(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
本発明に係る第1の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における空調最適制御システムを示す概略図である。本実施形態の空調最適制御システムは、デシカント空調機2と放射パネル3(冷暖房装置)と制御装置4とを有している。
【0018】
デシカント空調機2は、
図1に示すように、給気流路10、排気流路20、全熱交換ロータ11、第一冷却コイル12、第二冷却コイル13、除湿ロータ14、再熱コイル15を備えている。
【0019】
給気流路10は、外部から流入した外気OA(Outdoor Air)を室内(制御対象空間)1に給気するものであり、第一送風ファン21が開口部2aから外気OAを取り込んで、外気OAを給気SA(Supply Air)として室内(制御対象空間)1に給気する。
【0020】
排気流路20は、室内から流入した還気RAを外部に排気するものである。第二送風ファン22は、開口部2bから室内(制御対象空間)1の空気である還気RA(Return Air)を取り込み、この還気RAを開口部2cから外部に排気する。この排気流路20は、給気流路10と並設されている。
【0021】
全熱交換ロータ11は、回転型のものであり、例えばアルミシートを段ボール状に加工して円筒状に巻いた形状のハニカムロータからなる。
全熱交換ロータ11は、給気流路10からの外気OAと排気流路20からの還気RAとの間で熱と湿度とを交換させる。例えば夏期において、還気RAは、室内(制御対象空間)1からの空気であるため、外気OAと比べて温度が低く湿度が低い。そのため、外気OAは、全熱交換ロータ11により還気RAと全熱交換されることで、温度が下がり、湿度が下がる。全熱交換ロータ11により全熱交換された還気RAは、排気EA(Exhaust Air)として第二送風ファン22により外部に排出される。
【0022】
第一冷却コイル12は、制御弁5を介して冷水が供給される。また、第二冷却コイル13は、制御弁6を介して冷水が供給される。また、制御弁5、6の各々は、制御装置4に接続されている。制御装置4は、制御弁5,6の開度を制御し、第一冷却コイル12、第二冷却コイル13の各々に供給する冷水の量を調整する。これにより、全熱交換ロータ11により全熱交換された外気OAは、第一冷却コイル12を通ることで段階的に温度を下げる。
【0023】
除湿ロータ14は、自身を通過した空気の除湿を行うものである。除湿ロータ14は、回転型のものであり、例えばハニカム状通路の束からなる円盤状のロータ部材(不図示)と、このロータ部材のハニカム状通路の表面にしみ込んだシリカゲル系吸着剤や高分子収着材とを有している。
除湿ロータ14は、第一冷却コイル12を通過した空気に含まれる水分を上述した吸着材で吸着する。これより、除湿ロータを通過した空気の湿度が下がる。また、除湿ロータ14を通過した空気は、通過前と比べて多少温度が上がっているため、第二冷却コイル13で室温程度まで冷やす。冷やした空気は、第一送風ファン21により室内(制御対象空間)1に送られる。ただし、除湿ロータ14に設けられている吸着材は、吸着できる水分量に限界がある。このため、除湿ロータ14のロータ部材が回転することにより、水分を吸着した吸着材を排気流路20に位置させる。よって、再熱コイル15で温められた開口部2dからの外気OAが水分を吸着した吸着材を通過する。これより、吸着材に吸着した水分を温められた開口部2dからの外気OAで脱着する。制御弁7は、再熱コイル15に温水を供給する。開口部2dからの外気OAは、吸着材に吸着した水分を吸収したため、湿度が高くなる。よって、開口部2dからの外気OAは、第三送風ファン23により外部に排出される。
【0024】
放射パネル3は、熱媒体としての冷水が流通する熱媒体流通管3aとパネル本体3bとを備えている。放射パネル3は、例えば室内(制御対象空間)1の天井に配設される。放射パネル3は、熱媒体流通管3aに制御弁8を介して冷水を流してパネル本体3bの温度を上昇又は下降させる。これより、放射パネル3は、パネル本体3bからの放射熱により空調を行う。制御弁8は、制御装置4に接続されている。制御装置4は、制御弁8の開度を制御し、熱媒体流通管3aに供給する冷水の量を調整する。
【0025】
図2は、本発明の実施形態における制御装置4のブロック図である。制御装置4は、蓄積部41、計画部42、計測部43、演算部44、制御部45を有している。
蓄積部41は、過去の室内(制御対象空間)1の物理量のデータ、例えば温度・湿度値、天井裏温度、室内の発熱量などが時系列に蓄積される。また、室内1の大きさや室内1の壁の材質といった室内1の構造データが予め蓄積されている。
計画部42は、外気温や日射量、外気湿度といった天気予報に基づくデータや室内1の照明の点灯状態(Lr)や室内1の人数(Pr)などの外乱パターンが予め記憶されている。室内1の照明の点灯状態(Lr)や室内1の人数(Pr)などの外乱パターンは、例えば昼休みなどで室内1から人が出ていくため室内1の人体発熱は下がり、温度が下がる。また、昼休みなどでは照明を消す場合が多いため照明発熱が下がり、温度が下がる。このように、外乱パターンは、室内1の照明の点灯状態(Lr)や室内1の人数(Pr)などがいつどれだけ減少又は増大するかといったデータである。
計測部43は、室内1に設置された不図示のセンサから計測される現在時刻の室内(制御対象空間)1の物理量のデータを取得する。また、計測部43は、室内(制御対象空間)1の物理量の設定値s(t)が予め記憶されている。本実施形態における説明として、時刻tにおける室内(制御対象空間)1の物理量x(t)は、温度Tr(t)、湿度Tr(t)である場合を考える。
【0026】
演算部44は、状態推定部44_1と最適化計算部44_2と記憶部44_3とを有している。記憶部44_3は、演算部44により単位時間毎に操作量が記憶される。操作量は、単位時間毎に時系列に記憶部44_3に書き込まれ記憶されてもよい。また、操作量は、単位時間毎に過去の操作量から更新され記憶部44_3に書き込まれ記憶されてもよい。
【0027】
記憶部44_3は、関数αと関数βと関数γとが予め書き込まれ記憶されている。関数αと関数βと関数γは、予め実験によって求められる。関数αは、現在時刻tの環境条件が将来の室内1の温度・湿度に与える影響を表した関数である。例えばα
Tは、現在時刻tの環境条件が将来の室内1の温度に与える影響を表す関数である。また、α
Xは、現在時刻tの環境条件が将来の室内1の湿度に与える影響を表す関数である。
関数βは、各々の制御弁の開度が将来の室内1の温度・湿度に与える影響を表した関数である。β
pTは、制御弁8の開度が将来の室内1の温度に与える影響を表した関数である。β
d1Tは、制御弁5,6の開度が将来の室内1の温度に与える影響を表した関数である。β
d2Tは、制御弁7の開度が将来の室内1の温度に与える影響を表した関数である。β
d1Xは、制御弁5,6の開度が将来の室内1の湿度に与える影響を表した関数である。β
d2Xは、制御弁7の開度が将来の室内1の湿度に与える影響を表した関数である。
関数γは、外乱が温度・湿度に与える影響を表す関数である。例えば、γ
LTは、照明の点灯状態が将来の室内1の温度に与える影響を表した関数である。γ
PTは、室内1の人数が将来の室内1の温度に与える影響を表した関数である。γ
PXは、室内1の人数が将来の室内1の湿度に与える影響を表した関数である。
【0028】
状態推定部44_1は、蓄積部41から過去の室内(制御対象空間)1の物理量のデータを取得する。また、状態推定部44_1は、計画部42から外乱パターンのデータ、例えば照明の点灯状態Lr(t)と室内1の人数Pr(t)を取得する。また、状態推定部44_1は、計測部43から設定値s(t)、物理量x(^)(t)である温度Tr(t)、湿度Xr(t)を取得する。また、状態推定部44_1は、記憶部44_3から操作量u(t)、関数α、関数β、関数γを取得する。状態推定部44_1は、取得した現在時刻tにおけるデータから予め設定してある状態方程式の式(1)を使用して、現在時刻より将来の時間、つまり時刻tから一定時間後の時刻t+1の物理量(以下、「推定物理量」という。)x(^)(t+1)の式を求める。下記、式(1)において、時刻t+1の物理量x(^)(t+1)はxの上部に「^(ハット)」が記載されて表現されている。また、時刻tの物理量x(^)(t)はxの上部に「^(ハット)」が記載されて表現されている。
【0030】
なお、x(^)(t)、u(t)、w(t)は、式(2)の行列式で与えられる。
【0032】
なお、下記、式(3)において、Aは関数αを含む行列式である。Bは関数βを含む行列式である。Dは、関数γを含む行列式である。Cは、式(4)において、z(^)(t+1)を求めるための行列式である。
【0034】
また、状態推定部44_1は、評価関数(後述する)により周期の最適な操作量を予測するために、式(4)からz(^)(t+1)を算出する。下記、式(1)において、z(^)(t+1)はzの上部に「^(ハット)」が記載されて表現されている。
【0036】
最適化計算部44_2は、式(5)に示す評価関数が最小となるように周期毎の最適な操作量を計算する。なお、Nは、予測を行うタイムステップ数を表す。よって、最適化計算部44_2は、現時刻kとして、k+1、k+2、…、k+NのN個の制御サイクルについて予測を行う。つまり、最適化計算部44_2は、推定物理量と設定値との差を小さくするために現時刻kから将来のある地点k+Nまでにわたる時間分だけの最適な操作量を計算する。また、最適化計算部44_2は、各周期において、そのうち最適な操作量だけを制御部45に送る。
【0038】
この評価関数の第1項は推定物理量と設定値とを近づける項であり、Qは温度・湿度の設定値に対する追従性のパラメータ行列である。第2項は、現時刻kから将来のある地点k+Nまでにわたる時間分の制御弁の開度を示す。また、この第2項は、制御弁の開度からコストを算出するコスト評価項でもあり、R
1はデシカント空調機2と放射パネル3のコスト評価のパラメータ行列である。第2項に関して詳細は後述する。第3項は、操作量の急激な変動を抑制する項である。Δuは、周期の操作量と現時刻の操作量との変化量を示しており、R
2はデシカント空調機2と放射パネル3の制御弁の制御安定性のパラメータ行列である。
例えば、第2項のコスト評価項では、以下のような処理を行う。デシカント空調機2と放射パネル3に使用する各々の冷温水の流量F(t)は、各々の制御弁の開度V(t)に比例すると仮定すると、式(6)に示す関係が成り立つ。なお、mは予め実験等で求められる比例定数である。
【0040】
また、デシカント空調機2と放射パネル3の各々で消費される消費熱量Q(t)は、式(7)に示すように、冷温水の流量F(t)と、冷温水を流す管の入り口及び出口の冷温水の温度差dTの積で求まる。
【0042】
これにより、デシカント空調機2と放射パネル3の各々のコスト指標C(t)として、消費エネルギーである熱量Q(t)を式(7)より求めることができる。また、式(8)に示すように原単位cを考慮して、コスト指標C(t)を運営費、CO
2などに関したものとして得ることができる。原単位cは、例えば単位当りエネルギーを産み出すに必要となる費用や単位エネルギー当りのCO
2排出量を示す。
【0044】
上述した手順の下で、操作量u(t)の要素とコスト指標の関係を式(9)のように導き行列R
1の値を決定する。
【0046】
式(9)のように、操作量u(t)の要素とコスト指標の関係を表す場合、コストと制御変数である制御弁の開度を関連付ける係数r
11は式(10)に示す関係が得られる。
【0048】
これより、制御弁の開度からコストを設定することができる。
【0049】
制御部45は、最適化計算部44_2で求めた評価関数を最小化する制御弁5〜8各々の周期の最適な操作量に基づいた制御を行うことを指示する制御指令をデシカント空調機2と放射パネル3に送信する。
【0050】
次に、
図3を参照して、
図1に示す制御装置4の制御動作を説明する。
図3は、
図1に示す制御装置4のブロック線図である。
現在時刻tにおいて、室内(制御対象空間)1の物理量がx(^)(t)、設定値がs(t)、操作量がu(t)である。物理量x(^)(t)は、現在時刻tにおける室内(制御対象空間)1の温度・湿度や天井裏温度、室内(制御対象空間)1に発生した熱量などであり、室内(制御対象空間)1に設置されたセンサ(不図示)の取得値である。設定値s(t)は、現在時刻tにおける物理量の設定値である。操作量u(t)は、現在時刻tにおける制御弁の開度である。
【0051】
状態推定部44_1は、室内(制御対象空間)1の物理量x(^)(t)、設定値s(t)、操作量u(t)を取得する。また、状態推定部44_1は、予め設定してある状態推定モデルの関数に物理量x(^)(t)、設定値s(t)、操作量u(t)を代入することで状態推定モデルを作成する。これより、状態推定部44_1は、推定物理量を推定し、最適化計算部に出力する。最適化計算部44_2は、周期毎に最小エネルギーで推定物理量が予め設定された設定値s(t)になるような最適な操作量を算出し、算出した周期の最適な操作量を制御部45に出力する。制御部45は、周期の最適な操作量に基づいた制御を行うことを指示する制御指令を制御弁5〜8各々に送信する。制御弁5〜8各々は、制御指令に基づいた制御を行うことで、室内1の温度と湿度を含む時刻t+1の室内1の物理量が設定値に近づく。時刻t+1における室内(制御対象空間)1の物理量は、外部情報w(t)と周期の最適な操作量の影響により、例えば以下に示す式(11)に従う値になる。なお、f(x(t)、u(t))は、操作量u(t)が物理量x(t)に与える影響を示す関数である。また、外部情報w(t)は、現在時刻tにおける外気温や日射量、外気湿度といった天気予報に基づくデータや外乱パターンである。
【0053】
制御装置4は、上述した制御動作を単位時間毎に繰り替し行う。
【0054】
上述したように、本実施形態によれば、複数の空調機が組み合わされた空調システムにおいて、室内1の物理量から状態推定モデルを用いて、現在時刻より将来の物理量を予測する。また、予測した物理量が設定値となるために必要なデシカント空調機2と放射パネル3の投入エネルギーが最小となる制御弁5〜8の各々の操作量を算出し、算出した操作量を基に制御する。これにより、一次エネルギーやCO
2の排出量、空調運転費用などの空調の運用コストを低減することができる。
また、評価関数に操作量の変化を抑制する項を含めることで、制御弁の変化量制約といった要素を同時に考慮した制御方針を設計することができる。
また、予測される外乱パターンを用いて状態推定モデルを作成することから、外乱に対して安定した制御が可能となる。これにより、外乱による室内1の急激な温度・湿度の変化を抑制することができ、室内1の快適性が向上する。
【0055】
なお、本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
本実施形態では、室内状態推定部は現在時刻の物理量と現時刻の操作量と外乱パターンとから状態推定モデルを計算したが、これに限られるものではなく、例えば室内状態推定部は、蓄積部41に予め蓄積された過去の室内1の物理量のデータや構造データを状態推定モデルに反映することで外乱や操作量が室内1に与える影響を、十分な精度で計算することができる。
【0056】
また、本実施形態では、室内状態推定部は、状態推定モデルにおいて、室内1の将来の温度及び湿度の推定を行ったが、これに限られるものではなく、例えば外気温や日射量、外気湿度といった天気予報データに基づく室内1の外部情報とともに、天井裏温度、室内発熱量などの室内1の情報を状態推定モデルに反映することで、室内の必要冷却量や必要除湿・加湿量を推定することができる。
【0057】
また、複数の部屋の温度を部屋毎に設定される設定温度に制御する空調システムにおいては、適宜の状態推定モデルを用いることで本発明を適用することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
以下、本発明における第2の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態における空調最適制御システムを示す概略図である。なお、第1の実施形態と同じ構成には、同じ符号を付してその説明を省略する。本実施形態の空調最適制御システムは、第1の実施形態のモデル予測制御による放射パネル3の制御方法を具体化したものである。
本実施形態の空調最適制御システムは、デシカント空調機2と放射パネル3(冷暖房装置)と制御装置4Aとを有している。なお、制御装置4を制御装置4Aに代えた以外の構成については、第1の実施形態と同様である。
【0059】
制御弁5、6の各々は、制御装置4Aに接続されている。制御装置4Aは、制御弁5,6の開度を制御し、第一冷却コイル12、第二冷却コイル13の各々に供給する冷水の量を調整する。これにより、全熱交換ロータ11により全熱交換された外気OAは、第一冷却コイル12を通ることで段階的に温度を下げる。
制御弁8は、制御装置4Aに接続されている。制御装置4Aは、制御弁8の開度を制御し、熱媒体流通管3aに供給する冷水の量を調整する。
【0060】
図5は、本実施形態における制御装置4Aのブロック図である。制御装置4は、蓄積部41、計画部42A、計測部43A、演算部44A、制御部45を有している。
計画部42Aは、対象室である室内1の温度の設定値、室内1の発熱量の計画値、隣室の温度設定値等の設定あるいは推定可能な外的条件を定め、それをパターンファイルとして予め蓄積されている。また、計画部42Aは、外気温や日射量、外気湿度といった天気予報に基づくデータや室内1の照明の点灯状態や室内1の人数などの外乱パターンをパターンファイルとして予め蓄積されている。例えば、昼休みなどで室内1から人が出ていくため室内1の人体発熱は下がり、室内1の内部の温度が下がる。また、昼休みなどでは照明を消す場合が多いため照明発熱が下がり、室内1の内部の温度が下がる。このように、パターンファイルは、室内1の照明の点灯状態や室内1の人数などがいつどれだけ減少又は増大するかといった予測可能な外乱データである。
【0061】
計測部43Aは、室内1に設置された不図示のセンサから計測される現在時刻の室内(制御対象空間)1の物理量x(t)のデータを取得する。また、計測部43Aは、不図示のセンサで計測された現在時刻の外気の温度等の外乱データを取得する。なお。本実施形態では、時刻tにおける室内1の物理量x(t)が、室内1の内部温度(以下「室温」とする。)y(t)である場合を考える。
【0062】
演算部44Aは、状態推定部44A_1と最適化計算部44A_2と記憶部44A_3とを有している。記憶部44A_3には、状態推定部44A_1により単位時間毎に操作量が記憶されている。操作量は、単位時間毎に時系列に記憶部44A_3に書き込まれ記憶されてもよい。また、操作量は、単位時間毎に過去の操作量から更新され記憶部44A_3に書き込まれ記憶されてもよい。
【0063】
状態推定部44A_1は、室内1の室温が室内1の室温の設定値に近づくように参照軌道を設定する。参照軌道は、次式で表される。
【0065】
なお、式(12)において、kは現在のステップ、s(k)は室温の設定温度、y(k)室温、Tsはサンプリング周期、Trefは時定数とした。ここで、k+i|kは、現在ステップkにおける将来ステップk+iの予測値を表す。また、参照軌道は、
図6に示すように、室温が設定温度になるまでの理想的な時間変化を表す。本実施形態では、例えば現在の室温から設定温度に30分間かけて指数関数的に到達させるものとする。しかしながら、本実施形態は、設定温度に到達させるまでの時間が上述した30分に限定されるものではない。
【0066】
次に、状態推定部44A_1は、室内1の状態推定モデルである部屋モデルを設定し、将来の室内1の温度y(k+i|k)を推定する。そのために、状態推定部44A_1は、計画部42Aからパターンファイルを取得する。状態推定部44A_1は、計測部43Aから現在時刻の室温を取得する。また、状態推定部44A_1は、計測できない又は計測が難しい壁や床内部の温度等の室内1を構成する部材の温度をシミュレーションで算出する。このシミュレーションにおいて、室内1と同じ条件で計算することで壁や床等の構成する部材の温度を求め、上記部屋モデルの初期値として与えた。
具体的には、例えば、対象室を室内1の空間と放射パネル3の上側の天井空間とに分け、室内1及び隣室間や室内1及び外気間で1次元の伝熱モデルを作成し、次式に表される状態方程式で表す。そして、部屋モデルの状態変数として、壁、窓面、天井、床等の構成部材に22項目の温度点を設定し、各構成部材の熱的特性をもとに隣接する領域との熱量の授受の関係をモデル化し、このモデルを用いて部屋の状態推定を行う。
【0068】
ここで、x(k+i|k)は部屋モデルの状態変数、u(k+i|k)は放射パネル空調の除去熱量、u
A(k+i|k)は将来の外乱推定値を表す。また、A、B、B
Aはそれぞれステップk+i+1における部屋状態に対して、各x(k+i|k)、u(k+i|k)、u
A(k+i|k)の与える影響を表す行列である。
【0069】
状態推定部44A_1は、式(13)を次式に代入することで、室温y(k+i|k)を算出する。状態推定部44A_1は、所定の間隔数まで部屋モデルの状態変数の将来値を算出し、室温y(k+i|k)を求める。例えば、予測の周期や放射天井パネルに対する制御の周期を5分に1回とし、状態推定部44A_1は、5分毎の演算開始時から30分(6ステップ)後まで部屋モデルの状態変数の将来値を算出し室温を求める。
【0071】
なお、Cは、状態変数から室温を取り出す操作を表す行列である。
【0072】
最適化計算部44A_2は、式(12)に示す参照軌道と式(14)に示す室温との誤差が最小となるように、各ステップの除去熱量u(k)を算出する。すなわち、次式に示すように、現在と5、10、15、20、25分後の6点における参照軌道と室温との誤差の二乗和が最小となるような除去熱量u(k)を算出する。
【0074】
最適化計算部44A_2は、算出した除去熱量uと放射パネル3の出入口水温の実測値とから次式を用いて流量Lを求める。
【0076】
ここで、Qは除去熱量uの熱量を表す。また、Kは比熱、Toutは放射パネル3の出口を通る流水の温度を表し、Tinは放射パネル3の入口を通る流水の温度を表す。
【0077】
図7は、本実施形態におけるパネル弁、すなわち制御弁8の開度と流量特性の一例である。流量特性は、放射パネル3の制御弁8の弁開度に対応した制御弁8を通過する水の流量である。
図7に示した放射パネル3の制御弁8の弁開度と流量特性とから制御弁8の弁開度θを例えば次式の近似式で表すことができる。
【0079】
最適化計算部44A_2は、算出した流量Lを式(17)に代入することで、制御弁8の弁開度θを求める。最適化計算部44A_2は、求めた制御弁8の弁開度θを制御部45に出力する。
【0080】
制御部45は、最適化計算部44A_2で求めた制御弁8の弁開度θを指示する制御指令値を放射パネル3に送信する。
【0081】
次に、
図8を参照して、制御装置4Aの制御動作を説明する。
図8は、制御装置4Aのブロック線図である。状態推定部44A_1は、計画部42Aから外乱や内部発熱等の予測値としてパターンファイルを取得する。状態推定部44A_1は、5分毎に初期値を取得する。この初期値とは、上述したように、計測部43Aから取得する室温とシミュレーションで計算した壁や床内部等の構成部材の温度である。
【0082】
状態推定部44A_1は、パターンファイルと初期値とから、室内1の将来の温度y(k+i|k)を推定する。また、状態推定部44A_1は、計測した室温から参照軌道を算出する。
最適化計算部44A_2は、現在と5、10、15、20、25分後の6点における参照軌道と室温との誤差の二乗和が最小となるような除去熱量u=(u1、u2、u3、u4、u5、u6)を算出する。最適化計算部44A_2は、除去熱量uから制御弁8の弁開度θを算出し、制御部45に出力する。制御部45は、最適化計算部44A_2で求めた制御弁8の弁開度θを指示する制御指令値を放射パネル3に送信する。
【0083】
計測部43Aは、室内1に設置された不図示のセンサから計測される現在時刻の室温を取得する。計測部43は、不図示のセンサから計測される現在時刻の実測可能な外乱や内部発熱を取得する。
【0084】
状態推定部44A_1は、計測部43Aから取得した室温と外乱や内部発熱とを初期値として、計測できない又は計測が難しい壁や床内部の温度等の構成部材の温度をシミュレーションで算出する。状態推定部44A_1は、シミュレーションで求めた構成部材の温度を初期値として、将来の室内1の温度y(k+i|k)を推定する。
【0085】
以上の動作を繰り返すことで、5分毎に次の30分間の外的要因を考慮したフィードバック制御を行うことができる。
【0086】
次に、本実施形態のモデル予測制御を用いた実験結果を、図を用いて説明する。
図9は、従来のPID制御と本実施形態のモデル予測制御とを比較した結果を示した図である。なお、条件として、設定温度を25℃に設定した。また、
図10に示すように、試験開始から45分後に内部発熱(模擬発熱体)の発熱量を1.7kWから0.7kWに急変させた。この発熱量の変化は、
図8に示すフローのうち予測値、すなわちパターンファイルとして制御条件に組み込んだ。試験期間中の外気温度の平均値は24.2℃、全天日射量は302.2W/m
2であった。試験期間中の対象室のブラインドは全開としたが、建物方位から直達日射はほぼない状態であった。隣室の空調室は、対象室の設定室温に近い温度で空調を行った。また、デシカント空調機は給気温度の変動が大きいため、試験期間中では停止させて放射パネルのみによる冷房を行った。
【0087】
図9に示すように、従来のPID制御は、内部発熱負荷を変化させた45分経過前から制御弁を絞っているが、室温の追従が遅れ、設定温度25℃を基準として温度変動が最低でも−0.3℃となる。また、その後も放射パネルに残った冷水の影響で設定温度まで回復するに至ってない。一方、本実施形態のモデル予測制御では、内部発熱負荷を変化させても、設定温度は25℃から±0.1℃以内で安定して制御されている。これより、本実施形態のモデル予測制御は、従来のPID制御に比べて、室内の快適性を向上することができる。
【0088】
上述したように、本実施形態によれば、複数の空調機が組み合わされた空調システムにおいて、室内1の状態推定モデルである部屋モデルを用いて将来の室温を予測する。すなわち、対象室を室内1の空間と放射天井パネルの上側の天井空間とに分け、隣室間や外気間で1次元の伝熱モデルを作成し、式(13)の状態方程式で表す。そして、部屋モデルの状態変数として、壁、窓面、天井、床などに22項目の温度点を設定し、各構成部材の熱的特性をもとに隣接する領域との熱量の授受の関係をモデル化し、このモデルによって部屋の状態推定を行う。また、予測した室温が設定値となるために参照軌道を設定し、その参照軌道と予測した室温との誤差が最小となるような除去熱量を求める。そして、その除去熱量から制御弁8の操作量を算出し、算出した操作量を基に制御することで、参照軌道に従って室温を設定値に調整する。これにより、一次エネルギーやCO
2の排出量、空調運転費用などの空調の運用コストを低減することができる。また、内部負荷変動に対しても予め変動情報を得ていれば、室内1の温度に影響を与えない制御が可能である。これより、室内の快適性を向上することができる。
【0089】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。