(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471381
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】直流電流開閉装置および摺動電気接点装置
(51)【国際特許分類】
H01H 33/59 20060101AFI20190207BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
H01H33/59 B
H01H33/59 C
H03K17/16 M
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-83551(P2015-83551)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-28378(P2016-28378A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-142137(P2014-142137)
(32)【優先日】2014年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303056623
【氏名又は名称】若月 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】若月 昇
【審査官】
太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−199228(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0020881(US,A1)
【文献】
特開昭52−054174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/28−33/59
H03K 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電用スイッチと、
直列に接続された過渡電流用スイッチとコンデンサとを有する過渡電流回路と、
直列に接続された放電用ダイオードと放電用抵抗とを有する放電回路とを有し、
前記過渡電流用スイッチは、前記通電用スイッチから時間差をつけて開閉可能に設けられ、
前記過渡電流回路は、前記通電用スイッチを開いたとき前記コンデンサに充電可能に、前記通電用スイッチに対して並列に設けられ、
前記放電回路は、前記通電用スイッチを閉じたとき前記コンデンサを放電可能に、前記通電用スイッチおよび前記コンデンサと共に閉回路を構成するよう設けられていることを
特徴とする直流電流開閉装置。
【請求項2】
通電用スイッチと、
直列に接続された過渡電流用ダイオードとコンデンサとを有する過渡電流回路と、
直列に接続された放電用ダイオードと放電用抵抗とを有する放電回路とを有し、
前記過渡電流回路は、前記通電用スイッチを開いたとき前記コンデンサに充電可能に、前記通電用スイッチに対して並列に設けられ、
前記放電回路は、前記通電用スイッチを閉じたとき前記コンデンサを放電可能に、前記通電用スイッチおよび前記コンデンサと共に閉回路を構成するよう設けられていることを
特徴とする直流電流開閉装置。
【請求項3】
前記放電用抵抗は、電源回路に対する負荷の抵抗値よりも小さい抵抗値を有していることを特徴とする請求項1または2記載の直流電流開閉装置。
【請求項4】
前記放電用抵抗は、前記通電用スイッチを開いたとき前記過渡電流回路のサージ電圧を抑制可能に、10Ω以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の直流電流開閉装置。
【請求項5】
前記通電用スイッチはバイメタル構造を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の直流電流開閉装置。
【請求項6】
前記通電用スイッチは、直列に接続された複数のスイッチから成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の直流電流開閉装置。
【請求項7】
前記通電用スイッチは3つのスイッチから成り、それぞれ外力で開閉するスイッチ、熱で開閉するスイッチ、および電流量で開閉するスイッチから成ることを特徴とする請求項6記載の直流電流開閉装置。
【請求項8】
各通電用スイッチは、電流を遮断する通電電流の大きさの範囲が互いに異なるスイッチから成ることを特徴とする請求項6または7記載の直流電流開閉装置
【請求項9】
電源と負荷とから成る回路に取り付けられた摺動電気接点装置であって、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の直流電流開閉装置と摺動接点とを有し、
前記摺動接点は、前記回路の上流側に取り付けられた2つの固定接点と、各固定接点に対応して設けられ、前記回路の下流側に取り付けられた2つの可動側接触子とを有し、一方の固定接点と対応する可動側接触子とが前記通電用スイッチを構成しており、他方の固定接点は前記過渡電流回路の出力側に接続され、各可動側接触子は互いに電気的に接続されており、
前記放電回路は、前記摺動接点の各固定接点と対応する各可動側接触子とをそれぞれ接続したとき前記コンデンサを放電可能に、前記摺動接点および前記コンデンサと共に閉回路を構成するよう設けられていることを
特徴とする摺動電気接点装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電流開閉装置および摺動電気接点装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、
図15に示すような、電源E
0、負荷R
L、およびスイッチ(開閉電気接点)SW1のみで構成されるデバイスにおいては、電流遮断時は、機械的なスイッチSW1の電圧は、電流遮断と同時に電源電圧E
0まで上昇する状態になり、電流と電圧が条件を満たせば、アーク放電現象が発生することになる。このアーク放電は、低電圧大電流の持続放電で、直流では接点間距離がある間隔以上になるまでは放電は止まらない。このアーク放電は、電圧が高く電流が大きいほど激しくなり、ときには回路を遮断できず、機器そのものが破損してしまうこともある。
【0003】
このため、回路を流れる電流を遮断するには、安全に素早くアーク放電を止める必要がある。交流回路の場合には、50Hzであれば1/100秒以内に電圧、電流のゼロ点が現れるため、消弧しやすい。これに対し、直流回路の場合には、交流とは異なりゼロ点がないため、アーク放電が持続しやすく、破損や火災が発生してしまうことがある。このため、磁石と組み合わせて、発生したアークを吹き消す機構などが採用されることがある。
【0004】
そこで、本発明者は、直流回路でアーク放電を発生させることなく回路電流を遮断するために、過渡電流スイッチ回路を提案している(例えば、特許文献1参照)。
図16に示すように、この過渡電流スイッチ回路Iは、スイッチSW2と、過渡電流での電圧上昇を遅らせるコンデンサCと、コンデンサCからの逆流を防止するためのダイオードD1とを有する直列回路を、機械的な電流遮断部のスイッチSW1に並列に配置し、過渡電流停止後にコンデンサCの電荷を放電させる放電抵抗R1をコンデンサCに並列に配置して成っている。この過渡電流スイッチ回路Iでは、コンデンサCの値を適当に設定することにより、スイッチSW1の電流遮断時に、機械的な開離部への電圧印加を抑止することができ、アーク放電の発生を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5109156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のような従来の過渡電流スイッチ回路Iでは、
図16(b)に示すように、電源E
0からコンデンンサCに流入した電流によって、コンデンサCが充電され、このコンデンサCへの充電電流が停止した後に、スイッチSW2を遮断し、その後、放電抵抗R1でコンデンサCの電荷が放電されることにより、初期条件に戻る。このため、電流遮断を繰り返すためには、再動作までに一定の時間が必要であり、それより短い時間では正常に再動作できないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、アーク放電を発生させることなく比較的短時間で直流電流の開閉動作を繰り返し行うことかできる直流電流開閉装置および摺動電気接点装置を提供することを目的としている。すなわち、本発明に係る直流電流開閉装置および摺動電気接点装置は、過渡電流スイッチ回路でのアーク放電抑止動作を簡単化し、かつ高速な繰り返し動作を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る直流電流開閉装置は、通電用スイッチと、直列に接続された過渡電流用スイッチとコンデンサとを有する過渡電流回路と、直列に接続された放電用ダイオードと放電用抵抗とを有する放電回路とを有し、前記過渡電流用スイッチは、前記通電用スイッチから時間差をつけて開閉可能に設けられ、前記過渡電流回路は、前記通電用スイッチを開いたとき前記コンデンサに充電可能に、前記通電用スイッチに対して並列に設けられ、前記放電回路は、前記通電用スイッチを閉じたとき前記コンデンサを放電可能に、前記通電用スイッチおよび前記コンデンサと共に閉回路を構成するよう設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る直流電流開閉装置は、以下の原理に従って動作を行う。
図1に、本発明に係る直流電流開閉装置の一例を示す。
図1に示す回路は、過渡電流用スイッチSW2とコンデンサCとを直列に接続した過渡電流回路を、通電用スイッチSW1に並列に配置し、放電用ダイオードD2と放電用抵抗R2とを直列に接続した放電回路IIを、ダイオードD1とコンデンサCとの間と、通電用スイッチSW1の上流側とを接続するよう配置して成っている。なお、電流の逆流を防止するために、過渡電流回路にダイオードD1が取り付けられている。
図1に示す回路は、
図16(a)に示す回路に、放電回路IIを加えたものである。
【0010】
図1に示す回路は、
図16(a)に示す回路の特徴であるスイッチSW1に並列に接続された過渡電流スイッチ回路Iの動作を妨げる現象は発生せず、スイッチSW1で電流が溶断しても、アーク放電が発生するのを防ぐことができる。また、放電回路IIにより、電圧上昇したコンデンサCの蓄積電荷放電を、スイッチSW1に担わせることができる。アーク放電は電気接点の開離時に起こる現象であり、
図1に示す回路では、閉成動作による接点抵抗の低いオン時に、コンデンサCを放電することができる。
【0011】
すなわち、
図1に示す回路では、コンデンサCからスイッチSW1に向けて放電電流が流れる向きに放電用ダイオードD2が接続されているため、スイッチSW1の電流遮断時にコンデンサCに蓄えられた電荷は、次回のスイッチSW1のオン時に放電される。このとき、放電用抵抗R2が配置されているため、コンデンサCからの急激な流出電流でスイッチSW1が損傷するのを防ぐことができる。このように、コンデンサCの並列放電抵抗R1による放電とは関係なく、スイッチSW1のオン動作によって、開離動作前にコンデンサCが放電され、電圧ゼロ状態で次回の電流遮断を迎えることができるため、過渡電流回路はつねに正常に動作する。
【0012】
本発明に係る直流電流開閉装置は、以上の原理に従って、アーク放電を発生させることなく直流電流を遮断することができ、かつ比較的短時間で直流電流の開閉動作を繰り返し行うことかできる。また、開離時は直流電流をゼロにすることができる。
【0013】
本発明に係る直流電流開閉装置は、過渡電流用スイッチを有さず、通電用スイッチと、直列に接続された過渡電流用ダイオードとコンデンサとを有する過渡電流回路と、直列に接続された放電用ダイオードと放電用抵抗とを有する放電回路とを有し、前記過渡電流回路は、前記通電用スイッチを開いたとき前記コンデンサに充電可能に、前記通電用スイッチに対して並列に設けられ、前記放電回路は、前記通電用スイッチを閉じたとき前記コンデンサを放電可能に、前記通電用スイッチおよび前記コンデンサと共に閉回路を構成するよう設けられていてもよい。
【0014】
この過渡電流用スイッチを有さない場合、以下の原理に従って動作を行う。
図2に、この装置の一例を示す。
図2に示す回路は、
図16(a)に示す回路から、過渡電流用スイッチSW2と放電抵抗R1とを外し、放電回路IIを加えたものである。
図16(a)に示す回路では、電源E
0からの直流電流が放電抵抗R1に流れ続けることを避けるために、過渡電流用スイッチSW2が配置されている。この過渡電流用スイッチSW2を流れる過渡電流は、コンデンサCの容量や通電電流量によって充電収束時間が変わるため、過渡電流用スイッチSW2の電流遮断のタイミングが難しく、一般には、十分に長い期間後に開離することになる。このため、スイッチSW1の繰り返し遮断には、時間設定に細心の注意が必要となる。
【0015】
これに対し、
図2に示す回路では、スイッチSW1の電流遮断時には、IIIのように電流が流れるが、放電抵抗R1がないため、コンデンサCによりその直流電流を遮断することができる。また、過渡電流用スイッチSW2の動作がなくなるため、回路設計が大幅に容易になる。
図2に示す回路では、
図1に示す回路と同様に、コンデンサCの電荷は、スイッチSW1の電流遮断時に保存され、スイッチSW1の閉成動作時にIVのように電流が流れ、放電用抵抗R2で放電される。また、スイッチSW1の電流遮断時には、コンデンサCによりアーク放電を阻止することができる。
【0016】
本発明に係る直流電流開閉装置で、コンデンサの放電時間は、コンデンサの容量と放電用抵抗の抵抗値との積から成る時定数に依存しており、通電用スイッチの再開閉には、その放電時間を考慮する必要がある。放電用抵抗をゼロにすると、瞬時に放電は完了するが、通電用スイッチが損傷する可能性がある。このため、通電用スイッチの電流容量を考慮して、放電用抵抗の抵抗値を設定する必要がある。放電用抵抗の抵抗値が電源回路に対する負荷の抵抗値と同程度であれば、損傷の問題は起こらない。このことから、コンデンサの放電時間をできるだけ短くするとともに、通電用スイッチの損傷を防ぐために、放電用抵抗は、電源回路に対する負荷の抵抗値と同程度であるか、負荷の抵抗値よりも小さい抵抗値を有していることが好ましい。
【0017】
また、この場合、通電用スイッチの閉成・開離動作で、機械的なバウンスが生じた場合でも、コンデンサの容量と放電用抵抗の抵抗値とで決まる時定数と同程度のオン(接触)時間がある現象であれば、それらのバウンスによるアーク放電の点弧を抑止することができる。
【0018】
図16(a)に示す回路では、過渡電流スイッチ回路Iの残留インダクタンスが、電流遮断時にスイッチSW1の接点間に不要なサージ電圧を発生させる。本発明に係る直流電流開閉装置では、そのようなインダクタンスに対して帰還回路の機能を示すため、サージ電圧を抑制することができる。特に、放電用抵抗を10Ω以下にすることにより、サージ電圧の抑制効果をより高めることができる。
【0019】
本発明に係る直流電流開閉装置は、直流回路で機械的に電流を繰り返し開閉するスイッチング・デバイス、例えば、手動スイッチや電磁リレー、ブレーカ、ヒューズ等に利用することができる。また、太陽光発電装置やインバータ応用装置などの、直流配電や直流電力応用装置の普及に対応して、小型化、高信頼化、低コスト化などに対応することができる。サーマルスイッチやサーマルリレーなどのように、温度による遮断後に再度の接続が予測される装置の場合、特に有効である。この場合、通電用スイッチがバイメタル構造を有していることが好ましい。このような温度による開閉機構を用いれば、異常電流による回路や機器の温度上昇時にも、アーク放電を発生させることなく電流を遮断することができる。なお、直流電流の方向が反転する場合、通電用スイッチに対して、それぞれの向きに対応した過渡電流回路および放電回路を配置することにより、両方向の電流に対応することができる。
【0020】
本発明に係る直流電流開閉装置で、前記通電用スイッチは、直列に接続された複数のスイッチから成っていてもよい。例えば、通電用スイッチは3つのスイッチから成り、それぞれ外力で開閉するスイッチ、熱で開閉するスイッチ、および電流量で開閉するスイッチから成っていてもよい。この場合、いずれの通電用スイッチであっても、アーク放電を発生させることなく直流電流を遮断することができ、かつ比較的短時間で直流電流の開閉動作を繰り返し行うことかできる。
【0021】
また、各通電用スイッチは、電流を遮断する通電電流の大きさの範囲が互いに異なるスイッチから成ることが好ましい。この場合、一つ一つの通電用スイッチの電流遮断範囲よりも広い範囲で、アーク放電を発生させることなく電流を遮断することができる。このため、例えば、サーマルスイッチやヒューズなどを併用することにより、渦電流や短絡電流が発生しても、アーク放電を発生させることなく電流を遮断することができ、接続されている負荷や回路自身を保護することができる。
【0022】
本発明に係る摺動電気接点装置は、電源と負荷とから成る回路に取り付けられた摺動電気接点装置であって、本発明に係る直流電流開閉装置と摺動接点とを有し、前記摺動接点は、前記回路の上流側に取り付けられた2つの固定接点と、各固定接点に対応して設けられ、前記回路の下流側に取り付けられた2つの可動側接触子とを有し、一方の固定接点と対応する可動側接触子とが前記通電用スイッチを構成しており、他方の固定接点は前記過渡電流回路の出力側に接続され、各可動側接触子は互いに電気的に接続されており、前記放電回路は、前記摺動接点の各固定接点と対応する各可動側接触子とをそれぞれ接続したとき前記コンデンサを放電可能に、前記摺動接点および前記コンデンサと共に閉回路を構成するよう設けられていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る摺動電気接点装置は、本発明に係る直流電流開閉装置を有しており、摺動接点の一方の固定接点と対応する可動側接触子とが離れたとき、アーク放電が発生するのを防止することができる。また、摺動接点の一方の固定接点と対応する可動側接触子との間の開閉動作を、比較的短時間で繰り返し行うことかできる。このため、本発明に係る摺動電気接点装置は、例えば、直流モータのブラシや摺動電極等に用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アーク放電を発生させることなく比較的短時間で直流電流の開閉動作を繰り返し行うことかできる直流電流開閉装置および摺動電気接点装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る直流電流開閉装置の原理を示す回路図である。
【
図2】本発明に係る直流電流開閉装置の(a)過渡電流用スイッチを有さない場合の原理を示す回路図、(b)その回路の動作説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態の直流電流開閉装置を示す回路図である。
【
図4】
図3に示す直流電流開閉装置の実施例を示す回路図である。
【
図5】
図4に示す直流電流開閉装置の(a)通電用スイッチ開離時の電流電圧特性、(b)通電用スイッチ閉成時の電流電圧特性を示すグラフである。
【
図6】
図3に示す直流電流開閉装置の他の実施例を示す回路図である。
【
図7】
図6に示す直流電流開閉装置の(a)通電用スイッチ開離時の電流電圧特性、(b) (a)の時間軸を拡大した電流電圧特性を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態の直流電流開閉装置の、通電用スイッチとして(a)ロッカスイッチ、(b)電磁リレーを用いたときの通電用スイッチ開離時の電流電圧特性を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態の直流電流開閉装置の、通電用スイッチとしてサーマルスイッチを用いたときの通電用スイッチ開離時の電流電圧特性を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施の形態の直流電流開閉装置の、通電用スイッチとしてガラス管Znヒューズを用いたときの(a)通電用スイッチの無放電電流遮断時、(b)下限に近い条件での通電用スイッチの溶断時、(c)短絡電流を想定した条件での通電用スイッチの溶断時の電流電圧特性を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施の形態の直流電流開閉装置に関する、電源電圧50Vのときの、DC用、定格10Aのヒューズの電流値と溶断時間との関係を示すグラフである。
【
図12】本発明の実施の形態の直流電流開閉装置の、通電用スイッチが3つのスイッチから成る実施例を示す回路図である。
【
図13】
図12に示す直流電流開閉装置の、通電用スイッチの動作特性曲線のグラフである。
【
図14】本発明の実施の形態の摺動電気接点装置を示す回路図である。
【
図15】(a)従来の一般的な直流電流開閉装置を示す回路図、(b)その回路の動作説明図である。
【
図16】(a)従来の過渡電流スイッチ回路を有する直流電流開閉装置を示す回路図、(b)その回路の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図3乃至
図13は、本発明の実施の形態の直流電流開閉装置を示している。
図3に示すように、直流電流開閉装置1は、通電用スイッチSW1と過渡電流用ダイオードD1とコンデンサCと放電用ダイオードD2と放電用抵抗R2とを有している。
【0027】
図3に示すように、通電用スイッチSW1は、例えば汎用電磁リレーから成り、直流電源E
0と負荷R
Lとを有する回路に接続されている。なお、通電用スイッチSW1としてバイメタルスイッチを用いれば、温度によって開閉する無アーク放電の温度スイッチを実現可能である。また、通電用スイッチSW1としてMOSFETなどの半導体スイッチを用いれば、スイッチ部での発熱を抑止可能である。直流電源E
0は、例えば蓄電池や交流整流電源やインバータ電源などである。負荷R
Lは、ヒータなどの抵抗負荷直流でもモータのような誘導性負荷でよい。誘導性負荷の場合、遮断時の磁気エネルギーを吸収するために、コンデンサCの容量を大きくする必要がある。
【0028】
過渡電流用ダイオードD1およびコンデンサCは、直列に接続されて過渡電流回路を形成しており、通電用スイッチSW1に並列に配置されている。過渡電流用ダイオードD1は、直流電源E
0からの電流方向に沿って電流が流れるよう接続されている。コンデンサCは、過渡電流用ダイオードD1の下流側に接続されている。コンデンサCは、等価直列抵抗が小さなペーパコンデンサかセラミックコンデンサから成ることが好ましい。誘導性負荷のサージ吸収の場合には、容量が大きいが等価直列抵抗も比較的大きいアルミ電解コンデンサを使用可能である。
【0029】
放電用ダイオードD2および放電用抵抗R2は、直列に接続されて放電回路を形成しており、過渡電流用ダイオードD1とコンデンサCとの間と、通電用スイッチSW1の上流側とを接続するよう配置されている。放電用ダイオードD2は、コンデンサCから通電用スイッチSW1に向かって電流が流れるよう接続されている。放電用抵抗R2は、放電用ダイオードD2の上流側に接続されている。
【0030】
直流電流開閉装置1は、通電用スイッチSW1を開いたとき、コンデンサCに充電可能になっている。また、通電用スイッチSW1を閉じたとき、コンデンサC、放電用抵抗R2、放電用ダイオードD2および通電用スイッチSW1が閉回路を構成し、コンデンサCを放電可能になっている。なお、通電用スイッチSW1を閉じたときの放電電流値は、放電用抵抗R2の抵抗値とコンデンサCの電圧で決まり、通電用スイッチSW1の許容最大電流を超えないような値に設定することが好ましい。例えば、放電用抵抗R2の抵抗値が負荷R
Lの抵抗値と同じ程度の値であれば、許容最大電流を超えることはない。
以下、実施例に基づいて、直流電流開閉装置1の作用効果について説明する。
【実施例1】
【0031】
図4に示す回路を用いて、直流電流の開閉実験を行った。
図4に示すように、通電用スイッチSW1として、市販のヒンジリレー(富士電機製「HH62P」)を用い、コンデンサCとして、容量が20μFのセラミックコンデンサを用いた。帰還抵抗は1Ωである。また、実験では、直流電源E
0の電圧を24V、電流を2.82A、負荷R
Lの抵抗値を約10Ωとした。
【0032】
通電用スイッチSW1の開離時(電流遮断時)の負荷電流(
図4中の「CH1」での電流値)、コンデンサ流入電流(
図4中の「CH2」での電流値)、およびコンデンサ電圧(
図4中の「CH4」での電圧値)の測定結果を、
図5(a)に示す。
図5(a)に示すように、アーク放電は発生していないことが確認できる。なお、
図5(a)に示す結果は、
図10に示す従来の過渡電流スイッチ回路でのアーク放電の抑止電流電圧特性と同じ結果である。
【0033】
電流遮断直後に通電用スイッチSW1を閉成した時の負荷電流(
図4中の「CH1」での電流値)、コンデンサ流入電流(
図4中の「CH2」での電流値)、コンデンサ電圧(
図4中の「CH4」での電圧値)、およびスイッチ間電圧(
図4中の「CH6」での電圧値)の測定結果を、
図5(b)に示す。
図5(b)に示すように、CH4のコンデンサ電圧は、閉成前は電源電圧で充電されているが、閉成後には接点電圧と同じほぼゼロとなっていることが確認できる。すなわち、コンデンサCの電荷は、通電用スイッチSW1の閉成動作を介して放電されていることがわかる。その後の電流遮断時は、
図5(a)とまったく同じ電流電圧特性を示す。
【0034】
この実験結果から、直流電流開閉装置1は、アーク放電を発生させることなく直流電流を遮断することができ、かつ比較的短時間で直流電流の開閉動作を繰り返し行うことかできるといえる。
【実施例2】
【0035】
図6に示す回路を用いて、電流遮断時のサージ電圧抑制効果を調べる実験を行った。
図6に示すように、通電用スイッチSW1として、市販のヒンジリレー(富士電機製「HH62P」)を用い、コンデンサCとして容量が58.3μFのセラミックコンデンサを用いた。また、実験では、直流電源E
0の電圧を300V、電流を30A、負荷R
Lの抵抗値を約10Ωとした。
【0036】
通電用スイッチSW1の開離時(電流遮断時)の負荷電流(
図6中の「CH1」での電流値)、およびスイッチ間電圧(
図6中の「CH2」または「CH4」での電圧値)の測定結果を、
図7に示す。なお、
図7中のCH4のグラフは、縦軸の1目盛の電圧値を、CH2の場合の2倍にして示したものである。また、
図7(b)は、
図7(a)の横軸の時間軸を200倍に拡大したものである。
【0037】
図7に示すように、電流遮断時にアーク放電が抑止されていることが確認できる。また、
図7(b)に示すように、矢印の位置で発生すると考えられる残留インダクタンスによるサージ電圧がほとんど観測されてない。これは、直流電流開閉装置1の帰還回路特性によるものと考えられる。
【実施例3】
【0038】
実施例1および2では、通電用スイッチSW1としてヒンジリレーを用いたが、通電用スイッチSW1としてロッカスイッチ(Rocker switch)を用いたときの開離時の電流電圧特性を
図8(a)に、電磁リレー(Magnetic relay)を用いたときの開離時の電流電圧特性を
図8(b)に示す。また、サーマルスイッチを用いたときの閉成時および開離時の電流電圧特性を
図9に示す。また、ガラス管Znヒューズ(DC用、定格10A)を用いたときの溶断時の電流電圧特性を
図10に示す。
図8〜
図10(a)は、遮断時の電圧300V、電流33Aのものであり、渦電流を想定した場合のものである。また、
図10(b)は、下限に近い条件、すなわち電流が定格のほぼ2倍で溶断したときのものである。
図10(c)は、電流が250Aであり、短絡電流を想定した条件で溶断したときのものである。
【0039】
図8〜
図10(a)に示すように、異なる機構での電流遮断であっても、アーク放電を発生させることなく直流電流を遮断できることが確認された。また、
図10(b)および(c)に示すように、定格の数倍から10倍程度の渦電流や、定格の10倍以上の100〜250Aの短絡電流によりヒューズが溶断しても、定常的なアーク放電を発生させることなく直流電流を遮断できることが確認された。
【0040】
図11に、電源電圧を50Vとしたときの、DC用、定格10Aのヒューズの電流値と溶断時間との関係を示す。
図10(b)、(c)および
図11に示すように、ヒューズの溶断時間は、渦電流に対しては100〜1300msと長く、短絡電流に対しては10ms以下と短いことがわかる。
【実施例4】
【0041】
図12に示すように、通電用スイッチSW1が直列に接続された3つのスイッチから成る直流電流開閉装置1を作製した。各通電用スイッチSW1は、それぞれ外力で開閉する電磁リレー、電流量で溶断するヒューズ、熱で開閉するサーマルスイッチから成っている。
図13に、この3つのスイッチを接続した通電用スイッチSW1に流れる電流とスイッチの動作時間との関係(動作特性曲線)を示す。
【0042】
図13に示すように、電磁リレーの電流を遮断する通電電流の大きさの範囲(電流遮断範囲)は0〜20A、サーマルスイッチの電流遮断範囲は19〜40A、ヒューズの電流遮断範囲は32〜50Aであり、各スイッチの電流遮断範囲が互いに異なりつつも、0〜50Aまでをカバーしている。
図13から、一つ一つのスイッチの電流遮断範囲よりも広い範囲(0〜50A)で、アーク放電を発生させることなく電流を遮断することができることがわかる。このため、通常の開離動作だけでなく、渦電流や短絡電流が発生したときも、アーク放電を発生させることなく電流を遮断することができ、回路を保護することができるといえる。
【0043】
図14は、本発明の実施の形態の摺動電気接点装置を示している。
図14に示すように、摺動電気接点装置10は、摺動接点11と過渡電流用ダイオードD1とコンデンサCと放電用ダイオードD2と放電用抵抗R2とを有している。
なお、以下の説明では、本発明の実施の形態の直流電流開閉装置1と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0044】
摺動接点11は、電源E
0側に接続された2つの固定接点A
F,B
Fと、各固定接点A
F,B
Fに対応して設けられ、負荷R
L側に接続された2つの可動側接触子A
M,B
Mとを有している。摺動接点11は、一方の固定接点A
Fと対応する可動側接触子A
Mとが、通電用スイッチSW1を構成している。各固定接点A
F,B
Fはカーボン製であり、各可動側接触子A
M,B
Mは銅製である。他方の固定接点B
Fは、コンデンサCの出力端に接続されている。各可動側接触子A
M,B
Mは、互いに電気的に接続されており、それぞれ対応する固定接点A
F,B
Fに対して、摺動して接触したり離れたりするよう構成されている。
【0045】
摺動電気接点装置10は、他方の固定接点B
Fと対応する可動側接触子B
Mとが接続し、一方の固定接点A
Fと対応する可動側接触子B
Mとが離れたとき、コンデンサCに充電可能になっている。また、各固定接点A
F,B
Fと対応する各可動側接触子A
M,B
Mとをそれぞれ接続したとき、コンデンサC、放電用抵抗R2、放電用ダイオードD2および摺動接点11が閉回路を構成し、コンデンサCを放電可能になっている。
【0046】
摺動電気接点装置10は、直流電流開閉装置1を有しており、摺動接点11の一方の固定接点A
Fと対応する可動側接触子B
Mとが離れたとき、アーク放電が発生するのを防止することができる。また、摺動接点11の一方の固定接点A
Fと対応する可動側接触子B
Mとの間の開閉動作を、比較的短時間で繰り返し行うことかできる。
【0047】
従来、直流モータのブラシは、駆動相変化の時に必ず電流遮断が起こり、アーク放電が発生していた。また、摺動電極も、対向電極表面の凹凸によりアーク放電が発生し、接触不良の原因となっていた。このような直流モータのブラシや摺動電極に、摺動電気接点装置10を用いることにより、アーク放電の発生を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る直流電流開閉装置は、既存の電流のスイッチ回路・デバイスに適用することができる。また、直流モータのブラシ部に適用すれば、回転による電流方向切り替え時のアーク放電を抑止することができる。手動スイッチに適用すれば、手動によるスイッチ時間の変動を含めて、電流遮断時のアーク放電を抑止することができる。摺動接点に適用すれば、摺動時の接触抵抗のばらつきによるアーク放電の抑止効果が期待できる。
【符号の説明】
【0049】
1 直流電流開閉装置
E
0 直流電源
R
L 負荷
SW1 通電用スイッチ
SW2 過渡電流用スイッチ
D1 過渡電流用ダイオード
C コンデンサ
R1 放電抵抗
D2 放電用ダイオード
R2 放電用抵抗
10 摺動電気接点装置
11 摺動接点
A
F,B
F 固定接点
A
M,B
M 可動側接触子