(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の被推定側装置との通信に用いられる周波数帯の電波を受信するためのものであって、予め定められた複数種類の偏波面の電波を受信可能なアンテナ部(11A、11B、16A、16B、16C)と、
前記複数種類の偏波面のうち、前記アンテナ部での受信の対象とする偏波面を切り替える偏波切替部(121、171)と、
前記アンテナ部が受信した信号であって、前記偏波切替部によって受信対象に設定された偏波面の信号を解析することで、前記被推定側装置が存在している方向又は前記被推定側装置との距離に関連する情報である位置関連情報を取得する情報取得部(123、173)と、を備え、
前記アンテナ部は、前記被推定側装置との通信に用いられる周波数帯の電波を受信するための複数のアンテナ素子(111)を備え、
前記複数のアンテナ素子はアレイ状に配置されており、
前記情報取得部は、前記偏波切替部が前記アンテナ部の受信対象とする偏波面を順次切り替える毎に、その新たに受信対象として設定された偏波面での受信信号に基づいて、前記位置関連情報を取得するものであって、
前記情報取得部が取得した前記偏波面毎の前記位置関連情報を比較することで、前記情報取得部が取得した前記位置関連情報のうち、直接波に由来する情報を特定する特定部(124、174)と、
前記特定部が特定した直接波に由来する情報に基づいて、前記被推定側装置が存在する位置を推定する位置推定部(18)と、
前記偏波切替部が前記アンテナ部の受信対象とする偏波面を切り替える毎に、前記アンテナ部で受信した信号を解析することで前記アンテナ部が受信した電波の到来方向を検出するとともに、その検出した到来方向毎の受信強度を取得する、前記情報取得部としての到来方向取得部(123)と、
前記到来方向取得部が到来方向を複数取得している場合に、前記到来方向取得部が取得した複数の到来方向のうち、偏波面の切り替えに伴う受信強度の変化が最も小さい到来方向を、前記被推定側装置からの直接波が到来している方向であると特定する、前記特定部としての直接波方向特定部(124)と、を備え、
前記直接波方向特定部は、前記受信対象とする偏波面を切り替えていった結果、検出された到来方向の数が最も少なかった偏波面を受信対象とした時に検出された到来方向の中から、前記被推定側装置からの直接波が到来している方向を採用するように構成されている位置推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る位置推定システム100の概略的な構成の一例を示す図である。
図1に示すように位置推定システム100は、位置推定装置1と被推定側装置2とを備えている。
【0021】
位置推定装置1は、例えば車両等の移動体に搭載されている。なお、位置推定装置1は任意の位置(例えば道路沿い)に設置されていてもよい。また、本実施形態における被推定側装置2は、位置推定装置1が搭載された車両のユーザによって携帯される携帯端末とする。スマートフォンや、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、携帯用音楽プレーヤ、携帯用ゲーム機、車両用携帯機等の携帯端末を、被推定側装置2として採用することができる。ここでの車両用携帯機とは、車両と対応付けられてあって、車両と無線通信を実施することで車両のドアの施解錠等を制御する鍵として機能する通信装置を指す。
【0022】
なお、他の態様として被推定側装置2は、車両等の移動体に搭載されていてもよい。ただし、仮に位置推定装置1と被推定側装置2の両方を移動体に搭載された態様とする場合には、それぞれは別の移動体に搭載されているものとする。
【0023】
この位置推定装置1と被推定側装置2とは、通信範囲が例えば最大でも数十メートル程度となる所定の近距離無線通信規格に準拠した通信(近距離通信とする)を実施する。ここでの近距離無線通信規格としては、例えば、Bluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)や、Wi−Fi(登録商標)等を採用することができる。
【0024】
もちろん、位置推定装置1と被推定側装置2との通信に用いられる通信規格は、上述した例以外の通信規格に準拠した通信を実施する態様となっていてもよい。また、位置推定装置1と被推定側装置2とは、周知のキーレスエントリーシステムやスマートエントリーシステムで採用されている通信方式によって通信を行ってもよい。
【0025】
以下、被推定側装置2及び位置推定装置1の構成の一例について、より具体的に説明する。なお、便宜上、位置推定装置1が搭載された車両を以降では自車両と称する。
【0026】
<被推定側装置2の構成>
まずは、被推定側装置2について述べる。被推定側装置2は、
図1に示すように、アンテナ21と、送受信部22と、通信制御器23とを備える。
【0027】
アンテナ21は、送受信部22から入力された信号を、位置推定装置1との通信に用いられる周波数帯(例えば、2.4GHz帯)の電波に変換して空間へ放射する。また、位置推定装置1との通信に用いられる周波数帯の電波を電気信号に変換して送受信部22に出力する。なお、アンテナ21が送信する電波の偏波面は、被推定側装置2の姿勢によって変化するため不定となる。
【0028】
送受信部22は、通信制御器23から入力された信号に対して符号化、変調等の所定の処理を施してアンテナ21へ出力する。また、アンテナ21から入力された信号に対して、復調や復号などといった所定の受信処理を施して通信制御器23に提供する。
【0029】
通信制御器23は、被推定側装置2と位置推定装置1との通信において、被推定側装置2側の動作を制御する。例えば通信制御器23は、位置推定装置1に送信すべきデータに対応するベースバンド信号を生成し、送受信部22に出力する。これによって、被推定側装置2は位置推定装置1に対して所望のデータに対応する電波を送信することができる。
【0030】
なお、被推定側装置2が位置推定装置1に対して信号を送信する場合とは、例えば図示しないスイッチを介して、自車両の位置を知るためのユーザ操作を受け付けた場合とすればよい。そのような場合、被推定側装置2は、位置の推定を行うように要求する要求信号を逐次(例えば50ミリ秒毎に)送信する。要求信号は、例えば被推定側装置2に割り当てられている固有の識別番号を示す信号とすればよい。また、本実施形態においては、被推定側装置2は位置推定装置1からの信号を受信する機能を備えていなくともよい。
【0031】
<位置推定装置1の構成>
位置推定装置1は、
図1に示すように、第1アンテナ部11A、第2アンテナ部11B、第1アンテナ部11Aに接続する第1系統モジュール12A、第2アンテナ部11Bに接続する第2系統モジュール12B、位置推定部13、及び記憶部M1を備える。第1系統モジュール12Aと第2系統モジュール12Bとは、同様の構成となっており、それぞれ偏波切替部121、受信部122、到来方向取得部123、及び直接波方向特定部124を備えている。
【0032】
以降において、第1系統モジュール12Aと第2系統モジュール12Bとを区別しない場合には、系統モジュール12と記載する。また、第1系統モジュール12Aが備える部材と、第2系統モジュール12Bが備える部材とを互いに区別する必要がある場合には、それぞれの部材名の先頭に第1、第2を付与して記載する。例えば、各系統モジュール12が備える偏波切替部121をそれぞれ区別する場合には、第1系統モジュール12Aが備える偏波切替部121を第1偏波切替部121と記載し、第2系統モジュール12Bが備える偏波切替部121を第2偏波切替部121と記載する。
【0033】
第1アンテナ部11Aは、指向性アンテナの一種であり、所定の間隔をおいて線状又は面状に(すなわちアレイ状に)配置された複数のアンテナ素子111を備える。第1アンテナ部11Aを構成する複数のアンテナ素子111はそれぞれ第1偏波切替部121と接続されている。
【0034】
ここでは一例として、第1アンテナ部11Aを構成する複数のアンテナ素子111は、その配列方向が車幅方向と平行となるように線状に配列されている。つまり、第1アンテナ部11Aは、車幅方向と平行に配置された線状のアレイアンテナである。便宜上、水平面において第1アンテナ部11Aを構成する各アンテナ素子111の配列方向に直交する方向を0°と規定する。
【0035】
各アンテナ素子111は、被推定側装置2との近距離通信に用いられる周波数帯の電波を受信し、電気信号に変換して第1受信部122に出力する。各アンテナ素子111の受信信号には、アンテナ素子間の間隔と電波の到来方向に応じた位相差が生じる。その位相差に基づいて、後述する第1到来方向取得部123は、受信した電波の到来方向を推定する。
【0036】
各アンテナ素子111は、線状アンテナであってもよいし、平面アンテナであってもよい。ただし、各アンテナ素子111は、垂直偏波と水平偏波の両方を受信できる構成となっている。各アンテナ素子111の受信対象とする偏波面は、後述する第1偏波切替部121によって、電気的又は機械的に切り替えられる。垂直偏波と水平偏波の両方を受信するための具体的な構成は周知の構成を援用すればよい。
【0037】
また、第1アンテナ部11Aの指向性は、後述する第1到来方向取得部123によって動的に変更される。第1アンテナ部11Aの指向性は、0°方向を基準としてアンテナ素子111の配列方向に−90°から+90°まで変更可能な構成となっている。第1アンテナ部11Aの指向性の可動範囲と設置位置とから、第1アンテナ部11Aが被推定側装置2からの信号を受信できる範囲(受信可能範囲とする)が定まる。
【0038】
第2アンテナ部11Bは、第1アンテナ部11Aと同様の構成となっている。第1アンテナ部11Aと第2アンテナ部11Bは、それぞれの受信可能範囲が略一致するように、車幅方向(又は車両前後方向)において所定の間隔を有するように自車両に設置されている。ここでは一例として、自車両の前端部において、車幅方向中央部から左右にそれぞれ一定距離(例えば0.2m)離れた位置に配置されているものとする。
【0039】
なお、第1アンテナ部11A及び第2アンテナ部11Bの設置位置はこれに限らない。例えば自車両のフロントバンパの左右コーナー部にそれぞれ配置されていてもよいし、リアバンパの左右コーナー部にそれぞれ配置されていても良い。さらに、左右のBピラー部分等、その他の場所に設置されていても良い。以降において第1アンテナ部11Aと第2アンテナ部11Bとを区別しない場合には単にアンテナ部11と記載する。第1アンテナ部11Aや第2アンテナ部11Bの設置位置を示すデータ(設置位置データ)は記憶部M1に保存されている。記憶部M1は、ROMやフラッシュメモリ等の、不揮発性の記憶媒体によって実現されればよい。
【0040】
第1系統モジュール12Aは、第1アンテナ部11Aの受信対象とする偏波面を切り替える。また、偏波面を切り替える毎に第1アンテナ部11Aが受信した信号を解析することで、第1アンテナ部11Aに対して被推定側装置2からの電波が直接的に到来している方向(直接波方向とする)を推定する。そして、第1アンテナ部11Aにとっての直接波方向を位置推定部13に提供する。
【0041】
第2系統モジュール12Bも、接続先となるアンテナ部11が異なる点を除いて第1系統モジュール12Aと同様の機能を有している。これら第1系統モジュール12A及び第2系統モジュール12Bの具体的な構成については別途後述する。
【0042】
位置推定部18は、第1アンテナ部11Aにとっての直接波方向と、第2アンテナ部11Bにとっての直接波方向を、各系統モジュール12から取得する。そして、第1アンテナ部11Aにとっての直接波方向と、第2アンテナ部11Bにとっての直接波方向と、各アンテナ部11の設置位置から、三角測量の原理によって、被推定側装置2の相対位置を特定する。位置推定部13は、1つ又は複数のICを用いてハードウェアとして実現されてあってもよいし、ソフトウェアによって実現されてあってもよい。
【0043】
<各系統モジュール12の構成について>
次に、第1系統モジュール12Aを例にとって、各系統モジュール12の構成について述べる。なお、第2系統モジュール12Bも同様の構成となっているため、第2系統モジュール12Bの構成についての説明は省略する。
【0044】
第1系統モジュール12Aは、前述の通り、偏波切替部121、受信部122、到来方向取得部123、及び直接波方向特定部124を備えている。偏波切替部121、受信部122、到来方向取得部123、及び直接波方向特定部124のそれぞれは、1つ又は複数のICを用いてハードウェアとして実現されてあってもよいし、ソフトウェアによって実現されてあってもよい。
【0045】
偏波切替部121は、直接波方向特定部124からの指示に基づいて、第1アンテナ部11Aが備えるアンテナ素子111の受信対象とする偏波面、すなわち、第1アンテナ部11Aの受信対象とする偏波面を切り替える。受信対象とする偏波面を切り替える方法や構成は、周知の技術を援用すればよい。第1アンテナ部11Aが備える各アンテナ素子111が受信した信号は、偏波切替部121を介して受信部122に提供される。なお、被推定側装置2から送信された信号を第1アンテナ部11Aが受信している場合に受信部122へ提供される信号とは、実質的には、被推定側装置2から送信された信号を受信対象とする偏波面へ射影した成分である。
【0046】
以降では、垂直偏波を受信対象とする第1アンテナ部11Aの設定状態を垂直偏波モードと称し、水平偏波を受信対象とする第1アンテナ部11Aの設定状態を水平偏波モードと称する。
【0047】
受信部122は、第1アンテナ部11Aの各アンテナ素子111が受信した信号をデジタル信号へ変換(つまりアナログデジタル変換)して、到来方向取得部123に出力する。なお、受信部122は、受信信号から、規定帯域外の周波数成分を除去するための高周波フィルタや、信号を増幅するローノイズアンプ、搬送周波数帯から中間周波数帯に変換する周波数変換部等を備えていても良い。
【0048】
到来方向取得部123は、第1アンテナ部11Aが備える複数のアンテナ素子111の受信信号を解析することで、第1アンテナ部11Aが受信した電波の到来方向を推定する。電波の到来方向を推定する方法は、周知の到来方向推定法を援用すればよい。ここでは一例として、到来方向取得部123は、周知のビームフォーマ法によって到来方向を推定することとする。
【0049】
つまり、到来方向取得部123は、各アンテナ素子111に作用させる複素重みを調整することで、第1アンテナ部11Aのメインローブ(メインビーム)を走査させる。そして、各アンテナ素子111での受信電力を合成した電力(便宜上、受信強度と称する)が所定の閾値以上となる方向を探す。ここで用いられる複素重みは、受信信号の位相や振幅を調整するための要素である。
【0050】
メインビームを走査させる範囲(つまり探索範囲)は、第1アンテナ部11Aの受信可能範囲に対応してあって、ここでは−90°から+90°までとなる。メインビームの走査の結果、受信強度が所定の閾値以上となる方向が、電波の到来方向に相当する。
【0051】
そして到来方向取得部123は、受信強度が所定の閾値以上となっている方向を到来方向として取得し、到来方向毎の受信強度を示す情報(到来方向情報とする)を直接波方向特定部124に提供する。
【0052】
例えば、第1アンテナ部11Aが、被推定側装置2から送信された電波であって、他の物体で反射されずに到来した電波(直接波とする)を受信している場合、到来方向取得部123は、直接波が到来した方向を到来方向として検出する。また、第1アンテナ部11Aが、被推定側装置2から送信された電波の反射波を受信している場合には、その反射波が到来した方向も到来方向として検出される場合がある。すなわち、到来方向情報には、直接波が到来している方向(直接波方向とする)と、反射波が到来している方向(反射波方向とする)の情報が混在している場合がある。
【0053】
なお、直接波方向とは、被推定側装置2が存在している方向である。すなわち、直接波方向の情報を含みうる到来方向情報は、請求項に記載の位置関連情報の一例に相当する。また、到来方向取得部123が請求項に記載の情報取得部の一例に相当する。
【0054】
なお、本実施形態では一例として到来方向取得部123は、ビームフォーマ法によって到来方向を取得する態様としたが、これに限らない。例えば周知のCapon法を用いても良い。さらに、メインローブを走査(いわゆるビーム走査)させることを基本原理とするのではなく、ヌル点を走査(いわゆるヌル走査)させることで到来方向を推定する方法を採用してもよい。ヌル走査を基本原理とする到来方向推定法としては、最小ノルム法や、MUSIC(Multiple Signal Classification)法等がある。また、その他、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)等を採用してもよい。
【0055】
直接波方向特定部124は、第1アンテナ部11Aでの受信対象とする偏波面を順次切り替えさせることで、偏波面毎の、到来方向情報を収集する。そして、直接波方向特定部124は、偏波面毎の到来方向情報を比較することで、第1アンテナ部11Aにとっての直接波到来方向を特定する。ここでの直接波方向とは、直接波が到来している方向である。この直接波方向特定部124の作動については、別途
図2に示すフローチャートを用いて説明する。直接波方向特定部124が請求項に記載の特定部の一例に相当する。
【0056】
<第1系統モジュール12Aの作動について>
次に、
図2に示すフローチャートを用いて、第1系統モジュール12Aの作動について説明する。
図2に示すフローチャートは、逐次(例えば100ミリ秒毎に)開始されても良いし、被推定側装置2から、位置の推定を行うように要求する要求信号を受信した場合に開始されてもよい。
【0057】
まず、ステップS101では直接波方向特定部124が、偏波切替部121に対して第1アンテナ部11Aの受信対象を水平偏波とするように指示する制御信号を出力する。そして、偏波切替部121が当該制御信号に基づいて第1アンテナ部11Aを水平偏波モードに設定して、ステップS102に移る。
【0058】
ステップS102では到来方向取得部123が、第1アンテナ部11Aでの受信結果に基づいて、第1アンテナ部11Aで受信した電波(ここでは水平偏波)の到来方向を推定する。そして、水平偏波に対する到来方向情報を生成して、ステップS103に移る。
【0059】
ステップS103では直接波方向特定部124が、到来方向取得部123から、水平偏波に対する到来方向情報を取得して、ステップS104に移る。なお、取得した水平偏波に対する到来方向情報は、図示しないRAMなどの記憶媒体を用いて一時的に保持される。
【0060】
ステップS104では直接波方向特定部124が、偏波切替部121に対して第1アンテナ部11Aの受信対象を垂直偏波とするように指示する制御信号を出力する。そして、偏波切替部121が当該制御信号に基づいて第1アンテナ部11Aを垂直偏波モードに設定して、ステップS105に移る。
【0061】
ステップS105では到来方向取得部123が、第1アンテナ部11Aでの受信結果に基づいて、第1アンテナ部11Aで受信した電波(ここでは垂直偏波)の到来方向を推定する。そして、垂直偏波に対する到来方向情報を生成して、ステップS106に移る。
【0062】
ステップS106では直接波方向特定部124が、到来方向取得部123から、垂直偏波に対する到来方向情報を取得して、ステップS107に移る。取得した垂直偏波に対する到来方向情報は、水平偏波に対する到来方向情報と同様に、RAMなどの記憶媒体を用いて一時的に保持する。
【0063】
図3は、ステップS101〜S106を実施することで得られる第1アンテナ部11Aに対する方向と受信強度との対応関係を示すグラフであり、横軸は、第1アンテナ部11Aに対する方向を、縦軸は受信強度を表している。実線は、第1アンテナ部11Aを水平偏波モードとしている状態において到来方向取得部123が算出した方向毎の受信強度を表しており、一点鎖線は、垂直偏波モード時において到来方向取得部123が算出した方向毎の受信強度を表している。
【0064】
この
図3に示す結果が得られた場合、到来方向取得部123は、水平偏波モードと垂直偏波モードの両方において、第1アンテナ部11Aに対して−10度となる方向(−10度方向とする)と、−62度となる方向(−62度方向とする)のそれぞれを到来方向として取得する。なお、水平偏波モードと垂直偏波モードのそれぞれにおける受信強度は、ピークが立っていない部分での受信強度の平均値(又は中央値)が等しいレベルとなるように調整されていることが好ましい。
【0065】
そして、到来方向取得部123は、水平偏波モードにおける−10度方向と−62度方向のそれぞれの受信強度を、水平偏波に対する到来方向情報として直接波方向特定部124に提供する。また、垂直偏波モードにおける−10度方向とー62度方向のそれぞれの受信強度を、垂直偏波に対する到来方向情報として直接波方向特定部124に提供する。
【0066】
再び
図2に戻り、ステップS107では直接波方向特定部124が、水平偏波に対する到来方向情報に示される到来方向毎の受信強度と、垂直偏波に対する到来方向情報に示される到来方向毎の受信強度と、を比較し、到来方向毎に偏波面の変更に起因する受信強度の変化量を評価してステップS108に移る。
【0067】
そしてステップS108では直接波方向特定部124が、到来方向取得部123が取得した到来方向のうち、偏波面の変更に起因する受信強度の変化量が最も小さい到来方向を、直接波方向として採用する。
【0068】
これは、到来方向取得部123が取得しうる種々の到来方向のうち、偏波面の変更に起因する受信強度の変動が最も小さい到来方向が、直接波が到来している方向である可能性が相対的に高いためである。以下、この直接波方向と、偏波面の変更に起因する受信強度の変動の関係について、
図4、
図5を用いて説明する。
【0069】
図4は、被推定側装置2から送信された信号の垂直偏波成分が、直接的に第1アンテナ部11Aに到達する場合と、水平な姿勢となっている金属板3で反射されて到達する場合の、種々の伝搬過程における信号強度の変化を矢印の太さで示す概念図である。また、
図5は、被推定側装置2から送信された信号の水平偏波成分が、第1アンテナ部11Aに直接到達する場合と、水平な金属板3で反射されて到達する場合の、種々の伝搬過程における信号強度の変化を矢印の太さで示した概念図である。
【0070】
一般的に電波は、伝搬方向に対して電界が振動する方向(以降、電界方向)に存在する物体で反射された場合、伝搬方向に対して磁界が振動する方向(以降、磁界方向)に存在する物体で反射された場合よりも、大きく減衰される傾向がある。例えば水平に設置された金属板3は、垂直偏波にとっては、電界方向に存在する物体である。したがって、
図4に示すように垂直偏波が、伝搬過程において金属板3で反射された場合、その信号強度は相対的に大きく減衰されるため、直接波Sdに対して反射波Srの受信強度は十分に小さくなる。
【0071】
一方、水平偏波にとっては、水平に設置された金属板3は、電界方向に存在する物体ではなく、磁界方向に存在する物体である。したがって、水平偏波は、伝搬過程において金属板3で反射された場合であっても減衰されにくく、直接波Sdに対する反射波Srの減衰量は、偏波面が垂直である場合に比べて小さくなる。
【0072】
もちろん、被推定側装置2の姿勢によって、被推定側装置2から送信された電波の垂直偏波成分と水平偏波成分の比率は異なるため、各偏波面での直接波自体の信号強度は異なってくる。しかしながら、発明者らは、受信対象とする偏波面の変更に起因する直接波の受信信号強度の変化量と、反射波の受信信号強度の変化量とを比較した場合、反射波の受信信号強度の変化量のほうが、直接波の受信信号強度の変化量よりも大きくなることを種々の試験によって確認した。
【0073】
そして、反射波の受信信号強度の変化量のほうが直接波の受信信号強度の変化量よりも大きくなるため、到来方向取得部123が取得する到来方向が複数存在する場合、偏波面の変更による受信強度の変化量が相対的に大きい到来方向とは、反射波方向である可能性が高い。言い換えれば、偏波面の変更による受信強度の変化量が最も小さい到来方向は、直接波方向である可能性が高い。
【0074】
したがって、偏波面の変更による受信強度の変化量が最も小さい到来方向を、直接波方向として採用することで、より精度良く直接波方向を特定することができる。例えば、
図3に示す例では、−10度方向の受信強度の変化量ΔR(−10)と、62度方向の受信強度の変化量ΔR(62)とを比較して、小さい方(ここでは62度方向)を直接波方向として採用する。
【0075】
なお、以上では、水平偏波モードと垂直偏波モードの両方で、同様の方向を到来方向として検出した場合を想定して、直接波方向特定部124の作動を説明したが、水平偏波モードで検出された到来方向が、垂直偏波モードでも到来方向として検出されるとは限らない。例えば、垂直偏波モードにおいて−10度方向は、到来方向として検出されない場合も生じうる。その逆も同様である。
【0076】
そのように、或る偏波面を受信対象とした場合には到来方向として検出された一方、別の偏波面を受信対象とした場合には到来方向として検出されなかった方向については、変化量が十分に大きい到来方向であると見なせばよい。すなわち、そのような到来方向については直接波方向として採用しない構成とすればよい。
【0077】
以上では第1系統モジュール12Aの作動について具体的に説明したが、第2系統モジュール12Bについても同様に作動する。すなわち、第2直接波方向特定部124も、偏波面の変更に由来する受信強度の変化量に基づいて、種々の到来方向のうち、第2アンテナ部11Bにおける直接波方向を特定する。
【0078】
そして、位置推定部18は、第1直接波方向特定部124が特定した第1アンテナ部11Aにとっての直接波方向と、第2直接波方向特定部124が特定した第2アンテナ部11Bにとっての直接波方向と、に基づいて被推定側装置2の位置を推定する。
【0079】
したがって以上の構成によれば、位置推定部18は、被推定側装置2の位置推定を行う際に、反射波方向ではなく直接波方向を用いている可能性を向上させることができるため、マルチパス環境下においてもより精度良く被推定側装置2の位置を推定できるようになる。
【0080】
以上、本発明の第1実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例や実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0081】
[変形例1−1]
第1実施形態では、アンテナ部11が受信対象とする偏波面を、垂直方向と水平方向とする態様を例示したが、これに限らない。アンテナ部11が受信対象とする偏波面は、水平面から重力が作用する方向に45度傾いた方向と、135度傾いた方向の2種類としてもよい。また、その他の方向を受信対象とする偏波面として採用してもよい。アンテナ部11は、複数種類の偏波面を受信可能な構成となっていればよい。
【0082】
さらに、アンテナ部11が受信対象とする偏波面の種類は2種類に限らない。3種類以上を対象としてもよい。例えば、垂直方向、水平方向、水平面から重力作用方向に45度傾いた方向、水平面から重力作用方向に135度傾いた方向の、4種類の偏波面を受信可能な構成としても良い。
【0083】
[変形例1−2]
また、受信対象とする偏波面を切り替えていった結果、偏波面毎に検出された到来方向の組み合わせが変化する場合も生じうる。例えば、水平偏波を受信対象とした場合には、−10度と62度の2つの方向を到来方向として検出した一方、垂直偏波を受信対象とした場合には、62度の方向しか到来方向として検出されなかった場合などである。
【0084】
一方で、真に直接波が到来している方向であれば、受信対象とする偏波面を変更しても、その方向は到来方向として検出される可能性が高い。
【0085】
そのような傾向を鑑みると、受信対象とする偏波面を切り替えていった結果、種々の方向のうち、到来方向として検出された回数が多いほど、その方向が真に直接波方向である可能性は高いと言える。
【0086】
したがって、直接波方向特定部124は、偏波面の変更に由来する受信強度の変化量が同程度の到来方向が複数存在する場合、それら到来方向のうち、到来方向として検出された回数が多い方を直接波方向として採用してもよい。このような態様によれば、直接波方向をより精度良く特定する事ができる。
【0087】
また、直接波方向特定部124は、受信対象とする偏波面を順次切り替えていった結果として得られる複数の到来方向のうち、到来方向として検出された回数が多い方向を直接波方向として採用してもよい。そのような場合も、偏波面毎の受信強度の変化量が最も小さい方向を直接波方向として採用することに相当するためである。
【0088】
なお、或る到来方向に対して+5度〜−5度程度の範囲となる到来方向は、同一の到来方向と見なせばよい。同一方向であるとみなす範囲(すなわち許容される誤差)は、到来方向取得部123の分解能などに応じて決定されれば良い。
【0089】
[変形例1−3]
また、他の態様として直接波方向特定部124は、偏波面毎の到来方向情報を取得した結果、検出された到来方向の数が偏波面毎に異なる場合には、検出された到来方向の数が最も少ない偏波面を受信対象とした状態において検出された到来方向を、直接波方向の候補として採用する構成としてもよい。
【0090】
例えば位置推定装置1が、第1、第2、第3、第4の偏波面に対応している場合であって、第2、第3、第4の偏波面を受信対象とした場合には3つの到来方向が検出されている一方、第1の偏波面を受信対象とした場合には2つの到来方向しか検出されなかった場合には、第1の偏波面を受信対象とした場合に検出された2つの到来方向を直接波方向の候補として採用する。そして、その2つの到来方向のそれぞれの受信強度を、他の偏波面を受信対象とした時の受信強度と比較して、偏波面の変更に起因する受信強度の変化量が最も小さい方向を直接波方向として採用すればよい。
【0091】
これは検出された到来方向の数が最も少なくなる偏波面とは、最も反射波の影響を受けていない偏波面に相当するためである。すなわち、検出された到来方向の数が最も少ない偏波面を受信対象とした状態において検出された到来方向を直接波方向の候補とすることで、真の直接波方向を直接波方向として採用する可能性を高めることができる。
【0092】
[変形例1−4]
以上では、1つのアンテナ素子111が複数種類の偏波面に対応するものとしたが、これに限らない。1つのアンテナ素子111が複数種類の偏波面に対応しているのではなく、1つのアンテナ素子111は、1つの偏波面に対応する構成としてもよい。その場合、各アンテナ部11は、受信対象とする偏波面毎に1組のアレイアンテナを備える構成となる。また、偏波切替部121は、受信対象とする偏波面に応じたアンテナ素子111からの信号を取得する構成とすればよい。
【0093】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態について、図を用いて説明する。なお、以降において前述の第1実施形態の構成の部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した第1実施形態や種々の変形例を適用することができる。
【0094】
第2実施形態における位置推定システム100は、位置推定装置1Xと、被推定側装置2を備えている。位置推定装置1Xは、先に説明した第1実施形態における位置推定装置1に対応する装置であり、被推定側装置2との通信に基づいて、被推定側装置2の位置を推定する。第1実施形態と第2実施形態との相違点は主として、位置推定装置1Xにある。以下、この位置推定装置1Xの構成について具体的に説明する。
【0095】
本実施形態に係る位置推定装置1Xは、
図6に示すように、送信用アンテナ14、送信部15、第1アンテナ部16A、第2アンテナ部16B、第3アンテナ部16C、第1系統モジュール17A、第2系統モジュール17B、第3系統モジュール17C、位置推定部18、及び、記憶部M1を備えている。
【0096】
第1系統モジュール17Aは第1アンテナ部16Aと接続されており、第2系統モジュール17Bは第2アンテナ部16Bと接続されている。第3系統モジュール17Cは第3アンテナ部16Cと接続されている。
【0097】
第1アンテナ部16A、第2アンテナ部16B、第3アンテナ部16Cは何れも同様の構成となっており、それぞれを区別しない場合には、アンテナ部16とも記載する。第1系統モジュール17A、第2系統モジュール17B、第3系統モジュール17Cもまた、接続するアンテナ部16が異なる点を除いて同様の構成となっており、それぞれを区別しない場合には系統モジュール17と記載する。各系統モジュール17は、それぞれ偏波切替部171、受信部172、到来時間取得部173、及び、直接波時間特定部174を備えている。
【0098】
送信用アンテナ14は、被推定側装置2に信号を送信するためのアンテナである。送信用アンテナ14は送信部15と接続されてあって、送信部15から入力された信号を電波に変換して空間に放射させる。なお、後述するアンテナ部16A〜16Cの何れか1つを送信用アンテナ14として用いても良い。
【0099】
送信部15は、被推定側装置2に送信すべきデータに対応するベースバンド信号を生成し、当該信号に対して符号化や変調などの所定の処理を施した信号を生成して、送信用アンテナ14に出力する。これによって、位置推定装置1は被推定側装置2に対して所望のデータに対応する電波を送信することができる。ここでは一例として、送信部15は、所定の周期(例えば100ミリ秒間隔)で被推定側装置2対して応答を要求する応答要求信号を送信するものとする。
【0100】
また、応答要求信号を送信した際には、その旨を各到来時間取得部173に通知する。なお、到来時間取得部173は、送信部15によって応答要求信号が送信された時点を認識できればよく、その認識方法は上述した方法に限らない。例えば、到来時間取得部173と送信部15とが共通のクロックを用いる構成となっている場合には、所定のクロック数毎に、送信部15が応答要求信号を送信することを予め各到来時間取得部173に登録しておく構成とすればよい。このような構成によれば、到来時間取得部173は、送信部15からの通知を受けなくとも、応答要求信号が送信された時点を特定することができる。
【0101】
アンテナ部16は、何れも被推定側装置2からの信号を受信するためのアンテナ素子111を少なくとも1つ備えている。ここでは一例として、各アンテナ部16は、アンテナ素子111を1つずつ備える態様とするが、これに限らない。アンテナ部16は、それぞれ複数のアンテナ素子111を備えていても良い。また、それらの複数のアンテナ素子111はアレイ状に配置されていてもよい。
【0102】
なお、ここでのアンテナ素子111は前述の第1実施形態で述べたアンテナ素子111と同様のものであり、垂直偏波と水平偏波の両方を受信可能な構成となっているものとする。
【0103】
各アンテナ部16が備えるアンテナ素子111は、それぞれ対応する系統モジュール17の偏波切替部171と接続されている。また、各アンテナ部16が受信した信号は、偏波切替部171を介して受信部172に提供される。
【0104】
各系統モジュール17は、接続しているアンテナ部16の受信対象とする偏波面を切り替える。また、偏波面を切り替える毎にアンテナ部16が受信した信号を解析することで、送信部15が応答要求信号を送信してから、アンテナ部16が被推定側装置2から送信された直接波を受信するまでの時間(直接波時間とする)を特定する。そして、その特定した直接波時間を位置推定部18に提供する。この系統モジュール17の詳細な説明は別途後述する。
【0105】
位置推定部18は、3つの系統モジュール17のそれぞれが特定した、複数のアンテナ部16のそれぞれに対応する直接波時間を取得する。また、複数のアンテナ部16のそれぞれに対応する直接波時間に基づいて、各アンテナ部16から被推定側装置2までの距離を推定する。つまり、直接波時間を距離に換算する。
【0106】
そして、各アンテナ部16から被推定側装置2までの距離と、各アンテナ部16の設置位置から、三辺測量の原理によって、被推定側装置2の相対位置を特定する。この位置推定部18は、1つ又は複数のICを用いてハードウェア的に実現されてあってもよいし、ソフトウェアによって実現されてあってもよい。
【0107】
なお、直接波時間には、被推定側装置2から送信された応答信号が各アンテナ部16に到達するために要する時間(復路時間)に加えて、位置推定装置1から送信された信号が被推定側装置2まで伝搬するために要する時間(往路時間)と、応答要求信号を受信した被推定側装置2が応答信号を生成して送信するために要する時間(応答処理時間)も含まれる。したがって、直接波時間から距離を推定する際には、これらの成分を考慮する必要がある。
【0108】
応答処理時間は、例えば、実試験やシミュレーションによって予め決定されていればよい。すなわち、応答処理時間は、一定値と見なすことができ、直接波時間から応答処理時間を減算することで、直接波時間のうち、信号が空間を伝搬している時間を抽出する事ができる。
【0109】
また、往路時間に関しては、復路時間と同一と見なせばよい。したがって、直接波時間から予め定められた応答処理時間を減算した時間を2で割った時間を、復路時間として採用すればよい。また、復路時間に電波の伝搬速度を乗算した距離をアンテナ部16から被推定側装置2までの距離とすればよい。
【0110】
<系統モジュール17の構成について>
次に、第1系統モジュール17Aを例にとって、各系統モジュール17の構成について説明する。第1系統モジュール17Aは、前述の通り、偏波切替部171、受信部172、到来時間取得部173、及び直接波時間特定部174を備えている。これらの部材、すなわち、偏波切替部171、受信部172、到来時間取得部173、及び直接波時間特定部174のそれぞれは、1つ又は複数のICを用いてハードウェア的に実現されてあってもよいし、ソフトウェアによって実現されてあってもよい。
【0111】
偏波切替部171は、直接波時間特定部174からの指示に基づいて、第1アンテナ部16Aが備えるアンテナ素子111の受信対象とする偏波面、すなわち、第1アンテナ部16Aの受信対象とする偏波面を切り替える。第1アンテナ部16Aが備える各アンテナ素子111が受信した信号は、偏波切替部171を介して受信部172に提供される。
【0112】
受信部172は、第1アンテナ部16Aのアンテナ素子111が受信した信号に対して検波を行い、受信信号から搬送波成分を除去した信号を取得する。そして、検波して得られる信号のピークを検出した場合、到来時間取得部173に対して被推定側装置2から送信された信号の受信を検出した旨を通知する。
【0113】
受信信号のピークの検出方法は、周知の方法によって検出すればよい。例えば、観測している受信電圧が、その直前の一定時間当りの平均値に対して所定の閾値以上となったことに基づいてピークを検出してもよい。また、直前の一定時間当りの平均値に対する現在の観測値の比率が所定の閾値以上となった場合に、ピークを検出してもよい。
【0114】
なお、受信部172は、その他、受信信号から規定帯域外の周波数成分を除去するための高周波フィルタや、信号を増幅するローノイズアンプ等を備えていても良い。また、アナログ信号からデジタル信号への変換処理や、復調処理、復号処理を実施しても良い。
【0115】
到来時間取得部173は、送信部15が応答要求信号を送信してから、最初に受信部172によって被推定側装置2から送信された信号の受信が検出されるまでの時間を計測する。そして、その計測した時間を到来時間として直接波時間特定部174に提供する。
【0116】
到来時間は、位置推定装置1と被推定側装置2との間で信号が1往復するために要する時間に相当する。この到来時間が請求項に記載の応答時間に相当し、到来時間取得部173が請求項に記載の応答時間取得部に相当する。また、到来時間は、後述するように第1アンテナ部16Aとの距離を推定するために用いられる情報である。すなわち、到来時間は、請求項に記載の位置関連情報の一例に相当するとともに、到来時間取得部173は請求項に記載の情報取得部の一例に相当する。
【0117】
ここで、受信部172と到来時間取得部173の作動について、
図7を用いて説明する。
図7は、受信部172が取得する受信電圧の時間変化の一例を概念的に示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は受信電圧を表している。時刻T10は、送信部15が応答要求信号を送信した時点を、時刻T11、時刻T12は、受信電圧のピークが検出される時点をそれぞれ表している。
【0118】
到来時間取得部173は、前述の通り、送信部15が応答要求信号を送信してから、最初に受信部172によって被推定側装置2から送信された信号の受信が検出されるまでの時間を計測する。すなわち、
図7の例においては、時刻T10から時刻T11までの時間を、到来時間として取得する。なお、時刻T11に示すピークは、直接波の受信に伴うピークであり、時刻T12に示すピークは、反射波の受信に伴うピークである。
【0119】
直接波時間特定部174は、第1アンテナ部11Aでの受信対象とする偏波面を順次切り替えさせることで、偏波面毎の到来時間を収集する。そして、直接波時間特定部174は、偏波面毎の到来時間を比較することで、第1アンテナ部16Aにおける直接波時間を特定する。この直接波時間特定部174の作動については、別途
図8に示すフローチャートを用いて説明する。直接波時間特定部174が請求項に記載の特定部の一例に相当する。
【0120】
<各系統モジュール17の作動について>
次に、
図8に示すフローチャートを用いて、第1系統モジュール17Aを例にとって、各系統モジュール17の作動について説明する。なお、
図8に示すフローチャートは、逐次(例えば200ミリ秒毎に)開始されても良いし、被推定側装置2から送信された、位置の推定を行うように要求する要求信号を受信した場合に開始されてもよい。
【0121】
まず、ステップS201では直接波時間特定部174が、偏波切替部171に対し、第1アンテナ部16Aの受信対象を水平偏波とするように指示する制御信号を出力する。そして、偏波切替部171が当該制御信号に基づいて第1アンテナ部16Aを水平偏波モードに設定して、ステップS202に移る。
【0122】
ステップS202では、到来時間取得部173が受信部172と協働して、水平偏波モードにおける到来時間を取得する。そして、その取得した水平偏波モードにおける到来時間を直接波時間特定部174に提供してステップS203に移る。なお、直接波時間特定部174は、取得した水平偏波モードにおける到来時間は、図示しないRAMなどの記憶媒体を用いて一時的に保持する。
【0123】
ステップS203では直接波時間特定部174が、偏波切替部171に対し、第1アンテナ部16Aの受信対象を垂直偏波とするように指示する制御信号を出力する。そして、偏波切替部171が当該制御信号に基づいて第1アンテナ部16Aを垂直偏波モードに設定して、ステップS204に移る。
【0124】
ステップS204では、到来時間取得部173が受信部172と協働して、垂直偏波モードにおける到来時間を取得する。そして、その取得した垂直偏波モードにおける到来時間を直接波時間特定部174に提供してステップS205に移る。なお、直接波時間特定部174は、取得した垂直偏波モードにおける到来時間を、水平偏波モードにおける到来時間と同様に、RAMなどの記憶媒体を用いて一時的に保持する。
【0125】
ステップS205では、水平偏波モードにおける到来時間と、垂直偏波モードにおける到来時間とを比較して、短い方の到来時間を、直接波時間として採用してステップS206に移る。ステップS206では、ステップS205で特定した直接波時間を位置推定部18に提供して本フローを終了する。
【0126】
ここで、上述した処理の作動による効果を
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は、被推定側装置2から送信された電波が第1アンテナ部16Aで受信されるまでの伝搬環境を表している。図中の実線は、被推定側装置2から送信された信号が直接第1アンテナ部16Aに到達する経路を表しており、一点鎖線は、被推定側装置2から送信された信号が金属板3で反射されて第1アンテナ部16Aに到達する経路を表している。すなわち、
図9は、第1アンテナ部16Aが、金属板3で反射されて到来した電波(つまり反射波)と、直接到来した電波(直接波)の両方を受信する状況を示している。
【0127】
そのような状況において、直接波が相対的に強い信号強度を保持したまま第1アンテナ部16Aに到達した場合には、
図7に示したように、反射波に対応する時点でもピークが検出される。そして、到来時間として、直接波時間を取得することになる。
【0128】
また、反射波が相対的に強い信号強度を保持したまま第1アンテナ部16Aに到達した場合には、反射波が到来した時点でもピークが検出される。ただし、反射波は、金属板3を経由してから第1アンテナ部16Aへ到達するため、必然的に、直接波よりも遅れて受信されることになる。
【0129】
ところで、直接波が必ずしも強い信号強度を保持したまま第1アンテナ部16Aまで到達するとは限らず、直接波の受信強度よりも反射波の受信強度をほうが高くなってしまう場合もある。例えば、複数の方向から複数の反射波が同時に(時間軸上で重なるように)到来した場合には、
図10に示すように、直接波が到来した時点T21の受信強度よりも、反射波が到来した時点T22の受信強度のほうが高くなってしまうことがある。
【0130】
そして、直接波が到来した時点T21の受信強度が定常的なノイズレベルに対する差分が相対的に小さい場合には、直接波が到来している時点ではピークを検出できず、反射波が到来した時点で初めて、送信部15が応答要求信号を送信してからピークが検出されることがある。すなわち、到来時間取得部173が取得する到来時間は、直接波の受信時点に対応する時間となっているとは限らない。
【0131】
しかしながら、直接波に対する反射波の強度は、第1実施形態で述べた通り、受信対象とする偏波面に応じて変化する。したがって、或る偏波面において取得した到来時間が、反射波の受信時点に対応する時間となっていたとしても、他の偏波面においては、直接波の受信時点に対応する時間を到来時間として取得できていることが期待できる。また、反射波を受信する時点は必ず直接波を受信する時点よりも後になる。したがって、複数種類の偏波面のそれぞれを順次受信対象として取得した、偏波面毎の到来時間のうち、最も到来時間が短いものが、直接波の受信時点に対応する時間となっている可能性が高い。
【0132】
つまり、以上の構成によれば、直接波時間特定部174は、位置推定装置1が応答要求信号を送信してから被推定側装置2からの直接波を第1アンテナ部16Aで受信するまでの時間(つまり直接波時間)を、より精度良く取得することができる。
【0133】
また、位置推定部18は、第1アンテナ部16Aでの直接波時間に基づいて、第1アンテナ部16Aから被推定側装置2までの距離を推定する。そのため、上記構成によれば、第1アンテナ部16Aから被推定側装置2までの推定距離に含まれる反射波の受信に起因する誤差を抑制することができる。その結果、より精度良く被推定側装置の位置を推定することができる。
【0134】
[変形例2−1]
第2実施形態では、アンテナ部16が受信対象とする偏波面を、垂直方向と水平方向とする態様を例示したが、これに限らない。アンテナ部16が受信対象とする偏波面は、水平面から重力作用方向に45度傾いた方向と、135度傾いた方向の2種類としてもよい。また、その他の方向を受信対象とする偏波面として採用してもよい。アンテナ部16は、複数種類の偏波面を受信可能な構成となっていればよく、その偏波面の組み合わせは適宜設計されればよい。
【0135】
また、アンテナ部11が受信対象とする偏波面の種類は2種類に限らない。3種類以上を対象としてもよい。例えば、垂直方向と、水平方向と、水平面から重力作用方向に45度傾いた方向と、水平面から重力作用方向に135度傾いた方向の4種類を受信対象としても良い。
【0136】
[変形例2−2]
以上では、アンテナ部16と系統モジュール17の組み合わせを3組備える態様を例示したがこれに限らない。2組であってもよいし、4組以上であっても良い。
【0137】
[変形例2−3]
第2実施形態では、1つのアンテナ素子111が複数種類の偏波面に対応するものとしたが、これに限らない。1つのアンテナ素子111が複数種類の偏波面に対応しているのではなく、1つのアンテナ素子111は、1つの偏波面に対応する構成としてもよい。その場合、各アンテナ部16は、受信対象とする各偏波面に対応するアンテナ素子111を備える構成となる。
【0138】
[変形例2−4]
上述の第2実施形態では、アンテナ部16とは別途、送信用アンテナ14を備える態様としたが、これに限らない。複数のアンテナ部16の何れか1つと送信部15と接続し、その送信部15と接続するアンテナ部16から応答要求信号を送信する態様としてもよい。
【0139】
このような態様によれば、位置推定装置1Xから送信される応答要求信号の偏波面もまた、偏波切替部171によって設定されている偏波面となる。つまり、送信信号の偏波面と、受信対象とする偏波面とが整合する。
【0140】
その結果、位置推定装置1Xから送信された応答要求信号が被推定側装置2へ伝搬する過程において受ける反射の影響と、被推定側装置2から返送された信号が位置推定装置1Xに到達するまでに受ける反射の影響とは等しくなる。したがって、位置推定装置1が被推定側装置2から送信された直接波に対応する到来時間を取得している場合、被推定側装置2は、位置推定装置1から送信された直接波に対して信号を返送したことになる。
【0141】
これにより、直接波時間に含まれる往路時間と復路時間がいずれもが、位置推定装置1Xと被推定側装置2との直接的な距離に対応する時間となり、より精度良く位置推定装置1Xと被推定側装置2との距離を推定できるようになる。
【0142】
特に、応答要求信号を送信したアンテナ部16に対応する直接波時間特定部174が特定した直接波時間は、そのアンテナ部16から被推定側装置2までの直接的な距離に対応する時間である。
【0143】
例えば第1アンテナ部16Aから応答要求信号を送信させた場合、第1アンテナ部16Aに対応する直接波時間特定部174が特定した直接波時間は、第1アンテナ部16Aから被推定側装置2までの直接的な距離に対応している。したがって、位置推定部18は、第1アンテナ部16Aに対応する直接波時間特定部174が特定した直接波時間から応答処理時間を差し引いた値に、電波の伝搬速度を乗じた値を2で割ることで、第1アンテナ部16Aから被推定側装置2までの距離を特定することができる。
【0144】
一方、第1アンテナ部16A以外のアンテナ部16(例えば第2アンテナ部16B)に対応する直接波時間特定部174が特定する直接波時間から応答処理時間を差し引いた時間に、電波の伝搬速度を乗じて定まる距離は、厳密には、第1アンテナ部16Aから被推定側装置2までの距離と、被推定側装置2から第2アンテナ部16Bまでの距離の和に相当する。
【0145】
そのため、位置推定部18は、第1アンテナ部16以外のアンテナ部16から被推定側装置2までの距離に関しては、そのアンテナ部16に対応する直接波時間から応答処理時間を差し引いた時間に、電波の伝搬速度を乗じた値から、第1アンテナ部16から被推定側装置2までの距離を差し引くことで求めることが好ましい。