【実施例1】
【0045】
本発明の実施例1〜22及び比較例1〜15を、表1〜6及び
図2〜9を参照して、以下に説明する。
[1.測定項目]
測定項目として、透磁率と損失を次のような手法により測定した。透磁率は、作製された圧粉磁心に1次巻線(20ターン)を施し、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー:4294A)を使用することで、10kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
【0046】
損失は、圧粉磁心に1次巻線(20ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.1Tの条件下で鉄損(Pcv)を測定した。そして、損失からヒステリシス損失(Ph)と渦電流損失(Pe)を算出した。この算出は、損失の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数(Kh)、渦電流損係数(Ke)を算出することで行った。
【0047】
Pcv=Kh×f+Ke×f
2…(1)
Ph=Kh×f…(2)
Pe=Ke×f
2…(3)
Pcv:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0048】
本実施例において、各粉末の平均粒子径と円形度は、下記装置を用いて3000個の平均値をとったものであり、ガラス基板上に粉末を分散して、顕微鏡で粉末写真を撮り一個毎自動で画像から測定した。
会社名:Malvern
装置名:morphologi G3S
比表面積は、BET法により測定した。
【0049】
[2.第1の特性比較(絶縁層を構成する材料の種類による絶縁破壊温度の比較)]
第1の特性比較では、絶縁層を構成する材料の種類を変えて絶縁破壊温度の比較を行った。実施例1〜7では絶縁層としてシリコーンオリゴマー層を形成した。比較例1〜4では絶縁層としてシランカップリング剤の層を形成した。
【0050】
本実施例1〜7で使用する試料は、下記のように作製した。なお、以下の記述において、「wt%」とは、軟磁性粉末に対する重量比を示す。
(1)平均円形度0.97のパーマロイ(Fe50Ni)からなる軟磁性粉末を水アトマイズ法で作製した。その後、200目(目開き75μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径を33.2μmとした。
(2)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が130m
2/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(3)これらに対して表8のメチル系のシリコーンオリゴマーAを1wt%混合し、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.5wt%混合して、大気雰囲気中、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(5)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で30目(目開き500μm)の篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンビスステアレートアミドを0.6wt%を混合した。
(6)上記工程により絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を、外径17mm、内径11mm、高さ8mmのトロイダル形状の容器に充填し、成形圧力15ton/cm
2で成形体を作製した。
(7)最後に、成形体を550℃〜850℃の異なる熱処理温度で窒素雰囲気中にて熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0051】
本比較例1〜4で使用する試料は、上記本実施例の工程(2)、(3)、(4)に代えて下記の工程を行った。
(1)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が65m
2/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(2)これらに対してシランカップリング剤(γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン)を0.5wt%、メチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.5wt%混合して、大気雰囲気中、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
【0052】
【表1】
【0053】
表1は実施例1〜7及び比較例1〜4の圧粉磁心について、550℃〜850℃の異なる熱処理温度にて処理したときの、圧粉磁心の磁気特性を示した表である。また、
図2は実施例1〜7及び比較例1〜4について、熱処理温度と損失との関係について示したグラフである。
図3は、600℃〜800℃の熱処理温度で処理した実施例2〜6及び比較例16について磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフである。磁界の強度は、圧粉磁心にコイルを巻回して電流を流した時に発生した磁界の強度を測定したものである。なお、透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。透磁率の比率は、直流を重畳させていない状態(磁界の強さが0H(A/m)の時)の透磁率を100%とし、各磁界における0H(A/m)時の透磁率との変化割合を示す。比較例16は、熱処理温度を500℃とし、当該温度以外を比較例1〜4と同じにして作製したものである。
【0054】
表1及び
図2に示すように、実施例1〜7の渦電流損失(Pe)は、熱処理温度が800℃までは微増傾向にあるが、熱処理温度が850℃に達すると、大幅に増加することがわかった。これは、熱処理温度が850℃に達すると、粉末粒子間で絶縁破壊が起こることによると考えられる。また、ヒステリシス損失(Ph)に関しては、熱処理温度を高くするに従い、低減する傾向にあることが判明した。これは、高温で熱処理することにより、軟磁性粉末内部の歪みが除去されることによると考えられる。また、
図3に示すように、熱処理温度の比較的低い実施例2〜4に対しては、低磁界側は比較例19の方が高いが、高磁界側になるほど同じになり、熱処理温度の比較的高い実施例5、6は、比較例19に対して全ての磁界の強度で透磁率の比率が高くなっている。
【0055】
一方、比較例1〜4の渦電流損失(Pe)は、熱処理温度が700℃に達すると、大幅に増加してしまうことが判明した。すなわち、比較例1〜4では、粉末粒子間の絶縁破壊が700℃で起こっていることが分かった。
【0056】
第1の特性比較から、シリコーンオリゴマー層を形成した実施例1〜7の方が、高い熱処理温度を実現できると判明した。これは、絶縁被膜として、機械的結合力が強く、膜厚が厚いシリコーンオリゴマー層が形成されることにより、高い熱処理温度でも、絶縁被膜が保持されることによると考えられる。熱処理温度を800℃と高くすることにより、コアのヒステリシス損失が低減され、飽和磁束密度を上げることができる。これにより、低損失かつ直流重畳特性に優れた圧粉磁心を提供することができる。
【0057】
[3.第2の特性比較(シリコーンオリゴマーの添加量による比較)]
第2の特性比較では、軟磁性粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。実施例8〜11及び比較例5〜8として、シリコーンオリゴマーの添加量が0.00wt%〜1.50wt%までのものを用意した。
【0058】
実施例8〜11及び比較例5〜8で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(2)、(3)、(4)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が100m
2/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(2)これらに対して下記表8のメチル系のシリコーンオリゴマーAを0.00〜1.50wt%混合し、大気雰囲気中、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(3)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.0wt%混合して、大気雰囲気中、250℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2は、本実施例において、軟磁性粉末へのシリコーンオリゴマーの添加量と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、
図4は、横軸にシリコーンオリゴマーの添加量を示し、縦軸に損失(Pcv,Ph,Pe)を示している。
【0061】
表2に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が多くなるに従い、損失が低減されることが判明した。また、
図4に示すように、特に、シリコーンオリゴマーの添加量が0.5wt%以上で損失が低減されることが判明した。シリコーンオリゴマーの添加量が0.5wt%以上では、渦電流損失(Pe)が390(kW/m
3)以下となり、十分に低減されることが分かった。これは、高温条件下でも絶縁破壊が起こることなく、粉末粒子間の絶縁が確保されていることを意味している。
【0062】
また、シリコーンオリゴマーの添加量を1.50wt%とすると、密度が低下することが分かった。密度が低下すると、透磁率が下がり磁気特性が低下する。これは、シリコーンオリゴマーを入れ過ぎると、コアが膨張することにより成形体の密度が低下すると考えられる。
【0063】
以上より、シリコーンオリゴマーの添加量としては、0.50wt%〜1.25wt%が好ましいことが判明した。添加量を上記範囲とすることにより、損失が低減され、成形体の密度及び透磁率が高い圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0064】
[4.第3の特性比較(シリコーンオリゴマーの乾燥温度による比較)]
第3の特性比較では、シリコーンオリゴマーの乾燥温度を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。実施例12〜15および比較例9、10として、シリコーンオリゴマーの乾燥温度を150℃〜400℃とした圧粉磁心の磁気特性を計測した。
【0065】
実施例12〜15および比較例9、10で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(3)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)これらに対してシリコーンオリゴマー(メチル系)を1wt%混合し、大気雰囲気中、表3に示す150℃〜400℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(2)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3は、本実施例において、シリコーンオリゴマーの乾燥温度と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、
図5は、シリコーンオリゴマーの乾燥温度と損失との関係を示したグラフである。
【0068】
表3及び
図5に示すように、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が200℃〜350℃である実施例12〜15に比べて、150℃である比較例9及び、400℃である比較例10については、損失が増加していることが判明した。特に、400℃である比較例10については、ヒステリシス損失(Ph)が600(kW/m
3)にまで大幅に増加してしまっている。このため、シリコーンオリゴマーの乾燥温度は、200℃〜350℃が良いことが判明した。
【0069】
以上より、シリコーンオリゴマーの乾燥温度は200℃〜350℃が好ましいことが判明した。乾燥温度を上記範囲とすることにより、損失を低減することのできる圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0070】
[5.第4の特性比較(シリコーンレジンの乾燥温度による比較)]
第4の特性比較では、シリコーンレジンの乾燥温度を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。実施例16〜18および比較例11〜13として、シリコーンレジンの乾燥温度を175℃〜400℃とした圧粉磁心の磁気特性を計測した。
【0071】
本実施例16〜18で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(4)にかえて下記の工程を行った。
(1)メチルフェニル系シリコーンレジンを1.5wt%混合して、大気雰囲気中、表4に示す150℃〜400℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(2)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0072】
【表4】
【0073】
表4は、本実施例において、シリコーンレジンの乾燥温度と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、
図6は、シリコーンレジンの乾燥温度と損失との関係を示したグラフである。
図7は、乾燥温度が175℃〜300℃のシリコーンレジンについて磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフである。
【0074】
表4及び
図6に示すように、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が200℃〜300℃である実施例16〜18に比べて、175℃である比較例11は損失が増加していることが判明した。また、乾燥温度が400℃である比較例13については、損失が720(kW/m
3)にまで大幅に増加していることが判明した。特に、乾燥温度が300℃の時に、最も損失が低減されることが判明した。このため、シリコーンレジンの乾燥温度は、200℃〜300℃が良いことが判明した。
【0075】
図7に示すように、磁界が強くなるに従い、透磁率の比率は低下する傾向にあるが、乾燥温度が175℃の比較例11に比べて、乾燥温度が200℃以上の実施例16〜18の方が、透磁率の比率の低下が抑制されることが判明した。
【0076】
以上より、シリコーンレジンの乾燥温度は200℃〜300℃が好ましいことが判明した。乾燥温度を上記範囲とすることにより、損失が低減され、透磁率の比率の低下を抑制することのできる圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0077】
[6.第5の特性比較(無機絶縁粉末の比表面積による比較)]
第5の特性比較では、軟磁性粉末に添加する無機絶縁粉末の比表面積を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。本特性比較では、比表面積が異なるアルミナ粉末を添加した実施例19〜21および比較例14について、磁気特性を測定した。
【0078】
実施例19〜21および比較例14で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(2)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)作製した軟磁性粉末に比表面積が50〜130m
2/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(2)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0079】
【表5】
【0080】
表5は、本実施例において、軟磁性粉末に添加した無機絶縁粉末の比表面積と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、
図8は、軟磁性粉末に添加した無機絶縁粉末の比表面積と損失との関係を示したグラフである。
【0081】
表5及び
図8に示すように、無機絶縁粉末の比表面積が大きいほうが、圧粉磁心の損失が小さいことが判明した。特に、比表面積が65〜130m
2/gの無機絶縁粉末を添加した実施例19〜21では、比表面積が50m
2/gの無機絶縁粉末を添加した比較例14に比べて、ヒステリシス損失(Ph)及び渦電流損失(Pe)が低減し、鉄損(Pcv)が小さくなった。このため、軟磁性粉末に混合する無機絶縁粉末の比表面積は65〜130m
2/gが良いことが判明した。この理由としては、無機絶縁粉末の比表面積が大きいほうが、粒子径が小さくなり、軟磁性粉末間に無機絶縁粉末が隙間なく入り込み、圧粉磁心成形時の歪が緩和されることによると考えられる。
【0082】
以上より、軟磁性粉末に添加する無機絶縁粉末の比表面積は65〜130m
2/gが好ましいと判明した。比表面積を上記範囲とすることにより、ヒステリシス損失(Ph)及び渦電流損失(Pe)を低減した、低損失な圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
【0083】
[7.第6の特性比較(篩の分級による比較)]
第6の特性比較では、ガスアトマイズ法により作製された軟磁性粉末を篩う篩の分級を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。分級が150目(目開き106μm)のものを比較例15とし、200目(目開き75μm)のものを実施例22とした。
【0084】
本実施例22および比較例15で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(1)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)平均粒子径45.4μm、平均円形度0.99のFe50Niからなる軟磁性粉末をガスアトマイズ法で作製した。
(2)その後、150目(106μm)または、200目(75μm)で分級を行い、潤滑剤としてエチレンビスステアレートアミドを0.6wt%を混合した。
(3)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0085】
【表6】
【0086】
表6は、本実施例において、分級と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、
図9は、本実施例22および比較例15について、磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフである。
【0087】
表6に示すように、分級を200目(75μm)とした実施例22の方が、分級を150目(106μm)とした比較例15よりも損失が低減されることが判明した。また、
図9に示すように、篩の分級が200目(75μm)のものの方が、強磁界における透磁率の比率の低下が抑制されることが分かった。また、篩の分級が200目(75μm)の方が、全体として鉄損(Pcv)の増加が抑制され、特に、渦電流損失(Pe)が273(kW/m
3)となり、増加が抑制されていることが分かった。また、ガスアトマイズ法により作製された軟磁性粉末を使用した場合でも、水アトマイズ法により作製された軟磁性粉末と同等の磁気特性を実現できることが判明した。
【0088】
以上より、篩の分級は200目(75μm)が好ましいと判明した。これにより、損失が低減され、強磁界における透磁率の比率の低下が抑制された圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0089】
[8.第7の特性比較(Fe−Si合金粉末又は純鉄粉に対して構成する絶縁層の材料の種類の違いによる特性比較)]
第7の特性比較では、軟磁性粉末の表面に形成する絶縁層を構成する材料の種類を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例23〜25は、軟磁性粉末の表面に絶縁層としてシリコーンオリゴマー層を形成し、比較例16〜18は、軟磁性粉末の表面に絶縁層としてシランカップリング剤の層を形成した。
【0090】
本実施例23で使用する試料は、下記のように作製した。
(1)平均円形度0.97のFe−6.5%Si合金からなる軟磁性粉末をガスアトマイズ法で作製した。その後、250目(目開き63μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径(D50)を40μmとした。
(2)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が130m
2/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(3)これらに対して下記表8のメチル系のシリコーンオリゴマーAを1wt%混合し、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.4wt%混合して、大気雰囲気中、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(5)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で30目(目開き500μm)の篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンビスステアレートアミドを0.6wt%を混合した。
(6)上記工程により絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を、外径17mm、内径11mm、高さ8mmのトロイダル形状の容器に充填し、成形圧力15ton/cm
2で成形体を作製した。
(7)最後に、成形体を850℃の熱処理温度で窒素雰囲気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0091】
本実施例24で使用する試料は、本実施例23の作製工程(1)に代えて、下記の工程を行った。
(1)平均円形度0.95のFe−3.5%Si合金からなる軟磁性粉末を水アトマイズ法で作製した。その後、150目(目開き106μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径(D50)を70μmとした。
【0092】
本実施例25で使用する試料は、本実施例23の作製工程(1)、(7)に代えて、下記の工程を行った。
(1)平均円形度0.9の純鉄粉からなる軟磁性粉末を水アトマイズ法で作製した。その後、250目(目開き63μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径(D50)を40μmとした。
(7)最後に、成形体を625℃の熱処理温度で水素雰囲気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0093】
比較例16〜18で使用する試料は、それぞれ本実施例23〜25の作製工程(3)、(4)に代えて、下記の工程を行った。
(3’)これらに対してシランカップリング剤(品名:A1100)を1wt%、メチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.4wt%混合し、大気雰囲気中、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
【0094】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表7】
表7は、本実施例23〜25及び比較例16〜18の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。表7の「絶縁層の第1層目」は、軟磁性粉末の表面に形成する樹脂の種類を示し、「絶縁層の第2層目」は、軟磁性粉末の表面の第1層目の絶縁層の外側に形成される絶縁層の樹脂の種類を示す。鉄損は、周波数100kHz、最大磁束密度100mTの条件で算出したものである。表7に示すように、絶縁層の第1層目にシリコーンオリゴマーを使用した本実施例23〜25の鉄損が、シランカップリング剤を使用した比較例16〜18と比べて同程度又は低くなっていることが分かる。
【0095】
図10は、本実施例23及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。
図11は、本実施例24及び比較例17の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。
図12は、本実施例25及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。なお、透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。透磁率の比率は、直流を重畳させていない状態(磁界の強さが0H(A/m)の時)の透磁率を100%とし、各磁界における0H(A/m)時の透磁率との変化割合を示す。
【0096】
図10〜
図12に示すように、本実施例23〜25の透磁率の比率が、各磁界の強さにおいて、比較例16〜18の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。直流重畳特性が向上しているのは、均一に無機絶縁粉末(アルミナ粉末)が分布していることが1つの要因と考えられる。
【0097】
[9.第8の特性比較(シリコーンオリゴマーの種類の違いによる比較)]
第8の特性比較では、Fe−Si合金粉末又は純鉄粉に添加するシリコーンオリゴマーの種類を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例26〜29として、軟磁性粉末をFe−6.5%Si合金粉末、Fe−3.5%Si合金粉末とし、シリコーンオリゴマーの種類以外の工程を実施例23、24と同じにして、シリコーンオリゴマーの種類を下記の表8のオリゴマーB、Dの通りとした。また、実施例30、31として、軟磁性粉末を純鉄粉とし、シリコーンオリゴマーの種類以外の工程を実施例25と同じにして、シリコーンオリゴマーの種類の種類を下記の表8の種類B、Dの通りとした。
【0098】
なお、表8のシリコーンオリゴマーAは、アルコキシシランを40〜50%含むシリコーンオリゴマーであり、シリコーンオリゴマーBは、オルガノポリシロキサンを100%含むシリコーンオリゴマーである。シリコーンオリゴマーCは、オルガノポリシロキサンを100%含むシリコーンオリゴマーであり、シリコーンオリゴマーDは、アルコキシシロキサンを100%含むシリコーンオリゴマーである。シリコーンオリゴマーEは、メトキシ官能性メチル-フェニル-ポリシロキサンを含むシリコーンオリゴマーである。
【表8】
【0099】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表9】
表9は、実施例23、26、27及び比較例16の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図13は、実施例23、26、27及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表9に示すように、実施例23、26、27及び比較例16間で鉄損は同程度であることが分かる。一方、
図13に示すように、実施例23、26、27の透磁率の比率は、各磁界の強さにおいて、比較例16の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。実施例23、26、27のうち、実施例26、27の透磁率の比率は同程度であり、実施例23が最も直流重畳特性が向上していることが確認できる。
【0100】
【表10】
表10は、実施例24、28、29及び比較例17の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図14は、実施例24、28、29及び比較例17の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表10に示すように、実施例24、28、29が比較例17と比べて鉄損が低くなっていることが分かる。一方、
図14に示すように、実施例24、28、29の透磁率の比率は、各磁界の強さにおいて、比較例17の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。実施例24、28、29のうち、実施例28、29の透磁率の比率は同程度であり、実施例24が最も直流重畳特性が向上していることが確認できる。
【0101】
【表11】
【0102】
表11は、実施例25、30、31及び比較例18の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図15は、実施例25、30、31及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表11に示すように、実施例25、30、31が比較例18と比べて鉄損が低くなっていることが分かる。一方、
図15に示すように、実施例25、30、31の透磁率の比率は、各磁界の強さにおいて、比較例18の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。実施例25、30、31のうち、実施例30、31の透磁率の比率は同程度であり、実施例25が最も直流重畳特性が向上していることが確認できる。
【0103】
以上のように、
図13〜
図15及び表8より、有機置換基がメチル系であるオリゴマーAを使用した場合に、直流重畳特性が良好な結果を示す傾向にあることが分かる。
【0104】
[10.第9の特性比較(シリコーンオリゴマーの添加量による比較)]
(1)軟磁性粉末がFe−Si合金粉末である場合
第9の特性比較では、Fe−Si合金粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例32〜36として、シリコーンオリゴマーの添加量以外の工程を実施例23と同じにして、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%までのものを用意した。
【0105】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表12】
表12は、実施例23、32〜36及び比較例16の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図16は、実施例23、32〜36及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表12に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%の範囲で鉄損が比較例16と同程度であることが分かった。添加量が0.15wt%未満であると、絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が3.5wt%を超えると、圧粉磁心の強度が低下する場合がある。
図16に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%の場合、他の実施例と比べて直流重畳特性が比較例16よりも低下する。一方、シリコーンオリゴマーの添加量が0.5wt%〜3.5wt%である実施例23、33〜36の場合、直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、シリコーンオリゴマーの添加量が2wt%〜3.5wt%の実施例34〜36において、直流重畳特性が比較例16と比べて、格段に向上していることが分かった。
【0106】
(2)軟磁性粉末が純鉄粉である場合
また、純鉄粉に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例37〜41として、シリコーンオリゴマーの添加量以外の工程を実施例25と同じにして、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%までのものを用意した。
【0107】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表13】
表13は、実施例25、37〜41及び比較例18の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図17は、実施例25、37〜41及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表13に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%の範囲で比較例18と比べて良好な結果であることが分かった。添加量が0.15wt%未満であると、絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が3.5wt%を超えると、圧粉磁心の強度が低下する場合がある。従って、シリコーンオリゴマーの添加量は0.15wt%〜3.5wt%であることが、より好ましい。
図17に示すように、実施例25、37〜41は比較例18と比べて、全ての各磁界の強さにおいて直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、シリコーンオリゴマーの添加量が2wt%〜3.5wt%の実施例39〜41において、直流重畳特性が比較例16と比べて、格段に向上していることが分かった。
【0108】
[11.第10の特性比較(シリコーンオリゴマーの乾燥温度による比較)]
(1)軟磁性粉末がFe−Si合金粉末である場合
第10の特性比較では、Fe−Si合金粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例42〜44及び比較例19として、シリコーンオリゴマーの乾燥温度以外の工程を実施例23と同じにして、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が25℃〜400℃までのものを用意した。
【0109】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表14】
表14は、実施例23、42〜44及び比較例16、19の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図18は、実施例23、42〜45及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表14に示すように、鉄損は、実施例23、42〜44が比較例16と比べて同程度であり、比較例19より低くなることが分かった。一方、
図18に示すように、実施例23、42〜44は、比較例18と比べて、全ての各磁界の強さにおいて直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、実施例42〜44は、直流重畳特性が比較例16と比べて格段に良好である。乾燥温度が25℃未満であると膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなりやすいが、25℃前後であると乾燥のための特別な設備を設けなくて済むという利点がある。一方、乾燥温度350℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、鉄損が増大する傾向にある。また、圧粉磁心の強度が低下する場合がある。
【0110】
(2)軟磁性粉末が純鉄粉である場合
また、純鉄粉に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例45〜48及び比較例20として、シリコーンオリゴマーの乾燥温度以外の工程を実施例25と同じにして、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が25℃〜350℃までのものを用意した。
【0111】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表15】
表15は、実施例25、45〜48及び比較例18、20の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図19は、実施例25、45〜48及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表15に示すように、実施例25、45〜48は、比較例18、20と比べて低鉄損であることが分かった。乾燥温度が350℃である比較例20では、実施例25、45〜48と比べて、約2倍程度鉄損が増大している。これは、乾燥温度が350℃を超えると、粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなることが要因を考えられる。また、
図19に示すように、実施例25、45〜48は、比較例18と比べて、全ての各磁界の強さにおいて直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、実施例45、46、47で比較例18と比べて直流重畳特性が格段に向上していることが分かった。その中でも実施例46が最も良好な結果を示している。なお、比較例20の透磁率の比率のグラフは
図20に示していない。比較例20は鉄損が大きく、直流重畳特性を得るための有効な透磁率が得られなかったからである。
【0112】
[12.第11の特性比較(無機絶縁粉末の有無の比較)]
第11の特性比較では、Fe−Si合金粉末に添加する無機絶縁粉末の有無による圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例49は、軟磁性粉末をFe−6.5%Si合金粉末とし、無機絶縁粉末付着工程をなくして、その他を実施例23と同じにして作製したものである。実施例50は、軟磁性粉末をFe−3.5%Si合金粉末とし、無機絶縁粉末付着工程をなくして、その他を実施例24と同じにして作製したものである。すなわち、実施例49、50は、実施例23、24の上記(2)の工程をなくし、上記(1)の工程後に、上記工程(3)〜(7)を行ったものである。
【表16】
【表17】
【0113】
表16は、実施例23、49の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。表17は、実施例24、50の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。
図20は、実施例23、49の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。
図21は、実施例24、50の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表16及び表17に示すように、実施例49は実施例23と、実施例50は実施例24と鉄損が同程度であることが分かった。
図20及び
図21に示すように、実施例23、49及び実施例24、50は、それぞれ直流重畳特性に違いは認められなかった。軟磁性粉末にSiが含まれている場合、無機絶縁粉末が無い場合でも、ある場合と同等の直流重畳特性が得られると考えられる。
【0114】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。