特許第6471903号(P6471903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471903
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】光秘匿通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04K 1/02 20060101AFI20190207BHJP
   H04L 9/12 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   H04K1/02
   H04L9/00 631
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-171994(P2015-171994)
(22)【出願日】2015年9月1日
(65)【公開番号】特開2017-50678(P2017-50678A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年4月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/セキュアフォトニックネットワーク技術の研究開発 課題ウ 連続量量子鍵配送技術とその応用」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501086714
【氏名又は名称】学校法人 学習院
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真人
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 琢也
【審査官】 行田 悦資
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−101491(JP,A)
【文献】 特開2008−205667(JP,A)
【文献】 辻井重男,電子情報通信むかしばなし,電子情報通信学会誌,日本,社団法人電子情報通信学会,2006年 8月 1日,第89巻,第8号,p.698−703
【文献】 平野琢也,ホモダイン方式による量子暗号通信,光学,日本,日本光学会,2010年 1月,第39巻,第1号,p.23−28,[online],[平成30年12月11日検索],インターネット<URL:http://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/39-1.html>
【文献】 山田剛良,今だから学ぶ基礎知識,日経エレクトロニクス,日本,日経BP社,2006年 8月14日,第932号,p.136−142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04K 1/02
H04L 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子雑音を用いて光信号の位相および振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)伝送システムを用いた光秘匿通信システムであって、
送信部で生成したQNSC信号を、光ファイバ伝送路を介して受信部へ伝送する際に、前記送信部にて暗号化に用いる共通鍵が、量子鍵配送技術を用いて前記QNSC信号と合わせて前記受信部へ配信され、
前記受信部において、無条件安全に送受信部間で共有した前記共通鍵を用いて、受信した前記QNSC信号が復号化されるよう構成されていることを
特徴とする光秘匿通信システム。
【請求項2】
前記共通鍵の配信において、半導体レーザ光源又はフォトダイオードを利用できるホモダイン方式による量子鍵配送技術が使用され、
同一の光ファイバ伝送路システムを用いてQNSC伝送と量子鍵配信とが同時に実現されていることを
特徴とする請求項1に記載の光秘匿通信システム。
【請求項3】
量子雑音を用いて光信号の位相および振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)伝送システムを用いた光秘匿通信システムであって、
送信部にて暗号化に用いる共通鍵が、独立した光ファイバ伝送路を介し量子鍵配送技術を用いて受信部へ配信され、
前記受信部において、無条件安全に送受信部間で共有した前記共通鍵を用いて、受信したQNSC信号が復号化されるよう構成されていることを
特徴とする光秘匿通信システム。
【請求項4】
前記共通鍵は、任意方式の量子鍵配送システムを多段中継して配信され、それにより、鍵配信距離である前記QNSC信号の伝送距離が拡大されていることを特徴とする請求項3に記載の光秘匿通信システム。
【請求項5】
前記QNSC伝送システムに用いる変調方式として、光強度変調、光位相変調または直交振幅変調が利用されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光秘匿通信システム。
【請求項6】
前記QNSC伝送システムにおいて暗号化の対象となるデータ信号の多値度が時間に対して任意に変更され、それにより、暗号化パターンの盗聴が防止されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光秘匿通信システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝達する情報を盗聴者に知られることなく受信者に送る光秘匿通信に係り、安全性が高くかつ高速な光秘匿通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットを活用したビジネスが急速に発展し、個人情報や機密情報伝達にも光通信ネットワークが活用されるようになっている。そのような中、光通信ネットワークの高速大容量化とともに、情報の安全性を確保することが重要になってきている。光秘匿通信に用いられる量子暗号としては、量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)と、光の量子雑音を利用したストリーム暗号(以降、QNSC:Quantum Noise Stream Cipherと呼ぶ)がよく知られている。前者はストリーム暗号伝送で使用される共通鍵を単一光子や微弱なコヒーレント光で伝送することにより、無条件安全に鍵を配送することができるといわれている(例えば、非特許文献1、2参照)。しかし、元の通信文と同じ長さの使い捨ての共通鍵を受信者に配送する必要があり、暗号通信の速度は鍵配送の速度(数100 kbps)で制限されてしまうといった問題点がある。
【0003】
これに対しQNSCは、現状の光ネットワーク上で実用化ができ、無限の計算能力でも解読できない安全な共通鍵量子暗号として期待されている(例えば、非特許文献3〜6、特許文献1、2参照)。QNSCでは、共通鍵をもとに生成した擬似乱数を用いて光信号の位相あるいは振幅あるいはその両方を多値変調し、光の位相もしくは振幅揺らぎ(これを量子雑音と呼ぶ)の中にデータ情報を埋め込むことにより、盗聴者が光信号を正確に受信できなくしている。この方式では、完全秘匿性は得られないものの、変調レベルの多値度を大きくして被変調光信号の振幅あるいは位相もしくはその両方の変化の間隔を狭めることにより光検出の際に付与される量子雑音がその間隔より大きくなるように設定することで、高い安全性を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−303927号公報
【特許文献2】特開2014−93764号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. H. Bennett and G. Brassard, “Quantum cryptography: Public key distribution and coin tossing”, Proc. IEEE Int. Conf. Computers, Systems and Signal Processing, 1984, pp.175-179
【非特許文献2】T. Hirano, H. Yamanaka, M. Ashikaga, T. Konishi, and R. Namiki, “Quantum cryptography using pulsed homodyne detection”, Phys. Rev. A 68, 2003, 042331
【非特許文献3】G. A. Barbosa, E. Corndorf, P. Kumar, H. P. Yuen, “Secure communication using mesoscopic coherent state”, Phys. Rev. Lett., 2003, vol. 90, 227901
【非特許文献4】O. Hirota, K. Kato, M. Sohma, T. Usuda, K. Harasawa, “Quantum stream cipher based on optical communication”, SPIE Proc. on Quantum Communications and Quantum Imaging, 2004, vol-5551
【非特許文献5】広田修、「光通信ネットワークと量子暗号」、電子情報通信学会論文誌B、2004年、vol. J87-B, pp. 478-486
【非特許文献6】M. Nakazawa, M. Yoshida, T. Hirooka, and K. Kasai, “QAM quantum stream cipher using digital coherent optical transmission”, Opt. Express, 2014, vol. 22, pp. 4098-4107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに報告されているQNSCでは、信号に付与された量子雑音により、共通鍵を用いて生成したストリーム暗号の信号レベルの判定を困難にする能力はあるが、共通鍵そのものの盗聴に対する安全性を保証するものではなかった。そのため、送受信部間で盗聴されることなく共通鍵を事前に所有していることが安全性を確保するための前提条件となり、一部その実用性に問題があった。
【0007】
本発明は、QNSCとQKD技術との融合技術を新たに提案し、安全かつ高速伝送可能な光秘匿通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明に係る光秘匿通信システムは、量子雑音(振幅または位相の相関のない白色光雑音)を用いて光信号の位相および振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)伝送システムを用いた光秘匿通信システムであって、送信部で生成したQNSC信号を、光ファイバ伝送路を介して受信部へ伝送する際に、前記送信部にて暗号化に用いる共通鍵が、量子鍵配送技術を用いて前記QNSC信号と合わせて受信部へ配信され、前記受信部において、無条件安全に送受信部間で共有した前記共通鍵を用いて、受信した前記QNSC信号が復号化されるよう構成されていることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記共通鍵の配信に、例えば市販の半導体レーザ光源やフォトダイオードを利用できるホモダイン方式による量子鍵配送技術が使用され、同一の光ファイバ伝送路システムを用いてQNSC伝送と量子鍵配信とが同時に実現されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る光秘匿通信システムは、量子雑音(振幅または位相の相関のない白色光雑音)を用いて光信号の位相および振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)伝送システムを用いた光秘匿通信システムであって、送信部にて暗号化に用いる共通鍵が、独立した光ファイバ伝送路を介し量子鍵配送技術を用いて前記QNSC伝送システムの受信部へ配信され、前記受信部において、無条件安全に送受信部間で共有した前記共通鍵を用いて、受信したQNSC信号が復号化されるよう構成されていてもよい。
【0011】
この場合、前記共通鍵は、任意の方式の量子鍵配送システムを多段中継して配信され、それにより、鍵配信距離、すなわち前記QNSC信号の伝送距離が拡大されていてもよい。
【0012】
本発明に係る光秘匿通信システムは、以上で述べたQNSC伝送システムに用いる変調方式として、光強度変調あるいは光位相変調あるいは直交振幅変調が利用されていることが好ましい。
【0013】
また、前記QNSC伝送システムにおいて暗号化の対象となるデータ信号の多値度が時間に対して任意に変更され、それにより、暗号化パターンの盗聴が防止されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、高速伝送を得意とするQNSC伝送システムと、無条件安全を特徴とするQKDシステムとを融合することにより、高い安全性と高速性を兼ね備えた光秘匿通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る光秘匿通信システムを示すブロック図である。
図2図1に示す光秘匿通信システムの(a)QNSC送信部、(b)QNSC受信部を示すブロック図である。
図3図1に示す光秘匿通信システムの(a)QNSC送信部、(b)QNSC受信部の変形例を示すブロック図である。
図4図1に示す光秘匿通信システムの(a)QKD送信部、(b)QKD受信部を示すブロック図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る光秘匿通信システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における第1実施形態に係る光秘匿通信システムの構成を、図1に示す。図1に例示する光秘匿通信システムは、共通鍵1をシード鍵としてデータ信号の暗号化を図るQNSC送信部2と、共通鍵1を量子鍵配信するQKD送信部3と、QNSC送信部2とQKD送信部3とからそれぞれ出力されたQNSC信号(波長λ)とQKD信号(波長λ)とを合波および分波するための2つのWDMカプラ4と、合波したQNSC信号とQKD信号とを受信部へ伝送する光ファイバ伝送路5と、光ファイバ伝送路5で伝送したQNSC信号を復号化するためQNSC受信部6と、光ファイバ伝送路5で配信した量子鍵から安全な共通鍵1を生成するためのQKD受信部7ならびに古典チャンネル8とを備える。
【0017】
QNSC送信部2とQNSC受信部6との間で、光ファイバ伝送路5を介して数10〜100 Gbit/sの高速光秘匿通信を実現する。一方、QKD送信部3とQKD受信部7との間で、光ファイバ伝送路5と古典チャンネル8とを介して、QNSC伝送の暗号化/復号化に使用する共通鍵を配信する。共通鍵の配信は、例えば数10〜100 kbit/sの速度で、無条件安全に配信すれば良い。この共通鍵をシード鍵(鍵長: 50〜100ビット)として、QKD伝送システム内部では線形帰還シフトレジスタ(LFSR:Linear Feedback Shift Register)により新たに250〜100ビットの乱数列を生成し、それを用いて暗号化/復号化を行う。例えば、10 Gsymbol/sのQNSC信号を1シンボル分だけ生成するために、乱数列を20ビット使用するとした場合、50段のLFSRで生成した乱数列(250ビット)を使い切るために要する時間Tは、T=100ps×250/20=5.6×10秒と算出できる。この乱数列の一周期Tに比べ十分に短い時間でシード鍵を更新すれば、盗聴者に乱数列の生成パターンを解読されることなく、安全にその乱数列を暗号化/復号化に利用し続けることができる。すなわち、1秒に一度の割合で50ビット程度のシード鍵を更新できれば十分である。従って、前記のQKDシステムの鍵配信速度(数10〜100 kbit/s)は、QNSC伝送システムの安全性を長期に亘り確保する上で十分な速度であると言える。以上のようにQNSC伝送システムへQKD技術を融合することで、極めて安全な共通鍵をQNSC伝送に利用し、その結果として安全性と高速性を兼ね備えた光秘匿通信システムを実現する。
【0018】
さらにQKDシステムは、盗聴者が信号を盗み、その盗聴した信号のコピーを送信者になりすまして配信する“なりすまし攻撃”を見破る能力を有する。そのため、QNSC伝送システムへQKD技術を融合することで、盗聴をリアルタイムに監視する機能を新たに備えることができる。
【0019】
QNSC送信部2の構成例を図2(a)に示す。QNSC送信部2は、共通鍵1を利用して暗号化デジタル信号を生成するQNSC送信用デジタル信号処理回路20と、生成した暗号化デジタル信号をアナログ信号に変換する高速D/A変換回路21と、その暗号化アナログ信号を光配信する際に搬送波として使用するCW(Continuous Wave)光源11および光変調するための光変調器12と、光変調した光信号に付与する雑音源13と、光信号と雑音信号とを合波する光合波器14とを備える。
【0020】
QNSC送信用デジタル信号処理回路20は、共通鍵1を分配する鍵分配回路22と、バイナリーデータを生成するデータ信号生成回路24と、分配した鍵を元に乱数列を生成する乱数列生成回路25と、データ信号生成回路24から出力されるnビットのバイナリーデータを、乱数列生成回路25から出力されるmビットの乱数列で暗号化する際に利用する排他論理和回路26および加算回路27と、これら演算回路により生成したn+mビットの暗号化バイナリー信号を、所望のフォーマットの変調信号に変換するエンコーダ28とから成る。
【0021】
例えば、暗号化信号の変調フォーマットとして直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)を用いる場合、データ信号生成回路24、乱数列生成回路25、排他論理和回路26および加算回路27から成る暗号化回路23を、I(同位相)とQ(直交位相)信号生成用にそれぞれ二式ずつ設ければよい。また、これに合わせ、高速D/A変換回路21も二式設け、光変調器12としてQAM変調器を利用すればよい。一方、暗号化信号の変調フォーマットとして光位相変調あるいは光強度(振幅)変調を用いる場合、暗号化回路23および高速D/A回路21はそれぞれ一式ずつあればよく、光変調器12として光位相変調器あるいは光強度変調器を用いればよい。
【0022】
CW光源11として、例えば狭線幅のファイバレーザや半導体レーザを用いればよい。雑音源13の一例としては、エルビウム添加光ファイバ増幅器やラマン光増幅器から出力される自然放出光、あるいは不規則なパターン光信号が挙げられる。
【0023】
図2(a)のQNSC送信部2に対応したQNSC受信部6の構成例を、図2(b)に示す。QNSC送信部6は、受信したQNSC信号をホモダインあるいはヘテロダイン検波するための局発光源29およびコヒーレント受信回路30と、検波したアナログ信号をデジタル信号に変換するための高速A/D変換回路31と、QNSC送信部2と同一の共通鍵1を用いて、受信したデジタル信号よりバイナリーデータを復元するためのQNSC受信用デジタル信号処理回路32とを備える。
【0024】
QNSC受信用デジタル信号処理回路32は、高速A/D変換回路31で受信した信号レベルを10進数から2進数に変換するデコーダ33と、送信部における暗号化回路23に対し逆の演算を施し元のデータを復元するための復号化回路34とから成る。復号化回路34の構成は、加算回路27の代わりに引算回路35を用いていることを除き、暗号化回路23と同じである。
【0025】
例えば、暗号化信号の変調フォーマットとしてQAMを使用したQNSC信号を、局発光源29を用いてホモダイン検波する場合、コヒーレント受信回路30には90度ハイブリッドと2台のバランスPDとを用いればよい。また、高速A/D変換回路31および復号化回路34は、IとQ信号の復調のためにそれぞれ二式ずつ設ければよい。一方、暗号化信号の変調フォーマットとして光位相変調あるいは光振幅変調を用いる場合、コヒーレント受信回路30には1台のバランスPDを使用し、高速A/D変換回路31および復号化回路34はそれぞれ一式ずつあればよい。さらに、暗号化信号の変調フォーマットとして符号情報を持たない光強度変調を利用する場合は、局発光源29は不要であり、またコヒーレント受信回路30は通常のフォトダイオードでよい。
【0026】
局発光源29の光位相を、送信したQNSC信号の光位相に同期を図る手法の一例として、光位相同期ループ回路あるいは光注入同期回路を用いた位相制御法が挙げられる。また、QNSC送信部2においてQNSC信号を生成する際に、その信号と直交する偏波にCW光源1と位相同期したトーン信号を立て、一方、QNSC受信部6においてこのトーン信号を偏波分離して抽出し、それを局発光源29の代わりに利用する自己遅延ホモダイン検波系を採用することもできる。
【0027】
QNSC送信部2およびQNSC受信部6に、それぞれ波長多重回路および波長分離回路を設け、多波長の光源を利用した波長分割多重伝送を行うことで、光秘匿通信システムの伝送容量を増大させることもできる。
【0028】
QNSC送信部2およびQNSC受信部6に、それぞれ偏波多重回路および偏波分離回路を設け、偏波多重伝送方式を利用して光秘匿通信システムの伝送容量を倍増することもできる。
【0029】
QNSC送信部2の他の構成例を図3(a)に示す。図2(a)に示したQNSC送信部2との相違点は、暗号化の対象となるデータのビット数(nビット)および暗号化に用いる乱数列のビット数(mビット)を時間に対し任意に切り替えられるように、多値度切り替え信号36と、多値度切り替え回路37と、複数通りの異なるnとmビットの組み合わせによる暗号化回路およびエンコーダ38とを新たに備えている点である。その他の動作は、図2(a)に示したQNSC送信部2と同じである。
【0030】
QNSC送信用デジタル信号処理回路20’内に、予め複数通りの異なるnとmビットの組み合わせによる暗号化回路23およびエンコーダ28を作製しておき、多値度切り替え回路37では、そのうちの1つを多値度切り替え信号36に対応させて選択する。これにより、暗号化のアルゴリズムを時間に対して任意に切り替えることができ、盗聴者による暗号の解読をより困難なものにすることができる。なお、データのビット数nを高くするほど、正規受信者がそのデータを正しく閾値判定するために必要な信号のS/Nも高くなる関係にある。そのため、データのビット数nに応じて、雑音源13によりQNSC信号に付与する雑音の大きさを加減することが重要である。
【0031】
また、QNSC送信部2とQNSC受信部6における暗号化と復号化回路間の同期を図るために、例えば、暗号化信号のヘッダーに多値度切り替え信号36の情報を付与し、その情報を暗号化信号とともにQNSC受信部6へ送信すればよい。このとき付与するヘッダー情報を多値度切り替え回路37で制御する。
【0032】
図3(a)のQNSC送信部2に対応したQNSC受信部6の構成を、図3(b)に示す。図2(b)に示したQNSC受信部6との相違点は、受信した信号の中から多値度切り替え信号36を抽出する多値度切り替え信号抽出回路39と、多値度切り替え回路37と、複数通りの異なるnとmビットの組み合わせによる復号化回路およびデコーダ40とを新たに備えている点である。その他の動作は、図2(b)に示したQNSC受信部6と同じである。
【0033】
QNSC受信用デジタル信号処理回路32’内に、予め複数通りの異なるnとmビットの組み合わせによる復号化回路34およびデコーダ33を作製しておき、多値度切り替え回路37では、そのうちの1つを抽出した多値度切り替え信号36に対応させて選択する。これにより、送信部の暗号化回路と同一のnとmビットの組み合わせによる復号化処理を実施できる。
【0034】
QKD送信部3の構成例を図4(a)に示す。QKD送信部3は、光ファイバ伝送路5および古典チャンネル8を介してQKD受信部7と共有した各種情報から安全な共通鍵を生成するQKD送信用デジタル信号処理回路43と、デジタル信号処理回路43より各種情報をアナログ出力するための低速D/A変換回路44と、デジタル信号処理回路43へアナログ信号を入力するための低速A/D変換回路45と、デジタル信号処理回路43内で生成した鍵データを、光ファイバ伝送路5を介して光配信するために利用するQKD送信用光源41および光変調器42とを備える。
【0035】
QKD送信用デジタル信号処理回路43は、共通鍵の元となる鍵情報を生成する鍵データ生成回路46と、この鍵データの配信に用いる光位相の基底状態を定義する基底信号生成回路47と、これらの情報に基づき鍵データを光変調情報に変換するエンコーダ48と、送信部で生成した鍵データおよび基底情報と古典チャンネル8を介して受信部から配信されてくる受信部における受信状況の情報とをもとに安全に配信できた鍵を判定する判定回路(送信部)49と、安全と判定した鍵を共通鍵として蓄積する共通鍵蓄積回路50とから成る。エンコーダ48が変換する光変調情報としては、例えば、0、π/2、π、3π/2の4値の位相変調を用いることができる。
【0036】
判定回路49で実施する処理としては、量子鍵配送技術として一般的に広く利用されている基底照合、誤り訂正、秘匿性増強処理が挙げられる。これらの処理で利用する各種情報は、古典チャンネル8を介してQKD送信部3とQKD受信部7との間で共有する。
【0037】
一方、光ファイバ伝送路5を用いた鍵データの光配信を行う際に、QNSC伝送システムとの整合性に配慮する必要がある。QNSC伝送システムと統合化を図るために、特殊な光源や光検出器を利用せず、一般に市販された光部品でQKDシステムを構築することが大変重要である。そこで、送信用光源41として、直接変調を利用した市販の半導体レーザを使用し、本レーザより出力される光パルス信号の位相に鍵データの情報をのせて配信する。その際、光パルス信号の平均光子数を1光子/パルス程度に弱めて配信することで、量子雑音限界で動作する安全なコヒーレント光伝送を実現する。一方、受信部では高感度な光検出を得意とするホモダイン検波方式を採用し、室温で動作する市販のフォトダイオードを利用した光検出を可能にする。以上のように、ホモダイン方式による量子鍵配送技術を採用することにより、QNSC伝送システムとの整合性に優れたQKDシステムを実現できる。
【0038】
図4(a)のQKD送信部3に対応したQKD受信部7の構成を、図4(b)に示す。QKD受信部7は、QKD信号をホモダイン検波するためのQKD受信用局発光源51およびバランスPD52と、QKD受信用局発光源51からの出力光に観測用基底情報を付与するための光変調器42と、ホモダイン検波信号や古典チャンネルを介してQKD送信部3からQKD受信部7へ配信された各種信号をデジタル信号に変換する低速A/D変換回路45と、これらの入力信号をもとに共通鍵を生成するQKD受信用デジタル処理回路53と、本デジタル処理回路から各種信号を出力する際に利用する低速D/A変換回路44とを備える。
【0039】
QKD受信用デジタル処理回路53は、受信したQKD信号の位相情報より基底状態を判定する際の観測の対象とする基底(0もしくはπ/2の一方)を選択するために利用する観測用基底信号生成回路54と、その観測用基底情報とバランスPD52で検出した鍵データ情報と古典チャンネル8を介して送信部から配信された各種情報(基底照合、誤り訂正、秘匿性増強の各処理に関する情報)とをもとに安全に受信できた鍵を判定する判定回路(受信部)55と、安全と判定した鍵を共通鍵として蓄積する共通鍵蓄積回路50から成る。
【0040】
QKD受信用局発光源51の光位相を、送信したQKD信号の光位相に同期を図る手法の一例として、光位相同期ループ回路あるいは光注入同期回路を用いた位相制御法が挙げられる。また、QKD送信部3においてQKD信号を生成する際に、その信号と直交する偏波にQKD送信用光源41と位相同期したトーン信号を立て、一方、QKD受信部7においてこのトーン信号を偏波分離して抽出し、それをQKD受信用局発光源51の代わりに利用する自己遅延ホモダイン検波系を採用することもできる。
【0041】
QKD送信部3とQKD受信部7の動作を同期させるために、光ファイバ伝送路5に微弱なQKD信号を配信する際に、それと合わせて同期用のトリガ信号を配信してもよい。
【0042】
本発明における第2実施形態に係る光秘匿通信システムの構成を、図5に示す。図5に例示する光秘匿通信システムは、共通鍵1をシード鍵としてデータ信号の暗号化を図るQNSC送信部2と、共通鍵1を量子鍵配信するQKD送信部3と、それら2つの送信部からの出力信号をそれぞれ独立に送信する光ファイバ伝送路5および他の光ファイバ伝送路10と、光QNSC信号を多中継伝送するための光増幅器9と、伝送したQNSC信号を復号化するためQNSC受信部6と、他の光ファイバ伝送路10で配信した量子鍵から安全な共通鍵1を生成するためのQKD受信部7ならびに古典チャンネル8と、この共通鍵1を多中継配信するための複数段のQKDシステム(QKD送信部3、他の光ファイバ伝送路10、QKD受信部7、古典チャンネル8)とを備える。
【0043】
第2実施形態では、QNSC信号とQKD信号とをそれぞれ独立した光ファイバ伝送路で送信するため、QKDシステムの配信可能な距離の制約を受けることなく、QNSC信号を光ファイバ伝送路5と光増幅器9を用いた多中継伝送とにより数100 km以上の長距離を伝送できる。QNSC送信部2とQNSC受信部6の動作は、第1実施形態と同様である。
【0044】
一方、QKD信号の配信においては、1つのQKDシステムで伝送可能な距離は50 km程度に制限されるが、QKDシステムを多段に接続することで、共通鍵1を数100 km以上の長距離を配信できる。その多中継配信は、以下のように実現する。まず、各段のQKDシステムにおいて、量子鍵配信技術により共通鍵を共有する。ここで、1段目のQKDシステムで共有する鍵を共通鍵1とし、N段目のQKDシステムで共有する鍵を共通鍵Nとする。つぎに、1段目のQKD受信部7から2段目のQKD送信部3へ共通鍵1を渡す。その受け取った共通鍵1を2段目のQKDシステムで共有している共通鍵2を用いてワンタイムパッド法により暗号化し、2段目のQKD送信部3からそのQKD受信部7へ共通鍵1の情報を暗号伝送する。そして、2段目のQKD受信部7で受信した暗号信号を、共通鍵2を用いて復号化し、共通鍵1の情報を復元する。以上の共通鍵1情報のワンタイムパッド暗号伝送を3段目以降も繰り返し行うことにより、共通鍵1の情報をN段目のQKD受信部7へ安全に送信することができる。
【0045】
ここで、第2実施形態のQKDシステムでは、QNSC伝送とは異なる他の光ファイバ伝送路10を用いて配信することより、特殊な光源や光検出器を利用することもできる。また、量子鍵配送の方式として、搬送波信号の光位相を用いたホモダイン方式の他、その信号の偏波状態や1つ前のビットとの光位相差の情報に4種類の量子状態を割り当てて配信する方式などの従来技術を利用してもよい。
【0046】
このように第2実施形態では、光増幅器を用いたQNSC信号の多中継伝送と、多段のQKDシステムを用いた共通鍵の多中継配信を利用することにより、光秘匿通信システムの伝送距離を数100 km以上に拡大できる。
【0047】
尚、第1または第2の実施形態において、QNSC伝送システムに用いる変調方式として、光強度変調、光位相変調または直交振幅変調を利用してもよい。
【0048】
また、第1または第2の実施形態において、QNSC伝送システムにおける暗号化の対象となるデータ信号の多値度を時間に対して任意に変更し、それにより、暗号化パターンの盗聴をより困難にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明を用いると、伝達する情報を盗聴者に知られることなく受信者に高速で送れる光秘匿通信を実現でき、その産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0050】
1 共通鍵
2 QNSC送信部
3 QKD送信部
4 WDMカプラ
5 光ファイバ伝送路
6 QNSC受信部
7 QKD受信部
8 古典チャンネル
9 光増幅器
10 他の光ファイバ伝送路
11 CW光源
12 光変調器
13 雑音源
14 光合波器
20,20’ QNSC送信用デジタル信号処理回路
21 高速D/A変換回路
22 鍵分配回路
23 暗号化回路
24 データ信号生成回路
25 乱数列生成回路
26 排他論理和回路
27 加算回路
28 エンコーダ
29 局発光源
30 コヒーレント受信回路
31 高速A/D変換回路
32,32’ QNSC受信用デジタル信号処理回路
33 デコーダ
34 復号化回路
35 引算回路
36 多値度切り替え信号
37 多値度切り替え回路
38 複数通りの異なるnとmビットの組み合わせによる暗号化回路およびエンコーダ
39 多値度切り替え信号抽出回路
40 複数通りの異なるnとmビットの組み合わせによる復号化回路およびデコーダ
41 QKD送信用光源
42 光変調器
43 QKD送信用デジタル信号処理回路
44 低速D/A変換回路
45 低速A/D変換回路
46 鍵データ生成回路
47 基底信号生成回路
48 エンコーダ
49 判定回路(送信部)
50 共通鍵貯蓄回路
51 QKD受信用局発光源
52 バランスPD
53 QKD受信用デジタル信号処理回路
54 観測用基底信号生成回路
55 判定回路(受信部)
図1
図2
図3
図4
図5