(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.実施形態:
A−1.センサの構成:
図1は、本発明の一実施形態としてのセンサ10の構成を示す断面図である。センサ10は、図示しない内燃機関(エンジン)の排気管に固定されて、被測定ガスとしての排気ガス中に含まれる特定ガスの濃度を測定する。特定ガスとしては、例えば、酸素、NOx等が挙げられ、本実施形態のセンサ10は酸素ガス濃度を測定する。
【0014】
図1は、軸線CA方向におけるセンサ10の断面を示している。軸線CAは、センサ10の中心において、センサ10の長手方向に延びる軸線である。以降では、
図1の紙面に対して下側を「先端側」と呼び、
図1の紙面に対して上側を「後端側」とも呼ぶ。
【0015】
センサ10は、主として、センサ素子100と、主体金具200と、プロテクタ300と、セラミックヒータ150と、外筒410と、セパレータ600と、グロメット800と、を備える。センサ素子100は「ガスセンサ素子」として機能する。
【0016】
センサ素子100は、排気ガス中の酸素濃度を検出するための信号を出力する。センサ素子100は、先端側に排気ガスに向けられる検出部140を備えると共に、後端側に接続端子510が挿入されるための筒孔112が形成されている。検出部140は、主として、固体電解質体110と、固体電解質体110の内表面に形成された基準電極120と、固体電解質体110の外表面に形成された検知電極130と、を備えている。これら各構成については後述する。センサ素子100は、検出部140が主体金具200の先端より突出し、かつ、筒孔112が主体金具200の後端より突出した状態で、主体金具200の内部に固定される。また、センサ素子100の略中央には、鍔部170が設けられている。
【0017】
主体金具200は、主としてセンサ素子100を保持すると共に、排気管にセンサ10を取り付けるために使用される。主体金具200は、センサ素子100の周囲を取り囲む筒状の金属部材である。本実施形態の主体金具200は、SUS430で形成されている。
【0018】
主体金具200の外周には、先端側から順に、先端部240と、ネジ部210と、鍔部220と、後端部230と、加締部252とが形成されている。先端部240は、主体金具200の先端側において、主体金具200の外径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の先端部240がプロテクタ300の内部に挿入された状態で、主体金具200とプロテクタ300とが接合される。ネジ部210は、排気管にセンサ10を螺合して取り付けるために形成された雄ねじである。鍔部220は、主体金具200の外径が、径方向の外側に向かって多角形状に突出するように形成された部位である。鍔部220は、排気管にセンサ10を取り付けるための工具に係合させるために使用される。このため、鍔部220は、工具に係合する形状(例えば、六角ボルト状)とされる。後端部230は、主体金具200の後端側において、主体金具200の外径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の後端部230が外筒410の内部に挿入された状態で、主体金具200と外筒410とが接合される。
【0019】
主体金具200の内周には、筒孔250と、段部260とが形成されている。筒孔250は、軸線CAに沿って主体金具200を貫通する貫通孔である。筒孔250は、軸線CAに沿ってセンサ素子100を保持する。段部260は、主体金具200の先端側において、主体金具200の内径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の段部260には、パッキン159を介してセラミックホルダ161が係合される。さらに、セラミックホルダ161には、パッキン160を介してセンサ素子100の鍔部170が係合される。また、主体金具200の筒孔250において、セラミックホルダ161の後端側には、シール部162と、セラミックスリーブ163と、金属リング164とが配置される。シール部162は、滑石粉末を充填することにより形成されたタルク層である。シール部162は、センサ素子100と主体金具200との間隙における軸線CA方向の先端側と後端側との通気を遮断する。セラミックスリーブ163は、センサ素子100の外周を囲む筒状の絶縁部材である。金属リング164は、センサ素子100の外周を囲むステンレス製の平ワッシャである。
【0020】
主体金具200には、さらに、後端側の開口端を径方向内側(筒孔250側)に屈曲させることにより、加締部252が形成される。加締部252により、金属リング164とセラミックスリーブ163とを介してシール部162が押圧され、センサ素子100が主体金具200内に固定される。
【0021】
プロテクタ300は、センサ素子100を保護する。プロテクタ300は、有底円筒状の金属部材である。プロテクタ300は、主体金具200の先端側から突出したセンサ素子100の周囲を取り囲むようにして、先端部240にレーザ溶接により固定される。プロテクタ300は、内側プロテクタ310と、外側プロテクタ320との二重プロテクタからなる。内側プロテクタ310および外側プロテクタ320には、それぞれ、ガス導入孔311、312と、ガス排出孔313とが形成されている。ガス導入孔311、312は、プロテクタ300の内側(センサ素子100)に対して排気ガスを導入するために形成された貫通孔である。ガス排出孔313は、プロテクタ300の内側から外側に向かって、排気ガスを排出するために形成された貫通孔である。
【0022】
セラミックヒータ150は、センサ素子100を所定の活性温度に昇温し、検出部140における酸素イオンの導電性を高め、センサ素子100の動作を安定させる。セラミックヒータ150は、センサ素子100の筒孔112の内部に設けられている。セラミックヒータ150は、発熱部151と、ヒータ接続端子152とを備えている。発熱部151は、タングステンなどの伝導体によって形成された発熱抵抗体であり、電力の供給を受けて発熱する。ヒータ接続端子152は、セラミックヒータ150の後端側に設けられ、ヒータリード線590に接続されている。ヒータ接続端子152は、ヒータリード線590を介して外部から電力の供給を受ける。
【0023】
外筒410は、センサ10を保護する。外筒410は、軸線CAに沿った貫通孔を有する円筒状の金属部材である。外筒410の先端部411には、主体金具200の後端部230が挿入されている。外筒410と主体金具200とはレーザ溶接により接合されている。外筒410の後端部412には、後述するグロメット800が嵌め込まれている。グロメット800は、外筒410の後端部412が加締められることで外筒410に固定されている。
【0024】
セパレータ600は、略円筒状であり、アルミナ等の絶縁部材によって形成されている。セパレータ600は、外筒410の内側に配置されている。セパレータ600には、セパレータ本体部610と、セパレータフランジ部620とが形成されている。セパレータ本体部610には、軸線CAに沿ってセパレータ600を貫通するリード線挿通孔630と、セパレータ600の先端側において開口した保持孔640と、が形成されている。リード線挿通孔630の後端側からは、後述する素子リード線570、580と、ヒータリード線590とが挿入される。保持孔640には、セラミックヒータ150の後端部が挿入される。挿入されたセラミックヒータ150は、その後端面が保持孔640の底面に当接することにより、軸線CA方向における位置決めがされる。セパレータフランジ部620は、セパレータ600の後端側において、セパレータ600の外径が拡径するように形成された部位である。セパレータフランジ部620は、外筒410とセパレータ600との隙間に配置された保持部材700により支持されることで、外筒410の内側においてセパレータ600を固定する。
【0025】
グロメット800は、耐熱性に優れるフッ素ゴム等によって形成されている。グロメット800は、外筒410の後端部412に嵌め込まれている。グロメット800には、中央部において軸線CAに沿ってグロメット800を貫通する貫通孔820と、貫通孔820の周囲において軸線CAに沿ってグロメット800を貫通する4つのリード線挿通孔810と、が形成されている。貫通孔820には、貫通孔820を閉塞するフィルタユニット900(フィルタ及び金属筒)が配置されている。
【0026】
素子リード線570、580およびヒータリード線590は、それぞれ、樹脂製の絶縁被膜により被覆された導線により形成されている。素子リード線570、580およびヒータリード線590の導線の後端部は、それぞれ、コネクタに設けられたコネクタ端子に対して、電気的に接続される。素子リード線570の導線の先端部は、センサ素子100の後端側に内嵌された内側接続端子520の後端部に加締められて接続される。内側接続端子520は、素子リード線570と、センサ素子100の基準電極120との間を、電気的に接続する導体である。素子リード線580の導線の先端部は、センサ素子100の後端側に外嵌された外側接続端子530の後端部に加締められて接続される。外側接続端子530は、素子リード線580と、センサ素子100の検知電極130との間を、電気的に接続する導体である。ヒータリード線590の導線の先端部は、セラミックヒータ150のヒータ接続端子152に対して、電気的に接続される。また、素子リード線570、580およびヒータリード線590は、セパレータ600のリード線挿通孔630と、グロメット800のリード線挿通孔810とに挿通されて、外筒410の内部から外部に向かって引き出されている。
【0027】
以上説明した本実施形態のセンサ10は、グロメット800の貫通孔820から、フィルタユニット900を通過させて外筒410内に外気を導入することより、センサ素子100の筒孔112内に外気を導入する。センサ素子100の筒孔112内に導入された外気は、センサ10(センサ素子100)が排気ガス内の酸素を検知するための基準となる基準ガスとして利用される。また、本実施形態のセンサ10は、プロテクタ300のガス導入孔311、312から、プロテクタ300内に排気ガス(被測定ガス)を導入することにより、センサ素子100が排気ガスに曝されるように構成されている。これにより、センサ素子100には、基準ガスと、被測定ガスとしての排気ガスとの間の酸素濃度差に応じた起電力が発生する。センサ素子100の起電力は、素子リード線570、580を介してセンサ10の外部へ、センサ出力として出力される。
【0028】
A−2.センサ素子の構成:
図2は、センサ素子100の構成を示す断面図である。
図2は、軸線CA方向におけるセンサ素子100の先端側における断面を示している。本実施形態のセンサ素子100は、固体電解質体110と、基準電極120と、検知電極130と、多孔質保護層180と、下地層190とを備えている。
【0029】
固体電解質体110は、基準電極120および検知電極130と共に、排気ガス中の酸素濃度を検出する検出部140として機能する。固体電解質体110は、軸線CA方向に延び、先端側が閉じた有底筒状に形成されている。固体電解質体110は、酸化物イオン伝導性(酸素イオン伝導性)を有する材料からなり、本実施形態では、安定化剤が添加されたジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO
2)からなる。本実施形態では、安定化剤として酸化イットリウム(Y
2O
3)を使用する。酸化イットリウムが添加されたジルコニアは、イットリア部分安定化ジルコニアとも呼ばれる。なお、固体電解質体110に使用される安定化剤としては、酸化イットリウムの他に、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)等が採用されてもよい。
【0030】
基準電極120は、固体電解質体110の内表面に形成されており、基準ガスに曝される。基準電極120は貴金属を材料とし、本実施形態では、白金(Pt)からなる。基準電極120は、無電解メッキによって形成されている。なお、基準電極120に使用される貴金属としては、白金の他に、白金合金、ロジウム等の他の貴金属、他の貴金属合金等が採用されてもよい。
【0031】
検知電極130は、固体電解質体110の外表面に形成されており、被測定ガスとしての排気ガスに曝される。詳細は後述する。
【0032】
多孔質保護層180は、センサ素子100を保護する。多孔質保護層180は、例えば、アルミナ、チタニア、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトからなる群より選ばれる1種以上のセラミックスを主成分とし、さらにガラスを含む材料により形成される。多孔質保護層180は、下地層190を介して検知電極130を覆うように配置されている。多孔質保護層180は、検知電極130を覆うように配置された内側層181と、内側層181を覆うように配置された外側層182と、を含む。外側層182は、内側層181よりも気孔率が小さくなっている。なお、多孔質保護層180は省略してもよい。
【0033】
下地層190は、多孔質保護層180の密着性を向上させると共に、検知電極130を保護する。下地層190は、例えば、スピネルなどのセラミックの溶射層からなり、多孔質保護層になっている。下地層190は、固体電解質体110の外表面の先端側から固体電解質体110の外径が突出した鍔部170付近にかけて、検知電極130を覆うように形成されている。なお、下地層190は省略してもよい。
【0034】
A−3.検知電極の構成:
本実施形態の検知電極130は、貴金属と、安定化剤が添加されていないジルコニアと、安定化剤が添加されたジルコニアと、を材料とする。本実施形態では、貴金属として白金(Pt)を使用し、安定化剤として酸化イットリウム(Y
2O
3)を使用する。なお、検知電極130に使用される貴金属としては、白金の他に、白金合金、ロジウム等の他の貴金属、他の貴金属合金等が採用されてもよい。また、検知電極130に使用される安定化剤としては、酸化イットリウムの他に、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)等が採用されてもよい。
【0035】
ここで、「安定化剤が添加されていないジルコニア」とは、混ぜ物のない純粋なジルコニアを意味する。純粋なジルコニアの場合、室温における結晶構造は単斜晶である。そして、純粋なジルコニアの結晶構造は、温度が上がるにつれて単斜晶から正方晶へ、正方晶から立方晶へと変化する。この結晶構造の変化を「相転移」といい、ジルコニアの相転移は体積変化を伴うことが知られている。最も体積変化が顕著なのは、単斜晶から正方晶への相転移の際(約4%)である。このように安定化剤が添加されていないジルコニアは、室温における結晶構造は単斜晶であることから「単斜晶ジルコニア」または「安定化剤なしジルコニア」とも呼ぶ。また、「安定化剤が添加されたジルコニア」とは、純粋なジルコニアに対して安定剤を添加することによって、温度上昇に伴う相転移を抑制したジルコニアを意味する。安定化剤が添加されたジルコニアは、液体になるまで相転移を起こさなくなる(これを「安定化」ともいう)ため、相転移による体積変化が生じない。以降、安定化剤が添加されたジルコニアを「安定化剤添加ジルコニア」とも呼ぶ。
【0036】
図3は、検知電極130のSEM画像である。
図4は、検知電極130のEPMA画像である。
図3は、
図2のA−A断面における検知電極130の一部分をSEM(Scanning Electron Microscope)により観察して得られた画像である。
図4は、
図3と同じ断面における同じ部分をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により観察して得られた画像である。
図4(A)は安定化剤(Y
2O
3:Yと図示)の分布を、
図4(B)はジルコニア(ZrO
2:Zrと図示)の分布を、
図4(C)は白金(Ptと図示)の分布を示している。また、
図4(D)は、安定化剤添加ジルコニア(YZrと図示)と、ジルコニア(Zrと図示)と、白金(Ptと図示)と、の分布を示している。
図3および
図4では、共に、紙面下側に固体電解質体110が配置される。
【0037】
図3および
図4(D)に示すように、固体電解質体110と検知電極130とを含む断面に含まれる任意の領域において、固体電解質体110の近傍に存在するn個の白金粒子P1〜P10に着目する。nの数は任意の整数とすることができ、本実施形態ではn=10とする。ここで「固体電解質体110の近傍」とは、着目している領域(断面内の任意の領域)に存在する全ての白金粒子間において、他の白金粒子と比較して、より固体電解質体110に近い位置に存在する(すなわち、
図3および
図4の紙面下側に位置する)ことを意味する。また、本実施形態において「粒子」とは、同じ物質により形成された1つの塊を意味し、粒径や形状の制限はない。
【0038】
着目した白金粒子P1〜P10を、以下のa〜cの3種類の粒子に分類する。
(a)単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)に接していると共に、安定化剤添加ジルコニアに接していない白金粒子。以降「粒子a」とも呼ぶ。
(b)単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)と、安定化剤添加ジルコニアとの両方に接している白金粒子。以降「粒子b」とも呼ぶ。
(c)安定化剤添加ジルコニアに接していると共に、単斜晶ジルコニア(安定化剤なし)ジルコニアに接していない白金粒子。以降「粒子c」とも呼ぶ。
このとき、本実施形態の検知電極130には、粒子aと、粒子bと、粒子cと、がそれぞれ存在する。例えば、
図3および
図4(D)に示した検知電極130の例では、白金粒子P9が粒子aに相当し、白金粒子P3、P4、P5、P8、P10が粒子bに相当し、白金粒子P1、P2、P6、P7が粒子cに相当する。なお、本実施形態の「単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)」とは、
図4(B)においてジルコニアの分布が存在しているのに対し、
図4(A)において安定化剤の分布が存在していない粒子を指す。
【0039】
以上のように、本実施形態のセンサ素子100によれば、固体電解質体110の近傍に存在する白金(貴金属)の粒子のうち、粒子a(単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)に接していると共に、安定化剤添加ジルコニアに接していない白金粒子)および粒子b(単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)と、安定化剤添加ジルコニアとの両方に接している白金粒子)では、白金粒子が、単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)に接している。このため、本実施形態のセンサ素子100では、単斜晶ジルコニアの周知の作用によって、センサ素子100の低温域における応答性を向上させることができる。また、本実施形態のセンサ素子100によれば、固体電解質体110の近傍に存在する白金(貴金属)の粒子のうち、粒子b(単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)と、安定化剤添加ジルコニアとの両方に接している白金粒子)および粒子c(安定化剤添加ジルコニアに接していると共に、単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)に接していない白金粒子)では、白金粒子が、安定化剤添加ジルコニアに接している。安定化剤添加ジルコニアは、上述の通り、温度変化による相転移と、相転移に伴う体積変化とが起こりづらい。このため、本実施形態のセンサ素子100では、高温域と常温とに繰り返し曝される際の体積変化に伴って生じる、白金(貴金属)と固体電解質体110との密着性の低下を抑制し、結果として、内部抵抗の増大に伴うセンサ素子100の耐久性の悪化を抑制することができる。この結果、上記実施形態のセンサ素子100によれば、低温域における応答性を向上させつつ、高温域と常温とに繰り返し曝された際の耐久性の悪化を抑制することができる。
【0040】
さらに、本実施形態の検知電極130では、固体電解質体110と検知電極130とを含む断面に含まれるm個(mは1以上の整数)の領域において、粒子aの個数の平均値Aと、粒子bの個数の平均値Bと、粒子cの個数の平均値Cとが、以下の式1の関係を満たすことが好ましい。
0.3≦(A+B)/(A+B+C)≦0.8 ・・・(1)
なお、m個の領域は、各領域の大きさが略同一であり、かつ、それぞれ異なる領域とする。式1の計算において、領域の数が1つ(m=1)である場合は、当該1つの領域における各粒子の個数を「平均値」として使用する。例えば、
図3および
図4(D)に示した検知電極130の例では、領域の数が1つ(m=1)であり、粒子aの個数Aが1、粒子bの個数Bが5、粒子cの個数Cが4である。このため、(1+5)/(1+5+4)=0.6となり、式1の関係を満たすことが分かる。粒子a〜cの個数が式1の関係を満たすことが好ましい理由については後述する。
【0041】
A−4.検知電極の製造方法:
図5は、検知電極130の製造方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態の検知電極130は、
図5に示す手順に従って作製されている。
図6は、検知電極130の製造について説明する図である。
図6では、
図2のA−A断面における固体電解質体110と検知電極130との界面の様子を概略的に示している。
【0042】
図5の工程P10において、基準電極120が形成された状態の固体電解質体110を準備する。
【0043】
工程P20において、安定化剤添加ジルコニアと、白金とのスラリー(以降「第1のスラリー」とも呼ぶ)を作製する。具体的には、溶剤(例えば、ブチルカルビドールアセテート)にバインダ(例えば、エチルセルロース)を溶解させる。その後、バインダを溶解させた溶剤に対して、秤量した白金粉末と、秤量した安定化剤添加ジルコニア粉末とを投入し、ボールミルを用いて分散混合する。本実施形態における各材料の割合は、白金重量に対してそれぞれ、安定化剤添加ジルコニア粉末が15重量%、バインダが8重量%、溶剤が2000重量%とする。
【0044】
工程P22において、固体電解質体110を、工程P20で作製された第1のスラリーにディップする。工程P24において、熱風乾燥により第1のスラリーを乾燥させる。以上の工程P20〜P24により、
図6に示すように、固体電解質体110の表面には、固体電解質体110の表面に点在するように配置された第1部が形成される。
【0045】
図5の工程P30において、単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)と、白金とのスラリー(以降「第2のスラリー」とも呼ぶ)を作製する。具体的な手順は、バインダを溶解させた溶剤に対して、秤量した白金粉末と、秤量した単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)粉末とを投入する点を除いては、工程P20と同様である。本実施形態における各材料の割合は、白金重量に対してそれぞれ、単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)粉末が15重量%、バインダが8重量%、溶剤が1000重量%とする。
【0046】
工程P32において、第1部が形成された固体電解質体110を、工程P30で作製された第2のスラリーにディップする。工程P34において、熱風乾燥により第2のスラリーを乾燥させる。工程P36において、固体電解質体110を焼成する。焼成は、例えば加熱炉を用いて実施することができ、加熱炉の炉内雰囲気温度は例えば1300℃〜1550℃とすることができる。以上の工程P30〜P36により、
図6に示すように、固体電解質体110および第1部の表面の全体を覆うように配置された第2部が形成される。なお、図示した第1部と第2部との形状の相違は、第1部を形成するための第1のスラリーの濃度(粘度)が、第2部を形成するための第2のスラリーの濃度(粘度)よりも低いことに起因する。
【0047】
以上のようにして、
図3および
図4で説明した構成を有する検知電極130を形成することができる。なお、第1のスラリーにおける白金粉末と安定化剤添加ジルコニア粉末との割合、および、第2のスラリーにおける白金粉末と単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)粉末との割合を適宜変更することによって、固体電解質体110と検知電極130とを含む断面に含まれるm個の領域における粒子a〜cの個数の平均値A〜Cを、任意の値に調整することができる。
【0048】
A−5.試験結果:
図7は、センサ素子100の応答性と耐久性に関する評価試験結果を示すグラフである。
評価試験では、まず、
図5で説明した方法に沿って、固体電解質体110と検知電極130とを含む断面に含まれるm個(mは1以上の整数)の領域において、粒子aの個数の平均値Aと、粒子bの個数の平均値Bと、粒子cの個数の平均値Cとの関係が、
・(A+B)/(A+B+C)=0となるサンプル#1と、
・(A+B)/(A+B+C)=0.5となるサンプル#2と、
・(A+B)/(A+B+C)=1となるサンプル#3と、
の3つのセンサ素子100のサンプル#1〜#3を準備した。
【0049】
A−5−1.応答性評価:
サンプル#1〜#3のセンサ素子100に対して、公知のバーナー測定装置によるバーナー測定法を用いて、応答性評価を行った。具体的には、メインプロパンガスおよびメイン空気でもって、理論空燃比(すなわち空燃比λ=1)の雰囲気を生成し、バーナー測定装置内に供給する。また、評価対象のセンサ素子100を、約280℃でバーナー測定装置内の燃料ガス雰囲気に曝す。この条件下において、空燃比を、λ=0.9(リッチ)からλ=1.1(リーン)に切り替えた際に、評価対象のセンサ素子100の出力が600mVから300mVに変化するのに要したリーン応答時間(ms)を、各サンプル#1〜#3のセンサ素子100について測定した。この応答性評価の結果得られた値を、
図7において菱形印で表す。さらに
図7では、各菱形印の間を曲線(実線)で補完している。
【0050】
図7に示す応答性評価の試験結果から分かるように、(A+B)/(A+B+C)の値を0.3以上とした場合、センサ素子100のリーン応答時間を300ms以下に抑えることができることが分かる。これはすなわち、当該センサ素子100を組み込んだセンサ10におけるリーンガスに対する応答性を、所定の基準以上とすることができることを意味する。リーンガスに対する応答性の向上は、内燃機関のエミッションを向上させ、低燃費の実現に資するため有意である。
【0051】
A−5−2.耐久性評価:
サンプル#1〜#3のセンサ素子100をそれぞれ組み込んだセンサ10(
図1)のサンプル#11〜#13を準備した。サンプル#11〜#13のセンサ10に対して、センサ素子100の内部抵抗の耐久変動を観察することにより、耐久性評価を行った。具体的には、まず、空燃比をλ=0.9(リッチ)とした燃料ガス雰囲気下に評価対象のセンサ10のセンサ素子100を曝し、入力インピーダンスを1MΩから100kΩに切り替えた際の、センサ素子100の出力変動幅(第1の出力変動幅)を求めた。次に、評価対象のセンサ10の検出部140の昇温・冷却を10000サイクル繰り返した。昇温は、所定の電圧をセラミックヒータ150に印加することで、評価対象のセンサ10の検出部140を約1000℃まで昇温させた。冷却は、所定時間空気を当てることで、評価対象のセンサ10の検出部140を常温まで冷却した。その後、昇温・冷却を10000サイクル繰り返した後において、第1の出力変動幅を求めた際と同じ条件を用いて、センサ素子100の出力変動幅(第2の出力変動幅)を求めた。
【0052】
サンプル#11〜#13の各センサ10について、上記のようにして求めた第1の出力変動幅と、第2の出力変動幅と、を以下の式2に当てはめることで、それぞれ、内部抵抗の耐久変動(%)を求めた。
[(第2の出力変動幅/第1の出力変動幅)−1]×100 ・・・(2)
この耐久性評価の結果得られた値を、
図7において四角印で表す。さらに
図7では、各四角印の間を曲線(破線)で補完している。
【0053】
図7に示す耐久性評価の試験結果から分かるように、(A+B)/(A+B+C)の値を0.8以下とした場合、昇温・冷却のサイクル(冷熱サイクル)を経た後における、センサ素子100の内部抵抗の増大を20%(所定の基準)以下に抑えることができることが分かる。これはすなわち、当該センサ素子100を組み込んだセンサ10が、冷熱サイクルを経た後においても、耐久性が悪化しづらいことを示している。
【0054】
以上のように、
図7に示す応答性評価、耐久性評価の試験結果からすれば、(A+B)/(A+B+C)の値が0.3以上、かつ、0.8以下である場合、すなわち、上述した式1を満たす場合、センサ素子100の低温域における応答性を所定の基準以上に向上させつつ、高温域と常温とに繰り返し曝された際の内部抵抗の増大を所定の基準以下とすることで、耐久性の悪化を抑制することができることがわかる。
【0055】
B.他の実施形態:
上述した検知電極130は、以下に説明する他の形態を採用することもできる。なお、以下では、上記実施形態と異なる構成、異なる製造方法を有する部分についてのみ説明する。図中において上記実施形態と同様の部分については、上記実施形態と同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。すなわち、以下に説明しない構成は、上記実施形態と同じである。
【0056】
B−1.検知電極130a:
図8は、検知電極130aの製造について説明する図である。検知電極130aは、
図2で説明した検知電極130と同様の構成を有し、
図1で説明したセンサ10に備えられる。検知電極130aの製造(
図5参照)に際しては、まず、工程P20において第2のスラリー(白金粉末と単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)粉末が添加されたスラリー)を作製する。このとき、第2のスラリーの作製に使用する溶剤は、白金重量に対して2000重量%とする。その後、工程P22において固体電解質体110を第2のスラリーにディップし、工程P24において乾燥させる。次に、工程P30において第1のスラリー(白金粉末と安定化剤添加ジルコニア粉末が添加されたスラリー)を作製する。このとき、第1のスラリーの作製に使用する溶剤は、白金重量に対して1000重量%とする。その後、工程P32において第2部が形成された固体電解質体110を第1のスラリーにディップし、工程P34において乾燥させ、工程P36において焼成する。
【0057】
このようにしても、
図3および
図4で説明した構成を有する検知電極130aを形成することができ、上記実施形態と同様の効果を有するセンサ素子を得ることができる。なお、検知電極130aにおいても、固体電解質体110と検知電極130aとを含む断面に含まれるm個の領域において、粒子a〜cの個数の平均値A〜Cが上述した式1の関係を満たすことが好ましい。
【0058】
B−2.検知電極130b、c:
図9は、検知電極130bの製造について説明する図である。検知電極130bは、センサ素子が板状形状である。具体的には、板状形状の固体電解質体110の両面に、板状形状の基準電極と、板状形状の検知電極130bと、が配置された構成を有する。検知電極130bは、次の工程a1〜a5により製造することができる。
【0059】
(a1)一方の面に基準電極が形成された固体電解質体110を準備する。
(a2)安定化剤添加ジルコニアと、白金とを用いた第1のペーストを作製する。具体的には、溶剤(例えば、ブチルカルビドールアセテート)にバインダ(例えば、エチルセルロース)を溶解させる。その後、バインダを溶解させた溶剤に対して、秤量した白金粉末と、秤量した安定化剤添加ジルコニア粉末とを投入し、3本ロールを用いて混練する。本実施形態における各材料の割合は、白金重量に対してそれぞれ、安定化剤添加ジルコニア粉末が15重量%、バインダが8重量%、溶剤が30重量%とする。
(a3)固体電解質体110の他方の面の半分を覆うように、第1のペーストを用いたスクリーン印刷を行なう。その後、熱風乾燥により第1のペーストを乾燥させる。以上の工程a2、a3により、
図9に示すように、固体電解質体110の表面(左半分)を覆う第1部が形成される。
(a4)単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)と、白金とを用いた第2のペーストを作製する。具体的には、安定化剤添加ジルコニア粉末に代えて単斜晶ジルコニア(安定化剤なしジルコニア)粉末を使用する点を除いては、工程a2と同様である。
(a5)固体電解質体110の他方の面の残り半分を覆うように、第2のペーストを用いたスクリーン印刷を行なう。その後、熱風乾燥により第2のペーストを乾燥させ、第1および第2のペーストが塗布された固体電解質体110を焼成する。以上の工程a4、a5により、
図9に示すように、固体電解質体110の表面(左半分)を覆う第2部が形成される。
【0060】
このようにしても、
図3および
図4で説明した構成を有する検知電極130bを形成することができ、上記実施形態と同様の効果を有するセンサ素子を得ることができる。なお、検知電極130bにおいても、固体電解質体110と検知電極130bとを含む断面に含まれるm個の領域において、粒子a〜cの個数の平均値A〜Cが上述した式1の関係を満たすことが好ましい。なお、板状形状のセンサ素子の場合、固体電解質体110と検知電極130bとを含む断面(
図2のA−A断面に相当する断面)としては、例えば、固体電解質体110の対角線上を切断した断面や、固体電解質体110の短手方向の一辺と平行な方向に固体電解質体110を切断した断面を用いることができる。
【0061】
図10は、検知電極130cの製造について説明する図である。上述した工程a1〜a5において、スクリーン印刷のパターンは、任意に変更することができる。例えば、図
10には、固体電解質体110の他方の面において、第1のペーストを用いた第1部と、第2のペーストを用いた第2部と、が交互に形成されるようなパターンで印刷をした例を示している。印刷パターンをこのように交互にすれば、
図9に示した例と比較して、粒子a〜cをより分散させることができる。
【0062】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
・変形例1:
上記実施形態では、センサおよびセンサ素子の構成の一例を示した。しかし、センサおよびセンサ素子の構成には種々の変更が可能であり、例えば、構成要素の追加、削除、変換等を実施できる。
例えば、検知電極は、固体電解質体と検知電極とを含む断面において上述した粒子a、b、cが含まれていればよく、必ずしも上述した式1の関係を満たさなくてもよい。
例えば、基準電極に使用される貴金属と検知電極に使用される貴金属とは、異なる種類であってもよい。同様に、固体電解質体に使用される安定化剤と検知電極に使用される安定化剤とは、異なる種類であってもよい。また、固体電解質体および検知電極に使用される安定化剤は、複数の剤の組み合わせでもよい。
例えば、セラミックヒータ、下地層、多孔質保護層等は省略してもよい。
【0064】
・変形例2:
上記実施形態では、検知電極の製造方法の一例を示した。しかし、検知電極の製造方法は種々の変更が可能であり、例えば、工程の追加、削除、工程において実施される内容の変更等が可能である。
例えば、第1、2のスラリーおよび第1、2のインクにおける各材料の割合は、センサ素子に求められる性能やコスト、インクに使用される材料の種類等に応じて、適宜変更することができる。また、第1、2のスラリーおよび第1、2のインクには、上述しない他の材料が含まれてもよい。
【0065】
・変形例3:
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。