特許第6471754号(P6471754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6471754低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471754
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/06 20060101AFI20190207BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20190207BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20190207BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20190207BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20190207BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20190207BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20190207BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20190207BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20190207BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20190207BHJP
   F02B 77/11 20060101ALI20190207BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20190207BHJP
   F02M 53/02 20060101ALI20190207BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20190207BHJP
   F02M 26/01 20160101ALI20190207BHJP
   F02M 26/04 20160101ALI20190207BHJP
   F02M 26/08 20160101ALI20190207BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20190207BHJP
   F02B 37/04 20060101ALI20190207BHJP
   F02M 31/125 20060101ALI20190207BHJP
   F02M 31/13 20060101ALI20190207BHJP
   F01N 13/14 20100101ALI20190207BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20190207BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   F02D19/06 Z
   F02D19/08 Z
   F02D41/04 375
   F02D41/40 C
   F02D23/00 J
   F02D23/02 C
   F02D21/08 301C
   F02D43/00 301N
   F02D43/00 301R
   F02D43/00 301B
   F02D43/00 301P
   F02P5/15 B
   F02B23/10 320
   F02B77/11 D
   F02M63/00 P
   F02M53/02
   F02M35/10 311B
   F02M26/01
   F02M26/04
   F02M26/08
   F02B37/00 302G
   F02B37/00 302F
   F02B37/04 A
   F02M31/125 Z
   F02M31/13 311A
   F01N13/14
   F01N3/24 L
   F01N3/023 Z
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-539149(P2016-539149)
(86)(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公表番号】特表2017-504749(P2017-504749A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(86)【国際出願番号】CN2014000507
(87)【国際公開番号】WO2015085645
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年12月15日
(31)【優先権主張番号】201310676615.1
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513120505
【氏名又は名称】周向▲進▼
【氏名又は名称原語表記】ZHOU,Xiangjin
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】周向▲進▼
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0180121(US,A1)
【文献】 特開2004−197660(JP,A)
【文献】 特開2001−254660(JP,A)
【文献】 特表2013−529753(JP,A)
【文献】 特開2011−089420(JP,A)
【文献】 特開2005−036774(JP,A)
【文献】 特開2002−161739(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3159441(JP,U)
【文献】 特開2001−082130(JP,A)
【文献】 特開2009−174426(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0271562(US,A1)
【文献】 特開2005−146932(JP,A)
【文献】 特開平11−315733(JP,A)
【文献】 特開2005−325818(JP,A)
【文献】 特開2012−072730(JP,A)
【文献】 特開2007−113485(JP,A)
【文献】 特開2001−012289(JP,A)
【文献】 特開2003−314265(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102900555(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0089331(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0160729(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0089697(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0088805(US,A1)
【文献】 特表2012−520399(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0177609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/06 〜 19/08
F02D 41/00 〜 45/00
F02D 21/08
F02D 23/00 〜 23/02
F02P 5/145 〜 5/155
F02B 23/10
F02B 37/00 〜 37/04
F02M 26/00 〜 26/08
F02M 31/125 〜 31/13
F02M 35/10
F02M 53/02
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法であって、
気筒の圧縮比を12〜22とし、オクタン価69未満の低オクタン価ガソリン燃料を使用し、
燃料噴射は2段階に分けて行われ、第1段階を予備噴射、第2段階を本噴射とし、予備噴射が1段噴射又は多段噴射であり、予備噴射が1段噴射の場合、噴射は内燃機関の吸気行程で発生するとともに、気筒内に燃料の一部を噴射して燃料と空気を予混合し、予備噴射が2回を超える場合、予備噴射のうち最後の噴射は圧縮行程においてピストンが下死点を通過した後且つ本噴射の発生前に生じ、本噴射は圧縮行程で発生するとともに、ピストンが上死点に接近する前に気筒内へ燃料の一部を噴射し、このときに噴射された低オクタン価ガソリン燃料が気筒内の高温・高圧空気内で拡散して自然発火し、本噴射の位相により点火時間が決定され、放熱の中心を上死点後且つ可能な限り上死点寄りとすることを制御の原則とし、自然発火した混合気の火炎は、予備噴射により噴射されて気筒に導入された未着火の混合気に点火するとともに、点火強度が高く、且つ多点点火であり、気筒内の予混合気が点火されて、均一希薄燃料の点火燃焼が実現され、気筒内の温度と圧力が上昇するに伴って、均一希薄混合気の内部に多点自然発火が発生し、均一圧縮着火が実現され、
予混合気の燃料濃度は、圧縮行程において自然発火が生じない最高値を上限とし、動力行程において本噴射燃料の火炎によって順調に点火するとともに順調に燃焼する最低値を下限とし、
低負荷運転時には、単一の拡散圧縮着火による燃焼制御方式でエンジンの運転を制御することから、燃料の予備噴射及び補充噴射なしで燃料の本噴射のみが発生することを特徴及びステップとする方法。
【請求項2】
燃料噴射が、予備噴射、本噴射及び補充噴射を含む3段階に分割され、予備噴射は1段又は2段或いは3段とされ、最初の予備噴射は吸気行程で発生し、予備噴射が多段である場合、最後の予備噴射は圧縮行程における本噴射の前に発生し、第2段階の噴射は本噴射であり、本噴射は圧縮行程においてピストンが上死点に到達する前に発生し、拡散圧縮着火を実現するとともに、本噴射の位相によって点火時間が決定され、制御の原則として、放熱の中心を上死点後且つ可能な限り上死点寄りとし、第3段階の噴射は補充噴射であり、補充噴射は、動力行程においてピストンが上死点を通過した後のCA0〜60°で発生することを特徴及びステップとする請求項1記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項3】
エンジンの高速運転状態において多段噴射を実現しやすいよう、気筒ごとに2台の噴射器を用いて噴射するとともに、交互又は同時に気筒内に燃料を噴射することを特徴とする請求項1記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項4】
2種類の異なる燃料噴射器を用い、そのうち低圧燃料噴射器はインテークマニホールド又はインレットマニホールドに燃料を噴射し、高圧燃料噴射器は気筒内部に燃料を噴射することを特徴とする請求項1記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項5】
気筒ごとに2台の噴射器を用いて燃料を噴射する方法において、オクタン価の異なる2種類のガソリンを用い、一方の噴射器は高オクタン価ガソリンを噴射して高オクタン価ガソリンと空気を予混合し、他方の噴射器は低オクタン価ガソリンを噴射し、低オクタン価ガソリンの噴射位相は、圧縮行程においてピストンが上死点に到達する前の位置であり、低オクタン価ガソリンの噴射は本噴射であって点火作用を奏し、低オクタン価ガソリンは、拡散圧縮着火してから予混合された高オクタン価ガソリンの混合気に点火するとともに、燃焼の放熱中心が上死点後且つ上死点寄りとされ、
或いは、3段噴射法に基づき、第3段階の噴射を補充噴射として、動力行程において高オクタン価ガソリンを気筒内に補充噴射することを特徴とする請求項3記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項6】
燃料の噴射制御方法において、気筒ごとに2台の噴射器を用いてオクタン価の異なる2種類のガソリンを噴射するとともに、インレットマニホールド又はインテークマニホールドに燃料噴射器を追加して、燃料の予備噴射の一部として高オクタン価ガソリンを噴射することを特徴とする請求項5記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項7】
インテークマニホールド又はインレットマニホールドに燃料を噴射する方法を予備噴射として用い、燃料と空気を予混合することで低濃度の均一混合気を生成してから気筒に導入することを特徴とする請求項1記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項8】
(1)排ガスの一部を循環利用し、新鮮な空気と混合した後に気筒へ導入するか、或いは、排気行程の末端において排ガスの一部を気筒内に滞留させる技術対策、
(2)ターボチャージャー又は機械式過給機を用いて気筒の吸気圧力を高めるか、或いは、ターボチャージャーと機械式過給機を併用する技術対策、
(3)低温始動又は低負荷運転段階において、一般的な点火プラグで点火する燃焼制御方式を採用する技術対策、
(4)電気ヒーターを用いて低温始動時に空気を予熱する技術対策、
5)電気ヒーターを用いて燃料を予熱することで、燃料を噴射して気筒に導入する際の拡散をより容易とするとともに、本噴射においては、燃料を予熱してから噴射して気筒へ導入することで着火をより容易とする技術対策、
前記技術的対策のうち1つ又は複数を選択することを特徴とする請求項1記載の低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法に基づいて実現される内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
機械工業における内燃機関分野に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は成熟した技術であり、その構造には一般的に、気筒、ピストン、バルブ等の燃焼部品、リンク・クランクシャフト機構、及び給気・燃料供給系統、排気・排気ガス処理系統等が含まれ、当業者はその動作原理を熟知している。
【0003】
通常、内燃機関は点火式ガソリンエンジンと圧縮着火式ディーゼルエンジンに分類される。
【0004】
内燃機関の動力行程では、一般的に点火式又は圧縮着火式のうち一方の燃焼制御方式のみが用いられる。
【0005】
通常のガソリンエンジンでは均一混合気の点火による燃焼制御方式が用いられるが、点火プラグによる点火から混合気の燃焼完了までの火炎拡散速度が遅く、ノックが生じやすいほか、高圧縮比やリーンバーンの実現が難しく、熱効率が低いとの欠点がある。
【0006】
また、通常のディーゼルエンジンでは不均一圧縮着火による燃焼制御(拡散圧縮着火)方式が用いられるが、燃焼による排ガスに多量のスートが存在し、燃料無駄が発生するとの欠点がある。特に、負荷が大きい場合にはスート等の粒子状物質の排出問題が顕著となる。また、エンジンが大型化し、動作が騒々しい。
【0007】
ここ十数年、均一圧縮着火式のガソリンエンジンにおいて多点点火方式を採用するとともに、燃焼速度と燃焼室温度を制御してノックを回避しようとの研究がある。これによれば、エンジン圧縮比がある程度向上し、リーンバーンを実現可能とはなる。しかし、このような内燃機関は相対的に固定された狭い負荷範囲でのみ動作可能であり、負荷や回転速度が大幅に変動すると、熱効率の著しい低下やノックが生じてしまう。よって、応用範囲が狭く、現在のところ幅広く応用されるには至っていない。その上、このようなエンジンはリッターあたり出力が低い。
【0008】
これまでに、単一燃料を用い、気筒の1動力サイクル内において拡散圧縮着火による燃焼制御方式と均一圧縮着火による燃焼制御方式を併用するような内燃機関は存在していない。
【発明の概要】
【0009】
本願発明は、主に次の3つの部分からなる。
1.低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法と、このような燃焼制御方法を用いた内燃機関。
2.内燃機関の排ガス排出系統における保温方法。
3.真空ジャケット保温部材ユニット(排ガスダクトと排ガス処理機器の外側を包囲及び被覆するために用いられる)、真空層を有する排ガスダクト、排ガス駆動部位に真空層ケーシングを有するターボチャージャー、真空層ケーシングを有する排ガス三元触媒処理装置、真空層ケーシングを有するスート(除去)処理装置、を含む内燃機関の排ガス排出系統における保温製品。
【0010】
一、低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法
(一)低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法における技術的特徴及びステップ
気筒の圧縮比は12〜22、代表的な圧縮比は17である。オクタン価(リサーチ法、RON)69未満の低オクタン価ガソリン或いはガソリンに類似した燃料を使用する。代表的なオクタン価は40であり、単一燃料を使用する。
【0011】
燃料噴射は2段階に分けて行われ、第1段階が予備噴射、第2段階が本噴射である。予備噴射は1段噴射、2段噴射或いは多段噴射などいくつかの場合に分けられる。予備噴射が1段噴射の場合、噴射は内燃機関の吸気行程で発生し、気筒内又はインテークマニホールドに向けて燃料の一部を噴射して燃料と空気を予混合する。これによれば、燃料と空気の混合開始時間が早まるため、混合気の均一性が良好となる。予備噴射が多段噴射の場合、最初の予備噴射はやはり内燃機関の吸気行程で発生するが、2回目の噴射或いは3回目の噴射は、圧縮行程においてピストンが下死点を通過した後且つ本噴射の発生前に生じる。即ち、予備噴射が2回よりも多い場合には、最後の予備噴射は圧縮行程においてピストンが下死点を通過した後且つ本噴射の発生前に生じる。また、最初と最後の噴射を除いたその他の噴射は、これら2度の噴射の間に設定される。本噴射は圧縮行程において発生し、ピストンが上死点に接近する前に気筒内へ燃料の一部を噴射する。このときに噴射される低オクタン価ガソリン燃料は、気筒内の高温・高圧空気内で拡散して自然発火する。着火(点火)時間(位相)は、本噴射の時間(位相)を制御することで制御される。制御の原則として、燃焼における放熱の中心が動力行程の上死点後且つ上死点寄りの位置となるようにする。
【0012】
実際のところ、本噴射された燃料が導入されるのは低濃度の予混合気内であり、拡散圧縮着火により自然発火する混合気には、予備噴射により気筒内に導入されて空気と予混合されたガソリンの一部が含まれる。そして、自然発火した混合気の火炎が、予備噴射により気筒に導入されて空気と予混合されたガソリンのうち未着火部分の混合気に点火する。これによれば、点火強度が強く、且つ多点点火であることから、そもそも燃料濃度が低すぎて空燃比が高く、着火しにくい予混合気が点火されることになる。また、多点点火であることから予混合気の燃焼速度が速いにも拘わらず、予混合気の濃度が低いために爆燃やノックといった現象は発生しない。
【0013】
予混合気の爆燃やノックを回避するために、多段噴射による予混合方法を採用して予混合気の均一性を低下させ、予混合気内に濃度勾配や燃料拡散過程における乱流を混在させることが好ましい。予混合気内の燃料濃度の不均一性や、気筒内への燃料噴射導入の時間差により、早期に噴射されて気筒内に導入された燃料は空気との混合時間が長くなり、部分的に予備酸化及び放熱が発生するため、圧縮行程においてピストンが上死点を通過した後(本噴射による燃料着火前)に、燃料が予備噴射された混合気は準安定状態となる。そして、燃料が本噴射されて拡散圧縮着火すると、気筒内の温度と圧力が上昇し、予混合された希薄な燃料混合気内に多点点火が発生して、均一圧縮着火が実現される。これにより、本発明では、1動力サイクルに拡散圧縮着火(不均一圧縮着火)と均一圧縮着火が混在する内燃機関の混合燃焼制御方法が実現される。
【0014】
排ガスの一部を再利用する技術対策や、排ガスの一部を気筒に滞留させる技術対策を講じることで、予混合気の内部温度が上昇するとともに、部分ごとの温度の不均一性が存在することになる。これによれば、予混合燃料における内部濃度の不均一性と同様の作用が奏される。なお、排ガスの一部を再利用する場合の比率や制御方法は従来技術である。
【0015】
注意点:
実施過程での注意事項1:予備噴射における最後の噴射位相は上死点から十分に離間させ、燃料が過度に圧縮される高温・高圧領域での圧縮着火を回避するものとする。
実施過程での注意事項2:予備噴射による累積燃料濃度は自然発火濃度未満でなければならない。
【0016】
上記2つの注意事項の実現又は実施、及び本噴射時間の選択と決定は従来技術であり、台上試験によって関連の制御パラメータを取得又は決定可能である。本噴射時間の設定には各種気筒の燃焼要素が影響し、主な要素として、圧縮比、燃料オクタン価、回転速度、噴射量がある。
【0017】
燃料噴射量の設計(多段噴射の比率配分)については、噴射器における最低噴射量限界を考慮する必要がある。即ち、毎回の噴射は噴射器の最低噴射量限界以上とせねばならず、最低噴射量限界以上でない場合には噴射動作を実現不可能となる。
【0018】
本発明における制御の要点としては、前記準安定状態の予混合気が圧縮行程においてピストンが上死点を通過する前に自然発火することがないようにする。このような準安定状態の安定係数を増やすためには、万有特性試験によって、気筒における特定の各種燃焼要素条件下で何らかの燃料(オクタン価は特定)が自然発火する最低濃度データを取得すればよい。そして、これを元に余裕係数を設定し、実際の応用時における当該濃度の制御数値を低下させる。いうまでもなく、当該濃度が過度に低い場合、エンジンの動力(トルク)の出力性能は低下する。
【0019】
先に噴射されて気筒に導入されるガソリンは空気と予混合されるが、混合気の空燃比は、燃焼過程でノックが発生しない最小値を下限とし、点火後に順調に燃焼する最大値を上限とする。更に、予混合気の空燃比については、圧縮段階で自然発火することのないよう保証せねばならない。また、実際の制御値は、実験値を元に余裕分を加減する必要がある。
【0020】
本発明を実施する当業者に対して発明者が経験的に提供する技術要素としては、更に以下がある。
【0021】
エンジン動作が騒々しくならないよう、燃料のオクタン価が低下するに従って、各動力サイクルで消費される燃料総量に対する予備噴射の燃料累積量比率を低下させる必要がある。予備噴射燃料の累積量が多段噴射へ割り当て不可能となる場合には、1段噴射とする。他の条件が同一の場合、1段噴射による予備噴射では、位相が前寄りであるほど(噴射時間が本噴射時間から離れているほど)エンジン効率は向上するが、エンジン動作が騒々しくなるとの現象も生じやすくなる。一方で、予備噴射のタイミングを遅らせるとエンジン効率が低下してしまう。そこで、1段噴射による予備噴射では、圧縮行程においてピストンが上死点に到達する前且つ本噴射の前に噴射位相を設定してもよい。この場合、予備噴射の比率と量を適切に増加させられるにも拘わらずエンジン動作が騒々しくなりにくく、エンジン出力の向上に有利との利点がある。ただし、エンジンの熱効率が低下するとの欠点もあるため、当業者は、エンジン効率、エンジンの最大出力、エンジンの機械強度、排ガス排出特性といった4つの指標のバランスを総合的に取るよう、適切な制御パラメータと制御方案を選択する必要がある。盲目的に何らかの指標の先進性を追及するのではなく、必要な場合には適宜妥協せねばならない。また、負荷が大きい場合には、予備噴射する燃料の累積量が燃料総量の50%を超えないよう提案する。ただし、2種類の燃料を使用し、予備噴射に高オクタン価ガソリンを用いる場合を除く。実験データより、他の条件が同一である場合、多段噴射による予備噴射の効果は1段噴射時よりも良好であることが証明されている。換言すれば、条件が整っていれば、可能な限り予備噴射を多段噴射とするのがよい。
【0022】
低負荷運転時には、単一の拡散圧縮着火方式でエンジンの運転を制御する。即ち、予備噴射及び補充噴射なしで燃料の本噴射のみを発生させる。燃料噴射器による噴射には、噴射ごとに最低量が規定されている。従って、低負荷時には燃料噴射総量が少なくなり、2段又は多段噴射への割り当てが不可能となる。単一の低オクタン価ガソリンによる拡散圧縮着火方式及びガソリンエンジンについて、本発明の出願人は先に出願済みの特許権(特許番号:ZL201010227388.0、発明の名称:圧縮着火式低オクタン価ガソリンエンジン)を有している。
【0023】
以上の技術方案を補足又は最適化するものとして、以下の1又は複数の技術対策を採択可能である。
1.排ガスの一部を循環利用し、新鮮な空気と混合した後に気筒へ導入する。或いは、排気時に排ガスの一部を気筒内に滞留させる。
2.ターボチャージャー又は機械式過給機を用いて気筒の吸気圧力を高める。又は、ターボチャージャーと機械式過給機を併用する。
3.低温始動又は低負荷運転段階において、一般的な点火プラグで点火する燃焼制御方式を採用する。
4.低温始動時において、電気ヒーターで空気を予熱する。
5.燃料ヒーターを設け、例えば冬季に低雰囲気温度条件下で燃料を予加熱することで、燃料を噴射して気筒に導入する際の拡散をより容易とする。本噴射については、燃料を予熱してから気筒へ導入することで着火しやすくする。
【0024】
以上の5つの技術対策は従来技術である。
【0025】
上記の均一圧縮着火と拡散圧縮着火を混合した燃焼制御方法(独立請求項)に基づき、本発明では更に技術方案を拡大可能である。
【0026】
1.燃料噴射を3段階に分割する方法であって、具体的ステップとして、予備噴射、本噴射及び補充噴射を含む。予備噴射は1段又は2段或いは3段とされ、最初の予備噴射は吸気行程で発生する。予備噴射が多段である場合、最後の予備噴射は圧縮行程における本噴射の前に発生する。第2段階の噴射は本噴射である。本噴射は圧縮行程においてピストンが上死点に到達する前に発生し、拡散圧縮着火を実現する。点火時間は本噴射の位相によって決定される。また、放熱の中心を上死点後且つ可能な限り上死点寄りとすることを制御の原則とする。第3段階の噴射は補充噴射である。補充噴射は、動力行程においてピストンが上死点を通過した後のCA0〜60°で発生する。補充噴射の位相及び噴射比率は、燃焼室の構造及びエンジンの回転速度と関係する。補充噴射の噴射量は、一般的に総噴射量の0〜50%である。本噴射の噴射量は、一般的に総噴射量の20〜100%である。
【0027】
噴射器が燃焼室上部の中央位置に立設され、ピストン上部に凹溝を有する燃焼室構造の場合、代表的な燃料の補充噴射位相は、動力行程においてピストンが上死点を通過した後のCA1°か、ピストンが上死点を通過した後のCA41°とされる。また、噴射比率は通常50%を超えず、代表的な噴射比率は20%である。
【0028】
2.エンジンの高速運転状態において多段噴射を実現しやすいよう、気筒ごとに2台の噴射器を用いて燃料を噴射するとともに、同一燃料を使用する。従来技術では噴射器は1台であり、エンジンの高速運転時(例えば、回転速度が3000回転/分を超える場合)には、予備噴射において2段以上の多段噴射実現は困難であった(本噴射1回の保証を前提とする)。
【0029】
3.各気筒が2台の噴射器で燃料を噴射し、オクタン価の異なる2種類のガソリン、例えば、オクタン価(RON)がそれぞれ45及び93の2種類のガソリンを使用する。このうち、一方の噴射器は高オクタン価ガソリンを噴射して、高オクタン価ガソリンと空気を予混合する。また、他方の噴射器は本噴射として低オクタン価ガソリンを噴射する。低オクタン価ガソリンの噴射位相は、圧縮行程においてピストンが上死点に到達する前の位置である。低オクタン価ガソリンは拡散圧縮着火してから、予混合された高オクタン価ガソリンの混合気に点火する。
【0030】
4.オクタン価の異なる2種類のガソリン、例えば、オクタン価(RON)がそれぞれ50及び97の2種類のガソリンを使用するとともに、噴射圧力が異なる2種類の燃料噴射器を用いる。低圧噴射器を用い、予備噴射としてインテークマニホールド又はインレットマニホールドに燃料を噴射する。本噴射の噴射器、又は多段予備噴射における一部の噴射器及び本噴射の噴射器として、高圧噴射器を用いて気筒内部に燃料を噴射する。
【0031】
5.オクタン価の異なる2種類のガソリンを使用するとともに、気筒ごとに2台の噴射器を用いて燃料を噴射し、予備噴射として高オクタン価ガソリンを、本噴射として低オクタン価ガソリンをそれぞれ噴射する。同時に、低圧燃料噴射器を更に1台用い、予備噴射の一部としてインテークマニホールド又はインレットマニホールドに高オクタン価ガソリンを噴射する。気筒外に予備噴射を設定することの利点としては、予備噴射において低圧及び高圧の2種類の噴射器を有することで、予備噴射の回数を3回又はそれ以上に増やすことが可能となる。このうち、低圧予備噴射は1回とし、燃料は空気と混合されてから共に気筒へと導入される。また、高圧予備噴射は2回とし、高圧噴射の全てを圧縮行程で発生させるか、或いは、1回を吸気行程で、もう1回を圧縮行程で発生させるかを噴射器の性能に応じて設定する。又は、2回の高圧予備噴射全てを圧縮行程で発生させる。
【0032】
6.ノックや動作の騒々しさを予防及び回避する技術対策として、各気筒の気筒壁にノック検出センサ(従来技術)を取り付ける。ノック検出時(従来技術。連続して4回又は6回のノックを検出した場合にノックの成立を確認する)には、本噴射の位相(時間)を遅延させる方法、又は予備噴射の噴射量を減少させる方法、又はこれら2種類の方法を併用する方法によって、ノック現象を解消する。
【0033】
前記均一圧縮着火と拡散圧縮着火を混合した燃焼制御方法、及び上記1〜6の拡大技術方案による内燃機関の製造又は変更は、従来技術である。
【0034】
注意点:
気筒の燃焼要素としては、吸気圧力(吸気量)、吸気温度、雰囲気温度、タンク温度、エンジンオイル温度、回転速度、点火プラグの点火位相角(点火時間)、噴射量(各回)、噴射圧力、噴射位相角、圧縮比、トルク出力、ノックの出現有無を含むが、これらに限らない。パラメータには制御可能なものもあれば、機器固有のパラメータのため制御や変更は不可能であるが、制御パラメータの選択に重要な影響を及ぼすものもある。
【0035】
異なる条件で噴射され、気筒に導入されることで圧縮着火を実現可能な(本噴射における)低オクタン価ガソリンの最低量は台上試験又は従来技術によって決定可能であるが、これに創造的労働は必要とされない。異なる条件(各種動作状況、負荷)で噴射され、気筒に導入される予混合ガソリンの空燃比における上限と下限は台上試験又は従来技術によって決定可能であるが、これについては創造的労働を必要としない。
【0036】
本明細書でいうところの「給気」とは空気を供給することである。また、空燃比とは空気と燃料の比率である。本発明に関連する内燃機関の構造、動作原理等はいずれも当業者が熟知する従来技術のため、本明細書では詳述しない。
【0037】
(二)低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法と従来技術との違い
1.低オクタン価ガソリンによる圧縮着火と多段燃料噴射とを併用する方法又は内燃機関との違い
低オクタン価燃料を使用するとともに、拡散圧縮着火による方法を強制点火対策として用いることを前提に、従来技術の燃料噴射は1段噴射であるか、多段噴射であっても予備噴射のない本噴射と補充噴射のみであった。このような噴射方式の違いから、エンジン性能に大きな違いが存在する。
【0038】
参考特許文献:
出願番号:2012103811406.X、出願人:清華大学、発明の名称:低オクタン価ガソリン類燃料の多段予混合による圧縮着火方法。
なお、参考特許文献における「予混合」とは、噴射ごとに噴射の開始から着火の開始までに一定の時間間隔が存在し、この時間間隔内に燃料が空気中に拡散して空気と混ざり合うことをいう。別の場面において、参考特許の発明者はこのような「予混合」を「部分予混合」とも称しており(「低オクタン価ガソリンの部分拡散圧縮着火における燃焼及び排出特性」、清華大学紀要『自動車の安全と省エネ』第2巻第4期、2011年12月を参照。中国内燃機関学会 燃焼省エネ浄化分科会2011年学術年会出席時の本論文の標題は「低オクタン価ガソリンの部分予混合による圧縮着火燃焼方式の実験研究」。添付書類を参照)、本願の予混合とは異なる。
【0039】
2.ガソリンの均一圧縮着火(HCCI)との違い
まず、使用燃料が異なる。本発明では低オクタン価ガソリンを使用するのに対し、均一圧縮着火では高オクタン価ガソリンを使用するうえ、オクタン価が高いほどよいとされる。第二に、気筒圧縮比が異なる。本発明では気筒圧縮比が18〜22まで到達可能であるのに対し、均一圧縮着火技術ではノックに配慮して、気筒圧縮比は通常12〜15程度である。第三に、点火の確実性が異なる。ガソリンの均一圧縮着火技術では、燃料と空気を予混合し、排ガスの一部を再利用することで吸気温度を上昇させる。また、吸気行程と圧縮行程において燃料が予備酸化して放熱し、圧縮行程でピストンが上死点を通過した後に予混合気の自動点火が実現される。このような方法は、点火の確実性に劣る。これに対し、本発明では、本噴射した燃料を空気中で拡散圧縮着火させる方法で強制的に点火し、強制点火による火炎が均一予混合気に点火する。また、均一混合気内で多点点火することで、均一圧縮着火が実現される。第四に、エンジンパフォーマンスが異なる。本発明における内燃機関の動作負荷は幅広く、負荷と回転速度を限界値の範囲内で任意に変動させられるにも拘わらず、ノックが発生しない。一方、均一圧縮着火による内燃機関では、動作負荷を狭い範囲内でしか変動させられない。現在のところ、均一圧縮着火式のガソリンエンジンは、自動車の直接的な動力装置としては応用できていない。
【0040】
(三)低オクタン価ガソリンによる均一圧縮着火と拡散圧縮着火とを混合した燃焼制御方法の技術的利点
1.エンジンの最大出力が向上する。気筒内の空気利用効率が向上するため、内燃機関のリッターあたり出力が単一の拡散圧縮着火制御方法を上回るほか、単一の均一圧縮着火制御方法を上回る。よって、同一排気量の場合、エンジンの最大出力トルク及び最大出力が増加することになる。
【0041】
理論上は、このようなエンジンは最大出力が同一排気量のディーゼルエンジンを上回る一方で、燃費消費はディーゼルエンジンを下回るはずである。
【0042】
2.排ガス中のスート排出が減少する。燃料が予備噴射と本噴射に分割されるため、どの噴射の噴射量も単一の拡散圧縮着火による燃料噴射量に比べ少なくなる。よって、1段噴射による拡散圧縮着火制御方法と比較して、燃料を本噴射して着火する際に、噴射霧化された燃料の中心領域における濃度が低下することから、排ガス中のスート含有量が下がり、エンジンの燃料消費率が低下する。
【0043】
3.点火の確実性がHCCIよりも優れる。単一のガソリン均一圧縮着火技術(HCCI)と比較して、エンジンの回転速度と負荷を最高回転速度及び最大出力の範囲内で任意に調整可能であるにも拘わらず、ノックが生じにくい。更に、ガソリンの均一圧縮着火技術における大部分の利点はそのまま維持される。
【0044】
4.予備噴射燃料のオクタン価範囲が広い。ガソリンの均一圧縮着火技術(HCCI)では高オクタン価ガソリンを使用せねばならず、通常は93以上(北京地域では92以上)のガソリンオクタン価が求められる。これに対し本発明では、予備噴射されるガソリンのオクタン価を−30〜105の範囲で任意に選択可能である。いうまでもなく、エンジンは何らかの特定のオクタン価燃料について制御パラメータを選択する必要がある(万有特性試験による)。
【0045】
二、内燃機関の排ガス排出系統を保温する方法及びその保温製品
圧縮着火及びリーンバーン制御方法を用いる内燃機関では、排ガス温度が点火式ガソリンエンジンに比べて低い一方、ターボチャージャーにおいて高い排ガス圧力が必要とされる。排気系統の保温は排ガス圧力を高圧に維持するために有利であるほか、タービンの動作効率にも有利となる。排ガス三元触媒処理装置(排ガス中の一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物の浄化に用いられる)及びスート(除去)処理装置においても、排ガスが高温であることが求められる。通常は排ガス温度が500℃を超えなければ、排ガス中の一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物及びスートは効果的に除去できない。よって、関連の内燃機関における排ガス排出多岐管、ターボチャージャーの排ガス駆動部位(圧縮空気による動作部位を除く)、三元触媒処理装置、スート処理装置、及び内燃機関の筐体から上記3つの主要装置までの接続配管、三元触媒処理装置又はスート処理装置に続く一部配管を保温処理することは極めて必要である。
【0046】
常用される保温方法としては、耐高温又は防火性の材料を排ガス排出系統に巻き付けて包囲する。なお、具体的な保温方法及び保温材は従来技術である。
【0047】
(一)内燃機関の排ガス排出系統を保温する方法の技術的特徴及びステップ
内燃機関の排ガス排出系統における全てのダクト及び機器について、排気多岐管の排ガス入口から大気への排ガス排出出口まで、保温対策に適した部位を保温処理することで、熱量の喪失や、エンジンルームへの熱量拡散によるエンジンルームの高温化を防止する。保温を要する部位については保温材を用いて被覆及び包囲する。
【0048】
或いは、内燃機関における排ガス排出多岐管、ターボチャージャーの排ガス駆動部位、三元触媒処理装置、スート処理装置、及び内燃機関の筐体から上記3つの主要装置までの接続配管、三元触媒処理装置又はスート処理装置に続く一部配管をそれぞれ保温処理する。
【0049】
又は、排気多岐管に接続される内燃機関の筐体部位を同時に保温処理する。
【0050】
排ガス系統のホースについては、軟性の保温材を用いて被覆及び包囲することで保温処理する。
【0051】
本発明の保温材として適用されるものには、ガラスクロスと充填材の複合保温材、バサルトファイバー材料、ケイ酸塩発泡材等が含まれるがこれらに限らない。保温材には、耐高温、耐火、良好な熱安定性が求められる。具体的な保温材の選択方法及び具体的な保温操作方法は従来技術である。
【0052】
(二)内燃機関の排ガス排出系統を保温する方法と従来技術との違い
現在一般的とされる方法では、金属シート材料で排気系統の位置を部分的に遮蔽しており、断熱又は保温効果に劣る。本発明では、熱伝導係数の低い材料を保温材として選択するとともに、遮蔽にとどまることなく、排ガスダクトと装置を被覆及び包囲するよう求めている。
【0053】
(三)内燃機関の排ガス排出系統を保温する方法の技術的利点
内燃機関の排ガス熱量がエンジンルームへ拡散されるとの事態が防止及び低減されるため、エンジンルームにおけるプラスチック・ゴム製品の劣化や着火事故が回避される。結果、ターボチャージャーの駆動により多くの排ガスエネルギーを使用可能となる。圧縮着火式燃焼制御方法による内燃機関の場合、空燃比が高く、排ガス温度が低いことからターボチャージャーの駆動力がやや不足しているため、二重の利点を有することになる。
【0054】
三、内燃機関の排ガス排出系統における保温製品
1.本発明は、内燃機関の排ガス排出系統における保温製品を設計する。当該製品は、金属シート材料によって真空ジャケットユニットを作製し、このような真空ジャケットユニットが、保温を要する排気ダクトや装置の外表面を被覆又は包囲するために用いられることを特徴とする。排ガス排出ダクトやターボチャージャー等の装置の外形構造の複雑さに対しては、保温ジャケットを分割し、ダクト方向に沿って連続的に接続して取り付ける。装着不可能な保温ジャケットは2つ又は複数の部材に分割し、これらの部材を、保温を要するダクト又は装置の外層表面に組み付けたり結合させたりすることで、保温対象機器の外表面を全体的に被覆する。保温ジャケットの組み立て部材には、自動車やその他施設に排ガス排出系統を取り付けたり固定したりするために必要なホルダ又はハンギングロッド用の位置として、隙間や空洞を予め残しておく。保温ジャケット又は保温ジャケットの部材は、箍、ボルト及びナットにより固定接続されるか、或いは、その他従来技術の方法によって固定又は接続される。
【0055】
具体的な実施過程においては、排ガス排出系統における一部部位、例えばスート処理装置に続く全ての排ガス系統部品やターボチャージャーに続く(ターボチャージャーは含まない)全ての排ガス系統部品に対する保温を放棄してもよい。
【0056】
2.金属シート材料を用いて真空ジャケットを作製し、排ガス排出系統の外側を被覆するとの保温方法に基づいて、本発明は以下を特徴とする内燃機関の真空ジャケット付き排ガス排出管を設計した。即ち、当該排ガス排出管は密封された積層ダクト構造によって排ガスを保温する。ダクト製造過程で積層を真空引きするとともに、ダクト使用過程では積層内部を相対真空に維持し、ダクト内側に排ガスを流動させる。真空断熱作用によって、排ガスからダクト内壁に伝わる熱量はダクト外壁には伝わりにくい。これによれば、排ガスダクトの内壁と外壁の間の真空によって断熱作用が奏される。
【0057】
真空ジャケット付き排ガス排出管としては、排ガス排出多岐管、サイレンサ、及び排ガス系統の各種機器、部品を接続するダクトを含むがこれらに限らない。
【0058】
具体的な実施過程においては、排ガス排出系統における一部部位、例えばスート処理装置に続く全ての排ガス系統部品やターボチャージャーに続く(ターボチャージャーは含まない)全ての排ガス系統部品に対する保温を放棄してもよい。
【0059】
3.前記内燃機関の排ガス排出系統における保温方法に基づいて、本発明は、排ガス駆動タービン部位の外表面に金属シート材料からなる真空ジャケットケーシングを追加するとともに、積層内部を相対真空に維持し、積層を利用して真空保温することを特徴とするターボチャージャーを設計した。
【0060】
4.前記内燃機関の排ガス排出系統における保温方法に基づいて、本発明は、外表面に金属シート材料からなる真空ジャケットケーシングを追加するとともに、積層内部を相対真空に維持し、積層を利用して真空保温することを特徴とする内燃機関における排ガス三元触媒処理装置を設計した。
【0061】
5.前記内燃機関の排ガス排出系統における保温方法に基づいて、本発明は、外表面に金属シート材料からなる真空ジャケットケーシングを追加するとともに、積層内部を相対真空に維持し、積層を利用して真空保温することを特徴とする内燃機関におけるスート処理装置を設計した。
【0062】
排ガス系統における真空ジャケット保温部材ユニット又は真空層付き排ガスダクト、及び真空層ケーシングを有するターボチャージャー、排ガス三元触媒処理装置、スート処理装置を生産及び製造する方法は従来技術である。通常は大気雰囲気下で前処理を行い、真空層の密封位置に切欠き又は隙間を残しておく。続いて、ワークを真空環境に配置して、ジャケット又は積層内部を相対真空状態とした後、真空環境下で前記切欠き又は隙間を溶接して密封する。
【発明を実施するための形態】
【0063】
実施例1:4気筒4ストロークのターボチャージャー付きガソリンエンジンであって、気筒の直径76mm、排気量1.5L、圧縮比16.8、ガソリン噴射圧力12MPa、噴射器の最小噴射パルス幅400μsとする。また、オクタン価50(リサーチ法、RON)の低オクタン価ガソリンを使用する。回転速度が2000回転/分の場合に吸気圧力を240KPaとしたとき、最初の予備噴射位相は吸気行程においてピストンが上死点を通過した後のCA(CA:Crank Angle、クランク角)60°であり、2回目の予備噴射位相は圧縮行程においてピストンが下死点を通過した後のCA40°、本噴射(3回目の噴射)の位相は圧縮行程においてピストンが下死点を通過した後のCA130°(ピストンが上死点に到達する前のCA50°)である。また、3回の噴射の比率をそれぞれ20%、20%、60%とし、総パルス幅を2200μs、空燃比を52:1とする。エンジンのトルク出力は93N・M、燃料消費率は205g/kW/時とする。
【0064】
本噴射(3回目の噴射)燃料が気筒に入ると、ピストンが上死点に接近し、気筒内の温度と圧力が上昇して燃料の自然着火温度を上回る。ピストンが上死点を通過すると、燃料は拡散過程において自然着火し、拡散圧縮着火を実現する。均一予混合気が拡散圧縮着火の火炎によって点火される際には、最初の予備噴射燃料と空気の混合については均一性が良好であるが、2回目の予備噴射燃料と空気の混合については均一性が良好でないことから、2度の予備噴射燃料と空気の混合による相対的に均一な混合気には燃料濃度の不均一性が存在している。よって、均一混合気には点火後の燃焼速度に不均一性が存在することになり、これこそが本発明で期待される好ましい結果である。同様に、均一混合気には燃料濃度の不均一性が存在することから、気筒内の温度と圧力が燃焼(拡散圧縮着火と均一点火)によって更に上昇すると、均一(希薄)混合気のうち燃料濃度の高い位置が真っ先に自然着火温度に達して(混合気濃度が低いほど自然着火に要する温度条件は高くなる)、均一希薄燃料内に多点自然着火が形成される。続いて、燃料濃度の低い位置の均一混合気が着火し、ガソリンの均一圧縮着火が実現される。全体的な燃焼ステップとしては、本噴射燃料の拡散圧縮着火(少量の予備噴射燃料を含む)−―予備噴射燃料の点火――予備噴射燃料の均一圧縮着火がある。このような均一圧縮着火の点火時間は拡散圧縮着火の時間により制御される強制点火であるため、確実性が高い。よって、ガソリンの均一圧縮着火技術(HCCI)よりも優位性がある。
【0065】
冬季に冷間始動する際には、電気ヒーター(又は電熱ロッド)で気筒内の圧縮空気を加熱してもよい。或いは、点火プラグと点火燃焼制御方式によってエンジンを予熱しつつ、冷間運転を維持する。
【0066】
実施例2:4気筒4ストロークで圧縮比18の内燃機関であって、気筒の直径82.5mm、ピストンストローク97.6mm、気筒排気量2.0Lとし、オクタン価93のガソリンを予備噴射燃料として用いるとともに、オクタン価40の低オクタン価ガソリンを本噴射燃料として用いる。気筒ごとに燃料噴射器を2台設け、燃料噴射圧力をいずれも20MPaとする。一方の燃料噴射器(A)では93号ガソリンを、他方の燃料噴射器(B)では40号ガソリンを噴射する。インレットマニホールドにおけるターボチャージャーのコンプレッサー出口位置には低圧燃料噴射器が設けられ、インレットマニホールドに対し93号ガソリンを噴射する。噴射圧力は600KPa、インレットマニホールド内の空燃比は146とする。また、当該内燃機関の具体的動作ステップは以下である。
1.気筒外予備噴射:吸気行程においてピストンが上死点から下死点に運動することで、空燃比146の93号ガソリンと空気との予混合気を吸引する。
2.気筒内予備噴射:圧縮行程において、エンジンの低速段(回転速度が3000回転/分以下)で噴射器(A)が気筒内に93号ガソリンを2度噴射する。なお、空燃比はそれぞれ140及び73とされる(エンジンの高速段では、回転速度3000回転/分の場合に気筒内へ93号ガソリンを1度噴射する)。
3.本噴射:圧縮行程においてピストンが上死点に到達する前に、燃料噴射器(B)が気筒内に40号ガソリンを噴射する(例えば、回転速度が2800回転/分の場合の噴射位相はCA77°)。なお、空気とこのとき噴射される燃料との比率は70:1とする。本噴射された40号ガソリン燃料は、気筒内の高温・高圧の混合気内で拡散して自然発火する。自然発火する混合気には、先に噴射されて気筒に導入され、予混合された93号ガソリンが一部含まれる。自然発火した混合気の火炎は、(前後3回にわたって)予備噴射されて気筒に導入された93号ガソリンの予混合気に点火する。点火強度が強く、且つ多点点火であることから、予混合気の燃焼速度はたいへん速いが、予混合気の濃度が低いことから、爆燃やノックといった現象が生じることはない。
【0067】
ターボチャージャーを用いてインレットマニホールドに高圧空気を供給する。ここで、過給範囲は100〜240kPaとする。
【0068】
冷間始動及び低負荷運転の段階では、一般的な点火プラグによる点火燃焼制御方式を用いるとともに、93号ガソリンを単一燃料として用い、燃料噴射器(A)から当量比1を基礎空燃比として、一般的な制御方法により吸気行程(又は圧縮行程で噴射するか、或いは燃料濃度を適切に上昇させる。特に冬季冷間始動時。従来技術)で噴射して気筒へ導入し、点火プラグを用いて均一予混合気に点火する。
【0069】
実施例3:ステンレスシート材料によって真空ジャケットを作製し、保温を要する排気ダクト又は装置の外表面を被覆又は包囲する。ダクト部位には断面が半円環形状の真空ジャケットダクトを2つ用い、排ガス排出ダクトの外側を被覆するとともに、箍を用いて真空ジャケットを排ガス排出ダクト上に固定する。排気多岐管部位には上下2つの真空ジャケットを用い、排ガス多岐管の外側を覆うように組み合わせることで、排ガス多岐管を緊密且つ完全に被覆する。類似の方法を用いて、ターボチャージャー、三元触媒装置、スート処理装置等の排ガス処理装置を被覆及び保温処理する。
【0070】
ターボチャージャーの排ガス駆動部位については、保温ジャケットユニットが半円環形状の2つの真空ジャケットからなり、半円環形状の2つの真空ジャケットを組み合わせることで1つの円環形状を形成して、ターボチャージャーの排ガス駆動部位の外側を被覆する。2つの半円環は互いに独立しており、中間層が真空とされる。積層の真空度が高いほど、断熱・保温効果は良好となる。
【0071】
ステンレス製真空ジャケットの生産方法は従来技術である。また、ステンレス材料の代わりに、その他低コストの金属シート材料を用いて真空ジャケットを作製してもよい。
【0072】
実施例4:ターボチャージャーの排ガス駆動部位における真空層の製造方法については、当該部品の鋳造過程において、外表面に積層(2層)構造を追加し、真空引き用の小さい隙間又は孔を残しておく。鋳造物の後処理過程では、真空環境下で鋳造物の積層を真空又は相対的な真空状態としてから、機械加工によって小さい隙間又は孔を密封する。
【0073】
以上の実施例で列挙したエンジンのパラメータ及び制御パラメータは運転状態の一例にすぎず、本発明の実用性を例示により証明するとともに、当業者が本発明を実施する際の指南及び参考とするものであって、本発明の全パラメータ及び状態というわけではない。本発明が包含する内燃機関としては、4ストローク、2ストローク、6ストロークの内燃機関が含まれるが、これらに限らない。
【0074】
また、実施例で列挙した加工方法は実施方法の一例にすぎず、当業者が本発明を実施するための具体的方法はこれに限らない。
【0075】
本発明で言及した低オクタン価ガソリンとは、一般的にはオクタン価69以下のガソリンと定義される。また、本発明で言及した高オクタン価ガソリンとは、一般的にはオクタン価69以上(69を含まない)のガソリンと定義される。本発明の実施過程において、予混合気として予備噴射される高オクタン価ガソリンのオクタン価の指標は、この一般的な定義に制限されない。