(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、発熱抵抗素子1004が発熱すると、ダイヤフラムを構成する保持部材1002は面方向の外側(
図13の矢印E方向)に向かって熱膨張するが、熱膨張した保持部材1002が変形する空間(余地)が無いと、保持部材1002自身に応力が発生し、発熱抵抗素子1004にも応力が加わって保持部材1002や発熱抵抗素子1004が破損したり断線するおそれがある。
この場合、
図13の拡大
図14に示すように、隣接する2個の貫通孔1002hで挟まれる部位に架橋部1002bが形成される。この架橋部1002bは、貫通孔1002hを設けない場合の保持部材1002に比べて狭幅となっているため、変形し易くなっている。このため、保持部材1002が熱膨張しても、架橋部1002bが面方向の各方向に収縮変形して保持部材1002の熱膨張を吸収し、応力の発生を抑制することができる。
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、貫通孔1002が円孔であるため、架橋部1002bの幅W1〜W3が架橋部1002bの位置によって変わる。そして、架橋部1002bの変形は最も狭幅で変形し易い幅W1の部分に集中して生じ、広幅W2の部分での変形は少ない。このため、架橋部1002b全体としての変形量が小さくなり、熱膨張の吸収効果も小さくなるという問題がある。又、広幅W2の部分では発熱抵抗素子1004の熱を保持部材1002の外側に伝え易く、発熱抵抗素子1004の熱逃げが大きくなって消費電力が大きくなるという問題がある。
【0007】
一方、
図15に示すように、保持部材1102に矩形(正方形)の貫通孔1102hを設けた場合には、各架橋部1102b1〜1102b3の幅W1が位置によらずに一定となる。しかしながら、この場合、隣接する各架橋部1102b1〜1102b3が一直線(
図15の矢印E1)上に並ぶため、この直線に沿う方向(
図15の左右方向)で各架橋部1102b1〜1102b3が繋がって1つの広幅の部材として機能し、変形し難くなる。その結果、変形は、架橋部の間に貫通孔1102hが介在し、架橋部同士が繋がっていない方向(
図15の矢印E2)に集中して生じ、やはり架橋部全体としての変形量が小さくなり、熱膨張の吸収効果も小さくなる。さらに、各架橋部1102b1〜1102b3が繋がっている矢印E1の方向では、発熱抵抗素子1004の熱を保持部材1102の外側に伝え易く、発熱抵抗素子1004の熱逃げがさらに大きくなって消費電力が大きくなる。
【0008】
そこで、本発明は、ダイヤフラム構造部を形成する絶縁層に生じた熱膨張を緩和し、絶縁層や発熱抵抗素子へ加わる応力を確実に抑制すると共に、発熱抵抗素子からの熱逃げを抑制して消費電力を低減したマイクロヒータ及びこのマイクロヒータを採用してなるセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のマイクロヒータは、表面と底面との間を貫通する空洞部を形成してなる半導体基板と、前記空洞部の表面側を閉じるように前記半導体基板の前記表面上に
設けられる絶縁層と、前記絶縁層のうち前記空洞部に対する対応部位に埋設される、発熱抵抗素子と、を備えてなるマイクロヒータにおいて、前記マイクロヒータを前記空洞部の貫通方向に沿って見たとき、前記対応部位のうち前記発熱抵抗素子と重ならない領域に、多角形からなる複数の貫通孔がハニカム状に形成され、隣接する前記貫通孔で挟まれる架橋部の長さの合計に対して50%以上の部位で、該架橋部の幅が一定であり、かつ隣接する前記架橋部同士が一直線上に並ばない
【0010】
このマイクロヒータによれば、貫通孔が空洞部に連通してガスを流通させるので、発熱抵抗素子と被検出ガスとの接触面積が増え、貫通孔に隣接する発熱抵抗素子では熱がさらに被検出ガスへ伝わり易くなる。このため、発熱抵抗素子から被検出ガスへの熱伝達率が高くなり、被検出ガスの検出精度を向上させることができる。
さらに、架橋部の幅が、架橋部の長さの合計に対して50%以上の部位で一定であるため、架橋部がほぼ均等に変形する。その結果、発熱抵抗素子が発熱し、ダイヤフラムを構成する絶縁層が面方向の外側に向かって熱膨張したとき、各架橋部がいずれも面方向の各方向に収縮変形するので、架橋部全体としての変形量が大きくなって熱膨張の吸収効果が大きくなり、絶縁層や発熱抵抗素子へ加わる応力を確実に抑制することができる。
又、発熱抵抗素子の熱が広幅の一部の架橋部から集中して絶縁層の外部に伝わることが抑制され、発熱抵抗素子の熱は架橋部から均等にかつ広範に伝わり、各発熱抵抗素子の熱の伝達経路は複数の架橋部を介した長い距離となる。このため、発熱抵抗素子の熱が外部に逃げ難くなり、消費電力を低減することができる。
又、隣接する各架橋部が一直線上に並ばないため、この直線に沿う方向で各架橋部が繋がって1つの広幅の部材となって変形し難くなることが回避される。その結果、各架橋部がいずれも面方向の各方向に収縮変形するので、架橋部全体としての変形量が大きくなって熱膨張の吸収効果が大きくなる。
さらに、各架橋部が一直線上に繋がった場合には、この直線が絶縁層の外部への最短の熱の伝達経路となり、発熱抵抗素子の熱が外部に逃げ易くなる。これに対し、各架橋部が一直線上に並ばないため、発熱抵抗素子の熱の伝達経路は複数の架橋部を介した長い距離となる。このため、発熱抵抗素子の熱が外部に逃げ難くなり、消費電力を低減することができる。
なお、「ハニカム状」とは、多数の貫通孔がごばん目状に形成されている形状をいう。
【0011】
本発明のマイクロヒータにおいて、前記貫通孔は4個以上形成され、1個の前記貫通孔を起点とし、異なる2つの方向にそれぞれ隣接する2個の前記貫通孔の重心を結んで構成される2辺について、当該2辺を対辺とする四角形の内側領域の面積をS1とし、前記内側領域に含まれる4個の前記貫通孔の合計開口面積をS2としたとき、開口率(S2/S1)が69%以上であるとよい。
架橋部の幅が50%以上の部位で一定であっても、この幅自体が太過ぎると、架橋部での変形が困難になる場合がある。そして、貫通孔の径に対し、幅を相対的に小さくするほど、架橋部が変形し易くなる。そこで、貫通孔の径(貫通孔の個数に応じた全貫通孔の径の合計)に対し、架橋部の幅の相対的な幅寸法を開口率(S2/S1)で規定し、この開口率を69%以上とすることで、架橋部の幅を相対的に小さくすることができ、架橋部がより変形し易くなる。又、マイクロヒータを長期使用すると、架橋部に有機シリコン等の不純物が堆積し、発熱抵抗素子からの熱逃げが大きくなる傾向にある。そこで、開口率を69%以上とすると、絶縁層において相対的に架橋部の面積割合が小さくなるので、発熱抵抗素子からの熱逃げをさらに抑制して消費電力をより一層低減することができる。
【0012】
本発明のマイクロヒータにおいて、前記多角形は正六角形、又は複数の正六角形を組み合わせた形状をなしてもよい。
このマイクロヒータによれば、架橋部の幅が50%以上の部位で一定で、かつ隣接する架橋部同士が一直線上に並ばないマイクロヒータを容易に製造することができる。
【0013】
本発明のセンサは、前記マイクロヒータを備える。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、マイクロヒータのダイヤフラム構造部を形成する絶縁層に生じた熱膨張を緩和し、絶縁層や発熱抵抗素子へ加わる応力を確実に抑制すると共に、発熱抵抗素子からの熱逃げを抑制して消費電力を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1はマイクロヒータ500の平面図を示し、
図2は
図1のA−A線切断部およびB−B線切断部におけるそれぞれの端面図を示す。尚、
図1において、紙面の左右方向をその平面図の左右方向とする。また、
図2において、紙面の上下方向をその断面図の上下方向とする。
なお、マイクロヒータ500は、水素ガス濃度を検出する(ガス)センサのガス検出素子を構成している。
【0017】
図1に示すように、マイクロヒータ500は、平板形状(平面視四角形状)をなし、その表面の四隅にそれぞれ電極430,440、88、89が形成され、他方の面(裏面)の中心付近に、詳しくは後述する平面視矩形のダイヤフラム構成部が形成されている。
又、
図2に示すように、マイクロヒータ500は、シリコン基板からなる半導体基板100と、この半導体基板100の表面(
図2の上面)110に沿い形成される絶縁層200と、半導体基板100の裏面(
図2の下面)120に形成される裏側絶縁膜300とを備えている。
そして、絶縁層200の裏面側において、半導体基板100の板厚方向に断面八の字状に(ピラミッド形状(四角錐形状)に)半導体基板100の一部を除去することで、
図2に示すように空洞部130が貫通形成されている。そして、絶縁層200のうち、半導体基板100の空洞部130に対する対応部位は、この対応部位に埋設されている発熱抵抗素子400をも含めて、ダイヤフラム構造部を構成している。
【0018】
又、絶縁層200のうち空洞部130に対応する領域(薄膜部)、より具体的には下側薄膜210と上側薄膜220との間、即ち両圧縮応力膜212、221の間には、渦巻き状にパターン形成された発熱抵抗素子400が埋設されている。
発熱抵抗素子400は、被検出ガスの温度(詳細には、可燃性ガスへの熱伝導)により自身の温度変化により抵抗値が変化する抵抗体である。発熱抵抗素子400は、温度抵抗係数が大きい導電性材料で構成され、本実施形態では白金(Pt)で形成されている。可燃性ガスとしての水素ガスを検出する場合、水素ガスへの熱伝導によって発熱抵抗素子400から奪われる熱量の大きさは、水素ガス濃度に応じた大きさとなる。このことから、発熱抵抗素子400における電気抵抗値の変化に基づいて、水素ガス濃度を検出することが可能となる。
そして、ダイヤフラム構造部内に発熱抵抗素子400を設けることにより、発熱抵抗素子400が周囲から断熱されるため、短時間にて昇温又は降温する。このため、マイクロヒータ500の熱容量を小さくすることができる。
なお、発熱抵抗素子400の抵抗値変化は被検出ガスの温度による影響を受けるため、後述する測温抵抗体80の電気抵抗値に基づき検出される温度を用いて、発熱抵抗素子400の電気抵抗値変化に基づき検出した被検出ガスの濃度を補正することにより、被検出ガス濃度の検出精度を向上させることができる。
【0019】
絶縁層200は、下側薄膜210及び上側薄膜220を備えている。
下側薄膜210は、引張応力膜211及び圧縮応力膜212を有している。窒化シリコン(Si
3N
4)からなる引張応力膜211は、半導体基板100の表面110に積層され、酸化ケイ素(SiO
2)からなる圧縮応力膜212は、引張応力膜211の表面に積層されている。
また、上側薄膜220は、圧縮応力膜221及び引張応力膜222を有している。酸化ケイ素(SiO
2)からなる圧縮応力膜221は、圧縮応力膜212の表面に積層され、窒化シリコン(Si
3N
4)からなる引張応力膜222は、圧縮応力膜221の表面に積層されている。
【0020】
窒化シリコン(Si
3N
4)からなる裏側絶縁膜300は、半導体基板100の裏面120に沿って形成されている。また、裏側絶縁膜300のうち、空洞部130に対する対応部位が除去されて空洞部130の開口部を形成している。
これにより、絶縁層200の引張応力膜211の裏面のうち、空洞部130に対応する部位が、空洞部130の開口部を通して外方に露出している。
なお、半導体基板100のうち空洞部130以外の部位を、以下、基板部140という。
また、最表層をなす引張応力膜222は、発熱抵抗素子400、測温抵抗体80、配線膜16の汚染や損傷を防止すべくそれらを覆うように設けられている。
又、マイクロヒータ500は、縦横ともに数mm(例えば3mm×3mm)程度の大きさであり、例えば、シリコン半導体基板を用いたマイクロマシニング技術(マイクロマシニング加工)により製造される。
【0021】
図1に戻り、発熱抵抗素子400の左右の端は、発熱抵抗素子400が形成された平面と同じ平面にそれぞれ埋設された配線をなす左側配線膜410及び右側配線膜420(
図2)を介して、左側電極430及び右側電極440にそれぞれ接続されている。なお、左側電極430がグランド電極となっている。両電極430,440は、発熱抵抗素子400に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホール223、224(
図2)を介して露出し、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)で形成されている。
左側配線膜410は、下側薄膜210と上側薄膜220との間、即ち両圧縮応力膜212、221の間で、半導体基板100の基板部140に対応する位置の圧縮応力膜212の表面に薄膜状に形成されている。一方、右側配線膜420は、両圧縮応力膜212、221の間で、半導体基板100の基板部140に対応する位置の圧縮応力膜212の表面に薄膜状に形成されている。
さらに、上側薄膜220に形成したコンタクトホール223を通して左側配線膜410上に、左側電極430が形成されている。同様に、上側薄膜220に形成したコンタクトホール224を通して右側配線膜420上に、右側電極440が形成されている。
【0022】
測温抵抗体80は、マイクロヒータ500の配置された空間内に存在するガス(被検出ガス等)の温度を検出するためのものであり、
図1に示すようにマイクロヒータ500の上辺(一辺)に沿って、圧縮応力膜221及び引張応力膜222の間に埋設されている。測温抵抗体80は、電気抵抗値が温度に比例して変化(本実施形態では、温度の上昇に伴って抵抗値が増大)する導電性材料で構成され、本実施形態では白金(Pt)で形成されている。
測温抵抗体80は、測温抵抗体80が形成された平面と同じ平面に埋設された配線膜(図示せず)を介して電極88及びグランド電極89に接続されている。電極88及びグランド電極89は、コンタクトホール(図示せず)を介して露出し、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)で形成されている。
【0023】
さらに、絶縁層200のうち発熱抵抗素子400の形成部位を避けた領域に、同一の多角形(本実施形態では正六角形)からなる複数の貫通孔200hが形成されている。
貫通孔200hは、空洞部130に連通してガスを流通させるので、発熱抵抗素子400と被検出ガスとの接触面積が増え、貫通孔200hに隣接する発熱抵抗素子400では熱がさらに被検出ガスへ伝わり易くなる。このため、発熱抵抗素子400から被検出ガスへの熱伝達率が高くなり、被検出ガスの検出精度を向上させることができる。なお、多角形の角部(頂点)は、必ずしも鋭角になっている必要はなく、丸みを帯びた形状であってもよい。
【0024】
又、
図3に示すように、各貫通孔200h1〜200h3は、自身の辺と、隣接する貫通孔の辺とが平行になるようにして配置されている。従って、隣接する貫通孔で挟まれる絶縁層200で形成される架橋部200b1〜200b3の幅W1は、どの位置でも一定になっている。具体的には、隣接する貫通孔200h1、200h2で挟まれる絶縁層200が架橋部200b1を形成し、隣接する貫通孔200h1、200h3で挟まれる絶縁層200が架橋部200b2を形成し、隣接する貫通孔200h2、200h2で挟まれる絶縁層200が架橋部200b3を形成する。
そして、これら隣接する架橋部200b1〜200b3は、一辺の長さがW1の正三角形からなる接続部200cの各辺で接続され、各架橋部200b1〜200b3が接続部200cを中心に互いに120度の角度で放射状に延びており、各架橋部200b1〜200b3同士は一直線上に並ばない。ここで、一直線上に並ばないとは、隣接する架橋部200b1〜200b3同士の間には必ず変曲点を有することを意味する。
【0025】
このように、架橋部200b1〜200b3の幅W1がどの位置でも一定であるため、架橋部200b1〜200b3がほぼ均等に変形する。その結果、発熱抵抗素子400が発熱し、ダイヤフラムを構成する絶縁層200が面方向の外側(
図2、3図の矢印E方向)に向かって熱膨張したとき、各架橋部がいずれも面方向の各方向に収縮変形するので、架橋部全体としての変形量が大きくなって熱膨張の吸収効果が大きくなり、絶縁層200や発熱抵抗素子400へ加わる応力を確実に抑制することができる。このように、絶縁層200や発熱抵抗素子400へ加わる応力を確実に抑制することができるため、マイクロヒータの耐熱性や、耐久性が向上する。
なお、架橋部200b1〜200b3の幅W1は、架橋部の長さの合計に対して50%以上の部位で一定であればよい。架橋部の長さの合計に対して50%以上の部位が一定であれば、この一定部位で十分に応力を抑制できる。但し、上述のように架橋部200b1〜200b3の幅W1がどの位置でも(つまり、架橋部の長さの合計に対して100%で)一定であることが好ましい。又、一定部位の幅W1は、架橋部のその他の部位の幅よりも狭いと、当該一定部位で変形し易いので好ましい。
又、発熱抵抗素子400の熱が広幅の一部の架橋部から集中して絶縁層200の外部に伝わることが抑制され、発熱抵抗素子400の熱は架橋部から均等にかつ広範に伝わり、各発熱抵抗素子400の熱の伝達経路(
図3の矢印H1,H2)は複数の架橋部を介した長い距離となる。このため、発熱抵抗素子400の熱が外部に逃げ難くなり、消費電力を低減することができる。
【0026】
又、隣接する各架橋部200b1〜200b3が一直線(
図3の矢印E)上に並ばないため、この直線に沿う方向で各架橋部200b1〜200b3が繋がって1つの広幅の部材となって変形し難くなることが回避される。その結果、各架橋部がいずれも面方向の各方向に収縮変形するので、架橋部全体としての変形量が大きくなって熱膨張の吸収効果が大きくなる。
さらに、各架橋部200b1〜200b3が一直線上に繋がった場合には、この直線が絶縁層200の外部への最短の熱の伝達経路となり、発熱抵抗素子400の熱が外部に逃げ易くなる。これに対し、本実施形態では、各架橋部200b1〜200b3が一直線上に並ばないため、発熱抵抗素子400の熱の伝達経路(
図3の矢印H1,H2)は複数の架橋部を介した長い距離となる。このため、発熱抵抗素子400の熱が外部に逃げ難くなり、消費電力を低減することができる。
【0027】
なお、接続部200cは一辺の長さがW1の正三角形からなるが、各貫通孔200h1〜200h3の辺(具体的には各貫通孔200h1〜200h3の頂点)と接続部200cとの距離はW1以下(W1より短い)である。このため、接続部200cが各架橋部200b1〜200b3よりも太幅となって変形し難くなることが無く、接続部200cは各架橋部200b1〜200b3の変形を妨げない。
【0028】
ところで、架橋部200b1〜200b3の幅W1が50%以上の部位で一定であっても、幅W1自体が太過ぎると、架橋部での変形が困難になる場合がある。つまり、貫通孔200h1〜200h3の径に対し、幅W1を相対的に小さくするほど、架橋部が変形し易くなる。そこで、本発明の好ましい実施形態として、幅W1の相対的な幅寸法を、以下の開口率(S2/S1)で規定することとした。
具体的には、
図4に示すように1個の貫通孔200h1を起点とし、1つの方向(
図4の上下方向)D1に隣接する貫通孔200h2を合わせ、2個の貫通孔200h1、200h2の各重心G1,G2を結んで辺L1を構成する。同様に、貫通孔200h1を起点とし、方向D1と異なる方向(
図4の斜め右下がり方向)D2に隣接する貫通孔200h3を合わせ、2個の貫通孔200h1、200h3の各重心G1,G3を結んで辺L2を構成する。
そして、2辺L1、L2を対辺とする四角形の内側領域Rの面積をS1とし、内側領域Rに含まれる4個の貫通孔200h1〜200h4の合計開口面積をS2としたとき、開口率を(S2/S1)で規定する。
【0029】
この開口率(S2/S1)が69%以上であると、貫通孔の径(貫通孔の個数に応じた全貫通孔の径の合計)に対し、幅W1を相対的に小さくすることができ、隣接する貫通孔で挟まれる架橋部がより変形し易くなる。又、マイクロヒータを長期使用すると、架橋部に有機シリコン等の不純物が堆積し、発熱抵抗素子400からの熱逃げが大きくなる傾向にある。そこで、開口率を69%以上とすると、絶縁層200において相対的に架橋部の面積割合が小さくなるので、発熱抵抗素子400からの熱逃げをさらに抑制して消費電力をより一層低減することができる。
なお、開口率の上限は特に限定されないが、貫通孔や架橋部の寸法精度や製造上の問題等から、上限は91%程度である。
【0030】
次に、
図5〜
図8を参照し、マイクロヒータ500の製造工程について説明する。なお、
図5〜
図8では、各工程について、
図1におけるマイクロヒータのA−A線切断部およびB−B線切断部におけるそれぞれの端面状態を表している。なお、マイクロヒータ500は、マイクロマシン技術を利用して製造される。
(1)引張応力膜211及び裏側絶縁膜300の成膜工程
まず、
図5に示すように、洗浄したシリコン基板を半導体基板100として準備し、この半導体基板100の表面に、窒化シリコンからなる引張応力膜211を低圧CVD法(LP−CVD法)により、所定膜厚(例えば、0.2μm)で成膜する。なお、引張応力膜211の成膜の際に、絶縁膜300も半導体基板100の裏面120に薄膜状に成膜する。
(2)圧縮応力膜212成膜工程
次に、
図5に示すように、引張応力膜211の表面に、酸化シリコンからなる圧縮応力膜212をプラズマCVD法により、所定膜厚(例えば、0.1μm)で成膜する。
【0031】
(3)発熱抵抗素子400及び左右両側配線膜410、420の成膜工程
次に、
図6に示すように、圧縮応力膜212の表面に、白金(Pt)のスパッタリングにより薄膜状の白金膜を成膜した後、この白金膜にパターニング処理を施して、発熱抵抗素子400及び左右両側配線膜410、420を圧縮応力膜212の表面に一体に形成する。
【0032】
(4)圧縮応力膜221成膜工程
次に、
図7に示すように、発熱抵抗素子400及び左右両側配線膜410、420を覆うようにして、圧縮応力膜212の表面に、酸化シリコンからなる圧縮応力膜221をプラズマCVD法により、所定膜厚(例えば、0.1μm)で成膜する。
(5)引張応力膜222の成膜工程
さらに、圧縮応力膜221の表面に、窒化シリコンからなる引張応力膜222を低圧CVD法により、所定膜厚(例えば、0.2μm)で成膜する。これにより、圧縮応力膜221及び引張応力膜222からなる上側薄膜220が、発熱抵抗素子400、換言すれば両圧縮応力膜212、221の間を基準に、引張応力膜211及び圧縮応力膜212からなる下側薄膜210に対し対称的に形成される。
なお、引張応力膜222の成膜の際に、絶縁膜300も半導体基板100の裏面120に薄膜状に成膜する。
【0033】
(6)電極及び貫通孔の形成工程
次に、
図8に示すように、引張応力膜222を成膜した後の上側薄膜220のうち、左右両側配線膜410、420に対する各対応部位に、各コンタクトホール223、224をエッチング形成する。これに伴い、左右両側配線膜410、420は、その各表面にて、各対応コンタクトホール223、224を通して外部に露呈する。
次いで、各コンタクトホール223、224の内部を含む引張応力膜222の表面に、スパッタリングにより、金(Au)等からなるコンタクト金属膜を成膜する。さらに、当該コンタクト金属膜にパターニング処理及びエッチング処理を施し、各コンタクトホール223、224に左右両側電極430、440を形成する。
さらに、絶縁層200のうち発熱抵抗素子400の形成部位を避けた領域に、貫通孔200hをパターニング処理及びドライエッチング処理により形成する。
なお、貫通孔200hは、絶縁層200を構成する上側薄膜220及び下側薄膜210を貫通するが、半導体基板100を貫通せずにその表面110で終端している。
【0034】
(7)空洞部形成工程
次に、電極及び貫通孔の形成後、裏側絶縁膜300に対し、空洞部130を形成するに要するパターニング処理及びエッチング処理を施す。ここで、空洞部130を形成するエッチング部位130Eは、発熱抵抗素子400及び貫通孔200hの形成部位より面方向の外側とする。
ついで、異方性エッチング液(例えば、TMAH)を用いて、半導体基板100にエッチング処理を施す。これにより、半導体基板100に貫通孔200hと連通する空洞部130を形成し(
図2参照)、マイクロヒータ500の製造が終了する。
【0035】
次に、
図9を参照し、本発明の実施形態に係るマイクロヒータ500が適用されたガスセンサ1について説明する。
図9は、ガスセンサ1の全体構成図である。マイクロヒータ500は、水素ガス濃度を検出する熱伝導式のガス検出素子を構成している。また、ガスセンサ1は、熱伝導式のガス検出素子を用いて、可燃性ガスの濃度を検出するものであり、例えば、燃料電池自動車の客室内に設置され、水素の漏れを検出する目的等に用いられる。
なお、
図1において、ガス検出素子をなすマイクロヒータ500のうち、測温抵抗体80のみが図示されている。
【0036】
図9に示すように、ガスセンサ1は、ガス検出素子と、ガス検出素子を駆動制御する制御回路90とを備えている。又、制御回路90は、ガス検出回路91、及び温度測定回路93を備えている。なお、制御回路90(但し、発熱抵抗素子400および測温抵抗体80を除く),マイコン94は単一の回路基板上に構成され、この回路基板とは別体にガス検出素子は構成されている。
ガス検出回路91は、ガス検出素子に備えられた発熱抵抗素子400と、固定抵抗95,96,97とによって構成されるホイートストーンブリッジ911、及び、ホイートストーンブリッジ911から得られる電位差を増幅するオペアンプ912を備えている。
発熱抵抗素子400として、自身の温度の上昇に伴い抵抗値が上昇する抵抗体を用いた場合、このオペアンプ912は、発熱抵抗素子400の温度が所定の温度に保たれるように、発熱抵抗素子400の温度が上昇した場合には出力する電圧を低くし、発熱抵抗素子400の温度が下降した場合には出力する電圧を高くするように作動する。
【0037】
そして、このオペアンプ912の出力は、ホイートストーンブリッジ911に接続されているので、発熱抵抗素子400の温度が所定の温度より上昇すると、発熱抵抗素子400の温度を下げるためにオペアンプ912から出力される電圧は低くなり、ホイートストーンブリッジ911に印加される電圧が低下する。このときの、ホイートストーンブリッジ911の端部を構成する右側電極440(
図1参照)の電圧はガス検出回路91の出力としてマイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力値は、被検出ガスに含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
温度測定回路93は、ガス検出素子に備えられた測温抵抗体80と、固定抵抗101,102,103によって構成されるホイートストーンブリッジ931と、ホイートストーンブリッジ931から得られる電位差を増幅するオペアンプ933とを備えている。このオペアンプ933の出力はマイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力値は、被検出ガスの温度を測定するのに用いられ、さらに、被検出ガスに含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0038】
以上のような構成を有する制御回路90の出力値に基づき、マイコン94により実行される可燃性ガスの濃度を演算する処理は、次のようなものである。まず、マイコン94が備えるCPU(図示せず)は、同じくマイコン94が備える記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムに基づき、ガス検出回路91の出力値から、可燃性ガス濃度にほぼ比例した第1の出力値を出力する。この第1の出力値は、ガスセンサ1の検出空間の雰囲気温度変化による出力変化を含んでいるので、続いて、温度測定回路93からの出力に基づき第1の出力値を補正した第2の出力値を出力する。さらに、マイコン94は、そのマイコン94の記憶装置(図示せず)に記憶された第2の出力値と可燃性ガスの濃度との関係に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を出力する。このように、第1の出力値を温度測定回路93の出力に基づき補正しているので、精度よく可燃性ガスを検出できる。尚、可燃性ガスの濃度を演算する処理は、上記のものに限られず、公知の手段を適宜用いれば良い。
【0039】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、
図10に示すように、貫通孔として、3つの正六角形を組み合わせた形状の多角形を用いてもよい。
図10の例では、絶縁層250に、各貫通孔250h1〜250h3が自身の辺と、隣接する貫通孔の辺とが平行になるようにして配置されている。そして、隣接する貫通孔250h1、250h2で挟まれる絶縁層250が架橋部250b1を形成し、隣接する貫通孔250h1、250h3で挟まれる絶縁層250が架橋部250b2を形成し、隣接する貫通孔250h2、250h3で挟まれる絶縁層250が架橋部250b3を形成している。そして、架橋部250b1〜250b3の幅W1がどの位置でも一定になっている。
また、これら隣接する架橋部250b1〜250b3は、正三角形からなる接続部250cの各辺で接続され、各架橋部250b1〜250b3が接続部250cを中心に互いに120度の角度で放射状に延びており、各架橋部250b1〜250b3同士は一直線上に並ばない。
このように、
図10の例でも、架橋部250b1〜250b3の幅W1がどの位置でも一定であり、かつ、隣接する各架橋部250b1〜250b3が一直線上に並ばない。
【0040】
なお、接続部250cは一辺の長さがW1より長い正三角形からなるが、各貫通孔250h1〜250h3の辺(各貫通孔250h1〜250h3の頂点を含む)と接続部250cとの距離はW1である。このため、接続部250cが各架橋部250b1〜250b3よりも太幅となって変形し難くなることが無く、接続部250cは各架橋部250b1〜250b3の変形を妨げない。
又、
図10の例では、架橋部250b2が対称線250bxで対称となるようにくの字状に折れ曲がっており、対称線250bxの長さは幅W1より広い(他の架橋部も同様)。しかしながら、対称線250bxは線であって面を構成しないので、対称線250bxが架橋部250b2の変形を妨げることは無い。
【0041】
又、
図11に示すように、貫通孔として、7つの正六角形を組み合わせた形状の多角形を用いてもよい。
図11の例では、絶縁層260に、各貫通孔260h1〜260h3が自身の辺と、隣接する貫通孔の辺とが平行になるようにして配置されている。そして、隣接する貫通孔260h1、260h2で挟まれる絶縁層260が架橋部260b1を形成し、隣接する貫通孔260h1、260h3で挟まれる絶縁層260が架橋部260b2を形成し、隣接する貫通孔260h2、260h3で挟まれる絶縁層260が架橋部260b3を形成している。そして、架橋部260b1〜260b3の幅がどの位置でも一定になっている。
また、これら隣接する架橋部260b1〜260b3は、正三角形からなる接続部260cの各辺で接続され、各架橋部260b1〜260b3が接続部260cを中心に互いに120度の角度で放射状に延びており、各架橋部260b1〜260b3同士は一直線上に並ばない。
このように、
図11の例でも、架橋部260b1〜260b3の幅がどの位置でも一定であり、かつ、隣接する各架橋部260b1〜260b3が一直線上に並ばない。
【0042】
なお、接続部260cは一辺の長さが架橋部の幅より長い正三角形からなるが、各架橋部260b1〜260b3の変形を妨げないのは、接続部250cの場合と同様である。
又、
図11の例では、架橋部260b2が2つの対称線260bxでそれぞれ対称となるように2か所で折れ曲がっており、対称線260bxの長さは架橋部の幅より広い(他の架橋部も同様)。しかしながら、対称線260bxが架橋部260b2の変形を妨げることは無いのは、対称線250bxの場合と同様である。
【0043】
又、
図12に示すように、貫通孔として、4つの正六角形を組み合わせた形状の多角形を用いてもよい。
図12の例では、絶縁層270に、各貫通孔270h1〜270h3が自身の辺と、隣接する貫通孔の辺とが平行になるようにして配置されている。そして、隣接する貫通孔270h1、270h2で挟まれる絶縁層270が架橋部270b1を形成し、隣接する貫通孔270h1、270h3で挟まれる絶縁層270が架橋部270b2を形成し、隣接する貫通孔270h2、270h3で挟まれる絶縁層270が架橋部270b3を形成している。そして、架橋部270b1〜270b3の幅がどの位置でも一定になっている。
また、これら隣接する架橋部270b1〜270b3は、正三角形からなる接続部270cの各辺で接続され、各架橋部270b1〜270b3が接続部270cを中心に互いに120度の角度で放射状に延びており、各架橋部270b1〜270b3同士は一直線上に並ばない。
このように、
図12の例でも、架橋部270b1〜270b3の幅がどの位置でも一定であり、かつ、隣接する各架橋部270b1〜270b3が一直線上に並ばない。
【0044】
なお、接続部270cは一辺の長さが架橋部の幅より長い正三角形からなるが、各架橋部270b1〜270b3の変形を妨げないのは、接続部250cの場合と同様である。
又、
図12の例では、架橋部270b2が2つの対称線270bxでそれぞれ対称となるように2か所で折れ曲がっており、対称線270bxの長さは架橋部の幅より広い(架橋部270b1も同様)。しかしながら、対称線270bxが架橋部270b2の変形を妨げることは無いのは、対称線250bxの場合と同様である。
なお、
図12の例では、架橋部270b3は水平方向(
図12の左右方向)にまっすぐ延び、架橋部270b1、270b2とは形状が異なっている。
【0045】
さらに、貫通孔を構成する多角形の頂点(隣接する2辺の交点)に丸みを付けると、頂点が尖っている場合に比べ、頂点への応力集中が少なくなるので、架橋部が変形する際に頂点で破断する等の不具合を抑制することができる。
又、
図1の例では、発熱抵抗素子400の隣接する発熱パターンの隙間400Gには貫通孔200hを設けなかったが、隙間400Gの幅より貫通孔200hの径が小さい場合には、隙間400Gにも貫通孔200hを設けてもよい。
又、
図8のコンタクトホールの形成と、貫通孔の形成を同時に行っても良い。
又、上記実施形態では、水素ガスを検出する場合について説明したが、本発明のガスセンサは他の種類の可燃性ガスも検出可能である。