【文献】
LI J.F., AGYAKWA P.a., JOHNSON C.m., ZHANG D., HUSSAIN T., MCCARTNEY D.g.,Characterization and solderability of cold sprayed Sn-Cu coatings on Al and Cu substrates,Surf Coat Technol,2010年 1月25日,Vol.204 No.9-10,Page.1395-1404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4の技術には次のような問題がある。
【0009】
特許文献1の技術は、コールドスプレー法により、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる帯状の平形導体の面上にNi層を成膜する。しかしながら、コールドスプレー法で成膜されたNiは、その表面密度が低いため、半田濡れ性が十分ではない。
【0010】
特許文献2の技術は、アルミ製部材の表面にNi、Snのメッキ層をその順序で形成することから、手間とコストを要する。また、特許文献2の技術は、コールドスプレー技術を利用していない。そのため、特許文献2の技術は、コールドスプレーの利点、すなわち、部分加工が可能、といった利点を享受することはできない。
【0011】
特許文献3および特許文献4の技術は、半田付け用組成物に関するものであって、半田材料を介して他の部材と接続する半田接続構造に関するものではない。そのため、特許文献3および特許文献4の技術は、半田濡れ性を向上させる半田接続構造を提供するものではない。
【0012】
また、一般に、異種金属の接合(接続)技術には、ネジ止め、はんだ付け、各種溶接技術が利用される。しかしながら、金属の材質によっては、腐食が生じる虞がある。例えば、アルミニウム基材と銅線とをネジ止めする場合、電池作用が生じ、アルミニウム基材が腐食する虞がある。また、アルミニウム基材とアルミニウムとは異なる金属材料とを溶接により固定する場合、酸化膜を除去するなどの工程が必要となり、手間とコストがかかる。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑み、半田濡れ性を向上させるための、半田接続構造、及び、アルミニウム基材上に金属膜を成膜する成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る半田接続構造は、半田材料を介して他の部材と接続する半田接続構造であって、アルミニウム基材と、ニッケル(Ni)、金(Au)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、銅(Cu)のいずれか、又は、これらの2種以上を含む合金を成分とする第一粉末材料と、錫(Sn)又はSnを含む合金を成分とする第二粉末材料とが混合された混合粉末材料を用いたコールドスプレー法により上記アルミニウム基材上に成膜された金属膜と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る成膜方法は、アルミニウム基材上に金属膜を成膜する成膜方法であって、上記アルミニウム基材に対して、ニッケル(Ni)、金(Au)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、銅(Cu)のいずれか、又は、これらの2種以上を含む合金を成分とする第一粉末材料と、錫(Sn)又はSnを含む合金を成分とする第二粉末材料とが混合された混合粉末材料をコールドスプレーすることにより、上記アルミニウム基材上に金属膜を成膜することを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態に係る半田接続構造および成膜方法は、上記の構成を備えることにより、以下の効果を奏する。具体的には、上記混合粉末材料が上記アルミニウム基材に対してコールドスプレーされたときに、上記第二粉末材料の成分であるSnは、Snよりも融点の高い上記第一粉末材料の成分(Ni、Au、Zn、Ag、Cu)と比べて、半溶融状態となりやすい。そのため、Snは、上記第一粉末材料の成分を構成する粒子間に入り込み、当該粒子を互いに結合する役割を果たし、かつ、上記金属膜を凹凸の少ない連続膜とすることができる。
【0017】
これにより、本発明の一実施形態に係る半田接続構造および成膜方法は、以下の(1)、(2)に係る半田接続構造と比べて、半田濡れ性を高めることができる。
(1)アルミニウム基材に対して、上記第一粉末材料のみがコールドスプレーされた半田接続構造。
(2)アルミニウム基材に対して、最初に上記第一粉末材料が、続いて上記第二粉末材料がコールドスプレーされた半田接続構造。
【0018】
また、本発明の一実施形態に係る半田接続構造では、上記第一粉末材料は、Niを成分とし、上記第二粉末材料は、Snを成分とし、上記混合粉末材料は、重量比で、上記第一粉末材料を80%以上95%以下含むことが好ましい。
【0019】
また、本発明の一実施形態に係る成膜方法では、上記第一粉末材料は、Niを成分とし、上記第二粉末材料は、Snを成分とし、上記混合粉末材料は、重量比で、上記第一粉末材料を80%以上95%以下含むことが好ましい。
【0020】
上記の構成とすることにより、本発明の一実施形態に係る半田接続構造および成膜方法は、さらに半田濡れ性を高めることができる。具体的には、上記混合粉末材料が上記アルミニウム基材に対してコールドスプレーされたときに、上記第二粉末材料の成分であるSnは、Snよりも融点が高い第一粉末材料の成分(Ni、Au、Zn、Ag、Cu)と比べて、半溶融状態となりやすい。そのため、Snは、上記第一粉末材料の成分を構成する粒子間に入り込み、当該粒子を互いに結合する役割を果たし、かつ、上記金属膜を凹凸の少ない連続膜とすることができる。
【0021】
加えて、上記混合粉末材料に占める上記第一粉末材料の重量比を80%以上95%以下とすることにより、上記金属膜における第一粉末材料の密度を高く保つことができる。さらに、上記第一粉末材料により形成された層は上記第二粉末材料により形成された層に覆われており、上記第一粉末材料により形成された層に酸化物が生成することを抑えることもできる。このような理由から、本発明の一実施形態に係る半田接続構造および成膜方法は、さらに半田濡れ性を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、半田濡れ性を向上させるための、半田接続構造、及び、アルミニウム基材上に金属膜を成膜する成膜方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、各実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0025】
〔コールドスプレーについて〕
近年、コールドスプレー法と呼ばれる皮膜形成法が利用されている。コールドスプレー法は、金属皮膜の材料となる金属粉末の融点または軟化温度よりも低い温度のキャリアガスを高速流にし、そのキャリアガス流中に金属粉末を投入し加速させ、固相状態のまま基板等に高速で衝突させて皮膜を形成する方法である。
【0026】
コールドスプレー法の成膜原理は、次のように理解されている。
【0027】
金属粉末が基板に付着・堆積して成膜するには、ある臨界値以上の衝突速度が必要であり、これを臨界速度と称する。金属粉末が臨界速度よりも低い速度で基板と衝突すると、基板が摩耗し、基板には小さなクレーター状の窪みしかできない。臨界速度は、金属粉末の材質、大きさ、形状、温度、酸素含有量、基板の材質などによって変化する。
【0028】
金属粉末が基板に対して臨界速度以上の速度で衝突すると、金属粉末と基板(あるいはすでに成形された皮膜)との界面付近で大きなせん断による塑性変形が生じる。この塑性変形、および衝突による固体内の強い衝撃波の発生に伴い、界面付近の温度も上昇し、その過程で、金属粉末と基板、および、金属粉末と皮膜(すでに付着した金属粉末)との間で固相接合が生じる。
【0029】
〔実施形態〕
以下、
図1を参照して本実施形態に係るコールドスプレー装置100を説明する。
【0030】
(コールドスプレー装置100)
図1は、コールドスプレー装置100の概略図である。
図1に示すように、コールドスプレー装置100は、タンク110と、ヒーター120と、ノズル130と、フィーダ140と、基材ホルダー150と、制御装置(不図示)とを備える。
【0031】
タンク110は、キャリアガスを貯蔵する。キャリアガスは、タンク110からヒーター120へ供給される。キャリアガスの一例として、窒素、ヘリウム、空気、またはそれらの混合ガスが挙げられる。キャリアガスの圧力は、タンク110の出口において、例えば70PSI以上150PSI以下(約0.48Mpa以上約1.03Mpa以下)となるよう調整される。ただし、タンク110の出口におけるキャリアガスの圧力は、上記の範囲に限られるものではなく、金属粉末の材質、大きさ、基板の材質等により適宜調整される。
【0032】
ヒーター120は、タンク110から供給されたキャリアガスを加熱する。より具体的に、キャリアガスは、フィーダ140からノズル130に供給される金属粉末の融点より低い温度に加熱される。例えば、キャリアガスは、ヒーター120の出口において測定したときに、50℃以上500℃以下の範囲、好ましくは150℃以上250℃以下の範囲で加熱される。ただし、キャリアガスの加熱温度は、上記の範囲に限られるものではなく、金属粉末の材質、大きさ、基板の材質等により適宜調整される。
【0033】
キャリアガスは、ヒーター120により加熱された後、ノズル130へ供給される。
【0034】
ノズル130は、ヒーター120により加熱されたキャリアガスを300m/s以上1200m/s以下の範囲で加速し、基材10へ向けて噴射する。なお、キャリアガスの速度は、上記の範囲に限られるものではなく、金属粉末の材質、大きさ、基板の材質等により適宜調整される。
【0035】
フィーダ140は、ノズル130により加速されるキャリアガスの流れの中に、金属粉末を供給する。フィーダ140から供給される金属粉末の粒径は、1μm以上50μm以下といった大きさである。フィーダ140から供給された金属粉末は、ノズル130からキャリアガスとともに基材10へ噴射される。
【0036】
基材ホルダー150は、基材10を固定する。基材ホルダー150に固定された基材10に対して、キャリアガスおよび金属粉末がノズル130から噴射される。基材10の表面とノズル130の先端との距離は、例えば、5mm以上30mm以下の範囲で調整される。ただし、基材10の表面とノズル130との距離は、上記の範囲に限られるものではなく、金属粉末の材質、大きさ、基板の材質等により適宜調整される。
【0037】
制御装置は、予め記憶した情報、および/または、オペレーターの入力に基づいて、コールドスプレー装置100を制御する。具体的に、制御装置は、タンク110からヒーター120へ供給されるキャリアガスの圧力、ヒーター120により加熱されるキャリアガスの温度、フィーダ140から供給される金属粉末の種類および量、基材10の表面とノズル130との距離などを制御する。
【0038】
(アルミニウム基板30への金属膜の成膜)
次に、コールドスプレー法を用いて、Ni粉末41(第一粉末材料)とSn粉末42(第二粉末材料)とを混合した混合粉末材料をアルミニウム基板30上に噴射し、アルミニウム基板30上に金属膜40を成膜する方法等を
図2、
図3により説明する。
【0039】
図2は、アルミニウム基板30上に金属膜40を成膜するフローチャートを示す。
図3は、アルミニウム基板30上に金属膜40が成膜された半田接続構造50の概略図を示す。なお、金属膜40は、Ni、金(Au)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、銅(Cu)のいずれか、又は、これらの2種以上を含む合金を成分とする第一粉末材料と、Sn又はSnを含む合金を成分とする第二粉末材料とが混合された混合粉末材料とで形成されてよい。説明の便宜上、
図2、
図3では、金属膜40は、Ni粉末41とSn粉末42とで形成されるものとして説明する。
【0040】
図2を参照して、Ni粉末41とSn粉末42とを混合する(S1)。次に、Ni粉末41とSn粉末42との混合粉末をコールドスプレー法によりアルミニウム基板30に噴射する(S2)。その結果、アルミニウム基板30上に金属膜40が成膜される(S3)。なお、S1〜S3の詳細については、後述の(実施例)にて説明する。
【0041】
図3は、アルミニウム基板30上に金属膜40が成膜された半田接続構造50の概略図を示す。図示するように、半田接続構造50は、アルミニウム基板30と、アルミニウム基板30上に成膜された金属膜40と、を備える。金属膜40は、Ni粉末41とSn粉末42との混合粉末材料がコールドスプレーされることでアルミニウム基板30上に成膜された金属膜である。
【0042】
Snは、Niよりも融点が低い。そのため、Sn粉末42はコールドスプレーされたときに半溶融状態となりやすく、Snは、Ni粒子の間に入り込み、Ni粒子を互いに結合する役割を果たす。また、そのSnの働きにより、金属膜40の表面は凹凸が少ない。
【0043】
(実施例1)
以下、本実施形態に係る実施例1を示す。
図3の半田接続構造は、例えば以下の条件により形成される。
【0044】
実施例1では、
図3のアルミニウム基板30が、
図1に記載した基材10に相当する。アルミニウム基板30は、アルミニウム製の板材であり、矩形状で、厚みが0.5mmである。
【0045】
実施例1では、Ni粉末41とSn粉末42とを混合した混合粉末材料が用いられる。Ni粉末41は平均粒径が約10μmであり、Sn粉末42は平均粒径が約38μmである。混合比率は、重量比で、Ni:Sn=95:5である。この混合粉末材料が、ノズル130からアルミニウム基板30に噴射される。
【0046】
ノズル130の先端とアルミニウム基板30との距離は10mmである。
【0047】
タンク110から供給されるキャリアガスは、空気である。キャリアガスの圧力は、タンク110の出口において120PSI(約0.83Mpa)に設定されている。ヒーター120は設定温度が250℃であり、NiおよびSnに接するときのキャリアガスの温度は、Niの融点(1453℃)およびSnの融点(231.97℃)より低くなる。
【0048】
ノズル130からアルミニウム基板30に噴射された上記混合粉末材料がアルミニウム基板30へ到達する時の温度は約103℃である。
【0049】
以上の条件により、
図3の半田接続構造50が形成される。
【0050】
(比較例1)
次に、比較例1を
図4により説明する。
図4は、比較例1に係る半田接続構造52の概略図を示す。
【0051】
比較例1において、アルミニウム基板30は、アルミニウム製の板材であり、矩形状で、厚みが0.5mmである。Ni粉末41は、平均粒径が約10μmであり、ノズル130からアルミニウム基板30に噴射される。
【0052】
ノズル130の先端とアルミニウム基板30との距離は10mmである。
【0053】
タンク110から供給されるキャリアガスは、空気である。キャリアガスの圧力は、タンク110の出口において120PSI(約0.83Mpa)に設定されている。ヒーター120は設定温度が350℃であり、Niに接するときのキャリアガスの温度は、Niの融点(1453℃)より低い。
【0054】
図4は、上記の条件により形成された半田接続構造52の概略図を示す。図示するように、半田接続構造52は、アルミニウム基板30と、アルミニウム基板30上にコールドスプレーされたNi膜41aとを備える。Ni膜41aは、Ni粒子の集まりであって、Niの粒子間に隙間が形成される。そのため、Ni膜41aは、その表面に多くの凹凸を有する。
【0055】
(比較例2)
比較例2を
図5により説明する。
図5は、比較例2に係る半田接続構造54の概略図を示す。
【0056】
比較例2において、アルミニウム基板30は、アルミニウム製の板材であり、矩形状で、厚みが0.5mmである。Ni粉末41は平均粒径が約10μmであり、Sn粉末42は平均粒径が約38μmである。Ni粉末41およびSn粉末42が、その順序で、ノズル130からアルミニウム基板30に噴射される。
【0057】
ノズル130の先端とアルミニウム基板30との距離は10mmである。
【0058】
キャリアガスの圧力は、ノズル130からNi粉末41およびSn粉末42が噴射される場合のいずれの場合も、タンク110の出口において120PSI(約0.83Mpa)に設定されている。
【0059】
キャリアガスの加熱温度は、ノズル130からNi粉末41が噴射される場合には、ヒーター120は設定温度が350℃であり、Niに接するときのキャリアガスの温度は、Niの融点(1453℃)より低い。また、ノズル130からSn粉末42が噴射される場合には、ヒーター120は設定温度が250℃であり、Snに接するときのキャリアガスの温度は、Snの融点(231.97℃)より低くなる。
【0060】
ノズル130からアルミニウム基板30に噴射されたNi粉末41がアルミニウム基板30へ到達する時の温度は約200℃であり、ノズル130からアルミニウム基板30に噴射されたSn粉末42がアルミニウム基板30へ到達する時の温度は約103℃である。
【0061】
図5は、上記の条件により形成された半田接続構造54の概略図を示す。図示するように、半田接続構造54は、アルミニウム基板30と、金属膜45とを備える。金属膜45は、アルミニウム基板30上に成膜されたNi膜41aと、Ni膜41a上に成膜されたSn膜43とからなる。Ni膜41aは、Ni粒子の集まりであって、Niの粒子間に隙間が形成される。そのため、Ni膜41aは、その表面に多くの凹凸を有する。Sn膜43は、そのNi膜41a上に成膜されている。
【0062】
Snは、Niよりも融点が低い。そのため、Sn粉末42はコールドスプレーされたときに半溶融状態となりやすい。そのため、Sn膜43は、Ni膜41aに比べて、その表面は凹凸が少ない。
【0063】
(Sn浴による濡れ性評価)
次に、実施例(
図3)、比較例1(
図4)、比較例2(
図5)で形成された各半田接続構造の濡れ性評価試験を説明する。
【0064】
濡れ性評価試験は、半田材料の多くがSn系金属であることに鑑み、Snを溶融した坩堝内に、酸化膜を取り除くフラックスを塗布した成膜面を5秒間浸漬して行う。ここで、「成膜面」とは、半田接続構造50、半田接続構造52、および半田接続構造54それぞれにおいて、コールドスプレーにより金属膜が形成された側の面である。
【0065】
以下、その濡れ性評価試験の結果を
図6〜8を参照して説明する。
図6は、実施例1に係る半田接続構造50をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である(重量比 Ni:Sn=95:5)。
図7は、比較例1に係る半田接続構造52をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である。
図8は、比較例2に係る半田接続構造54をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である。
【0066】
最初に、比較例1における結果から説明する。比較例1に係る半田接続構造52をSn浴に5秒間浸食したところ、Snが付着せず、Ni膜41aの露出している箇所が複数認められる(
図7)。その理由として、以下の点が挙げられる。
【0067】
コールドスプレー法は、固相状態のまま金属粒子を高速で基板に衝突させることで成膜する。そのため、半田接続構造52では、Ni粉末41が噴射される方向においては、Ni粉末41の粒子の集合体がアルミニウム基板30に積層した状態となる。一方、Ni粉末41が噴射される方向と垂直な方向においては、Ni粉末41の粒子間には隙間や凹みが生じやすく、Ni膜の表面に多くの凹凸が形成される。そのため、半田接続構造52は、(1)Niの表面密度が低くなり、(2)Ni膜41aが酸化物の影響を受ける、等の理由から、
図7を観察して分かるように、半田濡れ性が低くなる。
【0068】
次に、比較例2における結果を説明する。比較例2に係る半田接続構造54は、
図5を参照して説明したように、最初に、アルミニウム基板30上にNi膜41aを成膜する。次に、Ni膜41a上にSn膜43を成膜する。Snは、Niよりも融点が低い。そのため、Sn粉末42はコールドスプレーされたときに半溶融状態となりやすい。そのため、Sn膜43は、Ni膜41aに比べて、その表面は凹凸が少ない。
【0069】
しかしながら、比較例2に係る半田接続構造54をSn浴に5秒間浸食すると、Sn膜43の一部はSn浴内で溶融してしまい、下層のNi膜41aの一部が露出する(
図8)。このような理由から、半田接続構造54は、
図8を観察して分かるように、半田濡れ性が低くなる。
【0070】
次に、実施例1における結果を説明する。実施例1に係る半田接続構造50は、
図2、
図3を参照して説明したように、アルミニウム基板30と、アルミニウム基板30上に成膜された金属膜40と、を備える。金属膜40は、Ni粉末41とSn粉末42との混合粉末材料がコールドスプレーされることでアルミニウム基板30上に成膜された金属膜である。
【0071】
ここで、Snは、Niよりも融点が低い。そのため、Sn粉末42はコールドスプレーされたときに半溶融状態となりやすく、Snは、Ni粒子の間に入り込み、Ni粒子を互いに結合する役割を果たす。
【0072】
その半田接続構造50をSn浴に5秒間浸食した結果が
図6である。Sn浴に5秒間浸漬した後の半田接続構造50を観察すると、Ni層が露出している箇所がほとんど認められず、比較例1、2と比べても、半田濡れ性が高いことが分かる。
【0073】
(備考1)
比較例1、2として半田接続構造52および半田接続構造54を採用した理由は次のとおりである。
【0074】
(1)比較例1
アルミニウム基板に対してNi粉末をコールドスプレーした接続構造体は従来技術として認められる。しかしながら、本願の発明者は、(a)上記接続構造体の半田濡れ性が好ましくないこと、(b)Niの表面密度の低さがその理由と考えられること、を見出した。上記(a), (b)を確認するために、本願発明者は、比較例1として半田接続構造52を採用した。
【0075】
(2)比較例2
本願の発明者は、アルミニウム基板上にNi膜を成膜し、そのNi膜上にSn膜を成膜することで、比較例1の上記(a)が解消される可能性を検討した。
【0076】
(備考2)
上記の比較試験は、溶融はんだと電子部品のぬれ性を評価するソルダーチェッカを用いた「JIS C60068-2-54・JIS Z3198-4」に準拠したものではない。これは、外観観察による半田濡れ性の評価も信頼性が高いことに依る。
【0077】
(Ni粉末およびSn粉末の混合比率について)
次に、Ni粉末41とSn粉末42との混合比率が半田濡れ性に与える影響を検討する。実施例1では、Ni粉末41とSn粉末42との混合比率は、重量比で、Ni:Sn=95:5であった。そこで、Ni粉末41とSn粉末42との混合比率を、重量比で、次の5つのケースに変更した場合の半田濡れ性を
図6、
図9〜12を参照して説明する。
(ケース1)Ni:Sn=95:5
(ケース2)Ni:Sn=90:10
(ケース3)Ni:Sn=80:20
(ケース4)Ni:Sn=60:40
(ケース5)Ni:Sn=98:2
図6は、本実施形態に係る半田接続構造をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である(重量比 Ni:Sn=95:5)。
図9は、本実施形態に係る半田接続構造をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である(重量比 Ni:Sn=90:10)。
図10は、本実施形態に係る半田接続構造をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である(重量比 Ni:Sn=80:20)。
図11は、本実施形態に係る半田接続構造をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である(重量比 Ni:Sn=60:40)。
図12は、本実施形態に係る半田接続構造をSn浴に5秒間浸食した後の様子を示す写真である(重量比 Ni:Sn=98:2)。
【0078】
図6、
図9および
図10によると、ケース1(重量比 Ni:Sn=95:5)、ケース2(重量比 Ni:Sn=90:10)およびケース3(重量比 Ni:Sn=80:20)では、半田濡れ性は良好である。しかしながら、
図11、
図12によると、ケース4(重量比 Ni:Sn=60:40)、さらには、ケース5(重量比 Ni:Sn=98:2)においては、半田濡れ性は低い。また、(ケース1)〜(ケース5)から、Sn粉末の混合比率が所定の範囲内であると、濡れ性が高くなることが見出された。その理由を、
図13〜
図15を参照して説明する。
【0079】
図13は、比較例1に係る半田接続構造52をSn浴に5秒間浸食した前後のSnの付着の様子を示す概略図であり、左側図はSn浴前を、右側図はSn浴後の図を示す。
【0080】
上述したように、コールドスプレー法は、固相状態のまま金属粒子を高速で基板に衝突させることで成膜する。そのため、半田接続構造52では、Ni粉末41が噴射される方向においては、Ni粉末41の粒子の集合体がアルミニウム基板30に積層した状態となる。一方、Ni粉末41が噴射される方向と垂直な方向においては、Ni粉末41の粒子間には隙間や凹みが生じやすく、Ni膜の表面に多くの凹凸が形成される。そのため、半田接続構造52は、(1)Niの表面密度が低くなり、(2)Ni膜41aが酸化物70の影響を受ける(
図13左側)。そして、そのような半田接続構造52をSn浴に5秒間浸食すると、Ni膜の表面にSnが付着しにくく、Ni膜の一部が露出する(
図13の右側図に示すように、付着したSn60aは非連続膜となる)。このような理由から、比較例1に係る半田接続構造52は半田濡れ性が低くなる。このことは、Ni粉末とSn粉末との混合粉末におけるSn粉末の重量比率が所定の範囲よりも低いケース5においても同様である。
【0081】
図14は、Ni粉末41とSn粉末42との混合粉末において、Sn粉末42の重量比率が所定の範囲内である場合に、半田濡れ性が高くなることを説明するための図である。ケース1、2および3が
図14に該当する。以下、ケース1、2および3において半田濡れ性が高くなることを説明する。
【0082】
Snは、Niよりも融点が低い。そのため、Sn粉末42はコールドスプレーされたときに半溶融状態となりやすく、Snは、Ni粒子の間に入り込み、Ni粒子を互いに結合する役割を果たす。また、そのSnの働きにより、金属膜40の表面は凹凸が少ない連続膜となる。また、混合粉末に占めるNi粉末41の割合が高いことから、金属膜40におけるNi密度も高くなる。加えて、Ni層は連続膜であるSn層に覆われており、
図13を参照して説明した酸化物70の影響は低い。そのため、そのような半田接続構造をSn浴に5秒間浸食すると、連続膜であるSn膜60bが形成され、それにより半田濡れ性が高くなる。
【0083】
図15は、Ni粉末41とSn粉末42との混合粉末において、Sn粉末42の重量比率が所定の範囲よりも高い場合に、半田濡れ性が低くなることを説明するための図である。ケース4が
図15に該当する。以下、ケース4において半田濡れ性が低くなることを説明する。
【0084】
Snは、複数のNi粒子の間に入り込み、複数のNi粒子を互いに結合する役割を果たす。また、Sn粉末42は、コールドスプレーされたときに半溶融状態となりやすいことから、金属膜40は、凹凸の少ない連続膜となる。また、Ni層はSn層に覆われていることから、
図13を参照して説明した酸化物70の影響は低い。しかしながら、混合粉末に占めるNi粉末41の割合が低いことから、Ni密度は低くなる。そのため、ケース4においては、ケース4に対応する半田接続構造をSn浴に5秒間浸食すると、Sn膜の一部がSn浴内で溶融してしまい、下層のNi膜の一部が露出する(
図15の右側図に示すように、付着したSn60cは非連続膜となる)。その結果、ケース4においては、半田濡れ性が低くなる。
【0085】
以上の理由により、アルミニウム基板30上にNi粉末41とSn粉末42とからなる金属膜40を成膜する場合には、混合粉末におけるNi粉末の重量比を80%以上95%以下に保つことで半田接続構造の濡れ性を高くすることができる。
【0086】
(その他)
本実施形態に係る半田接続構造において、第一粉末材料は、Ni粉末ではなく、金(Au)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、銅(Cu)のいずれか、又は、Ni、Au、Zn、Ag、Cuのうち2種以上を含む合金を粉末材料とすることもできる。また、本実施形態に係る半田接続構造において、第二粉末材料は、Sn粉末ではなく、Snを含む合金を成分とする粉末材料を用いてもよい。
【0087】
ここで、「合金」とは、複数の金属元素あるいは金属元素と非金属元素からなる金属をいう。合金には様々な状態があり、完全に溶け込んでいる固溶体、結晶レベルでは成分の金属がそれぞれ独立している共晶、原子のレベルにおいて一定割合で結合した金属間化合物などがある。本実施形態において、「合金」は、これら様々な状態を含む。
【0088】
また、「アルミニウム基板」は、何らかの機能を実現するための部品、部材であればよく、これらを総称して「アルミニウム基材」と称することができる。例えば、本実施形態に係る半田接続構造は、用途として、電池タブ、バスバー等に用いることができる。
【0089】
また、一般に、異種金属の接合(接続)技術には、主にネジ止め、はんだ付け、各種溶接技術が利用される。ただし、金属の材質によっては、腐食が生じる虞がある。例えば、アルミニウム基材と銅線とをネジ止めする場合、電池作用が生じ、アルミニウム基材が腐食する虞がある。また、アルミニウム基材とアルミニウムとは異なる金属材料とを溶接により固定する場合、酸化膜を除去するなどの工程が必要となり、手間とコストがかかる。そのような従来の異種金属の接合(接続)技術の有する課題に鑑み、本実施形態に係る半田接続構造は、コールドスプレーを利用する。これにより、本実施形態に係る半田接続構造は、(1)従来のめっき・蒸着・クラッド技術と比べ材料の組合せ範囲を広くでき、(2)部分加工が可能であり、(3)コストを抑えることもできる。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。