(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471288
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】フラーレン組成物、樹脂添加剤および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20190207BHJP
C08K 5/34 20060101ALI20190207BHJP
C08K 5/32 20060101ALI20190207BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20190207BHJP
C08J 3/20 20060101ALN20190207BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/34
C08K5/32
C08K3/04
!C08J3/20 ZCFG
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-257739(P2014-257739)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-117818(P2016-117818A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】塙 健三
【審査官】
松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−514412(JP,A)
【文献】
特開2011−184429(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/093885(WO,A1)
【文献】
特開2010−009760(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0295166(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0199601(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/121417(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0025490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C07D 295/00 − 295/32
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素複素環N−オキシド化合物にフラーレンが溶解しており、
前記フラーレンの濃度が、0.01〜4質量%である組成物。
【請求項2】
前記フラーレンが、フラーレンC60またはフラーレンC70である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記含窒素複素環が、4〜7員環である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記含窒素複素環が、ピリジン環またはピペリジン環である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を含む樹脂添加剤。
【請求項6】
極性基を有する樹脂と請求項5に記載の樹脂添加剤とを混合し、前記含窒素複素環N−オキシド化合物を除去して得られる樹脂組成物。
【請求項7】
前記フラーレンの濃度が、0.0001〜2質量%である請求項6に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン組成物、樹脂添加剤および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、フラーレンC
60がサケ油に0.05質量%まで溶解することが記述されている。これは、ホスホグリセリド・レシチンとフラーレンの特異的なπ−π相互作用に関連があるとされている。
【0003】
非特許文献1において、フラーレンを溶かす溶媒について200種類以上の溶媒の溶解度のデータが整理されている。その中にピリジンやピペリジンに溶解することが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2007/001188号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Karl M.Kadish,FULLEREENES Chemistry, Physics, and Technology,P53−90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラーレンは、炭素の同素体としては唯一、溶媒への溶解が可能である。しかし、フラーレンを好ましく溶解できる溶媒は、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンのようなベンゼン環を有する一部の溶媒に限られており、他の溶解可能な溶媒では溶解度はきわめて低い値である。
【0007】
本発明の課題は、芳香族化合物以外で、一定以上のフラーレンを溶解することのできる溶媒を提供することである。
【0008】
また、フラーレンにはラジカルを捕捉する効果があり、樹脂の添加剤として有望である。しかし、フラーレンは一般に微粒子であり、そのまま微粒子を添加しても溶解させるのは困難であった。フラーレンを溶解可能な溶媒として知られているトルエン等の溶液にして、極性基を有する樹脂と混合しても、極性基を有する樹脂はトルエンに溶解しないため溶媒の分離が生じ、うまく混和させることが困難であった。
【0009】
そこで、フラーレンを溶解し、かつ極性基を有する樹脂との混合性に優れた組成物を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)
含窒素複素環N−オキシド化合物にフラーレンが溶解して
おり、前
記フラーレンの濃度が
、0.01〜4質量%である組成物。
(2)前記フラーレンが、フラーレンC
60またはフラーレンC
70である前項
(1
)に記載の組成物。
(3)前記含窒素複素
環が、4〜7員環である前項(1)または(2)に記載の組成物。
(4)前記
含窒素複素環が、ピリジン環またはピペリジン環である前項
(3
)に記載の組成物。
(5)前項
(1
)〜
(4
)のいずれかに記載の組成物を含む樹脂添加剤。
(6)極性基を有する樹脂と前項
(5
)に記載の樹脂添加剤とを混合し、
前記含窒素複素環N−オキシド化合物を除去して得られる樹脂組成物。
(7)前
記フラーレンの濃度が、0.0001〜2質量%である前項
(6
)に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、極性基を有する樹脂に樹脂添加剤として添加されることにより、耐久性が向上された樹脂組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組成物は、フラーレンが溶解している含窒素複素環N−オキシド化合物からなる。
【0014】
本発明に用いるフラーレンとしては、C
60、C
70、C
84、さらに高次のフラーレン、及びこれらの混合物が挙げられる。入手性より、C
60またはC
70あるいはそれらの混合物を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の成物中のフラーレンの濃度は、0.01〜4質量%が好ましく、0.01〜3質量%がより好ましく、0.03〜2質量%がさらに好ましい。フラーレンの濃度が上記範囲であれば、分子レベルで溶解することが予想され、フラーレン添加による明確な効果が期待できる。フラーレンの濃度が4質量%以上の場合、溶解しないフラーレンが凝集粒子として存在し、機械的特性に悪影響を与えるため好ましくない。
【0016】
本発明で用いる含窒素複素環N−オキシド化合物の複素環は、例えば、6員環のピペリジン環、ピリジン環;5員環のピロリジン環、ピロール環;4員環のアゼチジン環、アゼト環;7員環のアゼパン環、アゼピン環等が好ましく挙げられる。それらの中でも、安定であるため、前記5員環と前記6員環のものがより好ましく、前記6員環のものがさらに好ましい。
含窒素複素環N−オキシド化合物は置換基を有してもよく、例えば、メチル基、エチル基、水酸基、カルボキシル基が挙げられる。前記置換基は縮合環になっていても良い。置換基としてフェニル基を有するとフラーレンの溶解性が向上するため好ましい。
【0017】
本発明で用いる含窒素複素環N−オキシド化合物の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−オキシルラジカル、ピリジンオキシド、ベンゾ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−オキシルラジカル、ベンゾピリジンオキシド、等が挙げられる。
【0018】
本発明の組成物を製造する方法として、含窒素複素環N−オキシド化合物を溶媒として、フラーレンを溶解させる。常温で溶媒が固体のものは融点以上の温度にしてフラーレンを溶解させると良い。フラーレンを含窒素複素環N−オキシド化合物に溶解させる際には、超音波分散機、ウルトラディスパーザー等が使用できる。この時、溶媒の粘度の高いものについてはプラネタリーミキサー等が使用できる。ビーズミルのような媒体式粉砕機により微粉砕を行うと、フラーレンは凝集力が大きいため、逆に粒径が大きくなる場合あり好ましくない。
【0019】
本発明の樹脂添加剤は、本発明の組成物を含む。本発明の樹脂添加剤は、フラーレンが含まれるためラジカル捕捉剤として用いることができる。特に本発明の樹脂添加剤は、極性基を有する樹脂に好適に使用できる。極性基を有する樹脂として、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリイミド、ポリアリルスルホン酸(塩)、ナイロン6、ナイロン66、セルロース、セルロースエステル、ポリフタルアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド、ポリ乳酸、ポリ無水マレイン酸、ポリメタクリル酸、ポリピロメリトイミド、ポリテトラフルオロエチレン、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、含フッ素エラストマー、含塩素エラストマーが挙げられる。
【0020】
本発明の樹脂添加剤中の本発明の組成物の含有量及び本発明の樹脂添加剤の樹脂への添加量は、前記樹脂添加剤を樹脂に添加したとき、樹脂中にフラーレンを好ましくは0.0001〜2質量%含むように、より好ましくは0.0002〜1質量%含むように、さらに好ましくは0.0002〜0.5質量%含むように調整する。フラーレンの含有量が上記範囲であれば、フラーレンが分子レベルで樹脂に溶解することが予想され、加熱、冷却工程を経てもフラーレンの凝集が生じることがなく、樹脂添加剤として前述の効果が期待できる。
【0021】
本発明の樹脂添加剤を樹脂に混合させる際には一般的な方法を用いることができるが、簡便な方法として溶融混練などが適当である。
【0022】
含窒素複素環N−オキシド化合物は、工業用品、医農薬中間体、食品、化粧品等に非常に広く使われている複素環化合物の一種である。一方フラーレンは、電子受容体として非常に優れた特性を示し、ラジカルトラップとしての働きが顕著であり、広い用途で添加効果が確認されている。
【0023】
このため、含窒素複素環N−オキシド化合物にフラーレンを溶解させた本発明の組成物は、医農薬中間体や樹脂等の添加剤として用いることで、劣化や変質の防止の効果がある。特に、樹脂の添加剤として用いれば主鎖の切断を抑制することが予想され、耐熱性、機械的特性の耐久性向上等の効果が期待される。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
市販の2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシルラジカル300gを50℃に加熱し、撹拌しながらフラーレン混合物(C
60及びC
70を含む混合物、nanom mix ST、フロンティアカーボン社製)を6g添加し、超音波分散機で3分間処理して溶液を得た。この溶液を室温まで冷却し、その後乳鉢で粉砕して1.96質量%のフラーレンを含有する粉末状の組成物を得た。
【0026】
<実施例2>
ピリジンN−オキシド300gを70℃に加熱し、撹拌しながらフラーレン混合物(nanom mixST、フロンティアカーボン社製)を6g添加し、実施例1と同様にして溶液を得た。この溶液を室温まで冷却し1.96質量%のフラーレンを含有する粉末状の組成物を得た。
【0027】
<参考例>
実施例1のフラーレン混合物0.1質量%をトルエンに添加したこと以外は実施例1と同様にしてフラーレン含有トルエン組成物を得た。
【0028】
実施例1及び2のフラーレン組成物の300nm〜900nmの紫外可視光分光曲線と、参考例のフラーレン混合物を0.1質量%含有するトルエン溶液の同分光曲線を比較したところ、それぞれのピーク波長(約335nm)がほぼ一致することを確認した。なお、実施例1,2のフラーレン含有組成物の測定では、冷熱式セルホルダを使用して、ちょうど溶解した温度での紫外可視光分光曲線を得た。従来、フラーレンはトルエンに対して0.1質量%以上溶解することが知られており、また、フラーレンが溶解せず凝集粒になっていると分光分析では明確なピークが得られないため、実施例1および2の組成物でもフラーレンが溶解したものと判断できる。
【0029】
<比較例1>
実施例1のフラーレン混合物の添加量を15gとしたこと以外は実施例1と同様にしてフラーレン含有溶液を得た。この溶液では一部のフラーレンが溶解せずに沈殿していたが、このまま濾過せずに冷却して4.76質量%のフラーレンを含有する粉末状の組成物を得た。
【0030】
<比較例2>
実施例2のフラーレン混合物の添加量を15gとしたこと以外は実施例2と同様にしてフラーレン含有溶液を得た。この溶液では一部のフラーレンが溶解せずに沈殿していたが、このまま濾過せずに冷却して4.76質量%のフラーレンを含有する粉末状の組成物を得た。
【0031】
<実施例3〜4、比較例3〜8>
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で得られた粉末を樹脂添加剤として用いた。これら樹脂添加剤をそれぞれ下記表1の配合量になるよう下記条件でナイロン6に混練した。なお、混練は減圧下で行なった。混練の過程で含窒素複素環N−オキシド化合物やトルエンは蒸発し留去され、実質的にフラーレンのみがナイロン6に残る。
混練装置;ラボプラストミル(登録商標)(東洋精機)
混練温度;230℃
混練時間;5分
【0032】
その後、プレスにて平板を成形し、引っ張り疲労試験用のダンベル(ASTMI号ダンベル引張試験片)を打ち抜いて作製した。引っ張り疲労試験は、片振、5Hz、応力5.5kg/mm
2 、応力比=0、室温下の条件にて行い、破断までの繰り返し回数を測定した。引張り疲労試験の測定結果は、複素環化合物の組成物の無添加品(比較例5 劣化前)の結果を1とした相対値で示した。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例3、4では、比較例5と比較して、破断するまでの回数が向上した。一方、フラーレンの添加量が多い比較例3、4は無添加品より少ない回数で破断してしまい、劣化が促進されてしまった。実施例1、2と比較して含有フラーレンの量が多いため、フラーレンが凝集していることが原因であると推察される。比較例6は実施例3と比較してフラーレンを含有していない樹脂組成物である。複素環化合物だけでは耐久性向上の効果が無いことがわかる。また複素環化合物を用いずフラーレンを単独で添加した比較例7は、実施例4より早く破断してしまった。比較例7ではフラーレンを微分散できず凝集体が存在しているためと推察される。トルエン組成物を用いた比較例8は、非常に劣化が早くなった。トルエン組成物がナイロンに混ざり合わなかったためフラーレンが偏在したことが原因であると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の組成物は、例えば、極性基を有する樹脂に添加することにより、天然樹脂、合成樹脂類の添加剤、工業用品、医農薬中間体、食品、化粧品、潤滑剤等の添加剤、その他の油脂の分野で有効である。