(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力を消費して水を揚げる揚水運転を行う複数の揚水部と、流下する水により発電する発電運転を行う発電部と、を有する揚水発電設備を制御する揚水発電制御システムであって、
前記揚水部及び前記発電部の動作を制御することで、前記揚水運転での消費電力量と前記発電運転での発電量との合計値を制御する電力制御部を有し、
前記電力制御部は、
前記合計値を予め定めた所定範囲内で変動させる際には、前記揚水部が揚水する弁の開度を所定開度とする定格運転で前記揚水運転を行わせつつ、前記発電部が水を流下させる弁の開度を変化させて前記発電運転を行わせることで、前記発電量を変化させる揚水定格制御を実行し、
前記合計値を前記所定範囲外まで変動させる際には、前記揚水部を作動開始又は停止させることで、前記消費電力量を変化させる揚水台数制御を実行し、
前記合計値を時間経過と共に直線状に低下させる際に、
前記揚水定格制御によって、前記発電部の弁の開度を小さくすることで前記発電量を直線状に低下させて、前記合計値を前記所定範囲の下限値まで直線状に低下させ、
前記合計値が前記下限値に到達したら、前記揚水台数制御によって、作動していない前記揚水部の弁の開度を徐々に大きくして作動開始させることで、前記消費電力量を時間経過と共に曲線状に上昇させ、かつ、前記揚水部の弁の開度を徐々に大きくする際に、前記発電部の弁の開度を大きくして前記発電量を曲線状に上昇させることで、前記合計値を直線状に低下させる、揚水発電制御システム。
前記電力制御部は、前記揚水台数制御において、一部の前記揚水部に前記定格運転を行わせつつ、他の前記揚水部を作動開始又は停止させる、請求項1に記載の揚水発電制御システム。
電力を消費して水を揚げる揚水運転を行う複数の揚水部と、流下する水により発電する発電運転を行う発電部と、を有する揚水発電設備を制御する揚水発電の制御方法であって、
前記揚水部及び前記発電部の動作を制御することで、前記揚水運転での消費電力量と前記発電運転での発電量との合計値を制御する電力制御ステップを有し、
前記電力制御ステップにおいて、
前記合計値を予め定めた所定範囲内で変動させる際には、前記揚水部が揚水する弁の開度を所定開度とする定格運転で前記揚水運転を行わせつつ、前記発電部が水を流下させる弁の開度を変化させて前記発電運転を行わせることで、前記発電量を変化させる揚水定格制御を実行し、
前記合計値を前記所定範囲外まで変動させる際には、前記揚水部を作動開始又は停止させることで、前記消費電力量を変化させる揚水台数制御を実行し、
前記合計値を時間経過と共に直線状に低下させる際に、
前記揚水定格制御によって、前記発電部の弁の開度を小さくすることで前記発電量を直線状に低下させて、前記合計値を前記所定範囲の下限値まで直線状に低下させ、
前記合計値が前記下限値に到達したら、前記揚水台数制御によって、作動していない前記揚水部の弁の開度を徐々に大きくして作動開始させることで、前記消費電力量を時間経過と共に曲線状に上昇させ、かつ、前記揚水部の弁の開度を徐々に大きくする際に、前記発電部の弁の開度を大きくして前記発電量を曲線状に上昇させることで、前記合計値を直線状に低下させる、揚水発電の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0019】
図1は、本実施形態に係る揚水発電システムの模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る揚水発電システム1(揚水発電設備)は、上ダム10と、下ダム12と、発電システム13と、揚水発電制御システム40とを有する。上ダム10は、水Wを貯留するダムであり、下ダム12は、上ダム10よりも鉛直方向下方に設けられて、水Wを貯留するダムである。揚水発電システム1は、揚水発電制御システム40により発電システム13を制御することで、揚水運転及び発電運転を行う。揚水運転は、電力を消費して後述する揚水発電部26を作動させることで、下ダム12の水Wを上ダム10に向けて揚げる運転である。また、発電運転は、上ダム10の水Wを下ダム12に向けて流下させることで後述する揚水発電部26を動作させて、発電を行う運転である。また、揚水発電システム1は、系統Tに電気的に接続されており、電力を消費する際には、系統Tから受電して、発電する際には、系統Tに配電する。
【0020】
図2は、需要電力と供給電力とのバランスを示すグラフである。揚水発電は、例えば揚水量や流下水量をコントロールすることで、発生又は消費させる電力を、柔軟に調整することができる。従って、
図2に示すように、揚水発電は、需要電力と供給電力とのバランスを取るために用いられる。
【0021】
図2に示すように、系統からの需要電力P
Dは、逐次変化する。供給電力は、その需要電力P
Dに合わせて系統に供給される必要がある。通常、供給電力は、互いに異なる種類の発電設備からの電力を積み上げて調整される。
図2の例では、供給電力P
S1、P
S2、P
S3、P
S4が積み上げられている。供給電力P
S1は、例えば原子力発電、水力発電、太陽光発電などによる電力であり、供給電力P
S2は、例えば石炭火力発電による電力であり、供給電力P
S3は、例えばLNG(液化天然ガス)火力発電による電力であり、供給電力P
S4は、例えば石油火力発電による電力である。しかし、これらの供給電力だけでは、供給電力の変動に追従できない場合があり、その場合に揚水発電が用いられる。すなわち、供給電力P
S1、P
S2、P
S3、P
S4を積み上げた供給電力と需要電力P
Dとの差分の電力を差分電力ΔPとすると、揚水発電は、この差分電力ΔPを系統Tに供給又は消費可能である。
図2に示すように、積み上げた供給電力が需要電力P
Dより低い場合は、差分電力ΔPは正の値となり、揚水発電の発電運転により、差分電力ΔP分の電力を系統Tに供給する。一方、積み上げた供給電力が需要電力P
Dより高い場合は、差分電力ΔPは負の値となり、揚水発電の揚水運転により、差分電力ΔP分の電力を系統Tから受電して、消費する。
【0022】
このように、揚水発電は、差分電力ΔP分の調整、いわゆるΔkW市場に用いられる。ただし、本実施形態に係る揚水発電システム1は、このような差分電力ΔP分の調整に用いられることに限られない。
【0023】
以下、揚水発電システム1についてより詳細に説明する。
図3は、本実施形態に係る揚水発電システムの模式図である。
図3に示すように、発電システム13は、導水路14A、14Bと、導水路16A、16B、16C、16Dと、導水路18A、18Bと、サージタンク22、24と、揚水発電部26A、26B、26C、26Dとを有する。導水路14A及び導水路14Bは、上ダム10に接続される水路であり、互いに接続されず並列の水路となっている。導水路16Aは、導水路14Aに接続される水路であり、導水路14Aとの接続箇所から鉛直方向下方に延在する。導水路16Aには、揚水発電部26Aが設けられている。導水路16Bは、導水路14Aに接続される水路であり、導水路14Aとの接続箇所から鉛直方向下方に延在する。導水路16Bには、揚水発電部26Bが設けられている。導水路16Aと導水路16Bとは、導水路14Aから分岐されて並列に延在する水路である。導水路18Aは、導水路16A、16Bの鉛直方向下方側の端部に接続される水路である。導水路18Aは、導水路16A及び導水路16Bの接続箇所と反対側の端部が、下ダム12に接続されている。すなわち、導水路16Aと導水路16Bとは、導水路18Aとの接続箇所で合流して、一本の水路である導水路18Aとなる。
【0024】
導水路16Cは、導水路14Bに接続される水路であり、導水路14Bとの接続箇所から鉛直方向下方に延在する。導水路16Cには、揚水発電部26Cが設けられている。導水路16Dは、導水路14Bに接続される水路であり、導水路14Bとの接続箇所から鉛直方向下方に延在する。導水路16Dには、揚水発電部26Dが設けられている。導水路16Cと導水路16Dとは、導水路14Bから分岐されて並列に延在する水路である。導水路18Bは、導水路16C、16Dの鉛直方向下方側の端部に接続される水路である。導水路18Bは、導水路16C及び導水路16Dの接続箇所と反対側の端部が、下ダム12に接続されている。すなわち、導水路16Cと導水路16Dとは、導水路18Bとの接続箇所で合流して、一本の水路である導水路18Bとなる。
【0025】
このように、導水路16A、16Bは、導水路14Aで分岐しており、導水路16C、16Dは、導水路14Bから分岐している。ただし、導水路16A、16B、16C、16Dは、それぞれ揚水発電部26A、26B、26C、26Dが設けられた別の水路であればよく、上記で説明した分岐する構成でなくてもよい。以下、導水路16A、16B、16C、16Dを互いに区別しない場合は、導水路16と記載する。また、揚水発電部26A、26B、26C、26Dを互いに区別しない場合は、揚水発電部26と記載する。本実施形態では、導水路16は、4つ設けられているが、揚水発電部26がそれぞれ設けられていれば、その数は任意である。すなわち、揚水発電部26は、複数設けられていればその数は任意である。また、以下、導水路14A、14Bを互いに区別しない場合は、導水路14と記載し、導水路18A、18Bを互いに区別しない場合は、導水路18と記載する。
【0026】
サージタンク22は、導水路14に設けられるタンクである。サージタンク22は、導水路14を流れる水Wの一部を貯留することで、サージングを抑制する。また、サージタンク24は、導水路18に設けられるタンクであり、導水路18を流れる水Wの一部を貯留することで、サージングを抑制する。
【0027】
揚水発電部26は、導水路16に設けられる装置である。揚水発電部26は、揚水運転の際に、下ダム12の水Wを、導水路16を通して上ダム10(導水路14)に向けて揚げる。また、揚水発電部26は、発電運転の際に、上ダム10の水を、導水路16を通して下ダム12(導水路18)に向けて流下させる。このように、揚水発電部26は、揚水運転と発電運転の双方を実施可能であり、揚水部と発電部とを構成する。言い換えれば、揚水運転を行っている揚水発電部26が、揚水部に該当し、発電運転を行っている揚水発電部26が、発電部に該当する。ただし、揚水発電部26は、揚水運転と発電運転とのいずれかのみを実施可能な装置であってよい。この場合、複数の揚水発電部26のうち一部が、揚水運転の可能な揚水部であり、他の一部が、発電運転の可能な発電部となる。
【0028】
揚水発電部26は、揚水発電ユニット30と、弁32とを有する。揚水発電ユニット30は、揚水運転時には、揚水発電制御システム40の制御により、系統Tから電力が供給されることで作動(回転)して、導水路16内の水Wを上ダム10に向けて揚げる。また、揚水発電ユニット30は、発電運転時には、揚水発電制御システム40の制御により、導水路16内を下ダム12に向けて流下する水Wにより作動(回転)することで、発電する。本実施形態では、揚水発電ユニット30は、図示しないポンプ水車と発電電動機とを有する。揚水発電ユニット30は、揚水発電時には、発電電動機が系統Tより受電してポンプ水車を回転させることで、揚水を行う。また、揚水発電ユニット30は、発電運転時には、流下された水Wによりポンプ水車が逆回転することで発電電動機を動かし、発電電動機が発電する。弁32は、例えばガイドベーンなど、揚水発電制御システム40の制御により開閉可能な弁である。弁32は、開度を調整することで、導水路16を流れる水量を調整することができる。
【0029】
揚水発電制御システム40は、以上説明した発電システム13を制御するシステムであり、制御装置42と、検出部46とを有する。検出部46は、揚水発電部26毎に設けられている。検出部46は、揚水発電部26の発電量及び消費電力量を検出する。すなわち、検出部46は、揚水発電部26が揚水運転を行う場合は、揚水発電部26の消費電力量を検出し、揚水発電部26が発電運転を行う場合は、揚水発電部26の発電量を検出する。なお、検出部46は、導水路16を流れる水Wの量(水量)を検出してもよい。揚水発電部26の消費電力及び発電量は、導水路16を流れる水量に依存する。従って、検出部46は、導水路16を流れる水量を検出することでも、揚水発電部26の消費電力及び発電量を検出することが可能である。
【0030】
図4は、本実施形態に係る制御装置のブロック図である。制御装置42は、発電システム13、より詳しくは揚水発電部26を制御する制御装置である。制御装置42は、本実施形態ではコンピュータであり、
図4に示すように、入力部50と、出力部52と、記憶部54と、制御部56とを有する。入力部50は、操作者からの情報が入力可能な装置であり、例えばマウス、キーボード、又はタッチパネル等である。出力部52は、制御部56の制御結果や操作者からの入力内容などを表示する装置であり、本実施形態では、ディスプレイやタッチパネルである。記憶部54は、制御部56の演算内容やプログラムの情報などを記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)などである。制御部56は、演算装置、すなわちCPU(Central Processing Unit)である。
【0031】
図4に示すように、制御部56は、検出値取得部60と、要求電力量取得部62と、電力制御部64とを有する。検出値取得部60と、要求電力量取得部62と、電力制御部64とは、記憶部54に記憶されたソフトウェア(プログラム)であるが、それぞれ専用のハードウェア(制御装置)であってもよい。
【0032】
検出値取得部60は、検出部46が検出した、それぞれの揚水発電部26の電力量の検出値を取得する。要求電力量取得部62は、発電システム13に要求される電力量である要求電力量を取得する。要求電力量とは、発電システム13が要求された、発電する電力量又は消費する電力量であり、
図2で説明した差分電力ΔPに相当する。要求電力量取得部62は、例えば外部設備との通信により、要求電力量を逐次取得してもよいし、記憶部54に予め記憶された時間毎の要求電力量を読み出してもよい。すなわち、要求電力量は、発電システム13に要求される電力量として、設定された値である。
【0033】
電力制御部64は、現在の発電システム13が発電する電力量又は消費する電力量を検出し、その検出結果に基づき、発電システム13が発電する電力量又は消費する電力量が、要求電力量となるように、それぞれの揚水発電部26を制御する。以下、電力制御部64の制御について説明する。
【0034】
発電システム13は、複数の揚水発電部26を有している。従って、発電システム13の発電量又は消費電力量は、それぞれの揚水発電部26の発電量又は消費電力量の合計値となる。電力制御部64は、この合計値が要求電力量となるように、それぞれの揚水発電部26を制御する。以下、揚水発電部26が揚水運転を行っており、揚水運転の際に消費する消費電力量を、入力電力P1とする。また、揚水発電部26が発電運転を行っており、発電運転の際に発電する電力を、出力電力P2とする。そして、全ての揚水発電部26の入力電力P1及び出力電力P2の合計値を、合計値Pとする。
【0035】
電力制御部64は、合計値Pを変動させる場合には、入力電力P1及び出力電力P2の少なくとも一方を変動させる必要がある。電力制御部64は、入力電力P1を変動させる際には、揚水運転する揚水発電部26の弁32の開度を一定(定格)に保ったまま、揚水運転する揚水発電部26の台数を変える。一方、電力制御部64は、出力電力P2を変動させる際には、発電運転する揚水発電部26の弁32の開度を変化させる。以下、具体的に説明する。
【0036】
図5は、合計値を低下させる場合の制御を説明するグラフである。
図5は、合計値Pを時間経過に従い減少させる場合の、入力電力P1及び出力電力P2の調整の経過を示している。
図5の横軸は時間であり、縦軸は電力量である。縦軸の0より大きい側(
図5の上側)は、電力量がプラス側を示しているため、発電、すなわち出力している状態を示す。一方、縦軸の0より小さい側(
図5の下側)は、電力量がマイナス側を示しているため、電力消費、すなわち入力している状態を示す。
【0037】
図5では、合計値Pが、タイミングt
a0で電力値P
maxであり、時間経過と共に直線状に減少して、タイミングt
a11で電力値P
minとなる例を示している。また、
図5の例では、発電運転を行う揚水発電部26が2台であり、揚水運転を行う揚水発電部26が無い状態から、合計値Pの減少に伴い、発電運転を行う揚水発電部26を1台とし、揚水運転を行う揚水発電部26を2台とする例を示している。ただし、
図5の揚水発電部26の稼働台数は一例であり、合計値Pが減少する場合の制御は、稼動台数に関わらず
図5と同じ傾向となる。
【0038】
図5に示すように、タイミングt
a0では、2台の揚水発電部26が、それぞれ最大出力で発電を行っている。例えば、これら2台の揚水発電部26を、揚水発電部26A、26Cとする。この場合、電力制御部64は、タイミングt
a0において、揚水発電部26A、26Cの弁32を最大開度とすることで、導水路16A、16Cを流下する水量を最大とする。これにより、揚水発電部26A、26Cは、最大出力で発電を行い、揚水発電部26A、26Cの発電量、すなわち出力電力P2の合計は、電力値P2
maxとなる。一方、タイミングt
a0では、揚水運転を行っている揚水発電部26は0台であり、揚水運転による電力消費は無い。従って、タイミングt
a0での合計値Pである電力値P
maxは、電力値P2
maxと同じ値となっている。
【0039】
電力制御部64は、タイミングt
a0からタイミングt
a1までにおいて、揚水運転を行っている揚水発電部26の台数を変化させないため、入力電力P1が一定(ここではゼロ)となっている。そして、電力制御部64は、タイミングt
a0からタイミングt
a1までにおいて、揚水発電部26A、26Cの弁32の開度を徐々に小さくして、導水路16A、16Cを流下する水量を徐々に減らす。これにより、電力制御部64は、揚水発電部26A、26Cの出力電力P2を徐々に減少させ、タイミングt
a1において、出力電力P2を電力値P2
a1とする。また、タイミングt
a0からタイミングt
a1までにおける合計値Pは、出力電力P2の電力値と一致する。
【0040】
すなわち、電力制御部64は、電力値P2
maxから電力値P2
a1の範囲内(所定範囲内)で合計値Pを変動させる場合には、揚水定格制御を行っているといえる。揚水定格制御とは、揚水運転を行っている揚水発電部26の台数及びその弁32の開度を一定にしつつ、発電運転している揚水発電部26の弁の開度を変化させることで出力電力P2を変化させる制御である。すなわち、電力制御部64は、合計値Pを上記の所定範囲内で変動させる場合には、揚水定格制御を実行することで出力電力P2を変化させて、合計値Pを制御している。
【0041】
電力制御部64は、合計値Pが電力値P2
a1に到達したタイミングt
a1から、揚水台数制御を開始する。揚水台数制御とは、合計値Pを所定範囲(ここでは電力値P2
maxから電力値P2
a1までの範囲)外まで変動させる際に、揚水運転を行う揚水発電部26を作動開始又は停止させることで、入力電力P1を変化させる制御である。具体的には、電力制御部64は、タイミングt
a1において、1台の揚水発電部26の揚水運転の準備を開始させて、揚水運転を行う揚水発電部26を、1台とする。すなわち、電力制御部64は、タイミングt
a1において、1台の揚水発電部26を始動開始し,定格回転速度に達した段階で並入して、揚水運転が可能な状態とする。例えば、揚水運転の準備を開始させる揚水発電部26を、揚水発電部26Bとする。この場合、電力制御部64は、タイミングt
a1において、揚水発電部26Bのポンプ水車の回転を開始させ、タイミングt
a1からタイミングt
a2まで、徐々に揚水発電部26Bのポンプ水車の回転数を上げて、定格回転数まで到達させる。揚水発電部26Bは、タイミングt
a2において、揚水運転が可能な状態となる。なお、このときまで弁32は全閉状態にある。
【0042】
電力制御部64は、タイミングt
a1において、揚水運転を行う揚水発電部26Bの弁32の開度を開け始め、最も揚水効率の高い開度となる所定開度とし、以後の揚水運転中は、所定開度を維持する。すなわち、電力制御部64は、揚水運転を行っている揚水発電部26Bの弁32の開度を、揚水運転中は常に所定開度に保っている。この所定開度は、本実施形態では、最も揚水効率が高くなる開度であり、揚程に応じて60%以上90%以下の範囲で一義的に決まる値である。ただし、所定開度は、最も揚水効率が高くなる開度であることに限られず、任意に設定してもよく、例えば揚水量が最も多くなる開度であってもよい。
【0043】
このように、電力制御部64は、タイミングt
a1からタイミングt
a2までにおいて、揚水発電部26Bを揚水準備状態に移行している。そのため、入力電力P1、すなわち揚水発電部26Bの消費電力量は、直線状に若干増加する(
図5では下側に動く)。そして、電力制御部64は、揚水発電部26Bが揚水可能な状態となったら、タイミングt
a2から、揚水発電部26Bのポンプ水車の弁32の開度を徐々に大きくして、タイミングt
a4において、開度を所定開度に到達させる。揚水発電部26Bは、所定開度までの開度増加に伴い揚水量が増加する。従って、入力電力P1は、タイミングt
a2から曲線状に増加し、定格に到達したタイミングt
a4において、電力値P
1a4となる。なお、所定開度とは、予め定めた開度であり、最も揚水効率が高くなる開度であることが好ましい。ただし、所定開度は、最も高効率な開度であることに限られず、任意に設定してもよく、例えば揚水量が最も多くなる開度であってもよい。
【0044】
電力制御部64は、タイミングt
a1からタイミングt
a4までにおいて、入力電力P1と出力電力P2との合計が合計値Pとなるように、出力電力P2を調整する。タイミングt
a1からタイミングt
a4までにおいては、入力電力P1が増加する。電力制御部64は、この入力電力P1の増加に対応して、揚水発電部26A、26Cの弁32の開度を大きくすることで、出力電力P2を増加させる。電力制御部64は、入力電力P1と出力電力P2との合計が、タイミングt
a1からタイミングt
a4までにおける合計値Pの減少に追従するように、出力電力P2を増加させる。なお、タイミングt
a1からタイミングt
a4までにおいては、合計値Pが減少しているので、電力制御部64は、出力電力P2の増加量を、入力電力P1の増加量より少なくする。
【0045】
具体的には、電力制御部64は、タイミングt
a1からタイミングt
a2までにおいては、入力電力P1の直線状の増加に対応させて、出力電力P2を直線的に増加させる。また、電力制御部64は、タイミングt
a2からタイミングt
a3までにおいて、出力電力P2を曲線状に増加させる。出力電力P2は、タイミングt
a3で、電力値P2
a3となる。そして、電力制御部64は、タイミングt
a3からタイミングt
a4までにおいて、出力電力P2を曲線状に減少させる。出力電力P2は、タイミングt
a4で、電力値P2
a4となる。電力値P2
a3は、電力値P2
a1及び電力値P2
a4よりも値が大きい極大値である。また、電力値P2
a3は、電力値P2
a1より値が大きい。
【0046】
このように、電力制御部64は、合計値Pを境界値である電力値P2
a1からさらに変動(ここでは減少)させる場合には、合計値Pが電力値P2
a1に到達したタイミングから、1つの揚水発電部26Bを作動開始させることで、入力電力P1を変化(ここでは増加)させる揚水台数制御を開始する。また、揚水発電部26Bを作動開始させた場合、入力電力P1が急に変動することで、合計値Pが急に変動するおそれがある。それに対し、電力制御部64は、揚水発電部26Bを作動開始させる際に、発電運転している揚水発電部26の弁32の開度を大きくすることで、出力電力P2を増加させる。より詳しくは、電力制御部64は、揚水発電部26Bの揚水運転準備を始めてから定格運転に達するまでの間の少なくとも一部の期間で(ここではタイミングt
a1からタイミングt
a3)、出力電力P2を増加させる。これにより、出力電力P2の増加で入力電力P1の急な増加を吸収することができ、合計値Pの急な変動を抑制することができる。
【0047】
電力制御部64は、揚水発電部26Bが定格運転に達したタイミングt
a4から、再度、揚水定格制御を開始する。すなわち、電力制御部64は、タイミングt
a4からタイミングt
a7までにおいて、揚水発電部26Bの弁32の開度を所定開度に保ちつつ、回転数も定格運転に保つ定格運転を行わせ続ける。従って、入力電力P2は、タイミングt
a4からタイミングt
a7まで、電力値P
1a4のままとなる。
【0048】
一方、電力制御部64は、タイミングt
a4からタイミングt
a7までにおいて、揚水発電部26A、26Cの弁32の開度を徐々に小さくして、揚水発電部26A、26Cの出力電力P2を徐々に減少させる。さらに、電力制御部64は、タイミングt
a5からタイミングt
a6の間の期間に、発電運転する揚水発電部26の台数を1台減らす。電力制御部64は、タイミングt
a5で、揚水発電部26A、26Cの合計の出力電力P2が電力値P2
a5に到達したら、一方の揚水発電部26(例えば揚水発電部26A)の弁32の開度は一定にしたまま、他方の揚水発電部26(例えば揚水発電部26C)の弁32の開度を小さくする速度を高くする。これにより、電力制御部64は、出力電力P2の減少度合いが、タイミングt
a5までに対して変動することを抑制する。そして、電力制御部64は、タイミングt
a6で、揚水発電部26Cの弁32を全閉にして、揚水発電部26Cの発電運転を停止させる。そして、電力制御部64は、タイミングt
a6から、揚水発電部26Aの弁32の開度を小さくする制御を再開して、タイミングt
a7で、出力電力P2を電力値P
2a7とする。この場合の弁32の開度を小さくする速度も、タイミングt
a5までよりも高くする。なお、電力値P2
a5は、本制御における出力電力P2の最大値である電力値P2
maxと最小値である電力値P2
minとの中間値であることが好ましい。すなわち、電力制御部64は、揚水発電部26Bが定格運転に達した後のタイミングであって、出力電力P2が、電力値P2
maxと電力値P2
minとの中央値となるタイミングまでに、発電運転する揚水発電部26の台数を切り替えることが好ましい。
【0049】
電力制御部64は、合計値Pが電力値P
a7に到達したタイミングt
a7から、揚水台数制御を開始する。すなわち、電力値P
a7は、揚水定格制御を行う所定範囲の、境界値である。
図5の例では、電力制御部64は、タイミングt
a7において、1台の揚水発電部26(ここでは揚水発電部26D)の揚水運転の準備を開始させ、揚水運転を行う揚水発電部26を、2台とする。揚水発電部26Dの揚水運転の準備は、タイミングt
a1における揚水発電部26Bの揚水準備と同じである。従って、揚水発電部26Dは、タイミングt
a7からタイミングt
a8までにおいて、入力電力P1が直線状に増加し、タイミングt
a8において、揚水運転が可能な状態となる。電力制御部64は、タイミングt
a8から、揚水発電部26Dのポンプ水車の弁32の開度を徐々に大きくして、タイミングt
a10において、開度を所定開度に到達させる。入力電力P1は、電力値P1
a4から、揚水発電部26Dの消費電力の増加に伴い増加して、タイミングt
a10において、電力値P1
a10に到達する。
【0050】
電力制御部64は、タイミングt
a7からタイミングt
a10までにおいて、タイミングt
a1からタイミングt
a5までと同様に、出力電力P2を制御する。すなわち、電力制御部64は、タイミングt
a7からタイミングt
a8までにおいては、出力電力P2を直線的に増加させ、タイミングt
a8からタイミングt
a9までにおいては、出力電力P2を曲線状に増加させ、タイミングt
a9からタイミングt
a10までにおいて、出力電力P2を曲線状に減少させる。出力電力P2は、タイミングt
a10において、電力値P2
a10となる。
【0051】
電力制御部64は、揚水発電部26Dが定格運転に達したタイミングt
a10からは、再度、揚水定格制御を開始する。電力制御部64は、タイミングt
a10から、揚水発電部26B、26Dの弁32の開度を一定に保ちつつ、回転数も定格運転に保つ定格運転を行わせ続け、入力電力P1を、電力値P1
a10に保つ。電力制御部64は、タイミングt
a10から、揚水発電部26Aの弁32の開度を徐々に小さくして、タイミングt
a11において、出力電力P2を、電力値P2
minに到達させる。合計値Pは、タイミングt
a11において、電力値P
minに到達し、この制御は終了する。
【0052】
このように、電力制御部64は、タイミングt
a0からタイミングt
a1までと、タイミングt
a4からタイミングt
a7までと、タイミングt
a10以降とにおいて、揚水定格制御を実施する。また、電力制御部64は、タイミングt
a1からタイミングt
a4までと、タイミングt
a7からタイミングt
a10までとにおいて、揚水台数制御を実施する。すなわち、電力制御部64は、合計値Pを、所定範囲内で変動させる場合は、揚水定格制御を実施する。そして、電力制御部64は、合計値Pを、所定の範囲の境界値からさらに変動させる場合は、揚水台数制御を実施する。ここでの所定の範囲とは、
図5の例では、電力値P2
maxから電力値P2
a1までの範囲と、電力値P
a5から電力値P
a7までの範囲と、電力値P
a10から電力値P
minまでの範囲であり、複数の範囲が設定される。ただし、この所定の範囲は、これらの範囲に限られず、適宜設定できる。
【0053】
以上が、合計値Pを徐々に低下させる場合の電力制御部64の制御となる。なお、電力制御部64は、タイミングt
a1、t
a7において、揚水発電部26を停止状態から、作動可能な状態としていた。ただし、電力制御部64は、揚水発電部26を常に揚水可能な状態に保っていてもよい。この場合、電力制御部64は、揚水運転を予定している揚水発電部26を、常に揚水運転可能な状態、例えば弁32を全閉した状態で定格回転数の運転を保っている。この場合、タイミングt
a1からタイミングt
a2や、タイミングt
a7からタイミングt
a8のような、入力電力P1の直線的な変動が起こらなくなり、より円滑な制御が可能となる。
【0054】
図6は、合計値を増加させる場合の制御を説明するグラフである。
図6は、合計値Pを時間経過に従い増加させる場合の、入力電力P1及び出力電力P2の調整の経過を示している。
図6では、合計値Pが、タイミングt
b0で電力値P
minであり、時間経過と共に直線状に増加して、タイミングt
b9で電力値P
maxとなる例を示している。また、
図6の例では、発電運転を行う揚水発電部26が1台であり、揚水運転を行う揚水発電部26が2台の状態から、合計値Pの増加に伴い、発電運転を行う揚水発電部26を2台とし、揚水運転を行う揚水発電部26を0台とする例を示している。ただし、
図6の揚水発電部26の稼働台数は一例であり、合計値Pが増加する場合の制御は、稼動台数に関わらず
図6と同じ傾向となる。
【0055】
図6に示すように、タイミングt
b0では、1台の揚水発電部26(例えば揚水発電部26A)が、最低出力で発電を行っている。電力制御部64は、タイミングt
b0において、揚水発電部26Aの弁32を所定の開度とすることで、導水路16Aを流下する水量を所定量とする。これにより、揚水発電部26Aは、最低出力で発電を行い、揚水発電部26Aの発電量、すなわち出力電力P2は、電力値P2
minとなる。一方、タイミングt
b0では、2台の揚水発電部26(例えば揚水発電部26B、26C)が、揚水運転を行っている。揚水発電部26B、26Cは、定格運転で揚水発電を行っており、タイミングt
b0での入力電力P1は、電力値P1
b0となる。従って、タイミングt
a0での合計値Pである電力値P
minは、電力値P2
minと電力値P1
b0との合計となる。
【0056】
電力制御部64は、タイミングt
b0からタイミングt
b1までにおいて、揚水定格制御を行っている。具体的には、電力制御部64は、タイミングt
b0からタイミングt
b1までにおいて、揚水運転を行っている揚水発電部26の台数を一定とし、かつ、揚水運転を行っている揚水発電部26の弁32の開度と回転数とを一定とした定格運転を行っている。従って、入力電力P1は、タイミングt
b0からタイミングt
b1までにおいて、一定の値となっている。なお、揚水運転を行っている揚水発電部26の開度は、
図5の説明と同様に、一定に保たれている。
【0057】
一方、電力制御部64は、タイミングt
b0からタイミングt
b1までにおいて、揚水発電部26Aの弁32の開度を徐々に大きくして、出力電力P2を徐々に増加させる。出力電力P2は、タイミングt
b1において、電力値P
b1となる。
【0058】
電力制御部64は、合計値Pが電力値P
b1に到達したタイミングt
b1から、揚水台数制御を開始する。具体的には、電力制御部64は、タイミングt
b1において、揚水運転している揚水発電部26のうち1台の作動停止の準備を行う。すなわち、電力制御部64は、タイミングt
b1から、揚水運転している揚水発電部26(例えば揚水発電部26B)のポンプ水車の弁32の開度を所定開度から徐々に小さくして、タイミングt
b3において、全閉まで到達させて、回転を停止させる。これにより、電力制御部64は、揚水発電部26Bを解列し、揚水発電部26Bの揚水運転を終了する。入力電力P1は、タイミングt
b1から、ポンプ水車の弁32の開度の縮小に伴い、曲線状に減少して、タイミングt
b3において、電力値P1
b3aに到達し、さらに電力値P1
b3まで減少する。
【0059】
電力制御部64は、タイミングt
b1からタイミングt
b3までにおいて、入力電力P1と出力電力P2との合計が合計値Pとなるように、出力電力P2を調整する。タイミングt
b1からタイミングt
b3までにおいては、入力電力P1が減少する(
図6では上側に動く)。電力制御部64は、この入力電力P1の減少に対応して、揚水発電部26Aの弁32の開度を小さくすることで、出力電力P2を減少させる。電力制御部64は、入力電力P1と出力電力P2との合計が、タイミングt
b1からタイミングt
b3までにおける合計値Pの増加に追従するように、出力電力P2を調整する。具体的には、電力制御部64は、タイミングt
b1からタイミングt
b2までにおいて、出力電力P2を曲線状に増加させる。出力電力P2は、タイミングt
b2で、電力値P2
b2となる。そして、電力制御部64は、タイミングt
b2からタイミングt
b3までにおいて、出力電力P2を曲線状に減少させる。出力電力P2は、タイミングt
b3で、電力値P2
b3となる。電力値P2
b2は、電力値P2
b1及び電力値P2
b3よりも値が大きい極大値である。また、電力値P2
b3は、電力値P2
b1より値が小さい。
【0060】
このように、電力制御部64は、合計値Pを境界値である電力値P
b1からさらに変動(ここでは増加)させる場合には、合計値Pが電力値P
b1に到達したタイミングから、1つの揚水発電部26Bを作動停止させることで、入力電力P1を変化(ここでは減少)させる揚水台数制御を開始する。また、揚水発電部26Bを作動停止させた場合、入力電力Pが急に変動することで、合計値Pが急に変動するおそれがある。それに対し、電力制御部64は、揚水発電部26Bを作動停止させる際に、発電運転している揚水発電部26の弁32の開度を小さくすることで、出力電力P2を減少させる。より詳しくは、電力制御部64は、揚水発電部26Aの停止準備を始めてから停止するまでの間の少なくとも一部の期間(ここではタイミングt
b2からタイミングt
b3)で、出力電力P2を減少させる。これにより、出力電力P2の減少で入力電力P1の急な現象を吸収することができ、合計値Pの急な変動を抑制することができる。
【0061】
電力制御部64は、揚水発電部26Bが作動停止したタイミングt
b3から、再度、揚水定格制御を開始する。すなわち、電力制御部64は、タイミングt
b3からタイミングt
b6までにおいて、揚水運転している揚水発電部26Cの弁32の開度を所定開度に保ちつつ、回転数も定格運転に保つ定格運転を行わせ続ける。従って、入力電力P2は、タイミングt
b3からタイミングt
b6まで、電力値P1
b3のままとなる。
【0062】
一方、電力制御部64は、タイミングt
b3からタイミングt
b6までにおいて、発電運転している揚水発電部26Aの弁32の開度を徐々に大きくして、揚水発電部26Aの出力電力P2を徐々に増加させる。さらに、電力制御部64は、タイミングt
b4からタイミングt
b5の間の期間に、発電運転する揚水発電部26の台数を1台増やす。電力制御部64は、タイミングt
b4で、揚水発電部26Aの出力電力P2が電力値P2
b4に到達したら、揚水発電部26Aの弁32の開度を一定に保ったまま、他の揚水発電部26(例えば揚水発電部26D)の弁32を開き、揚水発電部26Dの発電運転を開始する。電力制御部64は、タイミングt
b4からタイミングt
b5までで、徐々に揚水発電部26Dの弁32の開度を大きくしてゆき、タイミングt
b5から、揚水発電部26A、26Dの両方の弁32の開度を大きくする制御に移行する。なお、電力値P2
b4は、電力値P2
maxと電力値P2
minとの中間値であることが好ましい。すなわち、電力制御部64は、揚水発電部26Bを作動停止した後のタイミングであって、出力電力P2が、電力値P2
maxと電力値P2
minとの中央値となるタイミングまでに、発電運転する揚水発電部26の台数を切り替えることが好ましい。
【0063】
電力制御部64は、合計値Pが電力値P
b6に到達したタイミングt
b6から、揚水台数制御を開始する。すなわち、電力値P
b6は、揚水定格制御を行う所定範囲の、境界値である。
図6の例では、電力制御部64は、タイミングt
b6において、揚水運転している揚水発電部26(ここでは揚水発電部26C)の作動停止の準備を始め、揚水運転している揚水発電部26を0台とする。揚水発電部26Cの作動停止の制御は、タイミングt
b1における揚水発電部26Bの揚水準備と同じである。入力電力P1は、電力値P1
b3から曲線状に減少して、タイミングt
b8において、電力値P1
b8に到達し、さらに0まで減少する。
【0064】
電力制御部64は、タイミングt
b6からタイミングt
b8までにおいて、タイミングt
b1からタイミングt
b3までと同様に、出力電力P2を制御する。すなわち、電力制御部64は、タイミングt
b6からタイミングt
b7までにおいては、出力電力P2を曲線状に増加させ、タイミングt
b7からタイミングt
b8までにおいて、出力電力P2を曲線状に減少させる。出力電力P2は、タイミングt
b8において、電力値P2
b8となる。
【0065】
電力制御部64は、揚水発電部26Cの作動停止が完了したタイミングt
b8からは、再度、揚水定格制御を開始する。電力制御部64は、タイミングt
b8から、発電運転している揚水発電部26A,26Dの弁32の開度を徐々に大きくして、タイミングt
b9において、出力電力P2を、電力値P2
maxに到達させる。合計値Pは、タイミングt
b9において、電力値P
maxに到達し、この制御は終了する。
【0066】
このように、電力制御部64は、タイミングt
b0からタイミングt
b1までと、タイミングt
b3からタイミングt
b6までと、タイミングt
b8以降とにおいて、揚水定格制御を実施する。また、電力制御部64は、タイミングt
b1からタイミングt
b3までと、タイミングt
b6からタイミングt
b8までとにおいて、揚水台数制御を実施する。
【0067】
以上が、合計値Pを徐々に増加させる場合の電力制御部64の制御となる。なお、電力制御部64は、タイミングt
b3、t
b8において、揚水運転している揚水発電部26を停止させていた。ただし、電力制御部64は、揚水発電部26を常に揚水可能な状態に保っていてもよい。この場合、電力制御部64は、揚水運転を停止しようとした揚水発電部26を、定格ではないが揚水運転可能な状態、例えば弁32を全閉した状態の運転を保たせればよい。この場合、タイミングt
b3、t
b8のような、入力電力P1の直線的な変動が起こらなくなり、より円滑な制御が可能となる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係る揚水発電制御システム40は、電力を消費して水Wを揚げる揚水運転を行う複数の揚水部(揚水発電部26)と、流下する水Wにより発電する発電運転を行う複数の発電部(揚水発電部26)と、を有する揚水発電設備を制御するものであり、揚水部及び発電部の動作を制御することで、消費電力量(入力電力P1)と発電量(出力電力P2)との合計値Pを制御する電力制御部64を有する。電力制御部64は、合計値Pを予め定めた所定範囲内で変動させる際には、揚水定格制御を実行する。揚水定格制御とは、揚水部が揚水する弁32の開度を所定開度とする定格運転で揚水運転を行わせつつ、発電部が水を流下させる弁32の開度を変化させて発電運転を行わせることで、発電量を変化させる制御である。また、電力制御部64は、合計値Pを所定範囲外まで変動させる際には、揚水台数制御を実行する。揚水台数制御は、合計値Pが所定範囲の境界値まで到達したら、1つの揚水部を作動開始又は停止させることで、消費電力量を変化させる制御である。
【0069】
ここで、揚水発電において、合計値P、すなわち供給電力又は消費電力を調整するためには、発電運転による出力電力P2と、揚水運転による入力電力P1とを調整する。揚水発電部26の揚水時の電力効率、すなわち単位揚水量当たりの消費電力量は、弁32の開度に依存する。従って、弁32の開度を変化させて入力電力P1を調整すると、揚水時の電力効率の低下を招くおそれがある。それに対し、本実施形態に係る揚水発電制御システム40は、合計値Pを所定範囲内で制御する場合には、揚水定格制御を実行することで、揚水運転する揚水発電部26の弁32の開度を所定開度に保ったまま、発電運転する揚水発電部26の出力制御を行う。従って、合計値Pを所定範囲内で制御する際に、揚水発電部26を高効率で運転させることができる。また、合計値Pが所定範囲内を超えたために入力電力P1を調整する必要が生じた際には、揚水台数制御を実行して、揚水運転する揚水発電部26を作動開始又は停止させる。このように台数制御を行うことで、揚水運転する揚水発電部26の弁32の開度変化を抑制して、揚水時の電力効率の低下を抑制している。このように、本実施形態に係る揚水発電制御システム40は、揚水定格制御及び揚水台数制御を実行することで、揚水時の電力効率の低下を抑制しつつ、供給電力を柔軟に調整可能となる。また、発電運転においては、弁32の開度が発電効率に与える影響は、揚水運転の場合よりも少ない。従って、本実施形態においては、揚水定格制御における発電効率の低下も抑制することができる。
【0070】
また、電力制御部64は、揚水台数制御において、一部の揚水部に定格運転を行わせつつ、他の揚水部を作動開始又は停止させる。この電力制御部64は、揚水台数制御において、1つの揚水部を定格に保ったまま、他の揚水部を作動開始又は停止させているため、定格に保った揚水部の電力効率の低下を抑制している。従って、揚水発電制御システム40は、揚水時の電力効率の低下を好適に抑制できる。
【0071】
また、電力制御部64は、合計値Pを低下させる際に、揚水定格制御において、発電部が水を流下させる弁32の開度を小さくすることで発電量を低下させて、合計値Pを所定範囲の下限値まで低下させる。電力制御部64は、合計値Pが下限値に到達したら、揚水台数制御において、1つの揚水部を作動開始させることで消費電力量を上昇させて、合計値Pをさらに低下させる。この揚水発電制御システム40は、合計値Pが所定の下限値に到達したら揚水部を作動開始させることで、供給電力を柔軟に調整可能となる。
【0072】
また、電力制御部64は、合計値Pを低下させる際の揚水台数制御において、揚水部を作動開始させる際に、発電部が水を流下させる弁32の開度を大きくすることで、発電量を上昇させる。揚水台数制御を行った場合、弁32の開度の変化を抑えているため、揚水運転による消費電力が急変するおそれがある。それに対し、電力制御部64は、揚水部を作動開始させる際に発電量を上昇させるため、消費電力の急変を抑制する。従って、この揚水発電制御システム40は、揚水時の電力効率の低下を抑制しつつ、供給電力を柔軟に調整することができる。
【0073】
また、電力制御部64は、合計値Pを上昇させる際に、揚水定格制御において、発電部が水を流下させる弁32の開度を大きくすることで発電量を上昇させて、合計値Pを所定範囲の上限値まで上昇させる。電力制御部64は、合計値Pが上限値に到達したら、揚水台数制御において、揚水部を停止させることで消費電力量を上昇させて、合計値Pをさらに上昇させる。この揚水発電制御システム40は、合計値Pが所定の上限値に到達したら揚水部を作動開始させることで、供給電力を柔軟に調整可能となる。
【0074】
また、電力制御部64は、揚水台数制御において、揚水部を停止させる際に、発電部が水を流下させる弁32の開度を小さくすることで発電量を低下させる。この揚水発電制御システム40は、発電量を低下させることで消費電力の急変を吸収することができるため、揚水時の電力効率の低下を抑制しつつ、供給電力を柔軟に調整することができる。
【0075】
なお、上記の説明では、合計値Pを変化させる場合の制御について説明したが、電力制御部64は、他の制御も可能である。
図7から
図10は、本実施形態の他の制御例について説明する図である。
図7から
図10においても、電力制御部64は、揚水運転する揚水発電部26の弁32の開度を一定に保って、効率の低下を抑制することが可能である。
【0076】
図7は、ダム水位を一定とする制御の例について説明している。
図7に示すように、例えば、電力制御部64は、揚水発電部26Aの揚水量と揚水発電部26Bでの流下水量とを同じとすることにより、上ダム10と下ダム12との水位を一定に保っている。この場合、揚水発電部26Aの入力電力P1Aと揚水発電部26Bの出力電力P2Bとは、一定の値となる。また、水量が同じ場合、入力電力P1Aの電力量の方が、出力電力P2Bの電力量より高くなる。従って、この運転を行う場合、入力電力P1Aと出力電力P2Bとの差分の電力が、電力PTとして、系統Tより供給されることとなる。従って、この運転を続けると、電力PTの値を一定とし続けることができ、常に一定の電力負荷を持った設備とすることができる。また、この場合は、水位が変化しないため、電力PTの供給によりこの運転を永続的に続けることができる。
【0077】
図8は、合計値Pをゼロとする制御の例について説明している。この場合、例えば、電力制御部64は、揚水発電部26Aに揚水運転させ、揚水発電部26B、26Cに発電運転させる。そして、電力制御部64は、揚水発電部26Bの出力電力P2Bと揚水発電部26Cの出力電力P2Cとの合計が、揚水発電部26Aの入力電力P1Aの値と一致するように、揚水発電部26A、26B、26Cを制御する。これにより、出力電力と入力電力とが均衡して合計値Pをゼロとなる。このように、電力制御部64は、電力負荷がゼロとなる運転も可能である。
【0078】
図9は、上ダム10の水位を上げる制御の例について説明している。この場合、例えば、電力制御部64は、揚水発電部26A、26Cに揚水運転させ、揚水発電部26Bに発電運転させる。そして、電力制御部64は、揚水発電部26A、26Cによる揚水量の合計が、揚水発電部26Bでの流下水量より大きくなるように制御する。従って、上ダム10の水位が徐々に上昇する。この場合、揚水発電部26Aの入力電力P1Aと揚水発電部26Cの入力電力P1Cとの合計が、揚水発電部26Bの出力電力P2Bより大きくなる。従って、揚水発電部26A、26Cは、系統Tから供給された、その差分に相当する電力PTを用いて揚水する。このように、電力制御部64は、上ダム10の水位を上げる際にも安定した制御が可能となる。
【0079】
図10は、下ダム12の水位を上げる制御について説明している。この場合、例えば、電力制御部64は、揚水発電部26A、26Cに揚水運転させ、揚水発電部26B、26Dに発電運転させる。そして、電力制御部64は、揚水発電部26A、26Cによる揚水量の合計が、揚水発電部26B、26Dでの流下水量の合計より少なくなるように制御する。従って、下ダム12の水位が徐々に上昇する。この場合、揚水発電部26Aの入力電力P1Aと揚水発電部26Cの入力電力P1Cとの合計が、揚水発電部26Bの出力電力P2Bと揚水発電部26Dの出力電力P2Dとの合計より大きくなる。従って、揚水発電部26A、26Cは、系統Tから供給された、その差分に相当する電力PTを用いて揚水する。このように、電力制御部64は、下ダム12の水位を上げる際にも安定した制御が可能となる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これら実施形態の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
揚水時の電力効率の低下を抑制しつつ、供給電力を柔軟に調整する。揚水発電制御システムは、揚水運転を行う複数の揚水部と、発電運転を行う発電部と、を有する揚水発電設備を制御し、揚水部及び発電部の動作を制御することで、揚水運転での消費電力量と発電運転での発電量との合計値Pを制御する電力制御部を有する。電力制御部は、合計値Pを予め定めた所定範囲内で変動させる際には、揚水部が揚水する弁の開度を所定開度とする定格運転で揚水運転を行わせつつ、発電部が水を流下させる弁の開度を変化させて発電運転を行わせることで、発電量を変化させる揚水定格制御を実行する。電力制御部は、合計値Pを所定範囲外まで変動させる際には、揚水部を作動開始又は停止させることで、消費電力量を変化させる揚水台数制御を実行する。