【実施例1】
【0027】
図4は、
図3のデータに基づいた実施例でスイング移動式防潮水門を示す。
図4は防潮水門の海洋側から見た水門の左半分を表す。
図4aは平面図である。
図4bは正面図である。
【0028】
6は全閉状態の扉体を示す。7は全開状態の扉体である。
図4の水門は6又は7いずれかの状態をとる。
【0029】
8は扉体6のスイング中心、9は扉体7の格納岸壁、10は防潮水門の中心線、11はスイング中心支持機構、12はサイドスラスタ−、13は摩擦靴である。
【0030】
全開状態の扉体7は扉体内浮力タンクの浮力で水面に浮上していて、格納岸壁9に係留されている。使用時に、サイドスラスタ−12の推力でスイング中心8を中心にスイング運動して全閉状態の扉体6の位置に移動し、浮力を放出して着床する。
【0031】
図5は
図4の扉体7のスイング運動中を示し、扉体7の浮力タンク配置と扉体7の作用力を示す。
図6は
図5の操作タンクの拡大図で、浮力と予備浮力の区分を示す。
【0032】
図5のタンク配置は操作タンク、均衡タンク、直立タンクの3種、作用力は操作浮力、均衡浮力、直立浮力、扉体自重W、引き力Sの5種であり、また、
図4の扉体7は
図6の操作タンクの予備浮力で水面に浮いている。各タンクの役割は以下の通りである。
直立タンク:引き力Sと対を成して扉体の直立性を維持する。
均衡タンク:扉体自重の過半数と均衡させ、操作タンクの容積削減を計る。
操作タンク:注排水により扉体を沈降および浮上操作する。
【0033】
図7は
図5と
図6に示す作用力、及び、タンク容積の計算結果である。計算結果は鋼排水量無視、浮力作用点は各浮力タンク中心、タンク内の自由表面影響無視、水比重=1等の仮定を含む概算値である。均衡タンクと直立タンクは中心高さはほぼ扉体重心高さと一致している。両タンクは常時水没しているので予備浮力は0であり、スイング運動中は操作タンクの予備浮力のみで水面に浮いている。
図4の扉体7が全閉状態の扉体6の位置に移動した後に操作タンクに予備浮力(1126tf)分だけ注水するとタンク浮力−引き力S=9000tfとなり、扉体自重Wと釣り合う。この時に扉体7をそっと押し下げると扉体7の非支持端は沈降を開始し
図4の摩擦靴13が水底に到着して(着床)、
図4の扉体6の位置に納まる。この状態での摩擦靴13の荷重は0である。操作タンクに更に注水し、その量が浮力(1074tf)に到達した時に摩擦靴13の荷重が1074tfとなる。この時の扉体6の転覆モーメントは靴荷重に比例し、直立モーメントは引き力Sに比例するので、安全率は約2.7となって扉体6の転覆が回避される(前述の課題「課題1:扉体着床時の復原力」に対応。)
【0034】
図4のスイング中心支持機構11は水底に固定された支持点であり、支持の条件は3軸方向回転自由且つ移動拘束で水門稼働中は常に引き力が作用する。
図8はこの支持条件を満たす事例を示す。建設時、保守点検時、補修時、更新時は水門非稼働中であり、水門稼動中(in working condition)とは、前記以外の時期のことである。
図8aはスイング中心支持機構11の正面図である。
図8Aは
図8aのAA断面である。
図8Bは
図8AのBB断面である。
図8Cは
図8BのCC断面である。
図8Dは
図8CのDD断面である。
図8Eは
図8DのEE断面(金物)である。
図8aの端部支持キーはスイング中心支持機構11の機能的心臓部であり、
図8A〜
図8Eは端部支持キーの詳細を示す。
図8Bのキ−の断面は
図8Dに示す十文字であり、上半分は
図8Bに示すキー球頭を形成している。
図8Eに示す海底コンクリート埋設のアンカーレージにキー受けが固定されていて、
図8Bで示す様にキーの下半分がキー受けに挿入され、両者はワイヤークリップで結合される。以上の如く海底に固定されたキー球頭は
図8Bに示す扉体側に固定された球座で覆われる。球座の内側とキー球頭の外側がベアリング面となり、荷重伝達機能と摺動機能を果たす。球座の下半分は溶接で扉体側に固定され、上半分はメンテナンスの必要からボルト取り外し式である。球座の下半分には、常時、上向きの引き力Sが作用する。
【0035】
図4のスイング中心支持機構11の支持条件は3軸方向回転自由且つ移動方向拘束である。一方、波浪中のスイング運動に伴う扉体動揺は横揺(ローリング)、縦揺(ピッチング)、上下揺(デッピング)等である。扉体の動揺運動はスイング中心支持機構11の支持点位置で回転要素と移動要素を持つ。移動要素は3軸方向移動拘束の支持点で拘束されるが、回転要素は3軸方向回転自由の支持点で拘束されることが無く、扉体動揺の構造強度への影響が著しく緩和される(前述の課題「課題2:開閉操作時の扉体運動」に対応)。
【0036】
図9は
図4の示す摩擦靴13の詳細図である。
図9aは
図4bに示す扉体(実線、全閉状態)6の拡大図である。
図9Aは
図9aのAA断面である。
図9Bは
図9AのBB断面である。
【0037】
6は扉体、8はスイング中心、13は摩擦靴、14は摩擦靴13のアッパー、15は摩擦靴13の靴底に貼り付けられた摩耗材、16は扉体6の底部支持座(水密部)、17は摩耗材15の先端部、18は先端部17の円弧半径である。
【0038】
図9Aに示す摩擦靴13の靴底に張り付けられた摩耗材15の先端部17は半径18の円弧形状を成す。
【0039】
図10と11は潮位差Δhと靴摩擦力の偶力が作用している状態を示し、扉体傾斜発生前が
図10、発生後が
図11である。
図10では重心に作用する靴荷重の真下に靴反力と靴摩擦力(=靴反力×摩擦係数)が作用し、
図11では靴反力と靴摩擦力(=靴反力×摩擦係数)が半径18の位置に移動している。扉体にはβ°の傾斜により潮位差Δhの水平成分と垂直成分が作用している。その結果、靴反力と靴摩擦力は靴荷重に潮位差Δhの垂直成分が加算されている。扉体は潮位差Δhの水平成分と靴摩擦力および潮位差Δhの垂直成分と靴反力の偶力による傾斜モーメントと靴荷重と靴反力および引き力Sと直立浮力による直立モーメントが釣り合って傾斜角度β°で安定する。更に、摩擦係数が小さい場合(例えば摩擦係数<0.3)は靴荷重と靴反力の偶力が靴摩擦力と潮位差Δhの水平成分の偶力より格段に大きくて傾斜が発生することなく、扉体は直立状態を保ったまま全閉位置迄移動する(前述の課題「課題3.1扉体の横傾斜」に対応)。
【0040】
直立状態或いは小さい傾斜角度β°で移動できる靴底形状は種々考えられる。
図12はその事例を示す。事例の形状組み合わせは湾曲部配置が両端部と片端部、両端壁形状が垂直と傾斜、湾曲部形状が円弧と自由曲線であるが、共通点は先端部17が凸形湾曲形状である。
【0041】
世界の潮流の速さは、瀬戸内海等に見られる特殊な地形を除けば、1.0〜3.0Kt(≒0.5〜1.5m/s)が一般的である。潮流中の扉体閉操作即ち、潮流操作はこのレベルの流速の中で行われる。
【0042】
図13は扉体の単位巾に働く外力モーメント(捩りモーメント)を高潮時と潮流操作に於ける衝突時について示している。これ等は
図3のデータに基づいて算出した結果である。衝突時の外力は扉体と付加質量の慣性力で、慣性力の大きさは扉体に発生する歪みエネルギーが高潮時の歪みエネルギーに等しくなるよう設定されている。高潮時の歪みエネルギーが降伏点応力に対応したものであれば、対応する衝突時外力モーメントが近似的に扉体の構造的限界であり、その時の扉体先端速度が1〜1.5m/s、扉体底部支持座の衝撃力が321tf/mと算出された。速度の値巾は算入付加質量の差である。
【0043】
潮流操作による扉体損傷を回避する為に潮流エネルギーの減勢が必要となる場合が考えられる。その手段は摩擦靴の摩擦力、サイドスラスター、タッグボート等である。摩擦力は靴荷重が1074tf、摩擦係数が0.1である場合は約107tfとなる。
図14は扉体搭載用サイドスラスターのコントロール限界事例であり、扉体が静止状態を保つことができる限界を流速と潮位差で示している。
【0044】
図15は扉体設置現場の平面図で、潮流操作を行う場合の扉体の着床位置、全閉位置、着床角度θc、潮流方向、及び、スイング中心を示している。
【0045】
図16は潮流操作に於ける扉体閉鎖ステップである。ステップ2の摩擦力=靴荷重×摩擦係数であり、靴荷重=1074−操作浮力であるので、操作浮力の適切な選定により摩擦力強度が選定される。操作浮力の選定は選定チャートによる。選定チャートはプロジェクト毎に模型水理実験と実機検証試験を行い用意する。段落0041〜0043に潮流レベル、扉体衝突速度、及び、減勢力レベルを示したが、全閉位置に到達した扉体の運動エネルギーは
図16の閉操作ステップによって限界値以下に維持されていて、そこで歪みエネルギーに変換されて扉体損傷と破壊的衝撃力発生が回避される(前述の課題「課題3.2衝撃エネルギー」に対応)。
【0046】
図16のステップ3は潮流力による扉体の移動を意味する。潮流力は摩擦力で減勢されながら扉体を全閉位置迄移動して到着時速度が限界値以内に維持されるが、摩擦力=靴荷重×摩擦係数であって摩擦係数は経年変化の可能性性があるので、操作中の扉体先端速度センシングと、要すれば、サイドスラスター等による限界値維持が必要である。又、ステップ8で浮力防止装置がセットされるが、この後、操作タンクへの空気注入で扉体に浮力を持たせ、潮位低減に伴う逆方向潮流による開操作に備える。
【実施例2】
【0047】
図17は
図8に示すスイング中心支持機構の別の実例であり、
図8が3軸方向回転自由且つ3軸方向移動拘束の支持条件を満たす事例を示すのに対し、
図17は2軸方向回転自由且つ3軸方向移動拘束の支持条件を満たす事例を示す。
【0048】
図17aはスイング中心支持機構11の正面図である。
図17Fは
図17aのFF断面である。
図17Gは
図17FのGG断面である。
図17Hは
図17GのHH断面である。
図17aの端部回転軸は
図8aに追加された機構であり、
図17F〜
図17Hは端部回転軸の詳細を示す。
図17aの端部支持キーの詳細は
図8A〜
図8Eに示す端部支持キーの詳細を適用する。
図17Fに示す丸軸は水門支柱に固定されていて、長め軸孔は扉体側に固定されていて、丸軸は長め軸孔に挿入セットされている。
図17Gは扉体側に固定された長め軸孔と長め軸孔に挿入セットされた丸軸を示す。丸軸の中心線はスイング中心と一致している。
図17Hは水門支柱に固定された丸軸が扉体に固定された長め軸孔に挿入セットされた状態を示す。尚、長め軸孔は端部支持機構を中心とした扉体の縦揺(ピッチング)を許容する方向に長めであり、それと直角方向の横揺(ローリング)を拘束する方向は丸軸の径に対して若干のゆとりを持った径として扉体全閉時に扉体に作用する衝撃荷重や水圧荷重の支持を端末支持キーと端部支持ブラケットに委ねるよう配慮している。
【0049】
スイング運動中の扉体は
図6に示す操作タンクの予備浮力のみで水面に浮いている。
図4の扉体7が全閉状態の扉体6の位置に移動した後に操作タンクに予備浮力(1126tf)分だけ注水するとタンク浮力−引き力S=9000tfとなり、扉体自重Wと釣り合う。この時に扉体7をそっと押し下げると扉体7の非支持端は沈降を開始し、
図4の摩擦靴13が水底に到着して(着床)
図4の扉体6の位置に納まる。この状態での摩擦靴13の荷重は0である。操作タンクに更に注水し、その量が浮力(1074tf)に到達した時に摩擦靴13の荷重が1074tfとなる。この時の扉体6の転覆モーメントは靴荷重に比例した大きさとなるが、
図17の丸軸により転倒が拘束されているので引き力Sの直立モーメントに依存することなく扉体6の転覆が回避される(前述の課題「課題1:扉体着床時の復原力」に対応 。 )
【0050】
波浪中のスイング運動に伴う扉体動揺は横揺(ローリング)、縦揺(ピッチング)、上下揺(デッピング)等である。扉体の動揺運動はスイング中心支持機構11の支持点位置で回転要素と移動要素を持つ。移動要素は3軸方向移動拘束の支持点で拘束されるが、回転要素は2軸方向回転自由の支持点で縦揺は拘束されることが無く、上下揺の一部は縦揺に変換される。大きな横揺(ローリング)は
図17の丸軸により拘束されるので構造強度への影響が若干大きくなるが、横揺の拘束力は小さいので、適切な配慮で影響を緩和することが可能である(前述の課題「課題2:開閉操作時の扉体運動」に対応)。
【0051】
潮位差Δhを利用して開閉操作を行う過程で潮位差Δhの水平成分と靴摩擦力および潮位差Δhの垂直成分と靴反力の偶力による傾斜モーメントが扉体に作用するが、大きな傾斜は
図17の丸軸で拘束されるので、扉体は直立状態を保ったまま全閉位置迄移動する(前述の課題「課題3.1 扉体の横傾斜」に対応)。