(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
1.第1の実施形態:
(1)熱成形装置の概略構成
(2)ヒーターの温度制御の原理
(3)加熱装置の構成
(4)ヒーターの温度制御方法
(5)熱成形装置の作用・効果
(6)変形例
2.第2の実施形態:
3.第3の実施形態:
4.その他の実施形態:
【0013】
1.第1の実施形態:
(1)熱成形装置の概略構成
図を参照しつつ、本発明の一例としての熱成形装置を説明する。
図1は、熱成形装置の構成を説明する図である。熱成形装置100は、加熱装置30と、成形装置40と、制御装置50とを備えている。
図1では、熱成形装置100に加えて、シート供給装置98と、シート保持手段99とが補助的に備えられている。この第1の実施形態で示す熱成形装置100は、シートS1(被加熱物)を加熱し、成形することで成形品S2を製造する。なお、図中左から右に向けた方向をシート搬送方向とも記載する。
【0014】
熱成形装置100により熱成形されるシートS1はカット状のものを例に説明するが、これに限定されず、ロール状に巻き取られたものを引き出して使用する場合や、フィルム状のものを使用してもよい。シートS1の材質は、プラスチックであって、特に、熱可塑性樹脂として説明するが、熱硬化性樹脂であってもよい。また、シートS1の材質は、プラスチックに炭素繊維を含ませた炭素繊維熱可塑性複合材料や、プラスチックにガラスやアラミドを含ませたもの(いわゆる複合材)であってもよい。
【0015】
ユーザが制御装置50を操作してシートS1の熱成形を開始すると、シート供給装置98は、シートストック位置LSにストックされたシートS1を取り出し、シート保持手段99に供給する。シート保持手段99は、シート供給装置98により供給されたシートS1を加熱装置30に供給する。
【0016】
加熱装置30は、供給されたシートS1を、ヒーターユニット10を用いて加熱し、軟化させる。ヒーターユニット10は、本発明のヒーターとして機能し、制御装置50によりその温度を制御される。ヒーターユニット10は、供給されたシートS1の上方に位置する上側ヒーター(第一の加熱部)11と、シートS2の下方に位置する下側ヒーター(第二の加熱部)12と、を備えている。上側ヒーター11は上方側からシートS1に熱を加え、下側ヒーター12は下方側からシートS1に熱を加える。ヒーターユニット10の具体的な構成は後述する。
【0017】
成形装置40は、加熱装置30により軟化されたシートS1を成形する。成形装置40は、真空成形に対応した装置として説明するが、圧空成形に対応した装置であってもよい。成形装置40は、成形品S2に応じたキャビティーが形成された上型41と、クランプ42と、上型を保持する上テーブル(不図示)と、クランプを保持する下テーブル(不図示)と、上テーブルと下テーブルを昇降可能に保持する成形用テーブル駆動機構(不図示)と、上型のキャビティー内に差圧を発生させる差圧供給機構(不図示)と、を備えている。
まず、上型41とクランプ42との間に、軟化したシートS1が搬入される。次に、上型41とクランプ42とが、成形用テーブル駆動機構により、離間位置から近接位置に変化する。離間位置は、上型41とクランプ42との距離が最も離れた位置である。近接位置は、シートS1の成形が行われる上型41とクランプ42との位置である。次に、差圧供給機構が上型41のキャビティー内に差圧を発生させて、シートS1を上型41に密接させる。そのため、シートS1の形状がキャビティーに応じた形に変化する。次に、成形用テーブル駆動機構が上型41とクランプ42とを離間位置に変化させて、成形品S2が取り出される。
【0018】
制御装置50は、加熱装置30および成形装置40が行う一連の処理を制御する。制御装置50は、プログラマブルコントローラー(後述)や、制御基板等を備えている。プログラマブルコントローラーのI/Oポートは加熱装置30、成形装置40と接続されており、制御装置50は加熱装置30と成形装置40の駆動を制御することができる。
【0019】
(2)ヒーターの温度制御の原理
図2は、ヒーターの温度制御の原理を説明する図である。
図2(a)は、ヒーターユニットの温度変化を示す図である。
図2(b)は、シートS1の温度変化を示す図である。
図2(b)は、時間t(横軸)に応じて変化するシートS1の表面および内部の温度変化を示している。
加熱装置30によるシートS1の加熱では、シートS1を一定の温度まで急速に高める処理と、シートのS1の表面と内部の温度変化の違いを吸収しシートS1を均一な温度とする処理とが行われる。以下、ヒーターユニット10に対して、シートS1の温度を一定の温度まで上昇させるために行う温度制御を加熱制御と記載し、シートS1の温度を一定の温度に維持するために行う温度制御を、温度保持制御とも記載する。
【0020】
加熱制御は、シートS1の温度上昇のカーブを制御してシートS1を一定の温度(目標温度Td)まで加熱する(
図2(a))。これを実現するために、ヒーター温度を初期設定温度(初期温度)まで高めた後、シートS1の温度に応じてヒーター温度を順次低下させる(
図2(a))。そのため、シートS1の温度を速やかに上昇し、加熱に要する時間を短縮させることができる。
【0021】
温度保持制御は、
図2(b)に示すように、シートS1の表面温度が目標温度Tdとなった後に、シートS1の表面温度を一定の温度に維持する。ここで、シートS1の内部温度が目標温度Tdに達するのまでの時間は、表面温度が目標温度Tdに達するまでの時間と比べて遅い。目標温度Tdは、例えば、成形装置40に供給されるシートS1の目標値として設定される温度であり、シートS1の融点を超えない温度である。温度保持制御では、シートS1の表面温度を目標温度Td付近に維持させるようヒーターユニットを制御することで、内部温度を上昇させ、シートS1の表面および内部を、均一な温度(目標温度Td)とする。
【0022】
(3)加熱装置の構成
次に、本発明の一例としての加熱装置30の構成を説明する。
図3は、加熱装置30の構成を説明するブロック図である。
図4は、加熱装置30が備えるヒーターユニット10の構成を説明する図である。
【0023】
図3に示すように、加熱装置30は、ヒーターユニット10(上側ヒーター11、下側ヒーター12)に加えて、プログラマブルコントローラー(以下、PLC:programmable logic controllerとも記載する。)31、ユーザインタフェース32、放射温度計(温度計測部)33、熱電対温度計34、操作器35、を備えている。
この第一の実施形態では、PLC31、ユーザインタフェース32、操作器35は、制御装置50の一部を構成しているが、制御装置50と別体であってもよい。
【0024】
まずは、
図4を用いてヒーターユニット10の構成について説明する。
図4(a)は、ヒーターユニット10における熱を放射する加熱側から見た図である。
図4(b)は、ヒーターユニット10の一部であるヒーター要素を拡大した図である。
【0025】
図4(a)に示すヒーターユニット10は、図のx方向、y方向のそれぞれに配列するヒーター要素H3(主ヒーターH1、従ヒーターH2)を備えている。なお、ヒーター要素H3は、主ヒーターH1と従ヒーターH2の総称である。主ヒーターH1は、加熱側の面の略中央に配置されている。主ヒーターH1には、熱電対温度計34が取り付けられており、主ヒーターH1の温度をヒーター計測温度Dhmとして計測する。主ヒーターH1の近くには放射温度計33が位置しており、加熱装置30に供給されたシートS1の表面温度をシート表面温度Dssとして検出する。従ヒーターH2は、主ヒーターH1の周りを囲むようにx方向、y方向に複数配列している。
【0026】
図4(b)に示すヒーター要素H3は、定格電圧での昇温速度が60[℃/秒]以上である急速応答可能な高速追従型ヒーターであり、折返し部を有する蛇行形状に形成されたヒーターエレメントH32が略八角形状の絶縁板H31の一面に配置されている。ヒーターエレメントH32は、複数の帯状発熱板H33と、隣り合う発熱板H33の端部を互い違いに連結する複数の連結板H34とを備えている。各発熱板H33は、長手方向に沿って絶縁板H31から離れる側に山折りされ、長手方向を並行させて離間して配列されている。各連結板H34は、発熱板H33とは逆に谷折りされている。これにより、連結板H34の傾斜面と両隣の発熱板H33の傾斜面とが接触し、電源端子H36,H36間が一つの電熱用合金帯とされている。各発熱板H33の幅方向の縁部は、絶縁板H31から突出した複数の略円柱状支持台H35に保持されている。
なお、ヒーターエレメントには、ニッケルクロム線又は帯、鉄クロム線又は帯、といった電熱用合金線又は帯等を用いることができる。また、ヒーター要素H3の形状も、
図4(b)で示した形状に限定されない。
【0027】
各ヒーター要素H3が発する熱量は、供給される電力量により制御される。あるヒーター要素H3に供給される電力量が多くなればヒーター要素H3の発熱量は高くなり、供給される電力量が少なければヒーター要素H3の発熱量は低くなる。各ヒーター要素H3に供給される電力量の組み合わせを変化させることで、ヒーターユニット10全体での発熱量を規定することができる。
【0028】
図5は、一例として、任意の発熱量を生ずるヒーターユニット10の電力量を説明する図である。
図5では、ヒーターユニット10を構成するヒーター要素H3の位置をx方向、y方向の座標で特定されるマス目により模式的に示し、各ヒーター要素H3に対応する電力量(電力比率)をマス目に示された値として示している。
図5では、ヒーター要素H3に供給される電力量を電力比率として示している。電力比率は、例えば、ヒーター要素H3に供給される電力量を、最大の電力量(100[%])から、最小の電力量(0[%])の間で表した値である。例えば、従ヒーターH2の電力比率は、主ヒーターH1の値を基準として設定される。
図5では、主ヒーターH1の電力比率を50[%]とし、従ヒーターH2の電力比率を内側のマス目から外側のマス目に向けて値が大きくなるよう設定している。
【0029】
図3に戻り、ユーザインタフェース32は、PLC31に対して各種の情報を入力する。ユーザインタフェース32は、タッチパネルや、操作キー等により構成されている。ユーザがユーザインタフェース32を操作して、熱成形装置100に供給するシートS1を識別する情報を入力することで、PLC31に加熱対象となるシートS1の種類等を識別させることが可能となる。
【0030】
PLC31は、内部プログラムに従ってヒーター温度を制御する。PLC31は、A・D変換部36を通じて放射温度計33からシート表面温度Dssを、熱電対温度計34からヒーター計測温度Dhmの入力を受ける。PLC31は、操作器35と接続されており、プログラムにより入力された情報(Dss、Dhm)を処理し、オン比率RLを操作器35に出力する。オン比率RLは、単位時間当たりにヒーター要素H3に電力が供給される期間(オン期間)と、電力が供給されない期間(オフ期間)との比率を示す信号であり、操作器35がヒーターユニット10の電力比率を制御するために用いる。
【0031】
PLC31は、ROMやRAMにより構成されるメモリー311や、このメモリー311に記録されたプログラムを不図示のCPUが実行することで機能的に実現される第一の温度制御手段312、第二の温度制御手段313、切り替え手段314、を備える。
【0032】
第一の温度制御手段312は、ヒーターユニット10に対して加熱制御を行う。加熱制御では、第一の温度制御手段312は、シート表面温度Dssと目標シート温度情報Itsとの比較結果に応じて、メモリー311から読み出すヒーター温度設定情報Ihdを変化させて、ヒーター温度を段階的に下げていく。目標シート温度情報Itsは、加熱制御において、PLC31がヒーター温度設定情報Ihdを変更する条件であり、目標とするシートS1の表面温度を示す情報である。ヒーター温度設定情報Ihdは、加熱制御において、PLC31がヒーター温度を設定するために用いられる情報である。
【0033】
切り替え部314は、シート表面温度Dssと目標温度Tdとを比較し、シート表面温度Dssが目標温度Tdに達すると、PLC31が行うヒーターユニット10に対する温度制御を加熱制御から温度保持制御に切り替える。
【0034】
第二の温度制御手段313は、ヒーターユニット10に対して温度保持制御を行う。温度保持制御では、シート表面温度Dssをもとに、シートS1の温度を目標温度Tdに近づけるようヒーター温度が制御される。第二の温度制御手段313は、PID制御、PI制御等のフィードバック制御により、シートS1の温度を制御する。例えば、フィードバック制御では、シート表面温度Dssのサンプリングタイムを1[sec]とする。
【0035】
操作器35は、PLC31から出力されるオン比率RLをもとに、ヒーターユニット10に供給する電力量を制御する。操作器35は、交流電源とヒーター要素H3との間に接続されている。また、図では省略しているが、操作器35は、ヒーターユニット10を構成するヒーター要素H3のそれぞれに接続されている。操作器35の一例として、オン比率RLに応じて接点のオン・オフが切り替わるSSR(Solid State Relay)や、サイリスタを含んで構成されている。
【0036】
図6は、操作器35によるヒーターユニット10の電力量の制御を説明する図である。
図6(a)〜(c)では、横軸を時間[t]とし、縦軸を電圧Eとして示している。
図6(a)では、交流電源から供給される交流電圧の半サイクルを0〜255の値で均等にサンプリングしている。電圧E=0から始まる期間に255を割り当て、E=0で終了する期間に0を割り当てている。
電力量は、
図6に示すグラフにおける積分値(時間t×電圧E)として示すことができる。
図6(b)では、交流電力による電力比率を50[%]とする場合の例を示している。この場合、交流電圧の半周期における255〜128の期間でヒーター要素H3に対する電力供給を「オフ」とし、129〜0の期間でヒーター要素H3に対する電力供給を「オン」とすることで、ヒーター要素H3に対する電力比率を50[%]とすることができる。
【0037】
そのため、PLC31から出力されるオン比率RLをもとに、操作器35で交流電圧のオン・オフを切り替えることで、ヒーター要素H3に供給する電力量が変化し、その結果ヒーターユニット10における電力量を制御することができる。
図6(c)に示すように、交流電圧の半波長を0〜255の値で均等にサンプリングした場合、オン比率RLは、0〜255の期間におけるオンの割合として示すことができる。
【0038】
(4)ヒーターの温度制御方法
次に、加熱装置30により行われるヒーターの温度制御方法を説明する。
図7は、一例としてのPLC31により実行されるヒーターユニット10の制御を説明するフローチャートである。
図8は、ヒーター温度の変化(
図8(a))と、このヒーター温度の変化に応じて変化するシートS1の温度変化(
図8(b))とを示す図である。
PLC31が、
図7に示すフローチャートに示す処理を実行することで、
図8に示されるヒーターユニット10及びシートS1の温度が制御される。なお、ステップS1〜S6までが加熱制御に該当し、ステップS11〜S15までが温度保持制御に該当する。
【0039】
図7のステップS1では、第一の温度制御手段312は、初期値としてのヒーター温度設定情報Ihd1と目標シート温度情報Its1とを設定し、加熱制御を開始する。ステップS1の処理により、PLC31から操作器35に対して、ヒーター温度設定情報Ihdに応じたオン比率RLが出力される。
【0040】
ステップS2では、第一の温度制御手段312は、ヒーター温度設定情報Ihdで設定された温度でヒーターユニット(主ヒーターH1)10を保温する。例えば、第一の温度制御手段312は、ヒーター計測温度Dhmと現在のヒーター温度設定情報Ihdとを比較し、比較結果に応じて、オン比率RLを変化させる。
【0041】
ステップS3では、第一の温度制御手段312は、シート表面温度Dssを取得する。ステップS3で取得されるシート表面温度Dssは、ヒーター温度設定情報Ihdに対応するヒーター温度で加熱されるシートS1の表面温度である。
【0042】
ステップS4では、第一の温度制御手段312は、シート表面温度Dssを目標温度Tdと比較する。シート表面温度Dssが目標温度Tdと比べて低い場合(ステップS4:NO)、シートS1が十分な温度となっていないこととなる。そのため、第一の温度制御手段312は、ステップS5に進む。
【0043】
ステップS5では、シート表面温度Dssが目標シート温度情報Itsと比べて低ければ(ステップS5:NO)、第一の温度制御手段312は、ステップS2に戻る。すなわち、ヒーター温度設定情報Ihdで設定されたヒーター温度によるシートS1の加熱を継続する。
一方、シート表面温度Dssが目標シート温度情報Itsと比べて高ければ(ステップS5:YES)、第一の温度制御手段312は、ステップS6に進み、ヒーター温度設定情報Ihdと目標シート温度情報Itsとを変更する。そして、第一の温度制御手段312は、ステップS2に戻る。変更後のヒーター温度設定情報Ihd(例えば、Ihd2)は、変更前のヒーター温度設定情報Ihd(例えば、Ihd1)と比べて低い値となり、目標シート温度情報Itsは高い値となる。ステップS2〜S6の処理を繰り返すことで、シート表面温度Dssの上昇に応じて、ヒーター温度設定情報Ihdが低い値に変化する(
図8では、Ihd1、Ihd2、Ihd3の順)。すなわち、ヒーター温度が低下していく(
図8(a)、(b))。
【0044】
一方、シート表面温度Dssが目標温度Tdと比べて高くなると(ステップS4:YES)、切り替え手段314は、PLC31の温度制御を温度保持制御に切り替える。なお、
図8(a)に示す温度保持制御では、ヒーター温度が低下するよう記載されているが、これは一例に過ぎない。
【0045】
ステップS11では、第二の温度制御手段313は、シート表面温度Dssを取得する。加熱制御によりシート表面温度Dssは、目標温度Td付近まで上昇している。
【0046】
ステップS12では、第二の温度制御手段313は、ステップS11で取得したシート表面温度Dssと、目標温度Tdとの比較量を算出する。比較量は、例えば、シート表面温度Dssと目標温度Tdの差分をもとに算出される。
【0047】
ステップS13では、第二の温度制御手段313は、ステップS12で算出された比較量に応じて操作器35に出力するオン比率RLを修正する。修正後のオン比率RLに応じて操作器35が電力量を制御することで、シート表面温度Dssを目標温度Tdに近づけるためのフィードバック制御が行われる。
【0048】
ステップS14では、第二の温度制御手段313は、所定時間(例えば、1[sec])だけ待機する。ステップS14での待機期間は、どのような値であってもよいが、待機期間が短いほど、シートS1の温度管理を詳細にすることが可能となる。
【0049】
ステップS15では、第二の温度制御手段313は、温度保持制御を終了する条件が成立していなければ(ステップS15:NO)、ステップS11に戻り、ステップS11からS14までの処理を繰り返す。そのため、条件が成立しない限り、温度保持制御が継続されることとなる。温度保持制御が継続されることで、
図8(b)の点線で示すように、シートS1の内部温度が上昇し、表面温度と均一な温度となる。
一方、第二の温度制御を終了する条件が成立していれば(ステップS15:YES)、第二の温度制御手段313は、温度保持制御を終了する。
【0050】
温度保持制御を終了する条件の一例は、シートS1の内部温度が目標温度Tdに達するまでに要する時間である(以下、単に継続期間とも記載する。)。「継続期間」は、例えば、ユーザインタフェース32からの入力により識別されるシートS1の特性に応じて、PLC31内で設定される。また、継続期間は、シートS1の特性に応じて実験的に取得される値である。温度保持制御を終了する条件である継続期間をシートS1の特性に応じて設定することで、熱成形を行うシートS1の種別に応じてこの期間を変更するだけでシートS1に応じた最適な温度制御を行うことが可能となる。
【0051】
(5)熱成形装置の作用・効果
以上説明したように、本発明にかかる熱成形装置100では、ヒーター温度を低下させる加熱制御によりシートS1の表面温度を目標温度Tdまで加熱した後、ヒーター温度を目標温度Tdに近づける温度保持制御が行われる。そのため、加熱制御により、シートS1の加熱に要する時間を短くすることができる。また、温度保持制御により内部温度を表面温度と均一の温度に近づけることができる。
特に、厚みが所定量以上のシートや、プラスチックに異なる材質を混合させたいわゆる複合材等、表面と内部の温度変化が異なる被加熱物を熱成形する場合に、本発明が有効となる。
【0052】
一方、本発明と異なり、ヒーターユニット10からシートS1に加えられる熱量を多くすることで、シートS1の内部を目標温度Tdまで急速に上昇させる場合、シートS1の内部を目標温度Tdまで上昇させる過程で、シートS1の表面が融解温度を超える場合も想定される。その結果、シートS1の表面が焦げ付き、成形品の外観の悪化や強度低下を招く。
それに対して、本発明では、シートS1の表面の温度変化のカーブを、融解温度を超えない範囲で変化させるため、シートS1の表面が焦げ付かず、成形品S2の品質を維持することができる。
【0053】
ヒーターは、第1の実施形態で示したヒーターユニットに限らず、セラミックスヒーター等どのようなものを用いても良い。その一方で、ヒーターとして、制御部(本実施形態ではPLC31)からの入力に対する応答性の高いものを用いることで、加熱制御において、ヒーター温度をヒーター温度設定情報で設定された温度に昇温する時間を短くすることができる。その結果、シートS1を目標温度Tdまで加熱する時間を短くすることができる。また、入力に対応する応答性の高いヒーターユニット10を使用することで、温度保持制御において、フィードバック制御に対するヒーター温度の追従性が高くなり、シートS1の表面温度を目標温度Tdに保持し易くすることができる。
入力に対する応答性の高いヒーターの一例として、定格電圧での昇温速度が40[℃/秒]以上のものを用いることができ、より好ましくは60[℃/秒]以上のものを用いることができる。
【0054】
(6)変形例
温度保持制御を終了する条件の他の一例として、加熱装置30の前段で行われる成形装置40でのシートS1の成形が終了したことをPLC31が検出するものであってもよい。この場合、PLC31は、成形装置40によるシートS1の成形が終了すると、フラグを変換する(例えば、0から1に変更する)。第二温度制御手段313は、温度保持制御中に、フラグが変化したことを割込み制御により検出すると温度保持制御を終了する。前段の成形装置40による処理の終了を温度保持制御の終了の条件とすることで、成形装置40による処理が終了するまで、シートS1の温度管理を継続することができる。例えば、熱成形装置40による成形過程で不具合が生じ成形に時間を要する場合でも、加熱装置30はシートS1の温度管理を継続することができるため、成形装置40の復旧後も迅速にシートS1を供給することが可能となる。
【0055】
2.第2の実施形態:
この第2の実施形態では、加熱装置30は、上側ヒーター11と下側ヒーター12とのそれぞれを目標温度Tdに近づけるよう個別に制御する構成が第1の実施形態と比べて異なる。
【0056】
図9は、第2の実施形態における加熱装置30の構成を説明する図である。
この第2の実施形態においても、加熱装置30は、ヒーターユニット10(上側ヒーター11、下側ヒーター12)に加えて、PLC31、ユーザインタフェース32、放射温度計33、熱電対温度計34、操作器35、を備えている。
【0057】
一方、放射温度計33は、シートS1の上方(一方の面)からシートS1のシート表面温度Dss1を検出する第一の放射温度計331と、シートS1の下方(第二の側)からシートS1のシート表面温度Dss2を検出する第二の放射温度計332と、で構成されている。なお、
図9では、上側ヒーター11にのみヒーター計測温度Dhmを計測する熱電対温度計341が取り付けられている。
【0058】
PLC31は、加熱制御を行う第一の温度制御手段312、切り替え手段314に加えて、シート表面温度Dss1をもとに上側ヒーター11をフィードバック制御する第三の温度制御手段315、シート表面温度Dss2をもとに下側ヒーター12をフィードバック制御する第四の温度制御手段316と、を有している。すなわち、第三の温度制御手段315と第四の温度制御手段316とは、シートS1のそれぞれの面の表面温度(Dss1、Dss2)をもとに上側ヒーター11と下側ヒーター12とを個別にフィードバック制御する。
【0059】
図10は、加熱装置30により制御されるヒーターユニットの温度変化と、ヒーターユニットの温度に応じて変化するシートS1の温度変化とを示す図である。
図10(a)は、上側ヒーター11の温度変化を示す図である。
図10(b)は、下側ヒーター12の温度変化を示す図である。
図10(c)は、シートS1の温度変化を示す図である。
図10(c)では、説明を容易にするため、シートS1の下側表面の温度変化(点線で示す)を上側表面の温度変化と比べて大きく記載している。
【0060】
この第2の実施形態においても、まず、シートS1に対して第一の温度制御手段312による加熱制御が行われる。
図10(a)(b)に示すように、第一の温度制御手段312は、上側ヒーター11と下側ヒーター12の温度を段階的に低下させる。
【0061】
シートの表面温度が目標温度Tdに達すると、第三の温度制御手段315と、第四の温度制御手段316とは、それぞれ上側ヒーター11と下側ヒーター12に対して個別の温度保持制御を行う。第三の温度制御手段315は、シートS1の上側表面の温度を示すシート表面温度Dss1を目標温度Tdに近づけるようフィードバック制御する。第四の温度制御手段316は、シートS1の下側表面の温度を示すシート表面温度Dss2を目標温度Tdに近づけるようフィードバック制御する。例えば、シートS1の形状や環境条件によって、シートS1の下側表面の温度変化が上側表面の温度変化と比べて大きい場合、第四の温度制御手段316から出力されるオン比率RLの変化が第三の温度制御手段315から出力されるオン比率RLの変化に比べて大きくなる。
【0062】
以上説明したようにこの第2の実施形態では、第1の実施形態で奏する効果に加えて以下の効果を奏する。シートS1の各面の温度に応じて、各面に向かい合うヒーター温度を個別に制御することができ、シートの形状、材質、及び環境条件等に依存されることなくシートS1の温度を均一に保つことが可能となる。特に、シートS1の厚みが一定以上であって、表面と内部の温度変化がそれぞれの側で大きい被加熱物を熱成形する場合に、本発明は有効である。
【0063】
3.第3の実施形態:
この第3の実施形態では、シートS1の搬送経路に沿って複数のヒーターユニット10を備え、各ヒーターユニット10に対する温度制御が異なる構成が他の実施形態と比べて異なる。
【0064】
図11は、第3の実施形態にかかる熱成形装置100の構成を説明する図である。
熱成形装置100の一部である加熱装置30には、第一のヒーターユニット110と、シートS1の搬送方向において第一のヒーターユニット110と比べて下流側に位置する第二のヒーターユニット120と、を有している。すなわち、加熱装置30内を通過するシートS1は、第一のヒーターユニット110による加熱を経た後、第二のヒーターユニット120による加熱が行われる。
【0065】
図12は、第3の実施形態にかかる加熱装置30の構成を説明する図である。
加熱装置30は、第一のヒーターユニット110、第二のヒーターユニット120に加えて、PLC31、ユーザインタフェース32、放射温度計333、334、熱電対温度計34、操作器35、を備えている。
【0066】
この第3の実施形態においても、PLC31は、第一の温度制御手段312と、第二の温度制御手段313とを機能的に有している。一方で、第3の実施形態では、第一の温度制御手段312は、第一のヒーターユニット110に対して加熱制御を行い、第二の温度制御手段313は、第二のヒーターユニット10に対して温度保持制御を行う。すなわち、この第3の実施形態では、第一の温度制御手段312と第二の温度制御手段313の制御対象となるヒーターユニットが別々となっている。
【0067】
第一の温度制御手段312が利用するシートS1の表面温度は、放射温度計333によりシート表面温度Dss3として計測される。第二の温度制御手段313が利用するシートS1の表面温度は、放射温度計334によりシート表面温度Dss4として計測される。
【0068】
図13は、ヒーター温度の変化と、シートS1の温度変化とを説明する図である。
図13(a)は、第一のヒーターユニット110の温度変化を示す図である。
図13(b)は、第二のヒーターユニット120の温度変化を示す図である。
図13(c)は、シートS1の温度変化を示す図である。
【0069】
上記構成の加熱装置30では、まず、シートS1が加熱装置30に供給されると、第一の温度制御手段312は、第一のヒーターユニット110に対して加熱制御を行う。第一の温度制御手段312が行う加熱制御は、第一のヒーターユニット110のヒーター温度を段階的に低下させて、シートS1を目標温度Tdまで加熱する(
図13(a))。
【0070】
シートS1の表面温度Dssが目標温度Tdに達した状態で、シートS1が第一のヒーターユニット110を通過すると、第二の温度制御手段313は、第二のヒーターユニット120に対して温度保持制御を行う。第二の温度制御手段313が行う温度保持制御では、シートS1の表面温度Dssが目標温度Tdに近づくよう第二のヒーターユニット120のヒーター温度をフィードバック制御する(
図13(b))。そのため、シートS1の内部温度が目標温度Tdに近づき、表面温度と均一な温度となる。
【0071】
以上説明したようにこの第3の実施形態では、第1の実施形態に加えて以下の効果を奏する。目標温度Tdに達するまでの加熱時間が長いシートS1であっても、加熱工程を2つに分けることができ、トータルでのシートS1の加熱時間を短くすることができる。
【0072】
4.その他の実施形態:
本発明は、様々な実施形態が存在する。
制御部が行う加熱制御において、ヒーター温度を段階的に低下させたのは一例に過ぎない。例えば、加熱制御において、ヒーター温度を連続的に低下させるものであってもよい。
【0073】
ヒーター温度の制御方法として、電力量を制御することは一例に過ぎず、ヒーターと被加熱物との相対的な距離を変化させる等、ヒーター温度を制御できる手法であれば、どのようなものであってもよい。
【0074】
第3の実施形態において、シートS1の搬送方向に2つのヒーターを備えることは一例に過ぎず、2つ以上のヒーターを備えるものであってもよい。この場合、搬送方向の上流側の最初のヒーターに対して第一の温度制御手段が加熱制御を行い、このヒーターに対して下流側のヒーターに対して第二の温度制御手段が温度保持制御を行う。
【0075】
なお、本発明は上記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。当業者であれば言うまでもないことであるが、
・上記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること
・上記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって上記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
・上記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が上記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
は本発明の一実施例として開示されるものである。