特許第6472051号(P6472051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6472051スイッチング電源装置および電磁石電源システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472051
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置および電磁石電源システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20190207BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20190207BHJP
【FI】
   H02M7/493
   H02M7/48 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-159537(P2015-159537)
(22)【出願日】2015年8月12日
(65)【公開番号】特開2017-38496(P2017-38496A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 敦志
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/069326(WO,A1)
【文献】 特開2014−027816(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/116273(WO,A1)
【文献】 特開2011−166903(JP,A)
【文献】 特開2012−243503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1スイッチ手段を含む第1スイッチ回路と、
前記第1スイッチ回路の出力端に接続されたフィルタ回路と、
前記第1スイッチ手段をPWM制御する制御回路と、
を備えたスイッチング電源装置であって、
前記第1スイッチ回路に並列接続された、少なくとも1つの第2スイッチ手段を含む第2スイッチ回路を備え、
前記制御回路は、
前記第2スイッチ手段のオン時間が前記第1スイッチ手段のオン時間よりも小さく、かつ前記第1スイッチ回路と前記第2スイッチ回路とが互いに異なる極性の電圧を出力するように、前記第2スイッチ手段を前記第1スイッチ手段と同じスイッチング周波数でPWM制御し、
前記第1スイッチ回路は、複数の前記第1スイッチ手段をブリッジ接続したブリッジ回路であり、
前記第2スイッチ回路は、複数の前記第2スイッチ手段をブリッジ接続したブリッジ回路である
ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記制御回路は、
前記第1スイッチ手段のスイッチング周波数が変化しない範囲で、前記第1スイッチ手段のオン時間の下限値を設定するとともに、
前記第2スイッチ手段の最小オン時間が前記下限値よりも小さくなるように前記第2スイッチ手段をPWM制御する
ことを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記第1スイッチ手段の最小オン時間が前記下限値となる場合にのみ、前記第2スイッチ手段をPWM制御する
ことを特徴とする請求項2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
記フィルタ回路は、コイルおよびコンデンサからなるLCフィルタ回路である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記第1スイッチ手段は、IGBTであり、
前記第2スイッチ手段は、FETである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
変圧器と、
前記変圧器から出力された交流電圧を直流電圧に変換する電圧変換回路と、
前記電圧変換回路から出力された直流電圧に基づいて電磁石に供給する出力電流を生成する請求項1〜5のいずれか一項に記載のスイッチング電源装置と、を備えた
ことを特徴とする電磁石電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源装置および当該スイッチング電源装置を備えた電磁石電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁石用のスイッチング電源装置としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載のスイッチング電源装置は、ブリッジ接続したIGBTからなるスイッチ回路およびコンデンサを含む第1電流源と、同じくスイッチ回路およびコンデンサを含む第2電流源とを備えている。このスイッチング電源装置によれば、第1電流源および第2電流源を制御して、電磁石に供給するパルス状電流の頂部における変化を抑制することができる。
【0003】
図4に、別のスイッチング電源装置1Bを備えた電磁石電源システム100Bを示す。電磁石電源システム100Bは、変圧器11と、電圧変換回路12と、スイッチング電源装置1Bとを備えている。
【0004】
電圧変換回路12は、変圧器11から入力された交流電圧を直流電圧に変換して出力する。電圧変換回路12は、ダイオードで構成された整流手段と、コイルおよびコンデンサC1で構成された平滑手段とを含む。
【0005】
スイッチング電源装置1Bは、IGBTをブリッジ接続したスイッチ回路2と、LC高周波フィルタを含むフィルタ回路3と、スイッチ回路2のIGBTをPWM制御する制御回路(図示略)とを備えている。スイッチング電源装置1Bの制御回路は、IGBTのオン時間(デューティ比)を制御することで、電磁石10に供給される出力電流を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−243503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、IGBTのオン時間を所定の下限値(最小ONゲート幅)よりも小さくしようとすると、IGBTは特性上オンしないことがある。例えば、制御回路が20[kHz]のスイッチング周波数(50[μs]のスイッチング周期)でIGBTをPWM制御する場合、IGBTのオン時間を1[μs]よりも小さくしようとすると、IGBTはオンしないことがある。
【0008】
IGBTがオンしないと、PWM制御によるIGBTのスイッチング動作が間欠的になってしまい、IGBTのスイッチング周波数が下がってしまう。ここで、フィルタ回路3は、IGBTのスイッチングによる電流リプルを減衰させるべくPWM制御時のIGBTのスイッチング周波数に応じて設計されているため、スイッチング周波数が下がってしまうと、スイッチングによる電流リプルの減衰率が小さくなる。
【0009】
このため、IGBTのオン時間を所定の下限値よりも小さくして低電流出力制御を行う場合、従来のスイッチング電源装置1Bでは、フィルタ回路3でのスイッチングによる電流リプルの減衰率が小さくなり、その結果、フィルタ回路3から出力される出力電流リプルが大きくなってしまうという問題があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、出力電流リプルを増大させることなく低電流出力制御を実行可能なスイッチング電源装置および当該スイッチング電源装置を備えた電磁石電源システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るスイッチング電源装置は、
少なくとも1つの第1スイッチ手段を含む第1スイッチ回路と、
前記第1スイッチ回路の出力端に接続されたフィルタ回路と、
前記第1スイッチ手段をPWM制御する制御回路と、
を備えたスイッチング電源装置であって、
前記第1スイッチ回路に並列接続された、少なくとも1つの第2スイッチ手段を含む第2スイッチ回路を備え、
前記制御回路は、
前記第2スイッチ手段のオン時間が前記第1スイッチ手段のオン時間よりも小さく、かつ前記第1スイッチ回路と前記第2スイッチ回路とが互いに異なる極性の電圧を出力するように、前記第2スイッチ手段を前記第1スイッチ手段と同じスイッチング周波数でPWM制御し、
前記第1スイッチ回路は、複数の前記第1スイッチ手段をブリッジ接続したブリッジ回路であり、
前記第2スイッチ回路は、複数の前記第2スイッチ手段をブリッジ接続したブリッジ回路である
ことを特徴とすることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1スイッチ回路の過剰な出力電圧を第2スイッチ回路で吸収することができるので、低電流出力制御時に第1スイッチ手段のオン時間を極端に小さくする必要がなくなる。その結果、この構成によれば、低電流出力制御時に出力電流リプルが大きくなってしまうのを防ぐことができる。
【0013】
上記スイッチング電源装置では、
前記制御回路は、
前記第1スイッチ手段のスイッチング周波数が変化しない範囲で、前記第1スイッチ手段のオン時間の下限値を設定するとともに、
前記第2スイッチ手段の最小オン時間が前記下限値よりも小さくなるように前記第2スイッチ手段をPWM制御することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、低電流出力制御時に第1スイッチ手段のオン時間を下限値より小さくすることがなくなるので、スイッチング周波数が下がることなく、当該スイッチング周波数に応じて設計されたフィルタ回路により出力電流リプルを確実に抑えることができる。
【0015】
上記スイッチング電源装置では、
前記制御回路は、前記第1スイッチ手段の最小オン時間が前記下限値となる場合にのみ、前記第2スイッチ手段をPWM制御するよう構成できる。
【0016】
上記スイッチング電源装置では、例えば、
記フィルタ回路は、コイルおよびコンデンサからなるLCフィルタ回路である。
【0017】
上記スイッチング電源装置では、例えば、
前記第1スイッチ手段は、IGBTであり、
前記第2スイッチ手段は、FETである。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明に係る電磁石電源システムは、
変圧器と、
前記変圧器から出力された交流電圧を直流電圧に変換する電圧変換回路と、
前記電圧変換回路から出力された直流電圧に基づいて電磁石に供給する出力電流を生成する上記いずれかのスイッチング電源装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、出力電流リプルを増大させることなく低電流出力制御を実行可能なスイッチング電源装置および電磁石電源システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るスイッチング電源装置のブロック図である。
図2】(A)は第1スイッチ手段S1〜S4のタイミングチャートである。(B)は第2スイッチ手段S5〜S8のタイミングチャートである。(C)は、端子電圧V1〜V3の状態を示すタイミングチャートである。
図3図2に示す時間Ta〜Tcと出力電流との関係を示す図である。
図4】従来の電磁石電源システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るスイッチング電源装置および電磁石電源システムの実施形態について説明する。
【0022】
本発明の一実施形態に係る電磁石電源システムは、図4に示す従来の電磁石電源システム100Bにおいて、スイッチング電源装置1Bを図1に示すスイッチング電源装置1Aに置き換えたものである。
【0023】
スイッチング電源装置1Aは、図1に示すように、第1スイッチ回路2と、フィルタ回路3と、制御回路4と、第2スイッチ回路5とを備えている。なお、図1に示されている各構成要素のうち、図4と同一の符号を付した構成要素については従来技術で説明したものと同様なので、ここでは説明を一部省略する。
【0024】
第1スイッチ回路2は、4つの第1スイッチ手段S1〜S4をブリッジ接続したブリッジ回路である。4つの第1スイッチ手段S1〜S4は、それぞれIGBTからなり、IGBTには各1つのダイオードD1〜D4が逆並列接続されている。第1スイッチ回路2は、入力端が電圧変換回路12のコンデンサC1に接続され、出力端T1、T1’がコイルL1、L2を介してフィルタ回路3の入力端T3、T3’に接続されている。
【0025】
フィルタ回路3は、コイルL3およびコンデンサC2からなるLC高周波フィルタである。フィルタ回路3は、第1スイッチ手段S1〜S4のスイッチングによる電流リプルを減衰させるべく、PWM制御時の第1スイッチ手段S1〜S4のスイッチング周波数に応じて設計されている。
【0026】
第2スイッチ回路5は、第1スイッチ回路2に並列接続されている。具体的には、第2スイッチ回路5は、入力端が第1スイッチ回路2の入力端に接続され、出力端T2、T2’がコイルL4、L5およびコイルL1、L2を介して第1スイッチ回路2の出力端T1、T1’に接続されている。また、第2スイッチ回路5は、4つの第2スイッチ手段S5〜S8をブリッジ接続したブリッジ回路である。4つの第2スイッチ手段S5〜S8は、それぞれFETからなり、FETには各1つのダイオードD5〜D8が逆並列接続されている。
【0027】
制御回路4は、第1スイッチ手段S1〜S4および第2スイッチ手段S5〜S8に対して、PWM制御とオン/オフ制御とを行う。PWM制御は、スイッチ手段を一定のスイッチング周波数でスイッチング動作させる制御であり、オン/オフ制御は、スイッチ手段を連続的にオン状態またはオフ状態にする制御である。図2の場合、制御回路4は、第1スイッチ手段S1、S2および第2スイッチ手段S6、S7に対してPWM制御を行い、第1スイッチ手段S3、S4および第2スイッチ手段S5、S8に対してオン/オフ制御を行っている。
【0028】
また、制御回路4は、第1スイッチ手段S1〜S4のスイッチング周波数が変化しない範囲で、第1スイッチ手段S1〜S4のオン時間の下限値を設定し、PWM制御下の第1スイッチ手段のオン時間が当該下限値を下回らないようにする。例えば、スイッチング周波数が20[kHz]の場合(スイッチング周期が50[μs]の場合)、制御回路4は、第1スイッチ手段S1〜S4のオン時間の下限値を1[μs]に設定し、PWM制御下の第1スイッチ手段のオン時間が1[μs]を下回らないようにする。このように下限値を設定するのは、第1スイッチ手段S1〜S4であるIGBTは、オン時間を小さくしようとするとオンしない場合があり、その場合、スイッチング周波数が変化してしまうからである。一方、第2スイッチ手段S5〜S8に対しては、制御回路4は、オン時間の下限値を設定していない。これは、第2スイッチ手段S5〜S8であるFETは、オン時間を小さくしても正常に動作する(オンする)からである。
【0029】
さらに、制御回路4は、第2スイッチ手段S5〜S8の最小オン時間が上述の下限値よりも小さく、かつ第1スイッチ回路2と第2スイッチ回路5とが互いに異なる極性の電圧を出力するように、第2スイッチ手段S5〜S8をPWM制御する。ここで、最小オン時間とは、PWM制御下のスイッチ手段のオン時間のうち最も小さいものをいう。例えば、図2(A)の場合、最小オン時間は第1スイッチ手段S1のオン時間になり、図2(B)の場合、最小オン時間は第2スイッチ手段S6、S7のオン時間になる。
【0030】
上述のとおり、第1スイッチ回路2と第2スイッチ回路5とが互いに異なる極性の電圧を出力することにより、第1スイッチ回路2の過剰な出力電圧を第2スイッチ回路5で吸収することができる。このため、スイッチング電源装置1Aでは、第1スイッチ手段S1〜S4のオン時間を下限値よりも小さくすることなく、低電流出力制御が可能となる。
【0031】
次に、図2および図3を参照して、低電流出力制御の具体例について説明する。以下では、出力電流をプラス方向(図2(C)に示す端子電圧V3が正電圧)に流す場合について説明する。なお、第1スイッチ手段S1〜S4のオン時間の下限値は、1[μs]に設定されているものとする。
【0032】
図2(A)に示すように、制御回路4は、第1スイッチ手段S1、S2をスイッチング周期T(スイッチング周波数は20[kHz])でPWM制御している。一方、制御回路4は、第1スイッチ手段S3、S4をオン/オフ制御しており、第1スイッチ手段S3はオフ状態、第1スイッチ手段S4はオン状態に維持されている。
【0033】
図2(B)に示すように、制御回路4は、第2スイッチ手段S6、S7をスイッチング周期T(スイッチング周波数は20[kHz])でPWM制御している。一方、制御回路4は、第2スイッチ手段S5、S8をオン/オフ制御しており、第2スイッチ手段S5、S8はオフ状態に維持されている。
【0034】
時間t〜tの1つのスイッチング周期Tに着目すると、時間t〜tにおいて、第1スイッチ手段S1、S4および第2スイッチ手段S6、S7はオン状態となり、第1スイッチ手段S2、S3および第2スイッチ手段S5、S8はオフ状態となる。このとき、第1経路(コンデンサC1→第1スイッチ手段S1→コイルL1→コイルL4→第2スイッチ手段S6)と第2経路(コンデンサC1→第2スイッチ手段S7→コイルL5→コイルL2→第1スイッチ手段S4)に電流が流れる。
【0035】
このため、コンデンサC1の両端電圧をX(X>0)[V]とすると、第1スイッチ回路2からは正の電圧(X[V]の電圧)が出力され、図2(C)に示すように第1スイッチ回路2の出力端T1、T1’の端子電圧V1はX[V]となる。一方、第2スイッチ回路5からは負の電圧(−X[V]の電圧)が出力され、第2スイッチ回路5の出力端T2、T2’の端子電圧V2は−X[V]となる。その結果、フィルタ回路3に入力される電圧は0[V]になり、フィルタ回路3の入力端T3、T3’の端子電圧V3は0[V]となる。
【0036】
時間t〜tにおいては、第1スイッチ手段S1およびS4はオン状態となり、第1スイッチ手段S2、S3および第2スイッチ手段S5〜S8はオフ状態となる。このとき、第3経路(コンデンサC1→第1スイッチ手段S1→コイルL1→フィルタ回路3→電磁石10→フィルタ回路3→コイルL2→第1スイッチ手段S4)に電流が流れる。
【0037】
このため、第1スイッチ回路2からはX[V]の電圧が出力され、第1スイッチ回路2の出力端T1、T1’の端子電圧V1はX[V]となる。一方、第2スイッチ回路5から出力される電圧は0[V]となり、第2スイッチ回路5の出力端T2、T2’の端子電圧V2は0[V]となる。その結果、フィルタ回路3に入力される電圧はX[V]になり、フィルタ回路3の入力端T3、T3’の端子電圧V3はX[V]となる。
【0038】
時間t〜tにおいては、第1スイッチ手段S2、S4はオン状態となり、第1スイッチ手段S1、S3および第2スイッチ手段S5〜S8はオフ状態となる。なお、上記のとおり、第1スイッチ手段S4は出力電流を還流させるためにオン状態にしておく必要があるが、第1スイッチ手段S2は常時オフ状態としても問題はない。このため、第1スイッチ回路2および第2スイッチ回路5から出力される電圧はいずれも0[V]となり、第1スイッチ回路2の出力端T1、T1’の端子電圧V1および第2スイッチ回路5の出力端T2、T2’の端子電圧V2はいずれも0[V]となる。その結果、フィルタ回路3の入力端T3、T3’の端子電圧V3も0[V]となる。
【0039】
ここで、図2(C)に示すように、1つのスイッチング周期Tにおいて端子電圧V1がX[V]となる時間をTaとし、端子電圧V2が−X[V]となる時間をTbとし、端子電圧V3はX[V]となる時間をTcとすると、時間Ta〜Tcと出力電流との関係は、図3のとおりになる。図3において、Y[A]は、第2スイッチ回路5を動作させず、かつ第1スイッチ手段S1〜S4の最小オン時間(第1スイッチ手段S1のオン時間)が下限値である1[μs]となるよう第1スイッチ回路2を動作させたときに、フィルタ回路3から出力される出力電流値である。
【0040】
図3から分かるように、出力電流値がY[A]よりも小さい場合、時間Taは1[μs]で一定となる。また、時間Tbは出力電流値がY[A]に近づくにつれて0に近づき、時間Tcは出力電流値がY[A]に近づくにつれて1[μs]に近づく。すなわち、図3から、出力電流値がY[A]よりも小さい場合、フィルタ回路3に入力される電圧は、第1スイッチ回路2の出力電圧から第2スイッチ回路5で吸収される電圧を差し引いたものであることが分かり、出力電流値がY[A]に近づくにつれて第2スイッチ回路5の吸収量が小さくなることも分かる。
【0041】
一方、出力電流値がY[A]以上の場合、時間Taと時間Tcとが一致し、ともに出力電流値に比例して大きくなる。時間Tbは0になる。すなわち、図3から、出力電流値がY[A]以上の場合、フィルタ回路3に入力される電圧は、第1スイッチ回路2の出力電圧に一致することが分かる。なお、コイルL1、L2および配線等による電圧降下は無視している。
【0042】
結局、本実施形態に係るスイッチング電源装置1Aおよび電磁石電源システムによれば、第1スイッチ回路2の過剰な出力電圧を第2スイッチ回路5で吸収することができるので、低電流出力制御時、すなわち出力電流値がY[A]よりも小さくなるような制御時に、第1スイッチ手段S1〜S4の最小オン時間(第1スイッチ手段S1のオン時間)を下限値よりも小さくする必要がなくなる。その結果、本実施形態に係るスイッチング電源装置1Aおよび電磁石電源システムによれば、低電流出力制御時に出力電流リプルが大きくなってしまうのを防ぐことができる。
【0043】
なお、上記では、出力電流をプラス方向に流す場合について説明したが、出力電流をマイナス方向(図2(C)に示す端子電圧V3が負電圧)に流す場合でも同様な効果を奏する。すなわち、出力電流をマイナス方向に流す場合には、第1スイッチ手段S4を常時オン状態にすることに替えて第1スイッチ手段S2を常時オン状態にするとともに、第1スイッチ手段S1、第2スイッチ手段S6、S7をオン/オフ動作させることに替えて第1スイッチ手段S3、第2スイッチ手段S5、S8をオン/オフ動作させることになるが、この場合は、第1スイッチ手段S1〜S4の最小オン時間(第1スイッチ手段S3のオン時間)を下限値よりも小さくする必要がなくなる。
【0044】
以上、本発明に係るスイッチング電源装置および電磁石電源システムの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0045】
第1スイッチ手段S1〜S4および第2スイッチ手段S5〜S8のスイッチングパターンは、少なくも低電流出力制御時に、第2スイッチ手段S5〜S8の最小オン時間(上記具体例では、第2スイッチ手段S6、S7のオン時間)が、第1スイッチ手段S1〜S4のオン時間の下限値よりも小さく、かつ第1スイッチ回路2と第2スイッチ回路5とが互いに異なる極性の電圧を出力できるのであれば、適宜変更することができる。例えば、時間t〜tではなく時間t〜tにおいて、第2スイッチ手段S6、S7をオン状態にしてもよい。
【0046】
上記実施形態では、第1スイッチ手段S1〜S4をIGBTとし、第2スイッチ手段S5〜S8をFETとしているが、第1スイッチ手段S1〜S4のオン時間よりも第2スイッチ手段S5〜S8のオン時間の方が小さくなるのであれば、第1スイッチ手段S1〜S4および第2スイッチ手段S5〜S8として任意のスイッチ手段を用いることができる。例えば、第1スイッチ手段S1〜S4を一般的な(比較的安価な)IGBTとし、第2スイッチ手段S5〜S8を高性能な(比較的高価な)IGBTとしてもよい。また、第1スイッチ手段S1〜S4および第2スイッチ手段S5〜S8のうち、PWM制御を行わないスイッチ手段は、省略したりダイオード等の整流素子に置き換えたりすることができる。
【0047】
フィルタ回路3の構成は、PWM制御下の第1スイッチ手段S1〜S4のスイッチング周波数に応じて設計されているのであれば適宜変更することができる。
【0048】
また、本発明の電磁石電源システムでは、低電流出力制御時に、電圧変換回路12の出力電圧(コンデンサC1のプラス側の直流リンク電圧)を低下させてもよい。なお、この場合、電圧変換回路12の整流手段をAC/DCコンバータで構成することが好ましい。
【符号の説明】
【0049】
1A スイッチング電源装置
2 第1スイッチ回路
3 フィルタ回路
4 制御回路
5 第2スイッチ回路
10 電磁石
11 変圧器
12 電圧変換回路
図1
図2
図3
図4