(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルカリゲネス属微生物等のフェノール類化合物を分解する能力を有する微生物をあらかじめ増殖させておき、混合微生物系に投入する場合には、アルカリゲネス属微生物をまず単離して、フェノール類化合物を分解する能力の高い菌株を特定し、その菌株に適した培養条件で増殖させる必要があり、大量増殖に限定された条件が必要になるとともに、大掛かりな培養装置を必要とするという問題点がある。また、増殖した菌株がそのまま、フェノール類化合物含有排水中の環境下に適応するとは限らず、実際には高濃度の種菌製剤を長期にわたって適用して初めて、排水処理に有効な混合微生物系が確立する場合があるにとどまるという実情があって、微生物の増殖コストがかさみ、混合微生物系の立ち上げ期間が長期化する傾向があった。
【0006】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、さらに簡便、容易、かつ安価に、フェノール類化合物を分解する能力を有する微生物を含む混合微生物系を確立する技術を提供するとともに、フェノール類化合物を効率よく浄化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、フェノール類化合物を分解する能力を有する微生物としてのアルカリゲネス属微生物は、一般の汚泥中に極めて微量ながら存在する可能性があり、その汚泥を担体の存在下に連続曝気条件下でフェノール類化合物含有排水に馴化すると、そのきわめて微量のアルカリゲネス属微生物であっても、その汚泥中における主たる微生物の一つといえるまでに選択的に増殖されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
〔構成1〕
本発明のフェノール類化合物含有排水の処理方法の特徴構成は、水処理槽内に汚泥とともに収容
され、担体表面に担持
されたアルカリゲネス属微生物により、水処理槽内の排水中に含まれるフェノール類化合物を分解処理するフェノール類化合物含有排水の処理方法であって、
ポリプロピレン製糸状体を見かけ比重40g/L〜90g/Lの塊状に集合させてなり、前記ポリプロピレン製糸状体の表面平滑度(Ra)が、0.1μm〜0.5μmであるフェノール類化合物含有排水処理用担体を前記水処理槽内に充填し、
連続曝気条件下で、前記水処理槽内にフェノール類化合物のCODcr容積負荷率を経時的に上昇させつつ前記フェノール類化合物含有排水を流通させてアルカリゲネス属微生物を馴養し、アルカリゲネス属微生物を前記フェノール類化合物含有排水処理用担体に担持させ、
連続曝気条件下で前記フェノール類化合物をアルカリゲネス属微生物により分解処理する点にある。
【0009】
上記新知見によると、アルカリゲネス属微生物は、汚泥中に存在する他の微生物群に比べて担体に付着する付着能力が高く、連続曝気条件下で常時剥離作用を受ける環境下では、担体に対する付着能力の差も大きくなり、アルカリゲネス属微生物が他の微生物群に対して選択的に増殖しやすい環境となる。つまり、前記担体により、
連続曝気条件下で、前記水処理槽内にフェノール類化合物のCODcr容積負荷率を経時的に上昇させつつ前記フェノール類化合物含有排水を流通させてアルカリゲネス属微生物を馴養し、アルカリゲネス属微生物を前記フェノール類化合物含有排水処理用担体に担持させ、種々の微生物群の中で、アルカリゲネス属微生物にとって特に生存に有利な環境を与えることにより、担体のない場合には、実質的に増殖させられなかったアルカリゲネス属微生物を、他の微生物群に対して選択的に増殖させることができたのである。
【0010】
ここで、この傾向が高くなる担体の特徴としては、ポリプロピレン製糸状体を見かけ比重40g/L〜90g/Lの塊状に集合させてなり、前記ポリプロピレン製糸状体の表面平滑度(Ra)が、0.1μm〜0.5μmであることが特に好ましいと考えられる。前記ポリプロピレン製糸状体の表面平滑度(Ra)が、0.1μm〜0.5μmであると、アルカリゲネス属微生物と他の微生物群との担体に対する付着性の差異がより大きく現れる。また、ポリプロピレン製糸状体を見かけ比重40g/L〜90g/Lの塊状に集合させてあれば、その担体に対する通気性が高く、連続曝気条件により供給される気泡が前記糸状体の表面に接触して、付着した微生物膜を剥離する作用を発揮しやすくなり、その作用に基づいて、アルカリゲネス属微生物と他の微生物群との担体に対する付着性の差異が大きく現れることになる。すなわち、微生物膜が担体から剥離する際に、付着性の高いものが有利に担体上に残留する作用が無数に繰り返されると、わずかでも付着性の高い微生物のみが最終的に担体上に増加することになる。
【0011】
なお、本発明に言うフェノール類化合物とは、フェノールのほかに、フェノール骨格を有する種々の物質、例えばフェノールに他の種々の置換基を有する物質をも含むものとする。例えばフェノール、カテコール、クレゾール、クロロフェノール、サリチル酸等が挙げられる。また、フェノール類化合物含有排水としては、例えば石油工場排水、鉄鋼業排水、化学工場排水、食品加工工場排水等種々の産業排水が例示される。
【0012】
さらに、アルカリゲネス属微生物としてはアルカリゲネスフェカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリゲネスsp.(Alcaligenes sp.)、アルカリゲネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxidans)、アルカリゲネス‐ユートロフス(Alcaligenes eutrophus)、アルカリゲネスレータス(Alcaligenes latus)等の種が知られており、フェノール類化合物に対する分解能力を有することが知られている。
【0013】
〔構成2〕
前記フェノール類化合物含有排水がクレゾールを含有するものであってもよい。
【0014】
〔作用効果2〕
フェノール類化合物含有排水としては、フェノール、カテコール、クレゾール、クロロフェノール、サリチル酸等のフェノール類化合物を含有する排水が挙げられるが、特に生物毒になりやすく浄化処理が困難なクレゾールに関しては、他に代替となる簡易な浄化方法が少ないため、本発明のアルカリゲネス属微生物の増殖方法により、クレゾール分解性の高いアルカリゲネス属微生物を有効に増殖することができれば、クレゾール含有排水の浄化に有効利用することができるようになるので、利用価値は高い。
【0015】
〔構成3〕
連続曝気条件下で、前記水処理槽内にフェノール類化合物のCODcr容積負荷率を経時的に上昇させつつ前記フェノール類化合物含有排水を流通させてアルカリゲネス属微生物を馴養し、アルカリゲネス属微生物を前記フェノール類化合物含有排水処理用担体に担持させることにより、前記汚泥が、前記微生物としてアルカリゲネス属微生物を10%〜50%含有するものとすることが好ましい。
【0016】
〔作用効果3〕
上記担体を用いた場合、
連続曝気条件下で、前記水処理槽内にフェノール類化合物のCODcr容積負荷率を経時的に上昇させつつ前記フェノール類化合物含有排水を流通させてアルカリゲネス属微生物を馴養し、アルカリゲネス属微生物を前記フェノール類化合物含有排水処理用担体に担持させることにより、汚泥を比較的短期間馴養することでアルカリゲネス属微生物を選択的に増加させられる。そこで、アルカリゲネス属微生物の増加した担体上の微生物膜を用いてフェノール類化合物含有排水を処理すればその排水中に含まれるフェノール類化合物を生分解処理することができるのであるが、その増殖度が低いと、安定した処理効率を達成することが困難になることが考えられるため、汚泥全体に占める含有率として10%以上となるまで増殖しておくことで、安定した処理効率が達成できる。なお、アルカリゲネス属微生物の含有率は、多いほど好ましいと考えられるが、現実問題として、含有率の向上には限界があり、また、含有率の向上のためには増殖の工程に時間を要することから、50%程度の含有率を上限としておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
したがって、簡便、容易、かつ安価に、フェノール類化合物を分解する能力を有する微生物を含む混合微生物系を確立し、フェノール類化合物を効率よく浄化することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のフェノール類化合物含有排水の処理方法を、アルカリゲネス属微生物増殖用担体、および、アルカリゲネス属微生物の増殖方法、および、フェノール類化合物含有排水の処理装置の順に説明し、さらに具体的に明らかにする。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0020】
〔アルカリゲネス属微生物増殖用担体〕
本発明のフェノール類化合物含有排水の処理方法に用いられるアルカリゲネス属微生物増殖用担体(以下単に担体と称する場合もある)は、表面の粗度が低く、閉塞しにくい構造のものが好適に使用される。具体的には、このような担体としてポリプロピレン製糸状体を塊状に集合させてなる形状の担体、(たとえば、バクターコアB(株式会社森本組製)、1個あたりの見かけ容積1.95L、直径200mm、重量120g、見かけ比重60g/L、総表面積0.39m
2、比表面積33cm
2/g:
図2参照)が好適に用いられる。このような担体は、ポリプロピレンの表面平滑な性質から、一般的な微生物が付着しにくい性質をもつところ、アルカリゲネス属微生物は、汚泥中に存在する他のPseudomonas属等の微生物に比べて、比較的付着しやすいことが本発明者らにより明らかになり、このような担体を用いて汚泥をフェノール類化合物含有排水に馴養させると、その汚泥中におけるフェノール類化合物分解能力を有するアルカリゲネス属微生物存在比率が次第に増加させることができるため、フェノール類化合物分解能力をきわめて高く向上させることができる。
【0021】
同様の担体としては、表面平滑なポリプロピレン樹脂製の糸状体を見かけ比重40g/L〜90g/Lの塊状に集合させて高い通気性を実現可能な空隙率の高い担体であれば有効に利用することができる。糸状体の表面平滑度(Ra)が、0.1μm〜0.5μmであると、その糸状体に対するアルカリゲネス属微生物と、その他の微生物との付着性の差が出やすく、アルカリゲネス属微生物存在比率を増加させやすくなるので好ましい。すなわち、前記ポリプロピレン製糸状体の表面平滑度(Ra)が、0.1μm〜0.5μmであると、アルカリゲネス属微生物と他の微生物群との担体に対する付着性の差異がより大きく現れる。また、ポリプロピレン製糸状体を見かけ比重40g/L〜90g/Lの塊状に集合させてあれば、その担体に対する通気性が高く、連続曝気条件により供給される気泡が前記糸状体の表面に接触して、付着した微生物膜を剥離する作用を発揮しやすくなり、その作用に基づいて、アルカリゲネス属微生物と他の微生物群との担体に対する付着性の差異が大きく現れることになる。すなわち、微生物膜が担体から剥離する際に、付着性の高いものが有利に担体上に残留する作用が無数に繰り返されると、わずかでも付着性の高い微生物のみが最終的に担体上に増加することになる。
【0022】
〔アルカリゲネス属微生物の増殖方法〕
汚泥と上記担体とをフェノール類化合物含有排水を収容する水処理槽内に収容し、連続曝気条件下で、前記水処理槽内にフェノール類化合物のCODcr容積負荷率を経時的に上昇させつつフェノール類化合物含有排水を流通させて、馴養することにより、アルカリゲネス属微生物が選択的に増殖させられる。これは、アルカリゲネス属微生物が他の微生物に比べて上記担体に対して付着育成しやすいことに加えて、上記担体は通気性が高く、担体に対して付着しにくい微生物の剥離が促進されること、アルカリゲネス属微生物自体が大量の酸素存在下で好適に増殖すること、によってきわめて効率よく選択的な増殖が可能になったためと考えられる。
【0023】
このような増殖方法によれば、アルカリゲネス属微生物がほとんど存在しない(1%未満、不検出)汚泥から、アルカリゲネス属微生物が10%以上存在する状況にまで増殖させることができる。
【0024】
〔フェノール類化合物含有排水の処理装置〕
本発明のフェノール類化合物含有排水の処理装置は、
図1に示すように、前記担体11を充填してあるとともに、フェノール類化合物含有排水を供給する供給部12および、処理済みの排水を排出する排水部13を有し、フェノール類化合物の生分解処理可能な水処理槽としての接触曝気槽10を備える。前記担体11は、
図2に示すように、表面平滑なポリプロピレン樹脂製の糸状体を見かけ比重40g/L〜90g/Lの塊状に集合させて高い通気性を実現可能なものであって、表面平滑度(Ra)が、0.1μm〜0.5μmである。この担体は、前記接触曝気槽内に設けられたエクスパンドメタル等からなるネット状部材14により上下を仕切られた空間内に、十分な通気性を確保できる程度の充填度で保持固定される。また、前記空間下側のネット状部材14の下方側には、散気管15が設けられ、前記散気管からの散気により、前記担体11の全領域に十分な空気を供給し、アルカリゲネス属微生物の良好な育成を維持できるとともに、担体に付着した余剰汚泥を剥離除去して、担体11の適正な通気性を維持できるように構成してある。これにより、前記供給部12より供給されるフェノール類化合物含有排水は、担体11により増殖させたアルカリゲネス属微生物により生分解処理される。
【0025】
また、接触曝気槽10の下流側には、内部に活性汚泥を収容するとともに、前記接触曝気槽10において処理されたフェノール類化合物含有排水を、前記排水部13より受け入れる受入部21を備えるとともに、活性汚泥処理する活性汚泥処理槽20を設け、排水部22より放流可能に構成してある。この活性汚泥処理槽20は、散気管23を備え、槽内に受け入れた排水に空気を供給するとともに、撹拌し、汚泥処理可能にしてあるが、先の接触曝気槽10とは、固定の担体11を備えない点で異なる。
【0026】
また、前記活性汚泥処理槽20の下流側には、活性汚泥処理槽20において処理済みの排水を前記排水部22より受け入れる受入部31を備えるとともに、前記排水中に含まれる汚泥を沈殿除去し、清浄な上澄液のみを外部に放流可能にする放流部32を備えた沈殿槽30を設けて構成してある。さらに、前記沈殿槽30から処理済みの排水を放流する放流部32には、放流される処理済みの排水の一部を前記供給部12に返送する返送部40を設けてあり、返送される処理済みの排水によりフェノール類化合物含有排水の原水を希釈して、原水に含まれるフェノール類化合物濃度を1500mg/L以下にまで低下させる構成としてある。また、前記沈殿槽30の下方には、下方に沈殿、蓄積される余剰汚泥を引き抜き、一部または全部を前記活性汚泥処理槽20に返送する汚泥返送部33が設けられている。
【0027】
〔フェノール類化合物含有排水の処理方法〕
(実施例1)アルカリゲネス属微生物の増殖
担体として上述のバクターコアBを、みかけ体積率55%で充填した直径130mm、有効水深450mm、有効容積6Lの円筒型水槽に、フェノール、クレゾールを含む排水と水道水と化学工場から採取した汚泥を添加し、フェノール濃度600mg/L、クレゾール濃度300mg/L、CODcr濃度3400mg/L、SS濃度3000mg/Lとなるように模擬排水を添加した。
【0028】
槽下部から全面曝気により8L/minの流量で空気を常時吹き込んで前記模擬排水を処理したところ、24時間後、CODcr濃度が80%以上減少した。その後、槽内の液を一部引き抜き、模擬排水を追加し、再びCODcr濃度3400mg/Lとなるように調整し、同様に同じ操作をさらに2回繰り返した。その後、模擬排水の連続供給を行った。排水性状は、平均値でフェノール濃度600mg/L、クレゾール濃度300mg/L、CODcr濃度3400mg/Lとなるように調整した。供給量を段階的に増加させ、CODcr容積負荷率2.5kg/m
3・日、5.0kg/m
3・日、8.0kg/m
3・日の条件で各1週間処理した後、CODcr容積負荷率9.1kg/m
3・日で50日間処理を継続した。
すなわち、接触曝気槽に供給するフェノール類化合物のCODcr容積負荷率を経時的に上昇させつつフェノール類化合物含有排水を流通させて、汚泥を馴養した。なお、本実施例においては、供給量を段階的に増加させてCODcr容積負荷率を上昇させたが、フェノール類化合物濃度を低濃度から次第に高濃度に調整して供給しても構わない。
【0029】
処理後の担体に付着していた汚泥を採取し、ランダムに採取した96の微生物についてクローンライブラリー法により遺伝子を解析し、微生物の属、種を特定した。
【0030】
その結果、Alcaligenes faecalis strain Gold 10が6クローン、Alcaligenes sp. F1が4クローン、Alcaligenes sp. X9−3が4クローン、Alcaligenes faecalis strain KS3が2クローンの合計16クローン検出された。すなわち、アルカリゲネス属微生物が17%の存在割合で確認された。
【0031】
(比較例1)
実施例1において、処理前の汚泥からランダムに採取した96の微生物についてクローンライブラリー法により遺伝子を解析し、微生物の属、種を特定したところ、アルカリゲネス属微生物は検出されなかった。
【0032】
すなわち、実施例1と比較例1とを対比すると、担体の存在により、アルカリゲネス属微生物は、極めて少量(1%未満)から汚泥の主な活性種といえる割合にまで、効率よく、他の微生物群に対して選択的に増殖させられることがわかった。特に、前記アルカリゲネス属微生物は、アルカリゲネスフェカリス、アルカリゲネスsp.から選ばれる少なくとも一種の微生物を主体とするものであり、フェノール類化合物を資化できるものとなっているため、高いフェノール類化合物処理能力も期待できる。なお、ここで、アルカリゲネス属微生物は17%まで増殖しており、後述の実施例より、安定した排水処理効率を発揮することが確認されている。この排水処理状況を観測すると、アルカリゲネス属微生物が10%以上程度まで増殖していれば、同様の安定した排水処理効率が期待できるとともに、50%程度まで増殖させることは技術的にも期間的にも容易に行えることが推測された。
【0033】
(実施例2)アルカリゲネス属微生物によるフェノール類化合物含有排水処理
実施例1の手順にしたがって汚泥を馴養し、アルカリゲネス属微生物を付着させてある担体を充填した接触曝気槽を用い、CODcr容積負荷率9.1kg/m
3・日でフェノール濃度600mg/L、クレゾール濃度300mg/L、CODcr濃度3400mg/Lの排水を処理したところ、平均CODcr除去率70%、フェノール除去率98%、クレゾール除去率98%であった。
【0034】
(比較例2)
化学工場の汚泥をそのまま用い、直径130mm、有効水深450mm、有効容積6Lの円筒型水槽に、上記担体を充填することなく、CODcr容積負荷率3.4kg/m
3・日の条件下、フェノール濃度710mg/L、クレゾール濃度350mg/L、CODcr濃度3400mg/Lの排水を処理したところ、CODcr除去率6%とほとんど処理されなかった。
【0035】
以上の比較により、担体を用いて増殖させた微生物群は、非常に高い容積負荷率でフェノール類化合物含有排水を処理することが可能となり、小さな水槽で処理が可能となることが示された。
【0036】
(実施例3)アルカリゲネス属微生物による高濃度フェノール類化合物含有排水処理
実施例1の手順にしたがって汚泥を馴養し、アルカリゲネス属微生物を付着させてある担体を充填した接触曝気槽を用い、CODcr容積負荷率6.9kg/m
3・日でフェノール濃度900mg/L、クレゾール濃度450mg/L、CODcr濃度4600mg/Lの排水を処理したところ、CODcr除去率79%、フェノール除去率93%、クレゾール除去率93%であった。
【0037】
(実施例3−2)
実施例1の手順にしたがって汚泥を馴養し、アルカリゲネス属微生物を付着させてある担体を充填した接触曝気槽を用い、CODcr容積負荷率9.1kg/m
3・日の条件下、フェノール濃度1500mg/L、クレゾール濃度1000mg/L、CODcr濃度8600mg/Lの排水を処理したところ、CODcr除去率31%、フェノール除去率36%、クレゾール除去率51%であった。
【0038】
以上の比較により、フェノール1500mg/Lかつクレゾール1000mg/Lの排水に比べて、フェノール900mg/Lかつクレゾール450mg/Lの排水は、上記処理方法により効率よく浄化された。したがって、前記フェノール類化合物含有排水の最終的なフェノール類化合物濃度を、フェノール濃度が500mg/L〜1500mg/L、クレゾール濃度が200mg/L〜600mg/Lとなるように調整することがより好ましいことがわかった。
【0039】
(実施例4)
実施例2において用いるフェノール類化合物含有排水を、クレゾール濃度を単独で1300mg/L含有するものに変更し、同様に排水を処理したところ、72時間後のクレゾール除去率は85%であった。
【0040】
(比較例4−1)
比較例2において用いるフェノール類化合物含有排水を、クレゾール濃度を単独で1100mg/L含有するものに変更し、同様に排水を処理したところ、72時間後のクレゾール除去率は41%であった。
【0041】
(比較例4−2)
比較例2において用いるフェノール類化合物含有排水を、クレゾール濃度を単独で520mg/L含有するものに変更し、同様に排水を処理したところ、72時間後のクレゾール除去率が84%であった。
【0042】
以上の比較から、クレゾール濃度520mg/L程度の排水は、従来の活性汚泥処理槽においてある程度浄化処理可能であるものの、1100mg/L程度まで高濃度の排水は処理困難であるのに対し、担体を用いて処理する場合は1300mg/Lの排水でも処理することが可能であり、クレゾール濃度600〜1500mg/Lまでの排水に対しては本発明のフェノール類化合物含有排水の処理方法を用いることで初めて処理可能となることが示された。また、これを受けて、前記接触曝気槽において処理されたフェノール類化合物含有排水を受け入れて処理する水処理槽を設けてあると、前記接触曝気槽でクレゾール濃度を600mg/Lを下回る程度に処理するとともに、前記水処理槽として従来の活性汚泥処理槽を用いることによっても、さらに高度な処理が行えることがわかる。さらに、沈殿槽を設けた構成とすると放流される処理済みの排水の水質をきわめて正常なものとできることも分かる。
【0043】
また、放流される処理済みの排水の一部を前記供給部に返送する返送部を設け、返送される処理済みの排水によりフェノール類化合物含有排水の原水を希釈して、原水に含まれるフェノール類化合物濃度を1500mg/L以下にまで低下させることにより、前記フェノール類化合物としてクレゾールが主体となっている排水も十分処理可能になるとともに、放流される排水量および希釈に用いる水量を減少させられることが明らかである。
【0044】
(実施例5)長期処理試験
実施例1において用いるフェノール類化合物含有排水を、フェノール濃度900mg/Lクレゾール濃度450mg/Lのものに変更し、長期的に排水処理をおこなったところ、排水中のTOC濃度が
図3のように推移した。
【0045】
図より、本発明のフェノール類化合物含有排水の処理方法によると、フェノール類化合物含有の高TOC排水を、長期にわたって安定的に、TOC800mg/L以下にまで浄化することができることがわかる。また、上記フェノール類化合物含有排水の処理装置の運転状況から、CODcr容積負荷率にして2〜10kg/m
3・日程度の処理が可能であることもあきらかになった。