特許第6471856号(P6471856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6471856細胞吸引システム、細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471856
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】細胞吸引システム、細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20190207BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   G01N1/00 101K
   C12M1/26
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-39831(P2015-39831)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-161371(P2016-161371A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高井 浩典
(72)【発明者】
【氏名】清水 義文
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−201833(JP,A)
【文献】 特開平09−257805(JP,A)
【文献】 特開2005−337977(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/063776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
35/00−35/10
B01L 35/02
C12M 1/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引チップを装着する吸引器を備えた細胞吸引システムであって、
前記吸引器を移動させる搬送部と、
前記吸引チップ内を加圧する加圧部と、
前記吸引チップ内の圧力変化を測定する圧力測定部と、
前記吸引チップ内の圧力変化に基づいて、装着した吸引チップの先端折れ判定を行なう判定部と、を備え
前記判定部は、前記吸引チップの移動中に前記先端折れ判定を行なうことを特徴とする細胞吸引システム。
【請求項2】
前記判定部は、前記吸引チップ内を加圧後、基準時間内の圧力変化量が基準値を超える場合に、吸引チップの先端折れが発生していると判定することを特徴とする請求項1に記載の細胞吸引システム。
【請求項3】
前記加圧部および前記圧力測定部は前記吸引器に備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞吸引システム。
【請求項4】
吸引チップを装着する吸引器と前記吸引器を移動させる搬送部とを備えた細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定方法であって、
前記吸引チップ内を加圧する加圧ステップと、
前記吸引チップ内の圧力変化を測定する圧力測定ステップと、
前記吸引チップの移動中に、前記吸引チップ内の圧力変化に基づいて、装着した吸引チップの先端折れ判定を行なう判定ステップと、
を有することを特徴とする細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
細胞吸引システムに関し、特に、細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生命システムの研究等においては、細胞培養容器内の多くの細胞の中から特徴的な細胞を特定し、その細胞あるいはその細胞内物質を吸引する作業が頻繁に行なわれる。例えば、新たな薬剤を発見したり設計したりする創薬プロセスにおいては、多数の候補化合物の中から、薬効・活性を示すものを探し出す創薬スクリーニング工程が行なわれるが、この工程においては、候補化合物が与えられた細胞培養容器内の細胞群から、著しく特異な変化を示す細胞を選び出し、その細胞内物質あるいは細胞を吸引し、質量分析等の解析が行なわれる。
【0003】
特許文献1には、ナノスプレーイオン化細管と称される吸引チップを用いて、顕微鏡で吸引対象の細胞を確認しながら細胞内物質吸引作業を行なうことが開示されている。
【0004】
細胞内物質吸引作業に用いる吸引チップ300は、例えば、図4に示すように、吸引口301と装着口と302を備えたガラス製の特殊な細管であり、吸引口301の先端部の直径は、例えば、0.1μメートルから100μメートル程度で形成されている。
【0005】
細胞内物質吸引作業の際には、吸引チップ300の装着口302を吸引器の先端に装着する。そして、顕微鏡で吸引対象の細胞を確認しながら、手作業あるいは搬送器で吸引チップ300を移動させ、吸引口301を目的の細胞に挿入する。移動のときに、吸引口301が細胞培養容器内の細胞培養液を含む周辺成分を吸引しないように、吸引チップ300内を加圧しておき、吸引口301が目的の細胞に到達した後に加圧を解除して、細胞内物質を吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5317983号公報
【特許文献2】特表2010−504086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
吸引チップ300は、ガラス製の細管であるため、製造から実使用までの工程で何らかの原因で折れてしまう場合がある。しかしながら、一般に、吸引チップ300は目視困難なほど細いので、折れていることを肉眼で認識することは困難である。
【0008】
このため、吸引チップ300を吸引器に装着し、細胞培養容器まで移動させた後、顕微鏡で拡大観察して吸引口301を検出した段階で初めて吸引チップ300が折れていることに気づくことになる。この場合、破損吸引チップ300の廃棄、新しい吸引チップ300の装着、吸引チップ300の再移動、吸引口301の再検出が必要となり、多くの戻り工程が発生し、タクトタイムの悪化を招くことになる。このため、吸引チップ300の先端折れはなるべく早い段階で簡易に検出することが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、吸引チップの先端折れを拡大観察することなく簡易に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様である細胞吸引システムは、吸引チップを装着する吸引器を備えた細胞吸引システムであって、前記吸引チップ内を加圧する加圧部と、前記吸引チップ内の圧力変化を測定する圧力測定部と、前記吸引チップ内の圧力変化に基づいて、装着した吸引チップの先端折れ判定を行なう判定部と、を備えたことを特徴とする。
ここで、前記判定部は、前記吸引チップ内を加圧後、基準時間内の圧力変化量が基準値を超える場合に、吸引チップの先端折れが発生していると判定することができる。
また、前記加圧部および前記圧力測定部は前記吸引器に備えることができる。
上記課題を解決するため、本発明の第2の態様である細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定方法は、吸引チップを装着する吸引器を備えた細胞吸引システムにおける吸引チップの先端折れ判定方法であって、前記吸引チップ内を加圧する加圧ステップと、前記吸引チップ内の圧力変化を測定する圧力測定ステップと、前記吸引チップ内の圧力変化に基づいて、装着した吸引チップの先端折れ判定を行なう判定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸引チップの先端折れを拡大観察することなく簡易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る細胞吸引システムの構成を模式的に示す図である。
図2】断裂のない正常な吸引チップと、断裂のある先折れ発生吸引チップにおける加圧後のチップ内圧力の経時変化例を示す図である。
図3】本実施形態に係る細胞吸引システムの動作を説明するフローチャートである。
図4】細胞内物質吸引作業に用いる吸引チップの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る細胞吸引システム100の構成を模式的に示す図である。細胞吸引システム100は、吸引チップ10を用いて細胞内物質あるいは1または複数個の細胞の吸引する作業を支援するシステムである。
【0014】
本図に示すように、細胞吸引システム100は、吸引チップ10を装着して細胞内成分を吸引する吸引器120、吸引器120を移動させる搬送部130、各部の制御および信号処理を行なう制御部140、顕微鏡150、共焦点スキャナ160、カメラ170を備えている。また、試料である細胞200は細胞培養液220とともに、細胞培養容器210に収納されている。
【0015】
顕微鏡150は、対物レンズ151、結像レンズ152、照明153を備えており、載置された細胞培養容器210内の拡大画像を取得する。照明153は、試料の明視野像を取得したり、吸引チップ10を照明する光源として使用される。この際に、吸引チップ10の先端を認識しやすいように、吸引チップ10を囲むリング形状となっている。
【0016】
共焦点スキャナ160は、ピンホールディスクアレイ161、マイクロレンズアレイディスク162、ダイクロイックミラー163、バンドバスフィルタ164、リレーレンズ165を備えており、顕微鏡150と組み合わせることで、試料の共焦点画像を取得する。共焦点画像は、カメラ170で撮像され、制御部140に入力される。このため、顕微鏡150と共焦点スキャナ160とカメラ170とで共焦点顕微鏡システムを構成する。ただし、顕微鏡150や共焦点スキャナ160等の光学系の構成は本図の例に限られない。例えば、共焦点スキャナ160を省いてもよい。
【0017】
細胞内物質吸引作業の際には、吸引器120の先端に吸引チップ10を装着する。そして、共焦点顕微鏡システムで吸引対象の細胞200を確認しながら、搬送部130で吸引チップ10を移動させ、吸引チップ10の吸引口を目的の細胞に挿入する。移動のときに、吸引口が細胞培養容器210内の細胞培養液220を含む周辺成分を吸引しないように、吸引チップ10内を加圧しておき、吸引口が目的の細胞200に到達した後に加圧を解除して、細胞内物質を吸引する。
【0018】
このため、吸引器120には、吸引チップ10内を加圧するための加圧部121が備えられている。加圧部121の加圧状態は、制御部140により制御される。
【0019】
ところで、吸引チップ10内を加圧したとき、吸引チップ10に先端折れが発生していると、断裂箇所から空気が漏れるため吸引チップ10内の圧力が急激に低下する。図2は、断裂のない正常な吸引チップ10と、断裂のある先端折れ発生吸引チップ10における加圧後のチップ内圧力の経時変化例を示している。本図からも、断裂のない吸引チップ10の内圧は加圧後徐々に低下していくのに対し、断裂のある吸引チップ10の内圧は加圧後急激に低下することが示される。
【0020】
このため、加圧後のチップ内圧力の経時変化を測定することで、吸引チップ10の先端折れを検出できることになる。そこで、本実施形態の細胞吸引システム100では、吸引器120に圧力測定部122を設けて、加圧後のチップ内圧力の経時変化を測定するようにしている。そして、圧力測定部122の測定結果に基づいて吸引チップ10の先端折れの判定を行なう先端折れ判定部141を制御部140に設けている。
【0021】
図4は、上記構成の細胞吸引システム100の動作を説明するフローチャートである。細胞内物質吸引作業を行なう際には、まず、吸引チップ10を吸引器120の先端に装着する(S101)。
【0022】
そして、加圧部121が吸引チップ10内を加圧し(S102)、圧力測定部122が加圧後のチップ内圧力の経時変化を測定する(S103)。
【0023】
先端折れ判定部141は、加圧後のチップ内圧力が急激に低下している場合には(S104:Yes)、先端折れが発生していると判定する(S110)。例えば、基準時間と許容圧力変化量とをあらかじめ設定しておくことで、加圧後のチップ内圧力が急激に低下しているかどうかを判定することができる。先端折れが発生しているという判定結果は、例えば、その旨を表示したり、アラームを出力すること等でユーザに通知する。
【0024】
この通知により、ユーザは、先端折れが発生している吸引チップ10を即座に交換することができる(S111)。このように、本実施形態の細胞吸引システム100では、吸引チップ10装着後の早い段階で、拡大観察をすることなく簡易に吸引チップ10の先端折れを検出することができるため、戻り工程を最小限とすることができ、先端折れが発生した際のタクトタイムの悪化を防ぐことができる。
【0025】
一方、加圧後のチップ内圧力が急激に低下していない場合には(S104:No)、先端折れが発生していないとして、搬送部130により吸引チップ10を目的の細胞付近に移動させ(S105)。そして、拡大観察を行なって吸引口と目的の細胞とを検出し(S106)、吸引チップ10の吸引口を目的の細胞に挿入する。
【0026】
この状態で、吸引チップ10内の加圧状態を解除して(S107)、細胞内物質を吸引する(S108)。吸引後、所定の位置で吸引チップ10を取り外し(S109)、細胞内物質吸引作業を終了する。吸引した細胞内物質は、例えば、質量分析装置を用いて精密に解析することができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の細胞吸引システム100によれば、チップ内圧力の経時変化に基づいて先端折れを判定するため、拡大観察をすることなく簡易に吸引チップ10の先端折れを検出することができる
なお、先端折れの判定のためのチップ内圧力の経時変化測定は、吸引チップ10の装着時のみならず、吸引チップ10の移動中にも継続し、移動中の接触等による吸引チップ10の破損を検出可能としてもよい。
【符号の説明】
【0028】
10…吸引チップ、100…細胞吸引システム、120…吸引器、121…加圧部、122…圧力測定部、130…搬送部、140…制御部、141…判定部、150…顕微鏡、151…対物レンズ、152…結像レンズ、153…照明、160…共焦点スキャナ、161…ピンホールディスクアレイ、162…マイクロレンズアレイディスク、163…ダイクロイックミラー、164…バンドバスフィルタ、165…リレーレンズ、170…カメラ、200…細胞、210…細胞培養容器、220…細胞培養液
図1
図2
図3
図4