特許第6471097号(P6471097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6471097-電気化学素子用複合膜 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471097
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】電気化学素子用複合膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/106 20160101AFI20190204BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20190204BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20190204BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20190204BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20190204BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190204BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20190204BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20190204BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20190204BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20190204BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20190204BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20190204BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20190204BHJP
   D01F 6/48 20060101ALI20190204BHJP
   D01F 6/12 20060101ALI20190204BHJP
   D06M 15/256 20060101ALI20190204BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190204BHJP
【FI】
   H01M8/106
   H01M8/1062
   B01D71/32
   H01M2/16 P
   H01B1/06 A
   H01B13/00 Z
   C08L27/12
   C08K7/02
   C08K9/04
   B01D71/36
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01J39/05
   B01J39/20
   B01J47/12
   D01D5/04
   D01F6/48 B
   D01F6/12 A
   D06M15/256
   !H01M8/10 101
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-551455(P2015-551455)
(86)(22)【出願日】2014年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2014080628
(87)【国際公開番号】WO2015083546
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-250260(P2013-250260)
(32)【優先日】2013年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 善宏
(72)【発明者】
【氏名】本居 学
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−245639(JP,A)
【文献】 特開2013−062240(JP,A)
【文献】 特開2009−070675(JP,A)
【文献】 特表2012−515850(JP,A)
【文献】 特開2002−317058(JP,A)
【文献】 バルカー技術誌,2012年,No.23,p.13-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0241
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/32
B01D 71/36
B01J 39/05
B01J 39/20
B01J 47/12
C08K 7/02
C08K 9/04
C08L 27/12
D01D 5/04
D01F 6/12
D01F 6/48
D06M 15/256
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 2/16
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が300〜5000nmのポリテトラフルオロエチレン繊維からなるフッ素樹脂不織布と、
イオン交換材料と、
を有する電気化学素子用複合膜であって、
前記電気化学素子用複合膜は、90℃の水中に3時間浸漬後の膨張率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ6%以下であり、また110℃で3時間乾燥後の収縮率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ2%以下であることを特徴とする電気化学素子用複合膜。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレン繊維が、ポリテトラフルオロエチレンを含む溶液から電界紡糸法により生成されることを特徴とする請求項に記載の電気化学素子用複合膜。
【請求項3】
前記イオン交換材料が含フッ素イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1、又は2に記載の電気化学素子用複合膜。
【請求項4】
前記電気化学素子用複合膜が、燃料電池用電解質膜として用いられることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の電気化学素子用複合膜。
【請求項5】
前記電気化学素子用複合膜が、二次電池用セパレータとして用いられることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の電気化学素子用複合膜。
【請求項6】
繊維化するポリマー及びポリテトラフルオロエチレンを溶媒に分散・溶解させて、紡糸液を作成する紡糸液作成工程と、
前記紡糸液を用いて電界紡糸法によりフッ素樹脂繊維を生成し、集積することによりフッ素樹脂不織布前駆体を形成する電界紡糸工程と、
前記フッ素樹脂不織布前駆体を加熱焼成することにより前記繊維化するポリマー及び溶媒を除去し、ポリテトラフルオロエチレンのみからなるフッ素不織布を形成する焼成工程と、
前記フッ素樹脂不織布とイオン交換材料とを複合化する複合化工程と、
を有し、
上記各工程により製造された電気化学素子用複合膜は、90℃の水中に3時間浸漬後の膨張率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ6%以下であり、また前記電気化学素子用複合膜は、110℃で3時間乾燥後の収縮率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ2%以下であることを特徴とする電気化学素子用複合膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜及び請求項の何れかに記載の電気化学素子用複合膜を有することを特徴とする二次電池。
【請求項8】
請求項1〜の何れかに記載の電気化学素子用複合膜を有することを特徴とする燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜の安定性に優れ、且つ高いイオン交換容量を有する電気化学素子用複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。そのなかでも、固体高分子型燃料電池は、小型・軽量化が可能であり、家庭用、携帯用、自動車用と幅広い分野で利用できると期待されている。固体高分子型燃料電池は単セルとセパレータとを積み重ねて構成されており、さらにセルは燃料極と空気極との電極が高分子電解質膜を挟持する構成である。
【0003】
固体高分子型燃料電池に使用される高分子固体電解質膜は、膜自体の膜抵抗を低くする必要があり、そのために膜厚はできるだけ薄い方が望まれているが、膜厚をあまりに薄くすると、製膜時にピンホールが生じたり、電極成形時に膜が破れたり、また電極間の短絡が発生しやすくなる等の問題点がみられた。
【0004】
また、高分子固体電解質膜は、湿潤状態で使用されることが多く、当該電解質膜が膨潤する、一方乾燥状態に置かれた場合、高分子固体電解質膜は乾燥収縮する。このように当該電解質膜が、膨潤又は収縮が繰り返されることにより、変形が生じやすくなる。そのような変形等による差圧運転時の耐圧性やクロスリーク等の信頼性に問題が生じていた。
【0005】
また、長寿命、高出力で繰り返し使用することができる二次電池の開発が従来から続けられている。二次電池においては、各種の正極液と負極液とを隔離しつつ、正極と負極との間でイオン伝導部材として、セパレータ(隔膜)が用いられている。当該セパレータにおいても、二次電池の小型化、長寿命化、及び高性能化が課題とされていることから、薄い膜厚、十分な強度、及び低い膜抵抗を全て兼ね備えた膜部材が必要とされていた。
【0006】
上述した問題を解消するために様々な高分子固体電解質膜やセパレータが研究されている。例えば、特許文献1に開示された高分子固体電解質膜は、その補強膜として、延伸膜(延伸ポリテトラフルオロエチレン)を用いることにより、高分子固体電解質膜の安定性を図っている。また、特許文献2に開示された電池用セパレータは、小繊維と結束とを有するポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム(延伸ポリテトラフルオロエチレン)の繊維表面に低分子量ポリエチレンを固定せしめることで、イオン伝導性に優れ、電気抵抗の低いセパレータの提供を図っている。さらに、特許文献3に開示された高分子電解質膜は、径が20〜400デニールの高分子繊維で内層を形成し、内層の外周部にイオン交換基を有する高分子からなる外層を形成することにより、高い機械強度、高い寸法安定性、及び低い電気抵抗を兼ね備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−155233号公報
【特許文献2】特開平1−149360号広報
【特許文献3】特開2003−132910号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に開示された補強膜に延伸膜を適用した高分子固体電解質膜及びセパレータは、延伸膜特有の流れ方向(以下、TD方向という)と、流れに直角方向(以下、MD方向という)との異方性を起因とする膜内部での収縮や、延伸工程時における熱履歴に起因する熱収縮が発生することにより、膜内部における膜破壊が起こりやすくなる。また、延伸膜は、ノード(結束部)とフィブリル(繊維状部)から構成されてなるため、多孔質構造の均一性が低く、イオン交換容量を高めることが困難である。また、特許文献3に開示された高分子電解質膜は、径が20〜400デニールの太い高分子繊維を用いていることから、膜内でのプロトン伝導率が阻害されることにより膜抵抗が高くなることや、複合膜としての電解質膜の膜厚が厚くなる、という課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて、電気化学素子用複合膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の電気化学素子用複合膜は、平均繊維径が300〜5000nmのポリテトラフルオロエチレン繊維からなるフッ素樹脂不織布と、イオン交換材料と、を有する電気化学素子用複合膜であって、前記電気化学素子用複合膜は、90℃の水中に3時間浸漬後の膨張率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ6%以下であり、また110℃で3時間乾燥後の収縮率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ2%以下であることを特徴とする。
この構成により、電気化学素子用複合膜は、膜の安定性に優れ、且つ高いイオン交換容量を有する。
【0011】
また、本発明の電気化学素子用複合膜は、前記フッ素樹脂繊維が、ポリテトラフルオロエチレン繊維であることを特徴とする。
この構成により、高い耐熱性や、各種電解液等への高い化学的耐久性を有する。
【0012】
また、本発明の電気化学素子用複合膜は、前記ポリテトラフルオロエチレン繊維が、ポリテトラフルオロエチレンを含む溶液から電界紡糸法により生成されることを特徴とする。
この構成により、以下の特徴を有する。より高い耐熱性及び安定性を有する。また、より高い空隙率を有し、繊維径及び細孔径の均一性が高いため、多くのイオン交換材料を充填することができ、高いイオン交換容量を有する。さらに、膜厚を薄くしても、十分な強度を有すると共に、膜抵抗を低くすることができる。また、MD方向とTD方向による異方性が生じない。
【0013】
また、本発明の電気化学素子用複合膜は、前記イオン交換材料が含フッ素イオン交換樹脂であることを特徴とする。
この構成により、耐久性の高い複合膜とすることができ、またプロトン透過チャンネルが形成されやすい。
【0014】
また、本発明の電気化学素子用複合膜は、燃料電池用電解質膜として用いられることを特徴とする。
この構成により、膜抵抗が低く、膜の安定性に優れ、膜の変形・破壊が生じにくい燃料電池用電解質膜を提供することができる。
【0015】
また、本発明の電気化学素子用複合膜は、二次電池用セパレータとして用いられることを特徴とする。
この構成により、膜抵抗が低く、膜の安定性に優れ、膜の変形・破壊が生じにくい二次電池用セパレータを提供することができる。
【0016】
また、本発明の電気化学素子用複合膜の製造方法は、フッ素樹脂から、電界紡糸法により平均繊維径が300〜5000nmのフッ素樹脂繊維を生成し、前記フッ素樹脂繊維からなるフッ素樹脂不織布前駆体を形成する電界紡糸工程と、前記フッ素樹脂不織布前駆体を加熱焼成し、フッ素樹脂不織布を形成する焼成工程と、前記焼成工程により、形成した前記フッ素樹脂不織布と、イオン交換材料とを複合化する複合化工程とを有することを特徴とする。
この構成により、膜抵抗が低く、異方性を有しない電気化学素子用複合膜を製造することができる。
【0017】
また、本発明の電気化学素子用複合膜の製造方法は、繊維化するポリマー及びポリテトラフルオロエチレンを溶媒に分散・溶解させて、紡糸液を作成する紡糸液作成工程と、前記紡糸液を用いて電界紡糸法によりフッ素樹脂繊維を生成し、集積することによりフッ素樹脂不織布前駆体を形成する電界紡糸工程と、前記フッ素樹脂不織布前駆体を加熱焼成することにより前記繊維化するポリマー及び溶媒を除去し、ポリテトラフルオロエチレンのみからなるフッ素不織布を形成する焼成工程と、前記フッ素樹脂不織布とイオン交換材料とを複合化する複合化工程と、を有し、上記各工程により製造された電気化学素子用複合膜は、90℃の水中に3時間浸漬後の膨張率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ6%以下であり、また前記電気化学素子用複合膜は、110℃で3時間乾燥後の収縮率がMD方向、TD方向、及び厚み方向でそれぞれ2%以下であることを特徴とする。
この構成により、耐熱性、長期安定性、化学的耐久性に優れ、且つ膜抵抗が低いと共に、強度、耐久性、及び膜抵抗の均一性が高い電気化学素子用複合膜を製造することができる。


【0018】
また、本発明の二次電池は、電気化学素子用複合膜を有することを特徴とする。
この構成により、二次電池の高性能化・長寿命化・小型化・軽量化を図ることができる。
【0019】
また、本発明の燃料電池は、電気化学素子用複合膜を有することを特徴とする。
この構成により、燃料電池の高性能化・長寿命化・小型化・軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電気化学素子用複合膜は、膜の安定性に優れ、且つ高いイオン交換容量を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態の電気化学素子用複合膜の断面模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本実施形態の電気化学素子用複合膜を図1に基づいて説明する。尚、図1は、本実施形態の電気化学素子用複合膜の断面模式図である。
【0023】
本実施形態の電気化学素子用複合膜10は、平均繊維径が300〜5000nmのフッ素樹脂繊維からなるフッ素樹脂不織布11と、イオン交換材料12とを有する。得られる電気化学素子用複合膜10の強度、安定性、膜抵抗の観点から、フッ素樹脂不織布11の平均繊維径は、フッ素樹脂の種類にもよるが、400〜2000nmであることが好ましく、600〜1200nmであるとより好ましい。一方、平均繊維径が5000nmより大きくなると、その繊維径が大きい繊維により電気化学素子用複合膜のイオン交換(透過)機能が阻害されるおそれがある。ここで、平均繊維径は、測定対象となるフッ素樹脂不織布11について、無作為に走査型電子顕微鏡(SEM)観察する領域を特定し、この領域をSEM観察(倍率:10000倍)して無作為に、例えば10本のフッ素樹脂繊維を選び出し、当該フッ素樹脂繊維の繊維径を測定器具に用いてそれぞれ測定することにより、算出した値である。
【0024】
また、フッ素樹脂繊維の断面形状としては特に制限はなく、円形状、楕円状、扁平状、多角形状等の断面形状を有する繊維を用いることができるが、電気化学素子用複合膜の強度、特性の均一性の観点からは、円形状であると好ましい。さらに、図1に示す断面模式図のように、電気化学素子用複合膜10は、フッ素樹脂不織布11中に形成された空隙の少なくとも一部がイオン交換材料12により満たされたナノ繊維強化固体高分子電解質膜である。
【0025】
尚、前記フッ素樹脂繊維を構成するフッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。また、これらの共重合体や、複数のフッ素樹脂からなるポリマーブレンドを用いてもよい。これらのフッ素樹脂の中でも、ポリテトラフルオロエチレンからなるフッ素樹脂が、耐熱性、長期安定性、化学的耐久性の面で好ましい。
【0026】
フッ素樹脂不織布11は、複数の細孔を有し、電気化学素子用複合膜10における補強材としての役割を果たす。
【0027】
また、フッ素樹脂不織布11は、公知の繊維製造方法により形成することができるが、特に、電界紡糸法によって、形成されることにより、断面形状が円形状で、且つ平均繊維径が小さいフッ素樹脂繊維を乾式で製造・(水圧等の荷重を大きくかけることなく)堆積させることができると共に、高い気孔率を有するフッ素樹脂不織布11を製造出来るため好ましい。ここで、電界紡糸法は、例えばフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである場合、特開昭51−60773号公報、及び特開2012−515850号公報に開示された紡糸法である。具体的には、繊維化するポリマー及びポリテトラフルオロエチレンを溶媒に分散・溶解させて、紡糸液を作成する。当該紡糸液を、帯電させた針状容器に供給する。ここで、当該針状容器から所定の距離離間した位置に標的を設置し、標的を接地する。そして、紡糸液が、当該針状容器から、標的に静電的に引き寄せられることにより、フッ素樹脂繊維が生成され、当該フッ素樹脂繊維を集積し、形成したフッ素樹脂不織布前駆体を加熱焼成処理することにより繊維化するポリマー、及び溶媒を除去することで、ポリテトラフルオロエチレンのみからなるフッ素樹脂不織布11が形成される。
【0028】
フッ素樹脂不織布11の膜厚は、フッ素樹脂繊維の繊維径にもよるが、5μm〜500μmであると好ましく、さらに10μm〜200μmであるとより好ましい。フッ素樹脂不織布11の膜厚がこの範囲内であると、電気化学素子の小型化薄膜化に対応することが出来ると共に、多数の繊維が均一に分布堆積した構造となるため、強度、膜抵抗、及び耐久性の均一性が高い複合膜とすることが可能となる。
【0029】
さらに、フッ素樹脂不織布11の気孔率は、得られる電気化学素子用複合膜の膜抵抗、強度の観点から、40〜98%であると好ましく、さらに65〜95%であるとより好ましい。
【0030】
イオン交換材料12は、イオン交換基を有する材料であればよく、公知の有機材料、無機材料、有機無機複合材料を用いることができ、また複数のイオン交換材料を用いても良い。これらイオン交換材料の中でも、電気化学素子用複合膜の柔軟性の観点から、有機材料からなるイオン交換材料であることが好ましく、さらに電気化学素子用複合膜の耐久性の観点から、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であることがより好ましい。市販されているパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂としては、例えば次式の構造を有するNafion(登録商標、E. I. du Pont de Nemours and Company社製、以下省略する)や、Aquivion(登録商標、Solvay Solexis社製、以下省略する)を用いることができる。
【0031】
【化1】
【0032】
式中、a:b=1:1〜9:1、n=0,1,2である。
【0033】
また、イオン交換材料12は、単体でフッ素樹脂不織布11と複合化してもよく、溶媒に分散若しくは溶解してフッ素樹脂不織布11と複合化してもよい。複合化方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えばイオン交換材料12単体、又は分散若しくは溶解した溶液中に、フッ素樹脂不織布11を浸漬・含浸させる方法や、フッ素樹脂不織布11にイオン交換材料12単体、又は分散若しくは溶解した溶液を塗布・付着させることにより、イオン交換材料12が、フッ素樹脂不織布11の細孔内に含浸される。尚、複合化工程においては、必要に応じて加熱乾燥処理を行っても良く、電子線等の電離性放射線照射処理や架橋剤を用いた化学的処理を行っても良い。
【0034】
次に、電気化学素子用複合膜10の製造方法について、以下説明する。
【0035】
先ず、フッ素樹脂不織布11は、例えば上述した電界紡糸法により、形成される。即ち、フッ素樹脂及び必要に応じ繊維化するポリマーや界面活性剤等の添加物を溶媒に分散・溶解させ、紡糸液を作成する。次に、当該紡糸液を、帯電させた針状容器に供給する。ここで、当該針状容器から所定の距離離間した位置に標的が設置されており、また標的が接地される。そして、紡糸液が、当該針状容器から、標的に対し、静電的に引き寄せられることにより、所望の平均繊維径を有するフッ素樹脂繊維が生成される(本実施形態の平均繊維径は、300〜5000nmである)。このように生成されたフッ素樹脂繊維を集積し形成したフッ素樹脂不織布前駆体を、必要に応じて30〜400℃の温度にて加熱・焼成処理することにより、フッ素樹脂不織布11が形成される。尚、フッ素樹脂不織布11は、延伸膜に見られるMD方向、又はTD方向といった異方性を有しないよう製造することができる。
【0036】
次に、フッ素樹脂不織布11とイオン交換材料12とを、複合化させる。例えば含浸法により複合化する場合、先ずイオン交換材料12である、Nafion、又はAquivionを溶媒に溶解することにより、イオン交換材料溶液を作製する。そして、フッ素樹脂不織布11を、作製したイオン交換材料溶液内に浸し、1分〜24時間静置する。
【0037】
上述した複合化工程において、フッ素樹脂不織布11は撥液性を有していることから、イオン交換材料溶液に浸した場合、イオン交換材料12がフッ素樹脂不織布11に充填されにくい場合がある。このような場合、イオン交換材料溶液との複合化工程前に、フッ素樹脂不織布11を、1−プロパノール、メチルアルコール、アセトン、ジエチルエーテル等の有機溶媒に一旦含浸させることにより、フッ素樹脂の細孔内にイオン交換材料溶液が均一に浸透するよう処理しておくことが好ましい。
【0038】
一定時間静置されたフッ素樹脂不織布11を、イオン交換材料溶液内から取出し、30〜250℃環境下で1分〜24時間溶媒を蒸発除去し、乾燥することにより、電気化学素子用複合膜10を製造する。この乾燥工程は、単一の温度で行ってもよく、異なる温度環境下で段階的に乾燥させてもよい。また必要に応じて、減圧又は加圧環境下にて乾燥させてもよい。
【0039】
〈実施例1〉
本実施形態の実施例1は、フッ素樹脂不織布として、電界紡糸法により生成され、加熱焼成処理された、平均繊維径が900nmのポリテトラフルオロエチレン繊維(以下、PTFE繊維と記す)からなる不織布を用い、イオン交換材料12の溶解溶液として、20質量パーセントのNafion溶液を用いた。当該PTFE繊維からなる不織布は、気孔率が85%、平均細孔径が1.8μm、厚さが60μmであった。ここで、気孔率は、次式にて算出した。
気孔率(%)=[1−{(フッ素樹脂不織布の重量)/(フッ素樹脂不織布の体積×フッ素樹脂の真密度)}]×100
尚、上式中のフッ素樹脂不織布の体積はフッ素樹脂不織布の横幅、縦幅、厚みの測定結果より算出される値とする。また、フッ素樹脂(PTEE)の真密度は2.1g/cmとした。
【0040】
得られた、フッ素樹脂不織布の熱収縮は、220℃に保温した電気炉で3時間熱処理の実施前後の各寸法から算出した。尚、熱処理の実施前の各寸法を100%とする。結果を表1に示す。
【0041】
次に、複合化工程として、先ず得られたフッ素樹脂不織布を1−プロパノール中に浸し、取出した後に、Nafion溶液中に、浸漬・含浸し、3時間静置することにより、フッ素樹脂不織布の細孔内にNafionを充填した。その後、フッ素樹脂不織布をNafion溶液中から取出し、60℃に保温した乾燥炉に30分間静置した後、さらに120℃に保温した乾燥炉に10分間静置することによって、溶媒を除去し、実施例1の電気化学素子用複合膜を作製した。
【0042】
得られた実施例1の電気化学素子用複合膜について、イオン交換容量、及び寸法変化を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0043】
イオン交換容量の測定(IEC)は、中和滴定法を用いて算出した。先ず乾燥状態の電気化学素子用複合膜を塩化ナトリウム(NaCl)水溶液に含浸し、48時間静置した。その後、0.01Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で中和滴定することにより、電気化学素子用複合膜中のスルホン基量を算出した。当該スルホン基量と乾燥状態の電気化学素子用複合膜の重量とよりスルホン基濃度及びイオン交換量(IEC)を算出した。
【0044】
さらに、寸法変化は、以下の方法により算出した。電気化学素子用複合膜を90℃に保温した水中に3時間浸漬した後、取り出した電気化学素子用複合膜の表面に付着した水を拭き取り、膨潤直後の寸法を測定した。また、電気化学素子用複合膜を110℃で3時間乾燥させることにより、当該複合膜中の水分を除去し、乾燥後の寸法を測定した。それぞれの寸法変化は、水中に浸漬する前の各寸法を100%として、算出した。
【0045】
また、膨潤直後及び乾燥後の電気化学素子用複合膜の形状変化を、それぞれ目視にて以下の基準に基づき評価した。
◎:シワや丸まりがほとんど見られなかった
○:シワや丸まりが一部見られたが、全体として平面形状を保っていた
△:シワや丸まりが多数発生し、平面形状を一部保てていなかった
×:シワや丸まりにより、全体的に平面形状を保てていなかった
【0046】
【表1】
【0047】
〈実施例2〉
実施例2の電気化学素子用複合膜は、電界紡糸法により生成され、加熱焼成処理された、平均繊維径が900nmであるPTFE繊維からなり、気孔率が85%、平均細孔径が1.8μm、厚さが30μmであるフッ素樹脂不織布を用いた以外は実施例1と同様の手順により、電気化学素子用複合膜を作製した。用いた実施例2のフッ素樹脂不織布の熱収縮、及び作製した実施例2の電気化学素子用複合膜のイオン交換容量、及び寸法変化は、実施例1と同様の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
〈比較例1〉
比較例1は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(以下、e−PTFEと記す。気孔率:85%、平均細孔径:1.0μm、厚さ:30μm)をフッ素樹脂不織布の代わりに用いた以外は、実施例1と同様の手順により、電気化学素子用複合膜を作製した。用いた比較例1のe−PTFEの熱収縮、及び作製した比較例1の電気化学素子用複合膜のイオン交換容量、及び寸法変化は、実施例1と同様の方法により測定した。測定結果を表1に示す。尚、e−PTFEは、非繊維状形態のノード(結束部)とフィブリル(繊維状部)とから構成されているため、SEM観察による繊維径の測定方法では適切な平均繊維径を算出することができず、表1に示していない。
【0049】
〈比較例2〉
比較例2は、e−PTFE(気孔率:66%、平均細孔径:0.45μm、厚さ:30μm)をフッ素樹脂不織布の代わりに用いた以外は、実施例1と同様の手順により、電気化学素子用複合膜を作製した。用いた比較例2のe−PTFEの熱収縮、及び作製した比較例2の電気化学素子用複合膜のイオン交換容量、及び寸法変化は、実施例1と同様の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0050】
〈比較例3〉
比較例3は、e−PTFE(気孔率:56%、平均細孔径:0.10μm、厚さ:30μm)をフッ素樹脂不織布の代わりに用いた以外は、実施例1と同様の手順により、電気化学素子用複合膜を作製した。用いた比較例3のe−PTFEの熱収縮、及び作製した比較例3の電気化学素子用複合膜のイオン交換容量、及び寸法変化は、実施例1と同様の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0051】
〈比較例4〉
比較例4は、電気化学素子用複合膜として、市販のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(Nafion NRE212、E. I. du Pont de Nemours and Company社製)を用いた。比較例4の電気化学素子用複合膜のイオン交換容量、寸法変化は、実施例1と同様の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0052】
本発明の電気化学素子用複合膜10は、フッ素樹脂不織布11が高い空隙率を有していることより、イオン交換材料12がフッ素樹脂不織布11内部への含浸がし易く、多くのイオン交換材料12を充填することができたと考えられ、高いイオン交換容量を有する。
【0053】
本発明の電気化学素子用複合膜10は、繊維径が300〜5000nmの繊維からなる不織布を用いているため、電気化学素子用複合膜の膜抵抗を低くでき、また膜厚を薄くすることができる。
【0054】
本発明のフッ素樹脂不織布11が、電界紡糸法により形成されているため、熱収縮が小さく、膨潤前後における寸法変化及びシワや丸まりの発生を抑制でき、高い安定性を有する。また、膜方向による異方性が小さく、電気化学素子用複合膜10の膜破壊が生じにくい。さらに、e−PTFEと比較し、繊維径及び細孔径の均一性が高いフッ素樹脂不織布を用いているため、多くのイオン交換材料12を充填することができたと考えられ、高いイオン交換容量を有する。
【0055】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含み、下記の変形例等も包含する。
【0056】
本実施形態の電気化学素子用複合膜10は、燃料電池用電解質膜として用いるだけでなく、二次電池のセパレータ、電気化学素子用イオン交換膜として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10…電気化学素子用複合膜
11…フッ素樹脂不織布
12…イオン交換材料
図1