(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1磁性コアと、当該第1磁性コアに巻かれた第1検出コイルと、を有し、当該第1磁性コアに励磁用交流電流及び励磁用直流電流が印加され、延在方向の磁界に応じた検出電圧を出力する第1センサヘッドと、
第2磁性コアと、当該第2磁性コアに巻かれた第2検出コイルと、を有し、当該第2磁性コアに励磁用交流電流及び励磁用直流電流が印加され、延在方向の磁界に応じた検出電圧を出力する第2センサヘッドと、
前記第1センサヘッドが出力する検出電圧と、前記第2センサヘッドが出力する検出電圧と、の合成電圧が入力され、当該合成電圧に応じた勾配磁界検出信号を出力するセンサ回路と、
を備え、
前記第1センサヘッド及び前記第2センサヘッドは、
互いに離間されながら、各々の延在方向が同一軸線上又は平行となるように配置されるとともに、同一方向の磁界に対して出力する前記検出電圧が互いに打ち消し合うように接続されており、
前記第1磁性コア、前記第2磁性コアの少なくとも一方に印加される前記励磁用直流電流を、独立に変更可能とする励磁調整部を更に備える
勾配磁界センサ。
前記第1検出コイル及び前記第2検出コイルは、各々の一端が結線され、前記第1検出コイルの他端がグラウンドに接続され、前記第2検出コイルの他端が前記センサ回路に接続されている
請求項1に記載の勾配磁界センサ。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Pannetier-Lecoeur, L. Parkkonen, N. Sergeeva-Chollet, H. Polovy, C. Fermon, and C. Fowley : “Magnetocardiography with sensors based on giant magnetoresistance”, PHYSICS LETTERS 98, 153705"(2011)
【非特許文献2】Svenja Knappe, Tilmann H. Sander, Olaf Kosch, Frank Wiekhorst, John Kitching, and Lutz Trahms : “Cross-validation of microfabricated atomic magnetometers with superconducting quantum interference devices for biomagnetic applications” PHYSICS LETTERS 97, 133703 (2010)
【非特許文献3】G. Bison, N. Castagna, A. Hofer, P. Knowles, J.-L. Schenker, M. Kasprzak, H. Saudan, and A. Weis : “A room temperature 19-channel magnetic field mapping device for cardiac signals”, PHYSICS LETTERS 95, 173701 (2009)
【非特許文献4】原田翔夢・笹田一郎・韓峰:「一次元フラックスゲートアレイの製作と心臓磁界測定への適用」,電気学会論文誌A,Vol.133,No.6 pp.333-338 (2013)
【非特許文献5】I.Sasada :“Orthogonal fluxgate mechanism operated with dc biased excitation” Journal of Applied Physics, Vol.91, No.10, (2002) 7789-7791
【非特許文献6】M.Butta, and I.Sasada, : “Orthogonal Fluxgate With Annealed Wire Core”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, Vol.49, No.1, pp.62-65 (2013)
【非特許文献7】Jose M.G.Merayo, P.Brauer, and F.Primdahl : “Triaxial fluxgate gradiometer of high stability and linearity”, SENSORS AND ACTUATORS A-PHYSICAL, Vol.120, No.1, pp.71-77 (2005)
【非特許文献8】P.Ripka, and P.Navratil : “Fluxgate sensor for magnetopneumometry”, SENSORS AND ACTUATORS A-PHYSICAL Vol.60, No.1-3, pp.76-79(1997)
【非特許文献9】J.Tomek, A.Platil, P.Ripka, and P.Kaspar: “Application of fluxgate gradiometer in magnetopneumography”, SENSORS AND ACTUATORS A-PHYSICAL Vol.132, No.1, pp.214-217(2006)
【非特許文献10】笹田一郎・村上雅則:「負帰還構成にした基本波型直交フラックスゲートの動作と特性」,電気学会研究会資料,MAG-08-133 (2008)
【非特許文献11】I.Sasada and Y.Nakashima :“Planar coil system consisting of three coil pairs for producing a uniform magnetic field”, J. Appl.Phys., Vol.99, No.8 (2006)
【非特許文献12】Y.Nakashima, Y.Suzuki, I.Sasada, M.Shimada, and T.Takeda :“Experimental Study of the Active Compensation to a Full-SizeSeparate-Shell Magnetic Shield”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, Vol.46, No.6 (2010)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る勾配磁界センサについて図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る勾配磁界センサの機能構成を示す図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る勾配磁界センサ4(グラディオメータ)は、いわゆる基本波型直交フラックスゲートセンサヘッド(FM−OFG:fundamental mode orthogonal fluxgate)を構成する2つのセンサヘッド1、2と、フラックスゲートセンサ回路3(センサ回路)と、を備えている。
【0017】
センサヘッド1(第1センサヘッド)は、磁性コア110(第1磁性コア)と、検出コイル11(第1検出コイル)と、を有してなる。また、センサヘッド2(第2センサヘッド)は、磁性コア120(第2磁性コア)と、検出コイル12(第2検出コイル)と、を有してなる。
磁性コア110及び磁性コア120は、例えば、U字型(又はヘアピン型)に形成されたCo基アモルファスワイヤにより構成される。なお、他の実施形態において、磁性コア110及び磁性コア120(磁性ワイヤ)に用いる材料は、導電率が高く適切な軟磁性を有する材料であればこれに限定されない。
検出コイル11は、磁性コア110の周囲を包むように、その延在方向(Z軸線)回りに巻かれてなるコイルである。同様に、検出コイル12は、磁性コア120の周囲を囲うように、その延在方向回りに巻かれてなるコイルである。
検出コイル11及び検出コイル12は、例えば、巻き数が1000巻とされる。
【0018】
本実施形態において、センサヘッド1及びセンサヘッド2は、各々の磁性コア(磁性コア110、120)の延在方向が同一軸(Z軸)線上となるように配置される。このとき、センサヘッド1とセンサヘッド2とは、離間距離lだけ離れて配置される(
図1参照)。なお、−Z方向側(紙面下方側)に配されるセンサヘッドをセンサヘッド1とし、+Z方向側(紙面上方側)に配されるセンサヘッドをセンサヘッド2とする。
【0019】
図1に示すように、磁性コア110と磁性コア120とは、交流電源VEXと、その振幅より大きな値を持つ直流電源Eと、直列に接続される。交流電源VEX及び直流電源Eが、磁性コア110、磁性コア120に対し所定の交流電圧及び直流電圧を印加して通電することで、センサヘッド1、2が励磁される。これにより、センサヘッド1、2は、各々の延在方向に沿う磁界に応じた検出電圧を出力可能な、いわゆる直交フラックスゲートセンサ(基本波型直交フラックスゲート(MF−OFG:Fundamental mode orthogonal fluxgate))をなす。これにより、バルクハウゼンノイズの低減及びセンサの高感度化を図ることができる。
【0020】
また、
図1に示すように、検出コイル11と、検出コイル12とは、直列接続となるように各々の一端が電気配線で結線される。また、検出コイル12の他端側がフラックスゲートセンサ回路3に接続されるとともに、検出コイル11の他端側がグラウンドに接続される。また、検出コイル11と、検出コイル12とは、同一方向の磁界に対して生じる誘起電圧(検出電圧V
1、V
2)が互いに打ち消し合うように(互いの極性が逆向きとなるように)接続される。これにより、同一方向の磁界に対しては、センサヘッド1の検出電圧V
1及びセンサヘッド2の検出電圧V
2の合成電圧(センサ出力)として、それぞれのセンサヘッド1、2から出力される検出電圧の差分を取ったもの(V
2−V
1)が現れる。
このようにすることで、遠方から到達してくるような一様磁気雑音に関しては、センサヘッド1、2の両方で同様にピックアップされてセンサ出力には現れない。しかし、心磁界の様に局所的な磁界に対しては、一方のセンサヘッド(例えば、センサヘッド2)でのみピックアップされるので、センサ出力として観測される。これにより、一様磁気雑音を除去して信号を検出する事ができるようになり、対雑音性能を向上させることができる。
【0021】
フラックスゲートセンサ回路3は、同期検波回路30(PSD:Phase Sensitive Detector)、平滑回路31(smoothing filter)、誤差増幅器32(Error Amplifier)、及び、ローパスフィルタ33を有して負帰還回路(非特許文献10参照)を構成する。
センサヘッド1、2からのセンサ出力V
2−V
1は、コンデンサC、同期検波回路30(PSD:Phase Sensitive Detector)及び平滑回路31(smoothing filter)を通じて、センサ出力V
2−V
1に応じた一定電圧となって、誤差増幅器32(Error Amplifier)に送られる。その後、誤差増幅器32への入力(センサ出力V
2−V
1)が0になるように、帰還抵抗R
fを通して帰還電流i
fが検出コイル11、12に流れる。このときに帰還抵抗R
f間に生じる電圧の変位(勾配磁界検出信号Vo)がセンサ出力V
2−V
1に相当する。なお、同期検波回路30で生じるスイッチングリプルを低減するため、勾配磁界検出信号Voは、ローパスフィルタ33を介して出力される。
負帰還電流i
fは、センサヘッド1においては磁性コア110への入力磁界Hを強める方向に磁界n・i
fを生成し、センサヘッド2においては入力磁界H+lGを打ち消す方向に磁界n・i
fを生成する。
【0022】
ここで、上述した負帰還構成のフラックスゲートセンサ回路3を用いた場合に、一様磁界Hの環境下で磁界勾配Gを検出すると仮定する。すると、センサヘッド1において検出される磁界の大きさΔH1と、センサヘッド2において検出される磁界の大きさΔH2は、次のように表される。ここで、以下の各式において“l”は2つのセンサヘッド1、2間の離間距離lであり、“n”は検出コイル11、12の巻き線密度n、“i
f”はフラックスゲートセンサ回路3からセンサヘッド1、2への帰還電流i
fを表している。
【0025】
センサヘッド1とセンサヘッド2との検出感度は所定の係数Kで等しいとすると、センサヘッド1の検出電圧V
1とセンサヘッド2の検出電圧V2とは、式(1)、(2)より次式で表される。
【0028】
式(3)、(4)より、フラックスゲートセンサ回路3へ印加される検出コイル11、12のセンサ出力V
2−V
1は次式のようになる。
【0030】
この時点で、一様磁界Hは除去されている事がわかる。負帰還構成のフラックスゲートセンサ回路3では、このセンサ出力V
2−V
1を0にするように負帰還電流i
fが流れる。これにより、負帰還電流は次のように導出される。
【0032】
このとき、勾配磁界センサ4の最終出力である勾配磁界検出信号Voは、帰還抵抗R
fにかかる電圧R
f・i
fより与えられるので、勾配磁界検出信号Voは、離間距離l及び磁界勾配G(lG)に比例するが、一様磁界Hの影響は受けないことがわかる。このように、2つのセンサヘッド1、2をグラディオメータとすることで一様磁界Hを打ち消して、勾配磁界Gの検出が出来るということが式からも確認できる。外部磁気雑音は一様磁界Hに、心磁界等の局所磁界は磁界勾配Gに相当すると見なせるため、本実施形態に係る勾配磁界センサ4を使用する事で外部磁気雑音の影響を無くした信号検出が可能となる。
【0033】
図2は、第1の実施形態に係る勾配磁界センサの調整方法を説明する図である。
次に、第1の実施形態に係る勾配磁界センサ4の感度の調整方法について、
図2を参照しながら説明する。
第1の実施形態に係る勾配磁界センサ4によれば、一様磁界Hの影響をなくす事ができることを式(5)で示したが、この式(5)が成り立つのはセンサヘッド1とセンサヘッド2で感度(係数K)が完全に等しい場合である。センサヘッド1、2の感度が異なると、一様磁界Hは完全には打ち消されず、勾配磁界検出信号Voに影響を与える。実際のセンサヘッド1、2の感度は、磁性コア110、120の励磁条件を同じにしても製作時に生じる個体差によって、センサヘッド1、2で若干異なる。
【0034】
本実施形態においては、磁性コア110、120への励磁電流を調整する方法が有効である。本実施形態に係る勾配磁界センサ4は、基本波型直交フラックスゲートをなすため、磁性コア110、120に対し、交流電源VEXによる交流電圧、及び、直流電源Eによる直流電圧をバイアスして、センサヘッド1、2を励磁している。基本波型直交フラックスゲートにおいては、励磁用交流電流(交流電源VEXの交流電圧の印加により流れる電流)を一定とした場合、センサヘッド1、2の感度(係数K)は、励磁用直流電流(直流電源Eの直流電圧の印加により流れる電流)に対し、単調減少の関係を有することが知られている。
そこで、本実施形態に係る勾配磁界センサ4のうち、
図1に示す交流電源VEX及び直流電源Eは、実際には、
図2に示すような回路構成とされる。
【0035】
図2に示すような回路構成によれば、交流電源VEXによる交流電圧は、抵抗R1を通じて、直列接続された磁性コア110、120の各々に印加される。これにより、磁性コア110、120には、抵抗R2、R3に基づく共通の交流電流Iac(励磁用交流電流)が流れる。また、直流電源Eによる直流電圧も、直列接続された磁性コア110、120の各々に印加され、これにより、磁性コア110、120には、抵抗R2、R3に基づく共通の直流電流Idc1(励磁用直流電流)が流れる。
また、直流電源E’(実際には、バッテリー等)が出力する直流電圧は、可変抵抗Rvを通じて磁性コア120にのみ印加される。これにより、磁性コア110には、可変抵抗Rvに基づく直流電流Idc2(励磁用直流電流)が更に流れる。
このように、直流電源E’及び可変抵抗Rvは、センサヘッド1の磁性コア110に印加される励磁用直流電流を、センサヘッド2に対し独立に変更可能とする励磁調整部として機能する。ただし、
図2に示す回路構成は、センサヘッド1(センサヘッド2)の磁性コア110(120)に印加される励磁用直流電流を独立に変更可能とする手段の一例であって、
図2に示す回路構成には限定されない。他の回路構成例については後述する(
図15参照)。
【0036】
勾配磁界センサ4のオペレータは、可変抵抗Rvの抵抗値を所望に設定することで、センサヘッド2の励磁を独立して調整することができる。即ち、センサヘッド2の感度(係数K)がセンサヘッド1の感度よりも大きいときは、直流電流Idc2を大きくする(可変抵抗Rvの抵抗値を減少させる)ことで、センサヘッド1、2の感度を同一とすることができる。反対に、センサヘッド1の感度(係数K)がセンサヘッド2の感度よりも大きいときは、直流電流Idc2を小さくする(可変抵抗Rvの抵抗値を増加させる)ことで、センサヘッド1、2の感度を同一とすることができる。
【0037】
図3、
図4、
図5は、ぞれぞれ、第1の実施形態に係るセンサヘッドの構成を説明する第1の図、第2の図、第3の図である。
図3は、センサヘッド1の構成例を示す写真である。
図3に示すように、検出コイル11、12の延在方向の長さ(センサヘッド長L)は、例えば30mmとされる。また、検出コイル11、12の延直径は、例えば3mmとされる。
図4は、2つのセンサヘッド1、2の配置例を示している。本実施形態においては、センサヘッド1、2は、
図4に示すように、同軸線上(Z軸線上、
図1参照)に離間距離lをもって配される。離間距離lは、具体的には、センサヘッド1、2各々の中心位置間の距離であって、例えば50mmとされる。
図5は、2つのセンサヘッド1、2のホルダーの例を示している。
図5に示すように、2つのセンサヘッド1、2を精確に同一軸線上(
図4参照)に配置できるように、プラスチックカバー内にセンサヘッド1、2の2個を格納している。なお、本実施形態においては、
図5左側に配される突起にはセンサヘッド1が格納されており、
図5右側のプラスチックカバー本体には、センサヘッド2が格納されている。
【0038】
交流電源VEXは、例えば、100kHzで実効値12mAの交流電流(励磁用交流電流)が流れるように調整される。また、直流電源Eは、約40mAの直流電流が流れるように調整される。
【0039】
図6A、
図6Bは、それぞれ、第1の実施形態に係る勾配磁界センサの評価方法を説明する第1の図、第2の図である。
勾配磁界センサ4の評価には、三組の円形コイルを組み合わせたヘルムホルツコイル5(非特許文献11参照)を使用している。ヘルムホルツコイル5は、左右のコイルで同じ向きに励磁電流ieを流すと一様磁界を発生させる事ができる(
図6A)。本評価例では、例えば、3.5mAの励磁電流ieで、1.0μTの一様磁界を発生させることができる。
一方、励磁電流ieを逆向きに電流を流すと、ヘルムホルツコイル5間の中心の磁界を0とした磁界勾配を発生させる事ができる(
図6B)。3.5mAの励磁電流ieで、2.25μT/mの磁界勾配を発生させることができる。
なお、評価において、一様磁界の環境ノイズ成分を除去するため、ヘルムホルツコイル5には、例えば、5Hzの交流電流を流して評価を行う。また、地磁気の影響を避けるため、センサヘッド1、2の延在方向(Z軸、
図1参照)が東西を向くように配置している。
実際に、ヘルムホルツコイルを用いて勾配磁界を発生させて、勾配磁界に対する勾配磁界センサ4の感度を測定した結果、離間距離l=5cmにおいて5.98mV/(μT/m)を得ることができる。
【0040】
図7は、第1の実施形態に係る勾配磁界センサの評価結果を説明する第1の図である。
具体的には、
図7に示すグラフは、横軸に、センサヘッド2にのみ流れる直流電流Idc2を示しており、縦軸に、当該直流電流Idc2に応じた抑圧比(Suppression ratio)を示している。ここで、「抑圧比」は、1μTの一様磁界に対して、本実施形態に係る勾配磁界センサ4(グラディオメータ)として観測した場合と、センサヘッド2を取り外してマグネトメータとして観測した場合と、の勾配磁界検出信号Voの比としている。
【0041】
図7に示す測定結果には、勾配磁界センサ4に用いるセンサヘッド2として試作された3つのセンサヘッド(センサヘッドHead1、Head2、Head3)の各々につき、可変抵抗R2によるセンサヘッド2への直流電流Idc2(
図2参照)を調整した結果、一様磁界に対するセンサヘッド1、2の応答がどのように変化するかが示されている。
図7に示す測定においては、5HzのFFT(Fast Fourier Transform)処理により勾配磁界検出信号Voの出力強度(振幅)のみを取得している。
図7に示す通り、試作したいずれのセンサヘッドHead1〜Head3もV字状の特性を示しており、直流電流Idc2を、2mA以内の調整レンジで、センサヘッドHead1〜Head3の各々に対応する値に調整することで、抑圧比を最小化することができる。
【0042】
図8は、第1の実施形態に係る勾配磁界センサの評価結果を説明する第2の図である。
具体的には、
図8は、
図7に示すセンサヘッドHead1を用いた場合における勾配磁界検出信号Voの波形を示している。
図7に示す通り、センサヘッドHead1における直流電流Idc2の最適条件は、Idc2=0.28mAである。この場合において、
図8によれば、勾配磁界検出信号Voの振幅が最小化していることがわかる。Idc2=0.28mAにおける出力信号Voの振幅は、Idc2=0mA(調整なし)の場合に比べて、一様磁界に基づく勾配磁界検出信号Voの出力強度を1/42にまで低減できることがわかる。
【0043】
図9は、第1の実施形態に係る勾配磁界センサの評価結果を説明する第3の図である。
図9に示す表は、試作した3つのセンサヘッドHead1、Head2、Head3における、未調整時(Idc2=0)の場合の抑圧比の逆数(1/Supp.ratio)と、各センサヘッドHead1〜Head3の最適条件に設定したときの抑圧比の逆数と、をまとめている。
図9によれば、より調和した組が、より少ない直流電流Idc2を要することが分かる。また、直流電流Idc2未調整であっても抑圧比は、1/60〜1/150となる。
【0044】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る勾配磁界センサ4の場合について説明する。
図10は、第2の実施形態に係るセンサヘッドの構成を説明する図である。
第2の実施形態に係る勾配磁界センサ4において、センサヘッド1、2は、
図10に示すように、離間距離l(50mm)をもって、各々の延在方向が互いに平行となるように配されている。
【0045】
図11、
図12、
図13は、それぞれ、第2の実施形態に係る勾配磁界センサの評価結果を説明する第1の図、第2の図、第3の図である。
図11に示すグラフは、
図7と同様、横軸に、センサヘッド2にのみ流れる直流電流Idc2を示しており、縦軸に、当該直流電流Idc2の変化に応じた抑圧比(Suppression ratio)を示している。
【0046】
図11に示す特性は、
図7とは若干異なるものの、センサヘッド1、2の延在方向が平行に配された場合(第2の実施形態)であっても、同一軸線上に配された場合(第1の実施形態)と同様の調整レンジで高い抑圧比を得られることが分かる。
また、一様磁界と直流電流Idc2との依存性を調査したところ、その依存性は高くないことが判明されている。例えば、一様磁界が1μT〜5μTの範囲では、高い抑圧比を得るための直流電流Idc2は、5%の上昇に留まる。
【0047】
図12は、試作した3つのセンサヘッドHead1、Head2、Head3における、未調整時(Idc2=0)の場合の抑圧比の逆数(1/Supp.ratio)と、各センサヘッドHead1〜Head3の最適条件に設定したときの抑圧比の逆数と、をまとめている。
図12に示す通り、第2の実施形態に係る勾配磁界センサ4も、第1の実施形態と同様の範囲の抑圧比が得られることが分かる。これは、本実施形態に係る勾配磁界センサ4が、離れた場所から来る磁気ノイズに対する耐性が高いことを意味している。特に、本実施形態の場合、離間距離lを1cm以下まで小さくすることによって、磁気小片のような小さい磁気源をも感知することができる。ただし、この場合において、センサヘッド1、2は、当該磁気小片に対し1cmから5mm以下の範囲に配置される必要がある。
【0048】
図13は、第2の実施形態に係る勾配磁界センサ4において、試作した3つのセンサヘッドHead1〜Head3のノイズスペクトル密度を計測した結果である(離間距離l=5cm)。
【0049】
以上のように、上述の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る勾配磁界センサ4によれば、一様磁界の影響を大幅に低減可能することができる。例えば、一方のセンサヘッドに対する励磁用直流電流(直流電流Idc2)を適切に調整することで、最大で抑圧比1/40000を得ることができる。また、このような調整は、センサ出力(勾配磁界検出信号Vo)をモニタリングしながら励磁用直流電流(具体的には、可変抵抗Rv(
図2参照))を変化させるだけでよいので、極めて簡素に行うことができる。
以上より、上述の実施形態に係る勾配磁界センサ4によれば、容易かつ高感度に微弱磁界を測定できる。
【0050】
図14は、対比例に係る勾配磁界センサの機能構成を示す図である。
従来の勾配磁界検出法の一例としては、
図14に示す勾配磁界センサ9のように、2つの独立したセンサヘッド1、2を離間距離lで配置し、各々の検出電圧の差から勾配磁界を、作動アンプを通じた減算によって求める。
この方法の場合、フラックスゲートセンサ回路3をセンサヘッド1、2ごとに用意する必要があるため回路規模が2倍程度になるばかりでなく、センサヘッド1、2の感度が整合しておかないと勾配磁界のみならず、その点での磁界の一部まで検出することになり、信号磁界が微弱であれば雑音磁界の影響が大きく計測できなくなる。また、H>>l・G(H:一様磁界、G:離間距離l方向の磁界勾配)であると、センサヘッド1、2は大きな一様磁界Hに対してその出力が飽和しないよう感度を小さく設定しなければならない。その結果、l・Gの計測は高感度に計測できないことになる。
上述の各実施形態に係る勾配磁界センサ4は、フラックスゲートセンサ回路3の前段、即ち、センサヘッド1、2の段階で一様磁界Hをキャンセルすることで上記課題を解決している。また、勾配磁界センサ4は、
図1に示す通り、フラックスゲートセンサ回路3を一つのみ有する態様であるため、回路規模の縮小化を図ることができる。
【0051】
<第1、第2の実施形態の変形例>
図15は、各実施形態の変形例に係る勾配磁界センサの調整方法を説明する図である。
図2において、第1、第2の実施形態に係る勾配磁界センサ4は、磁性コア110、磁性コア120の少なくとも一方に印加される励磁用直流電流を、独立に変更可能とする励磁調整部(直流電源E’、可変抵抗Rv)を有することを説明した。
一方、第1、第2の実施形態の変形例として、例えば、
図15に示すような回路構成により、励磁調整部を実現してもよい。
【0052】
具体的には、
図15に示すように、磁性コア110には、交流電源VEXに基づく交流電流Iac2(励磁用交流電流)と、直流電源E1に基づく直流電流Idc2(励磁用直流電流)と、が流れる。交流電流Iac2は、交流電源VEXからバッファアンプBuf、可変抵抗Rv1及びコンデンサを介して磁性コア110に流れる。一方、直流電流Idc2は、直流電源E1から可変抵抗Rv2を介して磁性コア110に流れる。
これにより、勾配磁界センサ4のオペレータは、可変抵抗Rv1の抵抗値に基づいて交流電流Iac2を独立して変更することができ、また、可変抵抗Rv2の抵抗値に基づいて直流電流Idc2を独立して変更することができる。
【0053】
また、磁性コア120には、磁性コア110と共通の交流電源VEXに基づく交流電流Iac1(励磁用交流電流)と、直流電源E2に基づく直流電流Idc1(励磁用直流電流)と、が流れる。交流電流Iac1は、交流電源VEXからバッファアンプBuf、可変抵抗Rv3及びコンデンサを介して磁性コア120に流れる。一方、直流電流Idc1は、直流電源E2から可変抵抗Rv4を介して磁性コア120に流れる。
これにより、勾配磁界センサ4のオペレータは、可変抵抗Rv3の抵抗値に基づいて交流電流Iac1を独立して変更することができ、また、可変抵抗Rv4の抵抗値に基づいて直流電流Idc1を独立して変更することができる。
【0054】
本変形例に係る勾配磁界センサ4によれば、センサヘッド1に流れる交流電流Iac2、直流電流Idc2、及び、センサヘッド2に流れる交流電流Iac1、直流電流Idc1の各々を、全て独立して調整することができる。このように、励磁用交流電流、励磁用直流電流の調整を一般化することで、励磁用交流電流及び励磁用直流電流(即ち、可変抵抗Rv1〜Rv4の抵抗値)の多様な組み合わせに基づいて、抑圧比を一層低減することができる。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。