特許第6471612号(P6471612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6471612-丁張調整器具 図000002
  • 特許6471612-丁張調整器具 図000003
  • 特許6471612-丁張調整器具 図000004
  • 特許6471612-丁張調整器具 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471612
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】丁張調整器具
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/18 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
   E04G21/18 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-106790(P2015-106790)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-217100(P2016-217100A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】加賀 良
(72)【発明者】
【氏名】藤井 文宏
(72)【発明者】
【氏名】沖田 晃
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−038036(JP,U)
【文献】 米国特許第05778546(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14−21/22
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の基礎材を据え付ける際の丁張り作業において、水糸の位置調整を行うための丁張調整器具であって、
前記基礎材を据え付けるための掘削穴に土留擁壁として設置されるライナープレートに固定される支柱へ取り付けられ、長手方向に沿ってスリットが設けられる筒状体と、
この筒状体の両端部に跨って設けられ、前記筒状体の内部に収容されるネジ部材と、
このネジ部材と前記筒状体の少なくともいずれか一方に取り付けられる留め部材と、
前記筒状体の内部において、前記ネジ部材に取り付けられる環状部材と、
この環状部材に立設され、前記水糸が結着される棒状部材と、を備え、
前記ネジ部材は、軸体に第1のネジ部が形成されるとともに、基端及び先端のうち少なくとも一方が前記両端部のうちそれぞれ対応する端部に対し、前記留め部材を介して回動可能に固定され、
前記環状部材は、その内周面に前記第1のネジ部に螺合する第2のネジ部が形成され、
前記棒状部材は、その下端が前記環状部材の外周面に固定されるとともに、その上端が前記筒状体の外部へ突出し、前記スリットを通過して配設されることを特徴とする丁張調整器具。
【請求項2】
前記留め部材は、前記筒状体の内部において、前記基端又は前記先端に螺着され、前記ネジ部材を前記スリットに沿って移動させるように付勢する弾性体であることを特徴とする請求項1記載の丁張調整器具。
【請求項3】
前記ネジ部材は、前記筒状体の外部において、基端に摘み部が設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の丁張調整器具。
【請求項4】
前記筒状体は、前記長手方向の水平に対する傾斜を検出する水準器が設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の丁張調整器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の基礎材を据え付ける際の丁張り作業において、水糸の位置調整を行うための丁張調整器具に係り、特に、水糸の端部の位置を、水糸が丁張りされた方向と直交する方向へ、精度良くスライド移動させることのできる丁張調整器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄塔の円形用基礎材の丁張り作業は、(1)基礎材を据え付ける掘削穴の周囲の地面に、一対のコ字状のやぐらを基礎材を挟んで設置した後、(2)一対のやぐらのうち、水平に設置された横材にポイント釘を打ち、(3)一対のポイント釘に水糸の端部をそれぞれ結び付け、水糸を掘削穴の上方に張設する、という手順(1)乃至(3)によって行われている。このように張設された水糸により、(a)基礎材据付位置の確認、(b)基礎材据付後の据付位置確認、(c)鉄筋配筋後の基礎材据付位置の確認及び(d)コンクリート打設後の基礎材据付位置の確認が行われる。
また、張設された水糸の位置は、一対のポイント釘の位置によって変化することから、上記の(a)乃至(d)の確認作業の都度、一対のポイント釘の位置をトランシット等で計測している。
しかし、やぐらは地上に設置されているため、やぐらに作業員や工具が接触したり、掘削穴の周囲を重機が通過したりすると、ポイント釘が傾いて水糸の位置がずれることがある。そのため、上記の(a)乃至(d)の確認作業においてポイント釘の傾き等を発見した場合、その都度ポイント釘をやぐらから抜き差しすることで、水糸が張設された位置を調整している。
すなわち、水糸の位置調整は、同様な作業を繰り返して行う必要があるため非常に煩雑であり、その結果丁張りの作業効率が良好でないという課題があった。
そこで、このような課題を解決する目的で、近年、ポイント釘を抜き差しすることの不要な丁張調整器具に関する技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明や考案が開示されている。
【0003】
まず、特許文献1には、「コンクリート基礎における型枠ベースの設置用治具」という名称で、水糸が係止される水糸張り部材がスライドする型枠ベースの設置用治具に関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について説明する。特許文献1に開示された型枠ベースの設置用治具に関する発明は、支持脚によって高さ調節可能に支持される治具本体と、水糸を係止する係止部を備え、且つ、その水糸の張り方向と直角な方向へスライド可能に治具本体へ取り付けられる水糸張り部材と、この水糸張り部材に係止してその水糸張り部材をスライド方向にスライドさせるための連結部を下端に備え、且つ、外周の丁張に張られた水糸の位置へ合わせるための指示部を備えた位置出し部材とからなることを特徴とする。
このような特徴を有する型枠ベースの設置用治具においては、水糸張り部材へ係止した位置出し部材を、建物基準線を示す水糸に合わせるよう左右にスライドさせることで、水糸張り部材を左右方向に対して正確な位置に設定することができる。
【0004】
次に、特許文献2には、「水糸張設治具」という名称で、水糸の位置調節が容易な水糸張設治具に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、2本以上の支柱と、地面に立設された対向する支柱間に架設する横材と、横材にスライド可能であり且つ所望位置に固定可能な可動子を有し、これらが金属製であり、横材は支柱に昇降自在で且つ所望位置に固定可能に取り付けられ、可動子に水糸を係止可能な係止子を設けたことを特徴とする。
このような特徴を有する水糸張設治具においては、可動子は横材に沿ってスライド可能で且つ所望位置に固定可能であり、横方向の位置出し精度が高く、正確な位置に水糸を張ることができる。
【0005】
次に、特許文献3には、「水糸張り具」という名称で、釘を用いることなく、再使用可能な水糸張り具に関する考案が開示されている。
特許文献3に開示された考案は、杭に着脱可能に取り付けられ、水糸の一端部が取り付けられる複数の糸掛け部が形成された取付具を備え、杭にはネジ穴が形成された支持具が高さ位置を変更可能に取り付けられ、この支持具に取付具が取付角度を変更可能に取り付けられることを特徴とする。
このような特徴を有する水糸張り具においては、取付具には、その長手方向に沿って複数の丸穴または長穴が形成されているので、そのいずれの穴にボルトを通すかにより支持具に対する取付具の取付位置を変更することができる。その際、長穴の場合には、長穴に沿ってボルトを移動させることで支持具に対する取付具の位置を任意に調整することができる。
【0006】
次に、特許文献4には、「外壁の通り出し装置」という名称で、外壁の通りを正確に出すことのできる外壁の通り出し装置に関する考案が開示されている。
特許文献4に開示された考案は、柱梁接合金具の外面に設けられたねじ孔と、このねじ孔にねじ込み装着されたねじ体と、ねじ体にねじ結合され水糸係止爪を支持するナットとからなることを特徴とする。
このような特徴を有する外壁の通り出し装置においては、水糸は隣接する1対の水糸係止具の水糸係止爪の間に張られ、さらに、ナットの回動運動がねじ体に沿った直線運動に変換されるので、ナットの直線運動の調整を精度良く行うことができる。したがって、水糸の位置を容易に調整可能であり、外壁の通りを正確に出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−252937号公報
【特許文献2】特開2000−55662号公報
【特許文献3】登録実用新案第3154329号公報
【特許文献4】実願平3−82899号(実開平5−6019号)のCD−ROM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、水糸張り部材は、作業員の手によって左右方向の位置が調節された後に、ナットを締め付けてその位置が固定されるため、調節に手間がかかるとともに、左右方向の位置調節における微調整が困難である。また、治具本体が取り付けられた据付台が、地面に設置されているため、作業員がこれらにつまづく等によってナットが緩み、水糸の位置がずれるおそれがある。
【0009】
次に、特許文献2に開示された発明においては、作業員の手によって可動子が横材に沿ってスライドするため、可動子の位置の微調整が困難であり、精度良く水糸の位置を調整することができないおそれがある。
【0010】
さらに、特許文献3に開示された考案においては、地面に打ち込まれる杭に取付具が支持具を介して取り付けられるため、特許文献1に開示された発明と同様に、作業員が取付具等に接触して水糸の位置がずれるおそれがある。さらに、取付具は、ボルトを中心として回動可能であるとともに、長穴に沿って移動可能である。すなわち、二種類の操作が必要となることから、調整作業が煩雑となる可能性がある。
【0011】
そして、特許文献4に開示された考案においては、ネジ体の一方の端部がネジ孔に固定される構成であるため、ネジ体が傾斜してネジ孔にねじ込まれるおそれがあり、作業の当初より精度良く水糸を張設できない可能性がある。また、水糸係止爪に水糸を係止させた状態が長期間維持されることによって、ネジ体が屈曲するおそれもあることから、当初の位置へ水糸を安定的に保持困難な可能性がある。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、張設された水糸の位置を簡易な操作で精度良く微調整可能であり、しかも、作業員等が接触しない位置に設置可能であり、かつ張設された水糸の位置を長期間に亘って安定的に保持可能な丁張調整器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、第1の発明は、構造物の基礎材を据え付ける際の丁張り作業において、水糸の位置調整を行うための丁張調整器具であって、基礎材を据え付けるための掘削穴に土留擁壁として設置されるライナープレートに固定される支柱へ取り付けられ、長手方向に沿ってスリットが設けられる筒状体と、この筒状体の両端部に跨って設けられ、筒状体の内部に収容されるネジ部材と、このネジ部材と筒状体の少なくともいずれか一方に取り付けられる留め部材と、筒状体の内部において、ネジ部材に取り付けられる環状部材と、この環状部材に立設され、水糸が結着される棒状部材と、を備え、ネジ部材は、軸体に第1のネジ部が形成されるとともに、基端及び先端のうち少なくとも一方が両端部のうちそれぞれ対応する端部に対し、留め部材を介して回動可能に固定され、環状部材は、その内周面に第1のネジ部に螺合する第2のネジ部が形成され、棒状部材は、その下端が環状部材の外周面に固定されるとともに、その上端が筒状体の外部へ突出し、スリットを通過して配設されることを特徴とする。
【0014】
このような構成の発明において、支柱は、例えば、鉛直方向に沿って設置される一対の鋼管であって、鉄塔の掘削穴の土留擁壁として円筒形状に組み立てられたライナープレートの上縁に、ボルト等によって固定されたものである。
また、筒状体は、このような鋼管と鋼管の間に、地上から所望の高さにおいて、取り付けられる。さらに、「筒状体の両端部に跨って設けられ、筒状体の内部に収容されるネジ部材」としては、例えば、筒状体の両端部の中心部をネジ部材が貫通することでネジ部材が支持される構成が考えられる。
そして、「ネジ部材と筒状体の少なくともいずれか一方に取り付けられる留め部材」とは、留め部材が支持されている位置を記述したものであり、留め部材がネジ部材に取り付けられている場合、留め部材が筒状体に取り付けられている場合、留め部材がネジ部材と筒状体の双方に取り付けられている場合、の3通りの場合を意味する。
さらに、「ネジ部材は、基端及び先端のうち少なくとも一方が、両端部のうちそれぞれ対応する端部に対し、留め部材を介して回動可能に固定され、」には、例えば、ネジ部材の基端が筒状体の一方の端部に対し、留め部材を介して回動可能に固定されている場合、又は、ネジ部材の先端が筒状体の他方の端部に対し、留め部材を介して回動可能に固定されている場合、あるいは、ネジ部材の基端及び先端が筒状体の両端部に対し、それぞれ留め部材を介して回動可能に固定されている場合、の3通りの場合が含まれる。
【0015】
上記構成の発明においては、棒状部材は、環状部材に固定されるとともにスリットを通過して配設されるため、棒状部材はスリットに係止された状態となっている。そのため、ネジ部材が回動しても環状部材は回動することができない。一方、環状部材は内周面にネジ部材の第1のネジ部に螺合する第2のネジ部が形成されることから、環状部材は回動できない代わりにネジ部材に沿ってスライド移動する。
また、環状部材の外周面には、水糸が結着される棒状部材の下端が固定されているので、ネジ部材の回動に伴い、棒状部材と水糸がスリットに沿ってスライド移動することとなる。
さらに、留め部材が両端部又はネジ部材に取り付けられることで、ネジ部材の回動が許容されるとともに、ネジ部材の筒状体の長手方向に沿った移動が抑制される。
【0016】
次に、第2の発明は、第1の発明において、留め部材は、筒状体の内部において、基端又は先端に螺着され、ネジ部材をスリットに沿って移動させるように付勢する弾性体であることを特徴とする。
このような構成の発明において、弾性体としては、例えば、ネジ部材の基端側において、筒状体の一方の端部と第1のネジ部の一端の間に螺着される押しバネであって、ネジ部材の先端を、スリットに沿って筒状体の他方の端部に移動させるように付勢するものが考えられる。なお、この場合、弾性体の付勢の強さは、ネジ部材が回動困難な程度に、ネジ部材の先端を筒状体の他方の端部へ押し付けるものでないことが必要である。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加え、弾性体によって、ネジ部材の回動が許容されるとともに、ネジ部材の回動時におけるガタつきが抑制される。さらに、ネジ部材の静止時においても、筒状体に対してネジ部材の位置が変化しないため、水糸の位置が保持される。
【0017】
さらに、第3の発明は、第1又は第2の発明において、ネジ部材は、筒状体の外部において、基端に摘み部が設けられることを特徴とする。
このような構成の発明において、摘み部としては、例えば、基端に溶接等で固着されたナットや、基端に設けられる凹部等が考えられる。
上記構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、摘み部を把持してネジ部材を回動させるため、指がネジ部材から滑ることが防止される。
【0018】
そして、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、筒状体は、長手方向の水平に対する傾斜を検出する水準器が設けられることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1乃至第3のいずれかの発明の作用に加えて、筒状体の長手方向が水平となるように、筒状体が支柱に取り付けられる。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、ネジ部材の回動に伴い、環状部材がネジ部材に沿ってスライド移動するため、棒状部材と水糸もスリットに沿ってスライド移動することから、効率良く丁張り作業を完了させることができる。
このとき、ネジ部材の回動運動を棒状部材のスライド運動へ変換することができるので、張設された水糸の位置を精度良く微調整可能である。
さらに、筒状体が地上付近に設置されない場合には、作業員等による棒状部材や水糸への接触を防止することができる。加えて、重機の通過によって発生する振動を強く受けないため、この振動による棒状部材のずれを防止することも可能である。したがって、張設された水糸の位置を長期間に亘って安定的に保持可能である。
【0020】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、環状部材がネジ部材に沿って滑らかにスライド移動することが可能となる。
【0021】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、摘み部により、指がネジ部材から滑ることが防止されることから、ネジ部材をわずかに回動させる際の操作を正確に行うことができる。
【0022】
第4の発明によれば、第1乃至第3のいずれかの発明の効果に加えて、筒状体の長手方向が水平となるように、例えば支柱に対する筒状体の配置を予め決定できることから、筒状体を支柱へ手早く取り付けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は実施例に係る丁張調整器具を上方から視た場合の外観図であり、(b)は(a)におけるA方向矢視図である。
図2】(a)及び(b)は、それぞれ図1(a)及び図1(b)において筒状体の一部を省略した図である。
図3】実施例に係る丁張調整器具の斜視図である。
図4】実施例に係る丁張調整器具の使用状態を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
本発明の実施の形態に係る実施例の丁張調整器具について、図1乃至図4を用いて詳細に説明する。図1(a)は実施例に係る丁張調整器具を上方から視た場合の外観図であり、図1(b)は図1(a)におけるA方向矢視図である。
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施例に係る丁張調整器具1は、構造物の基礎材50(図4参照)を据え付ける際の丁張り作業において、水糸L(図3及び図4参照)の位置調整を行うための丁張調整器具である。
丁張調整器具1は、基礎材50を挟んで互いに対向して設置される支柱51,51(図4参照)へ取り付けられ、長手方向Xに沿ってスリット3が設けられる筒状体2と、この筒状体2の両端部2a,2bに跨って設けられ、筒状体2の内部2cに収容されるネジ部材4と、ネジ部材4に取り付けられる留め部材7,8(図2参照)と、筒状体2の内部2cにおいて、ネジ部材4に取り付けられる環状部材5(図2参照)と、この環状部材5に立設され、水糸Lが結着される棒状部材6と、を備える。このうち、筒状体2においては、両端部2a,2bはそれぞれネジ部材4が貫通する平板である。さらに、端部2aと端部2bの間には、長手方向Xの水平に対する傾斜を検出する水準器10が設けられる。
【0025】
次に、筒状体の内部について、図2を用いながらより詳細に説明する。図2(a)及び図2(b)は、それぞれ図1(a)及び図1(b)において筒状体の一部を省略した図である。なお、図1で示した構成要素については、図2においても同一の符号を付して、その説明を省略する。また、水準器10の図示も省略する。
図2(a)及び図2(b)に示すように、ネジ部材4は、軸体4cに第1のネジ部Sが形成されるとともに、基端4a及び先端4bが両端部2a,2bに対し、それぞれ留め部材7及び留め部材8を介して回動可能に固定される。
また、ネジ部材4は、筒状体2の外部において、基端4aに摘み部9が設けられる。摘み部9は、基端4aに溶接されるナットであって、基端4aの半径方向へ突出する2枚の羽根9aが備えられる。
なお、ネジ部材4の基端4a及び先端4bとは、それぞれ筒状体2の両端部2a,2bを挟んで一定の長さを占める範囲をいう。すなわち、基端4a及び先端4bとは、それぞれネジ部材4の両切断端面4d,4eのみを指しているのではなく、両切断端面4d,4eを含んだ軸体4cの一部分を指す概念である。
【0026】
次に、留め部材7は、筒状体2の内部2cにおいて、細径の基端4aに螺着され、ネジ部材4をスリット3に沿って端部2bの方向(X)へ移動させるように付勢するコイルバネである。また、留め部材8は、筒状体2の内部2cにおいて、先端4bに固定され、端面8aが筒状体2の端部2bに当接するナットである。すなわち、留め部材7,8は、ネジ部材4とともに回動可能である。
また、環状部材5は、その内周面5aに第1のネジ部Sに螺合する第2のネジ部Sが形成される。
そして、図2(b)に示すように、棒状部材6は、その下端6aが環状部材5の外周面5bに例えば溶接によって強固に固定されるとともに、その上端6bが筒状体2の外部へ突出し、スリット3を通過して配設される。より詳細には、棒状部材6は、外周面5bの法線方向に沿って配設される。
【0027】
続いて、本実施例に係る丁張調整器具の作用について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、実施例に係る丁張調整器具の斜視図である。なお、図1及び図2で示した構成要素については、図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。また、水準器10の図示も省略する。
図3に示すように、摘み部9の羽根9aを把持してネジ部材4を回動させると、環状部材5がネジ部材4に取り付けられた位置に留まって、ネジ部材4とともに回動しようとする。しかし、棒状部材6の下端6aが環状部材5の外周面5bに固定されており、さらに、棒状部材6はスリット3を通過して配設されるため、棒状部材6はスリット3に係止された状態となっている。そのため、ネジ部材4が回動しても環状部材5はこれとともに回動することができない。一方、環状部材5は内周面5aに第2のネジ部Sが形成されることから、環状部材5はネジ部材4とともに回動できない代わりに、ネジ部材4に沿ってスライド移動することとなる。より詳細には、ネジ部材4をα方向またはβ方向に回動させると、環状部材5がX方向またはX方向へスライド移動する。
また、環状部材5の外周面5bには、水糸Lが結着される棒状部材6が固定されているので、ネジ部材4の回動に伴い、棒状部材6と水糸Lがスリット3に沿ってスライド移動することとなる。
【0028】
さらに、丁張調整器具1においては、留め部材7によって、ネジ部材4の先端4bが筒状体2の端部2bの方向Xに移動するように付勢されるため、留め部材8の端面8aが筒状体2の端部2bに強く当接される。したがって、ネジ部材4の長手方向Xに沿った位置が変化することがなく、水糸Lの位置が保持される。さらに、ネジ部材4の回動時におけるガタつきも抑制される。
【0029】
そして、本実施例に係る丁張調整器具の使用状態について、図4を用いながら詳細に説明する。図4は、実施例に係る丁張調整器具の使用状態を示す外観図である。なお、図1乃至図3で示した構成要素については、図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。また、ネジ部材4、水準器10等の図示も省略する。
図4に示すように、支柱51は、例えば、鉛直方向に沿って設置される鋼管であって、基礎材50を据え付けるための掘削穴52の土留擁壁として円筒形状に組み立てられたライナープレート53の上縁53aに、ボルト54によって固定されたものである。なお、上縁53aは、地上Gから一定の高さに設置されている。
筒状体2は、支柱51と支柱51の間に、地上Gから所望の高さにおいて、取付部55を介して取り付けられる。このとき、筒状体2には水準器10(図1参照)が設けられるため、長手方向Xが水平となるように、支柱51に対する筒状体2の配置が予め決定される。なお、より正確な棒状部材6の位置は、トランシット等を使用して後に決定される。また、具体的には、筒状体2の地上Gからの高さは、例えば1(m)程度であり、取付部55としては、例えばクロスクランプ等が使用される。
このように設置された一対の丁張調整器具1によって張設された水糸Lの高さに、上端50aを一致させることで、基礎材50が設計通りに掘削穴52へ据え付けられる。
【0030】
以上説明したように、本実施例の丁張調整器具1によれば、ネジ部材4の回動に伴い、棒状部材6(ポイント釘に相当する部材)と水糸Lがスリット3に沿ってスライド移動するため、水糸Lの位置を容易に調整することができる。そのため、従来行われていたようなポイント釘の抜き差し等の煩雑な手順を繰り返す必要がなく、効率良く丁張り作業を完了させることができる。
このとき、ネジ部材4の回動運動を棒状部材6のスライド運動へ変換することができるため、特許文献1乃至3に開示された発明又は考案のように水糸を直接手でスライド運動させる場合と比較して、張設された水糸の位置を精度良く微調整可能である。また、この微調整は、ネジ部材を回動させるという極めて簡易な一種類の操作で行うことが可能であるので、作業者の熟練度等に依存せず、複数回に亘る水糸Lの位置の調整を均一の高い精度で行うことができる。
【0031】
さらに、ネジ部材4は、留め部材7,8によって、ネジ部材4の長手方向Xに沿った位置が変化することがないので、水糸Lの位置の調整時における再現性が良好である。また、留め部材7,8によって、ネジ部材4の回動時におけるガタつきが抑制されるため、環状部材5がネジ部材4に沿って滑らかにスライド移動することが可能となり、水糸Lがスライド移動する際の誤差を無視し得る程度に小さくすることができる。
加えて、ネジ部材4は、摘み部9により、回動の際に指がネジ部材4から滑ることが防止されることから、ネジ部材4をわずかに回動させる際の操作を正確に行うことができる。したがって、水糸Lの位置の微調整を確実に行うことができる。
【0032】
また、棒状部材6は、下端6aが環状部材5の外周面5bに強固に固定されるとともに、スリット3に係止されることから、丁張り作業の当初から完了の間、棒状部材6の屈曲を抑制することが可能である。したがって、棒状部材6が外周面5bに対しほぼ直交して配設される状態を安定的に保持することが可能である。
さらに、筒状体2は、支柱51及びライナープレート53を介し、地上G付近から離れた位置に取り付けられるので、作業員等による棒状部材6や水糸Lへの接触を防止することができるとともに、重機の通過によって発生する振動の影響を大きく軽減することが可能である。したがって、張設された水糸Lの位置を、長期間に亘って安定的に保持可能である。また、筒状体2は水準器10が設けられるため、支柱51へより正確かつ手早く取り付けることができる。
【0033】
なお、本発明の丁張調整器具1の構造は実施例に示すものに限定されない。例えば、摘み部9と留め部材7によって筒状体2の端部2aが強く挟み込まれる場合には、長手方向Xに沿ったネジ部材4の移動が抑制されるため、留め部材8は設けられなくても良い。
また、留め部材7は、筒状体2の内部2cにおいて、ネジ部材4の先端4bに螺着され、ネジ部材4をスリット3に沿って端部2aの方向(X)へ移動させるように付勢する弾性体であっても良い。この場合、留め部材8は、筒状体2の外部において、ネジ部材4の先端4bに固着されるナットであり、端面8aと反対側の端面が端部2bに当接することで、長手方向Xに沿ったネジ部材4の移動を抑制することができる。
さらに、留め部材7が筒状体2の内部2cにおいてネジ部材4の基端4aに螺着され、かつ筒状体2の内部2cに留め部材8が設置される場合であって、留め部材8の端面8aが端部2bへ固着され留め部材8がネジ部材4と供回りをせず、かつネジ部材4の先端4bが留め部材8に係止される場合には、先端4bが端部2bを貫通しなくても良いし、貫通していても良い。
また、筒状体2の端部2a,2bが開放端であっても良く、この開放端がネジ部材4を貫通可能な板状の留め部材によってそれぞれ閉鎖され、この板状の留め部材にネジ部材4の基端4aと先端4bがそれぞれ係止されることで、長手方向Xに沿ったネジ部材4の移動を抑制可能な構造であっても良い。さらに、摘み部9として、凹部が基端4aに設けられても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、構造物の基礎材を据え付ける際の丁張り作業において、水糸の位置調整を行うための丁張調整器具として利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…丁張調整器具 2…筒状体 2a,2b…端部 2c…内部 3…スリット 4…ネジ部材 4a…基端 4b…先端 4c…軸体 4d,4e…切断端面 5…環状部材 5a…内周面 5b…外周面 6…棒状部材 6a…下端 6b…上端 7,8…留め部材 8a…端面 9…摘み部 9a…羽根 10…水準器 50…基礎材 50a…上端 51…支柱 52…掘削穴 53…ライナープレート 53a…上縁 54…ボルト 55…取付部 L…水糸 S…第1のネジ部 S…第2のネジ部
図1
図2
図3
図4