特許第6471260号(P6471260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6471260軟磁性材料、軟磁性材料を用いた圧粉磁心、圧粉磁心を用いたリアクトル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471260
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】軟磁性材料、軟磁性材料を用いた圧粉磁心、圧粉磁心を用いたリアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20190204BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F1/147 166
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-158975(P2018-158975)
(22)【出願日】2018年8月28日
(62)【分割の表示】特願2016-121291(P2016-121291)の分割
【原出願日】2016年6月17日
(65)【公開番号】特開2019-4169(P2019-4169A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2018年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-122210(P2015-122210)
(32)【優先日】2015年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−202956(JP,A)
【文献】 特開2010−183056(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/077601(WO,A1)
【文献】 特開2010−245460(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0194516(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/068928(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/048211(WO,A1)
【文献】 特開2010−183057(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/026984(WO,A1)
【文献】 特開2015−095598(JP,A)
【文献】 特開2011−018822(JP,A)
【文献】 特開2009−253030(JP,A)
【文献】 特開2011−042811(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0068506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 1/147
H01F 27/255
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁被膜と、
を有し、
前記絶縁被膜が、
前記軟磁性粉末の表面を被覆するシリコーンオリゴマー層と、
前記シリコーンオリゴマー層の外側に形成されたシリコーンレジン層と、
からなること、
を特徴とする軟磁性材料。
【請求項2】
前記軟磁性粉末がFe−Si合金又は純鉄であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項3】
前記シリコーンオリゴマーの添加量が前記軟磁性粉末に対して0.15〜3.5wt%であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟磁性材料。
【請求項4】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁被膜と、
を有し、
前記絶縁被膜が、
前記軟磁性粉末の表面に付着する融点が1000℃以上の無機絶縁粉末と、
前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末の外側を被覆するシリコーンオリゴマー層と、
前記シリコーンオリゴマー層の外側に形成されたシリコーンレジン層と、
からなること、
を特徴とする軟磁性材料。
【請求項5】
前記無機絶縁粉末が前記軟磁性粉末の表面の少なくとも一部において層を形成していることを特徴とする請求項4に記載の軟磁性材料。
【請求項6】
前記軟磁性粉末がFe−Ni合金であることを特徴とする請求項4または5に記載の軟磁性材料。
【請求項7】
前記シリコーンオリゴマーの添加量が前記軟磁性粉末に対して0.5〜1.25wt%であること、
を特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の軟磁性材料。
【請求項8】
前記無機絶縁粉末の比表面積が65〜130m/gであること、
を特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の軟磁性材料。
【請求項9】
前記シリコーンオリゴマーが、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーであること、
を特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の軟磁性材料。
【請求項10】
前記シリコーンオリゴマーの前記シリコーンレジンに対する重量比が1:0.8〜1:3であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の軟磁性材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の軟磁性材料を使用した圧粉磁心。
【請求項12】
請求項11に記載の圧粉磁心にコイルが巻回されたリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料、軟磁性材料を用いた圧粉磁心、圧粉磁心を用いたリアクトル、及び圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター、インバーター、コンバーターへの電力供給系統の一部として、リアクトルが利用されている。このリアクトルのコアとして、圧粉磁心が使用される。圧粉磁心は、金属粉末とこれを覆う絶縁皮膜とから構成された粉末を加圧成形することにより形成される。
【0003】
圧粉磁心は、エネルギー交換効率の向上や低発熱などの要求から、小さな印加磁界で大きな磁束密度を得ることが出来る磁気特性と、磁束密度変化におけるエネルギー損失が小さいという磁気特性が求められる。磁束密度に関する磁気特性とは、具体的には透磁率(μ)である。エネルギー損失に関する磁気特性とは、具体的には鉄損(Pcv)である。鉄損(Pcv)は、ヒステリシス損失(Ph)と、渦電流損失(Pe)の和で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−305823号公報
【特許文献2】特開2010−001561号公報
【特許文献3】特開2012−129217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軟磁性粉末を用いた圧粉磁心は、上記の通り磁束密度の向上が求められており、そのためには、圧粉磁心を高密度にする必要がある。そのため、高い圧力で圧粉成形されるが、その際に多くの歪みが軟磁性粉末の粒子内に発生する。この歪みにより圧粉磁心の保磁力が高まり、ヒステリシス損失が増加してしまう。ヒステリシス損失が増加することにより、全体としての損失が増加し、飽和磁束密度が低下することにより、直流重畳特性が悪化してしまう。故に、これを除去する熱処理を与えることが好ましく、十分な除去には、例えば700℃程度以上の高い温度での熱処理が好ましい。
【0006】
一方、熱処理温度を上げ過ぎると、軟磁性粉末間の絶縁被膜が破壊または消失してしまい、それにより軟磁性粉末間が絶縁破壊してしまう。そのため、高い温度での熱処理を実現するためには、軟磁性粉末間の絶縁被膜が高い温度においても破壊または消失せず、維持されている必要がある。そのためには、以下に述べるように、絶縁被膜の機械的結合力及び膜厚が重要であると考えられた。
【0007】
圧粉磁心に用いる軟磁性粉末は柔らかい粉末であり、高い圧力での成形の際に、粒子が潰れて扁平状になる。圧粉磁心の絶縁被膜として機械的結合力の弱いものを使用すると、成形時に軟磁性粉末とともに潰れてしまい、絶縁被膜が損傷または裂傷してしまう。絶縁被膜が損傷または裂傷したまま高い温度で圧粉磁心を熱処理すると、絶縁被膜が破壊または消失し、軟磁性粉末間が絶縁破壊されてしまう。このように、熱処理温度を上げるため、絶縁被膜は機械的結合力が強いものを使用することが好ましい。
【0008】
絶縁被膜の膜厚が薄いものは、熱処理工程において熱分解により破壊または消失されやすく、軟磁性粉末間が絶縁破壊されやすい。すなわち、熱分解されない低い温度で熱処理しなければならなくなり、熱処理温度を上げることができない。以上より、圧粉磁心に形成される絶縁被膜は、機械的結合力が強く、膜厚が厚いものがよい。
【0009】
従来は、絶縁被膜として、例えば、特許文献1に記載されているシリコーン樹脂及びシランカップリング剤による被膜が用いられてきた。シリコーン樹脂はシロキサン結合を主骨格とした高分子体であり、機械的結合力が強く、厚い被膜を形成する。しかし、シリコーン樹脂層の内側のシランカップリング剤の層は、分子量が小さく膜厚が薄い。また、シランカップリング剤の層は、機械的結合力が弱く、高圧成形に耐えられない。そのため、特許文献1に記載のシリコーン樹脂及びシランカップリング剤による被膜では、熱処理温度を上げられない。
【0010】
特許文献2には、水和水を含む絶縁被膜とシリコーン樹脂被膜を組み合わせた被膜が提案されている。この特許文献2の被膜は、シリコーン樹脂被膜の内側に、機械的結合力が強く、膜厚が厚い絶縁層は形成されていない。よって、特許文献2の軟磁性材料の製造方法では、圧粉磁心の熱処理温度を上げられない。実際に、特許文献2の実施例は熱処理温度を600℃としており、十分に高い温度にはできていない。
【0011】
特許文献3には、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO)、又は、アルミナ(Al)の少なくとも1つからなる凝集防止粉及び、バインダ(アルコキシオリゴマー)からなる絶縁被膜が記載されている。この特許文献3の絶縁被膜は、無機絶縁粉末を使用しているが、その目的は磁性粉末の凝集防止であり、絶縁被膜を形成するものではない。また、金属粉体の外側に膜厚の厚いシリコーンレジン層が形成されていない。そのため、全体として絶縁被膜の膜厚が薄い。よって、特許文献3の加圧成形用粉体による絶縁被膜では、熱処理温度を上げられない。
【0012】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱処理工程において高い熱処理温度を実現し、軟磁性粉末内の歪みを除去することにより、ヒステリシス損失を低減し、飽和磁束密度を上げることである。これにより、損失を低減し、直流重畳特性を向上した圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の発明者は、機械的結合力が強く、膜厚が厚い絶縁被膜の材料として、シリコーンオリゴマーを見出した。シリコーンオリゴマーは主骨格がシロキサン結合であり、機械的結合力が強い。また、Si原子を1個有するモノマーであるシランカップリング剤に対して、低分子で、二量体、三量体である分子量1000程度のシリコーンオリゴマーを用いたほうが、その構造上、膜厚を厚くできると考えられる。すなわち、シリコーンオリゴマー層を絶縁被膜の中間層として形成することにより、絶縁被膜全体として機械的結合力を強く、膜厚を厚くすることができた。
【0014】
本発明の軟磁性材料は、軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁被膜と、を有し、前記絶縁被膜が、前記軟磁性粉末の表面を被覆するシリコーンオリゴマー層と、前記シリコーンオリゴマー層の外側に形成されたシリコーンレジン層と、からなること、を特徴とする。
【0015】
前記軟磁性粉末がFe−Si合金又は純鉄であると良い。また、前記シリコーンオリゴマーの添加量が前記軟磁性粉末に対して0.15〜3.5wt%であると良い。
【0016】
また、本発明の軟磁性材料は、軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁被膜と、を有し、前記絶縁被膜が、前記軟磁性粉末の表面に付着する融点が1000℃以上の無機絶縁粉末と、前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末の外側を被覆するシリコーンオリゴマー層と、前記シリコーンオリゴマー層の外側に形成されたシリコーンレジン層と、からなること、を特徴とする。
【0017】
前記無機絶縁粉末が前記軟磁性粉末の表面の少なくとも一部において層を形成しているとよい。
【0018】
前記軟磁性粉末がFe−Ni合金であるとよい。
【0019】
前記シリコーンオリゴマー層を形成するシリコーンオリゴマーの添加量が0.5〜1.25wt%であるとよい。
【0020】
前記無機絶縁粉末の比表面積が65〜130m/gであるとよい。
【0021】
前記シリコーンオリゴマーが、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーであるとよい。
【0022】
前記シリコーンオリゴマーの前記シリコーンレジンに対する重量比が1:0.8〜1:3であるとよい。
【0023】
前記の軟磁性材料を使用した圧粉磁心や、圧粉磁心を使用したリアクトル及び、圧粉磁心を得る製造方法も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0024】
以上のような本発明によれば、600℃以上の高い温度で熱処理を行っても絶縁被膜の破壊または焼失が起こらない。高い熱処理温度を実現することにより、軟磁性粉末内の歪みを除去し、ヒステリシス損失を低減し、飽和磁束密度を上げることができる。その結果、低損失で直流重畳特性に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を示すフローチャート。
図2】本発明の実施例1〜7および比較例1〜4において、第2の絶縁層を構成する材料の種類を変えた場合の熱処理温度と損失との関係を示したグラフ。
図3】本発明の実施例2〜6及び比較例16について磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフ。
図4】本発明の実施例8〜11および比較例5〜8において、シリコーンオリゴマーの添加量を変化させた場合におけるシリコーンオリゴマー添加量と損失との関係を示したグラフ。
図5】本発明の実施例8〜11および比較例5〜8において、シリコーンオリゴマーの乾燥温度を変化させた場合におけるシリコーンオリゴマーの乾燥温度と損失との関係を示したグラフ。
図6】本発明の実施例12〜15および比較例9、10において、シリコーンレジンの乾燥温度を変化させた場合におけるシリコーンレジンの乾燥温度と損失との関係を示したグラフ。
図7】本発明の実施例16〜18および比較例11において、シリコーンレジンの乾燥温度を変化させた場合における磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフ。
図8】本発明の実施例19〜21および比較例14において、無機絶縁粉末の比表面積を変化させた場合における比表面積と損失との関係を示したグラフ。
図9】本発明の実施例22および比較例15において、篩の分級を変えた場合における磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフ。
図10】実施例23及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図11】実施例24及び比較例17の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図12】実施例25及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図13】実施例23、26、27及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図14】実施例24、28、29及び比較例17の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図15】実施例25、30、31及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図16】実施例23、32〜36及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図17】実施例25、37〜41及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図18】実施例23、42〜45及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図19】実施例25、45〜48及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図20】実施例23、49の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
図21】実施例24、50の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[1.圧粉磁心の製造方法]
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。この工程を図1のフローチャートに示す。
(1)軟磁性粉末に対して、無機絶縁粉末を混合して無機絶縁粉末を付着させる無機絶縁粉末付着工程(ステップ1)。
(2)表面に無機絶縁粉末が付着した軟磁性粉末に対し、シリコーンオリゴマーを混合してシリコーンオリゴマー層を形成するシリコーンオリゴマー層形成工程(ステップ2)。(3)シリコーンオリゴマー層が形成された軟磁性粉末に対し、シリコーンレジンを混合してシリコーンレジン層を形成するシリコーンレジン層形成工程(ステップ3)。
(4)前記工程を経た前記軟磁性粉末を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程(ステップ4)。
(5)成形工程を経た成形体を700℃以上で熱処理する熱処理工程(ステップ5)。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0027】
(1)無機絶縁粉末付着工程
無機絶縁粉末付着工程では、軟磁性粉末と、無機絶縁粉末とを混合する。混合は、混合機(W型、V型)、ポットミル等を使用して行い、この時、粉末に内部歪が入らないように混合する。以上により、軟磁性粉末の表面に無機絶縁粉末層を付着することができる。軟磁性粉末の表面に無機絶縁粉末を付着することにより、軟磁性粉末の間を絶縁することができ、熱処理温度を上げることが可能になる。
【0028】
無機絶縁粉末の付着の態様としては、軟磁性粉末の表面に点状に分散して付着している場合、軟磁性粉末の表面に塊状に分散して付着している場合、軟磁性粉末の全表面若しくは表面の一部を覆うように無機絶縁粉末の層を形成しながら付着している場合などが含まれる。また、軟磁性粉末の表面に付着するだけでなく、軟磁性粉末の外側に形成されたシリコーンオリゴマー層と混合し、シリコーンオリゴマー層の中に分散している場合も含まれる。なお、混合機による撹拌時間などの条件によっては、シリコーンオリゴマー層の中に分散しないこともある。
【0029】
(軟磁性粉末)
本実施形態で使用する軟磁性粉末は、鉄を主成分とする軟磁性粉末であって、パーマロイ(Fe−Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe−Si合金)、センダスト合金(Fe−Si−Al合金)、純鉄粉、などを用いる。鉄合金は、その他にCoやAl、Cr、Mnを含んでもよい。パーマロイ(Fe−Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe−80Ni、Fe−36Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいても良い。Fe−Si合金粉末は、例えば、Fe−3.5%Si合金粉末、Fe−6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であっても良い。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。軟磁性粉末は1種類でなく、2種類以上の混合粉でも良い。
【0030】
軟磁性粉末の製造方法は問わない。粉砕法により作製されたものでも、アトマイズ法により作製されたものでも良い。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。水アトマイズ法は、現状、もっとも入手性が良く低コストである。水アトマイズ法を使用した場合は、その粒子形状がいびつであるので、それを加圧成形した粉末成形体の機械的強度を向上させやすい。
【0031】
(無機絶縁粉末)
軟磁性粉末に混合する無機絶縁粉末としては、融点が1000℃以上の無機絶縁粉末であるアルミナ粉末、マグネシア粉末、シリカ粉末、チタニア粉末、ジルコニア粉末の少なくとも1種類以上であることが好ましい。融点が1000℃以上の無機絶縁粉末を使用するのは、後述の成形時に加わった圧力による歪みをとる目的で行う熱処理工程で加えられる熱により、無機絶縁粉末が焼結し圧粉磁心の材料として使用できなくなることを防止するためである。
【0032】
無機絶縁粉末の比表面積は65〜130m/g(粒子径にすれば7〜200nm)が好ましく、より好ましくは100〜130m/g(粒子径で7〜50nm)である。無機絶縁粉末の比表面積が大きいほうが、粒子径が小さくなる。粒子径が小さいほうが、軟磁性粉末間に無機絶縁粉末が隙間なく入り込み、密度の高い絶縁被膜が形成され、圧粉磁心成形時の歪が緩和される。一方、無機絶縁粉末の比表面積が大きすぎると、粒子径が小さくなりすぎて製造が困難となる。
【0033】
無機絶縁粉末の添加量は、軟磁性粉末に対して0.5〜2.0wt%とする。これより少なければ絶縁性能が十分に発揮できず、高い熱処理温度では渦電流損失が著しく増加する場合がある。一方、これより多いと絶縁性能は発揮できるが、成形密度が低くなり、渦電流損失以外の磁気特性が低下するという問題点が生じる場合がある。これらの問題が生じない場合は、無機絶縁粉末付着工程は必ずしも必要ではない。
【0034】
(2)シリコーンオリゴマー層形成工程
シリコーンオリゴマー層形成工程では、無機絶縁粉末が付着された軟磁性粉末に対して、シリコーンオリゴマーを所定量添加して、大気雰囲気中、所定の温度で乾燥を行う。シリコーンオリゴマー層形成工程により、軟磁性粉末の外側にシリコーンオリゴマー層が形成される。
【0035】
(シリコーンオリゴマー)
シリコーンオリゴマーは、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、アルコキシシリル基を有さずに、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。また、シリコーンオリゴマー層形成工程のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いても良い。より具体的には、粘度の比較的低いシリコーンオリゴマーとして、下記の表8のシリコーンオリゴマーA〜Eを用いることができる。
【0036】
シリコーンオリゴマーの分子量は、100〜4000であることが好ましい。分子量が100より小さい場合、熱処理工程において熱分解により破壊または消失されやすく、軟磁性粉末間が絶縁破壊されやすい。例えば、無機絶縁粉末をFe−Ni合金粉末、Fe−Si合金粉末又は純鉄粉の表面に付着させた場合、熱処理工程前はその分布が均一であっても、熱処理工程後はその分布にバラツキが生じていることが考えられる。一方、分子量が4000より大きい場合、膜厚が厚くなりすぎて、磁気特性が低下してしまう。
【0037】
シリコーンオリゴマーの添加量は、軟磁性粉末に対して、0.15〜3.5wt%であることが好ましく、軟磁性粉末がFe−Ni合金粉末である場合には0.5〜1.25wt%であることがより好ましい。軟磁性粉末がFe−Si合金粉末又は純鉄粉である場合には、0.15〜3.5wt%であることがより好ましい。添加量が0.15wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が3.5wt%より多いとコアが膨張することにより成形体の密度が低下し、透磁率が低下する。
【0038】
シリコーンオリゴマー層の乾燥温度は、25℃〜350℃が好ましく、軟磁性粉末がFe−Ni合金粉末である場合には200℃〜350℃がより好ましい。軟磁性粉末がFe−Si合金粉末又は純鉄粉である場合には、25℃〜350℃がより好ましい。乾燥温度が25℃未満であると膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなる。一方、乾燥温度350℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、成形体の密度及び透磁率が低下する。乾燥時間は、2時間程度である。
【0039】
(3)シリコーンレジン層形成工程
シリコーンレジン層形成工程では、シリコーンオリゴマー層が形成された軟磁性粉末に対して、シリコーンレジンを所定量添加し、大気雰囲気中、所定の温度で乾燥させる。シリコーンレジン層形成工程により、シリコーンオリゴマー層の外側にシリコーンレジン層が形成される。
【0040】
(シリコーンレジン)
シリコーンレジンはシロキサン結合(Si−O―Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた被膜を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れたシリコーンレジン層を形成することができる。
【0041】
シリコーンレジンの添加量は、軟磁性粉末に対して、1.0〜1.5wt%であることが好ましい。添加量が1.0wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が1.5wt%より多いとコアが膨張することにより成形体の密度が低下し、透磁率が低下する。シリコーンオリゴマーに対するシリコーンレジンの添加量を適宜調整することで、強固で絶縁性能の高い絶縁被膜を形成することができ、特にシリコーンオリゴマーに対するシリコーンレジンの重量比が1:0.8〜1:3の場合に、強度と絶縁性能が優れている。
【0042】
シリコーンレジン層の乾燥温度は、100℃〜400℃が好ましく、軟磁性粉末がFe−Ni合金粉末である場合には200℃〜300℃がより好ましい。軟磁性粉末がFe−Si合金粉末である場合は100℃〜400℃がより好ましい。軟磁性粉末が純鉄粉である場合には100℃〜300℃がより好ましい。乾燥温度が100℃より小さいと膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなる。一方、乾燥温度300℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、成形体の密度及び透磁率が低下する。乾燥時間は、2時間程度である。
【0043】
(4)成形工程
成形工程では、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより、成形体を形成する。成形時の圧力は10〜20ton/cmであり、平均で15ton/cm程度が好ましい。
【0044】
(5)熱処理工程
熱処理工程では、成形工程を経た成形体に対して、Nガス中やN+Hガス非酸化性雰囲気中にて、700℃以上且つ軟磁性粉末に被覆した絶縁被膜が破壊される温度(例えば、850℃とする)以下で、熱処理処理を行うことで圧粉磁心が作製される。絶縁被膜が破壊される温度以下で熱処理処理を行うのは、成形工程での歪みを開放すると共に、熱処理処理時の熱により軟磁性粉末の周囲に被覆した絶縁被膜が破れることを防止するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、この軟磁性粉末に被覆した絶縁被膜が破れることにより、絶縁性能の劣化から渦電流損失が大きく増加してしまう。それにより、磁気特性が低下するという問題が発生する。
【実施例1】
【0045】
本発明の実施例1〜22及び比較例1〜15を、表1〜6及び図2〜9を参照して、以下に説明する。
[1.測定項目]
測定項目として、透磁率と損失を次のような手法により測定した。透磁率は、作製された圧粉磁心に1次巻線(20ターン)を施し、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー:4294A)を使用することで、10kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
【0046】
損失は、圧粉磁心に1次巻線(20ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.1Tの条件下で鉄損(Pcv)を測定した。そして、損失からヒステリシス損失(Ph)と渦電流損失(Pe)を算出した。この算出は、損失の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数(Kh)、渦電流損係数(Ke)を算出することで行った。
【0047】
Pcv=Kh×f+Ke×f…(1)
Ph=Kh×f…(2)
Pe=Ke×f…(3)
Pcv:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0048】
本実施例において、各粉末の平均粒子径と円形度は、下記装置を用いて3000個の平均値をとったものであり、ガラス基板上に粉末を分散して、顕微鏡で粉末写真を撮り一個毎自動で画像から測定した。
会社名:Malvern
装置名:morphologi G3S
比表面積は、BET法により測定した。
【0049】
[2.第1の特性比較(絶縁層を構成する材料の種類による絶縁破壊温度の比較)]
第1の特性比較では、絶縁層を構成する材料の種類を変えて絶縁破壊温度の比較を行った。実施例1〜7では絶縁層としてシリコーンオリゴマー層を形成した。比較例1〜4では絶縁層としてシランカップリング剤の層を形成した。
【0050】
本実施例1〜7で使用する試料は、下記のように作製した。なお、以下の記述において、「wt%」とは、軟磁性粉末に対する重量比を示す。
(1)平均円形度0.97のパーマロイ(Fe50Ni)からなる軟磁性粉末を水アトマイズ法で作製した。その後、200目(目開き75μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径を33.2μmとした。
(2)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が130m/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(3)これらに対して表8のメチル系のシリコーンオリゴマーAを1wt%混合し、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.5wt%混合して、大気雰囲気中、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(5)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で30目(目開き500μm)の篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンビスステアレートアミドを0.6wt%を混合した。
(6)上記工程により絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を、外径17mm、内径11mm、高さ8mmのトロイダル形状の容器に充填し、成形圧力15ton/cmで成形体を作製した。
(7)最後に、成形体を550℃〜850℃の異なる熱処理温度で窒素雰囲気中にて熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0051】
本比較例1〜4で使用する試料は、上記本実施例の工程(2)、(3)、(4)に代えて下記の工程を行った。
(1)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が65m/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(2)これらに対してシランカップリング剤(γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン)を0.5wt%、メチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.5wt%混合して、大気雰囲気中、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
【0052】
【表1】
【0053】
表1は実施例1〜7及び比較例1〜4の圧粉磁心について、550℃〜850℃の異なる熱処理温度にて処理したときの、圧粉磁心の磁気特性を示した表である。また、図2は実施例1〜7及び比較例1〜4について、熱処理温度と損失との関係について示したグラフである。図3は、600℃〜800℃の熱処理温度で処理した実施例2〜6及び比較例16について磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフである。磁界の強度は、圧粉磁心にコイルを巻回して電流を流した時に発生した磁界の強度を測定したものである。なお、透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。透磁率の比率は、直流を重畳させていない状態(磁界の強さが0H(A/m)の時)の透磁率を100%とし、各磁界における0H(A/m)時の透磁率との変化割合を示す。比較例16は、熱処理温度を500℃とし、当該温度以外を比較例1〜4と同じにして作製したものである。
【0054】
表1及び図2に示すように、実施例1〜7の渦電流損失(Pe)は、熱処理温度が800℃までは微増傾向にあるが、熱処理温度が850℃に達すると、大幅に増加することがわかった。これは、熱処理温度が850℃に達すると、粉末粒子間で絶縁破壊が起こることによると考えられる。また、ヒステリシス損失(Ph)に関しては、熱処理温度を高くするに従い、低減する傾向にあることが判明した。これは、高温で熱処理することにより、軟磁性粉末内部の歪みが除去されることによると考えられる。また、図3に示すように、熱処理温度の比較的低い実施例2〜4に対しては、低磁界側は比較例19の方が高いが、高磁界側になるほど同じになり、熱処理温度の比較的高い実施例5、6は、比較例19に対して全ての磁界の強度で透磁率の比率が高くなっている。
【0055】
一方、比較例1〜4の渦電流損失(Pe)は、熱処理温度が700℃に達すると、大幅に増加してしまうことが判明した。すなわち、比較例1〜4では、粉末粒子間の絶縁破壊が700℃で起こっていることが分かった。
【0056】
第1の特性比較から、シリコーンオリゴマー層を形成した実施例1〜7の方が、高い熱処理温度を実現できると判明した。これは、絶縁被膜として、機械的結合力が強く、膜厚が厚いシリコーンオリゴマー層が形成されることにより、高い熱処理温度でも、絶縁被膜が保持されることによると考えられる。熱処理温度を800℃と高くすることにより、コアのヒステリシス損失が低減され、飽和磁束密度を上げることができる。これにより、低損失かつ直流重畳特性に優れた圧粉磁心を提供することができる。
【0057】
[3.第2の特性比較(シリコーンオリゴマーの添加量による比較)]
第2の特性比較では、軟磁性粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。実施例8〜11及び比較例5〜8として、シリコーンオリゴマーの添加量が0.00wt%〜1.50wt%までのものを用意した。
【0058】
実施例8〜11及び比較例5〜8で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(2)、(3)、(4)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が100m/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(2)これらに対して下記表8のメチル系のシリコーンオリゴマーAを0.00〜1.50wt%混合し、大気雰囲気中、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(3)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.0wt%混合して、大気雰囲気中、250℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2は、本実施例において、軟磁性粉末へのシリコーンオリゴマーの添加量と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、図4は、横軸にシリコーンオリゴマーの添加量を示し、縦軸に損失(Pcv,Ph,Pe)を示している。
【0061】
表2に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が多くなるに従い、損失が低減されることが判明した。また、図4に示すように、特に、シリコーンオリゴマーの添加量が0.5wt%以上で損失が低減されることが判明した。シリコーンオリゴマーの添加量が0.5wt%以上では、渦電流損失(Pe)が390(kW/m)以下となり、十分に低減されることが分かった。これは、高温条件下でも絶縁破壊が起こることなく、粉末粒子間の絶縁が確保されていることを意味している。
【0062】
また、シリコーンオリゴマーの添加量を1.50wt%とすると、密度が低下することが分かった。密度が低下すると、透磁率が下がり磁気特性が低下する。これは、シリコーンオリゴマーを入れ過ぎると、コアが膨張することにより成形体の密度が低下すると考えられる。
【0063】
以上より、シリコーンオリゴマーの添加量としては、0.50wt%〜1.25wt%が好ましいことが判明した。添加量を上記範囲とすることにより、損失が低減され、成形体の密度及び透磁率が高い圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0064】
[4.第3の特性比較(シリコーンオリゴマーの乾燥温度による比較)]
第3の特性比較では、シリコーンオリゴマーの乾燥温度を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。実施例12〜15および比較例9、10として、シリコーンオリゴマーの乾燥温度を150℃〜400℃とした圧粉磁心の磁気特性を計測した。
【0065】
実施例12〜15および比較例9、10で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(3)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)これらに対してシリコーンオリゴマー(メチル系)を1wt%混合し、大気雰囲気中、表3に示す150℃〜400℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(2)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3は、本実施例において、シリコーンオリゴマーの乾燥温度と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、図5は、シリコーンオリゴマーの乾燥温度と損失との関係を示したグラフである。
【0068】
表3及び図5に示すように、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が200℃〜350℃である実施例12〜15に比べて、150℃である比較例9及び、400℃である比較例10については、損失が増加していることが判明した。特に、400℃である比較例10については、ヒステリシス損失(Ph)が600(kW/m)にまで大幅に増加してしまっている。このため、シリコーンオリゴマーの乾燥温度は、200℃〜350℃が良いことが判明した。
【0069】
以上より、シリコーンオリゴマーの乾燥温度は200℃〜350℃が好ましいことが判明した。乾燥温度を上記範囲とすることにより、損失を低減することのできる圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0070】
[5.第4の特性比較(シリコーンレジンの乾燥温度による比較)]
第4の特性比較では、シリコーンレジンの乾燥温度を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。実施例16〜18および比較例11〜13として、シリコーンレジンの乾燥温度を175℃〜400℃とした圧粉磁心の磁気特性を計測した。
【0071】
本実施例16〜18で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(4)にかえて下記の工程を行った。
(1)メチルフェニル系シリコーンレジンを1.5wt%混合して、大気雰囲気中、表4に示す150℃〜400℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(2)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0072】
【表4】
【0073】
表4は、本実施例において、シリコーンレジンの乾燥温度と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、図6は、シリコーンレジンの乾燥温度と損失との関係を示したグラフである。図7は、乾燥温度が175℃〜300℃のシリコーンレジンについて磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフである。
【0074】
表4及び図6に示すように、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が200℃〜300℃である実施例16〜18に比べて、175℃である比較例11は損失が増加していることが判明した。また、乾燥温度が400℃である比較例13については、損失が720(kW/m)にまで大幅に増加していることが判明した。特に、乾燥温度が300℃の時に、最も損失が低減されることが判明した。このため、シリコーンレジンの乾燥温度は、200℃〜300℃が良いことが判明した。
【0075】
図7に示すように、磁界が強くなるに従い、透磁率の比率は低下する傾向にあるが、乾燥温度が175℃の比較例11に比べて、乾燥温度が200℃以上の実施例16〜18の方が、透磁率の比率の低下が抑制されることが判明した。
【0076】
以上より、シリコーンレジンの乾燥温度は200℃〜300℃が好ましいことが判明した。乾燥温度を上記範囲とすることにより、損失が低減され、透磁率の比率の低下を抑制することのできる圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0077】
[6.第5の特性比較(無機絶縁粉末の比表面積による比較)]
第5の特性比較では、軟磁性粉末に添加する無機絶縁粉末の比表面積を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。本特性比較では、比表面積が異なるアルミナ粉末を添加した実施例19〜21および比較例14について、磁気特性を測定した。
【0078】
実施例19〜21および比較例14で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(2)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)作製した軟磁性粉末に比表面積が50〜130m/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(2)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0079】
【表5】
【0080】
表5は、本実施例において、軟磁性粉末に添加した無機絶縁粉末の比表面積と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、図8は、軟磁性粉末に添加した無機絶縁粉末の比表面積と損失との関係を示したグラフである。
【0081】
表5及び図8に示すように、無機絶縁粉末の比表面積が大きいほうが、圧粉磁心の損失が小さいことが判明した。特に、比表面積が65〜130m/gの無機絶縁粉末を添加した実施例19〜21では、比表面積が50m/gの無機絶縁粉末を添加した比較例14に比べて、ヒステリシス損失(Ph)及び渦電流損失(Pe)が低減し、鉄損(Pcv)が小さくなった。このため、軟磁性粉末に混合する無機絶縁粉末の比表面積は65〜130m/gが良いことが判明した。この理由としては、無機絶縁粉末の比表面積が大きいほうが、粒子径が小さくなり、軟磁性粉末間に無機絶縁粉末が隙間なく入り込み、圧粉磁心成形時の歪が緩和されることによると考えられる。
【0082】
以上より、軟磁性粉末に添加する無機絶縁粉末の比表面積は65〜130m/gが好ましいと判明した。比表面積を上記範囲とすることにより、ヒステリシス損失(Ph)及び渦電流損失(Pe)を低減した、低損失な圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
【0083】
[7.第6の特性比較(篩の分級による比較)]
第6の特性比較では、ガスアトマイズ法により作製された軟磁性粉末を篩う篩の分級を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。分級が150目(目開き106μm)のものを比較例15とし、200目(目開き75μm)のものを実施例22とした。
【0084】
本実施例22および比較例15で使用する試料は、上記第1の特性比較における本実施例1〜7の作製工程(1)、(7)にかえて下記の工程を行った。
(1)平均粒子径45.4μm、平均円形度0.99のFe50Niからなる軟磁性粉末をガスアトマイズ法で作製した。
(2)その後、150目(106μm)または、200目(75μm)で分級を行い、潤滑剤としてエチレンビスステアレートアミドを0.6wt%を混合した。
(3)最後に、成形体を800℃の熱処理温度で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0085】
【表6】
【0086】
表6は、本実施例において、分級と、圧粉磁心の磁気特性との関係を示した表である。また、図9は、本実施例22および比較例15について、磁界の強度に対する透磁率の比率を示したグラフである。
【0087】
表6に示すように、分級を200目(75μm)とした実施例22の方が、分級を150目(106μm)とした比較例15よりも損失が低減されることが判明した。また、図9に示すように、篩の分級が200目(75μm)のものの方が、強磁界における透磁率の比率の低下が抑制されることが分かった。また、篩の分級が200目(75μm)の方が、全体として鉄損(Pcv)の増加が抑制され、特に、渦電流損失(Pe)が273(kW/m)となり、増加が抑制されていることが分かった。また、ガスアトマイズ法により作製された軟磁性粉末を使用した場合でも、水アトマイズ法により作製された軟磁性粉末と同等の磁気特性を実現できることが判明した。
【0088】
以上より、篩の分級は200目(75μm)が好ましいと判明した。これにより、損失が低減され、強磁界における透磁率の比率の低下が抑制された圧粉磁心及びその製造方法を提供することができる。
【0089】
[8.第7の特性比較(Fe−Si合金粉末又は純鉄粉に対して構成する絶縁層の材料の種類の違いによる特性比較)]
第7の特性比較では、軟磁性粉末の表面に形成する絶縁層を構成する材料の種類を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例23〜25は、軟磁性粉末の表面に絶縁層としてシリコーンオリゴマー層を形成し、比較例16〜18は、軟磁性粉末の表面に絶縁層としてシランカップリング剤の層を形成した。
【0090】
本実施例23で使用する試料は、下記のように作製した。
(1)平均円形度0.97のFe−6.5%Si合金からなる軟磁性粉末をガスアトマイズ法で作製した。その後、250目(目開き63μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径(D50)を40μmとした。
(2)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が130m/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(3)これらに対して下記表8のメチル系のシリコーンオリゴマーAを1wt%混合し、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.4wt%混合して、大気雰囲気中、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(5)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で30目(目開き500μm)の篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンビスステアレートアミドを0.6wt%を混合した。
(6)上記工程により絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を、外径17mm、内径11mm、高さ8mmのトロイダル形状の容器に充填し、成形圧力15ton/cmで成形体を作製した。
(7)最後に、成形体を850℃の熱処理温度で窒素雰囲気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0091】
本実施例24で使用する試料は、本実施例23の作製工程(1)に代えて、下記の工程を行った。
(1)平均円形度0.95のFe−3.5%Si合金からなる軟磁性粉末を水アトマイズ法で作製した。その後、150目(目開き106μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径(D50)を70μmとした。
【0092】
本実施例25で使用する試料は、本実施例23の作製工程(1)、(7)に代えて、下記の工程を行った。
(1)平均円形度0.9の純鉄粉からなる軟磁性粉末を水アトマイズ法で作製した。その後、250目(目開き63μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径(D50)を40μmとした。
(7)最後に、成形体を625℃の熱処理温度で水素雰囲気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0093】
比較例16〜18で使用する試料は、それぞれ本実施例23〜25の作製工程(3)、(4)に代えて、下記の工程を行った。
(3’)これらに対してシランカップリング剤(品名:A1100)を1wt%、メチルフェニル系シリコーンレジン(品名:TSR−108)を1.4wt%混合し、大気雰囲気中、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
【0094】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表7】
表7は、本実施例23〜25及び比較例16〜18の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。表7の「絶縁層の第1層目」は、軟磁性粉末の表面に形成する樹脂の種類を示し、「絶縁層の第2層目」は、軟磁性粉末の表面の第1層目の絶縁層の外側に形成される絶縁層の樹脂の種類を示す。鉄損は、周波数100kHz、最大磁束密度100mTの条件で算出したものである。表7に示すように、絶縁層の第1層目にシリコーンオリゴマーを使用した本実施例23〜25の鉄損が、シランカップリング剤を使用した比較例16〜18と比べて同程度又は低くなっていることが分かる。
【0095】
図10は、本実施例23及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。図11は、本実施例24及び比較例17の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。図12は、本実施例25及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。なお、透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。透磁率の比率は、直流を重畳させていない状態(磁界の強さが0H(A/m)の時)の透磁率を100%とし、各磁界における0H(A/m)時の透磁率との変化割合を示す。
【0096】
図10図12に示すように、本実施例23〜25の透磁率の比率が、各磁界の強さにおいて、比較例16〜18の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。直流重畳特性が向上しているのは、均一に無機絶縁粉末(アルミナ粉末)が分布していることが1つの要因と考えられる。
【0097】
[9.第8の特性比較(シリコーンオリゴマーの種類の違いによる比較)]
第8の特性比較では、Fe−Si合金粉末又は純鉄粉に添加するシリコーンオリゴマーの種類を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例26〜29として、軟磁性粉末をFe−6.5%Si合金粉末、Fe−3.5%Si合金粉末とし、シリコーンオリゴマーの種類以外の工程を実施例23、24と同じにして、シリコーンオリゴマーの種類を下記の表8のオリゴマーB、Dの通りとした。また、実施例30、31として、軟磁性粉末を純鉄粉とし、シリコーンオリゴマーの種類以外の工程を実施例25と同じにして、シリコーンオリゴマーの種類の種類を下記の表8の種類B、Dの通りとした。
【0098】
なお、表8のシリコーンオリゴマーAは、アルコキシシランを40〜50%含むシリコーンオリゴマーであり、シリコーンオリゴマーBは、オルガノポリシロキサンを100%含むシリコーンオリゴマーである。シリコーンオリゴマーCは、オルガノポリシロキサンを100%含むシリコーンオリゴマーであり、シリコーンオリゴマーDは、アルコキシシロキサンを100%含むシリコーンオリゴマーである。シリコーンオリゴマーEは、メトキシ官能性メチル-フェニル-ポリシロキサンを含むシリコーンオリゴマーである。
【表8】
【0099】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表9】
表9は、実施例23、26、27及び比較例16の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図13は、実施例23、26、27及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表9に示すように、実施例23、26、27及び比較例16間で鉄損は同程度であることが分かる。一方、図13に示すように、実施例23、26、27の透磁率の比率は、各磁界の強さにおいて、比較例16の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。実施例23、26、27のうち、実施例26、27の透磁率の比率は同程度であり、実施例23が最も直流重畳特性が向上していることが確認できる。
【0100】
【表10】
表10は、実施例24、28、29及び比較例17の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図14は、実施例24、28、29及び比較例17の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表10に示すように、実施例24、28、29が比較例17と比べて鉄損が低くなっていることが分かる。一方、図14に示すように、実施例24、28、29の透磁率の比率は、各磁界の強さにおいて、比較例17の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。実施例24、28、29のうち、実施例28、29の透磁率の比率は同程度であり、実施例24が最も直流重畳特性が向上していることが確認できる。
【0101】
【表11】
【0102】
表11は、実施例25、30、31及び比較例18の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図15は、実施例25、30、31及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表11に示すように、実施例25、30、31が比較例18と比べて鉄損が低くなっていることが分かる。一方、図15に示すように、実施例25、30、31の透磁率の比率は、各磁界の強さにおいて、比較例18の透磁率の比率よりも上回っており、直流重畳特性が向上していることが分かる。実施例25、30、31のうち、実施例30、31の透磁率の比率は同程度であり、実施例25が最も直流重畳特性が向上していることが確認できる。
【0103】
以上のように、図13図15及び表8より、有機置換基がメチル系であるオリゴマーAを使用した場合に、直流重畳特性が良好な結果を示す傾向にあることが分かる。
【0104】
[10.第9の特性比較(シリコーンオリゴマーの添加量による比較)]
(1)軟磁性粉末がFe−Si合金粉末である場合
第9の特性比較では、Fe−Si合金粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例32〜36として、シリコーンオリゴマーの添加量以外の工程を実施例23と同じにして、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%までのものを用意した。
【0105】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表12】
表12は、実施例23、32〜36及び比較例16の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図16は、実施例23、32〜36及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表12に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%の範囲で鉄損が比較例16と同程度であることが分かった。添加量が0.15wt%未満であると、絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が3.5wt%を超えると、圧粉磁心の強度が低下する場合がある。図16に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%の場合、他の実施例と比べて直流重畳特性が比較例16よりも低下する。一方、シリコーンオリゴマーの添加量が0.5wt%〜3.5wt%である実施例23、33〜36の場合、直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、シリコーンオリゴマーの添加量が2wt%〜3.5wt%の実施例34〜36において、直流重畳特性が比較例16と比べて、格段に向上していることが分かった。
【0106】
(2)軟磁性粉末が純鉄粉である場合
また、純鉄粉に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例37〜41として、シリコーンオリゴマーの添加量以外の工程を実施例25と同じにして、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%までのものを用意した。
【0107】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表13】
表13は、実施例25、37〜41及び比較例18の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図17は、実施例25、37〜41及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表13に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が0.15wt%〜3.5wt%の範囲で比較例18と比べて良好な結果であることが分かった。添加量が0.15wt%未満であると、絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が3.5wt%を超えると、圧粉磁心の強度が低下する場合がある。従って、シリコーンオリゴマーの添加量は0.15wt%〜3.5wt%であることが、より好ましい。図17に示すように、実施例25、37〜41は比較例18と比べて、全ての各磁界の強さにおいて直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、シリコーンオリゴマーの添加量が2wt%〜3.5wt%の実施例39〜41において、直流重畳特性が比較例16と比べて、格段に向上していることが分かった。
【0108】
[11.第10の特性比較(シリコーンオリゴマーの乾燥温度による比較)]
(1)軟磁性粉末がFe−Si合金粉末である場合
第10の特性比較では、Fe−Si合金粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例42〜44及び比較例19として、シリコーンオリゴマーの乾燥温度以外の工程を実施例23と同じにして、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が25℃〜400℃までのものを用意した。
【0109】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表14】
表14は、実施例23、42〜44及び比較例16、19の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図18は、実施例23、42〜45及び比較例16の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表14に示すように、鉄損は、実施例23、42〜44が比較例16と比べて同程度であり、比較例19より低くなることが分かった。一方、図18に示すように、実施例23、42〜44は、比較例18と比べて、全ての各磁界の強さにおいて直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、実施例42〜44は、直流重畳特性が比較例16と比べて格段に良好である。乾燥温度が25℃未満であると膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなりやすいが、25℃前後であると乾燥のための特別な設備を設けなくて済むという利点がある。一方、乾燥温度350℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、鉄損が増大する傾向にある。また、圧粉磁心の強度が低下する場合がある。
【0110】
(2)軟磁性粉末が純鉄粉である場合
また、純鉄粉に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例45〜48及び比較例20として、シリコーンオリゴマーの乾燥温度以外の工程を実施例25と同じにして、シリコーンオリゴマーの乾燥温度が25℃〜350℃までのものを用意した。
【0111】
(鉄損及び直流重畳特性)
【表15】
表15は、実施例25、45〜48及び比較例18、20の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図19は、実施例25、45〜48及び比較例18の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表15に示すように、実施例25、45〜48は、比較例18、20と比べて低鉄損であることが分かった。乾燥温度が350℃である比較例20では、実施例25、45〜48と比べて、約2倍程度鉄損が増大している。これは、乾燥温度が350℃を超えると、粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなることが要因を考えられる。また、図19に示すように、実施例25、45〜48は、比較例18と比べて、全ての各磁界の強さにおいて直流重畳特性が良好な結果であることが分かった。特に、実施例45、46、47で比較例18と比べて直流重畳特性が格段に向上していることが分かった。その中でも実施例46が最も良好な結果を示している。なお、比較例20の透磁率の比率のグラフは図20に示していない。比較例20は鉄損が大きく、直流重畳特性を得るための有効な透磁率が得られなかったからである。
【0112】
[12.第11の特性比較(無機絶縁粉末の有無の比較)]
第11の特性比較では、Fe−Si合金粉末に添加する無機絶縁粉末の有無による圧粉磁心の鉄損及び直流重畳特性の比較を行った。実施例49は、軟磁性粉末をFe−6.5%Si合金粉末とし、無機絶縁粉末付着工程をなくして、その他を実施例23と同じにして作製したものである。実施例50は、軟磁性粉末をFe−3.5%Si合金粉末とし、無機絶縁粉末付着工程をなくして、その他を実施例24と同じにして作製したものである。すなわち、実施例49、50は、実施例23、24の上記(2)の工程をなくし、上記(1)の工程後に、上記工程(3)〜(7)を行ったものである。
【表16】
【表17】
【0113】
表16は、実施例23、49の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。表17は、実施例24、50の鉄損(Pcv)の算出結果を示す。図20は、実施例23、49の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。図21は、実施例24、50の磁界の強さに対する透磁率の比率を示すグラフである。表16及び表17に示すように、実施例49は実施例23と、実施例50は実施例24と鉄損が同程度であることが分かった。図20及び図21に示すように、実施例23、49及び実施例24、50は、それぞれ直流重畳特性に違いは認められなかった。軟磁性粉末にSiが含まれている場合、無機絶縁粉末が無い場合でも、ある場合と同等の直流重畳特性が得られると考えられる。
【0114】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
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