特許第6472249号(P6472249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼロックス コーポレイションの特許一覧

<>
  • 特許6472249-製造物品または製造物品の製造プロセス 図000012
  • 特許6472249-製造物品または製造物品の製造プロセス 図000013
  • 特許6472249-製造物品または製造物品の製造プロセス 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472249
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】製造物品または製造物品の製造プロセス
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/12 20060101AFI20190207BHJP
   C08G 77/46 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C09D183/12
   C08G77/46
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-2441(P2015-2441)
(22)【出願日】2015年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-137364(P2015-137364A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】14/161,178
(32)【優先日】2014年1月22日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・ジェイ・ジェルヴァシ
(72)【発明者】
【氏名】マンダキニ・カナンゴ
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−002371(JP,A)
【文献】 特開平06−264021(JP,A)
【文献】 特開2006−328396(JP,A)
【文献】 特許第6246097(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜201/10
C08G77/00〜77/62
C08K3/00〜13/08
C08L1/00〜101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材にある外側ポリマーコーティングとを含む製造物品(ただし、印刷ヘッドを除く)であって、
前記外側ポリマーコーティングは、疎油性グラフト接合ポリマーを含み、
前記疎油性グラフト接合ポリマーは、架橋フルオロエラストマー基と、前記架橋フルオロエラストマー基にグラフト接合したペルフッ素化ポリエーテルとを含み、
前記架橋フルオロエラストマー基は、アミノ官能基化されたシランで架橋されたフルオロエラストマー基であり、
前記アミノ官能基化されたシランは、アミノアルキルシランで変性されたポリシロキサンを含み、
前記疎油性グラフト接合ポリマーが、式Iのポリマー単位を含む化合物を含み、
【化1】
式中、FEは、フルオロエラストマー基であり;
PFPEは、ペルフッ素化ポリエーテル基であり;
Lは、リンカーであり;
m、nおよびoは、独立して、1〜10の整数であり;
それぞれのRおよびRは、独立して、置換または非置換のC−Cアルキルであり;
およびRは、独立して、フッ素化されていてもよいC−Cアルキルまたはフッ素化されていてもよいC−Cアルコキシであり、
前記外側ポリマーコーティングは、ヘキサデカン接触角が少なくとも50度であり、且つ、ヘキサデカンすべり角が30度未満である、
製造物品。
【請求項2】
前記基材は、前記外側ポリマーコーティングがその上に形成される表面を含み、
前記表面が、ガラス表面、金属表面、プラスチック表面、セラミック表面及び布地表面からなる群から選択される、
請求項1に記載の製造物品。
【請求項3】
前記基材は、電子機器(ただし、印刷ヘッドを除く)、繊維製品、ガラス物品、自動車備品又は家庭用器具の一部である、
請求項1に記載の製造物品。
【請求項4】
製造物品(ただし、印刷ヘッドを除く)を製造するプロセスであって、
末端がアルコキシシランであるペルフッ素化ポリエーテルの存在下において、フルオロエラストマーをアミノ官能基化されたシランで架橋する工程と、
末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルを、その架橋フルオロエラストマーにグラフト接合して疎油性グラフト接合ポリマーを作製する工程と、
前記疎油性グラフト接合ポリマーの層を、基材表面に堆積する工程と、
前記層を硬化させ、疎油性グラフト接合ポリマーコーティングを形成する工程と、を含み、
前記アミノ官能基化されたシランは、アミノアルキルシランで変性されたポリシロキサンを含み、
前記疎油性グラフト接合ポリマーが、式Iのポリマー単位を含む最終構造を有し、
【化2】
式中、FEは、フルオロエラストマー基であり;
PFPEは、ペルフッ素化ポリエーテル基であり;
Lは、リンカーであり;
m、nおよびoは、独立して、1〜10の整数であり;
それぞれのRおよびRは、独立して、置換または非置換のC−Cアルキルであり;
およびRは、独立して、フッ素化されていてもよいC−Cアルキルまたはフッ素化されていてもよいC−Cアルコキシである、プロセス。
【請求項5】
前記アミノ官能基化されたシランと前記末端がアルコキシシランであるペルフッ素化ポリエーテルの比率が0.5:1〜3:1の範囲にある、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記フルオロエラストマーに対する前記アミノ官能基化されたシランの量が2pph〜10pphの範囲にある、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
表面と、表面にあるポリマーコーティングとを含む製造物品(ただし、印刷ヘッドを除く)であって、
前記ポリマーコーティングが、式Iのポリマー単位を含む化合物を含み、
【化3】
式中、FEは、フルオロエラストマー基であり;
PFPEは、ペルフッ素化ポリエーテル基であり;
Lは、リンカーであり;
mおよびoは、独立して、3〜8の整数であり;
nは、1〜10の整数であり、
それぞれのRおよびRは、独立して、置換または非置換のC−Cアルキルであり;
およびRは、独立して、フッ素化されていてもよいC−Cアルキルまたはフッ素化されていてもよいC−Cアルコキシであり、
前記ポリマーコーティングは、ヘキサデカン接触角が少なくとも50度であり、且つ、ヘキサデカンすべり角が30度未満である、製造物品。
【請求項8】
Lは、前記ペルフッ素化ポリエーテル基の末端ヒドロキシル官能基に共有結合した官能基と、R又はRで置換されたケイ素原子に結合したC−Cアルキレンとを含む、請求項7に記載の製造物品。
【請求項9】
前記フルオロエラストマー(FE)基は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマー単位を含むポリマーである、請求項7に記載の製造物品。
【請求項10】
前記フルオロエラストマー(FE)基は、フッ素含有量が少なくとも65%である、請求項7に記載の製造物品。
【請求項11】
前記フルオロエラストマー(FE)基は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合、分子量が50,000〜700,000ダルトンの範囲である、請求項7に記載の製造物品。
【請求項12】
前記ペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)は、平均分子量が1,500ダルトン〜2,500ダルトンの範囲である末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルである、請求項7に記載の製造物品。
【請求項13】
前記ポリマーコーティングは、290℃、350psiで熱的に安定である、請求項7に記載の製造物品。
【請求項14】
前記製造物品は、電子機器(ただし、印刷ヘッドを除く)である、請求項7に記載の製造物品。
【請求項15】
前記表面は、ガラス表面、金属表面、プラスチック表面、セラミック表面および繊維製品表面からなる群から選択される、請求項7に記載の製造物品。
【請求項16】
前記製造物品は、繊維製品、ガラス物品、自動車備品または家庭用器具である、請求項7に記載の製造物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する実施形態は、製造物品に使用されるコーティングに関する。特に、本明細書で開示する実施形態は、製造物品表面にある外側コーティングとして使用される疎油性濡れ防止コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の用途で使用することがよく知られているフルオロ−エラストマーに由来する系を含むフッ素化ポリマーにおいて、問題が山積みである。電子デバイス、ディスプレイまたはタッチスクリーンデバイスのための撥水性、指紋および汚れ付着防止コーティング、簡単に洗浄可能なコーティングには、または、ガラス、プラスチックまたは他の可とう性表面または剛性表面のためのコーティングとして、既知の低表面エネルギーフルオロポリマーが使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、既知の形態のフルオロエラストマー由来の系には、多くの欠点がある。例えば、多くのフルオロエラストマーは、熱に安定ではなく、または、望ましい程度の疎水性挙動または疎油性挙動を示さない。多くの従来の疎油性の低付着性コーティングは、多くの高温高圧プロセス中に直面する温度にさらされると、分解する傾向があり、コーティングの疎水性または疎油性の特徴が低下するか、または失われる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、改良された熱安定性を与えることができ、および/または、改良された疎水性または疎油性の挙動を示すことができる新規フッ素化ポリエステル添加剤が依然として必要である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本明細書で開示する実施形態の疎油性コーティングおよび/または疎水性コーティングを含む製造物品を示す。
図2図2は、本開示の一実施形態のグラフトを製造するための合成手順を示す。
図3図3は、本明細書で開示する実施形態の例示的な疎油性グラフト接合ポリマーの熱重量分析(TGA)プロフィールを示す。TGA分析は、このコーティングが、重量損失なく約330℃まで熱的に安定であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
一実施形態では、本開示は、基材と、基材にある外側ポリマーコーティングとを含む製造物品に関する。ポリマーコーティングは、架橋したフルオロエラストマー基を含む疎油性グラフト接合ポリマーを含む。ペルフッ素化ポリエーテルは、架橋したフルオロエラストマー基にグラフト接合している。
【0007】
本開示の別の実施形態は、製造物品を製造するためのプロセスに関する。このプロセスは、フルオロエラストマーをアミノ官能基化されたシランで架橋することを含む。末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルを、架橋したフルオロエラストマーにグラフト接合し、疎油性グラフト接合ポリマーを作成する。この疎油性グラフト接合ポリマーの層を、基材表面に堆積させる。この層を硬化させ、疎油性グラフト接合ポリマーコーティングを作成する。
【0008】
さらに別の実施形態は、表面と、表面にあるポリマーコーティングとを含む製造物品に関する。このポリマーコーティングは、式Iの化合物を含み、
【化1】
式中、FEは、フルオロエラストマー基であり;PFPEは、ペルフッ素化ポリエーテル基であり;Lは、リンカーであり;mおよびoは、独立して、3〜8の整数であり;nは、1〜10の整数であり、それぞれの場合のRおよびRは、独立して、置換または非置換のC−Cアルキルであり;RおよびRは、独立して、場合により、フッ素化C−Cアルキルまたは場合によりフッ素化C−Cアルコキシである。
【0009】
本明細書で開示する実施形態は、架橋したフルオロエラストマーとペルフッ素化ポリエーテルとをグラフト接合することによって調製される疎油性および疎水性のグラフト接合ポリマーに由来する、熱的に安定で、機械的に丈夫で、および/または低付着性のコーティングを提供することができる。疎油性グラフト接合ポリマーは、ポリウレタンに由来するコーティングに対し、有利および/または相補的な化学物性を示すだろう。いくつかの実施形態では、コーティングとして使用される疎油性グラフト接合ポリマーは、印刷ヘッドの前面にコーティングが塗布される高解像度(HD)圧電印刷ヘッド用途で特に有用であろう。本明細書に開示する疎油性グラフト接合ポリマーのコーティング(または膜)は、優れた熱安定性を有しつつ、高いインク接触角(50°より大きい)と、低いすべり角(30°未満)を示すだろう。当該技術分野の他のコーティングとは対照的に、本明細書に開示する疎油性グラフト接合ポリマーは、硬化後のコーティング表面にほとんど、またはまったく油を生成しないだろう。さらに、このようなコーティングは、290℃を超える温度にさらされた後、最小限の厚みおよび質量の損失を示し、このことは、厳しい印刷ヘッド製造条件で使用するのに適している。本明細書に開示する疎油性グラフト接合ポリマーを使用するコーティングは、丈夫であり、溶融したインク中、約140℃の温度に2日間連続的にさらされたときでさえ、長い貯蔵寿命を有するだろう。疎油性グラフト接合ポリマーコーティングを、固体インク、着色インクおよびUVインクとともに使用することができ、簡単に洗浄され、自浄作用のある特性を示しつつ、高い液垂れ圧で良好な性能を実現することができる。最後に、疎油性グラフト接合ポリマーを、単純なフローコーティング技術によって、必要とされるコーティング中で作成することができ、印刷ヘッド製造を容易にすることができる。これらの利点および他の利点は、当業者には明らかであろう。
【0010】
ある実施形態では、架橋したフルオロエラストマーと、架橋したフルオロエラストマーにグラフト接合したペルフッ素化ポリエーテルとを含む、疎油性グラフト接合ポリマーが提供される。
【0011】
本明細書で使用する場合、「疎油性」という用語は、グラフト接合ポリマーと組み合わせて用いられる場合、グラフト接合ポリマーが、油、炭化水素、さらに一般的に、有機化合物、特に、非極性有機化合物をはじく物理特性を指す。疎油性の特徴は、液をはじくのに有用な濡れ防止特性を付与する。疎油性の特徴は、良好な接触角およびすべり角という特徴を有するコーティングを与えることができる。
【0012】
本明細書で使用する場合、「グラフト接合ポリマー」という用語は、2つ以上の前加工したポリマーの化学接合を指す。グラフト接合は、ポリマー架橋の一形態とみることができる。例えば、本明細書に開示するグラフトポリマーは、架橋剤で補助しつつ、前加工したフルオロエラストマーと、前加工したペルフッ素化ポリエーテルとを反応させることによって調製されてもよい。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマーを架橋するために用いられるクロスリンカーは、ペルフッ素化ポリエーテルを接続するためのグラフト化学のための接合点を与えることによって、二重の役割をはたす。
【0013】
本明細書で使用する場合、「フルオロエラストマー」という用語は、一般的にエラストマーと分類され、かなりの程度のフッ素化部分を含む任意の材料を指す。フルオロエラストマーは、高い熱安定性、不燃性および腐食性媒体への耐性を特徴とする合成フッ素含有ゴム状のポリマー(典型的にはコポリマー/ターポリマー)である。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマー(FE)は、フッ素含有量が少なくとも約65%である。いくつかの実施形態では、フッ素含有量は、約50〜約90%、または約60からほぼ100%の範囲であってもよい。例示的な市販のフルオロエラストマーは、一般的に、フッ素含有量が約66〜約70%の範囲である。
【0014】
現時点で既知であり、入手可能なフルオロエラストマーとしては、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンのターポリマー、およびプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの交互コポリマーが挙げられる。このようなフルオロエラストマーは、VITON(商標)(Dupont)、DYNEON(商標)(3M)、FLUOREL(商標)(3M)、AFLAS(商標)(3M)およびTECNOFLON(商標)(Solvay Solexis)群の製品として市販される。このようなフルオロエラストマーは、優れた耐溶媒性および耐油性を示してもよく、さらに、非フッ素化エラストマーの対象物と比較して、比較的高い耐熱性も有する。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマー(FE)は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマー単位を含むポリマーであってもよい。このようないくつかの実施形態では、フルオロエラストマーは、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンのターポリマーである。
【0015】
いくつかの実施形態では、フルオロエラストマー(FE)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合、分子量が約50,000〜約70,000ダルトンの範囲である。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマーは、その引張強度に基づいて選択されてもよい。このようないくつかの実施形態では、フルオロエラストマーの引張強度は、標準的なASTM D412Cによって測定した場合、約15mPa〜約25mPa、または約20〜約25mPa、または約22mPa〜約25mPaの範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマーは、特に、本明細書に開示するような架橋の化学に関与する能力について、特に選択される。
【0016】
本明細書で使用する場合、ペルフッ素化ポリエーテルは、かなりの程度のフッ素置換を有するポリエーテルポリマーを指し、任意のフッ素化オリゴマー、ホモポリマー、またはコポリマーであってもよい。ペルフッ素化ポリエーテルは、フルオロエラストマーに匹敵する化学安定性を示していてもよく、同様の特性を示してもよい。いくつかの実施形態では、ペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)は、平均分子量が約1,500ダルトン〜約2,500ダルトンの範囲の末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルである。ペルフッ素化ポリエーテルは、フルオロエラストマーと同様の撥溶媒性を有しつつ、シラノールに結合する能力について選択されてもよい。さらに、ペルフッ素化ポリエーテル成分は、疎油性グラフト接合ポリマーに対し、良好な耐摩耗性を与えるように選択されてもよい。
【0017】
適切なペルフッ素化ポリエーテルとしては、FLUOROLINK(商標)(Solvay Solexis)群のものが挙げられる。具体的な実施形態では、ペルフッ素化ポリエーテルは、一般式IIの化合物のようなアルコキシシランを末端に有するリンカー(L)で二官能置換されていてもよい。
【化2】
【0018】
末端アルコキシシラン基は、本明細書で開示する実施形態にしたがって、下流のグラフト接合の化学のための化学的な取り扱い性を与える。アルコキシシラン基のグラフト接合の化学は、ヒドロキシル基、例えば、有機アルコールまたはシラノールを有する基材を用いて達成されてもよい。シラノールカップリングの相手方は、シロキサン生成物(Si−O−Si)、例えば、本明細書に開示する疎油性グラフト接合ポリマーへの到達法を与える。式IIの化合物で使用されるリンカー(L)は、フッ素化アルキル、例えば、ペルフッ素化アルキルを含め、任意の置換または非置換のC−Cアルキルを含んでいてもよい。リンカーLは、さらに、末端酸素、またはある実施形態では、末端炭素原子でペルフッ素化ポリエーテルの主鎖に接続する任意の有能な有機官能基も含んでいてもよい。酸素に接続するための非限定的な官能基としては、カルバメート、エステル、エーテル、アミドなどが挙げられる。アルコキシシラン部分(Si(OR))のR基は、同じであってもよく、または異なっていてもよい。Rとしては、メチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルが挙げられてもよく、これらのいずれかは、フッ素を用いた置換を含め、置換されていてもよい。また、Rは水素であってもよい。ある実施形態では、グラフト接合の化学のための調製における加水分解の後、Rは、水素である。式IIでは、m、nおよびoは、上述のように、目標分子量に基づいて選択される整数である。いくつかの実施形態では、mおよびoは、2〜8の整数である。いくつかの実施形態では、nは、2〜4の整数である。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示する疎油性グラフト接合ポリマーは、式Iの化合物であってもよく、
【化3】
式中、FEは、フルオロエラストマー基であり;
PFPEは、ペルフッ素化ポリエーテル基であり;
Lは、リンカーであり;
m、nおよびoは、独立して、1〜10の整数であり、
それぞれの場合のRおよびRは、独立して、場合によりフッ素化されたC−Cアルキルであり;
およびRは、独立して、場合により、フッ素化されたC−Cアルキルまたは場合によりフッ素化されたC−Cアルコキシである。
【0020】
いくつかの実施形態では、mおよびoは、独立して、3〜8の整数であり、nは、1〜10の整数である。いくつかの実施形態では、リンカーLは、上述のように、ペルフッ素化ポリエーテルの末端ヒドロキシル官能基に共有結合可能な官能基中の末端にC−Cアルキルを含む。
【0021】
,Rおよび/またはLのC−Cアルキル基またはC−Cアルコキシ基は、直鎖または分枝鎖であってもよい。いくつかの実施形態では、フッ素以外のハロゲン、例えば、塩素または臭素での置換を含め、アルキル基またはアルコキシ基のいずれかが場合により置換されていてもよい。当業者は、構造Iがポリマーであるため、構造Iにペルフッ素化ポリエーテルが示されているすべての部位が、実質的に置換されていなくてもよいことを認識するだろう。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示する印刷ヘッドコーティングは、構造Iおよび構造IIIの混合物を含んでいてもよく、
【化4】
それぞれの基は、上に記載したように定義される。いくつかの実施形態では、構造IIIは、最小の要素であってもよく、コーティング組成物の約10%未満、または約5重量%未満、または約1重量%未満存在していてもよい。ある実施形態では、構造IIIの化合物は、存在する場合、保護された潜在的なシラノール基を有していてもよい。例えば、アルキル化剤を用いた処理によって、アルコキシ基として保護されてもよい。
【0022】
式Iの化合物は、本明細書で上に記載するフルオロエラストマー(FE)およびペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)を含む。この2種類のポリマーは、クロスリンカーの助けを借りて、一緒にもたらされる。クロスリンカーを使用し、第1に、それ自身と、フルオロエラストマーとを架橋させてもよい。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマーは、アミノ官能基化されたシランで架橋している。いくつかの実施形態では、アミノ官能基化されたシランは、構造Iに示されるように、ペルフッ素化ポリエーテルのグラフト接合点も与える。いくつかの実施形態では、アミノ官能基化されたシランは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AO800、UCT、ブリストル、PAから市販)を用いたポリシロキサンの末端保護に基づいていてもよい(または、構造Iおよび構造IIIにおいて、n=1の単なるシロキサン)。当業者は、架橋剤自体が、高いフッ素化度を有していてもよいが、必須ではないことを理解するだろう。
【0023】
ある実施形態では、フルオロエラストマーを、アミノ官能基化されたシランで架橋することと、末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルを、架橋したフルオロエラストマーにグラフト接合することとを含む、疎油性グラフト接合ポリマーを製造するためのプロセスを提供する。このようないくつかの実施形態では、このようなプロセスによって得られる疎油性グラフト接合ポリマーは、上述の構造Iの化合物を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、架橋工程は、末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテル存在下で行われてもよい。理論によって束縛されないが、骨格に水素原子を含むフルオロエラストマーの架橋によって、以下の反応スキーム1の工程1に示したように、フルオロエラストマーをデヒドロフッ素化することができることが予想される。デヒドロフッ素化は、不飽和フルオロエラストマー中間体およびプロトン化され、アミノ官能基化されたクロスリンカーを与える。塩基を用いてアミンを再生し(工程2)、その後、不飽和部へのアミン付加(工程3)によって、ペルフッ素化ポリエーテルとグラフト接合する準備ができた架橋したフルオロエラストマーを与える。グラフト接合(工程4)は、クロスリンカーの上のアルコキシシランのアルコキシ基および/または末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルを加水分解することによって達成され、構造Iの化合物を与えてもよい。したがって、明確化のために、例えば、以下のスキーム1の工程4に示される式Iの「ペルフッ素化ポリエーテル」基は、末端がアルコキシシランである。
【0024】
【化5-1】
【化5-2】
スキーム1:アミノ官能基化されたフルオロシリコーンをクロスリンカーとして用い、末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルを用いたフルオロエラストマーの架橋反応。
【0025】
上述のように、フルオロエラストマー架橋工程は、ペルフッ素化ポリエーテル存在下で行われてもよい。このようないくつかの実施形態では、アミノ官能基化されたシランと、末端がアルコキシシランのペルフッ素化ポリエーテルの比率は、約0.5:1〜約3:1、または約1:1〜約2:1の範囲であってもよい。ある実施形態では、この比率は、約1.5:1であってもよい。いくつかの実施形態では、フルオロエラストマーに対するアミノ官能基化されたシランの量は、約2pph〜約10pphの範囲である。いくつかの実施形態では、アミン官能基化されたクロスリンカーとペルフッ素化ポリエーテルとの接続は、フルオロエラストマーを架橋する前に行われてもよい。上述の任意の工程は、触媒の助けを借りて行われてもよく、反応は、場合により、高温で行われてもよい。典型的には、この反応は、有機溶媒、例えば、メチルイソブチルケトン(MIBK)中で行われるだろう。いくつかの実施形態では、この反応は、化学中間体を単離せずに、すべてワンポットシーケンスで行われる。いくつかの実施形態では、反応生成物を直接使用し、任意の種類の精製を行い、または行うことなく、コーティングを作成する。
【0026】
ある実施形態では、ポリマーコーティングを有する前面を含み、ポリマーコーティングが、架橋したフルオロエラストマーと、架橋したフルオロエラストマーにグラフト接合したペルフッ素化ポリエーテルとを含む、製造物品を提供する。このようないくつかの実施形態では、疎油性グラフト接合ポリマーは、構造Iの化合物を含む。
【0027】
本明細書に開示する疎油性の低付着性表面コーティングを、このようなコーティングが有益であると考えられる任意の製造物品のための濡れ防止コーティングとして使用してもよい。ある実施形態では、製造物品は、疎油性の低付着性ポリマー材料を含み、ヘキサデカンが、約50°より大きな表面コーティングとの接触角を示す、疎油性の低付着性表面コーティングを含む。ある実施形態では、接触角は、約55より大きく、または約65°より大きい。一実施形態では、ヘキサデカンと表面コーティングとの間に示される接触角に上限は存在しない。別の実施形態では、接触角は、約150°未満、または約90°未満である。ある実施形態では、コーティングは、低い付着性と高い接触角とを組み合わせて与える。ある実施形態では、本明細書のコーティングは、約30°未満の低いすべり角を与える。ある実施形態では、すべり角は、約25°未満である。ある実施形態では、すべり角は、約1°より大きい。接触角は、液滴の大きさにそれほど大きく感受性ではない。しかし、接触角は、表面コーティングに5〜10マイクロリットルのヘキサデカンを配置して測定することができる。すべり角は、表面コーティングに7〜12マイクロリットルの液滴を配置して測定することができる。
【0028】
本明細書のいくつかの実施形態では、疎油性の低付着性コーティングは、熱に安定であるため、高温(例えば、約180℃〜約325℃の範囲の温度)および高圧(例えば、約100psi〜約400psiの範囲の圧力)に長時間(例えば、約10分〜約2時間)さらされた後でさえ、約1°〜約30°の低いすべり角と、約45°〜約150°の高い接触角を与える。一実施形態では、疎油性の低付着性コーティングは、約290℃の温度、約350psiの圧力に約30分さらされた後、熱に安定である。このことは、製造プロセスの一部として高温および/または高圧の工程を必要とする製造物品にとって有益であろう。疎油性の低付着性コーティング26は、熱的に安定な自浄作用のある表面を与えることができる。
【0029】
図1を参照すると、本開示の製造物品は、疎油性の低付着性コーティング、例えば、疎油性の低付着性コーティング26を基材32の上に作成することによって製造することができる。基材32は、低表面エネルギーフルオロポリマーコーティングから利益を受け、例えば、撥水性、指紋および汚れ付着防止コーティング、または簡単に洗浄可能なコーティングを与えることができる任意の適切な材料から作られてもよい。例えば、基材32は、コーティング26が堆積することができる、ガラス表面、金属表面、プラスチック表面、セラミック表面、布樹表面または他の可とう性表面または剛性表面を含んでいてもよい。
【0030】
一実施形態では、基材32は、電子機器、例えば、ディスプレイ、デバイスケースまたはデバイスの電子要素の一部であってもよく、例えば、基材32は、スクリーン、例えば、テレビ用スクリーン、コンピュータスクリーン、携帯電話スクリーンまたは電子セルスクリーン、携帯電話の外側のケース、電子セル、ラップトップまたは他の電子機器のケースであってもよく、または、コーティング26を、集積回路チップのパッケージングに用いられる最終的な不動態化層またはコーティング層として塗布することができる集積回路チップであってもよい。さらに他の例では、基材32は、疎水性または疎油性のコーティングから利益を受け得る任意の他の製造物品、例えば、衣服の物品、プラスチックまたは織られた布地表面を有する家具、室外用ギア、例えば、テント布または室外シェルターで用いられる他の布地、寝袋の布地、または芝生用のガーデン器具、ガラス物品、例えば、窓ガラス、マイクロ波ガラス、オーブンガラスまたは自動車のウィンドシールド;自動車備品、例えば、ダッシュボードまたは車のシート、家庭用器具、例えば、食洗機の外側表面、オーブンレンジ、冷蔵庫またはマイクロ波、電子制御パネルまたは任意の他の金属、プラスチックまたはガラスの外側の覆い、または本開示のコーティングから利益を受け得るこのような用途のケースであってもよい。
【0031】
一実施形態では、疎油性の低付着性コーティング26は、上述のように、少なくとも1つのイソシアネートおよび少なくとも1つのペルフッ素化ポリエーテル化合物を含む反応剤混合物を最初に塗布することによって、基材32の上に作られてもよい。反応剤混合物を基材32に塗布した後、反応剤を一緒に反応させ、疎油性の低付着性コーティング26を作成する。反応剤を、例えば、反応混合物を硬化させることによって反応させてもよい。一実施形態では、反応剤混合物を、まず約130℃の温度で約30分〜約2時間硬化させ、その後、約290℃の高温での後硬化を約30分〜約2時間行ってもよい。
【0032】
一実施形態では、反応剤混合物を、任意の適切な方法、例えば、ダイ押出成型コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷およびブレード技術を用い、基材32に塗布してもよい。空気噴霧デバイス、例えば、エアブラシまたは自動化空気/液体スプレーを使用し、反応剤混合物を噴霧することができる。空気噴霧デバイスは、均一な(または実質的に均一な)反応剤混合物の量を用い、基材32の表面を覆うために均一なパターンで動く自動化された往復運動器に取り付けることができる。ドクターブレードの使用は、反応剤混合物を塗布するために使用可能な別の技術である。フローコーティングでは、プログラム可能なディスペンサーを使用し、反応剤混合物を塗布する。
【0033】
(疎油性グラフト接合ポリマー(A)の合成)
図2を参照すると、メチルイソブチルケトン(MIBK)および約1pph(重量基準)のFC4430(3M)およびAKF 290(Wacker)に溶解することによって、フルオロエラストマー(TECNOFLON(登録商標)FKM(P 959)、Solvay Specialty Polymers、アルファレッタ、GA)17.5%溶液を製造した(理論によって束縛されないが、界面活性剤は、フルオロエラストマーと、フューザーに塗布された剥離層/油との間に相溶性を付与してもよく、ピンホール/斑点の欠陥を防ぐと考えられる)。次に、MIBK中でモル比率が1.5:1のアミノクロスリンカーおよびFLUORLINK(商標)S10(Solvay Specialty Polymers、アルファレッタ、GA)を混合し、一晩ロール処理した。モル比率を一定に保ち、クロスリンカーおよびFLUORLINK(商標) S10の量を比例的に上げると、改良された低い付着特性が得られる。この例では、これらの異なる配合を、(1)クロスリンカー:およびFLUORLINK(商標) S10(0.86mM:0.57mM)(2)クロスリンカー:およびFLUORLINK(商標) S10(1.71mM:1.13mM)(3)クロスリンカー:およびFLUORLINK(商標) S10(2.56mM:1.70mMを用いて試した。16〜18時間後、図2に示すように、パートBをパートAに滴下した。パートBをパートAに加え終わったら、MgO/CaO(MIBK混合物中の9%ストック溶液をゾル状態で加え、この混合物を、デビルシェーカーを用いて5分間激しく振り混ぜ、得られた混合物を型(6×6インチ)に注ぎ、室温に16〜18時間維持した。表面特性の測定のために、溶液部分をポリイミド基材にドローバーコーティングした。これらを室温で一晩硬化させ、乾燥器に移し、218℃で4時間維持した。EF:FSL10の量を増やした配合物(3)は、最良の表面特性を与え、さらに、濡れ防止コーティング用途のためにさらに評価した。
【0034】
疎油性グラフト接合ポリマーの特性決定:空気中のTGA分解プロフィールは、このコーティングが330℃まで安定であることを示す(図3)。コーティングについて、ヘキサデカン(これを油の代理物として使用することができる)および固体インクに対する表面特性を評価した。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0035】
ここからわかるように、表面特性は、現行のコントロールコーティングに匹敵する。これらのコーティングは、印刷ヘッド製造中に使用される圧着による接着剤の結合サイクルをシミュレートする積み重ね条件(Teflon coverlayを用いた290℃/350 PSI)の後、高い接触角を維持していた。さらに、積み重ねられたコーティングは、溶融したCYMKインクとともに140℃で2日後に、高い接触角を維持していた。すべり角は、コントロールよりいくらか高かったが、インクは、表面から明確にすべり、使用中に簡単に洗浄することができるほど十分に低いと考えられる。それに加え、この例示的な疎油性グラフト接合ポリマーは、これらのコーティングの長期間の性能に望ましい機械的な丈夫さを有すると予想される。これらのコーティングを、フローコーティング手順のためにスケールアップすることができ、これらのグラフト接合ポリマー−を用いたフローコーティングのデモンストレーションが完成した。
【0036】
これらのコーティングが、望ましい表面特性を維持しつつ、油を示さず、非常に高い熱安定性を有するという事実によって、高解像度圧電印刷用途に魅力的な選択肢となる。
図1
図2
図3