(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472014
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】飛行時間型二次イオン質量分析装置内電流電圧印加測定機構
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20190207BHJP
G01N 23/2258 20180101ALI20190207BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 Y
G01N23/2258
H01J49/40
【請求項の数】22
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-174138(P2014-174138)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-50769(P2016-50769A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】596043379
【氏名又は名称】アルバック・ファイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 暢之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 勝己
(72)【発明者】
【氏名】關谷 直記
【審査官】
立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−279070(JP,A)
【文献】
特開平11−312473(JP,A)
【文献】
特開2012−212924(JP,A)
【文献】
特開2012−074467(JP,A)
【文献】
特開2009−054583(JP,A)
【文献】
米国特許第06326792(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 23/2258
H01J 49/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構であって、
二つの電極と、試料を固定する固定部材と、を少なくとも有する試料ホルダと、電流電圧印加試験を行うための電流電圧測定機器とを備え、
前記試料ホルダは、前記試料を保持可能に構成され、
前記TOF−SIMSによるTOF−SIMS計測と、前記電流電圧測定機器による前記試料に対する電流電圧の印加と前記試料の前記印加に伴う電気的特性の測定と、を一括して行うように構成される、前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項2】
前記電流電圧印加試験は、LIBの充放電特性測定である、請求項1に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項3】
前記電流電圧印加試験は、インピーダンス測定である、請求項1または請求項2に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項4】
前記電流電圧印加試験は、電気化学測定である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項5】
前記TOF−SIMS計測は、質量分析である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項6】
前記TOF−SIMS計測は、元素マッピングの測定である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項7】
前記TOF−SIMS計測は、二次イオン顕微鏡観察である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項8】
前記TOF−SIMS計測は、三次元マッピングを用いた深さ方向の測定である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項9】
前記試料ホルダは、参照極を更に有する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項10】
前記固定部材の材料は、ステンレス材である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項11】
前記固定部材の材料は、前記試料との界面で化学反応し電池動作する電池電極材料で作成されている、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項12】
前記固定部材の材料は、圧電材料材である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項13】
前記固定部材の材料は、磁性材料材である、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項14】
前記試料ホルダは、LIBの断面構造を測定可能な保持機構を有する、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項15】
前記試料ホルダは、前記試料を90度回転して固定することで、三次元マッピングを用いた積層構造を測定可能な保持機構を有する、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項16】
前記試料は、全固体型LIBである、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項17】
前記試料は、一部イオン液体を用いた電池材料である、請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項18】
前記試料は、一部イオン液体を用いた半電池である、請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項19】
前記二つの電極は、作用極と対極である、請求項1から請求項18のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項20】
前記電流電圧測定機器は、LIBの充放電特性の測定を行い、前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)はLi元素マッピングを測定し、前記試料ホルダの材料はステンレスであり、前記試料ホルダは、LIBの断面構造を測定するように構成され、前記試料は、全固体型LIBである、請求項1に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項21】
前記一括して行われる前記TOF−SIMSによるTOF−SIMS計測のための電圧の印加と、前記電流電圧測定機器による前記試料に対する電流電圧の印加と、は、スイッチによって切り替えられる、請求項1に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【請求項22】
前記電流電圧測定機器は、ポテンショ・ガルバノスタットである、請求項1から請求項21のいずれか一項に記載の前記飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)のような、測定のための試料を真空などの特殊な環境に置く必要がある装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TOF−SIMSのような装置は、試料を10
−7Pa程度の高真空状態に置き、試料の質量分析や元素分布マッピングの測定などを行う。
【0003】
図1(a)及び
図1(b)は、このようなTOF−SIMSによる測定の一例を示す概略図である。
図1(a)中、1は分析装置に設けられるチェンバーと呼ばれる測定室であり、10
−7Pa程度の高真空状態に維持される。そして、測定用の固体試料20が、一対の対向する、導電性の固定部材10A及び10Bにより挟持される。そして、この固定部材を介して、後述する高圧電源から試料に電圧が印加され、質量分析が行われる。また、測定中の一次イオン照射量を測定するための電流計が設けられることもある。
【0004】
図1(a)において、高速のイオンビーム、即ち一次イオン、を固体試料20に衝突させ、スパッタリング現象により固体試料表面の構成成分を弾き飛ばす。このとき発生する正または負の電荷を帯びたイオン、即ち二次イオン、は電界によって一方向に飛ばされ、一定距離離れた位置で検出される。スパッタリングの際には固体表面の組成に応じて、さまざまな質量の二次イオンが発生するが、質量の小さいイオンほど速く、また逆に質量の大きいイオンほど遅く飛ぶので、二次イオンの発生から、上記の一定距離離れた位置で検出されるまでの時間を測定し、発生した二次イオンの質量を計算できる。このようにして質量分析が可能となる。
図1(a)及び
図1(b)のような構成では、固体試料20として全固体型LIBを選択することで、断面の質量分析が可能である。さらに、固体試料20をチェンバー1から取り出し、対極及び作用極を有する、ポテンショ・ガルバノスタットのような電流電圧特性測定機器に接続し、電気化学測定などを行うことが可能である。
【0005】
このように、従来の方法では、質量分析のために試料を不活性雰囲気、即ち高真空中に配置した後、試料を取り出して、質量分析に引き続いて電気的特性の測定をすることが一般である。従って、試料の移動や測定のための配線の変更など、煩雑な作業が必要となる。LIB試料は、大気中で劣化するため、このような作業は好ましくなく、結果的に、LIBの電気化学試験の結果と、元素マッピングの変化との対応が正確に取れないという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−160588
【特許文献2】特開2014−037120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題点に鑑み、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)に電流電圧印加機構を組み込み、試料固定板を兼ねた金属電極を通して外部接続されたポテンショ・ガルバノスタットにより測定試料に直流及び交流の電流電圧を印加し、電流電圧測定試験及び元素分析マッピングを一括して行うための飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構を提供することにある。
【0008】
また、通電により内部イオンの移動が起こるリチウムイオン電池(LIB)試料を、超高真空に保ったTOF−SIMSの測定室内部(不活性雰囲気中)で電流電圧試験でき、LIB試料を大気暴露することなく、LIBの電気化学測定試験の結果と元素分析マッピングの変化を一対一対応させることが可能な、従って、簡単な構成で正確な測定が可能な飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような問題点を解決し、目的を達成するための本願発明にかかる飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構は、二つの電極を少なくとも有する試料ホルダと、電流電圧印加試験を行うための電流電圧印加源とを備え、試料ホルダは、試料を保持可能に構成され、TOF−SIMSによるTOF−SIMS計測と、電流電圧印加源による前記試料に対する電流電圧の印加と前記試料の印加に伴う電気的特性の測定と、を一括して行うように構成される、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構である。
【0010】
また、電流電圧印加試験は、LIBの充放電特性測定、インピーダンス測定または電気化学測定であっても良い。
【0011】
また、TOF−SIMS計測は、質量分析、元素マッピングの測定、二次イオン顕微鏡観察または三次元マッピングを用いた深さ方向の測定であっても良い。
【0012】
また、試料ホルダは、参照極を更に有する、LIBの断面構造を測定可能な保持機構を有するまたは試料を90度回転して固定することで三次元マッピングを用いた積層構造を測定可能な保持機構を有する、ものであっても良い。
【0013】
また、試料ホルダの材料は、ステンレス材、試料との界面で化学反応し電池動作する電池電極材料、圧電材料、または磁性材料であっても良い。
【0014】
また、試料は、全固体型LIB、一部イオン液体を用いた電池材料または一部イオン液体を用いた半電池であっても良い。
【0015】
また、二つの電極は、作用極と対極であっても良い。
【0016】
また、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構の電流電圧印加源は、ポテンショ・ガルバノスタットであっても良い。この電流電圧印加源はLIBの充放電特性の測定を行い、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)はLi元素マッピングを測定し、試料ホルダの材料はステンレスであり、試料ホルダは、LIBの断面構造を測定するように構成され、試料は、全固体型LIBであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本願発明にかかる飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)内電流電圧印加測定機構によれば、電流・電圧印加により内部イオンの移動が起こるリチウムイオン電池(LIB)試料を、超高真空に保ったTOF−SIMSの測定室内部(不活性雰囲気中)で、電流電圧印加試験ができ、LIB試料を大気暴露することなく、LIBの電気化学測定試験の結果と元素分析マッピングの変化を一対一対応させることが可能となり、従って、簡単な構成で正確な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1(a)】従来の飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)の動作を示す概略図である。
【
図1(b)】従来のLIBの電気化学測定の動作を示す概略図である。
【
図2】本願発明にかかる飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)の動作を示す概略図である。
【
図3(a)】本願発明にかかる装置の内部で用いられるスイッチ機構の構成を示す概略図である。
【
図3(b)】本願発明にかかる装置の内部で用いられるスイッチ機構による飛行時間型二次イオン質量分析装置の、動作の制御の一例を示すタイムチャートである。
【
図4】本願発明にかかる装置において、固体試料の試料ホルダの構成を示す概略図である。
【
図5】本願発明にかかる装置により測定されたLIBの充放電特性の一例を示すグラフである。
【
図6(a)】
図5に示された特性における、電池の正極付近の状態を示す図である。
【
図6(b)】
図5に示された特性における、電池の正極付近の状態を示す図である。
【
図6(c)】
図5に示された特性における、電池の正極付近の状態を示す図である。
【
図6(d)】
図5に示された特性における、電池の正極付近の状態を示す図である。
【
図7】試料ホルダによる試料の保持の別の形態を示す斜視図である。
【
図8】試料ホルダの固定部材が導電性を有さない場合の接続例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図2は本願発明にかかる飛行時間型二次イオン質量分析装置内電流電圧印加測定機構に用いられる、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)の一実施例を示す概略図である。
【0020】
この図において、
図1と同じように、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)の測定室1の内部には、全固体型LIBなどの固体試料20が、一対の対応する、導電性の固定部材10A及び10Bにより挟持される。
図1の場合と同様に、一次イオンを固定試料20に衝突させ、スパッタリング現象により二次イオンを発生させ、電界によって一方向に飛ばし、飛ばされた二次イオンの質量により定まる速さに基づいて所定距離までの時間を検出し、最終的に二次イオンの質量を計算する。これにより質量分析が可能となる。なお、試料としては、全固体型LIBに限らず、一部イオン液体を用いた電池材料や、やはり一部イオン液体を用いた半電池などを用いることができる。
【0021】
ここで、LIBの正極には、質量分析の際に必要となる約3kVの電圧を供給するための高圧電源HV40が、スイッチ30Aを介して接続される。またLIBの負極には、質量分析の動作中の電流を測定するための電流計50が、スイッチ30Bを介して接続される。30Aと30Bは連動して用いられることが多い。
【0022】
なお、これらのスイッチ30A、30Bは後述する電流電圧特性測定機器用のスイッチ30C、30Dと共にスイッチボックス3内に収容されるか、又はスイッチボックス3からの配線や、無線等の遠隔操作により制御される。質量分析を行う際の電流を測定する必要性が小さい場合には、電流計50は無くても良い。なお、スイッチ30A及び30Bは高電圧で動作させるものであるため、真空中に配置するのが望ましい場合もある。その場合には
図2に示すように、スイッチ30A及び30Bの本体は、測定室1の内部に配置するようにしても良い。しかしながらそのような配置とする必要性が乏しければ、これらのスイッチは30C及び30Dと共に、測定室1の外部に設けることも可能である。即ち、スイッチ30A、30B、30C及び30Dの配置は、技術的な必要性や配置場所などを勘案して、測定室1の内部または外部のいずれにも任意に設定することができる。
【0023】
測定室1の外部には固体試料20電気的特性を測定するための電流電圧測定機器2が配置されるが、例えば、ポテンショスタットやポテンショ・ガルバノスタットが利用可能である。電圧のみの制御を行う際にはポテンショスタットを用いても良いが、通常は電圧と電流を双方のモードを組み合わせて制御を行うので、ポテンショ・ガルバノスタットが用いられる。
【0024】
図2に示す実施例では、スイッチボックス3内の一対のスイッチ30C及び30Dのそれぞれを介して、一対の対向する、導電性の固定部材10A及び10Bが、ポテンショ・ガルバノスタットの対極21A及び作用極21Bと接続される。
図2では、固体試料20は、固定部材10Bがプラスの電極で固定部材10Aがマイナスの電極の電池として動作し、ポテンショ・ガルバノスタットにより電気的特性が測定される。スイッチ30C及び30Dはスイッチ30A及び30Bと同様に連動して開閉するように構成することも可能である。後述するように、質量分析を行う際にはスイッチ30C及び30Dをオフとし、反対にスイッチ30A及び30Dをオンにして、高圧電源HV40により、電圧を印加する。なお、電流電圧測定機器2としてのポテンショ・ガルバノスタットと、スイッチボックス3とを一体型として構成し、測定室1の外部に配置することも可能である。
【0025】
電流電圧測定機器2としてのポテンショ・ガルバノスタットは、電流測定用及び電流測定用の端子WE1及びWE2が作用極として動作し、また電流測定用の端子CEが対極として動作する。WEはWorking Electrode を示し、CEは、Counter Electrode を示す。これらのそれぞれの極は、固体試料20の負極及び正極にそれぞれ接続される。なお、ポテンショ・ガルバノスタットを使用する際にはこれらの作用極及び対極の他に参照極(RE:Reference Electrode)を設けても良い。
【0026】
図3(a)はスイッチボックス3の中に設けられて、スイッチ30A、30B、30C及び30Dを制御するための制御回路300を説明するための概略図である。固体試料20には、質量分析を行う際には約3kVの高電圧がかかるが、ポテンショ・ガルバノスタットを用いた測定を行うときにはこの高電圧はオフとすることが必要である。即ち、同時に電圧が印加されると、高電圧により、ポテンショ・ガルバノスタットが損傷するからである。このため、
図2に示すように、スイッチ30A及び30Bがオンのときには、30C及び30Dがオフとなり、逆にスイッチ30A及び30Bがオフのときには、30C及び30Dがオンとなるような制御回路300を設ける。この制御回路は、機械的な接点を切り替えるような構成にしても良いし、トランジスタやFETなどを用いたスイッチング回路を構成しても良い。
【0027】
また
図3(b)は、このように構成され、制御回路300により制御されるスイッチ30A、30B、30C及び30Dの動作による、本願発明にかかる飛行時間型イオン質量分析装置の制御の一例を、時間軸tに沿って示すタイムチャートである。この例では、固体試料20をポテンショ・ガルバノスタットに接続して、充放電特性を測定する前後に、Li元素マッピングを取得する場合を示すものである。
【0028】
図4は、一対の導電性固定板10A及び10Bにより固体試料20がどのように挟持されているかの一例を示す概略図である。この図に示す実施例においては、LIBなどの電池材料の正極及び負極が導電性固定板10A及び10Bの表面に接して挟まれ、保持される。そして、双方の固定板10A及び10Bは、それぞれに設けられた貫通孔70A及び70Bに挿入されたネジ60により接続され、固定される。貫通孔70Bは内面がメスねじ切りとされる。固定板10Bとネジ60との間には絶縁シート90が設けられる。このようにして一対の導電性固定板10A及び10Bにより試料ホルダが構成される。固定試料20の挟持及び固定の方法はこの方法に限られるものではない、また、
図4ではネジによる固定構造を一箇所のみとしているが、必要に応じて複数個所で固定することも可能である。
【0029】
図5は、このように構成された、本願発明の一実施例である飛行時間型イオン質量分析装置により、全固体型LIBの充放電特性を測定した結果のグラフであり、
図6(a)から
図6(d)は、
図5中の(a)から(d)に対応する部分でのLi元素マッピングを示す図である。それぞれの図の下方が固体試料の外側の真空部分、固体試料の正極、更には、LIB内部の電解質部分を示している。このようにして、充放電特性のプロセスとLi元素マッピングが対応付けられる。即ち、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)によるTOF−SIMS計測と、固体試料への電流電圧の印加による電気的特性の測定と、を一括して、固体試料を大気中に開放することなく、不活性雰囲気である真空中で連続して行うことができる。
【0030】
なお、LIBの充放電特性のような電気特性の測定は、充放電には限られず、固体試料のインピーダンス測定や電気化学測定などが可能である。また、TOF−SIMS計測についても、質量分析や元素マッピングの測定に留まらず、二次イオン顕微鏡観察や、三次元マッピングを用いた深さ方向の測定などが可能である。
【0031】
さらに試料ホルダを構成する固定部材10A及び10Bの材料は、ステンレス材に限らず、導電性のあるものが利用可能であり、固体試料との界面で化学反応し電池動作する電池電極材料や、圧電材料材、磁性材料材などを用いることができる。なお、この固定部材は導電性を有するものには限られず、単に固体試料20を挟持するものとして構成され、
図8のように、固体試料20の電極に、電流電圧特性測定機器の対極や作用極が直接接続されるように構成しても良い。
【0032】
また
図2に示す実施例ではLIBの断面構造を測定可能なように、固体試料を保持しているが、このような形態に限られず、
図7に示すように、固体試料を90度回転させた状態で保持し、固体試料の積層構造を測定できるようにすることも可能である。
【0033】
このように本願発明による質量分析装置によれば、従来からの飛行時間型イオン質量分析装置を用い、かつ簡単な構成で、試料を大気中に開放することなく、TOF−SIMS計測と、ポテンショ・ガルバノスタットなどの電流電圧測定機器による試料の電気的特性の測定と、を一括して行うように構成できる。
【0034】
本明細書に開示された実施例は、本発明を限定するものではなく、説明するためのものであり、このような実施例によって本発明の思想と範囲が限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲により解釈すべきであり、それと同等の範囲内にある全ての技術は、本発明の権利範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【符号の説明】
【0035】
1:チェンバー、10A・10B:固定部材、20:固体試料、2:電流電圧測定機器、3:スイッチボックス、30A−30D:スイッチ、21A:対極、21B:作用極、40:高圧電源HV、50:電流計、60:ネジ、70A・70B:貫通孔、90:絶縁板