【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「動的偏波・周波数制御による衛星通信の大容量化技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Julian Webber et al.,Performance of frequency recovery algorithms for a poly-polarization multiplexing satellite system,2013 IEEE Malaysia International Conference on Communications,2013年11月28日,pp.166-171
【文献】
Julian Webber et al.,Frequency Offset Estimation for Satellite Communications with Adaptive Frame Averaging,ICACT TACT Vol.3, Issue 6,2015年 7月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態の無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0030】
以下に説明するとおり、本実施の形態の無線通信システムは、偏波多重通信方式を採用するものである。
【0031】
好ましくは、本実施の形態では、2つの偏波を用いて情報伝達を行うシステムにおける通信装置で、衛星通信のように送受信間に際立った障害物の無いシステム系で用いる状態が、より好適である。なお、送信機能のみの通信機には、本実施の形態の送信機能のみを、受信機能のみの通信機には、本実施の形態の受信機能のみを備える構成とすることが可能である。また、送受信機には、送受信機能を備える構成とすることも可能である。
【0032】
また、本実施の形態の無線通信システムは、2直交の偏波(現実的なレベルでの直交であり、交差偏波成分は0でなくともよい)を同時に情報伝送に利用する無線通信機が対象である。ただし、本実施の形態の送信機、受信機、送受信機において、以下に説明するような偏波多重通信の機能を一時停止させて、従来の通信方式での通信に切り替えることが可能なようにシステムを構成することも可能である。
【0033】
また、本実施の形態は、3以上の偏波に信号を多重する偏波多重方式に用いることも可能である。
【0034】
(送信機および受信機の構成)
図1は、本実施の形態の送信機1000の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0035】
図1を参照して、送信機1000は、送信するべきデジタルデータ信号(情報ビット)を受け、伝送誤りを捕捉するためにデータから計算されるチェックのためのCRC(Cyclic Redundancy Check)符号化を行うCRC符号化部100と、CRC符号化部100からの情報ビットに対して誤り訂正符号化処理を実行し送信シンボルに変換する誤り訂正符号化処理部101を備える。なお、誤り訂正符号化処理だけでなく、「インターリーブ処理」などが実行されてもよい。
【0036】
送信機1000は、さらに、送信されるシンボルをシリアル/パラレル変換(S/P変換)するS/P変換部102と、パラレル信号に変換された送信シンボルを、I/Qマッピングデータ記憶部106に保持された情報に基づいて、水平偏波(H偏波)および垂直偏波(V偏波)の各偏波成分について、信号空間ダイアグラム(コンステレーション)における信号点にマッピングするV/Hマッピング処理部104とを備える。
【0037】
ここで、I成分とは、直交変調の際の同相成分を意味し、Q成分とは、直交変調の際の直交位相成分のことを意味し、I/Qマッピングとは、I成分およびQ成分で張られる平面上に信号点を配置することを意味する。
【0038】
送信機1000は、さらに、V/Hマッピング処理部104からのV偏波についてのI/Q成分にユニークワードを挿入するためのユニークワード挿入部(以下、UW挿入部)107aと、V/Hマッピング処理部104からのH偏波についてのI/Q成分にユニークワードを挿入するためのUW挿入部107bとを備える。
【0039】
送信機1000は、さらに、UW挿入部107aからのV偏波についてのI/Q成分を、対応する変調方式(たとえば、QPSK変調方式)で直交変調する直交変調部108aと、UW挿入部107bからのH偏波についてのI/Q成分を、対応する変調方式(たとえば、QPSK変調方式)で直交変調する直交変調部108bと、直交変調部108aの出力をデジタル・アナログ変換するためのD/A変換部110aと、直交変調部108bの出力をデジタル・アナログ変換するためのD/A変換部110bとを備える。
【0040】
D/A変換部110aの出力は、図示しない電力増幅器で増幅され、送信フィルタ処理部112aで不要な周波数成分を抑圧するためのフィルタ処理をされた後、垂直偏波アンテナ114aから送出される。また、D/A変換部110bの出力は、図示しない電力増幅器で増幅され、送信フィルタ処理部112bでフィルタ処理をされた後、水平偏波アンテナ114bから送出される。
【0041】
送信機1000は、さらに、後に説明するように、受信側からのフィードバック情報を受信するためのアンテナ120および受信処理部122とを備え、受信したフィードバック情報は、UW挿入部107aおよび107bに伝達される。UW挿入部107aおよび107bは、フィードバック情報に基づくユニークワード間隔Dで、送信信号にユニークワードを挿入する。
【0042】
図2は、本実施の形態の受信機2000の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0043】
図2を参照して、受信機2000は、垂直偏波アンテナ200aと水平偏波アンテナ200bと、垂直偏波アンテナ200aからの受信信号を図示しない低雑音増幅器が増幅した信号をフィルタ処理する受信フィルタ処理部202aと、水平偏波アンテナ200bからの受信信号を図示しない低雑音増幅器が増幅した信号をフィルタ処理する受信フィルタ処理部202bと、受信フィルタ処理部202aからの信号をアナログデジタル変換するためのアナログデジタル変換部(A/D変換部)204aと、受信フィルタ処理部202bからの信号をアナログデジタル変換するためのA/D変換部204bとを備える。
【0044】
受信機2000は、さらに、A/D変換部204aおよび204bからの信号をそれぞれ受けて、コンステレーション上におけるI/Q成分を分離する直交検波部206aおよび206を備える。
【0045】
搬送波周波数再生部207は、直交検波部260aまたは直交検波部260bからの信号に対して、それぞれ、後に説明するように局部発振器との間の周波数オフセットの値の推定を実行し、推定された周波数オフセットにもとづいて、入力された信号を、上述したAFC回路などと同様に構成により、周波数誤差がゼロに近づいた状態にまで補正する。
【0046】
続いて、搬送波周波数再生部207において周波数誤差を補正された受信変調信号は、搬送波位相再生部208に入力される。搬送波周波数再生部207における周波数誤差の補正後も、周波数誤差が残留するため、受信シンボル点がゆっくりと回転し、特性の劣化を招く。そこで、搬送波位相再生部208において、残留した周波数誤差(位相誤差)の補正が行われる。搬送波位相再生部208は、補正後の受信変調信号における残留位相誤差をゼロに近づける。
【0047】
最尤判定処理部208は、I/Qマッピングデータ記憶部210からのマッピング情報に基づいて、搬送波位相再生部208からの信号に対して、信号空間ダイアグラム上の所定の信号点に対する尤度を算出し、MLD(Maximum Likelihood Detection)法による最尤復号を行う。MLD法では、受信信号に対し、送信アンテナから送信されうる送信信号のすべての組合せを用いてメトリックを算出する。そして、最小の距離を与える送信信号の組合せを選択する。
【0048】
なお、「信号点」とは、変調方式によりコンステレーション上に定義される基準となる位置のことをいい、「シンボル」とは、送信側で変調されて、基準クロックで伝送される情報の単位である「符号」を意味する。
【0049】
最尤判定処理部208により算出された送信信号のビット情報は、パラレル/シリアル変換(P/S変換)を行うP/S変換部212を経て、誤り訂正復号処理部214により誤り訂正された後、受信データとして出力される。
【0050】
なお、送信機側の構成に従って、誤り訂正復号処理部214では、畳み込みの復号やデインターリーブ処理が実行されてもよい。
【0051】
さらに、CRCデコード処理部216は、受信した信号に対してCRCデコード処理を実行し、現時点でのユニークワード間隔Dで伝送誤りが生じているか否かを示す情報をフィードバック情報として送信処理部218およびアンテナ220を介して、送信側に返信する。
(実施の形態1)
図3は、ユニークワードにおけるシンボルの配置を説明するための図である。
【0052】
図3では、シンボルは、BPSK変調されている。
【0053】
図3(a)は、位相を推定する状況を説明するための図である。
【0055】
【数1】
ここで、znは、ノイズを表す。
【0056】
この時、推定される周波数は、以下のように表される。
【0057】
【数2】
したがって、
図3(a)にも示されるように、ノイズによる位相推定誤差は、ユニークワードの間隔Dが大きくなるほど、その影響が小さくなる。
【0058】
図3(b)は、ユニークワード間隔D=1のとき(ユニークワードが連続して配置されるとき)の横軸にシンボルの位置(シンボル番号)、縦軸にシンボルのPiを振幅とともに示す。ノイズ環境下で、オフセット範囲が大きな場合にも推定を可能とするものの、精度は低下する。
【0059】
図3(c)は、ユニークワード間隔D=4のときの横軸にシンボルの位置(シンボル番号)、縦軸にシンボルのPiを振幅とともに示す。シンボルがフレームのより広い範囲にわたって分散されるため、より高い精度を得ることができるものの、推定できるオフセットの範囲は小さくなる。
【0060】
図3(b)および
図3(c)とも、簡単のためにユニークワードシンボルが8個である場合を例示している。
【0061】
図3(c)に示すように、ユニークワード間隔D=4の場合、ユニークワードシンボルの間にはデータシンボルが存在する。
【0062】
図4は、ユニークワード間隔Dおよびフレーム平均サイズをLを変化させた場合のBER(Bit Error Rate)のSNR依存性を示す図である。
【0063】
周波数オフセットの推定にあたっては、修正L&Rアルゴリズムが、DVB−S2衛星受信機中の広く使用され、周知な周波数オフセット推定アルゴリズムとなっている。このような修正L&Rアルゴリズムは、ノイズ環境下での周波数評価特性を改善するために、Lフレームに関する平均相関を計算することに基づく。
【0064】
修正L&Rアルゴリズムについては、以下の文献に開示がある。
【0065】
公知文献1:E. Casini, R. De Gaudenzi, and A. Ginesi, ”DVB-S2 modem algorithms design and performance over typical satellite channels,” Proceedings of the Int. Journal of Sat. Commun. and Networking, pp. 281--318, June 2004.
公知文献2:M. Luise. and R, Reggiannini, ”Carrier frequency recovery in all-digital modems for burst-mode transmissions,” IEEE Trans. Commun., Vol. 43, No. 2/3/4, pp. 1169--1178, Feb-Apr. 1995.
さらに、本特許出願の発明者により、以下の文献において、UWシンボルの間の間隔Dが1以上となり得るように修正した方式が、以下の文献で提案されている。
【0066】
公知文献3:J. Webber, M. Yofune, K. Yano, H. Ban, and K. Kobayashi, ”Performance of frequency recovery algorithms for a poly-polarization multiplexing satellite system”, 11th IEEE Malaysia International Conference on Communications (MICC2013), 27-29th Nov. 2013.
図4のグラフは、このような公知文献3に開示されているアルゴリズムにより算出したオフセット周波数を用いて受信した場合のBERのシミュレーション値を示している。
【0067】
間隔Dの値が大きいほど、その評価は正確になるものの、周波数オフセットの推定器の引込可能なオフセット量は縮小される。
【0068】
グラフは、フレーム平均サイズ(平均をとるフレームの数)が一定であれば、パラメーターDを増加させることによりBERを縮小することができることを示す。これは周波数オフセット評価が、間隔Dが増加するにつれて、より正確になるからである。
【0069】
図5は、本実施の形態でのフレーム構造を説明するための図である。
【0070】
図5(a)は、比較のために使用する比較例のユニークワードの配置を示し、
図5(b)は、本実施の形態のフレーム構造を示す。
【0071】
図5(a)に示すように、比較例としては、所定数の各フレームの先頭部分に、連続した所定数個のシンボル(ユニークワードのシンボル間隔D=1,所定数は、たとえば、64)から成るユニークワードが配置された部分(以下、UW部)が設けられたものを考える。なお、以下では、「ユニークワードのシンボル間隔」のことを単に「ユニークワード間隔」と呼ぶことにする。
【0072】
一方、
図5(b)に示す本実施の形態のユニークワードの配置では、各フレームの先頭部分から、所定のユニークワード間隔(
図5(b)では、たとえば、D=1〜64)で所定数個のシンボルのユニークワードが分散して配置されている。
【0073】
後に説明するように、本実施の形態では、受信側からのフィードバック情報に基づいて、ユニークワード間隔が選択され、選択されたユニークワード間隔がデータ通信にも使用される。
【0074】
なお、ここで、ユニークワードとして使用されるシンボル数は、必ずしも上記の値に限定されるものではない。
【0075】
なお、ここで、ユニークワード間隔D=k(k:自然数)とは、第i番目のシンボルがユニークワードであるときに、第(i+k)番目のシンボルもユニークワードであることを意味する。
【0076】
図6は、搬送波周波数再生部207における周波数オフセット推定装置2070と、CRCデコード処理部216の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0077】
ここで、周波数オフセット推定装置2070は、上述したような、「UWシンボルの間の間隔Dが1以上となり得るように修正した修正L&Rアルゴリズム」を実行するためのハードウェアである。したがって、オフセット周波数の推定については、公知文献3に詳しいので、以下では、その概略を説明する。
【0078】
周波数オフセット推定装置2070は、図示しない制御部の制御に従って、後に説明するように、直交検波部206aまたは206b(以下、総称するときは、直交検波部206)から入力された受信変調信号Zとメモリに保存したユニークワードUWとの相関を、以下の式に従って、相関長N(N:自然数)の相関器3020でとって、この相関値を、積算処理部3030で、移動平均サイズL(フレーム数で規定)だけ積算する。
【0079】
すなわち、積算処理部3030は、Lフレームにわたって相関値を積算し、オフセット算出部3040が、積算された相関値を、以下の式(3)(4)に従って、周波数オフセットf
LR-Dハット(以下、文字Xの上に記号“^”が付された時には、「Xハット」と記載する)に変換する。
【0080】
【数3】
ここで、lは現在のフレーム番号であり、mは遅延であり、Lpは、ユニークワードの長さであり、Nは相関長であり、Lは、フレーム平均サイズであり、Dはユニークワード間隔である。
【0081】
また、z(k)は、l番目のフレームのk番目のシンボルと相関をとる既知のユニークワードのk番目のシンボルの共役との積を意味する。既知のユニークワードの共役との積をとることで、変調の影響を除去できる。z
*(k)は、z(k)の複素共役である。
【0082】
式(1)では、l番目のフレームについて、mだけずれたシンボル間の相関をとっていることに相当する。式(2)では、Lフレームにわたる相関値の積算をとっていることを意味する。
【0083】
周波数オフセットf
LR-Dハットは、テーブルなどにより複素数の周波数誤差情報に変換され、図示しない複素乗算器において、入力された受信変調信号と周波数誤差情報との複素乗算が行われ、周波数誤差を補正した受信変調信号が得られる。搬送波周波数再生部207では、上記の動作を繰り返すことにより、補正後の受信変調信号における残留周波数誤差をゼロに近づける。
【0084】
一方、図示しない制御部の制御にしたがって、CRCデコード処理部216は動作し、デコード部2162は、誤り訂正復号処理部214からの受信信号に対して、CRCデコード処理を行い、CRCチェック部2164が、CRC符号により、伝送エラーの有無を判別する。間隔更新部2166は、現在のユニークワード間隔Dおよびフレーム平均サイズLにおいて、エラーが生じたか否かに応じて、送信側へフィードバックする情報(たとえば、1ビットのパス/フェイル情報)を生成する。フィードバック情報は、
図2で説明したとおり、受信側から送信側に返信される。なお、間隔更新部2166が、積算処理部3030で使用するフレーム平均サイズLおよびオフセット算出部3040で使用するユニークワード間隔Dを制御する構成とすることができる。
【0085】
このような構成とすることで、後により詳しく説明するように、送信側は、初期フェーズにおいては、ユニークワード間隔Dのとり得る値の組として予め定められた組のうちから、特定の間隔Dを順次選択しながら、選択されたユニークワード間隔Dの信号を送信する。受信側は、制御部の制御によるアルゴリズムにより、CRCチェックを行って、伝送エラーの有無を送信側にフィードバックする。
【0086】
なお、誤り検出符号としては、CRC符号に限定されず、他の誤り検出符号を使用してもよい。
【0087】
図7は、送信側から受信側に送信されるユニークワードの配置およびフィードバックのタイミングを説明するための図である。
【0088】
図7(a)は、1つのフレームの中に分布されるユニークワードの配置を示し、
図7(b)は、フレーム平均サイズであるL個のフレームとそれに対応して設けられるCRC符号の配置を示し、
図7(c)は、ユニークワード間隔Dを変更しながら、送信を行うフレームのブロック構造を示す。
【0089】
図7(a)に示すように、ユニークワードは、指定された間隔Dで、1つのフレーム内に分布する。
【0090】
図7(b)に示すように、フレーム平均サイズであるL個(フレーム番号l=1〜L)の送信の直後および、これに続くL
D個(L
D≧0)のフレーム毎に、たとえば、16ビットのCRCシンボルを配置する。ただし、CRCシンボルの配置は、このような配置に限定されるものではなく、たとえば、各フレームごとに設けられていてもよく、より一般には、受信側で、所定のユニークワード間隔DのフレームをL個受信した後に伝送エラーをチェックできる位置に少なくとも1つ配置されていればよく、望ましくは、所定のユニークワード間隔DのフレームをL個受信した後に伝送エラーをチェックできる位置に(L
D+1)個配置されていればよい。
【0091】
図7(c)に示すように、(L+L
D)個のフレームを1ブロックと呼ぶ。本実施の形態では、同一ブロック内では、ユニークワード間隔Dは、一定であるものとする。
【0092】
たとえば、所定のユニークワード間隔の組がDset={D(1),D(2),…D(N
D)}であるとすると、
図7(c)に示すように、1番目のブロックは、ユニークワード間隔D=D(1)、2番目のブロックは、ユニークワード間隔D=D(2)、…N
D番目のブロックは、ユニークワード間隔D=D(N
D)であるものとする。
【0093】
なお、以下では、D(1)<D(2)<…<D(N
D)であるものとして説明するが、D(i)の大きさの順序は、送信側と受信側で、事前にその順序が既知であるのであれば、必ずしもこのようなものに限られない。また、より大きなユニークワード間隔Dでリカバリ能力以内に最大のオフセットがあることが、送信の前に知られている場合、D(1)よりも大きな値から、処理を始めることも可能である。
【0094】
図8は、周波数オフセット推定装置2070における制御部3010の制御アルゴリズムを示すフローチャートである。
【0095】
一般的には、移動平均サイズ(フレーム数)Lは、ユニークワード間隔Dを大きくすると、要求されるS/N比を維持して、小さくすることができる。移動平均サイズ(フレーム数)Lが小さくできるということは、同期のための補足時間(acquisition time)を小さくできることを意味する。しかし、ユニークワード間隔Dを大きくすることは、同時に、オフセット周波数を推定できる範囲(レンジ)が小さくなることを意味する。そこで、このようなトレードオフを解決するために、
図8に示すようなフローで、周波数オフセットの評価を行う。
【0096】
図8を参照して、オフセット周波数の算出処理が開始されると、送信側および受信側では、変数nおよび変数pを、それぞれ、n=0およびp=1に設定する(S100)。ここで、変数nは、所定のユニークワード間隔の組の中で、現在選択されているユニークワード間隔を指定するための変数であり、変数pは、受信側でのCRCチェックで、伝送エラーがないとされる最大のユニークワード間隔を指定するための変数である。
【0097】
なお、
図8では、例示として、Dset={D(1),D(2),…D(6)}={1,2,8,16,32,64}であるものとする。
【0098】
続いて、送信側および受信側では、変数nを1インクリメントし、現在選択されているユニークワード間隔Dが、D(1)であるものと設定する(S102)。
【0099】
続いて、送信側から、D=D(1)でブロックが送信されると、受信側で、CRCチェックをパスするか否かが判断される(S104)。ここでは、たとえば、(L
D+1)個のCRCシンボル(CRC符号)について、フェイルとなる個数の平均が所定数以下であるときには、CRCチェックをパスすると判断するものとする。これにより、雑音がパスの判断に与える影響を低減できる。ただし、たとえば、(L
D+1)個のCRCシンボル(CRC符号)の全てについて、フェイルとなる個数が0であるときにパスすると判断するなど、他の判断基準であってもよい。
【0100】
受信側では、CRCチェックをパス(伝送エラー無し)であれば、フィードバック情報CRC(n)=0として、結果を送信側にフィードバックするとともに、変数p=nと設定する(S106)。
【0101】
一方、受信側で、CRCチェックをパスしない(伝送エラー有り)であれば、フィードバック情報CRC(n)=1として、結果を送信側にフィードバックする(S108)。
【0102】
フィードバック情報の返信が終了すると、送信側および受信側では、変数nが、ユニークワード間隔の組Dsetの要素数N
D以上となっているかが判断され(S110)、N
D未満であれば、処理は、ステップS102に復帰して、次のユニークワード間隔が選択されて、同様の処理が繰り返される。
【0103】
一方、ステップS110で、ユニークワード間隔の組Dsetの要素数N
D以上となっていれば、最終的なユニークワード間隔Dとして、D(p)が設定される(S112)。なお、この場合p=1またはp=2であって、小さいユニークワード間隔Dが選択されることとなった場合は、フレーム平均サイズを、初期値のL個の2倍の個数に設定することとしてもよい。
【0104】
すなわち、送信側から受信側への信号において、伝送エラーが発生しない範囲で、最大のユニークワード間隔Dが、最終的なユニークワード間隔として選択される。このようにすることで、搬送波周波数再生部207での引込可能周波数の範囲を最大化するとともに、周波数オフセットを高精度に推定することが可能となる。
【0105】
図9は、8kHzのオフセットの場合に対してシミュレーションにより評価された周波数オフセットを示す図である。
【0106】
図9において、最初に、ユニークワード間隔D=1を使用するとき、引込(リカバリ)が、実際の値の近似的な値までしか実行できないような大きなオフセットがあるものとする。
【0107】
ユニークワード間隔Dの値は、図中で、階段状の線で示されるように、L個のフレームの送受信が完了する間隔で増加される。
【0108】
実際のオフセットの値は、図中では、細い線によって示され、その線の上に、CRCチェックにパスした場合は、丸印で示されている。図中では、ほとんどの領域で、CRCチェックにパスしているために、実際のオフセットの値の線には、丸印が重なって表示されている。
【0109】
図9の例では、最も大きなユニークワード間隔Dは、72であり、このような最終の値がテストされた後、ユニークワード間隔Dの最も適切な値として、ここでは、D=72が選択されている。データの伝送が行われる残りのパケットに対しては、ユニークワード間隔Dの値は、この値に一定に保たれる。
【0110】
たとえば、静止した地上局と静止衛星のリンクでは、パケットを伝送する期間で、チャネルは、大きくは変化しない。したがって、ユニークワード間隔Dの値は一定に保持することができる。
【0111】
一方で、移動体との静止衛星のチャネルの場合や、他の条件が変動する場合などは、ユニークワード間隔Dの値を、
図8で説明したような処理により、周期的に適応的に変化させることができる。
【0112】
図10は、周波数オフセットの値が異なる場合のシミュレーション結果を対比して示す図である。
【0113】
図10(a)は、
図9の場合と同様に、周波数オフセットが8kHzの場合を示し、
図10(b)は、周波数オフセットが48kHzの場合を示す。
【0114】
図10(a)では、
図9と同様に、D=72が選択される。
【0115】
一方、
図10(b)では、ユニークワード間隔Dの値が周波数オフセットの推定器の引込範囲を超える場合、オフセットの残余は増加する。また、評価値はラップラウンド効果により、著しい偽値を呈することになる。その結果、D=16というより小さな値が選択される。
【0116】
図11は、動作開始フェーズから通信フェーズに移る際の残留オフセットの値のシミュレーション結果を示す図である。
【0117】
実線で示す適応的な場合には、最初の動作開始フェーズ中に、ユニークワード間隔Dの適切な値が見いだされる。
【0118】
点線および一点鎖線で示されるその他の場合は、それぞれ、D=1で一定の場合とD=4で一定の場合である。
【0119】
図11では、通常のデータ通信(通信フェーズ)は、動作開始から、ほぼ190フレーム後から行われている。
【0120】
動作開始フェーズでは、ユニークワード間隔Dが増加されるとともにオフセットの残余が減少するという一般的傾向が見られる。
【0121】
適応的な場合は、平均残留を最小化するようなユニークワード間隔Dの適切な値が選択される。160フレームのあたりでの平坦部分は、オフセット周波数推定器の引込範囲を超えるような状態となるD=72という設定に相当する。適応的な場合は、このような状態が検知されて、ユニークワード間隔Dのより小さい値が続いて選択され、通常のデータ通信が実行される。
【0122】
この結果、通常のデータ通信では、適応的な場合が、最も残留オフセットが小さく維持されている。
【0123】
図12は、周波数オフセットの大きさと、適応的に選択されるユニークワード間隔Dとの関係のシミュレーション結果を示す図である。
【0124】
周波数オフセットが増加するとともに、選択される値Dは、減少する。
【0125】
図13は、ビットエネルギー対雑音電力密度比Eb/NoとBERとの関係を示す図である。
【0126】
図13中では、パラメータとして、ユニークワード間隔Dを一定値で1〜64の範囲で変化させた場合と適応的に変化させた場合とを対比して示す。
【0127】
適応的なアーキテクチャは、ユニークワード間隔が一定値の場合において最適なD=32の場合と、同等のパフォーマンスを達成しており、精度の高い動作であることがわかる。
【0128】
適応的なスキームの周波数オフセット残余は、さらにD=32の場合に近い平均値を有する。
【0129】
すべての領域で、適応的なスキームは、推定精度を最大限にし、したがって、BERを低減することができる。
【0130】
以上説明したように、動作開始フェーズ中に、送信側で、所定のユニークワード間隔の組のうちから、特定のユニークワード間隔を選択しつつ、所定のフレーム数だけ送信し、受信側で、CRC符号のデコード処理により伝送エラーを評価して、伝送エラーの生じない最大値のユニークワード間隔を特定する。データ通信フェーズでは、このようにして特定されたユニークワード間隔で、データ伝送を行うことで、受信側の搬送波周波数再生部での引込可能周波数の範囲を最大化するとともに、周波数オフセットを高精度に推定することが可能となる。この場合、ユニークワード間隔は、伝送エラーの生じない最大値のユニークワード間隔が選択されるので、より少ないフレーム数(より短い捕捉期間)で、周波数オフセットを推定できる。
(実施の形態2)
実施の形態1では、フレーム平均サイズLの値は、例えば、L=16またはL=64フレームである。
【0131】
したがって、受信側でLフレーム分の信号が受信されるまで、送信側は、ユニークワード間隔Dの値を次の値に更新するのを待つことになる。
【0132】
つまり、実施の形態1の動作においては、一旦、ユニークワード間隔Dの値が、初期の動作開始フェーズにおいて、ある値にセットされたならば、1ブロック分の伝送の内でそれを変更することは必要ではない。
【0133】
実施の形態1の式(4)に示したように、ユニークワード間隔Dによる正規化は周波数評価を計算する際に必要なものである。実施の形態1では、一旦、L相関和が平均されれば、式(4)により、この正規化が計算されL相関は、すべて間隔Dの同じ値を使用して計算されると仮定する。
【0134】
ただし、たとえば、Lが比較的大きな値の場合、極端な場合としてはL=1024個あるいはL=2048個のフレームのような大きな値のLの場合には、この期間内のユニークワード間隔Dを更新することが有用になりえる。
【0135】
実施の形態2として、フレーム平均サイズLの中で、各フレームについてユニークワード間隔Dが一定でない場合に、オフセット周波数を推定する方法について説明する。
【0136】
L相関が、少なくとも2つの異なるユニークワード間隔Dの値を使用して計算される場合に、平均のオフセット周波数を計算することも可能である。
【0137】
図14は、フレーム平均サイズLの中で、各フレームについてユニークワード間隔Dが一定でない場合を説明する概念図である。
【0138】
図14では、フレーム番号=l−L+1〜lまでのL個のフレームを示す。
【0139】
この場合、実施の形態1の式(4)の正規化のためのユニークワード間隔Dに相当して、下のような式で示されるように、平均Davを計算し、f
LR-Dハットを算出する。
【0140】
【数4】
ここで、D
xはフレームxで使用されるユニークワード間隔の値である。
【0141】
このようにして、周波数オフセットを算出することとすれば、ブロック内のユニークワード間隔が一定でない場合でも、周波数オフセットを算出することが可能となり、ブロック内のユニークワードの配置の自由度が向上する。たとえば、Dsetの中には明示的には含まれない要素の値であって、各要素の中間の値のユニークワード間隔Dを実効的に指定できる。
(実施の形態3)
実施の形態1では、フレーム平均サイズLは原則として一定とし、ブロックごとに、ユニークワード間隔Dを変化させて、最適なユニークワード間隔を特定する方式を説明した。
【0142】
実施の形態3では、ユニークワード間隔Dは原則として一定とし、ブロックごとに、フレーム平均サイズLを変化させて、最適なフレーム平均サイズLを特定する方式を説明する。
【0143】
実施の形態3の無線通信システムの送信側および受信側のハードウェアの構成は、基本的に実施の形態1の構成と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0144】
実施の形態3では、
図8で説明した処理のフローが、以下に説明するようなフローに置き換わる。
【0145】
図15は、実施の形態3の処理フローを説明するためのフローチャートである。
【0146】
以下に説明するとおり、実施の形態3では、CRCチェックを利用することで、最小のフレーム平均サイズLを特定する。
【0147】
図15を参照して、まず、初期化処理として、送信側は、ユニークワード間隔Dの値を所定の値に設定し、この値Dは、送信の全体にわたって一定に保持される。受信側でも、このユニークワード間隔Dは、既知であるものとする。ここでは、D=8とする(S200)。
【0148】
さらに、初期化処理として、送信側および受信側において、共通に、事前に、Lset={L(1),L(2),…,L(n)}を設定しているものとする(S200)。
【0149】
ここでは、一例として、Lset={L(1),L(2),L(3)}={Lmax,64,16}とする。特に、限定されないが、以下に説明するように、Lsetの要素は、大きいものから順番に並んでいることが望ましい。以下では、Lsetの要素は、降順にならんでいるものとする。Lmaxは、テストされるLの値の最大値である。
【0150】
その上で、初期的な動作開始フェーズの通信が行われる。
【0151】
たとえば、Lmaxの値は、衛星周波数バンド、ユニークワード間隔DあるいはMCS(Modulation and Coding Scheme)によってセットすることができる。ここで、MCSは、変調方式、符号化率などの組み合わせをインデックス化したものであり、たとえば、衛星周波数バンド、ユニークワード間隔DあるいはMCSにより、Lmaxの値が、事前にテーブルとして準備されていてもよい。
【0152】
一般的には、チャネルのSNRが低い場合や、変調の多値の程度が高いなどの場合は、Lmaxの値は、大きく設定される。たとえば、Lmax=768などに設定される。
【0153】
一方、チャネルのSNRが高い場合や、ユニークワード間隔Dが大きいなどの場合は、Lmaxの値は、小さく設定される。たとえば、Lmax=128などに設定される。
【0154】
また、N
Lは、Lsetの中の要素の数である。ここでは、N
L=3である。また、L
Cは、
1つのフレーム平均サイズL(=L(i):1≦i≦N
L)に対して、CRCチェックを繰り返す回数であり、
図7では、L
C=(L
D+1)個である。また、変数nは、現在のLsetのうちの現在の処理対象となっている要素を特定するための変数であり、初期的には、n=1とする(S200)。
【0155】
さらに、
図15を参照して、受信側で、ユニークワードの含まれるLmax個のフレームを受信する(S202)。
【0156】
続いて、フレーム平均サイズLとして、L=L(n)に設定する。また、積算処理部3030で、移動平均サイズL(フレーム数で規定)だけ積算した値を処理対象とするのに合わせて、フレーム番号l=Lとする。これにより、l=1〜Lまでが、移動平均をとる対象となる(S204)。
【0157】
この状態で、周波数オフセット推定装置2070により周波数オフセットが評価される(S206)。
【0158】
フレーム番号lを1ずつ増加しながら、さらに、フレームを順次受信して、最初のL個のフレームとこれに引き続いて、合計Lc個のフレームについて、それぞれCRCチェックを行う。CRCチェックをパスしない場合は、CRC(l)=1とし、パスする場合は、CRC(l)=0とする(S208)。
【0159】
不良数インデックスFail(n)を以下の式で計算する(S210)。
【0160】
【数5】
次に、現在の変数nの値が、Lsetの中の要素の数N
L以上であるかが判例され(S212)、N
L未満であれば、nの値が1だけインクリメントされて(S214)、処理は、ステップS204に復帰する。
【0161】
一方、ステップS212において、nがN
L以上であれば、不良数インデックスFail(n)が最小のLが、フレーム平均サイズとして選択され、送信側にフィードバック情報として通知される(S216)。
【0162】
なお、Lsetの中の要素のうち、2つ以上の要素で、不良数インデックスの値が同じ場合は、Lの大きさが最小なものを選択するのが望ましい。
【0163】
なお、L(2),L(3),…については、ステップS202で、ユニークワードの含まれるLmax個のフレームを受信しているので、この受信情報を受信機側のメモリ内に格納しておくことで、この格納された情報に基づいて、ステップS204〜S214の処理を実行することが可能である。
【0164】
初期の動作開始フェーズで、Lの値を適応的に設定することで、以後の通信フェーズでも、安定した通信を行うことが可能となる。
【0165】
また、上述したような不良数インデックスにより、CRCチェックの結果を評価することは、実施の形態1で説明したユニークワード間隔Dを順次変更する場合にも適用できる。CRCチェックの値を、1回ではなく、複数回にわたって評価することで、その時点でのL(またはD)の値が適切であるかを、より正確に評価できる。
【0166】
実施の形態2のような構成でも、動作開始フェーズ中に、送信側で、所定のフレーム平均サイズの組のうちから、特定のフレーム平均サイズを選択しつつ、所定のフレーム数だけ送信し、受信側で、CRC符号のデコード処理により伝送エラーを評価して、伝送エラーの生じない最小のフレーム平均サイズを特定する。データ通信フェーズでは、このようにして特定されたフレーム平均サイズで、データ伝送を行うことで、受信側で、周波数オフセットを高精度に推定することが可能となる。この場合、フレーム平均サイズは、伝送エラーの生じない最小のフレーム平均サイズが選択されるので、より少ないフレーム数(より短い捕捉期間)で、周波数オフセットを推定できる。
【0167】
実施の形態1でも実施の形態3でも、ユニークワード間隔またはフレーム平均サイズのいずれかを、所定の値の組の中で、順次変更しつつ、フレーム信号を送信側から受信側に送り、伝送エラーの生じない範囲で、最大のユニークワード間隔または最小のフレーム平均サイズを決定する。そこで、ユニークワード間隔またはフレーム平均サイズのことを総称して、「オフセット捕捉期間パラメータ」と呼ぶことにする。
【0168】
したがって、実施の形態1または実施の形態3では、「オフセット捕捉期間パラメータ」を所定の値の組の中で、順次変更しつつ、フレーム信号を送信側から受信側に送り、伝送エラーの生じない範囲で、より少ないフレーム数(より短い捕捉期間)で、周波数オフセットを推定できるオフセット捕捉期間パラメータの値を特定していることになる。
【0169】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。