特許第6471601号(P6471601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000002
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000003
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000004
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000005
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000006
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000007
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000008
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000009
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000010
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000011
  • 特許6471601-ドアチェック装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471601
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】ドアチェック装置
(51)【国際特許分類】
   E05C 17/22 20060101AFI20190207BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   E05C17/22 A
   B60J5/04 K
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-91772(P2015-91772)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-205094(P2016-205094A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155767
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 憲志
(72)【発明者】
【氏名】崎元 克紀
【審査官】 藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−069064(JP,A)
【文献】 特開2009−030295(JP,A)
【文献】 米国特許第09677639(US,B2)
【文献】 独国特許発明第102005005891(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05C 1/00 − 21/02
E05F 1/00 − 13/04 ,17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドア内に設けられ、流体が充填された流体封入空間が内部に形成されたシリンダ部材と、
前記流体封入空間内に移動可能に配設され、前記流体封入空間を第一空間と第二空間とに区画するピストン部材と、
一方端が車体に揺動可能に取り付けられ、前記第一空間内に進入するとともに他方端が前記ピストン部材に連結され、前記ピストン部材の移動に伴い軸方向移動するロッド部材と、
前記ピストン部材内に設けられ、前記第一空間と前記第二空間とを連通する第一連通路と、前記第一連通路に介装され、前記第一空間の圧力P1と前記第二空間の圧力P2との差圧(P1−P2)が所定の開弁圧を上回ったときに開弁して前記第一空間から前記第二空間への前記第一連通路内の流体の流通を許可する第一弁部材と、前記第一連通路のうち前記第一弁部材が介装されている部分よりも前記第二空間に近い部分に介装され、前記第一連通路内を経由する前記第二空間から前記第一空間への流体の流通を遮断する第一逆止弁と、を有する第一バルブユニットと、
前記ピストン部材内に設けられ、前記第二空間と前記第一空間とを連通する第二連通路と、前記第二連通路に介装され、前記第二空間の圧力P2と前記第一空間の圧力P1との差圧(P2−P1)が所定の開弁圧を上回ったときに開弁して前記第二空間から前記第一空間への前記第二連通路内の流体の流通を許可する第二弁部材と、前記第二連通路のうち前記第二弁部材が介装されている部分よりも前記第一空間に近い部分に介装され、前記第二連通路内を経由する前記第一空間から前記第二空間への流体の流通を遮断する第二逆止弁と、を有する第二バルブユニットと、を備え、
前記ピストン部材内には、前記第一連通路のうち前記第一弁部材が介装されている部分と前記第一逆止弁が介装されている部分との間の部分、及び、前記第二連通路のうち前記第二弁部材が介装されている部分と前記第二逆止弁が介装されている部分との間の部分、に、それぞれ連通するピストン内空間が形成され、
前記ピストン内空間内には、前記ピストン内空間内を移動可能であり、且つ、前記ピストン内空間を、前記第一連通路及び前記第二連通路に連通する体積補償空間と、前記第一連通路及び前記第二連通路に連通しない圧力発生空間とに区画する、体積補償用ピストン部材と、前記圧力発生空間内に設けられ、前記体積補償用ピストンを介して弾性力に基づく圧力を前記体積補償空間に印加する圧力発生部材と、を有する体積補償部材が配設され、
前記流体封入空間内における前記ピストン部材の移動方向に垂直な面内における前記流体封入空間の断面形状が、所定の長さの短径と前記短径に直交し且つ前記短径よりも長い長径を有し、且つ、前記短径を直径とする円の断面積よりも大きい断面積を持つ形状に形成されている、ドアチェック装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドアチェック装置において、
前記流体封入空間の前記断面形状が、前記短径及び前記長径を有する楕円形状、又は、小判型形状である、ドアチェック装置。
【請求項3】
請求項2に記載のドアチェック装置において、
前記ピストン部材の移動方向に垂直な面内における前記ピストン部材の断面形状が、楕円形状、又は小判型形状であり、
前記第一バルブユニットと、前記体積補償部材と、前記第二バルブユニットが、前記ピストン部材の長径方向に沿って配設されている、ドアチェック装置。
【請求項4】
請求項3に記載のドアチェック装置において、
前記体積補償部材が、前記第一バルブユニットと前記第二バルブユニットとの間に配設されている、ドアチェック装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のドアチェック装置において、
前記流体封入空間の前記断面形状における前記長径方向が、前記ピストン部材の移動方向及び車両ドアの幅方向に直交する上下方向を主成分とする方向である、ドアチェック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアチェック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドアチェック装置は、ドアの開閉動作に対する抵抗力(以下、この力を保持力と呼ぶ)を発生するように構成される。保持力よりも強い操作力(以下、この力を開閉操作力と呼ぶ)をドアに入力することによりドアが開閉する。ドアチェック装置は例えば車両に搭載される。この場合、ドアチェック装置は、乗員の乗降りのための開口を有する車体と、その開口を開閉可能なように車体に取り付けられる車両ドアとの間に設けられる。車両にドアチェック装置を搭載することによって、例えば坂道にて車両ドアを所定の開度で開放している時に車両ドアが意に反して閉じてしまったり、或いは風などに煽られて車両ドアが所望の開度からさらに大きく開いてしまう等の、車両ドアの意に反する開閉動作が防止できる。
【0003】
一般的なドアチェック装置は、車両ドアが所定の開度で開いているときに大きな保持力を発生するように構成され、それ以外の開度で開いているときに発生する保持力は小さい。例えば車両ドアの開度が30°および60°であるときに大きな保持力が発生するようにドアチェック装置が構成される。しかし、乗員の体格、車両の周囲環境(例えば隣接する車両との間の距離)により、大きな保持力を発生させるべき最適な開度は異なる。そこで、ユーザが車両ドアの開閉動作を停止した任意の開度位置で大きな保持力を発生させることができるドアチェック装置が求められる。
【0004】
特許文献1は、ドアチェック装置に利用可能なピストンシリンダ装置を開示する。このピストンシリンダ装置は、シリンダ部材と、ロッド部材と、ピストン部材と、バルブ部材とを備える。シリンダ部材の内部には流体封入空間が形成され、この流体封入空間にオイル等の粘性流体が封入される。ピストン部材は流体封入空間内に配設され、流体封入空間を第一空間と第二空間とに液密的に区画する。また、ピストン部材の内部に第一空間と第二空間とを連通する通路が形成される。ロッド部材は、外部から流体封入空間内に進入可能に構成されるとともに、流体封入空間内にてピストン部材に連結される。バルブ部材はピストン部材に形成された通路の途中に配設され、ピストン部材により隔てられている第一空間と第二空間の圧力差が所定の開弁圧を上回ったときに開弁するよう構成される。
【0005】
特許文献1に記載のピストンシリンダ装置をドアチェック装置として利用する場合、ロッド部材に車体(ドアが取り付けられる本体)が接続され、シリンダ部材にドアが接続される。ドアの開閉動作が停止しているときには、バルブ部材の開弁圧が保持力としてドアに作用する。ドアを開閉させると、その開閉操作力がピストン部材に作用して、流体封入空間の第一空間と第二空間との圧力差が大きくされる。この圧力差がバルブ部材の開弁圧を上回ったときにバルブ部材が開く。これによりピストン部材に形成された通路を通って流体が流れる。通路内を流体が流れることにより、ドアの開閉動作が継続される。また、ドアの開閉動作を任意の開度位置にて停止させると、バルブ部材が閉弁する。これによりドアの開閉動作を停止させた任意の開度位置にて、大きな保持力が発生する。
【0006】
特許文献2も、ドアチェック装置に利用可能なピストンシリンダ装置を開示する。このピストンシリンダ装置も、内部に流体封入空間が形成されたシリンダ部材と、流体封入空間内に配設されたピストン部材と、外部から流体封入空間内に進入するとともに流体封入空間内にてピストン部材に連結されたロッド部材とを備える。ピストン部材により流体封入空間が第一空間と第二空間とに液密的に区画される。また、このピストンシリンダ装置は、2つの弁室を備え、第一空間が一方の弁室に接続され、第二空間が他方の弁室に接続される。さらに2つの弁室間に接続空間が形成される。接続空間内には流体が充填されている。特許文献2に記載のピストンシリンダ装置は、基本的には特許文献1に記載のピストンシリンダ装置と同じように作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3670310号明細書
【特許文献2】特許5009955号明細書
【発明の概要】
【0008】
(発明が解決しようとする課題)
【0009】
特許文献1及び2に記載のドアチェック装置は、ドアの開閉動作を停止させた任意の開度位置にて大きな保持力を発生し得ることから、フリーストップドアチェック装置とも呼ばれる。フリーストップドアチェック装置は、ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置と、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置に大別される。ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ロッド部材がシリンダ部材(流体封入空間)を貫通するように構成される。ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ロッド部材がシリンダ部材(流体封入空間)を貫通しないように、すなわちロッド部材の先端が流体封入空間内に配設されるように、構成される。ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置として、例えば上記特許文献1に記載の装置が好適に示される。ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置として、例えば上記特許文献2に記載の装置が好適に示される。
【0010】
ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置によれば、ドアの開閉動作に伴ってロッド部材が動作した場合、ロッド部材の一方側が流体封入空間から引き出されとともに、引き出された分だけロッド部材の他方側が流体封入空間に押し込まれる。このため、ロッド部材が流体封入空間内を移動した場合であっても流体封入空間の空間容積は変動しない。よって、流体封入空間の空間容積の変動を補償するための体積補償構造は必要なく、それ故に、フリーストップドアチェック装置を簡便に構成することができる。しかしながら、ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ロッド部材がシリンダ部材(流体封入空間)を貫通するように構成されるため、ロッド部材の全長が長くなり、それ故に装置がロッド軸長方向に大型化する。よって、ドア内部でロッド部材の先端(シリンダ部材を貫通した先の部分)が他の部品(例えばウィンドウレギュレータ装置)と干渉する虞があり、また、これを回避するために他の部品の設計寸法が制限される。
【0011】
一方、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置によれば、ロッド部材が流体封入空間を貫通しないため、ドアチェック装置の全長を短くすることができる。よって、ドアチェック装置をコンパクトに構成できる。しかし、ロッド部材が流体封入空間から引き出され、或いは流体封入空間に押し込まれる際に、引き出された分、或いは押し込まれた分だけ、流体封入空間の空間容積が変動する。この場合、空間容積の変動を補償するための体積補償構造が必要である。上記特許文献2によれば、流体封入空間に連通する接続空間に体積補償空間が設けられており、車両ドアの開閉操作時に体積補償空間内の容積が増減することにより、流体封入空間の空間容積の増減が相殺される。
【0012】
また、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置によれば、車両ドアの開閉操作時に、流体封入空間と体積補償空間が連通するため、体積補償空間の圧力が車両ドアの開閉操作力に影響を及ぼす。体積補償空間の圧力が高い場合、開閉操作力に対する抵抗力が増大する。このため車両ドアを開閉させ難いという問題が発生する。また、体積補償空間の圧力は、車両ドアを開動作させる場合に低下し、車両ドアを閉動作させる場合に増加する。よって、車両ドアを閉じるときにおける開閉操作力に対する抵抗力は大きく、車両ドアを開くときにおける開閉操作力に対する抵抗力は小さい。このように車両ドアを開くか閉じるかにより(すなわち車両ドアの開閉方向の違いにより)、開閉操作力に対する抵抗力の大きさが変動するため、ユーザに不快感を与える虞がある。
【0013】
本発明は、ロッド非貫通タイプであって、且つ、開閉操作力に対する抵抗力の変動量が小さくされたドアチェック装置を提供することを目的とする。
【0014】
(課題を解決するための手段)
本発明は、車両(V)のドア(DR)内に設けられ、流体が充填された流体封入空間(S)が内部に形成されたシリンダ部材(2)と、流体封入空間内に移動可能に配設され、流体封入空間を第一空間(S1)と第二空間(S2)とに区画するピストン部材(4)と、一方端(31)が車体(B)に揺動可能に取り付けられ、第一空間内に進入するとともに他方端(32)がピストン部材に連結され、ピストン部材の移動に伴い軸方向移動するロッド部材(3)と、ピストン部材内に設けられ、第一空間と第二空間とを連通する第一連通路(51)と、第一連通路に介装され、第一空間の圧力P1と第二空間の圧力P2との差圧(P1−P2)が所定の開弁圧を上回ったときに開弁して第一空間から第二空間への第一連通路内の流体の流通を許可する第一弁部材(52)と、第一連通路のうち第一弁部材が介装されている部分よりも第二空間に近い部分に介装され、第一連通路内を経由する第二空間から第一空間への流体の流通を遮断する第一逆止弁(53)と、を有する第一バルブユニット(5)と、ピストン部材内に設けられ、第二空間と第一空間とを連通する第二連通路(61)と、第二連通路に介装され、第二空間の圧力P2と第一空間の圧力P1との差圧(P2−P1)が所定の開弁圧を上回ったときに開弁して第二空間から第一空間への第二連通路内の流体の流通を許可する第二弁部材(62)と、第二連通路のうち第二弁部材が介装されている部分よりも第一空間に近い部分に介装され、第二連通路内を経由する第一空間から第二空間への流体の流通を遮断する第二逆止弁(63)と、を有する第二バルブユニット(6)と、を備え、ピストン部材内には、第一連通路のうち第一弁部材が介装されている部分と第一逆止弁が介装されている部分との間の部分、及び、第二連通路のうち第二弁部材が介装されている部分と第二逆止弁が介装されている部分との間の部分、に、それぞれ連通するピストン内空間(71)が形成され、ピストン内空間内には、ピストン内空間内を移動可能であり、且つ、ピストン内空間を、第一連通路及び第二連通路に連通する体積補償空間(71a)と、第一連通路及び第二連通路に連通しない圧力発生空間(71b)とに区画する、体積補償用ピストン部材(72)と、圧力発生空間内に設けられ、体積補償用ピストンを介して弾性力に基づく圧力を体積補償空間に印加する圧力発生部材(73)と、を有する体積補償部材(7)が配設され、流体封入空間内におけるピストン部材の移動方向に垂直な面内における流体封入空間の断面形状が、所定の長さの短径(DS)と短径に直交し且つ短径よりも長い長径(DL)を有し、且つ、短径を直径とする円の断面積よりも大きい断面積を持つ形状に形成されている、ドアチェック装置(1)を提供する。この場合、流体封入空間の断面形状が、短径及び長径を有する楕円形状、又は、小判型形状であると良い。
【0015】
本発明によれば、シリンダ部材内に形成された流体封入空間内に移動可能に配設されるピストン部材の移動方向に垂直な面内における流体封入空間の断面形状が、短径及び短径よりも長い長径を有する形状、例えば楕円形状、或いは小判型形状にされる。このように流体封入空間の断面形状を形成することにより、断面円形状の流体封入空間に対し、一方向に流体封入空間の断面積を拡大することができる。流体封入空間の断面積が拡大されることによって、ピストン部材が流体封入空間からの圧力を受ける面積、すなわち受圧面積が拡大される。受圧面積が拡大されることによって、一定の保持力を得るために必要な流体封入空間の圧力を低下させることができる。
【0016】
また、体積補償空間の圧力は、流体封入空間の圧力に基づいて設定される。この場合において、流体封入空間の圧力が高い場合、高い圧力の流体封入空間の容積変動を補償することができる程度に体積補償空間の圧力を高くしなければならない。一方、流体封入空間の圧力が低い場合、低い圧力の流体封入空間の容積変動を補償することができる程度に体積補償空間の圧力を低くすることができる。本発明によれば、流体封入空間の圧力を低くすることができるため、体積補償空間の圧力も低下させることができる。
【0017】
体積補償空間の圧力が低下することにより、開閉操作力に対する抵抗力が低下するため、車両ドアが開閉しやすい。また、体積補償空間の圧力の低下により、車両ドアの開閉方向の違いによる開閉操作力に対する抵抗力の大きさの変動量も低減することができる。よって、本発明によれば、ロッド非貫通タイプであって、且つ、開閉操作力に対する抵抗力の変動量が小さくされたドアチェック装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、流体封入空間の圧力を低くすることができるため、流体封入空間内に配設されている各種部品の耐圧性をさほど考慮しなくてもよく、それ故に各種部品を小型化することができる。さらに、流体封入空間内の各種部品が小型化されることにより、より一層、ロッド部材の軸方向におけるドアチェック装置の長さを短縮することができる。加えて、本発明によれば、流体封入空間の圧力を低くすることができるため、ロッド部材とシリンダ部材との隙間からの流体封入空間内の流体の流出(油漏れ)をも効果的に防止することができる
【0019】
また、本発明において、ピストン部材の移動方向に垂直な面内におけるピストン部材の断面形状が、楕円形状、又は小判型形状であり、第一バルブユニットと、体積補償部材と、第二バルブユニットが、ピストン部材の長径方向に沿って配設されているとよい。この場合、体積補償部材が、第一バルブユニットと第二バルブユニットとの間に配設されているとよい。これによれば、ピストン部材内に、第一バルブユニット、第二バルブユニット、及び体積補償部材を、バランス良く配設することができる。
【0020】
また、本発明において、流体封入空間の断面形状における長径方向が、ピストン部材の移動方向及び車両ドアの幅方向に直交する上下方向を主成分とする方向であるのがよい。好ましくは、流体封入空間の断面形状における長径方向が、車両ドアの上下方向であるのがよい。車両ドア内には、ドアチェック装置以外にも、様々な部品が配設されている。この場合、車両ドア内のスペースのうち、ドアチェック装置の配設位置の上下のスペースは比較的空いている。よって、流体封入空間の長径方向が上下方向に沿うようにドアチェック装置を配設することによって、車両ドア内の空いたスペースを有効利用することができるとともに、車両ドア内の他の部品とドアチェック装置との干渉を効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係るピストンシリンダ装置が搭載される車両の概略図である。
図2図1のA部詳細図である。
図3】本実施形態に係るドアチェック装置を、ロッド部材の軸方向及び上下方向に平行な面で切断した概略断面図である。
図4図3のIV−IV線でドアチェック装置を切断した場合における切断部端面図である。
図5図3のV−V線でドアチェック装置を切断した場合における切断部端面図である。
図6図3に示すピストン部材の拡大断面図である。
図7】第一弁部材が開いた状態におけるドアチェック装置の概略断面図である。
図8】ピストン部材がシリンダ部材に対してロッド前方に移動した状態を示す、ドアチェック装置の概略断面図である。
図9】第二弁部材が開いた状態における、ドアチェック装置の概略断面図である。
図10】ピストン部材がシリンダ部材に対してロッド後方に移動した状態を示す、ドアチェック装置の概略断面図である。
図11】シリンダ部材の流体封入空間の断面形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係るドアチェック装置が搭載される車両の概略図である。図1に示す車両Vは、車体Bおよび車両ドアDRを備える。車体Bの側方部に乗降用の開口OPが形成される。開口OPの車両前方の縁部(前縁部)FEに一対のドアヒンジH,Hが上下方向に沿って取り付けられる。一対のドアヒンジH,Hを介して車両ドアDRが車体Bに揺動可能に連結される。従って、車両ドアDRは車体Bに形成された開口OPを開閉可能に車体Bに取り付けられる。
【0023】
図2図1のA部を詳細に示す図である。図2に示すように、一対のドアヒンジH,Hはそれぞれ同軸のヒンジ軸H1、H1を備える。車両ドアDRの開閉時に車両ドアDRはヒンジ軸H1,H1を中心として車体Bに対して揺動する。また、前縁部FEにブラケットBRがボルト等の締結手段により固定される。このブラケットBRにピンPを介して、本実施形態に係るドアチェック装置の構成要素であるロッド部材3の一方端31が、上下方向に沿った軸周りに揺動可能に連結される。一方端31が車体Bに揺動可能に連結されたロッド部材3は、車両ドアDRの全閉時に車体Bの前縁部FEに対面する部分である車両ドアDRの前端部DEに形成された孔Yを経由して、車両ドアDR内に延出される。車両ドアDRの閉動作に伴い、ロッド部材3は孔Yを経由して車両ドアDR内に進入する。一方、車両ドアDRの開動作に伴い、ロッド部材3は孔Yを経由して車両ドアDR内から退出する。
【0024】
図3は、本実施形態に係るドアチェック装置1を、ロッド部材3の軸方向及び上下方向に平行な面で切断した概略断面図である。図3に示すように、ドアチェック装置1は、シリンダ部材2と、ロッド部材3と、ピストン部材4と、第一バルブユニット5と、第二バルブユニット6と、体積補償部材7とを備える。なお、図3において、ロッド部材3の軸方向(左右方向)をロッド長手方向と呼び、ロッド長手方向のうち左方(一方端31側に向かう方向)をロッド前方、右方をロッド後方と呼ぶ。
【0025】
シリンダ部材2は、ロッド長手方向に沿った方向に延設される。このシリンダ部材2の内部には、オイル等の粘性流体が封入された流体封入空間Sが形成されている。流体封入空間Sは、対向する一対の端面及び両端面の周縁を接続する側周面を持ち、両端面がロッド軸方向に沿って対面するように、形成される。
【0026】
また、シリンダ部材2の外表面の上面及び下面に回転軸ピン91,91が上下方向に沿って同軸的に取り付けられる。それぞれの回転軸ピン91,91はアーム92,92に回転可能に連結される。アーム92,92は、上下方向に垂直な方向に沿って互いに平行に延びており、その先端部分(図3において左端部分)にてボルト等の締結部材によって車両ドアDRに固定される。このため、シリンダ部材2は、回転軸ピン91,91を中心として、上下方向に垂直な平面内で揺動可能に車両ドアDRの内部に取り付けられる。
【0027】
シリンダ部材2の流体封入空間S内に、ピストン部材4が配設される。図3に示すように、ピストン部材4は、第一表面41及びその反対側の第二表面42と、第一表面41の周縁と第二表面42の周縁とを接続する側周面43とを有する。側周面43には、周方向に沿ってリング溝43aが形成されており、リング溝43a内にOリング44が配設されている。Oリング44は、流体封入空間Sの側周面を形成するシリンダ部材2の内周壁面21に当接している。このピストン部材4によって、流体封入空間Sが、ピストン部材4の第一表面41に面する第一空間S1と、ピストン部材4の第二表面42に面する第二空間S2とに区画される。また、ピストン部材4は、第一空間S1と第二空間S2とをそれぞれ液密的に区画した状態で、ロッド長手方向に移動可能に流体封入空間S内に配設される。ピストン部材4がロッド長手方向に沿って移動すると、第一空間S1の容積及び第二空間S2の容積が変動する。
【0028】
また、第一空間S1を構成するシリンダ部材2の壁面のうち、ピストン部材4の第一表面41に対面する壁部である前壁部22にロッド挿通孔23が形成されている。このロッド挿通孔23を経由して、一方端31が車体Bに揺動可能に連結されたロッド部材3がシリンダ部材2内の第一空間S1内に進入している。第一空間S1に進入したロッド部材3の他方端32は、ピストン部材4の第一表面41に接続している。このため、流体封入空間S内でピストン部材4が移動した場合、その移動に伴って、ロッド部材3が軸方向移動する。なお、ロッド挿通孔23にはシールリング24が配設されており、このシールリング24によって、ロッド部材3とロッド挿通孔23との隙間がシールされる。また、図3からわかるようにロッド部材3は、第一空間S1内のみに配設されており、流体封入空間Sを貫通していない。つまり、本実施形態に係るドアチェック装置1は、ロッド非貫通タイプである。
【0029】
図4は、図3のIV−IV線でドアチェック装置1を切断した場合における切断部端面図である。図4により、流体封入空間S内でのピストン部材4の移動方向(すなわちロッド長手方向)に垂直な平面で切断したシリンダ部材2及びその内部の流体封入空間Sの断面が表される。以下、ピストン部材4の移動方向に垂直な平面で切断した断面を、単に断面と呼ぶ。図4に示すように、シリンダ部材2の断面の外径形状は、小判型の外径形状である。また、シリンダ部材2の内部に形成されている流体封入空間Sの断面形状は、小判型形状である。ここで、小判型形状とは、角丸長方形状を意味し、図4においては、対向する一対の直線部と、一対の直線部の一方の端部どうし及び他方の端部どうしをそれぞれ接続する一対の円弧部とにより囲まれる形状である。この場合、円弧部の一部が直線状であっても、その形状は、小判型形状と称するものとする。
【0030】
小判型の断面形状の流体封入空間Sは、図4に示すように、所定の長さの短径DSと、短径DSに直交し且つ短径DSよりも長い長径DLを有する。また、流体封入空間Sの断面形状は、その断面積が、短径DSを直径とする円の面積(図4に破線で示した円の面積)よりも広い面積を有するような形状に形成される。なお、上述したようにシリンダ部材2の断面の外径形状は小判型形状であるが、回転軸ピン91,91が取り付けられる部分は平面状に加工されていてもよい。さらに、シリンダ部材2の断面の外径形状は、長方形であってもよい。
【0031】
また、図4に示すように、流体封入空間Sの短径方向は、車両ドアDRの幅方向(車両ドアのインナパネルからアウタパネルに向かう方向)、すなわちドア幅方向に一致し、長径方向が上下方向に一致する。つまり、流体封入空間Sは、上下方向に拡大されるように、形成される。
【0032】
図5は、図3のV−V線でドアチェック装置1を切断した場合における切断部端面図である。図5により、シリンダ部材2、及び、ピストン部材4の断面が表される。図5からわかるように、ピストン部材4の断面形状は、流体封入空間Sの断面形状と同じ小判型形状である。また、ピストン部材4は、その断面形状における短径方向が流体封入空間Sの断面形状における短径方向に一致し、その断面形状における長径方向が流体封入空間Sの断面形状における長径方向に一致するように、流体封入空間S内に配設される。また、ピストン部材4の側周面43が、流体封入空間S内にてシリンダ部材2の内周壁面21に対面するように、ピストン部材4が流体封入空間S内に配置される。
【0033】
図6は、図3に示すピストン部材4の拡大断面図である。図6に示すように、ピストン部材4内には、第一連通路51、第二連通路61、及び、ピストン内空間71が形成される。第一連通路51は、ピストン部材4によって仕切られている流体封入空間Sの第一空間S1と第二空間S2とを連通するように形成される。同様に、第二連通路61も、ピストン部材4によって仕切られている流体封入空間Sの第二空間S2と第一空間S1とを連通するように形成される。
【0034】
第一連通路51の途中に、第一弁部材52及び第一逆止弁53が介装される。第一弁部材52は、本実施形態においては、球体521およびバネ522を備える。バネ522は、球体521の図6において右側(第二空間S2に近い側)に配設されており、バネ522の弾性力(伸長力)が球体521に作用して球体521が図6の左方(第一空間S1側)に移動するように構成されている。バネ522の弾性力が球体521に作用して球体521が第一連通路51のテーパ壁面51aに係合した場合、球体521によって第一連通路51が塞がれることにより、第一連通路51が遮断される。このときのバネ522の弾性力は、第一空間S1の圧力P1と第二空間S2の圧力P2との差圧(P1−P2)に対する抵抗力として、流体封入空間S内の流体に作用する。従って、差圧(P1−P2)により第一弁部材52(球体522)に作用する力がバネ522の弾性力よりも小さい場合は第一弁部材52は開弁しない。一方、差圧(P1−P2)により第一弁部材52(球体522)に作用する力がバネ522の弾性力を上回った場合、第一弁部材52が開弁する。第一弁部材52が開弁すると、第一空間S1側から第二空間S2側へと流れる第一連通路51内の流体の流通が許可される。なお、第一弁部材52は、第二空間S2側から第一空間S1側への第一連通路51を経由する流体の流通を遮断する。
【0035】
第一逆止弁53は、第一連通路51のうち第一弁部材52が介装されている部分よりも第二空間S2に近い部分に介装される。第一逆止弁53は、本実施形態では、リードバルブにより構成され、第二空間S2側から第一空間S1側に向かう第一連通路51内の流体の流通を遮断し、第一空間S1側から第二空間S2側に向かう第一連通路51内の流体の流通を許可する。
【0036】
第一連通路51、第一弁部材52、及び、第一逆止弁53によって、本発明の第一バルブユニットが構成される。
【0037】
第二連通路61の途中に、第二弁部材62及び第二逆止弁63が介装される。第二弁部材62は、本実施形態においては、球体621およびバネ622を備える。バネ622は、球体621の図6において左側(第一空間S1に近い側)に配設されており、バネ622の弾性力(伸長力)が球体621に作用して球体621が図6の右方(第二空間S2側)に移動するように構成されている。バネ622の弾性力が球体621に作用して球体621が第二連通路61のテーパ壁面61aに係合した場合、球体621によって第二連通路61が塞がれることにより、第二連通路61が遮断される。このときのバネ622の弾性力は、第二空間S2の圧力P2と第一空間S1の圧力P1との差圧(P2−P1)に対する抵抗力として、流体封入空間S内の流体に作用する。従って、差圧(P2−P1)により第二弁部材62(球体621)に作用する力がバネ622の弾性力よりも小さい場合は第二弁部材62は開弁しない。一方、差圧(P2−P1)により第二弁部材62(球体621)に作用する力がバネ522の弾性力を上回った場合、第二弁部材62が開弁する。第二弁部材62が開弁すると、第二空間S2側から第一空間S1側へと流れる第二連通路61内の流体の流通が許可される。なお、第二弁部材62は、第一空間S1側から第二空間S2側への第二連通路61を経由する流体の流通を遮断する。
【0038】
第二逆止弁63は、第二連通路61のうち第二弁部材62が介装されている部分よりも第一空間S1に近い部分に介装される。第二逆止弁63は、本実施形態では、リードバルブにより構成され、第一空間S1側から第二空間S2側に向かう第二連通路61内の流体の流通を遮断し、第二空間S2側から第一空間S1側に向かう第二連通路61内の流体の流通を許可する。
【0039】
第二連通路61、第二弁部材62、及び、第二逆止弁63によって、本発明の第二バルブユニット5が構成される。
【0040】
また、ピストン部材4内に、第一流体導入通路45及び第二流体導入通路46が形成されている。第一流体導入通路45の一方の端部は、第一連通路51のうち第一弁部材52が介装されている部分と第一逆止弁53が介装されている部分との間の部分に接続している。第二流体導入通路46の一方の端部は、第二連通路61のうち第二弁部材62が介装されている部分と第二逆止弁63が介装されている部分との間の部分に接続している。そして、第一流体導入通路45の他方の端部及び第二流体導入通路46の他方の端部は、共に、ピストン部材4内に形成されているピストン内空間71に連通している。
【0041】
ピストン内空間71は、図3及び図6に示すように、ピストン部材4内の略中央部分に形成されており、その形状は、円柱形状である。このピストン内空間71内に、円柱状の体積補償用ピストン部材72が配設されている。体積補償用ピストン部材72は、その側周面がピストン内空間71の内周壁面に対面するように、ピストン内空間71内に配設されている。この体積補償用ピストン部材72により、ピストン内空間71が、体積補償空間71aと圧力発生空間71bとに区画される。体積補償空間71aは、第一流体導入通路45及び第二流体導入通路46を介して、第一連通路51及び第二連通路61に連通する。一方、圧力発生空間71bは、体積補償用ピストン部材72によって体積補償空間71aと仕切られることにより、第一連通路51及び第二連通路61には連通しない。体積補償空間71aには、流体封入空間S内の流体と同じ流体が充填される。一方、圧力発生空間71bには、体積変化が可能な圧縮性の気体(例えば空気)が充填される。なお、圧力発生空間71bが密閉されるように(すなわち体積補償空間71a内の流体が圧力発生空間71bに流入しないように)、体積補償用ピストン部材72の側周面にOリング74が設けられている。
【0042】
また、圧力発生空間71bに圧縮バネ73(圧力発生部材)が配設される。この圧縮バネ73の一方の端部が体積補償用ピストン部材72に係止され、他方の端部が圧力発生空間71bを形成する壁面に係止される。従って、体積補償用ピストン部材72には、圧縮バネ73の弾性力が作用している。このため、体積補償空間71aには、圧縮バネ73の弾性力に基づく所定の圧力が印加される。体積補償用ピストン部材72及び圧縮バネ73により、本発明の体積補償部材7が構成される。
【0043】
上記構成のドアチェック装置1において、以下にその作動を説明する。ドアチェック装置1が図3に示す状態であるとき、車両ドアDRの開閉動作は停止している。このとき、第一弁部材52により第一連通路51内の流体の流通が遮断され、且つ、第二弁部材62により第二連通路61内の流体の流通が遮断されている。
【0044】
ドアチェック装置1が図3に示す状態であるときに、車両ドアDRを開動作させるためにユーザが車両ドアDRに開動作方向への力(開閉操作力)を加えると、その開閉操作力はシリンダ部材2内のピストン部材4に伝えられる。ピストン部材4は、開動作方向への開閉操作力によって、シリンダ部材2に対して図3の左方(ロッド前方)に相対移動しようとする。
【0045】
ピストン部材4に開動作方向への開閉操作力が作用した場合、その開閉操作力によって、シリンダ部材2内の流体封入空間Sの第一空間S1の圧力P1が上昇するとともに、第二空間S2の圧力P2が低下する。第一空間S1の圧力P1と第二空間S2の圧力P2との差圧(P1−P2)は、第一バルブユニット5の第一弁部材52に作用する。上記差圧(P1−P2)が、第一弁部材52の開弁圧(バネ522の弾性力に基づく圧力)を上回らない限り、第一弁部材52は開弁せず、車両ドアDRは開動作しない。すなわち、第一弁部材52の開弁圧が、車両ドアDRを開動作させる際における保持力として、車両ドアDRに作用する。
【0046】
上記差圧(P1−P2)が第一弁部材52の開弁圧(保持力)を上回った場合、第一弁部材52の球体521が第一連通路51のテーパ壁面51aから離される。これにより、第一弁部材52が開弁する。第一弁部材52が開弁すると、高圧状態の第一空間S1内の流体が第一連通路51を通って第二空間S2内に流れ込む。図7は、第一弁部材52が開いた状態におけるドアチェック装置1の概略断面図である。
【0047】
第一弁部材52が開いた場合、第一連通路51を介して流体封入空間Sの第一空間S1と第二空間S2が連通する。このような状態においてユーザが車両ドアDRを開動作させた場合、ピストン部材4が流体封入空間S内にてシリンダ部材2に対して図7の左方(ロッド前方)に相対的に移動する。このため第一空間S1の容積が減少するとともに第二空間S2の容積が増加する。また、ピストン部材4の移動に伴って、第一連通路51を経由して第一空間S1内の流体が第二空間S2内に流れ込む。このとき第一連通路51を通過する流体の流体抵抗力によって、第一弁部材52の開弁状態が維持される。図8は、ピストン部材4がシリンダ部材2に対してロッド前方に移動した状態を示す、ドアチェック装置1の概略断面図である。
【0048】
ピストン部材4が流体封入空間S内でロッド前方に移動した場合、ロッド部材3もロッド前方に軸方向移動する。ロッド部材3のロッド前方への軸方向移動により、シリンダ部材2内の流体封入空間S内からロッド部材3が引き出される。よって、引き出されたロッド部材3の体積分だけ、流体封入空間Sの空間容積が増加する。ここで、車両ドアDRが開動作しているときには、体積補償空間71aが、第一連通路51を介して流体封入空間Sに連通している。そして、車両ドアDRの開動作に伴いロッド部材3が流体封入空間Sから引き出されることによる流体封入空間Sの空間容積の増加分だけ、体積補償空間71aの容積が減少するように、体積補償用ピストン部材72がピストン内空間71内を移動する。つまり、車両ドアDRの開動作に伴ってロッド部材3が流体封入空間Sから引き出されることによる流体封入空間Sの容積増加が、体積補償空間71aの容積減少によって補われる。このようにして流体封入空間S内の空間容積の増加が体積補償空間71aの容積の減少により相殺されるため、ロッド部材3が流体封入空間S(第一空間S1)内をピストン部材4とともに軸方向移動することができる。
【0049】
車両ドアDRの開動作が任意の開度位置で停止した場合、第一連通路51内の流体の流れが停止するため、第一弁部材52に作用する流体抵抗力が消失する。このため第一弁部材52が閉弁する。これにより第一連通路51内の流体の流通が遮断されるとともに、バネ522の弾性力によって再び強い保持力が車両ドアDRに作用する。このように、本実施形態に係るドアチェック装置1は、車両ドアDRの開動作が停止した任意の位置で、大きな保持力を発生することができるフリーストップドアチェック装置を構成することができる。
【0050】
次に、車両ドアDRが閉動作する場合について説明する。ドアチェック装置1が図3に示す状態であるときに、車両ドアDRを閉動作させるためにユーザが車両ドアDRに閉動作方向への力(開閉操作力)を加えると、その開閉操作力はシリンダ部材2内のピストン部材4に伝えられる。ピストン部材4は、閉動作方向への開閉操作力によって、シリンダ部材2に対して図3の右方(ロッド後方)に相対移動しようとする。
【0051】
ピストン部材4に閉動作方向への開閉操作力が作用した場合、その開閉操作力によって、シリンダ部材2内の流体封入空間Sの第二空間S2の圧力P2が上昇するとともに、第一空間S1の圧力P1が低下する。第二空間S2の圧力P2と第一空間S1の圧力P1との差圧(P2−P1)は、第二バルブユニット6の第二弁部材62に作用する。上記差圧(P2−P1)が、第二弁部材62の開弁圧(バネ622の弾性力に基づく圧力)を上回らない限り、第二弁部材62は開弁せず、車両ドアDRは閉動作しない。すなわち、第二弁部材62の開弁圧が、車両ドアDRを閉動作させる際における保持力として、車両ドアDRに作用する。
【0052】
上記差圧(P2−P1)が第二弁部材62の開弁圧(保持力)を上回った場合、第二弁部材62の球体621が第二連通路61のテーパ壁面61aから離される。これにより、第二弁部材62が開弁する。第二弁部材62が開弁すると、高圧状態の第二空間S2内の流体が第二連通路61を通って第一空間S1内に流れ込む。図9は、第二弁部材62が開いた状態における、ドアチェック装置1の概略断面図である。
【0053】
第二弁部材62が開いた場合、第二連通路61を介して流体封入空間Sの第一空間S1と第二空間S2が連通する。このような状態においてユーザが車両ドアDRを閉動作させた場合、ピストン部材4が流体封入空間S内にてシリンダ部材2に対して図9の右方(ロッド後方)に相対的に移動する。このため第二空間S2の容積が減少するとともに第一空間S1の容積が増加する。また、ピストン部材4の移動に伴って、第二連通路61を経由して第二空間S2内の流体が第一空間S1内に流れ込む。このとき第二連通路61を通過する流体の流体抵抗力によって、第二弁部材62の開弁状態が維持される。図10は、ピストン部材4がシリンダ部材2に対してロッド後方に移動した状態を示す、ドアチェック装置1の概略断面図である。
【0054】
ピストン部材4が流体封入空間S内でロッド後方に移動した場合、ロッド部材3もロッド後方に軸方向移動する。ロッド部材3のロッド後方への軸方向移動により、シリンダ部材2内の流体封入空間S内に、ロッド部材3が押し込まれる。よって、押し込まれたロッド部材3の体積分だけ、流体封入空間Sの空間容積が減少する。ここで、車両ドアDRが閉動作しているときには、体積補償空間71aが、第二連通路61を介して流体封入空間Sに連通している。そして、車両ドアDRの閉動作に伴いロッド部材3が流体封入空間Sに押し込まれることによる流体封入空間Sの空間容積の減少分だけ、体積補償空間71aの容積が増加するように、体積補償用ピストン部材72がピストン内空間71内を移動する。つまり、車両ドアDRの閉動作に伴ってロッド部材3が流体封入空間Sに押し込まれることによる流体封入空間Sの容積減少が、体積補償空間71aの容積増加によって補なれる。このようにして流体封入空間S内の空間容積の減少が体積補償空間71aの容積の増加により相殺されるため、ロッド部材3が流体封入空間S(第一空間S1)内をピストン部材4とともに軸方向移動することができる。
【0055】
車両ドアDRの閉動作が任意の開度位置で停止した場合、第二連通路61内の流体の流れが停止するため、第二弁部材62に作用する流体抵抗力が消失する。このため第二弁部材62が閉弁する。これにより第二連通路61内の流体の流通が遮断されるとともに、バネ622の弾性力によって再び強い保持力が車両ドアDRに作用する。このように、本実施形態に係るドアチェック装置1は、車両ドアDRの閉動作が停止した任意の位置で、大きな保持力を発生することができるフリーストップドアチェック装置を構成することができる。
【0056】
本実施形態においては、上述したように、流体封入空間Sの断面形状が、短径DS及びそれに直交し且つ短径DSよりも長い長径DLを有する小判型形状(角丸長方形状)にされている。このような小判型断面形状の流体封入空間Sの断面積は、短径DSを直径とする断面円形状の流体封入空間の断面積よりも大きい。
【0057】
また、一般に、フリーストップドアチェック装置に用いられるシリンダ部材の流体封入空間の断面形状は、円形状である。また、一般に、車両ドア内の空間は、ドア幅方向において狭く、上下方向において広い。従って、流体封入空間の断面が、ドア幅方向と上下方向とに平行な平面に表される場合であって、且つ、流体封入空間の断面形状が円形状である場合、ドア幅方向における寸法の制約のために、流体封入空間の断面積を十分に大きくすることができない。この点に関し、本実施形態においては、流体封入空間の断面形状が小判型形状であり、上下方向に沿って流体封入空間の断面積が拡大されている。従って、十分に大きい断面積の流体封入空間を持つドアチェック装置を車両ドア内に配設することができる。
【0058】
また、本実施形態のように流体封入空間Sの断面積が拡大された場合、それに伴って、ピストン部材4の断面積も拡大される。本実施形態においては、ピストン部材4の断面形状も流体封入空間Sの断面形状と同じように小判型形状とされることによって、ピストン部材4の断面積が拡大されている。この場合、ピストン部材4が流体封入空間S内の流体の圧力を受ける面積(受圧面積)も拡大される。受圧面積が拡大されることによって、一定の保持力を得るために必要な流体封入空間Sの圧力を低下させることができる。
【0059】
また、体積補償空間71aの圧力は、流体封入空間Sの圧力に基づいて設定される。流体封入空間Sの圧力が高い場合、高い圧力の流体封入空間Sの容積変動を補償することができる程度に体積補償空間71aの圧力を高くしなければならない。一方、流体封入空間Sの圧力が低い場合、低い圧力の流体封入空間Sの容積変動を補償することができる程度に体積補償空間71aの圧力を低くすることができる。本実施形態によれば、上記したように流体封入空間Sの圧力を低くすることができるため、体積補償空間71aの圧力をも低くすることができる。この場合、体積補償空間71aの圧力を低くするために、圧縮バネ73の弾性係数を小さくすることができる。よって、圧縮バネ73(圧力発生部材)をコンパクトに構成することができる。
【0060】
また、車両ドアDRの開閉操作時には、体積補償空間71aが、第一連通路51又は第二連通路61を介して、流体封入空間Sに連通している。従って、体積補償空間71aの圧力は車両ドアDRの開閉操作に影響を及ぼす。特に、体積補償空間71aの圧力が高い場合、車両ドアDRの開閉操作に対する抵抗力が大きくなり、車両ドアDRを開閉し難くなるといった不具合が発生する。この点に関し、本実施形態においては、体積補償空間71aの圧力を低くすることができるため、開閉操作力に対する抵抗力を低くすることができ、それ故に、車両ドアDRを開閉させやすい。
【0061】
また、図8からわかるように、車両ドアDRを開動作させているときには、体積補償空間71aの容積が減少し、圧力発生空間71bの容積が増加する。圧力発生空間71bの容積が増加する結果、圧力発生空間71b内の圧縮バネ73が伸びる。このため、圧縮バネ73の弾性力が小さくなり、その結果、体積補償空間71aに印加される圧力が低下する。
【0062】
一方、図10からわかるように、車両ドアDRを閉動作させているときには、体積補償空間71aの容積が増加し、圧力発生空間71bの容積が減少する。圧力発生空間71bの容積が減少する結果、圧力発生空間71b内の圧縮バネ73が縮む。このため、圧縮バネ73の弾性力が大きくなり、その結果、体積補償空間71aに印加される圧力は増加する
【0063】
このように、車両ドアDRを開動作させている場合には、体積補償空間71aの圧力が低下し、車両ドアDRを閉動作させている場合には、体積補償空間71aの圧力が増加する。また、車両ドアDRの開閉動作時には体積補償空間71aの圧力が、開閉操作力に対する抵抗力として車両ドアDRに作用する。従って、車両ドアDRを開動作させている場合には、開閉操作力に対する抵抗力が小さく、車両ドアDRを閉動作させている場合には、開閉操作力に対する抵抗力が大きくなる。このような、開閉方向の違いによる抵抗力の変動量が大きい場合、ユーザに不快感を与える。
【0064】
この点に関し、本実施形態においては、体積補償空間71aの圧力を低くすることができるために、体積補償空間71aに圧力を印加するための圧縮バネ73の弾性係数を小さくすることができる。ここで、圧縮バネ73により体積補償空間71aに印加することができる圧力の大きさは、圧縮バネ73の弾性係数に比例する。よって、圧縮バネ73の弾性係数が小さくされた場合、車両ドアDRを開動作させている場合に圧縮バネ73から印加される体積補償空間71aの圧力と、車両ドアDRを閉動作させている場合に圧縮バネ73から印加される体積補償空間71aの圧力との差が小さくされる。つまり、圧縮バネ73の弾性係数を小さくすることにより、車両ドアDRの開閉方向の違いによる開閉操作力に対する抵抗力の大きさの変動量を低減することができる。よって、本実施形態によれば、ロッド非貫通タイプであって、且つ、開閉操作力に対する抵抗力の変動量が小さくされたドアチェック装置1を提供することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、流体封入空間Sの圧力を低くすることができるため、流体封入空間S内に配設されている各種部品を小型化することができる。例えば、ピストン部材4内に設けられている第一弁部材52のバネ522及び第二弁部材62のバネ622を小さくすることができる。さらに、流体封入空間S内の各種部品が小型化されることにより、より一層、ロッド部材3の軸方向におけるドアチェック装置の長さを短縮することができる。
【0066】
さらに、本実施形態によれば、流体封入空間Sの圧力を低くすることができるため、流体封入空間Sに進入しているロッド部材3とシリンダ部材2のロッド挿通孔23との隙間からの流体の流出(油漏れ)を効果的に防止することができる。
【0067】
また、車両ドア内のスペースのうち、ドアチェック装置の配設位置の上下のスペースは比較的空いている。本実施形態においては、ドアチェック装置1は、流体封入空間Sの断面形状における長径方向が、車両ドアの上下方向に一致し、短径方向が、車両ドアの幅方向に一致するように、車両ドア内に配設されている。よって、車両ドア内の空いたスペースを有効利用することができるとともに、車両ドア内の他の部品とドアチェック装置との干渉を回避することができる。
【0068】
また、本実施形態においては、ピストン部材4の断面形状が流体封入空間Sの断面形状と同じ小判型形状(角丸長方形状)であり、このような断面形状のピストン部材4の長径方向に沿って、第一バルブユニット5と、体積補償部材7と、第二バルブユニット6が、配設されている。さらに、体積補償部材7が、第一バルブユニット5と第二バルブユニット6との間に配設されている。これにより、第一バルブユニット5、第二バルブユニット6、及び体積補償部材7を、ピストン部材4内にバランス良く配設することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、図4に示すように、一対の直線部と一対の円弧部により構成される断面形状が小判型形状の流体封入空間Sを示したが、流体封入空間Sの断面形状は、例えば図11(a)に示すように楕円形状でも良いし、図11(b)に示すように、長方形の四隅を円弧状に面取りしたような形状でもよい。さらに、図11(c)に示すように、上下方向における両端部が拡大されたような断面形状であってもよい。また、上記実施形態では、第一弁部材52及び第二弁部材62として、球体およびバネを用いた例を示したが、磁石を用いて各弁部材を構成してもよい。また、上記実施形態では、体積補償空間71aに圧力を印加するための圧力発生部材として圧縮バネ73を用いた例を示したが、エアバネ等を用いてもよい。また、上記実施形態では、流体封入空間Sの断面形状における長径方向が、上下方向に一致するように、ドアチェック装置1が車両ドアDR内に配設されている例を示したが、流体封入空間の断面形状における長径方向が、上下方向を主成分とする方向である限りにおいては、多少は、長径方向が上下方向に対して傾いていてもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…ドアチェック装置、2…シリンダ部材、21…内周壁面、22…前壁面、23…ロッド挿通孔、24…シールリング、3…ロッド部材、31…一方端、32…他方端、4…ピストン部材、41…第一表面、42…第二表面、43…側周面、43a…リング溝、44…Oリング、45…第一流体導入通路、46…第二流体導入通路、5…第一バルブユニット、51…第一連通路、52…第一弁部材、53…第一逆止弁、6…第二バルブユニット、61…第二連通路、62…第二弁部材、63…第二逆止弁、7…体積補償部材、71…ピストン内空間、71a…体積補償空間、71b…圧力発生空間、72…体積補償用ピストン部材、73…圧縮バネ(圧力発生部材)、S…流体封入空間、S1…第一空間、S2…第二空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11