(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
人体に着用されるサポートウェアであって、前記人体の下腿部の前側において、脛骨内側の領域のうち足関節内顆の上方において長母指屈筋及び長指屈筋の少なくとも下部の位置に対応する領域に第1の緊締力を付与するX部と、前記X部よりも斜め上方外側の領域に前記X部よりも弱い第2の緊締力を付与するV部と、前記X部及び前記V部の間で前脛骨筋の位置に対応する領域に前記V部よりも弱い第3の緊締力を付与するW部と、を有し、前記人体の下腿部の後側において、前記脛骨内側の領域のうち前記足関節内顆の上方においてヒラメ筋及び腓腹筋内側頭の少なくとも下部の位置に対応する領域に前記第1の緊締力を付与するK部と、前記K部よりも斜め上方外側の領域に前記第1の緊締力を付与するI部と、前記K部及び前記I部の間で腓腹筋内側頭と腓腹筋外側頭とが接する位置に対応する領域に前記W部よりも弱い第4の緊締力を付与するJ部と、を有し、前記X部と前記K部とが接続され、前記V部と前記I部とが接続されている、ことを特徴とするサポートウェア。
このようなサポートウェアによれば、最強緊締力を有するX部及びK部によって脛骨の荷重を支える筋肉を保護することにより、運動時などにおいて脛骨に直達する衝撃を緩和することができる。また、下腿部において外側から内側に集中する力が作用するため、膝関節の内反が抑制され、脛骨の捻れストレスを緩和しやすくなる。これらの作用により、シンスプリントの発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
かかるサポートウェアであって、前記X部は、前記W部及び前記K部とつなぎ目なく接続され、前記V部は、前記W部及び前記I部とつなぎ目なく接続されている、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、着用時のフィット性を向上させることができる。また、隣り合う領域同士でそれぞれの緊締力を相互に作用させることにより、効率的に筋肉や靭帯等をサポートすることができる。
【0010】
かかるサポートウェアであって、前記下腿部の前側において足関節外顆の位置に対応する領域に前記第3の緊締力を付与するY部と、前記下腿部の後側において前記足関節外顆の位置に対応する領域に前記第3の緊締力を付与するL部と、を有する、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、脛骨の内側に付与される緊締力が外側に付与される緊締力よりも強くなるため,脛骨の内側部にかかる荷重を受け止めやすくすることができる。
【0011】
かかるサポートウェアであって、上前腸骨棘の位置に対応する領域に前記第1の緊締力を付与するP部と、縫工筋の筋腱移行部から筋腹に移行する位置に対応する領域に前記第4の緊締力を付与するQ部と、を有し、前記P部と前記Q部とが接続されている、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、股関節外転・外旋運動を担う縫工筋に対して2段階の強さで緊締力を付与することができる。このように縫工筋のサポートを弱くすることで、過度な股関節外転・外旋運動が抑制され、推進方向への脚の振り上げ動作を行いやすくすることができる。また、股関節が外側へ向きにくくなることから、脛骨の捻れを軽減してシンスプリントを生じにくくすることができる。
【0012】
かかるサポートウェアであって、薄筋の位置に対応する領域に前記第1の緊締力を付与するZ部を有する、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、股関節外転・外旋の拮抗的作用を成す股関節内転筋への緊締力を強め、股関節内転筋をサポートすることによって該股関節内転筋を収縮しやすくすることができる。
【0013】
かかるサポートウェアであって、前記Q部の斜め内側下方であって、かつ、前記Z部の下方である大腿骨内側面の位置に対応する領域に前記第1の緊締力を付与するS部を有する、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、股関節内転筋群及び薄筋をサポートするZ部と、縫工筋をサポートするQ部とを、S部において合流させることができる。この場合、ほぼ同時に働く縫工筋と股関節内転筋とが連係することにより、縫工筋を単独でサポートする場合と比較して、脚の振り上げ動作をより行いやすくすることができる。また、股関節外転・外旋方向への脚の流れを制御しやすくなるため、シンスプリントをより生じにくくすることができる。
【0014】
かかるサポートウェアであって、大腿二頭筋の上方で坐骨に付着する腱及び筋腱移行部から、前記大腿二頭筋の筋肉量が多くなる筋腹上方に対応する領域に前記第3の緊締力を付与するE部を有し、前記E部の下部から腓骨頭を含む領域に前記第1の緊締力を付与するG部を有する、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、膝関節上方で下腿内旋運動時に最も力を発揮する大腿二頭筋が最強緊締力によってサポートされ、筋腹上方は筋肉の伸びやすさをより引き出すために中緊締力によってサポートされる。これにより、大腿二頭筋が効率的にエキセントリック収縮を行うことができるようになり、下腿内旋時における腓骨の過度の滑りを抑制して、シンスプリントをより生じにくくすることができる。
【0015】
かかるサポートウェアであって、大転子上方から下方に向かって大腿筋膜腸筋が腸脛靭帯に移行する位置、及び、腸脛靭帯の全域に対応する領域に前記第1の緊締力を付与するB部を有し、前記G部と前記B部とが接続されている、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、大腿二頭筋をサポートするG部と、下腿部内旋の制御に関して大腿二頭筋と同様の作用効果を有する腸脛靭帯をサポートするB部とを合流させることで、下腿内旋時における腓骨の滑りを抑制する力がより強く発揮され、下腿部の過内旋を抑制しやすくすることができる。したがって、シンスプリントをより生じにくくすることができる。
【0016】
かかるサポートウェアであって、前記B部と前記I部とが接続されている、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、B部とI部とが連携することで外側側副靭帯がより強い力でサポートされるようになり、膝関節の外側へのぶれが抑制され、脛骨内側への荷重ストレスが軽減される。これにより、シンスプリントを発症するリスクを低くすることができる。
【0017】
かかるサポートウェアであって、大殿筋の位置に対応する領域に前記第1の緊締力を付与するA部を有し、前記A部と前記B部とが接続されている、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、A部が最強緊締力にて大殿筋をサポートする際に、大腿筋膜腸筋をサポートするB部と連係させることによって、股関節内転・内旋作用が足の蹴り上げ時に有位に働き、足を真っ直ぐに出しやすくすることができる。
【0018】
かかるサポートウェアであって、膝関節上方でハムストリングス中央の位置に対応する領域に前記第3の緊締力を付与するH部を有する、ことが望ましい。
このようなサポートウェアによれば、中緊締力にてハムストリングスをサポートすることにより、膝屈曲位(スクワット)において該ハムストリングスの横への膨張が許容され、膝の屈曲を円滑に行うことができる。
【0019】
===実施形態===
<<スパッツ10の基本的構成>>
本実施形態に係るサポートウェアの一例として、使用者の下半身に装着されるスパッツ10について説明する。
図1は、スパッツ10の前側及び後側の全体を表す平面図である。
【0020】
本実施形態のスパッツ10は、装着時に人体の腰部と両足(1対の脚部)を覆う履き込み型のサポートウェアである。スパッツ10は伸縮性を有する生地からなる衣料であり、人体に着用された際に人体にフィットして人体の所定の部位に緊締力を付与する。ここで、「緊締力」とは、生地の張力によって生じ、筋肉や靭帯、骨等を締め付けて制動したり保護したりする力のことである。当該緊締力によって人体の各部位がサポートされる。
【0021】
そして、スパッツ10は、互いに伸縮度合いが異なる4種類の生地部分を有する。すなわち、スパッツ10は、
図1の黒塗りで表される第1領域と、右斜線で表される第2領域と、左斜線で表される第3領域と、白塗りで表される第4領域とを有する。ここで、伸縮度合いとは、伸縮し易さのことである。伸縮度合いが小さい(伸縮し難い)とは、元の状態(外力が付与されていない状態)を維持し易い生地の性質(つまり、大きな外力を加えないと伸びず、伸びた状態で外力が解放された場合には、元の状態に戻り易い性質)を表し、伸縮度合いが大きい(伸縮し易い)とは、元の状態を維持し難い生地の性質(つまり、小さな外力で伸び、伸びた状態で外力が解放された場合に、元の状態に戻り難い性質)を表す。
【0022】
本実施形態では、スパッツ10の生地の伸縮度合いが4段階に設定されているため、スパッツ10が人体に着用された際に筋肉や靭帯、骨等の所定の部位に付与される緊締力が、4段階に設定されていることになる。なお、当然のことながら、当該緊締力は、生地の伸縮度合いが大きくなるほど弱くなる。
【0023】
第1領域は、最も伸縮度合いが小さく、筋肉等に対して最も強い緊締力である第1の緊締力(以下、最強緊締力とも呼ぶ)を付与する部分である。第2領域は、第1の緊締力よりも弱い緊締力である第2の緊締力(以下、強緊締力とも呼ぶ)を付与する部分である。第3領域は、第2の緊締力よりも弱い緊締力である第3の緊締力(以下、中緊締力とも呼ぶ)を付与する部分である。そして、第4領域は、第3の緊締力よりも弱い緊締力である第4の緊締力(以下、弱緊締力とも呼ぶ)を付与する部分である。
【0024】
4段階の緊締力の強さは、「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」に基づいて伸長回復測定によって測定された応力(荷重)に応じて決定される。本実施形態では、4段階の緊締力を有する第1〜第4領域の各々から採取した試験片(例えば幅50mm、長さ300mm程度の矩形状シート片)を用意し、引張試験機により試験片が所定の伸度になるまで伸長させ、その時の応力を測定する。その後、荷重を減少させ、試験片が所定の伸度になった時の応力を計測する。この動作を複数回繰り返したときの応力の大きさに基づいて、緊締力を決定する。
【0025】
図2は、4段階の緊締力についての応力測定値のデータを表す表である。本実施形態では、第1〜第4の緊締力を有する試験片をそれぞれ伸度40%まで伸長させてから回復させる動作を3回繰り返した。そして、伸長動作において各試験片の伸度が30%となった時の応力、及び、回復動作において各試験片の伸度が30%となった時の応力を測定し、その平均値を30%伸長応力として記録した。なお、上述の「伸度」とは、伸長前の試験片に対する伸長後の試験片の長さの比を表す。例えば、伸度30%なら、試験片のもとの長さの1.3倍の長さまで試験片が伸長した状態を表す。
【0026】
図2に示されるように、30%伸長応力は第1の緊締力(最強緊締力)が167.7(cm・N)で最も高く、第2の緊締力(強緊締力)が135.2(cm・N)、第3の緊締力(中緊締力)が112.8(cm・N)、第4の緊締力(弱緊締力)が102.3(cm・N)と徐々に30%伸長応力が小さくなっていくことが分かる。30%伸長応力が大きいほど、試験片を伸長させるために要する応力が大きいことを表しているため、第1の緊締力(最強緊締力)が最も伸びにくく(伸縮度合いが小さい)、第4の緊締力(弱緊締力)が最も伸びやすい(伸縮度合いが大きい)ことが明らかとなっている。ただし、
図2で表されるデータは一実施例であり、緊締力の強さはこれに限られるものではない。また、第1の緊締力(最強緊締力)と第4の緊締力(弱緊締力)とのパワー差は1.5〜1.8程度の範囲であればよい。
【0027】
また、スパッツ10では第1領域〜第4領域が互いに繋ぎ目なく一体的に形成されている。すなわち、それぞれ緊締力の異なる複数種類の生地同士を接合することによってスパッツ10に第1領域〜第4領域が形成されているのではなく、スパッツ10を構成する一の生地について所定の領域ごとに緊締力の大きさを変化させることにより第1領域〜第4領域が形成されている。緊締力の大きさを変化させる方法としては、例えば、生地の表面に伸縮性を発現させる特殊な樹脂加工を施して複数の丸型領域を形成し、当該丸型領域を水玉模様のように配置する。そして、樹脂加工された丸型領域の大きさ(面積)及び配置間隔を変更することにより、領域ごとに緊締力の大きさを調整する。このようにすることでスパッツ10の表面において、異なる緊締力を有する第1〜第4領域が繋ぎ目なく形成される。各領域間に繋ぎ目がないことにより、スパッツ10の着用時においてフィット性が向上し、また、隣り合う領域同士でそれぞれの緊締力を相互に作用させやすくすることで効率的に筋肉や靭帯等をサポートすることができる。
【0028】
これにより、スパッツ10の着用時において、人体の所定部位に対応する位置に4段階の緊締力が付与される。なお、人体の所定部位(例えば、所定の筋肉、靭帯など)に対応する位置とは、スパッツ10の着用時に当該スパッツ10によって覆われる位置のことを意味する。
【0029】
なお、本明細書中で人体の相対的位置関係について、頭部に近い方が「上」であり、足指に近い方が「下」であるとする。また、顔や腹が向いている方が「前側」であり、背が向いている方が「後側」であるとする。また、脚部において、もう一方の脚部に対向している側が「内側」であり、その内側の反対側が「外側」であるとする。
【0030】
<<緊締力の作用について>>
スパッツ10の着用時において、第1〜第4の各領域で発生する緊締力が人体のどの部位にどのように作用するかについて具体的に説明する。
図3は、スパッツ10によって人体に付与される緊締力を複数の部分に分解して説明する図である。
図4は、人体下肢前側の筋肉及び靭帯の構造について説明する図である。
図5は、人体下肢後側の筋肉及び靭帯の構造について説明する図である。
図6は、人体下肢の骨格構造について説明する図である。
【0031】
<下腿部の補強>
下腿部に発生するシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)は、運動時に荷重がかかることによって脛骨に作用する衝撃と、脛骨が捩れることによって発生するストレスが大きな要因と考えられている。これに対して、スパッツ10では
図3の下腿前側面のX部、V部、W部、及び、下腿後側面のK部、I部、J部が発生する緊締力によって下腿部を補強することで、シンスプリントの発生を抑制している。なお、
図3において表される複数の部分は、スパッツ10の機能を説明するために便宜的に設定された領域であり、実際のスパッツ10においては領域毎に境界部分が視認できるわけではない。例えば、A部とB部とは共に最強緊締力を有する第1の領域中に含まれる部分であり、実際のスパッツ10でA部とB部との境界は形成されていない。
【0032】
X部は、下腿部の前側で脛骨内側の領域のうち足関節内顆の上方において(
図6参照)、長母指屈筋及び長指屈筋(
図4、
図5参照)の少なくとも下部の位置に対応する領域、望ましくは脛骨全長の2/3の領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。この長母指屈筋、及び長指屈筋群は、ランニング等の運動を行う際に、足の振り上げや着地時に爪先立ちの状態となった時に大きな衝撃を受けやすい部分である。特に、下腿内側の下方3分の2の領域は、シンスプリントを発症する頻度が高い部分である。そこで、X部によって当該領域に最強緊締力を付与してサポートすることにより、長指屈筋群に作用する衝撃を緩和することができる。
【0033】
K部は、下腿部の後側で脛骨内側の領域のうち足関節内顆の上方において、ヒラメ筋及び腓腹筋内側頭の少なくとも下部の位置に対応する領域、望ましくは脛骨全長の2/3の領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。ヒラメ筋や腓腹筋も、足の振り上げや着地時に爪先立ちの状態となった時に大きな衝撃を受けやすい部分である。そこで、X部と同様に、K部によって当該部分に最強緊締力を付与してサポートすることにより、腓腹筋等に作用する衝撃を緩和することができる。
【0034】
このように最強緊締力を有するX部及びK部によって所定の部位の筋肉を保護することにより、運動時などにおいて脛骨に直達する衝撃を緩和することができる。
【0035】
次に、脛骨の捩れに関して説明する。人がランニングやダッシュを行って爪先立ちになった時、膝関節は屈曲位で下腿部が内側にやや捩れた状態(このような状態を下腿部の「内旋」とも呼ぶ)となる。そして、下腿部の「内旋」によって、着地時のウエイトを踵骨から足指側に移動させ、徐々に足指に体重を移し最後に床から離れる爪先立ちによる離接地期を向かえることができるようになる。しかし、下腿部の内旋動作が過度になれば、爪先立ちでの蹴り動作が不安定となり、パワーにロスが出たり推進方向に進みにくくなったり、さらには脛骨が捩れることによるストレスがシンスプリントの要因となり得る。このような下腿部の過度な内旋は、両下肢が外側に湾曲して所謂O脚のような状態になる(このような状態を「膝内反」とも呼ぶ。)ことによって増幅されることが分っている。
【0036】
そこで、本実施形態では、上述したX部及びK部と他の領域(V部、W部、I部、J部等)とを連携させて、膝内反を制御することにより、脛骨の捩れによるストレスを緩和できるようにしている。
【0037】
V部は、X部よりも斜め上方外側で前脛骨筋上方の領域(
図4参照)に強緊締力(第2の緊締力)を付与する部分である。W部は、X部及びV部の間で前脛骨筋の筋腹中央の位置に対応する領域に中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分である。そして、
図3に示されるように、X部とW部とV部とが繋ぎ目なく接続されることによって、X部から斜め上方外側に向かう連続した帯状の領域(X部,W部,V部)が形成されている。この帯状の領域では、下腿部内側のX部の緊締力(最強緊締力)が下腿部外側のV部の緊締力(強緊締力)よりも強く作用する構造となっている。これにより、当該領域において下腿部の内側に集中する力が生まれ、膝関節の内反に基づいて外側へ倒れる力によって脛骨に捻れストレスがかかることを抑制しやすくなる。すなわち、脛骨が側方(外側)へ倒れる圧力を制御することで、脛骨を真っ直ぐに保持しやすくなり、脛骨内側への荷重ストレスを軽減することができる。したがって、下腿部の過度な内旋によって生じる脛骨の捻れストレスを緩和しやすくなる。
【0038】
下腿部前側においてX部とV部との間に位置するW部によって付与される緊締力の強さを中緊締力としたのは、当該W部は前脛骨筋の筋腹中央の位置に対応しているため、運動時における前脛骨筋の収縮を押さえすぎないようにするためである。前脛骨筋は、爪先立ちの際に筋肉が伸びながら力を発揮する伸長性収縮(エキセントリック収縮とも呼ぶ)を行うことで、大きな力を生じさせる筋肉である。そのため、W部によって付与される緊締力をX部やV部よりも弱く設定して当該前脛骨筋がエキセントリック収縮する際の伸びを許容することで、膝内反を抑制しつつ、人体の良好な運動機能を補助することができる。
【0039】
I部は、下腿部後側においてK部よりも斜め上方外側で脛骨外顆と外側側副靭帯の付着部の腓骨頭を覆う領域(
図6参照)に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。J部は、K部及びI部の間で腓腹筋内側頭と腓腹筋外側頭とが接する位置に対応する領域(
図5参照)に弱緊締力(第4の緊締力)を付与する部分である。そして、
図3に示されるように、K部とJ部とI部とが繋ぎ目なく接続されることにより、下腿部後側でK部から斜め上方外側の腓骨の外顆方向に向かう連続した帯状の領域(K部,J部,I部)が形成されている。さらに、本実施形態では、X部とK部とが接続され、V部とI部とが接続されていることにより、X部,V部,W部,K部,J部,I部によって下腿部の周囲がバイアス状に覆われる構造となっている。これにより、上述した下腿部内側に集中する力が脛骨に対してより強く作用し、爪先立ち時における脛骨の外側方向への倒れを制御しやすくなる。その結果、脛骨内側への荷重ストレスを軽減しやすくなる。
【0040】
下腿部後側においてK部とI部との間に位置するJ部によって付与される緊締力の強さを弱緊締力としたのは、当該J部は腓腹筋中央の位置に対応しているため、運動時における腓腹筋の膨張を押さえすぎないようにするためである。当該腓腹筋の中央部は、着地時の踵接地から離接地期において腓腹筋筋腹の横への膨張率が大きくなり、最もパワーを発揮する部位であるため、J部によって付与される緊締力を弱く設定することで腓腹筋筋腹の横への膨張を許容しやすい構成としている。
【0041】
また、下腿部後側の内側部に配置されたK部に対して相対する下腿部前面の外側部で脛骨遠位部外顆の下方から2分の1辺りまでの領域には、中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分であるY部が配置されている。同様に、下腿部前面の内側部に配置されたX部に対して相対する下腿部後面の外側部で脛骨遠位部外顆から上方に向かう3分の1辺りまでの領域には、中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分であるL部が配置されている。Y部及びL部によって、脛骨の内側部に付与される最強緊締力よりも弱い中緊締力を脛骨の外側部に付与することで、脛骨の内側部にかかる荷重を受け止めやすくすることができる。
【0042】
<薄筋、股関節内転筋、縫工筋等のサポート>
人がランニングやダッシュを行う場合、脚の振り上げ動作時に作用する股関節外転・外旋運動とほぼ同時期に作用する股関節内転運動により、推進方向に足を着地させることができる。この振り上げ動作時の股関節内転筋作用を担う股関節内転筋の筋力が弱まれば、股関節屈曲時に外転・外旋作用方向、つまり、外側に脚が向き、推進方向への着地が困難となり、側方へのぶれが生じる。その結果、筋力のエネルギー効率が悪くなる。そして、このような状況下での繰り返し動作は、下腿部において爪先立ちでの蹴り動作の筋肉の疲労を早めるとともに、支柱となる脛骨への捻れストレスを増幅させる一因となる。すなわち、シンスプリントを誘発するおそれがある。
【0043】
これに対して、本実施形態のスパッツ10では、Z部,P部,Q部,S部等の各部位で付与される緊締力によって薄筋や股関節内転筋、縫工筋等をサポートすることにより、脚の振り上げ動作等に起因するシンスプリントの発生を抑制している。
【0044】
Z部は、股関節内転を補助する薄筋(
図4参照)の位置に対応する領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。具体的には、薄筋を補う内側で大腿骨に沿う形で付着する股関節内転筋群(すなわち、短内転筋、長内転筋、大内転筋)の筋腹を補う幅を有しつつ、薄筋が付着する恥骨から、その直下方向(大腿骨の内側面)を通過させ、薄筋の付着部である鵞足までの長さを有する部分に最強緊締力を付与する。当該Z部によって股関節外転・外旋の拮抗的作用を成す股関節内転筋への緊締力を強め、股関節内転筋をサポートすることによって収縮しやすくすることができる。
【0045】
P部は、縫工筋の筋腱移行部、つまり、上前腸骨棘(
図6参照)の位置に対応する領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。具体的には、縫工筋の付着部(起始部)である腸骨稜の外側下方で股関節の上方部に位置する上前腸骨稜を含む位置から、その直下にある下前腸骨棘の上方を通過させ、縫工筋とともに股関節屈曲動作で作用する大腿四頭筋の3分の1上方部、大腿部の外側2分の1辺りを占める部分に最強緊締力を付与する。また、Q部は、縫工筋の筋腱移行部から筋腹に移行する位置に対応する領域に弱緊締力(第4の緊締力)を付与する部分である。具体的には、大腿前側にある大腿四頭筋の3分の1にあたる中間辺りの部分に弱緊締力を付与する。つまり、P部及びQ部によって股関節外転・外旋運動を担う縫工筋に対して2段階の強さ(最強緊締力及び弱緊締力)で緊締力を付与している。
【0046】
従来のスパッツでは、縫工筋に対して強い緊締力を付与することにより脚を振り上げやすくする構造が一般的であったが、このような構造では、股関節が外側へ向きやすくなり、推進方向へ膝関節が向きにくくなるという問題があった。これに対して、本実施形態のスパッツ10では、縫工筋の筋腹をサポートするQ部による緊締力をあえて弱くしつつ、股関節内転筋群をサポートするZ部による緊締力を強くしている。つまり、股関節外転・外旋に作用する縫工筋のサポート力よりも、股関節内転に作用する股関節内転筋群のサポートを強くしている。これにより、振り上げ脚の過度な股関節外転・外旋運動を抑制し、推進方向(前方への股関節屈曲方向)への脚の振り上げ動作を行いやすくすることができる。また、脚の振り上げ時において股関節内転動作が股関節外転・外旋動作よりも有位になることで、推進方向に脚が向きやすく、その直下の下腿も荷重位置に導かれやすくなる。その結果、股関節が外側へ向きにくくなり、シンスプリントの発症要因である脛骨の捻れを軽減しやすくなる。
【0047】
さらに、スパッツ10では、Q部の斜め内側下方であって、かつ、Z部下方の大腿骨内側面辺りの領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与するS部が設けられている。すなわち、股関節内転筋群及び薄筋をサポートするZ部と、縫工筋をサポートするQ部(及びP部)とが、S部において合流するような配置となっている。ほぼ同時に働く縫工筋と股関節内転筋とを連係させることで、従来のように縫工筋を単独でサポートする場合と比較して、脚の振り上げ動作をより行いやすくすることができる。つまり、股関節内転作用を担う筋群を補った最強緊締力(Z部)と、股関節外転・外旋運動を担う縫工筋を2段階で補った最強緊締力強及び弱緊締力(P部及びQ部)とを合流させたことにより、股関節外転・外旋方向への脚の流れを制御しやすくなり、推進方向に脚を振り上げやすく、着地しやくすることができる。
【0048】
<大腿二頭筋のサポート>
上述した下腿部の内旋運動を円滑に制御する手段の一つとして、本実施形態のスパッツ10ではE部,G部,B部等の作用により大腿後側面にある大腿二頭筋(
図5参照)の収縮作用(エキセントリック収縮)をサポートしている。大腿二頭筋をサポートする理由は以下の通りである。すなわち、下腿部の内旋時において、膝関節では大腿骨から脛骨が内側に旋回して外れようとする動きが発生する。その際、脛腓関節によって脛骨の外側において脛骨と繋がっている腓骨でも内側に滑る動きが発生する。この腓骨の滑りに対して、腓骨に付着する大腿二頭筋がエキセントリック収縮を行うことにより腓骨が過度に滑らないよう制御している。つまり、大腿骨面から下腿が内旋し過ぎてずれないように大腿二頭筋がブレーキをかけるように作用する。したがって、大腿二頭筋をサポートすることにより、下腿部の内旋運動を制御することができる。
【0049】
E部は、大腿二頭筋の上方で坐骨に付着する腱及び筋腱移行部から、筋肉量が多くなる筋腹上方に対応する領域に中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分である。人体の下肢で大腿二頭筋が配置されている領域のうち大殿筋の下方から大腿二頭筋の長頭腱辺りにかかる領域は、ダッシュ時の前傾位やジャンプ時のスクワットを行う際に最大の伸展力が求められる位置である。そのため、E部では大腿二頭筋に対して強い緊締力を付与することを避け、大腿二頭筋の伸びを許容しつつサポート可能な構成としている。
【0050】
G部は、大腿二頭筋の筋肉量の一番多い筋腹の全域を補う幅を有しつつ、E部の下部から、筋肉量が減少して腱となり付着する腓骨頭を含む領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。これにより、下腿内旋時に腓骨が内側に滑る動きによって大腿二頭筋腱などに最大の牽引力が作用した場合であっても、該大腿二頭筋腱の最大の牽引力に抗して大腿二頭筋が最も大きな力を発揮しやすくなる。さらに、G部はその下部においてI部と接続されているため、I部において付与される最強緊締力と連動して大腿二頭筋をより強力にサポートすることが可能となっている。またこのG部が配置される領域は、膝関節外側側副靭帯が走行する領域でもあることから、当該外側側副靭帯保護能力を強める効果がある。
【0051】
このように、膝関節上方で下腿内旋運動時に最も力を発揮すると思われる大腿二頭筋の筋腹の位置にはG部による最強緊締力が付与され、筋腹上方は筋肉の伸びやすさをより引き出すためにE部による中緊締力が付与される。これにより、大腿二頭筋が効率的にエキセントリック収縮を行うことができるようになり、下腿内旋時における腓骨の過度の滑りを抑制することができる。
【0052】
また、スパッツ10では、G部とB部とを接続し、両者を連携させることによって大腿二頭筋のサポート機能を高めている。B部は、G部の外側で、大転子上方から下方に向かって大腿筋膜腸筋が腸脛靭帯に移行する位置(
図4、
図6参照)、及び、その下方にある大腿外側を補い、脛骨まで繋ぐ腸脛靭帯の全域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。B部によってサポートされる腸脛靭帯は、脛骨上方の外顆に付着し、大腿二頭筋が付着する腓骨頭、つまり、脛骨の外側に位置することから、この腸脛靭帯も大腿二頭筋作用と同じく下腿部の内旋制御に大きく関わっている。したがって大腿二頭筋をサポートするG部と、下腿部内旋の制御に関して大腿二頭筋と同様の作用効果を有する腸脛靭帯をサポートするB部とを合流させることにより、腓骨の滑りを抑制する力がより強く発揮され、下腿部の過内旋を抑制しやすくすることができる。
【0053】
なお、このB部は、腸脛靭帯のみならず、膝関節の外側にあって大腿骨外顆と下腿の腓骨を繋ぐ外側側副靭帯の伸展性を制御する機能も有する。外側側副靭帯は、大腿骨外顆と腓骨頭とを繋ぐ靭帯であり、膝関節が外側へぶれるのを制御する部位である。スパッツ10では、B部が大腿外側側副靭帯に沿う形に配置され、そのまま膝関節の外側を通過して、脛骨外顆と外側側副靭帯との付着部である腓骨頭を補うI部と接続している。これにより、B部及びI部による最強緊締力によって外側側副靭帯がサポートされ、該外側側副靭帯の保護レベルを高めている。外側側副靭帯が強力に保護されることで膝関節の内反を抑制しやすくなるため、脛骨内側への荷重ストレスが軽減され、シンスプリントを発症するリスクを低くすることができる。
【0054】
<その他の部位のサポート>
A部は、大殿筋の位置に対応する領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。そして、このA部と上述した大腿筋膜腸筋をサポートするB部とが、大殿筋の筋腹の外側辺りで接続されている。大腿筋膜腸筋は、縫工筋の股関節外転・外旋と拮抗的に働いて股関節内旋運動に作用する筋肉であり、B部によって大腿筋膜腸筋の伸びを強く制御することによって、歩行時の股関節内旋運動を制御することができる。本実施系形態では、A部が最強緊締力にて大殿筋をサポートする際に、大腿筋膜腸筋と連係させることによって縫工筋の股関節外転・外旋に抗する股関節内転・内旋作用が足の蹴り上げ時に有位に働き、足を真っ直ぐに出しやすくすることができるようにしている。
【0055】
C部は、A部の下方、すなわち、尾骨(不図示)2番から3番辺りの大殿筋の筋腹下方にあって、前傾時に最高の伸展力が求められる領域に中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分である。大殿筋の下方部を中緊締力でサポートすることによって、股関節内旋位で大殿筋が伸びながら力が発揮しやすくなるため、股関節内旋運動をより制御しやすくなる。
【0056】
H部は、膝関節上方でハムストリング筋(ハムストリングス)中央の位置に対応する領域に中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分である。ハムストリング筋を中緊締力にてサポートすることにより、膝屈曲位(スクワット)で該ハムストリング筋の横への膨張が許容され、膝の屈曲を円滑に行うことができる。
【0057】
F部は、恥骨結合近位から大腿内側全長の位置に対応する領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。すなわち、F部は大腿後面の内側に位置する半腱・半膜様筋の付着開始位置である恥骨結節辺りから筋の走行に沿って下降し、筋膜の一番大きい近位置から筋腹の全幅を補う幅を持たせ、筋腹から腱となって付着する部位である内側側副靭帯の付着近位置の鵞足を補う範囲までを最強緊締力にてサポートする。半腱・半膜様筋の下方部にある筋腱移行部をサポートすることにより、その側方に位置する内側側副靭帯も補強することができる。さらに、股関節内転筋群を最強緊締力にてサポートするZ部とF部とが大腿内側にて接続されていることにより、股関節内転作用を効率的に補助することができるようになる。
【0058】
T部は、P部及びQ部の下方、かつ、膝関節の外側上方に対応する領域に最強緊締力(第1の緊締力)を付与する部分である。そして、T部は、大腿外側部の下方3分の1辺りから大腿前側の下方に位置する膝蓋骨上方を通過し、膝蓋骨内側部を含む膝内側部をサポートするS部と接続されている。
【0059】
また、U部は、T部の下方で、膝関節の外側上方から膝関節内側の一部の領域に中緊締力(第3の緊締力)を付与する部分である。すなわち、膝蓋骨上方を通過した位置と、膝関節内側部で膝蓋骨の一部内側面を補った範囲外を斜めに覆う領域を中緊締力にてサポートする。この膝蓋骨の上方から内側を補う位置、つまり、斜めに最強緊締力を設定したことによって、膝蓋骨が外側に移動する動きを抑制することができる。その結果、膝屈曲時において膝関節が安定しやすくなり、また、大腿四頭筋が力を発揮やすくなる。
【0060】
===その他の実施形態===
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【0061】
上述の実施形態では、サポートウェアの一例として使用者の下半身全体を保護するスパッツ10について説明されていたが、サポートウェアの形態はこの限りではない。例えば、使用者の下腿部を中心に保護する下腿サポーターのようなものであっても良い。この場合、下腿サポーターは、少なくとも
図1及び
図3で下腿部を保護するX部,W部,V部,K部,J部,I部に相当する領域を有する。すなわち、各領域によって付与される緊締力によって、運動時において脛骨に作用する荷重や衝撃、及び、脛骨の捩れによって発生するストレスを緩和し、シンスプリントの発症を効果的に抑制することが可能な下腿サポーターであればよい。
【0062】
上述の実施形態では、スパッツ10の各領域で緊締力の大きさを変化させる方法として生地の表面に伸縮性を発現させる樹脂加工を施す例について説明されていたが、緊締力の大きさを変化させる方法はこの限りではない。例えば、複数の層が積層されることによって構成された生地の所定の領域について、積層される層の数を変更することによって緊締力を変化させるのであっても良いし、その他の方法によって緊締力を変化させるのであっても良い。