(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水硬率(H.M.)が2.00〜2.10、フリーライム量が0.1〜1.0質量%、全クロム量が200ppm以上、及び、全クロム量中の全六価クロムの割合が15質量%以下であるセメントクリンカーの粉砕物、石膏、及び、石灰を含む固化材であって、上記固化材中、SO3の割合が3.5〜15質量%で、かつ石灰の割合が0.2〜20質量%(CaO換算)であることを特徴とする固化材。
【背景技術】
【0002】
近年、分別やリサイクルの普及等により、都市ごみの処分量が減少しているため、最終処分場を利用できる残余年数は微増傾向にある。しかし、大量に発生し続ける都市ごみを、将来的にどのように処理していくかは、我が国の持続的な経済発展において、極めて重大な問題である。
また、都市ごみの大量発生源である都市部の周辺に、新たな最終処分場を確保することは、規制の強化等により困難な状況になっており、都市部のごみを地方に押し付けるという、新たな社会問題が生じている。
【0003】
収集された都市ごみの多くは、減容を主目的として焼却処理される。焼却処理によって生じた焼却灰(都市ごみ焼却灰)の一部は、さらに熱処理を施した後、溶融スラグとして再利用される。しかし、溶融スラグは、その用途の開発が困難であり、製造に多量のエネルギーを必要とする等の問題を有している。このため、都市ごみ焼却灰の多くは最終処分されているのが現状である。
【0004】
都市ごみ焼却灰の活用技術として、エコセメントが挙げられる。エコセメントは、都市ごみ焼却灰を主とした各種廃棄物を、製品1トンにつき、乾燥質量で500kg以上を原料として使用して製造されたセメントである。
エコセメントは、コンクリート製品や土木工事向けの生コンクリートの水硬性材料として、ポルトランドセメントと同様に使用されている。しかし、原料として都市ごみ焼却灰等の廃棄物を使用しているため、エコセメント中の重金属類(特に、クロム)の含有率は、ポルトランドセメントに比べて多い。地盤改良土からの六価クロムの溶出量について、土壌汚染対策法や水質汚濁防止法等によって規制があることから、エコセメントは、地盤改良土用の固化材としては不向きであった。
【0005】
原料として廃棄物を多量に使用し、かつ、地盤改良土からの六価クロムの溶出量を低減することができる固化材として、例えば、特許文献1には、セメントと、キレート化合物を含有してなる六価クロム溶出低減剤とを含有してなるセメント組成物が記載されている。
また、特許文献2には、セメント系固化材及び、石炭又は亜炭の粉末の混合物からなることを特徴とする地盤改良材が記載されている。
さらに、特許文献3には、水硬率(H.M.)が2.20〜2.45、3CaO・SiO
2含有量が61質量%以上、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3含有量が6〜14質量%で、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3のX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅が、0.2°以上、0.25°以下であり、かつブレーン比表面積が3,000〜4,500cm
2/gになるように粉砕した際のハンターLab表色系におけるb値が8.5以上であることを特徴とするセメントクリンカー、及び該セメントクリンカーを用いた固化材が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載されたセメントクリンカーを用いた固化材は、強度発現性等に優れかつ製造原価が低いものである。
しかし、上記セメントクリンカーは、原料を還元雰囲気下で焼成する際に、3CaO・SiO
2(エーライト;以下、「C
3S」ともいう。)の分解を原因とする固化材の強度発現性の低下を防ぐために、水硬率を高く(2.20〜2.45)設定している。
ここで、セメントクリンカーの水硬率を高くするには、原料中のCaOの量を多くする必要がある。このため、特許文献3に記載されたセメントクリンカーでは、その原料として、CaOの含有量が少ない廃棄物(例えば、都市ごみ焼却灰)の使用量を増やすことが困難であった。したがって、上記セメントクリンカー中の全クロム量の上限値は、150mg/kgと、一般的なポルトランドセメントクリンカーと同程度であった。
本発明は、セメントクリンカーの原料(以下、「クリンカー原料」ともいう。)として用いられる都市ごみ焼却灰の使用量を増加させることができ、また、セメントクリンカー中の全クロム量が多くても、該セメントクリンカーを含む固化材を用いた地盤改良土からの、六価クロムの溶出量を低減することができ、さらには、優れた強度発現性を有する固化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水硬率(H.M.)が2.00〜2.10、フリーライム量が0.1〜1.0質量%、全クロム量が200ppm以上、及び、全クロム量中の全六価クロムの割合が15質量%以下であるセメントクリンカーの粉砕物、石膏、及び、石灰を含む固化材であって、上記固化材中、SO
3の割合が3.5〜15質量%で、かつ石灰の割合が0.2〜20質量%(CaO換算)である固化材によれば、本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] 水硬率(H.M.)が2.00〜2.10、フリーライム量が0.1〜1.0質量%、全クロム量が200ppm以上、及び、全クロム量中の全六価クロムの割合が15質量%以下であるセメントクリンカーの粉砕物、石膏、及び、石灰を含む固化材であって、上記固化材中、SO
3の割合が3.5〜15質量%で、かつ石灰の割合が0.2〜20質量%(CaO換算)であることを特徴とする固化材。
[2] 前記[1]に記載の固化材を製造するための方法であって、(a)都市ごみ焼却灰を含むクリンカー原料を、還元剤の存在下で還元焼成して、セメントクリンカーを得るクリンカー調製工程と、(b)上記セメントクリンカーと、石膏と、石灰を混合及び粉砕して、固化材を得る固化材調製工程、を含むことを特徴とする固化材の製造方法。
[3] 工程(b)において、上記セメントクリンカーと、石膏と、石灰を同時に粉砕する前記[2]に記載の固化材の製造方法。
[4] 工程(a)において、セメントクリンカー1ton当たり、都市ごみ焼却灰を250kg以上の量で用いる前記[2]または[3]に記載の固化材の製造方法。
[5] 前記[1]に記載の固化材を用いた地盤改良方法であって、アロフェン及び非晶質成分を合計で20質量%以上(乾燥土における換算値)の割合で含む土壌1m
3当たり、上記固化材を50〜400kgの量で添加し混合することを特徴とする地盤改良方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固化材によれば、該固化材に用いられるセメントクリンカーの原料中の都市ごみ焼却灰の使用量を増加させることができる。
また、本発明の固化材によれば、セメントクリンカー中の全クロム量が多くても、該セメントクリンカーを含む固化材を用いた地盤改良土からの六価クロムの溶出量を低減することができる。
さらに、本発明の固化材は、強度発現性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の固化材は、水硬率(H.M.)が2.00〜2.10、フリーライム量が0.1〜1.0質量%、全クロム量が200ppm以上、及び、全クロム量中の全六価クロムの割合が15質量%以下であるセメントクリンカーの粉砕物、石膏、及び、石灰を含む固化材であって、上記固化材中、SO
3の割合が3.5〜15質量%で、かつ石灰の割合が0.2〜20質量%(CaO換算)のものである。
上記水硬率は、2.00〜2.10、好ましくは2.01〜2.08、より好ましくは2.02〜2.06である。該値が2.00未満であると、固化材の強度発現性が低下する。該値が2.10を超えると、廃棄物(特に、CaOの含有量が少ない都市ごみ焼却灰)の使用量を増やすことが困難になる。
【0012】
本発明に用いられるセメントクリンカーのケイ酸率(S.M.)は、好ましくは1.30〜1.90、より好ましくは1.40〜1.80である。該値が1.30以上であると、液相量が大きくないため、セメントクリンカーの製造がより容易となる。該値が1.90以下であると、廃棄物の使用量をより増やすことができる。
【0013】
本発明に用いられるセメントクリンカーの鉄率(I.M.)は、好ましくは1.50〜2.10、より好ましくは1.60〜1.90である。該値が1.50以上であると、セメントクリンカーの被粉砕性がより良好になり、製造コストが低減する。該値が2.10以下であると、固化材の品質を確保するために必要な石膏の量が小さいため、製造コストが低減する。
【0014】
本発明に用いられるセメントクリンカーのフリーライム量は、0.1〜1.0質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%、より好ましくは0.3〜0.6質量%である。該値が0.1質量%未満であると、焼成によってクリンカーを製造する際に必要な熱量が多くなる。該値が1.0質量%を超えると、固化材の強度発現性が低下する。
【0015】
本発明に用いられるセメントクリンカー中の全クロム量は、200ppm以上、より好ましくは300ppm以上、特に好ましくは350ppm以上である。本発明においては、該値が200ppm以上であっても、上記セメントクリンカーを含む固化材を用いた地盤改良土からの、六価クロムの溶出量が低いことから、セメントクリンカーの原料中の廃棄物の使用量(特に、都市ごみ焼却灰)を増加させることができる。該値の上限は特に限定されないが、地盤改良土からの六価クロムの溶出量を低減する(例えば、土壌汚染対策法における六価クロムの溶出量の基準値以下(0.05mg/リットル以下)とする)観点から、好ましくは900ppm以下、より好ましくは800ppm以下、特に好ましくは700ppm以下である。
なお、本明細書中、「セメントクリンカー中の全クロム量」とは、セメントクリンカー中の六価クロムと三価クロムの合計量である。また、「ppm」は質量基準である。
【0016】
上記全クロム量中の全六価クロム(固溶性六価クロムおよび水溶性六価クロムの合計)の割合は、15質量%以下、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。該割合が15質量%を超えると、地盤改良土からの六価クロムの溶出量が増大する。
【0017】
本発明に用いられるセメントクリンカーの原料としては、ポルトランドセメントクリンカーの製造に用いられる一般的な原料を使用することができる。具体的には、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料;珪石、粘土等のSiO
2原料;粘土等のAl
2O
3原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe
2O
3原料を使用することができる。
【0018】
さらに、前記原料に加えて、廃棄物を原料の一部として使用することができる。
ここで、本明細書中、「廃棄物」とは、産業廃棄物または一般廃棄物をいう。
産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物をいう。産業廃棄物の例としては、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、製鉄汚泥等)、建築廃材、コンクリート廃材、各種焼却灰(例えば、石炭灰、焼却飛灰、溶融飛灰等)、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、建設発生土(建設工事に伴い副次的に発生する土砂(例えば、地盤の掘削により生じるボーリング廃土)、及び建設汚泥(例えば、地盤改良工事で生じる、セメントミルクと掘削土の混合物))等が挙げられる。
一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。
一般廃棄物の例としては、都市ごみ焼却灰、下水汚泥乾粉、及び貝殻等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、リサイクルが進んでいない廃棄物を利用する観点から、都市ごみ焼却灰を原料の一部として使用することが望ましい。
【0019】
上記廃棄物の使用量は、廃棄物の有効利用の促進の観点から、セメントクリンカー1ton当たり、好ましくは400kg以上、より好ましくは500kg以上である。また、上記廃棄物の使用量の上限は、固化材の強度発現性の観点から、好ましくは800kg、より好ましくは700kgである。
また、原料として使用される上記廃棄物のうち、都市ごみ焼却灰の使用量は、セメントクリンカー1ton当たり、都市ごみ焼却灰の利用促進の観点から、好ましくは250kg以上、より好ましくは300kg以上、特に好ましくは350kg以上である。また、上記都市ごみ焼却灰の使用量の上限は、固化材の強度発現性の観点から、好ましくは650kg、より好ましくは550kgである。
なお、上記廃棄物の使用量(質量)は乾燥質量である。
【0020】
本発明に用いられるセメントクリンカーは、還元焼成によって得ることができる。該セメントクリンカーの製造方法の一例としては、都市ごみ焼却灰を含むクリンカー原料を、還元剤の存在下で、フリーライム量が0.1〜1.0質量%になるように焼成する方法が挙げられる。
上記クリンカー原料は、所望の水硬率(2.00〜2.10)等を有するセメントクリンカーが得られるように各原料を混合した後、還元焼成される。各原料を混合する方法は、特に限定されるものではなく、慣用の装置等を用いて行うことができる。
【0021】
上記還元剤としては、コークス、活性炭、廃木材、廃プラスチック、重油スラッジ、及び都市ごみ等の廃棄物を圧縮・固形化した廃棄物固形塊等の可燃性物質が挙げられる。
ここで、本明細書中、「還元焼成」とは、還元雰囲気下で焼成することをいう。
還元焼成によってセメントクリンカーを製造することで、原料の廃棄物中にクロムが含まれていても、酸化雰囲気下で生じ易い六価クロムの生成を抑制することができる。また、廃棄物を加熱(焼成)する工程において、廃棄物が一時的に酸化雰囲気下で加熱されることで六価クロムが生成しても、その後に還元雰囲気での加熱(焼成)が行われることによって、六価クロムが三価クロムに還元されることから、セメントクリンカー中の六価クロムの量を低減することができる。
クリンカー原料を上記還元剤の存在下で焼成する方法によれば、得られるセメントクリンカー中の六価クロムの量をより低減し、全クロム量中の全六価クロムの割合をより低くすることができる。
【0022】
原料を焼成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ロータリーキルン等の慣用の装置を使用することができる。
また、上記還元焼成は、焼成のためのバーナーの炎が、焼成の終了前のセメントクリンカーに直接当たるように行うことが好ましい(以下、「炎膜焼成」ともいう。)。
還元剤の存在下での焼成と、炎膜焼成を併用することで、得られたセメントクリンカーに含まれる全クロム量中の全六価クロムの割合をさらに低減することができる。
【0023】
以下、還元焼成の一例として、ロータリーキルンを用いた場合について説明する。
焼成に使用する燃料としては、主燃料である石炭の他、重油、天然ガス、及び燃料代替廃棄物(例えば、廃油、廃タイヤ、及び廃プラスチック等)等が挙げられる。
焼成温度は、好ましくは1,300〜1,600℃であり、焼成時間は、好ましくは10〜120分間、より好ましくは20〜100分間である。
ロータリーキルンを用いて炎膜焼成を行う方法としては、(a)主バーナーからの炎の方向に角度を付けて、炎がセメントクリンカーをなめるように加熱(焼成)する方法、(b)主バーナーの設置位置を中心位置からずらすことで、炎がセメントクリンカーをなめるように加熱(焼成)する方法、(c)主バーナー以外に補助バーナーを設置することで、炎の形状を制御しやすいようにして、炎がセメントクリンカーをなめるように加熱(焼成)する方法等が挙げられる。
【0024】
還元剤の存在下でセメントクリンカーを焼成する方法としては、ロータリーキルン内に還元剤を供給する方法等が挙げられる。
上記還元剤は、ロータリーキルンの出口側あるいはロータリーキルンの途中から供給することが好ましい。また、上記還元剤は、ロータリーキルン用の主燃料に比べて燃焼速度の遅いもの、または、主燃料と同様の燃焼速度を有しかつ主燃料よりも粗い粒のものが好ましい。
【0025】
上記還元剤の粒径は、好ましくは0.1〜20mmである。該粒径が0.1mm以上であれば、焼成の極初期段階において還元剤が燃えきってしまうことがないため、セメントクリンカー中の六価クロムの量を低減することができ、地盤改良土からの六価クロムの溶出量を低減することができる。該粒径が20mm以下であると、セメントクリンカー中に未燃焼状態の還元剤が残存することが起こりにくいため、固化材の強度発現性が向上する。
【0026】
上記還元剤の使用量は、ロータリーキルン内に送入されたクリンカー原料100質量部当たり、好ましくは5〜20質量部、より好ましくは10〜20質量部である。該量が5質量部以上であると、セメントクリンカー中の六価クロムの量をより低減できる。該量が20質量部以下であると、過剰な量(六価クロム量をゼロにするための量を超える量)の還元剤を使用せずにすみ、経済的である。
【0027】
焼成後、得られたセメントクリンカーは、該セメントクリンカーの温度が400℃以下になるまで、40℃/分間以上の冷却速度で冷却されることが好ましい。該冷却速度が40℃/分間以上であれば、セメントクリンカー中の三価クロムが、空気中の酸素により六価クロムに酸化されることを防ぐことができる。
また、セメントクリンカーの温度が400℃以下になると、セメントクリンカー中の三価クロムが空気中の酸素により六価クロムに酸化される可能性は、極めて小さくなる。
なお、セメントクリンカーの温度が400℃以下まで冷却された後の焼成物の冷却速度は、特に限定されない。
【0028】
セメントクリンカーを40℃/分間以上の冷却速度で冷却する方法としては、エアークエンチングクーラーを使用して冷却する方法、セメントクリンカーを水中に投入して冷却する方法、及びセメントクリンカーに散水して冷却する方法等が挙げられる。
【0029】
本発明の固化材は、上述したセメントクリンカーの粉砕物、石膏、及び、石灰を含むものである。
上記固化材のブレーン比表面積は、固化材の強度発現性や製造等に係るコスト、さらには地盤改良土の耐久性等の観点から、好ましくは2,500〜5,000cm
2/g、より好ましくは3,000〜4,500cm
2/gである。
上記石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、又はこれらの混合物等が挙げられる。
固化材中のSO
3の割合(セメント中のSO
3と、セメントの調製とは別に後添加される石膏中のSO
3と、他の任意に配合可能な後述の高炉スラグ微粉末等に含まれるSO
3の合計量の割合)は、3.5〜15質量%、好ましくは4〜12質量%、より好ましくは6〜10質量%である。該割合が3.5質量%未満では、固化材を含むスラリーを調製する際に、スラリーの粘性が高くなって作業性が劣るとともに、強度発現性が低下する。該割合が15質量%を超えると、固化材の強度発現性が低下するとともに、固化材を適用した土壌の硬化が遅延する。
【0030】
上記石灰としては、生石灰、消石灰、ドロマイト焼成物またはこれらの混合物を用いることができる。
固化材中の石灰の割合は、CaO換算で、0.2〜20質量%、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜13質量%、特に好ましくは3〜12質量%である。該割合が0.2質量%未満であれば、固化材を土壌に適用した場合における、六価クロムの溶出量が増大する。該割合が20質量%を超えると、固化材の強度発現性が低下する。
【0031】
本発明の固化材は、高炉スラグ微粉末を含んでいてもよい。高炉スラグ微粉末の配合量は、セメントクリンカー粉砕物100質量部当たり、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは20〜100質量部、特に好ましくは40〜80質量部である。該配合量が10質量部以上であると、高炉スラグ微粉末を用いることによる利点(水密性の向上等)を十分に得ることができる。該配合割合が150質量部以下であると、固化材の強度発現性(特に、一軸圧縮強さ)等が向上する。
また、固化材の材料として、さらにフライアッシュ、珪石粉末及び石灰石粉末等を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の固化材の製造方法は、(a)都市ごみ焼却灰を含むクリンカー原料を、還元剤の存在下で還元焼成して、セメントクリンカーを得るクリンカー調製工程と、(b)上記セメントクリンカーと、石膏と、石灰を混合及び粉砕して、固化材を得る固化材調製工程、を含む。
工程(a)において、還元焼成によってセメントクリンカーを得る方法は、上述のとおりである。
工程(b)における「混合及び粉砕」とは、(i)セメントクリンカーと、石膏と、石灰を同時に粉砕すること、(ii)セメントクリンカーの粉砕物と、石膏の粉砕物(または既存の石膏粉末)と、石灰の粉砕物(または既存の石灰粉末)を混合すること、(iii)セメントクリンカーと石膏を混合して粉砕した後、得られた混合物と石灰の粉砕物(または既存の石灰粉末)を混合すること等を含む。
また、強度発現性(一軸圧縮強さ)を向上させる観点から、工程(b)において、セメントクリンカーと、石膏と、石灰を同時に粉砕することが好ましい。
固化材の原料として、さらに高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、珪石粉末及び石灰石粉末等を使用する場合は、工程(b)において、これらの粉末を適宜、添加して混合すれば良い。
【0033】
本発明の固化材を用いた地盤改良方法としては、1)地盤改良対象土に固化材を粉体のまま添加して混合するドライ添加、2)固化材と水を混合してなるスラリーを、地盤改良対象土に添加して混合するスラリー添加、が挙げられる。
スラリー添加を行う場合、水と固化材の質量比(水/固化材の比)は、好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.6〜1.2である。
地盤改良対象土に対する、本発明の固化材の使用量は、対象土の性状や施工条件、固化処理した土の要求強度にもよるが、土壌1m
3当り、好ましくは50〜500kg、より好ましくは150〜400kgである。
本発明において、地盤改良の対象となる土としては、特に限定されるものではないが、優れた強度発現性が期待できる観点から、アロフェン及び非晶質成分を合計で、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上(乾燥土における換算値)の割合で含むもの(一般的に、「火山灰質土」と呼ばれるもの)が好適である。
【実施例】
【0034】
[セメントクリンカーAの製造]
セメントクリンカーの原料(クリンカー原料)として、エコセメント用の調合原料を使用した。上記クリンカー原料中の廃棄物の量は、セメントクリンカー1ton当たり、
517kgであった。また、廃棄物に含まれる都市ごみ焼却灰の量は、セメントクリンカー1ton当たり、356kgであった。
上記クリンカー原料について、「セメント協会標準試験方法 JCAS I‐14(セメント製造用原料の化学分析方法)」に準拠して化学組成を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
上記クリンカー原料を、ロータリーキルンを用いて、以下の方法で焼成してセメントクリンカーAを製造した。
ロータリーキルンとしては、メインバーナーに補助バーナーを追加したものを使用した。ロータリーキルンのメインバーナーの運転条件(燃焼種類、焚量(石炭の時間当たりの使用量))は固定したまま、補助バーナーの運転条件を変更することで、バーナーフレームの大きさ及び形状を変更した。
ロータリーキルンの主燃料としては石炭を使用した。該石炭の焚量を補助バーナー側で調整することで、焼成後のセメントクリンカー中のフリーライム量が0.1〜1.0質量%となるようにした。
還元剤としては、コークス(東海産興社製;粒径:0.1〜3mm;固定炭素量:99質量%以上)を使用した。還元剤の吹き込みは、補助バーナー側から行った。還元剤の使用量は、ロータリーキルン内に送入されたクリンカー原料100質量部に対して、18質量部となるようにした。
また、補助バーナーの炎の大きさ及び形状を変更して、バーナーの炎が、焼成の終了前のセメントクリンカーに直接当たるように調整することで、炎膜焼成を行った。
焼成条件としては、焼成温度は1,450℃とし、焼成時間は40分間とした。
焼成後のセメントクリンカーの冷却には、エアークエンチングクーラーを使用した。冷却速度は40℃/分間以上になるように調整した。
[セメントクリンカーB〜Fの製造]
表2に示す焼成条件および還元剤の使用量で焼成した以外は、セメントクリンカーAの製造と同様にしてセメントクリンカーB〜Fを得た。
【0037】
得られたセメントクリンカーA〜Fについて、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析法)」に準拠して化学分析を行い、水硬率、ケイ酸率、鉄率、ボーグ式によるC
3S(エーライト;3CaO・SiO
2)、C
2S(ビーライト;2CaO・SiO
2)、C
3A(アルミネート相;3CaO・Al
2O
3)、及びC
4AF(フェライト相;4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)の含有率を算出した。
また、「セメント協会標準試験方法 JCAS I01(遊離酸化カルシウムの定量方法)」に準拠して、セメントクリンカーのフリーライム量を測定した。結果を表2に示す。
さらに、「セメント協会標準試験方法 JCAS I−51(セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法)」に準拠して、セメントクリンカー中の全クロム量(セメントクリンカー中の六価クロムと三価クロムの合計量)を測定した。
【0038】
また、以下の手順に従って、セメントクリンカー中の全六価クロム量(固溶性六価クロム及び水溶性六価クロムの合計の量)を測定した。
[セメントクリンカー中の全六価クロム量の測定方法]
(1)10質量%硫酸ナトリウム溶液500mlを収容した1リットルの合成樹脂製容器に、セメントクリンカー粉砕物1gを投入して、密栓する。
(2)上記合成樹脂製容器を、振とう機に取り付けて、24時間振とうさせることによって、六価クロムを抽出する。
(3)振とう後、試料全量をろ過して、ろ液と残渣を回収する。
(4)回収したろ液に含まれる六価クロムの量を、ジフェニルカルバジド吸光光度法を用いて測定する。
(5)回収した残渣を全て合成樹脂製容器に戻した後、10質量%硫酸ナトリウム溶液500mlを合成樹脂製容器内に再び供給して密封し、上記(2)〜(4)の作業を行うことを、3回繰り返す。
(6)測定した六価クロムの量の積算量を、試料中の全クロム量(固溶性六価クロムと水溶性六価クロムの合計量)とする。
さらに、得られた全クロム量と全六価クロムの量から、全クロム量中の全六価クロムの割合を算出した。結果を表3に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
[セメント1〜6の製造]
セメントクリンカーA〜Fと石膏(新日鐵住金社の鹿島製鉄所製の排脱二水石膏)を、同時にボールミルを用いて粉砕することで、表4に示すブレーン比表面積及び石膏の含有率を有するセメント1〜6を製造した。なお、粉砕時に、粉砕助剤としてジエチレングリコールを、粉砕物の全量中の割合で200ppmの量になるように使用した。
【0042】
【表4】
【0043】
[実施例1]
得られたセメント1に、高炉スラグ微粉末(エスメント関東社製;商品名:エスメント 4000;ブレーン比表面積:4,350cm
2/;SO
3含有率:1.8質量%)、無水石膏(タイ国産の天然無水石膏;ブレーン比表面積:3,700cm
2/g;SO
3含有率:55質量%)、生石灰(奥多摩工業社製;商品名:タマライム;ブレーン比表面積:5,000cm
2/g)、及び消石灰(奥多摩工業社製;商品名:タマエース;ブレーン比表面積:14,000cm
2/g)を表5及び表6に示す配合で混合して、固化材を得た。
なお、表5中、「粉体混合」とは、固化材の製造において、予め製造されたセメントと、セメント以外の粉体状の各材料を混合することによって、固化材を得たことを意味する。また、表5中、「同時粉砕」とは、固化材の製造において、セメントクリンカー、石膏、石灰、及び高炉水砕スラグ(高炉スラグ微粉末の粉砕前の材料)を同時に粉砕することによって、固化材を得たことを意味する。
【0044】
地盤改良対象土として、関東ローム(神奈川県川崎市産;含水比:93.8%;湿潤密度:1.52g/cm
3;アロフェン及び非晶質成分の含有率:55質量%)を使用した。
ここで、含水比は、「JIS A 1203(土の含水比試験方法)」に準拠して得られた110℃恒量値である。湿潤密度は、「JIS A 1210(突固めによる土の締固め試験方法)」に準拠して得られた値である。アロフェン及び非晶質成分の含有率は、「土壌中のアロフェンおよび非晶質無機成分の定量に関する研究」(北川、農技研報告、No.29、pp.1〜48、1977)に記載された方法に準拠して得られた、乾燥土における換算値である。
得られた固化材と水を、水と固化材の質量比(水/固化材の比)が1.0となるように混合してスラリーを得た後、上記地盤改良対象土と上記スラリーを、ホバートミキサーを用いて3分間混合して、地盤改良土を得た。
なお、固化材の使用量は、地盤改良対象土1m
3当り300kgとなる量であった。
得られた地盤改良土の材齢7日における一軸圧縮強さを、「JIS A 1216(土の一軸圧縮試験方法)」に準拠して測定した。
また、材齢7日の地盤改良土について環境省告示18号に準拠して六価クロムの溶出試験を行い、「JIS K 0102(工場排水試験方法)」に準拠して、地盤改良土からの六価クロムの溶出量を測定した。結果を表6に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
[実施例2〜7、比較例1〜5]
表5及び表6に示す配合で混合した固化材を用いた以外は、実施例1と同様にして地盤改良土を得た。
得られた地盤改良土の一軸圧縮強さ、及び、地盤改良土からの六価クロムの溶出量を、実施例1と同様にして測定した。結果を表6に示す。
【0048】
本発明の固化材に用いられるセメントクリンカーA〜C(実施例1〜7)は、都市ごみ焼却灰の使用量が356kgと、大きいものである。
また、表6から、全クロム量が393ppm以上(表3)であるセメントクリンカーA〜Cを含む固化材であっても、地盤改良土からの六価クロムの溶出量が低い(0.02mg/リットル以下)ことがわかる(実施例1〜7)。
また、実施例3〜7と比較例1〜2を比較すると、本発明の固化材は強度発現性(特に、短期〜中期の強度発現性である一軸圧縮強さ)に優れていることがわかる。
さらに、実施例4と実施例5を比較すると、固化材の製造において、セメントクリンカー、石膏、及び石灰等の材料を同時に粉砕した場合(実施例5)、これらの材料を同時に粉砕しない場合(実施例4)に比べて、一軸圧縮強さがより大きくなることがわかる。