特許第6472087号(P6472087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6472087治療用オリゴヌクレオチドを送達するための二本鎖剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472087
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】治療用オリゴヌクレオチドを送達するための二本鎖剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/54 20170101AFI20190218BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20190218BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20190218BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20190218BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20190218BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   A61K47/54ZNA
   A61K47/64
   A61K31/7088
   A61K31/713
   C12N15/113
   A61K48/00
【請求項の数】12
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-558269(P2015-558269)
(86)(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公表番号】特表2016-524588(P2016-524588A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】JP2014002882
(87)【国際公開番号】WO2014192310
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年5月9日
(31)【優先権主張番号】61/829,239
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24、25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業(CREST)」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】仁科 一隆
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】水澤 英洋
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0105975(US,A1)
【文献】 特表2007−523601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/54
A61K 31/7088
A61K 31/713
A61K 47/64
A61K 48/00
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有する第1RNA領域、(ii) 治療用オリゴヌクレオチド領域の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性である該治療用オリゴヌクレオチド領域を含み、且つ(iii) 第1核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1RNA領域にハイブリダイズしており、RNアーゼHによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進し得る第1DNA領域を含み、且つ(ii) 第2核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができ
脂質、糖、ペプチド、およびタンパク質から選択され、且つ第2核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドまたは第1核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドに連結された標的化部分を含む、
前記二本鎖核酸剤。
【請求項2】
第1核酸鎖および第2核酸鎖が、RNAヌクレオチド、DNAヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドから選択されるヌクレオチドを含む、請求項1に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項3】
第1核酸鎖が、DNAヌクレオチド、RNAヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドから選択されるヌクレオチドを含み、第2核酸鎖が、DNAヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドから選択されるヌクレオチドを含む、請求項1に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項4】
治療用オリゴヌクレオチド領域が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴmirオリゴヌクレオチド、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド、一本鎖siRNAオリゴヌクレオチド、二本鎖siRNA、マイクロRNA、プレ-マイクロRNA、およびアプタマーから選択されるオリゴヌクレオチドを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項5】
アンタゴmirオリゴヌクレオチドが、ミックスマーであるか、一種類のヌクレオチドもしくはヌクレオチドアナログで構成されているか、またはギャップマーである、請求項4に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項6】
アンタゴmirオリゴヌクレオチドが、2'-OMe RNA、MOE、CET、ENA、LNAおよびAmNAから選択される少なくとも1つのヌクレオチドを含み、且つ少なくとも1つのヌクレオチド間結合が場合によりホスホロチオエート化されている、請求項5に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項7】
第2核酸鎖がギャップマーまたはミックスマーである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項8】
第1核酸鎖が、RNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する修飾RNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択される1個以上のヌクレオチドを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項9】
RNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する1個以上のヌクレオチドが、LNAヌクレオチド、BNAヌクレオチド、2'-O-Me RNAヌクレオチド、および2'-O-メトキシエチルRNAヌクレオチドから独立して選択される、請求項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項10】
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有する第1RNA領域、(ii) RNアーゼHにより認識される少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する修飾RNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択される1個以上のヌクレオチド、(iii) 修飾RNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択され、さらに独立して場合によりホスホロチオエート化されている1個以上のヌクレオチドを3'末端および5'末端に含む治療用オリゴヌクレオチド領域、(iv) 3'末端ヌクレオチドまたは5'末端ヌクレオチドのいずれかに連結された、脂質、ペプチド、およびタンパク質から選択される標的化部分を含み、且つ(v) 第1核酸鎖中のヌクレオチドの総数は12〜100であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1RNA領域にハイブリダイズしており、RNアーゼHによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進し得る第1DNA領域、および(ii) 第1DNA領域に対して5'および3'に位置する修飾DNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択され、さらに独立して場合によりホスホロチオエート化されている1個以上のヌクレオチドを含み;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができない、
前記二本鎖核酸剤。
【請求項11】
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 少なくとも2個のPNAヌクレオチドを有する第1PNA領域、(ii) 治療用オリゴヌクレオチド領域の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性である該治療用オリゴヌクレオチド領域を含み、且つ(iii) 第1核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1PNA領域にハイブリダイズした第1DNA領域を含み、且つ(ii) 第2核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができ
脂質、糖、ペプチド、およびタンパク質から選択され、且つ第2核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドまたは第1核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドに連結された標的化部分を含む、
前記二本鎖核酸剤。
【請求項12】
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有する第1RNA領域、(ii) 治療用オリゴヌクレオチド領域の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性である該治療用オリゴヌクレオチド領域を含み、(iii) 第1核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり、且つ(iv) 第1核酸鎖中のヌクレオチドの総数は12〜100であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1RNA領域にハイブリダイズしており、RNアーゼHによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進し得る第1DNA領域を含み、(ii) 第2核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり、且つ(iii) 第2核酸鎖中のヌクレオチドの総数は少なくとも8であり;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は、哺乳動物細胞中で生理的温度において、第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができ
脂質、糖、ペプチド、およびタンパク質から選択され、且つ第2核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドまたは第1核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドに連結された標的化部分を含む、
前記二本鎖核酸剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、治療用オリゴヌクレオチドを細胞(例えば生物学的サンプルまたは患者中の細胞)に送達するのに有用な二本鎖核酸剤に関する。治療用オリゴヌクレオチドとしては、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴmir、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド、一本鎖siRNA、マイクロRNA、プレ-マイクロRNAなどを挙げることができる。治療用オリゴヌクレオチドは二本鎖剤の鎖の1つの構成要素であり、少なくとも一部には酵素の作用により、または二本鎖構造の巻き戻しによって放出される。上記の治療用オリゴヌクレオチドは、このようなオリゴヌクレオチドについて知られている目的(例えば、細胞内のRNA転写レベルまたはタンパク質レベルの改変など)のいずれかに使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸薬と呼ばれる医薬品の現在進行中の開発において、オリゴヌクレオチドが関心を集めており、また特に、標的遺伝子の高い選択性および低毒性の点から考えて、アンチセンス法を利用する核酸薬の開発が積極的に進められている。アンチセンス法は、標的遺伝子のmRNA(センス鎖)の部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわちASO)を細胞に導入することにより、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を選択的に改変または阻害する方法を含む。同様に、アンチセンス法はまた、miRNAを標的とし、またこのようなmiRNAの活性を改変する働きをする。
【0003】
図1(上部)に示されるとおり、RNAを含むオリゴヌクレオチドがASOとして細胞に導入されると、ASOは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)に結合し、部分的二本鎖が形成される。この二本鎖は、リボソームによる翻訳を妨げるためのカバーとしての役割を果たし、このため標的遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が阻害されることが知られている。
【0004】
他方、DNAを含むオリゴヌクレオチドがASOとして細胞に導入されると、部分的DNA-RNAヘテロ二本鎖が形成される。この構造がRNアーゼHによって認識され、その結果標的遺伝子のmRNAが分解されるため、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現が阻害される(図1、下部)。多くの場合、遺伝子発現抑制効果は、RNA ASOを使用する場合と比較すると、DNAをASOとして使用する場合(RNアーゼH依存性経路)、より高い。
【0005】
核酸薬としてオリゴヌクレオチドを利用する場合、標的RNAに対する結合親和性およびin vivoでの安定性を増強するために、例えばロックド核酸(LNA)(登録商標)、他の架橋核酸(BNA)などの様々な核酸アナログが開発されている。
【0006】
図2に示されるとおり、天然核酸(RNAまたはDNA)の糖部分は4個の炭素原子と1個の酸素原子を有する5員環を有するため、この糖部分はN型とS型の2種類のコンフォメーションを有する。これらのコンフォメーションは一方から他方へと変化し、その結果、核酸のらせん構造も、A型とB型の異なる形態をとることが知られている。上述のASOの標的としての役割を果たすmRNAはA型のらせん構造をとり、その糖部分は主にN型であるため、RNAに対する親和性を高めるという点から考えると、ASOの糖部分がN型をとることが重要である。このコンセプトの下に開発された製品が、LNA(2'-O,4'-C-メチレン-架橋核酸(2',4'-BNA))などの修飾核酸である。例えば、LNAにおいては、2'位の酸素と4'位の炭素がメチレン基で架橋されているため、コンフォメーションはN型に固定され、それ以上コンフォメーション間で変動しない。従って、数個のLNA単位を組み込むことによって合成されるオリゴヌクレオチドは、RNAに対する極めて高い親和性および極めて高い配列特異性を有し、また従来の天然核酸を用いて合成されるオリゴヌクレオチドと比較すると、優れた耐熱性およびヌクレアーゼ耐性も示す(特許文献1参照)。他の人工核酸もこのような特徴を有するため、アンチセンス法などの利用に関連して、人工核酸に大きな注目が払われている(特許文献1〜9を参照)。
【0007】
それにも関わらず、これらの高性能修飾核酸を使用したアンチセンスオリゴヌクレオチドの設計でも、依然として治療剤として使用するために適した効率性、効力、および/または安全性には欠けている。
【0008】
治療用オリゴヌクレオチドの使用を制限する1つの技術的な問題は、薬剤を、それが効果を発揮し得る部位に効率的に送達することができないことである。ある種の治療用オリゴヌクレオチドについては、薬剤自体の直接送達により活性部位に到達し得るが、一般的には大用量が必要とされ、この大用量が安全性を損なう。非効率的な送達の理由としては、例えば、代謝不安定性、非効率的な輸送、および薬剤を封鎖する非特異的な捕捉または結合相互作用を挙げることができる。他の種類、例えば短干渉RNA二本鎖(siRNA)は、送達用の複合脂質製剤を必要とするが、これらは高価で、製造が困難であり、幾つかの毒性の副作用を有すると報告されている(非特許文献1)。このように、オリゴヌクレオチド治療薬を生物学的サンプルまたは患者中の細胞および組織に送達するためのより効率的な方法の必要性が認識されている。
【0009】
さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドが薬として使用される場合、幾つかの適用に関しては、関連オリゴヌクレオチドが高特異性および高効率性で標的部位に送達され得ることが重要である。オリゴヌクレオチドを送達するための方法としては、コレステロールおよびビタミンEなどの脂質を使用すること(非特許文献2および3)、RVG-9Rなどの受容体特異的ペプチドを使用すること(非特許文献4)、または標的部位に特異的な抗体を使用すること(非特許文献5)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】JP 10-304889 A
【特許文献2】WO 2005/021570
【特許文献3】JP 10-195098 A
【特許文献4】JP 2002-521310 W
【特許文献5】WO 2007/143315
【特許文献6】WO 2008/043753
【特許文献7】WO 2008/029619
【特許文献8】WO 2003/011887
【特許文献9】WO 2007/131238
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Walt F. Limaら, Cell, Vol. 150, 883-894 (2012)
【非特許文献2】Kazutaka Nishinaら, Molecular Therapy, Vol.16, 734-740 (2008)
【非特許文献3】Jurgen Soutscheckら, Nature, Vol. 432, 173-178 (2004)
【非特許文献4】Kazutaka Nishinaら, Molecular Therapy, Vol. 16, 734-740 (2008)
【非特許文献5】Dan Peerら, Science, Vol. 319, 627-630 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、治療用オリゴヌクレオチドを送達することができる二本鎖核酸剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
治療用オリゴヌクレオチドを送達することができる、第1鎖と第2鎖を含む二本鎖核酸剤であって、治療用オリゴヌクレオチドが第1鎖の一部である、上記二本鎖核酸剤が提供される。治療用オリゴヌクレオチドは、一般的には一本鎖剤であるが、それ自体で二本鎖またはヘアピン構築物となり得る。治療用オリゴヌクレオチドは、一部の実施形態において、アンチセンス効果を生じるように設計される。例えば、アンチセンス効果は、タンパク質コーディング転写産物産物または非タンパク質コーディング転写産物に対して向けることができる。このようにして、二本鎖核酸剤を、標的転写産物の濃度または活性レベルを変化させるために適用することができる。一部の実施形態において、二本鎖核酸剤は、異常なレベルの転写産物を有することによって特徴付けられる患者における疾患または状態を治療、予防し、または寛解させるために使用することができる。
【0014】
図3Aおよび3Bに示されるとおり、第1鎖は、治療用オリゴヌクレオチド領域と第1相補領域を含む。第1相補領域は、第2鎖の一部または全体に対して相補的である。第2鎖は、第2相補領域を含む。第2相補領域は、第1相補領域の一部または全体に対して相補的であり、さらに場合により治療用領域の一部に対して相補的であってもよい。しかし、第1相補領域が、第2相補領域に対して完全に相補的であるか、または第2相補領域と同数の塩基を有することは必要とされない。
【0015】
治療用オリゴヌクレオチド領域は、図3Aおよび3Bに示されるとおり、第1鎖の相補領域の3'末端に結合していてもよいし、図5に示されるとおり、第1鎖の相補領域の5'末端に結合していてもよい。好ましくは、治療用オリゴヌクレオチド領域は、第1鎖の相補領域の5'末端に結合していてもよい。
【0016】
一部の実施形態において、二本鎖核酸剤は、図3Bに示されるとおり、機能性部分をさらに含む。機能性部分(x)は、検出標識、送達分子もしくは標的化分子、または精製タグであってよい。このようなカテゴリーの1つ以上に由来する、1つ以上のこのような部分を二本鎖核酸剤に連結することができる。一部の実施形態において、このような部分は、核酸鎖の末端位、3'末端または5'末端に連結される。他の実施形態において、ある部分は内側の位置に連結されていてもよい。またある部分は、切断可能なリンカーを介して鎖に連結されていてもよい。一部の実施形態において、1つ以上の機能性部分が、二本鎖核酸剤の、標的部位への高特異性および高効率性の送達を増強する。
【0017】
第2鎖は、一種類のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログ(総称して「塩基」)で構成されていてもよいし、2種以上の塩基で構成されていてもよい。2種以上で構成される場合、上記の塩基は、ギャップマー構造またはミックスマー構造で配置することができる。例えば、ギャップマーとして、第2鎖は、「キメラ二本鎖核酸(Chimeric Double-Stranded Nucleic Acid)」という表題のPCT/JP2012/083180(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)においてアンチセンス鎖について記載されるように、少なくとも4個の連続DNAヌクレオチドからなる中央領域、中央領域の5'末端側に位置する少なくとも2個のヌクレオチドアナログを含む第1の5'ウイング領域、および中央領域の3'末端側に位置する少なくとも2個のヌクレオチドアナログを含む第1の3'ウイング領域を有するように配置されていてもよい。例えば、ミックスマーとして、第2鎖は、4個以上の連続DNAヌクレオチドからなる領域を有さないように配置されていてもよい。また上記の鎖は、同時係属中の、共有の「キメラ一本鎖アンチセンスポリヌクレオチド(Chimeric Single-Stranded Antisense Polynucleotides)」という表題の米国仮特許出願第61/771,115号および「二本鎖アンチセンス剤(Double-Stranded Antisense Agents)」という表題の米国仮特許出願第61/806,887号(それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるように、二重ウイング構造で配置されるヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログで構成されていてもよい。例えば、二重ウイング構造として、第2鎖は、以下:
少なくとも4個のDNAヌクレオチドを含む中央ヌクレオチド領域;
少なくとも1個がヌクレオチドアナログである1〜10個のヌクレオチドを含む、上記の中央ヌクレオチド領域の5'末端に連結された第1の5'ウイング領域;
少なくとも1個がヌクレオチドアナログである1〜10個のヌクレオチドを含む、上記の中央ヌクレオチド領域の3'末端に連結された第1の3'ウイング領域;ならびに
第2の5'ウイング領域および/または第2の3'ウイング領域を含むように配置されていてよく、ここで:
上記の第2の5'ウイング領域は、上記の第1の5'ウイング領域の5'末端に連結されており、DNアーゼまたはRNアーゼに対して天然のDNAまたはRNAより高い抵抗性を有し、且つキメラポリヌクレオチドが送達されると細胞内で欠損し;また
上記の第2の3'ウイング領域は、上記の第1の3'ウイング領域の3'末端に連結されており、DNアーゼまたはRNアーゼに対して天然のDNAまたはRNAより高い抵抗性を有する。第2鎖はまた、全体的にまたは部分的にペプチド核酸(PNA)単位も含み得る。第2鎖は、それ自体、アンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0018】
一般的には、第2鎖は、生物学的サンプル(細胞、組織、動物、ヒト等)に入れたときに、ヌクレアーゼ分解、またはより一般的には代謝分解に対して抵抗性であるように設計される。
【0019】
第1鎖は、一種類のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログ(総称して「塩基」)で構成されていてもよいし、2種以上の塩基で構成されていてもよい。上述のとおり、第1鎖は、第1相補領域と治療用オリゴヌクレオチド領域を含む。これらの領域は、鎖の各部分に言及するのに便利な方法で簡単に名付けられる。一部の個々のヌクレオチドおよび/またはヌクレオチドアナログは、両領域の一部であってもよい。このように、両領域は「重複」していてもよく、ここで特定の塩基は、第2鎖の塩基に対して相補的であるだけでなく、さらにまた治療用オリゴヌクレオチドの一部でもある。例えば、図4A〜4Fに示されるとおり、治療用オリゴヌクレオチドは第2鎖との重複を有していなくてもよいし(図4A)、または治療用オリゴヌクレオチド領域が第2鎖の一部もしくは半分超と塩基対合していてもよい(図4B-4F)。
【0020】
第1鎖の第1相補領域だけを考慮すると、2種以上のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログで構成される場合、塩基は、ギャップマー構造またはミックスマー構造で配置することができる。例えば、ギャップマーとして、第1相補領域は、「キメラ二本鎖核酸(Chimeric Double-Stranded Nucleic Acid)」という表題のPCT/JP2012/083180においてセンス鎖について記載されているように、少なくとも4個の連続RNAヌクレオチドを含む中央領域、第1の5'ウイング領域、および第1の3'ウイング領域を有するように配置されていてよい。
【0021】
第1鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域だけを考慮すると、この領域は、任意の種類の核酸治療剤を含み得る。特定の例としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴmirオリゴヌクレオチド、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド、一本鎖siRNAオリゴヌクレオチド、二本鎖siRNAオリゴヌクレオチド、マイクロRNA、プレ-マイクロRNA、およびアプタマーが挙げられる。これらの薬剤は、当業者に公知の任意の構造および設計を用いて調製することができる。例えば、特定のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを上記の構造に組み込むこともできるし、異なる種類の塩基の、ギャップマー配置、ミックスマー配置、シングルウイング配置またはダブルウイング配置への配置を用いることもできる。
【0022】
一部の実施形態において、第1相補領域は、生物学的サンプル(細胞、組織、動物、ヒト等)に入れたときに、ヌクレアーゼ分解、またはより一般的には、代謝分解に対して抵抗性であるように設計される。例えば、第1相補領域は、ヌクレアーゼ切断に対して天然の塩基よりも抵抗性である塩基(修飾ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログ)を含んでいてもよいし、PNAを含んでいてもよい。本明細書中に開示される方法において、第1相補領域がヌクレアーゼ分解に対して抵抗性であるように設計される場合、この領域は、一般的に、治療用オリゴヌクレオチドに結合されたままとなろう。この場合、治療用オリゴヌクレオチドの放出について言及されるとき、第1鎖(第1相補領域に結合した治療用オリゴヌクレオチド)の放出を意味すると正確に理解することができる。
【0023】
他の実施形態において、第1相補領域は、第1鎖が第2鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHによる切断を受けやすいように設計される。このように、第1相補領域および第2相補領域の少なくとも一部は、2本の鎖が二本鎖としてアニールしている場合にRNアーゼHにより認識されるように設計される。一般的には、この目的のため、ヘテロ二本鎖を形成するために、第1鎖はRNAヌクレオチドを含み、また第2鎖はDNAヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、第1相補領域は、場合により片側または両側が修飾RNAヌクレオチドにより隣接されていてよい2、3、4もしくは5個またはそれ以上の連続した天然RNA塩基を含む。このような第1相補領域に対して相補的な第2相補領域の部分は、天然DNA、修飾DNA、DNAアナログ、またはヘテロ二本鎖構造の認識および第1鎖の切断を促進するような他の塩基を含み得る。
【0024】
一部の実施形態において、治療用オリゴヌクレオチド領域は、生物学的サンプル(細胞、組織、動物、ヒト等)に入れたときに、ヌクレアーゼ分解、またはより一般的には、代謝分解に対して抵抗性であるように設計される。例えば、治療用オリゴヌクレオチド領域は、ヌクレアーゼ切断に対して天然の塩基よりも抵抗性の塩基(修飾ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログ)を含んでいてもよいし、PNAを含んでいてもよい。特に、治療用オリゴヌクレオチド領域は、一般的には、切断または分解に対して天然の塩基よりも抵抗性の領域の3'末端および5'末端部分の少なくとも1、2、3個または少なくとも4個の塩基を有するように設計される。上述のとおり、末端部分の1つにおけるこれらの塩基の一部はまた、第1相補領域の一部であってもよい。
【0025】
第1相補領域が、例えばRNアーゼHによる切断または分解を受けやすい一部の塩基を含み、そして切断反応が起こる場合、第1鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域を含む部分は、依然として第1相補領域の一部を含んでいてよい。第1相補領域の一部であったこれらの塩基の幾つかは、さらなる切断または分解反応を受けやすい場合がある。例えば、このような塩基は、エキソヌクレアーゼによる切断を受ける可能性がある。このような塩基が存在し得る場合でも、これらはサンプル環境で除去される可能性があるが、治療用ヌクレオチド領域の末端部分における切断または分解に対して天然の塩基よりも抵抗性の塩基の存在は、例えばエキソヌクレアーゼによるさらなる作用による、治療用オリゴヌクレオチドの切断または分解を防止することが期待される。
【0026】
さらに他の実施形態において、付加的ヌクレオチドまたはアナログが、第1鎖または第2鎖のいずれかの5'末端、3'末端、もしくは両端に、および/あるいはタンパク質およびタンパク質様細胞成分に対してヌクレアーゼ耐性および低結合親和性を示す治療用オリゴヌクレオチド領域のいずれかの末端もしくは両端に付加されて含まれ得る。
【0027】
本発明者らは、上記の二本鎖核酸剤は、細胞内に導入されると治療用オリゴヌクレオチドを放出し、その後この治療用オリゴヌクレオチドが、例えば、転写産物の活性または機能を改変するように作用することができると決定した。上記の転写産物は、タンパク質コード転写産物であってもよいし、またはmiRNAなどの非タンパク質コード産物であってもよい。本出願はさらに、細胞内のタンパク質の発現レベルを変更する方法、およびアンチセンス効果によってタンパク質構造を変化させる方法を想定する。
【0028】
また二本鎖核酸剤は、例えば、タンパク質が過剰発現されるように変更された遺伝子発現レベルによって特徴づけられる症状を有する患者を治療するのにも有用である。患者を、二本鎖核酸剤を含む医薬組成物で治療することにより、遺伝子発現レベルは、タンパク質レベルが低下し、その結果、症状が寛解する程度まで特異的に抑制または阻害され得る。
【0029】
特定の実施形態において、以下が提供される。
【0030】
(1) 治療用オリゴヌクレオチドを細胞に送達する方法であって、以下のステップ:
細胞を、以下:
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有する第1RNA領域、(ii) 治療用オリゴヌクレオチド領域の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性である該治療用オリゴヌクレオチド領域を含み、且つ(iii) 第1核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1RNA領域にハイブリダイズしており、RNアーゼHによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進し得る第1DNA領域を含み、且つ場合により(ii) 第2核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができない、
上記二本鎖核酸剤
を含む組成物と接触させるステップ
を含む、上記方法。
【0031】
(2) 第1核酸鎖および第2核酸鎖が、RNAヌクレオチド、DNAヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドから選択されるヌクレオチドを含む、項目(1)に記載の方法。
【0032】
(3) 第1核酸鎖が、DNAヌクレオチド、RNAヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドから選択されるヌクレオチドを含み、また第2核酸鎖が、DNAヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドから選択されるヌクレオチドを含む、項目(1)に記載の方法。
【0033】
(4) 治療用オリゴヌクレオチド領域が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴmirオリゴヌクレオチド、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド、一本鎖siRNAオリゴヌクレオチド、二本鎖siRNA、マイクロRNA、プレ-マイクロRNA、およびアプタマーから選択されるオリゴヌクレオチドを含む、項目(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
【0034】
(5) アンタゴmirオリゴヌクレオチドがミックスマーであり、一種類のヌクレオチドもしくはヌクレオチドアナログ、またはギャップマーで構成される、項目(4)に記載の方法。
【0035】
(6) アンタゴmirが、2'-OMe RNA、MOE、CET、ENA、LNAおよびAmNAから選択される少なくとも1つのヌクレオチドを含み、また少なくとも1つのヌクレオチド間結合が場合によりホスホロチオエート化されている、項目(5)に記載の方法。
【0036】
(7) 第2核酸鎖がギャップマーまたはミックスマーである、項目(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
【0037】
(8) 二本鎖核酸剤が、さらに標的化部分を含み;
さらにここで上記の標的化部分は、脂質、糖、ペプチド、およびタンパク質から選択され;
さらにここで上記の脂質は、コレステロール、トコフェロール、トコトリエノール、脂肪酸、脂溶性ビタミン、糖脂質、およびグリセリドから選択される、
項目(1)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
【0038】
(9) 標的化部分が、第2核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドまたは第1核酸鎖の3'末端ヌクレオチドもしくは5'末端ヌクレオチドに連結されている、項目(8)に記載の方法。
【0039】
(10) ヌクレオチド間結合のヌクレアーゼ耐性の増加が、ホスホロチオエート基、修飾ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびPNAヌクレオチドの少なくとも1つによるものである、項目(1)〜(9)のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
(11) 第1核酸鎖が、RNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する修飾RNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択される1個以上のヌクレオチドを含む、項目(1)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
【0041】
(12) RNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する1個以上のヌクレオチドが、LNAヌクレオチド、BNAヌクレオチド、2'-O-Me RNAヌクレオチド、および2'-O-メトキシエチルRNAヌクレオチドから独立して選択される、項目(11)に記載の方法。
【0042】
(13) RNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する1個以上のヌクレオチドが、独立して場合によりホスホロチオエート化されている、項目(11)または(12)に記載の方法。
【0043】
(14) 治療用オリゴヌクレオチドを細胞に送達する方法であって、以下のステップ:
細胞を、以下:
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有する第1RNA領域、(ii) RNアーゼHにより認識される少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドに対して5'および3'に位置する修飾RNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択される1個以上のヌクレオチド、(iii) 修飾RNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択され、さらに独立して場合によりホスホロチオエート化されている1個以上のヌクレオチドを3'末端および5'末端に含む治療用オリゴヌクレオチド領域、(iv) 3'末端ヌクレオチドまたは5'末端ヌクレオチドのいずれかに連結された、脂質、ペプチド、およびタンパク質から選択される標的化部分を含み、且つ(v) 第1核酸鎖中のヌクレオチドの総数は12〜100であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1RNA領域にハイブリダイズしており、RNアーゼHによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進し得る第1DNA領域、および(ii) 第1DNA領域に対して5'および3'に位置する修飾DNAヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログから選択され、さらに独立して場合によりホスホロチオエート化されている1個以上のヌクレオチドを含み;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができない、
上記二本鎖核酸剤
を含む組成物と接触させるステップ
を含む、上記方法。
【0044】
(15) 治療用オリゴヌクレオチドを細胞に送達する方法であって、以下のステップ:
細胞を、以下:
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 少なくとも2個のPNAヌクレオチドを有する第1PNA領域、(ii) 治療用オリゴヌクレオチド領域の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性である前記治療用オリゴヌクレオチド領域を含み、且つ(iii) 第1核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1PNA領域にハイブリダイズした第1DNA領域を含み、且つ(ii) 第2核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができない、
上記二本鎖核酸剤
を含む組成物と接触させるステップ
を含む、上記方法。
【0045】
(16) 以下:
第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤であって、ここで:
第1核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNアーゼHにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有する第1RNA領域、(ii) 治療用オリゴヌクレオチド領域の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性である該治療用オリゴヌクレオチド領域を含み、(iii) 第1核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合が、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり、且つ(iv) 第1核酸鎖中のヌクレオチドの総数は12〜100であり;
第2核酸鎖は、(i) 第1核酸鎖の第1RNA領域にハイブリダイズしており、RNアーゼHによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進し得る第1DNA領域を含み、(ii) 場合により第2核酸鎖の3'末端および5'末端における少なくとも1つのヌクレオチド間結合は、天然のヌクレオチド間結合よりもヌクレアーゼ耐性であり、且つ(iii) 第2核酸鎖中のヌクレオチドの総数は少なくとも8であり;さらに
第1核酸鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は、哺乳動物細胞中で生理的温度において、第2核酸鎖とハイブリダイゼーションすることができない、
上記二本鎖核酸剤
を含む組成物。
【0046】
(17)項目(16)の二本鎖核酸剤と、製薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【0047】
(18) 細胞内の遺伝子の発現レベルを低下させる方法であって、有効量の項目(16)または(17)に記載の組成物を細胞に投与するステップを含む、上記方法。
【0048】
(19) 細胞内の転写産物の機能を改変する方法であって、項目(16)または(17)に記載の組成物を細胞に投与するステップを含む、上記方法。
【0049】
(20) 細胞内のタンパク質の発現レベルを変化させる方法であって、項目(16)または(17)に記載の組成物を細胞に投与するステップを含む、上記方法。
【0050】
(21)細胞内のタンパク質構造を変化させる方法であって、項目(16)または(17)に記載の組成物を細胞に投与するステップを含む、上記方法。
【0051】
(22) 標的遺伝子の変化する発現レベル、機能またはエディティングによって特徴づけられる症状を有する患者を治療する方法であって、前記患者に、以下:
(a) 少なくとも1種の項目(16)の二本鎖核酸剤;および
(b) 製薬上許容可能な担体
を含む治療上有効量の医薬組成物を投与するステップを含む、前記方法。
【0052】
特定の実施形態は、第1相補領域および治療用オリゴヌクレオチド領域を含む第1鎖と、第1鎖にアニールした第2相補領域を含む第2鎖とを含む精製または単離された二本鎖核酸剤を含む。特定の実施形態において、このような二本鎖核酸剤は、標的化部分をさらに含む。
【0053】
特定の実施形態によれば、二本鎖核酸剤は、機能性部分(例えば送達部分)を二本鎖複合体と結合させることにより、高特異性および高効率性で標的部位に送達することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明の二本鎖核酸剤は、高特異性および高効率性で標的部位に送達することが可能であり、この二本鎖核酸に含まれる治療用オリゴヌクレオチド領域は、標的部位において素晴らしい治療効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、特定のアンチセンス法の一般的な機構を示す図である。図に示される通り、標的遺伝子のmRNAの部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO))(図中の「DNA」)が細胞に導入されると、標的遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が選択的に阻害される。破線のボックスには、RNアーゼHがASOにハイブリダイズした位置でmRNAを切断する分解機構が示される。RNアーゼH切断の結果、mRNAは、一般的に、機能的遺伝子発現産物を生産するために翻訳されることはない。
図2図2は、RNA、DNA、およびLNAヌクレオチドの構造を示す模式図である。
図3図3A〜3Bは、治療用オリゴヌクレオチドを送達することができる二本鎖核酸剤の好適な実施形態の模式図である。図3Aは、基本的ヌクレオチド骨格を示し、また図3Bはこの骨格に、脂質(例えばコレステロールまたはトコフェロール)、糖など、またはタンパク質、ペプチド(例えば抗体)などを独立して表し、標的化部分としての役割を果たし得る任意の機能性部分「X」を付加する。
図4図4A〜4Fは、第1鎖および第2鎖の様々な構造、ならびに第1鎖の治療用オリゴヌクレオチド部分の、第1鎖および第2鎖の相補領域に対する関係の模式図である。
図5図5A〜5Dは、治療用オリゴヌクレオチドが二本鎖核酸剤から放出され得る機構を示す模式図である。
図6図6は、様々な天然核酸および修飾核酸または核酸アナログ部分の構造式をを示す。
図7-1】図7-1A〜7-1Cは、実施例1において使用される二本鎖核酸剤の構造の模式図である。
図7-2】図7-2D〜7-2Eは、実施例1の実験のノーザンブロット分析を示す。
図8図8は、図の上部では、実施例2において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示し、また下部では、二本鎖核酸剤によるマウスにおけるマイクロRNA122(miR122)のin vivo抑制を試験した実施例2の結果のグラフを示す。
図9図9は、実施例3において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図10a図10aは、マイクロRNA122(miR122)のin vivo抑制を試験した実施例3の結果のグラフを示す。
図10b図10bは、二本鎖核酸剤によるマウスにおけるアルドラーゼA(ALDOA)の発現を試験した実施例3の結果のグラフを示す。
図10c図10cは、二本鎖核酸剤によるマウスにおける分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(BCKDK)の発現を試験した実施例3の結果のグラフを示す。
図10d図10dは、二本鎖核酸剤によるマウスにおける血清総コレステロールレベル(図10d)を試験した実施例3の結果のグラフを示す。
図10e図10eは、二本鎖核酸剤によるマウスにおける血清LDLレベルを試験した実施例3の結果のグラフを示す。
図10f図10fは、血清総コレステロールレベルに対する用量依存表現型効果を示す。
図11図11は、実施例4において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図12図12は、二本鎖核酸のエクソンスキッピング効果を一本鎖核酸のエクソンスキッピング効果と比較する実施例4の結果のグラフを示す。
図13図13は、実施例5において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図14図14は、二本鎖核酸でアポBのプレ-mRNAのイントロンを標的化することによるアポB mRNAの発現の阻害を示す実施例5の結果のグラフを示す。
図15図15は、実施例6において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図16図16は、二本鎖核酸によるmiR122の発現の阻害を、一本鎖核酸によるmiR122の発現の阻害と比較する実施例6の結果のグラフを示す。
図17図17は、実施例7において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図18図18は、二本鎖核酸でアポBのプレ-mRNAのイントロンを標的化することによるアポB mRNAの発現の阻害を示す実施例7の結果のグラフを示す。
図19図19は、実施例8において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図20図20は、二本鎖核酸でアポBのプレ-mRNAのイントロンを標的化することによるアポB mRNAの発現の阻害を示す実施例8の結果のグラフを示す。
図21図21は、実施例9において使用されるオリゴヌクレオチドの配列および組成を示す。
図22図22は、antimiR-3'およびantimiR-5'の治療効果を示す実施例8の結果のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
「アンチセンス効果」とは、標的転写産物(RNAセンス鎖)の、例えばDNA鎖、またはより一般的には、アンチセンス効果を引き起こすように設計され、転写産物等の部分配列に相補的な鎖とのハイブリダイゼーションの結果として生じる、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制することを意味する。特定の例においては、翻訳の阻害またはエクソンスキッピングなどのスプライシング機能改変効果(図1中の点線で囲まれている領域の外側の上部の説明を参照)は、ハイブリダイゼーション産物により転写産物をカバーすることによって引き起こすことが可能であり、および/または転写産物の分解は、ハイブリダイズされた部分の認識の結果として生じ得る(図1中の点線で囲まれている領域内の説明を参照)。さらに、特定の例において、アンチセンス効果は、プレ-mRNAのイントロンを標的化することによってもたらされる。
【0057】
アンチセンス効果は、本発明の治療用ポリヌクレオチドを送達するための二本鎖剤の治療用オリゴヌクレオチド部分によって保持される。アンチセンス効果は、第1核酸鎖によって保持され得る。この場合、治療効果は、オリゴヌクレオチド部分および第1核酸鎖によって相乗的に増加する。
【0058】
アンチセンス効果によってその発現が抑制される「標的遺伝子」または「標的転写産物」は特に限定されず、その例としては、様々な疾患においてその発現が増加する遺伝子が挙げられる。また、「標的遺伝子の転写産物」は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾に供されていないmRNA、スプライスされていないmRNA前駆体などを含む。さらに一般的には、「転写産物」は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。
【0059】
本明細書中で使用される用語「核酸」は、モノマーのヌクレオチドもしくはヌクレオシドを指していてもよいし、複数のモノマーからなるオリゴヌクレオチドを意味していてもよい。用語「ポリヌクレオチド」および「核酸鎖」もまた、本明細書中でオリゴヌクレオチドを指すために使用される。核酸鎖は、化学的合成法により(例えば自動合成装置を使用して)、または酵素的工程(例えば、限定するものではないが、ポリメラーゼ、リガーゼ、または制限反応)により、全体的にまたは部分的に調製することができる。
【0060】
本明細書中で使用される用語「相補的」は、水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)または非ワトソン-クリック塩基対(フーグスティーン型塩基対など)が形成され得る関係を意味する。(a)第1相補領域および第2相補領域、または(b)標的転写産物(例えば標的遺伝子の転写産物)の塩基配列、ならびに治療用オリゴヌクレオチドの塩基配列が完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、またより好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。配列の相補性は、BLASTプログラムなどを使用することによって決定することができる。第1鎖は、配列が相補的である場合に、第2鎖に「アニールする」かまたは「ハイブリダイズする」ことができる。当業者であれば、鎖間の相補度を考慮して、2本の鎖がアニールし得る条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。またさらに、当技術分野において通常の技能を有する者であれば、例えば、標的遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、標的転写産物に相補的な第1相補領域および第2相補領域、ならびに治療用オリゴヌクレオチドを容易に設計することができる。
【0061】
第1相補領域または第2相補領域あるいは治療用オリゴヌクレオチド領域の長さは特に限定されないが、いずれの領域の長さも、通常、少なくとも8塩基、少なくとも10塩基、少なくとも12塩基、または少なくとも13塩基である。いずれの領域の長さも、20塩基以下、25塩基以下もしくは35塩基以下であってよく、またはそれを上回っていてもよい。第1鎖の全長は、約100塩基もの長さであってもよい。一部の実施形態において、第2鎖の長さの範囲は、10〜35塩基、12〜25塩基、または13〜20塩基であってよい。
【0062】
第1相補領域または第2相補領域の長さの選択は、各対塩基の結合親和性のバランス、相補度、および二本鎖核酸剤と接触させる生物学的サンプルの温度によって決まる。第1相補領域と第2相補領域の互いに結合する部分の長さは、アニールした鎖の熱力学的安定性が、上記薬剤が生物学的サンプルと接触している間に2本の鎖が実質的に互いに結合したままであることに有利に働くように、十分に長くなければならない。タンパク質、酵素、または他の細胞成分などの他の因子は、鎖の分離または巻き戻しを引き起こす可能性がある。
【0063】
一部の実施形態において、治療用オリゴヌクレオチド領域は、アニールした二本鎖剤において第2相補領域と結合する幾つかの塩基を含む。この「重複領域」の長さの選択は、上記の薬剤と接触する生物学的サンプルの温度によって決まる。一般的には、第1鎖の治療用オリゴヌクレオチド領域は、操作温度において第2鎖とハイブリダイゼーションすることはできない。操作温度は、インキュベーション温度でもよいし、被検体または患者の生理的体温であってもよい。
【0064】
治療用オリゴヌクレオチドの長さの選択は、一般的に、費用、合成収率などの他の因子の中でも特に、アンチセンス効果の強度と標的に対する核酸配列の特異性とのバランスによって決まる。
【0065】
一部の実施形態において、治療用オリゴヌクレオチドの長さおよび治療用オリゴヌクレオチドと標的転写産物との間の相補度の選択もまた、RNアーゼHにより標的が切断された後の治療用オリゴヌクレオチドと標的との間の結合親和性によって決定され得る。治療用オリゴヌクレオチドの効力は、切断前の治療用オリゴヌクレオチドの標的との結合親和性、ならびに切断された物質が治療用オリゴヌクレオチドから解離することによって治療用オリゴヌクレオチドが別の標的鎖に自由に結合し得るオフレートの両方によって決まる。
【0066】
第1相補領域および第2相補領域は、天然および/または非天然ヌクレオチドを含み得る。相補領域に選択されるヌクレオチドの種類は、主に、それにより治療用オリゴヌクレオチドを放出し得る機構(1つまたは複数)の種類を決定する。例えば、RNAおよび/またはRNA様ヌクレオチドを第1鎖に含め、さらにDNAおよび/またはDNA様ヌクレオチドを第2鎖に含めると、RNアーゼHにより認識され得るDNA/RNAヘテロ二本鎖構造の形成が生じる。このようにして、この場合にRNアーゼH依存性作用機序が可能となり、その場合には第1鎖はRNアーゼHによって切断することができる。
【0067】
このような方法は、図5A〜5Dに示されている。図5Aは、(i)2'-OMe RNA/RNAギャップマー型第1相補領域および2'-OMe RNAアンタゴmir型治療用オリゴヌクレオチドを含む第1鎖(図中の下の鎖)と、(ii) LNA/DNAギャップマー型の第2相補領域を有する第2鎖(図中の上の鎖)との間に形成されたアニールした二本鎖を示す。第1鎖はまた、二本鎖剤を、例えば肝臓に送達することができるコレステロール部分も含む。図5Bに示されるとおり、二本鎖剤が例えば肝臓に送達されて細胞に入ると、RNアーゼHがDNA/RNAヘテロ二本鎖を認識し、第1鎖中のRNA配列を切断する。これにより治療用オリゴヌクレオチドは標的化部分から分離し、切断された第1鎖を第2鎖に結合させる極めてわずかな塩基が残る。さらに、上記の切断により、今回切断された第1鎖の末端にある幾つかのRNA塩基がむき出しになる。図5Cは、切断された第1鎖が第2鎖から分離して遊離一本鎖オリゴヌクレオチドとなり、その後むき出しになったRNA塩基がエキソヌクレアーゼによる切断を受けることを示す。図5Dに示されるとおり、エキソヌクレアーゼ活性は、放出された鎖を治療用オリゴヌクレオチド領域だけに削減することが可能であり、またこのようにして二本鎖剤は、治療用オリゴヌクレオチドを生物学的サンプル中に送達する役割を果たすことができる。
【0068】
他方、DNAおよび/またはDNA様ヌクレオチドが第2相補領域から除外される場合、RNアーゼH-非依存性作用機序が起こることが予想される。当然のことながら、たとえDNA/RNAヘテロ二本鎖構造が形成されたとしても、RNアーゼH-非依存性機構は起こり得る。
【0069】
一部の実施形態において、第2相補領域は、RNAポリヌクレオチドにハイブリダイズすると第1/第2相補領域二本鎖がRNアーゼHにより認識される、少なくとも5個のヌクレオチドを含む。
【0070】
RNAにハイブリダイズすると「RNアーゼHにより認識される」上記の「少なくとも5個のヌクレオチド」は、通常、5〜20個の連続塩基を含む領域、5〜16個の連続塩基を含む領域、5〜12個の連続塩基を含む領域、または5〜8個の連続塩基を含む領域である。さらに、この領域において使用し得るヌクレオチドは、天然DNAのように、RNAヌクレオチドにハイブリダイズするとRNアーゼHによって認識され、ここでRNアーゼHが当該RNA鎖を切断するヌクレオチドである。好適なヌクレオチド(例えば、修飾DNAヌクレオチドおよび他の塩基)は、当技術分野において公知である。一部の実施形態において、天然DNAおよび修飾DNAヌクレオチドは、ミックスマー型配置に混ぜられ、さらに依然としてRNアーゼH活性を誘導することができる。RNAヌクレオチドのような、2'-ヒドロキシ基を含むヌクレオチドは適していないことが知られている。当業者であれば、RNアーゼH依存性効果が望まれる場合、この領域の「少なくとも5個のヌクレオチド」における使用に対するあるヌクレオチドの適合性を容易に決定することができる。一実施形態において、相補領域のヌクレオチドは、DNAおよびホスホロチオエートDNAヌクレオチドから独立して選択される。
【0071】
一部の実施形態において、第2相補領域は、RNAポリヌクレオチドにハイブリダイズすると、中央ヌクレオチド領域/RNAポリヌクレオチド二本鎖がRNアーゼHによって認識されて切断されるわずかに4個のヌクレオチドを含み得る。
【0072】
一部の実施形態において、上記の第1相補領域は、2、3、4または5個以上の連続する天然RNAヌクレオチドを有していてよく、この副配列は、RNアーゼHによって好適なヘテロ二本鎖構造に切断することができる。
【0073】
本明細書中で使用される「DNAヌクレオチド」は、天然DNAヌクレオチド、あるいは修飾塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットを有するDNAヌクレオチドを意味する。同様に、「RNAヌクレオチド」は、天然RNAヌクレオチド、あるいは修飾塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットを有するRNAヌクレオチドを意味する。修飾塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットは、サブユニット内で単一の置換基が付加または置換されており、且つこのサブユニットが全体としては異なる化学基で置換されていない修飾塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットである。上記の核酸鎖の一部または全体がデオキシリボヌクレアーゼなどに対して高い抵抗性を有するという点から考えると、DNAは修飾ヌクレオチドであり得る。このような修飾の例としては、シトシンの5-メチル化、5-フッ素化、5-臭素化、5-ヨウ素化およびN4-メチル化;チミジンの5-脱メチル化、5-フッ素化、5-臭素化および5-ヨウ素化;アデニンのN6-メチル化および8-臭素化;グアニンのN2-メチル化および8-臭素化;ホスホロチオエート化、メチルホスホン化、メチルチオホスホン化、キラルメチルホスホン化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2'-O-メチル化、2'-メトキシエチル(MOE)化、2'-アミノプロピル(AP)化、および2'-フッ素化が挙げられる。しかし、優れた薬物動態を有するという点から考えると、ホスホロチオエート化が好ましい。このような修飾は、同じDNAが組み合わされた複数種類の修飾に供され得るように実施することができる。また、以下に考察されるとおり、同様の効果を達成するため、RNAヌクレオチドが修飾されていてもよい。
【0074】
特定の例において、修飾DNAまたはRNAの数および修飾の位置は、本明細書中に開示される、治療用オリゴヌクレオチドによって提供されるアンチセンス効果など、または治療用オリゴヌクレオチドの放出に影響を与える可能性がある。これらの実施形態は、相補鎖等の配列によって変わる可能性があるため、環境に依存し得るが、当技術分野において通常の技能を有する者であれば、アンチセンス法に関連する文献の説明を参照することによって好適な実施形態を決定することができる。さらに、修飾後の治療用オリゴヌクレオチドが有するアンチセンス効果または治療用オリゴヌクレオチドの放出が測定される場合、このようにして得られた測定値が修飾前の治療用オリゴヌクレオチドの測定値と比較して著しく低くない場合(例えば、修飾後に得られた測定値が修飾前の治療用オリゴヌクレオチドの測定値と比較して30%以上低い場合)、関連修飾を評価することができる。アンチセンス効果の測定は、被検候補二本鎖剤を細胞などに導入し、さらにノーザンブロッティング、定量PCR、およびウェスタンブロッティングなどの公知技術を適切に使用することにより、被検候補剤によって提供されるアンチセンス効果によって発現が抑制されている細胞内の標的転写産物の発現量(mRNA量、cDNA量、タンパク質量、マイクロRNA量など)を測定することにより、以下の実施例に示されるとおりに実施することができる。候補剤は、治療用オリゴヌクレオチド自体、または二本鎖核酸剤の一部としての治療用オリゴヌクレオチドであり得る。
【0075】
本明細書中で使用される「RNAヌクレオチド」は、天然RNAヌクレオチド、あるいは修飾塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットを有するRNAヌクレオチドを意味する。修飾塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットは、サブユニット中で単一の置換基が付加または置換されており、且つこのサブユニットが全体としては異なる化学基で置換されていない塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットである。
【0076】
核酸鎖の一部または全体は、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)などのヌクレアーゼに対して高い抵抗性を有するという点から考えて、修飾ヌクレオチドであってよい。このような修飾の例としては、シトシンの5-メチル化、5-フッ素化、5-臭素化、5-ヨウ素化およびN4-メチル化;チミジンの5-脱メチル化、5-フッ素化、5-臭素化および5-ヨウ素化;アデニンのN6-メチル化および8-臭素化;グアニンのN2-メチル化および8-臭素化;ホスホロチオエート化、メチルホスホン化、メチルチオホスホン化、キラルメチルホスホン化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2'-O-メチル化、2'-メトキシエチル(MOE)化、2'-アミノプロピル(AP)化、および2'-フッ素化が挙げられる。さらにまた、チミジン塩基がウラシル塩基に置換されているRNAヌクレオチドも想定される。しかし、優れた薬物動態を有するという点から考えて、ホスホロチオエート化が用いられる。さらに、このような修飾は、同じ核酸が組み合わされた複数種類の修飾に供され得るように実施することができる。例えば、以下に記載される実施例において用いられるとおり、酵素的切断に対する抵抗性を与えるため、同じRNAが、ホスホロチオエート化と2'-O-メチル化に供され得る。しかし、RNAヌクレオチドがRNアーゼHによって切断されることが期待されるかまたは望まれる場合には、ホスホロチオエート化または2'-O-メチル化のいずれかだけが一般的に適用される。
【0077】
本明細書中で使用される「ヌクレオチドアナログ」は、塩基、糖、またはリン酸結合サブユニットが、サブユニット内で付加もしくは置換されている2つ以上の置換基を有するか、または前記サブユニットが全体として異なる化学基で置換されている非天然ヌクレオチドを意味する。2つ以上の置換を有するアナログの例は、典型的には2'位および4'位の炭素原子に結合している糖環上の2つの置換によって架橋単位が付加されている架橋核酸である。特定の実施形態に関して、標的転写産物の部分配列に対する親和性および/またはヌクレアーゼに対するアンチセンスポリヌクレオチド鎖の抵抗性を高めるという点から考えて、アンチセンスポリヌクレオチド鎖はヌクレオチドアナログをさらに含む。「ヌクレオチドアナログ」は、修飾(架橋基、置換基等)によって、相補鎖または標的転写産物の部分配列に対する親和性および/またはヌクレアーゼに対する核酸の抵抗性が増強された任意の核酸であってよく、その例としては、JP 10-304889 A、WO 2005/021570、JP 10-195098 A、JP 2002-521310 W、WO 2007/143315、WO 2008/043753、WO 2008/029619、およびWO 2008/049085(本明細書中以降、これらの文献は「アンチセンス法に関連した文献」と呼ばれる)において、アンチセンス法における使用に適していると開示されている核酸が挙げられる。すなわち、その例としては、上記の文献中に開示される核酸:ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキサン核酸(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、2'-O-メチル化核酸、2'-MOE(2'-O-メトキシエチル)化核酸、2'-AP(2'-O-アミノプロピル)化核酸、2'-フッ素化核酸、2'-F-アラビノ核酸(2'-F-ANA)、およびBNA(架橋核酸)が挙げられる。
【0078】
特定の実施形態によるBNAは、2'位の炭素原子および4'位の炭素原子が2つ以上の原子によって架橋されている任意のリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドであってよい。架橋核酸の例は当業者に公知である。このようなBNAの1つのサブグループは4'-(CH2)p-O-2',4'-(CH2)p-S-2',4'-(CH2)p-OCO-2',4'-(CH2)n-N(R3)-O-(CH2)m-2'(式中、p、mおよびnは、それぞれ1〜4の整数、0〜2の整数、および1〜3の整数を表し;またR3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、およびユニット置換基(蛍光標識分子または化学発光標識分子、核酸切断活性を有する機能性基、細胞内または核内局在化シグナルペプチドなど)を表す)によって架橋された2'位の炭素原子と4'位の炭素原子を有するように表すことができる。さらに、特定の実施形態によるBNAに関し、3'位の炭素原子上のOR2置換基および5'位の炭素原子上のOR1置換基において、R1およびR2は、典型的には水素原子であるが、互いに同一であっても異なっていてもよく、さらにまた核酸合成のためのヒドロキシル基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成のための保護基によって保護されているリン酸基、または-P(R4)R5(ここで、R4およびR5は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれヒドロキシル基、核酸合成のための保護基によって保護されているヒドロキシル基、メルカプト基、核酸合成のための保護基によって保護されているメルカプト基、アミノ基、1〜5個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜5個の炭素原子を有するアルキルチオ基、1〜6個の炭素原子を有するシアノアルコキシ基、または1〜5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されているアミノ基を表す)であってもよい。このようなBNAの非限定的な例としては、アルファ-L-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNAまたはベータ-D-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA(LNA(ロックド核酸(登録商標)、2',4'-BNA)としても知られている)、エチレンオキシ(4'-CH2)2-O-2')BNA(ENAとしても知られている)、ベータ-D-チオ(4'-CH2-S-2')BNA、アミノオキシ(4'-CH2-O-N(R3)-2')BNA、オキシアミノ(4'-CH2-N(R3)-O-2')BNA(2',4'-BNANCとしても知られている)、2',4'-BNAcoc、3'-アミノ-2',4'-BNA、5'-メチルBNA、(4'-CH(CH3)-O-2')BNA(cEt BNAとしても知られている)、(4'-CH(CH2OCH3)-O-2')BNA(cMOE BNAとしても知られている)、アミドBNA(4'-C(O)-N(R)-2')BNA(R=H、Me)(AmNAとしても知られている)、および当業者に公知の他のBNAが挙げられる。
【0079】
さらに、ヌクレオチドアナログにおいて、特定の実施形態によれば、塩基部分は修飾されていてもよい。塩基部分の修飾の例としては、シトシンの5-メチル化、5-フッ素化、5-臭素化、5-ヨウ素化およびN4-メチル化;チミジンの5-脱メチル化、5-フッ素化、5-臭素化および5-ヨウ素化;アデニンのN6-メチル化および8-臭素化;ならびにグアニンのN2-メチル化および8-臭素化が挙げられる。さらに、特定の実施形態による修飾核酸においては、リン酸ジエステル結合部位が修飾されていてもよい。リン酸ジエステル結合部位の修飾の例としては、ホスホロチオエート化、メチルホスホン化、メチルチオホスホン化、キラルメチルホスホン化、ホスホロジチオエート化、およびホスホロアミデート化が挙げられる。しかし、優れた薬物動態を有するという点から考えて、ホスホロチオエート化を用いてもよい。さらにまた、このような塩基部分の修飾またはリン酸ジエステル結合部位の修飾は、同じ核酸が組み合わされた複数種類の修飾に供され得るように実施することができる。
【0080】
一般的に、修飾ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドアナログは、本明細書中に例示される修飾ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドアナログに限定されない。例えば、Tachasらの米国特許第8,299,039号(特に第17〜22段)に開示されている修飾ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドアナログなどの、多数の修飾ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドアナログが当技術分野において公知であり、この出願の実施形態において使用し得る。天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、およびヌクレオチドアナログの例は、図6に示されている。
【0081】
当技術分野において通常の技能を有する者であれば、アンチセンス効果、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性、ヌクレアーゼに対する抵抗性などを考慮して、このような修飾核酸の中からヌクレオチドアナログを適切に選択し且つ使用することができる。しかし、一部の実施形態において、ヌクレオチドアナログは、以下の式(1):
【化1】
によって表されるLNAである。
【0082】
式(1)において、「塩基」は、置換されていてもよい芳香族複素環式基または芳香族炭化水素環基、例えば天然ヌクレオシドの塩基部分(プリン塩基もしくはピリミジン塩基)または非天然(修飾)ヌクレオシドの塩基部分(塩基部分の修飾の例としては、上記の修飾が挙げられる)を表し;また
R1およびR2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、核酸合成のためのヒドロキシル基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成のための保護基によって保護されているリン酸基、または-P(R4)R5(ここで、R4およびR5は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、ヒドロキシル基、核酸合成のための保護基によって保護されているヒドロキシル基、メルカプト基、核酸合成のための保護基によって保護されているメルカプト基、アミノ基、1〜5個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜5個の炭素原子を有するアルキルチオ基、1〜6個の炭素原子を有するシアノアルコキシ基、または1〜5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されているアミノ基を表す)を表す。
【0083】
上記の化学式によって示される化合物は、ヌクレオシドとして表されるが、「LNA」またより一般的には特定の実施形態によるBNAとしては、リン酸誘導基が関連ヌクレオシド(ヌクレオチド)に結合しているヌクレオチド形態が挙げられる。言い換えれば、LNAなどのBNAは、二本鎖核酸複合体を含む核酸鎖に、ヌクレオチドとして組み込まれる。
【0084】
「低タンパク質親和性ヌクレオチド」は、(i) DNアーゼまたはRNアーゼに対して天然DNAまたは天然RNAヌクレオチドよりも抵抗性であり、また(ii) タンパク質またはタンパク質様細胞成分に対する結合に対して低親和性を有するヌクレオチドである。特に、ヌクレオチドは、タンパク質に対して、ホスホロチオエート化ヌクレオチドよりも低い結合親和性を有する。従って、低タンパク質親和性ヌクレオチドは、上記の修飾ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログであるが、このヌクレオチドはホスホロチオエート化されていない。
【0085】
低タンパク質親和性ヌクレオチドの例としては、2'-O-メチルRNAヌクレオチド、2'-O-メトキシエチルRNAヌクレオチド、LNA、cMOE BNA、2-フルオロRNAヌクレオチド、ボラノホスフェートヌクレオチド、メチルホスホネートヌクレオチド、ホスホロアミダイトヌクレオチド、5-メチルシトシン、および5-プロピニルウリジンが挙げられる。
【0086】
特定の実施形態の二本鎖核酸剤が細胞内でRNアーゼHによって認識され、第1核酸鎖が切断されて治療用オリゴヌクレオチドを放出する場合、第2鎖は未変化で溶液中に放出される。一部の実施形態において、第2鎖は、それ自体アンチセンス活性を有し得る。
【0087】
一部の実施形態において、二本鎖核酸剤は2つより多いポリヌクレオチド鎖を含む。例えば、2つの第1鎖が、1つの第2鎖と二本鎖複合体を形成することができる。それぞれの第1鎖は、同一の治療用オリゴヌクレオチド領域を含んでいてもよいし、異なる治療用オリゴヌクレオチドを有していてもよく、これらは同一のまたは異なる標的転写産物に作用し得る。複数の治療用オリゴヌクレオチドを送達するための他の複数鎖構築物は、本明細書中に提供される説明を考慮して調製することができる。
【0088】
二本鎖核酸剤において、1つ以上の構成ポリヌクレオチドは、機能性部分をさらに含み得る。
【0089】
一部の実施形態において、第1鎖または第2鎖は、ポリヌクレオチドに結合された機能性部分を含み得る。図3Bに戻って参照すると、機能性部分「X」は、2本の鎖の末端位に連結されていることが示されている。さらに以下に記載される機能性部分は、一部または全てのこれらの末端に連結されている可能性もあれば、ポリヌクレオチドの内側の位置に連結されている可能性もある。他の実施形態において、相補鎖は2つ以上の機能性部分を含み、これはポリヌクレオチドの複数の位置に連結されていてもよく、および/またはポリヌクレオチドの1つの位置に一群として連結されていてもよい。
【0090】
ポリヌクレオチド(例えば第1鎖または第2鎖)と機能性部分との間の結合は、直接結合であってもよいし、別の物質によって介在される間接結合であってもよい。しかし、特定の実施形態においては、機能性部分が、共有結合、イオン性結合、水素結合などを介してポリヌクレオチドに直接結合されていることが好ましく、またより安定した結合を得ることができるという点から考えると、共有結合がより好ましい。機能性部分はまた、切断可能な連結基を介してポリヌクレオチドに結合されていてもよい。例えば、機能性部分は、ジスルフィド結合を介して連結されていてもよい。
【0091】
機能性部分がキメラポリヌクレオチドに所望の機能を与える限り、特定の実施形態による「機能性部分」の構造について特定の限定はない。所望の機能としては、標識機能、精製機能、および送達機能が挙げられる。標識機能を与える部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどの化合物が挙げられる。精製機能を与える部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチドなどの化合物が挙げられる。
【0092】
さらに、二本鎖剤を高特異性および高効率性で標的部位に送達し、これにより関連核酸による標的遺伝子の発現を極めて効果的に抑制するという点から考えると、一部の実施形態の二本鎖剤を体内の「標的部位」に送達する活性を有する分子が機能性部分として第1鎖に結合されていることが好ましい。一部の実施形態において、機能性部分が、第1相補領域に最も近い末端(すなわち、治療用オリゴヌクレオチド領域からより遠位の末端)で第1鎖に連結されていることが好ましい。
【0093】
「標的送達機能」を有する部分は、例えば、特定の実施形態の二本鎖剤を肝臓などに高特異性および高効率性で送達し得るという点から考えて、脂質であってよい。このような脂質の例としては、コレステロールおよび脂肪酸などの脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンA、およびビタミンD);ビタミンKなどの脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン);アシル-CoAなどの中間代謝産物;糖脂質、グリセリド、およびそれらの誘導体が挙げられる。しかし、これらの中でも、より高い安全性を有するという点から考えて、特定の実施形態において、コレステロールおよびビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)が使用される。さらに、特定の実施形態の二本鎖剤を高特異性および高効率性で脳に送達し得るという点から考えると、特定の実施形態による「機能性部分」の例として、糖(例えば、グルコースおよびスクロース)が挙げられる。さらにまた、様々な臓器の細胞表面上に存在する様々なタンパク質に結合することによって、特定の実施形態の二本鎖剤を様々な臓器に高特異性および高効率性で送達し得るという点から考えると、特定の実施形態による「機能性部分」の例として、ペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体リガンドならびに抗体および/またはそのフラグメント)が挙げられる。
【0094】
標識を核酸鎖にカップリングするための技術は、標識部分の性質および核酸中の結合点によって異なり、これらは当技術分野において周知である。図示されていないが、機能性部分は、鎖末端部位ではなく内側部位でポリヌクレオチドのに連結することができる。同様に、このような技術は当技術分野において周知である。
【0095】
このように、一部の実施形態の二本鎖剤の幾つかの好適な例示的実施形態について説明したが、二本鎖剤が上記の例示的実施形態に限定されることは意図されない。さらに、当技術分野において通常の技能を有する者であれば、公知の方法を適切に選択することによって、様々な実施形態による二本鎖核酸剤を構成するポリヌクレオチドを製造することができる。例えば、一部の実施形態による核酸は、標的転写産物の塩基配列(または、一部の例では、標的遺伝子の塩基配列)の情報に基づいて核酸の各塩基配列を設計し、市販の自動核酸合成装置(Applied Biosystems, Inc.の製品、Beckman Coulter, Inc.の製品など)を使用して核酸を合成し、その後、結果として得られたオリゴヌクレオチドを逆相カラムなどを使用して精製することによって製造することができる。この方法で製造された核酸は、適切な緩衝溶液中で混合され、約90℃〜98℃で数分間(例えば5分間)変性され、その後該核酸は約30℃〜70℃で約1〜8時間アニールされ、このようにして一部の実施形態の二本鎖核酸剤を製造することができる。さらに、機能性部分を有するポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド合成中または合成後に、機能性部分をオリゴヌクレオチド鎖に連結することによって製造することができる。機能性部分を核酸に連結するための多数の方法が、当技術分野において周知である。
【0096】
このように、第1鎖および第2鎖の好適な例示的実施形態が記載される。さらなる実施形態もまた、以下の実施例に開示される。しかし、本発明者らによって想定される二本鎖剤は、上記の例示的実施形態または以下の実施例に限定されない。
【0097】
アンチセンス効果によって標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを改変するための組成物もまた想定される。
【0098】
一部の実施形態の二本鎖核酸剤は、高特異性および高効率性で標的部位に送達することが可能であり、以下に記載される実施例に開示されるとおり、標的遺伝子の発現または転写産物のレベルを極めて効果的に抑制することができる。従って、一部の実施形態は、活性成分として一部の実施形態の二本鎖アンチセンス剤を含み、例えば、アンチセンス効果により標的遺伝子の発現またはマイクロRNAの活性を改変または抑制することが意図される組成物を提供する。特に、一部の実施形態の二本鎖剤は、低濃度で投与される場合でも高い有効性を与えることが可能であり、また上記の設計は、毒性の低下も示す。さらに、二本鎖剤を特定の臓器に向けることにより、有害な副作用を低下させることができる。従って、一部の実施形態はまた、例えば、標的遺伝子の発現の増加に関連する疾患(代謝疾患、腫瘍、および感染症など)を治療および予防することが意図される医薬組成物を提供することもできる。
【0099】
一部の実施形態の二本鎖剤を含む組成物は、公知の製薬法によって製剤化することができる。例えば、本組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、微粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、解膠剤(peptizer)、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、コーティング剤、軟膏、硬膏剤(plaster)、パップ剤(cataplasm)、経皮剤、ローション剤、吸入剤、エアロゾル剤、注射剤および坐剤の形態で経腸的に(経口等で)、または非経腸的に使用することができる。
【0100】
これらの製剤の製剤化に関して、薬理学的に許容可能な担体または食品および飲料品として許容可能な担体、特に滅菌水、生理食塩水、植物性油、溶媒、基剤、乳化剤、懸濁化剤、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、香味料、香料、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、増粘剤、矯味剤、溶解助剤、および他の添加剤を適切に組み込むことができる。
【0101】
製剤化の際、非特許文献2に開示されるとおり、機能性部分として脂質が結合している一部の実施形態の二本鎖剤は、リポタンパク質(例えばキロミクロン(chylomicron)またはキロミクロンレムナント(chylomicron remnant))と共に複合体を形成することができる。さらに、経腸投与の効率性を高めるという点から考えると、リポタンパク質に加えて、結腸粘膜上皮透過性増強作用を有する物質(例えば、中鎖脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸またはそれらの誘導体(塩、エステル形態またはエーテル形態))および界面活性剤(非イオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤)との複合体(混合ミセルおよび混合エマルション)を使用してもよい。
【0102】
一部の実施形態の組成物の投与の好ましい形態には特定の限定はなく、その例としては、経腸(経口等)または非経腸投与、より具体的には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気管(気管支)投与、直腸投与、および筋肉内投与、ならびに輸血による投与が挙げられる。
【0103】
一部の実施形態の組成物は、被検体としてヒトを含む動物に使用することができる。しかし、ヒトを除く動物には特定の限定はなく、様々な家畜、家禽、ペット、実験動物などが一部の実施形態の被検体となり得る。
【0104】
一部の実施形態の組成物が投与または摂取される場合、投与量または摂取量は、被検体の年齢、体重、症状および健康状態、組成物の種類(医薬品、食品および飲料品など)に従って適切に選択することができる。しかし、特定の実施形態による組成物の摂取有効量は、治療用オリゴヌクレオチド0.001mg/kg/日〜50mg/kg/日である。
【0105】
一部の実施形態の二本鎖剤は、以下の実施例に開示されるとおり、高特異性および高効率性で標的部位に送達することが可能であり、さらに標的遺伝子の発現または転写産物のレベルを極めて効果的に改変または抑制することができる。従って、一部の実施形態は、一部の実施形態の二本鎖剤を被検体に投与し、アンチセンス効果によって標的遺伝子の発現または転写産物レベルを抑制する方法を提供することができる。さらに、一部の実施形態の組成物を被検体に投与することにより、例えば、標的遺伝子の発現の増加に関連する様々な疾患を治療または予防する方法もまた提供される。
【実施例】
【0106】
本明細書中以降、一部の実施形態は、実施例および比較実施例によってさらに具体的に説明されるが、実施形態が以下の実施例に限定されることは意図されない。
【0107】
実施例1
一実施形態による二本鎖核酸剤における第2鎖のギャップマー型またはミックスマー型構造の有用性を示すin vivo実験を行った。二本鎖剤の構造および実験結果は、図7-1および7-2に示される。
【0108】
第1鎖は、ギャップマー様構造を有するRNAベースの相補領域と、部分的にホスホロチオエート化された2'-OMe RNAアンタゴmirである治療用オリゴヌクレオチドとを含んでいた。第1鎖はまた、二本鎖剤を肝臓に送達するため、標的化部分として5'末端位に連結されたトコフェロール基も有していた。第1鎖は、図7Aおよび7Bに模式的に示される。さらに、対照として、完全に2'-OMe RNAヌクレオチドからなる第1鎖も同様に調製した。RNAヌクレオチドを2'-OMe RNAヌクレオチドと置換することにより、RNAベースの相補領域は、RNアーゼHによる切断に対して抵抗性となることが期待される。
【0109】
第2鎖は、13merのギャップマー型(図7-1A、7-1C)またはミックスマー型(図7-1B)のLNA/DNAオリゴヌクレオチドであった。それぞれのヌクレオチド間位はホスホロチオエート化されていた。ギャップマーは、第1鎖配列に対して完全に相補的なDNA塩基の8塩基の中央領域を有していた。ミックスマーは、例示されるとおり、LNA塩基により分離された3塩基、2塩基、および3塩基連続のDNAを有していた。第2鎖は、マウスアポB mRNA(NM_009693)に対して相補的である。
【0110】
第1鎖および第2鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号1) 31merToc-cRNA-G
5'-Toc-u*g*a*AUACCAAUg*c*uacgcauacgcacca*c*c*a-3'
(配列番号2) 31merToc-2'OMe RNA
5'-Toc-u*g*a*auaccaaug*c*uacgcauacgcacca*c*c*a-3'
第2鎖
(配列番号3) 13merLNA/DNAギャップマー
5'-G*C*a*t*t*g*g*t*a*t*T*C*A-3'
(配列番号4) 13merLNA/DNAミックスマー
5'-G*c*a*t*T*g*g*T*a*t*t*C*A-3'
大文字/下線:LNA(C = メチルシトシンLNA)
小文字:DNA
大文字:RNA
小文字/下線:2'-O-Me RNA
*:ホスホロチオエートヌクレオチド間結合
【0111】
ノーザンブロット分析において移動標準として使用するための20〜31塩基の範囲のRNAオリゴヌクレオチドも調製した:
(配列番号5) 20mercRNA
5'-GCUACGCAUACGCACCACCA-3'
(配列番号6) 22mercRNA
5'-AUGCUACGCAUACGCACCACCA-3'
(配列番号7) 23mercRNA
5'-AAUGCUACGCAUACGCACCACCA-3'
(配列番号8) 24mercRNA
5'-CAAUGCUACGCAUACGCACCACCA-3'
(配列番号9) 25mercRNA
5'-CCAAUGCUACGCAUACGCACCACCA-3'
(配列番号10) 31mercRNA
5'-UGAAUACCAAUGCUACGCAUACGCACCACCA-3'
(略語は上記のとおり)
【0112】
ノーザンブロッティング分析のためのジゴキシゲニン標識された(DIG)DNAプローブも調製した:
(配列番号11) 28mer3'DIG-DNA
5'-tggtgcgtatgcgtagcagtggtattca-DIG-3'
(略語は上記のとおり)
【0113】
LNA/DNAオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって合成され、cRNAは、北海道システム・サイエンス株式会社(Hokkaido System Science)(札幌、日本)によって合成された。DIG DNAプローブは、DIGオリゴヌクレオチド3'末端標識キット、第2世代ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(Roche Diagnostics)を使用して、DNAオリゴヌクレオチドをジゴキシゲニン-ddUTPで標識することによって調製した。
【0114】
13merLNA/DNAギャップマー(図7-1A)もしくは13merLNA/DNAミックスマー(図7-1B)のいずれかを有する31merToc-cRNA-G、または13merLNA/DNAギャップマーを有する31merToc-2'OMe RNAで構成される二本鎖剤を、等モル量の各鎖をリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)、セントルイス、ミズーリ州)中で混合し、この溶液を95℃に5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成することによって調製した。アニールした核酸を、4℃または氷上で保存した。二本鎖剤を、in vivo実験用のPBS溶液として製剤化した。
【0115】
マウスにおける治療用オリゴヌクレオチドの放出のin vivo研究
4〜5週齢の雌の野生型Crlj:CD1(ICR)マウス(オリエンタル酵母工業株式会社(Oriental Yeast)、東京、日本)を、病原体除去動物施設において12時間の明/暗周期で飼育し、食餌と水を自由に摂取させた。二本鎖剤を、6mg/kg/用量の尾静脈注射により、1匹のマウスにそれぞれ1回投与した。対照マウスはPBSの注射を受けた。静脈注射の24時間後、ノーザンブロッティングによる分析のために肝臓を摘出した。肝臓中の全RNAを、ISOGEN IIキット(和光純薬工業株式会社(Wako Pure Chemicals)、大阪、日本)を使用して抽出した。
【0116】
ノーザンブロッティング分析
全RNA(30マイクロg)を、18%ポリアクリルアミド/尿素ゲル上の電気泳動によって分離した。移動標準の配列番号4〜9、さらにまた一本鎖としての第1鎖を、対照として別のレーンに含めた。電気泳動した物質を、Hybond-N+膜(アマルシャム・バイオサイエンス社(Amersham Biosciences)、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)に転写した。このブロットを、3'-DIG DNAプローブとハイブリダイズさせ、Gene Images装置で可視化した。ギャップマーとミックスマーを比較した結果(図7-1A対7-1B)は、図7-2Dに示される。切断可能なRNA-ベースの相補領域を有する第1鎖を含む二本鎖剤を、完全に2'-Oメチル化されたRNA鎖を有する第1鎖を含む二本鎖剤に対して比較した結果(図7-1A対7-1C)は、図7-2Eに示される。別々のブロットを、内部対照としてのマウスU6マイクロRNA配列とハイブリダイズさせた(データは示されない)。
【0117】
結果
図7-2Dのブロッティング分析は、それぞれの二本鎖剤におけるToc-cRNA-G第1鎖が、in vivoでより短い長さに切断されたことを示す。プロセッシングされていないToc-cRNA-G対照(レーンM7)と比較して、ギャップマー二本鎖剤(レーン1)は、Toc-cRNA-G第1鎖の、より短い長さへの本質的に完全な変換を明らかにした。同様に、ミックスマー二本鎖剤(レーン2)は、より短い長さのプローブへの有意な変換を示した。第1鎖はいずれの場合も、レーンM1〜M5における対照cRNAの移動距離との比較に基づけば、20〜約26塩基を有するオリゴヌクレオチドにプロセッシングされた。
【0118】
図7-2Eのブロッティング分析は、Toc-cRNA-G鎖(RNAベースの相補領域内にRNAを含む)(レーン1)はより短い断片に切断されたが、完全に2'-Oメチル化された第1鎖(レーン2)は切断されず、それどころかレーンM6およびM7の完全長の31mer対照とほぼ同じ距離を移動したことを示す。
【0119】
図7-2Dのレーン1〜2および図7-2Eの(レーン2ではなく)レーン1におけるより短い第1鎖断片の出現は、二本鎖剤が、in vivoで肝臓に送達され、二本鎖DNA/RNAヘテロ二本鎖相補領域がRNアーゼHによって認識され、第1鎖が切断されたことを示す。図7-2Dのレーン1〜2および図7-2Eのレーン1における幾つかの20mer産物の出現は、恐らくはエキソヌクレアーゼによって、切断された第1鎖の幾つかのさらなるプロセシングが起こり、上記のオリゴヌクレオチドが、ホスホロチオエート結合によって与えられるヌクレアーゼ耐性位置まで削減されたことを示す。
【0120】
実施例2
一実施形態による二本鎖核酸剤によるマイクロRNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。2つの従来の一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド対照を、本二本鎖剤と比較した。ポリヌクレオチド構造は図8に示される。
【0121】
対照は、miravirsen(登録商標)として公知のLNA/DNAミックスマーantimiRと、コレステロール部分を含む2'-O-メチル化されたRNAアンタゴmirであった。後者は、LNA/DNAギャップマーとアニールし、本実施例において使用される二本鎖剤を形成した。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号12) 36merRNA鎖
5'-a*c*aaacaccauugucacacuc*c*a*UGAAUACCAAU*g*c-3'-コレステロール(chol)
第2鎖
(配列番号13) 13merLNA/DNAギャップマー相補鎖
5'-G*C*a*t*t*g*g*t*a*t*T*C*A-3'
一本鎖対照
(配列番号14) antimiR(miR122)
5'-C*c*A*t*t*G*T*c*a*C*a*C*t*C*C-3'
(略語は上記のとおり)
【0122】
上記の二本鎖剤を調製するために、LNA/DNA相補鎖と36merRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0123】
In vivo実験
マウスは、体重20〜25gの4〜6週齢の雌のICRマウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=3で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.75mg/kgの量で静脈内注射した。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0124】
注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して肝臓を摘出した。続いて、mRNAを、Isogenキット(株式会社ジーンデザイン)をプロトコルに従って使用して抽出した。cDNAは、SuperScript III(インビトロゲン社(Invitrogen, Inc.))をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、ライフテクノロジーズ社(Life Technologies Corp)によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、マイクロRNA(miR122)の発現量/マイクロRNA(SNO234;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって評価した。この結果は、図8の下部のグラフに示される。
【0125】
結果
図8の結果によって示されるとおり、3つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較して、miR122の発現の阻害を示す。しかし、本発明の一実施形態による二本鎖剤によって得られた阻害度は、一本鎖オリゴヌクレオチドによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意である。
【0126】
実施例3
In vivoにおけるマイクロRNA阻害に関するキメラ二本鎖核酸剤の有用性を示す実験を行った。具体的には、この実験において使用される核酸の直接標的であるマイクロRNA122(miR122)に対する阻害効果だけでなく、miR122の下流標的であるアルドラーゼA(ALDOA)および分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(BCKDK)mRNAの発現に対する阻害効果も評価した。ALDOAの表現型である総血清コレステロール値および低密度リポタンパク質(LDL)値もまた評価した。miR122を阻害する既知の一本鎖核酸剤を対照として使用し、さらにこの対照核酸剤を、既知の一本鎖核酸が導入されたヘテロ二本鎖核酸と比較した。核酸構造は図9に示される。LNA/DNAミックスマーantimiR(miravirsen(登録商標))を陽性対照として使用した。PBSを投与した群を陰性対照として使用した。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号15) 28merRNA鎖
5'-C*c*A*t*t*G*T*c*a*C*a*C*t*C*CGCGAUACCAAU*c*g-3'
第2鎖
(配列番号16) 13merLNA/DNAギャップマー相補鎖
5'-C*G*a*t*t*g*g*t*a*t*C*G*C-3'
一本鎖対照
(配列番号14) antimiR(miR122)
5'-C*c*A*t*t*G*T*c*a*C*a*C*t*C*C-3'
(略語は上記のとおり)
【0127】
二本鎖剤を、実施例1および2のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0128】
In vivo実験
マウスは、体重20〜25gの4週齢の雌のICRマウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=3で実施した。核酸剤を、マウスに尾静脈を通じて静脈内注射した。miR122の阻害効果を評価する実験(図10a)においては、核酸剤を、マウスに0.1mg/kgの量でそれぞれ1回注射した。次いで、注射の72時間後にPBSをマウスに灌流させ、肝左葉を採取した。miR122の下流標的であるALDOA(図10b)およびBCKDK(図10c)、ならびに総血清コレステロール(図10c)を評価する実験においては、核酸剤を、マウスに0.75mg/kgの量でそれぞれ1週間に3回注射した。次いで、注射時および注射の168時間後、また肝臓組織を採取した際にも血液を採取した。実施例2と同じプロトコルによってRNA抽出、cDNA合成および定量的PCRを行った。評価は、直接標的であるmiRNA(図10a)の内部対照であるU6で補正することによって、またALDOA(図10b)およびBCKDK(図10c)の内部対照であるGAPDHで補正することによって実施した。各群の発現レベルは、実施例2のように比較した。表現型の評価において、注射後0時間〜168時間の総血清コレステロール(図10d)および血清LDL(低密度リポタンパク質)(図10e)の低下を測定し、PBSを注射した群と比較した。表現型に対する用量依存性効果の評価については、核酸剤を0.1、0.75および1.5mg/kgの量でそれぞれ1週間に3回注射し、総血清コレステロールの低下を前と同様に評価した(図10f)。
【0129】
結果
図10aの結果によって示されるとおり、3つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較してmiR122の発現の阻害を示す。しかし、本発明の一実施形態による二本鎖剤によって得られた阻害度は、一本鎖オリゴヌクレオチドによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意である。図10bおよび図10cによって示されるとおり、二本鎖antimiRは、一本鎖核酸と比較して、miR122の下流標的(ALDOA、BCKDK)の発現の統計的に有意な上昇を示した。図10dおよび10eによって示されるとおり、二本鎖antimiRは、一本鎖核酸と比較して、総血清コレステロールおよびLDLの統計的に有意な低下を示した。図10fによって示されるとおり、二本鎖antimiRは、一本鎖antimiRより優れた用量依存性表現型効果を示した。
【0130】
実施例4
本発明者らは、他の標的および標的RNAとの相互作用を有する他の種類のオリゴヌクレオチドへの、二本鎖核酸剤の適用を評価する実験を行った。標的RNAは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy(DMD))の責任遺伝子であるジストロフィンのプレ-mRNAであった。実施例4のオリゴヌクレオチドは、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド(SSO)であり、ジストロフィンのスキッピングエクソン58を誘導した。ポリヌクレオチド構造は、図11に示される。
【0131】
対照は一本鎖SSOであった。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号17) 28merRNA鎖
5'-t*C*t*g*G*g*c*T*c*c*T*g*g*T*aGCGAUACCAAU*c*g-3'
第2鎖
(配列番号16) 13merLNA/DNAギャップマー相補鎖
5'-C*G*a*t*t*g*g*t*a*t*C*G*C-3'
一本鎖対照
(配列番号18) 15merSSO
5'-t*C*t*g*G*g*c*T*c*c*T*g*g*T*a-3'
(略語は上記のとおり)
【0132】
二本鎖剤を、実施例1〜3のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0133】
この実験のため、ヒトジストロフィン遺伝子断片の安定発現プラスミドを構築し、この構築物を含む安定細胞株を確立した。上記のジストロフィン遺伝子断片は、その長さのため便宜上短縮された、イントロン57を除くエクソン57〜エクソン59の完全長配列を有する。安定細胞株におけるジストロフィン断片の発現は、通常、エクソン57、58、および59を含むmRNAを生じることが予想される。しかし、プレ-mRNAのプロセッシング中にエクソン58のスキッピングを引き起こす能力を有するスプライススイッチングオリゴヌクレオチドの存在下では、発現されたmRNAは、エクソン57および59を含むがエクソン58は欠失していると予想され得る。
【0134】
この実験においては、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が核に到達することができる限り、ASOはジストロフィン遺伝子から発現されたmRNA産物のスプライシングを変更することができなければならず、またこのためジストロフィンの3つのエクソン断片(エクソン57、58、および59)の量は、対応する低下を示すだろう。
【0135】
エクソン58のエクソンスキッピングを引き起こすことができる一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドを調製し、試験した。ASOは、エクソン58内の配列に結合する。
【0136】
ジストロフィン遺伝子発現プラスミドの構築
構築のための開始プラスミドは、pcDNA5/FRTベクター(インビトロゲン社、カールスバッド、カリフォルニア州)であった。Flagタグを含む断片を作製するため、2つのオリゴヌクレオチド:5'-AGCTTACCATGGATTACAAGGACGACGACGACAAGGGGGTAC-3'(配列番号19)(HindIII部位およびKpnI部位(下線部)を含む)と、5'-CCCCTTGTCGTCGTCGTCCTTGTAATCCATGGTA-3'(配列番号20)を一緒にアニールした。アニーリング後、上記の断片をpcDNA5/FRTベクター(pcDNA5/FRT-FLAG)のHindIII/KpnI部位中にクローン化した。このFlagタグは、余分な第1メチオニンの偶発的な発現を回避するため、2つのサイレント変異を含む。
【0137】
鋳型としてpcDNA3-EGFPベクターを使用して、フォワードプライマー:5'-CCCGGGTGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGT-3'(配列番号21)(SmaI部位(下線)を含む)およびリバースプライマー:5'-ATAGGGCCCTTACTTGTACAGCTCGTCCAT-3'(配列番号22)(ApaI部位(下線)を含む)を用いてEGFP断片を増幅した。サイクル条件は以下のとおりであった:94℃で2分、次いで98℃で0.5分、63℃で0.5分、68℃で0.75分を35サイクル、さらに68℃で3分。PCR反応は、KOD FX NEO(東洋紡株式会社(TOYOBO)、大阪、日本)を製造者の使用説明書に従って使用して実施した。EGFP断片を、SmaI/ApaI消化したpcDNA5/FRT-FLAGベクター(pcDNA5/FRT-FLAG-EGFP)に挿入した。
【0138】
鋳型としてpDsRed-Express-N1ベクターを使用して、フォワードプライマー:5'-ATATGGATCCAACCGGTGTGGCCTCCTCCGAGGACGTCA-3'(配列番号23)(BamHIおよびAgeI部位(下線)を含む)およびリバースプライマー:5'-CGGTCTACAGGAACAGGTGGTGGC-3'(配列番号24)を用いてEGFP断片を増幅した。サイクル条件は以下のとおりであった:94℃で2分、次いで98℃で0.5分、63℃で0.5分、68℃で0.75分を35サイクル、さらに68℃で3分。PCR反応は、KOD FX NEO(東洋紡株式会社社、大阪、日本)を製造者の使用説明書に従って使用して実施した。EGFP断片を、BamHI/SmaI消化したpcDNA5/FRT-FLAG-DsRedベクター(pcDNA5/FRT-FLAG-DsRed-EGFP)に挿入した。
【0139】
蛍光タンパク質を核に集めるため、NLS配列(核局在化シグナル(Nucleus Localized Signal))を、BamHI消化したpcDNA5/FRT-Flag-DsRed-EGFPに挿入した。このNLS配列は、2つのオリゴヌクレオチド:5'-ATGCCCCAAAAAAAAAACGCAAAGTGGAGGACCCAAAGGTACCAAAG-3'(配列番号25)と5'-GATCCTTTGGTACCTTTGGGTCCTCCACTTTGCGTTTTTTTTTTGGGGCATGTAC-3'(配列番号26)とをアニーリングすることによって作製した(pcDNA5/FRT-Flag-NLS-DsRed-EGFP)。
【0140】
ヒトジストロフィン遺伝子の安定発現プラスミドを作製するため、HepG2ゲノムを用いるPCRによってヒトジストロフィン遺伝子断片を得た。ジストロフィン遺伝子断片を含むプラスミドは、イントロン57を除くエクソン57〜エクソン59の完全長配列を有する。イントロン57配列(17683塩基対)は、プラスミドに挿入するには長すぎるため、イントロン57の一部分である配列+207〜+17486を、フォワードプライマー:5'-AACGGTACCAACGCTGCTGTTCTTTTTCA-3'(配列番号27)(KpnI部位(下線)を含む)、リバースプライマー:5'-AAATCGTCCATTACAAACACAGCGCTTTCC-3'(配列番号28)およびフォワードプライマー:5'-GTGTTTGTAATGGACGATTTCTTAAAGGGTATT-3'(配列番号29)、リバースプライマー:5'-AGACCGGTACTCCTCAGCCTGCTTTCGTA-3'(配列番号30)(AgeI部位(下線)を含む)を使用するPCRにより欠失させた。この断片を、KpnI/AgeI消化したpcDNA5/FRT-Flag-NLS-DsRed-EGFPベクターにクローン化した(pcDNA5/FRT-Flag-NLS-DMD-エクソン57_58_59(短-イントロン57)-DsRed-EGFP)。
【0141】
構築物は全て、ABI PRISM 310アナライザー(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)、フォスターシティ、カリフォルニア州、米国)によって確認されるか、または株式会社ファスマック(Fasmac)(神奈川、日本)により配列決定された。
【0142】
安定な細胞株の確立
Flp-In-293(インビトロゲン社、カールスバッド、カリフォルニア州)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)(バイオウェスト社(Biowest)、ニュアイエ(Nuaille)、フランス)、2%ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(ペニシリン10,000単位/mL、ストレプトマイシン10,000マイクロg/mL)(ナカライテスク株式会社(Nacalaitesque)、京都、日本)を含有する10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)(DMEM)(ナカライテスク株式会社、京都、日本)中で培養し、37℃において100mg/mLのゼオシンで選択した。pcDNA5/FRT-Flag-Dys57>59di-NLS-DsRed-EGFPおよびpOG44(Flpリコンビナーゼ発現プラスミド)(インビトロゲン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を、Flp-In-293細胞に共トランスフェクトした。安定な細胞株を、ハイグロマイシンB 50mg/mL(インビトロゲン社、カールスバッド、カリフォルニア州)耐性に基づいて選択した。
【0143】
細胞培養
安定細胞株を、10%ウシ胎仔血清(FBS)(バイオウェスト社、ニュアイエ、フランス)および2%ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(ペニシリン10,000単位/mL、ストレプトマイシン10,000マイクロg/mL)(ナカライテスク株式会社、京都、日本)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ナカライテスク株式会社、京都、日本)中で培養した。
【0144】
In vitro実験
この細胞を、24ウェルプレート中の、抗生物質を含まない血清含有培地にプレーティングした。脂質ベースのトランスフェクションのため、一本鎖対照と二本鎖剤のいずれかを、製造者の使用説明書に従ってリポフェクタミンRNAiMAX(インビトロゲン社)と混合し、無血清培地中で4時間細胞と共にインキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、RNA抽出前に抗生物質を含む完全培地中で20時間インキュベートした。mRNAは、Isogenキット(株式会社ジーンデザイン)を製造者の使用説明書に従って使用して抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、SYBR Green Real Time PCR Master Mix(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)により実施した。プライマーの配列は以下に示される。
【0145】
エクソン58スキップ分析プライマー:
配列番号31:5'-AACGGTACCAACGCTGCTGTTCTTTTTCA-3'
配列番号32:5'-CTTGGAGCCGTACTGGAACT-3'
GAPDH分析プライマー:
配列番号33:5'-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3'
配列番号34:5'-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3'
【0146】
プライマーは全て、北海道システム・サイエンス株式会社(札幌、日本)により合成された。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:98℃で10秒、55℃で15秒、および72℃で15秒(1サイクル)を35サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、エクソンスキップされたジストロフィンの発現量/グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、また各群の結果を対照群と比較し、さらにt-検定によって評価した。結果は、図12のグラフに示される。
【0147】
結果
図12の結果によって示されるとおり、本発明の一実施形態による二本鎖剤によって得られたエクソンスキッピングの程度は、一本鎖オリゴヌクレオチドによって得られたエクソンスキッピングの程度よりも大きく、その差は統計的に有意である。
【0148】
実施例5
本発明者らは、他の標的および化学構造を有する他の種類のアンチセンスオリゴヌクレオチドへの、二本鎖核酸剤の適用を評価する実験を行った。標的は、アポリポタンパク質Bのプレ-mRNAのイントロンであった。ポリヌクレオチド構造は、図13に示される。
【0149】
対照は、LNA/DNAギャップマーであった。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号35) 29merRNA鎖
5'-C*T*C*c*c*a*c*c*a*c*a*t*a*G*C*AGCGAUACCAAU*c*g-3'
第2鎖
(配列番号16) 13merLNA/DNAギャップマー相補鎖
5'-C*G*a*t*t*g*g*t*a*t*C*G*C-3'
一本鎖対照
(配列番号36) 16merイントロンギャップマー
5'-C*T*C*c*c*a*c*c*a*c*a*t*a*G*C*A-3'
(略語は上記のとおり)
【0150】
二本鎖剤を、実施例1〜3のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0151】
In vitro実験
Huh-7(ヒト肝細胞癌細胞株-7)細胞を、推奨培地条件下で培養した。細胞を、24ウェルプレート中の抗生物質を含まない血清含有培地にプレーティングした。脂質ベースのトランスフェクションのため、一本鎖対照と二本鎖剤のいずれかを、リポフェクタミンRNAiMAX(インビトロゲン社)と製造者の使用説明書に従って混合し、無血清培地中で4時間細胞と共にインキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、RNA抽出前に抗生物質を含む完全培地中でで20時間インキュベートした。mRNAは、Isogenキット(株式会社ジーンデザイン)を製造者の使用説明書に従って使用して抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、ライフテクノロジーズ社によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、アポBの発現量/グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって評価した。結果は、図14のグラフに示される。
【0152】
結果
図14の結果に示されるとおり、一本鎖イントロンギャップマーは、陰性対照(リポフェクタミンのみ)と比較して、アポB mRNAの発現の阻害を示さなかった。しかし、本発明の一実施形態による二本鎖剤は、アポB mRNAの有意な阻害を達成した。
【0153】
実施例6
本発明者らは、第2鎖が13merLNA/DNAギャップマーから13merLNA/DNAミックスマーに変更された二本鎖核酸剤の適用を評価する実験を行った。標的は、実施例2〜3と同様に、マイクロRNA122であった。そのポリヌクレオチド構造は図15に示される。
【0154】
対照は、2'-Oメチル化RNAアンタゴmirであった。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号37) 36merRNA鎖
5'- a*c*aaacaccauugucacacuc*c*a*UGAAUACCAAU*g*c-3'
第2鎖
(配列番号4) 13merLNA/DNAミックスマー相補鎖
5'- G*c*a*t*T*g*g*T*a*t*t*C*A-3'
一本鎖対照
(配列番号38) 23merアンタゴmiR(miR122)
5'- a*c*aaacaccauugucacacuc*c*a-3'
(略語は上記のとおり)
【0155】
二本鎖剤を、実施例1〜5のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0156】
In vitro実験
Huh-7(ヒト肝細胞癌細胞株-7)細胞を、推奨培地条件下で培養した。この細胞を、24ウェルプレート中の抗生物質を含まない血清含有培地にプレーティングした。脂質ベースのトランスフェクションのため、一本鎖対照と二本鎖剤のいずれかを、リポフェクタミン2000(インビトロゲン社)と製造者の使用説明書に従って混合し、無血清培地中で4時間細胞と共にインキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、RNA抽出前に抗生物質を含む完全培地中で20時間インキュベートした。mRNAは、Isogenキット(株式会社ジーンデザイン)を製造者の使用説明書に従って使用して抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、ライフテクノロジーズ社によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、マイクロRNA(miR122)の発現量/マイクロRNA(U6;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって評価した。結果は、図16のグラフに示される。
【0157】
結果
核酸試薬は両方とも、陰性対照(リポフェクタミンのみ)と比較して、miR122の発現の阻害を示す。しかし、本発明の一実施形態による二本鎖剤によって得られた阻害度は、一本鎖オリゴヌクレオチドによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意である。
【0158】
実施例7
本発明者らは、第2鎖が13merLNA/DNAギャップマーから13merLNA/DNAミックスマーに変更された別の二本鎖核酸剤の適用を評価する実験を行った。標的は、実施例4と同様にジストロフィンのプレ-mRNAであった。実施例6のオリゴヌクレオチドは、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド(SSO)であり、ジストロフィンのスキッピングエクソン58を誘導した。ポリヌクレオチド構造は図17に示される。
【0159】
対照は一本鎖SSOであった。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号17) 28merRNA鎖
5'-t*C*t*g*G*g*c*T*c*c*T*g*g*T*aGCGAUACCAAU*c*g-3'
第2鎖
(配列番号4) 13merLNA/DNAミックスマー相補鎖
5'-G*c*a*t*T*g*g*T*a*t*t*C*A-3'
一本鎖対照
(配列番号18) 15merSSO
5'- t*C*t*g*G*g*c*T*c*c*T*g*g*T*a-3'
(略語は上記のとおり)
【0160】
二本鎖剤を、実施例1〜6のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0161】
In vitro実験
実験条件は、実施例4と同様であった。
【0162】
結果
図18の結果に示されるとおり、本発明の一実施形態による二本鎖剤によって得られたエクソンスキッピングの程度は、一本鎖オリゴヌクレオチドによって得られたエクソンスキッピングの程度よりも大きく、その差は統計的に有意である。
【0163】
実施例8
本発明者らは、第2鎖が13merLNA/DNAギャップマーから13mer/LNA/DNAミックスマーに変更された別の二本鎖核酸剤の適用を評価する実験を行った。標的は、実施例5と同様に、アポリポタンパク質Bのプレ-mRNAのイントロン、であった。ポリヌクレオチド構造は、図19に示される。
【0164】
対照は、LNA/DNAギャップマーであった。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号35) 29merRNA鎖
5'-C*T*C*c*c*a*c*c*a*c*a*t*a*G*C*AGCGAUACCAAU*c*g-3'
第2鎖
(配列番号4) 13merLNA/DNAミックスマー相補鎖
5'- G*c*a*t*T*g*g*T*a*t*t*C*A-3'
一本鎖対照
(配列番号36) 16merイントロンギャップマー
5'-C*T*C*c*c*a*c*c*a*c*a*t*a*G*C*A-3'
(略語は上記のとおり)
【0165】
二本鎖剤を、実施例1〜3のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0166】
In vitro実験
実験条件は、実施例5と同様であった。
【0167】
結果
図20の結果によって示されるとおり、一本鎖イントロンギャップマーは、陰性対照(リポフェクタミンのみ)と比較して、アポB mRNAの発現の阻害を示さなかった。しかし,本発明の一実施形態による二本鎖剤は、用量依存様式でアポB mRNAの有意な阻害を達成した。
【0168】
実施例9
本発明者らは、核酸剤の位置がRNA鎖の5'末端から3'末端に変更された二本鎖核酸剤の適用を評価する実験を行った。標的は、実施例2〜3と同様に、マイクロRNA122であった。ポリヌクレオチド構造は図21に示される。
【0169】
対照は、LNA/DNAミックスマーantimiR122(miravirsen(登録商標))であった。鎖の配列、組成、および鎖長は以下のとおりであった:
第1鎖
(配列番号15) 28merRNA鎖-5'
5'-C*c*A*t*t*G*T*c*a*C*a*C*t*C*CGCGAUACCAAU*c*g-3'
(配列番号39) 28merRNA鎖-3’
5'-g*c*g*AUACCAAUCGC*c*A*t*t*G*T*c*a*C*a*C*t*C*C-3'
第2鎖
(配列番号16) 13merLNA/DNAミックスマー相補鎖
5'-C*G*a*t*t*g*g*t*a*t*C*G*C-3'
一本鎖対照
(配列番号14) 23mer antimiR(miR122)
5'-C*c*A*t*t*G*T*c*a*C*a*C*t*C*C-3'
(略語は上記のとおり)
【0170】
二本鎖剤を、実施例1〜5のとおりに調製した。すなわち、LNA/DNA相補鎖とRNA鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸剤を形成した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0171】
In vitro実験
Huh-7(ヒト肝細胞癌細胞株-7)細胞を、推奨培地条件下で培養した。この細胞を、24ウェルプレート中の抗生物質を含まない血清含有培地にプレーティングした。脂質ベースのトランスフェクションのため、一本鎖対照と二本鎖剤のいずれかを、リポフェクタミンRNAi MAX(インビトロゲン社)と製造者の使用説明書に従って混合し、無血清培地中で4時間細胞と共にインキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、RNA抽出前に抗生物質を含む完全培地中で20時間インキュベートした。マイクロRNAは、Isogenキット(株式会社ジーンデザイン)を製造者の使用説明書に従って使用して抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・アプライドバイオサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、ライフテクノロジーズ社によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、マイクロRNA(miR122)の発現量/マイクロRNA(U6;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって評価した。この結果は、図22のグラフに示される。
【0172】
結果
二本鎖antimiR-5'およびantimiR-3'は両方とも、陰性対照(リポフェクタミンのみ)および一本鎖antimiRと比較して、miR122の発現の阻害を示す。しかし、二本鎖antimiR-3によって得られた阻害度は、二本鎖antimiR-5'によって得られた阻害度に満たない。
【0173】
図22の結果によって示されるとおり、3つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較して、miR122の発現の阻害を示す。しかし、二本鎖antimiR-5'によって得られた阻害度は二本鎖antimiR-3'によって得られた阻害度を上回り、その差は統計的に有意である。
【配列表フリーテキスト】
【0174】
1-20、35-39 合成
21-34 プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図10d
図10e
図10f
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]