多孔質PTFEシートは、絡み合ったPTFEの分子鎖から構成される点状のノード部分と、当該ノードからPTFEの分子鎖が引き出されて形成される繊維状のフィブリル部分とを有する。多孔質PTFEにおいては、当該ノード部分におけるPTFE分子鎖の配向性の変化が、上記のように、粘着特性に寄与していると考えられる。
【0025】
上記PTFEの含有割合は、粘着層中の樹脂の全重量に対して、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%〜100重量%である。1つの実施形態においては、上記粘着層は、樹脂としてPTFEのみを用いて形成される。
【0026】
上記PTFEの結晶化度は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。このような範囲であれば、十分な粘着力を有する粘着シートを得ることができる。PTFEの結晶部分はポリエチレンやポリプロピレンなどの結晶とは異なり、分子鎖は剛直ではあるが分子間の相互作用が小さく、配向した分子鎖間が滑りやすい状態になっている。そのため、結晶化度が高いほどPTFEを被着体に粘着させたとき、被着体のミクロな凹凸にPTFEが追従し、その結果、高い粘着力を得ることができると推定される。上記PTFEの結晶化度の上限は、好ましくは100%以下であり、より好ましくは99%以下であり、さらに好ましくは98%以下である。完全に結晶化されたPTFE(結晶化度が100%のPTFE)を得ることは困難であり、生産性を考慮すれば、結晶化度が99%以下のPTFEを用いることが好ましい。なお、本明細書において、結晶化度は、高温示差走査熱量計を用いて測定された、PTFE試料を0℃〜400℃まで昇温させた時の融解熱量(J/g)から求められる。すなわち、PTFEの結晶化度(%)は、(測定したPTFE試料の融解熱量(J/g)/結晶化度100%のPTFEの融解熱量92.84(J/g))×100の式により求められる。
【0027】
上記粘着層を形成する樹脂として、PTFEとその他のフッ素系樹脂とを併用してもよい。PTFE以外のフッ素系樹脂の含有割合は、粘着層中の樹脂の全重量に対して、好ましくは20重量%未満であり、より好ましくは10重量%未満である。
【0028】
上記粘着層の厚みは、好ましくは40μm以上であり、より好ましくは45μm〜500μmである。このような範囲であれば、被着体の変形に対する追従性に優れ、変形しやすい(例えば、たわみやすい)被着体に対しても良好な粘着力を示す粘着シートを得ることができる。また、粘着層の厚みが上記範囲であれば、コストを抑えて、厚みの均一性が高い粘着層を形成することができる。なお、ここでいう粘着層の厚みとは、粘着シートを加圧する前の厚みをいう。
【0029】
上記粘着層の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率は、好ましくは0.5MPa以下であり、より好ましくは0.2MPa以下であり、さらに好ましくは0.001MPa以上0.2MPa未満であり、特に好ましくは0.002MPa以上0.15MPa未満である。このような範囲であれば、被着体の変形に対する追従性に優れ、変形しやすい(例えば、たわみやすい)被着体に対しても良好な粘着力を示す粘着シートを得ることができる。ナノインデンテーション法による弾性率とは、直径10μmの球状圧子を、負荷速度100mm/sec、押し込み深さ1μmの条件にて試料に押し込み、60秒間保持し、その後、徐荷速度100mm/secで徐荷したときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さとを負荷時、除荷時にわたり連続的に測定し、得られた負荷荷重−押し込み深さ曲線から求められる弾性率をいう。なお、ここで弾性率とは、粘着シートを加圧する前の弾性率をいう。
【0030】
上記粘着層は、昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで加熱した際の重量減少率が、1重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。当該加熱による重量減少率が小さいことは、高温下において粘着層から発生するガス(例えば、粘着層成分が熱分解されて発生するガス)が少ないことを意味する。このような粘着層を備える粘着シートは、高温下での使用に好適であり、例えば、基板を仮固定して高温下で処理する場合に、装置の汚染を防止することができる。
【0031】
1つの実施形態においては、上記粘着層は、上記PTFEを含む樹脂シート(以下、PTFEシートともいう)として形成される。すなわち、本発明の粘着シートが、粘着層と基材層とを備える場合、当該粘着シートは、基材層上に、粘着層としてのPTFEシートを貼着して形成され得る。また、本発明の粘着シートが粘着層のみから構成される場合、当該粘着シートは、PTFEシートとして形成される。上記PTFEシートは、それ自体の特性として、粘着性を有する。そのため、経時での粘着力低下が生じ難い。
【0032】
上記PTFEシートは、多孔質であってもよく、無孔質であってもよい。
【0033】
上記PTFEシートが多孔質である場合、当該PTFEシートの気孔率は、好ましくは50%〜90%であり、より好ましくは60%〜85%であり、さらに好ましくは65%〜80%である。気孔率が50%未満の場合、被着体を貼り付ける際にPTFEシートが変形し難くなり、十分な粘着力を得ることができないおそれがある。気孔率が90%を超える場合、被着体を貼り付ける際の条件(例えば、プレスして圧着したときの厚み)を制御することが難しくなるおそれがある。なお、気孔率(%)は、{1−PTFEシートの見かけ密度(g/cm
3)/PTFEシートの真密度(g/cm
3)}×100の式から求めることができる。PTFEシートがPTFEのみから形成される場合、PTFEシートの真密度は2.18g/cm
3である。
【0034】
当該PTFEシートのノードの面積比率は、好ましくは35%〜100%であり、より好ましくは45%〜100%であり、さらに好ましくは75%〜100%である。このような範囲であれば、最大粘着力が大きく、かつ、加圧により粘着力が低下しやすいPTFEシートを得ることができる。なお、PTFEシートのノードの面積比率は、電子顕微鏡によりPTFEシートの表面を観察し、観察画像を解析して、解析面積に対するノードの面積の比率から得ることができる。
【0035】
上記PTFEシートの製造方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。上記PTFEシートは、例えば、PTFEパウダーと液状潤滑剤とを含むペースト状の混和物を得、当該混和物を予備成形し、予備成形体をさらに押し出し成形し、当該押し出し成形体を加熱して得ることができる。当該加熱の前に、押し出し成形体を圧延してもよい。また、PTFEシートは、所定の延伸工程を経て、多孔質化されていてもよい。
【0036】
上記PTFEパウダーの形態としては、ファインパウダー、モールディングパウダー、ディスパージョン等が挙げられる。好ましくは、PTFEパウダーとして、ファインパウダーが用いられる。ファインパウダーを用いれば、成形性よく、高結晶化度のPTFEシートを得ることができる。ファインパウダーとは、乳化重合法で得られたPTFEの水性分散液から、PTFEを凝集、分離、乾燥して得られる粉末を意味する。ファインパウダーの粒径は、例えば、100μm〜1000μmである。
【0037】
上記液状潤滑剤としては、PTFEパウダー(例えば、PTFEファインパウダー)の表面を濡らすことができ、抽出や加熱により除去できるものであれば特に制限されず、任意の適切な液体を用いることができる。液状潤滑剤としては、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル等の炭化水素系溶剤が用いられる。上記液状潤滑剤の添加量は、PTFEパウダー100重量部に対して、好ましくは5重量部〜50重量部である。このような範囲であれば、最大粘着力が大きく、かつ、加圧により粘着力が低下しやすいPTFEシートを得ることができる。
【0038】
上記ペースト状の混和物は、上述したPTFE以外のフッ素系樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0039】
上記ペースト状の混和物を得た後、当該混和物を予備成形する。予備成形は、所定の圧力をかけて当該混和物を押し固めて成形される。予備成形時の圧力は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力であることが好ましい。予備成形により得られた予備成形体の形状は、例えば、棒状である。
【0040】
上記予備成形体を、さらに押し出し成形して押し出し成形体を得る。押し出し成形体の形状は、例えば、長尺テープ状である。押し出し成形体の厚みは、所望とするPTFEシートの厚み、後工程としての延伸工程の有無等に応じて、調整され得る。押し出し成形体の厚みは、例えば、0.5mm〜4mmである。押し出し成形においては、例えば、50℃〜80℃の温度で加熱しながら、上記予備成形体を押し出すことが好ましい。加熱しながら押し出すことにより、最大粘着力が高く、かつ、高加圧により粘着力が低下しやすいPTFEシートを得ることができる。
【0041】
所望とするPTFEシートの厚み、後工程としての延伸工程の有無等に応じて、上記押し出し成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、所定のギャップで配置された一対のロール間に押し出し成形体を通過させて行うことができる。圧延後の押し出し成形体の厚みは、圧延前の押し出し成形体の厚みに対して、好ましくは5%〜80%であり、より好ましくは10%〜60%である。
【0042】
上記のようにして形成された押し出し成形体を加熱する。当該加熱により、液状潤滑剤が除去される。当該加熱の方法としては、例えば、所定の加熱温度に昇温したロール上で加熱する方法、所定の加熱温度に昇温した雰囲気内で加熱する方法等が挙げられる。好ましくは、当該加熱の後、任意の適切な条件で冷却する。1つの実施形態においては、当該加熱・冷却により得られた乾燥成形体が、PTFEシートとなる。この実施形態(すなわち、延伸工程を含まない実施形態)においては、無孔質PTFEシートを得ることができる。
【0043】
押し出し成形体を加熱する際の加熱温度は、PTFEの融点以下であることが好ましい。具体的には、当該加熱温度は、340℃以下であることが好ましく、25℃〜280℃であることがより好ましく、80℃〜250℃であることがさらに好ましく、100℃〜200℃であることが特に好ましい。このような範囲であれば、結晶化度が高いPTFEを含むPTFEシート、具体的には結晶化度が80%以上のPTFEを含むPTFEシートを得ることができる。押し出し成形体の加熱は、加熱温度を段階的に昇温または降温させて行ってもよい。加熱時間は、押し出し成形体の厚み、押し出し成形体中の液状潤滑剤の量等に応じて、適切に設定され得る。加熱時間は、例えば、1秒〜10分である。
【0044】
1つの実施形態においては、上記PTFEシートは、上記押し出し成形体、または、押し出し成形体を加熱して得られた乾燥成形体を延伸させて得られ得る。延伸工程を経れば、多孔質PTFEシートを得ることができる。
【0045】
上記延伸工程における延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。
【0046】
一軸延伸を行う場合の延伸方法としては、例えば、ロール延伸機を用いて長手方向(MD)に延伸する方法、テンター延伸機を用いて幅方向(TD)に延伸する方法を用いた方法等が挙げられる。一軸延伸を行う場合、延伸倍率は、好ましくは2倍〜15倍であり、より好ましくは5倍〜10倍である。このような範囲であれば、延伸ムラまたは破断を防止して、安定的に、厚み等の特性が均一なPTFEシートを得ることができる。延伸温度は、PTFEの融点以下であることが好ましい。具体的には、延伸温度は、340℃以下であることが好ましく、25℃〜300℃であることがより好ましく、150℃〜300℃であることがさらに好ましく、240℃〜300℃であることが特に好ましく、270℃〜290℃であることが最も好ましい。このような範囲であれば、結晶化度が高いPTFEを含むPTFEシート、具体的には結晶化度が80%以上のPTFEを含むPTFEシートを得ることができる。
【0047】
二軸延伸を行う場合の延伸方法としては、例えば、MD延伸した一軸延伸シートをさらにTD延伸する方法、二軸延伸機を用いる方法等が挙げられる。二軸延伸を行う場合、面積延伸倍率(MD延伸倍率とTD延伸倍率との積)は、好ましくは50倍〜900倍であり、より好ましくは100倍〜300倍である。二軸延伸を行う場合においても、延伸温度は、340℃以下であることが好ましく、25℃〜300℃であることがより好ましく、150℃〜300℃であることがさらに好ましく、240℃〜300℃であることが特に好ましく、270℃〜290℃であることが最も好ましい。
【0048】
延伸工程の後、任意の適切な条件でPTFEシートを冷却することが好ましい。
【0049】
上記のように、PTFEシートは、PTFEの融点(340℃)以上の熱履歴を経ずに製造されることが好ましい。PTFEの融点以上の熱履歴を経ずに製造することにより、結晶化度の高いPTFEシートを得ることができる。より詳細には、PTFEの融点以上の熱履歴を経ずに製造することにより、原料としてのPTFEパウダーの結晶化度を低下させることなく、結晶化度の高いPTFEを得ることができる。
【0050】
上記粘着層は、任意の適切な添加剤をさらに含み得る。添加剤の具体例としては、ガラスビーズ、バルーン、フィラー、顔料等が挙げられる。これらの添加剤は、例えば、PTFEパウダー(例えば、ファインパウダー)と混合し、その後、成形することにより添加され得る。添加剤の含有割合は、粘着層の重量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下であり、特に好ましくは20重量%以下である。また、上記粘着層は、上記液状潤滑剤が残存していてもよい。粘着層中の液状潤滑剤の含有割合は、粘着層の重量に対して、例えば、0.01重量%〜5重量%である。
【0051】
C.基材層
上記基材層を構成する材料としては、任意の適切な材料が採用され得る。基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン系樹脂から形成される樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂から形成される樹脂フィルム;ポリアクリレートから形成される樹脂フィルム;ポリスチレンから形成される樹脂フィルム;ナイロン6、ナイロン6,6、部分芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂から形成される樹脂フィルム;ポリ塩化ビニルから形成される樹脂フィルム;ポリ塩化ビニリデンから形成される樹脂フィルム、ポリカーボネートから形成される樹脂フィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材;クラフト紙、クレープ紙、和紙等の紙;綿布、スフ布等の布;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等が挙げられる。
【0052】
上記基材層の厚みは、好ましくは15μm〜50μmであり、より好ましくは25μm〜38μmである。
【0053】
本発明の粘着シートが基材層を備える場合、当該粘着シートは、上記粘着層と基材層とを圧着することにより形成され得る。圧着時の圧力は、例えば、0.001MPa〜15MPaであり、好ましくは5MPa〜20MPaである。
【0054】
D.剥離方法
本発明の別の局面によれば、剥離方法が提供される。本発明の剥離方法は、粘着シートと被着体とが所定の圧力により圧着されて形成された積層体から、該被着体を剥離する剥離方法であって、当該圧着時の圧力よりも高い圧力で被着体を粘着シートに押し付けた後、当該被着体を剥離することを含む。
【0055】
本発明の剥離方法において、粘着シートとしては、上記A項〜C項で説明した粘着シートが好ましく用いられる。また、本発明の剥離方法において、被着体としては、任意の適切な被着体が用いられ得、例えば、上記A項で説明した被着体が用いられ得る。
【0056】
上記粘着シートと被着体とを圧着する際の圧力は、好ましくは5MPa〜20MPaであり、より好ましくは8MPa〜15MPaである。
【0057】
上記被着体を剥離する際に、当該被着体を押し付ける圧力は、好ましくは25MPa〜60MPaであり、より好ましくは30MPa〜40MPaである。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンPTFE F−104」、圧縮強さ(ASTM D695、1%変形、25℃)5〜6MPa、ダイキン工業社製)100重量部と、液状潤滑剤としてn−ドデカンを20重量部とを混合して、ペースト状の混和物を得た。得られた混和物をペースト押し出しにより成形して、押し出し成形体(厚み200μm)を得た。次いで、得られた押し出し成形体を、150℃で60秒間加熱して、液状潤滑剤を乾燥除去して、その後、25℃の室温下で冷却して、厚み196μmのPTFEシートからなる粘着シートを得た。
【0060】
[実施例2]
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンPTFE F−104」、圧縮強さ(ASTM D695、1%変形、25℃)5〜6MPa、ダイキン工業社製)100重量部と、液状潤滑剤としてn−ドデカンを20重量部とを混合して、ペースト状の混和物を得た。得られた混和物をペースト押し出しにより成形して、押し出し成形体(厚み200μm)を得た。次いで、得られた押し出し成形体を、150℃で60秒間加熱し、液状潤滑剤を乾燥除去して、乾燥成形体(厚み200μm)を得た。さらに、得られた乾燥成形体を延伸温度280℃で、長手方向に10倍延伸し、その後、25℃の室温下で冷却して、厚み45μmのPTFEシートからなる粘着シートを得た。
【0061】
[実施例3]
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンPTFE F−104」、圧縮強さ(ASTM D695、1%変形、25℃)5〜6MPa、ダイキン工業社製)100重量部と、液状潤滑剤としてn−ドデカンを20重量部とを混合して、ペースト状の混和物を得た。得られた混和物をペースト押し出しにより成形して、押し出し成形体(厚み500μm)を得た。次いで、得られた押し出し成形体を、150℃で60秒間加熱し、液状潤滑剤を乾燥除去して、乾燥成形体(厚み500μm)を得た。さらに、得られた乾燥成形体を延伸温度280℃で、長手方向に10倍延伸し、その後、25℃の室温下で冷却して、厚み166μmのPTFEシートからなる粘着シートを得た。
【0062】
[比較例1]
両面テープ(日東電工社製、商品名「Nitto No.5000NS」、厚み160μm)の片面にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)を貼り付けて粘着シートを得た。
【0063】
[評価]
実施例および比較例で得られた粘着シートを以下の評価に供した。結果を表1に示す。
【0064】
<粘着力の圧力依存性評価>
粘着シートを長さ100mm×25mm幅のサイズに切りだして、ガラス(松浪ガラス社製、商品名「MICRO SLIDE GLASS S200423」、サイズ65mm×165mm、厚み1.2mm)に貼り付けた。貼り付ける際、接着シートの上に感圧紙を重ね、その上から0.1MPa〜40MPaの圧力で加圧し、当該圧力と粘着力の関係を評価した。当該圧力は、感圧紙を解析して正確な圧力を算出した。なお、4MPa以下の圧力は、ハンドローラーを転がして貼り付けた。5MPa〜40MPaの圧力は真空プレス機で貼り付けた。粘着力は、旭精工社製山本式変角度ピール試験機を用いて測定した。剥離角度は90度、剥離速度は50mm/minとした。粘着力が極大値を示す際の圧力が5MPa〜20MPaの範囲にあるものを合格と判断した。表1に結果を示す。また、
図2〜
図5のグラフ図に、粘着力の圧力依存性を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
<再剥離性評価>
第1のアクリル板(三菱レイヨン社製、商品名「アクリライト」、長さ100mm×幅75mm×2mm)の長さ方向両端部分において、それぞれ全幅70mm×長さ30mmの領域に粘着シートを貼着し、当該粘着シートを介して、第1のアクリル板と第2のアクリル板(三菱レイヨン社製、商品名「アクリライト」、長さ300mm×幅200mm×2mm)を貼り合わせて評価用積層体を得た。第1のアクリル板は、第2のアクリル板の面内中央部分に位置するようにした。また、比較例1の粘着シートの評価の際には、PETフィルムを剥離した後に当該評価用積層体を作製した。各粘着シートに対して、貼り合わせる際の圧力を、10MPa、15MPa、20MPaとして、3種類の評価用積層体を準備した。
次いで、当該評価用積層体を、第2のアクリル板の長さ方向中央から長さ方向両外側へ130mm離れた位置に置いた支持板(幅200mm)で支持した。このとき、第1のアクリル板が下側になるようにして、当該下側に空間を設けるようにした。
次いで、当該評価用積層体の上側(すなわち、第2のアクリル板側)に、500gの重りを置き、当該評価用積層体を撓ませた。
実施例1および実施例3で得られた粘着シートについては、貼り合わせる際の圧力が10MPaおよび15MPaの場合、上記操作後においても、第1のアクリル板が貼着した状態を維持した。一方、貼り合わせる際の圧力が20MPaの場合、上記操作により、第1のアクリル板が剥離した。また、第1のアクリル板が貼着した状態を維持している評価用積層体においては、上記操作の後、20MPaの圧力をかけることにより、第1のアクリル板が剥離した。
一方、比較例1で得られた粘着シートについては、貼り合わせる際の圧力が10MPa、15MPa、20MPaのいずれの場合であっても、第1のアクリル板が貼着した状態を維持したが、さらなる加圧により第1のアクリル板を剥離することができなかった。