(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470910
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】水栓部用部品
(51)【国際特許分類】
E03C 1/042 20060101AFI20190204BHJP
C25F 3/16 20060101ALI20190204BHJP
C25F 3/24 20060101ALI20190204BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
E03C1/042 B
C25F3/16 A
C25F3/24
C23F1/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-82166(P2014-82166)
(22)【出願日】2014年4月11日
(65)【公開番号】特開2015-203197(P2015-203197A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242378
【氏名又は名称】株式会社KVK
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 和彦
【審査官】
油原 博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−105100(JP,A)
【文献】
特開平10−152869(JP,A)
【文献】
特開2001−263547(JP,A)
【文献】
特公昭49−033014(JP,B1)
【文献】
特開昭53−071639(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0221385(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/042
C23F 1/00
C25F 3/16
C25F 3/24
F16L 55/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水栓に接続されるソケットの流路内に設けられる水栓部用部品であって、
同水栓部用部品は、ネジを介してソケットに支持されたスピンドルと、同スピンドルのソケットからの露出部分の外周を水密に覆うボンネットとを備え、
スピンドルは、前記ソケットからの露出部分を操作して前記ネジのねじ込み量を調節することによりスピンドルに支持された弁体とソケットとの隙間を調整してソケットの流路内における流体の流量を調整可能であり、
ボンネットは、前記スピンドルの外周を覆った状態でソケットに支持されてスピンドルのソケットからの露出部分とソケットとの間を閉塞してソケット内の流路を構成するものであり、
前記スピンドル及びボンネットはステンレス鋼よりなり、その表面に化学的研磨面を有する水栓部用部品。
【請求項2】
化学的研磨面は電解研磨面である請求項1に記載の水栓部用部品。
【請求項3】
化学的研磨面は化学研磨面である請求項1に記載の水栓部用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓やソケット等において使用される水栓部用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、水栓のカバーやソケット内の部品のような水栓部用部品は、黄銅や砲金よりなる本体の外側にクロムメッキを施して構成されている。このような水栓部用部品においては、メッキ加工の前工程で本体の表面がバフ等で研磨される。通常、このような研磨の加工は、部品ひとつひとつに対して手作業で行われるため、手間がかかって加工コスト高になるばかりでなく、仕上がりがばらつき、しかも狭い部位や凹んだ部位等には研磨ができないことも多い。このような研磨のばらつき等が原因となって、メッキ強度が不均一になり、メッキ強度の弱い部分のメッキが早期に剥離する原因になった。
【0003】
特に、水栓が混合水栓の場合は、冷水が吐出された直後に高温の温水が吐出されたり、あるいは逆に温水吐出の直後に冷水が吐出されたりして、メッキ剥離に直結する物理的ダメージが多数回連続して与えられる。さらに、水栓に使用される水栓部用部品の材質が、樹脂の場合、その樹脂よりなる本体の外側にクロムメッキを施して構成されている。このような水栓部用部品においては、本体の樹脂とクロムメッキの金属には熱膨張率に違いがあるため、特に水栓が混合水栓の場合には、冷水が吐出された直後に高温の温水が吐出されたり、あるいは逆に温水吐出の直後に冷水が吐出されたりして、このような使用が長期間に及ぶことにより、メッキが剥離するおそれもある。
【0004】
また、メッキ強度に問題がない場合においても、長期間の使用によってメッキが剥離するおそれもある。
メッキが剥離すると、基材の地肌が剥き出しになって、外観が低下する。その地肌が酸化された場合は、変色して外観低下が著しい。特に、水栓が硫黄成分を含む温泉で使用されたり、硫黄成分を含む入浴剤が用いられる家庭の浴室で使用されたりした場合は、黒ずんで外観低下がさらに著しい。
【0005】
さらに、ひとつの部品において、例えばネジ部分は使用にともなってメッキが剥離しやすいため、また、見え難い部分であるため、同部分にはメッキを施さないことが多い。このような部分に対しては、メッキ加工前にメッキ形成を避けるためのマスキングを施し、メッキ加工後にそのマスキングを除去することが行われており、加工の手間がさらに煩雑になる。
【0006】
特許文献1に開示された水栓は、水栓の外側面を形成する栓本体がステンレス管によって構成されている。このため、メッキ加工を省くことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−152869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の従来構成においては、発明の詳細な説明の段落0034から明らかなように、ステンレス材の本体の表面を美麗にするためにバフ仕上げが行なわれる。このため、加工コストのアップを避けることができない。しかも、表面形状が複雑であるものは細部のバフ仕上げが困難で、あるいは小さい部品は全体のバフ仕上げが難しい。そもそも、ステンレス材は、たとえ表面のバフ仕上げを施しても、光沢に欠けるものであって、外観部品として用いることには適さない。バフ仕上げが適切に行われても、ステンレス材の表面の美麗度、具体的には光沢度や鏡面度合いはクロムメッキには及ばない。
【0009】
本発明の目的は、加工コストを低減できるとともに、良好な外観を得ることができる水栓部用部品を提供できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の水栓部用部品においては、ステンレス鋼の表面に化学的研磨を施したことを特徴とする。
このため、バフ加工のような手間を省くことができて、加工コストを低減できるとともに、表面が適切に研磨されて高い平滑度及び光沢度を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工コストを低減できるとともに、良好な外観を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、湯水混合機能を有する水栓10を含む水栓部用部品11は一対のソケット12を備え、そのソケット12を介して給水管及び給湯管(ともに図示しない)に接続されている。ここで、水栓部用部品11とは
図1に示された水栓10及び後述のソケット12やボンネット13等、水栓10の関連の各種部品であって、ステンレス鋼によって構成された部品を指すものとする。
【0014】
図2及び
図3に示すように、ソケット12内の流路12a内にはステンレス鋼よりなるボンネット13と、同じくステンレス鋼よりなるスピンドル14とを備えた流量調整バルブ15が内装されている。ステンレス鋼としては、日本工業規格で規定されたSUS304やSUS316が用いられる。ボンネット13はネジ16を介してソケット12の本体17に支持され、スピンドル14はネジ18を介して本体17に支持されている。そして、スピンドル14のねじ込み量を調整することにより、スピンドル14に支持された弁体19と本体17との間の隙間が調整されて、流量が調整される。ボンネット13にはステンレス鋼よりなるストレーナ20が取り付けられている。
【0015】
図1及び
図4に示すように、水栓部用部品11の水栓10の本体部にはステンレス鋼の板材よりなるカバー31が取り付けられている。このステンレス鋼としては、前記と同様に、日本工業規格で規定されたSUS304やSUS316が用いられる。
【0016】
水の流路内部品としての前記ボンネット13,スピンドル14及び外観部品としてのカバー31の表面には化学的研磨としての電解研磨が施されている。
従って、ボンネット13,スピンドル14及びカバー31等の水栓部用部品11となるとなるワークの研磨に際しては、それらを陽極に接続した状態で、陰極に接続された容器内の電解液(酸性液体)に浸漬させて、両極間に電流が供給される。このため、ワークの表面がエッチング(溶解)される。このエッチングによって機械加工等に起因した変質層や不純物が除去される。また、エッチングに際しては、特に、ワーク表面の微細凸部が優先的に研磨される。そして、ワークの表面には、電解液中の酸素と反応したクロムを主成分とした不動態被膜が生成される。このため、ワークの表面が平滑化されるとともに、光沢化される。
【0017】
従って、本実施形態は以下の効果がある。
(1)水栓部用部品11に良好な外観を与えるための加工において、メッキ加工とは異なり、メッキ加工前においてひとつひとつのワークに対して行われるバフ加工等の機械研磨が不要となり、電解液中に多数個のワークを同時に浸漬させて電解研磨を施すことができる。従って、工程数を減らすことができて、加工コストを低減できる。特に、ワークの細部に対する機械研磨や、小さいワークに対する機械研磨が不要になるため、加工コストを大幅に低減できる。
【0018】
(2)水栓部用部品11には、黄銅や砲金を用いず、ステンレス鋼が用いられるため、薄肉化及びそれにともなう軽量化が可能になる。
(3)水栓部用部品11には、固く、耐食性に優れたステンレス鋼が用いられているため、錆とは無縁で、傷つきにくく、変形もしにくい。従って、長寿命、高強度の部品を得ることができる。そして、このステンレス鋼の表面に不動態被膜が形成されるため、長寿命、高強度の効果がさらに発揮される。
【0019】
(4)水栓部用部品11の表面の不動態被膜はメッキとは異なり、酸化によって形成された被膜であるため、冷水と温水とによる温度変化等に起因した物理的ダメージや、酸素,硫黄等による化学的ダメージに対して高い耐性を発揮し、ほとんど剥離しない。従って、メッキ剥離のような外観低下は生じ難い。また、不動態被膜は剥離の問題がほとんど生じないため、メッキ加工とは異なり、メッキを避けるためにネジ部等にマスキングする必要がない。従って、加工の手間が減少し、加工コストが大幅に低下する。
【0020】
(5)電解研磨では、微小突起が消滅するように研磨が施されるため、ワークの表面が平滑化されるとともに、光沢化される。しかも、その表面にはクロムを主成分とした不動態被膜が形成されるため、平滑化と光沢化とがさらに促進され、バフ加工の場合より良好な外観を得ることができる。しかも、不動態被膜は表面剥離がほとんど生じないため、長期使用による外観低下の問題を少なくできる。
【0021】
(6)加えて、電解研磨においては、細部に対するバフ加工が困難な従来加工とは異なり、表面全体が一様に、つまり狭いところであっても、孔の内部であっても、細部にわたって研磨される。このため、外観向上がさらに顕著になる。
【0022】
(第2実施形態)
電解研磨は以上のような作用及び効果を得ることができるが、表面の研磨は、化学的研磨として、電解研磨に代えて化学研磨を採用することもできる。
【0023】
化学研磨に際しては、電流の供給が不要であり、酸性液体溶液中に水栓部用部品11となるワークを浸漬すればよい。この場合も、ワーク表面が電解研磨と同様にエッチングされるとともに、クロム成分が濃縮されてワーク表面には不動態被膜が形成される。
【0024】
従って、この化学研磨においても、電解研磨の場合と同様な効果を得ることができる。なお、前記酸性液体中に光沢剤を添加すれば、ワーク表面の光沢,つまり輝度がさらに高くなる。
【0025】
(変更例)
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、以下のようにしてもよい。
・化学的研磨の前工程として、ワークの表面の機械研磨加工は必ずしも必要ではないが、機械研磨加工を施してもよい。
【0026】
・水栓部用部品11として、前記実施形態以外の部品、例えば、ソケットの本体、水栓の先端の吐水管に化学的研磨を施してもよい。
【符号の説明】
【0027】
10…水栓、11…水栓部用部品、12a…流路。