特許第6472236号(P6472236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本メジフィジックス株式会社の特許一覧

特許6472236[F−18]フッ化物イオン溶液の製造方法
<>
  • 特許6472236-[F−18]フッ化物イオン溶液の製造方法 図000003
  • 特許6472236-[F−18]フッ化物イオン溶液の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472236
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】[F−18]フッ化物イオン溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/00 20060101AFI20190207BHJP
   B01D 15/36 20060101ALI20190207BHJP
   B01D 15/42 20060101ALI20190207BHJP
   C01B 7/19 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   A61K51/00 200
   B01D15/36
   B01D15/42
   C01B7/19 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-259380(P2014-259380)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2015-143212(P2015-143212A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-268698(P2013-268698)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168848
【弁理士】
【氏名又は名称】黒崎 文枝
(72)【発明者】
【氏名】大畑 伸介
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 NMCC共同利用研究成果報文集14、2006−2007、第260−264頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/00
B01D 15/36
B01D 15/42
C01B 7/19
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水を陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンを前記陰イオン交換樹脂に捕集する捕集工程と、
塩化ナトリウム濃度が生理食塩液よりも低い塩化ナトリウム水溶液を用いて、前記陰イオン交換樹脂から前記[18F]フッ化物イオンを溶出させる溶出工程と、
を含み、
前記溶出工程で用いる前記塩化ナトリウム水溶液の前記塩化ナトリウム濃度が、生理食塩液の塩化ナトリウム濃度の1/5以上1/4以下である、18F]フッ化物イオン溶液の製造方法。
【請求項2】
前記捕集工程と、前記溶出工程との間に、水で前記陰イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程を更に含み、
前記洗浄工程において、前記陰イオン交換樹脂に水を通液させる通液工程と、前記通液工程後の前記陰イオン交換樹脂に空気又は不活性ガスを注入するフラッシング工程とを実行する、請求項1に記載の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程において、前記通液工程と、前記フラッシング工程とを複数回繰り返して実行する、請求項に記載の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至いずれか一項に記載の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法を用いて[18F]フッ化物イオン含有塩化ナトリウム水溶液を調製する調製工程と、
前記調製工程で調製された[18F]フッ化物イオン含有塩化ナトリウム水溶液を水又は生理食塩液で希釈する希釈工程と、
を含む、[18F]フッ化ナトリウムを有効成分として含有する放射性医薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素の放射性同位体(フッ素−18,18F)は、医療用画像診断法の一つであるポジトロン放出断層撮影(Positron Emission Tomography,PET)において利用されている。[18F]フッ化物イオンは、[18O]濃縮水をターゲットとして陽子ビームを照射し、得られた[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水から[18F]フッ化物イオンを濃縮分離して調製される。
【0003】
たとえば、[18F]フッ化物イオンを有機化合物の標識に用いるには、陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンを炭酸カリウム水溶液で溶出することが行われている(特許文献1など)。
【0004】
また、[18F]フッ化物イオンをそのまま製剤化する場合には、陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンを生理食塩液で溶出することが行われている(非特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−295494号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】仁科記念サイクロトロンセンター(NMCC)共同利用研究成果法文集14(2006−2007)、p.260〜264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や非特許文献1のように[18O]濃縮水から分離して得られた[18F]フッ化物イオン溶液は、陽子ビームの照射中に生成した放射性異核種が混入する可能性を有する。放射性異核種が混入した[18F]フッ化物イオンは、有機化合物の標識においては収率の低下を招き、製剤化した場合においては安全性の観点で問題がある。
【0008】
非特許文献1には、生理食塩液を用いて陰イオン交換樹脂から溶出した[18F]フッ化物イオン溶液には、51Crや48Vが混入することが記載されている。非特許文献1では、不純物の混入を最小限に抑えるためには、[18F]フッ化物イオンの溶出液の種類や、イオン濃度、液量の検討が重要であることが記載される一方、具体的な検討結果は示されていない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は[18F]フッ化物イオン溶液に混入する、放射性異核種を低減するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、18Fの製造数日後に放射線測定を行うことにより、生理食塩液を用いて陰イオン交換樹脂から溶出した[18F]フッ化物イオン溶液には、18Fよりも半減期の長い、種々の放射性異核種が混在することを新たに知見した。そして、これら放射性異核種を[18F]フッ化物イオンから分離するため、陰イオン交換樹脂に吸着させた[18F]フッ化物イオンの溶出条件を鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の一態様は、
上記の[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水を陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンを前記陰イオン交換樹脂に捕集する捕集工程と、
塩化ナトリウム濃度が生理食塩液よりも低い塩化ナトリウム水溶液を用いて、前記陰イオン交換樹脂から前記[18F]フッ化物イオンを溶出させる溶出工程と、
を含み、前記溶出工程で用いる前記塩化ナトリウム水溶液の前記塩化ナトリウム濃度が、生理食塩液の塩化ナトリウム濃度の1/5以上1/4以下である、18F]フッ化物イオン溶液の製造方法である。
【0012】
また、本発明の他の態様は、
上記の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法を用いて[18F]フッ化物イオン含有塩化ナトリウム水溶液を調製する調製工程と、
前記調製工程で調製された[18F]フッ化物イオン含有塩化ナトリウム水溶液を生理食塩液で希釈する希釈工程と、
を含む、[18F]フッ化ナトリウムを有効成分として含有する放射性医薬の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放射性異核種が低減された[18F]フッ化物イオン溶液を提供できるため、[18F]フッ化物イオンを用いた有機化合物の標識反応を効率よく進行させることができる。また、本発明によれば、18F以外の放射性異核種を低減できるため、製剤化した場合には、作業者の放射線被曝や被検者の内部被曝を低減できる、より安全性の高い製剤を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法の一例を示す図である。
図2】本発明の放射性医薬の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
([18F]フッ化物イオン溶液の製造方法)
図1は、本実施形態に係る[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法は、少なくとも下記ステップS11及びS13を含む。
[S11:捕集工程][18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水を陰イオン交換樹脂に接触させて、[18F]フッ化物イオンを陰イオン交換樹脂に捕集する。
[S13:溶出工程]塩化ナトリウム濃度が生理食塩液よりも低い塩化ナトリウム水溶液を用いて、陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出させる。
【0017】
また、本実施形態に係る[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法は、さらに、下記ステップS10を含んでいてもよい。
[S10:照射工程]ターゲットに収容された[18O]濃縮水に陽子ビームを照射し、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水を生成する。
【0018】
また、本実施形態に係る[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法は、捕集工程(S11)と溶出工程(S13)との間にさらに、下記ステップS12を含んでいてもよい。
[S12:洗浄工程]捕集工程(S11)で[18F]フッ化物イオンを捕集した陰イオン交換樹脂を水で洗浄する。
【0019】
以下、各ステップについて、具体的に説明する。
【0020】
[S10:照射工程]
好ましい態様において、[18O]濃縮水は、水分子を構成する酸素原子の97%以上が質量数18の酸素の同位体を有する水であり、例えば太陽日酸株式会社、MARSHALL ISOTOPESなどで市販されているものが挙げられる。この[18O]濃縮水に加速器(サイクロトロン)で発生させた陽子ビームを照射し、18O(p,n)18F反応を行うことにより、[18F]フッ化物イオンが生成し、これにより、[18O]濃縮水に含有された形で[18F]フッ化物イオンを得ることができる。
【0021】
18O]濃縮水の照射は具体的には以下のように行われる。まず、ターゲット部材をサイクロトロンに装着する。ターゲット部材は凹部を有し、該凹部の開口は、陽子ビームを通過するフォイルで覆われる。
【0022】
ここで、ターゲット部材の材質は、ステンレス、銀、銅、チタニウム、ニオブ等が用いられる。また、ターゲット部材は、[18O]濃縮水との接触面にニオブやモリブデン等の被膜を有していてもよい。
【0023】
フォイルは、チタン又はクロム等の金属や、合金から形成された、厚みが10〜100μmの薄い箔である。フォイルとしては、例えば、チタンを主成分とし、バナジウムやアルミニウム等の微量金属を含むチタンフォイルや、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、タングステン等を含むハーバーフォイルが用いられる。
【0024】
サイクロトロンへの装着後、ターゲット部材の凹部に[18O]濃縮水が供給される。次いで、サイクロトロンで生成した陽子ビームを、任意の電流値で任意の時間、ターゲット部材の凹部に収容された[18O]濃縮水に照射する。電流値及び時間は、生成する18F量に応じて適宜設定することができる。陽子ビームは、フォイルを通過して[18O]濃縮水に照射される。したがって、陽子ビームは、ターゲット部材、フォイル等の金属部材にも衝突し、これにより、照射工程(S10)では、18O(p,n)18F反応以外の種々の核反応も生じることとなる。このため、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水は、[18F]フッ化物イオン以外の種々の放射性異核種を含むことになる。これら放射性異核種は、有機化合物の標識においては収率の低下を招く。また、[18F]フッ化物イオンよりも長半減期の核種であるため、製剤化した場合は安全性の観点で問題がある。そこで、本実施形態では、以下S11〜S13のステップを実行することにより、[18F]フッ化物イオンを[18O]濃縮水から分離しつつ、これら放射性異核種の除去を行う。
【0025】
[S11:捕集工程]
つづいて、捕集工程(S11)について説明する。捕集工程(S11)では、照射工程(S10)で得られた[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水を陰イオン交換樹脂に接触させる。これにより、[18F]フッ化物イオンを陰イオン交換樹脂に吸着し、[18O]濃縮水から分離することができる。
【0026】
使用する[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の放射能は特に限定されず、例えば0.1〜1000GBqのものを用いることができる。
【0027】
ここで陰イオン交換樹脂は、強塩基性陰イオン交換樹脂であってもよいし、弱塩基性陰イオン交換樹脂であってもよいが、四級アンモニウム塩が固定化された強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。ウォーターズ社から販売されたSep−Pak(登録商標)QMAなど、カートリッジ型強塩基性陰イオン交換樹脂は、使い捨てで簡易に使用できるため、より好ましい。
【0028】
使用する陰イオン交換樹脂の対イオンは、[18F]フッ化物イオンと交換できるものであれば制限されないが、例えば、塩化物イオン、炭酸イオン、水酸化物イオンが挙げられる。
【0029】
[S12:洗浄工程]
つづいて、洗浄工程(S12)について説明する。洗浄工程(S12)では、捕集工程(S11)で[18F]フッ化物イオンを捕集した陰イオン交換樹脂を水で洗浄する。このとき使用する水は、陰イオン交換樹脂の充填量(重量)の1〜500倍であることが好ましく、50〜200倍がより好ましい。また、水は、連続して通液してもよいし、間隔をおいて複数回通液してもよいが、2〜10回に分けて通液することがより好ましく、通液の後、空気又は不活性ガスの注入によるフラッシングを行って洗浄することがより好ましい。具体的には、洗浄工程(S12)において、陰イオン交換樹脂に水を通液させる第一の通液工程と、通液工程後の陰イオン交換樹脂に空気又は不活性ガスを注入するフラッシング工程とを実行することが好ましく、より好ましくは第一の通液工程とフラッシング工程とを複数回繰り返して実行する。こうすることにより、放射性異核種のうちγ線放出陽イオンやβ線放出核種であるトリチウムを、陰イオン交換樹脂から除去することができる。γ線放出陽イオンとしては、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の放射性同位体を構成元素とするものが挙げられる。
【0030】
フラッシング工程で使用しうる不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられる。フラッシング工程で使用しうる空気又は不活性ガスの量は、特に制限されないが、例えば、直前の洗浄工程で使用した水の量の1〜100体積倍、好ましくは2〜50体積倍とすることができる。
【0031】
[S13:溶出工程]
つづいて、溶出工程(S13)について説明する。溶出工程(S13)では、捕集工程(S11)で陰イオン交換樹脂に捕集した[18F]フッ化物イオンを、塩化ナトリウム水溶液を用いて溶出する。このとき溶離液として使用する塩化ナトリウム水溶液は、生理食塩液より塩化ナトリウム濃度の低いものを用いる。これにより、[18F]フッ化物イオンを塩化ナトリウム水溶液として得ることができる。
【0032】
具体的に、溶離液として使用する塩化ナトリウム水溶液の塩化ナトリウム濃度は、放射性異核種の溶出を低減する観点から、生理食塩液の塩化ナトリウム濃度の3/4以下が好ましいが、より好ましくは、1/2以下であり、1/3以下が更に好ましく、1/4以下がより更に好ましい。これにより、放射性異核種のうちγ線放出陰イオンを溶出させずに、[18F]フッ化物イオンのみを溶出させることができる。γ線放出陰イオンとしては、クロム(Cr)、レニウム(Re)、テクネチウム(Tc)の放射性同位体を構成元素とするものが挙げられる。
【0033】
また、溶離液として使用する塩化ナトリウム水溶液の塩化ナトリウム濃度は、生理食塩液の塩化ナトリウム濃度の1/15以上が好ましく、1/10以上がより好ましく、1/5以上が更に好ましい。これにより、ステップS11〜13の操作における[18F]フッ化物イオンの収率を向上させることができる。
【0034】
なお、照射工程(S10)と捕集工程(S11)との間には、陽イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水を通液させる第二の通液工程が設けられていてもよい。陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂であってもよいし、弱酸性陽イオン交換樹脂であってもよいが、弱酸性陽イオン交換樹脂が好ましく、カルボン酸又はカルボン酸塩が固定化されたものがより好ましく、カルボン酸が固定化されたものが更に好ましい。ウォーターズ社から販売されたSep−Pak(登録商標)CMなど、カートリッジ型弱酸性陽イオン交換樹脂は、使い捨てで簡易に使用できるため、より更に好ましい。上記第二の通液工程を設けることで、放射性異核種のうちγ線放出陽イオンを陽イオン交換樹脂に捕集し、γ線放出陽イオンと[18O]濃縮水とを分離できる。そのため、[18O]濃縮水を再利用する際、精製操作を簡便にすることができる。
【0035】
(放射性医薬の製造方法)
上記説明した[18F]フッ化物イオンの製造方法を用いて、[18F]フッ化ナトリウムを有効成分として含有する放射性医薬を製造してもよい。図2は、この放射性医薬の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0036】
本実施形態の放射性医薬の製造方法は、少なくとも下記ステップS21及びS22を含む。
[S21:調製工程]上記の[18F]フッ化物イオン溶液の製造方法を用いて[18F]フッ化物イオン含有塩化ナトリウム水溶液を調製する。
[S22:希釈工程]S21で調製された[18F]フッ化物イオン含有塩化ナトリウム水溶液を水又は生理食塩液で希釈する。
【0037】
希釈工程(S22)後に得られる[18F]フッ化物イオン溶液は、そのまま放射性医薬として使用してもよい。また、希釈工程(S22)の際、あるいは、希釈工程(S22)の後に、適宜、製薬学的に許容される、pH調節剤、等張化剤、安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を加えて放射性医薬としてもよい。ここでいう放射性医薬とは、生体内への投与に適した形態であればよいが、非経口的に、即ち注射によって投与される形態であることが好ましい。
【0038】
上記方法で得られる放射性医薬は、医療用画像診断法の一つであるポジトロン放出断層撮影において利用される。この放射性医薬は[18F]フッ化物ナトリウムを有効成分として含有するため、例えば、骨の画像化剤として有用である。
【0039】
つづいて、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態によれば、溶出工程(S13)で生理食塩液よりも塩化ナトリウム濃度の低い塩化ナトリウム水溶液を用いるため、溶出液として得られる[18F]フッ化物イオン溶液中のγ線放出異核種を低減することができ、より好ましい態様においては、γ線放出異核種をγ線検出器の検出限界値以下に低減することができる。したがって、この[18F]フッ化物イオンを用いることにより、有機化合物の18F標識反応を効率よく進行させることができる。また、本実施形態の方法で得られた[18F]フッ化物イオンを製剤化することにより、作業者の放射線被曝や被検者の体内被曝を低減できる、安全性に優れた放射性医薬を提供することができる。なお、ここでいう「γ線検出器の検出限界値以下」とは、18Fの50半減期(製造後4日)以上経過後の、ゲルマニウム半導体検出器を用いたγ線エネルギースペクトル分析において、18F由来のγ線エネルギー以外の検出を認めないことをいう。ゲルマニウム半導体検出器の具体的な測定条件としては、例えば、後述する実施例に記載の方法を採用することができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、捕集工程(S11)と溶出工程(S13)との間に水を用いた洗浄工程(S12)を採用することにより、得られる[18F]フッ化物イオン溶液中のトリチウムの放射能濃度を3Bq/mL以下、より好ましい態様においては、1Bq/mL以下にすることができる。したがって、この[18F]フッ化物イオンを製剤化することにより、体内被曝を更に低減した、より安全性に優れた[18F]フッ化ナトリウム製剤を提供することができる。トリチウムの測定は、液体シンチレーションカウンターで行うことができ、具体的な測定条件としては、後述する実施例に記載の方法を採用することができる。
【0041】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。なお、以下に示す放射能は特に指定しない限り、18F照射終了後7時間の時間点における放射能を示す。
【0043】
実施例で使用した試薬等の物品について以下に説明する。
サイクロトロンは、住友重機械工業社製の480サイクロトロンを使用した。
ターゲットの材質はニオブ、フォイルはハーバーフォイル(50μm)を使用した。
18O]濃縮水は、MARSHALL ISOTOPES社製のもの(18O含有量97%以上)を使用した。
陽イオン交換樹脂は、ウォーターズ社製のSep−Pak(登録商標)Accell Plus CM Plus Lightカートリッジ(充填量130mg)に0.1mol/L塩酸(10mL)を通液した後、日本薬局方注射用水(以下、単に「注射用水」という。)(20mL)を通液して、溶出液が中性になったことを確認するまで洗浄して、風乾したものを使用した。
陰イオン交換樹脂は、ウォーターズ社製のSep−Pak(登録商標)Accell Plus QMA Plus Lightカートリッジ(充填量130mg)をそのまま使用した。
生理食塩液は、日本薬局方生理食塩液を使用した。また、生理食塩液の希釈は注射用水を用いて行った。
【0044】
(実施例1)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で147分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約3GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陽イオン交換樹脂、次いで、陰イオン交換樹脂の順に通液した。その後、注射用水(3mL)で陽イオン交換樹脂、及び、陰イオン交換樹脂を洗浄した後、陽イオン交換樹脂をラインから外して、注射用水(10mL)で陰イオン交換樹脂のみを洗浄し、生理食塩液の5倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.18w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、91.5MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(3.93mL)を得た。
【0045】
(実施例2)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で161分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約2GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陽イオン交換樹脂、次いで、陰イオン交換樹脂の順に通液した。その後、注射用水(3mL)で陽イオン交換樹脂、及び、陰イオン交換樹脂を洗浄した後、陽イオン交換樹脂をラインから外して、注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)で陰イオン交換樹脂のみを洗浄し、生理食塩液の5倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.18w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、91.3MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(11.08mL)を得た。
【0046】
(実施例3)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で174分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約4GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陰イオン交換樹脂に通液した。その後、注射用水(3mL)で陰イオン交換樹脂を洗浄した後、さらに注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)を用いて洗浄し、生理食塩液の5倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.18w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、91.2MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(4.64mL)を得た。
【0047】
(実施例4)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で160分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水(仕込み時約251GBq、2.62mL)を注射用水で希釈せずにそのまま陰イオン交換樹脂に通液した。その後、注射用水(3mL)で陰イオン交換樹脂を洗浄した後、さらに注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)を用いて、陰イオン交換樹脂を洗浄し、生理食塩液の5倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.18w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液を約0.1mL分取し、生理食塩液を加えて、92.3MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(20.59mL)を得た。
【0048】
(実施例5)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で174分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約3GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陰イオン交換樹脂に通液した。その後、注射用水(3mL)で陰イオン交換樹脂を洗浄した後、さらに注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)を用いて洗浄し、生理食塩液の1.8倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.5w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、92.6MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(3.46mL)を得た。
【0049】
(実施例6)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で147分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約2GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陽イオン交換樹脂、次いで、陰イオン交換樹脂の順に通液した。その後、注射用水(3mL)で陽イオン交換樹脂、及び、陰イオン交換樹脂を洗浄した後、陽イオン交換樹脂をラインから外して、注射用水(10mL)で陰イオン交換樹脂のみを洗浄し、生理食塩液の10倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.09w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、90.2MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(2.09mL)を得た。
【0050】
(実施例7)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で174分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約4GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陰イオン交換樹脂に通液した。その後、注射用水(3mL)で陰イオン交換樹脂を洗浄した後、さらに注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)を用いて洗浄し、生理食塩液の18倍希釈液(塩化ナトリウム濃度0.05w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出し、21.2MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(0.98mL)を得た。
【0051】
(実施例8)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で156分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約2GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陰イオン交換樹脂に通液した。その後、注射用水(3mL)で陰イオン交換樹脂を洗浄した後、さらに注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)を用いて洗浄し、生理食塩液の3倍希釈液(塩化ナトリウム濃度の0.3w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、90.2MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(1.65mL)を得た。
【0052】
(実施例9)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で156分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約2GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陰イオン交換樹脂に通液した。その後、注射用水(3mL)で陰イオン交換樹脂を洗浄した後、さらに注射用水(2mL×5回、1回ごとに空気(25mL)注入によるフラッシング)を用いて洗浄し、生理食塩液の4倍希釈液(塩化ナトリウム濃度の0.225w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、90.0MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(1.60mL)を得た。
【0053】
(比較例1)
18O]濃縮水(約3mL)に、サイクロトロンで加速した陽子ビーム(20MeV)を、40μA/hrの電流値で147分間照射した。照射後、[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の一部(仕込み時で約4GBq)を注射用水で約2mLに希釈し、陽イオン交換樹脂、次いで、陰イオン交換樹脂の順に通液した。その後、注射用水(3mL)で陽イオン交換樹脂、及び、陰イオン交換樹脂を洗浄した後、陽イオン交換樹脂をラインから外して、注射用水(10mL)で陰イオン交換樹脂のみを洗浄し、生理食塩液(塩化ナトリウム濃度0.9w/v%)(1mL)を陰イオン交換樹脂に通液して[18F]フッ化物イオンを溶出した。溶出液に生理食塩液を加えて、91.5MBq/mLの[18F]フッ化物イオン溶液(4.14mL)を得た。
【0054】
(評価)
1.収率
各実施例で使用した[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水、又は、その希釈水の放射能量(A)、及び、各実施例で得られた[18F]フッ化物イオン溶液の放射能量(B)について、ドーズキャリブレータ(CRC−712RH、キャピンテック社製)を用いて測定し、収率(%)(=(B/A)×100)を算出した。A,Bの各時間点は、照射終了後サイクロトロンからの[18F]フッ化物イオン含有[18O]濃縮水の取り出し時とした。
【0055】
2.γ線エネルギースペクトル分析
試料として、各実施例で得た[18F]フッ化物イオン溶液を製造から4〜5日室温で放置したもの(全量)を使用し、以下条件で測定を行った。
・検出器:ゲルマニウム半導体検出器(ORTEC社製),マルチチャンネルアナライザー(SEIKO EG&G MCA7700)
・測定位置:検出器から5cm
・測定時間:3,600秒
【0056】
3.β線エネルギースペクトル分析
試料として、各実施例で得た[18F]フッ化物イオン溶液を製造から6日室温で放置したもの(0.95mL)をシンチレーションカクテル(3mL)及び注射用水(1.05mL)と混合して使用し、以下条件で測定を行った。また、試料として生理食塩水を用いたものをバックラウンドとした。バックグランドは、0.2Bq/mLであった。
・検出器:シンチレーションカクテル(Ultima Gold XR, パーキンエルマー社製),液体シンチレーションカウンター(Tri−carb 2910TR,パーキンエルマー社製)
・測定時間:60分
・測定モード:Flag No.13 H dpmモード
【0057】
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、[18F]フッ化物イオンの溶出液として生理食塩液の希釈液で用いることにより、γ線放出異核種及びトリチウムを低減させることができた。また、塩化ナトリウム濃度を生理食塩液の1/2以下にしたものを溶出液として用いることにより、γ線放出核種をより低減できた。また、[18F]フッ化物イオンを捕集した陰イオン交換樹脂を水の通液とフラッシングとを複数回繰り返して洗浄することにより、トリチウムの量をさらに低減することができた。溶出液の塩化ナトリウム濃度を生理食塩液の1/15以上にすれば、製造上問題ない程度の収率を確保できることが示された。
図1
図2