特許第6472079号(P6472079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6472079空孔を備えたゲル構造体およびその製造方法、並びにその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472079
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】空孔を備えたゲル構造体およびその製造方法、並びにその利用
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20190207BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C08J9/26 102
   C08J9/00 Z
【請求項の数】22
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-90762(P2015-90762)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-204576(P2016-204576A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宏人
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−050366(JP,A)
【文献】 特開2014−138923(JP,A)
【文献】 特開2001−131186(JP,A)
【文献】 特開2014−188421(JP,A)
【文献】 工藤宏人,アセタール残基を有するnoria(ラダー型環状オリゴマー)誘導体の合成とその光脱保護反応,高分子論文集,日本,日本高分子学会,2008年 7月16日,Vol.66,No.1,10-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B01D53/22
61/00− 71/82
C02F 1/44
C07B31/00− 61/00
63/00− 63/04
C07C 1/00−409/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)にて表される化合物が備える水酸基の1以上が不飽和化合物によりエステル化されたエステルを、重合および架橋して得られる重合体から、前記化学式(1)にて表される化合物が1以上脱離されてなる、空孔を備えたゲル構造体であって、
前記ゲル構造体は、前記化学式(1)にて表される化合物の脱離によって形成された空孔を備え、
前記空孔は、当該空孔の内壁に前記不飽和化合物に由来する官能基を備えることを特徴とするゲル構造体。
【化1】
【請求項2】
前記不飽和化合物は、カルボン酸ハロゲン化物、2-クロロ-4-(ビニルフェニル)アセトアミド、イソシアナートスチレン、ジイソシアナート、2−(ビニロキシ)エチルメタクリレート、および、4−(2−ビニロキシ)エトキシスチレンからなる群より選ばれる1以上の不飽和化合物であることを特徴とする請求項1に記載のゲル構造体。
【請求項3】
前記カルボン酸ハロゲン化物が、メタクリロイルクロライドであることを特徴とする請求項2に記載のゲル構造体。
【請求項4】
前記エステルは、前記化学式(1)にて表される化合物が備える水酸基24個が不飽和化合物によりエステル化されてなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゲル構造体。
【請求項5】
前記架橋が、多官能性の架橋剤によって行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のゲル構造体。
【請求項6】
前記多官能性の架橋剤が、2官能性〜4官能性の架橋剤であることを特徴とする請求項5に記載のゲル構造体。
【請求項7】
前記架橋剤が、下記化学式(2)で表される化合物、重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000である下記化学式(3)で表される化合物、またはジビニルベンゼンであることを特徴とする、請求項5または6に記載のゲル構造体。
【化2】
【請求項8】
前記架橋剤が、前記化学式(2)で表される化合物であり、前記化学式(2)においてn=6の化合物であることを特徴とする請求項7に記載のゲル構造体。
【請求項9】
前記官能基が、カルボキシ基、アミノ基、および水酸基からなる群より選ばれる1以上の官能基であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のゲル構造体。
【請求項10】
前記エステルと、前記架橋剤とのモル比が1.0:3.0〜1.0:96.0であることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載のゲル構造体。
【請求項11】
前記モル比が1.0:12.0〜1.0:24.0であることを特徴とする請求項10に記載のゲル構造体。
【請求項12】
前記空孔は、内径が3〜10Åであることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のゲル構造体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のゲル構造体を有効成分として含有し、金属を包接し得ることを特徴とする、金属の包接材。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のゲル構造体を有効成分として含有し、二酸化炭素を吸着し得ることを特徴とする、二酸化炭素の吸着材。
【請求項15】
請求項14に記載の二酸化炭素の吸着材が成膜されてなることを特徴とする二酸化炭素の分離膜。
【請求項16】
(i)下記化学式(1)にて表される化合物が備える水酸基の1以上と、不飽和化合物との間にエステル結合を形成させ、エステルを得る工程と、
【化3】
(ii)前記エステルを、架橋剤の存在下で重合および架橋することによって、重合体を得る工程と、
(iii)前記重合体に対して加水分解を行うことにより、前記重合体から、前記化学式(1)にて表される化合物を1以上脱離させ、空孔を備えたゲル構造体を得る工程と、を含むことを特徴とする、空孔を備えたゲル構造体の製造方法。
【請求項17】
前記不飽和化合物は、カルボン酸ハロゲン化物、2-クロロ-4-(ビニルフェニル)アセトアミド、イソシアナートスチレン、ジイソシアナート、2−(ビニロキシ)エチルメタクリレート、および、4−(2−ビニロキシ)エトキシスチレンからなる群より選ばれる1以上の不飽和化合物であることを特徴とする請求項16に記載のゲル構造体の製造方法。
【請求項18】
前記架橋剤が、下記化学式(2)にて表される化合物、重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000の下記化学式(3)にて表される化合物、またはジビニルベンゼンであることを特徴とする、請求項16または17に記載のゲル構造体の製造方法。
【化4】
【請求項19】
前記エステルと、前記架橋剤とのモル比が1.0:3.0〜1.0:96.0であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項に記載のゲル構造体の製造方法。
【請求項20】
前記モル比が1.0:12.0〜1.0:24.0であることを特徴とする請求項19に記載のゲル構造体の製造方法。
【請求項21】
前記重合が、溶液重合法または固層重合法によって行われることを特徴とする請求項16〜20のいずれか1項に記載のゲル構造体の製造方法。
【請求項22】
前記不飽和化合物と、前記架橋剤とが、共にジイソシアナートであることを特徴とする請求項16〜請求項21のいずれか1項に記載のゲル構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空孔を備えたゲル構造体およびその製造方法、並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の影響で、気温の上昇や異常気象などが起きており、その原因として、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの影響が挙げられている。これに対し、温室効果ガス削減の取り組みが種々なされているが、二酸化炭素の排出量は依然増加傾向を示しており、今後も新興国の発展による大量の二酸化炭素の排出が予想されている。それゆえ、二酸化炭素排出を削減する方法の重要性が高まっている。
【0003】
二酸化炭素の排出削減方法としては、二酸化炭素を固定化し地中に貯留、あるいは海洋に隔離する、いわゆるCarbon Capture and Storage法が世界的に注目されている(非特許文献1、2)。この方法の重要な工程である二酸化炭素固定化方法は、生物化学的方法、物理化学的方法、化学的方法の3つに大別される。その中でも物理化学的方法は、二酸化炭素の回収効率が良いために、火力発電、鉄鋼、セメント等のプラントにおける二酸化炭素回収に適しており、今後の工業の発展に有用である。
【0004】
物理化学的方法は、ガスの種類による膜の透過速度の差を利用した膜分離法、ゼオライトのような無機多孔体を用いる吸着分離法、アミンなどの有機塩基溶液を利用した化学吸着法の3つに大別することができる(非特許文献3)。
【0005】
中でも、ゼオライトは火力発電所等の排ガスに対する吸着材として汎用されている。しかし、ゼオライトを用いる場合、排ガス中の水蒸気が二酸化炭素の吸着を阻害するために前処理として除湿工程が必要不可欠であるという問題があった。
【0006】
その問題点の解決手段として、メソポーラス物質の空孔内表面をアミンで化学修飾した物質を用いることにより水蒸気の影響を受けずに二酸化炭素を選択的に吸着させる方法が開示されている(非特許文献4〜6)。
【0007】
一方、本発明者らは、以下の反応式(1)に示すように、レゾルシノールと1,5−ペンタンジアールとの縮合反応により、剛直で熱安定性を有するラダー型大環状化合物(以下、「Noria」と称する)を合成し、その研究を進めてきた(非特許文献7)。
【0008】
【化1】
【0009】
Noriaの中央には3.05Åの疎水空孔が存在していること、および、その空孔に二酸化炭素を選択的に吸着することができることが開示されている(非特許文献8)。また、Noriaにおける疎水空孔の大きさと、Rbイオンの直径とがよく一致しているため、Rbイオンを選択的に包接できることが知られている(非特許文献9)。さらにNoriaは24個の水酸基(OH基)を有している多官能基性の化合物であるため、様々な機能化が可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ding, S.-Y.et al., Chem. Soc. Rev. 2013, 42, 548.
【非特許文献2】IPPC Special Report on Carbon Dioxide Capture and Storage, Working Group, Cambride University Press, New York(2006).
【非特許文献3】乾智行, CO2固定化・隔離技術,11(2006).
【非特許文献4】H. de Sainte Claire Deville et al., Seances Acad.Sci.1862, 54, 324.
【非特許文献5】省エネルギー型CO2分離回収技術の開発:メソ細孔を利用した新規CO2吸着剤の開発、財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)(2011年度発行)
【非特許文献6】平成22年度 二酸化炭素回収技術高度化事業成果報告書、公益財団法人地球環境産業技術研究機構、平成24年3月
【非特許文献7】Michael Rousseas, et al., ACS Nano, 2013, 7 (10), pp 8540-8546.
【非特許文献8】J.Tian, et al., Angew.Chem.Int.Ed., 48, 5492 (2009).
【非特許文献9】H. Kudo et al., Angew.Chem.Int.Ed., 45, 7948 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献4〜6に開示の技術は、空孔内表面をアミンで化学修飾したメソポーラスシリカを用いている。しかしながら、シリカを用いているため、空孔内表面を多種の官能基で修飾することは困難であると推測され、空孔内表面をアミンで化学修飾したメソポーラスシリカ以外の構造を取ることは困難であると推測される。そのため、包接対象は二酸化炭素に特化されると推測される。
【0012】
それゆえ、非特許文献4〜6に開示の技術は、多様な包接対象を効率よく包接するという観点からは、改善の余地があるものと考えられる。
【0013】
一方、前記Noriaは前述のように、その空孔に二酸化炭素や金属を包接することができる。しかし、当該空孔は疎水性の空孔であるため、空孔内に官能基を有しておらず、空孔内に官能基を導入することも困難である。
【0014】
そのため、二酸化炭素の取り込み量(吸着量)が少ないという問題、および、包接することが可能な金属イオンの種類が少なく、多様な包接対象を効率よく包接することは困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような状況下、本発明者は、前記Noriaの空孔内に官能基を導入することができれば、二酸化炭素等の包接対象を単に包接するだけではなく、空孔内で包接対象と官能基との化学反応を生じさせることができ、前記物理化学的方法の利点と、化学的方法の利点とを併せ持つ、包接対象の選択的な包接が可能となり、多種の包接対象に対応した効率的な包接を可能とする化合物を提供できるのではないか、という着想に思い至った。
【0016】
そこで本発明者は鋭意検討し、不飽和化合物によりエステル化されたNoriaを架橋して得られる重合体から、加水分解等を用いてNoriaを脱離することにより得られた、空孔を備えたゲル構造体が、Noriaに由来する空孔を保持したまま、前記空孔に官能基を導入することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0018】
〔1〕下記化学式(1)にて表される化合物が備える水酸基の1以上が不飽和化合物によりエステル化されたエステルを、重合および架橋して得られる重合体から、前記化学式(1)にて表される化合物が1以上脱離されてなる、空孔を備えたゲル構造体であって、
前記ゲル構造体は、前記化学式(1)にて表される化合物の脱離によって形成された空孔を備え、
前記空孔は、当該空孔の内壁に前記不飽和化合物に由来する官能基を備えることを特徴とするゲル構造体。
【0019】
【化2】
【0020】
〔2〕前記不飽和化合物は、カルボン酸ハロゲン化物、2-クロロ-4-(ビニルフェニル)アセトアミド、イソシアナートスチレン、ジイソシアナート、2−(ビニロキシ)エチルメタクリレート、および、4−(2−ビニロキシ)エトキシスチレンからなる群より選ばれる1以上の不飽和化合物であることを特徴とする〔1〕に記載のゲル構造体。
【0021】
〔3〕前記カルボン酸ハロゲン化物が、メタクリロイルクロライドであることを特徴とする〔2〕に記載のゲル構造体。
【0022】
〔4〕前記エステルは、前記化学式(1)にて表される化合物が備える水酸基24個が不飽和化合物によりエステル化されてなるものであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載のゲル構造体。
【0023】
〔5〕前記架橋が、多官能性の架橋剤によって行われることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1つに記載のゲル構造体。
【0024】
[6]前記多官能性の架橋剤が、2官能性〜4官能性の架橋剤であることを特徴とする[5]に記載のゲル構造体。
【0025】
〔7〕前記架橋剤が、下記化学式(2)で表される化合物、重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000である下記化学式(3)で表される化合物、またはジビニルベンゼンであることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか1つに記載のゲル構造体。
【0026】
【化3】
【0027】
〔8〕前記架橋剤が、前記化学式(2)で表される化合物であり、前記化学式(2)においてn=6の化合物であることを特徴とする[7]に記載のゲル構造体。
【0028】
〔9〕前記官能基が、カルボキシ基、アミノ基、および水酸基からなる群より選ばれる1以上の官能基であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1つに記載のゲル構造体。
【0029】
〔10〕前記エステルと、前記架橋剤とのモル比が1.0:3.0〜1.0:96.0であることを特徴とする[5]〜[9]のいずれか1項に記載のゲル構造体。
【0030】
〔11〕前記モル比が1.0:12.0〜1.0:24.0であることを特徴とする[10]に記載のゲル構造体。
【0031】
〔12〕前記空孔は、内径が3〜10Åであることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか1つに記載のゲル構造体。
【0032】
〔13〕[1]〜[12]のいずれか1つに記載のゲル構造体を有効成分として含有し、金属を包接し得ることを特徴とする、金属の包接材。
【0033】
〔14〕[1]〜[12]のいずれか1つに記載のゲル構造体を有効成分として含有し、二酸化炭素を吸着し得ることを特徴とする、二酸化炭素の吸着材。
【0034】
〔15〕[14]に記載の二酸化炭素の吸着材が成膜されてなることを特徴とする二酸化炭素の分離膜。
【0035】
〔16〕(i)下記化学式(1)にて表される化合物が備える水酸基の1以上と、不飽和化合物との間にエステル結合を形成させ、エステルを得る工程と、
【0036】
【化4】
【0037】
(ii)前記エステルを、架橋剤の存在下で重合および架橋することによって、重合体を得る工程と、
(iii)前記重合体に対して加水分解を行うことにより、前記重合体から、前記化学式(1)にて表される化合物を1以上脱離させ、空孔を備えたゲル構造体を得る工程と、を含むことを特徴とする、ゲル構造体の製造方法。
【0038】
〔17〕前記不飽和化合物は、カルボン酸ハロゲン化物、2-クロロ-4-(ビニルフェニル)アセトアミド、イソシアナートスチレン、ジイソシアナート、2−(ビニロキシ)エチルメタクリレート、および、4−(2−ビニロキシ)エトキシスチレンからなる群より選ばれる1以上の不飽和化合物であることを特徴とする[16]に記載のゲル構造体の製造方法。
【0039】
〔18〕前記架橋剤が、下記化学式(2)にて表される化合物、重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000である下記化学式(3)で表される化合物、またはジビニルベンゼンであることを特徴とする、[16]または[17]に記載のゲル構造体の製造方法。
【0040】
【化5】
【0041】
〔19〕前記エステルと、前記架橋剤とのモル比が1.0:3.0〜1.0:96.0であることを特徴とする[16]〜[18]のいずれか1つに記載のゲル構造体の製造方法。
【0042】
〔20〕前記モル比が1.0:12.0〜1.0:24.0であることを特徴とする〔19〕に記載のゲル構造体の製造方法。
【0043】
〔21〕前記重合が、溶液重合法または固層重合法によって行われることを特徴とする[16]〜[20]のいずれか1つに記載のゲル構造体の製造方法。
【0044】
〔22〕前記不飽和化合物と、前記架橋剤とが、共にジイソシアナートであることを特徴とする[16]〜[21]のいずれか1つに記載のゲル構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体は、Noriaの脱離により形成された空孔を備え、前記空孔内に二酸化炭素および/または金属イオンと反応する官能基を備えることから、従来の材料と比較して、二酸化炭素の吸着量を増大させることができ、また、包接(吸着)可能な金属イオンの種類を増加させることができると共に、選択性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、Noriaの水酸基がエステル化されたエステルを重合および架橋して得られた重合体から、Noriaが脱離することにより空孔が形成されることを示すイメージ図である。
図2図2は、製造例1にて得られた化合物のIRスペクトルを示す図である。
図3図3は、製造例1にて得られた化合物のHNMRスペクトルを示す図である。
図4図4は、製造例2にて得られた白色固体のIRスペクトルを示す図である。
図5図5は、製造例2にて得られた白色固体のHNMRスペクトルを示す図である。
図6図6は、製造例3にて得られた白色固体のIRスペクトルを示す図である。
図7図7は、製造例3にて得られた白色固体のHNMRスペクトルを示す図である。
図8図8は、製造例4にて得られた白色固体のIRスペクトルを示す図である。
図9図9は、製造例4にて得られた白色固体のHNMRスペクトルを示す図である。
図10図10は、製造例7にて得られたゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図11図11は、製造例10にて得られたゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図12図12は、製造例14にて得られたゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図13図13は、実施例1にて得られたゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図14図14は、実施例1における可溶部から得られた固体のIRスペクトルを示す図である。
図15図15は、実施例1における可溶部から得られた固体のHNMRスペクトルを示す図である。
図16図16は、実施例2にて得られたゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図17図17は、実施例2における可溶部から得られた固体のIRスペクトルを示す図である。
図18図18は、実施例2における可溶部から得られた固体のHNMRスペクトルを示す図である。
図19図19は、実施例4にて得られたゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図20図20は、実施例4における可溶部から得られた固体のIRスペクトルを示す図である。
図21図21は、実施例4における可溶部から得られた固体のHNMRスペクトルを示す図である。
図22図22は、比較例1にて得られた、MMAとDMAとを重合および架橋して得たゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
図23図23は、比較例1にて得られた、加水分解後のゲル構造体のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。
【0048】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱い、「包接」と「吸着」とを同義語として扱う。
【0049】
[実施の形態1:空孔を備えたゲル構造体]
本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体は、下記化学式(1)にて表される化合物(Noria)が備える水酸基の1以上が不飽和化合物によりエステル化されたエステルを、重合および架橋して得られる重合体から、前記化学式(1)にて表される化合物が1以上脱離されてなる、空孔を備えたゲル構造体であって、前記ゲル構造体は、前記化学式(1)にて表される化合物の脱離によって形成された空孔を備え、前記空孔は、当該空孔の内壁に前記不飽和化合物に由来する官能基を備える、ゲル構造体である。
【0050】
【化6】
【0051】
本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体は、前記重合体を形成後にNoriaを脱離させてなるゲル構造体であるため、Noriaの大きさ、形状、および数などに対応した空孔が維持され、当該空孔の内壁に、前記不飽和化合物に由来する官能基が備えられている。それゆえ、空孔内に包接対象を包接するだけでなく、前記官能基と包接対象との化学反応をも行うことができる。また、前記不飽和化合物を包接対象に応じて適宜選択することにより、前記官能基を、包接対象に応じて適宜変更することも容易である。
【0052】
したがって、多種の包接対象に対応した効率の良い包接を可能とするゲル構造体を提供することができる。
【0053】
前記Noriaは、前述したように、剛直で熱安定性を有するラダー型大環状化合物であり、前述した従来公知の方法(非特許文献7)によって合成することができる。
【0054】
Noriaは、化学式(1)に示すように24個の水酸基を備えている。本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体は、前記水酸基の1以上が不飽和化合物によりエステル化されたエステルを、重合および架橋して得られる重合体からNoriaが1以上脱離されてなるものであるため、まず、前記重合体について説明する。
【0055】
前記「水酸基の1以上」とは、化学式(1)に示される水酸基のうち1以上であれば、いずれの水酸基であってもよいとの意である。例えば、エステル化される水酸基が1つの場合、化学式(1)に示される水酸基のうち、どの水酸基であってもよいし、エステル化される水酸基が2以上の場合、化学式(1)に示される水酸基のうち、任意の2以上の水酸基であってよい。
【0056】
前記不飽和化合物は、重合および架橋するための不飽和結合を備えている。また、前記不飽和化合物は、例えば、−X(X:ハロゲン)、イソシアナート基、C=C結合等の、Noriaの水酸基と反応してエステル結合を形成し得る官能基を備えている。加えて、前記不飽和化合物は、例えば、カルボニル基、イソシアナート基、ビニロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基等の、Noriaの水酸基とのエステルが加水分解された際に、二酸化炭素および/または金属イオンと反応し得る官能基を生成する官能基を備える。
【0057】
例えば、前記不飽和化合物としては、カルボン酸ハロゲン化物、2-クロロ-4-(ビニルフェニル)アセトアミド、イソシアナートスチレン、ジイソシアナート、2−(ビニロキシ)エチルメタクリレート、4−(2−ビニロキシ)エトキシスチレン、ビスエポキシ化合物、ビスオキセタン化合物、等を挙げることができる。
【0058】
これらの不飽和化合物を用いることにより、ゲル構造体が備える空孔の内壁に、これらの不飽和化合物に由来する官能基を備えさせることができる。例えば、カルボン酸ハロゲン化物を用いた場合は、カルボキシ基を前記内壁に備えさせることができる。包接対象との化学反応を考慮して、包接対象に応じた好ましい官能基を備えさせることによって、それぞれの包接対象の包接効率を向上させることができる。
【0059】
前記カルボン酸ハロゲン化物は、カルボン酸フッ化物、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸ヨウ化物のいずれであってもよい。また、前記カルボン酸ハロゲン化物は、1種用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0060】
カルボン酸ハロゲン化物を構成するカルボン酸としては、不飽和カルボン酸であればよく、例えばアクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸などを用いることができる。
【0061】
カルボン酸ハロゲン化物としては、特に限定されるものではないが、反応性が高く、前記水酸基と容易にエステル結合を形成することができるという観点から、カルボン酸塩化物であることが好ましく、メタクリロイルクロライドであることがより好ましい。
【0062】
なお、前記不飽和化合物がジイソシアナートの場合は、一方のイソシアナート基がNoriaの水酸基とエステル結合を形成する基として働き、もう一方のイソシアナート基により加水分解後に、空孔の内壁にアミノ基が形成されると考えられる。
【0063】
前記Noriaは、24個存在する水酸基のうち、1個以上の水酸基がエステル化される。エステル化された水酸基は、後の架橋重合において、架橋される部位となり得る。よって、エステル化される水酸基の数は、架橋重合により重合体であるゲル構造体を形成しやすいという観点から、多い方が好ましい。具体的には、10個以上が好ましく、15個以上がより好ましく、20個以上がさらに好ましく、24個すべてがエステル化されることが最も好ましい。
【0064】
前記エステル化、重合、および架橋は、後述する「空孔を備えたゲル構造体の製造方法」の項で述べるように、従来公知の一般的な方法によって行うことができる。重合は、前記不飽和化合物が有する不飽和結合が連鎖重合することによって行われる。重合度は特に限定されるものではないが、重合度が高い程好ましい。重合度が高いことにより、架橋点を多く取ることができるため、架橋によって、ゲル構造体の構造を強固にすることができる。そして、ゲル構造体の構造を強固にすることによって、重合体からNoriaを脱離させた後に空孔の形状が維持されやすくなるため好ましい。
【0065】
エステル化されたNoriaを重合および架橋させて重合体(ゲル構造体)を形成するために、前記エステル化されたNoriaと架橋剤とを反応させることが好ましい。
【0066】
前記架橋剤は、エステル化された水酸基が有する不飽和結合と架橋反応して重合体を形成し得る化合物であれば特に限定されないが、本発明の一実施形態に係る空孔を備えたゲル構造体を適切に合成するためには、前記架橋剤の種類とその仕込み量の調整が重要となる。
【0067】
すなわち、本発明の一実施形態に係る、空孔を備えたゲル構造体を合成するためには、前記エステル化されたNoriaと架橋剤とを反応させて得られた重合体からNoriaを脱離させる必要があるが、前記重合体の種類(構造)によっては、前記Noriaを脱離させることができない可能性が考えられる。また、前記Noriaの脱離によって、前記重合体の構造が崩壊する可能性も考えられる。よって、前記Noriaを脱離させた場合に、ゲル構造体の構造を維持し、かつ、そのゲル構造体内に固定化された空孔を保持するためには、前記架橋剤の種類とその仕込み量の調整を適切に行うことが重要となる。
【0068】
上述の事項を考慮すると、本発明の一実施形態に係る空孔を備えたゲル構造体を合成するためには、前記架橋剤は、多官能性の架橋剤であることが好ましく、二官能性〜四官能性の架橋剤がより好ましく、二官能性の架橋剤がさらに好ましい。なお、「多官能性の架橋剤」とは、官能基を2以上有する架橋剤をいい、二官能性〜四官能性の架橋剤も多官能性の架橋剤に含まれる。
【0069】
二官能性の架橋剤としては、例えば、以下の化学式(2)、重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000である化学式(3)にて示される化合物、または、ジビニルベンゼンが挙げられる。
【0070】
【化7】
【0071】
架橋剤として、上の化学式(2)にて示される化合物を使用する場合には、最終的に得られるゲル構造体において、加水分解後に空孔が保持されやすいことから、n=6の架橋剤を使用することが好ましい。
【0072】
Noriaが備える水酸基の1以上が不飽和化合物によりエステル化されたエステル、(単に「エステル」とも称する)と、架橋剤とのモル比は、1.0:3.0〜1.0:96:0であることが好ましく、1.0:12.0〜1.0:24.0であることが特に好ましい。
【0073】
前記モル比を満たすことによって、Noriaの脱離によって形成される空孔の形状、大きさおよび数(使用したNoriaの数に対応する)などが脱離後もほぼ維持されるゲル構造体、すなわち、固定された空孔を有するゲル構造体が得られやすいため、二酸化炭素や金属等の包接を効率よく行うことができる。
【0074】
前記モル比が1.0:3.0を下回る場合、すなわち、前記エステルに対する架橋剤のモル比が3.0未満である場合は、Noriaを脱離させた後に水溶性となり、ゲル構造体を維持することができない可能性が高いため好ましくない。例えば後述する比較例では、前記モル比が1:2.4の場合、重合体を加水分解すると水溶性の液体になってしまい、ゲル状態を維持することができないという結果が得られている。
【0075】
一方、前記モル比が1.0:96.0を上回る場合、すなわち、前記エステルに対する架橋剤のモル比が96.0を超える場合は、Noriaを脱離させることができない可能性がある。Noriaを脱離させることができない場合は、空孔を得ることができず、所望の包接を行うことができないため好ましくない。
【0076】
本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体は、前記重合体からNoriaが1以上脱離されてなるゲル構造体であって、前記ゲル構造体は、Noriaの脱離によって形成された空孔を備える。
【0077】
前記ゲル構造体は、脱離したNoriaの形状、大きさおよび数などに対応した空孔を備えることになる。前記空孔の形状、大きさおよび数をより安定的に維持する観点から、前記エステルと前記架橋剤とのモル比は前述した比率であることが好ましい。
【0078】
前記重合体から脱離させるNoriaの数は、1以上であればよく、包接対象をどの程度包接する必要があるかということに対応させて適宜調整すればよい。包接効率の向上という観点からは、脱離させるNoriaの数は多いほど好ましく、前記ゲル構造体の形成に用いたNoriaを全て脱離させることが最も好ましい。
【0079】
前記脱離は、後述するように、前記重合体の加水分解を行うことによって行うことができる。
【0080】
本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体が備える前記空孔は、当該空孔の内壁に前記不飽和化合物に由来する官能基を備える。ここで、図1は、Noriaの水酸基がエステル化されたエステルを、重合および架橋して得られた重合体から、Noriaが脱離することにより空孔が形成されることを示すイメージ図である。
【0081】
図1に示すように、前記重合体を加水分解することによってエステルが還元され、Noriaが元の水酸基を備えて脱離すると、Noriaの形状、大きさおよび数(図1では1つ)に対応した固定された空孔(図中、「ノーリアの鋳型空孔」と記載)を備えるゲル構造体が生成される。そして、当該空孔は、Noriaの水酸基とエステル結合を形成していた前記不飽和化合物に由来する官能基(図1では水酸基)を空孔の内壁に備える。なお、前記「固定された空孔」とは、Noriaの脱離によって形成される空孔の形状、大きさおよび数などが脱離後もほぼ(好ましくは全て)維持される空孔をいう。
【0082】
前記「空孔の内壁」とは、前記空孔の空間を形作る部分を意味する。例えば図1では、Noriaの水酸基とエステル結合を形成していた前記不飽和化合物に由来する水酸基が、脱離する前のNoriaの外周に沿って空孔を形作っている。この場合、空孔の内部から見たときに、前記水酸基のそれぞれをつないだものが空孔の内壁となる。これらの水酸基は切れ目のない壁を形成している訳ではないが、空孔の内部(空間)から見たとき、空孔の内部に向かって配置されている。つまり、「空孔の内壁に前記不飽和化合物に由来する官能基を備える」とは、空孔の内部から見たときに、前記官能基が空孔の内表面の少なくとも一部を形成していることをいう。
【0083】
図1はNoriaの全ての水酸基がエステル化された場合を表しているが、例えばNoriaの1つの水酸基だけがエステル化されていた場合も、不飽和化合物と、架橋剤とがNoriaの外周に沿って空孔を形作る場合があり得ると考えられる。この場合、空孔の内部から見たときに、前記不飽和化合物に由来する官能基が空孔の内表面の少なくとも一部を形成していればよい。
【0084】
前記空孔が、当該空孔の内壁に前記不飽和化合物に由来する官能基を備えることによって、二酸化炭素および/または金属の包接能を著しく向上させることができる。すなわち、Noriaの空孔には、前述したように官能基が備えられておらず、官能基を空孔に導入することも難しい。それゆえ、Noriaは二酸化炭素の吸着量および包接可能な金属の種類が少ないという問題を有していた。
【0085】
一方、前記構成によれば、Noriaの脱離によって形成された空孔の形状、大きさおよび数などがほぼ維持され、当該空孔に前記官能基が備えられているため、当該空孔内で化学反応を起こさせることができる。すなわち、包接対象が金属イオンであれば、前記官能基と金属イオンとのイオン結合が形成され、包接対象が二酸化炭素であれば、前記官能基と二酸化炭素との反応によって二酸化炭素を吸着することができる。
【0086】
したがって、前記空孔内に包接対象を単に包接するだけでなく、前記官能基による化学反応による吸着効果も得ることができるため、例えばNoriaの空孔内に包接対象を包接するのみの場合と比べて、包接可能な対象の種類および包接量を著しく増加させることができる。
【0087】
また、本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体は、包接対象に対応させて、前記官能基の種類を選択することによって、所望の包接対象を効率よく包接することができる。例えば、二酸化炭素の吸着を主体にしたいのであれば、前記官能基をアミノ基とし、アミノ基と二酸化炭素との間でカルバメートを生成する反応を行うことにより、効率的な二酸化炭素の吸着を行うことが可能である。
【0088】
このように、包接対象に応じて、前記空孔の内壁に種々の官能基を備えさせることができるため、包接対象に好適なゲル構造体を適宜調製することが可能である。しかも、Noriaは一段階の反応で製造することができるため、本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体も、その調製は容易である。つまり、非常に簡便な方法で、多種類の包接対象に対応可能な、優れた包接能を有するゲル構造体を提供することができる。
【0089】
前記空孔の内壁に備えられる官能基は、二酸化炭素および/または金属イオンと反応し得る官能基であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、アミノ基、および水酸基からなる群より選ばれる1以上の官能基を挙げることができる。また、前記官能基は、前記ゲル構造体の製造に使用する不飽和化合物の種類によって変化し得る。よって、吸着する対象に合わせて、前記官能基を、吸着する対象との反応性がより高い官能基に調節し得る。
【0090】
例えば、前記官能基がアミノ基である場合は、二酸化炭素の吸着に好適であり、カルボキシ基を用いた場合は、後述する実施例に示すようにアルカリ金属の包接に好適であり、水酸基を用いた場合は、一般的な有機化合物、例えば、ポリエチレングリコール、エチルエーテル、アルコール類、アルデヒド化合物、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリウレタン類等の包接に好適である。
【0091】
前記不飽和化合物として、例えば、カルボン酸ハロゲン化物を使用することにより、前記空孔の内壁に備えられる官能基を、カルボキシ基とすることができる。前記カルボン酸ハロゲン化物の中では、メタクリロイルクロライドであることがより好ましい。
【0092】
また、例えば、前記不飽和化合物として2-クロロ-4-(ビニルフェニル)アセトアミド、イソシアナートスチレン、およびジイソシアナートからなる群より選ばれる1以上の不飽和化合物を使用する場合、前記空孔の内壁に備えられる官能基を、アミノ基とすることができる。その中でも、後処理等の、前記ゲル構造体の反応手順の簡便性を考慮すると、ジイソシアナート類が好ましい。
【0093】
さらに、例えば、前記不飽和化合物として、2−(ビニロキシ)エチルメタクリレートおよび/または4−(2−ビニロキシ)エトキシスチレンを用いることによって、前記空孔の内壁に備えられる官能基を、水酸基とすることができる。
【0094】
前記空孔の内径は、Noriaを鋳型としていることから、3〜10Åであり得、4〜6Åであることがより好ましい。前記「内径」とは、空孔の内部から見たときに空孔の内表面を形成している官能基のうち、任意の2つの官能基に着目した場合に、2つの官能基間の距離が最大である距離に対応する。例えば、空孔の二次元形状が略円形である場合は、前記最大の距離としては、当該円の直径が意図される。また、例えば空孔の二次元形状が楕円形である場合は、前記最大の距離としては、当該楕円の長径が意図される。
【0095】
前記空孔は、前記重合体からNoriaを脱離させることによって形成されたものであるため、二酸化炭素およびRbイオン等を包接し得るNoriaの空孔と、大きさ、形状において類似している。さらに、前述したように、前記空孔の内壁には前記官能基が備えられている。そのため、Noriaの空孔に由来する空孔による物理化学的な包接と、前記官能基と包接対象との化学反応とによって、包接能の相乗的な向上を図ることができる。
【0096】
[実施の形態2:金属の包接剤〕
本発明に係る金属の包接材は、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体を有効成分として含有し、金属を包接し得る。
【0097】
既に説明したように、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体は、アルカリ金属イオン等の金属イオンを効率よく包接することができる。また、後述する実施例に示すように、ルビジウム、セシウムに対し優れた包接能を示すことも実証されている。
【0098】
したがって、本発明に係る金属の包接材は、アルカリ金属等の包接剤として用いることができる他、レアメタル回収材料として用いることや、放射能除去材料として用いることも可能である。
【0099】
本発明に係る金属の包接材は、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体以外に、他の成分を含有していてもよい。例えば、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を有していてもよい。これにより、前記ゲル構造体を膨潤させることができるため、金属をより包接しやすくなることが期待できる。その他、必要に応じて、従来公知の希釈剤、賦形剤等を含有していてもよい。他の成分を含有する場合、前記ゲル構造体と他の成分とを従来公知の方法によって混合し、成形することなどによって、本発明に係る金属の包接材を製造することができる。
【0100】
[実施の形態3:二酸化炭素の吸着剤〕
本発明に係る二酸化炭素の吸着剤は、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体を有効成分として含有し、二酸化炭素を吸着し得る。
【0101】
既に説明したように、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体は、二酸化炭素を効率よく吸着することができる。例えば、前記ゲル構造体が空孔の内壁に備える官能基としてアミノ基を用いることにより、アミノ基と二酸化炭素との反応により、二酸化炭素を効率よく吸着することができる。
【0102】
前記二酸化炭素の吸着剤は、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体以外に、必要に応じて、従来公知の希釈剤、賦形剤等の他の成分を含有していてもよい。他の成分を含有する場合、前記ゲル構造体と他の成分とを従来公知の方法によって混合し、成形することなどによって、本発明に係る二酸化炭素の吸着剤を製造することができる。
【0103】
[実施の形態4:二酸化炭素の分離膜〕
本発明に係る二酸化炭素の分離膜は、本発明に係る二酸化炭素の吸着材が成膜されてなるものである。
【0104】
成膜の方法としては、キャスト法およびスピンコート法等を挙げることができる。また、得られた分離膜を用いて、例えば、加圧処理を行うことによって、二酸化炭素に当該分離膜の内部を透過させ、二酸化炭素を分離することができる。
【0105】
前記分離膜において、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体の空孔の内壁に備えさせる官能基としては、例えばアミノ基を好ましく用いることができる。
【0106】
前記分離膜は、電力、鉄鋼、セメントなどの製造時における二酸化炭素排出源から二酸化炭素を回収して、地中に貯留、あるいは海洋に隔離することによって大気中の二酸化炭素削減に役立てることができる。
【0107】
[実施の形態5:空孔を備えたゲル構造体の製造方法]
他の実施形態において、本発明は、上述のNoriaの脱離により形成される空孔を備えるゲル構造体の製造方法である。
【0108】
前記ゲル構造体の製造方法は、以下の工程を含む:
(i)Noriaが備える水酸基の1以上と、不飽和化合物との間にエステル結合を形成させ、エステルを得る工程、
(ii)前記エステルを、架橋剤の存在下で重合および架橋することによって、重合体を得る工程、
(iii)前記重合体に対して加水分解を行うことにより、前記重合体から、Noriaを1以上脱離させ、空孔を備えたゲル構造体を得る工程。
【0109】
本発明に係る、空孔を備えたゲル構造体の製造方法は、前記工程を備えるため、Noriaの大きさ、形状および数などに対応した空孔をほぼ維持したゲル構造体、つまり、固定された空孔を有するゲル構造体を得ることができ、当該空孔の内壁には、前記加水分解によって、前記不飽和化合物に由来する官能基が備えられる。
【0110】
したがって、前記空孔内に包接対象を包接すること、および、前記空孔内において包接対象と前記官能基との化学反応を生じさせることができるゲル構造体を提供することができる。
【0111】
また、包接対象に応じて前記不飽和化合物を適宜選択することによって、包接対象との化学反応を行うために好適な官能基を備えたゲル構造体を容易に調製することができる。
【0112】
それゆえ、二酸化炭素や金属の包接能を著しく向上させたゲル構造体を提供することができる。
【0113】
前記空孔を備えたゲル構造体の製造方法において使用される不飽和化合物および架橋剤は、実施の形態1で説明した不飽和化合物および架橋剤と同じものを使用することができる。
【0114】
工程(i)の方法は、エステル化反応を行うための一般的な方法にて行われる。前記方法としては、例えば、Noriaと不飽和化合物とを溶媒中にて撹拌する方法等が挙げられる。
【0115】
前記溶媒は、Noriaおよび不飽和化合物を溶解し得る溶媒ならば特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、ジメチルスルオキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。上記溶媒は、1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0116】
工程(i)において、前記不飽和化合物の使用量は、1molのNoriaに対して、1mol以上で有り得る。
【0117】
また、Noriaの24個の水酸基すべてをエステル化するためには、前記不飽和化合物の使用量は、1molのNoriaに対して、24mol〜1000molであることが好ましく、48mol〜100molであることがより好ましい。
【0118】
工程(i)のエステル化反応における温度、反応時間は、使用する不飽和化合物の種類によって適宜決定される。例えば、不飽和化合物としてメタクリロイルクロライドを使用した場合は、室温にて約24時間以上撹拌することが好ましい。なお、「室温」とは20〜25℃のことを言う。
【0119】
工程(ii)において使用されるエステル化したNoriaと、架橋剤とのモル比は、Noria:架橋剤=1.0:3.0〜1.0:96:0であることが好ましく、1.0: 4.0〜1.0:10.0であることがより好ましく、1.0:12.0〜1.0:24.0であることが特に好ましい。
【0120】
前記モル比を満たすことによって、Noriaの脱離によって形成される空孔の形状、大きさおよび数などがほぼ維持されたゲル構造体、すなわち、固定された空孔を有するゲル構造体が得られやすいため、二酸化炭素や金属等の包接を効率よく行うことができるゲル構造体を提供する上で好ましい。
【0121】
工程(ii)における重合方法は、一般的な重合方法が使用できるが、溶液重合法または固相重合法であることが好ましい。
【0122】
固相重合法は、例えば、以下のような工程によって行うことができる:(a)光重合開始剤を含有させた、Noria誘導体(エステル化したNoria)の溶液を調製する;(b)前記溶液からキャストフィルムを作製し、当該フィルムに紫外線を照射し、加熱することにより、架橋性フィルムを形成させる;(c)その後、前記架橋性フィルムを酸性水溶液またはアルカリ水溶液を用いて処理することにより、前記架橋性フィルムからNoriaを脱離させる。
【0123】
また、溶液重合法は、例えば、エステル化したNoriaを、重合開始剤および架橋剤の存在下、適当な溶媒中で攪拌することによって行うことができる。
【0124】
工程(ii)において、溶液重合法にて重合する場合に使用し得る溶媒は、特に限定されないが、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、トリエチルアミン、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を使用することができる。上記溶媒は、1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0125】
前記重合開始剤は、一般的に使用されるものを使用し得る。例えば、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキシド(BPO)等を挙げることができる。また、重合開始剤の使用量は、その種類によって適宜決定される。
【0126】
前記重合反応における反応条件は、使用する架橋剤、重合開始剤の種類によって適宜決定されるが、例えば、60℃の条件下にて、20〜24時間かけて反応を進行させることが挙げられる。
【0127】
なお、上に挙げた方法においては、工程(i)にて不飽和化合物を加え、工程(ii)にて架橋剤を加えているが、前記不飽和化合物と前記架橋剤とが同一の化合物である場合、例えば、ジイソシアナートである場合には、工程(i)にてエステル化反応に使用されずに残留しているジイソシアナートと、エステル化したNoriaとが重合および架橋することにより重合体(ゲル構造体)が形成し得る。
【0128】
つまり、本発明に係る空孔を備えたゲル構造体の製造方法は、前記不飽和化合物と、前記架橋剤とが、共にジイソシアナートである場合をも包含する。
【0129】
すなわち、前記不飽和化合物と前記架橋剤の双方として作用するジイソシアナートを使用する場合、工程(i)にて過剰のジイソシアナートを加えることにより、Noriaのエステル化が完了した後の系にジイソシアナートが残留しており、上記残留したジイソシアナートが架橋剤として作用するため、工程(ii)において別途架橋剤として別の化合物を加えなくとも重合および架橋反応が進行し得る。もちろん、工程(i)にて、適量のジイソシアナートを加えて、エステル化反応を完了させた後、工程(ii)にて新たにジイソシアナートを加えて、重合・架橋反応を進行させてもよい。
【0130】
工程(iii)においては、図1に示すように、加水分解によりNoriaが脱離し、前記脱離したNoriaを鋳型とする空孔が形成される。
【0131】
工程(iii)における、加水分解の方法は、当業者にとって一般的な方法を使用して実施され得、特に限定されないが、例えば、工程(ii)にて得られた重合体にNaOH水溶液(例えば、6MのNaOH水溶液等)を加えた後、還流条件下にて加熱・撹拌する方法、硫酸(例えば、70%HSO等)を加えた後、還流条件下にて加熱・撹拌する方法、塩酸を加えた後、加熱・撹拌する方法等にて実施することができる。
【0132】
反応条件は、加水分解の方法によって適宜決定されるが、例えば、6MのNaOH水溶液を加えた場合に、還流条件下、120℃にて6時間かけて反応を進行させることが挙げられる。
【0133】
例えば、NaOH水溶液を用いて加水分解した後、反応物として、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分が生成される。前記不要な部分をろ過により分離し、濃塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸等を用いて処理(酸析)することにより、Noriaの脱離により形成される空孔を備えるゲル構造体を得ることができる。なお、前記可溶な部分には、脱離したNoriaが含まれる。
【0134】
前記空孔には、内壁に、前記不飽和化合物に由来する官能基が備えられる。例えば図1に示す例では、前記官能基として水酸基が備えられている。したがって、空孔内において、前記水酸基を用いた化学反応を行うことが可能である。
【実施例】
【0135】
本発明について、製造例、実施例および比較例、並びに図2図23に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0136】
[使用薬品]
Noriaは、上述の反応式(1)に基づき、レゾルシノールと1,5−ペンタンジアールとの縮合反応を、エタノール溶液中にて塩酸(東京化成製)の存在下にて、80℃にて、48時間かけて行うことにより合成したものを使用した。
【0137】
メタクリル酸メチル、酢酸エチル、炭酸水素ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、塩酸、ヘキサン、アゾイソブチルニトリル(AIBN)、水酸化ナトリウムは市販品(全て東京化成製)をそのまま使用した。
【0138】
トリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)は、市販品(東京化成製)をCaH(東京化成製)にて乾燥した後、減圧蒸留により精製した物を使用した。
【0139】
クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)は市販品(東京化成製)をCaCl(東京化成製)にて乾燥した後、常圧蒸留により精製した物を使用した。
【0140】
メタクリロイルクロライド、1,3−ジアミノプロパン、1.6−ジアミノヘキサン、1.12−ジアミノドデカン、メチルメタクリレートは、市販品(全て東京化成製)を使用した。
【0141】
[構造解析]
本実施例において得られた化合物について、以下の示す装置を使用して得られた化合物の構造解析を行った。
【0142】
(i)核磁気共鳴(NMR)スペクトル
本実施例においては、H核磁気共鳴装置(日本電子(株)製 JOEL ECS−400K)を用いて、400MHz−NMRスペクトルを測定した。
【0143】
(ii)IRスペクトル
本実施例においては、フーリエ変換近赤外/中赤外/遠赤外分光分析(FT−IR)装置(パーキンエルマージャパン(株)製 Spectrum 100(R))を用いて、IRスペクトルを測定した。
【0144】
(iii)熱重量測定(TGA)
本実施例においては、島津製作所(株)製 TGA−50を用いて、熱重量損失温度測定を行った。前記測定は、窒素雰囲気下にて、アルミニウムパンを使用して、昇温速度30℃/分にて200℃まで加熱した後、昇温速度10℃/分にて450℃まで加熱する測定条件にて行った。
【0145】
[製造例1]
[Noria−MAの合成]
【0146】
【化8】
【0147】
以下、Noriaの水酸基がメタクリロイル基によってエステル化された化合物を「Noria−MA」と称し、その合成について説明する。前記反応式(2)は、Noria−MAの合成法を表している。
【0148】
撹拌子を入れた300mlのナスフラスコに、6.84g(4mmol:官能基当量96mmol)のNoriaを量り取った後、窒素雰囲気下で、トリエチルアミン140mlを加え30分間撹拌した。その後、氷冷下でメタクリロイルクロライド(18.4ml。すなわち192mmol(Noriaの官能基に対し2当量))を加えた後、室温で24時間撹拌し、反応式(2)に示すエステル化反応を終了させた。
【0149】
エステル化反応が終了した後、溶媒をエバポレーターで濃縮した後、酢酸エチルを加えて希釈した。その結果得られた溶液をメンブランで濾過し、塩をろ別した。
【0150】
その後、得られたろ液を、炭酸水素ナトリウム水溶液150mlを用いて1回、1Nの塩酸150mlを用いて1回、脱イオン水を100mlずつ用いて3回洗浄した。なお、前記洗浄は、ろ液と洗浄液(炭酸水素ナトリウム水溶液、塩酸または脱イオン水)とを分液漏斗に加え、撹拌した後、有機層と水層とを分離させ、前記水層を排出することによって行った。
【0151】
次に、得られた有機層を、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、無水硫酸マグネシウムをろ別した後、エバポレーターを用いて濃縮し、酢酸エチルで希釈した。そして、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)(Rf=0.94)を用いて、Noria−MAを単離した。単離されたNoria−MAについて、溶媒を減圧留去した後、良溶媒であるクロロホルムに溶解させ、得られた溶液に、貧溶媒であるヘキサンを加えることによって、沈殿精製を行った。得られた固体を室温で24時間乾燥し、生成物として白色固体が2.54g(収率20%)にて得られた。得られた白色固体の構造解析を、IRスペクトルおよび400MHzにおけるHNMRスペクトルを測定することにより行った。その測定結果を図2および図3に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1739(vC=O:エステル)、1494(vC=C:メタクリロイル基)
NMR(DMSO−d,TMS)δ(ppm):0.57〜2.20(m,60H,H,H,H)、3.74〜4.41(m,12H,H)、5.55〜6.18(m,48H,Hg,Hg)、6.43〜7.50(m,24H,H,H
なお、上に示すH(X=a、b、c、d、fまたはg)は、図3中の構造式におけるH(X=a、b、c、d、fまたはg)の位置のプロトンに対応する。
【0152】
(解析結果)
前述のように測定したIRスペクトルには、Noriaにおいて観測されないエステル結合のC=O伸縮振動に起因する1739cm−1のピークと、メタクリロイル基のC=C伸縮振動に起因する1497cm−1のピークとが新たに確認された。このことから、Noriaと、メタクリロイルクロライドとの間にエステル化反応が進行し、Noriaのエステル化が進行したことが示唆された。
【0153】
続いて、NMRスペクトルにおいて、Noriaの水酸基に起因する9ppm付近のピークが消失したこと、および、Noriaのベンゼン環のプロトンに起因する7ppm付近のピークと、メタクリロイル基のプロトンに起因する5.5〜6.5ppm付近のピークとの積分比から、Noriaの水酸基のうちのエステル化された基の割合を示す導入率(D.I)が99%以上であることが確認された。そのことから、Noriaの水酸基のほぼすべてがエステル化され、Noria−MAが合成されたことが確認された。
【0154】
[製造例2]
[1,3−ビス(メタクリルアミド)プロパン(以下、「DMA3」と称する)の合成]
【0155】
【化9】
【0156】
1,3−ジアミノプロパン2.1g(10mmol)を50mlナスフラスコに量り取り、トリエチルアミン16.5ml(110mmol)を加え1時間撹拌した。その後、メタクリロイルクロライド2.0ml(22mmol)を加え、12時間撹拌し、前記反応式(3)にて示す反応を終了させた。
【0157】
前記反応を終了させた後、得られる反応溶液をクロロホルムにて希釈し、1Nの塩酸を用いて3回、脱イオン水を用いて1回洗浄を行い、有機層を回収した。なお、洗浄は、製造例1と同様の方法にて行った。
【0158】
回収された有機層に無水硫酸マグネシウムを加え脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別した後、エバポレーターにて濃縮し、得られた固体についてクロロホルム、ヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶操作を行った。具体的には、混合溶液を冷却することにより結晶を析出させた。再結晶操作の結果、0.62g(収率30%)の白色固体を得た。
【0159】
得られた白色固体のIRスペクトルおよび400MHzにおけるHNMRスペクトルを測定することによりその構造解析を行った。その測定結果を図4および図5に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1651(vC=O:アミド)、1532(vC=C:メタクリロイル基)
NMR(DMSO−d,TMS)δ(ppm):1.48〜1.62(t,2H,H)、1.76〜1.84(s,6H,H)、2.96〜3.14(t、4H,H)、5.24(s,4H,H)、5.61(s,2H,H)、7.78〜7.96(t,2H,H
なお、上に示すH(X=a〜fの何れか)は、図5中の構造式におけるH(X=a〜fの何れか)の位置のプロトンに対応する。
【0160】
(解析結果)
前述のように測定したIRスペクトルには、アミド結合に起因する1651cm−1のピーク、およびメタクリロイル基に起因する1532cm−1のピークが確認された。このことから、DMA3が合成されたことが示唆された。
【0161】
続いて、NMRスペクトルにおいて、アミド基結合に起因する8ppmのピークと、メタクリロイル基のプロトンに起因する5〜6ppm付近のピークが確認され、それらの積分比が、上の反応式にて示されたDMA3の構造式から算出される理論値とほぼ一致することが確認された。この結果から、DMA3が合成されたことが確認された。
【0162】
[製造例3]
[1,6−ビス(メタクリルアミド)ヘキサン(以下、「DMA6」と称する)の合成]
【0163】
【化10】
【0164】
1,3−ジアミノプロパン2.1g(10mmol)の代わりに、1.6−ジアミノヘキサン1.16g(10mmol)を使用した以外は、製造例2と同様の操作を行うことにより、0.99g(収率40%)の白色固体を得た。また、得られた白色固体の構造解析を、製造例2と同様に、IRスペクトルおよび400MHzにおけるHNMRスペクトルを測定することにより行った。その測定結果を図6および図7に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1654(vC=O:アミド)、1541(vC=C:メタクリロイル基)
NMR(DMSO−d,TMS)δ(ppm):1.12〜1.46(m,8H,H)、1.70〜1.88(s,6H,H)、2.91〜3.13(t、4H,H)、5.10(s,2H,H)、5.64(s,2H,H)、7.66〜7.93(t,2H,H
なお、上に示すH(X=a〜fの何れか)は、図7中の構造式におけるH(X=a〜fの何れか)の位置のプロトンに対応する。
【0165】
(解析結果)
前述のように測定したIRスペクトルには、アミド結合に起因する1654cm−1のピーク、およびメタクリロイル基に起因する1541cm−1のピークが確認された。このことから、DMA6が合成されたことが示唆された。
【0166】
続いて、NMRスペクトルにおいて、アミド基結合に起因する8ppmのピークと、メタクリロイル基のプロトンに起因する5〜6ppm付近のピークが確認され、それらの積分比が、上の反応式にて示されたDMA6の構造式から算出される理論値とほぼ一致することが確認された。この結果から、DMA6が合成されたことが確認された。
【0167】
[製造例4]
[1,12−ビス(メタクリルアミド)ドデカン(以下、「DMA12」と称する)の合成]
【0168】
【化11】
【0169】
1,12−ジアミノドデカン5.0g(25mmol)を300mlナスフラスコに導入し、ジクロロメタン150ml(234mmol)およびトリエチルアミン8.25ml(55mmol)を加え1時間撹拌した。その後、メタクリロイルクロライド5.3ml(55mmol)を加え、12時間撹拌し、反応式(5)にて示す反応を終了させた。
【0170】
前記反応を終了させた後、得られる反応溶液に対して、製造例2と同様にして、洗浄、乾燥剤による脱水、乾燥剤のろ別、濃縮、再結晶の操作を行い、4.6g(収率55%)の白色固体を得た。また、製造例2と同様に、得られた白色固体のIRスペクトルおよび400MHzにおけるHNMRスペクトルを測定することによりその構造解析を行った。その測定結果を図8および図9に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1651(vC=O:アミド)、1532(vC=C:メタクリロイル基)
NMR(DMSO−d,TMS)δ(ppm):1.12〜1.46(quin,10H,H)、1.79(s,6H,H)、3.01〜3.09(q、4H,H)、5.25(s,2H,H)、5.57(s,2H,H)、7.83(s,2H,H
なお、上に示すH(X=a、b、c、d、fまたはg)は、図9中の構造式におけるH(X=a、b、c、d、fまたはg)の位置のプロトンに対応する。
【0171】
(解析結果)
前述のように測定したIRスペクトルには、アミド結合に起因する1654cm−1のピーク、およびメタクリロイル基に起因する1532cm−1のピークが確認された。このことから、1,12−ビス(メタクリルアミド)ドデカン(以下、DMA12と称する)が合成されたことが示唆された。
【0172】
続いて、NMRスペクトルにおいて、アミド基結合に起因する8ppmのピークと、メタクリロイル基のプロトンに起因する5〜6ppm付近のピークが確認され、それらの積分比が、上の反応式にて示されたDMA12の構造式から算出される理論値とほぼ一致することが確認された。この結果から、DMA12が合成されたことが確認された。
【0173】
[製造例5〜8]
[Noria−Gel(3)の製造]
製造例5〜8では、Noria−MAと、DMA3とを種々の仕込み比で反応させることにより、Noria骨格を有するゲル構造体(以下、「Noria−Gel(3)」と称する)を製造した。
【0174】
【化12】
【0175】
製造例1にて得られたNoria−MA0.1g(0.03mmol)、アゾビスブチルニトリル(AIBN) 0.0033g(0.02mmol。すなわち、Noria−MAの官能基に対し3.0mol%)および製造例2にて得られたDMA3を種々の仕込み比(Noria−MA:DMA3=1.0/0(製造例5)、1.0/2.4(製造例6)、1.0/12.0(製造例7)、1.0/24.0(製造例8))にて重合管に導入した後、DMF3mlを加えて溶解させた。
【0176】
得られた溶液に対して液体酸素を用いて凍結させた後、油回転式真空ポンプを用いて脱気することにより、凍結脱気を行い、封管した後、60℃にて20時間撹拌し、反応式(6)にて示す反応を終了させた。前記反応終了後、ゲル構造体(Noria−Gel(3))が得られた。
【0177】
得られたNoria−Gel(3)をジエチルエーテルで洗浄し、24時間乾燥させた後、IRスペクトルを測定することにより構造解析を行った。Noria−MA:DMA3=1.0/0、1.0/2.4、1.0/12.0、1.0/24.0と仕込み比を変化させて得た、それぞれのNoria−Gel(3)のIRスペクトルは類似の結果を示した。ここでは、その中の1つとして、Noria−MA:DMA3=1.0/12.0の仕込み比にて得られたNoria−Gel(3)のIRスペクトルを図10に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1741,1126(vC=O:エステル)、1660(vC=O:アミド)
また、得られたNoria−Gel(3)の収率は、製造例5が87%であり、製造例6〜8はいずれも>99%であった。
【0178】
(解析結果)
前述のように測定したそれぞれのNoria−Gel(3)のIRスペクトルにおいて、メタクリロイル基に起因する1532cm−1のピークの消失が観測され、新たに、エステル結合に起因する1741cm−1のピーク、アミド結合に起因する1660cm−1のピークが観測された。前記観測結果から、Noria−Gel(3)は、Noria骨格を有する架橋化合物であることが確認された。
【0179】
尚、以下、仕込み比:Noria−MA:DMA3=1.0/0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(3)(A)と称し、同様に、仕込み比:Noria−MA:DMA3=1.0/2.4にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(3)(B)、仕込み比:Noria−MA:DMA3=1.0/12.0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(3)(C)、仕込み比:Noria−MA:DMA3=1.0/24.0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(3)(D)と称する。
【0180】
[製造例9〜11]
[Noria−Gel(6)の製造]
製造例9〜11では、Noria−MAと、DMA6とを種々の仕込み比で反応させることにより、Noria骨格を有するゲル構造体(以下、「Noria−Gel(6)」と称する)を製造した。
【0181】
【化13】
【0182】
DMA3の代わりに、製造例3にて得られたDMA6を、種々の仕込み比(Noria−MA:DMA6=1.0/2.4(製造例9)、1.0/12.0(製造例10)、1.0/24.0(製造例11))にて使用する以外は、製造例5〜8と同様にして、Noria−Gel(6)を得た。また、前記Noria−Gel(6)の構造解析を、製造例5〜8と同様に、IRスペクトルを測定することにより行った。製造例5〜8と同様に、種々の仕込み量のDMA6を用いて得た、それぞれのNoria−Gel(6)のIRスペクトルは、類似の結果を示した。ここでは、その中の1つとして、製造例10で得られたNoria−Gel(6)のIRスペクトルを図11に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1741,1126(vC=O:エステル)、1660(vC=O:アミド)
また、得られたNoria−Gel(6)の収率は、仕込み比を、製造例9〜11のすべてで>99%であった。
【0183】
(解析結果)
前述のように測定したそれぞれのNoria−Gel(6)のIRスペクトルにおいて、製造例5〜8と同様の位置に、IRスペクトルのピークが存在することが確認された。よって、Noria−Gel(6)は、Noria−Gel(3)と同様に、Noria骨格を有する架橋化合物であることが確認された。
【0184】
尚、以下、仕込み比:Noria−MA:DMA6=1.0/2.4にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(6)(A)と称し、同様に、仕込み比:Noria−MA:DMA6=1.0/12.0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(6)(B)、仕込み比:Noria−MA:DMA6=1.0/24.0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(6)(C)と称する。
【0185】
[製造例12〜16]
[Noria−Gel(12)の製造]
製造例12〜16では、Noria−MAと、DMA12とを種々の仕込み比で反応させることにより、Noria骨格を有するゲル構造体(以下、「Noria−Gel(12)」と称する)を製造した。
【0186】
【化14】
【0187】
DMA3の代わりに、製造例4にて得られたDMA12を、種々の仕込み比(Noria−MA:DMA12=1.0/2.4(製造例12)、1.0/4.8(製造例13)、1.0/7.2(製造例14)、1.0/12.0(製造例15)、1.0/24.0(製造例16))にて使用する以外は、製造例5〜8と同様にして、Noria−Gel(12)を得た。
【0188】
また、Noria−Gel(12)の構造解析を、製造例5〜8と同様に、IRスペクトルを測定することにより行った。製造例5〜8と同様に、種々の仕込み量のDMA12を用いて得た、それぞれのNoria−Gel(12)のIRスペクトルは、類似の結果を示した。ここでは、その中の1つとして、製造例15で得られたNoria−Gel(12)のIRスペクトルを図12に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1741,1126(vC=O:エステル)、1660(vC=O:アミド)
また、Noria−Gel(12)の収率は、仕込み比が、製造例12〜16のすべてで>99%であった。
【0189】
(解析結果)
前述のように測定したそれぞれのNoria−Gel(12)のIRスペクトルにおいて、において、製造例5〜11と同様の位置に、IRスペクトルのピークが存在することが確認された。よって、Noria−Gel(12)は、Noria−Gel(3)およびNoria−Gel(6)と同様に、Noria骨格を有する架橋化合物であることが確認された。
【0190】
尚、以下、仕込み比:Noria−MA:DMA12=1.0/2.4にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(12)(A)と称し、同様に、仕込み比:Noria−MA:DMA12=1.0/4.8にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(12)(B)、仕込み比:Noria−MA:DMA12=1.0/7.2にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(12)(C)仕込み比:Noria−MA:DMA12=1.0/12.0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(12)(D)、仕込み比:Noria−MA:DMA12=1.0/24.0にて得られたゲル構造体をNoria−Gel(12)(E)と称する。
【0191】
[Noria−GelからNoriaの脱離]
[参考例1]
(Noria−Gel(3)(A)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(3)(A)0.05gを30mlナスフラスコに量り取り、NaOH水溶液(6M)を10ml加えた。その後リフラックス(還流)条件下にて、120℃にて、6時間撹拌し、Noria−Gel(3)(A)に対する加水分解反応を行った。反応終了後、反応物に対して濃塩酸を用いて酸析を行い、メンブラン(アドバンテック社製)で濾過を行った。その結果、水に対して可溶性のポリマーのみが得られた。
【0192】
[参考例2]
(Noria−Gel(3)(B)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(3)(B)を使用した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、水に対して可溶性のポリマーのみが得られた。
【0193】
[参考例3]
(Noria−Gel(3)(C)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(3)(C)を使用した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、水に対して可溶性のポリマーのみが得られた。
【0194】
[実施例1]
【0195】
【化15】
【0196】
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(3)(D)を使用した以外は、参考例1と同様の条件にて、反応式(9)に示す加水分解を行った。その結果、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分とが得られた。
【0197】
前記可溶な部分と、前記不溶な部分とをメンブランを用いてろ過することにより分離した後、前記不溶な部分に対して濃塩酸を用いて酸析を行った結果、茶色のゲル構造体を得た。前記ゲル構造体を大量の水道水にて洗浄した後、60℃の条件下にて真空乾燥を行い、24時間かけて乾燥させ、IRスペクトルを測定して構造解析を行った。また、前記ゲル構造体の収量は、0.03g(収率60%)であった。前記IRスペクトルの測定結果を図13に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1711,1192(vC=O:カルボキシル基)、1630(vC=O:アミド)
一方、前記可溶部分に対して、濃塩酸を用いて酸析を行った結果、茶色固体を得た。前記固体を大量の水道水にて洗浄した後、60℃の条件下にて真空乾燥を行い、24時間かけて乾燥させたものに対して、IRスペクトルおよびNMRスペクトルを測定して構造解析を行った。測定結果を図14および図15に示す。
【0198】
(解析結果)
前記茶色のゲル構造体のIRスペクトルを、Noria−Gel(3)(D)のIRスペクトルと比較すると、ベンゼン環に起因する1400cm−1付近のピークおよびエステル結合に起因する1126cm−1付近のピークの減少、並びに、カルボン酸に起因する1711cm−1のピークが新たに出現したことが確認された。
【0199】
また、前記茶色固体は、IRスペクトルにおいて、Noriaの水酸基に起因する3392cm−1のピークおよびNoriaのベンゼン環に起因する1440cm−1のピークが確認され、HNMRスペクトルにおいては、Noriaの水酸基のプロトンに起因する9ppm付近のピークおよびNoriaのベンゼン環のプロトンに起因する6〜7.5ppm付近のピークが確認された。
【0200】
上述の事項から、実施例1においては、NaOH水溶液に可溶な部分はNoriaであること、および、Noria−Gel(3)(D)から、可溶部としてNoria部位が脱離した、空孔を備えたゲル構造体(以下、Gel−MA(Noria)(3)(D)と称する)が得られたことが示唆された。
【0201】
[参考例4]
(Noria−Gel(6)(A)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(6)(A)を使用した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、水に対して可溶性のポリマーのみが得られた。
【0202】
[実施例2]
(Noria−Gel(6)(B)の加水分解による脱コア)
【0203】
【化16】
【0204】
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(6)(B)を使用した以外は、参考例1と同様の条件にて、反応式(10)に示す加水分解を行った。その結果、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分とが得られた。
【0205】
前記不溶な部分に対して、実施例1と同様の処理を行った結果、茶色のゲル構造体が得られた。前記ゲル構造体を実施例1と同様の方法にて乾燥させ、IRスペクトルを測定して構造解析を行った。また、前記ゲル構造体の収量は、0.09g(収率18%)であった。前記IRスペクトルの測定結果を図16に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1718,1182(vC=O:カルボキシル基),1624(vC=O:アミド)
一方、前記可溶部分に対して、濃塩酸を用いて酸析を行った結果、茶色固体を得た。前記固体についても、実施例1と同様の方法にて、IRスペクトルおよびNMRスペクトルを測定し、構造解析を行った。測定結果を図17および図18に示す。
【0206】
(解析結果)
前記茶色のゲル構造体のIRスペクトルに関して、Noria−Gel(6)(D)のIRスペクトルと比較すると、実施例1の場合と同様に、ベンゼン環に起因する1400cm−1付近のピークおよびエステル結合に起因する1126cm−1付近のピークの減少、並びに、カルボン酸に起因する1718cm−1のピークが新たに出現したことが確認された。
【0207】
また、前記茶色固体は、IRスペクトルにおいて、Noriaの水酸基に起因する3407cm−1のピークおよびNoriaのベンゼン環に起因する1436cm−1のピークが確認され、HNMRスペクトルにおいては、Noriaの水酸基のプロトンに起因する9ppm付近のピークおよびNoriaのベンゼン環のプロトンに起因する6〜7.5ppm付近のピークが確認された。
【0208】
上述の事項から、実施例2においては、NaOH水溶液に可溶な部分はNoriaであること、および、Noria−Gel(6)(B)から、可溶部としてNoria部位が脱離した、空孔を備えたゲル構造体(以下、Gel−MA(Noria)(6)(B)と称する)が得られたことが示唆された。
【0209】
[実施例3]
(Noria−Gel(6)(C)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(6)(C)を使用した以外は、参考例1と同様の条件にて、実施例2に記載の反応式(8)に示す加水分解を行った。その結果、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分とが得られた。
【0210】
前記可溶な部分および前記不溶な部分に対して、実施例1と同様の処理を行った結果、前記可溶な部分からは茶色固体が得られ、前記不溶な部分からは茶色のゲル構造体が得られた。前記茶色固体および前記ゲル構造体を実施例1と同様の方法にて乾燥させ、構造解析を行った。また、前記ゲル構造体の収量は、0.25g(収率50%)であった。前記構造解析の結果、前記茶色固体のIRスペクトル、HNMRスペクトルによる測定から、実施例2にて得られた茶色固体におけるスペクトルと類似の結果が得られた。また、前記ゲル構造体のIRスペクトルによる測定からも、実施例2にて得られたゲル構造体におけるスペクトルと類似の結果が得られた。
【0211】
(解析結果)
前記茶色固体および前記ゲル構造体のIRスペクトルおよびNMRスペクトルは、実施例2にて得られたスペクトルと類似しており、同様の位置にピークが観測された。前記事項から、実施例3において、実施例2と同様に、NaOH水溶液に可溶な部分はNoriaであること、および、Noria−Gel(6)(C)から可溶部としてNoria部位が脱離した、空孔を備えたゲル構造体(以下、Gel−MA(Noria)(6)(C)と称する)が得られたことが示唆された。
【0212】
[参考例5]
(Noria−Gel(12)(A)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(12)(A)を使用したこと、および、反応物に対して、濃塩酸の代わりに1Nの塩酸を用いた以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、水に対して可溶性のポリマーのみが得られた。
【0213】
[参考例6]
(Noria−Gel(12)(B)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(12)(A)の代わりにNoria−Gel(12)(B)を使用した以外は、参考例5と同様の操作を行った。その結果、水に対して可溶性のポリマーのみが得られた。
【0214】
[実施例4]
(Noria−Gel(12)(D)の加水分解による脱コア)
【0215】
【化17】
【0216】
Noria−Gel(3)(A)の代わりにNoria−Gel(12)(D)を使用した以外は、参考例1と同様の条件にて、反応式(11)に示す加水分解を行った。その結果、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分とが得られた。
【0217】
前記可溶な部分と、前記不溶な部分とをメンブランを用いてろ過することにより分離した後、前記不溶な部分に対して1Nの塩酸を用いて酸析を行った結果、茶色のゲル構造体を得た。前記ゲル構造体を大量の水道水にて洗浄した後、60℃の条件下にて真空乾燥を行い、24時間かけて乾燥させ、IRスペクトルを測定して構造解析を行った。また、前記ゲル構造体の収量は、0.32g(収率64%)であった。前記IRスペクトルの測定結果を図19に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):1741,1126(vC=O:カルボキシル基)、1660(vC=O:アミド)
一方、前記可溶部分に対して、1Nの塩酸を用いて酸析を行った結果、茶色固体を得た。前記固体を大量の水道水にて洗浄した後、60℃の条件下にて真空乾燥を行い、24時間かけて乾燥させたものに対して、IRスペクトルおよびNMRスペクトルを測定した。測定結果を図20および図21に示す。
【0218】
(解析結果)
前記茶色のゲル構造体のIRスペクトルに関して、Noria−Gel(12)(D)のIRスペクトルと比較すると、ベンゼン環に起因する1400cm−1付近のピークおよびエステル結合に起因する1126cm−1付近のピークの減少、並びに、カルボン酸に起因する1718cm−1のピークが新たに出現したことが確認された。
【0219】
また、前記茶色固体は、IRスペクトルにおいて、Noriaの水酸基に起因する3407cm−1のピークおよびNoriaのベンゼン環に起因する1436cm−1のピークが確認され、HNMRスペクトルにおいては、Noriaの水酸基のプロトンに起因する9ppm付近のピークおよびNoriaのベンゼン環のプロトンに起因する6〜7.5ppm付近のピークが確認された。
【0220】
上述の事項から、実施例4において、NaOH水溶液に可溶な部分はNoriaであること、および、Noria−Gel(12)(D)から、可溶部としてNoria部位が脱離した、空孔を備えたゲル構造体(以下、Gel−MA(Noria)(12)(D)と称する)が得られたことが示唆された。
【0221】
[実施例5]
(Noria−Gel(12)(C)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(12)(A)の代わりにNoria−Gel(12)(C)を使用した以外は、参考例1と同様の条件にて、実施例4に記載の反応式(9)に示す加水分解を行った。その結果、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分が得られた。
【0222】
前記可溶な部分および前記不溶な部分に対して、実施例4と同様の処理を行った結果、前記可溶な部分からは茶色固体が得られ、前記不溶な部分からは茶色のゲル構造体が得られた。前記茶色固体および前記ゲル構造体を実施例4と同様の方法にて乾燥させた後、構造解析を行った。また、前記ゲル構造体の収量は、0.185g(収率37%)であった。前記構造解析の結果、前記茶色固体のIRスペクトル、HNMRスペクトルによる測定から、実施例4にて得られた茶色固体におけるスペクトルと類似の結果が得られた。また、前記ゲル構造体のIRスペクトによる測定からも、実施例4にて得られたゲル構造体におけるスペクトルと類似の結果が得られた。
【0223】
(解析結果)
前記茶色固体および前記ゲル構造体のIRスペクトルおよびNMRスペクトルは、実施例4にて得られたスペクトルと類似しており、同様の位置にピークが観測された。前記事項から、実施例5において、実施例4と同様に、NaOH水溶液に可溶な部分はNoriaであること、および、Noria−Gel(12)(C)から、可溶部としてNoria部位が脱離した、空孔を備えたゲル構造体(以下、Gel−MA(Noria)(12)(C)と称する)が得られたことが示唆された。
【0224】
[実施例6]
(Noria−Gel(12)(E)の加水分解による脱コア)
Noria−Gel(12)(A)の代わりにNoria−Gel(12)(E)を使用した以外は、参考例1と同様の条件にて、実施例4に記載の反応式(9)に示す加水分解を行った。その結果、NaOH水溶液に可溶な部分と、不溶な部分が得られた。
【0225】
前記可溶な部分および前記不溶な部分に対して、実施例4と同様の処理を行った結果、前記可溶な部分からは茶色固体が得られ、前記不溶な部分からは茶色のゲル構造体が得られた。前記茶色固体および前記ゲル構造体を実施例4と同様の方法にて乾燥させた後、構造解析を行った。また、前記ゲル構造体の収量は、0.48g(収率96%)であった。前記構造解析の結果、前記茶色固体のIRスペクトル、HNMRスペクトルによる測定から、実施例4にて得られた茶色固体におけるスペクトルと類似の結果が得られた。また、前記ゲル構造体のIRスペクトによる測定からも、実施例4にて得られたゲル構造体におけるスペクトルと類似の結果が得られた。
【0226】
(解析結果)
前記茶色固体および前記ゲル構造体のIRスペクトルおよびNMRスペクトルは、実施例4にて得られたスペクトルと類似しており、同様の位置にピークが観測された。前記事項から、実施例5において、実施例4と同様に、NaOH水溶液に可溶な部分はNoriaであること、および、Noria−Gel(12)(E)から、可溶部としてNoria部位が脱離した、空孔を備えたゲル構造体(以下、Gel−MA(Noria)(12)(E)と称する)が得られたことが示唆された。
【0227】
[熱重量損失温度測定]
上の製造例5〜16にて得られたNoria−Gel(X)(X=3、6または12)および実施例1〜6にて得られたGel−MA(Noria)(X)(X=3、6または12)についてTGA測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
【0228】
【表1】
【0229】
表1において「仕込み比」は、NoriaとMMA(X)(X=3、6または12)とのモル比を示す。また、「−」は、Gel−MA(Noria)が得られなかったことを示す。
【0230】
加水分解後にゲル構造体(NaOH水溶液に不溶な部分)が生成する場合、その加水分解後のゲル構造体(Gel−MA(Noria)(X)(X=3、6または12))と、加水分解前のゲル構造体(Noria−Gel(X)(X=3、6または12))とを比較すると、熱分解開始温度が、加水分解後のゲル構造体の方がより低くなっていることが観測された。これは、加水分解によりNoriaが脱離したために、ゲル構造体の耐熱性が低下したためであると考えられる。
【0231】
[比較例1]
実施例においてNoriaを使用したことによる効果を確認するために、Noriaを使用せず、メチルメタクリレートとDMA6とを重合および架橋させて得られた重合体を加水分解することにより、ゲル構造体(以下、Gel(MA)(6)と称する)を製造した。
(Gel(MMA)(6)の合成)
【0232】
【化18】
【0233】
メチルメタクリレートとDMA6とを反応させることにより、ゲル構造体(以下、Gel(MMA)(6)と称する)を製造した。
【0234】
メチルメタクリレート(MMA)を0.1g(1mmol)、AIBNを0.0049g(0.03mmol:MMAのビニル基に対し3.0mol%)、そしてDMA6を0.252g(1mmol)を重合管に導入し、DMF3mlを加えて溶解させた。その結果得られた溶液に対して液体酸素を用いて凍結させた後、油回転式真空ポンプを用いて脱気することにより、凍結脱気を行い、封管した後、60℃にて20時間撹拌し、反応式(12)にて示す反応を終了させた。
【0235】
前記反応終了後、ゲル構造体が得られた。得られたゲル構造体をジエチルエーテルで洗浄し、24時間乾燥させた後、IRスペクトルを測定することにより構造解析を行った。得られたGel(MMA)(6)のIRスペクトルを図22に示し、主要なピーク位置を以下に示す。
IR(KBr,cm−1):3421,1668(vC=O:アミド)、1733,1244(vC=O:エステル)
また、得られたGel(MMA)(6)の収量は、1.32g(収率>99%)であった。
【0236】
(解析結果)
前述のように測定されたGel(MMA)(6)のIRスペクトルにおいて、DMA6のアミド結合に起因する3421cm−1および1668cm−1のピーク、並びに、MMAのエステル結合に起因する1733cm−1のピークおよび1244cm−1のピークが観測された。前記観測結果から、得られたゲル構造体(Gel(MMA)(6))は、MMAとDMA6とからなる架橋性ポリマーであることが確認された。
【0237】
(Gel(MMA)(6)の加水分解)
【0238】
【化19】
【0239】
Gel(MMA)(6)を加水分解することによりゲル構造体(Gel(MA)(6))を製造した。
【0240】
反応式(12)に示す反応によって得られたGel(MMA)(6)0.1gを30mlナスフラスコに量り取り、6MのNaOH水溶液を10ml加えた。その後リフラックス(還流)条件下にて、120℃にて、6時間撹拌し、反応式(13)に示す加水分解反応を終了させた。反応終了後、反応溶液をメンブランにてろ過し、赤茶色の固体を得た。前記固体に対して濃塩酸を用いて酸析を行った。その結果、赤褐色のゲル構造体が得られた。前記ゲル構造体を真空乾燥器内にて60℃の条件下にて24時間かけて乾燥させ、IRスペクトルを測定することにより構造解析を行った。また、得られたGel(MA)(6)の収量は、0.082g(収率80%)であった。得られたGel(MA)(6)のIRスペクトルの結果を図23に示す。
【0241】
(解析結果)
前記IRスペクトルにおいて、加水分解前(すなわち、Gel(MMA)(6))と比較して、カルボン酸(カルボキシル基)に起因する3400cm−1付近のピーク強度が増大したことが観測された。前記事項から、反応式(13)に示す加水分解反応が進行し、カルボン酸が形成されたことが示された。すなわち、加水分解の進行と共に、MMAとDMA6との結合が乖離し、カルボン酸が形成されたことが示された。
【0242】
[実施例7〜11]
[アルカリ金属包接能の評価]
(アルカリ金属ピクリン酸塩の生成)
【0243】
【化20】
【0244】
上の反応式(14)にて示される反応によって、下に示すアルカリ金属包接能の評価に使用するアルカリ金属ピクリン酸塩を製造した。
【0245】
脱イオン水25mlを導入した100ml三角フラスコに、ピクリン酸0.3g(1.3mmol)を加えてピクリン酸の飽和溶液を調製し、桐山ロートを用いてろ過し、飽和ピクリン酸水溶液を得た。前記飽和ピクリン酸水溶液にCsOH(1.3mmol/1.5ml)を、pH試験紙で確認しながら、溶液が中性を示すまで加えた。
【0246】
得られた中性溶液を室温にて放置し、塩を析出させ、析出した塩をろ過し、エタノールにて洗浄した後、エーテルにて洗浄し、その後、脱イオン水を用いて再結晶した。
【0247】
その結果、黄色針状結晶であるCsピクリン酸が生成された。また、Csの代わりに、他のアルカリ金属(Na、K、Rb)を用いて、同様の操作を行い、アルカリ金属ピクリン酸塩を生成した。
【0248】
(包接能の評価)
実施例1〜3、5、6にて得られた、ホストのポリマー:Gel−MA(Noria)に対して、ゲスト(ピクリン酸塩)の脱イオン水溶液を2.4×10−4重量%の濃度となるように加えた後、前記ホストおよび前記ゲストを含む液体から、ゲスト溶液を5mlサンプル管に抽出し、室温(25℃)で24時間撹拌した。またホスト非存在下における対象サンプルとして、2.4×10−4重量%の濃度に調整したゲスト溶液を用いた。撹拌終了後、得られた水層を石英セルに移しピクリン酸アニオンの吸収極大波長(355nm)における吸光度を測定し、対象サンプルの吸光度と比較し、以下の式に従い、その減少率から包接率(Ex(%))を求めた。
【0249】
包接率の算出方法
Ex(%)=[Abs(Bi)−Abs(Ex)]/[Abs(Bi)]×100
Abs(Bi): ホスト非存在下における抽出操作後の吸光度(波長=355nm)
Abs(Ex): ホスト存在下における抽出操作後の吸光度(波長=355nm)
前記包接能の評価結果を以下の表2に示す。
【0250】
【表2】
【0251】
表2において、「仕込み比」は、NoriaとMMA(X)(X=3、6または12)とのモル比を示す。
【0252】
[比較例2、3]
比較例1にて得られたゲル構造体:Gel(MMA)(6)について、実施例7〜11にてアルカリ金属包接能を評価したのと同様の方法にて、アルカリ金属包接能を評価した(比較例2)。
【0253】
また、製造例11にて得られたゲル構造体:Noria−Gel(6)(C)についても、実施例にてアルカリ金属包接能を評価したのと同様の方法にて、アルカリ金属包接能を評価した(比較例3)。
【0254】
比較例2、3のアルカリ金属包接能の評価結果と、実施例3にて、Noria−Gel(6)(C)を加水分解することにより得られたゲル構造体:Gel−MA(Noria)(6)(C)のアルカリ金属包接能とを比較した。その結果を以下の表3に示す。
【0255】
【表3】
【0256】
表3において「仕込み比」は、Noriaと、MMA(X)(X=3、6または12)とのモル比を示す。また、「−」は、Noriaを使用していないことを示す。
【0257】
(解析結果)
表2から、同一のDMAを用いたゲル構造体同士(Gel−MA(Noria)(6)(B)とGel−MA(Noria)(6)(C)、および、Gel−MA(Noria)(12)(D)とGel−MA(Noria)(12)(E))を比較すると、Noria−MAとDMAとの仕込み比が、1.0:12.0のものよりも、1.0:24.0のものの方が、アルカリ金属の種類に関係なく高い包接率を示すことが分かった。このことから、DMAのメチレン鎖の長さに関わらず、Noria−MAに対するDMAの仕込み量が多い方が、得られるゲル構造体における脱離したNoria部位に由来する空孔を保持するために好ましいことが分かった。
【0258】
また、表2から、Noria−MAとDMAとの仕込み比が1.0:24.0の場合、DMAのメチレン鎖におけるメチレン基の数が6>3>12の順で、すべてのアルカリ金属において高い金属包接率を示し、前記仕込み比が1.0:12.0の場合、メチレン基の数が12の場合よりも6の場合の方が高い金属包接能を示すことが分かった。
【0259】
DMA12を用いたゲル構造体では、仕込み比がNoria−MA:DMA=1.0:24.0のものであっても、Rb、Csイオン以外のアルカリ金属に対して包接能を示さなかった。さらに、DMA12を用いたゲル構造体に関して、Gel−MA(Noria)(12)(D)(仕込み比:Noria−MA:DMA=1.0:12.0)はすべての金属において包接能を示さなかった。
【0260】
以上の事項から、メチレン鎖の長さが長過ぎるとゲル構造体の空孔が保持(固定)されにくく、メチレン基の数が6のDMAを使用したものは空孔が保持されている可能性が高いことが示唆された。
【0261】
さらに、表3から、Noriaを使用しないで得られたゲル構造体は、Noriaを使用して得られたゲル構造体と異なり、アルカリ金属に対する包接能をほとんど示さないことが分かった。このことにより、Noriaを用いることによって、得られるゲル構造体内にアルカリ金属を包接し得る空孔を形成できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0262】
本発明は、アルカリ金属等の金属イオンの包接能に優れているため、金属の包接材に利用することができる。また、本発明は、二酸化炭素の吸着性に優れているため二酸化炭素の吸着剤および上記吸着材が製膜されてなる二酸化炭素の分離膜として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23