(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の保持シール材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す上面図であり、
図3(b)は
図3(a)に示す保持シール材の一部正面図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す上面図であり、
図4(b)は
図4(a)に示す保持シール材の一部正面図である。
【
図5】
図5は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す一部正面図である。
【
図6】
図6は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す一部正面図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す保持シール材を排ガス処理体に巻き付けた例を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す巻付体を金属ケーシング内に配設してなる、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す側面図である。
【
図9】
図9は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
【0022】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の保持シール材及び排ガス浄化装置について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0023】
はじめに、本発明の保持シール材について説明する。
本発明の保持シール材は、長尺状の保持シール材であって、該保持シール材は、複数の無機繊維シートが長手方向に亘り、該長手方向に傾斜して積層、一体化された構造を有してなることを特徴とする。
【0024】
図1は、本発明の保持シール材の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示す保持シール材1は、全体としては、所定の長手方向(
図1において両矢印aで示す方向)の長さ(以下、
図1中、両矢印Lで示す)、幅(
図1中、両矢印Wで示す)及び厚さ(
図1中、両矢印Tで示す)を有する長尺状の保持シール材である。
そして、保持シール材1は、複数の無機繊維シート10が長手方向に亘り、該長手方向に傾斜して積層、一体化された構造を有してなる。
図1には、無機繊維シート10の例として無機繊維シート10a、その上に積層された無機繊維シート10b、さらにその上に積層された無機繊維シート10cに参照符号を付して示している。ここでは3枚の無機繊維シートにのみ参照符号を付しているが、図面から明らかなように多数枚の無機繊維シート10が積層されて保持シール材1となっている。
無機繊維シート10は、所定の長さ及び厚さを有し、凸部13又は凹部14に配置される一部の無機繊維シートを除いて保持シール材の幅Wと同じ幅を有しているシート状の部材である。
保持シール材1は、第1の主面11及び第1の主面と反対側の主面である第2の主面12を有しており、
図1では第2の主面12が紙面の表側に表れている。
図1に示す保持シール材1では、第1の主面11に形状保持シート50が設けられており、第1の主面11は形状保持シート50により隠れた形態となっている。
【0025】
保持シール材1では、保持シール材の長さ方向側の端部のうち、一方の端部には凸部13が形成されており、他方の端部には凹部14が形成されている。凸部13及び凹部14は、後述する排ガス浄化装置を組み立てるために排ガス処理体に保持シール材1を巻き付けた際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっている。
【0026】
図2は、
図1に示す保持シール材の一部正面図である。
複数の無機繊維シート10は、保持シール材の長手方向に対して傾斜している。この“傾斜”とは、無機繊維シートの向き(
図2において点線X
1で示す方向)と、保持シール材の長手方向(
図2において両矢印aで示す方向)が平行ではないことを意味する。
【0027】
無機繊維シートを構成する無機繊維の配向方向は、無機繊維シートの向きに沿っているものが多い。そのため、無機繊維シートの向きが保持シール材の長手方向に対して傾斜していると、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けた際に多くの無機繊維の配向方向が排ガス処理体の外周面に沿う方向ではなく、排ガス処理体の外周面に対して傾斜する方向になる。
そのため、巻き付けた保持シール材がヘタって保持力(面圧)が低下することが防止され、排ガス処理体を保持するための面圧特性に優れた保持シール材となる。
【0028】
無機繊維シートが保持シール材の長手方向に対して傾斜する角度、すなわち
図2でθで示す角度は5°〜80°であることが望ましく、20°〜60°であることがより望ましい。
θが80°を超えると無機繊維シートが“立つ”形に近くなってしまい、保持シール材の形状が安定しにくい。また、θが5°未満であると無機繊維の配向方向が排ガス処理体の外周面に沿う方向に近くなってしまい、面圧特性の改良効果が小さくなる。
【0029】
無機繊維シートは、無機繊維からなり、無機繊維としては、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが望ましい。
無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、及び、ムライト繊維の少なくとも1種である場合には、耐熱性に優れているので、排ガス処理体が充分な高温に晒された場合であっても、変質等が発生することはなく、保持シール材としての機能を充分に維持することができる。また、無機繊維が生体溶解性繊維である場合には、保持シール材を用いて排ガス浄化装置を作製する際に、飛散した無機繊維を吸入等しても、生体内で溶解するため、作業員の健康に害を及ぼすことがない。
【0030】
無機繊維シートは、ニードリング法、抄造法、前駆体繊維シート成型法等の方法により得られる。
無機繊維シートがニードリング法で得られる場合、交絡構造を呈するために、無機繊維はある程度の平均繊維長を有しており、例えば、無機繊維の平均繊維長は、1〜150mmであることが好ましく、10〜80mmであることがより好ましい。
無機繊維の平均繊維長が1mm未満であると、無機繊維の繊維長が短すぎるため、無機繊維同士の交絡が不充分となり、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、保持シール材が割れやすくなる。また、無機繊維の平均繊維長が150mmを超えると、無機繊維の繊維長が長すぎるため、保持シール材を構成する繊維本数が減少するため、無機繊維シートの緻密性が低下する。その結果、保持シール材のせん断強度が低くなる。
【0031】
抄造法により得られる無機繊維シートを構成する無機繊維の平均繊維長は、0.1〜20mmであることが好ましい。
無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維の繊維長が短すぎるため、もはや繊維としての特徴を実質上示さなくなり、シート状の繊維集合体にしたときに繊維同士に好適な絡み合いが起こらず、充分な面圧を得ることが困難になる。また、無機繊維の平均繊維長が20mmを超えると、無機繊維の繊維長が長すぎるため、抄造工程で水に繊維を分散したスラリー溶液中の繊維同士の絡み合いが強くなりすぎるため、シート状の繊維集合体としたときに繊維が不均一に集積しやすくなる。
【0032】
前駆体繊維シート成型法は、無機繊維前駆体を紡糸して積層してシート状物を作製し、上記シート状物を成型して、成型した形状のまま焼成して無機繊維前駆体を無機繊維とすることにより無機繊維シートを得る方法である。
本発明の保持シール材の場合、無機繊維前駆体を紡糸して積層して所定の長さ、幅、厚みを有するシート状物を作製し、その形状のまま焼成して無機繊維前駆体を無機繊維とすることが望ましい。
前駆体繊維シート成型法により得られる無機繊維シートを構成する無機繊維の平均繊維長は10〜300mmであることが望ましい。
【0033】
無機繊維の繊維長の測定は、いずれの方法で得られた無機繊維シートに対しても、ピンセットを使用して、無機繊維シートから繊維が破断しないように抜き取り、光学顕微鏡を使用して繊維長を測定する。ここでは、繊維300本を抜き取り、繊維長を計測した平均を平均繊維長とする。無機繊維シートから繊維を破断せずに抜き取れない場合、無機繊維シートを脱脂処理して、脱脂済み無機繊維シートを水の中へ投入し、繊維同士の絡みをほぐしながら繊維破断しないように採取するとよい。
【0034】
いずれの方法で得られた無機繊維シートにおいても、無機繊維の平均繊維径は、1〜20μmであることが好ましく、2〜15μmであることがより好ましく、3〜10μmであることがさらに好ましい。
【0035】
無機繊維シートの厚さ(
図2中、両矢印tで示す厚さ)は、2〜15mmであることが望ましく、保持シール材の厚さ(
図2中、両矢印Tで示す厚さ)は、5〜30mmであることが望ましい。
なお、保持シール材の厚さには形状保持シートの厚さを含む。
【0036】
形状保持シートは、シート状で、排ガス処理体への巻き付けに適した可撓性を有する部材である。
図2に示す形状保持シート50は、保持シール材の第1の主面11に設けられており、無機繊維シート10の表面のうち第1の主面11を構成する部分と接着剤や糸縫い等の接合手段により接合されて固定されている。
図2には、無機繊維シート10が形状保持シート50と固定されている固定部位の例を参照符号14a、14b、14cで示している。
各無機繊維シートは、形状保持シート50と固定されているために全体として一体化された構造の保持シール材となる。
各無機繊維シートが形状保持シートと固定されている場合、無機繊維シート同士は直接固定されていなくてもよい。もちろん、無機繊維シート同士が直接固定されていてもよい。
【0037】
形状保持シートが設けられた側の主面については、無機繊維シートの位置がずれてしまうことが防止されるので、保持シール材の形状を維持させたまま、排ガス処理体への巻き付けを行うことができ、巻き付け時の作業性の高い保持シール材とすることができる。
【0038】
図2に示す保持シール材1では第1の主面11と第2の主面12に実質的な違いはないので、形状保持シートはどちらか一方の主面に設けられていてもよいし、また、両方の主面に設けられていてもよい。
【0039】
形状保持シートは、不織布、織布、フィルム、紙、又は、有機バインダ固形物からなることが望ましい。この中でも不織布が排ガス処理体への巻き付け性の観点から望ましい。
不織布の材質としては、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナ−シリカ繊維等の無機繊維、あるいは、PP、PE、PET、レーヨン、ナイロン等の合成繊維、綿、パルプ等の天然繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維材料からなることが望ましい。
形状保持シートが織布の場合はその材質はPP、PE、PET、ナイロン等の合成繊維であることが望ましい。
形状保持シートがフィルムの場合はその材質はPP、PE、PET等の合成樹脂であることが望ましい。
形状保持シートが有機バインダ固形物の場合はその材質はアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース若しくはポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体を固形化したもの、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、又は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂であることが望ましい。
また、形状保持シートの厚さは0.05〜1mmであることが望ましい。
【0040】
形状保持シートを無機繊維シートに接合させるための接着剤としては、有機結合剤、無機結合剤、粘着性の接着剤等を使用することができる。
また、形状保持シートに熱接着可能な素材が含まれていたり、ホットメルト等の熱接着可能な接着剤を使用することにより、加熱板、ホットエアー等の熱接着加工での接着も可能である。その他、縫製糸、ステプラー等により部分的接合を効果的な場所に固定することも可能である。
有機結合剤としては、アクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
無機結合剤としては、無機ゾル分散溶液等の無機粒子溶液から溶媒を取り除いた固形成分としての無機粒子が挙げられる。
上記無機ゾル分散溶液(無機粒子溶液)としては特に限定されず、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
上記無機粒子としては、アルミナゾルに由来するアルミナ粒子、シリカゾルに由来するシリカ粒子が好ましい。
【0041】
図3(a)は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す上面図であり、
図3(b)は
図3(a)に示す保持シール材の一部正面図である。
図3(a)及び
図3(b)に示す保持シール材2は、縫製糸20により複数の無機繊維シート10が縫い合わされて一体化された構造を有している。
図3(a)及び
図3(b)には、縫製糸20により無機繊維シート10が2枚ずつ、互いに重なり合う部分で縫い合わされている様子を示している。
縫い目の方向は保持シール材の幅方向(保持シール材の長手方向と略垂直な方向)である。
なお、無機繊維シートが3枚以上積層される部位があれば、その部位において3枚以上の無機繊維シートを一度に縫い合わせてもよい。
【0042】
縫製糸の材質としては、例えば、レーヨン、キュプラ、アセテート等のセルロース系繊維、ナイロン等のポリエステル、テトロン、アクリル、ビニロン、オペロン、ポリエチレン、テフロン(登録商標)、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の合成繊維、木綿、絹等の天然繊維等が挙げられる。これらのなかでは、木綿やポリエステルからなる直径0.1〜5mmのミシン糸であることが望ましい。
縫製の方法としては、本縫い、しつけ縫い等であってもよく、本縫いがより望ましい。無機繊維シート同士をより確実に固定することができるためである。
【0043】
図3(a)及び
図3(b)に示す保持シール材2では、無機繊維シート10が縫製糸20により縫い合わされて一体化しているので、形状保持シートは設けられていない。だが、縫製糸によって縫い合わされて一体化された保持シール材において形状保持シートを設けてもよく、形状保持シートを設けることによって保持シール材の形状を維持させたまま、排ガス処理体への巻き付けを行うことができ、巻き付け時の作業性の高い保持シール材とすることができる。
【0044】
無機繊維シートとしては、
図1及び
図2に示す無機繊維シート10と同様の形態のものを用いることができ、その材質、厚さ、無機繊維の繊維長等の望ましい特性は同様である。
【0045】
図4(a)は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す上面図であり、
図4(b)は
図4(a)に示す保持シール材の一部正面図である。
図4(a)及び
図4(b)に示す保持シール材3では、各無機繊維シート10には貫通孔31が設けられており、可撓性を有する棒状又は紐状の部材である串刺し部材30が貫通孔を貫通することによって、複数の無機繊維シートが一体化された構造を有してなる。
串刺し部材は、保持シール材の長手方向に平行な方向に沿って伸びる棒状又は紐状の部材であり、全ての保持シール材を一つの串刺し部材で一体化させることができる。
【0046】
図4(a)に示す保持シール材3では、串刺し部材は、保持シール材の第1の主面11側に設けられている。
図4(a)では串刺し部材が見えやすいように
図1、
図3とは異なり第1の主面と第2の主面を裏返して示している。また、串刺し部材が設けられた側の主面については、無機繊維シートの位置がずれてしまうことが防止されるので、串刺し部材が設けられている側の主面である保持シール材の第1の主面側を排ガス処理体へ巻き付けることによって、巻き付け時の作業性の高い保持シール材とすることができる。
【0047】
また、
図4(a)及び
図4(b)に示す保持シール材では、串刺し部材の一部が第1の主面側で露出しているが、保持シール材の厚さ方向中央付近に串刺し部材が設けられていて串刺し部材が保持シール材の表面に露出しないような形態であってもよい。
また、串刺し部材は第2の主面側にのみ設けられていてもよく、第1の主面側と第2の主面側の両方に設けられていてもよい。
【0048】
串刺し部材は保持シール材の幅方向に複数本(2本以上)設けることが望ましい。
串刺し部材を2本以上設けることで無機繊維シートの位置が安定するため好ましい。
図4(a)では、保持シール材の幅方向に複数本の串刺し部材(30a、30b、30c)を並べて、保持シール材の長手方向に平行な方向に沿った串刺し部材を複数カ所に並べて配置した様子を示している。
【0049】
また、串刺し部材を使用して一体化する場合に、複数の串刺し部材を使用して一体化するようにしてもよい。具体的には、
図4(a)の下段に串刺し部材30cとして示すように、保持シール材の長手方向において一方の端点からある中間地点の無機繊維シートまでを一つの串刺し部材30c
1で一体化し、その中間地点から保持シール材のもう一方の端点の無機繊維シートまでを別の串刺し部材30c
2で一体化するという形態でもよい。
図4(a)では、串刺し部材30c
1で一体化させる領域と串刺し部材30c
2で一体化させる領域を重ならせることによって、複数の無機繊維シートを確実に一体化できるようにしている。
【0050】
串刺し部材の末端は、貫通孔から抜けないように末端処理(カシメ、玉結び、玉止め等)を行うことが望ましい。
【0051】
串刺し部材の材質としては、上述した縫製糸と同じ材質の紐状の部材を用いることができる。
また、串刺し部材が棒状の部材の場合も上述した縫製糸と同じ材質の棒状の部材を用いることができ、棒状の部材は保持シール材を排ガス処理体に巻き付けることができるように可撓性を有することが望ましい。
【0052】
図4(a)及び
図4(b)に示す保持シール材3では、複数の無機繊維シート10が串刺し部材30により一体化しているので、形状保持シートは設けられていない。だが、このような保持シール材において形状保持シートを設けてもよく、形状保持シートを設けることによって保持シール材の形状を維持させたまま、排ガス処理体への巻き付けを行うことができ、巻き付け時の作業性の高い保持シール材とすることができる。
【0053】
無機繊維シートとしては、
図1及び
図2に示す無機繊維シート10と同様の形態のものを用いることができ、その材質、厚さ、無機繊維の繊維長等の望ましい特性は同様である。
【0054】
図5は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す一部正面図である。
図5に示す保持シール材4では、各無機繊維シート10にはニードリング加工がされており、ニードリング加工により無機繊維シート間で絡み合った無機繊維によって複数の無機繊維シートが一体化された構造を有してなる。
保持シール材4には、ニードリング加工により形成された交絡部40が設けられている。
交絡部40では無機繊維シートの境界面で無機繊維同士が絡み合うため、無機繊維シート同士が結合され、一体化される。
交絡部において無機繊維同士の絡み合いを強くするためには、先端にバーブ(枝分かれ)を有するニードルを用いたニードリング加工を行うことが好ましい。
なお、ニードリング加工は、ニードルパンチング処理ともいう。
【0055】
ニードリング加工による交絡部の形成方法としては、複数枚の無機繊維シートを重ねて一度にニードリング加工する方法が挙げられる。
また、無機繊維前駆体シートを重ねてニードリング加工して交絡部を形成して、製造する保持シール材の形状に一体化された無機繊維前駆体シートを作製しておき、その後、焼成することによって無機繊維前駆体を無機繊維として、無機繊維シートがニードリング加工により形成された交絡部により一体化された保持シール材とする方法が挙げられる。
【0056】
図5に示す保持シール材4では、複数の無機繊維シート10がニードリング加工により無機繊維シート間で絡み合った無機繊維によって一体化しているので、形状保持シートは設けられていない。だが、このような保持シール材において形状保持シートを設けてもよく、形状保持シートを設けることによって保持シール材の形状を維持させたまま、排ガス処理体への巻き付けを行うことができ、巻き付け時の作業性の高い保持シール材とすることができる。
【0057】
無機繊維シートとしては、
図1及び
図2に示す無機繊維シート10と同様の形態のものを用いることができ、その材質、厚さ、無機繊維の繊維長等の望ましい特性は同様である。
【0058】
図6は、本発明の保持シール材の別の一例を模式的に示す一部正面図である。
図6に示す保持シール材5では、各無機繊維シート10が接着剤45により接着されて一体化されて複数の無機繊維シートが一体化された構造を有してなる。
接着剤は、無機繊維シートの表面に塗布等により設けられ、隣接する無機繊維シート同士を接着する。接着剤としては、形状保持シートを無機繊維シートに接合させるための接着剤として上述した、有機結合剤、無機結合剤等を使用することができる。
すなわち、有機結合剤としては、アクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
無機結合剤としては、無機ゾル分散溶液等の無機粒子溶液から溶媒を取り除いた固形成分としての無機粒子が挙げられる。
上記無機ゾル分散溶液(無機粒子溶液)としては特に限定されず、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
上記無機粒子としては、アルミナゾルに由来するアルミナ粒子、シリカゾルに由来するシリカ粒子が好ましい。
【0059】
図6に示す保持シール材5では、複数の無機繊維シート10が接着剤45により一体化しているので、形状保持シートは設けられていない。だが、このような保持シール材において形状保持シートを設けてもよく、形状保持シートを設けることによって保持シール材の形状を維持させたまま、排ガス処理体への巻き付けを行うことができ、巻き付け時の作業性の高い保持シール材とすることができる。
【0060】
無機繊維シートとしては、
図1及び
図2に示す無機繊維シート10と同様の形態のものを用いることができ、その材質、厚さ、無機繊維の繊維長等の望ましい特性は同様である。
【0061】
以下、本発明の保持シール材を製造する方法の一例について説明する。
まず、無機繊維シートを作製する。無機繊維シートは、種々の方法により得ることができるが、例えば、ニードリング法、抄造法又は前駆体繊維シート成型法により製造することができる。
ニートリング法及び抄造法では、平板状の無機繊維シートを作製し、所定の形状に切断等により成形する。
一方、前駆体繊維シート成型法では無機繊維前駆体を最終形状になるように成形し、そのまま焼成して、所定の形状の無機繊維シートを作製する。
【0062】
ニードリング法の場合、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、まず、例えば、塩基性塩化アルミニウム水溶液とシリカゾル等とを原料とする紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して無機繊維前駆体を作製する。続いて、上記無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製し、焼成処理を施すことにより3〜10μmの平均繊維径を有する無機繊維シートの準備が完了する。このとき、焼成処理前にニードルパンチング処理を行ってもよい。
【0063】
抄造法の場合、アルミナ繊維、シリカ繊維等の無機繊維と、無機結合剤と、有機結合剤と、水とを原料液中の無機繊維の含有量が所定の値となるように混合し、攪拌機で攪拌することで混合液を調製する。混合液には、必要に応じて、高分子化合物や樹脂からなるコロイド溶液が含まれていてもよい。続いて、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器に混合液を流し込んだ後に、混合液中の水を、メッシュを介して脱水することにより原料シートを作製する。その後、原料シートを所定の条件で加熱圧縮、乾燥することにより無機繊維シートの準備が完了する。
【0064】
ニードリング法及び抄造法においては、平板状の無機繊維シートが得られるので、その後無機繊維シートを所定の形状(所定の長さ及び厚さを有し、凸部又は凸部に配置される一部の無機繊維シートを除いて保持シール材の幅と同じ幅を有しているシート状の部材)に成形することが望ましい。
【0065】
前駆体繊維シート成型法の場合、無機繊維前駆体を紡糸して積層してシート状物を作製し、上記シート状物を成型して、成型した形状のまま焼成して無機繊維前駆体を無機繊維とすることにより無機繊維シートを得る。
焼成温度は1150〜1300℃とすることが望ましい。
無機繊維前駆体からなるシート状物を焼成した場合、焼成の前後でシート状物の形状はほとんど変わらずに維持される。
【0066】
上記無機繊維シートには、必要に応じて、有機結合剤及び/又は無機結合剤を含む結合剤溶液を付与し、乾燥する処理を行ってもよい。
有機結合剤としては、アクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
有機結合剤の含有量は、保持シール材100重量%に対して0.5〜12重量%であることが望ましい。
保持シール材中の有機結合剤の含有量は、保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率として求めることができる。
また、無機結合剤としては、無機ゾル分散溶液等の無機粒子溶液から溶媒を取り除いた固形成分としての無機粒子が挙げられる。
上記無機ゾル分散溶液(無機粒子溶液)としては特に限定されず、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
上記無機粒子としては、アルミナゾルに由来するアルミナ粒子、シリカゾルに由来するシリカ粒子が好ましい。
無機結合剤の添着量は、無機繊維100重量部に対して0.5〜12重量部であることが好ましい。
乾燥処理としては、通気乾燥、熱版による圧縮乾燥等の方法を用いることができる。
もし、熱板による乾燥を行うと無機繊維シート内に含浸されたバインダの分布が厚み方向に均一となるため、厚みの成形性が悪い抄造法の無機繊維シートには有利となる。
【0067】
続けて、無機繊維シートを、保持シール材の長手方向に亘り、該長手方向に傾斜するように積層し、さらに、複数の無機繊維シートが一体化された構造にする。
無機繊維シートを一体化させる手段によって、その具体的な工程は異なる。
図1及び
図2に示す保持シール材のように形状保持シートを用いて一体化する場合は、無機繊維シートの、形状保持シートと固定される部位に接着剤を塗布し、無機繊維シートと形状保持シートを各接着剤に適した処理(加熱、2液の混合、紫外線照射等)を行って各無機繊維シートを形状保持シートに固定する。
図3(a)及び
図3(b)に示す保持シール材のように縫製糸により無機繊維シートを縫い合わせて一体化する場合は、無機繊維シートを所定位置に並べた後、ミシン縫い、手縫い等の方法により無機繊維シートを縫い合わせて一体化する。
図4(a)及び
図4(b)に示す保持シール材のように串刺し部材により無機繊維シートを一体化する場合は、無機繊維シートを所定位置に並べた後、先端を鋭利にした串状の串刺し部材を無機繊維シートに刺して次々と一体化するか、キリ等の部材で無機繊維シートに貫通孔を形成した後に串刺し部材を通して一体化する。
串刺し部材の末端には、貫通孔から抜けないような末端処理(カシメ、玉結び、玉止め等)を行うことが望ましい。
図5に示す保持シール材のようにニードリング加工により無機繊維シートを一体化する場合は、無機繊維シートを所定位置に並べた後、先端にバーブ(枝分かれ)を有するニードルを用いて保持シール材の厚さ方向に、複数枚の無機繊維シートを貫通するようにニードリング加工(ニードルパンチング処理)を行って交絡部を形成し、無機繊維シートを一体化する。
なお、ニードリング加工により無機繊維シートを一体化する場合は、前駆体繊維シート成型法による保持シール材の作製において、無機繊維前駆体からなるシート状物を重ねてニードリング加工して交絡部を形成して、製造する保持シール材の形状に一体化された無機繊維前駆体シートを作製しておき、その後、焼成することによって無機繊維前駆体を無機繊維として、無機繊維シートがニードリング加工により形成された交絡部により一体化された保持シール材としてもよい。
図6に示す保持シール材のように接着剤により無機繊維シートを一体化する場合は、無機繊維シートに接着剤を塗布等により付与した後、接着剤を塗布した面を他の無機繊維シートと合わせて無機繊維シート同士を接着して一体化する。
【0068】
一体化した無機繊維シートを保持シール材の形状に裁断することによって、本発明の保持シール材を得ることができる。
保持シール材の裁断は、トムソン刃、ギロチン刃、レーザー、ウォータジェット等により行うことができる。適宜、状況に応じて上記裁断方法を用いればよいが、大量加工を重視するのではあればトムソン刃やギロチン刃が好ましく、裁断精度を重視するのであればレーザーやウォータジェットが好ましい。
【0069】
なお、一体化した無機繊維シートを保持シール材の形状に裁断するのではなく、凹部や凸部の形状に使用されるための、寸法の異なる無機繊維シートも作製しておき、凹部や凸部を含めた最終形状になるように無機繊維シートを並べて、一体化を行うようにすれば、裁断することなく凹部や凸部を含めた形状を有する本発明の保持シール材を得ることができる。
【0070】
保持シール材を製造した後に、特に形状保持シートを用いた一体化を行っていない場合に、保持シール材の一方又は両方の主面に形状保持シートを設けてもよい。形状保持シートは、上述したように接着剤や糸縫い等の接合手段により保持シール材に接合させることができる。
【0071】
本発明の保持シール材は、排ガス処理体に巻き付けられて使用される。
図7は、
図1に示す保持シール材を排ガス処理体に巻き付けた例を模式的に示す斜視図である。
図7に示す巻付体60は、排ガス処理体120の側面に、
図1に示す保持シール材1を巻きつけてなり、巻き付けられた保持シール材1の凸部13と凹部14が互いに嵌合するようになっている。排ガス処理体120の詳細については後で説明する。
保持シール材1は、形状保持シート50が設けられた第1の主面11側を排ガス処理体に、形状保持シートが設けられていない第2の主面12側を外側にして巻き付けられている。
【0072】
本発明の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、上記排ガス処理体と上記金属ケーシングとの間に配設され、上記排ガス処理体を保持する保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、
上記保持シール材は本発明の保持シール材であることを特徴とする。
【0073】
図8は、
図7に示す巻付体を金属ケーシング内に配設してなる、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す側面図である。
図8に示すように、本発明の排ガス浄化装置100は、金属ケーシング130と、金属ケーシング130に収容された排ガス処理体120と、排ガス処理体120及び金属ケーシング130の間に配設された保持シール材1とを備えている。
図8に示す金属ケーシング130は、円筒型形状の金属部材であり、巻付体60は、保持シール材1の第2の主面12が金属ケーシング130の側になるように配設されている。
金属ケーシング130は、耐熱性を有する金属であれば特に限定されず、具体的には、ステンレス、鉄等の金属類が挙げられる。
また、ケーシングの形状は、略円筒型形状の他、クラムシェル型形状、ケーシング断面において略楕円型形状、略多角形型形状等を好適に用いることができる。
【0074】
排ガス処理体120は、多数のセル125がセル壁126を隔てて長手方向に並設された柱状のものである。なお、金属ケーシング130の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることとなる。
【0075】
図9は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
上述した構成を有する排ガス浄化装置100を排ガスが通過する場合について、
図9を参照して以下に説明する。
図9に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(
図9中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)120の排ガス流入側端面120aに開口した一のセル125に流入し、セル125を隔てるセル壁126を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁126で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面120bに開口した他のセル125から流出し、外部に排出される。
図9に示す排ガス浄化装置100では、保持シール材1は本発明の保持シール材である。
【0076】
図10は、本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
図10に示す排ガス処理体120は、多数のセル125がセル壁126を隔てて長手方向に併設される柱状のセラミック質からなるハニカム構造体である。また、セル125のいずれかの端部は、封止材128で封止されている。また、ハニカム構造体の外周には、ハニカム構造体の外周部を補強したり、形状を整えたり、ハニカム構造体の断熱性を向上させたりする目的で、外周コート層127が設けられている。
【0077】
セル125のいずれかの端部が封止されている場合、排ガス処理体120の一方の端部からみたときに、端部が封止されたセルと封止されていないセルとが交互に配置されていることが望ましい。
【0078】
排ガス処理体を長手方向に垂直な方向に切断した断面形状は、特に限定されず、略円形、略楕円形でもよく、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形等の略多角形であってもよい。
【0079】
排ガス処理体を構成するセル125の断面形状は、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形等の略多角形でもよく、また、略円形、略楕円形であってもよい。また、排ガス処理体120は、複数の断面形状のセルが組み合わされたものであってもよい。
【0080】
排ガス処理体を構成する素材は特に限定されないが、炭化ケイ素質及び窒化ケイ素質等の非酸化物、並びに、コージェライト及びチタン酸アルミニウム等の酸化物を用いることができる。これらのうち、特に、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質等の非酸化物多孔質焼成体であることが望ましい。
これら多孔質焼成体は、脆性材料であるので、機械的な衝撃等により破壊されやすい。しかし、排ガス処理体の側面の周囲に保持シール材を巻き付けることにより、衝撃が吸収されやすくなるので、機械的な衝撃や熱衝撃により排ガス処理体にクラック等が発生するのを防止することができる。
【0081】
排ガス処理体には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が望ましく、この中では、白金がより望ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いる事もできる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0082】
排ガス処理体としては、コージェライト等からなり、一体的に形成された一体型ハニカム構造体であってもよく、あるいは、炭化ケイ素等からなり、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム焼成体を主にセラミックを含むペーストを介して複数個結束してなる集合型ハニカム構造体であってもよい。
【0083】
排ガス処理体は、セルに封止材が設けられずに、セルの端部が封止されていなくてもよい。この場合、排ガス処理体は、白金等の触媒を担持させることによって、排ガス中に含まれるCO、HC又はNOx等の有害なガス成分を浄化する触媒担体として機能する。
【0084】
排ガス浄化装置の製造にあたり、巻付体を金属ケーシングに収容する方法としては、例えば、金属ケーシング内部の所定の位置まで周囲に保持シール材が配設された排ガス処理体を圧入する圧入方式(スタッフィング方式)、金属ケーシングの内径を縮めるように外周側から圧縮するサイジング方式(スウェージング形式)、並びに、金属ケーシングを第のケーシング及び第2のケーシングの部品に分離可能な形状としておき、巻付体を第1のケーシング上に載置した後に第2のケーシングをかぶせて密封するクラムシェル方式等が挙げられる。
圧入方式によって巻付体を金属ケーシングに収容する場合、金属ケーシングの内径(排ガス処理体を収容する部分の内径)は、上記巻付体の外径より若干小さくなっていることが好ましい。
【0085】
以下に、本発明の保持シール材及び排ガス浄化装置の作用効果について説明する。
【0086】
(1)本発明の保持シール材では、複数の無機繊維シートが積層、一体化された構造を有しているので、全体としては1つの部材である。そのため、排ガス処理体への巻き付けが容易である。そして、無機繊維からなるので重量が軽く、車両向けの部品として適している。
また、無機繊維シートが保持シール材の長手方向に傾斜しているということは、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けた際に無機繊維の配向方向が排ガス処理体の外周面に沿う方向ではなく、排ガス処理体の外周面に対して傾斜する方向になることを意味する。
そのため、巻き付けた保持シール材がヘタって保持力(面圧)が低下することが防止され、排ガス処理体を保持するための面圧特性に優れた保持シール材となる。
【0087】
(2)本発明の排ガス浄化装置では、保持シール材を構成する無機繊維の配向方向が排ガス処理体の外周面に沿う方向ではなく、排ガス処理体の外周面に対して傾斜する方向となっている。
そのため、巻き付けた保持シール材がヘタって保持力(面圧)が低下することが防止され、排ガス処理体が高い面圧で保持された排ガス浄化装置となる。
【0088】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
(無機繊維シートの作製)
まず、以下の手順により、前駆体繊維シート成型法によって無機繊維シートを作製した。
【0090】
Al含有量が70g/lであり、Al:Cl=1:1.8(原子比)となるように調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al
2O
3:SiO
2=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、さらに、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加して混合液を調製した。
得られた混合液を濃縮して紡糸用混合物とし、この紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して無機繊維前駆体を作製した。
【0091】
紡糸した無機繊維前駆体を積層して、ニードリング処理し、シート状物を複数枚作製し、最高温度1250℃で連続して焼成し、長さ600mm、幅200mm、厚さ5mmの、アルミナとシリカとを72重量部:28重量部で含む無機繊維からなる無機繊維シートを得た。
得られた無機繊維シートの嵩密度は0.15g/cm
3であり、坪量は750g/m
2であった。
無機繊維の平均繊維径は、5.1μmであり、無機繊維径の最小値は、3.2μmであった。
焼成の前後でシート状物の面積、厚みが若干収縮することが観察されたが、シート状物の形状はほとんど変わらずに維持されていた。
この無機繊維シートを
図3(a)及び
図3(b)に示すように2段に積層して木綿製の縫製糸によりミシン縫いにより縫い合わせて一体化した。
この一体化した無機繊維シートの高さ(
図2において両矢印Tで示す保持シール材の厚さから、形状保持シートの厚さを引いた、無機繊維シートの高さに相当する高さ)は10.5mmであった。
また、一体化した無機繊維シートの長手方向に対して各無機繊維シートが傾斜する角度(
図2でθで示す角度)は35°であった。
この一体化した無機繊維シートについて、面圧測定試験を行った。
【0092】
(面圧測定試験)
一体化した無機繊維シートの面圧を、面圧測定装置を用いて、以下の方法により測定した。
面圧の測定には、無機繊維シートを圧縮する板の部分に加熱ヒーターを備えた熱間面圧測定装置を使用し、室温状態で、サンプルの嵩密度(GBD)が0.3g/cm
3となるまで圧縮する。そのときの面圧を焼成前面圧とし、その後、10分間保持した。なお、サンプルの嵩密度は、「嵩密度=サンプル重量/(サンプルの面積×サンプルの厚さ)」で求められる値である。
次に、サンプルを圧縮した状態で40℃/minの昇温速度で片面900℃、片面650℃まで昇温しながら、嵩密度が0.273g/cm
3となるまで圧縮を開放し、そして、サンプルを温度片面900℃、片面650℃、嵩密度0.273g/cm
3の状態で5分間保持した。
その後、1inch(25.4mm)/minの速度で嵩密度が0.3g/cm
3となるまで圧縮し、嵩密度0.273g/cm
3となるまでの圧縮の開放と、嵩密度0.3g/cm
3となるまでの圧縮を1000回繰り返した後の嵩密度0.273g/cm
3時の荷重を測定した。
得られた荷重をサンプルの面積で除算することにより、面圧(kPa)を求め、焼成後面圧とした。この試験において焼成後面圧が低いことは、保持シール材がヘタって保持力が低下することを示す。実施例1で作製した無機繊維シートについて面圧測定試験を行ったところ、焼成後面圧は32kPaであった。
【0093】
(比較例1)
面圧測定試験の比較対象として、ニードルマットを作製した。
(a)圧縮工程
実施例1と同様にして得られた無機繊維前駆体を積層して長さ600mm、幅200mm、厚さ40mmのシート状にした後、圧縮してシート状物を作製した。
【0094】
(b)ニードルパンチング工程
上記工程(a)で得られたシート状物に対して、以下に示す条件を用いて連続的にニードルパンチング処理を行ってニードルパンチング処理体を作製した。
まず、ニードルが21個/cm
2の密度で取り付けられたニードルボードを準備した。次に、このニードルボードをシート状物の一方の表面の上方に配設し、ニードルボードをシート状物の厚さ方向に沿って一回上下させることによりニードルパンチング処理を行い、ニードルパンチング処理体を作製した。この際、ニードルの先端部分に形成されたバーブがシート状物の反対側の表面に完全に貫出するまでニードルを貫通させた。
【0095】
(c)焼成工程
上記工程(b)で得られたニードルパンチング処理体を最高温度1250℃で連続して焼成し、アルミナとシリカとを72重量部:28重量部で含む無機繊維からなる焼成シート状物を製造した。無機繊維の平均繊維径は、5.1μmであり、無機繊維径の最小値は、3.2μmであった。このようにして得られた焼成シート状物は、嵩密度が0.15g/cm
3であり、坪量が1500g/m
2であった。
この焼成シート状物の厚さは9.9mmであり、この焼成シート状物について面圧測定試験を行ったところ、焼成後面圧は18kPaであった。
【0096】
実施例1で作製した無機繊維シートは、焼成後面圧が高くなっていた。これは、無機繊維シートを積層することにより無機繊維の配向方向が面圧特性の発揮に適した方向になっていることに起因していると考えられる。一方、比較例1で作製した無機繊維シートは積層構造を有していないため、無機繊維の配向方向が面圧特性の発揮に好ましくない方向になっているものと考えられる。そのため、焼成後面圧が低くなっていた。