特許第6472104号(P6472104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472104
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】水門
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/40 20060101AFI20190207BHJP
【FI】
   E02B7/40
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-541215(P2017-541215)
(86)(22)【出願日】2015年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2015077164
(87)【国際公開番号】WO2017051481
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】515037586
【氏名又は名称】寺田 溥
(73)【特許権者】
【識別番号】515037597
【氏名又は名称】寺田 浩子
(74)【代理人】
【識別番号】100107113
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 健一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 溥
(72)【発明者】
【氏名】寺田浩子
(72)【発明者】
【氏名】久木田祥子
(72)【発明者】
【氏名】寺田圭一
(72)【発明者】
【氏名】寺田容子
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−239263(JP,A)
【文献】 特開2009−84883(JP,A)
【文献】 特開2013−2250(JP,A)
【文献】 特開昭62−90420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水や船舶の水路を横切る方向に設けられ、全開時は格納位置に係留され、全閉時は浮上状態でスイング活動により全閉位置に移動する扉体を備える水門において、
前記扉体は、水底に固定された支持点を持ち、前記支持点の支持条件が3軸方向回転自由且つ移動拘束であることを特徴とする水門。
【請求項2】
流水や船舶の水路を横切る方向に設けられ、全開時は格納位置に係留され、全閉時は浮上状態でスイング活動により全閉位置に移動する扉体を備える水門において、
前記扉体は、水底と前記扉体の上部に中心軸を共有する固定された支持点を持ち、前記支持点の支持条件が2軸方向回転自由且つ3軸方向移動拘束であることを特徴とする水門。
【請求項3】
水門稼働中において、前記支持点には引き力が作用することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水門。
【請求項4】
前記扉体の底部に摩擦靴を備え、前記摩擦靴の靴底先端部が凸形湾曲形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水門。
【請求項5】
前記扉体が陸側海底の構造に接触する箇所に設けられる底部支持座を備え、前記底部支持座は柔軟材の中に剛材が埋め込まれ、柔軟且つ高強度に構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水門。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流水や船舶の水路に設けられる水門に関する。水門は、高潮、津波、高水、本川から支川への逆流 波浪流木流入等に対応するものである
【背景技術】
【0002】
高潮や津波などに対応するための大型の水門は、公知である。
【0003】
水門には、薄肉閉断面の扉体(捩り構造)のフラップゲートがある。前記扉体は、扉体に取り付けられた軸式支承により基礎地盤に支えられるとともに、その軸を中心に回転運動するものが一般的であるが、前記扉体が水底のコンクリート構造で直接支えられるものがあり、この支持方式が、簡単構造で、コスト的に非常に有利である(非特許文献1、特許文献1)。
【0004】
図1はフラップゲートがコンクリート構造で支持される例を示す断面図である。
【0005】
1は扉体(実線、全閉状態)、2は扉体(点線、全開状態)、3は扉体1の回転中心、4はコンクリート構造、5は木座である。
【0006】
木座5は扉体1、2に固定されている。
【0007】
水門を使用していないとき、扉体(全開状態)2は、点線で示すように水面下に水平状態で格納されている。使用時は、扉体(全開状態)2は回転中心3を中心に回転して起立し、実線の扉体(全閉状態)1の位置にきて、木座5を介してコンクリート構造4で支持される。
【0008】
スイング移動方式は公知の扉体開閉方式であり、段落0003で記述したフラップゲートの構造的利点はこの方式で生かすことができる。
【0009】
図2は、開閉式防潮水門のスイング移動方式を示す。図2は防潮水門の海洋側から見た水門の左半分を表す。
図2aは平面図である。図2bは正面図である。
【0010】
6は全閉状態の扉体を示す。7は全開状態の扉体である。図2の水門は6又は7いずれかの状態をとる。
【0011】
8は扉体6のスイング中心、9は扉体7の格納岸壁、10は防潮水門の中心線である。
【0012】
全開状態の扉体7は格納岸壁9に係留されている。使用時に、スイング中心8を中心にスイング運動して、全閉状態の扉体6の位置に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭50−16334号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2014/037987A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】寺田溥、重永憲明、ドック用トーションタイプフラップゲートの開発、三菱重工技報 Vol. 16 No. 6、1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
捩り構造はコスト面で圧倒的利点を持つが、従来、水門への適用は軸式支承で地盤に固定されたフラップゲートに限られていた。この発明は、捩り構造をスイング移動式の防潮水門に適用することを可能とし、これにより捩り構造のコスト的優位性が更に高まる。径間200m〜600m級の超大型防潮水門にも適用できる。
【0016】
この発明は、下記の課題について解決手段を開示し、スイング移動式捩り構造防潮水門の実現に寄与しようとするものである。
課題1:扉体着床時の復原力
課題2:開閉操作時の扉体運動
課題3:潮位差利用の扉体操作
課題4:扉体底部支持座の反力と衝撃力
【0017】
課題1:扉体着床時の復原力
格納岸壁に係留されている扉体は、使用時に、スイング運動で、全閉位置に移動する。スイング移動中の扉体は水面に浮いた状態にあり、船舶復元理論に従った復原力機能を備えている。全閉位置では浮力タンクへの注水により浮力を放出して水底に着床する。着床状態では復原力機能が総て消滅する可能性があり、その様な場合は扉体は水底で転覆する。
【0018】
課題2:開閉操作時の扉体運動
稼働中の防潮水門は荒天時の波浪中の開閉が一つの重要な操作条件である。スイング移動中の扉体は水面に浮いた状態にあるので、波浪中の船舶と同様に、動揺が発生する。動揺の主なものは横揺(ローリング)、縦揺(ピッチング)、上下揺(デッピング)である。これらの運動をスイング中心で総て拘束すると周期性のある拘束力が発生するので、構造強度の面から好ましくない。
【0019】
課題3:潮位差利用の扉体操作
扉体の両側(海側、港側)に潮位差がある状態で扉体の開閉操作を行うことは避けて通れない。潮位差が小さくて扉体搭載の推力機械(サイドスラスター)や操作用タッグボート等で扉体コントロールが可能な範囲は扉体操作に不具合はない。これを越えた潮位差の下で閉操作を行う場合はコントロールが可能なスイング角度内で扉体を水底に着床させ、海側潮位を利用して全閉操作を行う。又、陸側潮位を利用した開操作も可能である。潮位差利用の扉体操作での課題
は(3.1)扉体の横傾斜、(3.2)衝撃エネルギーである。以下に各々の課題について説明する。
【0020】
課題3.1 扉体の横傾斜
潮位差利用の開閉操作では扉体は水底に着床した状態にあり、扉体の移動に伴い着床面に摩擦力が作用する。潮位差と摩擦力は作用高さが異なり、方向が逆であるから、扉体には回転モーメントが作用して大きな横傾斜が発生する。着床した扉体は復原力機能が消滅していて転覆する可能性がある。
【0021】
課題3.2 衝撃エネルギー
利用する潮位差が大きくて扉体搭載の推力機械(サイドスラスター)や操作
用タッグボート等で扉体コントロールが不可能な状態で閉操作を行う場合は、コントロール可能なスイング角度内で扉体を水底に着床させ、海側潮位を利用して全閉操作を行う。扉体は海側潮位に押されて陸側に移動を始め、移動速度を徐々に上げて全閉位置に至り、水底のコンクリート構造に衝突する。衝突時のエネルギーは扉体が着床位置から全閉位置に移動する間に扉体に蓄えられた運動エネルギーであり、この量が大き過ぎて衝突力が大きくなると扉体及び水底コンクリート構造が破損する可能性がある。
【0022】
課題4.扉体底部支持座の反力と衝撃力
潮流の中で扉体閉操作が行われる時に底部支持座が水底コンクリート構造に当たり、扉体慣性力の反力が支持座に作用するとともに扉体断面の回転起動に伴う衝撃力が作用する。反力と衝撃力による扉体底部支持座の損傷を回避する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
コスト的に優れた捩り構造体を使用したスイング移動方式の開閉式水門を実現するために、スイング中心支持機構、摩擦靴、扉体底部支持座、及び、潮流中の操作ステップを提供する。支持機構は3軸方向回転自由且つ移動拘束で引き力が作用する。摩擦靴は潮流エネルギーを扉体損傷回避レベル迄減勢する。扉体底部支持座の柔軟性と高強度で衝撃力が低減し反力に耐える。操作ステップの摩擦力強度選定により適切な潮流エネルギー減勢が行われる。
【0024】
または、スイング中心支持機構は2軸方向回転自由且つ3軸方向移動拘束である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】水底コンクリート構造で支えられる捩り構造ラップゲートの例である。
図2】スイング移動方式の説明図である。
図3】防潮水門の計画データ事例である。
図4】実施例1の全体図。スイング移動式水門扉の実例である。
図5図4の浮力タンク配置と扉体作用力を示す。
図6図5の操作タンクの拡大図で、浮力と予備浮力の区分を示す。
図7図5および図6の計算結果である。
図8】実施例1のスイング中心支持機構の説明図である。
図9】実施例1の摩擦靴の詳細図である。
図10】摩擦靴の説明図で傾斜前の外力作用図である。
図11】摩擦靴の説明図で傾斜後の外力作用図である。
図12】摩擦靴の靴底形状事例である。
図13】扉体単位巾に作用する外力モーメント(捩りモーメント)である。
図14】サイドスラスターのコントロール限界である。
図15】実施例1で潮流操作を行う扉体の設置現場平面図である。
図16】実施例1の潮流操作のステップを示す。
図17】実施例2のスイング中心支持機構の説明図である。
図18】実施例3の底部支持座の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図3は防潮水門の計画データ事例である。
【実施例1】
【0027】
図4は、図3のデータに基づいた実施例でスイング移動式防潮水門を示す。図4は防潮水門の海洋側から見た水門の左半分を表す。
図4aは平面図である。図4bは正面図である。
【0028】
6は全閉状態の扉体を示す。7は全開状態の扉体である。図4の水門は6又は7いずれかの状態をとる。
【0029】
8は扉体6のスイング中心、9は扉体7の格納岸壁、10は防潮水門の中心線、11はスイング中心支持機構、12はサイドスラスタ−、13は摩擦靴である。
【0030】
全開状態の扉体7は扉体内浮力タンクの浮力で水面に浮上していて、格納岸壁9に係留されている。使用時に、サイドスラスタ−12の推力でスイング中心8を中心にスイング運動して全閉状態の扉体6の位置に移動し、浮力を放出して着床する。
【0031】
図5図4の扉体7のスイング運動中を示し、扉体7の浮力タンク配置と扉体7の作用力を示す。図6図5の操作タンクの拡大図で、浮力と予備浮力の区分を示す。
【0032】
図5のタンク配置は操作タンク、均衡タンク、直立タンクの3種、作用力は操作浮力、均衡浮力、直立浮力、扉体自重W、引き力Sの5種であり、また、図4の扉体7は図6の操作タンクの予備浮力で水面に浮いている。各タンクの役割は以下の通りである。
直立タンク:引き力Sと対を成して扉体の直立性を維持する。
均衡タンク:扉体自重の過半数と均衡させ、操作タンクの容積削減を計る。
操作タンク:注排水により扉体を沈降および浮上操作する。
【0033】
図7図5図6に示す作用力、及び、タンク容積の計算結果である。計算結果は鋼排水量無視、浮力作用点は各浮力タンク中心、タンク内の自由表面影響無視、水比重=1等の仮定を含む概算値である。均衡タンクと直立タンクは中心高さはほぼ扉体重心高さと一致している。両タンクは常時水没しているので予備浮力は0であり、スイング運動中は操作タンクの予備浮力のみで水面に浮いている。図4の扉体7が全閉状態の扉体6の位置に移動した後に操作タンクに予備浮力(1126tf)分だけ注水するとタンク浮力−引き力S=9000tfとなり、扉体自重Wと釣り合う。この時に扉体7をそっと押し下げると扉体7の非支持端は沈降を開始し 図4の摩擦靴13が水底に到着して(着床)、図4の扉体6の位置に納まる。この状態での摩擦靴13の荷重は0である。操作タンクに更に注水し、その量が浮力(1074tf)に到達した時に摩擦靴13の荷重が1074tfとなる。この時の扉体6の転覆モーメントは靴荷重に比例し、直立モーメントは引き力Sに比例するので、安全率は約2.7となって扉体6の転覆が回避される(前述の課題「課題1:扉体着床時の復原力」に対応。)
【0034】
図4のスイング中心支持機構11は水底に固定された支持点であり、支持の条件は3軸方向回転自由且つ移動拘束で水門稼働中は常に引き力が作用する。図8はこの支持条件を満たす事例を示す。建設時、保守点検時、補修時、更新時は水門非稼働中であり、水門稼動中(in working condition)とは、前記以外の時期のことである。図8aはスイング中心支持機構11の正面図である。図8A図8aのAA断面である。図8B図8AのBB断面である。図8C図8BのCC断面である。図8D図8CのDD断面である。図8E図8DのEE断面(金物)である。図8aの端部支持キーはスイング中心支持機構11の機能的心臓部であり、図8A図8Eは端部支持キーの詳細を示す。図8Bのキ−の断面は図8Dに示す十文字であり、上半分は図8Bに示すキー球頭を形成している。図8Eに示す海底コンクリート埋設のアンカーレージにキー受けが固定されていて、図8Bで示す様にキーの下半分がキー受けに挿入され、両者はワイヤークリップで結合される。以上の如く海底に固定されたキー球頭は図8Bに示す扉体側に固定された球座で覆われる。球座の内側とキー球頭の外側がベアリング面となり、荷重伝達機能と摺動機能を果たす。球座の下半分は溶接で扉体側に固定され、上半分はメンテナンスの必要からボルト取り外し式である。球座の下半分には、常時、上向きの引き力Sが作用する。
【0035】
図4のスイング中心支持機構11の支持条件は3軸方向回転自由且つ移動方向拘束である。一方、波浪中のスイング運動に伴う扉体動揺は横揺(ローリング)、縦揺(ピッチング)、上下揺(デッピング)等である。扉体の動揺運動はスイング中心支持機構11の支持点位置で回転要素と移動要素を持つ。移動要素は3軸方向移動拘束の支持点で拘束されるが、回転要素は3軸方向回転自由の支持点で拘束されることが無く、扉体動揺の構造強度への影響が著しく緩和される(前述の課題「課題2:開閉操作時の扉体運動」に対応)。
【0036】
図9図4の示す摩擦靴13の詳細図である。図9aは図4bに示す扉体(実線、全閉状態)6の拡大図である。図9A図9aのAA断面である。図9B図9AのBB断面である。
【0037】
6は扉体、8はスイング中心、13は摩擦靴、14は摩擦靴13のアッパー、15は摩擦靴13の靴底に貼り付けられた摩耗材、16は扉体6の底部支持座(水密部)、17は摩耗材15の先端部、18は先端部17の円弧半径である。
【0038】
図9Aに示す摩擦靴13の靴底に張り付けられた摩耗材15の先端部17は半径18の円弧形状を成す。
【0039】
図10と11は潮位差Δhと靴摩擦力の偶力が作用している状態を示し、扉体傾斜発生前が図10、発生後が図11である。図10では重心に作用する靴荷重の真下に靴反力と靴摩擦力(=靴反力×摩擦係数)が作用し、図11では靴反力と靴摩擦力(=靴反力×摩擦係数)が半径18の位置に移動している。扉体にはβ°の傾斜により潮位差Δhの水平成分と垂直成分が作用している。その結果、靴反力と靴摩擦力は靴荷重に潮位差Δhの垂直成分が加算されている。扉体は潮位差Δhの水平成分と靴摩擦力および潮位差Δhの垂直成分と靴反力の偶力による傾斜モーメントと靴荷重と靴反力および引き力Sと直立浮力による直立モーメントが釣り合って傾斜角度β°で安定する。更に、摩擦係数が小さい場合(例えば摩擦係数<0.3)は靴荷重と靴反力の偶力が靴摩擦力と潮位差Δhの水平成分の偶力より格段に大きくて傾斜が発生することなく、扉体は直立状態を保ったまま全閉位置迄移動する(前述の課題「課題3.1扉体の横傾斜」に対応)。
【0040】
直立状態或いは小さい傾斜角度β°で移動できる靴底形状は種々考えられる。図12はその事例を示す。事例の形状組み合わせは湾曲部配置が両端部と片端部、両端壁形状が垂直と傾斜、湾曲部形状が円弧と自由曲線であるが、共通点は先端部17が凸形湾曲形状である。
【0041】
世界の潮流の速さは、瀬戸内海等に見られる特殊な地形を除けば、1.0〜3.0Kt(≒0.5〜1.5m/s)が一般的である。潮流中の扉体閉操作即ち、潮流操作はこのレベルの流速の中で行われる。
【0042】
図13は扉体の単位巾に働く外力モーメント(捩りモーメント)を高潮時と潮流操作に於ける衝突時について示している。これ等は図3のデータに基づいて算出した結果である。衝突時の外力は扉体と付加質量の慣性力で、慣性力の大きさは扉体に発生する歪みエネルギーが高潮時の歪みエネルギーに等しくなるよう設定されている。高潮時の歪みエネルギーが降伏点応力に対応したものであれば、対応する衝突時外力モーメントが近似的に扉体の構造的限界であり、その時の扉体先端速度が1〜1.5m/s、扉体底部支持座の衝撃力が321tf/mと算出された。速度の値巾は算入付加質量の差である。
【0043】
潮流操作による扉体損傷を回避する為に潮流エネルギーの減勢が必要となる場合が考えられる。その手段は摩擦靴の摩擦力、サイドスラスター、タッグボート等である。摩擦力は靴荷重が1074tf、摩擦係数が0.1である場合は約107tfとなる。図14は扉体搭載用サイドスラスターのコントロール限界事例であり、扉体が静止状態を保つことができる限界を流速と潮位差で示している。
【0044】
図15は扉体設置現場の平面図で、潮流操作を行う場合の扉体の着床位置、全閉位置、着床角度θc、潮流方向、及び、スイング中心を示している。
【0045】
図16は潮流操作に於ける扉体閉鎖ステップである。ステップ2の摩擦力=靴荷重×摩擦係数であり、靴荷重=1074−操作浮力であるので、操作浮力の適切な選定により摩擦力強度が選定される。操作浮力の選定は選定チャートによる。選定チャートはプロジェクト毎に模型水理実験と実機検証試験を行い用意する。段落0041〜0043に潮流レベル、扉体衝突速度、及び、減勢力レベルを示したが、全閉位置に到達した扉体の運動エネルギーは図16の閉操作ステップによって限界値以下に維持されていて、そこで歪みエネルギーに変換されて扉体損傷と破壊的衝撃力発生が回避される(前述の課題「課題3.2衝撃エネルギー」に対応)。
【0046】
図16のステップ3は潮流力による扉体の移動を意味する。潮流力は摩擦力で減勢されながら扉体を全閉位置迄移動して到着時速度が限界値以内に維持されるが、摩擦力=靴荷重×摩擦係数であって摩擦係数は経年変化の可能性性があるので、操作中の扉体先端速度センシングと、要すれば、サイドスラスター等による限界値維持が必要である。又、ステップ8で浮力防止装置がセットされるが、この後、操作タンクへの空気注入で扉体に浮力を持たせ、潮位低減に伴う逆方向潮流による開操作に備える。
【実施例2】
【0047】
図17図8に示すスイング中心支持機構の別の実例であり、図8が3軸方向回転自由且つ3軸方向移動拘束の支持条件を満たす事例を示すのに対し、図17は2軸方向回転自由且つ3軸方向移動拘束の支持条件を満たす事例を示す。
【0048】
図17aはスイング中心支持機構11の正面図である。図17F図17aのFF断面である。図17G図17FのGG断面である。図17H図17GのHH断面である。図17aの端部回転軸は図8aに追加された機構であり、図17F図17Hは端部回転軸の詳細を示す。図17aの端部支持キーの詳細は図8A図8Eに示す端部支持キーの詳細を適用する。図17Fに示す丸軸は水門支柱に固定されていて、長め軸孔は扉体側に固定されていて、丸軸は長め軸孔に挿入セットされている。図17Gは扉体側に固定された長め軸孔と長め軸孔に挿入セットされた丸軸を示す。丸軸の中心線はスイング中心と一致している。図17Hは水門支柱に固定された丸軸が扉体に固定された長め軸孔に挿入セットされた状態を示す。尚、長め軸孔は端部支持機構を中心とした扉体の縦揺(ピッチング)を許容する方向に長めであり、それと直角方向の横揺(ローリング)を拘束する方向は丸軸の径に対して若干のゆとりを持った径として扉体全閉時に扉体に作用する衝撃荷重や水圧荷重の支持を端末支持キーと端部支持ブラケットに委ねるよう配慮している。
【0049】
スイング運動中の扉体は図6に示す操作タンクの予備浮力のみで水面に浮いている。図4の扉体7が全閉状態の扉体6の位置に移動した後に操作タンクに予備浮力(1126tf)分だけ注水するとタンク浮力−引き力S=9000tfとなり、扉体自重Wと釣り合う。この時に扉体7をそっと押し下げると扉体7の非支持端は沈降を開始し、図4の摩擦靴13が水底に到着して(着床)図4の扉体6の位置に納まる。この状態での摩擦靴13の荷重は0である。操作タンクに更に注水し、その量が浮力(1074tf)に到達した時に摩擦靴13の荷重が1074tfとなる。この時の扉体6の転覆モーメントは靴荷重に比例した大きさとなるが、図17の丸軸により転倒が拘束されているので引き力Sの直立モーメントに依存することなく扉体6の転覆が回避される(前述の課題「課題1:扉体着床時の復原力」に対応 。 )
【0050】
波浪中のスイング運動に伴う扉体動揺は横揺(ローリング)、縦揺(ピッチング)、上下揺(デッピング)等である。扉体の動揺運動はスイング中心支持機構11の支持点位置で回転要素と移動要素を持つ。移動要素は3軸方向移動拘束の支持点で拘束されるが、回転要素は2軸方向回転自由の支持点で縦揺は拘束されることが無く、上下揺の一部は縦揺に変換される。大きな横揺(ローリング)は図17の丸軸により拘束されるので構造強度への影響が若干大きくなるが、横揺の拘束力は小さいので、適切な配慮で影響を緩和することが可能である(前述の課題「課題2:開閉操作時の扉体運動」に対応)。
【0051】
潮位差Δhを利用して開閉操作を行う過程で潮位差Δhの水平成分と靴摩擦力および潮位差Δhの垂直成分と靴反力の偶力による傾斜モーメントが扉体に作用するが、大きな傾斜は図17の丸軸で拘束されるので、扉体は直立状態を保ったまま全閉位置迄移動する(前述の課題「課題3.1 扉体の横傾斜」に対応)。
【実施例3】
【0052】
図18は柔軟性と高強度を備えた底部支持座の事例を示す。図18aは底部支持座と扉体底部の関係位置を示す断面図である。図8A図18aの詳細Aである。図18B図18Aの断面Bである。
【0053】
潮位差Δhを利用して扉体の閉操作を行う時に扉体が陸側海底のコンクリート構造に接触する箇所が底部支持座であり、支持座は衝突と同時に扉体断面の回転起動に伴う衝撃力を受け、又、運動エネルギーの歪みエネルギーへの変換に伴う反力を受ける。反力は慣性力に対応するもので零から始まり、エネルギー変換終了時点で最大値に達する。支持座は異なる性質の力に対応する為に柔軟性と同時に高強度が必要である。図18Aはゴム等の柔軟材の中に鋼等の剛材を埋め込んだ状態を示す。図18Bは柔軟材と剛材が扉体の長さ方向に連続している状態を示す。この構造により支持座は衝突時の初期に柔軟性を維持する。柔軟材が圧縮を受けると剛材に囲まれた内部の柔軟材は3軸応力(静水圧応力)状態に近づく。物質は3軸応力状態で著しく降伏点が高まる性質がある。例えばローラとレールの接触面応力が破断強度を越えた状態で稼働するのはこの現象が背景である。衝突初期の柔軟性で扉体断面の回転起動に伴う衝撃力を和らげ、圧縮後の高強度で慣性力の大きな反力に耐えることができる(前述の課題 課題4 扉体底部支持座の反力と衝撃力」に対応)。
【符号の説明】
【0054】
1 扉体(実線、全閉状態 (フラップ) )
2 扉体(点線、全開状態 (フラップ) )
3 回転中心(フラップ)
4 コンクリート構造(フラップ)
5 木座(フラップ)
6 扉体(実線、全閉状態 (スイング) )
7 扉体(点線、全開状態 (スイング) )
8 スイング中心
9 格納岸壁(スイング)
10 防潮水門の中心線(スイング)
11 スイング中心支持機構
12 サイドスラスタ−
13 摩擦靴
14 アッパー(摩擦靴)
15 摩耗材(摩擦靴)
16 底部支持座(水密部)
17 先端部(摩耗材)
18 円弧半径(先端部)
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