(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機系含水廃棄物を乾燥させて有機性粉体を造粒する乾燥設備において、乾燥系統内の気体組成が水蒸気及び空気を含み、前記有機系含水廃棄物が昇温された気体とともに循環される乾燥系統内の酸素濃度推定方法であって、
前記乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が、前記乾燥系統外に排出される系外排出風量α(kNm3/h)と、前記乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm3/h)と、前記乾燥系統内に供給される空気中の酸素濃度γ=21(%)とに基づいて、下記式(1)から算出されることを特徴とする乾燥系統内の酸素濃度推定方法。
C={(α−β)/α}×21・・・(1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機系含水廃棄物を乾燥させて有機性粉体を造粒する場合に、乾燥設備内の粉塵濃度及び酸素濃度が一定量に達し、着火源となる火種が生じると、粉塵爆発を起こす可能性がある。そこで、有機系含水廃棄物から安全かつ安定的に有機性粉体を造粒するためには、粉塵爆発の確実な防止を図る必要がある。粉塵爆発の防止策として、例えば、運転中の乾燥設備内の酸素濃度をガス分析して、酸素濃度を一定のレベル以下に保つことが考えられる。
【0007】
しかし、酸素濃度は、一般に乾式分析によって測定される。これに対し、運転中の乾燥設備内は、有機系含水廃棄物から生じた水蒸気によって湿分過多の状態であり、分析結果に十分な精度が得られないという問題がある。また、運転を停止させた乾燥設備から気体のサンプルを採取して酸素濃度を測定する場合でも、乾燥設備内の除湿、除塵等の前処理が必要であり、測定がすぐに行えず、必要な時に対策が取れない懸念がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、運転中の乾燥設備における乾燥系統内の酸素濃度を、演算によって高精度に推定することができ、粉塵爆発の確実な防止を図ることができる乾燥系統内の酸素濃度推定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、乾燥設備における乾燥系統内に存在する気体量が、乾燥系統内に供給される水分量及び空気量の比率に収束するという知見を得た。そして、本発明者らは、可燃性ガスによるガス爆発の可能性を排除して、粉塵爆発の防止のみに着目し、乾燥系統内の気体組成が水蒸気及び空気であると仮定した。この仮定の下で、本発明者らは、乾燥系統内の気流が、
図1に示すような単純なサイクルにモデル化可能であることを見出した。
【0010】
そして、本発明者らは、
図1に示す乾燥系統モデルにおける、前記乾燥系統外に排出される系外排出風量と、前記乾燥系統内で生成される水蒸気量とに基づく演算により、乾燥系統内の酸素濃度を高精度に推定可能であることを見出した。
【0011】
本発明者らは、更に研究を重ねた結果、系外排出風量及び水蒸気量に基づいて算出した酸素濃度が所定の値を超えると、粉塵爆発の可能性が高くなることを知見した。すなわち、本発明者らが想到した乾燥系統内の酸素濃度推定方法に基づいて、乾燥設備の酸素濃度を所定の値以下に制御することで、粉塵爆発の確実な防止を図ることができる。
【0012】
[a]上記目的を達成するために、本発明の乾燥系統内の酸素濃度推定方法は、有機系含水廃棄物を乾燥させて有機性粉体を造粒する乾燥設備において、乾燥系統内の気体組成が水蒸気及び空気を含み、前記有機系含水廃棄物が昇温された気体とともに循環される乾燥系統内の酸素濃度推定方法であって、前記乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が、前記乾燥系統外に排出される系外排出風量α(kNm
3/h)と、前記乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)と、前記乾燥系統内に供給される空気中の酸素濃度γ=21(%)とに基づいて、下記式(1)から算出されるようにしてある。
C={(α−β)/α}×21・・・(1)
【0013】
[b]好ましくは、上記[a]の乾燥系統内の酸素濃度推定方法において、T(℃)における前記系外排出風量α(kNm
3/h)が、前記乾燥系統に備えられた排蒸気ファンの性能曲線から決定される風量F(m
3/min)に基づいて、下記式(2)から算出されるようにするとよい。
α=F×{273/(273+T)}×60/1000・・・(2)
【0014】
[c]好ましくは、上記[a]又は[b]の乾燥系統内の酸素濃度推定方法において、前記水蒸気量β(kNm
3/h)が、前記有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)であり、前記有機系含水廃棄物の投入量A(t/h)と、前記有機系含水廃棄物の含水率X(%)と、前記有機性粉体の含水率Y(%)とに基づいて、下記式(3)から算出されるようにするとよい。
β
1=[A×{(X−Y)/100}]×22.4/18・・・(3)
【0015】
[d]好ましくは、上記[c]の乾燥系統内の酸素濃度推定方法において、前記水蒸気量β(kNm
3/h)が、前記有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)と、前記乾燥系統内に設けられた散水装置由来の水蒸気量β
2(kNm
3/h)との合計であり、前記水蒸気量β
1(kNm
3/h)は、上記式(3)から算出され、前記水蒸気量β
2(kNm
3/h)は、前記散水装置による散水量W(L/min)と、含水率100(%)とに基づいて、下記式(4)から算出されるようにするとよい。
β
2={W×60/1000}×100×22.4/18・・・(4)
【0016】
[e]好ましくは、上記[a]〜[d]のいずれかの乾燥系統内の酸素濃度推定方法において、前記乾燥設備が汚泥乾燥設備であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の乾燥設備における乾燥系統内の酸素濃度推定方法によれば、運転中の乾燥設備における乾燥系統内の酸素濃度を、演算によって高精度に推定することができ、粉塵爆発の確実な防止を図ることができる。
【0018】
特に、本発明の乾燥設備における乾燥系統内の酸素濃度推定方法によれば、乾燥設備の起動直後の立ち上げ期間、及び乾燥設備の故障時など、水蒸気の発生源である有機系含水廃棄物の乾燥系統内への供給が滞るような場合、すなわち、乾燥系統内を有機性粉体(着火源)のみが循環してしまうような不測の事態が生じた場合でも、推定された酸素濃度の値に基づいて、危険な状態を察知し、粉塵爆発を未然に防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る汚泥乾燥設備及び乾燥系統内の酸素濃度制御システムについて、図面を参照しつつ説明する。本発明の乾燥系統内の酸素濃度推定方法は、以下に説明する本実施形態の乾燥系統内の酸素濃度制御システムの処理によって実施される。
【0021】
図2は、本実施形態に係る汚泥乾燥設備1を示す模式図である。本実施形態の汚泥乾燥設備1は、セメント製造設備40に接続されている。まず、本実施形態の汚泥乾燥設備1に適用される有機系含水廃棄物、この有機系含水廃棄物から造粒される有機性粉体を例示したうえで、
図2に示す汚泥乾燥設備1及びセメント製造設備40の構成について説明する。
【0022】
<有機系含水廃棄物>
本実施形態の汚泥乾燥設備1は、例えば、下水汚泥、食品汚泥、製紙スラッジ等の汚泥廃棄物のほかに家畜ふん尿などを含む有機系含水廃棄物の乾燥に広く適用することができる。有機系含水廃棄物の含水率Xは、少なくとも40(質量%)程度である。好ましくは、有機系含水廃棄物の含水率Xが80(質量%)程度であり、汚泥乾燥設備1によって造粒される有機性粉体の含水率Yが10(質量%)程度であるとよい。
【0023】
<有機性粉体>
有機性粉体は、有機系含水廃棄物を乾燥することによって得られる粉体である。この有機性粉体は、有機系含水廃棄物が、乾燥用ガスとともに汚泥乾燥設備1内を気体搬送されることで造粒される。有機性粉体の含水率Yは、少なくとも25(質量%)以下であり、好ましくは、20(質量%)以下、より好ましくは15(質量%)以下、特に好ましくは10(質量%)以下であるとよい。一方、含水率Yの下限値としては、例えば、5(質量%)程度である。汚泥乾燥設備1によって造粒された有機性粉体は、セメント製造設備40の燃料に使用される。燃料として使用する場合の有機性粉体の粒径は、例えば、1〜5(mm)程度となることが好ましい。
【0024】
<汚泥乾燥設備>
次に、本実施形態の汚泥乾燥設備1について説明する。
図2において、汚泥乾燥設備1の構成要素は、その機能に基づいて投入系統及び乾燥系統の2つに区分することができる。このうち、乾燥系統は、セメント製造設備40に接続されている。本実施形態の汚泥乾燥設備1において、セメント製造設備40は、有機系含水廃棄物の乾燥用ガスを昇温させるための熱源であり、かつ、有機系含水廃棄物から造粒した有機性粉体の供給先である。
【0025】
<<投入系統>>
投入系統は、有機系含水廃棄物を汚泥乾燥設備1に投入するための構成要素である。本実施形態の投入系統は、廃棄物供給源としての受入れホッパ10と、その出口側に配置された混合機11とで構成される。受入れホッパ10は、乾燥前の有機系含水廃棄物を受け入れる部分である。受入れホッパ10は、単位時間当たりに所定量の有機系含水廃棄物を混合機11の側へ送り出す。具体的に、受入れホッパ10の出口は、搬送路21を介して混合機11に接続されている。有機系含水廃棄物は、搬送路21を経由して混合機11に供給される。
【0026】
混合機11は、受入れホッパ10から供給される乾燥前の有機系含水廃棄物と、後述するサイクロン(固気分離手段)13、14から供給される乾燥後の有機系含水廃棄物とを混合する装置である。混合機11の構成は、乾燥状態(含水率)の異なる有機系含水廃棄物を十分に撹拌及び混合できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、パドルやスクリューにより混合する構成、又は撹拌翼で混合する構成など、種々の構成の混合機11を適用することができる。混合機11により混合された有機系含水廃棄物は、次に述べる乾燥系統の廃棄物循環路22に送り出される。
【0027】
<<乾燥系統>>
乾燥系統は、有機系含水廃棄物を乾燥用ガスとともに循環させることで、有機系含水廃棄物を乾燥させた有機性粉体を造粒するための構成要素である。本実施形態における乾燥用ガスとは、高温に昇温された空気である。
【0028】
図2に示すように、本実施形態の乾燥系統は、主として、解砕機12と、サイクロン(固気分離手段)13、14と、熱交換器16と、乾燥ファンB1、排蒸気ファンB2と、原料タンク17と、散水装置18、19とを含む。さらに、本実施形態の乾燥系統は、有機系含水廃棄物を循環させるための配管である廃棄物循環路22〜25と、乾燥用ガスを循環させるためのガスライン31と、その他の乾燥用ガスの循環路32A、32B、33とを含んでいる。
【0029】
解砕機12は、送り込まれた有機系含水廃棄物を細かく粉砕する。解砕機12の構成は、特に限定されるものではなく、例えば、ケージの回転により、塊状物を解砕しながら熱風流に随伴させる構成とすることができる。また、例えば、特開2000−65476で用いられているようなものを利用してもよい。解砕機12による解砕の程度は、例えば、使用する有機系含水廃棄物の性状や、目的とする有機性粉体の性状等に応じて適宜調整する。解砕機12により解砕された有機系含水廃棄物は、廃棄物循環路23を介して、サイクロン13、14へと送り出される。
【0030】
サイクロン13、14は、解砕機12に解砕された有機系含水廃棄物を固体と気体とに分離する固気分離手段である。本実施形態では、2基のサイクロン13、14を並列に接続した構成となっている。なお、固気分離手段としてのサイクロン13、14は、1基又は3基以上を設けてもよい。2基以上のサイクロン13、14は、並列に限らず、直列に接続してもよい。
【0031】
サイクロン13、14によって分離された気体の一部は、乾燥用ガスとして循環利用される。一方、サイクロン13、14によって分離された乾燥固形物は、未乾燥の有機系含水廃棄物と、十分に乾燥された有機性粉体とに分離される。未乾燥の有機系含水廃棄物は、混合機11に戻される。有機性粉体は、原料タンク17に送り出され、最終的にセメント製造設備40の燃料として利用される。
【0032】
廃棄物循環路22〜25は、有機系含水廃棄物を乾燥用ガスとともに循環させるための配管である。
図2に示すように、廃棄物循環路22は、混合機11と解砕機12とを接続する。具体的に、廃棄物循環路22の一端は、接続部P1を介して、混合機11の出口側と、乾燥用ガスの戻りガスライン33とに接続してある。廃棄物循環路22の他端は、解砕機12の入口側に接続してある。廃棄物循環路23は、解砕機12とサイクロン13とを接続する。廃棄物循環路24、25は、サイクロン13、14の有機系含水廃棄物の各出口と、混合器11とを接続する。有機系含水廃棄物は、乾燥用ガスである高温の空気によって、廃棄物循環路22〜25内を気体搬送される。有機系含水廃棄物は、十分に乾燥されて有機性粉体となるまで、解砕機12、サイクロン13、14、混合機11の各処理工程を循環する。
【0033】
熱交換器16は、外部の熱源を利用して、廃棄物循環路22〜25を循環する乾燥用ガスを昇温させる。本実施形態では、セメント製造設備40からの廃熱が熱交換器16に供給されるようになっている。すなわち、熱交換器16は、ガスライン34、35を介して、セメント製造設備40のロータリキルン41に接続されている。ロータリキルン41の廃熱は、ガスライン34を経由して熱交換器16に供給される。一方、熱交換器16から排出された出口ガスは、ガスライン35を経由してロータリキルン41に戻される。
【0034】
なお、熱交換器16の熱源は、乾燥用ガスを120℃以上昇温できるものであればよく、好ましくは、150℃〜250℃昇温できるものがよい。また、本実施形態では、セメント製造設備40のロータリキルン41を熱交換器16の熱源として利用したが、これに限らず、セメント製造設備40の他の構成要素、例えば、図示しないサスペンションプレヒータ又はクーラの排ガス等を熱源として利用することもできる。
【0035】
熱交換器16は、上述した乾燥用ガスの循環経路に接続されている。乾燥用ガスの循環経路は、主として、
図2に示すガスライン31、熱交換ライン32A、バイパスライン32B、戻りガスライン33を含む。
【0036】
ガスライン31は、サイクロン13、14の気体出口と、乾燥ファンB1の吸入口とを接続する。乾燥ファンB1の排出口は、熱交換ライン32A及びバイパスライン32Bの分岐部P2に接続されている。乾燥ファンB1から排出された乾燥用ガスの一部は、熱交換ライン32Aを通過して、熱交換器16に送り込まれる。また、乾燥ファンB1から排出された乾燥用ガスの他の一部は、バイパスライン32Bを通過して、戻りガスライン33に送り込まれる。つまり、熱交換ライン32Aを通過する乾燥用ガスは、熱交換器16によって昇温されるが、バイパスライン32Bを通過する乾燥用ガスは、熱交換器16を迂回するので昇温されない。いずれの乾燥用ガスも、戻りガスライン33に送り込まれ、廃棄物循環路22〜25に戻されて、有機系含水廃棄物の乾燥に供される。
【0037】
その他、乾燥用ガスの循環経路の詳細について説明すると、ガスライン31上には、ガス流量を計測する風量計15と、流路開閉用の弁V3とが配置されている。また、熱交換ライン32A及びバイパスライン32Bのそれぞれにも、流路開閉用の弁V1、V2が配置されている。これらの弁V1、V2、V3を操作することで、流路の開閉を調節することができるようになっている。なお、弁V1、V2、V3は、作業者によって手動で操作(開閉及び/又は開度調整)されるものであってもよいが、本実施態様では、制御室2からの信号に基づいて動作制御される構成としてある。
【0038】
図2に示すように、上述した乾燥ファンB1、熱交換ライン32A、バイパスライン32Bを結ぶ配管は、弁V4を介して、排蒸気ファンB2の吸入口に接続されている。排蒸気ファンB2の排出口は、ガスライン36に接続されている。排蒸気ファンB2は、乾燥ファンB1から排出された乾燥用ガスのうち、熱交換ライン32A及びバイパスライン32Bに送り込まれなかった一部の乾燥用ガスを、セメント製造設備40のロータリキルン41に排出する。すなわち、排蒸気ファンB2は、ガスライン36を通じて、水蒸気を含む乾燥用ガスを、乾燥系統の系外に排出する。この排蒸気ファンB2については、本実施形態に係る酸素濃度制御システムの説明において詳述する。
【0039】
ここで、本実施形態の汚泥乾燥設備1は、2機の散水装置18、19を備えている。
図2に示すように、散水装置18は、解砕機12の入口に接続された廃棄物循環路22に配置されている。また、散水装置19は、解砕機12の出口に接続された廃棄物循環路23に配置されている。後に詳述するが、これらの散水装置18、19は、乾燥系統内の酸素濃度に基づいて動作制御され、廃棄物循環路22、23を通過する有機系含水廃棄物に散水する。
【0040】
散水装置18、19は、散水量を調整する駆動機構と、この駆動機構を動作制御する制御回路とを有し、制御室2からの信号に基づいて、制御回路が駆動機構を動作制御する構成となっている。散水装置18、19による散水は、水を液体状のまま噴射する形態、又は水を霧状にして噴霧する形態のいずれであってもよい。また、散水装置18、19を設置する場所は、廃棄物循環路22〜25のいずれであってもよい。但し、本実施形態の散水装置19のように、解砕機12の出口に接続された廃棄物循環路23に配置することが好ましい。有機系含水廃棄物は、乾燥系統に供給される乾燥用ガスの他に、解砕機12によっても乾燥されるので、解砕機12の出口において最も乾燥した状態になるからである。このように、散水装置19を、解砕機12の出口に接続された廃棄物循環路23に配置した場合は、廃棄物循環路23の酸素濃度を低減させることに加えて、有機系含水廃棄物の過乾燥を直接的に解消することができ、有機系含水廃棄物の自己発火を未然に防止することが可能となる。
【0041】
<セメント製造設備>
セメント製造設備40は、ロータリキルン41の他に、図示しないサスペンションプレヒータ、仮焼炉、クーラ等を備えている。サスペンションプレヒータは、複数段のサイクロンを含む。仮焼炉は、サスペンションプレヒータの最下段のサイクロンに連結される。ロータリキルン41は、サスペンションプレヒータの最下段のサイクロン及び仮焼炉に接続される。上述した汚泥乾燥設備1の原料タンク17に蓄えられた有機性粉体は、セメント製造設備40に供給され、ロータリキルン41のメインバーナによって燃焼される。図示しないが、セメント製造設備40に供給された有機性粉体は、仮焼炉でも燃焼される。
【0042】
なお、本実施形態の汚泥乾燥設備1に接続されるセメント製造設備40は、従来公知の様々な種類のものを利用可能であり、特定の構成に限定されるものではない。例えば、特許第4445147号に開示されたセメント製造設備と同様の構成のものを適用することができる。
【0043】
<酸素濃度制御システム>
次に、上述した汚泥乾燥設備1において実施される、乾燥系統内の酸素濃度制御システムの一実施形態について説明する。
図3に示す酸素濃度制御システム210は、汚泥乾燥設備1の粉塵爆発を未然に防止するためのものである。粉塵爆発は、乾燥系統内の粉塵濃度及び酸素濃度が一定量に達し、着火源となる火種が生じた場合に起こり得る。酸素濃度制御システム210は、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を演算により推定し、推定された酸素濃度C(体積%)が閾値を超えた場合に、粉塵爆発を防止するための処理を実行する。
【0044】
図3に示す酸素濃度制御システム210は、例えば、
図2に示す制御室2に設置されたパーソナルコンピュータ等の演算処理装置201がプログラムを実行することにより実現される。具体的には、演算処理装置201のRAM又はROMなどの記憶手段に、酸素濃度制御システム210の処理を実現するためのプログラムが予めインストールされる。演算処理装置201のCPUなどの制御手段は、無線又は有線によって受信される汚泥乾燥設備1からの情報に基づき、前記プログラムの処理を実行する。
【0045】
図3において、酸素濃度制御システム210は、系外排出風量算出手段211と、水蒸気量算出手段212と、酸素濃度算出手段213と、酸素濃度監視手段214と、報知手段215と、散水量制御手段216とを備える。このうち、系外排出風量算出手段211、水蒸気量算出手段212及び酸素濃度算出手段213は、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を推定するための演算処理に関わる。一方、酸素濃度監視手段214、報知手段215及び散水量制御手段216は、推定された酸素濃度C(体積%)に基づく制御処理に関わる。
【0046】
<<酸素濃度の推定原理>>
汚泥乾燥設備1の粉塵爆発は、乾燥系統内の水蒸気量の減少を起因とした酸素濃度の上昇によって引き起こされるものと考えられる。
図1に示す乾燥系統モデルにおいて、乾燥系統内の水蒸気量βは、乾燥系統内に供給される水分量と空気量δとの比率に収束する。そして、乾燥系統内での燃焼反応が無いと仮定すると、乾燥系統内の気体組成は水蒸気及び空気である。乾燥系統内に供給される空気中の酸素濃度γは21%、空気中の水分は0%とする。
【0047】
上述した乾燥系統モデルにおいて、乾燥系統内に供給される空気量δは、系外排出風量αから、乾燥系統内の水蒸気量βを減算した値(α−β)とみなすことができる。そして、乾燥系統内の酸素濃度Cは、空気量δを系外排出風量αで除算した値に、乾燥系統内に供給される空気中の酸素濃度γ=21%を乗算することで求められる。つまり、乾燥系統内の酸素濃度Cの推定値は、下記式(1)で算出することができる。
C={(α−β)/α}×21・・・(1)
【0048】
<<系外排出風量算出手段>>
系外排出風量算出手段211は、排蒸気ファンB2の電流値(A)に基づいて、汚泥乾燥設備1の乾燥系統外に排出される系外排出風量α(kNm
3/h)を算出する。
【0049】
ここで、汚泥乾燥設備1の乾燥系統外に排出される風量は、厳密には、
図2に示す排蒸気ファンB2の系外排出風量α(kNm
3/h)の他に、十分に乾燥された有機性粉体を送り出すために、サイクロン13、14から原料タンク17へ排出される風量がある。しかし、サイクロン13、14から原料タンク17へ排出される風量は、乾燥系統の全体に対して非常に微量である。このため、系外に排出される気体量については、排蒸気ファンB2の系外排出風量α(kNm
3/h)のみに近似して考えることができる。
【0050】
そこで、系外排出風量算出手段211は、排蒸気ファンB2の性能曲線から決定される風量F(m
3/min)に基づいて、下記式(2)からT(℃)における系外排出風量α(kNm
3/h)を算出する。
α=F×{273/(273+T)}×60/1000・・・(2)
【0051】
排蒸気ファンB2の性能曲線は、一般的に圧力P、風量Qで示されるP−Q線図の曲線であり、この曲線がファンの能力を表す。性能曲線は、市場に流通する各種ファンに固有のものである。汚泥乾燥設備1にファンを導入する際には、必要換気量や圧力損失等を考慮したうえで、最適のファンが選定されている。
【0052】
このように、上記式(2)の風量F(m
3/min)は、排蒸気ファンB2に固有の性能曲線で定まるものである。本実施形態の系外排出風量算出手段211は、一例として、排蒸気ファンB2の電流値(A)に基づき、排蒸気ファンB2の動力(kW)を算出し、この動力(kW)を性能曲線の近似式に適用することで、系外排出風量α(kNm
3/h)を算出することとしている(下記式(2−1)、(2−2)を参照)。
動力(kW)=√3×0.44×排蒸気ファン電流値(A)×0.8・・・(2−1)
風量F(m
3/min)=16.7×動力(kW)−150.5・・・(2−2)
【0053】
上記式(2)のT(℃)は、温度補正値であり、乾燥系統内を循環する乾燥用ガス(高温に昇温された空気)の温度に基づいて決定される。また、上記式(2)の「273」はT(℃)を絶対温度に変換するためのもの、「60」は単位時間であり、「1000」は「kNm
3/h」の単位換算するためのである(下記式(3)、(4)も同様)。
【0054】
<<水蒸気量算出手段>>
水蒸気量算出手段212は、汚泥乾燥設備1の乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)を算出する。上述のとおり、乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)は、乾燥系統内に供給される水分量に依存する。本実施形態の汚泥乾燥設備1においては、有機系含水廃棄物に含まれる水分に由来する水蒸気量β
1(kNm
3/h)と、散水装置18、19の散水に由来する水蒸気量β
2(kNm
3/h)とがある。したがって、本実施形態の水蒸気量算出手段212には、乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)の算出するにあたり、以下の2通りの方法を選択することが可能である。
【0055】
乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)が、有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)のみを考慮すればよい場合、水蒸気量算出手段212は、有機系含水廃棄物の投入量A(t/h)と、有機系含水廃棄物の含水率X(%)と、有機性粉体の含水率Y(%)とに基づいて、水蒸気量β
1(kNm
3/h)を下記式(3)から算出する。
β
1=[A×{(X−Y)/100}]×22.4/18・・・(3)
【0056】
上記式(3)の演算を実行するに際し、水蒸気量算出手段212は、汚泥乾燥設備1の受入れホッパ10から有機系含水廃棄物の投入量A(t/h)に関する情報を取得する。有機系含水廃棄物の含水率X(%)の値、及び有機性粉体の含水率Y(%)の値は、予め酸素濃度制御システム210のプログラムに入力される。上記式(3)の「22.4」は気体の体積にモル換算するためのもの、「18」は水の分子量である(下記式((4)も同様)。
【0057】
一方、乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)が、有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)と、乾燥系統内に設けられた散水装置18、19に由来する水蒸気量β
2(kNm
3/h)との合計である場合、水蒸気量算出手段212は、上記式(3)から水蒸気量β
1(kNm
3/h)を算出する。これに加え、水蒸気量算出手段212は、散水装置18、19による散水量W(L/min)と、含水率100(%)とに基づいて、下記式(4)から水蒸気量β
2(kNm
3/h)を算出する。
β
2={W×60/1000}×100×22.4/18・・・(4)
【0058】
上記式(4)の演算を実行するに際し、水蒸気量算出手段212は、
図3に示す散水量制御手段216から散水装置18、19の散水量W(L/min)に関する情報を取得する。
【0059】
上記式(3)のみで水蒸気量β(kNm
3/h)を算出するか、又は上記式(3)、(4)の組み合わせで水蒸気量β(kNm
3/h)を算出するかは、後述する限界酸素濃度(例えば、12.5(体積%))に基づいて決定される。すなわち、粉塵爆発は、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が、限界酸素濃度の値を超えたときに、有機性粉体が火種となって引き起こされる。上述のとおり、乾燥系統内で生成される水蒸気量β(kNm
3/h)が減少すると、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)は上昇する。
【0060】
したがって、仮に、有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)のみで、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を限界酸素濃度以下に保つことができる場合は、上記式(3)のみで水蒸気量β(kNm
3/h)を算出する構成にすればよい。一方、有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)のみで、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を限界酸素濃度以下に保つことができない場合は、散水装置18、19による散水を必須として、上記式(3)、(4)の組み合わせで水蒸気量β(kNm
3/h)を算出する構成にすればよい。
【0061】
<<酸素濃度算出手段>>
酸素濃度算出手段213は、上述した系外排出風量α(kNm
3/h)、水蒸気量β(kNm
3/h)及び乾燥系統内に供給される空気中の酸素濃度γ=21(%)に基づいて、下記式(1)から乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を算出する。
C={(α−β)/α}×21・・・(1)
【0062】
<<酸素濃度監視手段>>
酸素濃度監視手段214には、上記式(1)によって算出される乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)の閾値として、上述した限界酸素濃度(例えば、12.5(体積%))の値が設定されている。酸素濃度監視手段214は、常時、酸素濃度算出手段213から上記式(1)の算出結果を取得し、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が限界酸素濃度の値以上か否かを監視する。例えば、酸素濃度監視手段214は、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が所定時間(例えば、数秒)の間、継続して限界酸素濃度の値以上となった場合に、検知信号を出力する。
【0063】
<<報知手段>>
報知手段215は、液晶ディスプレイなどの画像表示装置202、及びスピーカなどの音声出力装置203に接続されている。報知手段215は、酸素濃度監視手段214の検知信号に基づいて、画像表示装置202及び音声出力装置203に、表示及び音による報知を実行させる。
【0064】
<<散水量制御手段>>
散水量制御手段216は、散水装置18、19に接続されている。散水量制御手段216は、上述した限界酸素濃度(例えば、12.5(体積%))の値が設定されている。散水量制御手段216は、酸素濃度監視手段214の検知信号に基づいて、散水装置18、19を駆動させ、酸素濃度C(体積%)が限界酸素濃度以下となるように、散水装置18、19による散水量W(L/min)を制御する。
【0065】
また、散水量制御手段216は、有機系含水廃棄物の投入量A(t/h)が少なく、有機系含水廃棄物由来の水蒸気量β
1(kNm
3/h)のみで、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を限界酸素濃度以下に保つことができない場合がある。このような場合、散水量制御手段216は、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が限界酸素濃度の値以下となるように、散水装置18、19による散水量W(L/min)を制御する。
【0066】
<<限界酸素濃度>>
ここで、上述した限界酸素濃度について説明する。下記の試料、試験条件、試験方法で限界酸素濃度測定を行った。この限界酸素濃度測定では、限界酸素濃度と推定される濃度付近で種々濃度を変えて測定を行い、3回中1回も爆発しなくなるときの酸素濃度を、本実施形態における「限界酸素濃度」とした。この限界酸素濃度測定により得られた限界酸素濃度の値は、12.5(体積%)である。
【0067】
[試料]
・原料タンク(
図2の符号17を参照)から採取した乾燥汚泥
・乾燥汚泥の粒径:63μmアンダー(篩下)
【0068】
[試験条件]
・試験装置の名称
密閉型吹上げ式粉塵爆発試験装置(蕪木化学器械工業株式会社製)
・圧力センサー
歪ゲージ式圧力センサー
・測定室の温度、湿度
温度:23℃、湿度:52%
・爆発円筒の容積
1.84L
・圧縮空気吹出し圧力
2.0×10
5Pa(G)
・放電開始時間
0.15秒
【0069】
[試験方法]
試料を天秤で秤量して試料容器に均一に仕込み、一旦系内を真空排気する。次に、予め空気、窒素で所定の酸素濃度に調整した混合ガスを、爆発円筒に大気圧まで充填し、吹出しタンクに所定の圧力まで仕込む。そして、混合ガスを吹込んで粉塵雲を形成し、電気火花で着火する。爆発の有無は、爆発円筒上部に取り付けてある圧力センサーで爆発圧力を検知し、次の○、△、×の基準によって判定する。
○ 爆発:爆発圧力>0.5×10
5Pa
△ 爆発:0.1×10
5Pa≦爆発圧力≦0.5×10
5Pa
× 不爆:上昇圧力<0.1×10
5Pa
【0070】
[試験結果]
試験結果を
図4〜
図7に示す。なお、
図4〜
図6中の「最大圧力上昇速度」は、圧力波形から10msec間での最大勾配により求める。
【0071】
本実施形態の限界酸素濃度12.5(体積%)は、
図3に示す酸素濃度制御システム210のプログラムに入力される。酸素濃度監視手段214は、酸素濃度算出手段213によって算出された乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を逐次取得し、限界酸素濃度12.5(体積%)と比較する。酸素濃度監視手段214は、乾燥系統内の酸素濃度Cが12.5(体積%)以上であると判別した場合に、所定時間(例えば、数秒)を計測する。その後、酸素濃度監視手段214は、所定時間の経過後も、乾燥系統内の酸素濃度Cが12.5(体積%)以上であると判別した場合に、検知信号を出力する。この検知信号に基づいて、報知手段215による報知が実行され、また、散水制御手段216による散水が実行される。
【0072】
なお、本実施形態では、上記式(1)によって算出される乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)の閾値として、限界酸素濃度の12.5(体積%)と同じ値を設定しているが、これに限定されるものではない。本願発明における閾値は、上記式(1)によって算出される乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)の上限を規定するものであり、限界酸素濃度以下の値を設定することができる。例えば、閾値として限界酸素濃度の12.5(体積%)未満の値を設定した場合は、乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)が限界酸素濃度に達するよりも前に、
図3に示す酸素濃度制御システム210による制御処理が実行され、より高い安全性を確保することが可能となる。
【0073】
<実施例>
本実施形態に係る酸素濃度制御システム210を用いたシミュレーションの結果を
図8に示す。このシミュレーションにおける有機系含水廃棄物は、汚泥廃棄物である。
図8の縦欄の数値は、受入れホッパ10への汚泥投入量(t/h)である。本実施例の汚泥廃棄物の含水率Xは80(%)に設定した。この汚泥廃棄物を乾燥させて得られる有機性粉体の含水率Yは10(%)に設定した。汚泥投入量は、0.5(t/h)刻みで0.0〜7.0(t/h)の範囲で変化させた。また、
図8横欄の数値は、排蒸気ファン電流(A)であり、1(A)刻みで33〜44(A)の範囲で変化させた。
図8中の汚泥投入量(t/h)と排蒸気ファン電流(A)との関係において、上記式(1)〜(3)を用いて乾燥系統内の酸素濃度C(体積%)を算出した。
図8中の太い実線で囲った箇所は、実際の排蒸気ファンB2の運転範囲を示す。一方、
図8中の細い点線で囲った箇所は、乾燥系統内の酸素濃度Cが限界酸素濃度12.5(体積%)未満の安全域を示す。
【0074】
図8に示すシミュレーションの結果によれば、汚泥廃棄物の含水率80(%)、有機性粉体の含水率10(%)の場合、汚泥廃棄物の単位時間あたりの投入量は、4.5(t/h)以上とすることが好ましい。4.5(t/h)以上の場合は、排蒸気ファンB2の電流値33〜44(A)の全範囲において、乾燥系統内の酸素濃度Cが限界酸素濃度12.5(体積%)未満となり、粉塵爆発の確実な防止を図ることができる。このため、汚泥廃棄物の単位時間あたりの投入量を4.5(t/h)以上とする場合には、
図2に示す汚泥乾燥設備1から散水装置18、19を省略するとともに、
図3に示す散水制御手段216による制御を省略することが可能である。
【0075】
一方、
図8に示すシミュレーションの結果によれば、汚泥廃棄物の含水率80(%)、有機性粉体の含水率10(%)の場合、汚泥廃棄物の単位時間あたりの投入量を4.5(t/h)未満にすると、乾燥系統内の酸素濃度Cが限界酸素濃度12.5(体積%)を超えてしまい、粉塵爆発の起こる危険性がある。そこで、汚泥廃棄物の単位時間あたりの投入量を4.5(t/h)未満にする場合は、
図3に示す散水制御手段216によって、散水装置18、19を制御し、乾燥系統内の酸素濃度Cが、常に、限界酸素濃度12.5(体積%)以下となる量の水を散水させればよい。汚泥廃棄物の単位時間あたりの投入量が0.0〜4.0(t/h)のときに散水を行った場合のシミュレーション結果を、
図9に示す。
図9に示すシミュレーションの結果によれば、実際の排蒸気ファンB2の運転範囲内において、乾燥系統内の酸素濃度Cが限界酸素濃度12.5(体積%)未満となり、粉塵爆発の確実な防止を図ることができる。