(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471007
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】リチウム一次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 6/16 20060101AFI20190204BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20190204BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20190204BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20190204BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20190204BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20190204BHJP
【FI】
H01M6/16 C
H01M4/06 X
H01M4/06 W
H01M4/06 L
H01M4/70 A
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/50
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-45934(P2015-45934)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-167358(P2016-167358A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 春彦
(72)【発明者】
【氏名】落合 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
(72)【発明者】
【氏名】西村 直昭
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6190682(JP,B2)
【文献】
特開2000−299108(JP,A)
【文献】
特開2015−156361(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/021640(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/16
H01M 4/06
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/50
H01M 4/587
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の正極とシート状の負極がセパレータを介して対向配置されてなる電極体を非水系有機電解液とともに外装体内に封入してなるリチウム一次電池であって、
前記正極は、リチウムイオンの吸蔵が可能な正極活物質を含む正極材料をシート状の集電体表面に塗布してなり、
前記負極は、表裏を貫通する孔が形成されたシート状の集電体の一主面側に、リチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素活物質とシリコンとを含む負極材料が塗布されるとともに、当該集電体の他方の面側にリチウム金属あるいはリチウム合金からなる負極活物質が貼着されてなる、
ことを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項2】
前記正極活物質が二酸化マンガンであることを特徴とする請求項1に記載のリチウム一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム一次電池は、リチウム金属やリチウム合金を負極活物質とした負極と、二酸化マンガン、酸化銅、フッ化黒鉛などを正極活物質とした正極を備え、正極と負極がセパレータを介して対向配置されてなる電極体が電池缶などの外装体内に非水系有機電解液とともに密封された構造を有している。
【0003】
リチウム一次電池は、高いエネルギー密度を有するとともに、長期間に亘る放電が可能でしかも放電末期まで電圧降下が少ないという特性を有し、定置型のガスメータや水道メーターの電源など、長期に亘って機器に電力を供給し続ける用途に広く用いられている。またリチウム一次電池は、未使用の状態で長期間保存できるという特性も有する。
【0004】
リチウム一次電池に関し、例えば、非特許文献1には、動作原理や構造が異なる様々なタイプのリチウム一次電池について記載されている。また非特許文献2には、リチウム一次電池の利用分野に関して記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】FDK株式会社、”リチウム電池”、[online]、[平成27年3月4日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/battery/lithium/index.html>
【非特許文献2】マークラインズ株式会社、”市場・技術レポート「2009年に本格展開を開始する、欧州のeCall自動緊急通報サービス」”、[online]、[平成27年3月4日検索]、インターネット<URL:http://www.marklines.com/ja/report/rep355_200503>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯電話などの移動体通信装置は、音声やデータを送受信する際に大電力、大電流を必要とする。また例えば、非特許文献2に記載されているような自動車の緊急通報システムでは、事故の発生場所がどのような環境であっても確実に動作することも必要となる。そのため、例えば、高緯度地域など冬期に氷点下数十度以下となる極寒地でも動作することが求められる。しかしながら、従来のリチウム一次電池は、定常動作用の電源には適しているものの、低温環境下での大電流放電特性については必ずしも十分といえるものではなかった。
【0007】
そこで本発明者等は、低温環境下でも大電流放電が可能なリチウム一次電池を提供すべく、先にした出願(出願番号:特願2013−202124)に開示された構成からなるリチウム一次電池を提案した。このリチウム一次電池では、ハードカーボン等の炭素材料を負極材料として用いることで表面積を増大させ、内部抵抗の上昇を抑えて低温環境下での放電特性を向上させるようにしている。しかしハードカーボンの理論容量は350〜500mAh/g程度であり、上記リチウム一次電池においては放電容量のさらなる改善が課題となっていた。
【0008】
本発明は、こうした背景に基づきなされたもので、高い放電容量を有するリチウム一次電池を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための主たる発明は、シート状の正極とシート状の負極がセパレータを介して対向配置されてなる電極体を非水系有機電解液とともに外装体内に封入してなるリチウム一次電池であって、前記正極は、リチウムイオンの吸蔵が可能な正極活物質を含む正極材料をシート状の集電体表面に塗布してなり、前記負極は、表裏を貫通する孔が形成されたシート状の集電体の一主面側に、リチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素活物質とシリコンとを含む負極材料が塗布されるとともに、当該集電体の他方の面側にリチウム金属あるいはリチウム合金からなる負極活物質が貼着されてなる、リチウム一次電池である。
【0010】
本発明のうちの他の一つは、上記リチウム一次電池であって、前記正極活物質が二酸化マンガンであることとする。
【0011】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い放電容量を有するリチウム一次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)は本発明の実施例に係るリチウム一次電池1の構造を示す斜視図、(B)はリチウム一次電池1の内部構造を示す図である。
【
図2】上記実施例に係るリチウム一次電池1と、比較例に係るリチウム一次電池の高負荷連続放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。尚、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。
【0015】
図1は、本発明の実施例に係るリチウム一次電池1の構造を示す図である。
図1(A)はその外観を示す斜視図であり、
図1(B)は内部構造を示す図であり、
図1(A)におけるa−a矢視断面を模式的に示している。
【0016】
図1(A)に示すように、リチウム一次電池1は、ラミネートフィルムの外装体11内に正極、負極、及び電解液からなる発電要素が封入されているとともに、外装体11の外側に、内部の正極と負極のそれぞれに接続されて外部の負荷に電力を供給するための正極と負極のそれぞれの端子板(12、13)を導出させた構造(以下、完全密閉構造とも称する。)を有する。
【0017】
図1(B)に示すように、外装体11内には、シート状の正極20とシート状の負極30がセパレータ40を介して対向配置させてなる電極体10が収納されている。この例では、正極20は、スラリー状の正極材料22を、ステンレス製のエキスパンドメタルからなるシート状の正極集電体21に塗布することにより構成している。
【0018】
負極30は、表裏を貫通する多数の孔が形成された銅箔からなるシート状の負極集電体31の一主面(おもて面とする)34側にリチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素材料(例えば、ハードカーボン、以下、炭素活物質とも言う)とリチウムイオンを吸蔵可能な金属であるシリコン(Si)とを含む負極材料32を塗布し、他方の面(裏面とする)35側に板状のリチウム金属33を貼着した構造である。そして、負極30の負極材料32側がセパレータ40を介して正極20と対向配置されて電極体10が構成されている。なお、正極20と負極30のそれぞれの集電体(21、31)には、端子板(12、13)が接続されており、その端子板(12、13)が外装体11の外側に導出されている。
【0019】
上記構造を備えたリチウム一次電池1では、負極材料32に含まれる炭素活物質にリチウム金属33を起源としたリチウムイオンが離脱可能に吸蔵される。それにより炭素活物質がリチウム金属33とともに負極活物質として機能し、実質的に負極30における還元反応に寄与する表面積が増大し、その結果として、低温環境下でも大電流放電が可能となっている。
【0020】
<サンプル>
上記実施形態に係るリチウム一次電池1の性能を確認すべく、上記構成のリチウム一次電池1(以下、実施例と称する。)をサンプルとして作製した。ここでは、各種リチウム一次電池の中でも3.0Vの公称電圧が得られ、耐衝撃性に優れた二酸化マンガンリチウム電池をサンプルとして作製した。
【0021】
サンプルの製造手順としては、まず、正極活物質となる電解二酸化マンガン(EMD)、導電材となる炭素材料、及びフッ素系バインダーをそれぞれ93wt%、3wt%、及び4wt%の割合で混合したものを純水によりスラリー状にして正極材料22とした。続いて、その正極材料22をエキスパンドメタルからなる正極集電体21の両面に塗布して圧着することで正極20を作製した。また正極集電体21に正極端子板12を溶接などによって接続した。
【0022】
負極30側については、負極材料32の組成の異なる3つのサンプルのリチウム一次電池(比較例、サンプルA、サンプルB)を作製した。比較例では、リチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素活物質と導電助剤とバインダーをそれぞれ90%、5%、5%の割合で含んだスラリーを負極材料32とした。サンプルAでは、リチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素活物質とリチウムイオンを吸蔵可能な金属であるシリコン(Si)と導電助剤とバインダーをそれぞれ88%、2%、5%、5%の割合で含んだスラリーを負極材料32とした。サンプルBでは、リチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素活物質とリチウムイオンの吸蔵が可能なシリコン(Si)と導電助剤とバインダーをそれぞれ82%、8%、5%、5%の割合で含んだスラリーを負極材料32とした。
【0023】
上記3つのサンプルのいずれについても、作製した負極材料32を負極集電体31のおもて面34に塗布し、さらに負極集電体31の裏面35には平板状のリチウム金属33を貼着した。また上記3つのサンプルのいずれについても、負極集電体31に負極端子板13を溶接などによって接続した。
【0024】
尚、上記3つのサンプルのいずれについても、上述した手順で作製した正極20と負極30を真空乾燥させた後、負極30の負極材料32側と正極20とをポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ40を介して対向させて積層したものを電極体10とした。そしてアルミラミネートフィルムからなる外装体11内にその電極体10を電解液とともに収納するとともに、正負両極(20、30)の端子板(12、13)を外装体11外に突出させた状態で外装体11の周縁を封止してサンプルを完成させた。
【0025】
上記3つのサンプルのいずれについても、電解液には、環状カーボネートからなるエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)、及び鎖状エーテルの1,2−ジメトキシエタン(DME)を、夫々、20wt%と20wt%、及び60wt%の割合となるように配合した非水溶液に、支持塩としてLiCF
3SO
4を0.8Mの濃度となるように溶解させたものを用いた。
【0026】
<高負荷連続放電特性>
上述した3つのサンプルについて試験を行い、高負荷連続放電特性を調べた。試験は25℃の温度環境下で行い、負荷を接続して100mAで終止電圧(1.5V)まで連続放電を行って放電容量を求めた。
【0027】
図2に試験の結果を示す。同図において、縦軸は比較例を100とした時の放電容量比(%)である。同図に示すように、サンプルA及びサンプルBのいずれについても比較例と比べて放電容量が大きく増大している。またサンプルAに比べて、負極材料32において炭素活物質に対するシリコン(Si)の含有率が大きなサンプルBのほうが放電容量を増大させる効果が高いことがわかる。
【0028】
このように、負極材料32にリチウムイオンを吸蔵可能な金属であるシリコン(Si)を添加することで、放電容量が増大することがわかった。また負極材料32において炭素活物質に対するシリコン(Si)の含有率を大きくすることで、放電容量が増大することがわかった。尚、負極材料32にシリコン(Si)を添加することにより放電容量が増大するのは、シリコン(Si)の高い理論容量(4200mAh/g)に因るものと考えられる。
【0029】
ところで、本発明は、その要旨を越えない限り、上記実施例に限定されるものではない。例えば、正極活物質の種類や電解液の組成などは従来のリチウム一次電池と同様のものを採用することが可能である。リチウム一次電池の構造も上記の完全密閉型に限らず、外装体が電極端子を兼ねる周知のコイン型、インサイドアウト型、スパイラル型などであってもよい。構造や構成は用途に応じて適宜なものを採用すればよい。いずれにしても、表裏を貫通する孔の開いた集電体の一方の面にリチウムイオンの吸蔵と離脱が可能な炭素材料とシリコンとを含む負極材料が配置され、他方の面にリチウムイオンの起源となるリチウム金属やリチウム合金が配置された負極構造を備えていればよい。
【符号の説明】
【0030】
1 リチウム一次電池、10 電極体、11 外装体、12 正極端子板、13 負極端子板、20 正極、21 正極集電子、22 正極材料、30 負極、31 負極集電子、32 負極材料、33 リチウム金属、40 セパレータ