(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472256
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】透明樹脂中空成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20190207BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20190207BHJP
B29C 48/90 20190101ALI20190207BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20190207BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20190207BHJP
【FI】
B29C47/88
F16L11/04
B29C47/90
B29C47/20 Z
B29L23:00
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-14944(P2015-14944)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-137670(P2016-137670A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076484
【弁理士】
【氏名又は名称】戸川 公二
(72)【発明者】
【氏名】成沢 良輔
【審査官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−292728(JP,A)
【文献】
特開2000−289088(JP,A)
【文献】
特開昭61−006156(JP,A)
【文献】
特開平04−193520(JP,A)
【文献】
特開平01−130929(JP,A)
【文献】
特開昭55−037301(JP,A)
【文献】
特開2007−002240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な熱可塑性樹脂材料を押出成形機によって筒状に成形する透明樹脂中空成形体の製造方法において、
前記熱可塑性樹脂を押出成形機のダイから筒状に押し出す工程と;この押し出された筒状成形体を引き取りながら冷却装置を通して冷却賦形する工程と;この賦形後の筒状成形体を引き取りながら熱風加熱装置を通して成形体表面を全周的に加熱する工程とを含むことを特徴とする透明樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項2】
熱風加熱装置による熱風処理温度が150℃〜300℃であることを特徴とする請求項1記載の透明樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項3】
熱風加熱装置による熱風処理時間が1sec〜60secであることを特徴とする請求項1または2に記載の透明樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項4】
筒状成形体を冷却賦形した後、熱風処理の前に、前記賦形後の筒状成形体を引き取りながらアニール炉内を通して筒状成形体を昇温させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の透明樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項5】
筒状成形体の熱風処理後に、筒状成形体を切断する工程、及びこの切断した筒状成形体をアニール炉内で加熱する工程、及びこの加熱した筒状成形体を徐冷する工程を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の透明樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項6】
透明な熱可塑性樹脂材料にポリサルフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を使用することを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の透明樹脂中空成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明樹脂中空成形体の改良、詳しくは、流体を移送する配管の一部に設ける透明な内視管や、フィルター(ろ過膜等)等の透明ハウジングに用いた際に優れた内部視認性を得ることができ、しかも、透明度のムラもなく、長尺な寸法にも対応できる透明樹脂中空成形体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ろ過装置や実験装置等の分野において、配管の一部やフィルター等のハウジングに透明な筒状部材を使用することにより、流体やフィルター等の状態を確認できるようにしたものが開発されている。しかし、この種の内視管や透明ハウジングにガラス管を用いると、流体の急激な温度変化によってガラス管が割れてしまう危険がある。
【0003】
そこで、従来においては、上記内視管や透明ハウジングに、温度変化に強い透明樹脂材料から成る筒状部材を使用する技術も公知となっているが(特許文献1参照)、この文献1に係る技術では、筒状部材を射出成形によって作製していたため、長尺な寸法の筒状部材を低コストで製造することが難しかった。
【0004】
一方、上記筒状部材を、透明樹脂材料を押出成形して作製する場合には、押出成形機のダイ孔から押し出された筒状成形体の外周面に、ダイ孔内壁との接触による細かな凹凸が形成され、これが曇りとなって透明度の低下を招いた。そのため、この筒状部材を上記内視管や透明ハウジングに用いても、充分な内部視認性が得られなかった。
【0005】
また、従来においては、透明樹脂材料を押出成形して成る筒状部材の表面を加熱処理して、表面の微細な凹凸を滑らかにすることにより、透明性を向上させる技術も公知となっているが(特許文献2参照)、炎による直接加熱を行うと、どうしても炎の接触箇所と非接触箇所で加熱ムラが生じて全体の透明性を均一に仕上げることができなかった。
【0006】
また更に、上記文献2中には、輻射熱による間接加熱を行って筒状成形体を表面処理する方法も開示されているが、周知のように輻射熱による加熱は、赤外線が対象物の内部まで浸透して対象物の外側だけでなく内側も同時に加熱するため、筒状成形体の表面のみを高温加熱することが難しく、全体の変形を招き易かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003―307286号公報
【特許文献2】特開2000―289088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、流体を移送する配管の一部に設ける透明な内視管や、フィルター等の透明ハウジングに用いた場合でも優れた内部視認性を確保することができ、しかも、透明度のムラも生じず、長尺な寸法にも対応できる透明樹脂中空成形体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、透明な熱可塑性樹脂材料を押出成形機によって筒状に成形する透明樹脂中空成形体の製造方法において、
前記熱可塑性樹脂を押出成形機のダイから筒状に押し出す工程と;この押し出された筒状成形体を引き取りながら冷却装置を通して冷却賦形する工程と;この賦形後の筒状成形体を引き取りながら熱風加熱装置を通して成形体表面を全周的に加熱する工程とを含む方法を採用した点に特徴がある。
【0011】
また、上記熱風加熱装置による熱風処理温度については、150℃〜300℃とするのが好ましい。これは、加熱温度が150℃以下だと表面処理効果が得られず、300℃以上だと熱分解や変質の問題が生じるためである。
【0012】
また更に、熱風処理時間については、1sec〜60secとするのが好ましい。これは、加熱時間が1secよりも短いと表面処理効果が得られず、60secよりも長いと全体が変形し易くなるためである。
【0013】
また本発明では、上記熱風処理による効果を高める、または短時間の熱風処理でも充分な効果を得るために、筒状成形体を冷却賦形した後、熱風処理の前に、前記賦形後の筒状成形体を引き取りながらアニール炉内を通して筒状成形体を昇温させる工程を採用するのが好ましい。
【0014】
また更に、本発明では、上記筒状成形体の内部の歪みを除去するために、筒状成形体の熱風処理後に、筒状成形体を切断する工程、及びこの切断した筒状成形体をアニール炉内で加熱する工程、及びこの加熱した筒状成形体を徐冷する工程を採用するのが好ましい。
【0015】
そしてまた、本発明では、上記透明な熱可塑性樹脂材料に、より透明度の高いポリサルフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を使用するのが好ましい。
【0016】
一方、上記製造方法により透明な熱可塑性樹脂材料を筒状に押出成形して、表面全体に熱風処理を施し、ヘイズ値を5%以下とした透明樹脂中空成形体は、内部状態を視認可能な透明ハウジング等の用途で好適に使用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、透明樹脂中空成形体について、押出成形後の筒状成形体の表面に熱風処理を施すことにより、筒状成形体の表面の細かな凹凸を滑らかにして曇りを除去することができるため、内視管やフィルター等の透明ハウジングの利用に適した透明度の高い樹脂成形体を製造することが可能となる。
【0018】
しかも、本発明では、上記筒状成形体の表面処理手段として熱風加熱を採用しているため、加熱ムラも生じず全体の透明度が均一になるように仕上げることができる。また熱風加熱は、熱伝導によって温度を変化させるため、筒状成形体の内側まで加熱されるようなことはなく、表面部分のみを高温加熱することができる。
【0019】
また更に、本発明では、筒状成形体を射出成形でなく押出成形によって作製しているため、長尺な寸法の中空成形品であっても同じ成形装置を用いて低コストで製造することができる。また本発明に係る透明樹脂中空成形体は、急激な温度変化にも強いため、多様な使用環境に対応できる。
【0020】
したがって、本発明により、従来において使用上の課題であった内部視認性の問題を改善できるだけでなく、製造上の不都合も解消できる他分野に利用可能な透明樹脂中空成形体を提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の透明樹脂中空成形体の製造方法を表す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための具体的態様及び好ましい条件について説明する。
【0023】
[透明樹脂中空成形体の製造方法]
本発明の透明樹脂中空成形体の製造方法について以下に説明する。まず
図1に示すように、材料となる透明な熱可塑性樹脂を押出成形機E内に投入し、これを加熱溶融させてダイから筒状に押し出す。そして、この押し出された筒状成形体Pを奥側に配置された引き取り機Tで引き取りながら冷却装置Rを通して冷却賦形する。
【0024】
なお、上記材料となる熱可塑性樹脂については、透明な汎用樹脂やエンジニアリングプラスチック等から自由に選択できるが、特に透明性に優れたポリサルフォン樹脂やポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂を好適に使用できる。また筒状成形体Pの形状は、必ずしも円筒である必要はなく用途に応じて楕円筒や角筒とすることもできる。
【0025】
また、上記筒状成形体Pを冷却賦形した後は、賦形後の筒状成形体Pを引き取りながらアニール炉A内を通して筒状成形体Pを昇温させる。この際、熱可塑性樹脂にポリサルフォン樹脂を使用する場合には、90〜150℃(好ましくは110〜120℃)で3〜30分(好ましくは10〜20分)加熱するのが望ましい(例えば、全長3mのアニール炉Aを使用して、筒状成形体Pを線速0.2m/minで通過させる等)。
【0026】
そして更に、上記筒状成形体Pを昇温させた後は、昇温後の筒状成形体Pを引き取りながら熱風加熱装置Hを通して成形体表面を全周的に加熱する。この際、熱風加熱装置Hによる熱風処理は、表面処理効果を充分得ることができ、かつ、熱分解や変質等の問題も生じない150℃〜300℃(好ましくは180〜250℃)の範囲で行うのが好ましい。
【0027】
また更に、上記熱風加熱装置Hによる熱風処理は、充分な表面処理効果を得ることができ、かつ、熱が筒状成形体Pの内側まで伝わり難い1〜60sec(好ましくは1〜10sec)の時間で行うのが好ましい(例えば、瞬間的に筒状成形体Pの長さ方向10〜200mmの範囲を加熱可能な熱風加熱装置を使用して、筒状成形体Pを線速0.2m/minで通過させる等)。
【0028】
なお、上記熱風加熱処理前の昇温工程に関しては、必須の工程ではなく省略することも可能であるが、アニール炉Aによる昇温工程を前段階に入れることによって短時間の熱風処理で優れた表面処理効果を得ることができる。また、アニール炉A以外の加熱手段によって筒状成形体Pを昇温することもできる。
【0029】
そして、上記筒状成形体Pに熱風処理を施した後は、切断装置Cによって筒状成形体Pを所定長さで切断し、更に熱風処理工程により生じた筒状成形体Pの内部の歪みを除去するために、切断した筒状成形体Pをアニール炉内でもう一度加熱し、その後、加熱した筒状成形体Pを徐冷する。これにより、透明度の高い透明樹脂中空成形体を効率的に作製することが可能となる。
【0030】
なお、上記筒状成形体Pの歪み除去工程に関しては、熱可塑性樹脂にポリサルフォン樹脂を使用する場合、アニール炉内で110〜170℃の加熱を1〜10時間(好ましくは120〜165℃の加熱を3〜8時間)行ってから、筒状成形体Pを自然冷却するのが好ましい。また、歪み除去工程は必須の工程ではないが、これにより割れ難い耐久性に優れた透明樹脂中空成形体を製造できる。
【0031】
そしてまた、
図1中には、押出成形機Eから押し出された筒状成形体Pを所定速度で引き取るための引き取り機Tを、熱風加熱装置Hと切断装置Cの間に配置する構成を記載しているが、引き取り機Tの配置は図示の位置に限定されるものではなく、アニール炉Aの手前に配置することもできる。
【0032】
[透明樹脂中空成形体]
次に本発明の透明樹脂中空成形体について以下に説明する。本発明の透明樹脂中空成形体は、上記製造方法を用いて透明度の指標であるヘイズ値が5%以下となるように作製している。これにより、透明樹脂中空成形体をろ過装置の透明ハウジングに使用した場合でも、内部状態をはっきりと視認することが可能となる。
【実施例】
【0033】
[効果の実証試験]
次に、本発明の効果を示すために行った実証試験について以下に説明する。まず本試験では、上記製造方法を用いて作製した透明樹脂中空成形体と、熱風加熱処理を行わずに作製した透明樹脂中空成形体との透明性の比較を行うために、下記実施例1および比較例Aの方法によりサンプルを作製した。
【0034】
「実施例1」
この実施例1では、材料となる熱可塑性樹脂にポリサルフォン樹脂を使用し、押出成形機Eによる押出工程、冷却装置Rによる冷却工程、アニール炉Aによる昇温工程、熱風処理装置Hによる熱風処理工程、切断装置Cによる切断工程、アニール炉による歪み除去工程を経て円筒状のサンプルを作製した。
【0035】
「比較例A」
この比較例Aでは、材料となる熱可塑性樹脂にポリサルフォン樹脂を使用し、押出成形機Eによる押出工程、冷却装置Rによる冷却工程、切断装置Cによる切断工程を経て円筒状のサンプルを作製した。昇温工程や熱風処理工程、歪み除去工程の有無を除き、実施例1と同じ条件で作製した。
【0036】
<試験内容>
そして、上記実施例1及び比較例Aの各サンプルについて、ヘイズ値の測定を行った。その結果、以下の表1に示すように、熱風加熱処理を行った実施例1のヘイズ値の方が、熱風加熱処理を行わなかった比較例Aのヘイズ値よりもかなり小さくなり、透明性が格段に向上していることが確認できた。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0037】
近年、ろか装置等の内視管や透明ハウジングにおいて、製造時に生じたプラスチックの曇りによって内部視認性が悪化する問題が生じている。そのような中で、本発明は、これらの問題を解消できる曇りのない透明樹脂製品を製造できるだけでなく、透明性が求められる装飾品等の展示ケースやペット飼育用の水槽、実験器具等の製品に利用できる技術であることから、その産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0038】
E 押出成形機
P 筒状成形体
R 冷却装置
A アニール炉
H 熱風加熱装置
T 引き取り機
C 切断装置