(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る差し込みコネクタ(以下、単にコネクタともいう)は、雌端子に雄端子を嵌め込むことによって、電流路が形成される差し込みコネクタであり、安定した電気的な接続信頼性と、繰り返し摺動に対する耐磨耗性を備え、経済性にも優れるコネクタである。以下、詳しく説明する。
【0020】
差し込みコネクタは、主として自動車に使用されるものであるが、これに限定されるものではない。
なお、差し込みコネクタの雄端子としては、例えば、従来自動車のエンジン周りの部品に使用していた前記したボルトの代わりに使用するもの(ボルトの周囲のねじ山がないもの)や、充電用プラグに使用するもの等がある。また、差し込みコネクタの雌端子としては、例えば、上記した雄端子が嵌め込まれるもの等がある。
【0021】
上記した雌端子及び雄端子の少なくとも一方(双方でもよい)の接続部分の母材には、下地めっき層を介してAg−Bi(銀/ビスマス)合金めっき層と純Agめっき層(純度が、例えば、99.99質量%以上)が順に形成されている。
接続部分の母材としては、Cu(銅)合金を使用できるが、使用用途に応じて種々変更でき、例えば、Cu系(Cu又はCu合金)、Fe(鉄)系(Fe又はFe合金(ステンレス等))、及びAl(アルミニウム)系(Al又はAl合金)のいずれか1種を使用することもできる。
【0022】
また、下地めっき層としては、母材からの元素の拡散を抑制するため、Ni(ニッケル)又はNi合金を使用することが好ましい。
ここで、下地めっき層にNiを使用する場合、その厚みを0.5μm以上2μm以下にすることにより、母材からの元素の拡散を抑制する効果が向上する。
【0023】
Ag−Bi合金めっき層と純Agめっき層は、以下の理由により、母材の表面に形成した。
まず、
図1(A)、(B)を参照しながら説明する。
図1(A)、(B)は、それぞれAgめっき層、Ag−Bi合金めっき層が形成された半球状の凸部表面を、試験片に対して往復摺動させた場合の摺動後の試験片の磨耗形態を示す説明図である。なお、
図1(A)の試験片は、めっき層としてAgめっきを使用し、
図1(B)の試験片は、めっき層としてAg−Bi合金めっきを使用している。
【0024】
図1(A)に示すように、Agめっき層の厚みが十分に厚い場合、Agの自己潤滑と相互転写の特性が得られる。このため、凸部表面を試験片に対して摺動させると、Agめっき層の磨耗速度は速いが、ある程度の深さで磨耗が進行しなくなる。
一方、Ag−Bi合金はAgと比較して硬質であるため、凸部表面を試験片に対して摺動させると、磨耗の進行は遅いものの、
図1(B)に示すように、磨耗の深さが摺動回数に比例し、下地が表面に露出することになる。
【0025】
以上の結果を基に、摺動回数の増加に伴う接触抵抗値の推移について検討した結果を、
図2を参照しながら説明する。なお、接触抵抗値の増加は、雌端子と雄端子との間の通電特性の低下を意味する(以下、同様)。
試験は、厚み1μmのAgめっき層(下地めっき層:Ni)が形成された直径3mmの半球状の凸部(厚み0.2mm)表面を、試験片に対して往復摺動(ストローク:0.05mm、温度:室温)させることで行った。なお、試験片としては、Agめっき層(厚み:2μmと10μm)がNiの下地めっき層を介して母材の表面に形成されたものと、Ag−Bi合金めっき層(Bi含有量:0.2at%(原子%))と純Agめっき層(厚み:2μm)が順に、Niの下地めっき層を介して母材の表面に形成されたものを使用した(合計3種類)。
【0026】
図2に示すように、厚み2μmのAgめっき層が形成された試験片は、Agめっき層の厚みが薄過ぎたため、摺動試験の途中で、下地めっき層であるNiが表面に露出し、接触抵抗値の上昇を招いた。
また、厚み10μmのAgめっき層が形成された試験片は、Agめっき層の厚みが十分であったため、下地めっき層であるNiが表面に露出することなく、接触抵抗値を低い値で推移させることができた(
図1(A)参照)。しかし、この場合、Agめっき層の厚みが厚くなるため、製造コストの上昇を招く。
一方、Ag−Bi合金めっき層と純Agめっき層が順に形成された試験片は、純Agめっき層の厚みが薄かったにも関わらず、上記した厚み2μmのAgめっき層が形成された試験片と比較して、接触抵抗値を低い値で推移させることができた。
【0027】
また、耐熱性試験の前後における接触抵抗値の変化を、
図3を参照しながら説明する。
試験は、めっき層形成直後の試験片(耐熱性試験前の試験片)と、この試験片を150℃で1000時間加熱した試験片(耐熱性試験後の試験片)を用い、前記した往復摺動により行った。なお、試験片としては、Ag−Bi合金めっき層(Bi含有量:0.2at%)と純Agめっき層が順に、Niの下地めっき層を介して母材の表面に形成されたもの(Ag−Bi合金+Ag)と、純Agめっき層のみがNiの下地めっき層を介して母材の表面に形成されたもの(Ag)と、Ag−Bi合金めっき層(Bi含有量:0.2at%のみがNiの下地めっき層を介して母材の表面に形成されたもの(Ag−Bi合金)を使用した(合計3種類)。
【0028】
図3から明らかなように、耐熱性試験前の試験片はいずれも、接触抵抗値が略同等で、しかも低い値であった。
一方、耐熱性試験後の試験片は、「Ag−Bi合金」の場合、接触抵抗値の急激な上昇が確認されたが、「Ag−Bi合金+Ag」については、耐熱性試験前と略同等の接触抵抗値が得られ、しかも、その接触抵抗値は「Ag」と略同等であった。
更に、上記した「Ag」と「Ag−Bi合金+Ag」については、曲げ加工試験(曲げ試験又はW曲げ試験)を行ったが、「Ag−Bi合金+Ag」のAg−Bi合金めっき層とAgめっき層は、共に母材から剥がれることなく、曲げ加工性は「Ag」のAgめっき層と略同等であった。
【0029】
以上のことから、Agの自己潤滑及び相互転写と、Ag―Bi合金の硬質性を備える構成として、前記した構成、即ち、母材の表面に、下地めっき層を介してAg−Bi合金めっき層と純Agめっき層を順に形成した構成とした。
上記したAg―Bi合金は、Ag中にBiが固溶しているため、Ag−Bi合金めっき層の硬度が、純Agめっきの場合と比較して上昇する。例えば、Ag−Bi合金めっき層のマイクロビッカース硬度(MHv)は、上記した耐熱性試験後も110以上である(Agめっき層の硬度は80程度)。このAg−Bi合金めっき層の耐熱性試験前のマイクロビッカース硬度は、120以上180以下程度である。
【0030】
なお、この場合、Ag−Bi合金めっき層中のBiの含有率は、例えば、0.01at%以上3at%以下(下限を0.05at%、更には0.1at%とすることが好ましく、上限を1at%、更には0.5at%とすることが好ましい)でよい。
ここで、Ag−Bi合金めっき層中のBi含有率が0.01at%未満の場合、Bi量が少な過ぎて皮膜硬度が不足し、耐摺動磨耗性に十分に寄与せず、一方、Bi含有率が3at%超の場合、Bi量が多過ぎて皮膜が硬くなり、曲げ加工性が劣る。
また、Ag−Bi合金めっきは、Biを除けば全てAgであるが、不可避的不純物が含まれている場合もある。
【0031】
このAg―Bi合金めっき層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.2μm以上2μm以下(好ましくは、下限を0.5μm、上限を1.5μm)の範囲にあることが好ましい。
Ag―Bi合金めっき層の厚みを、上記した範囲に規定することで、Ag―Bi合金めっき層の特性、即ち純Agめっき層の下層に硬質層を存在させるという特性を、十分に発揮できる。
【0032】
また、純Agめっき層の厚みも、特に限定されるものではないが、0.5μm以上5μm以下の範囲にあることが好ましい。
ここで、純Agめっき層の厚みが0.5μm未満の場合、厚みが薄過ぎて、コネクタの使用時に純Agめっき層が磨耗し、下層のAg―Bi合金めっき層が露出して、接触抵抗値の上昇を招く(
図1(B)参照)。一方、純Agめっき層の厚みが厚ければ、Agの自己潤滑と相互転写の効果が得られるため、上限値については特に限定されないが、製造コストの低減を図るためには、5μm(好ましくは3μm、更に好ましくは2μm)程度がよい。
【0033】
上記したAg―Bi合金めっき層は、下地めっき層の表面に直接形成できるが、下地めっき層とAg―Bi合金めっき層との密着性を高めるため、特に、高温(150℃超)の使用環境下では、下地めっき層とAg−Bi合金めっき層との間に、Cuめっき層を形成することが好ましい。
このCuめっき層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.05μm以上1μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0034】
Cuめっき層の厚みが0.05μm未満の場合、Cuめっき層の厚みが薄過ぎて、下地めっき層が拡散し、Ag−Bi合金めっき層が剥がれ易くなる。このため、Cuめっき層の厚みを0.05μm以上としたが、0.08μm以上とすることが好ましい。
一方、Cuめっき層の厚みが厚くなっても、Ag−Bi合金めっき層により、純Agめっき層へのCuの拡散を抑制、更には防止できるため、上限値については特に限定されるものではないが、経済性を考慮すれば、1μm(更には、0.5μm)である。
【0035】
ここで、耐熱性試験の前後におけるAgめっき層へのCuの拡散状況について、
図4を参照しながら説明する。
試験は、めっき層形成直後の試験片(耐熱性試験前の試験片)と、この試験片を150℃で1000時間加熱した試験片(耐熱性試験後の試験片)を用い、Agめっき層中のCu量の割合(Cu/Ag)を算出することで行った(AES分析結果:分析面の最表面層を高精度に分析可能)。なお、試験片としては、Ag−Bi合金めっき層(Bi含有量:0.2at%)と純Agめっき層が順に、Cuめっき層の表面に形成されたもの(Ag−Bi合金+Ag)と、純Agめっき層のみがCuめっき層の表面に形成されたもの(Ag)を使用した(合計2種類)。
【0036】
図4から明らかなように、耐熱性試験前の試験片は、「Ag」の場合、Agめっき層へのCuの拡散が僅かに発生したが、「Ag−Bi合金+Ag」の場合、Agめっき層へのCuの拡散は全くなかった。
また、耐熱性試験後の試験片は、「Ag」の場合、Agめっき層へのCuの拡散が顕著に発生したが、「Ag−Bi合金+Ag」の場合、Agめっき層へのCuの拡散は全くなかった。
【0037】
なお、差し込みコネクタには、上記したAg−Bi合金めっき層の代わりに、光沢Agめっき層を形成したものを使用することもできる。
ここで、摺動回数の増加に伴う接触抵抗値の推移について検討した他の結果を、
図5を参照しながら説明する。
試験は、エンボス材に形成された直径3mmの半球状の凸部表面を、試験片に対して往復摺動(加重:4N、ストローク:10mm、温度:室温)させることで行った。なお、エンボス材と試験片の母材は共に、Cuで構成されている。また、母材の表面にはそれぞれ、半光沢Niの下地めっき層(厚み:1.0μm)を介して、同一構成(組成と厚みが同一)のめっき層が形成されている。
【0038】
なお、めっき層が形成された母材として、以下の3種類を使用した。
・めっき層として純Agめっき層(厚み:1.0μm)が、下地めっき層を介して、母材の表面に形成されたもの
・めっき層としてAg−Bi合金めっき層(Bi含有量:0.2at%、厚み:0.3μm)と純Agめっき層(厚み:1.0μm)が順に、下地めっき層を介して、母材の表面に形成されたもの
・めっき層として光沢Agめっき層(厚み:0.3μm)と純Agめっき層(厚み:1.0μm)が順に、下地めっき層を介して、母材の表面に形成されたもの
【0039】
図5に示すように、下地めっき層の表面に純Agめっき層のみが形成された試験片は、純Agめっき層の厚みが薄過ぎたため、純Agめっき層が摺動回数4回程度で剥がれてしまい(母材表面が露出していまい)、接触抵抗値の上昇を招いた。
一方、下地めっき層の表面に、Ag−Bi合金めっき層と純Agめっき層が順に形成された試験片は、前記した
図2の結果と同様、純Agめっき層の厚みが薄かったにも関わらず、接触抵抗値を低い値で推移させることができた。
また、下地めっき層の表面に、光沢Agめっき層と純Agめっき層が順に形成された試験片は、摺動回数20回程度まで、上記したAg−Bi合金めっき層が形成された場合と同様、接触抵抗値が低い値で推移していた。
【0040】
従って、差し込みコネクタには、Ag−Bi合金めっき層の代わりに、光沢Agめっき層が形成されたものを使用することもできる。
ここで、光沢Agめっきとは、光沢剤の添加による電気化学反応の抑制により、Agの結晶組織が微細化され、表面平滑度が向上して、光沢が得られるものである。また、この微細な結晶の粒界には、添加された物質や水素が不純物として析出している結果、硬質のめっき膜となる(マイクロビッカース硬度:120以上180以下程度)。
なお、Ag中に含まれる上記した光沢剤としては、Se(セレン)及びSb(アンチモン)のいずれか一方又は双方がある。
【0041】
なお、光沢剤として、SeとSbの双方を含む場合、光沢Agめっき層中のSeとSbの各含有率は、例えば、以下の割合であることが好ましい。
・Se:0.05at%以上0.09at%以下
・Sb:0.15at%以上0.30at%以下
これにより、皮膜硬度が高められ、耐摺動磨耗性を備えることができると共に、必要な曲げ加工性も備えることができる。
なお、光沢Agめっきは、SeとSbの双方を含む場合、SeとSbの双方(Se及びSbのいずれか一方のみを含む場合、その一方)を除けば全てAgであるが、不可避的不純物が含まれている場合もある。
【0042】
また、光沢Agめっきは、上記硬度が得れる構成であれば、特に限定されるものではなく、例えば、以下に示す光沢剤が含まれるものでもよい。
(1)二酸化炭素とケトン類の縮合生成物
(2)キサントゲン塩
(3)ASK化合物(アクロレイン−二硫化硫黄縮合生成物)
(4)チオカクバジッド縮合生成物
(5)チオ硫酸塩
(6)セレニウムとテルリウム化合物
(7)アンチモン−ビスマス化合物
【0043】
この光沢Agめっき層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.2μm以上2μm以下(好ましくは、下限を0.5μm、上限を1.5μm、更には1.0μm)の範囲にあることが好ましい。
光沢Agめっき層の厚みを、上記した範囲に規定することで、光沢Agめっき層の特性、即ち純Agめっき層の下層に硬質層を存在させるという特性を、十分に発揮できる。
また、上記した光沢Agめっき層は、下地めっき層の表面に直接形成できるが、下地めっき層と光沢Agめっき層との密着性を高めるため、下地めっき層と光沢Agめっき層との間に、前記したCuめっき層(例えば、厚みが0.05μm以上1μm以下)を形成することが好ましい。
【0044】
以上に示した本発明の差し込みコネクタは、安定した電気的な接続信頼性と、繰り返し摺動に対する耐磨耗性を備え、経済性にも優れる。
【0045】
続いて、本発明の一実施の形態に係る差し込みコネクタの製造方法について説明する。
まず、母材を準備する。この母材は、製品と略同一形状に加工されたものである。
そして、この母材をめっき浴中に浸漬して、めっき処理する。
このめっき処理は、Niめっき、Ag−Bi合金めっき、及び純Agめっきを、順次行う。ここで、Ag−Bi合金めっきは、Bi濃度を調整しためっき浴を使用し、陽極にPt(白金電極)を用いて行う。
なお、Cuめっきを行う場合は、Niめっきを行った後、Cuめっきを行う。
これにより、母材に、下地めっき層を介して(場合によってはCuめっき層と)Ag−Bi合金めっき層と純Agめっき層を順に形成できる。
【0046】
また、Ag−Bi合金めっき層の代わりに、光沢Agめっき層を形成する場合も、上記した方法と同様に、母材をめっき浴中に浸漬して、Niめっき、光沢Agめっき、及び純Agめっきの各めっき処理を、順次行う。
なお、光沢Agめっき層として、Ag中にSeとSbの双方が含まれる場合のめっき液には、例えば、めっき液1リットル中に、Ag:60g、Se:20mg以上40mg以下、Sb:100mg以上200mg以下のものを使用できる。
これにより、母材に、下地めっき層を介して(場合によってはCuめっき層と)光沢Agめっき層と純Agめっき層を順に形成できる。
【0047】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の差し込みコネクタを構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。