(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被転写体に形成されている立ち壁の少なくとも一部に沿わされる凸形状、前記凸形状の位置に対して相対的に定められた第1配置位置に転写シートを保持するシート保持機構、及び前記シート保持機構に保持された前記転写シートに対向する領域に形成されている複数の第1孔を有する第1治具と、
第2治具本体、及び締結された状態の前記凸形状の位置に対して相対的に定められた前記第2治具本体の第2配置位置に前記被転写体を保持するための被転写体保持機構を有する第2治具と
を備え、
前記第1治具と前記第2治具は、締結された状態で前記転写シートの加飾層を前記立ち壁に転写するために、前記凸形状によって前記立ち壁の少なくとも一部に前記転写シートを沿わせ、前記複数の第1孔から前記第1治具と前記転写シートとの間に導入される流体の圧力によって前記転写シートを前記立ち壁に押圧密着させるように構成されている、転写用治具セット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載されている技術だけでは、被転写体に例えば微細な凹凸があって急峻な立ち壁が形成されているときには、立ち壁に転写シートを沿わせることが難しく、転写シートと立ち壁の立ち上がり部分などに隙間ができてしまう。立ち壁の壁面及びコーナー部に隙間ができてしまうと、立ち壁の壁面及びコーナー部に加飾層を転写してムラなく美しく加飾するのが難しくなる。
【0005】
本発明の課題は、転写シートを使って立ち壁の壁面及びコーナー部にもムラなく加飾層を転写できる転写用治具セット、転写装置及び転写方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る転写用治具セットは、被転写体に形成されている立ち壁の少なくとも一部に沿わされる凸形状、凸形状の位置に対して相対的に定められた第1配置位置に転写シートを保持するシート保持機構、及びシート保持機構に保持された転写シートに対向する領域に形成されている複数の第1孔を有する第1治具と、第2治具本体、及び締結された状態の凸形状の位置に対して相対的に定められた第2治具本体の第2配置位置に被転写体を保持するための被転写体保持機構を有する第2治具とを備え、第1治具と第2治具は、締結された状態で転写シートの加飾層を立ち壁に転写するために、凸形状によって立ち壁の少なくとも一部に転写シートを沿わせ、複数の第1孔から第1治具と転写シートとの間に導入される流体の圧力によって転写シートを立ち壁に押圧密着させるように構成されている。
このように構成されている転写用治具セットによれば、第1治具の凸形状によって立ち壁の少なくとも一部に転写シートを沿わせ、複数の第1孔から第1治具と転写シートとの間に導入される流体の圧力によって転写シートを立ち壁に押圧密着させられるので、立ち壁の壁面及びコーナー部と転写シートとの間の隙間が発生するのを抑制することができる。
【0007】
被転写体保持機構は、転写シートが被転写体の立ち壁に押圧密着されるとき又は押圧密着された後に、立ち壁から凸形状を遠ざける移動機構を持っているように構成されてもよい。このように構成されている転写用治具セットによれば、移動機構が立ち壁から凸形状を遠ざけることにより、立ち壁に密着している転写シートから凸形状を転写時に離すことができ、凸形状が転写シートに接触した状態で転写が行われる場合の不具合を防ぐことができる。
【0008】
また、第2治具は、締結された状態で転写シートにより密封される領域に形成されている複数の第2孔をさらに有し、被転写体保持機構は、被転写体を固定する載置台をさらに持っており、移動機構は、載置台と第2治具本体との間に設置され、複数の第2孔によって減圧状態にされた後に複数の第1孔から第1治具と転写シートとの間に流体が導入されたときに縮んで立ち壁から凸形状を遠ざける弾性部材であるように構成されてもよい。このように構成されている転写用治具セットによれば、立ち壁に密着している転写シートから凸形状を転写時に離すことができる機能を簡単な構成で安価に実現できる。
【0009】
本発明の一見地に係る転写装置は、上述の転写用治具セットと、転写用治具セットに転写シートを配置する配置機構と、第1治具と第2治具を開閉する締結機構と、転写シートを加熱するための加熱装置と、転写用治具セットの複数の第1孔を通る流体の供給と排出とを行う流体供給排出装置とを備えて構成される。
このように構成されている転写装置によれば、転写用治具セットの第1治具の凸形状によって立ち壁の少なくとも一部に転写シートを締結機構により沿わせ、流体供給排出装置により複数の第1孔から第1治具と転写シートとの間に導入される流体の圧力によって転写シートを立ち壁に押圧密着させられるので、立ち壁の壁面及びコーナー部と転写シートとの間の隙間が発生するのを抑制することができる。
【0010】
本発明の一見地に係る転写方法は、第1治具が有する凸形状の位置に対して相対的に定められた第1配置位置に転写シートを配置して保持するシート保持工程と、立ち壁が形成されている被転写体を保持している第2治具に第1治具を締結して、凸形状によって立ち壁の少なくとも一部に転写シートを沿わせる締結工程と、第1治具に形成されている複数の第1孔から第1治具と転写シートとの間に流体を導入して流体の圧力によって転写シートを立ち壁に押圧密着させて転写シートの加飾層を立ち壁に転写する転写工程と、第1治具と第2治具を開放する開放工程とを備えて構成される。
このように構成されている転写装置によれば、締結工程では、第1治具の凸形状によって立ち壁の少なくとも一部に転写シートを締結機構により沿わせ、転写工程では、複数の第1孔から第1治具と転写シートとの間に導入される流体の圧力によって転写シートを立ち壁に押圧密着させられるので、立ち壁の壁面及びコーナー部と転写シートとの間の隙間を減らすことができる。
【0011】
また、転写工程は、転写シートが立ち壁に押圧密着されるとき又は押圧密着された後に、被転写体の立ち壁から凸形状を遠ざける移動工程を含むものであってもよい。このように構成された転写方法によれば、移動工程で立ち壁から凸形状を遠ざけられるので、立ち壁に密着している転写シートから凸形状を転写時に離すことができ、凸形状が転写シートに接触した状態で転写が行われる場合の不具合を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る転写用治具セット、転写装置又は転写方法では、転写シートを使って立ち壁の壁面及びコーナー部にもムラなく加飾層を転写することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る転写装置及び転写方法について説明するが、その説明に先立って被転写体について簡単に説明する。本実施形態に係る転写装置及び転写方法は、3次元形状を持つ被転写体に転写シートを沿わせることができれば、例えば特許文献2を用いて説明した従来の転写方法と同様に、上面だけでなく、側面及び背面にも加飾層を転写する構成にすることができる。しかし、以下においては、説明を分かり易くするために、上面に立ち壁が形成されている被転写体について説明する。
【0015】
(1)被転写体
図1には、被転写体100を斜め上方から見た状態が示されている。被転写体100の材質には、例えば、ガラス、セラミック、金属若しくは樹脂又はそれらの複合物を用いることができるが、ここでは被転写体100の材質がガラスである場合を例に挙げて説明する。被転写体100の上面101には、平面視において環状の形状をした凹溝102が形成されている。
図1に示されているのは被転写体100だけであるが、
図1のI−I線断面は、
図2に実線で示されている。
図2に示されている凹溝102は、底面103から立ち上がる2つの立ち壁104,105を持っているとみなすことができる。あるいは、凹溝102は、上面101から立ち下がる2つの立ち壁104,105を持っているとみなすことができる。本発明の説明において、立ち壁は、表面から立ち上がり又は立ち下がって表面とのなす角が90度以上135度以下になっている面を持つ壁と定義する。特に、段差が1mm以下の微細な立ち壁の部分は転写シートを沿わせるのが難しい。具体的には、底面103を表面とみなすと、底面103と立ち壁104,105とのなす角θ1が90度から135度までの角度を持つ。又は、上面101を表面とみなすと、上面101と立ち壁104,105のなす角θ2が90度から135度までの角度を持つ。このような急峻な面を持つ立ち壁104,105があると、その壁面だけでなく、コーナー部104a,104b,105a,105bにムラなく転写するのが比較的難しくなる。また、凹溝102のように両側に立ち壁104,105がある溝の場合にはさらにムラのない転写が難しく、溝幅W1が0.8mm以上5mm以下の場合にはムラなく転写することが難しい。さらに、溝幅W1と溝深さDpのアスペクト比が1の場合には転写が難しいことから、ここでは、幅W1が0.8mmで深さDp1が0.8mmの凹溝102を例に挙げて説明する。このように幅が狭いと、凹溝102の底面103にもムラなく転写することが比較的難しくなる。しかし、以下に説明する本願発明に係る転写装置又は転写方法を用いることによって、従来難しかった上述のような形状を持つ立ち壁や溝にも美しい転写が可能になる。
【0016】
(2)転写シート
図3には、転写シート200の基本的な断面構成が示されている。
図3に示されている転写シート200は、凹溝102に押し込まれた状態のものである。転写シート200は、基体シート201と転写層202と接着剤層203とを備えている。本実施形態において、加飾層が転写層202と接着剤層203とを含むものとする。つまり、転写によって、転写層202と接着剤層203が、基体シート201から被転写体100の表面に移動して、被転写体100の表面を装飾する加飾層となる。
【0017】
基体シート201は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂又はポリエチレンテレフタレート系樹脂で形成される。ここで、ポリカーボネート系樹脂とは、少なくとも主鎖にカーボネート基(−O−(C=O)−O−)を構造単位として有する樹脂である。従って、主鎖にカーボネート基以外に他の構造単位を有していてもよい。また、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン類の単重合体もしくは共重合体、あるいはこれらのオレフィン類と共重合可能な単量体成分との共重合体である。オレフィン類としては、エチレン、プロピレン及びブテンが例として挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐アクリル酸エチル共重合体、エチレン‐アクリル酸共重合体、エチレン‐メタクリル酸メチル共重合体、エチレン‐α‐オレフィン共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体、エチレン‐ブテン共重合体がオレフィン系樹脂の例として挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂とは、芳香族ジカルボン酸類(例えば、テレフタル酸又はそのエステル)とグリコール類(例えば、エチレングリコール)を主たる原料として得られる樹脂であり、樹脂の分子内にエチレンテレフタレートの繰り返し単位が存在するものをいう。
転写層202には、例えば、図柄や文字や地模様や色彩(金属光沢を含む)などが形成されている図柄層、及び基体シート201から剥離するための剥離層が含まれている。剥離層は、加飾層において、図柄層を保護するコート層として機能するように構成されていてもよい。例えば図柄層とハードコート層を含む転写シート200は、多層構造フィルムと呼ばれることがあり、このような構造以外の多層構造フィルムには、例えば、一部の光を透過する金属蒸着層と図柄層を含むもの、及びハードコート層と図柄層と蒸着層とを含むものがある。
【0018】
図柄層は、文字や図柄を表現するための層であって、例えば、着色剤とバインダーとなる合成樹脂とを少なくとも含む着色インキを用いて形成される。図柄層のバインダーとなる合成樹脂は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂及び塩化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。図柄層の着色インキに含まれる着色剤としては、顔料や染料が挙げられる。顔料としては、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニン等の植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタン等の食用色素、(3)黄土、緑土等の天然無機顔料、(4)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキ等が好ましく挙げられる。
また、剥離層には、例えば、コポリマーが使用され、コポリマーの例としては、アクリル(PMMA)系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂が挙げられる。剥離層に硬度を持たせ樹脂成形品の耐擦傷性を向上させる場合には、例えば、紫外線硬化性樹脂又は電子線硬化性樹脂が使用される。剥離層は、例えば印刷法を使って基体シート201上に印刷されて形成され、印刷法としては例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法又はオフセット印刷法が使用できる。
また、接着剤層には、図柄層の材質に適した感熱性及び/又は感圧性を有する樹脂、例えば、図柄層のバインダーとなる合成樹脂がPMMA系樹脂であればPMMA系樹脂が使用される。接着剤層は、例えばグラビア印刷法又はスクリーン印刷法により印刷される。
【0019】
(3)転写装置
図4には、転写装置の一部が示されている。
図4に示されている転写装置10の一部分が本実施形態の説明にとって重要な部分であり、従来と同様に構成できる転写装置10の他の部分については図示と説明を省略する。
転写装置10は、第1治具20と第2治具30と締結機構40と配置機構50と加熱装置60と流体供給排出装置の一種である空気給排気装置70と減圧装置80とを備えている。また、転写装置10は、固定盤11及び、固定盤11に固定されている第2治具30を冷却する冷却プレート12を備えている。この実施形態において、第1治具20が可動金型であり、第2治具30が固定金型である。
(3−1)第1治具20
第1治具20は、第1治具本体21と、円環状の凸形状22aが形成されている嵌め込み部品22と、転写シート200を保持するためのクランプ23とを含んでいる。この実施形態では、クランプ23が第1治具20のシート保持機構である。第1治具20には、転写シート200に対向する領域に、空気の通路である複数の第1孔24が形成されている。凸形状22aの周辺から転写シート200が第2治具本体31に密着し始めるように、嵌め込み部品22の第1孔24の配置密度を第1治具本体21の第1孔24の配置密度よりも大きくしておくことが好ましい。
第1治具20の嵌め込み部品22の凸形状22aは、被転写体100の凹溝102に対して精度良く配置される。精度良く配置された結果、
図5に示されているように、嵌め込み部品22と被転写体100の上面101との間に間隔Ds1が形成される。この間隔Ds1は、転写シート200の厚みをT0とすると、P=0以上0.1mm以下、Q=0以上0.1mm以下として、次の(1)式で与えられる範囲内で設定されるのが好ましい。
Ds1=T0+P+Q … (1)。
【0020】
また、底面103及び立ち壁104,105と凸形状22aとの間隔Ds2,Ds3は、次の(2)式及び(3)式で与えられる範囲内で設定されるのが好ましい。
Ds2=T0+P … (2)、Ds3=T0+P … (3)。
上記(1)式から(3)式において、Pの値を0.1mmよりも大きくすると、被転写体100と凸形状22aとの距離が離れ過ぎて転写シート200が浮き易く、転写が不十分になり易くなる。また、上記(1)式において、Qの値を0.1mmよりも大きくすると被転写体100の上面101と嵌め込み部品22との距離が離れ過ぎて、転写時に皺が発生し易くなる。
例えば、転写シート200の厚みT0が0.1mmであれば、嵌め込み部品22と被転写体100の上面101との間隔Ds1が0.1mm以上0.3mm以下の範囲内で設定されるのが好ましい。また、このような条件のときに、底面103及び立ち壁104,105と凸形状22aとの間隔Ds2,Ds3は、0.1mm以上0.2mm以下の範囲内で設定されるのが好ましい。
また、凸形状22aには、4つのコーナー部104a,104b,105a,105bに対応する部分に局率半径が0.2mm程度の曲面CS1,CS2,CS3,CS4を形成することが好ましい。このような曲面CS1,CS2,CS3,CS4を設けることにより、転写シート200の転写層202にインキ割れが発生するのを抑制することができる。ただし、曲面CS1,CS2,CS3,CS4の曲率半径を大きくし過ぎると被転写体100との距離が離れて、コーナー部104a,104b,105a,105bに対して転写し難くなってコーナー部104a,104b,105a,105bの転写にムラが生じ易くなる。
【0021】
(3−2)第2治具30
第2治具30は、第2治具本体31と載置台32とバネ33とを有しており、第2治具本体31が転写装置10の固定盤11に固定されている。第2治具30には、被転写体100を保持する載置台32が上下に可動可能に取り付けられている。この実施形態において、載置台32及びバネ33が、締結された状態の凸形状22aの位置に対して相対的に定められた第2治具本体31の第2配置位置に被転写体100を保持するための被転写体保持機構である。また、この実施形態において、バネ33は、転写シート200が被転写体100の立ち壁104,105(
図2参照)に押圧密着されるとき又は押圧密着された後に、立ち壁104,105から凸形状22aを遠ざける移動機構である。立ち壁104,105から凸形状22aを遠ざけるタイミングが、押圧密着されるときであるか又は押圧密着された後であるかは、バネ33のバネ定数や後述する空気給排気装置70の給排気のタイミングや給排気の状態によって適宜設定できる。遠ざけるタイミングとしてどのようなタイミングがよいかは、転写の状況によって区々であるので、転写条件を設定するために予め行う試験で確認することが好ましい。第2治具30には、空気の通路である複数の第2孔34が形成されている。
【0022】
(3−3)締結機構40
これら第1治具20と第2治具30は、締結機構40によって相対的に近づいたり離れたりする移動ができるように構成されている。つまり、第1治具20と第2治具30は締結機構40により開閉される。締結機構40は、第1治具20と一緒に配置機構50も移動させる。
(3−4)配置機構50
配置機構50は、送出し装置51と巻取り装置52と挟持ハンド53とを有している。送出し装置51には転写シート200が幾重にも巻いて保持されており、送出し装置51は、転写が終了する度に一回の転写に必要な長さだけ転写シート200を送出す。巻取り装置52は、送出し装置51に同期して、送出し装置51が送出した長さと同じ長さの転写シート200を転写が終了する度に巻き取る。配置機構50は、図示しないセンサーを備えており、第1治具20の凸形状22aに対して相対的に定められている第1配置位置まで転写シート200を搬送する。
【0023】
(3−5)加熱装置60
加熱装置60は、第1治具20に配置されているヒータ61を有している。転写シート200の加熱は、ヒータ61で第1治具本体21を介して転写シート200を加熱することによって行われる。加熱装置60は、第2治具30に配置されているヒータ62をさらに備えている。ヒータ62は、被転写体100を加熱するための加熱手段であって、第2治具本体31と載置台32とを介して被転写体100を加熱する。
(3−6)空気給排気装置70
空気給排気装置70は、第1治具20の複数の第1孔24に接続されており、複数の第1孔24を通じて空気の供給と排気を行う。空気給排気装置70は、大気圧よりも高い圧力まで空気を供給することができ、また大気圧よりも低い圧力まで空気を排気することができる。つまり、空気給排気装置70は、複数の第1孔24及びそれらが通じている空間に対して圧空する機能と減圧する機能とを備えている。なお、空気給排気装置70は、複数の第1孔24を大気に開放することができ、少なくとも一つの第1孔24を大気開放することによって圧空状態又は減圧状態から大気圧状態に戻すことができる。
【0024】
(3−7)減圧装置80
減圧装置80は、第2治具30の複数の第2孔34に接続されており、複数の第2孔34を通じて空気の排気を行う。なお、減圧装置80は、複数の第2孔34を大気に開放することができ、少なくとも一つの第2孔34を大気開放することによって減圧状態から大気圧状態に戻すことができる。
なお、転写装置10は、締結機構40と配置機構50と加熱装置60と空気給排気装置70と減圧装置80と冷却プレート12を制御するための制御装置(図示せず)を備えている。制御装置は、例えばCPU(中央演算処理装置)とメモリとタイマーと各種センサーを用いて構成される。締結機構40と配置機構50と加熱装置60と空気給排気装置70と減圧装置80と冷却プレート12の電源や駆動部や可動部がCPUからの指令に応じて動作するように構成されており、例えば各部の温度や圧力や配置位置をCPUが各種センサーによって監視しながら指令を出すことによって後述する転写装置10の各工程の動作が行われる。
【0025】
(4)転写方法
転写装置10を用いた転写方法について、
図6乃至
図11を使って説明する。まず、
図4を用いて説明したように、嵌め込み部品22には、被転写体100の凹溝102の反転形状である凸形状22aが形成されている。
図4に示されているように、この嵌め込み部品22が第1治具本体21に嵌め込まれた第1治具20が転写装置10にセットされ、また転写シート200が配置機構50にセットされて転写の準備が行われる。
【0026】
(4−1)シート保持工程
シート保持工程では、
図6に示されているように、第1治具20に転写シート200がクランプ23によって保持される。クランプ23によって保持される転写シート200の配置位置は、凸形状22aに対して相対的に定められている第1配置位置である。転写シート200を第1配置位置まで搬送するのは、
図4に示されている配置機構50である。
また、
図6に示されている状態で、被転写体100が第2治具30の載置台32にセットされて固定される。
図6の状態で既に第1治具20と第2治具30が加熱装置60のヒータ61,62によって加熱されている。この加熱済みの第1治具20の熱を利用して転写シート200を加熱する。そして、熱によって転写シート200を軟化させながら複数の第1孔24を使って減圧する。このとき第1孔24から空気を排気するのが空気給排気装置70(
図4参照)である。軟化した転写シート200は、複数の第1孔24によって吸引されて第1治具20の内面、特に凸形状22aに沿う。
【0027】
(4−2)締結工程
締結工程では、
図4に示されている締結機構40によって第1治具20及び配置機構50が移動され、
図7に示されているように、第1治具20が第2治具30に締結される。締結された
図7の状態では、載置台32及びバネ33によって、凸形状22aの位置に対して相対的に定められた第2治具本体31の第2配置位置に被転写体100が保持される。このとき、バネ33は最も伸びた状態であって載置台32が第2治具本体31から最も迫出した状態になっている。
締結の完了と同時に、第2治具30の複数の第2孔34を使って減圧装置80(
図4参照)により減圧が開始される。転写シート200と第2治具本体31との間に形成されている空間S1が減圧されても、転写シート200は、第1治具20の複数の第1孔24によって吸引されているので、第1治具20の側に密着している。
【0028】
(4−3)転写工程
転写工程は、
図8から
図10に示されている工程を経る。
図8に示されている工程では、第1治具20の複数の第1孔24が大気開放される。その結果、第1孔24の吸引力が小さくなり、第2治具30の第2孔34によって減圧されている空間S1の方に転写シート200が引っ張られ、第1治具本体21から転写シート200からの剥離が始まる。ただし、凸形状22aの近傍の転写シート200は、まだ完全に凸形状22aから離れてはいない。このときもまだ、バネ33は最も伸びた状態であって載置台32が第2治具本体31から最も迫出した状態になっている。
図9に示されている状態は、第1治具20の複数の第1孔24から大気圧よりも高い空気が導入され、空気給排気装置70(
図4参照)により圧空が開始される。圧空が開始されると、転写シート200が被転写体100の表面に密着し、さらに転写シート200が第2治具本体31の表面に密着して行く。そして、第1孔24からの空気の導入が進み、転写シート200と第1治具本体21との間に形成される空間S2の圧力が高くなるに連れて、バネ33が縮み、載置台32が下がり始める。このとき、被転写体100から遠いところから転写シート200が第2治具本体31に密着し始めるのを防ぐために、嵌め込み部品22の第1孔24の配置密度を第1治具本体21の第1孔24の配置密度よりも大きくしておくことが好ましい。なお、第1型本体21の第1孔24を設けない方が転写状況によっては良い転写結果が得られる場合もあり、そのような場合には、第1型本体21に第1孔24を設けない場合もある。
そして、
図9に示されている状態から、冷却プレート12によって第2治具30の冷却が開始される。
図10に示されている状態では、圧空が完了し、第1治具20の複数の第1孔24からの空気の導入が止まり、載置台32が最下点まで下がる。このとき、空間S2の空気圧によって凹溝102を含む被転写体100の全体に均等に圧力が掛かる。その結果、転写シート200が凹溝102の立ち壁104,105及びコーナー部104a,104b,105a,105b(
図5参照)に十分に密着し、ムラのない美しい転写が行われる。また、
図10の状態で、冷却プレート12による第2治具30の冷却がさらに進む。
【0029】
(4−4)開放工程
冷却プレート12によって第2治具30を介して転写シート200の冷却が進み、加飾層204(転写層202と接着剤層203)が被転写体100に定着すると、締結機構40(
図4参照)によって開放が行なわれる。第1治具20と第2治具30の開放が行なわれる前に、空気給排気装置70及び減圧装置80(
図4参照)により第1孔24及び第2孔34が大気開放され、
図10に示されていた空間S2とともに転写シート200と第2治具本体31との間も大気圧と同じ圧力になる。開放工程では、
図11に示されているように、固定盤11に固定されている第2治具30から第1治具20が離れる。そして、挟持ハンド53によって挟持されている転写シート200が被転写体100から外され、被転写体100には加飾層204が転写されて残る。このとき、バネ33は最も伸びた状態に戻り、また載置台32が第2治具本体31から最も迫出した状態に戻る。さらに、クランプ23による転写シート200の第1治具本体21への固定も解除され、次の転写のために転写シート200を搬送できる状態になる。
【0030】
(5)特徴
以上説明したように、上記実施形態では、第1治具20と第2治具30が転写用治具セットを構成している。この転写用治具セットを用いた転写工程で、第1治具20の凸形状22aによって凹溝102の立ち壁104,105に転写シート200を沿わせた後に、第1治具20の複数の第1孔24から第1治具20と転写シート200との間に導入される空気の圧力によって転写シート200を立ち壁104,105に押圧密着させている。その結果、転写シート200を使って立ち壁104,105及びコーナー部104a,104b,105a,105bにもムラなく加飾層204を転写することができる。なお、本実施形態の転写装置10は、2つの立ち壁104,105の間隔が1mm以下の凹溝102の転写にも適しており、立ち壁104,105に挟まれた底面103にもムラなく転写できる点が優れている。
特に、転写工程で被転写体100を移動させるための被転写体保持機構を載置台32とバネ33で構成しているので、圧力を加える空間S2を形成でき、凸形状22aが転写シート200に接触したまま転写することで加飾層204が傷つくなどの不具合を防止することができる。このように移動機構をバネ33で形成すると被転写体保持機構を安価に構成できる。
【0031】
(6)変形例
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた実施形態及び複数の変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(6-1)変形例1
上記実施形態では、第1治具20が可動金型で、第2治具30が固定金型である場合について説明したが、被転写体が固定される側を可動金型とし、転写シートが保持される側を固定金型とするように構成することもできる。
(6-2)変形例2
上記実施形態では、凸形状22aが形成された嵌め込み部品22に複数の第1孔24を形成する場合について説明したが、複数の第1孔24は機械加工によって形成されていてもよいが、通気性材料に含まれている複数の微細な孔を第1孔24として活用することもできる。例えば通気性金属材料から削りだして嵌め込み部品22をつくった場合、機械加工で形成される孔を用いる場合に比べて転写面に対してさらに均一な空気圧を掛けることが可能になる。このような通気性材料からなる嵌め込み部品22を用いることにより、立ち壁104,105や底面103に微細な図柄の転写を行うことが容易になる。
【0032】
(6-3)変形例3
上記実施形態では、第2治具30の載置台32を移動させる移動機構をバネ33で構成する場合について説明したが、バネ33以外の弾性部材を用いることもできる。バネ以外の弾性部材としては、例えばシリコンゴムなどのゴム又は樹脂発泡体が挙げられる。
また、移動機構は、弾性部材を用いずに、機械的に移動させるよう構成することもできる。例えば、バネ33の代わりにエアシリンダを用いて載置台32を移動させてもよい。
(6-4)変形例4
上記実施形態では、被転写体保持機構を載置台32及びバネ33で構成したが、被転写体保持機構は、各工程において適切な位置に被転写体を移動して固定することができればよい。従って、被転写体の固定は載置台32以外のものを用いてもよく、例えば、載置台32の代わりに可動式のアームを用いることもできる。このアームは、例えば被転写を挟持するクランプ機能を有する。
【0033】
(6-5)変形例5
上記実施形態では、流体供給排出装置として空気給排気装置70を例に挙げて説明したが、転写のために転写シートに圧力を掛けるのは空気に限られるものではなく、例えば、空気以外の気体又は液体であってもよく、気体としては例えば窒素があり、液体としては例えば水又は油がある。
(6-6)変形例6
上記実施形態では、上面101に立ち壁104,105が形成されている被転写体100に転写を行う場合について説明したが、被転写体に形成されている立ち壁の形成位置は上面に限られるものではない。例えば、
図12に示されているように、側面110に立ち壁114,115が形成されているような3次元形状を持つ被転写体100Aの3次元転写にも適用できる。
図12の側面110は傾斜しているので、上記実施形態の載置台32と同様に上下に移動するものを用いて立ち壁114,115から第1治具20Aの凸形状22Aaを離させることができる。この凸形状22Aaは、立ち壁114,115を持つ凹溝112の反転形状から転写シートの厚み分だけ小さく形成されるのは上記実施形態と同様である。
【0034】
(6-7)変形例7
上記実施形態では、凸形状22aを嵌め込み部品22に形成する場合について説明した。このような嵌め込み部品22を用いると、凹溝102の形状が変わった場合に嵌め込み部品22を取り替えることで容易に対応できる。しかし、必ずしも凸形状22aを嵌め込み部品22に形成しなければならないものではなく、例えば第1治具本体21に直接凸形状22aを形成してもよい。
(6-8)変形例8
上記実施形態では、凸形状22aが円環状に繋がっている場合について説明したが、凸形状22aは全体が凹溝102の立ち壁104,105に沿っている必要はなく、例えば破線状に円を描くように配置されていてもよい。凸形状の一部に立ち壁に沿わない部分があっても、転写シートを立ち壁に沿わせられるようになっていれば十分である。
(6-9)変形例9
上記実施形態では、第1治具20が可動金型を例として挙げて説明された第1型であり、第2治具30が固定金型を例としてあげて説明された第2型であり、転写用治具セットが転写用型セットである場合について説明した。しかし、第1治具20及び第2治具30は、このような第1型及び第2型のように転写装置10から取り外せるような場合以外に、例えば転写装置のボディと一体化している転写装置の上枠体と下枠体として設けることもできる。この場合の上枠体と下枠体は相対的に上下に移動して締結と開放ができ、上枠体と下枠体で囲まれた空間にチャンバーが形成されるように構成されるものである。