特許第6471366号(P6471366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6471366インクレチンホルモン又はそのアナログを用いた変形性関節症の処置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471366
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】インクレチンホルモン又はそのアナログを用いた変形性関節症の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20190207BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20190207BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20190207BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190207BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20190207BHJP
   C07K 14/575 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   A61K38/22ZNA
   A61K38/26
   A61P19/02
   A61K45/00
   A61P43/00 111
   C07K14/605
   C07K14/575
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-529103(P2015-529103)
(86)(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公表番号】特表2015-528460(P2015-528460A)
(43)【公表日】2015年9月28日
(86)【国際出願番号】FR2013051998
(87)【国際公開番号】WO2014023923
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年6月1日
(31)【優先権主張番号】1258100
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507240336
【氏名又は名称】アシスターンス・ピュブリック−オピトー・ドゥ・パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ベレンバウム,フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ブグー,キャロル
(72)【発明者】
【氏名】アタリ,クレール
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−530508(JP,A)
【文献】 糖尿病,2009年,Vol.52,No.6,p427−431
【文献】 癌と化学療法,2010年,Vol.37,No.Suppl.2,p272−274
【文献】 アルツディスポ関節注25mg,2016年 7月,[online],[平成29年10月30日検索],Retrieved from the internet:,URL,http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/380003_3999408G1247_1_11.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP−1ペプチド、GIPペプチド、及びそれらのアナログからなる群から選択されるペプチドと、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤とを含み、
前記GLP−1ペプチド、GIPペプチド、及びそれらのアナログからなる群から選択されるペプチドは、エキセナチド、リラグルチド、エキセンジン−4、アルビグルチド、タスポグルチド、リキシセナチド、デュラグルチド(dulaglutide)(LY2189265)、LY315902、LY2199265、LY2428757、セマグルチド(semaglutide)(NN9535)、CJC−1131、CJC−1134ZP10、及び配列番号1〜6のいずれかの配列からなるペプチドからなる群より選択される、関節内投与用の変形性関節症の処置に使用するための医薬組成物。
【請求項2】
前記ペプチドは、GLP−1(7−36)アミドペプチド(配列番号4)及びGLP−1(7−37)ペプチド(配列番号3)からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ペプチドは、GIP(1−42)ペプチド(配列番号6)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、エキセナチド、リラグルチド、エキセンジン−4、アルビグルチド、タスポグルチド、リキシセナチド、デュラグルチド(dulaglutide)(LY2189265)、LY315902、LY2199265、LY2428757、セマグルチド(semaglutide)(NN9535)、CJC−1131、CJC−1134及びZP10からなる群より選択されるGLP−1ペプチドのアナログである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ペプチドは、エキセナチド及びリラグルチドからなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1つ以上の他の活性物質との組合せで、変形性関節症の処置に使用するための、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物と前記他の活性物質は同時に投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物と前記他の活性物質は連続して投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記他の活性物質はジペプチジルペプチダーゼIV酵素の阻害剤である、請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記他の活性物質は、シタグリプチン、サクサグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン及びリナグリプチンからなる群から選択されるジペプチジルペプチダーゼIV酵素の阻害剤である、請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記他の活性物質は、鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬、及び遅効性抗関節炎薬からなる群から選択される、請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物は、変形性関節症の局所的処置と組み合わせて投与される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜のいずれか1項において定義される複数のペプチドを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物は1つ以上の他の活性物質も含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物は、シタグリプチン、サクサグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン及びリナグリプチンからなる群から選択される、1つ以上のジペプチジルペプチダーゼIV酵素阻害剤をも含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記医薬組成物は、鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬、及び遅効性抗関節炎薬からなる群から選択される、1つ以上の他の活性物質をも含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤の分野に関し、より詳細には変形性関節症の処置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症又は慢性的変形性関節症は、関節軟骨の構造的劣化により特徴づけられる慢性的関節疾患である。この病態の症状は対象となる関節によって異なり得るが、一般的に、機能的障害つまり対象となる関節の動きの限定に関連した継続的な痛みにより特徴づけられる。
【0003】
関節軟骨は、軟骨細胞と、主に水分、プロテオグリカン及びコラーゲンから形成される細胞外基質とからなる結合組織である。軟骨細胞は、合成と再生とを確実にする細胞外基質のホメオスタシスにおいて、機能的役割を果たす。即ち、軟骨の維持は、軟骨細胞と基質との持続的で複合的なやりとりに依存し、破壊性サイトカイン、特に炎症性サイトカインであるTNF−αやIL−1βの影響下における変性機構と、サイトカインや成長因子の、特にIGF−1、TGF−β、及びある種のBMP(骨形成タンパク質)の変調の影響下における合成又は回復機構との、臨界的な平衡状態に絶えずさらされる。
【0004】
関節軟骨の破壊は、細胞外基質の同化機構と異化機構との不均衡をもたらす。複数の因子が基質のホメオスタシスの破壊を促進し、これは特に、例えば肥満患者、外傷、反復的な微小外傷、関節の構造的欠陥、代謝、遺伝子、若しくはホルモン因子、又はその他の加齢などにおける関節の負荷に関連した機構的因子である。しかし、関節の発症過程については現在のところまだ多くは理解されていないままである。
【0005】
同化機構と異化機構との不均衡は、メタロプロテアーゼ(MMP)合成の増加(Blanc他、1999年)、TIMP(メタロプロテアーゼの組織阻害剤、MMPの生理的な阻害剤)合成の減少、及び軟骨細胞による基質成分の合成の阻害を生じさせる。この不均衡は、軟骨細胞のアポトーシス現象の促進によって(Hashimoto他、1998年)、また滑膜組織によって放出される種々の媒介物を介した軟骨細胞の活性によって(Sellam及びBerenbaum、2010年)強められる。軟骨細胞と滑膜細胞とによって合成される炎症性サイトカインIL−1βは、関節の破壊プロセスにおいて主要な役割を果たし、また、軟骨細胞によるMMP産生の増加だけでなく、同化能力の減少や細胞のアポトーシスも引き起こす(Goldring他、2008年)。さらに、軟骨下骨も、特に骨芽細胞によるタンパク質分解酵素の分泌によって、基質の分解現象に関与する(Sanchez他、2012年)。
【0006】
変形性関節症の基質タンパク質分解に関わる基質メタロプロテアーゼ(MMP)は、コラゲナーゼ、ストロメリシン、ゼラチナーゼ、及び膜メタロプロテアーゼである(Rannou他、2005年)。これらの酵素すべてが軟骨に特異的であるわけではなく、多くの生理的プロセス、特に数多くの結合組織リモデリングに関わる(Nagase他、1999年)。間質コラゲナーゼ(MMP−1、−8、−13)は、コラーゲンI、II、III、IV及びVIIを分解することが可能である。これらの酵素によって変性されたコラーゲンはゼラチナーゼのための基質になる。ストロメリシン(MMP−3、−10、−11)は、プロテオグリカン、ゼラチン、フィブロネクチン、及びIX型コラーゲンを分解することが可能であるが、MMP−3のみが軟骨基質の分解に関連していると考えられる(Stove他、2001年)。ゼラチナーゼ(MMP−2及び−9)は、変性された間質コラーゲンとIV型及びV型コラーゲンとを分解する。また、MMP−1、−3、及び−13もプロテオグリカンを分解することが可能であることが示されている(Little他、2002年)。その他の酵素、特にアグリカナーゼADAMTS−4及び−5も、基質タンパク質分解においてある役割を果たしていると考えられる(Fosang及びLittle、2008年)。
【0007】
メタロプロテアーゼに加えて、その他の異化媒介物も関節の変性に関与しており、特に軟骨の分解と軟骨細胞のアポトーシスとに関わるプロスタグランジンE2が挙げられる(Hardy他、2002年、Miwa他、2000年)。
【0008】
変形性関節症に罹患する患者に提案される処置は対症的であり、これは現時点ではこの病態に対する根治的治療はないためである。薬剤による処置は、即効性作用を伴う(鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬)又は遅効性作用を伴う(例として、硫酸コンドロイチン(Structum、Chondrosulf)を含む薬剤、ジアセレイン(Art 50, Zondar)、アボカドや大豆の不ケン化抽出物(Piascledine)、又はヒアルロン酸など)対症的処置である。
【0009】
メタロプロテアーゼは、軟骨破壊の主要な役割を担うので、変形性関節症の進行を遅延する又は止めることが可能な新規の化合物の研究において特にターゲットになっている。しかし、これらのタンパク質は数多くの生理的プロセスに関わり、それらを阻害することで予期できない副作用をおこす可能性がある。例えば、化合物PG−116800を用いた事例において、臨床試験時にその筋骨格的毒性が明るみに出た(Krzeski他、2007年)。
【0010】
現在、フランスにおいて、徴候的な変形性関節症を伴う460万人を含む、約9百万〜1千万人が、変形性関節症による影響を受けていると考えられる。人口の高齢化や先進国の肥満率の増加も考慮すると、将来的に関節症患者数の大幅な増大が予期される。この増加によって、クオリティ・オブ・ライフの観点から、そして患者の治療における経済的観点からも、非常にコストがかかるであろう。故に、変形性関節症に苦しむ人々にとって、軟骨破壊を抑止又は遅延させる新規の方法がいち早く開発されることが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、変形性関節症の処置に使用されることが可能な新規の化合物を提供することである。
【0012】
発明者らは、インクレチンホルモンのGLP−1(グルカゴン様ペプチド1)とGIP(胃抑制ペプチド又はグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とが、骨芽細胞と軟骨細胞とにおいて、炎症性サイトカインIL−1βに応じた複数のメタロプロテアーゼ(MMP−3、MMP−13及びMMP−9)及びプロスタグランジンE2(PGE2)の過剰発現を抑止させることができることを示し、また、インクレチンホルモンが関節の破壊プロセスに関わる複数の分解促進媒介物の過剰発現を阻害することが可能であることを示した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、変形性関節症の処置における使用のためのインクレチンホルモン又はそのアナログに関する。より具体的には、本発明は、変形性関節症の処置における使用のための、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)に耐性があるGLP−1ペプチド、GIPペプチド、及びそれらのペプチドのアナログからなる群から選択されるペプチドに関する。
【0014】
本発明で用いられるペプチドは、配列番号1〜6の配列からなる群より選択される配列を特に含んでもよい。
【0015】
ペプチドは、GLP−1(7−36)アミドペプチド(配列番号4)、GLP−1(7−37)ペプチド(配列番号3)及びGIP(1−42)ペプチド(配列番号6)からなる群より特に選択されてもよい。好ましくは、ペプチドはGLP−1(7−36)アミドペプチド(配列番号4)、GLP−1(7−37)ペプチド(配列番号3)からなる群より選択される。
【0016】
ペプチドはまた、DPP−IVに耐性があるGLP−1又はGIPペプチドのアナログであってもよい。好ましくは、ペプチドはDPP−IVに耐性があるGLP−1のアナログであり、特にエキセナチド、リラグルチド、エキセンジン−4、アルビグルチド、タスポグルチド、リキシセナチド、LY315902、デュラグルチド(dulaglutide)(LY2189265)、LY2199265、LY2428757、セマグルチド(semaglutide)(NN9535)、CJC−1131、CJC−1134及びZP10からなる群より選択されるアナログである。またペプチドは、エキセナチド、リラグルチド、エキセンジン−4、アルビグルチド、タスポグルチド、リキシセナチド、LY315902、LY2199265、LY2428757、NN9535、CJC−1131、CJC−1134及びZP10からなる群より選択されるアナログであってもよい。さらに特に好ましくは、ペプチドは、エキセナチド及びリラグルチドからなる群より選択されるアナログである。
【0017】
本発明で使用されるペプチドは、1つ以上の他の活性物質との組合せで、変形性関節症の処置に用いられることができる。この場合、ペプチドと他の活性物質とは同時に又は連続で投与される。
【0018】
本発明で使用されるペプチドは、好ましくは、シタグリプチン、サクサグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン及びリナグリプチンからなる群、又は、鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬、及び遅効性抗関節炎薬などのその他の物質より選択される、ジペプチジルペプチダーゼIV酵素の阻害剤との組合せで特に用いられてもよい。またペプチドは、変形性関節症の局所療法と組み合わせて投与されてもよい。
【0019】
本発明で使用されるペプチドは、成熟形態で、プリカーサの形態で、又は該ペプチドをコードする核酸の形態で投与されてもよい。
【0020】
好ましくは、本発明で使用されるペプチドは、経口で、皮下に、静脈内に、又は関節内に投与されることが意図される。
【0021】
本発明はまた、変形性関節症の処置における使用のための、本発明に用いられるような1つ以上のペプチドと、薬学的に許容される1つ以上の担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0022】
また、本発明は、変形性関節症の処置における使用のための、本発明に用いられるような1つ以上のペプチド、又は、本発明に用いられるような1つ以上のペプチドをコードする1つ以上の核酸と、薬学的に許容される1つ以上の担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0023】
本組成物はまた、1つ以上の他の活性物質、特に、好ましくはシタグリプチン、サクサグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン及びリナグリプチンからなる群、又は、鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬、及び遅効性抗関節炎薬などのその他の活性物質より選択される、ジペプチジルペプチダーゼIV酵素の1つ以上の阻害剤を含んでもよい。
【0024】
本組成物は、摂取又は注射可能な組成物の形態で、好ましくは、経口で、皮下に、静脈内に、又は関節内に投与されることが意図される組成物の形態で、製剤化されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、軟骨細胞における、IL−1β(0.1ng/ml又は1ng/ml)に応じたMMP−3、MMP−9及びMMP−13酵素の発現の誘導においての、GLP−1(7−36)アミド、GLP−1(7−37)又はGIPペプチドの作用を示す。リアルタイムの定量RT−PCRによって得られた値は、対照から得られた値に関して標準化される(IL−1βなし、及びGLP−1又はGIPなし)。Aは、GLP−1(7−36)アミド(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−3及びMMP−13の発現を示す。Bは、GIP(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−3及びMMP−13の発現を示す。Cは、GLP−1(7−37)(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−3及びMMP−13の発現を示す。Dは、GLP−1(7−36)アミド(10nM)、GLP−1(7−37)(10nM)、又はGIP(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−9の発現を示す。
図2図2は、骨芽細胞における、IL−1β(0.1ng/ml又は1ng/ml)に応じたMMP−3、MMP−9及びMMP−13酵素の発現の誘導においての、GLP−1(7−36)アミド、GLP−1(7−37)又はGIPペプチドの作用を示す。リアルタイムの定量RT−PCRによって得られた値は、対照から得られた値に関して標準化される(IL−1βなし、及びGLP−1又はGIPなし)。Aは、GLP−1(7−36)アミド(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−3及びMMP−13の発現を示す。Bは、GIP(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−3及びMMP−13の発現を示す。Cは、GLP−1(7−37)(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−3及びMMP−13の発現を示す。Dは、GLP−1(7−36)アミド(10nM)の存在下又は非存在下におけるMMP−9の発現を示す。
図3図3は、IL−1β(1ng/ml)に応じた、軟骨細胞によるプロスタグランジンE2放出の誘導における、GLP−1(7−36)アミドペプチドの作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
インクレチンホルモンのGLP−1(グルカゴン様ペプチド1)とGIP(胃抑制ペプチド又はグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とは、栄養素の吸収に応じて腸上皮の内分泌細胞によって放出される消化管ホルモンである。GLP−1ペプチドは、37アミノ酸の不活性ペプチドの形態であり、プレプログルカゴン分子のタンパク質切断により、回腸又は大腸のL細胞によって産生される。そして、6つのN末端残基は、血液内に存在する2つの活性形態、つまりGLP−1(7−37)及び主な形態であるGLP−1(7−36)アミドを得るために切断される(Vahl他、2003年)。GIPホルモンは、十二指腸のK細胞によって分泌される42アミノ酸のペプチドである。これらのホルモンは、循環されると、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)により速やかに不活性化される(Deacon他、2005年、Orskov他、1993年)。
【0027】
インクレチンホルモンの分泌はグルコースによって刺激され、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞における作用を増強する。故に、インクレチンホルモンは、血糖の上昇(食後の血糖)に応じてのみ観察されるインスリン分泌作用を有する(Kreymann他、1987年)。また、多くの研究により、インクレチンホルモンが膵臓のβ細胞量とこれらの細胞におけるインスリン合成とを増加させることが示されている(Kim他、2005年、Buteau他、2008年)。GLP−1ペプチドはまた、血糖上昇ホルモンであるグルカゴンの分泌も抑止する(Heller他、1997年)。
【0028】
GIPペプチドとは異なり、GLP−1ホルモンは、2型糖尿病に罹患する患者においてこのインスリン分泌作用を保持する。このため、特に、インスリン分泌作用がグルコース依存性であり、GLP−1の投与に関連する血糖低下のリスクが高用量の場合でも限定的であることから、この病態の処置に治療上の大きな関心が寄せられている。また、エキセナチド又はリラグルチドなどの、DPP−IVに耐性のあるGLP−1アナログが開発されて、現在では糖尿病の処置に用いられている。
【0029】
インクレチンホルモンはまた、視床下部、消化管及び循環器系にも作用する(Zhao他、2006年)。特に、該ホルモンは胃の内容物排出を遅らせ、満腹感を導くことによって人の食物摂取量を抑制するのに役立つ(Gutzwiller他、1999年)。また、GIPペプチドは脂肪組織において特異的な作用を有し、吸収された脂肪の利用を促進すると考えられる(Yip及びWolfe、2000年)。そのため、これらのホルモンを肥満の治療に用いることが考慮され得る(Neff及びKushner、2010年)。
【0030】
本発明者らは、まったく別の病態、つまり変形性関節症において、インクレチンが治療的作用を有し得るということを現在明らかにしている。また、本発明者らは、軟骨細胞及び骨芽細胞培養培地におけるGLP−1(7−37)(配列番号3)、GLP−1(7−36)アミド(配列番号4)又はGIP(配列番号6)ペプチドの存在が、関節の軟骨の破壊の主な媒介物であるサイトカインIL−1βを用いた処置に応じて、これら細胞の複数のメタロプロテアーゼ(MMP−3、MMP−9及びMMP−13)による過剰発現の抑止を可能にすることを実際に示した。そしてまた本発明者らによると、これらのペプチドは、IL−1βに応じた、軟骨細胞による別の分解促進媒介物である炎症性プロスタグランジンE2(PGE2)の放出を抑止する。
【0031】
このように、発明者らは、関節症プロセスにおいて軟骨破壊に関わるいくつかの要因に対するインクレチンホルモンGLP−1及びGIPの直接的な抑止作用を示した。これらのホルモン又はそのアナログの使用は、変形性関節症の処置の新規の方法となる。この方法は、複数のGLP−1アナログが既に無害性を示し、保健当局により承認されていることから、一段と有利である。
【0032】
本発明は、故に、変形性関節症の処置における使用のための、GLP−1ペプチド、GIPペプチド、及びジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)に耐性があるそれらのペプチドのアナログからなる群から選択されるペプチドに関する。
【0033】
本明細書では、用語「ペプチド」、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」、又は「タンパク質」は暗に示される区別なく用いられ、その鎖を形成するアミノ酸残基の数に関わらず、ペプチド結合したアミノ酸鎖に関する。
【0034】
一実施形態において、本発明で使用されるペプチドは、GLP−1ペプチドとGIPペプチドとからなる群より選択される。GLP−1又はGIPペプチドは、成熟形態又はプリカーサの形態で投与されてもよい。このように、GLP−1ペプチドは、プレプログルカゴン(配列番号1)若しくはプリカーサGLP−1(1−37)(配列番号2)であるタンパク質プリカーサの形態で、又は、GLP−1(7−37)ペプチド(配列番号3)若しくはGLP−1(7−36)アミドペプチド(配列番号4)である活性形態で投与されてもよい。また、GIPペプチドは、そのプリカーサの形態で(配列番号5)、又は活性形態であるGIP(1−42)(配列番号6)で投与されてもよい。特定の一実施形態では、本発明で使用されるペプチドは、配列番号1〜6の配列からなる群より選択される配列を含むか、又は配列からなる。好ましい一実施形態では、ペプチドはGLP−1又はGIPの活性形態、即ち、配列番号3、配列番号4又は配列番号6の配列のペプチドからなる群から選択される。好ましくは、ペプチドはGLP−1(7−36)アミドペプチド(配列番号4)である。
【0035】
GLP−1及びGIPペプチドは、投与後に、2つのN末端アミノ酸を切断するジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)酵素によって急速に不活性化される。また、静脈内に投与されたGLP−1又はGIPペプチドの半減期は約2分である。このため、これらのペプチド又はそのプリカーサは、好ましくは連続して、例えば連続的な皮下への点滴によって投与される。特定の一実施形態において、本発明で使用されるペプチドは、GLP−1若しくはGIPペプチド、又はそのプリカーサであり、好ましくは、GLP−1(7−37)ペプチド(配列番号3)、GLP−1(7−36)アミノペプチド(配列番号4)、及びGIPペプチド(配列番号6)からなる群より選択されるペプチドであり、より好ましくは、GLP−1(7−36)アミノペプチド(配列番号4)である。また、該ペプチドは、処置を受ける対象に、好ましくは連続的な皮下への点滴によって連続して投与される。
【0036】
別の実施形態によると、ペプチドはGLP−1又はGIPペプチドのアナログであり、好ましくはジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)に耐性のあるアナログである。インクレチン模倣物とも呼ばれるこれらのアナログは、インクレチンの作用を模倣するGLP−1受容体又はGIP受容体アゴニストであるが、DPP−IVに対する耐性の増進、そして循環半減期の延長など、GLP−1又はGIPペプチドと比較して向上した特性を有する。
【0037】
GLP−1及びGIPペプチドは種々の方法で改変されてもよい。例えば、1つ以上のL型の立体配置のアミノ酸は、D型の立体配置のアミノ酸で置換されてもよい。ペプチドには、翻訳後修飾及び/又はさらなる化学修飾、特にグリコシル化、アミド化、アシル化、アセチル化、又はメチル化がおこなわれてもよい。保護基はC末端及び/又はN末端に追加されてもよい。例として、N末端の保護基はアシル化又はアセチル化されてもよく、C末端の保護基はアミド化又はエステル化されてもよい。また、本発明のペプチドは、CHOH−CH、NHCO、CH−O、CHCH、CO−CH、N−N、CH=CH、CHNH、及びCH−Sなどの、「従来の」CONHペプチド結合に代わり、ペプチダーゼに対する耐性の増加を示す、疑似ペプチド結合を含んでもよい。1つ以上のアミノ酸は、希アミノ酸、特にヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、6−N−メチルリジン、N−エチルグリシン、N−メチルグリシン、N−エチル−アスパラギン、アロイソロイシン、N−メチルイソロイシン、N−メチルバリン、ピログルタミン、及びアミノ酪酸、又は合成アミノ酸、特にオルニチン、ノルロイシン、ノルバリン及びシクロヘキシルアラニンで置換されてもよい。また、本発明は、GLP−1又はGIPペプチドに保存的置換をおこなうことで取得されるアナログの使用も含む。本明細書で用いられる用語「保存的置換」は1つのアミノ酸残基を同様の化学的又は物理的特性(サイズ、電荷又は極性)を有する別のアミノ酸残基で置換することに関する。例としては、イソロイシン、ロイシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、及びグリシンが相互に保存的に置換され得り、リジン、ヒスチジン及びアルギニン、又はセリン、チロシン及びトレオニン、又はシステイン及びメチオニン、又はアスパラギン、グルタミン及びトリプトファン、又はアスパラギン酸及びグルタミン酸も同様である。
【0038】
GLP−1及びGIPペプチドのアナログは、該ペプチドに対してより大きい又は小さい相同性を有し得る。例として、GLP−1アナログであるリラグルチドは、ヒトGLP−1ペプチドに97%の相同性を示すが、トカゲの毒から取得される別のGLP−1アナログであるエキセンジン−4は53%の相同性を示すのみである。しかし、好ましくは、該ペプチドは、ヒトGLP−1ペプチドに少なくとも50%の相同性を示し、好ましくは配列番号3又は配列番号4に少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%の相同性を示す、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)に耐性のあるGLP−1又はGIPペプチドのアナログである。
【0039】
DPP−IVに耐性のある数多くのGLP−1及びGIPアナログは、著述され、投与の頻度を減少させるためにその耐性を向上し半減期を増加させることが意図された種々の方法で取得されている。
【0040】
DPP−IVに耐性のあるGLP−1ペプチドのアナログは、特に、(a)例えば、Lアラニンである第2のN末端アミノ酸をDアラニン又はセリンで置換することにより、選択的なアミノ酸置換をおこなうことによって(例えば米国特許US 5 545 618参照)、(b)GLP−1ペプチドのアミノ酸残基の側鎖に親油性置換基を付加することによって(例えば欧州特許EP0 944 648参照)、(c)インスリン分泌性化合物を同定し、そのヒトGLP−1受容体アゴニストの能力をテストすることによって(例えば初めはトカゲの毒から単離されたエキセンジン−3及び−4など)、(d)C−16パルミトイル基が修飾GLP−1ペプチドのリジンに結合されるリラグルチドに対しておこなわれるように、GLP−1ペプチド又はそのアナログをアセチル化することによって、(e)血漿タンパク質、好ましくはアルブミンをGLP−1ペプチドと共有結合させることによって(例えば、albugon(GlaxoSmithKline)、CJC−1131(ConjuChem)、CJC−1134、又はヒトアルブミンと共有結合したエキセンジン−4アナログ(ConjuChem)など)、(f)生分解性ポリマーにGLP−1ペプチドを捕捉することによって、又は(g)GLP−1ペプチド(若しくはそのアナログ)をポリエチレングリコールと結合することによって(例えば、LY315902、LY2199265及びLY2428757(Eli Lilly))、取得されてもよい。GLP−1アナログは、US2011/0281797、WO2011/134284又はUS2011/0166321など、数多くの特許文献に記載されている。
【0041】
GIPペプチドはまた、DPP−IVへの耐性を上げるために、例えば、N末端チロシンを修飾することによって(O‘Harte他、1999年)、Lアラニンである第2のN末端アミノ酸をDアラニン又はセリンで置換することによって(Hinke他、2002年)、又は、配列番号6の配列の3位のグルタミン酸若しくは、配列番号6の配列の13位のアラニンを変異させることによって(Gault他、2003年)、改変されてもよい。また、短縮されたGIPアナログである、第2のN末端の位置のLアラニンがDアラニンで置換されたD−Ala−GIP(1−30)アナログについても記述されている(Widenmaier他、2010年)。DPP−IVへの耐性の増加を示すGIPペプチドのアナログは、国際公開WO00/58360、WO98/24464、WO03/082898及びWO2010/016944、そして欧州特許EP0 479 210など、多くの特許文献に記載されている。
【0042】
特定の一実施形態では、本発明で使用されるペプチドは、好ましくは、エキセナチド(Amylin Pharmaceuticals)、エキセンジン−4、リラグルチド(Novo Nordisk)、アルビグルチド(若しくはalbugon)(GlaxoSmithKline)、タスポグルチド(Ipsen/Roche)、リキシセナチド(Sanofi)、LY315902(Eli Lilly)、デュラグルチド(dulaglutide)(LY2189265)(Eli Lilly)、LY2199265(Eli Lilly)、LY2428757(Eli Lilly)、セマグルチド(semaglutide)(NN9535)(Novo Nordisk)、CJC−1131(ConjuChem)、CJC−1134(ConjuChem)、及びZP10(Aventis/Zealand Pharma)からなる群より選択される、ジペプチジルペプチダーゼIVに耐性のあるGLP−1ペプチドのアナログである。より好ましくは、該ペプチドはエキセナチド及びリラグルチドからなる群から選択されるアナログである。
【0043】
本発明はまた、本発明で使用されるペプチドの薬学的に許容される塩の使用も含む。該薬学的に許容される塩は、医薬分野では一般的に用いられる、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸などの薬学的に許容される無機酸の塩、酢酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、アスコルビン酸及び酒石酸などの薬学的に許容される有機酸の塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩若しくはアンモニウム塩などの薬学的に許容される無機塩基の塩、又は、塩形成性の窒素を有する有機塩基の塩であってもよい。これらの塩の調製方法は、当業者に既知である。
【0044】
本発明のペプチドは、(固相若しくは均質な液相において)従来の化学的合成によって又は酵素的合成によって取得されてもよい。また、ペプチドをコードする導入遺伝子を含み、該ペプチドを発現する宿主細胞を培養すること、そして、宿主細胞から、若しくは、該ペプチドが分泌された培地から該ペプチドを抽出することからなる方法によって、該ペプチドが取得されてもよい。
【0045】
本発明で使用されるペプチドは、単独で、又は本発明で用いられる1つ以上の他のペプチドとの組合せで使用されてもよい。該ペプチドは同時に又は連続して投与されてもよい。
【0046】
本発明で使用されるペプチドは、単独の有効成分として、又は1つ以上の活性物質との組合せで用いられてもよい。該ペプチドと該活性物質とは同時に又は連続して投与されてもよい。
【0047】
ペプチドは、特に、ジペプチジルペプチダーゼIV酵素の1つ以上の阻害剤との組合せで用いられてもよい。一実施形態では、ペプチドは、シタグリプチン、サクサグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン及びリナグリプチンからなる群より選択される1つ以上のジペプチジルペプチダーゼIV酵素の阻害剤との組合せで用いられる。特定の一実施形態によると、ジペプチジルペプチダーゼIV酵素の1つ以上の阻害剤との組合せで用いられるペプチドは、GLP−1若しくはGIPペプチド、又はそのプリカーサであり、特に、配列番号1〜6の配列からなる群から選択される配列を含むか又はその配列からなるペプチドである。ペプチドは、好ましくは、GLP−1(7−37)ペプチド(配列番号3)、GLP−1(7−36)アミドペプチド(配列番号4)及びGIPペプチド(配列番号6)からなる群から選択され、さらに特に好ましくは、ペプチドはGLP−1(7−36)アミノペプチド(配列番号4)である。
【0048】
ペプチドは、変形性関節症の処置に用いられる1つ以上の物質、特に、パラセタモールなどの鎮痛薬、アセチルサリチル酸、リシンアセチルサリチル酸塩、フェニルブタゾン、スリンダク、ジクロフェナクカリウム若しくはナトリウム、アセクロフェナク、チアプロフェン酸、イブプロフェン、ケトプロフェン、アルミノプロフェン、フェノプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ニフルム酸、テノキシカム、メロキシカム、ピロキシカム、並びにセレコキシブ及びエトリコキシブなどのシクロオキシゲナーゼ2阻害剤などの非ステロイド性抗炎症薬、ベタメタゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、チキソコルトール(tixocortol)、若しくはトリアムシノロンなどのステロイド性抗炎症薬、又は、コンドロイチン、硫酸コンドロイチン(Structum、Chondrosulf)、グルコサミン若しくは硫酸グルコサミン、ジアセレイン(Art 50、Zondar)、若しくはアボカド及び大豆の不ケン化抽出物(Piascledine)を含む薬剤などの遅効性抗関節炎薬との組合せで用いられてもよい。
【0049】
本発明で使用されるペプチドは、関節内若しくは関節周囲の皮質療法(corticotherapy)、関節内補充療法(viscosupplementation)、若しくは関節洗浄、外科的解離術若しくは補綴処置、又は装具の使用などの局所的処置と組み合わせて投与されてもよい。
【0050】
本発明で使用されるペプチドはまた、該ペプチドをコードする核酸の形態で投与されてもよい。本明細書で用いられるように、用語「核酸」は任意のDNA又はRNAに基づく分子を意味することが意図される。これは、ベクターで選択的に増幅又はクローニングされ、そして化学的に修飾され、例えば修飾された結合、修飾されたプリン若しくはピリミジン塩基、又は修飾された糖を含む非天然塩基又は修飾されたヌクレオチドを含有する、合成又は半合成組換え分子に関わる。核酸は1本鎖又は2本鎖のDNA及び/又はRNAの形態であってよい。好ましい一実施形態では、核酸は当業者に既知である組み換え技術によって合成された単離DNA分子である。また、核酸は本発明で使用されるペプチドの配列から推定されてもよい。コドンの使用は核酸が転写される宿主細胞によって調節されてもよい。これらのステップは当業者に既知である方法によりおこなわれ、そのいくつかはSambrook他によるリファレンスマニュアルに記載されている(Sambrook他、2001年)。好ましくは、核酸の投与に使用される担体は、有効性を損ない得るあらゆる分解から核酸を保護する。使用され得る担体のなかで、キトサン若しくはアテロコラーゲンなどの天然カチオン性ポリマー、ポリ(L−リジン)、ポリエチレンイミン(PEI)若しくはデンドリマーなどの核酸と複合体を形成する合成カチオン性ポリマー、リポソーム、カオチン性リポソーム、ガラクトース修飾リポソーム、標的細胞に特異的な抗体で被覆されたイムノリポソームなど、所定の細胞型を標的とさせるリガンドで被覆されたリポソーム(Zheng他、2009年)、ポリマーで形成されたナノ粒子に調製されたリポソーム(Carmona他、2009年)、又はポリカチオン及びポリアニオンの多層膜が特に言及される。
【0051】
本明細書で使用されるように、用語「処置」又は「治療」は、病態に関連した症状を軽減、抑制又は遅延させることができる任意の作用を表し、疾患の根治的治療と予防的治療とを含む。根治的治療は、治癒をもたらす処置、又は疾患の症状若しくは疾患がもたらす苦痛をやわらげ、改善し、及び/若しくは、取り除き、低減及び/若しくは安定化させる処置により定義される。予防的治療は疾患の予防になる処置と、疾患の発症又は疾患発症のリスクを低減及び/又は遅延させる処置とを含む。特に、本発明の文脈においては、用語「処置」は、より詳細には、標準的なエックス線において関節のインターライン(interline)をつまむことで観察される関節の軟骨破壊を抑止又は遅延することを表す。
【0052】
本発明で使用されるペプチドは、1次性変形性関節症(解剖学的若しくは外傷的要因なし)又は2次性変形性関節症の処置に用いられてもよい。処置される変形性関節症は、任意の関節、特に股関節(変形性股関節症)、膝(変形性膝関節炎)、足関節、足、手、手関節、肘、肩、又は脊柱、好ましくは股関節、膝、手、及び脊柱に影響し得る。
【0053】
処置される対象者、又は患者は、動物、好ましくは哺乳類である。一実施形態によると、処置される対象者は、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、及びヒト以外の霊長類からなる群から選択される動物である。好ましい一実施形態では、処置される対象者はヒトであり、好ましくは成人、特に好ましくは50歳を超えた成人である。
【0054】
特定の一実施形態では、処置される対象者は2型糖尿病を有していない。好ましくはその患者は1.26g/l未満の空腹時糖血を有する。
【0055】
別の特定の実施形態では、処置される対象者は肥満ではない。肥満指数(又はBMI、体重/(身長))によってヒトの肥満について推定することができる。世界保健機関の分類によると、中程度の肥満は18.5〜25のBMIに相当し、体重過多の人は25〜30のBMIを有し、そして肥満の人は30より多いBMIを有する。処置される対象者は好ましくは30未満の、より好ましくは27未満の、さらに特に好ましくは25未満の肥満指数を有する。
【0056】
さらに別の特定の実施形態では、処置される対象者は1.26g/l未満の空腹時糖血と、30未満の、好ましくは27未満の、特に好ましくは25未満の肥満指数とを有する。
【0057】
本発明で使用されるペプチドは、本発明で用いられる少なくとも1つのペプチドと薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物の形態で患者に投与される。また、本発明で使用されるペプチドは、本発明で用いられるペプチドをコードする少なくとも1つの核酸と薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物の形態で患者に投与されてもよい。該組成物はまた、上記で定義されたような1つ以上の他の活性物質を含んでもよく、特に、好ましくはシタグリプチン、サクサグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン及びリナグリプチンからなる群より選択される1つ以上のジペプチジルペプチダーゼIV酵素阻害剤、又は、鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬、及び遅効性抗関節炎薬などのその他の物質を含む。
【0058】
使用され得る薬学的に許容される担体及び賦形剤は当業者に既知である(Remington‘s Pharmaceutical Sciences,18th edition, A. R. Gennaro,Mack Publishing Companyより出版、1990年;Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins, S. Frokjaer and L. Hovgaard,Taylor & Francisより出版、2000年;Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd edition, A. Kibbe,Pharmaceutical Pressより出版、2000年)。本発明で使用されるペプチドを含む医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、液剤、ポリマー、ナノ粒子、ミクロスフェア、坐剤、浣腸剤、ゲル剤、泥膏、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、頓服剤、注射可能な組成物、インプラント、噴霧剤、又はエアゾール剤の剤形であってよい。好ましくは、本発明で使用されるペプチドを含む医薬組成物は、注射可能な組成物の剤形である。
【0059】
本発明で使用されるペプチドは、特に、全身(非経口、経静脈など)、経口、経直腸、経局所、又は経皮下を含む、任意の既知の投与経路で投与されてもよい。好ましい一実施形態によると、本発明で使用されるペプチドは、経口、経皮下又は経静脈、好ましくは経皮下又は経静脈、さらに特に好ましくは経皮下で投与される。また、該ペプチドは、関節内注射によって、好ましくは関節症の関節に投与されてもよい。この場合、ペプチドは、ヒアルロン酸又は鎮痛性物質など、他の局所的に作用する物質と組み合わせて投与されてもよい。
【0060】
本発明で使用されるペプチドは、治療有効量で対象者に投与される。本明細書で使用される用語「治療有効量」は、変形性関節症において治療的又は予防的作用が観察されるのに要求される量、特に、関節症の軟骨破壊の阻止又は遅延が観察されるのに要求される量を表す。投与されるペプチドの量、そして治療期間は、処置される対象者の生理的条件、処置される関節症の関節のようす、選択されるペプチド、そして用いられる投与経路から、当業者によって定められる。本発明で使用されるペプチドは、単一の用量又は複数の用量で投与されてもよい。
【0061】
一実施形態によると、ペプチドはGLP−1ペプチド若しくはGIPペプチド、又はそのプリカーサであり、連続して、好ましくは連続的な皮下への点滴によって投与される。別の実施形態では、ペプチドは、上述で定義されたようにDPP−IVに耐性があるGLP−1ペプチド又はGIPペプチドのアナログであり、1日に1回又は2回、皮下への点滴によって投与される。また、ペプチドが持続性放出の医薬剤形で投与される場合(例えばエキセナチドの注射可能な持続性放出剤形、Bydureon(登録商標)など)、ペプチドは、例えば週に1回など、投与と投与との間をより長くあけて投与されることが可能である。
【0062】
好ましくは、上述で定義されたようにDPP−IVに耐性のあるGLP−1ペプチド若しくはGIPペプチドのアナログであるペプチド、又は該ペプチドをコードする核酸は、関節内注射によって、特に、3ヵ月毎に1〜3回の注入頻度で投与されてもよい。
【0063】
投与される用量は、使用されるペプチドの特性、投与経路、そしてまた投与の頻度に依存する。
【0064】
一実施形態では、ペプチドは、用量単位ごとに1μg〜10mgのペプチドを含む医薬組成物の形態で、好ましくは経口、経皮下、又は経静脈で、対象者に投与される。
【0065】
一実施形態では、ペプチドは、用量単位ごとに5μg〜5mgのペプチドを含む注射可能な医薬組成物の形態において、経皮下で対象者に投与される。別の実施形態では、ペプチドは、用量単位毎に、体重のキロあたり50ng〜20μgのペプチドを含む注射可能な医薬組成物の形態において、経皮下で対象者に投与される。
【0066】
本発明はまた、変形性関節症の処置を意図した薬剤の製造のための、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)に耐性のあるGLP−1ペプチド、GIPペプチド、及びそのアナログからなる群から選ばれるペプチドの使用に関する。
【0067】
本発明はまた、対象者の変形性関節症の処置のための方法に関し、該方法は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)に耐性のあるGLP−1ペプチド、GIPペプチド、及びそのアナログからなる群から選ばれるペプチドの治療有効量の、該対象者への投与を含む。
【0068】
本明細書で言及されるすべての参考文献は、リファレンスとして本願に含まれる。本発明のその他の特性や有利性は、非限定的に描出される以下の実施例によってより明確にされる。
【0069】
<実施例>
−材料と方法−
[軟骨細胞の一次培養]
生後4〜6日の若いマウスの大腿骨頭及び膝の酵素消化後、マウスの軟骨細胞を取得した。細胞を単層で1週間増幅した(Gosset他、2008年)。
【0070】
[骨芽細胞の一次培養]
生後4〜6日の若いマウスの頭蓋骨の酵素消化後、マウスの骨芽細胞を取得した。アスコルビン酸及びβグリセロリン酸の存在下で、細胞を3週間増幅した。骨芽細胞は培養の最後に3次元膜を形成する(Sanchez他、2009年)。
【0071】
[一次培養処理]
処理前に、培養を無血清培地で24時間欠乏させた。そして軟骨細胞又は骨芽細胞を、GLP−1(7−36)アミド(10nM)、GIP(10nM)又はGLP−1(7−37)(10nM)(Bachem)の存在下又は非存在下において、0.1又は1ng/mlのIL−1βで24時間処理した。
【0072】
[遺伝子発現分析]
RNAは、RNeasy Miniキット(Qiagen)を用いて抽出され、Omniscriptキット(Qiagen)を用いて逆転写された。目的の遺伝子の発現レベルは、下記のプライマーを用いて、HPRT対照遺伝子と比較して、リアルタイムPCR(Light Cycler LC480)によって定量化された。
【0073】
HPRT−アンチセンス:ATT CAA ATC CCT GAA GTA CTC AT(配列番号7)
HPRT−センス:AGG ACC TCT CGA AGT GT(配列番号8)
GLP1R−アンチセンス:CAG TCG GCA GCC TAG AGA GT(配列番号9)
GLP1R−センス:CTG CCC AGC AAC ACC AGT (配列番号10)
MMP3−センス:TG AAA ATG AAG GGT CTT CCG G(配列番号11)
MMP3−アンチセンス:GCA GAA GCT CCA TAC CAG CA(配列番号12)
MMP9−センス:AAC TAC GGT CGC GTC CAC T(配列番号13)
MMP9−アンチセンス:CCA CAG CCA ACT ATG ACC AG(配列番号14)
MMP13−センス:TGA TGG CAC TGC TGA CAT CAT(配列番号15)
MMP13−アンチセンス:TGT AGC CTT TGG AAC TGC TT(配列番号16)
[ウエスタンブロッティングによるMMP−13放出の検出]
細胞によって産生されたMMP−13の量は、培養上清を用いて、ウエスタンブロッティングによって測定された(SDS−PAGE及びニトロセルロース膜への転写)。MMP−13タンパク質を、抗MMP−13ポリクローナル1次抗体(Santacruz)とHRP結合2次抗体とで検出した。ウエスタンCキット(Biorad)を用いて視覚化がおこなわれ、富士フイルムイメージリーダデバイス(Fuji)を使用して画像を取得した。
【0074】
[EIAによるPGE2放出の検出]
細胞によって産生されたPGE2の量は、培養上清を用いて、プロスタグランジンE2モノクローナルEIAキット(Cayman)によって測定された。
【0075】
−結果−
[GLP−1特異的受容体の発現]
GLP−1特異的受容体(GLP−1R)は、1次マウス軟骨細胞及び骨芽細胞により、インビトロで発現された。GLP−1RをコードするmRNAは、基礎レベルで、軟骨細胞と骨芽細胞との細胞溶解物において、RT−PCRによって検出された。これらの結果は、軟骨細胞様骨芽細胞がその表面でこの受容体を発現し、GLP−1型のリガンドの作用に潜在的に感受性があることを示す。
【0076】
[軟骨細胞における分解促進酵素MMP−3、MMP−9及びMMP−13の発現の抑止]
GLP−1(7−36)アミド、GIP又はGLP−1(7−37)の添加は、IL−1β処理に応じて軟骨細胞に観察される分解促進酵素MMP−3、MMP−9及び/又はMMP−13の過剰発現を抑止する(図1)。組換えペプチド単独では、分解促進酵素の過剰発現は誘導されない。
【0077】
[骨芽細胞における分解促進酵素MMP−3、MMP−9及びMMP−13の発現の抑止]
GLP−1(7−36)アミド、GLP−1(7−37)又はGIPの添加は、IL−1β処理に応じて骨芽細胞に観察される分解促進酵素MMP−3及びMMP−13の過剰発現を抑止する(図2A図2B及び図2C)。また、GLP−1(7−36)アミドの添加はMMP−9の過剰発現も抑止する(図2D)。組換えペプチド単独では、分解促進酵素の過剰発現は誘導されない。
【0078】
[軟骨細胞によるプロスタグランジンE2放出の抑止]
GLP−1(7−36)アミドの添加は、IL−1β処理に応じて観察される、軟骨細胞によるプロスタグランジンE2(PGE2)(炎症性脂質メディエータ)放出を抑止する。この組換えペプチド単独では、PGE2は誘導されない。
【0079】

<参考文献>
Blanc etal. Osteoarthritis Cartilage 1999; 7: 308-9.
ButeauJ. Diabetes Metab 2008;34(Suppl. 2):S73-7.
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図1
図2
図3
【配列表】
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