(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より大きくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を減少させることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ素線の製造方法。
前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より小さくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を増加させることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の光ファイバ素線の製造方法。
光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線を形成する紡糸部と、前記光ファイバ裸線の外周に樹脂からなる被覆層を設けるコーティング部と、を備えた、光ファイバ素線の製造装置に用いられる制御装置であって、
前記紡糸部から前記コーティング部までのいずれかの位置で前記光ファイバ裸線を保持する1または複数の非接触保持部と、
前記非接触保持部における前記光ファイバ裸線の浮揚位置を検出する位置検出部と、 前記位置検出部で検出された浮揚位置に基づいて、前記非接触保持部への前記流体の導入流量を制御する制御部と、を備え、
前記非接触保持部は、前記光ファイバ裸線を案内するガイド溝と、外部から流体が導入される内部空間とを有し、
前記ガイド溝内には、前記内部空間の前記流体を吹出させることによって、前記ガイド溝内の前記光ファイバ裸線を浮揚させる吹出し口が形成され、
前記制御部は、少なくとも1つの前記非接触保持部における前記光ファイバ裸線の浮揚位置を検出し、検出された浮揚位置と、予備試験によって求め、予め設定した基準浮揚位置とを比較し、それらのずれを小さくする方向に前記非接触保持部への前記流体の導入流量を制御することを特徴とする制御装置。
前記制御部は、前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より大きくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を減少させることを特徴とする請求項5または6に記載の制御装置。
前記制御部は、前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より小さくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を増加させることを特徴とする請求項5〜7のうちいずれか1項に記載の制御装置。
請求項5〜8のうちいずれか1項に記載の制御装置と、前記光ファイバ母材を溶融紡糸して前記光ファイバ裸線を形成する前記紡糸部と、前記光ファイバ裸線の外周に樹脂からなる前記被覆層を設ける前記コーティング部と、を備えたことを特徴とする光ファイバ素線の製造装置。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線の製造においては、一般に、光ファイバ母材から光ファイバを直線的な経路に沿って鉛直下方へ線引きする方法が採用されている。
例えば、
図6に示す製造装置を用いて光ファイバ素線5を製造するには、光ファイバ母材2を紡糸部10の加熱炉11で溶融紡糸して光ファイバ裸線3を鉛直下向きに引き出す。光ファイバ裸線3を冷却部120で冷却した後、コーティング部30で被覆層を設けて光ファイバ素線中間体4を得る。光ファイバ素線中間体4の被覆層を硬化部40で硬化させて光ファイバ素線5を得る。光ファイバ素線5は、プーリー80、引取り部90を経て巻取り手段100により巻き取る。
【0003】
この製造方法においては、生産性に影響する要因として、システム全体の高さによる制限がある。システムの高さが生産性を制限する主な要因となるのは、光ファイバ母材を溶融紡糸して得られた光ファイバ裸線を十分に冷却するための距離を確保する必要があるからである。
建屋を含む新たな設備を新設すればこの制限は緩和できるが、そのために莫大な費用が必要となる上、将来にさらに生産性向上が求められれば、さらに莫大な費用をかけて新たな設備を新設する必要が生じる。
この制限を緩和する方法として、非接触保持機構を有する方向変換用の器具を用いる方法がある。
非接触保持機構は、空気などの流体の圧力によって対象を非接触で保持する機構であって、この機構を有する方向変換器(非接触保持部)では、光ファイバ裸線(ベアファイバ、裸ファイバ)に接触することなく、光ファイバ裸線を方向変換させることができる。
この方向変換器を用いれば、光ファイバ母材から第一の経路に沿って線引きした光ファイバ裸線の方向を、第一の経路とは異なる第二の経路に沿うように変換することができる(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
特許文献1には、光ファイバが導入される溝を有し、この溝内に開口が形成された方向変換用の器具を用いる光ファイバの製造方法が開示されている。この方法では、1つの流入口を通して前記器具に導入したガスを開口から噴出させ、ガスの圧力により光ファイバを浮揚させた状態でこの光ファイバを方向変換させる。
特許文献2に記載の方向転換器は、光ファイバ裸線を案内するガイド溝を有し、ガイド溝の底面および両側面にガスの吹出口が形成されている(実施例、
図3および
図4を参照)。この方向転換器を用いた製造方法では、4つの吹出口から吹出されるガスの圧力により光ファイバを浮揚させた状態でこの光ファイバを方向変換させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光ファイバ裸線の浮揚量は、非接触保持機構の溝内で吹出されるガスの圧力、光ファイバ裸線に加えられる線引張力などのバランスにより決まる。そのため、非接触保持機構におけるガスの流速、線引張力などの条件が一定であれば、光ファイバ裸線の浮揚量も一定となり、安定的な線引きが可能である。
しかし、実際の製造工程では、光ファイバ母材の外径変動、光ファイバ裸線の線引き速度の変動、光ファイバ母材の残り長さの減少などを原因として、線引き時の線引張力の変動が発生し、その結果、光ファイバ裸線の浮揚量が変動することがある。
【0007】
光ファイバ裸線の浮揚量が変動すると、前記器具の溝内での光ファイバ裸線の振動(バラツキ)が大きくなり、光ファイバ裸線が前記器具の溝の内面と接触するおそれがある。光ファイバ裸線が前記器具と接触すると、光ファイバ裸線が傷つき、その強度が低下する可能性がある。
また、非接触保持機構における光ファイバ裸線の浮揚位置が変化すると、非接触保持機構の下流側に設置されたコーティング部への光ファイバ裸線の導入位置が変動することにより、コーティングの偏肉が生じるおそれがある。
【0008】
本発明の一態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、非接触保持部における光ファイバ裸線の浮揚位置を安定化できる光ファイバ素線の製造方法、制御装置および製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線を形成する紡糸工程と、前記光ファイバ裸線の外周に樹脂からなる被覆層を設けるコーティング工程と、を有し、前記紡糸工程から前記コーティング工程までのいずれかの位置で、前記光ファイバ裸線を1または複数の非接触保持部によって保持し、前記非接触保持部は、前記光ファイバ裸線を案内するガイド溝と、外部から流体が導入される内部空間とを有し、前記ガイド溝内には、前記内部空間の前記流体を吹出させることによって、前記ガイド溝内の前記光ファイバ裸線を浮揚させる吹出し口が形成され、少なくとも1つの前記非接触保持部における前記光ファイバ裸線の浮揚位置を検出し、検出された浮揚位置と、予め設定した基準浮揚位置とを比較し、それらのずれを小さくする方向に前記非接触保持部への前記流体の導入流量を制御する光ファイバ素線の製造方法を提供する。
前記基準浮揚位置は、予備試験によって求められた前記光ファイバ裸線の浮揚量の標準偏差に基づいて設定されることが好ましい。
前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より大きくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を減少させることが好ましい。
前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より小さくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を増加させることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様は、光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線を形成する紡糸部と、前記光ファイバ裸線の外周に樹脂からなる被覆層を設けるコーティング部と、を備えた、光ファイバ素線の製造装置に用いられる制御装置であって、前記紡糸部から前記コーティング部までのいずれかの位置で前記光ファイバ裸線を保持する1または複数の非接触保持部と、前記非接触保持部における前記光ファイバ裸線の浮揚位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部で検出された浮揚位置に基づいて、前記非接触保持部への前記流体の導入流量を制御する制御部と、を備え、前記非接触保持部は、前記光ファイバ裸線を案内するガイド溝と、外部から流体が導入される内部空間とを有し、前記ガイド溝内には、前記内部空間の前記流体を吹出させることによって、前記ガイド溝内の前記光ファイバ裸線を浮揚させる吹出し口が形成され、前記制御部は、少なくとも1つの前記非接触保持部における前記光ファイバ裸線の浮揚位置を検出し、検出された浮揚位置と、予め設定した基準浮揚位置とを比較し、それらのずれを小さくする方向に前記非接触保持部への前記流体の導入流量を制御する制御装置を提供する。
前記基準浮揚位置は、予備試験によって求められた前記光ファイバ裸線の浮揚量の標準偏差に基づいて設定されることが好ましい。
前記制御部は、前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より大きくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を減少させることが好ましい。
前記制御部は、前記光ファイバ裸線の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より小さくなるとともに、浮揚量の標準偏差が基準浮揚位置における標準偏差より大きくなったときに、前記非接触保持部への流体の導入流量を増加させることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様は、前記制御装置と、前記光ファイバ母材を溶融紡糸して前記光ファイバ裸線を形成する前記紡糸部と、前記光ファイバ裸線の外周に樹脂からなる前記被覆層を設ける前記コーティング部と、を備えた光ファイバ素線の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出された浮揚位置と、予め設定した基準浮揚位置とを比較し、それらのずれを小さくする方向に非接触保持部への流体の導入流量を制御するので、光ファイバ裸線の浮揚量を適正化し、浮揚量のバラツキを小さくすることができる。
詳しくいえば、光ファイバ裸線の浮揚量の変動には、線引張力の変動によって生じる浮揚量の大きな変動と、光ファイバ裸線の微小振動によって生じる浮揚量の微小な変動とがあるが、本発明では、前述の流体の導入流量の制御によって、前記2つの浮揚量の変動のいずれも小さくすることができる。
そのため、光ファイバ裸線がガイド溝の内側面と接触するのを回避することができる。
よって、非接触保持部によって光ファイバ裸線が傷つくことがなくなり、製造装置の稼働率が高くなるため生産性の向上が可能となり、製造コストの削減を図ることができる。また、良好な歩留まりで光ファイバ素線を製造することができる。
さらに、非接触保持部における光ファイバ裸線の浮揚位置が安定するため、コーティング部への光ファイバ裸線の入線位置が一定となる。よって、コーティングの偏肉を防ぎ、安定した品質の光ファイバ素線を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る光ファイバ素線の製造装置の一実施形態である製造装置1の概略構成を示す模式図である。
製造装置1は、線引き方向の上流側から下流側に、紡糸部10と、方向変換器20(20A,20B)と、コーティング部30と、硬化部40と、位置検出部50(50A,50B)と、制御部60と、流量調整器70(70A,70B)と、プーリー80と、引取り部90と、巻取り手段100とを備えている。
方向変換器20と、位置検出部50と、制御部60と、流量調整器70とは、制御装置101を構成している。
なお、線引き方向の下流方向とは一定の方向ではなく、方向変換器20で光ファイバ裸線3が方向変換された後についてはその方向変換した方向が下流方向である。
【0015】
紡糸部10は、加熱炉11を備えており、加熱炉11によって光ファイバ母材2を加熱して溶融紡糸することによって光ファイバ裸線3を形成する。
2aは、光ファイバ母材2の加熱溶融されている縮径部(ネックダウン)先端部である。
【0016】
方向変換器20(非接触保持部)は、光ファイバ裸線3の方向を変換する。
図1に示す製造装置1では2つの方向変換器20が用いられる。これらの方向変換器20を、線引き方向の上流側から下流側に、それぞれ第1方向変換器20A(第1非接触保持部)および第2方向変換器20B(第2非接触保持部)という。
第1方向変換器20Aは、光ファイバ母材2から鉛直下向き(第一の経路L1)に引き出された光ファイバ裸線3を、90°の方向変換により、水平(第二の経路L2)に向ける。
第一の経路L1と第二の経路L2とを含む面をP1という。X方向は、面P1内において第二の経路L2に沿う方向であり、Y方向は、面P1に垂直な方向である。
第2方向変換器20Bは、光ファイバ裸線3を、90°の方向変換により、鉛直下向き(第三の経路L3)とする。
【0017】
以下、方向変換器20の構造について説明する。
図3に示す方向変換器201は、方向変換器20の第1の例であって、光ファイバ裸線3の向きを90°変換することができる。
方向変換器201は、平面視4分円形とされ、外周面20aに全周長にわたってガイド溝21が形成されている。方向変換器201は、中心軸方向をY方向に一致させるとともに、径方向R(
図2参照)を面P1(
図1参照)に沿う方向に向けた姿勢で設置される。ここでは、平面視円弧形の外周面20aに沿う方向を周方向という。
【0018】
ガイド溝21の底部には、ガイド溝21に沿って配線された光ファイバ裸線3を浮揚させる流体(空気など)の吹出し口22がガイド溝21に沿って形成されている。吹出し口22は、ガイド溝21の全長にわたって形成されている。
吹出し口22の一端22aはガイド溝21の一端21aに達し、他端22bは他端21bに達している。
【0019】
図2に示すように、方向変換器201は、方向変換器201に確保された内部空間(流体溜部25)内の流体(例えば空気)を、吹出し口22を通してガイド溝21内に放出できるように構成されている。
方向変換器201は、流体を外部から流体溜部25に導入し、吹出し口22を通してガイド溝21内に放出させるように構成することができる。
図3に示すように、方向変換器201には、外部から流体溜部25に流体を導入する導入路26が接続される導入部27が形成されていることが好ましい。導入部27は、例えば流体の導入口である。
【0020】
図2に示すように、ガイド溝21は、径方向外方に行くほど内側面21c,21cの間隔(Y方向寸法)が徐々に大きくなるように、径方向Rに対して傾斜して形成されていることが好ましい。2つの内側面21c,21cは、径方向Rに対する傾斜角度θが互いに等しいことが好ましい。
【0021】
図3に示す方向変換器201では、光ファイバ裸線3は4分円形のガイド溝21の一端21aから入り、他端21bから出ることによって90°の方向変換がなされる。光ファイバ裸線3が入線する入線部23はガイド溝21の一端21aを含む部分であり、光ファイバ裸線3が出線する出線部24はガイド溝21の他端21bを含む部分である。
【0022】
図4に示す方向変換器202は、方向変換器201の変形例であって、平面視4分の3円形とされている。以下、既出の構成と同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
方向変換器202は、
図3に示す方向変換器201と同じ構造の本体部29aの入線側および出線側に、それぞれ本体部29aと同じ構造の補助部29b,29cが連設された構造とされている。方向変換器202は、光ファイバ裸線3が入線部23’から本体部29aのガイド溝21に入り、本体部29aで方向が90°変換された後、出線部24’を通って出線するため、基本的な機能は方向変換器201と同じである。
方向変換器201,202は、光ファイバ裸線3の向きを90°変換することができるため、
図1に示す方向変換器20A,20Bとして使用できる。
【0023】
図1に示すように、位置検出部50は、第1位置検出部50Aと第2位置検出部50Bとを有する。
第1位置検出部50Aは、第1方向変換器20Aの線引き方向の下流側に設けられ、第二の経路L2の光ファイバ裸線3の位置を検出する。
第2位置検出部50Bは、第2方向変換器20Bの線引き方向の下流側に設けられ、第三の経路L3の光ファイバ裸線3の位置を検出する。
第1位置検出部50Aおよび第2位置検出部50Bとしては、例えばレーザ方式(光学式)の位置センサを使用できる。レーザ方式の位置センサは、例えば、光源(レーザ光源)から光ファイバ裸線3に向けて照射された光を、前記光源と対向して設置された検知器で受光し、その光に基づいて光ファイバ裸線3の位置を検出することができる。
【0024】
第1方向変換器20Aにおける光ファイバ裸線3の浮揚量が増減すると、第二の経路L2の光ファイバ裸線3のZ方向(X方向およびY方向に垂直な方向)の位置が変化する。そのため、第1位置検出部50Aは、第1方向変換器20Aにおける光ファイバ裸線3の浮揚量(浮揚位置)を検出できる。
第2方向変換器20Bにおける光ファイバ裸線3の浮揚量が増減すると、第三の経路L3の光ファイバ裸線3のX方向の位置が変化する。そのため、第2位置検出部50Bは、第2方向変換器20Bにおける光ファイバ裸線3の浮揚量(浮揚位置)を検出できる。
第1位置検出部50Aおよび第2位置検出部50Bは、光ファイバ裸線3の位置に関する情報(光ファイバ裸線3の位置の検出結果)に基づいて位置信号(検出信号)を制御部60に出力する。
【0025】
流量調整器70は、方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を調整することができる。流量調整器70は、例えば方向変換器20A,20Bへの流体の導入路(例えば
図3に示す導入路26)に設けることができる。流量調整器70としては、マスフローコントローラ(MFC)等が使用できる。
図1に示す製造装置1では2つの流量調整器70が用いられる。2つの流量調整器70のうち、第1方向変換器20Aに導入される流体の流量を調整する流量調整器70を第1流量調整器70Aといい、第2方向変換器20Bに導入される流体の流量を調整する流量調整器70を第2流量調整器70Bという。
【0026】
制御部60は、位置検出部50(50A,50B)からの位置信号に基づいて、流量調整器70A,70Bに制御信号を出力し、この制御信号に基づいて流量調整器70A,70Bが方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を制御することで、方向変換器20A,20Bにおける光ファイバ裸線3の浮揚量を調節することができる。
【0027】
コーティング部30は、光ファイバ裸線3の外周に、ウレタンアクリレート系の樹脂などの被覆材を塗布(コーティング)して被覆層とすることによって光ファイバ素線中間体4を得る。
樹脂コーティングは、例えば2層コーティングであり、内側にヤング率の低い一次被覆層用の材料を塗布し、外側にヤング率の高い二次被覆層用の材料が塗布される。使用される材料は、例えば紫外線硬化樹脂である。
コーティング部30は、一次被覆層と二次被覆層を別々に塗布する構成であってもよいし、一次被覆層と二次被覆層を同時に塗布する構成であってもよい。
【0028】
硬化部40は、1または複数のUVランプ40aを備え、光ファイバ素線中間体4の被覆層を硬化して光ファイバ素線5を形成する。硬化部40は、例えば、光ファイバ素線中間体4が通過する空間を挟んで設けられた複数対のUVランプ40aを有する。
【0029】
プーリー80は、光ファイバ素線5の方向を変換することができる。
引取り部90は、例えば引取りキャプスタンであり、ここで線引き速度が決定される。線引き速度は例えば1500m/min以上である。
巻取り手段100は、例えば、光ファイバ素線5を巻き取る巻取りボビンである。
【0030】
次に、製造装置1を用いた場合を例として、本発明の光ファイバ素線の製造方法の一実施形態を説明する。
(紡糸工程)
図1に示すように、紡糸部10において、光ファイバ母材2を加熱して溶融紡糸して光ファイバ裸線3を形成する。
光ファイバ母材2の外径は例えば100mm以上であり、1つの光ファイバ母材2から作製される光ファイバ素線5の長さは例えば数千kmである。
【0031】
(方向変換器による方向変換)
光ファイバ母材2から鉛直下向き(第一の経路L1)に引き出された光ファイバ裸線3は、第1方向変換器20Aにおける90°の方向変換により、水平(第二の経路L2)に向けられる。
光ファイバ裸線3は、第2方向変換器20Bにおける90°の方向変換により、鉛直下向き(第三の経路L3)となる。
【0032】
図2に示すように、方向変換器20A,20Bでは、流体溜部25内の流体(例えば空気)を、吹出し口22を通してガイド溝21内に放出することによって、光ファイバ裸線3を浮揚させることができる。詳細には、放出された空気により、ガイド溝21の深部21dと浅部21eとの圧力差が大きくなるため、光ファイバ裸線3に、径方向外方の力が作用することによって、光ファイバ裸線3は浮揚する。
【0033】
方向変換器20A,20Bによって、光ファイバ裸線3に接触することなく光ファイバ裸線3を方向変換させることができる。方向変換器20A,20Bは、接触式の方向変換器(例えばプーリ)とは異なり、抵抗(例えばプーリの回転抵抗)がほぼ生じない。
方向変換器20A,20Bにより光ファイバ裸線3の方向を変換することによって、システム全体の高さを増すことなく、光ファイバ裸線を十分に冷却するための距離を確保し、生産性を高めることができる。
【0034】
第1位置検出部50Aは、第二の経路L2における光ファイバ裸線3の位置情報に基づいて、第1位置信号を制御部60に出力する。第1位置信号は、第1方向変換器20Aにおけるガイド溝21内の光ファイバ裸線3のZ方向の位置に応じた信号である。
第2位置検出部50Bは、第三の経路L3における光ファイバ裸線3の位置情報に基づいて、第2位置信号を制御部60に出力する。第2位置信号は、第2方向変換器20Bにおけるガイド溝21内の光ファイバ裸線3のX方向の位置に応じた信号である。
【0035】
制御部60は、第1位置信号に基づいて、第1流量調整器70Aに制御信号を出力し、この制御信号に基づいて、第1流量調整器70Aは第1方向変換器20Aへの流体の導入流量を制御する。これによって、第1方向変換器20Aにおいて吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を調節し、第1方向変換器20Aにおける光ファイバ裸線3の浮揚量を調整する。
制御部60は、第2位置信号に基づいて、第2流量調整器70Bに制御信号を出力し、この制御信号に基づいて、第2流量調整器70Bは第2方向変換器20Bへの流体の導入流量を制御する。これによって、第2方向変換器20Bにおいて吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を調節し、第2方向変換器20Bにおける光ファイバ裸線3の浮揚量を調整する。
【0036】
例えば、線引張力が一定である場合には、方向変換器20A,20Bにおける流体の流速が速いほど光ファイバ裸線3の浮揚量は大きくなり、流体の流速が遅いほど光ファイバ裸線3の浮揚量は小さくなる。流体の流速が一定である場合には、線引張力が高いほど光ファイバ裸線3の浮揚量は小さくなり、線引張力が低いほど光ファイバ裸線3の浮揚量は大きくなる。
浮揚量が大きい場合には、光ファイバ裸線3の浮揚位置は不安定となり、浮揚位置のバラツキが大きくなりやすい。一方、浮揚量が小さい場合においても、光ファイバ裸線3の浮揚位置は不安定となり、浮揚位置のバラツキが大きくなりやすい。
【0037】
制御部60は、例えば、所定の線引き速度および線引張力における浮揚位置(基準浮揚位置)を基準として、光ファイバ裸線3の浮揚位置がずれるとともに、浮揚量のバラツキ(標準偏差σ)が基準浮揚位置におけるバラツキより大きくなったときに、方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を調節する。これによって、吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を調整し、光ファイバ裸線3の浮揚量を適正化する。詳しくは以下の通りである。
【0038】
まず、基準浮揚位置を決定する方法の一例について説明する。
図5は、基準線引条件における光ファイバ裸線の浮揚量の標準偏差σと、一定時間での平均浮揚位置との関係を示す図である。浮揚量の標準偏差σは浮揚量のバラツキを示す指標となるため、標準偏差σが小さいほど浮揚は安定しているということができる。なお、浮揚位置は、方向変換器の径方向の位置(半径位置)を示す。
基準線引条件は、予め設定された線引き速度(基準線引き速度)、予め設定された線引張力(基準張力)等によって規定される。例えば、線引き速度30m/秒、線引張力150gf、光ファイバ裸線3の外径125μm等の条件を基準線引条件することができる。
【0039】
浮揚量の標準偏差σが最も小さくなる浮揚位置を基準浮揚位置とすることができる。例えば、
図5においては、浮揚量の標準偏差σが最も小さくなる位置は「p1」(浮揚位置:−1.79mm)であり、この位置p1を基準浮揚位置とすることができる。
基準浮揚位置は、方向変換器の径方向の一部の範囲における標準偏差σの平均値に基づいて規定してもよい。例えば、
図5において、範囲E1(浮揚位置:−1.94mm〜−1.64mm)は、他の同幅範囲に比べ、標準偏差σの平均値が低い。この範囲E1の中心値(または最小値)である位置p1を「基準浮揚位置」と規定することができる。また、範囲E1を「基準浮揚位置」と規定してもよい。
範囲E1における標準偏差σは、範囲E1に比べて平均浮揚位置が小さい他の同幅範囲、および範囲E1に比べて平均浮揚位置が大きい他の同幅範囲における標準偏差σに比べて小さい。そのため、範囲E1は標準偏差σが極小となる範囲であるといえる。
基準浮揚位置は、同一の方向変換器において製造条件(線引き速度、線引張力、光ファイバ裸線の外径など)が一定であれば、再現性よく一定となる。基準浮揚位置は、予備試験によって求めることができる。
なお、浮揚位置は、位置検出部の設置位置等に依存するため製造条件により変動し得るが、同じ製造条件での相互比較は可能である。
【0040】
次に、光ファイバ裸線3の浮揚位置が基準浮揚位置からずれた場合の制御方法について説明する。
線引条件(線引き速度、線引張力など)が基準線引条件から変化することなどによって、光ファイバ裸線3の浮揚位置が基準浮揚位置からずれることがある。その場合、位置検出部50から出力される位置信号が変化する。位置信号は制御部60に入力され、制御部60は、予め設定された設定時間ごとに標準偏差σを算出する。
設定時間は短いほど制御のフィードバックを速くできるが、算出データ数も少なくなるため、算出誤差も大きくなる。一方、設定時間を長くすると、フィードパックが遅くなり好ましくない。
そのため、設定時間は、基準線引条件を考慮して選択するのが好ましい。例えば、10msecごとに光ファイバ裸線3の浮揚位置のデータを取得し、10秒ごと(すなわち1000データごと)にデータ処理を行い、標準偏差σを求めることができる。
なお、浮揚量のバラツキの指標としては、標準偏差に限らず、分散、変動係数などを用いることもできる。
【0041】
光ファイバ裸線3の浮揚量が基準浮揚位置における浮揚量より大きくなるとともに、浮揚量のバラツキ(標準偏差σ)が基準浮揚位置におけるバラツキより大きくなったときには、制御部60は、流量調整器70A,70Bにより方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を減少させる。これにより、光ファイバ裸線3の浮揚量と基準浮揚位置での浮揚量とのずれは小さくなる。
方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を減少させることによって、吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を低くし、光ファイバ裸線3の浮揚量を抑制するとともに、浮揚量のバラツキを小さくすることができる。
【0042】
一方、光ファイバ裸線3の浮揚位置が基準浮揚位置より小さくなるとともに、浮揚量のバラツキが基準浮揚位置におけるバラツキより大きくなったときには、制御部60は、流量調整器70A,70Bにより方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を増加させる。これにより、光ファイバ裸線3の浮揚量と基準浮揚位置での浮揚量とのずれは小さくなる。
方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を増加させることによって、吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を高め、光ファイバ裸線3の浮揚量が不足するのを防ぐとともに、浮揚量のバラツキを小さくすることができる。
【0043】
制御方法としては、PID制御などのフィードバック制御が好ましい。これにより、流体の流量の制御を応答性よく行うことができる。
【0044】
(コーティング工程)
コーティング部30において、光ファイバ裸線3の外周に、ウレタンアクリレート系の樹脂などの被覆材を塗布(コーティング)して被覆層とすることによって光ファイバ素線中間体4を得る。
【0045】
(硬化工程)
硬化部40において、UVランプ40aの照射などにより、光ファイバ素線中間体4の被覆層を硬化して光ファイバ素線5を得る。
【0046】
光ファイバ素線5は、プーリー80によって向きを変えられ、引取り部90により引き取られ、巻取り手段100により巻き取られる。
【0047】
本実施形態の製造方法では、検出された浮揚位置と、予め設定した基準浮揚位置とを比較し、それらのずれを小さくする方向に方向変換器20への流体の導入流量を制御するので、光ファイバ裸線3の浮揚量を適正化し、浮揚量のバラツキを小さくすることができる。
詳しくいえば、光ファイバ裸線3の浮揚量の変動には、線引張力の変動によって生じる浮揚量の大きな変動と、光ファイバ裸線3の微小振動によって生じる浮揚量の微小な変動とがあるが、本実施形態の製造方法では、前述の流体の導入流量の制御によって、前記2つの浮揚量の変動のいずれも小さくすることができる。
そのため、光ファイバ裸線3がガイド溝21の内側面21cと接触するのを回避することができる。
よって、方向変換器20A,20Bによって光ファイバ裸線3が傷つくことがなくなり、製造装置1の稼働率が高くなるため生産性の向上が可能となり、製造コストの削減を図ることができる。また、良好な歩留まりで光ファイバ素線5を製造することができる。
さらに、方向変換器20A,20Bにおける光ファイバ裸線3の浮揚位置が安定するため、コーティング部30への光ファイバ裸線3の入線位置が一定となる。よって、コーティングの偏肉を防ぎ、安定した品質の光ファイバ素線5を製造することができる。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
図1に示す製造装置1を用意した。方向変換器20A,20Bとしては、
図3に示す方向変換器201を用いた。
図2に示すように、ガイド溝21の内側面21cの、径方向Rに対する傾斜角度θは0.5°とした。ガイド溝21の底における幅は50μmとした。
方向変換器20A,20Bに導入される流体としては空気を使用した。
予備試験において、10msecごとに光ファイバ裸線3の浮揚位置のデータを取得し、10秒ごと(すなわち1000データごと)にデータ処理を行った結果、第1方向変換器20Aにおける基準浮揚位置は浮揚旋回半径62.0mmの位置であり、この位置において標準偏差σは最小値0.01mmとなった。このときの空気の導入流量は120SLMであった。第2方向変換器20Bにおける基準浮揚位置は浮揚旋回半径62.5mmの位置であり、この位置において標準偏差σは最小値0.01mmとなった。このときの空気の導入流量は130SLMであった。
第1方向変換器20Aは、光ファイバ裸線3の温度が約1000℃となる位置に設けた。第2方向変換器20Bは、第1方向変換器20Aから、線引き方向の下流側に1m離れた位置に設けた。
【0049】
紡糸部10において光ファイバ母材2を溶融紡糸して光ファイバ裸線3(外径125μm)を得た。
光ファイバ母材2から鉛直下向き(第一の経路L1)に引き出された光ファイバ裸線3を、第1方向変換器20Aによって水平(第二の経路L2)に方向変換し、次いで、第2方向変換器20Bによって鉛直下向き(第三の経路L3)に方向変換した。
コーティング部30において、光ファイバ裸線3に紫外線硬化樹脂のコーティングを施し、硬化部40においてUVランプ40aにより紫外線を照射して被覆層を硬化させて光ファイバ素線5を得た。
光ファイバ素線5は、プーリー80、引取り部90を経て、巻取り手段100により巻き取った。
【0050】
光ファイバ裸線3の浮揚位置が基準浮揚位置より大きくなるとともに、浮揚量の標準偏差σが基準浮揚位置における標準偏差σより大きくなったときには、制御部60は、流量調整器70A,70Bにより方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を減少させた。これにより、吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を低くし、光ファイバ裸線3の浮揚量を抑制するとともに、浮揚量のバラツキを小さくした。
光ファイバ裸線3の浮揚位置が基準浮揚位置より小さくなるとともに、浮揚量の標準偏差σが基準浮揚位置における標準偏差σより大きくなったときには、制御部60は、流量調整器70A,70Bにより方向変換器20A,20Bへの流体の導入流量を増加させた。これにより、吹出し口22からガイド溝21に放出される流体の流速を高め、光ファイバ裸線3の浮揚量を大きくするとともに、浮揚量のバラツキを小さくした。
制御方法としては、PID制御を採用した。
【0051】
この製造方法によって、10本の光ファイバ母材2を用いて、合計10000kmの光ファイバ素線5を製造した。
光ファイバ素線5の線速(線引き速度)は30m/秒±1m/秒であり、線引張力は150gf±25gfであった。
方向変換器20A,20Bにおける光ファイバ裸線3の浮揚旋回半径に大きな変動はなく、光ファイバ裸線3の浮揚は安定していた。
この製造方法により光ファイバ素線5を製造し、プルーフ試験を行った結果、方向変換器20A,20Bによって光ファイバ裸線3が傷つくことなく、良好な歩留まりで光ファイバ素線5を製造することができたことが確認された。
【0052】
[比較例1]
第1方向変換器20Aへの空気の導入流量を一定値(120SLM)とするとともに、第2方向変換器20Bへの空気の導入流量を一定値(130SLM)として光ファイバ素線5を製造した。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0053】
光ファイバ素線5の線速(線引き速度)は30m/秒±1m/秒であり、線引張力は150gf±25gfであった。線引張力の変動の際には、光ファイバ裸線3の浮揚量の変動が見られた。
プルーフ試験の結果、光ファイバ裸線3がガイド溝の内側面に接触したことが原因と考えられる断線が発生したため、製造歩留まりが良好とはいえなかった。
【0054】
以上、本発明の光ファイバ素線の製造方法及び製造装置について説明してきたが、本発明は前記の例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本発明の光ファイバ素線の製造方法で用いられる方向変換器の数は、1または複数とすることができる。
図1に示す製造装置1では2つの方向変換器20が使用されているが、方向変換器20の数は1でもよいし、3以上の任意の数でもよい。
方向変換器が複数ある場合には、光ファイバ裸線の位置の検出は、複数の方向変換器のうち少なくとも1つで行う。光ファイバ裸線の位置の検出は、複数の方向変換器の全てについて行ってもよいし、複数の方向変換器のうち一部の方向変換器について行ってもよい。
流体の導入流量の制御は、複数の方向変換器のすべてに行うのが好ましいが、複数の方向変換器のうち一部の方向変換器について行ってもよい。流体の導入流量の制御は、少なくとも最も下流側の方向変換器に対して行うのが好ましい。
また、方向変換器は、加熱炉とコーティング部との間のいずれの位置にあってもよい。