【文献】
The Journal of Biological Chemistry,2002年,Vol.277, No.3,p.1855-1863
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗ウイルス剤がアバカビル(Abacavir)、アシクロビル(Aciclovir)、アシクロビル(Acyclovir)、アデフォビル(Adefovir)、アマンタジン(Amantadine)、アンプレナビル(Amprenavir)、アンプリジェン(Ampligen)、アルビドール(Arbidol)、アタザナビル(Atazanavir)、アトリプラ(Atripla)、ボセプレビレルテット(Boceprevirertet)、シドフォビル(Cidofovir)、コンビビル(Combivir)、ダルナビル(Darunavir)、デラビルジン(Delavirdine)、ジダノシン(Didanosine)、ドコサノール(Docosanol)、エドクスジン(Edoxudine)、エファビレンツ(Efavirenz)、エムトリシタビン(Emtricitabine)、エンフビルチド(Enfuvirtide)、エンテカビル(Entecavir)、侵入インヒビター、ファムシクロビル(Famciclovir)、ホミビルセン(Fomivirsen)、ホスアンプレナビル(Fosamprenavir)、ホスカルネット(Foscarnet)、ホスホネット(Fosfonet)、ガンシクロビル(Ganciclovir)、イバシタビン(Ibacitabine)、イムノビル(Imunovir)、イドクスウリジン(Idoxuridine)、イミキモド(Imiquimod)、インジナビル(Indinavir)、イノシン(Inosine)、インテグラーゼインヒビター、インターフェロンIII型、インターフェロンII型、インターフェロンI型、インターフェロン、ラミブジン(Lamivudine)、ロピナビル(Lopinavir)、ロビリド(Loviride)、マラビロク(Maraviroc)、モロキシジン(Moroxydine)、メチサゾン(Methisazone)、ネルフィナビル(Nelfinavir)、ネビラピン(Nevirapine)、ネキサビル(Nexavir)、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Oseltamivir)、ペグインターフェロンアルファ−2a、ペンシクロビル(Penciclovir)、ペラミビル(Peramivir)、プレコナリル(Pleconaril)、ポドフィロトキシン(Podophyllotoxin)、プロテアーゼインヒビター、ラルテグラビル(Raltegravir)、逆転写酵素インヒビター、リバビリン(Ribavirin)、リマンタジン(Rimantadine)、リトナビル(Ritonavir)、ピラミジン(Pyramidine)、サキナビル(Saquinavir)、スタブジン(Stavudine)、相乗的増強剤(抗レトロウイルス)、ティーツリーオイル(Tea tree oil)、テラプレビル(Telaprevir)、テノホビル(Tenofovir)、テノホビルジソプロキシル(Tenofovir disoproxil)、チプラナビル(Tipranavir)、トリフルリジン(Trifluridine)、トリジビル(Trizivir)、トロマンタジン(Tromantadine)、ツルバダ(Truvada)、バラシクロビル(Valaciclovir)、バルガンシクロビル(Valganciclovir)、ビクリビロック(Vicriviroc)、ビダラビン(Vidarabine)、ビラミジン(Viramidine)、ザルシタビン(Zalcitabine)、ザナミビル(Zanamivir)およびジドブジン(Zidovudine)から選択される、請求項15に記載のポリペプチド。
前記ウイルス性疾患がインフルエンザ、ヒト免疫不全ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、天然痘ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、朝鮮出血熱ウイルス、水痘、水痘帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス1または2、エプスタイン−バーウイルス、マールブルグウイルス、ハンタウイルス、黄熱病ウイルス、A、B、CまたはE型肝炎、エボラウイルス、ヒトパピローマウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ロタウイルスまたはHTLV−1もしくは2である、請求項23に記載のポリペプチドまたは医薬製剤。
【発明を実施するための形態】
【0014】
例示的実施形態の説明
アネキシンと同様に、ガンマ−カルボキシグルタミン酸(Gla)−ドメインタンパク質、例えば第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインCおよびプロテインSはアニオン性膜に結合する。実際、アポトーシス特異的プローブとなるように合理的に設計された小分子のモデルとして、Gla−ドメインが使用されている(Cohenら,2009)。ここで、本発明者らは、アポトーシスおよび疾患に特異的な生物学的プローブの新規クラスとしてのこれらのGla−ドメインタンパク質の膜標的化部分の利用を提示する。これらの天然に存在する標的化タンパク質の使用は、より小さいサイズ(<30kDa)という付加的利点と共に、現在のプローブと比較して増強した特異性をもたらしうる。EGFおよび/またはクリングルドメインを含む、より大きな実施形態においてさえも、これらのタンパク質はアネキシンV(37kDa)より尚も小さくなることが可能であり、潜在的には僅か<5kDaとなりうる。これらの生物学的プローブはインビトロおよびインビボの両方においてPtdS細胞表面発現を標的化しうる。したがって、アフィニティ、特異性およびサイズにおいてアネキシンVより優れており、治療剤としての使用の付加的可能性を有するアポトーシス/疾患標的化プローブを開発することが可能である。本開示のこれらの及び他の態様を以下に更に詳細に説明する。
【0015】
適当な場合には、単数形で用いられる用語は複数形対象物をも含み、その逆も成り立つ。後記のいずれかの定義がいずれかの他の文書(参照により本明細書に組み入れるいずれかの文書を含む)におけるその語の用法に矛盾する場合には、反対の意味が明らかに意図される場合(例えば、その語が元来用いられている文書における場合)を除き、本明細書およびその添付の特許請求の範囲の解釈の目的においては後記の定義が常に優先するものとする。特に示されていない限り、「または」の使用は「および/または」を意味する。本明細書における単数形の使用は、特に示されていない限り、または「1以上」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「1以上」を意味する。「含む」、「含み」、「包含する」および「包含し」の使用は互換的であり、限定的ではない。例えば、「含む」なる語は「〜を含むが、〜に限定されない」ことを意味するものとする。「約」なる語は、示されている数のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0016】
本明細書中で用いる「単離されたペプチドまたはポリペプチド」は、異なる配列を有するペプチドまたはポリペプチドを含む、他の生物学的分子を実質的に含有しないペプチドまたはポリペプチドを意味すると意図される。幾つかの実施形態においては、単離されたペプチドまたはポリペプチドは乾燥重量で少なくとも約75%、約80%、約90%、約95%、約97%、約99%、約99.9%または約100%純粋である。幾つかの実施形態においては、純度は例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLC分析のような方法により測定されうる。
【0017】
本明細書中で用いる「保存的置換」は、ポリペプチドの修飾であって、1以上のアミノ酸を、該ポリペプチドの生物学的または生化学的機能の喪失を引き起こさない類似生化学的特性を有するアミノ酸で置換することを含むものを意味する。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるものである。類似側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野において定められている。これらのファミリーは、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。本開示の抗体は1以上の保存的アミノ酸置換を有することが可能であり、尚も抗原結合活性を保有しうる。
【0018】
核酸およびポリペプチドの場合、「実質的な相同性」なる語は、2つの核酸または2つのポリペプチドまたは示されているそれらの配列が、最適にアライメント(整列)され比較された場合に、適当なヌクレオチドまたはアミノ酸の挿入または欠失を伴って、ヌクレオチドまたはアミノ酸の少なくとも約80%、通常は少なくとも約85%、幾つかの実施形態においては、約90%、91%、92%、93%、94%または95%、少なくとも1つの実施形態においては、ヌクレオチドまたはアミノ酸の少なくとも約96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%または99.5%において同一であることを示す。あるいは、核酸に関する実質的な相同性が存在するのは、選択的なハイブリダイゼーション条件下、鎖の相補体に断片がハイブリダイズする場合である。また、本明細書中に挙げられている特定の核酸配列およびアミノ酸配列に対する実質的な相同性を有する核酸配列およびポリペプチド配列も含まれる。
【0019】
2つの配列の間の同一性(%)は、それらの2つの配列の最適アライメントのために導入される必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した場合の、それらの配列により共有される同一位置の数の関数(すなわち、%相同性=同一位置の数/位置の総数×100)である。2つの配列の間の配列の比較および同一性(%)の決定は、限定的なものではないがVectorNTI
TM(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA)のAlignX
TMモジュールのような数学的アルゴリズムを使用して達成されうる。Align
TMの場合、多重アライメントのデフォルトパラメータはギャップ・オープニング・ペナルティ:10;ギャップ伸長ペナルティ:0.05;ギャップ分離ペナルティ範囲:8;アライメント遅延に関する%同一性:40である(更なる詳細は、invitrogen.com/site/us/en/home/LINNEA−Online−Guides/LINNEA−Communities/Vector−NTI−Community/Sequence−analysis−and−data−management−software−for−PCs/AlignX−Module−for−Vector−NTI−Advance.reg.us.htmlにおけるワールド・ワイド・ウェブを参照されたい)。
【0020】
クエリー(問い合わせ)配列(本開示の配列)と対象配列との間の最良の全体的マッチ(グローバル配列アライメントとも称される)を決定するためのもう1つの方法は、CLUSTALWコンピュータプログラム(Thompsonら,Nucleic Acids Res,1994,2(22):4673−4680)を使用して決定されることが可能であり、これはHigginsら,Computer Applications in the Biosciences(CABIOS),1992,8(2):189−191のアルゴリズムに基づく。配列アライメントにおいては、クエリーおよび対象配列は共にDNA配列である。グローバル配列アライメントの結果は同一性(%)で表される。ペアワイズアライメントにより同一性(%)を計算するためにDNA配列のCLUSTALWアライメントにおいて使用されうるパラメータはマトリックス=IUB、k−タプル(tuple)=1、上部対角線(Top Diagonals)の数=5、ギャップ・ペナルティ=3、ギャップ・オープン・ペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=0.1である。多重アライメントには、以下のCLUSTALWパラメータが使用されうる:ギャップ・オープニング・ペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=0.05;ギャップ分離ペナルティ範囲=8;アライメント遅延に関する%同一性=40。
【0021】
核酸は全細胞中に、細胞ライセート中に、または部分精製された若しくは実質的に純粋な形態として存在しうる。核酸が「単離されている」または「実質的に純粋にされている」と言えるのは、それが天然環境で通常付随している他の細胞成分から精製されている場合である。核酸を単離するためには、以下のような標準的な技術が用いられうる:アルカリ/SDS処理、CsClバンド化、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動および当技術分野でよく知られている他の技術。
【0022】
I.ホスファチジルセリン(PtdS)
A.構造および合成
ホスファチジルセリン(PtdS、Ptd−L−SerまたはPSと略される)は、フリッパーゼと称される酵素により細胞膜の内部小葉(サイトゾル側)上で通常は維持されるリン脂質成分である。細胞がアポトーシスを受けると、ホスファチジルセリンはもはや膜のサイトゾル部分に局在せず、細胞の表面上に露出されるようになる。PtdSの化学式はC
13H
24NO
10Pであり、385.304の分子量を有する。その構造は以下のとおりである。
【化1】
【0023】
ホスファチジルセリンは、アミノ酸セリンをCDP(シチジン二リン酸)活性化ホスファチジン酸と縮合させることにより、細菌において生合成される。哺乳類においては、ホスファチジルセリンはホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミンとの塩基交換反応により産生される。逆に、ホスファチジルセリンはまた、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンを与えうる。尤も、動物においては、ホスファチジルセリンからホスファチジルコリンを産生する経路は肝臓内でのみ機能するのであるが。
【0024】
B.機能
ホスファチジルセリンの初期研究はウシの脳から化学物質を蒸留した。現在の研究および商業的に入手可能な製品は、狂牛病に関する懸念ゆえに、ダイズから製造される。ダイズ製品におけるセリンに結合している脂肪酸はウシ製品におけるものと同一ではなく、そしてまた、不純物である。ラットにおける予備的研究は、ダイズ製品が少なくともウシ由来製品と同程度に強力であることを示している。
【0025】
米国FDAはホスファチジルセリンに「限定的健康強調表示(qualified health claim)」のステータスを付与しており、「ホスファチジルセリンの摂取は高齢者における痴呆のリスクを低減しうる」および「ホスファチジルセリンの摂取は高齢者における認知機能障害のリスクを低減しうる」と述べている。
【0026】
ホスファチジルセリンは、サイクリング、ウェイトトレーニングおよび持久走に関わる運動選手における回復を加速し、筋肉痛を予防し、健康状態を改善することが実証されており、そのような運動選手におけるエルゴジェニック特性を有しうるであろう。ダイズ−PtdSは用量依存的(400mg)に、コルチゾールレベルの運動誘発性上昇を鈍化させることにより運動誘発性ストレスに対処するのに有効なサプリメントであることが報告されている。PtdSの補給は運動選手にとっての望ましいホルモンバランスを促し、過剰トレーニングおよび/または過剰ストレッチングに伴う生理的悪化を低減しうるであろう。最近の研究において、PtdSは精神的ストレス中の若者のコホートにおける気分を向上させ、ゴルファーのストレス抵抗性を増強することによりティーショット中の精度を改善することが示されている。最初の予備研究は、PtdS補給が、注意欠陥多動性障害を有する子供に有益でありうることを示している。
【0027】
伝統的に、PtdSサプリメント(補給物)はウシ大脳皮質(BC−PS)に由来するものであったが、感染性疾患の伝染の可能性ゆえに、ダイズ由来PS(S−PS)が潜在的な安全な代替物として確立されている。ダイズ由来PSは米国食品医薬局により一般に安全だと認定されており(GRAS)、1日3回、200mgまでの投与量で摂取されれば、高齢者用の安全な栄養サプリメントとなる。ホスファチジルセリンはマウスにおける特異的免疫応答を低減することが示されている。
【0028】
PtdSは肉において見出されうるが、脳内ならびに肝臓および腎臓のような内臓内に最も豊富に存在する。乳製品においては、または白豆を除く植物においては、少量のPSが見出されうるに過ぎない。
【0029】
アネキシン−A5は、PtdSに対する強力な結合アフィニティを有する天然に存在するタンパク質である。標識アネキシン−A5はインビトロまたはインビボで細胞の初期ないし中期のアポトーシス状態における細胞の可視化を可能にする。もう1つのPtdS結合タンパク質はMfge8である。テクネチウム標識アネキシン−A5は悪性腫瘍と良性腫瘍との識別を可能にし、それらの病理は、良性腫瘍における低率のアポトーシスと比較された場合の、悪性腫瘍における高率の細胞分裂およびアポトーシスを含む。
【0030】
II.Glaドメインタンパク質
A.Glaドメイン
Gla−ドメインタンパク質の一般構造はGlaドメインおよびそれに続くEGFドメインおよびそれに続くC末端セリンプロテアーゼドメインの構造である。例外は、EGFドメインの代わりにクリングルドメインを含有するプロトロンビン、およびセリンプロテアーゼドメインを有さないが、その代わりに性ホルモン結合性グロブリン様(SHBG)ドメインを有するプロテインSである(HanssonおよびStenflo,2005)。アニオン性膜に対するGla−ドメインタンパク質のアフィニティは様々である。大雑把に言うと、それらは以下の3つの範疇に含まれる:1)30〜50nMのK
dを有する高アフィニティ結合体、2)100〜200nMのK
dを有する中アフィニテイ結合体、および3)1000〜2000nMのK
dを有する低アフィニティ結合体。高アフィニティGlaドメインタンパク質は、プロテインSを含有するアニオン性膜に結合することが示されており、このことは特に、アポトーシス細胞への、PtdSとのその相互作用を介した結合を示している(Webbら,2002)。低アフィニティGlaドメインタンパク質は、細胞膜に結合するために二次受容体を用いる。例えば、FVIIは組織因子(TF)を用いる。Glaドメイン/第1 EGFドメインはFVIIの高アフィニティTF結合ドメインを構成すると考えられている。このアプローチに関して重要なことに、結腸直腸癌、NSCL癌および乳癌を含む癌細胞の表面上のTFアップレギュレーションを示している多数の研究が存在し、これらの高いTFレベルは予後不良に関連づけられている(Yuら,2004)。アニオン性膜に対するアフィニティはFVIIに関しては比較的低いが、癌における実証されているTFアップレギュレーションと共に高アフィニティTF相互作用の付加はそれを潜在的に興味深い癌特異的プローブにする。
【0031】
B.Glaドメイン含有タンパク質
1.第II因子
凝固第II因子としても公知であるプロトロンビンはタンパク質分解切断されて凝固カスケードにおいてトロンビンを形成し、これは最終的に出血の抑制をもたらす。トロンビンは今度はセリンプロテアーゼとして作用し、これは可溶性フィブリノーゲンを不溶性フィブリン鎖へと変換し、多数の他の凝固関連反応を触媒する。それは主として肝臓で発現される。
【0032】
プロトロンビンをコードする遺伝子は第11染色体上の動原体の領域内に位置する。それは14個のエキソンから構成され、24キロベースのDNAを含有する。該遺伝子はシグナル領域、プロペプチド領域、グルタミン酸ドメイン、2個のクリングル領域および触媒ドメインをコードしている。酵素ガンマ−グルタミルカルボキシラーゼは、ビタミンKの存在下、N末端グルタミン酸残基をガンマ−カルボキシグルタミン酸残基へと変換する。これらのガンマ−カルボキシグルタミン酸残基は血小板膜上のリン脂質へのプロトロンビンの結合に必要である。
【0033】
遺伝性第II因子欠乏症は、低プロトロンビン血症としてプロトロンビンの全体的合成の低減を、またはプロトロンビン異常症として機能不全プロトロンビンの合成を現しうる常染色体劣性遺伝疾患である。ホモ接合個体は一般に無症候性であり、2〜25%の機能的プロトロンビンレベルを有する。しかし、症候性個体は、あざができやすくなること、鼻出血、軟部組織出血、過剰術後出血および/または月経過多を示しうる。
【0034】
プロトロンビンは慢性蕁麻疹、自己免疫疾患および種々の血管障害における役割において或る役割を果たしている。青色皮斑血管障害は免疫グロブリン(Ig)M抗ホスファチジルセリン−プロトロンビン複合体抗体に関連している。上部ないし中央真皮における組織病理学的壊死性血管炎症および抗ホスファチジルセリン−プロトロンビン複合体抗体の存在は皮膚結節性多発動脈炎ではなくアレルギー性皮膚血管炎を示す。
【0035】
プロトロンビン欠乏症のほかに、プロトロンビンのもう1つの障害としてプロトロンビン20210a突然変異が挙げられる。静脈血栓塞栓症の家族性の原因であるプロトロンビン20210a突然変異は血漿プロトロンビンのレベルの上昇およびそれに伴う血栓症発生のリスク増大をもたらす。この障害の厳密なメカニズムは解明されていないが、プロトロンビン20210a突然変異はプロトロンビン遺伝子の3’非翻訳領域内の20210におけるグアニンからアデニンへの置換を含む。この突然変異は該遺伝子のポリアデニル化部位を変化させ、mRNA合成の上昇およびそれに続くタンパク質発現の上昇をもたらす。
【0036】
2.第VII因子
第VII因子(かつてはプロコンベルチンとして公知)は、凝固カスケードにおいて血液凝固を引き起こすタンパク質の1つである。第VII因子の遺伝子は第13染色体(13q34)に位置する。それはセリンプロテアーゼクラスの酵素であり、ヒト第VIIa因子の組換え形態(NovoSeven)は血友病患者における無制御な出血に関して米国食品医薬品局(U.S.Food and Drug Administration)の承認を受けている。それは、安全性の懸念が存在するものの、重篤な制御不能な出血においては無認可で使用されることもある。組換え活性化第VII因子の生物類似(Biosimilar)形態(AryoSeven)はAryoGen Biopharmaにより製造されている。
【0037】
第VII因子(FVII)の主要役割は、組織因子(TF/第III因子)と共に凝固の過程を始動させることである。組織因子は血管の外側に見出され、通常は血流にさらされない。血管損傷に際して、組織因子は血液および循環する第VII因子にさらされる。FVIIは、TFに結合すると、トロンビン(第IIa因子)、第Xa因子、第IXa因子、第XIIa因子およびFVIIa−TF複合体自体を含む種々のプロテアーゼによりFVIIaへと活性化される。FVIIa−TFの最も重要な基質は第X因子および第IX因子である。第VII因子は組織因子(TF)と相互作用することが示されている。
【0038】
該因子の作用は、凝固の開始のほぼ直後に放出される組織因子経路インヒビター(TFPI)により阻害される。第VII因子はビタミンK依存的であり、それは肝臓で産生される。ワルファリンまたは類似抗凝固剤の使用はFVIIの肝合成を低減する。
【0039】
欠乏症は稀であり(先天性プロコンベルチン欠乏症)、劣性遺伝する。第VII因子欠乏症は血友病様出血障害として現れる。それは組換え第VIIa因子(NovoSevenまたはAryoSeven)で治療される。組換え第VIIa因子は、置換凝固因子に対するインヒビターを生じるようになった血友病患者(第VIII因子または第IX因子欠乏症を伴う)にも使用される。それは制御不能な出血の状況においても使用されているが、この状況におけるその役割は、臨床試験以外でのその使用を支持する証拠が不十分であるため、議論の的となっている。出血におけるその使用の最初の報告は、1999年における制御不能な出血を伴うイスラエル兵士におけるものであった。その使用のリスクは動脈血栓症の増加を含む。
【0040】
3.第IX因子
第IX因子(またはクリスマス因子)は凝固系のセリンプロテアーゼの1つである。それはペプチダーゼファミリーS1に属する。第IX因子の遺伝子は第10染色体(Xq27.1−q27.2)に位置し、したがって、X染色体連鎖劣性である。この遺伝子における突然変異は女性より男性において遥かに頻繁に影響を及ぼす。このタンパク質の欠乏は血友病Bを引き起こす。第IX因子は、不活性前駆体であるチモーゲンとして産生される。それは、シグナルペプチドを除去するようにプロセシングされ、グリコシル化され、ついで(接触経路の)第XIa因子または(組織因子経路の)第VIIa因子により切断されて、ジスルフィド架橋により鎖が連結された二本鎖形態を生成する。Ca
2+、膜リン脂質および第VIII補因子の存在下、第IXa因子へと活性化されると、それは第X因子における1つのアルギニン−イソロイシン結合を加水分解して第Xa因子を生成する。第IX因子はアンチトロンビンにより抑制される。
【0041】
第VII因子、第IX因子および第X因子は全て、血液凝固において中心的役割を果たし、共通のドメイン構造を有する。第IX因子タンパク質は4つのタンパク質ドメインから構成される。これらはGlaドメイン、EGFドメインの縦列コピーの2つ、および触媒的切断を行うC末端トリプシン様ペプチダーゼドメインである。N末端EGFドメインは、少なくとも部分的に、組織因子への結合をもたらすことが示されている。Wilkinsonらは、第2EGFドメインの残基88〜109が血小板への結合および第X因子活性化複合体の構築をもたらすと結論づけている。全4個のドメインの構造は解明されている。2つのEGFドメインおよびトリプシン様ドメインの構造はブタタンパク質に関して決定された。Ca(II)依存的リン脂質結合をもたらすGlaドメインの構造もNMRにより決定された。「超活性」突然変異体の幾つかの構造が解明されており、これらは凝固カスケードにおける他のタンパク質による第IX因子活性化の性質を明らかにしている。
【0042】
第IX因子の欠乏はクリスマス病(血友病B)を引き起こす。第IX因子の100個を超える突然変異が記載されており、幾つかは症状を引き起こさないが、多くは有意な出血障害を招く。組換え第IX因子が、クリスマス病を治療するために使用されており、BeneFIXとして商業的に入手可能である。第IX因子の幾つかの希少突然変異は凝固活性の上昇をもたらし、深部静脈血栓症のような凝固疾患を引き起こしうる。
【0043】
4.第X因子
第X因子(スチュアート−プロワー因子;プロトロンビナーゼ)は凝固カスケードの酵素である。ヒト第X因子遺伝子は第13染色体(13q34)に位置する。それはセリンエンドペプチダーゼ(プロテアーゼ群S1)である。第X因子は肝臓で合成され、その合成にビタミンKを要する。第X因子は第IX因子(内因性Xアーゼとして公知の複合体において、その補因子である第VIII因子を伴う)および第VII因子[その補因子である組織因子(外因性Xアーゼとして公知の複合体)を伴う]の両方により第Xa因子へと活性化される。第X因子の半減期は40〜45時間である。したがって、それは最終共通経路またはトロンビン経路の最初のメンバーである。それは、2つの位置(arg−thr結合およびついでarg−ile結合)でプロトロンビンを切断することにより作用し、これは活性トロンビンを生成する。この過程は、第Xa因子がプロトロンビナーゼ複合体において活性化補因子Vと複合体形成した場合に最適化される。第X因子は新鮮凍結血漿およびプロトロンビナーゼ複合体の一部である。唯一の商業的に入手可能な濃縮物は、CSL Behringにより製造された「第X因子P Behring」である。
【0044】
第Xa因子は、セリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)であるプロテインZ依存的プロテアーゼインヒビター(ZPI)により不活性化される。第Xa因子に対するこのタンパク質のアフィニティはプロテインZの存在により1000倍増加するが、第XI因子の不活性化にはそれはプロテインZを要しない。プロテインZの欠損は第Xa因子活性の上昇および血栓症の傾向につながる。
【0045】
第X因子の先天的欠乏症は非常に稀(1:500,000)であり、鼻出血(鼻血)、関節血症(関節内への出血)および胃腸出血を示しうる。先天的欠乏症のほかに、低い第X因子レベルが幾つかの病態において時々見られうる。例えば、第X因子欠乏症はアミロイドーシスにおいて見られることがあり、この場合、第X因子は血管系におけるアミロイド線維に吸着される。また、ビタミンKの欠乏またはワルファリン(または類似医薬)による拮抗は不活性な第X因子の産生を招く。ワルファリン療法においては、これは、血栓症を予防するために望ましい。2007年後半の時点で、新たに出現した5個の抗凝固治療薬のうちの4個がこの酵素を標的化した。直接的なXaインヒビターは評判のよい抗凝固剤である。
【0046】
1960年代に開発された凝固の伝統的モデルは2つの別々のカスケード、すなわち、外因性(組織因子(TF))経路および内因性経路を想定していた。これらの経路は共通の一点、すなわち、第Xa因子/第Va因子複合体の形成に収束し、これは、カルシウムと共に、そしてリン脂質表面上に結合して、プロトロンビン(第II因子)からトロンビン(第IIa因子)を生成する。抗凝固の細胞ベースモデルである新規モデルは凝固における段階を更に詳細に説明するようである。このモデルは以下の3つの段階を有する:1)TF含有細胞上の凝固の開始、2)該TF含有細胞上で産生されたトロンビンによるプロコアグラントシグナルの増幅、および3)血小板表面上のトロンビン産生の伝播。
【0047】
第1段階では、第VII因子は細胞の表面上の膜貫通タンパク質TFに結合し、第VIIa因子に変換される。それにより第VIIa因子/TF複合体が生じ、これは第X因子および第IX因子の活性化を触媒する。TF含有細胞の表面上で生じた第Xa因子は第Va因子と相互作用してプロトロンビナーゼ複合体を形成し、これはTF含有細胞の表面上で少量のトロンビンを生成する。増幅段階である第2段階では、十分なトロンビンが生成していれば、血小板および血小板関連補因子の活性化が生じる。トロンビン生成の第3段階では、第XIaは活性化血小板の表面上の遊離第IX因子を活性化する。活性化第IXa因子は第VIIIa因子と共に「テナーゼ」複合体を形成する。この複合体はより多くの第X因子を活性化し、今度はこれが第Va因子との新たなプロトロンビナーゼ複合体を形成する。第Xa因子は、大量のプロトロンビンを変換(「トロンビン・バースト(thrombin burst)」)するプロトロンビナーゼ複合体の主要成分である。第Xa因子の各分子は1000個のトロンビン分子を生成しうる。トロンビンのこの大発生はフィブリン重合を引き起こして血栓を形成する。
【0048】
第X因子の合成または活性の抑制は、現在使用されている多数の抗凝固物質の作用メカニズムである。クマリンの合成誘導体であるワルファリンは米国で最も広く使用されている経口抗凝固物質である。幾つかの欧州諸国においては、他のクマリン誘導体(フェノプロクモン(phenprocoumon)およびアセノクマロール(acenocoumarol))が使用されている。これらの物質はビタミンKアンタゴニスト(VKA)である。ビタミンKは第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子および第X因子の肝合成に必須である。ヘパリン(未分画ヘパリン)およびその誘導体である低分子量ヘパリン(LMWH)は、血漿補因子であるアンチトロンビン(AT)に結合して、幾つかの凝固因子第IIa、Xa、XIaおよびXIIa因子を不活性化する。
【0049】
最近、第Xa因子の新系統の特異的直接作用インヒビターが開発された。これらには、薬物リバロキサバン(rivaroxaban)、アピキサバン(apixaban)、ベトリキサバン(betrixaban)LY517717、ダレキサバン(darexaban)(YM150)、エドキサバン(edoxaban)および813893が含まれる。これらの物質は現在の療法に対する幾つかの理論的利点を有する。それらは経口投与されうる。それらは迅速な作用発現を示す。そしてそれらは遊離第Xa因子およびプロトロンビナーゼ複合体中の第Xa因子の両方を抑制する点で、第Xa因子に対して、より有効でありうる。
【0050】
5.プロテインS
プロテインSは、内皮において合成されるビタミンK依存性血漿糖タンパク質である。循環中、プロテインSは、遊離形態と、補体タンパク質C4b結合タンパク質(C4BP)に結合した複合体形態との2つの形態で存在する。ヒトにおいては、プロテインSはPROS1遺伝子によりコードされる。プロテインSの最もよく特徴づけられている機能は抗凝固経路におけるその役割であり、これにおいて、それは第Va因子および第VIIa因子の不活性化におけるプロテインCの補因子として機能する。
【0051】
プロテインSはカルボキシル化GLAドメインを介して負荷電リン脂質に結合しうる。この特性は、アポトーシスを受けている細胞の除去においてプロテインSが機能することを可能にする。アポトーシスは、望ましくない又は損傷した細胞を組織から除去するために身体により用いられる細胞死の一形態である。アポトーシス性である(すなわち、アポトーシスの過程にある)細胞は、それらの外膜におけるリン脂質の分布をもはや活発には達成できず、したがって、ホスファチジルセリンのような負荷電リン脂質を細胞表面上に提示し始める。健常細胞においては、ATP(アデノシン三リン酸)依存的酵素が細胞膜の外側小葉からこれらを除去する。これらの負荷電リン脂質はマクロファージのような食細胞により認識される。プロテインSは負荷電リン脂質に結合し、アポトーシス細胞と食細胞との間の架橋分子として機能しうる。プロテインSの架橋特性はアポトーシス細胞の食作用を増強して、それが炎症のような組織損傷のいずれの徴候の発生をも伴うことなく「綺麗に」除去されることを可能にする。
【0052】
PROS1遺伝子における突然変異は、血栓症のリスクの増大を招きうる稀な血液障害であるプロテインS欠乏症を招きうる。プロテインSは第V因子と相互作用することが示されている。
【0053】
6.プロテインC
オートプロトロンビンIIAおよび血液凝固因子XIVとしても公知であるプロテインCは酵素原(不活性)タンパク質であり、ヒトおよび他の動物において血液凝固、炎症、細胞死の調節および血管壁の透過性の維持において重要な役割を果たす活性化形態である。活性化プロテインC(APC)は、主としてタンパク質第V
a因子および第VIII
a因子をタンパク質分解的に不活性化することにより、これらの作用を達成する。APCは、その活性部位にセリンの残基を含有するため、セリンプロテアーゼとして分類される。ヒトにおいては、プロテインCはPROC遺伝子によりコードされ、これは第2染色体上で見出される。
【0054】
プロテインCの酵素原形態は、血漿中を循環するビタミンK依存性糖タンパク質である。その構造は、ジスルフィド結合により連結された軽鎖および重鎖からなる二本鎖ポリペプチドの構造である。プロテインCチモーゲンは、凝固に深く関与しているもう1つのタンパク質であるトロンビンにそれが結合した際に活性化され、プロテインCの活性化はトロンボモジュリンおよび内皮プロテインC受容体(EPCR)の存在により著しく促進される。EPCRの役割ゆえに、活性化プロテインCは主として内皮細胞(すなわち、血管壁を構成する細胞)の近傍で見出され、APCが影響を及ぼすのはこれらの細胞および白血球である。抗凝固因子としてプロテインCが果たす決定的に重要な役割ゆえに、プロテインCの欠乏またはAPCに対する何らかの種類の抵抗性を示す者は、危険な血液凝固(血栓)を形成する有意に増大したリスクを有する。
【0055】
活性化ドロトレコギンアルファ(ブランド名Xigris)としても公知の活性化プロテインCの臨床使用への研究は議論の的となっている。製造業者であるEli Lilly and Companyは、重篤な敗血症および敗血性ショックを有する者におけるその使用を促進するために積極的な販売促進キャンペーン(例えば、2004 Surviving Sepsis Campaign Guidelinesのスポンサー)を行った。しかし、それは生存を改善しない(そして出血リスクを上昇させる)ため、その使用は推奨できないことを、2011コクラン・レビュー(Cochrane review)は見出した。
【0056】
ヒトプロテインCは、プロトロンビン、第VII因子、第IX因子および第X因子のような血液凝固に影響を及ぼす他のビタミンK依存性タンパク質に構造的に類似したビタミンK依存性糖タンパク質である。プロテインCの合成は肝臓内で生じ、一本鎖前駆体分子(32アミノ酸のN末端シグナルペプチドおよびそれに続くプロペプチド)から開始される。プロテインCは、Lys
198およびArg
199のジペプチドが除去される際に形成される。これは、各鎖上にN結合炭水化物を有するヘテロ二量体への変換を引き起こす。該タンパク質は、Cys
183とCys
319との間でジスルフィド結合により連結された1本の軽鎖(21kDa)および1本の重鎖(41kDa)を有する。
【0057】
不活性プロテインCは以下の複数のドメイン内に419アミノ酸を含む:1つのGlaドメイン(残基43〜88)、ヘリックス芳香族セグメント(89〜96)、2つの表皮増殖因子(EGF)様ドメイン(97〜132および136〜176)、活性化ペプチド(200〜211)およびトリプシン様セリンプロテアーゼドメイン(212〜450)。軽鎖は該GlaおよびEGF様ドメインならびに該芳香族セグメントを含有する。重鎖は該プロテアーゼドメインおよび該活性化ペプチドを含有する。活性化されることになるチモーゲンとしてプロテインCの85〜90%が血漿中を循環するのはこの形態においてである。残存するプロテインCチモーゲンは該タンパク質の若干修飾された形態を含む。該酵素の活性化は、トロンビン分子が重鎖のN末端から該活性化ペプチドを切断除去する際に生じる。活性化部位は、セリンプロテアーゼに典型的な触媒三残基(His
253、Asp
299およびSer
402)を含有する。
【0058】
プロテインCの活性化はトロンボモジュリンおよび内皮プロテインC受容体(EPCR)により強く促進され、それらのうちの後者は主として内皮細胞(血管の内側の細胞)上で見出される。トロンボモジュリンの存在は活性化を数桁加速し、EPCRは活性化を20倍加速する。これらの2つのタンパク質のいずれかがマウス試料中に存在しない場合、該マウスは、尚も胚状態のままで、過剰な血液凝固により死亡する。内皮上で、APCは血液凝固、炎症および細胞死(アポトーシス)の調節において重要な役割を果たす。プロテインCの活性化に対するトロンボモジュリンの加速効果ゆえに、該タンパク質はトロンビンによってではなくトロンビン−トロンボモジュリン(または更にはトロンビン−トロンボモジュリン−EPCR)複合体によって活性化されると言うこともできる。一旦活性形態になると、APCはEPCRに結合したままであっても結合していなくてもよく、EPCRに対して、それはタンパク質チモーゲンとほぼ同じアフィニティを有する。
【0059】
Glaドメインは抗凝固のための負荷電リン脂質への、そして細胞保護のためのEPCRへの結合に特に有用である。1つの特定のエキソサイトが、第Va因子を効率的に不活性化するプロテインCの能力を増強する。トロンボモジュリンとの相互作用には、もう1つのことが必要である。
【0060】
チモーゲン形態のプロテインCは正常成人血漿中に65〜135 IU/dLの濃度で存在する。活性化プロテインCはこれより約2000倍低いレベルで見出される。軽度のプロテインC欠乏症は、20 IU/dLを超えるが正常範囲より低い血漿レベルに対応する。中等度に重篤な欠乏症は1〜20 IU/dLの血液濃度を示し、重篤な欠乏症は1 IU/dL未満の又は検出不能なプロテインCのレベルを示す。健常正期産児におけるプロテインCレベルの平均は40 IU/dLである。プロテインCの濃度は6カ月まで増加し、この時点の平均レベルは60 IU/dLであり、該レベルは、思春期後に成人レベルに達するまでは、小児の間を通じて低く保たれる。活性化プロテインCの半減期は約15分である。
【0061】
プロテインC経路は、APCの発現および体内のその活性のレベルを制御する特異的な化学反応である。プロテインCは多面的であり、2つの主要クラスの機能、すなわち、抗凝固および細胞保護(細胞に対するその直接作用)の機能を有する。プロテインCがどちらの機能をもたらすかは、それが活性化された後でAPCがEPCRに結合したままであるか否かに左右され、それが結合していない場合にAPCの抗凝固作用が生じる。この場合、プロテインCは、第V
a因子および第VIII
a因子を不可逆的にタンパク質分解により不活性化して、それらをそれぞれ第V
i因子および第VIII
i因子に変換することにより、抗凝固物質として機能する。活性化プロテインCは、尚もEPCRに結合している場合には、その細胞保護作用をもたらして、エフェクター基質PAR−1(プロテアーゼ活性化受容体−1)に作用する。ある程度は、APCの抗凝固特性はその細胞保護特性から独立している。なぜなら、一方の経路の発現は他方の存在により影響されないからである。
【0062】
プロテインCの活性は、利用可能なトロンボモジュリンまたはEPCRの量を低減することによりダウンレギュレーションされうる。これは、炎症性サイトカイン、例えばインターロイキン−1β(IL−1β)および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)により行われうる。活性化白血球は炎症中にこれらの炎症性メディエーターを放出して、トロンボモジュリンおよびEPCRの両方の生成を抑制し、内皮表面からのそれらの放出を誘導する。これらの作用の両方はプロテインC活性化をダウンレギュレーションする。トロンビン自体もEPCRのレベルに影響を及ぼしうる。また、細胞から放出されるタンパク質はプロテインC活性化を妨げ(例えば、好酸球)、これは好酸球増多性心疾患における血栓症を説明しうる。プロテインCは血小板因子4によりアップレギュレーションされうる。このサイトカインは、プロテインCのGlaドメインからトロンボモジュリンのグリコサミノグリカン(GAG)ドメインまでの静電的架橋を形成してそれらの反応に関するミカエリス定数(K
M)を減少させることにより、プロテインCの活性化を改善すると推測される。また、プロテインCはプロテインCインヒビターにより抑制される。
【0063】
遺伝的プロテインC欠乏症は、単純なヘテロ接合性に関連したその軽度な形態においては、成人における静脈血栓症の有意に増大したリスクを引き起こす。胎児が該欠乏症に関してホモ接合または複合ヘテロ接合である場合には、電撃性紫斑病、重度の播種性血管内凝固および子宮内の同時静脈血栓塞栓症の症状が認められうる。これは非常に重篤であり、通常は致命的である。マウスにおけるプロテインC遺伝子の欠失は誕生時前後に胎児死亡を引き起こす。プロテインCを有さない胎児マウスは最初は正常に発生するが、重篤な出血、凝固障害、フィブリンの沈着および肝臓の壊死を引き起こす。無症候性個体におけるプロテインC欠乏症の頻度は1/200〜1/500である。これに対して、該欠乏症の有意な症状は1/20,000個体で見出されうる。人種や民族による偏りは見出されていない。
【0064】
APCがその機能を達成できない場合、活性化プロテインC抵抗性が生じる。この疾患は、プロテインC欠乏症に類似した症状を示す。白人において活性化プロテインC抵抗性を招く最も一般的な突然変異はAPCのための第V因子の切断部位におけるものである。そこでは、Arg
506はGlnで置換されて、第V因子ライデン(Leiden)を生成する。この突然変異はR506Qとも称される。この切断部位の喪失を招く突然変異は、APCが第V
a因子および第VIII
a因子を有効に不活性化するのを実際に阻止する。したがって、そのような者の血液は非常に凝固しやすく、彼は永久に、増大した血栓症リスクを有する。第V
LEIDEN因子の突然変異に関してヘテロ接合である個体は、一般集団の場合より5〜7倍高い、静脈血栓症のリスクを有する。ホモ接合被験者は80倍高いリスクを有する。この突然変異は白人における静脈血栓症の最も一般的な遺伝性リスクでもある。
【0065】
APC抵抗性の約5%は前記突然変異および第V
Leiden因子に関連していない。他の遺伝的突然変異がAPC抵抗性を引き起こすが、第V
Leiden因子が引き起こす程度には程遠い。これらの突然変異は第V因子の種々の他の形態、第V因子を標的化する自己抗体の自然生成、およびAPCの補因子のいずれかの機能不全を含む。また、幾つかの後天的条件がAPCの抗凝固機能の達成におけるAPCの効力を低減しうる。血栓形成傾向のある患者の20%〜60%はAPC抵抗性の何らかの形態を有することを、研究は示唆している。
【0066】
C.Glaドメインペプチドおよびポリペプチド
本開示は種々のGlaドメイン含有ペプチドおよびポリペプチドの設計、製造および使用を含む。これらの分子の構造的特徴は以下のとおりである。第1に、該ペプチドまたはポリペプチドは、Glaドメインを構成する約30〜45個の連続的残基を含有するGlaドメインを有する。したがって、「「X」以下の連続的残基を有するペプチド」なる語は、「含む」なる語を包含する場合でさえも、より多数の連続的残基を含むとは理解され得ない。第2に、該ペプチドおよびポリペプチドは追加的な非Glaドメイン残基、例えばEGFドメイン、クリングルドメイン、Fcドメインなどを含有しうる。
【0067】
一般に、該ペプチドおよびポリペプチドは300残基以下であり、この場合もまた、30〜45個の連続的残基のGlaドメインを含む。その全長は30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275および300個までの残基でありうる。50〜300残基、100〜300残基、150〜300残基、200〜300残基、50〜200残基、100〜200残基および150〜300残基および150〜200残基のペプチド長の範囲が想定される。連続的なGla残基の数は3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15でありうる。
【0068】
本開示はL−配置アミノ酸、D−配置アミノ酸またはそれらの混合物を使用しうる。L−アミノ酸は、タンパク質において見出されるアミノ酸の大多数に相当し、一方、D−アミノ酸は、外来種海棲生物、例えばイモガイにより産生される幾つかのタンパク質において見出される。それらはまた、細菌のペプチドグリカン細胞壁の豊富な成分である。D−セリンは脳内の神経伝達物質として作用しうる。アミノ酸立体配置のLおよびDの規約はアミノ酸自体の光学活性に関するものではなく、そのアミノ酸が理論的に合成されうるグリセルアルデヒドの異性体の光学活性に関するものである(D−グリセルアルデヒドは右旋光であり、L−グリセルアルデヒドは左旋光である)。
【0069】
「全D」ペプチドの一形態はレトロインベルソペプチドである。天然に存在するポリペプチドのレトロインベルソ修飾は、対応L−アミノ酸に対応するものとは反対のα−炭素立体化学を有するアミノ酸(すなわち、天然ペプチド配列に対して反対の順序のD−アミノ酸)の合成構築を含む。したがって、レトロインベルソ類似体は逆転末端および逆方向のペプチド結合(CO−NHではなく、NH−CO)を有する一方で、天然ペプチド配列の場合と同様の側鎖のトポロジーをほぼ維持している。米国特許第6,261,569号(これを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【0070】
D.合成
固相合成技術(Merrifield,1963)を用いて、ペプチドおよびポリペプチドを製造することが好都合であろう。他のペプチド合成技術は当業者によく知られている(Bodanszkyら,1976;Peptide Synthesis,1985;Solid Phase Peptide Synthelia,1984)。そのような合成に使用される適当な保護基が前記テキストおよびProtective Groups in Organic Chemistry(1973)に見出されるであろう。これらの合成方法は、伸長しつつあるペプチド鎖への1以上のアミノ酸残基または適当な保護アミノ酸残基の逐次的付加を含む。通常、第1アミノ酸残基のアミノまたはカルボキシル基を、選択的に除去可能な適当な保護基で保護する。反応性側鎖を含有する含有するアミノ酸、例えばリシンには、選択的に除去可能な異なる保護基を使用する。
【0071】
一例として固相合成を用いて、保護または誘導体化されたアミノ酸をその非保護カルボキシルまたはアミノ基を介して不活性固体支持体に結合させる。ついでアミノまたはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、適切に保護された相補的(アミノまたはカルボキシル)基を有する、配列内の次のアミノ酸を混合し、固体支持体に既に結合している残基と反応させる。ついでアミノまたはカルボキシル基の保護基をこの新たに付加されたアミノ酸残基から除去し、ついで(適切に保護された)次のアミノ酸を付加し、以下同様である。所望のアミノ酸の全てが適切な順序で連結された後、残存する末端および側鎖基保護基(および固体支持体)を連続的または同時に除去して、最終ペプチドを得る。本開示のペプチドおよびポリペプチドは、好ましくは、ベンジル化またはメチルベンジル化アミノ酸を欠いている。そのような保護基部分は合成の経過中には使用されうるが、それらは、該ペプチドおよびポリペプチドが使用される前に除去される。どこかに記載されているとおり、コンホメーションを制限するために分子内結合を形成させるためには、追加的な反応が必要かもしれない。
【0072】
20種の標準的なアミノ酸が使用可能であることに加え、多数の「非標準」アミノ酸が存在する。これらのうちの2つは遺伝暗号により特定されうるが、タンパク質においてはむしろ稀なものである。幾つかのタンパク質内には、通常は終止コドンであるUGAコドンにおいて、セレノシステインが組込まれる。メタンを生成するためにメタン生成アーキアが使用する酵素においては、ピロリシンがメタン生成アーキアにより使用される。それはコドンUAGでコードされる。タンパク質において見出されない非標準的アミノ酸の例には、ランチオニン、2−アミノイソ酪酸、デヒドロアラニンおよび神経伝達物質ガンマ−アミノ酪酸が含まれる。非標準的アミノ酸は、しばしば、標準的アミノ酸の代謝経路における中間体として存在する。例えば、オルニチンおよびシトルリンは、アミノ酸異化作用の一部である尿素回路において存在する。非標準的アミノ酸は、通常、標準的アミノ酸に対する修飾により形成される。例えば、ホモシステインは含硫基移動経路を介して、または中間代謝産物S−アデノシルメチオニンを経るメチオニンの脱メチル化により形成され、一方、ヒドロキシプロリンはプロリンの翻訳後修飾により形成される。
【0073】
E.リンカー
Glaドメインペプチドまたはポリペプチドを他のタンパク質配列(例えば、抗体Fcドメイン)に融合させるためには、リンカーまたは架橋剤が使用されうる。アフィニティマトリックスの製造、多様な構造体の修飾および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の特定ならびに構造研究を含む種々の目的に、二官能性架橋試薬が広範に使用されている。2つの同一官能基を含有するホモ二官能性試薬は、同じ及び異なる巨大分子または巨大分子のサブユニット間の架橋、ならびにポリペプチドリガンドの、それらの特異的結合部位への連結の誘発に非常に効率的であることが判明している。ヘテロ二官能性試薬は2つの異なる官能基を含有する。それらの2つの異なる官能基の反応性の相違を利用することにより、選択的かつ連続的に架橋が制御されうる。該二官能性架橋試薬はそれらの官能基の特異性(例えば、アミノ−、スルフヒドリル−、グアニジノ−、インドール−またはカルボキシル−特異的基)に従い分類されうる。これらのうち、遊離アミノ基に対する試薬は、それらの商業的入手可能性、合成のし易さ、およびそれらが適用されうる穏和な反応条件ゆえに、特に好評となっている。大多数のヘテロ二官能性架橋試薬は第一級アミン反応性基およびチオール反応性基を含有する。
【0074】
もう1つの例においては、ヘテロ二官能性架橋試薬および該架橋試薬の使用方法は米国特許第5,889,155号(その全体を参照により具体的に本明細書に組み入れることとする)に記載されている。該架橋試薬は求核性ヒドラジド残基と求電子性マレイミド残基とを併せ持ち、一例においては遊離チオールへのアルデヒドのカップリングを可能にする。該架橋試薬は、種々の官能基を架橋するように修飾可能であり、したがって、ポリペプチドを架橋するのに有用である。特定のポリペプチドが、与えられた架橋試薬に適した残基を天然配列内に含有しない場合には、一次配列における遺伝的または合成的な保存的アミノ酸改変が行われうる。
【0075】
F.追加的ペプチド/ポリペプチド配列
薬物開発が達成しようとする1つの要因は適度な循環半減期であり、これは、投薬、薬物投与および有効性に影響を及ぼし、これは生物学的療法には特に重要である。60kD未満の小さなタンパク質は腎臓により迅速に除去され、したがって、それらの標的に到達しない。これは、有効性を達成するためには高用量が必要であることを意味する。循環中のタンパク質の半減期を増加させるために現在用いられている修飾には、ペグ化(PEGylation);タンパク質、例えばトランスフェリン(WO06096515A2)、アルブミン、成長ホルモン(米国特許公開第2003104578AA号)との結合または遺伝的融合;セルロースとの結合(LevyおよびShoseyov,2002);Fcフラグメントとの結合または融合;グリコシル化および突然変異誘発アプローチ(Carter,2006)が含まれる。
【0076】
ペグ化の場合、ポリエチレングリコール(PEG)を、例えば血漿タンパク質、抗体または抗体フラグメントでありうるタンパク質に結合させる。抗体のペグ化の効果に関する最初の研究は1980年代に行われた。該結合は酵素的または化学的に実施可能であり、当技術分野で十分に確立されている(Chapman,2002;VeroneseおよびPasut,2005)。ペグ化により、全サイズが増大することが可能であり、これは腎臓濾過の可能性を低減する。ペグ化は更に、タンパク質分解から保護し、血液からのクリアランスを遅くする。更に、ペグ化は免疫原性を低減し、溶解度を増加させうることが報告されている。PEGの付加による薬物動態の改善は以下の幾つかの異なるメカニズムによるものである:分子のサイズの増加、タンパク質分解からの保護、抗原性の低減、および細胞受容体からの特定の配列のマスキング。抗体フラグメント(Fab)の場合、血漿半減期における20倍の増加がペグ化により達成されている(Chapman,2002)。
【0077】
現在のところ、幾つかの承認されたペグ化薬、例えば、2000年に販売されたPEG−インターフェロンアルファ2b(PEG−INTRON)および2002年に販売されたアルファ2a(Pegasys)が存在する。シムジア(Cimzia)またはセルトリズマブ・ペゴール(Certolizumab Pegol)と称される、TNFアルファに対するペグ化抗体フラグメントが、クローン病の治療に関するFDA承認のために2007年に申請され、2008年4月22日付けで承認されている。ペグ化の欠点は、1000kDを超えるPEG鎖が必要な場合は特に、長い単分散種を合成するのが困難なことである。多数の用途のために、10000kDを超える鎖長を有する多分散PEGが使用されていて、種々の長さのPEG鎖を有するコンジュゲートの集団が生じ、これは、製品間のバッチの等価性を確保するためには詳細な分析を要する。PEG鎖の長さが異なれば、それにより生じる生物学的活性も異なることがあり、したがって薬物動態も異なりうる。ペグ化のもう1つの欠点はアフィニティまたは活性の低下であり、それはアルファ−インターフェロンPegasysで観察されているとおりであり、これは天然タンパク質の抗ウイルス活性の僅か7%しか有さないが、血漿半減期の向上により改善された薬物動態を示す。
【0078】
もう1つのアプローチは、67kDでありヒトにおいて19日の血漿半減期を有するアルブミンのような長命タンパク質を薬物に結合(コンジュゲート化)させることである。アルブミンは血漿中の最も豊富なタンパク質であり、血漿pH調節に関与しているが、血漿中の物質の担体としても働く。CD4の場合、それをヒト血清アルブミンに融合させた後、血漿半減期の増加が達成されている(Yehら,1992)。融合タンパク質の他の例としては、インスリン、ヒト成長ホルモン、トランスフェリンおよびサイトカインが挙げられる(Duttaroyら,2005;Melderら,2005;Osbornら,2002a;Osbornら,2002b;Sungら,2003、そして、米国特許公開第2003104578A1号、WO06096515A2およびWO07047504A2(それらの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。
【0079】
血漿半減期およびタンパク質の活性に対するグリコシル化の効果は詳細に研究されている。組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の場合、新たなグリコシル化部位の付加は血漿クリアランスを低減し、効力を改善した(Keytら,1994)。幾つかの組換えタンパク質および免疫グロブリンに糖鎖工学が成功裏に適用されている(Elliottら,2003;RajuおよびScallon,2007;SinclairおよびElliott,2005;Umanaら,1999)。更に、グリコシル化は免疫グロブリンの安定性に影響を及ぼす(Mimuraら,2000;RajuおよびScallon,2006)。
【0080】
融合タンパク質に使用されるもう1つの分子はIgGのFcフラグメントである(AshkenaziおよびChamow,1997)。Fc融合アプローチは、例えば、Regeneronにより開発されたトラップ技術(Trap Technology)(例えば、IL1トラップおよびVEGFトラップ)において利用されている。ペプチドの半減期を延長させるためのアルブミンの使用は米国特許公開第2004001827A1号に記載されており、FabフラグメントおよびscFv−HSA融合タンパク質に関しても記載されている。アルブミンの血清半減期の延長は、FcRnによりもたらされるリサイクル・プロセスによるものであることが示されている(Andersonら,2006;Chaudhuryら,2003)。
【0081】
もう1つの方法は、結合特性を改善するために免疫グロブリンの相互作用をその受容体へ標的化する特異的突然変異誘発技術を用いることである(すなわち、Fc領域におけるアフィニティ成熟)。FcRnに対するアフィニティの増大により、半減期の延長がインビボで達成されうる(Ghetieら,1997;Hintonら,2006;Jainら,2007;Petkovaら,2006a;Vaccaroら,2005)。しかし、アフィニティ成熟法は数ラウンドの突然変異誘発および試験を要する。これは長時間を要し、高いコストがかかり、突然変異した場合に半減期の延長をもたらすアミノ酸の数により制限される。したがって、生物学的療法剤のインビボ半減期を改善するために、簡便な代替アプローチが必要とされている。延長したインビボ半減期を有する治療剤は、治療が長期間を要する場合には特に、慢性疾患、自己免疫障害、炎症性、代謝性、感染性および眼疾患ならびに癌の治療に特に重要である。したがって、種々の治療剤の投与量および/または注射頻度を低減するために、循環中の半減期および持続性が向上した治療剤(例えば、抗体およびFc融合タンパク質)の開発が尚も必要とされている。
【0082】
G.標識
本開示のペプチドおよびポリペプチドは診断目的で、例えば、癌細胞またはウイルス感染細胞を特定するために(組織化学検査におけるそれらの使用を含む)、標識に結合されうる。本開示における標識は、アッセイを用いて検出されうるいずれかの部分と定義される。受容体分子の非限定的な例には、酵素、放射能標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、着色粒子またはリガンド、例えばビオチンが含まれる。
【0083】
診断剤としての使用のためには標識コンジュゲート(標識結合体)が一般に好ましい。診断剤は一般に、インビトロ診断に使用されるものと、インビボ診断法に使用されるもの(「定方向イメージング(directed imaging)」として一般に公知)との2つのクラスに分類される。多数の適当なイメージング剤が、ペプチドおよびポリペプチドへのそれらの結合のための方法と同様、当技術分野で公知である(例えば、米国特許第5,021,236号、第4,938,948号および第4,472,509号を参照されたい)。使用されるイメージング部分は常磁性イオン、放射性同位体、蛍光色素、NMR検出可能物質およびX線造影剤でありうる。
【0084】
常磁性イオンの場合、例えば、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)および/またはエルビウム(III)のようなイオンが挙げられうるが、ガドリニウムが特に好ましい。X線イメージングのような他の状況で有用なイオンには、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、および特にビスマス(III)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
治療および/または診断用途のための放射性同位体の場合、アスタチン
211、
14炭素、
51クロム、
36塩素、
57コバルト、
58コバルト、銅
67、
152EU、ガリウム
67、
3水素、ヨウ素
123、ヨウ素
125、ヨウ素
131、インジウム
111、
59鉄、
32リン、レニウム
186、レニウム
188、
75セレン、
35硫黄、テクネチウム
99mおよび/またはイットリウム
90が挙げられうるであろう。
125Iは、しばしば、ある実施形態における使用に好ましく、テクネチウム
99mおよび/またはインジウム
111も、しばしば、それらの低いエネルギーおよび長距離検出の適合性ゆえに好ましい。放射性標識ペプチドおよびポリペプチドは、当技術分野でよく知られた方法に従い製造されうる。例えば、ペプチドおよびポリペプチドは、ヨウ化ナトリウムおよび/またはカリウムならびに化学的酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウム、または酵素酸化剤、例えばラクトペルオキシダーゼとの接触によりヨウ素化されうる。ペプチドは、リガンド交換法により、例えば、ペルテクナートを第一スズ溶液で還元し、該還元テクネチウムをセファデックス(Sephadex)カラム上にキレート化し、このカラムに該ペプチドを適用することにより、テクネチウム
99mで標識されうる。あるいは、例えば、ペルテクナート、還元剤、例えばSNCl
2、バッファー溶液、例えばナトリウム−カリウムフタラート溶液、およびペプチドをインキュベートすることにより、直接標識技術が用いられうる。金属イオンとして存在する放射性同位体をペプチドに結合させるためにしばしば使用される中間官能基として、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。
【0086】
コンジュゲートとしての使用で想定される蛍光標識には、アレクサ(Alexa)350、アレクサ430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY−FL、BODIPY−R6G、BODIPY−TMR、BODIPY−TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5,6−FAM、フルオレセインイソチオシアナート、HEX、6−JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミンおよび/またはテキサスレッドが含まれる。
【0087】
想定されるもう1つのタイプのコンジュゲートは、主としてインビトロでの使用に意図されるものであり、この場合、二次結合性リガンドに、および/または発色性基質との接触に際して着色産物を生成する酵素(酵素タグ)に、ペプチドが連結される。適当な酵素の例には、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(ホールラディッシュ)水素ペルオキシダーゼまたはグルコースオキシダーゼが含まれる。好ましい二次結合性リガンドとしてはビオチンおよびアビジンおよびストレプトアビジン化合物が挙げられる。そのような標識の使用は当業者によく知られており、例えば米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号および第4,366,241号に記載されている。
【0088】
ペプチドのコンジュゲート部分への該ペプチドの結合またはコンジュゲート化のための他の方法は当技術分野で公知である。幾つかの結合方法は、金属キレート錯体、例えば有機キレート剤、例えばジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA)、エチレントリアミン四酢酸、N−クロロ−p−トルエンスルホンアミドおよび/またはテトラクロロ−3α−6α−ジフェニルグリコールウリル−3抗体結合体(米国特許第4,472,509号および第4,938,948号)の使用を含む。ペプチドまたはポリペプチドを、カップリング剤、例えばグルタルアルデヒドまたはペリオダートの存在下、酵素と反応させることも可能である。フルオレセインマーカーとのコンジュゲートは、これらのカップリング剤の存在下またはイソチオシアナートとの反応により製造される。
【0089】
IV.診断および療法
A.医薬製剤および投与経路
臨床適用が想定される場合には、意図される適用に適した形態の医薬組成物を製造することが必要であろう。一般に、これは、発熱物質およびヒトまたは動物に有害でありうる他の不純物を実質的に含有しない組成物を製造することを含む。
【0090】
運搬ベクター(運搬担体)を安定にし、標的細胞による取り込みを可能にするためには、適当な塩およびバッファーを使用することが一般に望ましいであろう。組換え細胞を患者内に導入する場合には、バッファーも使用されるであろう。本開示の水性組成物は、医薬上許容される担体または水性媒体に溶解または分散された、細胞に対するベクターの有効量を含む。そのような組成物も接種物と称される。「医薬上または薬理学的に許容される」なる語は、動物またはヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、または他の望ましくない反応をもたらさない分子および組成物に関するものである。本明細書中で用いる「医薬上許容される担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などを含む。医薬上活性な物質のためのそのような媒体および物質の使用は当技術分野でよく知られている。いずれかの通常の媒体または物質が本開示のベクターまたは細胞に不適合である場合を除き、治療用組成物におけるその使用が想定される。補助的な有効成分も該組成物に配合されうる。
【0091】
本開示の活性組成物は古典的な医薬製剤を含みうる。本開示によるこれらの組成物の投与は、標的組織に関して有効であるいずれかの一般的な経路によるものとなろう。そのような経路は経口、鼻腔内、頬側、直腸、膣または局所経路を含む。あるいは、投与は同所性、皮内、皮下、筋肉内、腫瘍内、腹腔内または静脈内注射によるものでありうる。そのような組成物は通常、前記の医薬上許容される組成物として投与されるであろう。
【0092】
活性化合物はまた、非経口的または腹腔内に投与されうる。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適切に混合された水中で調製されうる。分散剤はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中ならびに油中で調製されうる。通常の保存および使用条件下、これらの製剤は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。
【0093】
注射用途に適した医薬形態には、無菌水溶液または分散液、および無菌注射用溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末が含まれる。全ての場合において、該形態は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して防護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物および植物油を含む、溶媒または分散媒でありうる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により維持されうる。微生物の作用の防止は種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによりもたらされうる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含有させることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを該組成物において使用することによりもたらされうる。
【0094】
無菌注射用溶液は、必要に応じて、前記に列挙された種々の他の成分と共に、適当な溶媒中に必要量の活性化合物を配合し、ついで濾過滅菌を行うことにより調製される。一般に、分散液は、基本的な分散媒と前記のものから選ばれる必要な他の成分とを含有する無菌ビヒクル中に種々の無菌有効成分を配合することにより調製される。無菌注射溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分およびいずれかの追加的な所望の成分の粉末を、予め滅菌濾過されたその溶液から生成する真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0095】
本明細書中で用いる「医薬上許容される担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などを含む。医薬上活性な物質のためのそのような媒体および物質の使用は当技術分野でよく知られている。いずれかの通常の媒体または物質が有効成分に不適合である場合を除き、治療用組成物におけるその使用が想定される。補助的な有効成分も該組成物に配合されうる。
【0096】
経口投与の場合、本開示のペプチドおよびポリペプチドは賦形剤と共に配合されることが可能であり、摂取不能な洗口剤および歯磨剤の形態で使用されうる。洗口剤は、ホウ酸ナトリウム溶液(ドーベル液)のような適当な溶媒中に必要量の有効成分を配合することにより調製されうる。あるいは、有効成分は、ホウ酸ナトリウム、グリセリンおよび炭酸水素カリウムを含有する防腐性洗浄剤に配合されうる。有効成分は、ゲル剤、ペースト剤、散剤(粉末)およびスラリーを含む歯磨剤中に分散されうる。有効成分は、水、結合剤、研磨剤、香味剤、発泡剤、および湿潤剤を含みうるペースト状歯磨剤に治療的有効量で加えられうる。
【0097】
本開示の組成物は中性または塩の形態で製剤化されうる。医薬上許容される塩には、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と共に形成されるもの)、および無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸、または有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などと共に形成されるものが含まれる。また、遊離カルボキシル基と共に形成される塩は、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄、および有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどから誘導されうる。
【0098】
製剤化されたら、剤形に適合した様態で、そして治療的に有効な量で、溶液は投与されるであろう。該製剤は注射用溶液、薬物放出カプセルなどのような種々の剤形で容易に投与される。例えば水溶液中の非経口投与の場合、必要に応じて溶液は適切に緩衝化されるべきであり、液体希釈剤は、まず、等張にされるべきである。これらの個々の水溶液は静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適している。これに関して、使用されうる無菌水性媒体は、本開示を考慮して、当業者に公知であろう。例えば、1回の投与量を1mlの等張NaCl溶液に溶解し、1000mlの皮下注入液に加えるか又は注入の提示部位に注射することが可能であろう(“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,15th Edition,pp.1035−1038および1570−1580)。治療される対象の状態に応じて、投与量における幾らかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにせよ、投与に関して責任を有する者が個々の対象に対する適当な用量を決定するであろう。更に、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDAオフィス・オブ・バイオロジクス・スタンダード(Office of Biologics standard)により要求される無菌性、発熱性、一般的安全性および純度標準を満たしているべきである。
【0099】
B.病態および病状
1.癌
癌は組織からの細胞のクローン集団の増殖により生じる。発癌と称される、癌の発生は、幾つかの方法でモデル化され、特徴づけられうる。癌の発生と炎症との関連性が古くから認識されている。炎症応答は微生物感染に対する宿主防御に関与し、組織修復および再生をも導く。相当な証拠が炎症と癌発生リスクとの関連性を指摘している。すなわち、慢性炎症は異形成を招きうる。数百個の異なるヒト癌形態が存在し、癌の基礎をなす遺伝学および生物学の理解が深まるにつれて、これらの形態は更に細分され、再分類されている。
【0100】
癌の原因の決定は複雑である。喫煙、ある感染症、放射線、運動不足、肥満および環境汚染を含む多数の事物が癌のリスクを増大させることが知られている。これらは遺伝子を直接的に損傷し、または細胞内の既存の遺伝的欠損と結びついて、該疾患を引き起こしうる。癌の約5〜10%が完全に遺伝性である。
【0101】
癌は、ある徴候および症状の存在、スクリーニング試験または医学的イメージングを含む幾つかの方法で検出されうる。可能性のある癌が検出されたら、それは組織サンプルの顕微鏡検査により診断される。癌は通常、化学療法、放射線療法および手術で治療される。癌を生き延びる可能性は癌の型および位置ならびに治療開始時の疾患の度合によって大きく変動する。癌は全年齢の者を冒しうるが、少数の型の癌は小児において、より一般的であり、癌の発生リスクは一般に年齢と共に増加する。2007年には、癌は世界中の全てのヒトの死亡の約13%(790万人)の原因であった。より多くの者が高齢まで生きるようになり、発展途上世界において大衆の生活様式の変化が生じるにつれて、率は上昇しつつある。
【0102】
治療は手術、化学療法、放射線、代替医療および緩和ケアの5つの一般的範疇に分類される。手術はほとんどの単離した固形癌の治療の主要方法であり、緩和および生存延長において或る役割を果たしうる。生検が通常要求されるため、それは典型的に、決定的な診断を行い腫瘍を病期分類する上での重要な部分である。限局した癌においては、手術は典型的に、全塊および場合によってはその領域内のリンパ節を除去することを試みる。癌の幾つかの型の場合には、これが、癌を排除するために必要とされる全てである。
【0103】
手術に加えて、化学療法が、乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、骨肉腫、精巣癌、卵巣癌、および或る肺癌を含む幾つかの異なる癌型において有用であることが判明している。化学療法の有効性は体内の他の組織に対する毒性により限定されることが多い。
【0104】
放射線療法は、癌を治癒させ又は癌の症状を改善するための電離放射線の使用を含む。それは全症例の約半数で使用され、放射線は近接照射療法の形態での内部線源または外部線源からのものでありうる。放射線は典型的には手術および化学療法に加えて使用されるが、早期頭頸部癌のような或る型の癌では単独で使用されうる。有痛性骨転移では、約70%の者に有効であることが判明している。
【0105】
代替治療および補完治療は、伝統医療の一部ではない多様な群のヘルスケアシステム、慣行および製品を含む。「補完医療」は、伝統医療と共に用いられる方法および物質を意味するが、「代替医療」は、伝統医療に代わりに用いられる化合物を意味する。癌に対するほとんどの補完および代替医療は厳密には研究も試験もされていない。幾つかの代替治療が研究され、無効であることが示されているが、尚も販売され宣伝され続けている。
【0106】
最後に、緩和ケアは、患者の気分を良くするために試みる治療を意味し、癌を攻撃する試みと組合されても組合されなくてもよい。緩和ケアは、癌患者が被る物理的、感情的、精神的および心理社会的苦痛を軽減するための行為を含む。癌細胞を直接的に殺すことを目的とする治療とは異なり、緩和ケアの主な目的は、患者の生活の質を改善することである。
【0107】
2.ウイルス感染
ウイルスは、生物の生きた細胞内でのみ複製可能な小さな感染因子である。ウイルスは動物および植物から細菌および古細菌にわたる全てのタイプの生物に感染しうる。数百万の異なるタイプが存在するが、約5,000のウイルスが詳細に記載されている。ウイルスは地球上のほとんど全ての生態系に見られ、生物学的実体の最も豊富なタイプである。
【0108】
ウイルス粒子(ビリオンとして公知)は以下の2つ又は3つの部分からなる:i)遺伝情報を運ぶ長い分子であるDNAまたはRNAのいずれかから構成される遺伝物質;ii)これらの遺伝子を保護するタンパク膜;そして幾つかの場合には、iii)細胞の外部に存在する場合にタンパク膜を包囲する脂質のエンベロープ。ウイルスの形状は、単純なラセン形態および正二十面体形態から、より複雑な構造体まで、多岐にわたる。平均的なウイルスは平均的な細菌のサイズの約100分の1である。ほとんどのウイルスは、光学顕微鏡で直接見ることができないほど小さい。
【0109】
ウイルスは多数の様態で伝染する。植物におけるウイルスは、しばしば、植物の樹液を吸う昆虫、例えばアブラムシにより、植物から植物へと伝染する。動物におけるウイルスは吸血昆虫により運ばれうる。これらの病原体保有生物はベクターとして公知である。インフルエンザウイルスは咳およびくしゃみによって拡散する。ウイルス性胃腸炎の一般的原因であるノロウイルスおよびロタウイルスは糞口経路で伝染し、接触によって人から人へと移り、食料または水に含まれて体内に侵入する。HIVは、性的接触および感染血液への曝露により伝染する幾つかのウイルスの1つである。ウイルスが感染しうる宿主細胞の範囲は「宿主域」と称される。これは狭いこともあり、あるいはウイルスが多数の種に感染しうる場合には広くなりうる。
【0110】
動物におけるウイルス感染は、感染ウイルスを通常は排除する免疫応答を惹起する。免疫応答は、特定のウイルス感染に対する人工獲得免疫を付与するワクチンによっても生成されうる。しかし、エイズおよびウイルス性肝炎を引き起こすウイルスを含む幾つかのウイルスはこれらの免疫応答を回避し、慢性感染を引き起こす。抗生物質はウイルスには無効であるが、幾つかの抗ウイルス薬が開発されている。
【0111】
種々の疾患は、インフルエンザ、ヒト免疫不全ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、天然痘ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、朝鮮出血熱ウイルス、水痘、水痘帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス1または2、エプスタイン−バーウイルス、マールブルグウイルス、ハンタウイルス、黄熱病ウイルス、A、B、CまたはE型肝炎、エボラウイルス、ヒトパピローマウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ロタウイルス、HTLV−1および2を含むウイルス感染により助長される。
【0112】
C.治療方法
ペプチドおよびポリペプチドは、単独で又は前記疾患を治療する他の薬物と共に、哺乳動物対象(例えば、ヒト患者)に投与されうる。必要な投与量は投与経路の選択;該ポリペプチドに伴う追加的物質を含む製剤の性質;患者の疾患の性質;対象のサイズ、体重、表面積、年齢および性別;更なる組合せ療法;ならびに担当医師の判断に左右される。適当な投与量は0.0001〜10mg/kgの範囲である。種々の化合物が利用可能であること、および種々の投与経路が様々な効率を示すことを考慮すると、必要な投与量の広範な変動が予想される。例えば、経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を要すると予想される。これらの投与量レベルの変動は、当技術分野で十分に理解されているとおり、最適化のための標準的な経験的常套手段を用いて調節されうる。投与は1回または複数回(例えば、2回、3回、4回、6回、8回、10回、20回、50回、100回、150回またはそれ以上)でありうる。適当な運搬媒体(例えば、高分子微粒子または移植可能な装置)内へのポリペプチドの封入は、経口運搬の場合には特に、運搬の効率を増加させうる。
【0113】
癌細胞への治療用ペイロード(例えば、放射性核種、化学療法
剤または毒素)の運搬のための標的化剤として、操作されたGlaドメインタンパク質が使用されうる。具体的な化学療法剤には以下のものが含まれる:テモゾロミド(temozolomide)、エポチロン(epothilones)、メルファラン(melphalan)、カルムスチン(carmustine)、ブスルファン(busulfan)、ロムスチン(lomustine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、ダカルバジン(dacarbazine)、ポリフェプロザン(polifeprosan)、イホスファミド(ifosfamide)、クロラムブシル(chlorambucil)、メクロレタミン(mechlorethamine)、ブスルファン(busulfan)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、カルボプラチン(carboplatin)、シスプラチン(cisplatin)、チオテパ(thiotepa)、カペシタビン(capecitabine)、ストレプトゾシン(streptozocin)、ビカルタミド(bicalutamide)、フルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、酢酸ロイプロリド(leuprolide)、塩酸ドキソルビシン(doxorubicin)、硫酸ブレオマイシン(bleomycin)、塩酸ダウノルビシン(daunorubicin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、リポソームクエン酸ダウノルビシン(daunorubicin)、リポソーム塩酸ドキソルビシン(liposomal doxorubicin hydrochloride)、塩酸エピルビシン(epirubicin)、塩酸イダルビシン(idarubicin)、マイトマイシン(mitomycin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、バルルビシン(valrubicin)、アナストロゾール(anastrozole)、クエン酸トレミフェン(toremifene)、シタラビン(cytarabine)、フルオロウラシル(fluorouracil)、フルダラビン(fludarabine)、フロクスウリジン(floxuridine)、インターフェロンα−2b、プリカマイシン(plicamycin)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、メトトレキサート(methotrexate)、インターフェロンα−2a、酢酸メドロキシプロゲステロン(medroxyprogersterone)、リン酸エストラムスチン(estramustine)ナトリウム、エストラジオール(estradiol)、酢酸ロイプロリド(leuprolide)、酢酸メゲストロール(megestrol)、酢酸オクトレオチド(octreotide)、ジエチルスチルベステロール(deithylstilbestrol)二リン酸、テストラクトン(testolactone)、酢酸ゴセレリン(goserelin)、リン酸エトポシド(etoposide)、硫酸ビンクリスチン(vincristine)、エトポシド(etoposide)、ビンブラスチン(vinblastine)、エトポシド(etoposide)、硫酸ビンクリスチン(vincristine)、テニポシド(teniposide)、トラスツズマブ(trastuzumab)、ゲムツズマブ・オゾガミシン(gemtuzumab ozogamicin)、リツキシマブ(rituximab)、エキセメスタン(exemestane)、塩酸イリノテカン(irinotecan)、アスパラギナーゼ(asparaginase)、塩酸ゲムシタビン(gemcitabine)、アルトレタミン(altretamine)、塩酸トポテカン(topotecan)、ヒドロキシ尿素(hydroxyurea)、クラドリビン(cladribine)、ミトタン(mitotane)、塩酸プロカルバジン(procarbazine)、酒石酸ビノレルビン(vinorelbine)、ペントロスタチン(pentrostatin)ナトリウム、ミトキサントロン(mitoxantrone)、ペガスパルガーゼ(pegaspargase)、デニロイキンジフチトクス(denileukin diftitix)、アリトレチノイン(altretinoin)、ポルフィマー(porfimer)、ベキサロテン(bexarotene)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、三酸化ヒ素またはトレチノイン(tretinoin)。毒素には、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素(PE38)、リシンA鎖、ジフテリア毒素、ビサイド(Beside)PEおよびRT、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質(PAP)、サポリンおよびゲロニンが含まれる。癌治療のための放射性核種には、Y−90、P−32、I−131、In−111、Sr−89、Re−186、Sm−153およびSn−117mが含まれる。
【0114】
ウイルス感染に対する療法に適した物質または因子には以下のものが含まれる:アバカビル(Abacavir)、アシクロビル(Aciclovir)、アシクロビル(Acyclovir)、アデフォビル(Adefovir)、アマンタジン(Amantadine)、アンプレナビル(Amprenavir)、アンプリジェン(Ampligen)、アルビドール(Arbidol)、アタザナビル(Atazanavir)、アトリプラ(Atripla)、ボセプレビレルテット(Boceprevirertet)、シドフォビル(Cidofovir)、コンビビル(Combivir)、ダルナビル(Darunavir)、デラビルジン(Delavirdine)、ジダノシン(Didanosine)、ドコサノール(Docosanol)、エドクスジン(Edoxudine)、エファビレンツ(Efavirenz)、エムトリシタビン(Emtricitabine)、エンフビルチド(Enfuvirtide)、エンテカビル(Entecavir)、侵入インヒビター、ファムシクロビル(Famciclovir)、ホミビルセン(Fomivirsen)、ホスアンプレナビル(Fosamprenavir)、ホスカルネット(Foscarnet)、ホスホネット(Fosfonet)、ガンシクロビル(Ganciclovir)、イバシタビン(Ibacitabine)、イムノビル(Imunovir)、イドクスウリジン(Idoxuridine)、イミキモド(Imiquimod)、インジナビル(Indinavir)、イノシン(Inosine)、インテグラーゼインヒビター、インターフェロンIII型、インターフェロンII型、インターフェロンI型、インターフェロン、ラミブジン(Lamivudine)、ロピナビル(Lopinavir)、ロビリド(Loviride)、マラビロク(Maraviroc)、モロキシジン(Moroxydine)、メチサゾン(Methisazone)、ネルフィナビル(Nelfinavir)、ネビラピン(Nevirapine)、ネキサビル(Nexavir)、ヌクレオシド類似体、オセルタミビル(Oseltamivir)、ペグインターフェロンアルファ−2a、ペンシクロビル(Penciclovir)、ペラミビル(Peramivir)、プレコナリル(Pleconaril)、ポドフィロトキシン(Podophyllotoxin)、プロテアーゼインヒビター、ラルテグラビル(Raltegravir)、逆転写酵素インヒビター、リバビリン(Ribavirin)、リマンタジン(Rimantadine)、リトナビル(Ritonavir)、ピラミジン(Pyramidine)、サキナビル(Saquinavir)、スタブジン(Stavudine)、相乗的増強剤(抗レトロウイルス)、ティーツリーオイル(Tea tree oil)、テラプレビル(Telaprevir)、テノホビル(Tenofovir)、テノホビルジソプロキシル(Tenofovir disoproxil)、チプラナビル(Tipranavir)、トリフルリジン(Trifluridine)、トリジビル(Trizivir)、トロマンタジン(Tromantadine)、ツルバダ(Truvada)、バラシクロビル(Valaciclovir)、バルガンシクロビル(Valganciclovir)、ビクリビロック(Vicriviroc)、ビダラビン(Vidarabine)、ビラミジン(Viramidine)、ザルシタビン(Zalcitabine)、ザナミビル(Zanamivir)およびジドブジン(Zidovudine)。
【0115】
当業者は“Remington’s Pharmaceutical Sciences”15th Edition,chapter 33、特にp.624−652を参照することが可能である。治療される対象の状態に応じて、投与量における幾らかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにせよ、投与に関して責任を有する者が個々の対象に対する適当な用量を決定するであろう。更に、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDAオフィス・オブ・バイオロジクス・スタンダード(Office of Biologics standard)により要求される無菌性、発熱性、一般的安全性および純度標準を満たしているべきである。
【実施例】
【0116】
V.実施例
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を実証するために記載されている。以下の実施例に開示されている技術は、本開示の実施において十分に機能することが本発明者により見出された技術の代表例であり、したがって、その実施のための好ましい形態を構成するとみなされうる、と当業者に理解されるべきである。しかし、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている特定の実施形態には多数の変更が施されることが可能であり、同様または類似の結果を尚も与えうる、と当業者は本開示を考慮して理解すべきである。
【0117】
実施例1
細胞膜に対するGla−ドメインタンパク質のアフィニティは、調製されたリン脂質小胞を使用することにより、インビトロで決定されている(Shahら,1998;Nelsestuen,1999)。しかし、これらのインビトロ値がインビボ状況にどのような置き換わるかについては十分には解明されていない。例えば、TFとのFVIIの相互作用は、これらのタンパク質のGlaドメインは非常に相同であるが、それらの細胞膜結合特異性およびアフィニティにおける追加的相違はそれらのEGFおよび/またはクリングルドメインによってもたらされうることを強調している。残念ながら、これらの相互作用は、リン脂質小胞のみに基づく研究によっては再現され得ず、依然として未特定のままであろう。
【0118】
したがって、本発明者らは、以下のパネルのタンパク質からGla+EGF/クリングルドメインおよびGlaドメインのみを作製し試験することを提示した:hS(高アフィニティ結合体)、hZ(中アフィニティ結合体)、hPT(中アフィニティ−クリングル含有)、hFVII(低アフィニテイ − 癌においてアップレギュレーションもされる二次「受容体」を利用)、およびB0178(増加したリン脂質アフィニティを有するhFVII)。これらのタンパク質は、プローブとして(そして、実証され選択的であれば、潜在的に治療剤として)のそれらの使用に有益でありうる、そして現在のところ認識されないままとなっている種々のインビボ結合特性を潜在的に有する。
【0119】
一般的アプローチは、組換えタンパク質を構築しそれらを発現に関して試験することであった。ついで、結合を評価するためにアッセイが開発されるであろう。ついで、発現および精製方法が最適化され、ついでガンマ−カルボキシル化の品質管理が行われるであろう。
【0120】
図1は、カルボキシル化部位を含む種々のGlaドメインタンパク質からの配列を示す。
図2は、操作され293細胞内で一過性発現された種々の異なるGlaドメインタンパク質の発現を示す。
図3はBHK21細胞における類似研究を示す。最良発現構築物の1つがプロテインS+EGF構築物であると仮定して、プロテインSからのシグナル配列をプロトロンビンGla+クリングルおよびプロテインZ+EGFと共に利用した。しかし、発現は細胞内でのみ観察された(
図4)。
【0121】
プロテインS Gla+EGFを更なる研究に選択した。該配列を
図5に示す。RF286培地を使用して、タンパク質をBHK21細胞内で産生させた。600mlを集め、4×濃縮した。精製は以下の3工程を用いた。
【0122】
1.Ni−NTAカラム、10ml、新鮮充填。媒体をカラムにローディングし、イミダゾール勾配で溶出する。画分の全てをGlaウエスタンブロットに付してHisタグ付きGlaプロテインS G+Eを特定する。
【0123】
2.CaCl
2設定溶出を伴うHitrap Q。Gla陽性画分をプールし、10mM CaCl
2溶出を伴う1mlのHitrap Qに付す。
【0124】
3.CaCl
2勾配(0〜10mM シャドウ(shadow)勾配)を伴うHitrap Q。段階精製Glaタンパク質をQに付して、勾配CaCl
2(10mMまで)で溶出した。95%の純度レベルの合計0.9mgのタンパク質が産生された。
図6は還元条件および非還元条件の両方における精製画分を示す。
図7および8は、FACに基づく種々のアポトーシスアッセイを示す。どちらも、プロテインS Gla+EGF構築物が、アネキシンVと同様にアポトーシスを受けている細胞に特異的であること(
図7)、およびアネキシンVがプロテインS Gla+EGF結合と競合することを示している。
【0125】
要約すると、プロテインS Gla+EGFを発現させ、精製した。精製された物質に関する分析は、それが高度にガンマ−カルボキシル化されていることを示唆した。FACに基づくアポトーシスアッセイは、プロテインS G+E(11 Gla)が「アポトーシス」細胞に結合しうること、およびアネキシンV競合アッセイにより示されるとおり、細胞へのこの結合がホスファチジルセリンの標的化によるものであることを示した。
【0126】
本明細書に開示され特許請求されている組成物および/または方法の全ては、本開示を考慮すると、過度な実験を行うことなく製造され実施されうる。本開示の組成物および方法は好ましい実施形態に関して記載されているが、本明細書に記載されている組成物および/または方法に対して、および該方法の工程において、または該工程の順序において、本開示の概念、精神および範囲から逸脱することなく、変更が施されうることが、当業者に明らかであろう。より詳細には、本明細書に記載されている物質の代わりに、化学的かつ生理的に関連している或る物質が使用可能であり、その場合にも同一または類似の結果が達成されるであろうことが明らかであろう。当業者に明らかな全てのそのような類似置換および修飾は、添付の特許請求の範囲により定められる本開示の精神、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
【0127】
VI.参考文献
以下の参考文献を、本明細書に記載されているものを補足する典型的な方法または他の詳細をそれらが提供する限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れることとする。
【表1】